以下に、本開示に係る抽出乾燥装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1は、実施形態に係る抽出乾燥装置1の装置構成を示す模式図である。なお、以下の説明では、抽出乾燥装置1の通常の使用状態における上下方向を、抽出乾燥装置1における上下方向Zとして説明し、抽出乾燥装置1の通常の使用状態における上側を、抽出乾燥装置1における上側とし、抽出乾燥装置1の通常の使用状態における下側を、抽出乾燥装置1における下側として説明する。また、抽出乾燥装置1の通常の使用状態における水平方向を、抽出乾燥装置1においても水平方向として説明する。さらに、水平方向のうち、抽出乾燥装置1によって搬送するフィルムFが進む方向を抽出乾燥装置1における長さ方向Yとし、水平方向のうち、長さ方向Yに直交する方向を抽出乾燥装置1における幅方向Xとして説明する。
<抽出乾燥装置1>
本実施形態に係る抽出乾燥装置1は、主に、リチウムイオン電池に用いられるセパレータフィルムの製造に用いられ、抽出装置2と、乾燥装置5とを有している。セパレータフィルムの製造時における抽出乾燥装置1の上流側の工程では、セパレータフィルムの原料となる樹脂材料と、液体状の可塑剤である液状可塑剤とを溶融混練後にシート状に成形し、シート状の薄膜部材であるフィルムFを得るが、抽出乾燥装置1は、得られたフィルムFから液状可塑剤を除去する装置になっている。
詳しくは、セパレータフィルムの原料となる樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が用いられる。また、液状可塑剤としては、例えば、オイルや流動パラフィン等が用いられる。セパレータフィルムの製造時における抽出乾燥装置1の上流側の工程では、これらの樹脂材料と液状可塑剤とを溶融混練後にシート状にし、さらに、シートを延伸することにより、ポリオレフィン系樹脂に多数の微細孔が開孔して微細孔に液状可塑剤が入り込んだ薄膜のフィルムFにする。抽出乾燥装置1は、このように形成されるフィルムFから、フィルムFに含浸されている液状可塑剤を抽出、除去することにより、ポリオレフィン系樹脂に開孔した多数の微細孔から液状可塑剤が抜けて、多数の微細孔が開孔したフィルムFにするための装置として構成されている。
抽出乾燥装置1が有する抽出装置2は、抽出乾燥装置1に搬送されたフィルムFに対して、溶剤MCを用いて液状可塑剤の抽出を行う。このため、抽出装置2は、液体の溶剤MCの槽である貯留槽3を有しており、溶剤MCは、貯留槽3に溜められる。溶剤MCとしては、例えば、塩化メチレンが用いられる。貯留槽3には、複数の貯留槽ロール4が配置されており、抽出装置2では、貯留槽3内の貯留槽ロール4にフィルムFを巻き掛けて貯留槽3内の溶剤MCにフィルムFを浸けながらフィルムFを搬送することにより、液状可塑剤を抽出し、フィルムFから液状可塑剤を除去する。貯留槽3は、このようにフィルムFが通る液体が貯留される槽になっている。
抽出乾燥装置1が有する乾燥装置5は、フィルムFの搬送方向における抽出装置2の下流側に配置されており、抽出装置2でフィルムFに付着した溶剤MCを乾燥させる。即ち、乾燥装置5は、フィルムFを乾燥させることにより、抽出装置2でフィルムFに付着した溶剤MCをフィルムFから取り除く。
乾燥装置5は、フィルムFの乾燥を行う処理室である乾燥室6を有しており、乾燥室6として、上流側乾燥室10と、フィルムFの搬送方向における上流側乾燥室10の下流側に配置される下流側乾燥室20と有している。これらの上流側乾燥室10と下流側乾燥室20との間には、上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とを仕切る仕切壁30が配置されている。本実施形態では、上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とは、仕切壁30を介して水平方向に隣り合って配置されている。つまり、上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とは、1つの乾燥室6の内側に、乾燥室6の内部空間を2つの空間に仕切る仕切壁30が配置されることにより、仕切壁30を介して隣り合って形成されている。抽出装置2から乾燥装置5に搬送されるフィルムFは、抽出装置2から乾燥装置5の上流側乾燥室10に搬送され、上流側乾燥室10から乾燥装置5の下流側乾燥室20に搬送される順番で搬送される。
上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とのうち、上流側乾燥室10は、貯留槽3に連通しており、これにより、乾燥室6は、貯留槽3を介して抽出装置2と連通している。詳しくは、貯留槽3は、上側に向かって開口しており、上流側乾燥室10は、貯留槽3の上側に配置され、下側の面が貯留槽3に向かって開口している。また、貯留槽3に溶剤MCが貯留された状態では、上流側乾燥室10における貯留槽3に連通する部分は、上流側乾燥室10の外の雰囲気に対して直接連通せずに、上流側乾燥室10の内側の雰囲気と外側の雰囲気との間に、貯留槽3に貯留される溶剤MCが介在する状態になる。このように、上流側乾燥室10は、溶剤MCが貯留される貯留槽3に対して連通しており、上流側乾燥室10内には、貯留槽3に貯留される溶剤MC内を通過したフィルムFを搬送することが可能になっている。
上流側乾燥室10には、液切りロール12と、上流側エアノズル13と、温調ロール16とが配置されている。このうち、液切りロール12と上流側エアノズル13とは、上流側乾燥室10で搬送されるフィルムFに付着している溶剤MCを除去する除液装置11として、上流側乾燥室10に配置されている。液切りロール12は、上流側乾燥室10内における貯留槽3の上側に複数が配置されており、複数の液切りロール12は、それぞれ円柱状の形状で形成され、円柱の軸方向が抽出乾燥装置1の幅方向Xに沿った向きで配置されている。本実施形態では、液切りロール12は、3つが上流側乾燥室10内に、抽出乾燥装置1の長さ方向Yにおける位置はほぼ同じ位置で、円柱の軸方向が互いに平行になる向きで上下方向Zに並んで配置されている。
温調ロール16は、1つが上流側乾燥室10内に配置されており、液切りロール12と同様に円柱状の形状で形成され、円柱の軸方向が抽出乾燥装置1の幅方向Xに沿った向きで配置されている。温調ロール16は、円柱の直径が液切りロール12の直径よりも大きい径で形成されており、液切りロール12の上側に配置されている。換言すると、液切りロール12は、円柱の直径が比較的小径になっており、3つの液切りロール12の直径は、ほぼ同じ大きさになっている。
それぞれ円柱状に形成される液切りロール12と温調ロール16とには、フィルムFを掛け回すことが可能になっており、液切りロール12と温調ロール16とは、いずれもモータ等の動力源から供給される動力により、円柱の軸心を中心として回転可能になっている。このため、液切りロール12と温調ロール16とは、フィルムFを掛け回した状態で回転をさせることにより、掛け回したフィルムFを、貯留槽3側から下流側乾燥室20側に向けて搬送することができる。
液切りロール12や温調ロール16にフィルムFを掛け回す際には、フィルムFの両面が、隣り合う液切りロール12や温調ロール16同士の間で交互に接触するように掛け回す。即ち、液切りロール12や温調ロール16にフィルムFを掛け回された状態では、例えば、隣り合う2つの液切りロール12は、フィルムFにおける互いに異なる面に接触する。このように、フィルムFを液切りロール12や温調ロール16に掛け回し、フィルムFの両面に対して、隣り合う液切りロール12や温調ロール16が交互に接触する状態で、液切りロール12や温調ロール16を回転させることにより、液切りロール12と温調ロール16とはフィルムFを搬送する。その際に、温調ロール16と比較して円柱の直径が小径に形成され、上下方向Zに複数が並んで配置される液切りロール12は、フィルムFに対して圧力を付与しつつ、フィルムFを搬送することができる。
さらに、液切りロール12と温調ロール16とは、いずれも温度の調節を行うことが可能になっている。詳しくは、液切りロール12と温調ロール16との内部には、乾燥室6の外部に配置される温調器(図示省略)で温調を行った温水が流れる流路が形成されており、温水は、液切りロール12や温調ロール16の内部と温調器との間で循環可能になっている。これにより、液切りロール12や温調ロール16は、内部に流す温水の温度や流量を調節することにより、フィルムFと接触する表面の温度を、任意の温度に調節することができる。例えば、温調ロール16は、フィルムFと接触する接触面16aの温度を、貯留槽3に貯留される溶剤MCの沸点以上の温度にすることができ、接触面16aの温度を溶剤MCの沸点以上の温度にした状態で、フィルムFを搬送可能になっている。
また、除液装置11である上流側エアノズル13は、温調ロール16の近傍に配置されており、温調ロール16の外周面、即ち、温調ロール16におけるフィルムFを搬送する面に対して気体を吹き付けることが可能になっている。これにより、上流側エアノズル13は、温調ロール16でのフィルムFの搬送時には、フィルムFにおける温調ロール16に接触する面の反対側の面に対して気体を吹き付けることができる。
