JP7093161B2 - 糖尿病改善剤又は予防剤 - Google Patents

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本発明は、糖尿病、さらには糖尿病に起因する様々な合併症の予防剤または改善剤に関する。
糖尿病は、血糖値やヘモグロビンA1c(HbA1c)値が一定の基準を超えている状態をさす疾患である。糖尿病は、高血糖そのものによる症状を起こすこともあるほか、長期にわたると血中の高濃度のグルコースがそのアルデヒド基の反応性の高さのため血管内皮のタンパク質と結合する糖化反応を起こし、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などに病態が進行していく場合がある。糖尿病の発症にかかわる因子は多岐にわたり確立した治療法はない。通常、運動・食事療法が行われているが、それ以外にも薬剤での治療や栄養補助食品などを利用した食事療法が求められている。さらに、糖尿病は、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症へと進展する可能性があることから、より積極的な治療等が必要とされている。
また、糖尿病は、インスリン抵抗性、肥満及び高脂血症を伴っていることが多く、他の生活習慣病などの治療を行っていることがあるため、合併症の治療を阻害しない改善をする必要もある。そのため、効果が高く、副作用の心配がなく、摂取が容易であり、長期間服用ができる糖尿病の治療効果のある機能性食品、サプリメントなども求められていた。
一方、β‐ニコチンアミドモノヌクレオチド(β-NMN)は生体内のサルベージ経路の中核物質であるNicotinamide Adenine Dinucleotide (NAD)の中間代謝物である。β-NMN投与によるNAD増加に伴う、Sirt1に代表される「サーチュイン遺伝子 (長寿遺伝子)」の活性化による抗老化 (アンチエイジング)を示す。近年、β-NMNが関わる機能として、「サーカディアンクロックへの関与 (非特許文献1)」、「脂質や糖代謝異常の改善 (非特許文献2)」、「老化によるミトコンドリア機能の改善 (非特許文献3)」、「虚血再灌流からの心臓の保護 (非特許文献4)」、「老化による神経幹細胞の減少抑制 (非特許文献5)」、「エピジェネティク抑制による糖尿病性アルブミン尿の抑制 (非特許文献6)」などが報告されている。このように、糖代謝、糖尿病や神経変性疾患、心疾患など老化現象に関わるさまざまな生体現象は、β-NMNがサーチュイン活性のトリガーになることで抑制することができ、最終的には生命の延命に繋がるとされている。
また、酵母は、各種食品等に使用されており、トルラ酵母(Candida utilis)は、アメリカ食品医薬品局 (FAD)より高い栄養機能性と食経験からの安全性が評価されている食用酵母である。このことより、長年にわたって医薬品やサプリメント、調味料などに有効活用されており、β-NMN含有酵母エキスについても食品への利用が知られている(特許文献1)。しかし、β-NMN含有酵母エキスが糖尿病の改善又は予防に有効であることは、知られていなかった。
国際公開WO2017/022768
Ramsey, KM . et al. Circadian clock feedback cycle through NAMPT-mediated NAD+ biosynthesis . Science. 2009, 324(5927), P. 651-654. J, Yoshino . et al. Nicotinamide Mononucleotide, a Key NAD+Intermediate, Treats the Pathophysiology of Diet- and Age-Induced Diabetes in Mice . Cell Metab. 2011, 14(4), P. 528-536. Ana, P. Gomes . et al. Declining NAD+ Induces a Pseudohypoxic State Disrupting Nuclear-Mitochondrial Communication during Aging . Cell.2013, 155(7), P. 1624-1638. T, Yamamoto . et al. Nicotinamide mononucleotide, an intermediate of NAD+ synthesis, protects the heart from ischemia and reperfusion .PLoS One. 2014, 9(6), e98972. Liana, R Stein . et al. Specific ablation of Nampt in adultneural stem cells recapitulates their functional defects during aging . EMBOJ. 2014, 33(12), P. 1321-1340 K, Hasegawa . et al. Renal tubular Sirt1 attenuates diabeticalbuminuria by epigenetically suppressing Claudin-1 overexpression in podoc ytes . Nat Med. 2013, 19(11), P. 1496-1504
本願は、糖尿病、さらには糖尿病に起因する様々な合併症の予防剤または改善剤を提供することを課題とする。
本願発明者らは、β-NMN含有酵母エキスが、糖尿病、さらには糖尿病に起因する様々な合併症の予防または改善する効果を有することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の通りである。
(1)β-NMN含有酵母エキスを有効成分として含む糖尿病改善剤。
(2)β-NMN含有酵母エキスを有効成分として含む糖尿病予防剤。
(3)糖尿病改善用β-NMN含有酵母エキス。
(4)糖尿病予防用β-NMN含有酵母エキス。
本発明の糖尿病改善剤又は予防剤は、糖尿病に対して、血中の高濃度のグルコースを低減して高血糖を改善するために有効に用いることができ、さらに糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症への進展を予防又は改善する作用を有する。さらに、本願発明は、食品として用いられている酵母エキスを予防剤又は改善剤として利用できるため、通常の食品だけでなく、介護食等の食品にも添加することが可能となり、摂取が容易となる利点がある。
以下、本発明を詳細に説明する。
