JP7090267B2 - 血糖値上昇抑制剤 - Google Patents
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Description
苦丁茶の原料として、5科5属10種の植物が利用されている。よく利用されている代表的な植物は、モチノキ科Ilex属植物とモクセイ科Ligustrum属植物である。
苦丁茶は、テルペノイド、トリテルペン配糖体、フラボノイド、クロロゲン酸類、フェニルエタノイド配糖体、カフェオイルキナ酸、ウルソール酸、ベツリン、ルペオール、ウルソール酸、ルペオールなどの多種の成分を含む。これら多様な成分が組み合わされて、種々の薬効を発揮すると考えられる。
例えば、特許文献1は、タラヨウ(Ilex latifolia)抽出物が、脳梗塞及び脳浮腫を抑制し、記憶障害を抑制することを教えている。
また、特許文献2は、タラヨウ(Ilex latifolia)抽出物が、リパーゼ阻害作用を有することから、中性脂肪の吸収を抑制して、肥満症、過脂肪血症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症などの予防、治療薬として有用であることを教えている。
また、特許文献3は、苦丁茶抽出物が、コレステロールアシルトランスフェラーゼ阻害作用を有することから、血中コレステロール濃度を低下させて、動脈硬化の予防、治療薬として有用であることを教えている。
また、特許文献4は、Ligustrum pedunclare、Ligustrum purpurascensの抽出物が、ホスファチジルコリンステロールアシルトランスフェラーゼ活性を促進することにより、血中コレステロール濃度を低下させて、高脂血症の予防、治療薬として有用であることを教えている。
このように、苦丁茶抽出物は脳疾患や脂質代謝の改善に有用であることが知られている。
(i) 苦丁茶抽出物は、糖質の消化酵素であるアミラーゼ、マルターゼ、及びスクラーゼを阻害した。
(ii) 苦丁茶抽出物は、ヒトの小腸上皮細胞モデルとして用いられているCaco-2細胞によるグルコースアナログの取り込みを阻害した。
(iii) マウスに、デンプン又はグルコースと共に苦丁茶抽出物を経口投与することにより、デンプン又はグルコースだけを経口投与した場合に比べて、血中グルコース濃度の上昇が抑制された。
(iv) このように、苦丁茶抽出物は、消化管での糖質の分解を抑制し、さらに糖質の分解産物であるグルコースの消化管からの吸収を抑制することから、苦丁茶抽出物を摂取することにより、糖質の体内取り込み速度や取り込み量が抑えられる。
〔1〕 苦丁茶抽出物を含む、血糖値上昇抑制剤。
〔2〕 苦丁茶の原料植物がIlex latifoliaである、〔1〕に記載の血糖値上昇抑制剤。
〔3〕 苦丁茶抽出物を、乾燥重量に換算して、0.02~90重量%含む、〔1〕又は〔2〕に記載の血糖値上昇抑制剤。
〔4〕 苦丁茶抽出物を含む、糖吸収抑制剤。
〔5〕 苦丁茶の原料植物がIlex latifoliaである、〔4〕に記載の糖吸収抑制剤。
〔6〕 苦丁茶抽出物を、乾燥重量に換算して、0.02~90重量%含む、〔4〕又は〔5〕に記載の糖吸収抑制剤。
〔7〕 苦丁茶抽出物を含む、高血糖が一因となる疾患の予防、改善、又は治療剤。
〔8〕 苦丁茶の原料植物がIlex latifoliaである、〔7〕に記載の予防、改善、又は治療剤。
〔9〕 苦丁茶抽出物を、乾燥重量に換算して、0.02~90重量%含む、〔7〕又は〔8〕に記載の予防、改善、又は治療剤。
〔10〕 高血糖が一因となる疾患が糖尿病である、〔7〕~〔9〕の何れかに記載の予防、改善、又は治療剤。
従って、苦丁茶抽出物を摂取すれば、糖質の総吸収量が少なくなると共に、糖質の吸収速度が低下して血糖値の急激な上昇が抑えられる。実施例の項目に示す通り、本発明では、哺乳動物への苦丁茶抽出物の経口投与によりデンプン摂取時の血中グルコース濃度の上昇の抑制が確認された。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、苦丁茶抽出物を含む剤であり、特に苦丁茶抽出物を有効成分として含むことができる。
