図1は、本発明の第1の実施の形態に係るカーボンナノチューブ成形体製造装置1(以下、単に「成形体製造装置1」とも呼ぶ。)を示す側面図である。図2は、成形体製造装置1を示す平面図である。図1および図2に示す例では、成形体製造装置1は、複数のカーボンナノチューブ(CNT)により形成されるシート状(いわゆる、ウェブ状)のカーボンナノチューブシート、および、線状(いわゆる、糸状)のカーボンナノチューブワイヤを、カーボンナノチューブ成形体として製造する。以下の説明では、図1中における上側および下側を、単に「上側」および「下側」と呼ぶ。図1中の上下方向は、必ずしも重力方向と一致しなくてもよい。
成形体製造装置1は、基板保持部21と、剥離部材22と、移動機構23と、ガイド部24と、ワイヤ形成部25と、引出機構26と、吸着部61とを備える。図2では、図の理解を容易にするために、吸着部61については、その輪郭のみを二点鎖線にて図示している。移動機構23は、基板巻き取りロール231と、回転機構232とを備える。引出機構26は、成形体巻き取りロール261と、回転機構262とを備える。回転機構232,262はそれぞれ、例えば電動モータである。
基板保持部21は、多数のカーボンナノチューブの集合であるカーボンナノチューブアレイ91が立設した基板92を保持する。基板92は、例えば、可撓性を有する長尺の薄板状部材である。基板92は、例えば、シリコン基板、または、表面に二酸化ケイ素膜等が設けられたステンレス鋼製の基板である。カーボンナノチューブアレイ91は、例えば、化学気相成長法(すなわち、CVD法)により、基板92の表面921に対して略垂直に配向する多数のカーボンナノチューブを基板92上に成長させることにより形成される。カーボンナノチューブアレイ91の形成は、他の様々な方法により行われてもよい。
カーボンナノチューブアレイ91の厚さ(すなわち、カーボンナノチューブアレイ91に含まれるカーボンナノチューブの上下方向における長さ)は、例えば、50μm〜1000μmである。本実施の形態では、カーボンナノチューブアレイ91の厚さは、50μm〜500μmである。カーボンナノチューブアレイ91の厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製)または非接触膜厚計(株式会社キーエンス製)により測定される。
カーボンナノチューブアレイ91では、例えば、1cm2当たりに109本〜1011本のカーボンナノチューブが存在する。隣接するカーボンナノチューブ間の距離は、例えば、100nm〜200nmである。各カーボンナノチューブの外径は、例えば、10nm〜30nmである。各カーボンナノチューブは、例えば、5層〜10層の多層カーボンナノチューブである。各カーボンナノチューブは、4層以下または11層以上の多層カーボンナノチューブであってもよく、単層カーボンナノチューブであってもよい。
カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度は、例えば、10mg/cm3〜60mg/cm3である。好ましくは、カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度は、20mg/cm3〜50mg/cm3である。カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度は、単位面積当たりのカーボンナノチューブアレイ91の質量(すなわち、目付量)を、カーボンナノチューブアレイ91の厚さで除算することにより求められる。
図3は、カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度と、カーボンナノチューブアレイ91の厚さとの関係を示す図である。図3中の丸印は、後述するステップS15において、カーボンナノチューブワイヤが特に好適に形成可能であったカーボンナノチューブアレイ91の条件である。カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度をD(mg/cm3)とし、カーボンナノチューブアレイ91の厚さをL(μm)とすると、D≧300×L−0.5であることが好ましい。図3中の曲線は、D=300×L−0.5を示す。
