前記の通り、銀酸化物を正極活物質とするアルカリ二次電池において、金属酸化物などの絶縁性無機粒子を正極に含有させると、充放電サイクル特性をある程度向上させ得る一方で、その向上は限定的である。
そこで、本発明では、炭素材料である黒鉛粒子およびカーボンブラック粒子を、絶縁性無機粒子と共に正極に含有させることとし、これにより、アルカリ二次電池の充放電サイクル特性を更に向上させると共に、充電効率を高めて放電容量を向上させることも可能とした。
本発明のアルカリ二次電池に係る正極は、正極活物質である銀酸化物と、絶縁性無機粒子と、炭素材料とを含有する正極合剤層を有するものである。正極は、正極合剤層のみで構成されたもの(正極合剤の成形体)であってもよく、正極合剤層が集電体上に形成された構造のものであってもよい。
正極活物質である銀酸化物としては、AgOやAg2Oを使用することができる。
銀酸化物は、その粒度について特に限定はされないが、平均粒子径が、10μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。このようなサイズの銀酸化物を用いた場合には、充電時の利用率が向上し、充電終止電圧を比較的低くしても大きな充電容量が得られるため、電池の充放電サイクル特性を更に高めることができ、また、例えば、充電終止電圧を高めることによって生じ得る電池の膨れを抑えることが可能となる。
ただし、あまり粒径の小さい銀酸化物は製造やその後の取り扱いが困難となることから、銀酸化物の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。
本明細書でいう銀酸化物やその他の粒子(後記の絶縁性無機粒子および黒鉛粒子)の平均粒子径は、レーザー散乱粒度分布計(例えば、堀場製作所製「LA-920」)を用い、粒子を溶解しない媒体に、これらの粒子を分散させて測定した、体積基準での累積頻度50%における粒径(D50)である。
正極合剤層に係る絶縁性無機粒子としては、Si、Zr、Ti、Al、MgおよびCaより選択される少なくとも1種の元素の酸化物などの粒子が挙げられる。また、前記酸化物の具体例としては、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、MgO、CaO、AlOOH、Al(OH)3などが挙げられ、電解液に溶解しないか、難溶性である粒子が好ましく用いられる。正極合剤層は、これらの絶縁性無機粒子のうちの1種または2種以上を含有していればよい。
絶縁性無機粒子は、その粒子径が大きすぎると、電池の充放電サイクル特性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、電池の充放電サイクル特性をより良好に高める観点からは、絶縁性無機粒子の平均粒子径は、0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
また、絶縁性無機粒子の粒子径が小さすぎると、電池の充電効率(初期容量)の向上効果が小さくなる虞がある。よって、電池の充電効率をより良好に高める観点からは、絶縁性無機粒子の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。
正極合剤層に係る黒鉛粒子は、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)の粒子、人造黒鉛の粒子のいずれでもよく、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
後述するように、黒鉛粒子には正極合剤層の成形性を高める機能があるが、この機能をより良好に発揮させる観点から、黒鉛粒子は、平均粒子径が、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、また、導電性の向上の観点からから、7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。
正極合剤層に係るカーボンブラック粒子としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが例示され、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。これらのカーボンブラック粒子の中でも、導電性が高く不純物が少ないアセチレンブラックが好ましく用いられる。
カーボンブラック粒子を使用することで、正極合剤層中で良好な導電ネットワークを形成しやすいため、例えば黒鉛粒子のみを使用する場合に比べて、正極活物質である銀酸化物の粒子との接点が多くなり、正極合剤層内の電気抵抗を効果的に低減することができ、これにより、充電時に正極活物質の反応効率を向上させることが可能となる。
