図1は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンナノチューブ成形体製造装置1(以下、単に「成形体製造装置1」と呼ぶ。)を示す側面図である。図2は、成形体製造装置1を示す平面図である。図1および図2に示す例では、成形体製造装置1は、複数のカーボンナノチューブ(CNT)により形成される線状(いわゆる、糸状)のカーボンナノチューブワイヤを、カーボンナノチューブ成形体として製造する。以下の説明では、図1中における上側および下側を、単に「上側」および「下側」と呼ぶ。図1中の上下方向は、必ずしも実際の鉛直方向と一致しなくてもよい。
成形体製造装置1は、基板保持部21と、剥離部材22と、移動機構23と、ガイド部24と、ワイヤ形成部25と、引出機構26と、伸張機構27と、制御部61とを備える。移動機構23は、基板巻き取りロール231と、回転機構232とを備える。引出機構26は、成形体巻き取りロール261と、回転機構262とを備える。伸張機構27は、ワイヤ巻き取りロール271と、回転機構272と、張力センサ273とを備える。回転機構232,262,272はそれぞれ、例えば電動モータである。制御部61は、成形体製造装置1の各構成を制御する。なお、図1以外の図面では、制御部61の図示を省略する。
基板保持部21は、多数のカーボンナノチューブの集合であるカーボンナノチューブアレイ91が立設した基板92を保持する。基板92は、例えば、可撓性を有する長尺の薄板状部材である。基板92は、例えば、シリコン基板、または、表面に二酸化ケイ素膜が設けられたステンレス鋼製の基板である。カーボンナノチューブアレイ91は、例えば、化学気相成長法(すなわち、CVD法)により、基板92の表面921に対して略垂直に配向する多数のカーボンナノチューブを基板92上に成長させることにより形成される。カーボンナノチューブアレイ91の形成は、他の様々な方法により行われてもよい。
カーボンナノチューブアレイ91の厚さ(すなわち、カーボンナノチューブアレイ91に含まれるカーボンナノチューブの上下方向における長さ)は、例えば、50μm~1000μmである。本実施の形態では、カーボンナノチューブアレイ91の厚さは、50μm~500μmである。カーボンナノチューブアレイ91の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製)または非接触膜厚計(株式会社キーエンス製)により測定される。
カーボンナノチューブアレイ91では、例えば、1cm2当たりに109本~1011本のカーボンナノチューブが存在する。隣接するカーボンナノチューブ間の距離は、例えば、100nm~200nmである。各カーボンナノチューブの外径は、例えば、10nm~30nmである。各カーボンナノチューブは、例えば、5層~10層の多層カーボンナノチューブである。各カーボンナノチューブは、4層以下または11層以上の多層カーボンナノチューブであってもよく、単層カーボンナノチューブであってもよい。
カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度は、例えば、10mg/cm3~60mg/cm3である。好ましくは、カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度は、20mg/cm3~50mg/cm3である。カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度は、単位面積当たりのカーボンナノチューブアレイ91の質量(すなわち、目付量)を、カーボンナノチューブアレイ91の厚さで除算することにより求められる。
図1に示す例では、基板保持部21は、紙面に垂直な方向に延びる回転軸J1を中心とする略円柱状または略円筒状である。回転軸J1は、成形体製造装置1の図示省略のフレーム等に固定されている。基板保持部21は、基板92の裏面922に下方から当接することにより、基板92を保持する。基板92の裏面922は、例えば、基板保持部21の上端部から右端部に亘って、基板保持部21の外側面に当接している。基板92の先端部は、基板保持部21の下方に配置された略円柱状または略円筒状の基板巻き取りロール231に巻回されている。
基板巻き取りロール231は、回転機構232により、図1において紙面に垂直な方向に延びる回転軸J2を中心として図1中の時計回りに回転される。回転軸J2は、上述のフレーム等に固定されている。また、基板保持部21は、基板巻き取りロール231の回転に伴って(例えば、同期して)、図1中の時計回りに回転する。これにより、基板92が基板巻き取りロール231に巻き取られ、基板保持部21の上端部近傍において、基板92が図1中の左側から右側に向かう方向に移動する。なお、成形体製造装置1では、基板巻き取りロール231が省略され、回転機構232により回転される基板保持部21により基板92が巻き取られてもよい。
以下の説明では、基板保持部21の上端部近傍における基板92の移動方向を「基板移動方向」と呼び、図1において符号A1を付す矢印にて示す。基板移動方向A1は、上下方向に略垂直である。また、以下の説明では、上下方向および基板移動方向A1の双方に垂直な方向(すなわち、図2中の上下方向)を「幅方向」と呼ぶ。当該幅方向は、カーボンナノチューブアレイ91の幅方向でもあり、後述する剥離アレイ部93の幅方向でもある。
剥離部材22は、基板保持部21の上端部近傍に配置される。剥離部材22は、上述のフレーム等に固定されている。剥離部材22の側面視における形状は、例えば、略くさび状または略平板状である。図1に示す例では、剥離部材22は、左側の端部の厚さが、右側の端部の厚さよりも小さい略くさび状の部材である。剥離部材22の上面は、例えば、図1中の右側に向かうに従って上方へと向かう傾斜面である。
剥離部材22の左側の端部(すなわち、エッジ部)は、基板保持部21の上端の上方において、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部(すなわち、基板92上に立設しているカーボンナノチューブアレイ91の下端部)に当接する。剥離部材22の幅方向の幅は、カーボンナノチューブアレイ91の幅方向の幅よりも大きい。剥離部材22は、カーボンナノチューブアレイ91の全幅に亘って、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部に当接する。なお、剥離部材22は、カーボンナノチューブアレイ91の幅方向の一部においてのみ、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部に当接してもよい。
