JP4865955B2 - α−グルコシダーゼ阻害剤及び食品又は飼料の製造方法並びに添加剤の製造方法 - Google Patents
α−グルコシダーゼ阻害剤及び食品又は飼料の製造方法並びに添加剤の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はα−グルコシダーゼ阻害剤及びそれを含む加工食品、過血糖症用剤、飼料並びに添加剤に関する。具体的には、イネ科に属する米の糠、特に有色素米の糠の抽出物からなり、医薬品、食品、健康食品や特定保健用食品などに用いられるα−グルコシダーゼ阻害剤及びそれを含む加工食品、過血糖症用剤、飼料並びに添加剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
肥満や糖尿病などのいわゆる生活習慣病の増加に伴い、近年、食生活習慣の改善等が要求されている。α−グルコシダーゼ阻害剤は、小腸の微絨毛に局在するα−グルコシダーゼ活性を阻害し、食後の血糖値の急上昇及びそれに続くインスリン値の上昇を抑制することが、Diabate Medicine,10,688(1993)に報告され、人間及び人間以外の動物においても、炭化水素(特に、デンプン由来のオリゴ糖、シュクロース等)の代謝が抑制されるため、α−グルコシダーゼ阻害剤の摂取により血糖上昇抑制作用が示され、過血糖症状すなわち過血糖に由来する肥満症、糖尿病などの種々の疾患の改善・予防に有用であると考えられている。また、α−グルコシダーゼ阻害剤を添加した種々の加工(健康)食品は、糖代謝異常の患者にも有益なものであり、それだけでなく健康人にとっても代謝異常予防食などとして有用なものであると考えられる。
【0003】
これまで、α−グルコシダーゼ阻害剤には、アカルボースや1−デオキシノジリマイシンなどが知られているが、安全性に懸念が残されている。このような観点から検討された結果、食品由来のものとして、例えば特開平9−65836号公報には動物性蛋白質若しくは植物性蛋白質の加水分解物が開示され、また、特開平5−17364号公報には茶ポリフェノールが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開平9−65836号公報に記載のα−グルコシダーゼ阻害剤は活性が低く、実際の適用上食品中に比較的大量に含有させる必要がある。また、特開平5−17364号公報に開示されたものでは、ポリフェノールの精製が煩雑であり、その含有量が低く、α−グルコシダーゼの抽出効率の観点などから好適なものとは言えなかった。
【0005】
一方、有色素米は、現代米である白米とは、外観上及び食感、食味がかなり異なり、現在では一般的に利用されることはないが、古来には食されていたこともあり、有色素米の特徴である色や食味、現代米の起源であることなどから近年注目されつつあり、色々な食素材としての利用価値が高まって来ている。しかし、これらの有色素米についての薬理作用(生理活性)についてはほとんど知られてはいない。
【0006】
そこで本発明者らは、新規でかつ安全性や活性が高く、しかも摂取も容易であるα−グルコシダーゼ阻害剤を提供すべく鋭意努力したところ、現代米である白米はもちろんのこと、特に、有色素米の米糠抽出物中に優れたα−グルコシダーゼ阻害作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るα−グルコシダーゼ阻害剤は、有色素米の糠を極性溶媒で抽出する工程と、当該抽出物からヘキサン可溶成分を除去する工程と、ヘキサン可溶成分が除去された残留物から酢酸エチルで抽出する工程とから得られた抽出物からなる。
【0008】
本発明に係る食品又は飼料の製造方法は、有色素米の糠を極性溶媒で抽出する工程と、当該抽出物からヘキサン可溶成分を除去する工程と、ヘキサン可溶成分が除去された残留物から酢酸エチルで抽出する工程とから得られた抽出物を含有せしめる方法である。
【0011】
また、本発明に係る添加剤の製造方法は、食品若しくは医薬品に添加される糖類を含む添加剤の製造方法であって、本発明に係るα−グルコシダーゼ阻害剤を含有せしめる方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に係るα−グルコシダーゼ阻害剤は、米糠の抽出物、特に極性溶媒を用いて得られた抽出物を含有することを特徴としている。本発明において、米糠とは、イネ科に属するイネの種子から採取されたもみを通常乾燥した後、いわゆるもみすりし、玄米とした後、搗精する際に生じる果皮、種皮、外胚乳などの粉砕物をいう。また、本発明においては、搗精することなく、果皮や種皮などが付いた玄米の状態で用いることもできる。
