以下、半導体モジュール、またこの半導体モジュールを搭載した電圧変換器の幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の半導体モジュール、電圧変換器についてハイブリッド車用のモータの駆動装置に適用したものである。以下に説明する各実施形態において、同一又は類似の動作を行う構成については、同一又は類似の符号を付して必要に応じて説明を省略する。
(第1実施形態)
図1から図12は、第1実施形態の説明図である。図2は、本実施形態に係るパワーコントロールユニット11の全体的な電気的構成を概略的に示している。また図3は、本実施形態のパワーコントロールユニット11の構成を示している。
図3に概略的に示すように、パワーコントロールユニット11は、図示しないケース内に、モータ・ジェネレータ駆動用のインバータ装置12、及び、補機(ヘッドランプ等の車載電装品)駆動用のDC-DCコンバータ(電圧変換器相当)13、それらの各部品を冷却する積層型冷却器14、外部回路基板15等を組込んで構成される。
また、図2にパワーコントロールユニット11の電気的構成の一部を示している。ハイブリッド車には、動力源用のHVバッテリ16、ランプ、オーディオ等の車載機器に電源供給するための補機用バッテリ17、の他、2個のモータ・ジェネレータ(走行用モータ、発電用モータ:図示せず)等が設けられている。HVバッテリ16の電圧は、例えば201.6Vに保持されている。DC-DCコンバータ13は、HVバッテリ16の直流高電圧を低電圧(例えば14V)に変換し、各種車載機器に供給したり、補機用バッテリ17に充電したりする。これにより、補機用バッテリ17の電圧は、例えば12Vに保持される。
図2に示すように、インバータ装置12は、昇圧コンバータ18、モータ・ジェネレータを駆動するための三相のインバータ回路19、19、インバータ回路19、19をそれぞれ駆動制御するインバータ制御回路27を備える。昇圧コンバータ18は、HVバッテリ16の電圧を例えば最大650Vの直流電圧に昇圧する。三相のインバータ回路19、19は、この昇圧コンバータ18により昇圧された直流電圧を三相交流に変換する。
昇圧コンバータ18は、HVバッテリ16の電圧を入力する入力コンデンサ20、リアクトル21、2個のIGBT等のスイッチング素子22u,22d、それらスイッチング素子22u,22dにそれぞれ逆並列接続されたダイオード23u,23d、出力コンデンサ24を備える。
スイッチング素子22u及びダイオード23uは、薄型パッケージ内にモールドされた半導体モジュール25uとして構成されている。スイッチング素子22d及びダイオード23dは、薄型パッケージ内にモールドされた半導体モジュール25dとして構成されている。各インバータ回路19は、周知のように、6個のIGBT等によるスイッチング素子と、それら各スイッチング素子に夫々逆並列接続されたダイオードとを備えて構成される。詳しい図示は省略しているが、U,V,Wの各相のスイッチング素子とダイオードとの並列接続回路が、それぞれ半導体モジュール26として供される。詳しく図示はしないが、この半導体モジュール26は、スイッチング素子とダイオードとの2個の半導体チップを、薄型のパッケージ内にモールドして構成されると共に、パッケージの両面に金属製の冷却プレートを配して構成されている。
DC-DCコンバータ13は、例えば図4に示すようなフルブリッジ型の主回路28を備えている。尚、図4は、DC-DCコンバータ用の半導体モジュール41(以下、単に「半導体モジュール41」という)の電気的構成を示している。DC-DCコンバータ13は、駆動IC29a、パルストランス62及びマイコン29b(図2参照)により主回路28内の各半導体スイッチング素子30、32の制御端子(ゲート)が駆動制御される。
図4に示すように、主回路28は、例えば200~400V程度の直流高電圧を高周波の交流に変換する4個の一次側半導体スイッチング素子30、交流を降圧する磁気部品としてのメイントランス31、低圧となった交流電圧を出力する4個(2並列)の二次側半導体スイッチング素子32、この二次側半導体スイッチング素子32の出力電圧を整流、平滑する磁気部品としてのチョークコイル33及び平滑コンデンサ34を備える。更に、ノイズ抑制用の複数個のコンデンサ35を備えている。
このとき、一次側半導体スイッチング素子30及び二次側半導体スイッチング素子32には、例えば高速動作が可能な横型構造のGaN系半導体が採用されている。尚、各半導体スイッチング素子30、32は、Q1~Q6の部品番号が付されており、以下、それらを区別する場合には、符号の後に(Q1)といったように括弧書きで部品番号を付すこととする。
図4には、二次側半導体スイッチング素子32(Q5)、32(Q6)は、それぞれ2並列接続されており、一部図示を省略(1個だけを図示)しているが、それぞれ並列に2個設けられている。以下では、それぞれ、必要に応じて、32(Q5_1)、32(Q5_2)、32(Q6_1)、32(Q6_2)と符号を付して説明する。また、各コンデンサ34、35は、例えば積層セラミックコンデンサにより構成されている。尚、一次側半導体スイッチング素子30のうち、半導体スイッチング素子30(Q2)、30(Q4)については、夫々、スナバコンデンサ36、36が並列接続されている。これらスナバコンデンサ36については、必要に応じて設ければ良い。
さて、本実施形態では、主回路28を構成する各構成部品30~36は、図4に示すように半導体モジュール41に組み込まれている。また、この半導体モジュール41には、各半導体スイッチング素子30、32の駆動用の複数個のパルストランス62及び複数個の駆動IC29aが組込まれている。これらの構成部品30~36、62及び29aは、接続部材としての多層配線基板37(図6参照)に一体的に組付けられることで組立体とされる。半導体モジュール41は、この組立体の上に、更に、放熱板51やリード端子39(図6参照)等が設けられた後、モールド樹脂で樹脂封止されることで構成される。本実施形態においては、パルストランス62及び駆動IC29aが半導体モジュール41に一体に組み込まれているため、構成を簡略化、小型化できる。
以下、本実施形態に係る半導体モジュール41について説明する。
図5は、半導体モジュール41の外観構成を示している。半導体モジュール41の本体41a(パッケージ)は、やや横長な薄型矩形板状をなしている。このとき、半導体用放熱板51の外面や、後述する磁気部品(メイントランス31及びチョークコイル33)のコア48、50の外面が、本体41aの外面(上下両面)においてモールド樹脂から露出している。また、本体41aの一辺部、この場合後辺部に、後方に延びる複数本のリード端子39が設けられている。更に、本体41aの別の(反対側の)辺である前辺部に、後述するメイントランス31の二次巻線のセンタタップに接続された端子であるGND2の端子40が、前方に延びて設けられている。