基板保持部21の上端部近傍では、移動機構23により基板92が基板移動方向A1に移動することにより、カーボンナノチューブアレイ91のうち剥離部材22のエッジ部に当接した部位が、基板92の表面921から剥離される。カーボンナノチューブアレイ91のうち、基板92上から剥離した部位を、「剥離アレイ部93」と呼ぶ。図2では、カーボンナノチューブアレイ91および剥離アレイ部93に平行斜線を付す。なお、カーボンナノチューブアレイ91の剥離の際には、必ずしも基板92が移動する必要はなく、固定されている基板92の表面921に沿って剥離部材22が移動してもよい。換言すれば、剥離部材22が基板92に対して相対的に移動することにより、カーボンナノチューブアレイ91が基板92から剥離される。
基板92から剥離された剥離アレイ部93は、移動機構23による基板92の移動に伴って、剥離部材22の上面に沿って図1中の右側(すなわち、基板保持部21の上端部から離れる方向)へと移動し、剥離部材22に隣接して配置されるガイド部24へと至る。ガイド部24は、図1中における基板保持部21の右斜め上に位置している。ガイド部24は、剥離アレイ部93の下側に配置され、剥離アレイ部93の下面に接触する。
以下の説明では、剥離部材22上からガイド部24へと至る剥離アレイ部93の移動方向を、「剥離部移動方向A2」と呼ぶ。剥離部移動方向A2は、側面視において、基板移動方向A1から上側(すなわち、剥離アレイ部93の上面側)に向かって傾斜している。剥離部移動方向A2と基板移動方向A1との成す角度は、例えば、5度~10度である。剥離部移動方向A2は、上下方向に対しても傾斜している。また、剥離部移動方向A2は、幅方向に対して垂直である。基板92から剥離された直後の剥離アレイ部93の移動方向を「剥離方向」と呼ぶと、図1に示す例では、剥離方向は剥離部移動方向A2と同じである。
ガイド部24は、幅方向に延びる回転軸J3を中心とする略円柱状または略円筒状の部材である。ガイド部24は、回転軸J3を中心として図1中の時計回りに回転する。回転軸J3は、上述のフレーム等に固定されている。図2に示す例では、ガイド部24は略鼓状の部材である。換言すれば、ガイド部24の直径は、幅方向の両端部から中央部に向かうに従って漸次減少する。
ガイド部24の上端部に到達した剥離アレイ部93は、引出機構26により所定の引出方向A3へと引き出される。これにより、剥離アレイ部93の幅方向および引出方向A3に広がるカーボンナノチューブシート94が形成される。図2に示す例では、カーボンナノチューブシート94は、略矩形状の部位の引出方向A3前側に略三角形状の部位が連続した形状である。カーボンナノチューブシート94の形状は様々に変更されてよく、例えば、ガイド部24から引出方向A3に離れるに従って幅方向の幅が漸次減少する略三角形状であってもよい。カーボンナノチューブシート94は、幅方向の幅に比べて引出方向A3の長さが非常に小さい扁平な略三角形状であってもよい。
カーボンナノチューブシート94は、複数のカーボンナノチューブにより形成されたシート状のカーボンナノチューブ成形体である。詳細には、カーボンナノチューブシート94は、剥離アレイ部93から引出方向A3に引き出された複数のカーボンナノチューブ単糸が、幅方向に配列されるとともに互いに連結されてシート状成形体(網目状成形体とも捉えられる。)となったものである。カーボンナノチューブ単糸とは、ファンデンワールス力等により、複数のカーボンナノチューブが長手方向に連続して接続された線状のカーボンナノチューブ成形体である。
引出方向A3は、側面視において、剥離部移動方向A2から下側(すなわち、剥離アレイ部93の下面側)に向かって傾斜している。換言すれば、引出方向A3は、剥離アレイ部93の上面を含む仮想面(すなわち、剥離部移動方向A2および幅方向に平行な仮想面)から下側に向かって傾斜している。成形体製造装置1では、ガイド部24は、剥離アレイ部93の移動方向を制限して、剥離アレイ部93を剥離部移動方向A2に対して傾斜する引出方向A3へと導く構造である。引出方向A3と剥離部移動方向A2との成す角度αの絶対値は、例えば、0度よりも大きく、かつ、45度以下である。角度αの絶対値は、好ましくは30度以下であり、より好ましくは20度以下である。図1に示す例では、引出方向A3は、幅方向に対して垂直である。また、図1に示す例では、引出方向A3は、基板移動方向A1に略平行である。
剥離アレイ部93から引き出されたカーボンナノチューブシート94は、ワイヤ形成部25を通過する。ワイヤ形成部25では、カーボンナノチューブシート94が幅方向において集められることにより、カーボンナノチューブワイヤ95が形成される。カーボンナノチューブワイヤ95は、複数のカーボンナノチューブにより形成された線状のカーボンナノチューブ成形体である。ワイヤ形成部25では、カーボンナノチューブシート94が幅方向の中央部に向かって集められ、多数のカーボンナノチューブが幅方向において密着する。
図1に示す例では、ワイヤ形成部25は、幅方向に集められたカーボンナノチューブシート94の複数のカーボンナノチューブ単糸を撚ることによりカーボンナノチューブワイヤ95を形成する撚り機である。すなわち、ワイヤ形成部25通過前の略線状に集められたカーボンナノチューブ成形体が、ワイヤ形成部25によって撚られることにより、カーボンナノチューブ撚糸であるカーボンナノチューブワイヤ95が形成される。換言すれば、カーボンナノチューブシート94は、カーボンナノチューブワイヤ95の前駆体である。
ワイヤ形成部25を通過後のカーボンナノチューブワイヤ95は、引出機構26において、回転機構262により回転される成形体巻き取りロール261に巻き取られる。成形体巻き取りロール261は、ワイヤ形成部25の右側に配置される略円柱状または略円筒状の部材である。成形体巻き取りロール261は、幅方向に延びる回転軸J4を中心として図1中の時計回りに回転される。回転軸J4は、上述のフレーム等に固定されている。
成形体巻き取りロール261により巻き取られたカーボンナノチューブワイヤ95は、成形体巻き取りロール261から伸張機構27へと送出され(すなわち、巻き出され)、回転機構272により回転されるワイヤ巻き取りロール271に巻き取られる。ワイヤ巻き取りロール271は、引出機構26の成形体巻き取りロール261の下側に配置される略円柱状または略円筒状の部材である。ワイヤ巻き取りロール271は、例えば、幅方向に延びる回転軸J5を中心として、回転機構272により図1中の時計回りに回転される。回転軸J5は、上述のフレーム等に固定されている。張力センサ273は、成形体巻き取りロール261とワイヤ巻き取りロール271との間におけるカーボンナノチューブワイヤ95の張力を測定する。