他方、カーボンブラック粒子のみを使用する場合には、正極合剤層の厚みによっては、その成形性を高めるためにバインダを使用する必要があるが、黒鉛粒子も併用した場合には、正極合剤層の成形性が向上するため、例えば正極合剤の成形体や正極合剤層が0.4mm以下、より好ましくは0.3mm以下と薄い場合であってもその成形性が良好となり、バインダを用いなくとも製造不良の発生を防ぐことが容易になる。
そして、前記の通り、黒鉛粒子とカーボンブラック粒子とを併用することで、例えば絶縁性無機粒子のみを正極合剤層に含有させる場合に比べて、電池の充電効率と充放電サイクル特性とを高めることができる。
正極合剤層(正極合剤の成形体や集電体上に形成された正極合剤塗布層など)の組成としては、容量を確保するために、正極活物質である銀酸化物の含有量は、正極合剤層を構成する固形分全体を100質量%として、例えば、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
また、正極合剤層における絶縁性無機粒子の含有量は、その使用による効果(特に電池の充放電サイクル特性向上効果)を良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。ただし、正極合剤層中の絶縁性無機粒子の量が多すぎると、正極活物質の充填量が減少して電池の容量減少を招くほか、絶縁性無機粒子の種類によっては、充放電サイクルが進行した場合に、放電容量が急に低下してしまう場合もあることから、正極合剤層における絶縁性無機粒子の含有量は、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
更に、正極合剤層における黒鉛粒子の含有量は、カーボンブラック粒子との併用による電池の充電効率や充放電サイクル特性の向上効果を良好に確保する観点から、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。そして、正極合剤層における黒鉛粒子の含有量は、例えば正極合剤層中の銀酸化物の量が少なくなりすぎて電池の容量が低下することを抑える観点から、7質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
また、正極合剤層におけるカーボンブラック粒子の含有量は、黒鉛粒子との併用による電池の充電効率や充放電サイクル特性の向上効果を良好に確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。ただし、正極合剤層中のカーボンブラック粒子の量が多すぎると、例えば電池を高温下で貯蔵した際に、正極の膨れ量が大きくなる虞がある。よって、電池の貯蔵(特に60℃程度の高温下での貯蔵)時の正極の膨れを抑えて、電池の貯蔵特性を向上させる観点からは、正極合剤層におけるカーボンブラック粒子の含有量は、1.5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
正極合剤層は、前記の通り、バインダを使用せずに形成することも可能であるが、強度を高める必要がある場合(導電助剤に黒鉛を使用しない場合など)にはバインダを用いてもよい。正極合剤層のバインダには、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などが挙げられる。バインダを使用する場合、正極合剤層中のバインダの含有量は、0.1~20質量%であることが好ましい。
正極は、正極合剤の成形体の場合には、例えば、正極活物質および導電助剤、更には必要に応じてアルカリ電解質(電池に注入するアルカリ電解質と同じものが使用できる)などを混合して調製した正極合剤を所定の形状に加圧成形することで製造することができる。
また、正極合剤層と集電体とを有する形態の正極の場合には、例えば、正極活物質および導電助剤などを水またはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒に分散させて正極合剤含有組成物(スラリー、ペーストなど)を調製し、これを集電体上に塗布し乾燥し、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することができる。
ただし、正極は、前記の各方法で製造されたものに限定されず、他の方法で製造したものであってもよい。
正極合剤の成形体を正極とする場合、その厚みは、0.15~4mmであることが好ましい。他方、正極合剤層と集電体とを有する形態の正極の場合、正極合剤層の厚み(集電体の片面あたりの厚み)は、30~300μmであることが好ましい。