また、上流側エアノズル13は、上流側乾燥室10内から供給された気体をフィルムFに吹き付けることができる。詳しくは、上流側乾燥室10には、上流側乾燥室10における上側の部分に、上流側乾燥室10内の気体を上流側乾燥室10の外に排出する循環排気ダクト14が設置されており、循環排気ダクト14は、送風機である上流側ブロワ17に送風経路18を介して接続されている。さらに、上流側ブロワ17における気体の送出側は、上流側乾燥室10内の上流側エアノズル13に対して、送風経路18を介して接続されており、上流側ブロワ17から供給された気体を、上流側エアノズル13に供給することが可能になっている。このため、上流側ブロワ17は、循環排気ダクト14側から気体を吸引した気体を、送風経路18を介して上流側エアノズル13に対して供給することができる。
これにより、上流側エアノズル13は、上流側ブロワ17から供給された気体を、上流側乾燥室10内で吹き出すことが可能になっている。このため、上流側エアノズル13は、循環排気ダクト14から排出された上流側乾燥室10内の気体を、上流側乾燥室10内に吹き出すことができ、換言すると、上流側エアノズル13は、上流側乾燥室10内の気体を循環させて、上流側乾燥室10内でフィルムFに吹き付けることができる。
その際に、上流側ブロワ17は、循環排気ダクト14側から気体を吸引した気体を、温調して上流側エアノズル13に供給することができる。詳しくは、上流側ブロワ17は、気体の加熱を行う加熱装置(図示省略)と、気体の冷却を行う冷却装置(図示省略)とを備えており、上流側ブロワ17は、加熱装置で気体を加熱したり、冷却装置で気体を冷却したりすることにより、気体の温度を設定温度にすることができる。上流側ブロワ17は、このようにして温調した気体を上流側エアノズル13に供給することができ、上流側エアノズル13は、温調した上流側乾燥室10内の気体を、上流側乾燥室10内でフィルムFに吹き付けることができる。
上流側乾燥室10と下流側乾燥室20との間に配置されて上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とを仕切る仕切壁30は、上流側乾燥室10から下流側乾燥室20に向けて搬送されるフィルムFが通る連通部31を有している。連通部31は、仕切壁30に形成され、上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とを連通する孔になっている。また、連通部31は、仕切壁30における、上流側乾燥室10に配置される温調ロール16の近傍に形成されている。
仕切壁30が有する連通部31には、シールロール41と、シール部材42と、を備えるロールシール装置である中間ロールシール装置40が配置されている。このうち、シールロール41は、上流側乾燥室10に配置される液切りロール12や温調ロール16と同様に、円柱状の形状で形成され、円柱の軸方向が抽出乾燥装置1の幅方向Xに沿った向きで配置されている。シールロール41には、上流側乾燥室10に配置される液切りロール12や温調ロール16と同様に、フィルムFを掛け回すことが可能になっており、シールロール41には、フィルムFにおける、温調ロール16に接触する面の反対側の面が接触する状態で掛け回される。
また、シールロール41は、モータ等の動力源から供給される動力により、円柱の軸心を中心として回転可能になっている。このため、シールロール41は、フィルムFを掛け回した状態で回転をさせることにより、掛け回したフィルムFを、上流側乾燥室10側から下流側乾燥室20側に搬送することができる。
さらに、シールロール41の内部には、液切りロール12や温調ロール16と同様に、乾燥室6の外部に配置される温調器(図示省略)で温調を行った温水が流れる流路が形成されており、温水は、シールロール41の内部と温調器との間で循環可能になっている。これにより、シールロール41は、内部に流す温水の温度や流量を調節することにより、フィルムFと接触する表面の温度を、任意の温度に調節することができる。
また、シール部材42は、上下方向Zにおけるシールロール41の両側2箇所に配置されており、シールロール41の表面に近接する位置に配置されている。シール部材42は、シールロール41に対して近接する近接部と、シールロール41との間に形成される空間である膨張部とが、シールロール41の軸心を中心とする周方向において交互に配置される、いわゆるラビリンスシールとして形成されている。
連通部31を通って上流側乾燥室10から下流側乾燥室20に向けて搬送されるフィルムFは、上下方向Zにおけるシールロール41の両側2箇所に配置されるシール部材42のうち、一方のシール部材42とシールロール41との間を通って、上流側乾燥室10から下流側乾燥室20に向けて搬送される。本実施形態では、フィルムFは、シールロール41の下側に配置されるシール部材42とシールロール41との間を通って、上流側乾燥室10から下流側乾燥室20に向けて搬送される。フィルムFは、このようにシール部材42とシールロール41との間を通るため、シール部材42は、シールロール41で搬送するフィルムFにおけるシールロール41に対向する側の面の反対側の面に、フィルムFに対して近接して対向する。
下流側乾燥室20には、温調ロール21と、下流側エアノズル22とが配置されている。このうち、温調ロール21は、下流側乾燥室20内に複数が配置されており、複数の温調ロール21は、それぞれ円柱状の形状で形成され、円柱の軸方向が抽出乾燥装置1の幅方向Xに沿った向きで配置されている。本実施形態では、温調ロール21は、4つが下流側乾燥室20内に配置されている。
下流側乾燥室20に配置される4つの温調ロール21は、全て円柱の直径が、上流側乾燥室10に配置される温調ロール16の直径と同程度の大きさで形成されている。下流側乾燥室20に配置される温調ロール21には、フィルムFを掛け回すことが可能になっており、4つの温調ロール21は、いずれもモータ等の動力源から供給される動力により、円柱の軸心を中心として回転可能になっている。このため、4つの温調ロール21は、フィルムFを掛け回した状態で回転をさせることにより、掛け回したフィルムFを、上流側乾燥室10が位置する側から、長さ方向Yにおける上流側乾燥室10が位置する側の反対側に向けて搬送することができる。
詳しくは、フィルムFを温調ロール21に掛け回す際には、フィルムFは、4つの温調ロール21における隣り合う温調ロール21同士で、フィルムFにおける互いに異なる面が接触するように4つの温調ロール21に掛け回す。また、下流側乾燥室20に配置される4つの温調ロール21のうち、最も上流側乾燥室10寄りに配置される温調ロール21には、フィルムFにおける、中間ロールシール装置40のシールロール41に接触する面の反対側の面が接触する状態で掛け回す。温調ロール21は、このように4つの温調ロール21に掛け回した状態で温調ロール21を回転させることにより、掛け回したフィルムFを搬送することができる。
また、温調ロール21の内部には、上流側乾燥室10に配置される液切りロール12や温調ロール16と同様に、乾燥室6の外部に配置される温調器(図示省略)で温調を行った温水が流れる流路が形成されており、温水は、温調ロール21の内部と温調器との間で循環可能になっている。これにより、温調ロール21は、内部に流す温水の温度や流量を調節することにより、フィルムFと接触する表面の温度を、任意の温度に調節することができる。
また、下流側乾燥室20に配置される下流側エアノズル22は、中間ロールシール装置40が有するシールロール41の近傍と、下流側乾燥室20に配置される4つの温調ロール21のうち最も上流側乾燥室10寄りに配置される温調ロール21の近傍との2箇所に配置されている。下流側エアノズル22は、シールロール41や温調ロール21の外周面、即ち、シールロール41や温調ロール21における、フィルムFを搬送する面に対して気体を吹き付けることが可能になっている。これにより、下流側エアノズル22は、中間ロールシール装置40のシールロール41や温調ロール21でのフィルムFの搬送時には、フィルムFにおけるシールロール41や温調ロール21に接触する面の反対側の面に対して気体を吹き付けることができる。
その際に、中間ロールシール装置40のシールロール41と、下流側乾燥室20に配置される4つの温調ロール21のうち最も上流側乾燥室10寄りに配置される温調ロール21とは、フィルムFに対して、互いに異なる面に接触している。このため、下流側乾燥室20に配置される2箇所の下流側エアノズル22は、フィルムFにおける互いに異なる面に対して、気体を吹き付けることが可能になっている。
また、下流側乾燥室20に配置される下流側エアノズル22は、温調した気体をフィルムFに吹き付けることができる。詳しくは、下流側エアノズル22は、下流側乾燥室20の外に配置される送風機である下流側ブロワ27に対して、送風経路28を介して接続されている。下流側ブロワ27は、下流側ブロワ27の周囲の気体を吸引し、下流側乾燥室20内の下流側エアノズル22に対して、吸引した気体を供給することができる。