回転機構272によるワイヤ巻き取りロール271の回転速度は、回転機構262による成形体巻き取りロール261の回転速度とは独立して、制御部61により制御される。換言すれば、制御部61は、引出機構26の回転機構262と、伸張機構27の回転機構272とを個別に制御する。制御部61による回転機構262,272の制御は、例えば、張力センサ273により継続的に測定されるカーボンナノチューブワイヤ95の張力に基づいて行われる。
成形体製造装置1では、制御部61による制御により、ワイヤ巻き取りロール271によるカーボンナノチューブワイヤ95の巻き取り速度が、成形体巻き取りロール261からのカーボンナノチューブワイヤ95の送出速度(すなわち、成形体巻き取りロール261によるカーボンナノチューブワイヤ95の巻き取り速度)よりも大きい。このため、成形体巻き取りロール261とワイヤ巻き取りロール271との間で、カーボンナノチューブワイヤ95が長手方向に伸張される。
これにより、カーボンナノチューブ撚糸であるカーボンナノチューブワイヤ95が絞られ、カーボンナノチューブワイヤ95の内部の空隙が縮小される。カーボンナノチューブワイヤ95を構成する複数のカーボンナノチューブは、ファンデンワールス力により上記空隙が縮小された状態で維持される。その結果、カーボンナノチューブワイヤ95の密度が増大する。また、カーボンナノチューブワイヤ95の長手方向において不均一に存在する上記空隙が縮小されることにより、長手方向におけるカーボンナノチューブワイヤ95の密度および直径等の均一性も向上する。カーボンナノチューブワイヤ95が伸張されることにより、カーボンナノチューブワイヤ95の撚角は減少する。
以下の説明では、カーボンナノチューブワイヤ95のうち、ワイヤ形成部25と成形体巻き取りロール261との間の部位、および、成形体巻き取りロール261に巻回されている部位を、「初期カーボンナノチューブワイヤ95a」と呼ぶ。また、カーボンナノチューブワイヤ95のうち、成形体巻き取りロール261とワイヤ巻き取りロール271との間の部位、および、ワイヤ巻き取りロール271に巻回されている部位を、「高密度カーボンナノチューブワイヤ95b」と呼ぶ。換言すれば、伸張機構27による伸張前のカーボンナノチューブワイヤ95が初期カーボンナノチューブワイヤ95aであり、伸張機構27による伸張後のカーボンナノチューブワイヤ95が高密度カーボンナノチューブワイヤ95bである。
上述のように、伸張機構27は、引出機構26から送出された初期カーボンナノチューブワイヤ95aを長手方向に伸張することにより、初期カーボンナノチューブワイヤ95aよりも密度が高い高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを形成する。また、引出機構26は、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを伸張機構27へと送出する送出部である。
高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの密度は、例えば、0.1g/cm3以上かつ2.0g/cm3以下である。好ましくは、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの密度は、0.6g/cm3以上かつ1.6g/cm3以下であり、さらに好ましくは、1.2g/cm3以上かつ1.6g/cm3以下である。高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを形成する際の初期カーボンナノチューブワイヤ95aからの伸び率は、例えば、1%以上かつ15%以下である。好ましくは、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを形成する際の初期カーボンナノチューブワイヤ95aからの伸び率は、3%以上かつ10%以下である。
図3は、初期カーボンナノチューブワイヤ95aおよび高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの一例について、伸び率、直径、密度、引張強度および電気抵抗率を示す図である。図3に示す例では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの伸び率(すなわち、初期カーボンナノチューブワイヤ95aからの伸び率)は、5%である。高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの直径は、初期カーボンナノチューブワイヤ95aの直径の約70%である。高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの密度および引張強度はそれぞれ、初期カーボンナノチューブワイヤ95aの密度および引張強度の約2倍である。また、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの電気抵抗率は、初期カーボンナノチューブワイヤ95aの抵抗率の約半分である。
図4は、図3に例示した初期カーボンナノチューブワイヤ95aおよび高密度カーボンナノチューブワイヤ95bについて、引張試験により得られた応力歪み曲線を示す図である。図4中の縦軸および横軸はそれぞれ、引張試験の引張強度、および、初期カーボンナノチューブワイヤ95aおよび高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの伸び率(すなわち、引張試験開始前の状態からの伸び率)を示す。図4に示す例では、初期カーボンナノチューブワイヤ95aの破断伸び率は、約10%である。
図5は、成形体製造装置1によるカーボンナノチューブワイヤ95の製造の流れを示す図である。成形体製造装置1では、まず、複数のカーボンナノチューブが線状に撚られた初期カーボンナノチューブワイヤ95aが準備される(ステップS11)。そして、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを長手方向に伸張することにより、初期カーボンナノチューブワイヤ95aよりも密度が高い高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成される(ステップS12)。これにより、上述のように、長手方向におけるカーボンナノチューブワイヤ95の密度および直径等の均一性を向上させることができるとともに、カーボンナノチューブワイヤ95の密度を増大させることもできる。その結果、カーボンナノチューブワイヤ95の破断荷重および引張強度を増大させることができる。
上記ステップS11~S12を行うために、図1に例示する成形体製造装置1は、上述の引出機構26と、伸張機構27とを備える。引出機構26は初期カーボンナノチューブワイヤ95aを長手方向に送出する送出部である。伸張機構27は、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを長手方向に伸張することにより、初期カーボンナノチューブワイヤ95aよりも密度が高い高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを形成する。
