以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、領域、層またはその他の部材の2つの主要な面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は重力方向、または、半導体装置を配線基板等に取り付けるときの取り付け方向に限定されない。
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書においては、X軸、Y軸およびZ軸は右手系を構成する。本明細書では、半導体基板の上面または下面と平行な面をX‐Y面とし、半導体基板の上面または下面と垂直である半導体基板の深さ方向をZ軸とする。
本明細書においては、第1導電型はP型であり、第2導電型はN型であるが、第1導電型がN型、第2導電型がP型であってもよい。この場合、各実施形態における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の導電型となる。また、本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナー化またはアクセプタ化した不純物の濃度を指す。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差をネットドーピング濃度または単にドーピング濃度と称する場合がある。また、ドーピング濃度分布のピーク値を、ドーピング濃度と称する場合がある。
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体装置100の上面視図である。つまり、図1は、半導体基板10の上面側からZ軸と平行に半導体装置100を見た図である。ただし、図1においては、各領域の配置関係の理解を容易にするべく、エミッタ電極およびパッシベーション膜等の部材を適宜省略している。
半導体装置100は、半導体基板10を有する。半導体基板10は、シリコン(Si)基板であってよく、炭化シリコン(SiC)基板であってよく、窒化ガリウム(GaN)等の窒化物半導体基板等であってもよい。本実施形態における半導体基板10はシリコン基板である。シリコン基板を用いる場合に、N型ドーパントはリン(P)およびヒ素(As)の一種類以上の元素であってよく、P型ドーパントはホウ素(B)およびアルミニウム(Al)の一種類以上の元素であってよい。
半導体装置100は、活性領域110、エッジ終端構造領域90およびゲートランナー部50を備える。活性領域110は、半導体装置100に設けられたトランジスタをオン状態にした場合に半導体基板10の上面と下面との間で主電流が流れるトランジスタ領域と、当該トランジスタをオフ状態にした場合に半導体基板10の上面と下面との間で主電流が流れるダイオード領域とを含んでよい。これに代えて、活性領域110は、上面視においてエミッタ電極が設けられた領域であるとしてもよい。本実施形態の活性領域110は、上面視においてゲートランナー部50により囲まれた領域のうち、パッド領域112を除く領域である。
本実施形態の半導体装置100は、1つの半導体基板10の活性領域110にIGBT領域70とFWD(Free Wheeling Diode:還流ダイオード)領域80とを有する。つまり、本実施形態の半導体装置100は、RC‐IGBTである。IGBT領域70はトランジスタ領域の一例であり、FWD領域80はダイオード領域の一例である。本実施形態において、IGBT領域70とFWD領域80とは、X軸方向において交互に配置される。また、本実施形態において、活性領域110のX軸方向の両端には、IGBT領域70が設けられる。
IGBT領域70は、半導体基板10の下面に接する領域にP+型のコレクタ領域を有してよい。本実施形態のIGBT領域70は、活性領域110内に位置し、且つ、半導体基板10の下面にコレクタ領域が設けられた領域である。IGBT領域70は、半導体基板10の上面にN+型のエミッタ領域およびP+型のコンタクト領域を含む単位構造が周期的に設けられてよい。
本実施形態のFWD領域80は、活性領域110内に位置し、且つ、半導体基板10の下面に接する領域にN+型のカソード領域が設けられた領域である。カソード領域は、ゲートランナー部50およびパッド領域112の近傍では、Y軸方向において活性領域110の内側に後退してもよい。例えば、カソード領域のY軸方向の端部は、ゲートランナー部50の近傍では、ゲートランナー部50よりも活性領域110の内側に位置する。ただし、カソード領域のY軸方向の端部が活性領域110の内側に位置する場合であっても、ゲートトレンチ部およびエミッタ領域が設けられていないことを理由に、ゲートランナー部50の一端からY軸方向において当該一端に対して対向する他端まではFWD領域80であると見なしてよい。
本実施形態において、X軸方向におけるIGBT領域70とFWD領域80との境界72は、カソード領域とコレクタ領域との境界である。図1においては、図面の見易さを考慮してA‐Aが横切る境界72にのみ符号を付す。
エッジ終端構造領域90は、上面視において、活性領域110と半導体基板10の外周端との間に設けられてよい。エッジ終端構造領域90は、半導体基板10の上面において活性領域110を囲むように配置されてよい。本実施形態のエッジ終端構造領域90は、半導体基板10の外周端に沿って矩形環状に配置される。エッジ終端構造領域90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する機能を有してよい。エッジ終端構造領域90は、例えばガードリング、フィールドプレートおよびリサーフのいずれか、または、これらの2つ以上を組み合わせた構造を有してよい。
本実施形態のゲートランナー部50は、上面視において、活性領域110とエッジ終端構造領域90との間に設けられる。ゲートランナー部50は、ゲートパッド114から供給されるゲート信号をIGBT領域70のゲートトレンチ部に伝達してよい。ゲートランナー部50は、金属層とポリシリコン層との積層構造を有してよい。
ゲートランナー部50の金属層は、アルミニウム、アルミニウム‐シリコン合金、またはアルミニウム‐シリコン‐銅(Cu)合金で形成された金属層であってよい。ゲートランナー部50のポリシリコン層は、リン等の不純物がドーピングされたポリシリコン層であってよい。
ゲートランナー部50のポリシリコン層と半導体基板10の上面との間には、絶縁膜が設けられてよい。ゲートランナー部50は、ゲートトレンチ部と接続する部分以外の部分においては、当該絶縁膜により半導体基板10から電気的に分離されてよい。また、当該ポリシリコン層上にゲートランナー部50の金属層が設けられてよい。当該金属層は、所定のコンタクト領域(例えば、層間絶縁膜の開口領域)を介してポリシリコン層に接続してよい。
本実施形態のパッド領域112は、活性領域110の一部を切り欠いた領域である。つまり、本実施形態のパッド領域112は、活性領域110に含まれない。上面視におけるパッド領域112の範囲は、半導体基板10の上面に接する領域に設けられたP+型のウェル領域の範囲であってよい。ゲートパッド114は、P+型のウェル領域より狭い範囲に設けられてよい。本実施形態のゲートパッド114は、ゲートランナー部50に電気的に接続する。ゲート信号は、半導体装置100の外部からゲートパッド114へ供給されてよい。
図2は、図1のA‐A断面を示す図である。A‐A断面は、IGBT領域70のコレクタ領域22とFWD領域80のカソード領域82との境界72を通るX‐Z面に平行な断面である。A‐A断面においては、半導体装置100は、エミッタ電極52、層間絶縁膜38、半導体基板10およびコレクタ電極24を有する。
層間絶縁膜38は、二酸化シリコン(SiO2)、BPSG(Boro‐Phospho Silicate Glass)、PSG(Phosphorus Silicate Glass)およびBSG(Borosilicate Glass)のうち、一種類以上の材料で形成されてよい。本実施形態の層間絶縁膜38は、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40上に設けられる。本実施形態の層間絶縁膜38は、複数の開口54を有する。当該開口54は、エミッタ電極52と半導体基板10の上面62とが電気的に接続するコンタクト部として機能してよい。
エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム、アルミニウム‐シリコン合金、またはアルミニウム‐シリコン‐銅(Cu)合金で形成されてよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、下層にチタン(Ti)またはチタン化合物等で形成されたバリアメタル層を有してよい。半導体基板10の上面62とエミッタ電極52とは、直接接続してよい。なお、タングステン(W)等で形成されたプラグが、開口54に設けられてもよい。半導体基板10の上面62とエミッタ電極52とは、プラグを介して電気的に接続してよい。
本実施形態の半導体基板10は、上面62に接する領域に複数のトレンチ部を有する。複数のトレンチ部は、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30とを含む。X軸方向において隣接するトレンチ部間の距離は、一定であってよい。
