JP7076296B2 - 溶融金属の製造方法および、溶融塩電解槽 - Google Patents

溶融金属の製造方法および、溶融塩電解槽 Download PDF

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Description

この発明は、貯留室と電解室とに区画された電解槽の内部を溶融塩浴とし、電解室で、溶融塩中の金属塩化物を電気分解し、それにより得られる溶融金属を貯留室に流入させる溶融金属の製造方法および、溶融塩電解槽に関するものである。特にこの発明は、電解室での溶融金属の滞留を抑制することのできる技術を提案するものである。
たとえば、クロール法による金属チタンの製造に際し、副次的に生成される塩化マグネシウムは、溶融塩電解槽を用いて、電気分解により金属マグネシウムと塩素ガスとに分解される。これらの金属マグネシウム及び塩素ガスはそれぞれ、四塩化チタンの還元およびチタン鉱石の塩素化に用いられて再利用されることがある。
この種の電気分解では一般に、隔壁によって貯留室と電解室とに区画された電解槽の内部で、塩化マグネシウム等の金属塩化物を含む溶融塩を貯留させて溶融塩浴とする。この溶融塩浴では、電解槽の内部の溶融塩が貯留室から電解室へ流れて、ここで電極への通電に基いて、金属塩化物が金属マグネシウム等の溶融金属と塩素等のガスとに分解される。電解室で生成された溶融金属は電解槽の内部で貯留室へとさらに循環して、溶融塩との密度差によって溶融塩浴の液面上に浮上した後に回収される。また、ガスは電解槽に設けられたガス排出通路を経て電解槽の外部に排出される。
ところで、上述したような溶融塩電解では、たとえば電極への通電量が低下した際等に、電極を隔てて隔壁とは反対側でありかつ貯留室から離れて位置する電解室の後壁側で、溶融塩浴の流れが滞留しやすくなるという問題がある。この場合、溶融金属の滞留も生じるため、製造歩留まりの低下及び、電流効率の低下を招く。さらにこの場合、滞留した溶融金属が後壁側電極間で層状または塊状となり電極間短絡を引き起こすことがあり、また溶融金属は滞留時間の経過とともに酸化されるため電極間で金属の固化が生じることもある。
これに関して、特許文献1には、その第4図に詳細に示されているように、電極の上端部に、勾配をつけた「みぞ」を設けることが開示されている。この点について、特許文献1には、「液面に達する電解質/マグネシウムの混合物の大部分は縁部48を越えてみぞ50にこぼれ、みぞ50に沿って、せき20を越え、垂直みぞ52に下降し、カーテンウォール54の下に流れる。この時点で、液体の流れは塩素ガスを殆ど含まないが、その流速は十分速く、マグネシウムの小滴を電解室が搬送する。マグネシウム集積室18においては、流速は比較的おそいので、溶融マグネシウムが液面に集積し且つ除去される。電解領域39中の上昇する塩素ガスは電解質をマグネシウム集積室から戻り通路24を経て電解室16の下端に吸引し、電解室の循環路が作られる。」と記載されている。
上記の特許文献1の「みぞ」について、特許文献2では、「意図された電解浴レベルより上方にあるみぞに、Mg、Cl2を含んだ電解浴をCl2の揚力により持ち上げ、さらに垂直みぞから堰10に制御された流速で流下させるために、電解浴レベルは厳密に一定にする必要があり、第4図に示すようなメタル集積室7電解浴中に設けた、Arガス出し入れによる浴レベル調整器11が必要不可欠となり、しかも、運転操作が煩雑とならざるを得ない。」としている。
その上で、特許文献2には、「双極式電極の少くとも1つは、該電極上部に設けた電解浴流路断面が隔壁口に向かって拡大された構造を有する」ものが提案されている。
特公昭62-30273号公報 特開平2-258993号公報
上述した特許文献1、2で提案されているような、電極の上端部に設けられて溶融金属とともに溶融塩浴を運んで送るための「みぞ」や「流路」は、溶融塩浴を貯留室に向けて流動させることにある程度の効果があるといえる。
しかしながら、電解室内の後壁側における電極間の近傍等では、電気分解により生成される塩素による溶融塩浴を上昇させる力が、後壁の壁面の抵抗を受けて弱められることに起因して、溶融塩浴が上昇しにくくなる。その結果、隔壁側と後壁側との間の略中間部分において塩素による溶融塩浴を上昇させる力が後壁側より大となる。それにより、「みぞ」や「流路」を設けたとしても、電解室内で溶融塩浴が後壁側から隔壁側に向かって十分に流れることができないので、後壁近傍での流れの滞留を十分に抑制することはできず、改善の余地があった。
この発明の目的は、電解室での溶融金属と溶融塩浴の流れの滞留を有効に抑制することのできる溶融金属の製造方法および、溶融塩電解槽を提供することにある。