図6は、主回路28の半導体スイッチング素子30を多層配線基板37に組付けた組立体において半導体用放熱板51等を除いた内部構成を示し、図7Aは、組立体の上面側から見た平面図を示しており、図7Bは組立体の下面側から見た平面図を示している。図6及び図7Aに示すように、直流電圧が印加されるPのリード端子39(P)が、本体41aの上面側に設けられている。図6には示していないが、図7Bに示すように、直流電圧が印加されるNのリード端子39(N)が、本体41aの下面側に設けられている。また図6、図7Aに示すように、制御信号用のリード端子39(T11、T12、T21、T22、T31、T32)が、本体41aの上面側に設けられている。
多層配線基板37は、概ね矩形板状をなすと共に一部切欠を有して構成された多層構造であり、当該導体層間を接続するビアなどを有する厚銅多層基板により構成される。多層配線基板37は、例えば8層の導体層を備えると共に当該導体層間に7層の絶縁層を備える。
以下、多層配線基板37の各層を順に第1層L1…第8層L8と称する。また、多層配線基板37の第1層L1~第8層L8には、部品同士間の配線、部品とリード端子39(後述参照)との間の配線を構成する導体パターン、層間を上下に接続するビア(便宜上図示せず)が設けられている。
半導体スイッチング素子30、32のうち、上アームを構成する一次側半導体スイッチング素子30(Q1、Q2)及び二次側半導体スイッチング素子32(Q5)は、多層配線基板37の上面側(第1層L1)に実装されている。下アームを構成する一次側半導体スイッチング素子30(Q3、Q4)及び二次側半導体スイッチング素子32(Q6)は、多層配線基板37の下面側(第8層L8)に実装されている。このとき、各一次側半導体スイッチング素子30及び二次側半導体スイッチング素子32は、磁気部品であるメイントランス31寄りの直脇に設けられている。
メイントランス31は、図4に示すように、一次側巻線46、二次側巻線47、コア48を有して構成される。図6、図7A、図7Bに示すように、このメイントランス31は、多層配線基板37の一方の一部分(図7Aの右側部分)に配設される。また、磁気部品であるチョークコイル33は、導線49及びコア50(図6参照)を備えて構成される。
このチョークコイル33は、多層配線基板37の他方の一部分(図7Aの左側部分)に配設され、導線49は前後方向に延設されている。本実施形態では、メイントランス31の一次側巻線46及び二次側巻線47、並びにチョークコイル33の導線49は、多層配線基板37に構成された導体パターンにより構成(実現)されるようになっている。このとき、二次側巻線47が、上下層、この場合第1層L1及び第8層L8に設けられ、一次側巻線46が多層配線基板37の複数の内層に設けられる。
二次側巻線47a、47bは、共に、太幅で1ターンとなるように設けられており、これらの一端側はビア及び配線により接続されることでセンタタップ配線とされており、このセンタタップ配線は二次側のグランドGND2に接地される(図4参照)。他方、一次側巻線46の一次巻線用導体パターンは、共に、細幅で4ターン程度の渦巻き状に形成されている。これら一次側巻線46の導体パターンの内周側の端部同士がビアにより接続されている。また図7に示すように、多層配線基板37には、両巻線46、47の中心部に位置して、円形の開口部31a(導体パターン及び絶縁層の双方が抜けた状態)が形成されている。
コア48は、図6に示すように、多層配線基板37の上面側に二次側巻線47を覆うように配置される上部分割コア48aと、下面側に配置される下部分割コア48bとからなる。これら分割コア48a、48bは、正面コ字状をなすように側辺部が立下がった(立上がった)矩形薄板状をなしている。また、分割コア48bには、その上面中央部から上方に突出するように、開口部31a内に配置される円柱部48cが一体に設けられている。このコア48の材質としては、高周波特性に優れるNi-Zn系フェライトが採用されている。また、Ni-Zn系フェライト製のコア48は、比抵抗が高く、絶縁性に優れるものとなっている。
チョークコイル33の導線49は、多層配線基板37の上下層及び内層に、夫々、幅広で前後方向に延びる直線形状のチョークコイル用導体パターンを絶縁層を挟んで上下に重なるように構成されると共に、それら各チョークコイル用導体パターンを前後の両端部にてビアにより一括して接続することにより構成されている。
コア50は、図6に示すように、多層配線基板37の表面側に導線49を覆うように配置される分割コア50aと、裏面側に配置される分割コア50bとからなる。これら分割コア50a、50bは、正面(断面)U字状をなすように側辺部が立下がった(立上がった)矩形薄板状をなしている。また、分割コア50bの立上り壁の上端部には、上下の分割コア50a、50bが組合せられた際に、突合せ部分にギャップを形成するための絶縁部材50cが配置されている。このコア50の材質としても、例えばNi-Zn系フェライトが採用されている。
また、図6及び図7Aに示すように、多層配線基板37の上面(第1層L1)には、上アームを構成する一次側の半導体スイッチング素子30(Q1、Q2)が、メイントランス31の後側に実装され、二次側の半導体スイッチング素子32(Q5_1、Q5_2)が、メイントランス31とチョークコイル33との間に位置して実装されている。
図7Bに示すように、多層配線基板37の下面(第8層L8)には、上記上アームと対称的に、下アームを構成する一次側の半導体スイッチング素子30(Q3、Q4)が、メイントランス31の後段側に実装され、二次側の半導体スイッチング素子32(Q6_1、Q6_2)がメイントランス31とチョークコイル33との間に位置して実装されている。また上下アームで対応する半導体スイッチング素子30、32が、上下方向に見て同じ位置に対称的に配置されている。
このとき、例えば、半導体スイッチング素子30(Q1)と、半導体スイッチング素子30(Q3)とを接続する配線は、多層配線基板37の上面(第1層L1)を図で右に延び、ビアにより8層を上下に貫通し、多層配線基板37の下面(第8層L8)を図で左に延びるといったように、上下にループを描くように設けられる。
これにより、多層配線基板37の上下面において、上アームを構成する半導体スイッチング素子30(Q1、Q2)と、下アームを構成する半導体スイッチング素子30(Q3、Q4)との間の配線は電流の向きが逆向きになるように設けられている。そして、半導体スイッチング素子30の配線と、リード端子39(GND1)に繋がる配線との間には、ノイズ抑制用のコンデンサ35が設けられている。
図4及び図7Aに示すように、電源のリード端子39(P)とリード端子39(一次側グランドGND1)との間には、半導体スイッチング素子30(Q1)の電源端子に接触するように、並列に3個のコンデンサ35(C111、C112、C113)が接続されている。また電源のリード端子39(P)とリード端子39(GND1)との間には、半導体スイッチング素子30(Q2)の電源端子に接触するように、並列に3個のコンデンサ35(C121、C122、C123)が接続されている。