その際に、下流側ブロワ27は、吸引した気体を温調し、温調した気体を、送風経路28を介して下流側エアノズル22に供給することができる。つまり、下流側ブロワ27は、気体の加熱を行う加熱装置(図示省略)と、気体の冷却を行う冷却装置(図示省略)とを備えており、下流側ブロワ27は、加熱装置で気体を加熱したり、冷却装置で気体を冷却したりすることにより、気体の温度を設定温度にすることができる。下流側ブロワ27は、このようにして温調した気体を下流側エアノズル22に供給することができ、下流側エアノズル22は、下流側ブロワ27で温調した気体を、下流側乾燥室20内でフィルムFに吹き付けることができる。
また、下流側乾燥室20には、下流側乾燥室20内の気体を下流側乾燥室20の外に排出する排気ダクト23が配置されている。排気ダクト23は、下流側乾燥室20における下側の面である底面に配置されている。排気ダクト23は、送風機である排気ブロワ24に接続されており、排気ブロワ24は、排気ダクト23から下流側乾燥室20内の気体を下流側乾燥室20の外に排出することが可能になっている。また、排気ダクト23における下流側乾燥室20と排気ブロワ24との間には、排気ダクト23を流れる気体の流量を調整するダンパ25が配置されている。このため、排気ダクト23から下流側乾燥室20内の気体を下流側乾燥室20の外に排出する際における気体の流量は、ダンパ25によって調整することが可能になっている。
下流側乾燥室20の、長さ方向Yにおける上流側乾燥室10が位置する側の反対側の部分には、抽出乾燥装置1で処理を行ったフィルムFを、下流側乾燥室20内から下流側乾燥室20の外に送り出し、フィルムFを抽出乾燥装置1の後の工程に送り出す開口部26が形成されている。下流側乾燥室20の開口部26には、シールロール46と、シール部材47と、を備えるロールシール装置である出口側ロールシール装置45が配置されている。
このうち、シールロール46は、中間ロールシール装置40のシールロール41と同様に、円柱状の形状で形成され、円柱の軸方向が抽出乾燥装置1の幅方向Xに沿った向きで配置されている。シールロール46には、中間ロールシール装置40のシールロール41と同様に、フィルムFを掛け回すことが可能になっている。出口側ロールシール装置45のシールロール46にフィルムFを掛け回す際には、フィルムFにおける、下流側乾燥室20に配置される4つの温調ロール21のうち出口側ロールシール装置45に最も近い温調ロール21に接触する面の反対側の面が接触する状態で掛け回される。
また、出口側ロールシール装置45のシールロール46は、中間ロールシール装置40のシールロール41とは異なり、モータ等の動力源からは動力は供給されず、シールロール46に作用する外部からの力により回転する、いわゆるフリーロールになっている。また、出口側ロールシール装置45のシールロール46は、中間ロールシール装置40のシールロール41とは異なり、温調は行われない。
また、出口側ロールシール装置45のシール部材47は、上下方向Zにおけるシールロール46の両側2箇所に配置されており、シールロール46の表面に近接する位置に配置されている。出口側ロールシール装置45のシール部材47は、中間ロールシール装置40のシール部材42と同様に、シールロール46に対して近接する近接部と、シールロール46との間に形成される空間である膨張部とが、シールロール46の軸心を中心とする周方向において交互に配置される、いわゆるラビリンスシールとして形成されている。
下流側乾燥室20の開口部26を通って下流側乾燥室20内から下流側乾燥室20の外に向けて搬送されるフィルムFは、上下方向Zにおけるシールロール46の両側2箇所に配置されるシール部材47のうち、一方のシール部材47とシールロール46との間を通って、下流側乾燥室20内から下流側乾燥室20の外に向けて搬送される。本実施形態では、フィルムFは、シールロール46の上側に配置されるシール部材47とシールロール46との間を通って、下流側乾燥室20内から下流側乾燥室20の外に向けて搬送される。フィルムFは、このようにシール部材47とシールロール46との間を通るため、シール部材47は、シールロール46で搬送するフィルムFにおけるシールロール46に対向する側の面の反対側の面に、フィルムFに対して近接して対向する。
本実施形態では、さらに、制御装置50と、室内センサ51と、室外センサ52とを有している。このうち、室内センサ51は、下流側乾燥室20内に配置され、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力を検出することが可能になっている。また、室外センサ52は、抽出乾燥装置1の外に配置され、抽出乾燥装置1の外の大気圧を検出することが可能になっている。即ち、室外センサ52は、下流側乾燥室20の外の雰囲気の圧力を検出することが可能になっている。
また、制御装置50は、抽出乾燥装置1の各種制御を行うことが可能になっている。制御装置50は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、各種情報を記憶するメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などを有している。制御装置50の各機能の全部または一部は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、RAMやROMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。制御装置50は、抽出乾燥装置1専用に用いられるものであってもよく、他の装置との共用であったり、抽出乾燥装置1が組み込まれるシステム全体を制御するものであったりしてもよい。
室内センサ51と室外センサ52とは、いずれも制御装置50に接続され、室内センサ51や室外センサ52での検出結果は、制御装置50により取得可能になっている。また、上流側ブロワ17や下流側ブロワ27、ダンパ25も、制御装置50に接続され、上流側ブロワ17や下流側ブロワ27での送風量や、上流側ブロワ17や下流側ブロワ27から送出する気体の温度、ダンパ25の開度は、制御装置50により制御することが可能になっている。さらに、上流側乾燥室10に配置される液切りロール12や温調ロール16、中間ロールシール装置40が有するシールロール41、下流側乾燥室20に配置される温調ロール21の回転速度や温度も、制御装置50により制御することが可能になっている。
<抽出乾燥装置1の作用>
本実施形態に係る抽出乾燥装置1は、以上のような構成を含み、以下、その作用について説明する。抽出乾燥装置1は、リチウムイオン電池に用いられるセパレータフィルム等の多孔質のフィルムFの製造工程において、フィルムFの抽出・乾燥を行う。抽出乾燥装置1を用いて、フィルムFの抽出・乾燥を行う際には、抽出乾燥装置1の運転を開始する前に、まず、抽出乾燥装置1が有する液切りロール12や温調ロール16等の各ロールにフィルムFを掛け回し、これらのロールによりフィルムFを搬送できる状態にする。これにより、各ロールを回転させることにより、フィルムFを連続的に搬送することが可能になる。
このようにフィルムFを配置した状態で、抽出乾燥装置1の運転を開始することにより、抽出乾燥装置1には、フィルムFの搬送方向における上流側の工程で成形した、ポリオレフィン系樹脂に多数の微細孔が開孔して微細孔に液状可塑剤が入り込んだ薄膜のフィルムFが搬送される。フィルムFは、まず、抽出乾燥装置1が有する抽出装置2に搬送され、抽出装置2では、貯留槽3内に配置される貯留槽ロール4によりフィルムFを搬送しながら、貯留槽3に貯留された溶剤MCにフィルムFを浸けることにより、フィルムFから液状可塑剤を除去する。
液状可塑剤が除去されたフィルムFは、抽出装置2から乾燥装置5に搬送される。乾燥装置5では、フィルムFを搬送しながら、乾燥室6内でフィルムFを乾燥させ、フィルムFに付着した溶剤MCをフィルムFから取り除く。ここで、乾燥装置5でフィルムFを搬送する際には、フィルムFに張力が発生する状態で搬送をする。これにより、フィルムFと、フィルムFに接触してフィルムFを搬送する各ロールとの間の面圧が確保され、この面圧により、フィルムFとロールとの間の摩擦力が確保される。このため、フィルムFとロールとの間に、このように摩擦力が発生している状態でロールを回転させることにより、双方の間の摩擦力によって、ロールの回転に伴ってフィルムFを搬送することができる。
図2は、実施形態に係る抽出乾燥装置1でフィルムFを乾燥させる過程を示す説明図である。フィルムFに付着した溶剤MCをフィルムFから取り除くために、抽出装置2から乾燥装置5に搬送されるフィルムFは、貯留槽3から、貯留槽3の上側に位置して貯留槽3に連通する、上流側乾燥室10に搬送される。上流側乾燥室10における貯留槽3の上側には、複数の液切りロール12が配置されており、貯留槽3から上流側乾燥室10に搬送されたフィルムFは、まず、液切りロール12に搬送される。このため、液切りロール12に搬送されるフィルムFは、貯留槽3で溶剤MCに浸された直後のフィルムFであるため、多くの溶剤MCが表面に付着した状態で、フィルムFは液切りロール12に搬送される。