発明者は鋭意検討の結果、電極において溶融塩中に配され実際に金属イオンや塩素イオンとの間で電子の授受が行われる電解面の深さ方向の長さを、少なくとも隔壁側部分、より好ましくは隔壁側部分及び中間部分よりも、後壁側部分で長くすることが有効であると考えた。このようにすれば、電気分解により生成されて溶融塩浴を上昇させる塩素の発生量が、電極の後壁側で多くなる。そして、これにより、電解室の後壁側で浴面高さが上昇し、後壁側の近傍から溶融塩浴を隔壁側、ひいては貯留室に向けて有効に流動させ得ることを見出した。
かかる知見の下、この発明の溶融金属の製造方法は、隔壁により区画された貯留室及び電解室を有する電解槽の内部を、金属塩化物が含まれる溶融塩で満たした溶融塩浴とし、前記電解室で、溶融塩中の金属塩化物を、電極への通電に基いて電気分解し、該電気分解により得られる溶融金属を貯留室に流入させる溶融金属の製造方法であって、前記電極が、浴面下に位置し電子の受け渡しを行う電解面を有し、前記電極のうちの少なくとも一つとして、隔壁と後壁の壁間方向における前記電解面の深さ方向の長さが隔壁側部分よりも後壁側部分で長い部位を設けた電極を用いるものである。
この溶融金属の製造方法では、前記電極が、一対以上の陽極及び陰極を含み、前記陽極及び陰極の少なくとも一対がそれぞれ、互いに対向して隔壁と後壁との間に延びる陽極部分及び陰極部分を有し、前記陽極部分及び陰極部分のうちの少なくとも一つが、隔壁と後壁の壁間方向における前記電解面の深さ方向の長さが隔壁側部分よりも後壁側部分で長い部位を設けたものであることが好ましい。
ここで、この発明の溶融金属の製造方法では、前記電極のうちの少なくとも一つが、前記電解面の深さ方向の長さを隔壁側から後壁側に向かうに従って漸増させた部分を有することが好ましい。
そしてまた、この発明の溶融金属の製造方法では、前記隔壁と後壁の壁間方向における前記電解面の深さ方向の長さが隔壁側部分よりも後壁側部分で長い部位を設けた電極において、当該電極の前記電解面の、隔壁側端部における深さ方向の長さと後壁側端部における深さ方向の長さとの比を、100:102~100:120とすることが好ましい。
この発明の溶融金属の製造方法では、前記電極のうちの少なくとも一つが、隔壁側から後壁側に延びる板形状を有するものとすることができる。
なお、この発明の溶融金属の製造方法では、前記電極がさらに、対をなす陽極及び陰極の間に配置された少なくとも一つの複極を含むものとすることができる。
この発明の溶融金属の製造方法では、前記金属塩化物を塩化マグネシウムとすることができ、この場合、電気分解により得られる溶融金属が金属マグネシウムである。
この発明の溶融塩電解槽は、内部を、金属塩化物が含まれる溶融塩で満たした溶融塩浴とする電解槽と、前記電解槽の内部を、溶融塩中の金属塩化物を電気分解する電解室及び、該電気分解により得られる溶融金属が流入する貯留室に区画する隔壁と、前記電気分解に用いられる電極とを備える溶融塩電解槽であって、前記電極が、浴面下に位置し電子の受け渡しを行う電解面を有し、前記電極のうちの少なくとも一つが、隔壁と後壁の壁間方向における前記電解面の深さ方向の長さが隔壁側部分よりも後壁側部分で長い部位を有するものである。
この溶融塩電解槽では、前記電極が、一対以上の陽極及び陰極を含み、前記陽極及び陰極の少なくとも一対がそれぞれ、互いに対向して隔壁と後壁との間に延びる陽極部分及び陰極部分を有し、該陽極部分及び陰極部分の少なくとも一つが、隔壁と後壁の壁間方向における前記電解面の深さ方向の長さが隔壁側部分よりも後壁側部分で長い部位を設けたものであることが好ましい。
そしてまた、この発明の溶融塩電解槽では、前記隔壁と後壁の壁間方向における前記電解面の深さ方向の長さが隔壁側部分よりも後壁側部分で長い部位を設けた電極において、当該電極の前記電解面の、隔壁側端部における深さ方向の長さと後壁側端部における深さ方向の長さとの比が、100:102~100:120であることが好ましい。
なお、この発明の溶融塩電解槽では、前記電極がさらに、対をなす陽極及び陰極の間に配置された少なくとも一つの複極を含むものとすることができる。
この発明では、電極、具体的には陽極及び陰極並びに、複極がある場合は複極のうちの少なくとも一つの電解面の深さ方向の長さを、隔壁側部分、より好ましくはさらに中間部分よりも後壁側部分で長くすることにより、溶融塩浴を上昇させる塩素の発生量が、電極の後壁側の箇所で多くなって、電解室の後壁側で浴面高さが上昇する。そしてこのことが、後壁側の溶融塩浴を、後壁側から隔壁側、さらには貯留室に向けて有効に流動させ得るので、電解室での溶融金属の滞留を有効に抑制することができる。