正極に集電体を用いる場合には、その集電体としては、例えば、SUS316、SUS430、SUS444などのステンレス鋼;アルミニウムやアルミニウム合金;を素材とするものが挙げられ、その形態としては、平織り金網、エキスパンドメタル、ラス網、パンチングメタル、金属発泡体、箔(板)などが例示できる。集電体の厚みは、例えば、0.05~0.2mmであることが好ましい。このような集電体の表面には、カーボンペーストや銀ペーストなどのペースト状導電材を塗布しておくことも望ましい。
アルカリ二次電池の負極には、亜鉛粒子または亜鉛合金粒子(以下、両者を纏めて「亜鉛系粒子」という場合がある)を含有するものが使用される。このような負極では、前記粒子中の亜鉛が活物質として作用する。亜鉛合金粒子の合金成分としては、例えば、インジウム(例えば含有量が質量基準で50~500ppm)、ビスマス(例えば含有量が質量基準で50~500ppm)などが挙げられる(残部は亜鉛および不可避不純物である)。負極の有する亜鉛系粒子は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
ただし、亜鉛系粒子には、合金成分として水銀を含有しないものを使用することが好ましい。このような亜鉛系粒子を使用している電池であれば、電池の廃棄による環境汚染を抑制できる。また、水銀の場合と同じ理由から、亜鉛系粒子には、合金成分として鉛を含有しないものを使用することが好ましい。
亜鉛系粒子の粒度としては、例えば、全粉末中、粒径が75μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が100~200μmの粉末の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。ここでいう亜鉛系粒子における粒度は、前記の銀酸化物の平均粒子径測定法と同じ測定方法により得られる値である。
負極には、例えば、前記の亜鉛系粒子の他に、必要に応じて添加されるゲル化剤(ポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロースなど)を含んでもよく、これにアルカリ電解質を加えることで構成される負極剤(ゲル状負極)を使用してもよい。負極中のゲル化剤の量は、例えば、0.5~1.5質量%とすることが好ましい。
また、負極は、前記のようなゲル化剤を実質的に含有しない非ゲル状の負極とすることもできる(なお、非ゲル状負極の場合、亜鉛系粒子近傍に存在するアルカリ電解質が増粘しなければゲル化剤を含有しても構わないので、「ゲル化剤を実質的に含有しない」とは、アルカリ電解質の粘度への影響がない程度に含有していてもよい、という意味である)。ゲル状負極の場合には、亜鉛系粒子の近傍に、ゲル化剤と共にアルカリ電解質が存在しているが、ゲル化剤の作用によってこのアルカリ電解質が増粘しており、アルカリ電解質の移動、ひいては電解質中のイオンの移動が抑制されている。このため、負極での反応速度が抑えられ、これが電池の負荷特性(特に重負荷特性)の向上を阻害しているものと考えられる。これに対し、負極を非ゲル状として、亜鉛系粒子近傍に存在するアルカリ電解質の粘度を増大させずにアルカリ電解質中のイオンの移動速度を高く保つことで、負極での反応速度を高めて、負荷特性(特に重負荷特性)をより高めることができる。
負極に含有させるアルカリ電解質には、電池に注入するものと同じものを使用することができる。
負極における亜鉛系粒子の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、また、75質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
負極は、インジウム化合物を含有していることが好ましい。負極がインジウム化合物を含有することによって、亜鉛系粒子とアルカリ電解質との腐食反応によるガス発生をより効果的に防ぐことができる。
前記のインジウム化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウムなどが挙げられる。
負極に使用するインジウム化合物の量は、質量比で、亜鉛系粒子:100に対し、0.003~1であることが好ましい。
アルカリ二次電池に使用する使用するアルカリ電解質としては、アルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)の1種または複数種の水溶液などが好適に用いられ、水酸化カリウムが特に好ましい。アルカリ電解質の濃度は、例えば、水酸化カリウムの水溶液の場合、水酸化カリウムが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であって、好ましくは40質量%以下、より好ましくは38質量%以下である。水酸化カリウムの水溶液の濃度をこのような値に調整することで、導電性に優れたアルカリ電解質とすることができる。