図1に示す例では、基板保持部21は、紙面に垂直な方向に延びる回転軸J1を中心とする略円柱状または略円筒状である。回転軸J1は、成形体製造装置1の図示省略のフレーム等に固定されている。基板保持部21は、基板92の裏面922に下方から当接することにより、基板92を保持する。基板92の裏面922は、例えば、基板保持部21の上端部から右端部に亘って、基板保持部21の外側面に当接している。基板92の先端部は、基板保持部21の下方に配置された略円柱状または略円筒状の基板巻き取りロール231に巻回されている。
基板巻き取りロール231は、回転機構232により、図1において紙面に垂直な方向に延びる回転軸J2を中心として図1中の時計回りに回転される。回転軸J2は、上述のフレーム等に固定されている。また、基板保持部21は、基板巻き取りロール231の回転に伴って(例えば、同期して)、図1中の時計回りに回転する。これにより、基板92が基板巻き取りロール231に巻き取られ、基板保持部21の上端部近傍において、基板92が図1中の左側から右側に向かう方向に移動する。なお、成形体製造装置1では、基板巻き取りロール231が省略され、回転機構232により回転される基板保持部21により基板92が巻き取られてもよい。
以下の説明では、基板保持部21の上端部近傍における基板92の移動方向を「基板移動方向」と呼び、図1において符号A1を付す矢印にて示す。基板移動方向A1は、上下方向に略垂直である。また、以下の説明では、上下方向および基板移動方向A1の双方に垂直な方向(すなわち、図1中の紙面に垂直な方向であり、図2中の上下方向)を「幅方向」と呼ぶ。当該幅方向は、カーボンナノチューブアレイ91の幅方向でもあり、後述する剥離アレイ部93の幅方向でもある。
剥離部材22は、基板保持部21の上端部近傍に配置される。剥離部材22は、上述のフレーム等に固定されている。剥離部材22の側面視における形状は、例えば、略くさび状または略平板状である。図1に示す例では、剥離部材22は、左側の端部の厚さが、右側の端部の厚さよりも小さい略くさび状の部材である。剥離部材22の上面は、例えば、図1中の右側に向かうに従って上方へと向かう傾斜面である。
剥離部材22の左側の端部(すなわち、エッジ部)は、基板保持部21の上端の上方において、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部(すなわち、基板92上に立設しているカーボンナノチューブアレイ91の下端部)に当接する。剥離部材22の幅方向の幅は、カーボンナノチューブアレイ91の幅方向の幅よりも大きい。剥離部材22は、カーボンナノチューブアレイ91の全幅に亘って、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部に当接する。なお、剥離部材22は、カーボンナノチューブアレイ91の幅方向の一部においてのみ、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部に当接してもよい。
基板保持部21の上端部近傍では、移動機構23により基板92が基板移動方向A1に移動することにより、カーボンナノチューブアレイ91のうち剥離部材22のエッジ部に当接した部位が、基板92の表面921から剥離される。すなわち、剥離部材22および移動機構23は、カーボンナノチューブアレイ91を基板92上から剥離させる剥離機構20に含まれる。カーボンナノチューブアレイ91のうち、基板92上から剥離した部位を、「剥離アレイ部93」と呼ぶ。図2では、カーボンナノチューブアレイ91および剥離アレイ部93に平行斜線を付す。なお、カーボンナノチューブアレイ91の剥離の際には、必ずしも基板92が移動する必要はなく、後述するように、固定されている基板92の表面921に沿って剥離部材22が移動してもよい。換言すれば、剥離部材22が基板92に対して相対的に移動することにより、カーボンナノチューブアレイ91が基板92から剥離される。
基板92から剥離された剥離アレイ部93は、移動機構23による基板92の移動に伴って、剥離部材22の上面に沿って図1中の右側(すなわち、基板保持部21の上端部から離れる方向)へと移動し、剥離部材22に隣接して配置されるガイド部24へと至る。ガイド部24は、図1中における基板保持部21の右斜め上に位置している。ガイド部24は、剥離アレイ部93の移動経路に沿う位置において剥離アレイ部93の下側に配置され、剥離アレイ部93の下面に接触する。ガイド部24の上方には、吸着部61が僅かな隙間を空けて隣接して配置されている。吸着部61は、ガイド部24上に位置する剥離アレイ部93の上面に接触し、剥離アレイ部93を静電吸着する。換言すれば、吸着部61は、剥離アレイ部93の移動経路に沿う位置において、剥離アレイ部93を挟んでガイド部24と上下方向に対向して配置され、移動中の剥離アレイ部93を静電吸着する。