ここで、貯留槽3では、フィルムFから液状可塑剤を抽出し、フィルムFから液状可塑剤を除去することを目的として、フィルムFを溶剤MCに浸すが、溶剤MCにより液状可塑剤を抽出した場合、抽出した液状可塑剤は溶剤MCに溶解することになる。一方で、貯留槽3でフィルムFに溶剤MCに浸した後、フィルムFを上流側乾燥室10に搬送し、フィルムFに付着した溶剤MCが乾く前の状態では、溶剤MCはフィルムFの表面に付着するのみでなく、フィルムFに形成された微細孔にも入り込む。このため、貯留槽3に貯留される溶剤MCに液状可塑剤が溶解している場合は、溶剤MCに溶解している液状可塑剤である可塑剤LPも、フィルムF微細孔にも入り込んだ状態になる(図2・S1参照)。
貯留槽3から液切りロール12の位置まで搬送されたフィルムFは、このように表面に多くの溶剤MCが付着し、微細孔に可塑剤LPが入り込んだ状態で、液切りロール12により搬送される。液切りロール12は、直径が温調ロール16等と比較して小さくなっており、液切りロール12に掛け回されたフィルムFと液切りロール12とは、接触面積が小さくなっている。このため、フィルムFと液切りロール12との接触部分の面圧は、比較的大きくなっている。これにより、液切りロール12により搬送されるフィルムFは、フィルムFと液切りロール12との間で作用する比較的大きな面圧により、フィルムFの表面に付着している溶剤MCがフィルムFと液切りロール12との間から滲み出て、溶剤MCが下側に流れる。
また、液切りロール12は複数が配置され、フィルムFは、厚さ方向における両面が、いずれかの液切りロール12に接触して搬送される。従って、フィルムFの表面に付着している溶剤MCは、フィルムFの厚さ方向における両面のいずれの面においても、液切りロール12との間の面圧によりフィルムFと液切りロール12との間から滲み出て下側に流れる。このため、液切りロール12を通過したフィルムFは、表面に付着している溶剤MCが、液切りロール12により、ある程度取り除かれる。
また、液切りロール12は、内部を流れる温水の温度や流量を調節することにより、液切りロール12の外周面の温度、即ち、液切りロール12におけるフィルムFに接触する部分の温度を高め、フィルムFの表面に付着している溶剤MCの温度を高める。これにより、フィルムFの表面に付着している溶剤MCの気化を促し、溶剤MCを気化させることによっても、フィルムFの表面に付着している溶剤MCを取り除く。
上流側乾燥室10内で搬送されるフィルムFは、液切りロール12により表面に付着している溶剤MCがある程度取り除かれたら、次に、フィルムFの搬送方向における液切りロール12の下流側に位置する温調ロール16が配置されている位置に搬送される。温調ロール16の近傍には、上流側エアノズル13が配置されており、上流側エアノズル13は、抽出乾燥装置1でフィルムFの抽出・乾燥を行う際には、温調ロール16におけるフィルムFを搬送する面に対して気体を吹き付ける。このため、抽出乾燥装置1でフィルムFの抽出・乾燥を行う際には、上流側エアノズル13は、温調ロール16で搬送するフィルムFに対して、上流側乾燥室10内から供給される気体であるウェットエアWAを吹き付ける。上流側エアノズル13からウェットエアWAを吹き付けられたフィルムFは、ウェットエアWAを吹き付けられた面の溶剤MCがウェットエアWAにより吹き飛ばされる。これにより、フィルムFは、上流側エアノズル13からウェットエアWAが吹き付けられた面の溶剤MCが除去される(図2・S2参照)。
このように、上流側エアノズル13からフィルムFに対して吹き付ける気体であるウェットエアWAは、上流側ブロワ17から供給される気体になっている。つまり、上流側ブロワ17は、気体の吸引側が、上流側乾燥室10に設置される循環排気ダクト14に対して送風経路18を介して接続されており、上流側ブロワ17の作動時には、上流側ブロワ17は、上流側乾燥室10内の気体を循環排気ダクト14より吸引し、吸引した気体を上流側エアノズル13に供給する。これにより、上流側エアノズル13は、上流側乾燥室10内から供給される気体であるウェットエアWAを、温調ロール16で搬送するフィルムFに対して吹き付ける。
また、上流側ブロワ17を作動させることにより、循環排気ダクト14側から吸引する気体を上流側エアノズル13に供給する際には、上流側ブロワ17は、上流側ブロワ17が備える加熱装置や冷却装置によって気体の温調を行い、温調した気体を供給する。上流側エアノズル13からは、温調したウェットエアWAをフィルムFに吹き付けることにより、フィルムFの表面に付着している溶剤MCの気化を促進し、溶剤MCを効率良く吹き飛ばす。
上流側ブロワ17による気体の温調は、制御装置50で上流側ブロワ17を制御し、上流側ブロワ17が備える加熱装置や冷却装置を作動させることによって、気体の温度が予め設定した設定温度になるようにする。この場合における設定温度は、常温から、溶剤MCの沸点の前後の温度の範囲内で設定するのが好ましい。例えば、溶剤MCの沸点が40℃程度である場合は、設定温度は、常温から60℃程度の範囲内で設定するのが好ましい。上流側ブロワ17により気体の温調を行う際の設定温度は、抽出乾燥装置1の試運転時に、フィルムFの表面に付着している溶剤MCを効率良く除去するのに最適な温度を見極めて、最適な温度を設定温度として設定する。
ここで、上流側乾燥室10は、上流側乾燥室10の下側に位置する貯留槽3に連通しており、貯留槽3は、上流側乾燥室10に開放されている。また、貯留槽3には、溶剤MCが貯留されている。溶剤MCは、液体であるため、蒸発することにより徐々に気化し、上流側乾燥室10には、気体となった溶剤MCが徐々に溜まる。これにより、上流側乾燥室10内の雰囲気は、気体となった溶剤MCである溶剤ガスMCGが充満する状態になる。即ち、上流側乾燥室10内は、溶剤ガスMCGがリッチな雰囲気となる。
このため、上流側乾燥室10内から供給されて上流側エアノズル13により吹き付ける気体であるウェットエアWAも、多くの溶剤ガスMCGが含まれた、ウェットな気体になっている。従って、上流側エアノズル13からウェットエアWAを吹き付けられたフィルムFは、乾燥することなく、表面の溶剤MCが吹き飛ばされる。また、上流側エアノズル13は、上流側乾燥室10の外の気体ではなく、上流側乾燥室10内から供給されるウェットエアWAをフィルムFに吹き付けることにより、上流側乾燥室10内の気体を循環させながら吹き付けるため、上流側乾燥室10内では、溶剤ガスMCGがリッチな雰囲気が維持される。
また、温調ロール16によりフィルムFを搬送する際には、温調ロール16の内部を流れる温水の温度や流量を調節することにより、温調ロール16におけるフィルムFとの接触面16aの温度を溶剤MCの沸点以上の温度にする。これにより、温調ロール16により搬送されるフィルムFは、温調ロール16の接触面16aに接触している間に、フィルムFの微細孔に入り込んでいる、可塑剤LPが溶解している溶剤MCは突沸する。突沸した溶剤MCは、溶剤MCに溶解している可塑剤LPと共にフィルムFの外に放出され、フィルムFにおける、突沸した、可塑剤LPを含む溶剤MCが位置していた部分には、微細孔Hが形成される。
その際に、温調ロール16で搬送するフィルムFには、上流側エアノズル13によりウェットエアWAが吹き付けられるため、突沸してフィルムFの外に放出された溶剤MCは、上流側エアノズル13より吹き付けられるウェットエアWAにより、フィルムFの外に放出された後に、すぐに吹き飛ばされる。これにより、溶剤MCに溶解している可塑剤LPも、溶剤MCと共に吹き飛ばされるため、フィルムFの外に放出された可塑剤LPはフィルムFに残ることなく、フィルムFから適切に除去される。
上流側乾燥室10内で、乾燥することなく温調ロール16の位置で上流側エアノズル13より吹き付けられるウェットエアWAにより、表面の溶剤MCが吹き飛ばされたフィルムFは、仕切壁30の連通部31を通過して、下流側乾燥室20に向かう。ここで、仕切壁30の連通部31には、中間ロールシール装置40が配置されるため、上流側乾燥室10の雰囲気と下流側乾燥室20の雰囲気とは、中間ロールシール装置40によって仕切られている。このため、上流側乾燥室10と下流側乾燥室20との間では、気体の移動は行われ難くなっており、上流側乾燥室10内における、溶剤ガスMCGがリッチな雰囲気は、中間ロールシール装置40により上流側乾燥室10内で維持される。
詳しくは、中間ロールシール装置40は、フィルムFを搬送するシールロール41と、シールロール41に近接し、ラビリンス構造を有するシール部材42とを有しており、上流側乾燥室10側から下流側乾燥室20側に搬送されるフィルムFは、シールロール41とシール部材42との間を通って搬送される。つまり、シールロール41により上流側乾燥室10側から下流側乾燥室20側に搬送されるフィルムFにおける、シールロール41に接する面の反対の面側には、フィルムFとの隙間が極小となり、且つ、ラビリンス構造を有するシール部材42が配置されている。これにより、上流側乾燥室10内における溶剤ガスMCGがリッチな気体は、中間ロールシール装置40が有するシール部材42に遮られ、フィルムFのみが、上流側乾燥室10側から下流側乾燥室20側に搬送される。