アルカリ電解質には、前記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、アルカリ二次電池の負極に用いる亜鉛系粒子の腐食(酸化)を防止するために、酸化亜鉛を添加するなどしてもよい。なお、酸化亜鉛は、負極に添加することもできる。
また、アルカリ電解質には、マンガン化合物、スズ化合物およびインジウム化合物よりなる群から選択される1種以上が溶解していることが好ましい。アルカリ電解質中にこれらの化合物が溶解している場合には、これらの化合物由来のイオン(マンガンイオン、スズイオン、インジウムイオン)が、正極合剤層中にマンガン酸化物を含有させた場合に溶出するMnのイオンと同じ効果を奏するため、電池の充放電サイクル特性がより向上する。
アルカリ電解質に溶解させるマンガン化合物としては、塩化マンガン、酢酸マンガン、硫化マンガン、硫酸マンガン、水酸化マンガンなどが挙げられる。また、アルカリ電解質に溶解させるスズ化合物としては、塩化スズ、酢酸スズ、硫化スズ、臭化スズ、酸化スズ、水酸化スズ、硫酸スズなどが挙げられる。更に、アルカリ電解質液に溶解させるインジウム化合物としては、水酸化インジウム、酸化インジウム、硫酸インジウム、硫化インジウム、硝酸インジウム、臭化インジウム、塩化インジウムなどが挙げられる。
アルカリ電解質中におけるインジウム化合物、マンガン化合物およびスズ化合物の濃度(これらのうちの1種のみを溶解させる場合は、その濃度であり、2種以上を溶解させる場合は、それらの合計濃度である)は、前記の効果をより良好に確保する観点から、質量基準で、50ppm以上であることが好ましく、500ppm以上であることがより好ましく、また、10000ppm以下であることが好ましく、5000ppm以下であることがより好ましい。
アルカリ二次電池において、正極と負極との間にはセパレータを介在させる。アルカリ二次電池に使用可能なセパレータとしては、ビニロンとレーヨンを主体とする不織布、ビニロン・レーヨン不織布(ビニロン・レーヨン混抄紙)、ポリアミド不織布、ポリオレフィン・レーヨン不織布、ビニロン紙、ビニロン・リンターパルプ紙、ビニロン・マーセル化パルプ紙などを用いることができる。また、親水処理された微孔性ポリオレフィンフィルム(微孔性ポリエチレンフィルムや微孔性ポリプロピレンフィルムなど)とセロファンフィルムとビニロン・レーヨン混抄紙のような吸液層(電解質保持層)とを積み重ねたものをセパレータとしてもよい。セパレータの厚みは、20~500μmであることが好ましい。
また、正極と負極との間には、ポリマーをマトリクスとし、かつ前記マトリクス中に金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩およびケイ酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種の金属化合物の粒子を分散させたアニオン伝導性膜を配置することが好ましい。
更に、アルカリ二次電池には、負極、アルカリ電解質およびセパレータの少なくとも1つにポリアルキレングリコール類やカルシウム化合物を含有させておくことが好ましい。その場合には、ポリアルキレングリコール類やカルシウム化合物の作用によって、負極での亜鉛デンドライトの成長を抑制できるため、アルカリ二次電池の充放電サイクル特性や貯蔵特性を更に高めることができる。
前記ポリアルキレングリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどのアルキレングリコールが重合または共重合した構造を有する化合物であり、架橋構造や分岐構造を持つものであってもよく、また末端が置換された構造の化合物であってもよく、重量平均分子量としては、およそ200以上の化合物が好ましく用いられる。重量平均分子量の上限は特に規定はされないが、添加による効果をより発揮させやすくするためには化合物が水溶性である方が好ましく、通常は20000以下のものが好ましく用いられ、5000以下のものがより好ましく用いられる。
より具体的には、エチレングリコールが重合した構造をもつポリエチレングリコール類(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドなど)や、プロピレングリコールが重合した構造をもつポリプロピレングリコール類(ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキシドなど)などが好ましく用いられるほか、酸化エチレンユニットと酸化プロピレンユニットとを含むような共重合化合物(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなど)であってもよい。