各トレンチ部の間には、メサ部60が設けられる。本実施形態においてメサ部60とは、トレンチ部の底部から上面62までの領域であって、X軸方向に隣接する2個のトレンチ部に挟まれた半導体基板10の領域である。メサ部60は、N+型のエミッタ領域12、P+型のコンタクト領域15、P-型のベース領域14およびN+型の蓄積領域16を有してよい。なお、メサ部60には、後述のメサ部60‐1および後述のメサ部60‐2が含まれる。
本実施形態において、IGBT領域70のメサ部60は、Y軸方向において交互に設けられ、且つ、上面62に各々露出するエミッタ領域12およびコンタクト領域15を有する。なお、A‐A断面において、IGBT領域70のメサ部60‐1にはエミッタ領域12が存在し、コンタクト領域15が存在しない。
境界72に最も近いIGBT領域70のメサ部60‐1aにおいては、IGBT領域70とFWD領域80との電流干渉を低減するべく、エミッタ領域12が設けられなくてよい。IGBT領域70のメサ部60‐1aにおいては、Y軸方向においてコンタクト領域15およびP-型のベース領域14が上面62に各々露出してよい。なお、A‐A断面において、メサ部60‐1aにはコンタクト領域15が存在し、ベース領域14が存在しない。
IGBT領域70のメサ部60において、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が存在する範囲においては、ベース領域14は、エミッタ領域12およびコンタクト領域15の下方に位置する。ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する部分は、チャネル形成領域として機能してよい。ゲートトレンチ部40にゲート信号としてオン電圧が印加されると、ベース領域14において電荷反転層であるチャネルが形成されてよい。ベース領域14にチャネルが形成されることで、エミッタ領域12とドリフト領域18との間に電子が流れてよい。
本実施形態における蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられる。蓄積領域16は、X軸方向において2つのトレンチ部に挟まれてよい。蓄積領域16の底部は、各トレンチ部の底部よりも上面62に近い位置に設けられてよい。即ち、蓄積領域16の底部は、各トレンチ部の底部よりも浅い位置に設けられてよい。ドリフト領域18とベース領域14との間に蓄積領域16を設けることにより、キャリア注入促進効果(IE効果:Injection‐Enhancement effect)を高めて、IGBT領域70におけるオン電圧を低減することができる。
ゲートトレンチ部40は、ゲートトレンチ42、ゲート絶縁膜43およびゲート導電部44を有する。ゲートトレンチ42は、半導体基板10を上面62から所定深さまで選択的にエッチングすることにより形成してよい。ゲート絶縁膜43は、ゲートトレンチ42の内壁に接して設けられてよい。ゲート絶縁膜43は、ゲートトレンチ42の内壁の半導体を酸化または窒化することにより形成してよい。ゲート導電部44は、ゲート絶縁膜43に接してゲート絶縁膜43よりもゲートトレンチ42の内側に設けられる。ゲート絶縁膜43は、ゲート導電部44と半導体基板10とを電気的に絶縁してよい。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成されてよい。
ダミートレンチ部30は、ダミートレンチ32、ダミートレンチ絶縁膜33およびダミートレンチ導電部34を有する。ダミートレンチ絶縁膜33およびダミートレンチ導電部34は、ゲート絶縁膜43およびゲート導電部44と同様の手法で形成されてよい。
本実施形態において、IGBT領域70は、複数のゲートトレンチ部40と複数のダミートレンチ部30とを有する。境界72の上方に位置するダミートレンチ部30‐bと、X軸方向においてダミートレンチ部30‐bに最も近いゲートトレンチ部40との間には2つのダミートレンチ部30が設けられる。2つのダミートレンチ部30および1つのゲートトレンチ部40のセットは、X軸方向において繰り返し設けられてよい。
IGBT領域70と、当該IGBT領域70のX軸負方向に接するFWD領域80との境界72の上方にも、同様にダミートレンチ部30‐bが設けられてよい。当該ダミートレンチ部30‐bと、X軸方向において当該ダミートレンチ部30‐bに最も近いゲートトレンチ部40との間にも、2つのダミートレンチ部30が設けられてよい。これに対して、FWD領域80におけるトレンチ部は、全てダミートレンチ部30であってよい。
本実施形態において、FWD領域80のメサ部60‐2は、上面62に各々露出するベース領域14およびコンタクト領域15を有する。なお、A‐A断面において、メサ部60‐2にはベース領域14が存在する。
FWD領域80において、上面62に露出する面積は、ベース領域14の方がコンタクト領域15より多くてよい。FWD領域80におけるベース領域14は、ダイオードにおけるアノード領域として機能してよい。コンタクト領域15は、Y軸方向の端部近傍における所定の領域(例えば、ゲートランナー部50の近傍領域)にのみ、部分的に設けられてよい。本実施形態におけるメサ部60‐2においては、ベース領域14の下面全体を覆うように蓄積領域16が設けられる。
本実施形態においては、メサ部60、トレンチ部、層間絶縁膜38およびエミッタ電極52を含む構造を、上面構造116と称する。但し、上面構造116は、半導体基板10の上面62近傍にライフタイム制御領域を含んでもよい。半導体基板10の上面62近傍とは、半導体基板10の厚さ(即ち、Z軸方向における上面62から下面64までの長さ)の半分の位置よりも上方を意味してよい。
ライフタイム制御領域とは、半導体基板10の内部に不純物を注入すること等により意図的にライフタイムキラーが形成された領域である。ライフタイムキラーとは、半導体基板10の内部におけるキャリアの再結合中心であってよい。キャリアの再結合中心は、結晶欠陥、空孔、複空孔、これらと半導体基板10を構成する元素との複合欠陥、転位、ヘリウムおよびネオンなどの希ガス元素、または、白金などの金属元素などであってよい。
本実施形態においては、N+型のフィールドストップ(Field Stop:以下、FSと略記する)領域20、P型のフローティング領域84、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82を含む構造を、下面構造118と称する。下面構造118は、半導体基板10の厚さの半分の位置とFS領域20の上部との間に、ライフタイム制御領域を含んでもよい。
FS領域20は、半導体装置100がターン・オフするときにベース領域14の底部から下面64へ広がる空乏層がコレクタ領域22に到達することを防ぐ機能を有してよい。FS領域20は、N型の半導体領域であってよく、ドーピング濃度分布における1以上のピークを有してよい。FS領域20におけるドーピング濃度分布の複数のピークは、Z軸方向において離散的に設けられてよい。
フローティング領域84は、電気的にフローティング状態であるP型の領域である。フローティング領域84は、FWD領域80に設けられてよい。本実施形態において、フローティング領域84は、FWD領域80の全体に分散的に設けられる。
電気的にフローティング状態であるとは、原則として、コレクタ電極24およびエミッタ電極52のいずれにも電気的に接続されていない状態を指す。フローティング領域84を設けることにより、カソード領域82からの電子の注入を抑制できる。これにより、半導体基板10の下面64側においてライフタイムキラーを設けなくとも、半導体基板10の深さ方向におけるキャリア分布を調節することができる。このため、ライフタイム制御領域を設けるコストを削減することができる。加えて、ライフタイム制御領域に起因するリーク電流を低減することもできる。
フローティング領域84は、FWD領域80内に位置してよい。本実施形態において、フローティング領域84の端部91は、X軸方向において境界72に達しない。なお、本実施形態の端部91は、境界72に最も近いフローティング領域84の端部である。境界72と端部91との距離L1は、数nm以上数μm以下であってよい。なお、本実施形態において、X軸方向は、カソード領域82からコレクタ領域22に向かうカソード領域82およびコレクタ領域22の配列方向と平行な方向である。
本実施形態のフローティング領域84は、Z軸方向においてFS領域20内に位置する。つまり、本実施形態において、フローティング領域84の上端は、FS領域20の上端よりも下面64に近い。また、本実施形態において、フローティング領域84の下端はFS領域20の下端と一致するが、フローティング領域84の下端はFS領域20の下端よりも上面62に近くてもよい。
図3は、図1の領域Bの拡大図である。半導体基板10のX軸およびY軸方向の長さは、それぞれ数mm以上十数mm以下であってよい。IGBT領域70のX軸方向の幅は、FWD領域80のX軸方向の幅の1倍以上3倍以下であってよく、2倍以上3倍以下であってもよい。例えば、IGBT領域70のX軸方向の幅は1000μm以上1500μm以下であり、FWD領域80のX軸方向の幅は400μm以上500μm以下である。なお、IGBT領域70およびFWD領域80のY軸方向の幅は、同じであってよい。