成形体製造装置1では、ステップS12における初期カーボンナノチューブワイヤ95aの伸張時の荷重が一定に維持される。これにより、長手方向における高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの密度および直径等の均一性を、さらに向上させることができる。図1に例示する成形体製造装置1では、当該荷重の維持は、制御部61による引出機構26および伸張機構27の制御により実現される。具体的には、張力センサ273により継続的に測定される高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの張力が制御部61へと送られ、当該張力の測定値が一定となるように、制御部61により回転機構262および回転機構272の回転速度またはトルク等が制御される。上述の荷重の維持は、他の構造により実現されてもよい。
上述のように、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの密度は、好ましくは0.2g/cm3以上かつ1.6g/cm3以下である。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを様々な用途に好適に利用することができる。
成形体製造装置1では、上述の初期カーボンナノチューブワイヤ95aの準備(ステップS11)が、図6に示すステップS21~S24により行われる。成形体製造装置1では、まず、基板92上に立設したカーボンナノチューブの集合であるカーボンナノチューブアレイ91が準備される(ステップS21)。続いて、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部に剥離部材22を当接させた状態で、剥離部材22を基板92に対して相対的に移動することにより、カーボンナノチューブアレイ91を基板92上から剥離させる。そして、カーボンナノチューブアレイ91のうち基板92上から剥離した部位である剥離アレイ部93を、剥離部材22に対して所定の剥離部移動方向A2に相対的に移動させる(ステップS22)。次に、剥離アレイ部93を引出方向A3へと引き出すことにより、剥離アレイ部93の幅方向および引出方向A3に広がるカーボンナノチューブシート94が形成される(ステップS23)。その後、カーボンナノチューブシート94が幅方向において集められて撚られることにより、線状の初期カーボンナノチューブワイヤ95aが形成される(ステップS24)。
上述のステップS21~S24が行われることにより、基板92上のカーボンナノチューブアレイ91にピンホールが存在している場合、あるいは、基板92上のカーボンナノチューブアレイ91に異物が含まれている場合等であっても、カーボンナノチューブシート94における部分欠損を抑制することができる。詳細には、剥離アレイ部93に含まれるカーボンナノチューブは、基板92により移動が制限されていないため、剥離アレイ部93に上述のピンホールまたは異物等に起因する空隙が存在する場合、空隙の周囲のカーボンナノチューブが当該空隙を埋めるように移動する。さらに、空隙の剥離部移動方向A2の後側に位置するカーボンナノチューブが、引き出される力に抗して基板92上に残ることが防止される。これにより、剥離アレイ部93から引き出されるカーボンナノチューブシート94において、当該空隙に起因する部分欠損が発生することが抑制される。したがって、初期カーボンナノチューブワイヤ95aの長手方向における密度の均一性を向上することができる。その結果、製造途上における初期カーボンナノチューブワイヤ95aの破損および切断を防止することができる。
また、成形体製造装置1では、引出方向A3が剥離部移動方向A2に対して傾斜する。これにより、成形体製造装置1が剥離部移動方向A2に大型化することを抑制しつつ、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを好適に製造することができる。
図1に示す例では、カーボンナノチューブワイヤ95を伸張する機構が、成形体製造装置1に含まれているが、図7に示すように、当該機構は成形体製造装置1とは別の装置であってもよい。図7に示すカーボンナノチューブワイヤ伸張装置7(以下、単に「伸張装置7」と呼ぶ。)は、送出部71と、伸張機構27とを備える。伸張機構27は、図1に示す成形体製造装置1の伸張機構27と同様の構造を有する。すなわち、伸張機構27は、ワイヤ巻き取りロール271と、回転機構272と、張力センサ273とを備える。
送出部71は、送出ロール711と、回転機構712とを備える。送出ロール711は、ワイヤ巻き取りロール271に隣接して配置される略円柱状または略円筒状の部材である。送出ロール711は、例えば、ワイヤ巻き取りロール271の回転軸J5に平行な回転軸J6を中心として、回転機構712により図7中の時計回りに回転される。回転軸J5,J6は、フレーム72に固定されている。回転機構712は、例えば電動モータである。
送出ロール711には、伸張機構27により伸張される前の初期カーボンナノチューブワイヤ95aが巻回されている。当該初期カーボンナノチューブワイヤ95aは、例えば、図1に示す成形体製造装置1から伸張機構27が省略された装置により形成され、引出機構26の成形体巻き取りロール261により巻き取られた後、送出ロール711に巻回される。
伸張装置7では、上記と同様に、複数のカーボンナノチューブが線状に撚られた初期カーボンナノチューブワイヤ95aが準備される(図5:ステップS11)。そして、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを長手方向に伸張することにより、初期カーボンナノチューブワイヤ95aよりも密度が高い高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成される(ステップS12)。これにより、長手方向におけるカーボンナノチューブワイヤ95の密度および直径等の均一性を向上させることができるとともに、カーボンナノチューブワイヤ95の密度を増大させることもできる。その結果、カーボンナノチューブワイヤ95の破断荷重および引張強度を増大させることができる。
