以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、第1実施形態における半導体装置100の上面図である。本例の半導体装置100は、半導体基板10を有する。本例の半導体基板10はシリコン(Si)基板である。ただし、他の例において半導体基板10は、炭化ケイ素(SiC)基板、窒化ガリウム(GaN)基板または酸化ガリウム(Ga2O3)基板であってもよい。半導体装置100は、矩形形状の半導体基板10を有してよい。本例の半導体基板10は、X軸方向に平行な2つの端辺と、Y軸方向に平行な2つの端辺とを有する。
本明細書において、X軸方向とY軸方向とは互いに直交する方向であり、Z軸方向はX‐Y平面に垂直な方向である。X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は、いわゆる右手系を成す。なお、本明細書においては、Z軸方向と平行な方向を半導体基板10の深さ方向と称する場合がある。本明細書において、「上」および「下」の用語は、重力方向における上下方向に限定されない。これらの用語は、予め定められた軸に対する相対的な方向を指すに過ぎない。
本例の半導体装置100は、活性領域110、パッド領域120およびエッジ終端領域130を有する。活性領域110は、複数の素子領域を有してよい。本例の活性領域110は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)領域80と、温度センス素子領域90とを含む。なお、半導体基板10が炭化ケイ素基板、窒化ガリウム基板または酸化ガリウム基板の場合、活性領域110は、IGBT領域80に代えて、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)領域を有してよい。本例の温度センス素子領域90は、XおよびY軸方向において活性領域110の中央部に設けられる。
本例の温度センス素子領域90は、PN接合を有するダイオード領域を有する。ダイオード領域の電流‐電圧特性は温度に依存して変化し得る。それゆえ、例えば、一定の電流を流した場合の電圧の変化をモニタリングすることにより、半導体基板10の温度を測定することができる。半導体装置100に過電流が流れた場合に、半導体基板10の温度が急激に上昇することが知られている。温度センス素子を利用して半導体基板10の温度を測定することにより、半導体装置100に過電流が生じたことを推定することができる。半導体装置100に過電流が流れた場合に、半導体装置100に流れる電流を制限することにより、半導体装置100の短絡耐量を高くすることができる。
本例の半導体装置100は、アノード金属層93と、カソード金属層95とを有する。アノード金属層93は、温度センス素子領域90におけるP型領域と、パッド領域120におけるアノードパッド124とを接続してよい。カソード金属層95は、温度センス素子領域90におけるN型領域と、パッド領域120におけるカソードパッド126とを接続してよい。活性領域110の一部の領域であって、温度センス素子領域90、アノード金属層93及びカソード金属層95が設けられる領域には、IGBT領域80が設けられなくてよい。
本例の半導体装置100は、IGBT領域80の周りにゲートランナー82を有する。ゲートランナー82は、IGBT領域80の周囲を囲んでよい。ゲートランナー82は、Y軸方向に平行な直線部分からX軸方向に延伸して、IGBT領域80内に設けられてもよい。ゲートランナー82は、IGBT領域80におけるゲート導電部に電気的に接続してよい。これにより、ゲートパッド122からゲートランナー82を経て、IGBT領域80におけるゲート導電部にゲート信号を供給することができる。ゲートランナー82は、ポリシリコン層、金属層またはこれらの組合せにより形成されてよい。
パッド領域120は、複数のパッドと素子領域とを有してよい。本例のパッド領域120は、ゲートパッド122、アノードパッド124、カソードパッド126及びセンス(sense)エミッタパッド128と、センスIGBT領域127とを有する。
センスIGBT領域127は、活性領域110のIGBT領域80に流れる主電流を検出する目的で設けられてよい。センスIGBT領域127に流れるセンス電流を、半導体装置100外に設けられた制御回路に取り込むことにより、IGBT領域80に流れる主電流を推定することができる。なお、センス電流の大きさは、主電流に比べて十分に小さくてよい。センスエミッタパッド128は、センスIGBT領域127のエミッタ電極と同電位のパッドであってよい。センス電流は、センスエミッタパッド128を通じて上述の制御回路に取り込まれてよい。
