JP7069874B2 - 耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法 - Google Patents

耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法に関する。
ゴム材料等の高分子複合材料は、硫黄を用いてポリマー同士を橋掛けした架橋構造を形成させることで、強度や繰り返し変形によるエネルギーロスや周波数応答性など特異な物理特性を発現するため、タイヤや制震材料などに応用され欠かすことのできない材料となっている。しかしながら、今後、タイヤ需要の拡大等による原材料の供給不足等の懸念から、ゴム材料等の性能の長期維持が求められており、そのためには、耐摩耗性能、耐破壊性能等を向上させる必要がある。
ゴム材料の耐摩耗性能や耐破壊性能を向上させるポイントの1つとして架橋構造の制御が挙げられ、そのためには、硫黄や加硫促進剤の分散状態等を調べることが重要で、従来から、蛍光X線分析(XRF)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)等を用いた硫黄のマッピングが提案されている。しかしながら、経年変化による耐摩耗性能や耐破壊性能の変化の予測は難しく、変化を高精度に予測する方法の提供が望まれている。
本発明は、前記課題を解決し、経年劣化前後の高分子複合材料中の硫黄系材料の凝集状態(分散状態)の変化を高精度に調べ、経年劣化による耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法を提供することを目的とする。
本発明は、硫黄及び硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄系材料を含む経年劣化前後の高分子複合材料に高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながら該高分子複合材料の測定領域におけるX線吸収量の測定を行い、前記測定領域における硫黄濃度の2次元マッピング画像から所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積を算出し、算出された面積に基づいて耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法に関する。
経年劣化後の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和と、経年劣化前の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和との差分に基づいて変化を予測することが好ましい。ここで、前記差分が小さいほど耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化が小さいと判断することが好適である。
経年劣化後の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所が連続して形成された高硫黄濃度部位の最大面積と、経年劣化前の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所が連続して形成された高硫黄濃度部位の最大面積との差分に基づいて変化を予測することが好ましい。ここで、前記差分が小さいほど耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化が小さいと判断することが好適である。
前記高輝度X線を用いて、エネルギー範囲2400~3000eVの硫黄K殼吸収端におけるX線吸収量又はエネルギー範囲130~280eVの硫黄L殼吸収端におけるX線吸収量を測定することが好ましい。
本発明によれば、硫黄及び硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄系材料を含む経年劣化前後の高分子複合材料に高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながら該高分子複合材料の測定領域におけるX線吸収量の測定を行い、前記測定領域における硫黄濃度の2次元マッピング画像から所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積を算出し、算出された面積に基づいて耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法であるので、実際にタイヤ等の製品を製造して耐久試験をすることなく、耐摩耗性能や耐破壊性能の変化(劣化)を予測することが可能となる。従って、開発時間やコストも削減できる。