この発明の一の実施形態の溶融金属の製造方法を実施することのできる溶融塩電解槽の一例を示す縦断面図である。 図1のII-II線に沿う横断面の一部を示す図である。 図1の溶融塩電解槽が有する電極の一つである陰極を、溶融塩電解槽から取り出して示す拡大正面図である。 図1の溶融塩電解槽が有する電極の一つである陰極の他の例を示す正面図である。 図1の溶融塩電解槽が有する電極の一つである陽極(図5(a))及び複極(図5(b))のそれぞれの他の例を示す正面図である。 電極の他の配置例を示す、図2と同様の横断面図である。 図7(a)は実施例1~5の、図7(b)は実施例6~10のそれぞれの陰極の電解面形状を示す正面図である。 図8(a)は実施例11~15の、図8(b)は実施例16~20のそれぞれの陰極の電解面形状を示す正面図である。 図9(a)は実施例21~25の、図9(b)は実施例26~30のそれぞれの陰極の電解面形状を示す正面図である。 比較例2の陰極の電解面形状を示す側面図及び正面図である。
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1及び2にそれぞれ縦断面図及び横断面図で例示する溶融塩電解槽1は、たとえば主としてAl23等の耐火煉瓦その他の適切な材料からなる容器形状を有し、その内部に供給された金属塩化物を含む溶融塩からなる溶融塩浴を保持しており、さらに溶融塩中の塩化マグネシウム等の特定の金属塩化物を電気分解するとともに、その電気分解により溶融金属が生成される電解槽2を備える。また溶融塩電解槽1は、電解槽2内に溶融塩浴の深さ方向と平行に並べて配置した部分を有する陽極3a及び陰極3bを含む電極3を備えるものである。なお、溶融塩電解槽1はさらに、図示しないが、熱交換により電解槽2内の温度調整を行う温度調整管等を備えることがある。
なおここでは、溶融塩を構成し電気分解される特定の金属塩化物として塩化マグネシウム(MgCl2)を含む場合を例として説明する。この場合、塩化マグネシウムの電気分解により、図1に示すように、溶融金属として金属マグネシウム(Mg)が生成されるとともに、ガスとして塩素ガス(Cl2)が発生する。溶融塩には、上記の塩化マグネシウム(MgCl2)の他、支持塩として、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)及び/又は、フッ化カルシウム(CaF2)等を含ませる場合がある。金属マグネシウムは、金属チタンを製造するクロール法における四塩化チタンの還元に、また塩素ガスは、同法におけるチタン鉱石の塩素化にそれぞれ用いることができる。電気分解の原料とする塩化マグネシウムとしては、クロール法で副次的に生成されるものを使用可能である。
ここで、図示の電解槽2は内部に、図1及び2に示すところでは実質的に深さ方向に沿って配置された隔壁4をさらに備えるものである。かかる隔壁4により、電解槽2の内部は、図1及び2では右側に位置して電極3が配置された電解室2aと、左側に位置し、電解室2aでの電気分解により得られた溶融金属が流れ込んで該溶融金属が溶融塩との密度差により上方側に溜まる貯留室2bとに区画される。具体的には、この隔壁4は、ここでは図示しない電解槽2の上方側開口を覆蓋するための蓋部材に近接させて配置される。なお、電解槽2の下方側の底部との間に、貯留室2bから電解室2aへの溶融塩浴の移動を可能にする溶融塩循環路4aを形成する。また、隔壁4の上方側に設けた溶融金属流路4bにより、電解室2aから貯留室2bへの溶融金属の流入が可能になる。
電解室2aに配置された電極3は、通電していない(浴が静止している)状態の溶融塩浴の浴面Sm下に浸漬させて深さ方向に沿って配置されて、電源に接続される一対以上の陽極3a及び陰極3bを有する。たとえばMgCl2→Mg+Cl2等といった所定の反応に基き、陽極3aの電解面では酸化反応により塩素等のガスが生じるとともに、陰極3bの電解面では還元反応により金属マグネシウム等の溶融金属が生成される。
電極3は、少なくとも、対をなす陽極3a及び陰極3bを有するものであれば、特定の金属塩化物の電気分解を行うことができる。一方、電気分解の生成効率向上等の観点より、図示のように、それぞれの対をなす陽極3aと陰極3bとの間に、電源に接続されず陽極3a及び陰極3b間への電圧の印加によって分極する少なくとも一つ複極3cをさらに有することが好ましい。図1、2では、対をなす陽極3aと陰極3bとの間に、二つずつの複極3cを配置している。この複極3cは、バイポーラ電極と称されることもある。但し、このような複極3cは必ずしも必要ではない。