X‐Y平面において、フローティング領域84の面積は、FWD領域80の面積よりも小さくてよい。X‐Y平面において、フローティング領域84は、カソード領域82の90%以上100%未満の範囲を覆ってよく、カソード領域82の90%以上95%以下の範囲を覆ってよい。フローティング領域84の各々は、X‐Y平面において分散配置された島状の領域であってよい。各フローティング領域84は、X軸およびY軸方向において所定の同じ距離LFだけ離間してよい。
図4Aは、第1実施形態における半導体装置100の製造方法を示すフロー図である。第1実施形態の製造方法は、上面構造116形成段階(S10)と、コレクタ領域22用注入段階(S20)と、カソード領域82用注入段階(S30)と、フローティング領域84用注入段階(S40)と、第1のアニール段階(S50)と、FS領域20用注入段階(S60)と、第2のアニール段階(S70)と、コレクタ電極24形成段階(S80)とを備える。第1実施形態においては、Sに続く数字が小さい順に各段階が行われる。
図4Bは、第1実施形態における半導体装置100の製造方法の各段階を示す図である。図4Bの(a)は、上面構造116を形成する段階(S10)を示す。段階S10においては、N-型の半導体基板10にトレンチ部を形成してよい。ダミートレンチ導電部34およびゲート導電部44を形成するときに、ゲートランナー部50のポリシリコン層を形成してよい。トレンチ部を形成した後に、半導体基板10の上面62へベース領域14用のP型ドーパントを注入する。ドーパントは、イオンの状態で注入装置により加速されて、半導体基板10へ注入されてよい。その後、1150℃程度で3時間、半導体基板10をアニールしてよい。
段階S10においては、その後、蓄積領域16用のN型ドーパント、エミッタ領域12用のN型ドーパント、および、コンタクト領域15用のP型ドーパントを選択的に順次注入してよい。ただし、注入順序は適宜変更してもよい。その後、1000℃程度で30分間、半導体基板10をアニールしてよい。段階S10においては、さらにその後、CVDにより層間絶縁膜38を形成してよい。その後、上面62上の層間絶縁膜38および熱酸化膜をエッチングにより選択的に除去することにより、開口54を形成してよい。熱酸化膜は、例えば、ゲート絶縁膜43およびダミートレンチ絶縁膜33を形成するときに上面62上に設けられた絶縁膜である。
段階S10においては、さらにその後、エミッタ電極52をスパッタリングにより堆積させてよい。エミッタ電極52をスパッタリングにより堆積させるときに、ゲートランナー部50の金属層およびゲートパッド114も堆積させてよい。堆積後に、エミッタ電極52、ゲートランナー部50の金属層およびゲートパッド114を所定の形状にパターニングしてよい。段階S10は、エミッタ電極52等の上部に、所定の開口を含むパッシベーション層を形成する段階を含んでもよい。
なお、本実施形態の段階S10は、上面構造116形成後に、Z軸方向において上面62とは反対側の半導体基板10の表面を研削することを含む。半導体基板10は予め定められた耐圧に対応する厚さを有するよう、薄化されてよい。本実施形態の下面64は、薄化後に露出する半導体基板10の表面である。
図4Bの(b)は、コレクタ領域22用注入段階(S20)を示す。段階S20においては、半導体基板10の下面64の全体へP型ドーパントを注入する。段階S20は、IGBT領域70におけるコレクタ領域22を形成することを目的としたドーパント注入であってよい。つまり、段階S20においては、半導体装置100におけるコレクタ領域22のドーピング濃度に対応するドーズ量で、P型ドーパントをドーピングしてよい。
図4Bの(c)は、カソード領域82用注入段階(S30)を示す。段階S30では、まずフォトレジスト材料等のマスク68を下面64全体に接して形成する。その後、X‐Y平面においてコレクタ領域22に対応する範囲にマスク68‐1をパターニングする。その後、半導体基板10の下面64へN型のドーパントを注入する。段階S30は、FWD領域80におけるカソード領域82を形成することを目的としたドーパント注入であってよい。つまり、段階S30においては、半導体装置100におけるカソード領域82のドーピング濃度に対応するドーズ量で、N型ドーパントをドーピングしてよい。
これにより、マスク68‐1が設けられていない範囲においては、P型ドーパントが注入された領域がカウンタードープされる。なお、マスク68‐1が設けられた範囲においては、N型ドーパントが注入されなくてよい。ドーピング後に、マスク68‐1は除去してよい。
図4Bの(d)は、フローティング領域84用注入段階(S40)を示す。段階S40においては、X‐Y平面においてフローティング領域84に対応する範囲にマスク68‐2を設ける。本実施形態のマスク68‐2は、マスク68‐1と同様の手法で形成されるが、X‐Y平面においてマスク68‐1とは異なる範囲に設けられる。
その後、半導体基板10の下面64へP型のドーパントを注入する。段階S40は、P型のフローティング領域84を形成することを目的としたドーパント注入であってよい。つまり、段階S40においては、半導体装置100におけるフローティング領域84のドーピング濃度に対応するドーズ量で、P型ドーパントをドーピングしてよい。段階S40の注入深さ範囲は、カソード領域82の注入深さ範囲よりも浅くてよい。ドーピング後に、マスク68‐2は除去してよい。
上述のように、段階S30およびS40においては、マスク68を形成、パターニングおよび除去する複数回のマスクプロセスを実行する。それゆえ、複数の注入段階のうち後ろの注入段階ほど、パーティクル86の発生や付着の可能性が高くなる。すると、パーティクルに起因して半導体基板10中に欠陥88が生じたり、傷が生じたりする可能性がある。カソード領域82に生じた欠陥88や傷は、FWD領域80の電気的特性に直接的に影響するので、半導体装置100への影響が大きい。例えば、カソード領域82に欠陥88や傷が生じると、接合リーク、耐圧不良およびスイッチング特性の低下等の影響が生じ得る。
そこで、本実施形態においては、カソード領域82用注入段階(S30)の後にフローティング領域84用注入段階(S40)を実行する。これにより、フローティング領域84用注入段階後にカソード領域82用注入段階を実行する場合に比べて、より清浄な状態である下面64に対してカソード領域82用注入段階を実行することができる。それゆえ、段階S30においてカソード領域82に欠陥88や傷が生じるリスクを低減することができる。それゆえ、半導体装置100において、電流リークおよび耐圧不良を低減することができる。このように、本実施形態においては、RC-IGBTの良品率を向上することができる。
なお、本実施形態においては、下面64が清浄な状態においてコレクタ領域22用注入段階(S20)を実行するので、コレクタ領域22における欠陥88や傷も低減することができる。これにより、コレクタ領域22においても電流リークおよび耐圧不良を低減することもできる。ただし、本実施形態においては、フローティング領域84用注入段階(S40)の後に、カソード領域82用注入段階(S30)を実行する場合に比べて、フローティング領域84には多くの欠陥88が導入され得る。しかしながら、カソード領域82に欠陥88や傷が導入される場合に比べて、フローティング領域84に導入された欠陥88は、FWD領域80への影響が小さい。それゆえ、本実施形態においては、フローティング領域84に導入された欠陥88は許容できるものと見なしてよい。
図4Bの(e)は、第1のアニール段階(S50)を示す。本実施形態においては、下面64にレーザー光を照射することにより1000℃の温度で半導体基板10をアニールする。レーザー光は、半導体基板10のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーを有してよい。段階S50により、ドーパントイオン注入により生じた結晶欠陥を回復し、かつ、注入したドーパントを活性化することができる。
図4Bの(f)は、FS領域20用注入段階(S60)を示す。本実施形態においては、FS領域20を形成することを目的として、水素を下面64から所定の深さ範囲まで注入する。なお、水素は、水素イオン(即ち、プロトン)の状態で、半導体基板10へ注入されてよい。FS領域20にはZ軸方向において複数のピークが設けられるように、注入エネルギーを変えて水素イオンを半導体基板10へ多段注入してよい。
図4Bの(g)は、第2のアニール段階(S70)を示す。本実施形態においては、熱処理炉150中に半導体基板10を載置して約400℃の温度で半導体基板10をアニールする。FS領域20のアニールを段階S50とは別途に実行することにより、段階S20から段階S40において注入したP型およびN型ドーパントとは異なる温度であって、水素の活性化に最も適した温度で、FS領域20の水素を活性化することができる。加えて、段階S50の後にFS領域20用注入段階を実行することにより、段階S50の前にFS領域20用注入段階を実行する場合に比べて、FS領域20用のドーパント注入精度を向上させることができる。
図4Bの(h)は、コレクタ電極24形成段階(S80)を示す。本実施形態においては、下面64の全体に接するコレクタ電極24をスパッタリングにより形成する。これにより、半導体装置100が完成する。なお、端部91の位置は、コレクタ領域22用注入段階、カソード領域82用注入段階およびフローティング領域84用注入段階の後における位置であってよい。本実施形態における端部91の位置は、段階S80後における端部91の位置である。