下流側乾燥室20は、上流側乾燥室10とは異なり、溶剤MCが貯留される貯留槽3には連通していないため、下流側乾燥室20の雰囲気に含まれる溶剤ガスMCGは少なくなっており、下流側乾燥室20の雰囲気は、上流側乾燥室10と比較して乾燥したものになっている。このため、中間ロールシール装置40のシールロール41により、上流側乾燥室10から下流側乾燥室20に搬送されたフィルムFは、下流側乾燥室20内において、乾燥した雰囲気中で搬送される。
また、中間ロールシール装置40のシールロール41の近傍には、下流側エアノズル22が配置されており、下流側エアノズル22は、抽出乾燥装置1でフィルムFの抽出・乾燥を行う際には、シールロール41におけるフィルムFを搬送する面に対して、下流側乾燥室20の外から供給される気体であるドライエアDAを吹き付ける。このため、抽出乾燥装置1でフィルムFの抽出・乾燥を行う際には、シールロール41の近傍に配置される下流側エアノズル22は、シールロール41で搬送するフィルムFに対してドライエアDAを吹き付ける。シールロール41の近傍に配置される下流側エアノズル22からドライエアDAを吹き付けられたフィルムFは、ドライエアDAを吹き付けられた面の溶剤MCがドライエアDAにより吹き飛ばされる。
さらに、下流側乾燥室20は、乾燥した雰囲気になっているため、下流側乾燥室20内で搬送されるフィルムFは、乾燥し易くなっている。このため、下流側エアノズル22からドライエアDAを吹き付けられたフィルムFは、フィルムFにおけるドライエアDAを吹き付けられた面寄りに位置する微細孔Hに入り込んでいる、可塑剤LPが溶解している溶剤MCが、下流側エアノズル22から吹き付けられるドライエアDAにより容易に蒸発する。即ち、乾燥した雰囲気中で、下流側エアノズル22からフィルムFにドライエアDAを吹き付けることにより、フィルムFを急速乾燥させる。これにより、フィルムFにおける、下流側エアノズル22からドライエアDAを吹き付けられた面寄りに位置する微細孔Hからは、溶剤MCと共に、溶剤MCに溶解している可塑剤LPが取り除かれ、フィルムFには微細孔Hが形成される(図2・S3参照)。
下流側乾燥室20には、温調ロール21が複数配置されており、中間ロールシール装置40のシールロール41により搬送されたフィルムFは、複数の温調ロール21により順に搬送される。複数の温調ロール21によってフィルムFを搬送する際には、中間ロールシール装置40のシールロール41により搬送されたフィルムFは、複数の温調ロール21のうち、まず、フィルムFの搬送方向において最もシールロール41寄りに位置する温調ロール21に搬送される。即ち、中間ロールシール装置40のシールロール41により搬送されたフィルムFは、複数の温調ロール21のうち、まず、フィルムFの搬送方向において最も上流側に位置する温調ロール21に搬送される。
複数の温調ロール21のうち、最もシールロール41寄りに位置する温調ロール21の近傍には、下流側エアノズル22が配置されており、下流側エアノズル22は、抽出乾燥装置1でフィルムFの抽出・乾燥を行う際には、温調ロール21におけるフィルムFを搬送する面に対して、下流側乾燥室20の外から供給される気体であるドライエアDAを吹き付ける。このため、抽出乾燥装置1でフィルムFの抽出・乾燥を行う際には、下流側エアノズル22は、温調ロール21で搬送するフィルムFに対してドライエアDAを吹き付ける。
ここで、中間ロールシール装置40のシールロール41の近傍に配置される下流側エアノズル22と、複数の温調ロール21のうち最もシールロール41寄りに配置される温調ロール21の近傍に配置される下流側エアノズル22とは、フィルムFにおける互いに異なる面に対して、ドライエアDAを吹き付けることが可能になっている。このため、複数の温調ロール21のうち、フィルムFの搬送方向において最も上流側に位置する温調ロール21に搬送されたフィルムFに対しては、当該温調ロール21の近傍に配置される下流側エアノズル22は、シールロール41の近傍に配置される下流側エアノズル22がドライエアDAを吹き付けた面の反対側の面に対して、ドライエアDAを吹き付ける。
これにより、フィルムFにおける、温調ロール21の近傍に配置される下流側エアノズル22からドライエアDAを吹き付ける面寄りの部分を急速乾燥させ、フィルムFの微細孔Hに入り込んでいる、可塑剤LPが溶解している溶剤MCを蒸発させる。つまり、フィルムFにおける、シールロール41の近傍に配置される下流側エアノズル22により急速乾燥をさせた面の反対側の面寄りの部分を、温調ロール21の近傍に配置される下流側エアノズル22からドライエアDAを吹き付けることにより、急速乾燥させる。従って、フィルムFにおける、温調ロール21の近傍に配置される下流側エアノズル22からドライエアDAを吹き付けられた面寄りに位置する微細孔Hからも、溶剤MCと共に、溶剤MCに溶解している可塑剤LPが取り除かれ、フィルムFには、厚さ方向の全体に亘って微細孔Hが形成される(図2・S4参照)。
これらのように、中間ロールシール装置40のシールロール41や下流側乾燥室20に配置される温調ロール21の近傍に配置される下流側エアノズル22からフィルムFに対して吹き付けるドライエアDAは、下流側ブロワ27から供給される気体になっている。つまり、下流側ブロワ27は、気体の吸引側が、下流側乾燥室20の外の大気に連通しており、下流側ブロワ27の作動時には、下流側乾燥室20の外の気体を吸引し、吸引した気体を下流側エアノズル22に供給する。これにより、下流側エアノズル22は、下流側乾燥室20の外から吸引したドライエアDAを、中間ロールシール装置40のシールロール41や、下流側乾燥室20に配置される温調ロール21で搬送するフィルムFに対して吹き付ける。
また、下流側ブロワ27を作動させることにより、下流側乾燥室20の外の気体を下流側エアノズル22に供給する際には、下流側ブロワ27は、下流側ブロワ27が備える加熱装置や冷却装置によって気体の温調を行い、温調した気体をドライエアDAとして供給する。下流側エアノズル22からは、温調したドライエアDAをフィルムFに吹き付けることにより、フィルムFの表面に付着している溶剤MCや、フィルムFの内部に存在する溶剤MCや可塑剤LPの気化を促進し、溶剤MCや可塑剤LPを効率良く除去する。
下流側ブロワ27による気体の温調は、制御装置50で下流側ブロワ27を制御し、下流側ブロワ27が備える加熱装置や冷却装置を作動させることによって、気体の温度が予め設定した設定温度になるようにする。この場合における設定温度は、常温から、溶剤MCの沸点の前後の温度の範囲内で設定するのが好ましい。下流側ブロワ27により気体の温調を行う際の設定温度は、抽出乾燥装置1の試運転時に、フィルムFの微細孔Hに入り込んでいる、可塑剤LPが溶解している溶剤MCを効率良く除去するのに最適な温度を見極めて、最適な温度を設定温度として設定する。
下流側乾燥室20に配置される複数の温調ロール21のうち、フィルムFの搬送方向における最も上流側に位置する温調ロール21の位置で下流側エアノズル22によってドライエアDAを吹き付けられたフィルムFは、温調ロール21の回転により、搬送方向における下流側に順次搬送される。このため、フィルムFは、中間ロールシール装置40のシールロール41から、下流側乾燥室20に配置される複数の温調ロール21に順次接触しながら、搬送方向における下流側に搬送される。その際に、これらのシールロール41や温調ロール21は、内部に流れる温水により、温度が調整された状態でフィルムFに接触する。これにより、シールロール41や温調ロール21により搬送されるフィルムFの温度も上昇するため、フィルムFの内部に存在する溶剤MCや可塑剤LPは気化し易くなり、溶剤MCや可塑剤LPは、より効率良く除去される。
また、下流側乾燥室20の外から供給されるドライエアDAを下流側乾燥室20内に吹き出す下流側エアノズル22が配置される下流側乾燥室20には、排気ダクト23が備えられており、排気ダクト23からは、下流側乾燥室20内の気体が排気される。排気ダクト23には、排気ブロワ24が接続され、また、ダンパ25が配置されるため、排気ダクト23から排気される下流側乾燥室20内の気体は、ダンパ25により流量を調整されながら、排気ブロワ24により吸引され、下流側乾燥室20の外に排気される。下流側乾燥室20は、下流側乾燥室20内の気体が、ダンパ25により流量が調整されながら排気ダクト23から排気されることにより、下流側乾燥室20は、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して負圧に調整される。下流側乾燥室20の圧力の調整は、制御装置50によって行う。