新品試料2及び経年劣化品2のマッピング画像及び該マッピング画像を二値化した図の一例。 図1のマッピング画像を二値化した図における凝集塊個数(凝集塊番号)と凝集塊面積との関係図の一例。 新品試料1及び経年劣化品1のマッピング画像の一例。 新品試料3及び経年劣化品3のマッピング画像の一例。
本発明は、硫黄及び硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄系材料を含む経年劣化前後の高分子複合材料に高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながら該高分子複合材料の測定領域におけるX線吸収量の測定を行い、前記測定領域における硫黄濃度の2次元マッピング画像から所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積を算出し、算出された面積に基づいて耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法である。
耐摩耗性能、耐破壊性能の向上には架橋構造の制御がポイントの1つで、例えば、STXM法を用いて、ゴム材料中の加硫促進剤の分散状態を観察し、その分散サイズから耐摩耗性能や耐破壊性能を予測する方法が考えられる。しかし、ゴム材料等の性能を長期間にわたって保持するには、新品時だけでなく、経年変化による耐摩耗性能や耐破壊性能の変化を予測する必要があるが、この方法では新品との差が分かりにくく、予測が難しいという懸念がある。
これに対し、本発明は、新品及び経年劣化品の両試料について、硫黄K殻吸収端等において大スケール(大きな測定領域)でX線吸収量のマッピングを行い、硫黄の濃度むら(硫黄系化合物の凝集塊)を観察し、それぞれの試料のマッピング画像における所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積に基づいて、タイヤの耐摩耗性能や耐破壊性能の変化を予測する方法である。例えば、経年劣化品中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和と、新品中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和との差分が小さいほど、耐摩耗性能や耐破壊性能の変化が少なくなると予測できる。
従って、硫黄、加硫促進剤等の硫黄系化合物を含む新品及び経年劣化品の高分子複合材料を本発明の方法に供することにより、実際にタイヤ等の製品を製造して耐久試験に供することなく、該製品の耐摩耗性能や耐破壊性能の変化(劣化)を予測できる。
本発明の方法に供される経年劣化前後の高分子複合材料(新品及び経年劣化品)は、硫黄及び硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄系材料を含む材料である。
硫黄としては、タイヤ工業で一般的なものを使用でき、硫黄加硫剤(粉末硫黄等の硫黄からなる加硫剤)が挙げられる。
硫黄化合物としては、例えば、硫黄以外の加硫剤が挙げられる。硫黄以外の加硫剤としては、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンなどの硫黄を含む加硫剤;等が挙げられる。
硫黄化合物としては、加硫促進剤(硫黄含有加硫促進剤)も挙げられる。加硫促進剤は、一般にゴム組成物の混練工程で添加(配合)、混練される加硫促進作用を持つ化合物である。加硫促進剤としては、グアニジン類、スルフェンアミド類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、チオウレア類、キサントゲン酸塩類等、タイヤ工業で公知の各種加硫促進剤が挙げられる。
硫黄化合物としては、4,4’-ジチオジモルホリン、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄含有化合物も挙げられる。
高分子複合材料は、ジエン系ポリマーや、ブレンドゴム材料と1種類以上の樹脂とが複合された複合材料を含むものが好ましい。ジエン系ポリマーとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などの二重結合を有するポリマーが挙げられる。
上記樹脂としては特に限定されず、例えば、ゴム工業分野で汎用されているものが挙げられ、例えば、C5系脂肪族石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂などの石油樹脂が挙げられる。
高分子複合材料には、カーボンブラック、シリカ等の充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、オイル等、従来公知のゴム分野の配合物を適宜配合してもよい。このようなゴム材料(ゴム組成物)は、公知の混練方法等を用いて製造できる。このようなゴム材料としては、例えば、タイヤ用ゴム材料(タイヤ用ゴム組成物)等が挙げられる。