伸張装置7においても、上記と同様に、ステップS12における初期カーボンナノチューブワイヤ95aの伸張時の荷重が一定に維持される。これにより、長手方向における高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの密度および直径等の均一性を、さらに向上させることができる。当該荷重の維持は、例えば、図示省略の制御部による送出部71および伸張機構27の制御により実現される。具体的には、上記と略同様に、張力センサ273により継続的に測定される高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの張力が制御部へと送られ、当該張力の測定値が一定となるように、制御部により回転機構712および回転機構272の回転速度またはトルク等が制御される。上述の荷重の維持は、他の構造により実現されてもよい。
伸張装置7により形成される高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの密度は、上記と同様に、好ましくは0.2g/cm3以上かつ1.6g/cm3以下である。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを様々な用途に好適に利用することができる。
伸張装置7では、カーボンナノチューブワイヤ95の伸張が複数回行われてもよい。例えば、まず、送出ロール711に巻回された初期カーボンナノチューブワイヤ95aを、伸張しつつワイヤ巻き取りロール271にて巻き取る。1回目の伸張では、例えば、カーボンナノチューブの伸び率は、約5%とされる。その後、1回伸張されたカーボンナノチューブワイヤ95を、ワイヤ巻き取りロール271から送出し、伸張しつつ送出ロール711にて巻き取る。このように、1回目の伸張で長手方向における均一性が向上したカーボンナノチューブワイヤ95を、さらに伸張することにより、カーボンナノチューブワイヤ95の伸び率の長手方向における均一性を向上することができる。その結果、カーボンナノチューブワイヤ95の破断を防止しつつ、伸張終了後のカーボンナノチューブワイヤ95(すなわち、高密度カーボンナノチューブワイヤ95b)の伸び率を増大することができる。
次に、図8を参照しつつ、本発明の第2の実施の形態にかかる成形体製造装置1aについて説明する。成形体製造装置1aでは、図1に示す成形体製造装置1の各構成に加えて、カーボンナノチューブワイヤ95の表面を機能性材料膜にて被覆する被覆部8aをさらに備える。図8では、成形体製造装置1aの一部の図示を省略している(図11においても同様)。また、以下の説明では、成形体製造装置1aのうち、図1に示す成形体製造装置1の各構成と対応する構成に同符号を付す。
図8に例示する被覆部8aでは、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対してめっき処理を行うことにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が金属膜(例えば、銅膜)にて被覆される。被覆部8aは、貯溜槽81と、陽極82と、陰極83と、被覆ワイヤ巻き取りロール84と、回転機構85とを備える。貯溜槽81は、めっき液(例えば、硫酸銅水溶液)を貯溜する。陽極82および陰極83は、例えば銅製である。陽極82の下部は、貯溜槽81内のめっき液に浸漬されている。陰極83は、例えば、貯溜槽81の上縁部に配置される略円柱状または略円筒状の部材である。陰極83は、回転軸J5に略平行な回転軸を中心として回転可能である。被覆ワイヤ巻き取りロール84は、貯溜槽81を挟んでワイヤ巻き取りロール271の反対側に配置される略円柱状または略円筒状の部材である。被覆ワイヤ巻き取りロール84は、回転軸J5に略平行な回転軸J7を中心として、回転機構85により図8中の時計回りに回転される。
成形体製造装置1aでは、伸張機構27のワイヤ巻き取りロール271に巻回された高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが、貯溜槽81へと送出される。高密度カーボンナノチューブワイヤ95bは、陰極83に接触した状態で、貯溜槽81内のめっき液中を通過し、被覆ワイヤ巻き取りロール84により巻き取られる。貯溜槽81内では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bは、貯溜槽81の内壁等に固定された棒状部材811の下側を通過する。棒状部材811により、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bのめっき液中における浮上が制限される。
被覆部8aでは、陽極82と陰極83との間で通電されることにより、貯溜槽81内のめっき液中の金属イオンが、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に析出(すなわち、電析)する。換言すれば、被覆部8aにおいて、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対する電解めっき処理が行われる。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が、機能性材料膜の1つである比較的薄い金属膜(例えば、銅膜)により被覆される。以下の説明では、機能性材料膜により表面が被覆された高密度カーボンナノチューブワイヤを、「被覆カーボンナノチューブワイヤ95c」と呼ぶ。
図9に示すように、成形体製造装置1aでは、図5に示すステップS11~S12よりも後に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面を機能性材料膜にて被覆する工程(ステップS13)が行われる。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに様々な性能が付与された被覆カーボンナノチューブワイヤ95cを提供することができる。したがって、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cを様々な用途に利用することができる。
また、図8に示す例では、当該機能性材料膜は金属膜である。そして、ステップS13において、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対してめっき処理が行われることにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が上記金属膜にて被覆される。これにより、カーボンナノチューブワイヤ95の電気抵抗率を低減し、導電性を増大させることができる。例えば、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cの電気抵抗率は、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの電気抵抗率の約1%~10%である。また、カーボンナノチューブワイヤ95の破断荷重を増大させることもできる。