制御装置50は、室内センサ51による下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力の検出値と、室外センサ52による下流側乾燥室20の外の雰囲気の圧力の検出値とを取得して双方の検出値を比較し、比較した結果に基づいてダンパ25を作動させ、ダンパ25の開度を調整する。その際に、制御装置50は、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して、予め設定された範囲内の負圧になるように、下流側乾燥室20の圧力を調整する。
例えば、制御装置50は、室内センサ51による下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力の検出値が、室外センサ52による下流側乾燥室20の外の雰囲気の圧力の検出値よりも大きい場合、即ち、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が、大気圧と比較して高い場合には、ダンパ25の開度を大きくする。これにより、排気ブロワ24により吸引する、下流側乾燥室20内の気体の流量を多くし、排気ダクト23から、より多くの気体を排気することにより、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力を低下させる。下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が大気圧より高い場合には、このようにダンパ25の開度を大きくして下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力を低くすることにより、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力を、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して負圧にする。
また、制御装置50は、室内センサ51による下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力の検出値が、室外センサ52による下流側乾燥室20の外の雰囲気の圧力の検出値より小さい場合、即ち、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が、大気圧と比較して低い場合には、ダンパ25の開度を小さくする。これにより、排気ブロワ24により吸引する、下流側乾燥室20内の気体の流量を少なくし、排気ダクト23から排気する気体を少なくすることにより、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力の低下を抑える。
つまり、下流側乾燥室20内では、下流側ブロワ27によって下流側乾燥室20の外から供給される気体が下流側エアノズル22によって継続的に吹き出されるため、排気ダクト23から排気する気体を少なくすることにより、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力の低下を抑えることができる。下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が大気圧より低い場合には、このようにダンパ25の開度を小さくして下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力の低下を抑えることにより、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して低くなり過ぎないようにする。
制御装置50は、これらのように室内センサ51での検出値と、室外センサ52での検出値とを取得して双方の検出値を比較し、比較した結果に基づいてダンパ25の開度を調節することにより、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力を調整する。これにより、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力が、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して、予め設定された設定値の範囲内で低くなるようにし、即ち、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力を、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して設定した範囲内の負圧にする。また、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力は、このように大気圧に対して負圧にすることにより、上流側乾燥室10内の雰囲気の圧力よりも低くなり、上流側乾燥室10内の雰囲気の圧力に対しても負圧になる。
下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力は、これらのように排気ダクト23から排気を行うことにより、大気圧に対して負圧になり、下流側乾燥室20内の雰囲気の圧力は低くなるため、フィルムFの内部に存在する溶剤MCや可塑剤LPは気化し易くなる。これにより、下流側乾燥室20内で搬送されるフィルムFは、フィルムFに可塑剤LPが残ることなく、下流側乾燥室20内で搬送されながら乾燥する。
下流側乾燥室20内で搬送されるフィルムFは、下流側乾燥室20に形成される開口部26に向けて搬送される。下流側乾燥室20の開口部26には、出口側ロールシール装置45が配置されているため、出口側ロールシール装置45を通って、下流側乾燥室20の外に向けて送られる。ここで、下流側乾燥室20の開口部26には、このように出口側ロールシール装置45が配置されているため、下流側乾燥室20の雰囲気と下流側乾燥室20の外の大気とは、出口側ロールシール装置45によって仕切られている。このため、下流側乾燥室20の内側と外側との間では、気体の移動は行われ難くなっており、下流側乾燥室20内の雰囲気が大気圧に対して負圧となる状態は、出口側ロールシール装置45により維持される。
詳しくは、出口側ロールシール装置45は、フィルムFを搬送するシールロール46と、シールロール46に近接し、ラビリンス構造を有するシール部材47とを有しており、下流側乾燥室20内から下流側乾燥室20の外に搬送されるフィルムFは、シールロール46とシール部材47との間を通って搬送される。つまり、下流側乾燥室20内から、シールロール46に接しながら下流側乾燥室20の外に搬送されるフィルムFにおける、シールロール46に接する面の反対の面側には、フィルムFとの隙間が極小となり、且つ、ラビリンス構造を有するシール部材47が配置されている。これにより、フィルムFが下流側乾燥室20内から下流側乾燥室20の外に送り出される際に、下流側乾燥室20内の雰囲気よりも圧力が高い、下流側乾燥室20の外の大気は、出口側ロールシール装置45が有するシール部材47に遮られて下流側乾燥室20内に入り込み難くなっている。
また、下流側乾燥室20は、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して負圧になっているため、下流側乾燥室20内の気体は、出口側ロールシール装置45が有するシール部材47とフィルムFとの隙間や、シールロール46とシール部材47との隙間を通って、下流側乾燥室20の外に流れ難くなっている。このため、溶剤MCや可塑剤LPが気化した気体は、下流側乾燥室20内から下流側乾燥室20の外に漏れ難くなっている。
抽出装置2で溶剤によって液状可塑剤が抽出され、乾燥装置5により溶剤の乾燥が行われて出口側ロールシール装置45を通って下流側乾燥室20の外に送り出されたフィルムFは、抽出乾燥装置1の下流側の工程に搬送される。
<実施形態の効果>
以上の実施形態に係る抽出乾燥装置1では、乾燥装置5の乾燥室6が、上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とを有しており、上流側乾燥室10と下流側乾燥室20とは、仕切壁30により仕切られている。このうち、上流側乾燥室10は、溶剤MCが貯留される貯留槽3に連通しており、下流側乾燥室20には、下流側乾燥室20で搬送されるフィルムFに温調した気体を吹き付ける下流側エアノズル22が配置されている。これにより、上流側乾燥室10で、フィルムFに付着している溶剤MCを液体の状態で除去し、フィルムFを乾燥させることなく溶剤MCを除去した後、下流側乾燥室20でフィルムFを乾燥させることができる。従って、溶剤MCにより液状可塑剤の抽出が行われたフィルムFが、急激に乾燥することに起因して、溶剤MCに溶解していた液状可塑剤が気化せずにフィルムFに残ることを抑制することができる。