なお、高分子複合材料は、未加硫の複合材料、加硫済の複合材料のいずれでもよいが、種々の凝集径を持つ凝集塊が観察され、該凝集径と、耐摩耗性能や耐破壊性能との関係性を検討し易いという点から、加硫済の複合材料を用いる方が好適である。
本発明は、経年劣化前後のそれぞれの高分子複合材料に高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながら、それぞれの高分子複合材料の測定領域におけるX線吸収量の測定を行う。
X線吸収量を測定する方法としては、例えば、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure:吸収端近傍X線吸収微細構造)法が挙げられる。
高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定する具体的な方法としては、以下のような透過法、蛍光法、電子収量法等が汎用されている。
(透過法)
試料を透過してきたX線強度を検出する方法である。透過光強度測定には、フォトダイオードアレイ検出器等が用いられる。
(蛍光法)
試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線を検出する方法である。検出器は、Lytle検出器、半導体検出器等がある。前記透過法の場合、試料中の含有量が少ない元素のX線吸収測定を行うと、シグナルが小さい上に含有量の多い元素のX線吸収によりバックグラウンドが高くなるためS/B比の悪いスペクトルとなる。それに対し蛍光法(特にエネルギー分散型検出器等を用いた場合)では、目的とする元素からの蛍光X線のみを測定することが可能であるため、含有量が多い元素の影響が少ない。そのため、含有量が少ない元素のX線吸収スペクトル測定を行う場合に有効的である。また、蛍光X線は透過力が強い(物質との相互作用が小さい)ため、試料内部で発生した蛍光X線を検出することが可能となる。そのため、本手法は透過法に次いでバルク情報を得る方法として最適である。
(電子収量法)
試料にX線を照射した際に流れる電流を検出する方法である。そのため試料が導電物質である必要がある。また、表面敏感(試料表面の数nm程度の情報)であるという特徴もある。試料にX線を照射すると元素から電子が脱出するが、電子は物質との相互作用が強いため、物質中での平均自由行程が短い。
このように、透過法は、XAFSの基本的な測定方法で、入射光強度と試料を透過したX線強度を検出してX線吸収量を測定する方法であるため、試料のバルク情報が得られ、対象化合物が一定以上の濃度(例えば、数wt%以上)でなれば測定が困難という特徴がある。電子収量法は、表面敏感な方法であり、試料表面の数十nm程度の情報が得られる。一方、蛍光法は、電子収量法に比べて表面からある程度深い部分からの情報が得られるという特徴と、対象化合物濃度が低くても測定できるという特徴がある。本発明では、蛍光法が好適に用いられる。
そこで、蛍光法について、より具体的に以下説明する。
蛍光法とは、試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線をモニタリングする方法であり、X線吸収量と蛍光X線の強度に比例関係があることを用いて、蛍光X線の強度からX線吸収量を間接的に求める方法となる。蛍光法を行う場合、電離箱を用いた方法とSDD(シリコンドリフト検出器)やSSD(シリコンストリップ検出器)等の半導体検出器を用いることが多い。電離箱では比較的簡便に測定ができるが、エネルギー分別が困難なことと、試料からの散乱X線や対象元素以外の蛍光X線が入ってしまうためバックグランドを上げてしまうことがあり、試料と検出器間にソーラースリットやフィルターを設置する必要がある。SDDやSSDを用いた場合、好感度でかつ、エネルギー分別が可能であるため、目的元素からの蛍光X線のみを取り出すことができ、S/B比よく測定することが可能となる。
高輝度X線は、光子数が10photons/s以上であることが好ましい。これにより高精度の測定が可能となる。上記X線の光子数は、10photons/s以上であることがより好ましい。上記X線の光子数の上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