エッジ終端領域130は、活性領域110及びパッド領域120を囲むように設けられてよい。エッジ終端領域130は、半導体基板10の上面近傍の電界集中を緩和する機能を有してよい。エッジ終端領域130は、ガードリング、フィールドプレート、リサーフ又はこれらを組み合わせた構造を有してよい。
図2は、図1のA‐A断面図である。A‐A断面は、X‐Z面と平行であり、IGBT領域80及び温度センス素子領域90を通る断面である。本例の半導体基板10は、N-型のドリフト領域20、P型のベース領域22、N+型のバッファ領域34及びP+型のコレクタ領域32を有する。ドリフト領域20、ベース領域22、バッファ領域34及びコレクタ領域32は、IGBT領域80及び温度センス素子領域90において各々共通する。本例の半導体基板10は、IGBT領域80において、N+型のエミッタ領域24、P+型のコンタクト領域26及びゲートトレンチ部40を有する。
本例において、PおよびNは、各導電型を意味する。特に、Pは正孔が多数キャリアであることを意味し、Nは電子が多数キャリアであることを意味する。本例において、P型不純物は半導体基板10に対する第1導電型不純物の一例であり、N型不純物は半導体基板10に対する第2導電型不純物の一例である。特定の例に限定されないが、半導体基板10がシリコン基板である場合に、P型不純物はボロン(B)またはアルミニウム(Al)であってよく、N型不純物はリン(P)またはヒ素(As)であってよい。ただし、他の例においては、P型不純物が第2導電型不純物に対応し、N型不純物が第1導電型不純物に対応してもよい。
本例のゲートトレンチ部40は、トレンチ43に接するゲート絶縁膜44と、ゲート絶縁膜44に接するゲート導電部42とを有する。トレンチ43は、半導体基板10の上面12から深さ方向に延伸し、ベース領域22を貫通してドリフト領域20に達してよい。トレンチ43は、ゲート絶縁膜44及びゲート導電部42で充填されてよい。ゲート導電部42には、ゲートランナー82を経てゲート信号が供給されてよい。ゲート導電部42は、層間絶縁膜38によりエミッタ電極50から電気的に分離されてよい。ゲート導電部42は、ポリシリコンで形成されてよい。ゲート絶縁膜44は二酸化シリコン(SiO2)で形成されてよい。
エミッタ領域24は、トレンチ43の側部と上面12とに接してよい。エミッタ領域24は、上面12からベース領域22よりも浅い所定の深さ位置まで設けられてよい。エミッタ領域24は、Y軸方向と平行に延伸するようストライプ状に設けられてよい。X軸方向において離間した一対のエミッタ領域24の間には、コンタクト領域26が設けられてよい。コンタクト領域26は、上面12から、エミッタ領域24よりも深く且つベース領域22よりも浅い深さ位置まで設けられてよい。コンタクト領域26も、Y軸方向と平行に延伸するようストライプ状に設けられてよい。
本例の半導体装置100は、コレクタ電極30及びエミッタ電極50を有する。コレクタ電極30は、半導体基板10の下面14全体に接して設けられてよい。コレクタ電極30は、下面14に近い順に、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)及び金(Au)が積層された金属層であってよい。エミッタ電極50は、IGBT領域80の上面12上に設けられてよい。エミッタ電極50は、ゲート絶縁膜44および層間絶縁膜38に設けられた開口を通じて、上面12に露出するエミッタ領域24及びコンタクト領域26に接してよい。エミッタ電極50は、アルミニウム電極であってよく、アルミニウム‐シリコン合金であってよく、アルミニウム‐ニッケル合金であってもよい。
本例の温度センス素子領域90は、半導体基板10の上方に設けられる。本例の温度センス素子領域90はダイオード領域96、アノード金属層93、カソード金属層95、酸化膜36及び層間絶縁膜38を含む。酸化膜36は、ゲート絶縁膜44と同じプロセスで形成された二酸化シリコン膜であってよい。本例のダイオード領域96は、酸化膜36上に設けられたポリシリコン層を有する。ポリシリコン層に設けられたアノード領域92及びカソード領域94は、PN接合を形成してよい。