以下の説明では、剥離部材22上からガイド部24へと至る剥離アレイ部93の移動方向を、「剥離部移動方向A2」と呼ぶ。剥離部移動方向A2は、側面視において、基板移動方向A1から上側(すなわち、剥離アレイ部93の上面側)に向かって傾斜している。剥離部移動方向A2と基板移動方向A1との成す角度は、例えば、5度〜10度である。剥離部移動方向A2は、上下方向に対しても傾斜している。また、剥離部移動方向A2は、幅方向に対して垂直である。基板92から剥離された直後の剥離アレイ部93の移動方向を「剥離方向」と呼ぶと、図1に示す例では、剥離方向は剥離部移動方向A2と同じである。
図4は、ガイド部24および吸着部61を図1中の右側から見た正面図である。図4では、ガイド部24と吸着部61との上下方向の間に位置する剥離アレイ部93も併せて図示する。ガイド部24は、幅方向に延びる回転軸J3を中心とする略円柱状または略円筒状の部材である。ガイド部24は、図示省略のモータ等の駆動源により、回転軸J3を中心として図1中の時計回りに回転する。回転軸J3は、上述のフレーム等に固定されている。ガイド部24の外側面は、剥離アレイ部93の下面に接して剥離アレイ部93をガイドするガイド面241である。図4に示す例では、ガイド部24は略鼓状の部材である。換言すれば、ガイド部24の直径は、幅方向の両端部から中央部に向かうに従って漸次減少する。ガイド面241は、幅方向に延びる曲面である。具体的には、ガイド面241は、幅方向の中央部において幅方向の両端部よりも凹む凹面である。
吸着部61は、幅方向に延びる回転軸J6を中心とする略円柱状または略円筒状の部材である。吸着部61は、図示省略のモータ等の駆動源により、回転軸J6を中心として図1中の反時計回りに回転する。回転軸J6は、上述のフレーム等に固定されている。吸着部61は、絶縁体により形成された略円柱状または略円筒状の吸着部本体612と、当該吸着部本体612の内部において略円筒状に配置された電極613とを備える静電吸着ロールである。
吸着部61の外側面(すなわち、吸着部本体612の外側面)は、剥離アレイ部93の上面に接して剥離アレイ部93をガイドするとともに静電吸着する吸着面611である。図4に示す例では、吸着部61は略樽状の部材である。換言すれば、吸着部61の直径は、幅方向の両端部から中央部に向かうに従って漸次増大する。吸着面611は、幅方向に延びる曲面である。具体的には、吸着面611は、幅方向の中央部において幅方向の両端部よりも凸となる凸面である。吸着面611は、ガイド部24と上下方向に対向する位置において、ガイド面241と略平行である。換言すれば、吸着部61とガイド部24とが上下方向に対向する位置において、吸着面611とガイド面241との間の間隙は、幅方向の全長において略同じである。なお、吸着面611およびガイド面241は、必ずしも凸面および凹面である必要はなく、例えば、回転軸J6,J3を中心とする略円筒面であってもよい。
吸着部61では、上述の吸着部本体612内の電極613に電圧が印加されることにより、当該電極613と、吸着対象物である剥離アレイ部93との間にクーロン力が発生する。そして、当該クーロン力により、剥離アレイ部93のうち吸着部61とガイド部24との間に位置する部位(すなわち、剥離アレイ部93の先端部)が、吸着部61の吸着面611に静電吸着される。剥離アレイ部93は、吸着部61により静電吸着された状態で、剥離部移動方向A2から引出方向A3へと導かれる。
吸着部61による剥離アレイ部93の吸着力は、後述する剥離アレイ部93からのカーボンナノチューブシート94の引き出しを阻害しない範囲で適宜設定される。当該吸着力(すなわち、把持力)は、例えば、0.1mg/cm2〜10mg/cm2であり、好ましくは、0.5mg/cm2〜5mg/cm2である。
吸着部61では、電極613は、吸着部本体612の内部において、吸着部本体612から独立して設けられてもよい。この場合、電極613は、例えば幅方向に延びる棒状であり、吸着部本体612の回転・停止に関わらず、吸着部本体612の下端部近傍に配置される。そして、電極613に電圧が印加されることにより、吸着部本体612の下端部と接触する剥離アレイ部93の上面が、吸着部61に静電吸着される。