苦丁茶の原料植物としては、Ilex属植物(Ilex latifolia、Ilex cornuta、Ilex kudincha、Ilex paraguariensis、Ilex cornutaなど)、Ligustrum属植物(Ligustrum pedunclare、Ligustrum purpurascens、Ligustrum japonicum、Ligustrum robustrumなど)、Cratoxylum 属植物(Cratoxylum prunifoliumなど)、Ehretia 属植物(Ehretia thyrsifloraなど)、Photinia 属植物(Photinia serruiataなど)などが挙げられる。
中でも、Ilex属植物が好ましく、Ilex latifoliaがより好ましい。
苦丁茶は、1種又は2種以上の原料植物からなるものを使用できる。
また、苦丁茶は、原料植物の葉、茎、幹、樹皮、花、根などの何れの部位からなるものであってもよい。中でも葉が好ましい。2以上の部位を混合して使用してもよい。
苦丁茶の原料植物は、日本や中国の暖帯に自生しており、容易に入手できる。
苦丁茶は、採取したものをそのまま抽出に供してもよく、乾燥させてから抽出に供してもよい。
また、プロパン、ブタン、ヘキサン、シクロヘキサンのような炭化水素;グリセリン;ジエチルエーテルのようなエーテル;ジクロロメタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテンのようなハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸メチルのような酢酸エステルなどの疎水性溶媒も挙げられる。
中でも、血糖値上昇抑制作用の強い成分を抽出できる点で低級アルコール水溶液が好ましく、その中でもエタノール水溶液がより好ましい。
溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
抽出物は、液状のもの、又は乾燥して固形状にしたもの(例えば、粉末)の何れを用いてもよい。
本発明の血糖値上昇抑制剤は、苦丁茶抽出物と、必要に応じて配合される添加剤やその他の生理活性又は薬理活性成分と共に、食品組成物、医薬組成物、又は医薬部外品組成物とすることができる。
組成物中の苦丁茶抽出物の濃度は、乾燥重量に換算して、組成物の全量に対して、0.02重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、1重量%以上がより好ましく、2重量%以上がより好ましく、5重量%以上がより好ましく、10重量%以上がより好ましい。また、組成物中の苦丁茶抽出物の濃度は、乾燥重量に換算して、組成物の全量に対して、90重量%以下又は30重量%以下とすることができる。
本発明の剤は、一般にサプリメントと称されるような経口投与製剤の形態の食品組成物とすることができる。固形状の経口投与製剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)などが挙げられる。液体状の経口投与製剤としては、液剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤、シロップ剤などが挙げられる。
液体製剤化する場合は、苦丁茶抽出物を、必要に応じてその他の添加物と共に、水、エタノール、グリセリン、単シロップなど、又はこれらの混液に溶解又は分散させればよい。添加物としてはpH調整剤、緩衝剤、増粘剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤、着色剤、香料などが挙げられる。
本発明の剤は、一般食品に苦丁茶抽出物を配合した組成物であってもよい。例えば、ゼリー、寒天菓子、ガム、飴、焼き菓子(クッキー、ビスケットなど)のような固形食品や、ドリンク剤のような液体食品に苦丁茶抽出物を配合したものとすれば、血糖値の上昇を抑えるために、消費者が気軽に摂取することができる。また、近年、ペットの高齢化による疾患が増えているため、固形又は液状のペットフードに苦丁茶抽出物を配合することもできる。
また、液体状食品では、栄養ドリンク、果物や野菜などのジュース、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、清涼飲料、炭酸飲料、スポーツ飲料、酒(日本酒、泡盛、ビール、ワインなど)などが挙げられる。