高輝度X線は、輝度が1010photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上であることが好ましい。XAFS法は、X線エネルギーで走査するため光源には連続X線発生装置が必要であり、詳細な化学状態を解析するには高いS/N比及びS/B比のX線吸収スペクトルを測定する必要がある。シンクロトロンから放射されるX線は、1010photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上の輝度を有し、且つ連続X線源であるため、XAFS測定には最適である。尚、bwはシンクロトロンから放射されるX線のband widthを示す。上記X線の輝度は、1011photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上であることがより好ましい。上記X線の輝度の上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
高輝度X線を用いて走査するエネルギー範囲としては、(1)2300~4000eV、(2)100~280eVの範囲が好適である。上記範囲を走査することで、それぞれ、硫黄K殻吸収端付近、硫黄L殻吸収端付近の硫黄のX線吸収量を測定でき、材料中の硫黄の化学状態の情報が得られる。(1)の範囲の場合、より好ましくは2400~3000eVであり、(2)の範囲の場合、より好ましくは130~280eVである。
本発明では、経年劣化前後の高分子複合材料(新品及び経年劣化品)の測定領域において、新品、経年劣化品のそれぞれの硫黄K殻吸収端付近、硫黄L殻吸収端付近等の硫黄のX線吸収量を測定し、新品、経年劣化品のX線吸収量を、それぞれの測定領域の硫黄濃度(該測定領域内に存在する硫黄原子の量)と判断できる。
次いで、新品及び経年劣化品のX線吸収量(硫黄濃度)の2次元マッピングを行って得られたそれぞれのマッピング画像から、画像内(測定領域内)の硫黄系材料の分布(硫黄の濃度むら、硫黄系材料の凝集塊の存在の有無、等)が観察され、マッピング画像中で、所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所(X線スポットサイズによる各箇所)をそれぞれ計測でき、その面積を算出できる。そして、新品及び経年劣化品のそれぞれについて、算出した所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積に基づいて、耐摩耗性能や耐破壊性能の変化を予測する。
従って、例えば、経年劣化品中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和と、新品中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和との差分が小さいほど、タイヤの耐摩耗性能や耐破壊性能の変化が少なくなると予測できる。
本発明は、上記のとおり、XAFS法を用いて、硫黄、硫黄化合物等の硫黄系化合物を含む経年劣化前後の高分子複合材料のX線吸収スペクトル測定をそれぞれ行い、Igor、origin等の解析ソフトを用いて二次元マッピング画像を生成することにより、新品中及び経年劣化品中に含まれるそれぞれの硫黄系化合物の硫黄濃度(硫黄の分散状態)を観察し、更に、新品及び経年劣化品のそれぞれにおける所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積を算出し、該面積に基づいて耐摩耗性能や耐破壊性能の変化を予測する方法であるが、以下、この点について更に具体的に説明する。
図1は、新品試料2(硫黄、加硫促進剤を含む高分子複合材料)及びその経年劣化品(熱劣化品)2について、それぞれ硫黄K殻吸収端において大スケール(1mm)でX線吸収量のマッピングを行って得られた新品試料2及び経年劣化品2のマッピング画像(上図)、該マッピング画像中の高硫黄濃度の赤色箇所の面積が求められるようにImage-J等の画像解析ソフトにより二値化した図(下図)を示している。マッピング画像(上図)では、硫黄濃度が高いほどを赤系の色、低いほど青系の色で示している(物件提出書参照)。二値化した図(下図)の黒色部分は、試料中に含まれる硫黄系化合物の硫黄濃度が高い箇所(所定以上の高硫黄濃度を有する箇所)を示す。
図2は、図1の新品試料2(下図)、経年劣化品2(下図)の二値化した図において、新品試料2及び経年劣化品2のそれぞれの所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所で構成される黒色部分について、各黒色部位(所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所が連続して形成された各高硫黄濃度部位)の面積を算出し、凝集塊個数(凝集塊番号)と、凝集塊面積との関係を作製した図である(上図:新品試料2、下図:経年劣化品2)。矢印(下図)は、経年劣化品2の各黒色部位のうち、17番目の黒色部位(17番目の硫黄系化合物の凝集塊)の凝集塊面積(該硫黄系化合物の凝集サイズ)が約30000μmであることを示す。