【0013】
また、本発明において、米とはイネ科に属するものであれば、いわゆる現代米(白米)のみならず、糠層(いわゆる搗米する際に糠となって剥落する部分)にアントシアニン系の紫色色素あるいはタンニン系の赤色色素を有する有色素米をも用いることができる。特に本発明においては、得られた活性の強さなどから、赤米や黒米などの有色素米が好ましく用いられる。
【0014】
玄米は乾燥した後粉砕することなく使用できるが、通例粉状にして抽出に供される。このとき、粉末にした後さらに乾燥して抽出に供したり、あるいは水中で粉砕してスラリー状にして抽出に供することもできる。また、糠についても、搗精後に得られた糠に乾燥を加え、さらにはより細かくした後に抽出に供することもできる。
【0015】
抽出溶媒としては、水やメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のグリコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などの各種極性溶媒が挙げられる。本発明においては、これらの溶媒を1種若しくは2種以上の混液が用いられるが、この中でも水やアルコール類、特に水やメタノール、エタノールあるいはこれらの混液が、より強いα−グルコシダーゼ阻害活性を示す抽出物が得られると共にその取扱いが容易であるため、好適に用いられる。溶媒を混合して用いる場合には、各溶媒の混合比は適宜溶媒の種類に応じて調整すればよいが、例えば水とメタノール、エタノールとの混液の場合には、重量比で1:100〜100:1、好ましくは1:50〜50:1であり、望ましくはほぼ等重量で混合するのがよい。
【0016】
抽出法としても特に限定されるものではなく、上記溶媒を加えた後、α−グルコシダーゼ阻害活性を失活させない程度に加温加熱する加熱抽出法や、超臨界抽出法などが採用される。また、一定量の溶媒に浸漬してバッチ処理をする浸漬抽出や連続的に溶媒を送り続ける連続抽出など、公知である種々の抽出法が用いられる。
【0017】
具体的には、例えば乾燥した米糠あるいは玄米に、それとほぼ等重量の抽出溶媒を加えて浸漬して加熱し、30〜60分間沸騰させることによりα−グルコシダーゼ活性阻害成分を抽出することができる。また、抽出材料にほぼ等重量の抽出溶媒を加えて浸漬し、室温で1〜14日間放置、若しくは40〜60℃で10〜20時間程度加温することにより有効成分を抽出することもできる。もちろん、溶媒量や加熱温度、浸漬時間等は適宜調整できる。
【0018】
現代米及び有色素米の米糠から抽出した後は、ろ過や遠心分離によって残渣と液固分離され、抽出液として取り出される。本発明においては、得られた抽出液そのものをα−グルコシダーゼ阻害剤として使用することもできるが、活性が低い場合もあるため、適宜濃縮あるいは溶媒を留去して、エキス状や粉末状にすることもできる。さらに、少量の摂取で効果を挙げるためには、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、ベンゼンなどの1又は2種以上の有機溶媒を用いた溶媒分画操作によって、得られた抽出液から活性画分を分取し、さらにアルミナカラムクロマトグラフィやシリカゲルクロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、疎水クロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィなどの適当な分離精製手段を1種若しくは2種以上組み合わせ、α−グルコシダーゼ阻害活性のある画分を取り出して、本発明に係る阻害剤とするのが好ましい。
【0019】
また、こうして得られた抽出物はそのままの状態で用いることもできるが、その保存や適用などの観点から、α−グルコシダーゼ阻害活性を阻害しない程度で、乳糖やコーンスターチ、デンプンなどのいわゆる賦型剤を添加して提供することもできる。
【0020】