温度センス素子領域90に設けられた層間絶縁膜38は、アノード領域92及びカソード領域94の各々に対応する開口を有してよい。アノード金属層93は、アノード領域92上の開口を通じてアノード領域92に電気的に接続してよい。また、カソード金属層95は、カソード領域94上の開口を通じてカソード領域94に電気的に接続してよい。
図示しないが、半導体装置100は、IGBT領域80及び温度センス素子領域90の最上部にパッシベーション膜を有してよい。また、パッシベーション膜は、導電ワイヤまたは導電ピンがエミッタ電極50および各パッドに電気的に接続するための開口を有してよい。
図3は、図1のB‐B断面図である。B‐B断面は、X‐Z面と平行であり、活性領域110及びエッジ終端領域130を通る断面である。本例の半導体基板10は、P+型のウェル領域28と、P型のガードリング132とをさらに有する。本例のウェル領域28は、活性領域110のうち、IGBT領域80以外の領域である周辺領域70に設けられる。ウェル領域28は、上面12からトレンチ43の底部よりも深い所定の深さ位置まで設けられてよい。
本例のゲートランナー82は、ポリシリコン層で形成される。ゲートランナー82は、ウェル領域28の上方に設けられてよい。ゲートランナー82は、酸化膜36により半導体基板10から電気的に絶縁されてよく、層間絶縁膜38によりエミッタ電極50から電気的に絶縁されてよい。
本例のエッジ終端領域130は、ガードリング構造を有する。ガードリング132は上面視において角が丸い矩形のリング状に設けられてよい。ガードリング132は、上面12からウェル領域28の底部と同じ深さ位置まで設けられてよい。エッジ終端領域130は、酸化膜36及び層間絶縁膜38の開口を通じてガードリング132に電気的に接続する金属層134を有してよい。1つのガードリング132に対応して1つの金属層134が設けられてよい。本例のエッジ終端領域130は、X軸方向(及びY軸方向)において互いに離間したガードリング132及び金属層134の組を複数有する。
図4は、半導体装置100の製造方法を示すフロー図である。本例においては、段階S110からS250まで番号の小さい順に各段階が行われる。
図5において、(a)は段階S110を示し、(b)は段階S120を示し、(c)は段階S130を示し、(d)は段階S140を示し、(e)は段階S150を示す。なお、図5から図7においては、図2と同様にIGBT領域80および温度センス素子領域90の断面を示し、周辺領域70およびエッジ終端領域130を省略する。
図5の(a)は、半導体基板10にトレンチ43を形成する段階S110である。例えば、フォトリソグラフィープロセスにより上面12上に所定の開口パターンを有するフォトレジストを設けた上でドライエッチングを行う。これにより、半導体基板10にトレンチ43を形成することができる。
図5の(b)は、半導体基板10を熱酸化する段階S120である。例えば、800℃から1100℃の温度で半導体基板10を熱酸化することにより、酸化膜36を形成する。酸化膜36は、上面12及びトレンチ43の表面に接して設けられてよい。
図5の(c)は、半導体基板10にP型不純物を注入する段階S130である。段階S130においては、ベース領域22を形成するべく、IGBT領域80にボロンを注入してよい。本例においては、IGBT領域80および温度センス素子領域90に対応する領域にボロンを注入する。
図5の(d)は、ポリシリコン層60を形成する段階S140である。例えば、原料ガスとしてシラン(SiH4)を用いて、LPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)により、半導体基板10の上方にポリシリコン層60を堆積させることができる。本例のポリシリコン層60は、上面12上の酸化膜36に接し、且つ、トレンチ43を埋めるように設けられる。
図5の(e)は、ポリシリコン層60を選択的にエッチングする段階S150である。選択的エッチングにより除去されないポリシリコン層60のうち、トレンチ43に埋め込まれた部分がゲート導電部42として機能してよく、温度センス素子領域90における半導体基板10の上方に設けられた部分がダイオード領域96として機能してよい。なお、図示しないが、段階S150においては、周辺領域70に位置するポリシリコン層60を選択的に残す。これにより、ゲートランナー82を周辺領域70に形成する。周辺領域70に設けられたポリシリコン層60は、上述のゲートランナー82として機能してよい。