図5Aは、第1実施形態の第1変形例における半導体装置120の製造方法を示すフロー図である。なお、半導体装置120は次図にて示す。本実施形態においては、カソード領域82用注入段階(S12)の後にコレクタ領域22用注入段階(S20)を行い、かつ、コレクタ領域22用注入段階(S20)の後にフローティング領域84用注入段階(S40)を行う。係る点が、第1実施形態と異なる。第1実施形態と同じ段階については、説明を省略する。
図5Bは、第1実施形態の第1変形例における半導体装置120の製造方法の各段階を示す図である。図5Bの(a)の段階S12は図4Bの(c)の段階S30に対応し、図5Bの(b)の段階S20は図4Bの(b)の段階S20に対応し、図5Bの(c)の段階S40は図4Bの(d)の段階S40に対応し、図5Bの(d)の段階S80は図4Bの(h)の段階S80に対応する。第1変形例においても、カソード領域82およびコレクタ領域22における電流リークおよび耐圧不良を低減することができるので、RC-IGBTの良品率を向上することができる。
図6Aは、第1実施形態の第2変形例における半導体装置140の製造方法を示すフロー図である。なお、半導体装置140は次図にて示す。本実施形態においては、カソード領域82用注入段階(S30)の後にフローティング領域84用注入段階(S40)を行い、且つ、フローティング領域84用注入段階(S40)の後にコレクタ領域22用注入段階(S42)を行う。係る点が、第1実施形態と異なる。第1実施形態と同じ段階については、説明を省略する。
図6Bは、第1実施形態の第2変形例における半導体装置140の製造方法の各段階を示す図である。図6Bの(a)の段階S30は図4Bの(c)の段階S30に対応し、図6Bの(b)の段階S40は図4Bの(d)の段階S40に対応し、図6Bの(c)の段階S42は図4Bの(b)の段階S20に対応し、図6Bの(d)の段階S80は図4Bの(h)の段階S80に対応する。第2変形例においては、カソード領域82における電流リークおよび耐圧不良を低減することができるので、RC-IGBTの良品率を向上することができる。
図7は、第1実施形態における境界72近傍の電子および正孔の濃度分布を示す図である。図7の中央に、半導体装置100における境界72近傍の部分拡大図を示す。図7では、境界72近傍の部分拡大図を挟んで、部分拡大図のC‐C断面およびD‐D断面における電子正孔濃度分布をそれぞれ示す。C‐C断面およびD‐D断面において、横軸は電子濃度または正孔濃度(cm-3)であり、縦軸は深さ位置(μm)である。なお、本明細書において、電子濃度および正孔濃度は、実効的な(即ち、正味の)濃度である。実効的な濃度とは、例えば電子濃度および正孔濃度の差分である。
C‐C断面は、上面62に近い順に、ドリフト領域18、FS領域20およびコレクタ領域22を通る。ドリフト領域18およびFS領域20は、N型領域であるので、電子が多数キャリアとなる領域である。なお、N型領域の濃度は、電子濃度を意味する。これに対して、コレクタ領域22は、P型領域であるので、正孔が多数キャリアとなる領域である。なお、P型領域の濃度は、正孔濃度を意味する。深さ方向において、イオン注入したP型およびN型のドーパント濃度分布のピークは、それぞれ正孔濃度および電子濃度のピーク位置に一致してよい。なお、ドーパント注入後のアニール等に起因して、注入したドーパントの濃度ピーク位置と電子または正孔の濃度ピーク位置とは完全に一致しなくてもよい。ただし、各ピークの相対的な位置関係は、ほぼ同じであると見なしてよい。
D‐D断面は、上面62に近い順に、ドリフト領域18、FS領域20、フローティング領域84およびカソード領域82を通る。フローティング領域84における濃度は正孔濃度であり、カソード領域82における濃度は電子濃度である。
図8は、第1実施形態の第3変形例における半導体装置160の製造方法の段階を示す図である。図8の(a)の段階S140は図4Bの(d)の段階S40に対応し、図8の(b)の段階S180は図4Bの(h)の段階S80に対応する。なお、第1実施形態と同じ段階については、説明を省略する。第3変形例は、フローティング領域84をカソード領域82中に形成する点が、第1実施形態と異なる。第3変形例において、フローティング領域84の上端とFS領域20との間におけるカソード領域82には、フローティング領域84形成に用いたP型ドーパント濃度分布のテール領域が存在してよい。同様に、フローティング領域84の下端と下面64との間におけるカソード領域82にも、フローティング領域84形成に用いたP型ドーパント濃度分布のテール領域が存在してよい。
また、フローティング領域84のP型ドーパント濃度分布のピークは、カソード領域82の深さ位置の半分よりもFS領域20に近い位置に存在してよい。第3変形例においては、フローティング領域84を下面64よりもFS領域20の近くに設ける。これにより、カソード領域82中にフローティング領域84を設けつつも、半導体装置160の下面64にフローティング領域84が露出するリスクを低減することができる。図8の第3変形例は、図5Aおよび図5Bの第1変形例ならびに図6Aおよび図6Bの第2変形例と組み合わせてもよい。
図9は、第1実施形態の第4変形例における半導体装置180の製造方法の段階を示す図である。図9の(a)の段階S240は図4Bの(d)の段階S40に対応し、図9の(b)の段階S280は図4Bの(h)の段階S80に対応する。なお、第1実施形態と同じ段階については説明を省略する。第4変形例は、フローティング領域84の下端をカソード領域82よりも上方に形成する点が、第1実施形態と異なる。図9の(b)においては、フローティング領域84の下端とカソード領域82の上端との距離をL2として示す。第4変形例において、フローティング領域84の下端とカソード領域82の上端との間のFS領域20には、フローティング領域84形成に用いたP型ドーパント濃度分布のテール領域が存在してよい。また、第1実施形態の第3変形例と同様に、フローティング領域84の上端とFS領域20の上端との間には、フローティング領域84形成に用いたP型ドーパント濃度分布のテール領域が存在してよい。図9の第4変形例は、図5Aおよび図5Bの第1変形例ならびに図6Aおよび図6Bの第2変形例と組み合わせてもよい。
図10Aは、第2実施形態における半導体装置200の製造方法を示すフロー図である。なお、半導体装置200は次図にて示す。第2実施形態の製造方法は、上面構造116を形成する段階(S410)と、コレクタ領域22用注入段階(S420)と、フローティング領域84用注入段階(S440)と、カソード領域82用注入段階(S444)と、第1のアニール段階(S450)と、FS領域20用注入段階(S460)と、第2のアニール段階(S470)と、コレクタ電極24形成段階(S480)とを備える。第2実施形態においても、Sに続く数字が小さい順に各段階が行われる。
図10Bは、第2実施形態における半導体装置200の製造方法の各段階を示す図である。図10Bの(a)の段階S410は、図4Bの(a)の段階S10に対応する。図10Bの(b)の段階S420は、図4Bの(b)の段階S20に対応する。図10Bの(c)の段階S440は、図4Bの(d)の段階S40に対応する。図10Bの(d)の段階S444は、図4Bの(c)の段階S30に対応する。図10Bの(e)の段階S450は、図4Bの(e)の段階S50に対応する。図10Bの(f)の段階S460は、図4Bの(f)の段階S60に対応する。図10Bの(g)の段階S470は、図4Bの(g)の段階S70に対応する。図10Bの(h)の段階S480は、図4Bの(h)の段階S80に対応する。
コレクタ領域22用注入段階およびカソード領域82用注入段階の後にフローティング領域84用注入段階を実行する場合、カソード領域82には、コレクタ領域22用のP型ドーパントに加えて、カソード領域82用のN型ドーパントが注入されることとなる。それゆえ、フローティング領域84直下のカソード領域82における結晶性の乱れが大きくなり得る。カソード領域82における結晶性の乱れが大きい場合、フローティング領域84用のP型ドーパントの注入範囲が設計範囲からばらつく可能性がある。例えば、P型ドーパントはZ軸方向に加えて、X‐Y平面方向にもばらつく可能性がある。
これに対して、第2実施形態においては、コレクタ領域22用注入段階(S420)およびフローティング領域84用注入段階(S440)の後に、カソード領域82用注入段階(S444)を実行する。第2実施形態においては、コレクタ領域22用のP型ドーパント注入段階(S420)の後、且つ、カソード領域82用のN型ドーパント注入段階(S444)の前に、フローティング領域84用のP型ドーパントを注入する(S440)ので、フローティング領域84をより制御性良く設けることができる。これにより、フローティング領域84用のP型ドーパントの注入範囲を設計範囲に設けることができる。それゆえ、複数の半導体装置200における特性ばらつきを小さくすることができる。
さらに、本実施形態においては、下面64が清浄な状態においてコレクタ領域22用注入段階(S420)を実行するので、コレクタ領域22における欠陥88や傷を低減することができる。これにより、半導体装置200において電流リークおよび耐圧不良を低減することができる。なお、本実施形態においても、図8の半導体装置160のように、フローティング領域84をカソード領域82中に形成してよい。また、図9の半導体装置180のように、フローティング領域84の下端をカソード領域82よりも上方に形成してもよい。