ガイド部24の上端部に到達して吸着部61により静電吸着された剥離アレイ部93は、引出機構26により所定の引出方向A3へと引き出される。これにより、剥離アレイ部93の引出方向A3に延びるカーボンナノチューブシート94が形成される。カーボンナノチューブシート94は、剥離アレイ部93の幅方向に広がっている。図2に示す例では、カーボンナノチューブシート94は、略矩形状の部位の引出方向A3前側に略三角形状の部位が連続した形状である。カーボンナノチューブシート94の形状は様々に変更されてよく、例えば、ガイド部24から引出方向A3に離れるに従って幅方向の幅が漸次減少する略三角形状であってもよい。カーボンナノチューブシート94は、幅方向の幅に比べて引出方向A3の長さが非常に小さい扁平な略三角形状であってもよい。
カーボンナノチューブシート94は、複数のカーボンナノチューブにより形成されたシート状のカーボンナノチューブ成形体である。詳細には、カーボンナノチューブシート94は、剥離アレイ部93から引出方向A3に引き出された複数のカーボンナノチューブ単糸が、幅方向に配列されるとともに互いに連結されてシート状成形体(網目状成形体とも捉えられる。)となったものである。カーボンナノチューブ単糸とは、ファンデンワールス力等により、複数のカーボンナノチューブが長手方向に連続して接続された線状のカーボンナノチューブ成形体である。
上述の引出方向A3は、側面視において、剥離部移動方向A2から下側(すなわち、剥離アレイ部93の下面側)に向かって傾斜している。換言すれば、引出方向A3は、剥離アレイ部93の上面を含む仮想面(すなわち、剥離部移動方向A2および幅方向に平行な仮想面)から下側に向かって傾斜している。成形体製造装置1では、ガイド部24は、剥離アレイ部93の移動方向を制限して、剥離アレイ部93を剥離部移動方向A2に対して傾斜する引出方向A3へと導く構造である。引出方向A3と剥離部移動方向A2との成す角度αの絶対値は、例えば、0度よりも大きく、かつ、45度以下である。角度αの絶対値は、好ましくは30度以下であり、より好ましくは20度以下である。図1に示す例では、引出方向A3は、幅方向に対して垂直である。また、図1に示す例では、引出方向A3は、基板移動方向A1に略平行である。
成形体製造装置1では、カーボンナノチューブアレイ91を基板92から剥離させた後にカーボンナノチューブシート94を引き出すことにより、基板92上のカーボンナノチューブアレイ91にピンホールが存在している場合、あるいは、基板92上のカーボンナノチューブアレイ91に異物が含まれている場合等であっても、カーボンナノチューブシート94における部分欠損を抑制することができる。詳細には、剥離アレイ部93に含まれるカーボンナノチューブは、基板92により移動が制限されていないため、剥離アレイ部93に上述のピンホールまたは異物等に起因する空隙が存在する場合、空隙の周囲のカーボンナノチューブが当該空隙を埋めるように移動する。さらに、空隙の剥離部移動方向A2の後側に位置するカーボンナノチューブが、引き出される力に抗して基板92上に残ることが防止される。これにより、剥離アレイ部93から引き出されるカーボンナノチューブシート94において、当該空隙に起因する部分欠損が発生することが抑制される。
剥離アレイ部93から引き出されたカーボンナノチューブシート94は、ワイヤ形成部25を通過する。ワイヤ形成部25では、カーボンナノチューブシート94が幅方向において集められることにより、カーボンナノチューブワイヤ95が形成される。カーボンナノチューブワイヤ95は、複数のカーボンナノチューブにより形成された線状のカーボンナノチューブ成形体である。ワイヤ形成部25では、カーボンナノチューブシート94が幅方向の中央部に向かって集められ、多数のカーボンナノチューブが幅方向において密着する。
図1に示す例では、ワイヤ形成部25は、幅方向に集められたカーボンナノチューブシート94の複数のカーボンナノチューブ単糸を撚ることによりカーボンナノチューブワイヤ95を形成する撚り機である。すなわち、ワイヤ形成部25通過前の略線状に集められたカーボンナノチューブ成形体が、ワイヤ形成部25によって撚られることにより、カーボンナノチューブ撚糸であるカーボンナノチューブワイヤ95が形成される。換言すれば、カーボンナノチューブシート94は、カーボンナノチューブワイヤ95の前駆体である。