ここで、従来の抽出乾燥装置101による、フィルムFを乾燥させる工程について説明する。図3は、従来の抽出乾燥装置101の一例を示す模式図である。図4は、図3に示す抽出乾燥装置101でフィルムFを乾燥させる過程を示す説明図である。従来の抽出乾燥装置101は、例えば、図3に示すように、抽出装置102と、乾燥装置105とを有しており、抽出装置102は、溶剤MCを貯留すると共にフィルムFを搬送する貯留槽ロール104が配置される貯留槽103を有している。また、乾燥装置105は、1つの乾燥室106を有しており、乾燥室106には、液切りロール111と、温調ロール112と、エアノズル113と、排気ダクト114が配置されている。液切りロール111は、温調ロール112よりも小径のロールで形成されて貯留槽103の上側に複数が配置され、温調ロール112は、フィルムFの搬送方向における液切りロール111の下流側に複数が配置されている。エアノズル113は、温調ロール112の近傍に配置され、温調ロール112で搬送するフィルムFに対して乾燥室106の外の気体を吹き付けることが可能になっており、排気ダクト114は、乾燥室106内の気体を乾燥室106の外に排気する。
また、従来の抽出乾燥装置101では、乾燥室106で乾燥させたフィルムFを、乾燥室106内から乾燥室106の外に送り出す部分のシール構造として、図3に示すような水シール構造120を有している。水シール構造120は、水Wを貯留するシール水槽121と、水シール構造120においてフィルムFを搬送する水シールロール122と、水シールロール122で搬送するフィルムFに対して気体を吹き付ける水シールエアノズル123とを有している。
図3に示す水シール構造120では、乾燥室106におけるシール水槽121に連通する部分は、シール水槽121に水Wが貯留された状態では乾燥室106の外の大気に対して直接連通しておらず、乾燥室106の内側の雰囲気と外側の雰囲気との間には、シール水槽121に貯留される水Wが介在し、水Wによりシールされている。水シール構造120を通るフィルムFは、シール水槽121に貯留されてシールに用いられる水Wを通過することにより、乾燥室106内から乾燥室106の外に送り出され、水Wを通過したフィルムFは、水シールエアノズル123から気体を吹き付けられることにより、付着した水Wが吹き飛ばされる。
このように構成される従来の抽出乾燥装置101では、フィルムFに付着した溶剤MCをフィルムFから取り除くために、抽出装置102から乾燥装置105に搬送されるフィルムFは、貯留槽103から、乾燥装置105の乾燥室106に搬送される。貯留槽103から乾燥室106に搬送されるフィルムFは、多くの溶剤MCが表面に付着した状態で、まず、液切りロール111に搬送される(図4・S11参照)。
液切りロール111では、フィルムFの表面に付着している溶剤MCが、ある程度取り除かれる。液切りロール111を通過したフィルムFは、次に、フィルムFの搬送方向における液切りロール111の下流側に位置する温調ロール112が配置されている位置に搬送される。温調ロール112の近傍には、エアノズル113が配置されており、エアノズル113は、温調ロール112で搬送するフィルムFに対して、乾燥室106の外から供給された、乾燥した気体であるドライエアDAを吹き付ける。これにより、エアノズル113からドライエアDAを吹き付けられたフィルムFは、ドライエアDAを吹き付けられた面の溶剤MCがドライエアDAにより吹き飛ばされ、フィルムFは、エアノズル113からドライエアDAが吹き付けられた面の溶剤MCが除去される(図4・S12参照)。
また、温調ロール112は、フィルムFの微細孔Hに入り込んでいる、可塑剤LPを含む溶剤MCを気化させることができるように温調が行われ、フィルムFの温度を上昇させる。これにより、フィルムFの微細孔Hに入り込んでいる溶剤MCは気化するが、フィルムFに付着している溶剤MCが多く、且つ、ドライエアDAが吹き付けられることにより乾燥し易い状態で気化するため、微細孔Hに入り込んでいる溶剤MCのうち、一部の溶剤MCは、溶剤MCに溶解している可塑剤LPが残留可塑剤RLPとして残ってしまうことがある。つまり、フィルムFに付着している溶剤MCが多く、且つ、溶剤MCが気化し易い状態で溶剤MCは気化するため、フィルムFの微細孔Hに入り込んでいる一部の溶剤MCは、溶剤MCに溶解している可塑剤LPを微細孔Hに残したまま溶剤MCのみが気化してしまい、微細孔Hには残留可塑剤RLPが残り易くなる。
微細孔Hや表面に残留可塑剤RLPが残ったフィルムFは、複数の温調ロール112がフィルムFの両面に交互に接しながら、複数の温調ロール112により搬送され、フィルムFの表面に付着した溶剤MCは、温調ロール112によりフィルムFの温度が高められることにより気化し、除去される(図4・S13参照)。
さらに、温調ロール112の近傍に配置されるエアノズル113から吹き付けられるドライエアDAによって、フィルムFの表面に付着している溶剤MCが吹き飛ばされた場合、吹き飛ばされた溶剤MCの一部は、飛沫となって乾燥室106を漂い、溶剤MCが除去されたフィルムFの表面に付着することがある。この場合、フィルムFに付着した溶剤MCにおいても、溶剤MCに溶解している可塑剤LPを残したまま溶剤MCのみが気化してしまい、フィルムFの表面に残留可塑剤RLPが残ってしまうことがある。
溶剤MCが除去されたフィルムFは、水シール構造120を通って乾燥室106の外に送り出され、抽出乾燥装置101の後の工程に搬送される。このため、抽出乾燥装置101からは、残留可塑剤RLPが残った状態のフィルムFが、後の工程に送られる。
図5は、オイルマークMについての説明図である。フィルムFの一部の微細孔HやフィルムFの表面に残った残留可塑剤RLPは、フィルムFにおいて、帯状波状の連続的模様や複数の透明な点状の模様であるオイルマークMとして表れる。オイルマークMは、見た目が悪く、製造したフィルムFの検査を行う検査装置においては、欠点として検出されるが、図3に示すような、従来の抽出乾燥装置101では、液状可塑剤の抽出、乾燥を行った際に、フィルムFにオイルマークMが発生し易くなっている。
これに対し、本実施形態に係る抽出乾燥装置1では、貯留槽3が連通する上流側乾燥室10は、下流側乾燥室20とは仕切壁30により仕切られており、上流側乾燥室10内の雰囲気は、気体となった溶剤MCである溶剤ガスMCGが充満した、溶剤ガスMCGがリッチな雰囲気となっている。このため、溶剤MCによって液状可塑剤の抽出が行われたフィルムFに付着している溶剤MCを、除液装置11である液切りロール12や上流側エアノズル13によって上流側乾燥室10内で除去する際に、溶剤ガスMCGが充満する雰囲気で搬送されるフィルムFに付着している溶剤MCは、気化し難くなっている。
また、上流側乾燥室10内は、溶剤ガスMCGがリッチな雰囲気になっているため、上流側乾燥室10内でフィルムFから吹き飛ばされた溶剤MCの飛沫が、フィルムFに付着した場合でも、付着した溶剤MCは気化し難くなっており、溶剤MCの飛沫は乾き難くなっている。
上流側乾燥室10では、これらのように、溶剤ガスMCGが充満する雰囲気でフィルムFに付着している溶剤MCを除去することにより、溶剤MCの気化を抑えつつ、フィルムFに付着している溶剤MCを減らし、付着している溶剤MCを減らした状態のフィルムFを、上流側乾燥室10から下流側乾燥室20に搬送する。換言すると、上流側乾燥室10では、フィルムFに付着している溶剤MCを液体のまま除去することにより、付着している溶剤MCの量を減らすことができ、フィルムFに付着している溶剤MCが、フィルムFに付着したまま乾くことを抑制することができる。
下流側乾燥室20では、付着している溶剤MCが減った状態のフィルムFに対して、温調したドライエアDAを下流側エアノズル22によって吹き付ける。これにより、フィルムFでは、微細孔Hに入り込んでいる溶剤MCも含めて付着している量が少なくなった溶剤MCが、下流側エアノズル22から吹き付けられるドライエアDAによって一気に吹き飛ばされるため、溶剤MCに溶解している可塑剤LPがフィルムFに残ることなく、溶剤MCは吹き飛ばされる。また、下流側エアノズル22からフィルムFに対して吹き付けるドライエアDAは、下流側ブロワ27によって温調した気体になっており、即ち、下流側エアノズル22は、温風をフィルムFに吹き付ける。このため、フィルムFに付着している少量の溶剤MCは、下流側エアノズル22から吹き付けられる温風によって温度が上昇することにより気化が促進され、フィルムFから除去される。
本実施形態に係る抽出乾燥装置1では、これらのように、上流側乾燥室10でフィルムFに付着している溶剤MCを、溶剤ガスMCGがリッチな雰囲気中で液体の状態で減らし、下流側乾燥室20で乾燥した雰囲気中でフィルムFに付着している溶剤MCを除去することにより、溶剤MCを適切に除去することができる。従って、溶剤MCに溶解している可塑剤LPが、残留可塑剤RLPとしてフィルムFに残ることなく、溶剤MCに溶解している可塑剤LPを含め溶剤MCを適切に除去することができ、残留可塑剤RLPがオイルマークMとしてフィルムFに残ることを抑制できる。この結果、オイルマークMの発生を抑制することができる。