図4及び図7Bに示すように、電源のリード端子39(N)とリード端子39(GND1)との間には、半導体スイッチング素子30(Q3)の電源端子に接触するように、並列に3個のコンデンサ35(C131、C132、C133)が接続されている。電源のリード端子39(N)とリード端子39(GND1)との間には、半導体スイッチング素子30(Q4)の電源端子に接触するように、並列に3個のコンデンサ35(C141、C142、C143)が接続されている。
一方、二次側においては、図4に示すように、半導体スイッチング素子32(Q5)及び半導体スイッチング素子32(Q6)の接続配線とチョークコイル33の入力端子との接続点と、二次側グランドGND2の端子40との間に、ノイズ抑制用のコンデンサ35が設けられている。このとき、図7Aに示すように、多層配線基板37の上面側(第1層L1)においては、半導体スイッチング素子32(Q5_1、Q5_2)とチョークコイル33とをつなぐ配線42aと、センタタップとGND2の端子40とを接続するセンタタップ配線42bとの間に、並列に2個のコンデンサ35(C201、C202)が接続されている。
図7Bに示すように、多層配線基板37の下面側(第8層L8)においては、半導体スイッチング素子32(Q6_1、Q6_2)とチョークコイル33とをつなぐ配線45aと、センタタップとGND2の端子40とを接続するセンタタップ配線45bとの間に、並列に2個のコンデンサ35(C203、C204)が接続されている。二次側巻線47から二次側トランジスタ32までには、図示しない配線が設けられており、この配線は多層配線基板37の内層(例えば、第2層L2~第7層L7のうち何れか)に設けられている。この図示しない配線は、前述の配線42a、45aと上下に重なるように設けられている。
また、図7Aの多層配線基板37の上面側(第1層L1)において、チョークコイル33の出力側のリード端子39(AMD)が接続される導体パターンと、リード端子39(GND3)が接続される導体パターンとの間に、並列に2個の平滑コンデンサ34(C213、C214)が接続されている。また、図7Bの多層配線基板37の下面側(第8層L8)において、チョークコイル33の出力側のリード端子39(AMD)が接続される導体パターンと、リード端子39(GND3)が接続される導体パターンとの間に、並列に2個の平滑コンデンサ34(C211、C212)が接続されている。
図5に示す半導体用放熱板51は、半導体スイッチング素子30(Q1、Q2)、32(Q5_1、Q5_2)をそれぞれ覆うように設けられ、当該半導体スイッチング素子30、32から発せられる熱を放熱するように設置されている。半導体用放熱板51は、多層配線基板37の下面側においても同様に、半導体スイッチング素子30(Q3、Q4)、32(Q6_1、Q6_2)を覆うように設けられている。
また詳細には図示していないが、巻線用放熱板も設けられており、巻線用放熱板は、チョークコイル33の導線49から発せられる熱を放熱するように設置されている。この巻線用放熱板は、銅板からなる2枚の金属板の間にAlN等のセラミック板からなる絶縁板を挟むように積層して構成され、センタタップ配線42bの一部を覆うように熱的接続状態に設けられる。
また、図7Aに示すように、リード端子39(GND4)と駆動IC29aの駆動用の電源電圧Vccが供給されるリード端子39(Vcc)が設けられている。このリード端子39(GND4)の脇には制御端子となるリード端子39(T11、T12)が構成されている。このリード端子39(T11、T12)の前側には駆動IC29aが設置されており、この駆動IC29aの前側にはパルストランス62(PT1)が多層配線基板37に一体に備えられている。これらの駆動IC29aの出力端子とパルストランス62の一次側の入力端子とは例えば0.数mmの幅で10~20mm長の配線により接続されている。
また、このパルストランス62(PT1)の前側には半導体スイッチング素子30(Q1)が配置されており、このパルストランス62(PT1)の二次側の出力端子と半導体スイッチング素子30(Q1)とが接続されている。またその半導体スイッチング素子30(Q1)の設置面に対向するように、多層配線基板37の下面側に半導体スイッチング素子30(Q3)が設置されている。これによりリード端子39(T11、T12)を通じて両半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)を制御できる。
多層配線基板37の中央後側には制御端子となるリード端子39(T21、T22)が設けられており、このリード端子39(T21、T22)の前側には、駆動IC29aが設置されている。この駆動IC29aの前側にはパルストランス62(PT2)が多層配線基板37に一体に備えられている。これらの駆動IC29aの出力端子とパルストランス62(PT2)の一次側の入力端子とは例えば0.数mmの幅で10~20mm長の配線により接続されている。また、このパルストランス62(PT2)の前側には半導体スイッチング素子30(Q2)が配置されており、このパルストランス62(PT2)の二次側の出力端子と半導体スイッチング素子30(Q2)とが接続されている。またその半導体スイッチング素子30(Q2)の設置面に対向するように、多層配線基板37の下面側に半導体スイッチング素子30(Q4)が設置されている。これによりリード端子39(T21、T22)を通じて両半導体スイッチング素子30(Q2、Q4)を制御できる。
多層配線基板37の左後側には制御端子となるリード端子39(T31、T32)が設けられており、このリード端子39(T31、T32)の前側には駆動IC29aが設置されている。この駆動IC29aの前側にはパルストランス62(PT3)が多層配線基板37に一体に備えられている。これらの駆動IC29aの出力端子とパルストランス62(PT3)の一次側の入力端子とは例えば0.数mmの幅で10~20mm長の配線により接続されている。
また、このパルストランス62(PT3)の前側には配線を介して半導体スイッチング素子32(Q5_1,Q5_2)が配置されており、このパルストランス62(PT3)の二次側の出力端子と半導体スイッチング素子32(Q5_1,Q5_2)とが接続されている。また、その半導体スイッチング素子32(Q5_1,Q5_2)の設置面に対向するように、多層配線基板37の下面側には半導体スイッチング素子32(Q6_1,Q6_2)が設置されている。これにより、リード端子39(T31、T32)を通じて全ての半導体スイッチング素子32(Q5_1、Q5_2、Q6_1、Q6_2)を制御できる。このように、駆動IC29aが半導体モジュール41に内蔵されると共に、各パルストランス62(PT1,PT2,PT3)の近くに一体に配置されているため、当該駆動IC29aとパルストランス62との間の配線長を短縮でき、当該配線の寄生インダクタンスを低減できる。詳細は後述するが、半導体スイッチング素子30、32のゲートソース間電圧Vgsの共振現象の発生を防止でき、半導体スイッチング素子30、32の誤点弧を防止できるようになる。
以下、パルストランス62(PT1,PT2,PT3)の一次巻線71、二次巻線72、73の構造について、図8を参照しながら説明する。これらのパルストランス62(PT1,PT2,PT3)の構造は互いに同一構造である。