ワイヤ形成部25を通過後のカーボンナノチューブワイヤ95は、引出機構26において、回転機構262により回転される成形体巻き取りロール261に巻き取られる。成形体巻き取りロール261は、ワイヤ形成部25の右側に配置される略円柱状または略円筒状の部材である。成形体巻き取りロール261は、幅方向に延びる回転軸J4を中心として図1中の時計回りに回転される。回転軸J4は、上述のフレーム等に固定されている。
図5は、成形体製造装置1によるカーボンナノチューブ成形体の製造の流れを示す図である。カーボンナノチューブ成形体の製造では、まず、基板92上に立設したカーボンナノチューブの集合であるカーボンナノチューブアレイ91が準備される(ステップS11)。続いて、カーボンナノチューブアレイ91を基板92上から剥離させる(ステップS12)。次に、基板92から剥離されたカーボンナノチューブアレイ91(すなわち、剥離アレイ部93)を吸着部61により静電吸着する(ステップS13)。その後、吸着部61に静電吸着された状態のカーボンナノチューブアレイ91を引き出すことにより、カーボンナノチューブシート94が形成される(ステップS14)。
上述のステップS11〜S14が行われることにより、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動を抑制することができる。詳細には、基板92から剥離されたカーボンナノチューブアレイ91の先端部(すなわち、剥離アレイ部93の先端部)が、吸着部61によって静電吸着されることにより、当該先端部の幅方向への移動が制限される。これにより、剥離アレイ部93の先端部からカーボンナノチューブが引き出される際に、剥離アレイ部93の先端部の幅方向の位置が変動する(すなわち、剥離アレイ部93が幅方向に振動する)ことを抑制することができる。したがって、カーボンナノチューブアレイ91からカーボンナノチューブシート94を安定的に引き出すことができる。その結果、カーボンナノチューブシート94において、全幅に亘って密度の均一性を向上することができる。
上記ステップS11〜S14を行うために、図1に例示する成形体製造装置1は、基板保持部21と、剥離機構20と、吸着部61と、引出機構26とを備える。基板保持部21は、カーボンナノチューブアレイ91が立設した基板92を保持する。剥離機構20は、カーボンナノチューブアレイ91を基板92上から剥離させる。吸着部61は、基板92から剥離されたカーボンナノチューブアレイ91を静電吸着する。引出機構26は、吸着部61に静電吸着された状態のカーボンナノチューブアレイ91を引き出すことにより、カーボンナノチューブシート94を形成する。これにより、上述のように、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動を抑制することができる。
上述のカーボンナノチューブ成形体の製造方法では、ステップS13よりも後に、カーボンナノチューブシート94が幅方向において集められることにより、線状のカーボンナノチューブワイヤ95が形成される(ステップS15)。当該製造方法では、上述のように、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動を抑制することができるため、カーボンナノチューブワイヤ95を安定的に形成することができる。これにより、カーボンナノチューブワイヤ95において、長手方向における密度の均一性を向上することができる。その結果、製造途上におけるカーボンナノチューブワイヤ95の破損および切断を防止することができる。
好ましくは、ステップS15において、カーボンナノチューブシート94が撚られることにより、カーボンナノチューブワイヤ95が形成される。これにより、高密度なカーボンナノチューブワイヤ95を製造することができる。その結果、カーボンナノチューブワイヤ95の引張強度を向上することができる。
