JP7077706B2 - 繊維状炭素ナノ構造体分散液の製造方法 - Google Patents
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即ち、上記特許文献1に記載の製造方法には、分散処理の際の泡立ちを抑制すると共に、得られる分散液の長期安定性を確保するという点において、改善の余地があった。
10≦S×W≦200・・・(I)
このように、分散処理の対象である組成物中の分散剤の含有量を60質量部未満にすると共に、上記式(I)を満たす条件にて分散処理を行えば、分散処理の際の泡立ちを抑制しつつ、長期安定性に優れる繊維状炭素ナノ構造体分散液を効率的に製造することができる。
なお、本発明において、ローターの「周速S(m/s)」は、ローターの外周上の一点が一秒間に移動する距離(m)を意味し、ローターの平均直径(m)とローター速度(s-1)から算出される。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径」は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
本発明の繊維状炭素ナノ構造体分散液の製造方法は、溶媒中に繊維状炭素ナノ構造体を分散させてなる繊維状炭素ナノ構造体分散液を製造する際に用いることができる。
本発明の製造方法に従い製造した繊維状炭素ナノ構造体分散液は、特に限定されることなく、フィルムや繊維などの各種製品を製造する際に用いることができる。具体的には、繊維状炭素ナノ構造体分散液は、例えば、繊維状炭素ナノ構造体分散液を基材上に塗布し、乾燥して繊維状炭素ナノ構造体からなる膜を製造する際や、樹脂やゴム等の高分子材料と混合して複合材料を製造する際に用いることができる。
10≦S×W≦200・・・(I)
の条件を満たす。
そして、本発明に係る繊維状炭素ナノ構造体分散液の製造方法によれば、分散剤の量を低減しているため、メディアレス分散機による分散処理の際の泡立ちを抑制することができる。加えて、上述した式(I)を満たす条件で分散処理を行うため、分散剤の量が低減されていても、長期安定性に優れる繊維状炭素ナノ構造体分散液を効率的に製造することができる。
後述する分散処理を施す対象である組成物は、少なくとも繊維状炭素ナノ構造体および溶媒を含む。そして、組成物は、任意に分散剤やその他の成分を含むことができるが、組成物中の分散剤の含有量は、繊維状炭素ナノ構造体100質量部当たり0質量部以上60質量部未満であることが必要である。
繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されることなく、例えば、CNT、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そしてこれらの中でも、得られる分散液を用いて形成される各種製品の導電性、熱伝導性および機械的特性などの諸特性を向上させる観点から、繊維状炭素ナノ構造体として、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましい。
繊維状炭素ナノ構造体として好適に使用し得る、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTのみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)および/または多層カーボンナノチューブ(多層CNT)を用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較して、得られる分散液を用いて形成される各種製品の導電性、熱伝導性および機械的特性などの諸特性を向上させることができる。
上記の点において、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、特に限定されず、例えば、0.1nm以上とすることができ、0.5nm以上とすることができ、1nm以上とすることができ、1000nm以下とすることができ、100nm以下とすることができ、50nm以下とすることができ、10nm以下とすることができる。ここで、繊維状炭素ナノ構造体は、その平均直径が小さい程、凝集し易い。しかしながら、本発明の製造方法を用いれば、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が比較的小さい場合(例えば、0.1nm以上10nm以下の範囲内)であっても、得られる分散液の長期安定性を十分に確保することができる。
なお、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の比表面積は、300m2/g以上であることが好ましく、400m2/g以上であることがより好ましく、600m2/g以上であることが更に好ましく、2500m2/g以下であることが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の比表面積が上述の範囲内であれば、得られる分散液を用いて形成される各種製品の導電性、熱伝導性および機械的特性などの諸特性を向上させることができる。
なお、本発明において、「比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
繊維状炭素ナノ構造体としては、市販品を用いてもよいし、例えば、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を効率的に製造してもよい。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
ここで、スーパーグロース法により製造したSGCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