図11Aは、第2実施形態の第1変形例における半導体装置220の製造方法を示すフロー図である。なお、半導体装置220は次図にて示す。第1変形例においては、フローティング領域84用注入段階(S440)の後にコレクタ領域22用注入段階(S442)を行い、且つ、コレクタ領域22用注入段階(S442)の後にカソード領域82用注入段階(S444)を行う。係る点が、第2実施形態と異なる。
図11Bは、第2実施形態の第1変形例における半導体装置220の製造方法の各段階を示す図である。図11Bの(a)の段階S440は、図10Bの(c)の段階S440に対応する。図11Bの(b)の段階S442は、図10Bの(b)の段階S420に対応する。図11Bの(c)の段階S444は、図10Bの(d)の段階S444に対応する。図11Bの(d)の段階S480は、図10Bの(h)の段階S480に対応する。第1変形例においては、下面構造118の形成においてフローティング領域84を最初に形成するので、第2実施形態に比べてフローティング領域84の制御性をさらに向上させることができる。
図12Aは、第2実施形態の第2変形例における半導体装置240の製造方法を示すフロー図である。なお、半導体装置240は次図にて示す。第2変形例においては、フローティング領域84用注入段階(S440)の後にカソード領域82用注入段階(S444)を行い、且つ、カソード領域82用注入段階(S444)の後にコレクタ領域22用注入段階(S448)を行う。係る点が、第2実施形態と異なる。
図12Bは、第2実施形態の第2変形例における半導体装置240の製造方法の各段階を示す図である。図12Bの(a)の段階S440は、図10Bの(c)の段階S440に対応する。図12Bの(b)の段階S444は、図10Bの(d)の段階S444に対応する。図12Bの(c)の段階S448は、図10Bの(b)の段階S420に対応する。図12Bの(d)の段階S480は、図10Bの(h)の段階S480に対応する。第2変形例においても、下面構造118の形成においてフローティング領域84を最初に形成するので、第2実施形態に比べてフローティング領域84の制御性をさらに向上させることができる。
なお、第2実施形態、第2実施形態の第1変形例、および、第2実施形態の第2変形例においても、図8の半導体装置160のように、フローティング領域84をカソード領域82中に形成してよい。また、図9の半導体装置180のように、フローティング領域84の下端をカソード領域82よりも上方に形成してもよい。
図13Aは、第3実施形態における半導体装置300の製造方法を示すフロー図である。なお、半導体装置300は次図にて示す。第3実施形態は、境界72の位置とフローティング領域84の端部91とが一致する点において、上述の実施形態と異なる。図13Aに示す各段階の順序は図4Aと同じであるが、段階S520、S530およびS540は、図5A、6A、10A、11Aおよび12Aの各実施形態のように、適宜入れ替えてもよい。
図13Bの(a)及び(b)は、第3実施形態における半導体装置300の製造方法の段階を示す図である。図13Bの(a)は、フローティング領域84用注入段階(S540)であり、図13Bの(b)は、コレクタ電極24形成段階(S580)である。段階S540においては、フローティング領域84に対応するマスク68‐2のX軸方向の端部69を境界72に一致させる。これにより、段階S580に示すように、半導体装置300におけるフローティング領域84の端部91が、X軸方向において境界72に位置する。なお、本実施形態においても、端部91の位置は、コレクタ領域22用注入段階(S520)、カソード領域82用注入段階(S530)およびフローティング領域84用注入段階(S540)の後である段階S580における位置である。
段階S540においては、カソード領域82よりも上面62に近い範囲にP型ドーパントを注入してよい。この結果、半導体装置300において、フローティング領域84の下端94は、カソード領域82の上端83から離間してよい。
本実施形態においては、X‐Y平面方向においてフローティング領域84を可能な限りIGBT領域70に近づけつつも、Z軸方向においてフローティング領域84を確実にコレクタ領域22から離間させることができる。従って、フローティング領域84がIGBT領域70にまで設けられる場合に比べて、フローティング領域84とコレクタ領域22とが短絡することをより確実に防ぐことができる。なお、半導体装置300において、フローティング領域84の上端93は、FS領域20の上端よりも下面64に近くてよい。つまり、フローティング領域84の上端93の上方にはFS領域20が存在してよい。
図13Cは、第3実施形態における境界72近傍の電子および正孔の濃度分布を示す図である。図13Cの中央に、半導体装置300における境界72近傍の部分拡大図を示す。図13Cでは、境界72近傍の部分拡大図を挟んで、部分拡大図のE‐E断面およびF‐F断面における電子正孔濃度分布をそれぞれ示す。E‐E断面およびF‐F断面において、横軸は電子濃度または正孔濃度(cm-3)であり、縦軸は深さ位置(μm)である。
E‐E断面は図7のC‐C断面と同じであるので、説明を省略する。F‐F断面は、図7のD‐D断面に類似する。ただし、F‐F断面においては、カソード領域82の上端83とフローティング領域84の下端94との間に、FS領域20が設けられる。F‐F断面は、フローティング領域84の端部91の位置以外の点において、図9の(b)と同じであってよい。
図13Cに示す様に、フローティング領域84は、カソード領域82の上端83から離間してよい。Z軸方向においてカソード領域82とコレクタ領域22との上端の位置が同じである本実施形態においては、フローティング領域84の下端94は、コレクタ領域22の上端23よりも上面62に近い。また、フローティング領域84の上端93は、FS領域20の上端よりも下に位置する。なお、本実施形態において、Z軸方向においてカソード領域82の上端83は、コレクタ領域22の上端23よりも上面62に近く、且つ、フローティング領域84は、カソード領域82の上端83から離間してもよい。
図13Dは、第3実施形態の第1変形例における境界72近傍の電子および正孔の濃度分布を示す図である。図13Dの中央に境界72近傍の部分拡大図を示し、図13Dの左側および右側に部分拡大図のG‐G断面およびH‐H断面におけるドーパント濃度分布をそれぞれ示す。G‐G断面およびH‐H断面の横軸および縦軸は、図13Cと同じである。
当該第1変形例においては、カソード領域82のZ軸方向の厚さをコレクタ領域22のZ軸方向の厚さよりも厚くする。カソード領域82の上端83及びフローティング領域84の下端94は、電子濃度及び正孔濃度が谷を形成する位置とする。例えば、下面64にP型ドーパントを注入するコレクタ領域22用注入段階S520の後に、N型ドーパントを注入するカソード領域82用注入段階S530を実行することで、コレクタ領域22よりも厚いカソード領域82を形成する。なお、N型ドーパントを注入するカソード領域82用注入段階S530を先に実行し、この後に、コレクタ領域22用注入段階S520を実行してもよい。
当該第1変形例においては、カソード領域82の方がコレクタ領域22よりも厚いので、カソード領域82の上端83は、コレクタ領域22の上端23よりも上面62の近くに位置する。また、フローティング領域84の下端94は、コレクタ領域22の上端23よりも上面62に近い。これにより、フローティング領域84とコレクタ領域22とが短絡することを確実に防ぐことができる。それゆえ、半導体装置300の特性を、設計された特性に近づけることができる。また、境界72の位置とフローティング領域84の端部91とが一致する第3実施形態に限らず、第1実施形態、第2実施形態においても、コレクタ領域22よりも厚いカソード領域82とすることで、意図した構造を製造しやすくなり、より信頼性を高めることできる。なお、カソード領域82の方がコレクタ領域22よりも厚いとは、カソード領域82の方が微差によりコレクタ領域22よりも厚い場合に限らず、カソード領域82の方がコレクタ領域22よりも明確に厚い場合を意図するものとしてもよい。具体的には、カソード領域82の方がコレクタ領域22よりも1.2倍程度厚くてよく、好ましくは、カソード領域82の方がコレクタ領域22よりも1.4倍程度厚くてよく、より好ましくは、カソード領域82の方がコレクタ領域22よりも1.6倍程度厚くてよい。
なお、フローティング領域84用注入段階S540は、コレクタ領域22用注入段階S520及びカソード領域82用注入段階S530の前に実行してもよい。また、フローティング領域84用注入段階S540は、コレクタ領域22用注入段階S520とカソード領域82用注入段階S530との間、または、コレクタ領域22用注入段階S520及びカソード領域82用注入段階S530の後に実行してもよい。なお、当該第1変形例においても、フローティング領域84の端部91は、境界72に位置する。
図13Eは、第3実施形態の第2変形例における境界72近傍の電子および正孔の濃度分布を示す図である。図13Eの中央に境界72近傍の部分拡大図を示し、図13Eでは、境界72近傍の部分拡大図を挟んで、部分拡大図のI‐I断面およびJ‐J断面におけるドーパント濃度分布をそれぞれ示す。I‐I断面およびJ‐J断面の横軸および縦軸は、図13Cと同じである。