なお電解室2aは、隔壁4と、電極3を隔てて隔壁4の反対側に位置しかつ隔壁4に対向する後壁2cと、で挟まれる空間に存在する。この電解室2a内に配置された電極3は、図2に示すところでは、陽極3a及び陰極3bがそれぞれ互いに対向するとともに、隔壁4と後壁2cとの間で隔壁4と後壁2cの壁間方向に沿う平板等の板形状の陽極部分及び陰極部分からなるものである。陽極3a及び陰極3bは隔壁4及び後壁2cと実質的に直交して延在する。そして、板形状の複極3cは、対をなす陽極3a及び陰極3bの陽極部分及び陰極部分の間に介在して、それらとほぼ平行に配置されている。したがって、これらの陽極3a、陰極3b及び複極3cはいずれも、隔壁4と後壁2cの壁間方向に延びる板形状をなす。ここで、壁間方向とは、隔壁4又は後壁2cのいずれか一方側から他方側に向かう方向を意味する。
陽極3aは図示省略の蓋体から電解槽2の外側へ突出する部分、陰極3bは後壁2cから突出する部分でそれぞれ電源に接続されている。
上述したような溶融塩電解槽1を用いた溶融塩電解方法では、溶融塩浴の対流により、貯留室2bから底部側の溶融塩循環路4aを経て電解室2aに流動した溶融塩中の特定の金属塩化物が電気分解されて、電解室2aで溶融金属が生成される。そしてこの溶融金属は、隔壁4の浴面側の溶融金属流路4bを通って貯留室2bに流入する。その後、溶融塩に対する比重の小さい溶融金属は、貯留室2bの浅い箇所に浮上してそこに溜まることになり、これを図示しないポンプ等により回収することができる。したがって、ここでは、溶融塩から溶融金属を製造することができる。
この発明の実施形態では、通電により特定の金属塩化物を電気分解する電極3の少なくとも一つの、電解面の深さ方向(図1では上下方向)の長さを、隔壁側部分3dよりも後壁側部分3eで長くする。好適な一形態では、隔壁側部分3dの隔壁側端部3hよりも後壁側部分3eの後壁側端部3iで電解面の深さ方向の長さを長くする。電解面の深さ方向の長さを変化させる電極3は、複極3cを含まない場合は陽極3a及び陰極3bのうちの少なくとも一つとし、複極3cを含む場合は陽極3a、陰極3b及び複極3cのうちの少なくとも一つとする。陽極3a、陰極3b、および/または複極3cが複数存在する場合は、その少なくとも一つにおいて電解面の深さ方向の長さを変化させてよい。
ここで、電解面とは、電極3の陽極3a、陰極3b及び複極3cの、浴面下で電極として機能する表面、すなわち溶融塩と接触して該溶融塩中の特定の金属イオン及び塩素イオンとの間で電子の授受が行われる電極3の表面を意味する。なお、通電して特定の金属塩化物の電気分解が始まると後壁側の浴面がより上昇するが、以下の説明においては本実施形態においては通電していない状態の浴面Sm(隔壁4側と後壁2c側の間でほぼ一定の高さ)を基準とする。
たとえば、図1に示す例における電極3の陽極3a、陰極3b及び複極3cのうちの陰極3bでは、図3に溶融塩電解槽1から取り出して示すように、電極3の電解面の深さ方向の長さを、隔壁側部分3dよりも後壁側部分3eで長くしている。
図3に示すように、隔壁側部分3dとは、陽極3a、陰極3b及び複極3cの壁間方向に延びる部位のうち、壁間方向に沿って、後述の隔壁側端部3hから当該部位の全長の1/3の領域を占める部分をいう。後壁側部分3eとは、当該部位のうち、壁間方向に沿って、後述の後壁側端部3iから当該部位の全長の1/3の領域を占める部分をいう。壁間方向で、隔壁側部分3dと後壁側部分3eとの間の残りの、当該部位の全長の1/3の領域を占める部分を中間部分3kという。電極3の少なくとも一つの電解面の深さ方向の長さは、図3に示すように、隔壁側部分3d及び中間部分3kよりも後壁側部分3eで長くすることが好ましい。
上記陰極3bによれば、特定の金属塩化物の電気分解に際して電極3の電解面で生成される塩素の発生量が、電極3の隔壁4側よりも後壁2c側で多くなり、それによって、後壁2c側では隔壁4側に比して、多く発生する塩素が溶融塩浴を大きく上昇させる。すなわち溶融塩の浴面が後壁2c側で高くなるので、後壁2c側から隔壁4側に向かう溶融塩浴の流れを促進させることができる。当該溶融塩浴の流れにより、生成した溶融金属も流れる。その結果として、電極3の後壁2c側の近傍における溶融金属の滞留を有効に抑制することができる。
電極3の後壁2c側の近傍では、溶融塩浴は、後壁2cの壁面による抵抗を受けることにより、通常は、塩素によって上昇する力が低下させられてこの部位での浴レベルの低下がもたらされ、後壁近傍で溶融塩及び電解生成金属が滞留しやすくなる。これに対し、この実施形態では、後壁2c側の箇所で多くの塩素を発生させることにより、壁面による抵抗の影響による後壁側の浴レベル低下や溶融塩及び溶融金属の滞留を軽微にできる。