図10は、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cの金属膜の膜厚と、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cの破断荷重との関係を示す図である。図10では、比較例として、金属膜により表面が被覆された初期カーボンナノチューブワイヤ95aについても、上記関係を図示する。図10中の実線97は被覆カーボンナノチューブワイヤ95cの膜厚と破断加重との関係を示し、破線98は比較例の膜厚と破断加重との関係を示す。比較例の場合、表面の金属膜が厚くなったとしても、破断荷重はあまり大きくならず、およそ一定である。これに対し、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cでは、表面の金属膜が厚くなるに従って、破断荷重が漸次増大する。
被覆カーボンナノチューブワイヤ95cの製造では、ステップS12における高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの形成と並行して、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの被覆(ステップS13)が行われてもよい。換言すれば、カーボンナノチューブワイヤ95において高密度化が行われている部位に対して、金属膜の形成が行われてもよい。例えば、図11に示す成形体製造装置1bでは、引出機構26と伸張機構27との間に、被覆部8bが設けられる。被覆部8bは、上述の貯溜槽81と、陽極82と、陰極83とを備える。被覆部8bにおいても、被覆部8aと同様に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対してめっき処理を行うことにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が金属膜(例えば、銅膜)にて被覆される。
成形体製造装置1bでは、引出機構26の成形体巻き取りロール261に巻回された初期カーボンナノチューブワイヤ95aが、貯溜槽81へと送出される。初期カーボンナノチューブワイヤ95aは、陰極83に接触した状態で、貯溜槽81内のめっき液中を通過し、伸張機構27のワイヤ巻き取りロール271により巻き取られる。初期カーボンナノチューブワイヤ95aは、引出機構26と伸張機構27との間において長手方向に伸張され、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成される。貯溜槽81内では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが棒状部材811の下端部に当接する。
被覆部8bでは、陽極82と陰極83との間で通電されることにより、貯溜槽81内のめっき液中の金属イオンが、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に析出(すなわち、電析)する。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が、比較的薄い金属膜(例えば、銅膜)により被覆され、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cが形成される。
成形体製造装置1bでは、図5に示すステップS12と並行して、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面を機能性材料膜にて被覆する工程(図9:ステップS13)が行われる。これにより、上記と同様に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに様々な性能が付与された被覆カーボンナノチューブワイヤ95cを提供することができる。また、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを伸張する機構と、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cを巻き取る機構とを、伸張機構27により兼用させることができるため、成形体製造装置1bの構造を簡素化することができる。
上記機能性材料膜は金属膜である。そして、ステップS13において、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対してめっき処理が行われることにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が上記金属膜にて被覆される。これにより、カーボンナノチューブワイヤ95の電気抵抗率を低減し、導電性を増大させることができる。また、カーボンナノチューブワイヤ95の破断荷重を増大させることもできる。
図8に示す例では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に金属を被覆する構成が、成形体製造装置1aに含まれているが、当該構成は、図12に示す伸張装置7aに設けられてもよい。伸張装置7aは、被覆部8aをさらに備える点を除き、図7に示す伸張装置7と略同様の構造を有する。伸張装置7aでは、送出部71と伸張機構27との間にて初期カーボンナノチューブワイヤ95aが伸張されることにより高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成される。そして、当該高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが、被覆部8aの貯溜槽81内を通過する際に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対してめっき処理が行われることにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が金属膜にて被覆され、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cが形成される。