また、図3に示すような従来の抽出乾燥装置101では、溶剤MCが気化し易い雰囲気中で、液切りロール111によりフィルムFに付着している溶剤MCを取り除くため、エアノズル113からドライエアDAを吹き付けることによってフィルムFを乾燥させる前に、フィルムFは部分的に乾燥してしまう虞がある。この場合、部分的な乾燥に起因して、フィルムFが部分的に収縮し、弛みやシワ、しぼが発生したり、収縮率等の物性上の不均一が生じたりする虞がある。
これに対し、本実施形態に係る抽出乾燥装置1では、上流側乾燥室10で溶剤ガスMCGが充満する雰囲気中で液切りロール12によってフィルムFに付着している溶剤MCを取り除くため、上流側乾燥室10を搬送している間は、フィルムFが乾燥することを抑制することができる。これにより、フィルムFが部分的に乾燥してしまうことを抑制でき、フィルムFの部分的な乾燥に起因する、弛みやシワ、しぼが発生したり、収縮率等の物性上の不均一が生じたりすることを抑制できる。この結果、高品質なフィルムFを得ることができる。
また、フィルムFにオイルマークMが発生することを抑制するための他の手法としては、貯留槽3の容量を大きくし、貯留槽3で貯留する溶剤MCの量を多くすることにより、溶剤MCに溶解する可塑剤LPの濃度を低くする手法が考えられる。しかし、貯留槽3の容量を大きくして、貯留槽3で貯留する溶剤MCの量を多くした場合、貯留槽3が大きくなることにより、抽出乾燥装置1全体の大きさが大きくなるため、抽出乾燥装置1の費用が上昇したり、溶剤MCを多く使用することに伴い、ランニングコストが上昇したりする虞がある。
これに対し、本実施形態に係る抽出乾燥装置1では、使用する溶剤MCの量を増加させることなく、フィルムFにオイルマークMが発生することを抑制することができるため、貯留槽3の容量を大きくすることなく、オイルマークMの発生を抑制できる。この結果、装置費用やランニングコストの上昇を抑えることができる。
また、フィルムFにオイルマークMが発生することを抑制するための他の手法としては、溶剤MCにより液状可塑剤を抽出した後の、フィルムFに付着している溶剤MCに溶解している可塑剤LPの濃度を低くするために、フィルムFの成形速度を落として、溶剤MCに対するフィルムFの浸漬時間を長くする手法が考えられる。しかし、フィルムFの成形速度を落とした場合、フィルムFを製造するのに要する全体の製造時間も長くなり易くなる。
これに対し、本実施形態に係る抽出乾燥装置1では、溶剤MCに対するフィルムFの浸漬時間を長くすることなく、フィルムFに付着した、溶剤MCに溶解している可塑剤LPを溶剤MCと共に除去するため、フィルムFの製造に要する時間が長くなることを抑制できる。この結果、フィルムFの製造時間が長くなることを抑えつつ、フィルムFにオイルマークMが発生することを抑制することができる。
また、下流側乾燥室20は、下流側乾燥室20の周囲の大気圧に対して負圧に調整されるため、下流側乾燥室20では、フィルムFの微細孔Hに入り込んでいる溶剤MCやフィルムFの表面に付着している溶剤MCの気化を、より確実に促進することができる。これにより、下流側乾燥室20では、溶剤MCに溶解している可塑剤LPも、溶剤MCと共により確実に除去することができ、フィルムFに残留可塑剤RLPが残ることを抑制できる。この結果、オイルマークMの発生をより確実に抑制することができる。
また、仕切壁30が有する連通部31には、シールロール41とシール部材42とを備える中間ロールシール装置40が配置されるため、上流側乾燥室10内を、溶剤ガスMCGが充満する雰囲気に維持しつつ、フィルムFを上流側乾燥室10から下流側乾燥室20に搬送することができる。これにより、上流側乾燥室10では、フィルムFに付着した溶剤MCを、より確実に液体のまま除去することができ、フィルムFに付着している溶剤MCが、フィルムFに付着したまま乾くことをより確実に抑制することができる。従って、フィルムFに付着した溶剤MCが、フィルムFに付着したまま乾くことによってフィルムFに残留可塑剤RLPが残ることを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実にオイルマークMの発生を抑制することができる。
また、上流側乾燥室10で搬送されるフィルムFに付着している溶剤MCを除去する除液装置11として、フィルムFに対して圧力を付与しつつフィルムFを搬送する液切りロール12が用いられるため、フィルムFに付着している溶剤MCを、液切りロール12によってフィルムFを搬送しながら除去することができる。これにより、フィルムFに付着している溶剤MCを除去するための構成の簡素化を図ることができ、上流側乾燥室10に除液装置11を配置する際における部品点数の増加を抑制することができる。この結果、抽出乾燥装置1の製造コストの上昇を抑えつつ、オイルマークMの発生を抑制することができる。
また、上流側乾燥室10で搬送されるフィルムFに付着している溶剤MCを除去する除液装置11として、上流側乾燥室10内から供給された気体をフィルムFに吹き付ける上流側エアノズル13が用いられるため、上流側乾燥室10内を、溶剤ガスMCGが充満する雰囲気に維持しつつ、フィルムFに気体を吹き付けることができる。これにより、上流側乾燥室10内における、フィルムFに付着している溶剤MCの気化をより確実に抑制することができ、フィルムFに付着した溶剤MCを、液体のままより確実に除去することができる。従って、フィルムFに付着している溶剤MCが、フィルムFに付着したまま乾くことをより確実に抑制でき、溶剤MCがフィルムFに付着したまま乾くことによりフィルムFに残留可塑剤RLPが残ることを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実にオイルマークMの発生を抑制することができる。
また、上流側乾燥室10には、フィルムFとの接触面16aの温度を溶剤MCの沸点以上の温度にしてフィルムFを搬送可能な温調ロール16が配置されるため、温調ロール16でのフィルムFの搬送時に、フィルムFの微細孔Hに入り込んでいる溶剤MCは突沸させることができる。これにより、微細孔Hに入り込んでいる溶剤MCを、溶剤MCに溶解している可塑剤LPと共にフィルムFの外に放出させることができるため、可塑剤LPが残留可塑剤RLPとなって微細孔Hに残ることを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実にオイルマークMの発生を抑制することができる。
また、下流側乾燥室20に配置される排気ダクト23は、下流側乾燥室20の底面に配置されているため、下流側乾燥室20内で下流側エアノズル22によって吹き飛ばされた溶剤MCの飛沫が、フィルムFに付着することを抑制できる。つまり、下流側エアノズル22により吹き飛ばされた溶剤MCの飛沫は、重力により下側に落ちて行くが、排気ダクト23は、下流側乾燥室20の底面に配置されて下流側乾燥室20の下側から下流側乾燥室20内の気体を排気するため、下側に向かって落ちる溶剤MCの飛沫を、下流側乾燥室20の外に効率よく排出することができる。これにより、溶剤MCの飛沫が下流側乾燥室20内で漂うことによってフィルムFに付着し易くなることを、より確実に抑制できる。従って、フィルムFに溶剤MCの飛沫が付着することに起因して、フィルムFの表面に残留可塑剤RLPが残ってしまうことを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実にオイルマークMの発生を抑制することができる。
[変形例]
なお、上述した実施形態では、抽出装置2の貯留槽3には、フィルムFに含浸されている液状可塑剤を抽出する溶剤MCが貯留されているが、貯留槽3に貯留される液体は、溶剤MC以外であってもよい。抽出装置2は、例えば、溶剤MCが貯留される貯留槽と、フィルムFから溶剤MCを除去する水が貯留される貯留槽3とを有し、溶剤MCが貯留される貯留槽は、水が貯留される貯留槽3に対して、フィルムFの搬送方向における上流側に配置され、上流側乾燥室10は、水が貯留される貯留槽3に連通していてもよい。つまり、上流側乾燥室10には、貯留槽3に貯留される水内を通過したフィルムFが搬送されてもよい。
溶剤MCを通過したフィルムFを、貯留槽3に貯留される水によって除去する場合でも、上流側乾燥室10に搬送されたフィルムFには、フィルムFに含浸されている液状可塑剤が僅かに残ることがある。このため、このような場合においても、上流側乾燥室10を貯留槽3に連通させることにより、上流側乾燥室10内に雰囲気を、貯留槽3に貯留される水の蒸気が充満する雰囲気にすることができ、上流側乾燥室10では、フィルムFに付着した水を、液体のまま除去して減らすことができる。これにより、フィルムFに付着した水が、フィルムFに付着したまま乾くことを抑制することができ、フィルムFに僅かに残っている可塑剤LPが、残留可塑剤RLPとして残り続けることを抑制でき、オイルマークMが発生することを抑制できる。
また、上流側乾燥室10に配置される液切りロール12や上流側エアノズル13、温調ロール16は、上述した実施形態とは異なる数や配置形態で配置されていてもよい。同様に、下流側乾燥室20に配置される温調ロール21や下流側エアノズル22も、上述した実施形態とは異なる数や配置形態で配置されていてもよい。