ポリアルキレングリコール類を使用する場合、その量は、亜鉛系粒子100質量部に対する前記ポリアルキレングリコール類の量で、0.01~1.5質量部であることが好ましい。
また、前記カルシウム化合物としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウムなど、放電時に生成するZn(OH)4
2-と反応して、CaZn(OH)4などの複合化合物を生成する化合物や、当該複合化合物自体を例示することができ、水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムを好ましく用いることができる。
カルシウム化合物を使用する場合、その量は、亜鉛系粒子100質量部に対する前記カルシウム化合物の量で、5~40質量部であることが好ましい。
アルカリ二次電池の形態については特に制限はなく、外装缶と封口板とをガスケットを介してカシメ封口したり、外装缶と封口板とを溶接して封口したりする電池ケースを有する扁平形(コイン形、ボタン形を含む);金属ラミネートフィルムからなる外装体を有するラミネート形;有底筒形の外装缶と封口板とをガスケットを介してカシメ封口したり、外装缶と封口板とを溶接して封口したりする電池ケースを有する筒形〔円筒形、角形(角筒形)〕;など、いずれの形態とすることもできる。
なお、カシメ封口を行う形態の外装体を使用する場合、外装缶と封口板との間に介在させるガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
また、充電時に外装缶を構成する鉄などの元素が溶出するのを防ぐため、外装缶の内面には、金などの耐食性の金属をメッキしておくことが望ましい。
本発明のアルカリ二次電池は、アルカリ一次電池(酸化銀一次電池など)が採用されている用途に使用し得るほか、従来から知られているアルカリ二次電池や非水電解質二次電池が採用されている用途にも適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
(参考例1)
正極活物質として平均粒子径:5μmの酸化銀(Ag2O)を用い、更に、黒鉛粒子(BET比表面積が20m2/gで、平均粒子径が3.7μm)と、カーボンブラック粒子(BET比表面積が68m2/gで、一次粒子の平均粒子径が35nmのアセチレンブラック)とを用いて正極合剤層を形成した。
酸化銀、黒鉛粒子およびカーボンブラック粒子を、それぞれ95.6質量%、3.8質量%および0.6質量%となる割合で混合して正極合剤を構成し、この正極合剤80mgを金型に充填し、充填密度5.7g/cm3で、直径5.17mm、高さ0.6mmの円板状に加圧成形することによって、正極合剤成形体(正極合剤層)を作製した。
PTFEの水系分散液(固形分:60質量%):5gと、ポリアクリル酸ナトリウムの水溶液(濃度:2質量%):2.5gと、ハイドロタルサイト粒子(平均粒子径:0.4μm):2.5gとを混練し、圧延して100μmの厚みの膜を作製し、更に直径5.7mmの円形に打ち抜いたものを、アニオン伝導性膜として電池の組み立てに用いた。
負極活物質には、添加元素としてIn:500ppm、Bi:400ppmおよびAl:10ppmを含有する、アルカリ一次電池で汎用されている無水銀の亜鉛合金粒子を用いた。前述した方法により求めた前記亜鉛合金粒子の粒度は、平均粒子径(D50)が120μmであり、粒径が75μm以下の粒子の割合は25質量%以下であった。
前記亜鉛合金粒子と、ZnOとを、97:3の割合(質量比)で混合し、負極を構成するための組成物(負極用組成物)を得た。この組成物:19mgを量り取って負極の作製に用いた。
アルカリ電解液には、酸化亜鉛を3質量%の濃度で溶解させた水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウムの濃度:35質量%)を用いた。
セパレータには、ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成された2枚のグラフトフィルム(厚み:30μm)を、セロハンフィルム(厚み:20μm)の両側に配置し、更にビニロン-レーヨン混抄紙(厚み:100μm)を積層したものを、直径5.7mmの円形に打ち抜いて用いた。
前記の正極(正極合剤成形体)、負極(負極用組成物)、アルカリ電解液、アニオン伝導性膜およびセパレータを、内面に金メッキを施した鋼板よりなる外装缶と、銅-ステンレス鋼(SUS304)-ニッケルクラッド板よりなる封口板と、ナイロン66製の環状ガスケットとから構成された電池容器内に封止し、図1に示す外観で、図2に示す構造を有し、直径5.8mm、厚さ2.7mmのアルカリ二次電池を作製した。なお、前記アニオン伝導性膜は、負極に面するように配置し、前記セパレータを正極側に配置した。