図11に示す例では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に金属を被覆する構成が、成形体製造装置1bに含まれているが、当該構成は、図13に示す伸張装置7bに設けられてもよい。伸張装置7bは、被覆部8bをさらに備える点を除き、図7に示す伸張装置7と略同様の構造を有する。伸張装置7bでは、送出部71と伸張機構27との間にて初期カーボンナノチューブワイヤ95aが伸張されることにより高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成されるとともに、当該高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが、被覆部8bの貯溜槽81内を通過する際に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対してめっき処理が行われる。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が金属膜にて被覆され、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cが形成される。
伸張装置7a,7bでは、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの巻き取り方向を変更することにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対するめっき処理が、複数回行われてもよい。この場合、1回毎のめっき処理時間を短くすることができるため、電解めっき処理の際の通電による高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの温度上昇を抑制し、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの焼け等の損傷を防止することができる。また、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に形成される金属膜の膜厚を精度良く調節することができる。
次に、図14を参照しつつ、本発明の第3の実施の形態にかかる成形体製造装置1cについて説明する。成形体製造装置1cでは、図8に示す成形体製造装置1aの被覆部8aに代えて、被覆部8aとは構造が異なる被覆部8cが設けられる。被覆部8cは、カーボンナノチューブワイヤ95の表面を機能性材料膜にて被覆する。被覆部8cは、処理部86と、上述の被覆ワイヤ巻き取りロール84および回転機構85とを備える。図14では、成形体製造装置1cの一部の図示を省略している(図15においても同様)。また、以下の説明では、成形体製造装置1cのうち、図8に示す成形体製造装置1aの各構成と対応する構成に同符号を付す。
図14に例示する被覆部8cでは、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が絶縁性材料膜により被覆されることにより、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cが形成される。これにより、表面の絶縁性および内部の導電性を利用した被覆カーボンナノチューブワイヤ95cの用途をさらに広げることができる。例えば、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cは、電動モータのコイル等に利用することができる。
被覆部8cの処理部86では、例えば、化成処理、表面重合法または表面析出法等により、絶縁性材料膜が高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に形成される。絶縁性材料としては、例えば、ポリイミド等の高分子樹脂、または、シリカ等のセラミックスが利用される。処理部86を通過した被覆カーボンナノチューブワイヤ95cは、回転機構85により回転される被覆ワイヤ巻き取りロール84により巻き取られる。
図15に例示する成形体製造装置1dでは、ステップS12における高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの形成と並行して、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの被覆(ステップS13)が行われる。換言すれば、カーボンナノチューブワイヤ95において高密度化が行われている部位に対して、絶縁性材料膜の形成が行われる。成形体製造装置1dでは、上述の被覆部8cに代えて、引出機構26と伸張機構27との間に被覆部8dが設けられる。被覆部8dは、上述の処理部86を備える。被覆部8dにおいても、被覆部8cと同様に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が絶縁性材料膜により被覆される。
成形体製造装置1dでは、引出機構26の成形体巻き取りロール261に巻回された初期カーボンナノチューブワイヤ95aが、伸張機構27により伸張されつつ処理部86へと導かれる。そして、処理部86を通過することにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に絶縁材料膜が形成された被覆カーボンナノチューブワイヤ95cが形成され、伸張機構27のワイヤ巻き取りロール271により巻き取られる。
成形体製造装置1dでは、図5に示すステップS12と並行して、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面を機能性材料膜にて被覆する工程(図9:ステップS13)が行われる。これにより、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを伸張する機構と、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cを巻き取る機構とを、伸張機構27により兼用させることができる。その結果、成形体製造装置1dの構造を簡素化することができる。
図14に示す例では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に絶縁性材料を被覆する構成が、成形体製造装置1cに含まれているが、当該構成は、図16に示す伸張装置7cに設けられてもよい。伸張装置7cは、被覆部8cをさらに備える点を除き、図7に示す伸張装置7と略同様の構造を有する。伸張装置7cでは、送出部71と伸張機構27との間にて初期カーボンナノチューブワイヤ95aが伸張されることにより高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成される。そして、当該高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが、被覆部8cの処理部86を通過する際に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が絶縁性材料膜にて被覆され、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cが形成される。