図6において、(a)は段階S160を示し、(b)は段階S165を示し、(c)は段階S170を示し、(d)は段階S180を示し、(e)は段階S190を示し、(f)は段階S200を示す。
図6の(a)は、半導体基板10の一部にP型不純物を注入する段階S160である。本例においては、コンタクト領域26を形成するべく、半導体基板10の一部に選択的にボロンを注入する。所定の開口パターンを有するフォトレジストを設けた上でイオン注入を行うことにより、半導体基板10へ選択的にボロンを注入することができる。
図6の(b)は、ポリシリコン層60の一部にP型不純物を注入する段階S165である。本例においては、アノード領域92を形成するべく、ポリシリコン層60の一部に選択的にボロンを注入する。所定の開口パターンを有するフォトレジストを設けた上でイオン注入を行うことにより、ポリシリコン層60へ選択的にボロンを注入することができる。段階S165におけるP型不純物のドーズ量[cm-2]は、段階S160と異なっていてよい。本例においては、段階S160と段階S165とで個別にドーズ量[cm-2]を調整することで、アノード領域92のP型ドーピング濃度[cm-3]をPN接合にとってより適した濃度としてよい。
図6の(c)は、半導体基板10を高温でアニールする段階S170である。段階S170は、ボロンが注入された半導体基板10を、500℃よりも高い温度でアニールする第1の高温アニール段階の一例である。本例においては、アニール装置300を用いて、不活性ガス雰囲気において1000℃で半導体基板10をアニールする。これにより、注入した不純物を活性化してよい。
図6の(d)は、ポリシリコン層を60の一部と半導体基板10の一部とにN型不純物を注入する段階S180である。本例においては、カソード領域94およびエミッタ領域24を形成するべく、所定の開口パターンを有するフォトレジストを介して、ポリシリコン層を60の一部と半導体基板10の一部とに同時にヒ素を注入する。それゆえ、本例において、カソード領域94とエミッタ領域24とにおけるN型ドーピング濃度[cm-3]は同じであってよい。なお、ヒ素に代えて、リンを注入してもよい。
図6の(e)は、半導体基板10を高温でアニールする段階S190である。段階S190は、ヒ素が注入された半導体基板10を、500℃よりも高い温度でアニールする第2の高温アニール段階の一例である。本例においては、アニール装置300を用いて、不活性ガス雰囲気において1000℃で半導体基板10をアニールする。これにより、段階S180において注入した不純物を活性化してよい。不純物を活性化することにより、アノード領域92およびカソード領域94のPN接合が形成されてよい。
図6の(f)は、層間絶縁膜38を堆積し、その後、層間絶縁膜38に開口を形成する段階S200である。層間絶縁膜38は、BPSG(Boro‐Phospho Silicate Glass)、PSG(Phosphorus Silicate Glass)又はBSG(Borosilicate Glass)であってよい。本例においては、常圧CVDにより層間絶縁膜38を堆積させた後、リフローにより層間絶縁膜38を平坦化する。また本例においては、その後、フォトリソグラフィーおよびエッチングプロセスにより、層間絶縁膜38に所定の開口パターンを設ける。
図7において、(a)は段階S210を示し、(b)は段階S220を示し、(c)は段階S230を示し、(d)は段階S240を示す。
図7の(a)は、エミッタ電極50、アノード金属層93及びカソード金属層95を形成する段階S210である。スパッタリングによりアルミニウム膜を上面12上方に堆積させた後、フォトリソグラフィーおよびエッチングプロセスにより、アルミニウム膜を所定の形状となるようエッチングしてよい。これにより、互いに電気的に分離されたエミッタ電極50、アノード金属層93及びカソード金属層95を形成してよい。なお、エミッタ電極50と上面12との間に、窒化チタン(TiN)層およびチタン(Ti)の積層を設けてもよい。この場合、窒化チタン層が上面12と接触し、チタン層がエミッタ電極50と接触してよい。
図7の(b)は、半導体基板10を薄化する段階S220である。これにより、半導体基板10の厚みを、半導体装置100の耐圧に応じた厚みとしてよい。一般に、半導体基板10の厚みを大きいほど、半導体装置100の耐圧を高くすることができる。