図8に示すように、多層配線基板37の8層L1~L8の各層には、接続部材としての導体パターンによる第1~第3の巻線71~73(一次巻線71、第1の二次巻線72、第2の二次巻線73相当)が構成されている。
この多層配線基板37には、パルストランス62の一次巻線71と二次巻線72、73との間の磁気結合を高めるためにコア62aが組み込まれている。この多層配線基板37には、パルストランス62のコア62aの周縁外側に沿って、第1~第3の巻線71~73を貫通接続するためのビアV1(V1a、V1b、V1c、V1d、V1e)、V21(V21a、V21b、V21c、V21d、V21e)、V22(V22a、V22b、V22c、V22d、V22e)が構成されている。以下、ビアV1a、V1b、V1c、V1d、V1eを総称して必要に応じてビアV1と称し、ビアV21a、V21b、V21c、V21d、V21eを総称して必要に応じてビアV21と称し、ビアV22a、V22b、V22c、V22d、V22eを総称して必要に応じてビアV22と称する。
ビアV1、V21、V22は、上面側の第1層L1から下面側の第8層L8まで貫通接続されている。ビアV1は、コア62aの後側(多層配線基板37の後側)に5つ構成されており、ビアV21は、コア62aの前側(多層配線基板37の前側)に5つ構成されている。コア62aの前側の5つのビアV21の前方には、ビアV22が更に5つ構成されている。詳細な各ビアV1、V21、V22の符号は、第2層L2(Layer2)を参照。
上面側の第1層L1には、一次巻線71を構成する第1の巻線71が両端のビアV1a-V1eに外部から接続されている。また第1層L1には、第2の二次巻線73を構成する第3の巻線73が両端のビアV22a-V22eに外部から接続されている。下面側の第8層L8には、第1の二次巻線72を構成する第2の巻線72が両端のビアV21a-V21eに外部から接続されている。
第2層L2及び第7層L7には、巻線71~73は構成されていない。第3層L3のビアV21aとビアV21bとの間にはコア62aを一周するように第3の巻線73が構成されている。この第3の巻線73は、第4層L4において、更に隣接するビアV21bとビアV21cとの間にコア62aを一周するように構成されている。第3の巻線73は、第5層L5において、更に隣接するビアV21cとビアV21dとの間にコア62aを一周するように構成されている。更に、この第3の巻線73は、第6層L6において、更に隣接するビアV21dとビアV21eとの間にコア62aを一周するように構成されている。このため、第3の巻線73は、第3層L3から第6層L6にかけてビアV21を通じて4回巻回され、これにより第2の二次巻線73が構成されている。
これらの第3層L3~第6層L6において、この第3の巻線73の外側周囲に位置して第1の巻線71が構成されている。この第1の巻線71は、第3層L3において、ビアV1aとビアV1bとの間にコア62aを一周するように構成され、第4層L4において、ビアV1bとビアV1cとの間にコア62aを一周するように構成されている。更に、この第1の巻線71は、第5層L5において、ビアV1cとビアV1dとの間にコア62aを一周するように構成され、第6層L6において、ビアV1dとビアV1eとの間にコア62aを一周するように構成されている。このため、この第1の巻線71も同様に、第3層L3から第6層L6にかけてビアV1を通じて4回巻回されており、これにより一次巻線71が構成されている。
更に、これらの第3層L3~第6層L6において、この第1の巻線71の外側周囲に位置して第2の巻線72が構成されている。この第2の巻線72は、第3層L3において、ビアV22eとビアV22dとの間にコア62aを一周するように構成され、第4層L4において、ビアV22dとビアV22cとの間にコア62aを一周するように構成されている。更に、この第2の巻線72は、第5層L5において、ビアV22cとビアV22bとの間にコア62aを一周するように構成され、第6層L6において、ビアV22bとビアV22aとの間にコア62aを一周するように構成されている。このため、この第2の巻線72も同様に、第3層L3から第6層L6にかけてビアV22を通じて4回巻回されており、これにより第1の二次巻線72が構成されている。すなわち、パルストランス62の一次巻線71の巻数n1:第1の二次巻線72の巻数n2a:第2の二次巻線73の巻数n3a=4:4:4に構成されている。このような構成によれば、二次巻線72及び73は、互いに逆方向に巻回されていることになる。
尚、第1~第3の巻線71~73が全ての層L1~L8を用いて構成されていても良いし、少なくとも一部が、多層配線基板37の内部の層L1~L8(例えばL2~L7)のうち一部の同一層に構成されていれば、磁気結合を高めることができるため望ましい。
図9には、駆動IC29aの内部の電気的構成と、当該駆動IC29aとパルストランス62(PT1)とを接続する配線パターンを考慮した等価回路を示している。ここでは、駆動IC29aとパルストランス62(PT1)との関係を示しているが、他の駆動IC29aとパルストランス62(PT2、PT3)との関係でも同様である。また、図10には多層配線基板37の上面側における駆動IC29aの周辺のパターンを示しており、図11には駆動IC29aが搭載された多層配線基板37の下面側におけるパターンを詳細に示している。
図10に示すように、多層配線基板37の上面側には駆動IC29aが設置される。この駆動IC29aは、多層配線基板37に表面実装するタイプ(例えばSOP8)のICであり、多層配線基板37の上面側に搭載される。この駆動IC29aが実装された裏側(下面側)には、図11に示すようにバイパスコンデンサ80が設置されており、多層配線基板37にはビアVが構成されており、ビアVを通じて電源電圧Vccが駆動IC29aに供給されている。
図9は等価回路を示している。駆動IC29aは、ヒステリシス入力タイプのバッファ81u、81dと、これらの後段にそれぞれ接続されたインバータ82u、82dとを備え、上下アームのインバータ82u,82dを用いてパルストランス62の一次巻線71を駆動するように構成されている。
このとき、バイパスコンデンサ80は、電源電圧VccとグランドGND4との間の電圧変動を抑制できるようになっている。しかも、駆動IC29aとバイパスコンデンサ80との間の配線が極力短くなるように実装されているため、図9に示すように、たとえ駆動IC29aとバイパスコンデンサ80との間に配線寄生インダクタンスLzが存在したとしても、この配線寄生インダクタンスLzを無視できる程度に実装できる。
また、駆動IC29aとパルストランス62との間の配線もまた極力短くなるように実装されているため、図9に示すように、配線の寄生インダクタンスLwが存在したとしても、当該寄生インダクタンスLwを無視できる程度に実装できる。