当該第2変形例においても、カソード領域82の深さ方向の厚さをコレクタ領域22のZ軸方向の厚さよりも厚くする。なお、深さ方向は、下面64から上面62に向かう方向と平行であってよい。カソード領域82用注入段階において、異なる加速エネルギーによりN型イオンを注入してもよい。つまり、カソード領域82用注入段階において、N型イオンの濃度分布が深さ方向の一つの位置にピークを有するようにイオン注入を実行してよく、N型イオンの濃度分布が深さ方向の異なる複数の位置にピークを有するようにイオン注入を実行してもよい。
カソード領域82が深さ方向の異なる複数の位置にピークを有する場合、フローティング領域84のP型ドーパント濃度分布のピーク位置は、カソード領域82のN型ドーパント濃度分布の複数のピークの間に設けられてよい。カソード領域82のN型ドーパント濃度分布における複数のピーク濃度の各々は、同じであってよく、上面62に向かうにつれて減少してよく、上面62に向かうにつれて増加してもよい。また、フローティング領域84用注入段階S540で注入されるP型ドーパント濃度は、フローティング領域84の領域にカソード領域82用注入段階S530で注入されるN型ドーパント濃度より、高くてよい。
当該第2変形例において、カソード領域82が深さ方向の異なる位置にN型のドーパント濃度のピークを二つ有するように、段階S530においてN型ドーパントを注入する。これにより、カソード領域82は、深さ方向の異なる位置に電子濃度のピークを二つ有する。さらに、当該第2変形例において、フローティング領域84のP型のドーパント濃度のピークがN型のドーパント濃度の二つのピークの間に位置するように、段階S540においてP型ドーパントを注入する。これにより、フローティング領域84における正孔濃度のピーク位置は、深さ方向において、カソード領域82における二つの電子濃度のピークの間に位置する。当該第2変形例においては、カソード領域82のピーク位置とフローティング領域84のピーク位置とが深さ方向において重なる場合に比べて、フローティング領域84用注入段階においてP型ドーパント濃度を低減しても、十分なP型特性を有するフローティング領域84を得ることができる。
また、他の実施形態において、カソード領域82は深さ方向の異なる位置に三つ以上のN型ドーパント濃度のピークを有してもよい。この場合、フローティング領域84のピーク位置は、カソード領域82のいずれか二つのピーク位置の間に設けられてよい。
第2変形例においては、フローティング領域84のZ軸方向の全範囲は、カソード領域82中に位置する。また、フローティング領域84の下端94は、コレクタ領域22の上端23よりも上面62に近い。それゆえ、X‐Y平面方向においてフローティング領域84を可能な限りIGBT領域70に近づけつつも、Z軸方向においてフローティング領域84を確実にコレクタ領域22から離間させることができる。なお、他の実施形態においては、フローティング領域84の少なくとも一部が、カソード領域82中に位置してもよい。つまり、フローティング領域84の下部がカソード領域82の上部と部分的に重なって、フローティング領域84の上端93がカソード領域82の上端83よりも上にあってもよい。フローティング領域84のピークがカソード領域82のピークよりも高濃度の場合、こうした形状が容易に形成される。
なお、図13Bから図13Eのコレクタ領域22、カソード領域82、フローティング領域84の説明は、フローティング領域84の端部91がX軸方向において境界72に達しない第1実施形態及び第2実施形態にも適用してよい。
図14は、第4実施形態に係るFWD領域80の上面視図である。第4実施形態の半導体装置は、一つの半導体基板10に、FWD領域80およびIGBT領域70の両方を有してよく、FWD領域80だけを有していてもよい。IGBT領域70は、第1から第3実施形態におけるいずれかのIGBT領域70と同一である。IGBT領域70は、上面視においてFWD領域80と並んで配置されている。
本例では、ゲートトレンチ部40およびエミッタ領域12を含むゲート構造が周期的に配置された領域をIGBT領域70とする。また、当該ゲート構造が設けられておらず、且つ、半導体基板10の下面64にカソード領域82が周期的に配置された領域をFWD領域80とする。FWD領域80の各メサ部60の上面においては、80%以上の面積がベース領域14等のP型領域であってよい。
本例のFWD領域80は、半導体基板10の下面64に露出する、第1導電型(本例ではP+型)のカソード間領域81を備える点で、第1から第3実施形態におけるFWD領域80と相違する。カソード間領域81以外の構造は、第1から第3の各実施形態におけるいずれかの例と同一である。カソード間領域81のドーピング濃度およびZ軸方向の厚みは、IGBT領域70のコレクタ領域22と同一であってよい。
カソード間領域81は、下面64と平行な面内の予め定められた方向において、カソード領域82と交互に配置されている。図14の例では、カソード間領域81とカソード領域82は、Y軸方向に沿って交互に配置されている。カソード間領域81およびカソード領域82は、FWD領域80のX軸方向における一方の端から他方の端まで、X軸方向に伸びる帯形状を有してよい。
他の例では、カソード間領域81とカソード領域82は、Y軸方向とは異なる方向に沿って交互に配置されていてもよい。また、カソード間領域81とカソード領域82は、2つの方向において交互に配置されていてもよい。カソード間領域81とカソード領域82は、X軸方向およびY軸方向の両方において交互に配置されていてもよい。
フローティング領域84は、カソード領域82の上方と、カソード間領域81の上方とに設けられている。ただし、カソード領域82の一部の領域の上方には、フローティング領域84が設けられていない。また、カソード間領域81の一部の領域の上方には、フローティング領域84が設けられていない。
FWD領域80において、カソード間領域81と、フローティング領域84とを設けることで、カソード領域82からのキャリアの注入量を、より精度よく調整できる。このため、半導体装置の特性を、より精度よく調整できる。
図15は、図14におけるK-K断面およびL-L断面を含む斜視断面図である。K-K断面はXZ面であり、L-L断面はYZ面である。図15においては、半導体基板10の断面を示しており、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を省略している。
図14および図15に示すように、本例のフローティング領域84は、X軸方向において、それぞれのカソード領域82の一部と重なって配置されている。つまり、カソード領域82のX軸方向における一部は、フローティング領域84と重なっていない。フローティング領域84は、X軸方向において、それぞれのカソード間領域81の一部と重なって配置されていてよい。カソード間領域81のX軸方向における一部は、フローティング領域84と重なっていなくてよい。なお重なるとは、Z軸方向において対向する位置に配置されることを指す。図14に示すように、フローティング領域84は、X軸方向において離散的に配置されていてよい。2つのフローティング領域84の間には、ドリフト領域18またはFS領域20が設けられてよい。
図14および図15に示すように、本例のフローティング領域84は、Y軸方向において、それぞれのカソード領域82の全体と重なって配置されている。本例のフローティング領域84は、Y軸方向において、カソード間領域81の一部と重なる位置まで延伸している。図14に示すように、フローティング領域84は、Y軸方向において離散的に配置されていてよい。それぞれのカソード領域82のY軸方向における両端部は、フローティング領域84と重なっていてよい。また、他の例においては、フローティング領域84は、Y軸方向において、それぞれのカソード間領域81の全体と重なって配置されていてもよい。この場合フローティング領域84は、Y軸方向において、カソード領域82の一部と重なる位置まで延伸していてよい。
図15に示すように、ダミートレンチ部30は、所定の延伸方向(本例ではY軸方向)に延びて設けられている。ダミートレンチ部30の延伸方向は、上面視図においてダミートレンチ部30の長手方向である。カソード間領域81とカソード領域82は、ダミートレンチ部30の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。このため、それぞれのメサ部60-2の下方には、カソード間領域81とカソード領域82の両方が配置される。このため、それぞれのメサ部60-2において、カソード領域82からのキャリア注入量を均一化できる。
また、フローティング領域84は、半導体基板10の深さ方向において、カソード間領域81と離れて配置されている。これによりフローティング領域84が、カソード間領域81を介して、コレクタ電極24と接続されることを防げる。カソード間領域81とフローティング領域84との間には、FS領域20またはドリフト領域18が設けられていてよい。