図3に示す陰極3bでは、溶融塩浴の深さ方向で、通電していない状態における浴面Smと下端部3fの距離Dbは、隔壁側部分3dから後壁側部分3eにかけて全体にわたって一定としているが、浴面Smと上端部3gの距離Duは、隔壁4側から後壁2c側に向かうに従って正面視で直線状に漸減させて隔壁側部分3dよりも後壁側部分3eで短くすることにより、電解面の深さ方向の長さを、隔壁側部分3dよりも後壁側部分3eで長くしている。
あるいは、図4(a)に示す陰極13bのように、通電していない状態における浴面Smと上端部13gの距離は一定で、浴面Smと下端部13fの距離を後壁2c側に向かうに従って直線状に漸増させることにより、電解面の深さ方向の長さを隔壁4側から後壁2c側に向かうに従って次第に増大させて、隔壁側部分13dよりも後壁側部分13eで長くすることもできる。
また、図4(b)の陰極23bのように、後壁2c側に向けて、通電していない状態における浴面Smと上端部23gの距離を直線状に漸減させるとともに、下端部23fとの距離を直線状に漸増させることにより、電解面の深さ方向の長さを後壁側部分23eで長くしてもよい。
通電していない状態における浴面Smと陰極の上端部及び/又は下端部の距離を減少もしくは増大させる態様は、上述したような正面視で直線状のものに限らない。
たとえば、図4(c)に示すところでは、陰極33bの上端部33gを、通電していない状態における浴面Smからの距離が後壁2c側に向けて、内側に窪む曲線状に漸減するものとし、また図4(d)では、陰極43bの上端部43gを、通電していない状態における浴面Smからの距離が後壁2c側に向けて、外側に突き出る曲線状に漸減するものとしている。
図3及び図4(a)~(d)に示すものは、隔壁4側と後壁2c側との間に、電解面の深さ方向の長さが連続的に変化し、当該長さが隔壁4側から後壁2c側に向かうに従って漸増する部分を有するものである。
そしてまた、図4(e)の陰極53bでは、その上端部53gは、通電していない状態における浴面Smからの距離を後壁2c側に向かう途中で非連続的に急増させることにより段差状の形状を有する。
図4(c)~(e)では、陰極33b、43b、53bの下端部33f、43f、53fは通電していない状態における浴面Smからの距離を一定としている。しかし、図示は省略するが、この下端部を上記のような直線状、曲線状もしくは段差状に変更することも可能である。また、上端部と下端部とで、直線状、曲線状又は段差状の形状の組み合わせを変更してもよい。
上述したものでは、陰極自体の形状を変更することにより、電解面の深さ方向の長さを変化させているが、図4(f)に示すように、陰極63b自体の形状は変更せず、陰極63bの表面に絶縁体からなる遮蔽物63jを、該表面の一部を覆って配置することにより、電解面の深さ方向の長さを隔壁4側と後壁2c側との間で変化させることもできる。図4(f)の例では、陰極63bの表面の上方側部分に、隔壁側部分63dから後壁側部分63eに向けて深さ方向の長さが小さくなる正面視で直角三角形状の遮蔽物63jを配置している。このように遮蔽物63jで覆われた部分は電極として機能しなくなるので、これによって電解面の深さ方向の長さを、隔壁側部分63dよりも後壁側部分63eで長くすることができる。
図4に示す陰極とともに、又は該陰極に代えて、図5(a)に例示するような、電解面の深さ方向の長さを隔壁側部分よりも後壁側部分で長くした陽極83aを用いることができる。なお、この陽極83aは、その下端部83fで、通電していない状態における浴面Smからの距離が後壁2c側に向けて短くなる形状としている。
陽極も、陰極について図4に示すような様々な形状として、電解面の深さ方向の長さを隔壁側部分よりも後壁側部分で長くすることができるが、図5(a)に示すように、陽極83aは、電源に接続するため、上端部83gを溶融塩浴の通電していない状態における浴面Smより上方側に露出させて配置することが多い。それ故に、この場合、陽極は、図5(a)のように下端部83f側の形状を変更するか、または、図4(f)のような遮蔽物63jを用いることが好適である。
また複極についても、図5(b)に例示するように、通電していない状態における浴面Smと上端部93gの距離を後壁2c側に向けて漸増させること等によって、電解面の深さ方向の長さを隔壁側部分93dよりも後壁側部分93eで長くした複極13c等を用いることが可能である。