前述したように、半導体モジュール41にはリード端子39が接続されており、更に半導体用放熱板51及び巻線用放熱板を取付けた状態で、樹脂モールドされて矩形薄板状の本体41a(パッケージ)が構成される。このとき図5に示すように、半導体用放熱板51は、半導体モジュール41の上下両面から露出した形態とされる。また、メイントランス31のコア48の外面、チョークコイル33のコア50の外面も、半導体モジュール41の上下両面から露出した形態とされる。この場合、コア48、50の外面を覆うように樹脂モールドし、そののち切削などにより露出させるようにしても良い。更にこの場合、コア48、50を樹脂モールドしたまま、放熱板51だけを露出させるようにしても良い。
さて、上記のように構成されたDC-DCコンバータ13を構成する半導体モジュール41は、図3に示すように、インバータ装置12を構成する2個の半導体モジュール25、及び、6個の半導体モジュール26、リアクトル21(図3には図示省略)等と共に、積層型冷却器14に組込まれることでパワーコントロールユニット11を構成する。
ここで図3を参照して、積層型冷却器14の構成について簡単に述べる。この積層型冷却器14は、図で左右方向に並んで並列配置される複数個の冷却管54、全体として図で左右方向に延びそれら冷却管54に連結される入口側及び出口側のヘッダ部55及び56等を備える。冷却管54は、アルミニウム等の金属から、図で前後方向に長く、左右方向に薄型(偏平)の中空薄板状に構成されており、複数枚が、相互間に部品が配置される冷却スペース14aを確保した状態で、図で左右方向に対向配置しながら並列に配置される。入口側ヘッダ部55は、図で左端部に流入管55aを有し、複数の冷却管54の後端部側に接続して、各冷却管54に冷却流体を供給する。
出口側ヘッダ部56は、図で左端部に流出管56aを有し、複数の冷却管54の前端部側に接続して、各冷却管54から出た冷却流体が流入する。これにより、外部から流入管55aに冷却流体が供給され、その冷却流体が入口側ヘッダ部55を通して各冷却管54内を流れ、出口側ヘッダ部56に流入した後、流出管56aを通して外部に排出される。詳しく図示はしないが、入口側ヘッダ部55及び出口側ヘッダ部56は、柔軟性を有して長手方向への若干の伸縮が可能に構成され、各冷却スペース14aに半導体モジュール等の部品が配置された状態で、図示しない板ばねにより、図中全体が長手方向に圧縮される。これにて、各冷却スペース14aに配置された各部品が、冷却管54の側面に密着し、左右両面から冷却される。
本実施形態では、上記した積層型冷却器14に対し、各部品が、次のように配置されている。即ち、積層型冷却器14の右端部の冷却スペース14aには、リアクトル21が配置される。その左側の2箇所の冷却スペース14aには、半導体モジュール25が夫々配置される。その左側の6箇所の冷却スペース14aには、インバータ回路19を構成する6個の半導体モジュール26が夫々配置される。左端部の冷却スペース14aには、本実施形態の半導体モジュール41が配置される。尚、半導体モジュール41の放熱板51の表面には、放熱グリースなどが塗布されて冷却管54に密着される。
このとき、半導体モジュール25及び半導体モジュール26においては、制御端子等のリード端子57が、積層型冷却器14の両面の内の一方である上面側に導出されている。但し、一部のパワー端子58については、パッケージの図で下辺部から下方に突出している。半導体モジュール41についても、複数本のリード端子39が本体41aの上辺部から上方に導出されている。そして、積層型冷却器14の上方の上面側に、1枚の外部回路基板15が配置されている。この外部回路基板15には、インバータ装置12用のインバータ制御回路27やDC-DCコンバータ13の制御用のマイコン29bが搭載されており、各リード端子57及びリード端子39がこの外部回路基板15に接続されている。
尚、詳しく図示はしないが、半導体モジュール41のリード端子39とは反対側に導出されるGND2の端子40は、例えばケースのGNDと直接的に接続されている。半導体モジュール25及び半導体モジュール26のパワー端子58は、積層型冷却器14の下面側に導出され、例えばインバータ用バスバーに溶接等により接続される。また、ケース内には、更に入力コンデンサ20や出力コンデンサ24なども配設される。前記積層型冷却器14の流入管55a及び流出管56aは、ケースの外壁を貫通して、外部の冷却流体循環装置に接続される。
次に、上記のように構成された半導体モジュール41の特徴的な作用、効果について述べる。
本実施形態のパワーコントロールユニット11の要部は、図1に示すように等価回路を図示できる。マイコン29bが外部回路基板15に搭載され、駆動IC29aが半導体モジュール41に組み込まれているため、マイコン29bと駆動IC29aとが離間して電気的に接続されることになる。このため、これらのマイコン29bと駆動IC29aとの間には配線の寄生インダクタンスLtが存在する。しかし、駆動IC29aとパルストランス62とを半導体モジュール41に組み込んでいるため、駆動IC29aとパルストランス62の一次巻線71との間の配線による寄生インダクタンスLwを無視できる程度に低減できる。ここで、図8の巻回方向を考慮した場合、パルストランス62の一次巻線71と第1の二次巻線72とが正相結合されていることと見做した場合、一次巻線71と第2の二次巻線73とは逆相結合されていることになる。
このため、第1の二次巻線72に生じる電圧Vn2aと、第2の二次巻線73に生じる電圧Vn2bとは互いに逆相関係になる。パルストランス62の二次巻線72に生じる電圧Vn2aは、上アーム側の半導体スイッチング素子30(Q1)のゲートソース間に印加されており、パルストランス62の第2の二次巻線73に生じる電圧Vn2bは、下アーム側の半導体スイッチング素子30(Q3)のゲートソース間に印加される。
図12には、各部の電圧及び電流の変化をタイミングチャートにより示している。
図12に示すように、駆動IC29aは、マイコン29bから矩形電圧を入力すると波形成形して矩形状の正のパルス電圧を出力し、その後のデッドタイムの後、矩形状の負のパルス電圧を出力する。その後、更にデッドタイムの後、繰り返しパルス電圧を出力する(図12のVin参照)。
この駆動IC29aの出力電圧は、パルストランス62への入力電圧Vinとなり、この入力電圧Vinが一次巻線71に印加される。パルストランス62は、この印加電圧を2つの二次巻線72、73に伝達し、これらの二次巻線72、73に誘起される電圧により、上アーム及び下アームの各半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)を駆動する。
このとき、パルストランス62の一次巻線71に生じる電圧Vn1は、図1に示すように寄生インダクタンスLwの成分の影響から、入力電圧Vinより低下し、下記の(1)式のように表すことができる。
ここで、in2aは第1の二次巻線72に流れる電流、in2bは第2の二次巻線73に流れる電流を示し、Vn1は一次巻線71の印加電圧を示している。また、一次巻線71に流れる電流in1は、in2a+in2bと等しくなり、第1の二次巻線72の誘導起電圧Vn2aは、第2の二次巻線73に生じる誘導起電圧Vn2bの逆極性となる。