図1および図2に示すアルカリ二次電池1は、正極4、セパレータ6およびアニオン伝導性膜7を内填した外装缶2の開口部に、負極5を内填した封口板3が、断面L字状で環状のガスケット(樹脂製ガスケット)8を介して嵌合しており、外装缶2の開口端部が内方に締め付けられ、これにより樹脂製ガスケット8が封口板3に当接することで、外装缶2の開口部が封口されて電池内部が密閉構造となっている。すなわち、図1および図2に示す電池では、外装缶2、封口板3および樹脂製ガスケット8からなる電池容器内の空間(密閉空間)に、正極4、負極5、セパレータ6およびアニオン伝導性膜7を含む発電要素が装填されており、更にアルカリ電解液(図示しない)が注入され、セパレータに保持されている。そして、外装缶2は正極端子を兼ね、封口板3は負極端子を兼ねている。正極4は、前記の通り、酸化銀、黒鉛粒子およびカーボンブラック粒子を含有する正極合剤の成形体である。
(参考例2)
酸化銀、黒鉛粒子およびカーボンブラック粒子を、それぞれ94.3質量%、3.8質量%および1.9質量%となる割合で混合した正極合剤を用いた以外は、参考例1と同様にして正極合剤成形体を作製した。そして、この正極合剤成形体を用いた以外は、参考例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(参考例3)
酸化銀および黒鉛粒子を、それぞれ94.3質量%および5.7質量%となる割合で混合した正極合剤を用いた以外は、参考例1と同様にして正極合剤成形体を作製した。そして、この正極合剤成形体を用いた以外は、参考例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
参考例1~3のアルカリ二次電池について、下記の充放電サイクル試験と、高温貯蔵特性評価とを行った。
<充放電サイクル試験>
参考例1~3の電池に対し、充電(電流値:2mA、終止電圧:1.85V)および放電(電流値:2mA、終止電圧:1.0V)を1サイクルとする充放電サイクルを100回繰り返して、サイクル毎の放電容量測定を行った。これらの結果を、横軸にサイクル数を取り、縦軸に放電容量(mAh)を取ってグラフとしたものを図3に示す。
<高温貯蔵特性評価>
参考例1~3の電池を、2mAで放電(終止電圧:1.0V)させ、次いで2mAで充電(終止電圧:1.85V)し、充電後の電池を60℃で14日間保持し、その後の電池から正極合剤成形体を取り出して厚みを測定した。そして、貯蔵後の正極合剤成形体の厚みから貯蔵前の厚みを引いた値(厚みの変化量)を、貯蔵前の厚みで除して百分率で表した値を正極合剤成形体の厚みの変化率として求め、その値から高温貯蔵特性を評価した。
参考例1~3の電池について、正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成と、高温貯蔵特性評価の結果とを表1に示す。
図3に示す通り、カーボンブラック粒子を含有していない正極合剤成形体を用いた参考例3の電池は、比較的初期のサイクル数で放電容量が大きく低下しているが、黒鉛粒子とカーボンブラック粒子とを含有する正極合剤成形体を用いた参考例1、2の電池は、参考例3よりも放電容量の低下が抑制されていた。
一方、充放電サイクルが進行した場合の放電容量の低下の割合は、カーボンブラック粒子を含有していないか、またはその含有量が少ない参考例1、3の電池の方が、カーボンブラック粒子を多く含有する参考例2の電池に比べて小さくなっており、カーボンブラック粒子の含有量が多くなると、充放電サイクル特性を低下させる要因になることが示された。
また、表1に示す通り、正極合剤成形体に含有させるカーボンブラック粒子の割合が多くなるほど、高温貯蔵における正極合剤成形体の厚みの変化率が大きくなっており、上記の充放電サイクルの結果と併せて考えると、カーボンブラック粒子の含有量を限られた範囲(例えば1.5質量%以下)とすることが望ましい。
(実施例1)
酸化銀、黒鉛粒子およびカーボンブラック粒子に加えて、Al2O3粒子(絶縁性無機粒子、平均粒子径:50nm)を使用し、その割合を、酸化銀:92.6質量%、黒鉛粒子:3.8質量%、カーボンブラック粒子:0.6質量%、Al2O3粒子:3質量%とした以外は、参考例1と同様にして正極合剤を構成した。
そして、この正極合剤を用いた以外は参考例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は参考例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(実施例2)