図7の(c)は、コレクタ領域32を形成する段階S230である。本例においては、コレクタ領域32を形成するべく、半導体基板10の下面14からボロンを注入する。コレクタ領域32は、下面14から上面12への方向において所定の厚みを有するよう設けられてよい。
図7の(d)は、バッファ領域34を形成する段階S240である。バッファ領域34は、半導体装置100のターン・オフ時にベース領域22の底部から下面14へ広がる空乏層がコレクタ領域32に到達することを防ぐ機能を有してよい。バッファ領域34は、フィールドストップ層とも称される。本例では、下面14からリンを多段注入することにより、深さ方向においてN型のドーピング濃度分布において離散的なピークを形成してよい。
図8において、(a)は段階S250を示し、(b)は段階S260を示す。
図8の(a)は、水素雰囲気において半導体基板10を低温アニールする段階S250である。なお、本明細書においては、水素雰囲気におけるアニールを、水素アニールと称する場合がある。水素雰囲気とは、例えば、半導体基板10が載置されるアニール装置300のチャンバー内において、水素ガス(H2 gas)が充填された状態を意味する。本例においては、水素雰囲気において390℃以上の温度でダイオード領域96をアニールする。後述するように、比較的低温で半導体基板10を水素アニールすることにより、温度センス素子の特性ばらつきを低減することができる。
限定的な例ではないが、例えば、水素アニールにより、ポリシリコン層60におけるダングリングボンドを水素で終端することができ、且つ、ポリシリコン層60の粒界における欠陥密度を低減することができる。これにより、温度センス素子の特性ばらつきが低減できると考えられる。
低温アニール段階S250においては、440℃以上の温度でダイオード領域96を水素アニールしてよい。これにより、水素雰囲気において440℃未満でアニールする場合と比較して、ダングリングボンドをより効果的に終端することができ、且つ、より効果的に欠陥密度を低減することができる。
ただし、低温アニール段階S250においては、500℃以下の温度でダイオード領域96をアニールすることが望ましい。アニール温度が500℃を超えると、段階S250においてポリシリコン層60に取り込まれた水素が、ポリシリコン層60から外部へ抜け得る。本例では、段階S250におけるアニール温度を500℃以下とすることにより、ポリシリコン層60に取り込んだ水素が抜けることを抑制することができる。本例の段階S250においては、450℃で水素アニールする。
なお、本例の各段階は、適宜順番を変えて実行してもよい。ただし、ポリシリコン層60に取り込んだ水素が抜けることを防ぐべく、段階S170およびS190における高温アニールは、低温アニール段階S250の前に行うことが望ましい。これにより、半導体装置100において水素アニールの効果を得ることができる。
本例においては、低温アニール段階S250が、段階S240において下面14から注入されたリンを活性化することも兼ねる。本例においては、水素雰囲気において450℃で5時間、半導体基板10をアニールする。これにより、ダイオード領域96及びゲートランナー82において水素アニールの効果を得、且つ、コレクタ領域32及びバッファ領域34の不純物を活性化することができる。
また、本例においては、段階S250において、周辺領域70に位置するゲートランナー82もアニールする。これにより、ポリシリコンを有するゲートランナー82においても、水素アニールの効果を得ることができる。例えば、水素雰囲気において低温アニールをしない場合と比較して、ゲートランナー82における抵抗率の低減が期待できる。ゲートランナー82の抵抗率が低減できれば、半導体装置100における消費電力及び信号遅延を低減することもできる。
なお、本例において、半導体基板10はシリコン単結晶基板である。半導体基板10は、ポリシリコン層60に比べて粒界および欠陥が少ない。それゆえ、半導体基板10においては、ポリシリコン層60に比べて、水素が入り難い。したがって、ポリシリコン層60に設けられたダイオード領域96及びゲートランナー82における水素濃度は、半導体基板10の上面12近傍における半導体基板10の水素濃度よりも高くてよい。上面12近傍とは、上面12からトレンチ43の底部までの範囲であってよく、上面12から半導体基板10の深さ5μmまでの範囲であってよく、上面12から半導体基板10の深さ10μmまでの範囲であってもよい。