この抽出物中のα−グルコシダーゼ阻害剤の活性本体はまだ不明であるが、当該α−グルコシダーゼ阻害剤は、血糖上昇抑制作用を有しているので、様々な日常食品に添加したり、あるいは錠剤などの形態に加工したいわゆる健康食品など、種々の加工食品として代謝異常の患者食として、あるいは、糖尿病や肥満症の改善薬、予防薬として用いることができる。また、乳糖やコーンスターチ、デンプンなど糖類からなる添加剤に、当該乳糖などの消化吸収性を低下させるべく、α−グルコシダーゼ阻害剤を添加することにしてもよい。すなわち、他の食品中の糖の吸収を低下させる目的で使用するのではなく、食品や医薬品の増量目的で使用される添加剤中に、予めα−グルコシダーゼ阻害剤を添加して用いることにより、過剰な糖類の吸収摂取を避けることができる。
【0021】
得られたα−グルコシダーゼ阻害剤はその活性によっても異なるが、人における摂取量としては、抽出物として0.01〜1g/日、好ましくは0.1〜0.5g程度とされ、米糠の乾燥粉末換算にして1〜100g/日程度とされる。また、水又は/及びアルコールによる抽出物を用いる場合には、活性の高い抽出物が得られるので、該抽出物として上記範囲の1/2〜1/10程度の摂取量でも良い。もちろん、これらの範囲に必ずしも限定されるものではない。
【0022】
また、服用形態としても特に限定されるものではなく、水やエタノール、エチレングリコール、ポリエチレングルコールなどの液体に溶解若しくは分散させ、アンプル剤やシロップ剤、いわゆるドリンク剤などの各種液剤として提供される。また、でんぷんやセルロース、ポリアミド粉末などのいわゆる賦形剤を用いて、錠剤や顆粒剤、丸剤、カプセル剤などの固形剤、半固形剤としても提供される。
【0023】
添加できる食品としては、例えば、コーヒー、果汁、清涼飲料水、ビール、牛乳、味噌汁、スープ、紅茶、お茶、栄養剤、シロップ、マーガリン、ジャムなどの液状、流動状の食品、米飯、パン、パスタ、じゃがいも製品、もち、飴、チョコレート、ふりかけ、ハム、ソーセージ、キャンディなどの固形状食品などの主食、副食、菓子類並びに調味料が挙げられ、糖類を含有するしないに拘らず、種々の食品に添加して用いることができる。
【0024】
このときの添加量としては、上記食品中、米糠の抽出物量として、0.001〜85重量%、好ましくは0.01〜60重量%である。また、水又はアルコールによる抽出物を用いる場合には、当該添加量の1/2〜1/10程度の添加量でも差し支えない。
【0025】
もちろん、上記医薬品や加工食品には、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常用いられる甘味剤や保存剤、分散剤、着色剤、酸化防止剤を添加できるのは言うまでもない。さらに、公知のα−グルコシダーゼ阻害剤であるバリエナミンやアミノシクリトールなどのα−グルコシダーゼ阻害剤と併用することもできる。
【0026】
さらに人への適用だけでなく、犬やねこなどのペット用飼料やその他の家畜用の飼料などにも応用することができる。
【0027】
このように、本発明に係るα−グルコシダーゼ阻害剤は、上記の如き健康食品等を含む加工食品として、あるいは過血糖症用剤として、食前、食中、食後あるいは食間に服用することにより、喫食による血糖濃度増加を抑制することができ、高血糖に基づく肥満や糖尿病などの改善・予防に寄与できる。また、糖類からなる添加剤中に添加することによって、添加剤中の糖類による血糖上昇を押えながら食品や医薬品本来の目的を発揮させることができる。また、ペットなどの肥満抑制などにも役立つものである。
【0028】
【実施例】
次に実施例を示すことによって、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものでないのはいうまでもない。また、以下の実施例において、「%」は「重量%」を意味する。
【0029】
(実施例1)
現代米及び赤米並びに黒米の糠各850gを1Lのメタノールで抽出し、ろ過して得られたろ液をロータリーエバポレ−ターで濃縮し、抽出物を得た。その収量は、それぞれ45g、66g、35gであった。次に、これら3種の米糠抽出物について、α−グルコシダーゼ活性を下記方法にて測定し、α−グルコシダーゼ活性阻害を求めた。
【0030】
(実施例2)