図15に示す例では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に絶縁性材料を被覆する構成が、成形体製造装置1cに含まれているが、当該構成は、図17に示す伸張装置7dに設けられてもよい。伸張装置7dは、被覆部8dをさらに備える点を除き、図7に示す伸張装置7と略同様の構造を有する。伸張装置7dでは、送出部71と伸張機構27との間にて初期カーボンナノチューブワイヤ95aが伸張されることにより高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成されるとともに、当該高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが、被覆部8dの処理部86を通過する際に、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が絶縁性材料膜にて被覆され、被覆カーボンナノチューブワイヤ95cが形成される。
伸張装置7c,7dでは、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの巻き取り方向を変更することにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対する絶縁性材料の被覆処理が、複数回行われてもよい。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に形成される絶縁性材料膜の膜厚を精度良く調節することができる。
図18および図19は、実施例1~4の高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの直径と密度との関係を示す図である。図18および図19では、初期カーボンナノチューブワイヤ95aについても併せて示す。図19では、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを丸印にて示し、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを三角印で示す。実施例1~4では、まず、CVD法により、基板92上においてカーボンナノチューブを成長させてカーボンナノチューブアレイ91を立設させた。続いて、カーボンナノチューブシート94をカーボンナノチューブアレイ91から引き出して形成した。次に、カーボンナノチューブシート94を幅方向に集めて撚ることにより、線状の初期カーボンナノチューブワイヤ95aを形成した。その後、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを長手方向に伸張することにより、初期カーボンナノチューブワイヤ95aよりも密度が高い高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを形成した。図18および図19から、初期カーボンナノチューブワイヤ95aを長手方向に伸張することにより、カーボンナノチューブワイヤの密度が高くなっていることが確認できる。
上述のカーボンナノチューブ成形体の製造方法、成形体製造装置1,1a~1d、および、伸張装置7,7a~7dでは、様々な変更が可能である。
例えば、成形体製造装置1では、伸張機構27により伸張されたカーボンナノチューブワイヤ95(すなわち、高密度カーボンナノチューブワイヤ95b)を加熱する加熱部が設けられてもよい。これにより、伸張により生じた高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの残留応力を除去することができる。また、成形体製造装置1では、ステップS12における初期カーボンナノチューブワイヤ95aの伸張時の荷重は、必ずしも一定に維持される必要はない。成形体製造装置1a~1dにおいても同様である。
例えば、成形体製造装置1aにおいて、被覆部8aの貯溜槽81と被覆ワイヤ巻き取りロール84との間に、被覆部8cの処理部86が設けられてもよい。あるいは、成形体製造装置1bにおいて、貯溜槽81とワイヤ巻き取りロール271との間に処理部86が設けられてもよい。これにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に金属被膜が形成され、さらに、当該金属被膜の表面に絶縁性材料膜が形成される。その結果、表面が絶縁性を有し、かつ、電気抵抗率が低い被覆カーボンナノチューブワイヤ95cを提供することができる。
被覆部8a,8bでは、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対する電解めっき処理が行われるが、例えば、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対して無電解めっき処理が行われることにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面が金属膜により被覆されてもよい。被覆部8a,8bにおいて高密度カーボンナノチューブワイヤ95bの表面に被覆される金属は、銅以外の様々な金属(例えば、銀)であってよい。
被覆部8a,8bでは、貯溜槽81内のめっき液中を通過する高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対してめっき処理が行われるが、例えば、貯溜槽81内のめっき液中に高密度カーボンナノチューブワイヤ95bを静止状態で浸漬することにより、高密度カーボンナノチューブワイヤ95bに対するめっき処理が行われてもよい。また、初期カーボンナノチューブワイヤ95aに対してめっき処理が行われた後に伸長工程が行われることにより、表面がめっきされた高密度カーボンナノチューブワイヤ95bが形成されてもよい。
上述の機能性材料膜は、金属膜または絶縁性材料膜には限定されず、様々な機能を有する他の材料により形成された膜であってよい。
成形体製造装置1では、引出方向A3は、側面視において、剥離部移動方向A2から上側(すなわち、剥離アレイ部93の上面側)に向かって傾斜していてもよい。換言すれば、引出方向A3は、剥離アレイ部93の下面を含む仮想面(すなわち、剥離部移動方向A2および幅方向に平行な仮想面)から上側に向かって傾斜していてもよい。あるいは、引出方向A3は剥離部移動方向A2と平行であってもよい。成形体製造装置1a~1dにおいても同様である。
成形体製造装置1では、剥離部材22が省略され、カーボンナノチューブアレイ91が基板92上から剥離される工程が行われなくてもよい。この場合、基板92上に立設するカーボンナノチューブアレイ91から、カーボンナノチューブ成形体が直接的に引き出される。成形体製造装置1a~1dにおいても同様である。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。