酸化銀、黒鉛粒子、カーボンブラック粒子およびAl2O3粒子の割合を、それぞれ、90.6質量%、3.8質量%、0.6質量%、5質量%とした以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。
そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(実施例3)
酸化銀、黒鉛粒子、カーボンブラック粒子およびAl2O3粒子の割合を、それぞれ、85.6質量%、3.8質量%、0.6質量%、10質量%とした以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。
そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(実施例4)
酸化銀、黒鉛粒子、カーボンブラック粒子およびAl2O3粒子の割合を、それぞれ、93.3質量%、3.8質量%、1.9質量%、1質量%とした以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。
そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
実施例1~4のアルカリ二次電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成を表2に示す。表2には、参考例1の電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成も併記する。
実施例1~4のアルカリ二次電池について、参考例1の電池などと同様にして充放電サイクル試験を行った。これらの結果を、横軸にサイクル数を取り、縦軸に放電容量(mAh)を取ってグラフとしたものを図4に示す。図4には、参考例1の電池の結果も併せて示す。
図4に示す通り、黒鉛粒子とカーボンブラック粒子と絶縁性無機粒子とを含有する正極合剤成形体を用いた実施例1~4のアルカリ二次電池は、絶縁性無機粒子を含有しない正極合剤成形体を用いた参考例1の電池に比べて、充放電サイクル初期の放電容量の低下が抑制されていた。更に、続く充放電サイクルにおいて、絶縁性無機粒子であるAl2O3粒子の正極中の割合がより好適な実施例1、2および4のアルカリ二次電池は、100サイクル以上に亘り参考例1の電池よりも高い放電容量を維持することができた。また、Al2O3粒子の正極中の割合が多い実施例3のアルカリ二次電池であっても、70サイクル程度までは参考例1の電池よりも高い放電容量を維持することができた。上記の結果から分かるように、実施例1~4の電池は、参考例1の電池よりも優れた充放電サイクル特性を有していた。
また、実施例1、2の電池について、参考例1の電池などと同様にして高温貯蔵特性を評価した。それらの結果を、参考例1の電池の結果と併せて表3に示す。
表3に示す通り、絶縁性無機粒子であるAl2O3粒子を含有する実施例1、2の電池に係る正極合剤成形体は、高温貯蔵による厚みの変化量が、絶縁性無機粒子を含有しない参考例1の電池に係る正極合剤成形体と同等であり、高温貯蔵特性も良好であった。
更に、実施例1、2および参考例1の電池について、充放電サイクル試験の30サイクル目の充放電における放電時に求めた放電曲線を図5に示す。
図5に示す通り、黒鉛粒子とカーボンブラック粒子と絶縁性無機粒子とを含有する正極合剤成形体を用いた正極合剤成形体を用いた実施例1、2の電池は、絶縁性無機粒子を含有しない正極合剤成形体を用いた参考例1の電池と同様の作動電圧を有しており、放電曲線の形状には、絶縁性無機粒子を添加したことによる悪影響は認められなかった。
(実施例5)
酸化銀、黒鉛粒子およびカーボンブラック粒子に加えて、TiO2粒子(絶縁性無機粒子。平均粒子径:250nm)を使用し、その割合を、酸化銀:90.6質量%、黒鉛粒子:3.8質量%、カーボンブラック粒子:0.6質量%、TiO2粒子:5質量%とした以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。
そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(実施例6)
酸化銀、黒鉛粒子、カーボンブラック粒子およびTiO2粒子の割合を、それぞれ、85.6質量%、3.8質量%、0.6質量%、10質量%とした以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。
そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(実施例7)