複極も図5(b)のものに限らず、陰極について図4を用いて説明したような様々な形状ないし態様とすることができる。
図3に示す陰極3bで説明すると、陰極3bの電解面の、隔壁側端部3hにおける深さ方向の長さLdと、後壁側端部3iにおける深さ方向の長さLbとの比(Ld:Lb)は、100:102~100:120とすることが好ましい。なおここでは、陰極3bを例として説明するが、陽極及び/又は複極にこの長さの比についての構成を適用することも可能である。また、図4に示すような各種の形状においてもこの構成を適用可能である。
陰極3bで隔壁側端部3hの長さLdと後壁側端部3iの長さLbとの比(Ld:Lb)を上記の下限以上とすることにより、後壁側部分3eでの十分な浴面上昇が見込まれ、中間部分3kで生じる高い浴面を超えて後壁側から隔壁側への流れを有効に生じさせることができる。
一方、隔壁側端部3hの長さLdと後壁側端部3iの長さLbとの比(Ld:Lb)を上記の上限以下とすることにより、後壁側部分3eでの塩素発生量増加による浴面上昇で改善される後壁側の電解生成金属を含む溶融塩の隔壁側への流れ改善に加え、電流効率向上をも達成しうる。LdとLbの差が大きくなると隔壁側の電解面高さを小さくすることでもたらされる電解面面積の減少に伴う電圧上昇(電力原単位の悪化)が懸念されるが、上記好ましい範囲内では良好な電力原単位を実現可能である。
この観点から、隔壁側端部3hの長さLdと後壁側端部3iの長さLbとの比(Ld:Lb)は、100:102~100:120とすることが好適である。
図6に、電極3の他の配置例を横断面図で示す。
図6に示す電極3は、先に述べたものと同様に、一対以上の陽極73a及び陰極73b並びに、対をなす陽極73a及び陰極73bの間に配置された少なくとも一つの複極73cを含み、陽極73a、陰極73b及び複極73cがそれぞれ、互いに対向して隔壁4と後壁2cとの間に延びる(壁間方向に延びる)陽極部分、陰極部分及び複極部分を有する。
しかしながら、図6の電極3では、特に陰極73b及び複極73cが次に述べる点で、先に述べたものとは異なる。すなわち、この電極3の陰極73bは、隔壁4と後壁2cとの間に延びる陰極部分だけでなく、隔壁4に隣接する位置及び、後壁2cに隣接する位置のそれぞれで、当該陰極部分に対して直交する方向(ここでは隔壁4ないし後壁2cに平行な方向)に延びて上記の陰極部分に連結される部分をさらに有し、図示の横断面で視て、板形状の陽極73aの周囲を取り囲む実質的に矩形状をなす。また、複極73cも、隔壁4と後壁2cとの間に延びる複極部分と、当該複極部分に対して直交する方向に延びて該複極部分に連結される部分とを有する矩形状をなすものであり、かかる複極73cは、陰極73bの内側で陽極73aの周囲を取り囲んで配置されている。
この形の電解槽では、後壁側で後壁2cに平行な電極面でも電解により溶融金属と塩素が生成される。電極3の浴面から電解槽底方向の電極長さ(高さ)に差を設けない場合、隔壁側と後壁側の中間部分で盛り上がる浴面から隔壁側でなく後壁側への流れの力を受けるため、後壁側で生成された溶融金属はほとんど隔壁側へは運ばれず再反応で消費される懸念がある。
このような陽極73a及び陰極73bを有する電極3では、壁間方向に沿った陽極73aの陽極部分の電解面の深さ方向の長さ、及び/又は、矩形状の陰極73bを構成する部分のうちの壁間方向に沿った陰極部分の電解面の深さ方向の長さを、隔壁側部分よりも後壁側部分で長くすることが板形状電極を平行に並べた形の電極3の場合よりもより一層要求される。
さらに図示の例のように複極73cを含む場合は、矩形状の複極73cを構成する部分のうちの壁間方向に沿った複極部分の電解面の深さ方向の長さを、隔壁側部分よりも後壁側部分で長くすることが好適である。
次に、この発明の方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、この説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
図2に示すように陰極、複極、陽極を配置した電解槽を使用し、塩化マグネシウムの電気分解を行った。いずれの電極も板形状である。
実施例1~5の陰極の電解面の形状を図7(a)に、実施例6~10の陰極の電解面の形状を図7(b)に、実施例11~15の陰極の電解面の形状を図8(a)に、実施例16~20の陰極の電解面の形状を図8(b)に、実施例21~25の陰極の電解面の形状を図9(a)に、実施例26~30の陰極の電解面の形状を図9(b)にそれぞれ示す。陽極及び複極は、浴面下の電解面が矩形(隔壁側端部から後壁側端部まで電解面深さ方向の長さがほぼ一定)のものとした。以下の実施例、比較例で使用した電極は、通電していない状態における浴面からの深さ方向の最大長さを一定とした。