上述のカーボンナノチューブ成形体の製造方法では、好ましくは、ステップS12において、カーボンナノチューブアレイ91と基板92との接合部に剥離部材22を当接させた状態で、剥離部材22を基板92に対して相対的に移動させる。これにより、カーボンナノチューブアレイ91のうち基板92上から剥離した部位である剥離アレイ部93が形成され、当該剥離アレイ部93が、剥離部材22に対して所定の剥離部移動方向A2に相対的に移動する。また、ステップS13において、剥離アレイ部93の相対移動経路に沿って配置された吸着部61により、相対移動中の剥離アレイ部93が静電吸着される。さらに、ステップS14において、吸着部61により静電吸着された状態で相対移動中の剥離アレイ部93から、カーボンナノチューブシート94が引き出される。これにより、剥離アレイ部93の幅方向の振動を抑制しつつ、カーボンナノチューブシート94を連続的に形成することができる。
さらに好ましくは、カーボンナノチューブシート94が引き出される方向である引出方向A3は、剥離部移動方向A2に対して傾斜する方向である。これにより、成形体製造装置1が剥離部移動方向A2に大型化することを抑制しつつ、カーボンナノチューブシート94を好適に製造することができる。
上述のように、引出方向A3と剥離部移動方向A2との成す角度の絶対値は45度以下であることが好ましい。これにより、剥離アレイ部93から引出方向A3に引き出されるカーボンナノチューブ単糸の引張強度(すなわち、カーボンナノチューブ単糸におけるカーボンナノチューブ同士の接続強度)が、過剰に小さくなることを防止することができる。その結果、製造途上におけるカーボンナノチューブシート94の破損および切断、並びに、カーボンナノチューブワイヤ95の破損および切断を、さらに好適に防止することができる。
また、引出方向A3は、剥離部移動方向A2から剥離アレイ部93の下面側に向かって傾斜することが好ましい。この場合、剥離部材22の上面に沿って剥離部移動方向A2に移動する剥離アレイ部93が、剥離部材22により支持されている側へと引き出される。これにより、剥離アレイ部93を支持する部材を剥離部材22とは別に設けることなく、カーボンナノチューブシート94を引出方向A3へと容易に引き出すことができる。また、成形体製造装置1が上下方向に大型化することを抑制することができる。
上述のように、カーボンナノチューブシート94およびカーボンナノチューブワイヤ95の製造では、カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度D(mg/cm3)と、カーボンナノチューブアレイ91の厚さL(μm)との関係が、D≧300×L−0.5であることが好ましい。これにより、カーボンナノチューブシート94およびカーボンナノチューブワイヤ95の製造途上における破損および切断を防止しつつ、カーボンナノチューブシート94およびカーボンナノチューブワイヤ95を好適に製造することができる。なお、カーボンナノチューブアレイ91の嵩密度D(mg/cm3)と厚さL(μm)との関係は、D<300×L−0.5であってもよい。
上述のように、成形体製造装置1は、剥離アレイ部93の相対移動経路に沿って配置されるガイド部24をさらに備えることが好ましい。ガイド部24は、当該相対移動経路に垂直な回転軸J3を中心として回転しつつ剥離アレイ部93を導く。また、吸着部61は、剥離アレイ部93を挟んでガイド部24と対向する位置に配置されることが好ましい。このように、剥離アレイ部93の先端部を、ガイド部24と吸着部61とで上下から挟むことにより、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動をさらに抑制することができる。
上述のように、ガイド部24は、幅方向に延びるとともに剥離アレイ部93に接するガイド面241を備える。ガイド面241は、幅方向の中央部において、幅方向の両端部よりも凹む凹面であることが好ましい。これにより、ガイド部24上に位置するカーボンナノチューブが幅方向の外側へと移動することを抑制することができる。その結果、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動を、より一層抑制することができる。
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る成形体製造装置1aを示す側面図である。成形体製造装置1aは、上述のガイド部24および吸着部61に代えて吸着部61aを備える点を除き、図1に示す成形体製造装置1と略同様の構造を有する。以下の説明では、成形体製造装置1aの構成のうち、成形体製造装置1の構成と対応するものに同符号を付す。成形体製造装置1aによるカーボンナノチューブ成形体の製造の流れは、図5に示すものと略同様である。