また、同じポリシリコン層60であっても、上面12の上方に設けられたダイオード領域96及びゲートランナー82の水素濃度は、ゲート導電部42の水素濃度よりも高くてよい。ダイオード領域96及びゲートランナー82の水素濃度とは、各々のZ軸方向における水素濃度の平均値であってよい。また、ゲート導電部42の水素濃度とは、深さ方向におけるゲート導電部42全体の水素濃度の平均値であってよく、深さ方向におけるエミッタ領域24よりも下に位置するゲート導電部42の水素濃度の平均値であってよく、深さ方向におけるゲート導電部42の下半分の水素濃度の平均値であってもよい。ポリシリコン層60を上面12の上方に設けることで、トレンチまたは凹部にポリシリコン層60を埋め込んだ場合と比較して、水素アニールの効果が向上することが期待される。
図8の(b)は、コレクタ電極30を形成する段階S260である。本例では、スパッタリングにより、チタン、ニッケル及び金を順次堆積させてよい。これにより、コレクタ電極30として機能する金属層を形成してよい。
なお、他の例においては、ダイオード領域96及びゲートランナー82の水素アニールと、コレクタ領域32及びバッファ領域34の不純物を活性化とを別途の段階で行ってもよい。コレクタ領域32及びバッファ領域34の不純物を活性化するためのアニールの温度が500℃を超える場合には、不純物を活性化するアニールの後に、水素アニールを行ってよい。
図9Aは、ダイオード領域96を水素アニールしなかった場合の順方向電圧の特性を示す。図9Bは、ダイオード領域96を水素アニールした場合の順方向電圧の特性を示す。横軸は、ダイオード領域96が25℃の場合における、ダイオード領域96の順方向電圧(以降、VFRTと称する。)[V]を示す。縦軸は、ダイオード領域96が150℃の場合における、ダイオード領域96の順方向電圧(以降、VFHTと称する。)[V]を示す。
本例においては、N型のカソード領域94におけるヒ素のドーズ量[cm-2]を一定としたうえで、P型のアノード領域92におけるボロンのドーズ量[cm-2]が異なる4つのサンプルを準備した。図9A及び図9Bにおいて、ボロンのドーズ量が各々、1E+14[cm-2]の場合を○で示し、8E+13[cm-2]の場合を△で示し、6E+13[cm-2]の場合を□で示し、4E+13[cm-2]の場合を◇で示す。
図9A及び図9Bにおいて、測定データには正の相関が得られた。つまり、VFRTが大きくなるほど、VFHTも大きくなった。ただし、図9A及び図9Bの比較から明らかなように、ドーズ量のばらつきに対する特性のばらつきは、水素アニールを行った図9Bの方が小さかった。所定のVFHT(例えば、VFHT=0.95)に対して、各曲線における最大のVFRTと最小のVFRTとの差異は、図9Aに比べて図9Bの方が小さい。また、所定のVFRT(例えば、VFRT=1.4)に対して、各曲線における最大のVFHTと最小のVFHTとの差異は、図9Aに比べて図9Bの方が小さい。このように、本例においては、水素アニールを行うことにより、ドーズ量のばらつきに対して温度センス素子の特性ばらつきを低減することができた。なお、本例の図9Aにおいては水素アニールを行わなかったが、水素アニールを行った後に500℃を超える温度でアニールした場合には、図9Aと同様の結果が得られると考えられる。
図10Aは、水素アニールをしなかった場合において、ダイオード領域96が25℃である場合の順方向電圧‐順方向電流を示す。図10Bは、水素アニールをした場合において、ダイオード領域96が25℃である場合の順方向電圧‐順方向電流を示す。図10Aおよび図10Bにおいて、縦軸は順方向電流IF[A]であり、横軸は順方向電圧VFS[V]である。なお、図10Bの半導体装置100では、水素雰囲気において450℃で5時間、半導体基板10をアニールしたが、図10Aの半導体装置100では、対応するアニールを行わなかった。図10Aおよび図10Bにおいて、実線は測定値を示し、破線はフィッティング曲線を示す。なお、実線と破線とが重なっている部分においては、実線のみが視認される。