これらは、糖質を多く含むため、苦丁茶抽出物を配合するのに好適な食品である。
苦丁茶抽出物含有食品組成物中の苦丁茶抽出物の好ましい濃度は、血糖値上昇抑制用の食品組成物の場合と同様である。
本発明の剤は、医薬組成物、又は医薬部外品組成物とすることもできる。製剤の具体例、苦丁茶抽出物の含有量などは、製剤形態の食品組成物について説明した通りである。
苦丁茶抽出物と共に配合できる好ましい生理活性又は薬理活性成分としては、食用キノコ(ヌメリイグチ、シロヌメリイグチ、ニガイグチモドキ、コウジタケ、イロガワリ、アイシメジ、キツネタケ、ツバフウセンタケ、ササタケ、ヤギタケ、アカヤマタケ、シロカノシタ、キホウキタケ、スッポンタケ、キヌガサタケなど)の抽出物、乳酸菌発酵液およびその抽出物、穀物麹またはその抽出物、酵母またはその抽出物、茶花抽出物、ハトムギ抽出物、コーンシルク抽出物、カンカニクジュヨウ抽出物、インゲン豆抽出物、桑葉抽出物、パパイヤ抽出物、緑茶由来のフラボノール又はその配糖体(カテキンなど)、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、イヌリン、オリゴ糖、植物炭、大麦βグルカン、シトラスファイバー、サイリウムシードガス、グアーガム酵素分解物、レシチン、大豆抽出物、酪酸菌発酵液、梅エキス、紫蘇エキス、脱硫酸コタラノール、サラシノール、カカオポリフェノール、カカオ脂などが挙げられるがこの限りではない。
これらは、苦丁茶抽出物と共に作用して、顕著に又は相乗的に、苦丁茶抽出物の血糖値上昇抑制作用を増強する。
糖質は、管腔内消化と膜消化により消化されて体内に吸収される。管腔内消化では唾液や膵液中のアミラーゼ(ヒトではα-アミラーゼ)により、デンプンやグリコーゲンが、麦芽糖、1,6-グルコシド、及びマルトトリオースに分解されるが、これらは小腸上皮から吸収されないため、小腸の微絨毛膜に存在するマルターゼなどのα-グルコシダーゼや、イソマルターゼなどにより単糖であるグルコースにまで分解され、体内に吸収される。また、小腸微絨毛膜には、スクラーゼ、ラクターゼといった二糖分解酵素も存在し、それぞれ、スクロースを単糖であるグルコースとフルクトースに分解し、ラクトースを単糖であるグルコースとガラクトースに分解して、体内に吸収させる。体内に吸収された単糖は毛細血管内に入る。
血糖値の上昇抑制は、例えば食後血糖値の上昇抑制である。また、苦丁茶抽出物は、糖質の総吸収量を低減するため、食後だけでなく、空腹時の血糖値をも低減し、正常値に近づける。従って、血糖値の上昇抑制は、空腹時の血糖値を正常値に近づけることも包含する。それには限定されないが、苦丁茶抽出物は、糖を燃焼してエネルギーに変える力を高め、高めの空腹時血糖値を正常に近づけることをサポートすると考えられる。
本発明の剤は、苦丁茶抽出物の乾燥重量に換算したヒト成人の1日摂取量又は投与量が10mg以上、中でも500mgとなるように、摂取又は投与することができる。この範囲であれば、血糖値の上昇を十分に抑制できる。また、苦丁茶は食品であるため、苦丁茶抽出物の摂取量の上限値は特に制限されないが、苦丁茶抽出物の乾燥重量に換算したヒト成人の1日摂取量又は投与量が5000mg程度とすればよい。
(1)苦丁茶抽出物の製造
乾燥した苦丁茶(Ilex latifolia)の葉部1.0kgを粉砕し、これに約10倍量の50%エタノール溶液(10L)を加え、24時間浸漬した。ろ紙にて吸引ろ過し、苦丁茶葉の抽出液を得た。ロータリーエバポレーターにて、減圧下に溶媒を留去して、苦丁茶抽出物を約120g(乾燥原料からの収率12%)を得た。
リン酸-クエン酸緩衝液 (pH6.9)に中に、Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼ12.5U/mL、0.25%可溶性デンプン、乾燥重量に換算して0.02-2mg/mL苦丁茶抽出物をそれぞれ最終濃度として含有するように添加した。反応液を37℃で10分間インキュベート後、沸騰水中で5分間インキュベートすることにより反応を停止した。その後、氷冷しラボアッセイグルコースにより、α-アミラーゼ活性によりデンプンから生成したグルコースを比色定量した。