繊維状炭素ナノ構造体と溶媒とを含有する組成物中における、繊維状炭素ナノ構造体の濃度は、特に限定されず、例えば0.1質量%以上とすることができ、0.3質量%以上とすることができ、0.5質量%以上とすることができ、0.6質量%以上とすることができ、0.7質量%以上とすることができ、10質量%以下とすることができ、5質量%以下とすることができる。ここで、繊維状炭素ナノ構造体は、組成物中における濃度が高い程凝集し易い。しかしながら、本発明の製造方法を用いれば、組成物中の繊維状炭素ナノ構造体の濃度が比較的高い場合(例えば、0.6質量%以上10質量%以下の範囲内)であっても、得られる分散液の長期安定性を十分に確保することができる。
上述した繊維状炭素ナノ構造体を分散させる溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。そして上述した中でも、溶媒としては水が好ましい。
組成物に含まれ得る分散剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などの界面活性剤や、ポリペプチド、多糖類、核酸、共役系ポリマーなどのポリマーが挙げられる。なお、分散剤としてのポリマーの一例としては、特表2010-524818号公報に記載された分散剤(アニオン性親水性モノマーと、所定の芳香族基をモノマーとから得られるコポリマー)を挙げることもできる。組成物に分散剤を含める場合、上述した分散剤は1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
なお、上述した成分以外にも、組成物は、必要に応じて、有機もしくは無機バインダー、カップリング剤、架橋剤、安定化剤、着色剤、電荷調整剤、滑剤などの添加物を含有していてもよい。従って、上記溶媒は、上述した添加物を含有するものであってもよい。なお、これらその他の成分は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
上述した組成物に分散処理を施すことで、繊維状炭素ナノ構造体が溶媒中に分散した分散液を得る。ここで、分散処理には、分散メディア(例えば、ビーズ、サンド、ボール)を用いずせん断力を利用して分散処理を行うメディアレス分散機を使用する。より具体的には、本発明の製造方法で用いるメディアレス分散機は、ステーターおよびローターを備え、ローターが回転することによりステーターおよびローター間の間隙(スリット)に存在する組成物にせん断を付与する。そして、スリットを通過しせん断が付与された組成物を、繊維状炭素ナノ構造体分散液として回収することができる。
すなわち、S×Wは、上述したS、W1、およびW2という繊維状炭素ナノ構造体の分散に寄与する因子によって構成されている。そして、S×Wの値を上述した所定の範囲内とすることで、これらの因子の良好なバランスが達成され、組成物中の繊維状炭素ナノ構造体の凝集物を良好に解離しつつ、分散後に長期間放置した場合であっても繊維状炭素ナノ構造体が再凝集を抑制しうると考えられる。
ここで、ローターの周速Sは、長期安定性に優れる繊維状炭素ナノ構造体分散液を得る観点から、1m/s以上であることが好ましく、3m/s以上であることがより好ましく、5m/s以上であることが更に好ましく、70m/s以下であることが好ましく、60m/s以下であることがより好ましく、50m/s以下であることが更に好ましく、40m/s以下であることがより一層好ましく、30m/s以下であることが特に好ましい。
また、長期安定性に優れる繊維状炭素ナノ構造体分散液を得る観点から、スリットの最小幅W2に対するスリットの最大幅W1の比W(=W1/W2)は、1.0超であり、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましく、2.3以上であることが特に好ましく、8.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることが更に好ましく、3.0以下であることがより一層好ましく、2.8以下であることが特に好ましい。
なお、スリットの最大幅W1は、例えば、1mm以上10mm以下とすることができる。また、スリットの最小幅W2は、例えば、0.1mm以上5mm以下とすることができる。
(長期安定性の評価)
実施例および比較例において、得られたCNT分散液を1週間静置し、静置後のCNT分散液を目視で確認し、長期安定性を以下の基準で評価した。
A:CNTの凝集物が沈殿しておらず、分散性は良好であった。
B:CNTの凝集物の沈殿が僅かに確認されたが、分散性は概ね良好であった。
C:CNTの凝集物が多量に沈殿した。
ローターおよびステーターを備える連続式のメディアレス分散機(マウンテック社製、「PUCコロイドミル」)のローターとステーターの間のスリットを、W(W1/W2)の値が2.5になるように調整した。そして、このメディアレス分散機に、純水5kgと、繊維状炭素ナノ構造体としての単層カーボンナノチューブ(ゼオンナノテクノロジー社製「ZEONANO SG101」、平均直径:3nm、比表面積:1050m2/g)35gを投入し、ローターの周速Sを30m/sとして分散処理(パス回数:5回)を行い、CNT分散液を得た。なお、目視により、このCNT分散液には泡立ちが十分少ないことを確認した。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、50倍の倍率でスライドガラス上のCNT分散液を観察したところ、CNTが良好に解れていることを確認した。さらには、CNT分散液の長期安定性を上述した手法で評価した。結果を表1に示す。