本願発明において、糖尿病とは、妊娠糖尿病、若年発症成人型糖尿病、持続性糖尿病、ステロイド糖尿病、I型糖尿病あるいはII型糖尿病を含むいずれの病態でもよく、好ましくはII型糖尿病である。
本願発明において、糖尿病の改善とは、糖尿病を悪化させないということである。また糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などの疾病の治療効果を指す。具体的には、例えば筋肉組織におけるグルコース取り込み能の上昇又は下降抑制を指している。また、本願発明において、糖尿病の予防とは、例えば筋肉組織における、グルコース取り込み能の上昇又は下降抑制を指している。なお、筋肉組織は体内で最も糖の消費量が多い組織であり、筋肉組織へのグルコース取り込み能とII型糖尿病との関係は良く知られている。
本発明でいうβ-NMN含有酵母エキスは、β-NMNを含有した酵母エキスであり、医薬品又は食品として使用できる方法で取得されれば、特に制限はない。例えば、国際公開WO2017/022768号に開示された製造方法を用いて得ることができ、「ハイチオンエキスYH8」(興人ライフサイエンス社製)を基質に、通常用いられる酵素処理でNADをβ-NMNに変換したものなどが挙げられる。さらに、β‐NMN含有酵母エキスから精製したβ‐NMNを、本発明のβ‐NMN含有酵母エキスの代替として用いることもできる。精製法は、イオン交換樹脂等を用いた、一般的に採用できる精製法が利用できる。
本発明の糖尿病改善剤または予防剤の有効成分は、β-NMN含有酵母エキスであるため、β-NMN含有酵母エキスをそのまま糖尿病改善剤または予防剤として投与することもできる。また、β‐NMNのサーチュイン活性を低下させない又はβ‐NMNのサーチュイン活性を増加させる他の素材との混合物にして投与してもよい。例えば、賦形剤、希釈剤となるマルチトール、ソルビトール、澱粉などである。糖尿病改善剤または予防剤の形態は、特に制限されず、β-NMN含有酵母エキスを含有するものであれば、固形状、油状、溶液状など何れのものでもよい。
本発明に係るβ-NMN含有酵母エキスの投与方法は特に限定されず、経口投与、静脈内、腹膜内もしくは皮下投与等の非経口投与をあげることができる。具体的には、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤のいずれでもよい。
本発明の投与量は、β‐NMNの活性が発現される量を投与すればよい。ヒトに投与する場合の投与量および投与回数は、投与形態、被投与者の年齢、体重等により異なる。
本発明の糖尿病改善剤または予防剤は、医薬品だけでなく、食料品、飲料品、嗜好品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメントとしても摂取可能である。ヒトが摂取する場合の摂取量および摂取回数は、摂取形態、被摂取者の年齢、体重等により異なる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(ラット筋芽細胞(L6細胞)におけるグルコース取り込み活性測定)
ラット筋芽細胞(L6細胞)を用いて、さらに本発明の効果を確認した。L6細胞を、10%牛胎児血清を含むD‐MEM培地で96ウェルプレートに播種(1×10 cells/well)し、48時間前培養した(5% CO、37℃)後、2%馬血清を含むD‐MEM培地に交換して96時間培養(5% CO、37℃)して分化を誘導させた。続いて、0.2%BSAを含む無血清のMEM培地に交換して16時間同調培養(5% CO、37℃)した後、KRPHバッファーでウェルを洗浄し、100μMの2-NBDGを含むKRPHバッファー(0.1%BSA含有)に溶解したサンプル溶液を100μL加え、20分間インキュベート(5% CO、37℃)した。酵母エキスを含まない溶液をコントロールとした。その後、溶液を、氷冷したKRPHバッファー100μLと交換して反応を停止させ、マイクロプレートリーダーを用いて細胞内に取り込まれた蛍光性グルコース類似体である2-NBDGの蛍光強度を、励起波長470 nm、検出波長550 nmで測定した。グルコース取り込み活性は、コントロールの蛍光強度(F)を100としたときの、サンプル溶液を反応させた場合の蛍光強度(F)の割合として、以下の式により求めた。
グルコース取り込み活性(%)=F/F×100
なお、サンプル溶液には、β-NMN含量が0.67質量%の酵母エキス(終濃度1mg/mL)を用いた。この酵母エキスは、「ハイチオンエキスYH8」(興人ライフサイエンス社製)を基質に、酵素処理でNADをβ-NMNに変換したものである。なお、NAD含量は0.03%であった。
β-NMN含量が0.67質量%の酵母エキス(終濃度1mg/mL)を用いた場合、グルコース取り込み活性は154%で、有意にグルコース取り込み活性が上昇した。
[比較例1]
サンプル溶液にβ-NMN含量が0.00質量%の酵母エキス(終濃度1mg/mL)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。なお、この酵母エキスは、実施例1で用いた「ハイチオンエキスYH8」(興人ライフサイエンス社製)そのものである。NAD含量は0.87%であった。β-NMN含量が0.00質量%の酵母エキス(終濃度1mg/mL)のグルコース取り込み活性を測定したところ、106%で有意なグルコース取り込み活性は認められなかった。
[確認試験1]
サンプル溶液にβ-NMN(SIGMA社製)(終濃度0.67質量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。β-NMN(SIGMA社製)(終濃度0.67質量%)を用いた場合、グルコース取り込み活性は155%で、有意にグルコース取り込み活性が上昇した。
[確認試験2]
サンプル溶液にインスリン(終濃度100 nM)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。ポジティブコントロールであるインスリン(終濃度100 nM)のグルコース取り込み活性は145%で、有意にグルコース取り込み活性が上昇した。
本実施例の結果から、β-NMN含有酵母エキスは、ラット筋芽細胞においてグルコースの取り込みを促進する事が示唆され、糖尿病への有効性が確認された。従って、本発明のβ-NMN含有酵母エキスは糖尿病、さらには糖尿病に起因する様々な合併症の予防に対して有効であると考えられる。

Claims (2)

  1. β-NMN含有酵母エキスを有効成分として含む筋肉組織におけるグルコース取り込み能上昇剤。
  2. β-NMN含有酵母エキスを有効成分として含む筋肉組織におけるグルコース取り込み能下降抑制剤。
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