図7は、吸着部61aを図6中の右側から見た正面図である。図7では、吸着部61a上に位置する剥離アレイ部93も併せて図示する。吸着部61aは、図1中のガイド部24と略同じ位置に配置される。吸着部61aは、幅方向に延びる回転軸J6を中心とする略円柱状または略円筒状の部材である。吸着部61aは、図示省略のモータ等の駆動源により、回転軸J6を中心として図1中の時計回りに回転する。回転軸J6は、上述のフレーム等に固定されている。吸着部61aは、絶縁体により形成された略円柱状または略円筒状の吸着部本体612aと、当該吸着部本体612aの内部において略円筒状に配置された電極613aとを備える静電吸着ロールである。
吸着部61aの外側面である吸着面611aは、剥離アレイ部93の下面に接して剥離アレイ部93をガイドするガイド面でもある。図7に示す例では、吸着部61aは、上述の略鼓状のガイド部24と略同様の形状を有する。吸着部61aの直径は、幅方向の両端部から中央部に向かうに従って漸次減少する。吸着面611aは、幅方向に延びる曲面である。具体的には、吸着面611aは、幅方向の中央部において幅方向の両端部よりも凹む凹面である。
吸着部61aでは、吸着部本体612a内の電極613aに電圧が印加されることにより、当該電極613aと、吸着対象物である剥離アレイ部93との間にクーロン力が発生する。そして、当該クーロン力により、剥離アレイ部93のうち吸着部61a上に位置する部位(すなわち、剥離アレイ部93の先端部)が、吸着部61aの吸着面611aに静電吸着される。剥離アレイ部93は、吸着部61aにより静電吸着された状態で、上述の剥離部移動方向A2から引出方向A3へと導かれる。吸着部61aによる剥離アレイ部93の吸着力は、上述の吸着部61の吸着力と略同様である。
成形体製造装置1aでは、吸着部61aにより剥離アレイ部93が静電吸着されることにより、上記と同様に、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動を抑制することができる。また、吸着部61aは、剥離アレイ部93の上記相対移動経路に垂直な回転軸J6を中心として回転しつつ剥離アレイ部93を導くガイド部であることが好ましい。このように、剥離アレイ部93を導くガイド部の役割を吸着部61aに兼用させることにより、成形体製造装置1aの構造を簡素化することができる。
上述のように、吸着部61aは、幅方向に延びるとともに剥離アレイ部93に接する吸着面611aを備える。吸着面611aは、幅方向の中央部において、幅方向の両端部よりも凹む凹面であることが好ましい。これにより、吸着部61a上に位置するカーボンナノチューブが幅方向の外側へと移動することを抑制することができる。その結果、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動を、より一層抑制することができる。
吸着部61aでは、電極613aは、吸着部本体612aの内部において、吸着部本体612aから独立して設けられてもよい。この場合、電極613aは、例えば幅方向に延びる棒状であり、吸着部本体612aの回転・停止に関わらず、吸着部本体612aの上端部近傍に配置される。そして、電極613aに電圧が印加されることにより、吸着部本体612aの上端部と接触する剥離アレイ部93の下面が、吸着部61aに静電吸着される。
図8は、本発明の第3の実施の形態にかかる成形体製造装置1bの側面図である。成形体製造装置1bでは、基板92を移動する移動機構23(図1参照)に代えて、剥離部材22を移動する移動機構23bが設けられる。成形体製造装置1bでは、剥離部材22が、基台10上に保持されて移動しない基板92の表面921に沿って、図中の右側から左側へと移動する。このように、剥離部材22が基板92に対して相対的に移動することにより、カーボンナノチューブアレイ91が基板92から剥離される。
図8に示す例では、移動機構23bは、剥離部材22の上方に固定されたガイドレール233と、図示省略のボールネジおよびモータとを含むリニアガイド機構である。移動機構23bの構造は様々に変更されてよい。また、図8に示す例では、剥離部材22は、支持部材234を介してガイド部24、ワイヤ形成部25、引出機構26および吸着部61bと連結されている。ガイド部24は、上記と同様に、剥離アレイ部93の相対移動経路に沿って配置され、剥離アレイ部93を導く。吸着部61bは、上述の吸着部61と略同様の構造を有し、剥離アレイ部93を挟んでガイド部24と対向する位置に配置される。吸着部61bは、剥離アレイ部93を静電吸着する。これにより、上記と同様に、引き出し時におけるカーボンナノチューブアレイ91の幅方向の振動を抑制することができる。