このとき図12に示すように、デッドタイム期間中には、二次巻線72、73に生じる誘導起電圧の影響により、誘導電流in2a、in2bが流れるようになり、各半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)のゲートソース間に電圧Vgs2a、Vgs2bを生じる(図12のA欄参照)。このとき、上アーム側の半導体スイッチング素子30(Q1)のゲートソース間電圧Vgs2aは、(1)式の右辺と同一電圧であり、下記の(2)式のように表すことができる。
また、下アーム側の半導体スイッチング素子30(Q3)のゲートソース間電圧Vgs2bは、(1)式の右辺の逆相電圧であり、下記の(3)式のように表すことができる。
このため、(2)式、(3)式の各式に示すように、特に寄生インダクタンスLwに起因する第2項の影響により、各半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)のゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bが上昇する。特に、半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)には、そのゲート寄生容量(ゲートソース間容量Cgs、ゲートドレイン間容量Cgd)が存在し、寄生インダクタンスLwとゲート寄生容量Cgs、Cgdとが共振してしまうとゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bが振動してしまい誤点弧してしまう原因となる。
このゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bが所定の閾値を超えると、各半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)がオンする(誤点弧)ことになるが、前述したように駆動IC29aとパルストランス62の一次巻線71との間を近接設置することで寄生インダクタンスLwを低減しているため、デッドタイム期間中において前述したゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2aの大きな振動の発生を防止でき、半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)のゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bの上昇を抑制できるようになり、半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)の誤点弧を防止できる。
以下、本実施形態の特徴をまとめる。
本実施形態のパワーコントロールユニット11にあっては、1つの積層型冷却器14に、インバータ装置12を構成する半導体モジュール26、25、及び、DC-DCコンバータ13を構成する半導体モジュール41を組込んで構成した。この場合、DC-DCコンバータ13を1個の半導体モジュール41に集約することができたので、積層型冷却器14に組込まれる冷却すべき部品点数ひいては冷却管54の数を少なくして全体のコンパクト化を図ることができる。また、これに伴い、部品数の削減による構成の簡単化やコストダウン、組付け工数の低減による製造工程の簡略化も図ることができる。積層型冷却器14を採用したことにより、優れた冷却効果が得られることは勿論である。特に本実施形態では、インバータ用の半導体モジュール25、25のリード端子57と、半導体モジュール41のリード端子39とを、同方向に導出させ、インバータ制御回路27及びマイコン29bを構成した1枚の外部回路基板15に接続する構成としたので、外部回路基板15との接続構造が簡単になり、基板を配置する回数が1回で済んで接続作業も容易となる。
そして、本実施形態の半導体モジュール41にあっては、本体41a内に、複数の一次側半導体スイッチング素子30及び二次側半導体スイッチング素子32、並びに複数の磁気部品であるメイントランス31及びチョークコイル33、パルストランス62(PT1、PT2、PT3)を組み込むと共に、これらのパルストランス62(PT1、PT2、PT3)のそれぞれの一次側に設けられる駆動IC29aも組み込んで構成した。
更に、これらの部品を接続する接続部材としての多層配線基板37が組込まれてモジュールとされるので、冷却を必要とする複数の部品を集約的に配置することができる。このとき、一次側半導体スイッチング素子30及び二次側半導体スイッチング素子32、並びに、メイントランス31及びチョークコイル33、パルストランス62(PT1、PT2、PT3)、駆動IC29aの全てをコンパクトに配置することができる。
そのため、本実施形態のDC-DCコンバータ用半導体モジュール41によれば、全体の小型化や、冷却構造の簡単化を図ることができる。本体41aの一辺部に、外部回路基板15との接続用のリード端子39を備えるので、外部との接続が容易となり、別体のインバータ装置12と組合せられる際の外部回路基板15との全体的な接続構造も簡単にすることが可能となる。
また、多層配線基板37の導体パターンが、半導体スイッチング素子30、32に接続する配線、メイントランス31、チョークコイル33を構成する電気的構成部を構成するようにした。また、多層配線基板37の各層L1~L8の導体パターンが、パルストランス62(PT1、PT2、PT3)の一次巻線71、2つの二次巻線72、73を構成するようにした。これにより巻線71~73の薄型化を図ることができ、モジュール全体としての小型化、薄型化を図ることができる。コア62aがパルストランス62に組み込まれているため、一次巻線71及び二次巻線72、73の間の磁気結合を高めることができる。
特に本実施形態においては、パルストランス62(PT1、PT2、PT3)の一次巻線71、2つの二次巻線72、73について、第3層L3~第6層L6に各一巻きする構成とすることで、一次巻線71の巻数n1:第1の二次巻線72の巻数n2a:第2の二次巻線73の巻数n2b=4:4:4=1:1:1とした。これにより、各一次巻線71、二次巻線72、73の間の結合を高めることができる。このとき、これらの一次巻線71、二次巻線72、73の導線パターンを、多層配線基板37の複数層L3~L6に重なるように構成し、それらの導体パターンをビアV1、V21、V22により電気的に接続して構成したので、一次巻線71、二次巻線72、73の間に結合度の強いパルストランス62を省スペースで構成できる。
特に、上下アームの半導体スイッチング素子30(Q1、Q2)の充放電電流が、パルストランス62の一次巻線71の寄生インダクタンスLwに同一方向に流れるようになっている場合には、ゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bの振動が大きくなってしまうが、互いに逆方向に流れるようにしたため、ゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bの振動を極力抑制できるようになる。