酸化銀、黒鉛粒子、カーボンブラック粒子およびTiO2粒子の割合を、それぞれ、93.3質量%、3.8質量%、1.9質量%、1質量%とした以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。
そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
実施例5~7のアルカリ二次電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成を表4に示す。表4には、参考例1の電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成も併記する。
実施例5~7のアルカリ二次電池について、参考例1の電池などと同様にして充放電サイクル試験を行った。これらの結果を、横軸にサイクル数を取り、縦軸に放電容量(mAh)を取ってグラフとしたものを図6に示す。図6には、参考例1の電池の結果も併せて示す。
図6に示す通り、絶縁性無機粒子であるTiO2粒子を含有する正極合剤成形体を用いた実施例5~7のアルカリ二次電池は、絶縁性無機粒子を含有しない正極合剤成形体を用いた参考例1の電池に比べて、充放電サイクル初期の放電容量の低下が抑制されていた。更に、続く充放電サイクルにおいて、実施例5~7のアルカリ二次電池は、100サイクル以上に亘り参考例1の電池よりも高い放電容量を維持することができた。上記の結果から分かるように、実施例5~7の電池は、絶縁性無機粒子にAl2O3粒子を用いた実施例1~4の電池と同様に、参考例1の電池よりも優れた充放電サイクル特性を有していた。
なお、実施例3と実施例6の電池の充放電サイクル特性の比較から明らかなように、絶縁性無機粒子としてAl2O3粒子を用いた場合には、含有割合が多くなると、充放電サイクルが進行した場合に、放電容量が急に低下してしまう挙動が認められたが、TiO2粒子を用いた場合には、そのような挙動は認められず、Al2O3粒子に比べてより優れた充放電サイクル特性を有する電池を構成できることが判明した。
(実施例8)
Al2O3粒子を平均粒子径が300nmのものに変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(実施例9)
Al2O3粒子を、長径方向の平均粒子径が300nmで短径方向の平均粒子径が4nmの高アスペクト比のもの(繊維状のもの)に変更した以外は、実施例1と同様にして正極合剤を構成した。そして、この正極合剤を用いた以外は実施例1と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例1と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
(実施例10)
TiO2粒子を平均粒子径が70nmのものに変更した以外は、実施例5と同様にして正極合剤を構成した。そして、この正極合剤を用いた以外は実施例5と同様にして正極合剤成形体を作製し、この正極合剤成形体を用いた以外は実施例5と同様にしてアルカリ二次電池を作製した。
実施例8、9のアルカリ二次電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成を表5に示す。また、実施例10のアルカリ二次電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成を表6に示す。表5には、参考例1および実施例1の電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成も併記する。また、表6には、参考例1および実施例5の電池に係る正極合剤成形体の作製に使用した正極合剤の構成も併記する。
実施例8~10のアルカリ二次電池について、参考例1の電池などと同様にして充放電サイクル試験を行った。これらの結果を、横軸にサイクル数を取り、縦軸に放電容量(mAh)を取ってグラフとしたものを図7および図8に示す。図7には、参考例1および実施例1の電池の結果も併せて示す。また、図8には、参考例1および実施例5の電池の結果も併せて示す。
図7および図8に示す通り、実施例8~10のアルカリ二次電池は、絶縁性無機粒子を含有しない正極合剤成形体を用いた参考例1の電池に比べて、充放電サイクル初期の放電容量の低下が抑制されていた。更に、続く充放電サイクルにおいて、実施例8~10のアルカリ二次電池は、100サイクル以上に亘り参考例1の電池よりも高い放電容量を維持することができた。上記の結果から分かるように、実施例8~10の電池は、実施例1~7の電池と同様に、参考例1の電池よりも優れた充放電サイクル特性を有していた。