結果を図1(a)に示す。苦丁茶抽出物は、α-アミラーゼを用量依存的に阻害した。また、そのIC50はα-アミラーゼに対して115±1μg/mLであった。
マルターゼ・スクラーゼ阻害活性は市販のα-グルコシダーゼ活性阻害測定キットを用いて評価した。マルターゼ活性は、キット中のマルトース溶液およびヒトマルターゼ溶液に、乾燥重量に換算して最終濃度0.01~0.3mg/mLとなるように苦丁茶抽出物を添加し、37℃で30分間インキュベートすることにより評価した。スクラーゼ活性は、キット中のスクロース溶液およびヒトスクラーゼ溶液に、乾燥重量に換算して最終濃度0.2~2mg/mLとなるように苦丁茶抽出物を添加し、37℃で30分間インキュベートすることにより評価した。マルターゼ活性およびスクラーゼ活性共に、30分間インキュベート後に沸騰水中で3分間インキュベートすることにより反応を停止した。その後氷冷しラボアッセイグルコースにより、マルターゼによりマルトースから、スクラーゼによりスクロースからそれぞれ生成したグルコースを比色定量した。
結果を図1(b)及び(c)に示す。苦丁茶抽出物は、マルターゼ、スクラーゼを用量依存的に阻害した。また、そのIC50は、マルターゼに対して59±1μg/mLであり、微量で著効を示した。
小腸上皮細胞モデルとして用いられているヒト結腸ガン由来Caco-2細胞を10%ウシ胎児血清および1%非必須アミノ酸を含有するDalbecco’s Modified Eagle Mediumに播種し、5%CO2条件下、37℃で16日間培養した。その後、蛍光性グルコースアナログである2-deoxy-2-[(7-nitro-2,1,3-benzoxadiazol-4-yl)amino]-D-glucose(2-NBDG)と共に、苦丁茶抽出物、又は公知のナトリウム・グルコース共役輸送体阻害剤であるPhlorizin(PHL)を添加することにより、グルコース取込み反応を行った。苦丁茶抽出物は、乾燥重量に換算して最終濃度0.02~2mg/mLとなるように添加し、PHLは最終濃度1mMとなるように添加した。Caco-2細胞に2-NBDGおよび苦丁茶抽出物もしくはPHL添加後、37℃で120分間培養した後、細胞を氷冷したリン酸緩衝液で洗浄し、細胞内に残存した2-NBDG由来の蛍光強度(Ex/Em=485/538 nm)を測定した。
結果を図2に示す。苦丁茶抽出物は、グルコースアナログの取り込みを用量依存的に阻害した。また、そのIC50は26±1μg/mLであり、微量で著効を示した。
マウス(ICR、5-6週齢)に、デンプン水溶液もしくはグルコース水溶液と共に苦丁茶抽出物を強制経口投与した。デンプンの投与量は4g/kg体重、グルコースの投与量は2g/kg体重とし、苦丁茶抽出物の投与量は、乾燥重量に換算して100mg/kg体重又は500mg/kg体重とした。デンプン水溶液もしくはグルコース水溶液のみ投与したコントロール群も設けた。
デンプン水溶液投与条件はマウス8匹とし、投与直前、投与30分後、60分後、120分後に血糖値を測定した。グルコース水溶液投与条件はマウス15匹とし、投与直前、投与15分後、30分後、60分後に血糖値を測定した。血糖値はマウスの尾を20G注射針により穿刺することにより採血し、市販の実験動物用血糖測定装置ラボグルコを用いて測定し、平均値を求めた。
苦丁茶抽出物は、デンプン水溶液もしくはグルコース水溶液投与後の血中グルコース濃度の上昇を有意に抑制した。苦丁茶抽出物が食後の血糖値の上昇を抑制できることが明らかとなった。
Claims (5)
- Ilex latifoliaの葉のエタノール水溶液抽出物を含む、糖吸収抑制剤。
- Ilex latifoliaの葉のエタノール水溶液抽出物の乾燥重量に換算したヒト成人の1日摂取量が10~5000mgとなるように使用される、請求項1に記載の糖吸収抑制剤。
- 糖がグルコースである、請求項1又は2に記載の糖吸収抑制剤。
- Ilex latifoliaの葉のエタノール水溶液抽出物を、乾燥重量に換算して、0.02~90重量%含む、請求項1~3の何れかに記載の糖吸収抑制剤。
- Ilex latifoliaの葉のエタノール水溶液抽出物を含む、α-アミラーゼ、マルターゼ、及びスクラーゼから選ばれる糖質消化酵素の阻害又は抑制剤。
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