特に本実施形態に示したように、半導体スイッチング素子30(Q1、Q2)の半導体材料にGaNのように閾値の比較的低い素子を用いた場合には、デッドタイムの期間中にゲートの誤点弧を生じやすくなる。このような半導体材料にGaNのように閾値の比較的低い素子を用いた場合であっても、本実施形態に係る構成を用いることで、スイッチング損失、発熱を抑制できるようになる。
(第2実施形態)
図13及び図14は、第2実施形態の追加説明図を示している。第1実施形態では、一次巻線71の巻数n1:第1の二次巻線72の巻数n2a:第2の二次巻線73の巻数n2b=4:4:4=1:1:1とした形態を示したが、第2実施形態では、一次巻線71の巻数n1:第1の二次巻線72の巻数n2a:第2の二次巻線73の巻数n2b=n:1:1(但し、巻数比nが2以上)とした形態を説明する。
図13に示すように、多層配線基板37の各層L1~L8にはパターン配線による第1~第3の巻線71~73が構成されている。ビアV1、V21、V22の配置は、図8と同様であるため説明を省略する。
上面側の第1層L1には、一次巻線71を構成する第1の巻線71がビアV1aとビアV1eとの間に外部から接続されている。また第1層L1には第1の二次巻線72を構成する第2の巻線72がビアV22bとビアV22dとの間に外部から接続されている。第8層L8には第2の二次巻線73を構成する第3の巻線73がビアV21aとビアV21eとの間に外部から接続されている。
第3層L3においては、第1の巻線71がビアV1aとビアV1bとの間にコア62aを一周するように構成されている。この第1の巻線71は、第4層L4において、ビアV1bとビアV1cとの間にコア62aを一周するように構成され、第5層L5において、ビアV1cとビアV1dとの間にコア62aを一周するように構成されている。更に、この第1の巻線71は、第6層L6において、ビアV1dとビアV1eとの間にコア62aを一周するように構成されている。このため、第1の巻線71は、第3層L3から第6層L6にかけてビアV1a~V1eを通じて4回巻回され、これにより一次巻線71が構成されている。
多層配線基板37の第4層L4~第5層L5には、この第1の巻線71の外側周囲に位置して第2の巻線72が構成されている。この第2の巻線72は、第4層L4において、ビアV22dとビアV22cとの間にコア62aを一周するように構成され、第5層L5において、ビアV22cとビアV22bとの間にコア62aを一周するように構成されている。このため、この第2の巻線72は、第4層L4から第5層L5にかけてビアV22d~V22bを通じて2回巻回されており、これにより第1の二次巻線72が構成されている。
更に、多層配線基板37の第4層L4~第5層L5には、第1の巻線71の内側周囲に位置して第3の巻線73が構成されている。この第3の巻線73は、第4層L4において、ビアV21bとビアV21cとの間にコア62aを一周するように構成され、第5層L5において、ビアV21dとビアV21cとの間にコア62aを一周するように構成されている。このため、この第3の巻線73は、第4層L4から第5層L5にかけてビアV21b~V21dを通じて2回巻回されており、これにより第2の二次巻線73が構成されている。
すなわち、パルストランス62の一次巻線71の巻数n1:第1の二次巻線72の巻数n2a:第2の二次巻線73の巻数n2a=4:2:2=2:1:1に構成されている。巻数比nは、2の例を示しているが、これに限られるものではなく、nは2を超えても良く、nは2以上であることが望ましい。
図14には、各部の電圧及び電流の変化をタイミングチャートにより示している。図14に示すように、駆動IC29aが、矩形状の正のパルス電圧を出力すると、パルストランス62が、この正のパルス電圧を一次巻線71から2つの二次巻線72、73側に伝達する。このとき、一次巻線71に生じる電圧Vn1は、寄生インダクタンスLwの成分の影響から、入力電圧Vinより低下し前述の(1)式のように表すことができる。
パルストランス62が、損失のない理想的なトランスであることを想定すると、巻数比がnであるときには、Vn2=Vn1/nになると共に、in2a+in2b=n・in1の関係が成立する。すなわち、寄生インダクタンスLwに生じる電圧のn分の1の電圧が、2つの二次巻線72、73に生じる。また、駆動IC29aとパルストランス62の一次巻線71との間の寄生インダクタンスLwに流れる電流は、各二次巻線72、73に流れる電流のn分の1になる。このとき一次巻線71の電圧Vn1は、下記の(4)式のように表すことができる。
前述実施形態でも説明したように、デッドタイム期間中には、2つの二次巻線72、73に生じる誘導起電圧の影響により誘導電流が流れるようになり、各半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)のゲートソース間に電圧Vgs2a、Vgs2bを生じる。このとき上アーム側の半導体スイッチング素子30(Q1)のゲートソース間電圧Vgs2aは、下記の(5)式のように表すことができる。
下アーム側の半導体スイッチング素子30(Q3)のゲートソース間電圧Vgs2bも同様に表すことができる。
このため、各半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)のゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bが、特に寄生インダクタンスLwに起因する第2項の影響により上昇するものの、(5)式の右辺第2項に示すように、巻数比nの2乗分の1の影響しかなくなる。すなわち、寄生インダクタンスLwの影響が、前述実施形態の構成に比較して更に抑制できるようになり、共振に伴う電圧振動を更に抑制でき、誤点弧を防止できる。
巻数比nを2とし、2つの二次巻線72、73を備えた形態を示したが、二次巻線72、73に接続される半導体スイッチング素子30の個数をk個としたときに、一次巻線71と2つの二次巻線72、73との巻数比nが、n≧SQRT(k)の条件(但し、SQRTは平方根)を満たすように設定されていることが望ましい。すなわち、kを4としたときにはnを例えば2以上、kを6としたときにはnをSQRT(6)以上(例えば3以上)、とすることが望ましい。すると、デッドタイム期間中におけるゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bを抑制できるようになり、誤点弧を防止できる。nの値は自然数としているが、実数であっても良い。
(第3実施形態)
図15及び図16は、第3実施形態の追加説明図を示している。第3実施形態は、駆動IC29aが半導体モジュール41の外部回路基板15に設けられている形態を説明する。駆動IC29a及びマイコン29bは、リード端子39を介して半導体モジュール41の外部回路基板15に実装されている。
すると図15に示すように、駆動IC29aとパルストランス62とを接続する配線長は、前述の第1及び第2実施形態の構造に比較して長くなる。この結果、寄生インダクタンスLtの成分が、リード端子39を通じて接続される配線に起因して増加する。