そして、図2に基づいて、各試料を用いたタイヤの耐摩耗性能や耐破壊性能の変化を予測できる。例えば、図2の経年劣化品2及び新品試料2のそれぞれの面積を積算し、その差(経年劣化品2の総面積-新品試料2の総面積)を算出すること、すなわち、経年劣化品2中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和と、新品試料2中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和との差分を算出すること、により、予測可能であり、差分が小さいほど、耐摩耗性能や耐破壊性能の変化が少なくなると予測できる。図2では、経年劣化品2の面積の総和が103773μm、新品試料2の面積の総和が46621μm、その差分が57152μmで、その差分が小さいほど、性能変化が少ないと予測できる。
また、図2の経年劣化品2及び新品試料2のそれぞれの最大凝集サイズを測定し、その差(経年劣化品2の最大凝集サイズ-新品試料2の最大凝集サイズ)を算出すること、すなわち、経年劣化品2中の各黒色部位(所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所が連続して形成された各高硫黄濃度部位)の最大面積と、新品試料2中の各黒色部位の最大面積との差分を算出すること、でも予測可能であり、差分が小さいほど、変化が少なくなると予測できる。
本発明は、所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積を算出する方法であるが、「所定以上の高硫黄濃度」とは、比較する各試料において相対的に適宜設定するものである。例えば、硫黄量が多量の新品及び経年劣化品間の耐摩耗性能や耐破壊性能の変化を予測する場合は、所定以上の硫黄濃度を高く設定し、それ以上の硫黄濃度を有する各箇所の面積を算出し、該面積に基づいて評価する。一方、硫黄量が少なく、かつ比較的硫黄の分散性が良好な新品及び経年劣化品間では、所定の高硫黄濃度を低く設定することで、性能変化を予測できる。
なお、図1、3のカラー画像の各画素は、画素(測定単位)ごとに測定されたX線吸収量(数値)により、予め設定しているカラースケールに基づいて色を割り当てたものであり、各画素におけるX線吸収量がある所定値以上の場合は赤色、ある所定値以下の場合は青色と設定したカラースケールにより色を割り当てている。そして、前記のとおり、本発明では、「所定以上の高硫黄濃度」が、比較する各試料において相対的に適宜設定するものであるため、例えば、標準試料についてカラースケール等を適当に設定し、比較対象の試料にも同様のカラースケール等を用い、二値化して作製した標準試料と比較対象の試料の二値化画像から、両試料の性能の比較を行うことができる。
図1~2は、試料を大スケールで測定した例であるが、評価精度の観点から、測定領域(X線吸収量を測定する試料のトータル面積)は、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。上限は特に限定されず、装置に応じて適宜設定すれば良いが、通常、5mm以下である。測定領域の形状は、特に限定されず、矩形、円形等、適宜設定すれば良い。
測定領域において、各箇所(単位面積)ごとに、硫黄K殼吸収端、硫黄L殼吸収端等でのX線吸収量を測定し、その各箇所の硫黄濃度(その各箇所内に存在する硫黄原子の量)としてマッピングしているが、各箇所の面積(X線のスポットサイズによる測定単位面積)は特に限定されず、装置に応じて適宜設定すれば良い。例えば、評価精度の観点から、100~2000μmが好ましく、200~1000μmがより好ましい。
なお、図1~2は、硫黄K殻吸収端を測定した例であるが、大スケールの観察ができる方法であれば特に制限無く適用可能であり、硫黄L殻吸収端等でも予測可能である。また、経年劣化品に関しては、JIS-K6257「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-熱老化特性の求め方」に準拠して老化させた材料を用いた場合、予測が合いやすく好適である。
このように、本発明は、新品及び経年劣化品の高分子複合材料中の大スケールの硫黄、硫黄化合物等の硫黄系化合物の凝集状態(硫黄系化合物の凝集体の面積)の変化と、該材料を用いたタイヤ等の製品の耐摩耗性能等の経時変化との間に関係性が存在するという知見を見出し完成したもので、前述の手法等により観察される凝集状態(面積)の変化に基いて、製品の耐摩耗性能や耐破壊性能の変化(劣化)を予測できる。
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
<試料作成方法>
(試料1)
下記配合内容をロールで練り込み、新品試料1(加硫ゴム:加硫条件160℃、20分)を作製した。
(試料2)
下記配合内容に従い、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を充填率が58%になるように、バンバリー型ミキサーに充填し、80rpmで140℃に到達するまで混練し、得られた混練物に、硫黄及び加硫促進剤を下記配合にて添加し、新品試料2(加硫ゴム:加硫条件160℃、20分)を作製した。