抵抗成分を考慮した順方向電圧VFSは、[数1]で表される。[数1]の右辺第1項は、拡散電流と再結合電流とを考慮した項である。[数1]の右辺第2項は、抵抗を考慮した項である。ここで、nは理想係数であり、1以上2以下の無次元の数である。nは、欠陥が全く無い理想的な場合にはn=1となり、結晶性が悪いほど2に近くなる。kはボルツマン定数[J/K]であり、Tは絶対温度[K]であり、IF及びAは電流[A]であり、Rは抵抗[Ω]である。なお、右辺第1項の次元は、1クーロン当たりのエネルギー[J/C]、即ち、[V]である。また、右辺第2項の次元も[V]である。
[数1]
VFS=3nkT・ln(IF/A)+IF・R
本実験の図10Aにおいて、n=1.85、A=1.1E-10、R=52となった。また、本実験の図10Bにおいて、n=1.62、A=1.0E-11、R=45となった。なお、Eは10の冪を表し、1.1E-10は1.1×10-10に等しい。
nの値は、図10Aに比べて図10Bの方が小さくなった。具体的には、図10Bのnは、図10Aのnの約88%(1.62/1.85=0.8756…)であった。また、抵抗Rの値も、図10Aに比べて図10Bの方が小さくなった。具体的には、図10Bのnは、図10Aのnの約87%(45/52=0.8653…)であった。このように、水素アニールはポリシリコン層60の欠陥の低減に寄与していることが確認された。
図11は、第2実施形態における半導体装置200の上面図である。本例の半導体装置200は、1つの半導体基板10にIGBT領域80とFWD(Free Wheeling Diode)領域84とを有する、いわゆるRC‐IGBT(Reverse Conducting‐IGBT)半導体装置である。本例においては、複数のIGBT領域80の各々がY軸方向に並んで設けられる。また、複数のFWD領域84の各々もY軸方向に並んで設けられる。さらに、X軸方向においてIGBT領域80とFWD領域84とは交互に設けられる。
本例において、温度センス素子領域90のX軸方向の両側には、中央部以外の他のIGBT領域80よりも面積が小さいIGBT領域80が設けられる。また、温度センス素子領域90よりも-Y方向においても、中央部以外のIGBT領域80よりも面積が小さいIGBT領域80が設けられる。なお、これら比較的面積が小さいIGBT領域80は、アノード金属層93及びカソード金属層95をX軸方向において挟むように設けられる。本例は、主として係る点において第1実施形態と異なる。なお、温度センス素子領域90は、第1実施形態と同様に、上面視した場合に半導体装置200の中央部に設けられる。
図12は、図11のC‐C断面図である。C‐C断面は、X‐Z面と平行であり、FWD領域84、IGBT領域80及び温度センス素子領域90を通る断面である。本例において、FWD領域84は、P+型のコレクタ領域32に代えて、N+型のカソード領域86を有する。また、本例の半導体基板10は、バッファ領域34中に欠陥領域33を有する。欠陥領域33は、キャリアライフタイムを調整する機能を有してよい。例えば、欠陥領域33が設けられていない場合と比べて、欠陥領域33が設けられた場合にはキャリアライフタイムが短くなる。
本例の欠陥領域33は、バッファ領域34が設けられる深さ範囲における所定の深さ位置に設けられる。ただし、バッファ領域34は、ドリフト領域20が設けられる深さ範囲における所定の深さ位置に設けられてよく、ベース領域22が設けられる深さ範囲における所定の深さ位置に設けられてもよい。また、これらを組み合わせてもよい。また、本例の欠陥領域33は、所定の深さ位置において、IGBT領域80、FWD領域84及び温度センス素子領域90の全体に設けられる。ただし、他の例において、欠陥領域33は、所定の深さ位置におけるFWD領域84のみに設けられてよく、所定の深さ位置におけるFWD領域84およびIGBT領域80のみに設けられてもよい。
図13は、半導体装置200の製造方法を示すフロー図である。本例の段階S110からS250は、図4と同じである。図13においては、段階S250の後に、半導体基板10にライフタイムキラーを注入する段階S254と、水素雰囲気において半導体基板10をアニール段階S258とを有する。なお、段階S258は、追加の水素アニール段階の一例である。本例においても、段階を示す番号の小さい順に各段階が行われる。