比較例1では、陰極の浴面下の電解面を矩形(隔壁側端部から後壁側端部まで電解面深さ方向の長さがほぼ一定)とした。
比較例2でも、陰極の浴面下の電解面を矩形(隔壁側端部から後壁側端部まで電解面深さ方向の長さがほぼ一定)としたが、陰極を切り欠き電極とした。この切り欠き電極は、電解面を観察すると矩形であるが、図10に示すように、斜線にそって略一定に電極の上端部を薄くしており、溶融塩浴が隔壁側に向けて流れるように物理的な溝を形成した電極である。
溶融塩浴の浴組成と質量については、MgCl2、CaCl2、NaCl、MgF2がそれぞれ質量比で20%、30%、49%、1%からなる溶融塩とし、溶融塩浴の目標維持温度を660℃とし、12か月の期間にわたって運転を行った。
なお、比較例1、2及び実施例1~30における電流効率は、比較例1の電流効率を100とした場合の相対値で表している。ここで、電流効率の求め方を以下に示す。すなわち、電解槽に流した通電量により算出される理論Mg生成量(=ファラデーの法則に基づいて計算されるMg生成量でこれを電流効率100%とする)に対し、実際に対象とする電解槽から回収されるMg量の比率を百分率で表した数値を(対象電解槽の)電流効率としている。
なお、電気分解実施中は短絡の有無を確認するとともに、電気分解終了後は蓋体を外してMg滞留の有無を確認した。
電流効率、短絡の有無、Mg観察結果を、各例の電解面形状とともに表1~7に示す。
Figure 0007076296000001
Figure 0007076296000002
Figure 0007076296000003
Figure 0007076296000004
Figure 0007076296000005
Figure 0007076296000006
Figure 0007076296000007
以上の結果より、陰極の電解面長さを隔壁側部分よりも後壁側部分で長くした実施例1~30はいずれも、電流効率が良好であり、極間滞留Mgによる短絡が認められなかった。このことから、実施例1~30では、溶融金属と溶融塩浴の流れの滞留を有効に抑制できたことが解かる。また、各電解面形状で、Ld:Lbの比を100:102~100:120の範囲とすることにより、極間滞留Mgによる短絡をより有効に抑制することができた。
上述した試験に加えて、陰極の代わりに、複極の電解面形状を図7(a)、図8(a)並びに図9(a)のように変化させた試験と、複極及び陽極のそれぞれの電解面形状を図7(b)、図8(b)並びに図9(b)のように変化させた試験を行ったところ、同様の説明は省略するが、電流効率及び極間滞留Mgによる短絡に関して対応する実施例1~30と実質的に同等の効果が得られた。
これらの結果から、電解面の深さ方向の長さを隔壁側部分よりも後壁側部分で長くすることにより、電解室での溶融金属と溶融塩浴の流れの滞留を有効に抑制できることが解かった。
1 溶融塩電解槽
2 電解槽
2a 電解室
2b 貯留室
2c 後壁
3 電極
3a、73a、83a 陽極
3b、13b、23b、33b、43b、53b、63b、73b 陰極
3c、73c、93c 複極
3d、13d、23d、33d、43d、53d、63d、83d、93d 隔壁側部分
3e、13e、23e、33e、43e、53e、63e、83e、93e 後壁側部分
3f、13f、23f、33f、43f、53f、63f、83f、93f 下端部
3g、13g、23g、33g、43g、53g、63g、83g、93g 上端部
3h 隔壁側端部
3i 後壁側端部
63j 遮蔽物
4 隔壁
4a 溶融塩循環路
4b 溶融金属流路
Sm 通電していない状態の溶融塩浴の浴面
Ld 隔壁側端部での電解面の深さ方向の長さ
Lb 後壁側端部での電解面の深さ方向の長さ
Du 浴面と上端部の距離
Db 浴面と下端部の距離

Claims (11)

  1. 隔壁により区画された貯留室及び電解室を有する電解槽の内部を、金属塩化物が含まれる溶融塩で満たした溶融塩浴とし、前記電解室で、溶融塩中の金属塩化物を、電極への通電に基いて電気分解し、該電気分解により得られる溶融金属を貯留室に流入させる溶融金属の製造方法であって、
    前記電解槽が、前記電解室内の前記電極を隔てて前記隔壁の反対側に位置して前記隔壁に対向する後壁を備え、
    前記電極が、浴面下に位置し電子の受け渡しを行う電解面を有し、該電極が、隔壁と後壁の壁間方向で、前記隔壁に隣接する隔壁隣接部分と、前記後壁に隣接する後壁隣接部分とを含み、