図16は、フローティング領域84、カソード領域82およびカソード間領域81の配置例を説明する拡大上面図である。本例では、フローティング領域84とカソード間領域81が重なっている領域を第1領域101、カソード間領域81が設けられフローティング領域84が設けられていない領域を第2領域102、カソード領域82とフローティング領域84が重なっている領域を第3領域103、カソード領域82が設けられフローティング領域84が設けられていない領域を第4領域104とする。第1領域101は下面64側からの電子の注入量が最も少ない領域、すなわち電子の注入量が実質的にない領域であり、第4領域104は下面64側からの電子の注入量が最も多い領域である。第2領域102も、第1領域101と同様に電子の注入量が実質的にない領域である。一方、これらの第1領域101、第2領域102は、逆回復時に正孔を注入する効果を有し、フローティング領域84によって正孔の注入量も調整することができる。第3領域103は、下面64側からの電子の注入量が、第1領域101、第2領域102よりも多く、第4領域104よりも少ない領域である。なお電子の注入量は、単位面積当たりの注入量である。
このように、フローティング領域84と、カソード領域82およびカソード間領域81とを重ねて配置することで、キャリア(電子・正孔)の注入を調整するための第1領域101、第2領域102、第3領域103、第4領域104を設けることができる。これらの領域の面積比を調整することで、FWD領域80におけるキャリア(電子・正孔)の総注入量を精度よく調整できる。また、Y軸方向において、フローティング領域84をカソード領域82毎に設け、且つ、フローティング領域84の幅をカソード領域82の幅よりも大きくすることで、カソード領域82およびカソード間領域81の各境界に第1領域101を配置できる。
一例として、上面視におけるフローティング領域84の面積は、カソード領域82の面積より大きくてよい。フローティング領域84の面積は、第1領域101の面積より大きい。また、フローティング領域84の面積は、第3領域103の面積より大きい。フローティング領域84の面積は、カソード領域82およびカソード間領域81の面積の和の90%以下であってよい。また、上面視におけるカソード間領域81の面積は、カソード領域82の面積より大きくてよい。なお各領域の面積は、FWD領域80における領域毎の総面積を指す。
図17は、YZ面におけるカソード領域82およびカソード間領域81を示す図である。カソード領域82は、半導体基板10の下面64を基準として、カソード間領域81よりも深くまで設けられている。深さ方向(Z軸方向)におけるカソード領域82の厚みをZ2、カソード間領域81の厚みをZ1とする。厚みZ2は、厚みZ1より大きい。
フローティング領域84は、カソード領域82の上端よりも上方に配置される。カソード領域82の厚みZ2を大きくすることで、フローティング領域84とカソード間領域81とが接触することを抑制できる。なお、フローティング領域84は、カソード領域82と接していてよく、離れていてもよい。
図18は、第4実施形態の第1変形例に係るFWD領域80の上面視図である。本例のFWD領域80は、Y軸方向におけるフローティング領域84の配置が、図14から図16において説明した例とは異なる。他の構造は、図14から図16において説明した例と同様である。
本例のフローティング領域84は、カソード間領域81のY軸方向の全体と重なり、且つ、カソード領域82のY軸方向の一部の領域と重なって配置されている。図14に示した例においては、図16に示した第4領域104の面積を低減でき、カソード領域82からの電子の注入量を低減できる。本例においては、第4領域104の面積が増大するので、カソード領域82からの電子の注入量は増大する。このように、フローティング領域84およびカソード間領域81を設けることで、カソード領域82からの電子の注入量を容易に調整できる。
図19は、第4実施形態の第2変形例に係るFWD領域80の上面視図である。本例のFWD領域80は、カソード領域82およびカソード間領域81が、X軸方向に沿って交互に配置されている点で、図14から図18において説明した例とは異なる。他の構造は、図14から図18において説明した例と同様である。
図19においては、フローティング領域84が、カソード領域82のX軸方向の全体と重なり、且つ、カソード間領域81のX軸方向の一部の領域と重なって配置されている。他の例では、フローティング領域84は、カソード間領域81のX軸方向の全体と重なり、且つ、カソード領域82のX軸方向の一部の領域と重なって配置されていてもよい。本例によっても、FWD領域80のカソード領域82からの電子注入量を精度よく制御できる。
図20は、第4実施形態の第3変形例に係るFWD領域80の上面視図である。本例のFWD領域80は、フローティング領域84の配置が、図14から図19において説明した例とは異なる。他の構造は、図14から図19において説明した例と同様である。
本例では、IGBT領域70との境界72の最も近くに配置されたフローティング領域84のX軸方向の幅をX1とする。また、FWD領域80のX軸方向における中央に配置されたフローティング領域84のX軸方向の幅をX2とする。本例の幅X1は、幅X2よりも大きい。幅X1は、幅X2の1.5倍以上であってよく、2倍以上であってもよい。これにより、IGBT領域70との境界72の近傍において、カソード領域82からの電子の注入を抑制できる。このため、FWD領域80からIGBT領域70に流れるキャリアを低減できる。IGBT領域70との境界72の最も近くに配置されたフローティング領域84は、複数のフローティング領域84において、X軸方向の幅が最大であってよい。
また他の例においては、幅X1は、幅X2より小さくてもよい。幅X2は、幅X1の1.5倍以上であってよく、2倍以上であってもよい。IGBT領域70との境界72の最も近くに配置されたフローティング領域84は、複数のフローティング領域84において、X軸方向の幅が最小であってもよい。
図21は、第4実施形態の第3変形例に係るFWD領域80の上面視図である。本例のFWD領域80は、フローティング領域84の配置が、図14から図20において説明した例とは異なる。他の構造は、図14から図20において説明した例と同様である。
本例のフローティング領域84は、Y軸方向において、1つ以上のカソード領域82全体と、1つ以上のカソード間領域81全体とに跨って連続して設けられている。フローティング領域84は、複数のカソード領域82と、複数のカソード間領域81とに跨って連続して設けられていてもよい。
図22は、図21におけるM-M断面の一例を示す図である。図22においては、半導体基板10の下面64近傍の断面を示している。本例において、カソード領域82の上端とフローティング領域84の下端との深さ方向(Z軸方向)の距離をZ5とする。また、カソード間領域81の上端とフローティング領域84の下端との深さ方向(Z軸方向)の距離をZ3とする。
深さ方向の各距離は、Y軸方向におけるカソード領域82の中央、および、カソード間領域81の中央で測定してよい。また、カソード領域82とフローティング領域84との距離の平均値を距離Z5としてもよい。また、カソード間領域81とフローティング領域84との距離の平均値を距離Z3としてもよい。
距離Z5は、距離Z3よりも小さくてよい。これにより、電子が注入されるカソード領域82と、フローティング領域84との距離を小さくして、電子の注入を抑制しやすくなる。また、距離Z3を距離Z5よりも大きくすることで、フローティング領域84が、カソード間領域81に接触することを抑制できる。距離Z3は、距離Z5の1.1倍以上であってよく、1.2倍以上であってよく、1.5倍以上であってもよい。また、距離Z5はゼロであり、距離Z3はゼロより大きくてよい。
本例では、図21に示した例を用いてフローティング領域84の形状を説明したが、図14から図20に示した例においても、フローティング領域84は同様の形状を有してよい。カソード領域82およびカソード間領域81の両方を形成した後に、下面64側からP型ドーパントを注入してフローティング領域84を形成した場合には、図14から図20に示した例においても、距離Z5は距離Z3より小さくなる。このようなフローティング領域84の形状は、図21および図22に示したような、フローティング領域84が複数のカソード領域82および複数のカソード間領域81にわたって形成された場合に限られない。また、当該断面においてフローティング領域84の形状は、境界72の近傍でステップ状であるが、他の例では、フローティング領域84の形状は、境界72の近傍で曲線状であってもよい。
図23は、第4実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示すフロー図である。本例では、図22に示したFWD領域80を有する半導体装置の製造方法を示している。本例の段階S610およびS650-S680は、図13Aにおける段階S510およびS550-S580と同一である。
図24は、図23におけるP型ドーパント注入段階S620、カソード領域用注入段階S632およびフローティング領域用注入段階S640を説明する図である。図24においてはFWD領域80だけを示しているが、半導体装置は、第1から第3実施形態と同様のIGBT領域70を有してよい。