黒米の糠1kgを1Lの50%メタノール水溶液に1日浸漬し、ろ過して得られた浸漬液をロータリーエバポレ−ターで濃縮し、抽出物を得た。この抽出物を水に溶解した後、分液ロートに入れてヘキサンを加え、ヘキサン層(E−1)と水層に分画し、当該水層には酢酸エチルを加えて、さらに酢酸エチル層(E−2)と水層に分画した。次いで、この水層にブタノールを加え、ブタノール層(E−3)を取り出した。その後、各有機溶媒層(E−1、E−2、E−3)それぞれから溶媒を留去し、得られた物について、α−グルコシダーゼ活性を下記方法にて測定し、α−グルコシダーゼ活性阻害を求めた。
【0031】
〔α−グルコシダーゼ活性の測定〕
α−グルコシダーゼ活性は、Dahlqvist法に従い、基質としてマルトースを用いた。反応には、1.0M基質溶液(マルトースを0.1Mマレイン酸ナトリウム緩衝液pH7.0に溶解したもの)0.1mlに、被験物質溶液0.1ml及び酵素液0.1mlを加え、37℃60分間反応させた後、煮沸し反応を停止させ試験液とした。次いで、発色試薬〔グルコースBテストワコー(和光純薬株式会社製)〕30mlに、試験液20μlを加え、37℃で20分間インキュベートした後、505nmにおける吸光度を測定した。
【0032】
空試験として、基質溶液の代りに0.1Mマレイン酸ナトリウム緩衝液pH7.0を加えて同様の試験を行った時の吸光度をブランク値とし、この値を差し引き試験液の吸光度Asを求めた。なお、被験物質溶液は、糠0.1g相当の抽出物若しくは各有機溶媒層を採り、濃縮乾固した後、それぞれに1mlのエタノールを加えて溶解したものを用いた。また、酵素液には、市販のα−グルコシダーゼ(和光純薬株式会社製)を、0.01Mマレイン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で0.5units/mlに調整したものを用いた。
【0033】
対照として、被検物質溶液の代りにエタノールを加えた時の吸光度Acを測定し、次式によって上記抽出物のα−グルコシダーゼ阻害活性を測定した。測定は2回行い、その平均値を表1及び表2に示した。
α−グルコシダーゼ活性阻害(%)=〔(Ac−As)/Ac〕×100
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1及び表2に示すように、現代米及び赤米並びに黒米の米糠の各抽出物には、α−グルコシダーゼ阻害活性を有することが示唆され、黒米の抽出物、特に酢酸エチル転溶層の抽出物は優れたα−グルコシダーゼ阻害作用を示し、α−グルコシダーゼ阻害剤として利用できることが確認された。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、活性が強く安全性にも優れ、しかも摂取しやすいα−グルコシダーゼ阻害剤を提供できる。これを添加した加工食品や過血糖症用剤として摂取することにより、血糖の上昇を押え、肥満や糖尿病などの生活習慣病対策に貢献できる。また、糖類からなる添加剤に加えておくことにより、過剰な糖類の摂取に伴う血糖上昇を防ぐことができる。さらに人のみならず、家畜やペット用の飼料として用いることにより、ペットにおける肥満症を防いだり、あるいは脂肪の少ない肉質の家畜を得ることができる。
Claims (6)
- 有色素米の糠を極性溶媒で抽出する工程と、当該抽出物からヘキサン可溶成分を除去する工程と、ヘキサン可溶成分が除去された残留物から酢酸エチルで抽出する工程とから得られた抽出物からなるα−グルコシダーゼ阻害剤。
- 前記極性溶媒は、水又はアルコール若しくは水とアルコールとの混液である請求項1に記載のα−グルコシダーゼ阻害剤。
- 有色素米の糠を極性溶媒で抽出する工程と、当該抽出物からヘキサン可溶成分を除去する工程と、ヘキサン可溶成分が除去された残留物から酢酸エチルで抽出する工程とから得られた抽出物を含有せしめる食品又は飼料の製造方法。
- 前記極性溶媒は、水又はアルコール若しくは水とアルコールとの混液である請求項3に記載の食品又は飼料の製造方法。
- 血糖上昇抑制作用を示す量の前記酢酸エチルで抽出された抽出物を含有せしめる請求項3又は4に記載の食品又は飼料の製造方法。
- 食品若しくは医薬品に添加される糖類を含む添加剤の製造方法であって、請求項1又は2に記載のα−グルコシダーゼ阻害剤を含有せしめる添加剤の製造方法。
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