ローターの周速Sを5m/sに変更した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液を得た。目視により、このCNT分散液には泡立ちが十分少ないことを確認した。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、50倍の倍率でスライドガラス上のCNT分散液を観察したところ、CNTが良好に解れていることを確認した。さらには、CNT分散液の長期安定性を上述した手法で評価した。結果を表1に示す。
ローターとステーターの間のスリットを、W(W1/W2)の値が4になるように調整し、更には、ローターの周速Sを5m/sに変更した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液を得た。目視により、このCNT分散液には泡立ちが十分少ないことを確認した。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、50倍の倍率でスライドガラス上のCNT分散液を観察したところ、CNTが良好に解れていることを確認した。さらには、CNT分散液の長期安定性を上述した手法で評価した。結果を表1に示す。
ローターとステーターの間のスリットを、W(W1/W2)の値が4になるように調整した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液を得た。目視により、このCNT分散液には泡立ちが十分少ないことを確認した。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、50倍の倍率でスライドガラス上のCNT分散液を観察したところ、CNTが良好に解れていることを確認した。さらには、CNT分散液の長期安定性を上述した手法で評価した。結果を表1に示す。
ローターとステーターの間のスリットを、W(W1/W2)の値が1(すなわち、スリットの幅が一様)になるように調整した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液を得た。目視により、このCNT分散液には泡立ちが十分少ないことを確認した。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、50倍の倍率でスライドガラス上のCNT分散液を観察したところ、CNTが十分に解れていなかった。これは、スリットの幅の最大値W1と最小値W2が同一となることにより、スリットを通過する際に、CNTに対し十分なせん断力および負荷がかかり難くなったためと考えられる。さらには、CNT分散液の長期安定性を上述した手法で評価した。結果を表1に示す。
ローターとステーターの間のスリットを、W(W1/W2)の値が8になるように調整した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液を得た。目視により、このCNT分散液には泡立ちが十分少ないことを確認した。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、50倍の倍率でスライドガラス上のCNT分散液を観察したところ、CNTが十分に解れていなかった。これは、スリットの幅の最小値W2が相対的に小さくなることによりローターとステーターの間にCNTの詰まりが発生するためと考えられる。さらには、CNT分散液の長期安定性を上述した手法で評価した。結果を表1に示す。
ローターとステーターの間のスリットを、W(W1/W2)の値が1(すなわち、スリットの幅が一様)になるように調整し、更には、ローターの周速Sを5m/sに変更した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液を得た。目視により、このCNT分散液には泡立ちが十分少ないことを確認した。また、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、50倍の倍率でスライドガラス上のCNT分散液を観察したところ、CNTが十分に解れていなかった。これは、スリットの幅の最大値W1と最小値W2が同一となることにより、スリットを通過する際に、CNTに対し十分なせん断力および負荷がかかり難くなったためと考えられる。さらには、CNT分散液の長期安定性を上述した手法で評価した。結果を表1に示す。
2 ローター
3 ステーター
4 スリット
5 駆動シャフト
6 流入口
7 排出口
8 スリットの最大幅(W1)
9 スリットの最小幅(W2)
Claims (3)
- 繊維状炭素ナノ構造体と、溶媒とを含有する組成物に分散処理を施す工程を含む、繊維状炭素ナノ構造体分散液の製造方法であって、
前記組成物中の分散剤の含有量が、前記繊維状炭素ナノ構造体100質量部当たり0質量部以上60質量部未満であり、
前記分散処理を施す工程では、ステーターと、ローターとを備えるメディアレス分散機を用いて、前記ステーターと前記ローターの間のスリットにおいて、前記ローターの回転により前記組成物にせん断を付与し、
そして、前記ローターの周速S(m/s)と、前記スリットの幅の最小値W2(m)に対する最大値W1(m)の比Wが、下記式(I)の条件を満たし、
12.5≦S×W≦75・・・(I)
前記Wが1.5以上3.5以下である、繊維状炭素ナノ構造体分散液の製造方法。 - 前記組成物中の前記繊維状炭素ナノ構造体の濃度が、0.6質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の繊維状炭素ナノ構造体分散液の製造方法。
- 前記繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が0.1nm以上10nm以下である、請求項1または2に記載の繊維状炭素ナノ構造体分散液の製造方法。
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