しかし第2実施形態で説明したように、一次巻線71と2つの二次巻線72、73の巻数比nが、例えば2、又は、n≧SQRT(k)の条件を満たすように設定されていると、ゲートソース間電圧Vgs2aが下記の(6)式に示すようになり、ゲートソース間電圧Vgs2aをnの2乗に反比例するように抑制できる。
したがって、たとえマイコン29a及び駆動IC29bを共に外部回路基板15に搭載した場合であっても、寄生インダクタンスLt+Lwの影響を巻数比nの2乗分の1にまで抑制できるようになる。本実施形態の構成を適用した場合には、二次巻線72、73に接続される半導体スイッチング素子30の個数をk個としたときに、パルストランス62の一次巻線71と二次巻線72、73との巻数比nがn≧SQRT(k)の条件(但し、SQRTは平方根)を満たすように設定されていることが望ましい。すると、デッドタイム期間中におけるゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bを抑制できるようになり、誤点弧を防止できる。nの値は自然数としているが、実数であっても良い。
(第4実施形態)
図17は、第4実施形態の追加説明図を示す。この図17に示すように、駆動IC29aと共に、マイコン29bを半導体モジュール41の多層配線基板37に実装しても良い。このとき、巻数比nは、第2実施形態以降に示したように2以上であることが望ましいが、第1実施形態に示したように1であっても良い。すると、第1又は第2実施形態と同様の作用、効果が得られる。
(第1~第4実施形態の技術的意義を説明するための補足資料)
以下、特許文献1記載の構造に対する本願前述実施形態に係る構造の技術的意義を説明する。図18及び図19は、第1から第4実施形態の技術的意義を説明するための補足資料を示している。この補足説明では、半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)のゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bの振動のピーク値をシミュレーションにより試算した結果を示している。この試算条件を以下に記す。
比較対象となる従来構造(特許文献1記載の構造)としては、パルストランス62を半導体モジュール41に内蔵し、駆動IC29a及びマイコン29bを外部に構成したものを想定した。このとき、図18に示す等価回路において、配線による寄生インダクタンスLtを14nH、巻数比nを1、すなわち各巻数n1:n2a:n2b=4:4:4とした。
また第1実施形態の構造としては、パルストランス62及び駆動IC29aを半導体モジュール41に内蔵し、マイコン29bを外部回路基板15に構成したものを想定した。このとき、図18に示す等価回路において、配線による寄生インダクタンスLtを0nH、巻数比nを1、すなわち巻数n1:n2a:n2b=4:4:4とした。前述した第4実施形態の構造は、第1実施形態の構造にマイコン29bを組み込んだ構成であるため、この構成と同じ等価回路となる。
更に、第2実施形態の構造としては、パルストランス62及び駆動IC29aを半導体モジュール41に内蔵し、マイコン29bを外部に構成したものを想定し、更に巻数比nを2としたものを想定した。このとき、図18に示す等価回路において、配線による寄生インダクタンスLtを0nH、巻数比n=2、すなわち、巻数n1:n2a:n2b=4:2:2とした。
更に、第3実施形態の構造としては、パルストランス62を半導体モジュール41に内蔵し、駆動IC29a及びマイコン29bを外部に構成したものを想定し、更に巻数比nを2としたものを想定した。このとき、図18に示す等価回路において、配線による寄生インダクタンスLtを14nH、巻数比n=2、すなわち、巻数n1:n2a:n2b=4:2:2とした。
各構造におけるゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bの振動のピーク電圧を図19に示している。この図19には、ゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bの閾値も合わせて示している。
従来構造においては、リード端子39の寄生インダクタンスLtが大きくなるにつれてゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bの振動が増大し、特に寄生インダクタンスLtが14nH以上になると、半導体スイッチング素子30(Q1、Q3)の閾値を超えてしまうことがわかる。
また、第1実施形態の構造においては、リード端子39の寄生インダクタンスLtが0となるため電圧の振動を抑制でき、ゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bのピーク電圧が閾値未満となることを確認できた。また、第2実施形態の構造においては、第1実施形態の構成に比較して、よりゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bのピーク電圧を抑制できることを確認できた。
更に、第3実施形態の構造においては、リード端子39の寄生インダクタンスLtが14nH以上となったとしても、寄生インダクタンスLtを巻数比nの2乗分の1に見做すことができ、特に実用的に用いられる寄生インダクタンスLtが200nH未満であれば、ゲートソース間電圧Vgs2a、Vgs2bのピーク値を閾値未満に抑制できることを確認できた。したがって、第1~第4実施形態の何れの場合においても従来と比較して電圧の振動を抑制できることを確認できた。
(他の実施形態)
前述実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に示す変形又は拡張が可能である。
尚、上記実施形態では、本発明をハイブリッド車用のパワーコントロールユニット11に適用するようにしたが、パワーコントロールユニット11として、他にも電気自動車、燃料電池車等のモータを駆動源として備える車両はもとより、インバータ装置12とDC-DCコンバータ13とを組合せて構成される機器全般に適用することができる。
また、半導体モジュール41の構成としては、回路構成や各部品の配置、多層配線基板37の導体パターンの構造、各部の材質、形状、大きさ等の詳細な構成については、上記した以外にも様々な変形が可能である。
前述した複数の実施形態の構成、機能を組み合わせても良い。前述実施形態の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も実施形態と見做すことが可能である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において考え得るあらゆる態様も実施形態と見做すことが可能である。
本開示は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、更には、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範畴や思想範囲に入るものである。