段階S620においてP+型のコレクタ領域22およびP+型のカソード間領域81を形成する。コレクタ領域22は、IGBT領域70の下面全体に形成してよい。カソード間領域81は、FWD領域80の下面全体に形成してよい。コレクタ領域22およびカソード間領域81は同一の工程で形成してよい。次に段階S632において、半導体基板10の下面64から、FWD領域80のカソード間領域81に、選択的にN型ドーパントをカウンタードーピングする。これにより、FWD領域80のカソード間領域81の一部の領域をN+型に反転させる。FWD領域80のカソード間領域81のうち、N+型に反転した領域がカソード領域82となり、P+型のまま残った領域がカソード間領域81として残存する。段階S632においては、カソード領域82とカソード間領域81が、予め定められた方向において交互に配置されるように、N型ドーパントを選択的に注入する。段階S632においては、マスク68-1を用いて、N型ドーパントを注入する領域を選択してよい。
次に段階S640において、半導体基板10の下面64から、フローティング領域84を形成するためのP型ドーパントを注入する。P型ドーパントを注入する前に、マスク68-1を除去して、半導体基板10の下面64に新たなマスク68-2を設けてよい。カソード領域82には、カソード間領域81を形成するためのP型ドーパントと、カソード領域82を形成するためのN型ドーパントの両方が含まれている。このため、段階S640において、カソード領域82を通過するP型ドーパントは、カソード間領域81を通過するP型ドーパントに比べて、下面64からの距離が短い位置に注入されやすくなる。
従って、カソード領域82およびカソード間領域81に対して、同一の条件でP型ドーパントを注入することで、図22において説明した形状のフローティング領域84を形成できる。他の例では、カソード領域82の下面にP型ドーパントの飛程を短くするためのマスク等を選択的に設けてから、P型ドーパントを注入してもよい。
また、フローティング領域84の形成前に、カソード領域82を形成するので、図4Bにおいて説明したパーティクル86の発生や付着の可能性を低減できる。このため、接合リーク、耐圧不良およびスイッチング特性等への影響を抑制できる。
図25は、第4実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を示すフロー図である。本例の段階S610およびS650-S680は、図13Aにおける段階S510およびS550-S580と同一である。また、本例の製造方法は、図23および図24に示した製造方法に対して、フローティング領域用注入段階と、カソード領域用注入段階の順番が入れ替わっている。
図26は、図25におけるP型ドーパント注入段階S620、フローティング領域用注入段階S642およびカソード領域用注入段階S634を説明する図である。図26においてはFWD領域80だけを示しているが、半導体装置は、第1から第3実施形態と同様のIGBT領域70を有してよい。
段階S620においてP+型のカソード間領域81を形成する。段階S620は、図23および図24における段階S620と同一である。次に段階S642において、半導体基板10の下面64から、フローティング領域84を形成するためのP型ドーパントを注入する。P型ドーパントを注入する前に、半導体基板10の下面64にマスク68-2を設けてよい。
次に段階S634において、半導体基板10の下面64から、FWD領域80のカソード間領域81に、選択的にN型ドーパントをカウンタードーピングする。これにより、カソード間領域81の一部の領域をN+型に反転させる。FWD領域80のカソード間領域81のうち、N+型に反転した領域がカソード領域82となり、P+型のまま残った領域がカソード間領域81として残存する。段階S634は、図23および図24における段階S632と同様である。
本例においては、カソード領域82の形成前に、フローティング領域84形成用のP型ドーパントを注入する。このため、フローティング領域84は、一定の深さ位置に形成される。つまり、フローティング領域84を所定の深さ位置に容易に形成できる。例えば、ドーピング濃度が比較的に低いドリフト領域18までフローティング領域84が形成されると、P型に反転する領域が広がりやすくなり、フローティング領域84の深さ位置を制御することが難しくなる場合がある。本例によれば、フローティング領域84の全体を、ドーピング濃度が比較的に高いFS領域20内に容易に形成できるので、フローティング領域84の位置を容易に制御できる。
図27Aは、第4実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を示すフロー図である。本例の段階S610およびS620-S680は、図23における段階S610およびS620-S680と同一である。また、本例の製造方法は、図23および図24に示した製造方法に対して、カソード領域用注入段階と、コレクタ領域およびカソード間領域用の注入段階の順番が入れ替わっている。
本例では、段階S610の後に、カソード領域用注入段階S636を行う。段階S636においては、図24の段階S632等に示したようなマスク68-1を用いて、カソード領域82を形成すべき領域に選択的にN型ドーパントを注入する。マスク68-1は、IGBT領域70の下面全体と、FWD領域80においてカソード間領域81を形成すべき領域を覆って設けられる。
次に段階S620において、半導体基板10の下面64からP型ドーパントを注入して、コレクタ領域22およびカソード間領域81を形成する。段階S620においては、半導体基板10の下面64の全体にP型ドーパントを注入してよい。つまり、段階S636においてN型ドーパントを注入したカソード領域82にも、P型ドーパントを注入してよい。この場合、段階S620においてP型ドーパントが注入されても、カソード領域82がN+型を維持できる程度の濃度で、段階S636においてN型ドーパントを注入する。
段階S620の後に、フローティング領域84を形成する。本例においても、図23および図24の例と同様に、図22において説明した形状のフローティング領域84を形成できる。また、フローティング領域84の形成前に、カソード領域82を形成するので、図4Bにおいて説明したパーティクル86の発生や付着の可能性を低減できる。このため、接合リーク、耐圧不良およびスイッチング特性等への影響を抑制できる。
図27Bは、第4実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を示すフロー図である。本例の製造方法は、段階S620と、段階S640の順番が入れ替わっている点で、図27Aにおいて説明した製造方法と相違する。他の段階は、図27Aの例と同一である。
本例では、段階S636の後に、フローティング領域用注入段階S640を行う。段階S640においては、図24等に示したように、マスク68-2を用いてP型ドーパントを注入してよい。段階S640の後に、段階S620において、半導体基板10の下面64からP型ドーパントを注入して、コレクタ領域22およびカソード間領域81を形成する。段階S620は、図27Aにおける段階S620と同様である。本例においても、カソード領域82を選択的に形成した後にフローティング領域84を形成するので、図22において説明した形状のフローティング領域84を形成できる。
図28Aは、第4実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を示すフロー図である。本例の段階S610およびS620-S680は、図23における段階S610およびS620-S680と同一である。また、本例の製造方法は、図23および図24に示した製造方法に対して、フローティング領域用注入段階と、カソード領域、コレクタ領域およびカソード間領域用の注入段階の順番が入れ替わっている。
本例では、段階S610の後に、フローティング領域用注入段階S644を行う。段階S644においては、図26の段階S642等に示したようなマスク68-2を用いて、フローティング領域84を形成すべき領域に選択的にP型ドーパントを注入する。
次に段階S620において、半導体基板10の下面64からP型ドーパントを注入して、コレクタ領域22およびカソード間領域81を形成する。段階S620においては、半導体基板10の下面64の全体にP型ドーパントを注入してよい。
次に段階S632において、半導体基板10の下面64から、FWD領域80のカソード間領域81に、選択的にN型ドーパントをカウンタードーピングする。これにより、カソード間領域81の一部分をN+型の領域に反転させて、カソード領域82を形成する。
本例においても、図25および図26の例と同様に、フローティング領域84は、一定の深さ位置に形成される。つまり、フローティング領域84を所定の深さ位置に容易に形成できる。
図28Bは、第4実施形態に係る半導体装置の製造方法の他の例を示すフロー図である。本例の製造方法は、段階S620と、段階S632の順番が入れ替わっている点で、図28Aにおいて説明した製造方法と相違する。他の段階は、図28Aの例と同一である。
本例では、段階S644の後に、段階S620および段階S632を行う。段階S620および段階S632は、図27Aの段階S620および段階S636と同様である。
本例においても、図25および図26の例と同様に、フローティング領域84は、一定の深さ位置に形成される。つまり、フローティング領域84を所定の深さ位置に容易に形成できる。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。