    前記電極のうちの少なくとも一つとして、前記後壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さが前記隔壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さよりも長い電極を用いる、溶融金属の製造方法。
  2. 前記電極が、一対以上の陽極及び陰極を含み、前記陽極及び陰極の少なくとも一対がそれぞれ、互いに対向して隔壁と後壁との間に延びる陽極部分及び陰極部分を有し、
    前記陽極部分及び陰極部分のうちの少なくとも一つ前記後壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さが前記隔壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さよりも長いもとする、請求項1に記載の溶融金属の製造方法。
  3. 前記電極のうちの少なくとも一つが、前記電解面の深さ方向の長さを隔壁から後壁に向かうに従って漸増させた部分を有する、請求項1又は2に記載の溶融金属の製造方法。
  4. 前記後壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さが前記隔壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さよりも長い電極において、
    当該電極の前記電解面の、隔壁隣接端部における深さ方向の長さと後壁隣接端部における深さ方向の長さとの比を、100:102~100:120とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶融金属の製造方法。
  5. 前記電極のうちの少なくとも一つが、壁間方向に延びる板形状を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶融金属の製造方法。
  6. 前記電極がさらに、対をなす陽極及び陰極の間に配置された少なくとも一つの複極を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶融金属の製造方法。
  7. 前記金属塩化物を塩化マグネシウムとし、電気分解により得られる溶融金属が金属マグネシウムである請求項1~6のいずれか一項に記載の溶融金属の製造方法。
  8. 内部を、金属塩化物が含まれる溶融塩で満たした溶融塩浴とする電解槽と、前記電解槽の内部を、溶融塩中の金属塩化物を電気分解する電解室及び、該電気分解により得られる溶融金属が流入する貯留室に区画する隔壁と、前記電解室に配置されて前記電気分解に用いられる電極と、前記電極を隔てて前記隔壁の反対側に位置して前記隔壁に対向する後壁とを備える溶融塩電解槽であって、
    前記電極が、浴面下に位置し電子の受け渡しを行う電解面を有し、該電極が、隔壁と後壁の壁間方向で、前記隔壁に隣接する隔壁隣接部分と、前記後壁に隣接する後壁隣接部分とを含み、
    前記電極のうちの少なくとも一つ前記後壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さが前記隔壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さよりも長い溶融塩電解槽。
  9. 前記電極が、一対以上の陽極及び陰極を含み、前記陽極及び陰極の少なくとも一対がそれぞれ、互いに対向して隔壁と後壁との間に延びる陽極部分及び陰極部分を有し、
    該陽極部分及び陰極部分の少なくとも一つ前記後壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さが前記隔壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さよりも長い請求項8に記載の溶融塩電解槽。
  10. 前記後壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さが前記隔壁隣接部分の前記電解面の深さ方向の長さよりも長い電極において、
    当該電極の前記電解面の、隔壁隣接端部における深さ方向の長さと後壁隣接端部における深さ方向の長さとの比が、100:102~100:120である請求項8又は9に記載の溶融塩電解槽。
  11. 前記電極がさらに、対をなす陽極及び陰極の間に配置された少なくとも一つの複極を含む請求項8~10のいずれか一項に記載の溶融塩電解槽。
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