図14において、(a)は段階S254を示し、(b)は段階S258を示す。図14において、(a)は、コレクタ電極30を介して下面14から半導体基板10内に、ライフタイムキラーとしてのヘリウムイオンまたは電子線を照射することにより欠陥領域33を形成する段階S254である。ヘリウムイオンまたは電子線の加速エネルギーを調節することにより、欠陥領域33が設けられる深さ位置を調節してよい。加速エネルギーが小さいほど下面14近くに欠陥領域33を形成することができ、加速エネルギーが大きいほど上面12近くに欠陥領域33を形成することができる。
図14において、(b)は、アニール装置300を用いて、水素雰囲気において390℃よりも低い温度で半導体基板10をアニールする追加の水素アニール段階S258である。段階S258においては、320℃以上390℃より低い温度で半導体基板10を水素アニールしてよい。本例においては、ポリシリコン層60の水素アニール温度よりも低い380℃で半導体基板10を水素アニールする。これにより、段階S254において導入した欠陥領域33をある程度回復することができるので、照射だけを行う場合に比べてライフタイムをより最適化することができる。
本例においては、水素アニール段階S250の後に、ヘリウムイオンまたは電子線を照射する。ドーズ量にもよるが、450℃程度のアニールにより欠陥領域33がほぼ回復する場合もある。本例の追加の水素アニールにおいては、380℃で水素アニールすることにより、欠陥領域33が回復し過ぎることを防ぐことができる。さらに、水素雰囲気でアニールすることにより、水素が無い雰囲気でアニールする場合に比べて、段階S250でポリシリコンに導入した水素が抜けることを抑制することができる。
図15は、450℃水素アニールの有無に応じた順方向電圧を測定した、第1の実験結果を示す図である。図15において、(a)は、450℃水素アニールをした場合の順方向電圧VFを示す。本実験において、450℃水素アニールをした場合とは、水素アニール段階S250も追加の水素アニール段階S258も行ったことを意味する。(b)は、450℃水素アニールをしなかった場合の順方向電圧VFを示す。本実験において、450℃水素アニールをしなかった場合とは、水素アニール段階S250は行わなかったが、追加の水素アニール段階S258は行ったことを意味する。(a)および(b)において、縦軸は順方向電圧[V]を示し、横軸はウェハのサンプル番号を示す。また、図中の破線は、想定する製品において予想される順方向電圧の規格値である。
(a)に示す様に、450℃の水素アニールをした場合の順方向電圧は、全て規格値よりも大きくなった。これに対して、(b)に示す様に、450℃の水素アニールをしなかった場合の順方向電圧は、全て規格値よりも小さくなった。水素雰囲気における390℃以上500℃以下でのアニールにより、ダイオード領域96の欠陥が回復することにより結晶性が向上したと考えられる。これにより、理想係数n(即ち、ダイオード素子の順方向電圧)が上昇したと考えられる。
図16は、450℃水素アニールの有無に応じた順方向電圧を測定した、第2の実験結果を示す図である。図16において、(a)は、450℃水素アニールをした場合の順方向電圧VFを示し、(b)は、450℃水素アニールをしなかった場合の順方向電圧VFを示す。なお、第1の実験(図15)および第2の実験(図16)において、同じサンプル番号は同じウェハであることを意味する。450℃水素アニールをした場合、および、450℃水素アニールをしなかった場合の意味は、図15の説明と同じである。(a)および(b)において、縦軸は順方向電圧[V]を示し、横軸はウェハのサンプル番号を示す。第2の実験においても、(a)に示す様に、450℃の水素アニールをした場合の順方向電圧は、全て規格値よりも大きくなった。これに対して、(b)に示す様に、450℃の水素アニールをしなかった場合の順方向電圧は、全て規格値よりも小さくなった。また、第1の実験と同様に、(a)においては、ダイオード素子の順方向電圧が上昇した。
なお、段階S250において水素アニール代えて、窒素雰囲気において450℃でダイオード領域96をアニールした場合には、順方向電圧‐順方向電流は変化しなかった。この事実からも、水素雰囲気における390℃以上500℃以下でのアニールにより、ダイオード領域96の欠陥が回復することにより結晶性が向上したと考えられる。段階S250において水素アニールをした場合のダイオード領域96のシート抵抗は、窒素雰囲気において450℃でダイオード領域96をアニールした場合に比べて向上したことも確認された。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。