成形体製造装置1bでは、剥離部材22、ガイド部24、ワイヤ形成部25、引出機構26および吸着部61bは、移動機構23bにより一体的に移動する。したがって、剥離部材22、ガイド部24、ワイヤ形成部25、引出機構26および吸着部61bの相対位置が固定されるため、引出機構26による引き出し速度等の制御を簡素化することができる。その結果、カーボンナノチューブ成形体(すなわち、カーボンナノチューブシート94およびカーボンナノチューブワイヤ95)の形成を好適に行うことができる。
上述の成形体製造装置1,1a,1bおよびカーボンナノチューブ成形体の製造方法では、様々な変更が可能である。
例えば、吸着部61は、必ずしも略円柱状または略円筒状である必要はなく、回転する必要もない。吸着部61は、例えば、平らな吸着面611を有する平板状の部材であってもよい。吸着部61a,61bについても同様である。
ガイド部24も、必ずしも略円柱状または略円筒状である必要はなく、回転する必要もない。また、ガイド部24は、剥離部材22と一繋がりの部材であってもよい。あるいは、ガイド部24は省略されてもよい。
剥離部材22では、カーボンナノチューブアレイ91に接触するエッジ部に超音波振動が付与されてもよい。これにより、カーボンナノチューブアレイ91の基板92からの剥離を容易とすることができる。
上述のカーボンナノチューブ成形体の製造では、引出方向A3は、側面視において、剥離部移動方向A2から上側(すなわち、剥離アレイ部93の上面側)に向かって傾斜していてもよい。換言すれば、引出方向A3は、剥離アレイ部93の下面を含む仮想面(すなわち、剥離部移動方向A2および幅方向に平行な仮想面)から上側に向かって傾斜していてもよい。また、引出方向A3と剥離部移動方向A2との成す角度の絶対値は、45度よりも大きくてもよい。あるいは、引出方向A3は、剥離部移動方向A2と平行であってもよい。なお、引出方向A3は、必ずしも幅方向に垂直である必要はなく、幅方向の一方側に傾斜していてもよい。
上述のカーボンナノチューブ成形体の製造では、必ずしも、剥離部材22に対して相対移動中の剥離アレイ部93からカーボンナノチューブシート94が引き出される必要はなく、静止状態の剥離アレイ部93からカーボンナノチューブシート94が引き出されてもよい。例えば、図9に示すように、他の装置(図示省略)により基板から剥離されたカーボンナノチューブアレイ91が、略平板状の吸着部61cに静電吸着された状態で静止しており、当該カーボンナノチューブアレイ91からカーボンナノチューブシート94が引き出され、ワイヤ形成部25によりカーボンナノチューブワイヤ95が形成されてもよい。
図1の成形体製造装置1では、ワイヤ形成部25と引出機構26とが個別に設けられる例を示しているが、ワイヤ形成部25と引出機構26とが1つの機構に含まれていてもよい。当該1つの機構は、例えば、カーボンナノチューブシート94を線状に撚り合わせつつ巻き取る機構である。成形体製造装置1a,1bにおいても同様である。
成形体製造装置1により形成されるカーボンナノチューブワイヤ95は、必ずしもカーボンナノチューブ撚糸である必要はなく、撚られていないカーボンナノチューブ無撚糸であってもよい。この場合、ワイヤ形成部25は、例えば、カーボンナノチューブシート94に含まれる複数のカーボンナノチューブ単糸に圧縮空気を吹き付けて結束させる加工(いわゆる、タスラン加工)を施す機構であってもよい。あるいは、ワイヤ形成部25は、複数のカーボンナノチューブ単糸を通過させてカーボンナノチューブワイヤ95を形成する細孔が設けられたダイスであってもよい。成形体製造装置1a,1bにおいても同様である。
成形体製造装置1では、ワイヤ形成部25が省略され、略矩形状のカーボンナノチューブシート94が、カーボンナノチューブ成形体として製造されてもよい。成形体製造装置1a,1bにおいても同様である。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。