(試料3)
下記配合内容に従い、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を充填率が50%になるように、バンバリー型ミキサーに充填し、80rpmで140℃に到達するまで混練し、得られた混練物に、硫黄及び加硫促進剤を下記配合にて添加し、新品試料3(加硫ゴム:加硫条件160℃、20分)を作製した。
(配合)
天然ゴム50質量部、ブタジエンゴム50質量部、カーボンブラック60質量部、オイル5質量部、老化防止剤2質量部、ワックス2.5質量部、酸化亜鉛3質量部、ステアリン酸2質量部、粉末硫黄1.2質量部、加硫促進剤CZ1質量部、加硫促進剤DPG0.5質量部
なお、使用材料は、以下のとおりである。
天然ゴム:TSR20
ブタジエンゴム:宇部興産(株)製BR150B
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN351
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
ステアリン酸:日油(株)製の椿
粉末硫黄(5%オイル含有):鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%含む可溶性硫黄)
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン)
(試験タイヤの作製)
新品試料1~3のゴム組成物がトレッド部となる新品タイヤ1~3(サイズ:195/65R15)を作製した。
<経年劣化品の作製>
新品試料1~3、新品タイヤ1~3を、それぞれJIS-K6257記載の促進老化試験で老化させることにより、経年劣化品1~3、劣化タイヤ1~3を作製した。
<タイヤ性能試験>
各新品タイヤ、劣化タイヤについて、以下のタイヤ性能試験に供した。
(耐摩耗性能)
新品タイヤ又は劣化タイヤを実車走行させ、30000km走行前後のパターン溝深さの変化を求めた。各新品タイヤ1~3を100とし、対応する各劣化タイヤ1~3を指数で表示した。指数が大きいほど(指数が100に近いほど)、耐摩耗性能の変化が少ないことを示す。
(耐破壊性能)
新品タイヤ又は劣化タイヤのトレッド部について、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に基づき、引張試験を行った後、TB×EB/2として破壊特性を算出した。各新品タイヤ1~3を100とし、対応する各劣化タイヤ1~3を指数で表示した。指数が大きいほど(指数が100に近いほど)、耐破壊性能の変化が少ないことを示す。
<硫黄及び硫黄化合物の分散状態観察>
(サンプリング方法)
特開2014-238287号公報に記載の方法を用いて、試料中のフリーサルファを除去した後、ミクロトームで、TEM-EDX用試料は、厚み100nmにカット後、TEM用のCu製のグリッドにマウントした。XAFS用試料は、厚み10μmにカット後、グラファイト製のホルダーにマウントした。
〔比較例〕
作製した新品試料、経年劣化品をTEM-EDX測定(市販の装置を使用)に供した。
〔実施例〕
作製した新品試料、経年劣化品について、以下の測定条件で、硫黄K殻吸収端近傍におけるXAFS法による測定を実施してXAFSスペクトルを得た。
(使用装置)
XAFS:SPring-8 BL27SUのBブランチのXAFS測定装置
(測定条件)
輝度:1×1016photons/s/mrad/mm/0.1%bw
光子数:5×1010photons/s
分光器:Si結晶分光器
検出器:SDD(シリコンドリフト検出器)
測定法:蛍光法
エネルギー範囲:2360~3500eV
X線のスポットサイズ:15μm×15μm(X線吸収量測定の各箇所:20μm×20μm)
新品試料1~3、経年劣化品1~3の各XAFSスペクトルについて、2600eVにおける硫黄のX線吸収量をIgorを用いて2次元マッピング(サイズ:1mm×1mm)し、図3、1、4のマッピング画像を得た。次いで、Image-Jを使い、二値化し、各黒色部位(所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所が連続して形成された各高硫黄濃度部位)の面積を算出し、凝集塊個数(凝集塊番号)と凝集塊面積との関係を示した図を作製した。
なお、二値化に際し、概ね硫黄系化合物のみ存在する箇所を「所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所」とした(1μmあたり、硫黄系化合物の占める面積が約1μm)。
〔評価〕
実施例(XAFS)、比較例(TEM-EDX)のそれぞれについて、新品及び経年劣化品の硫黄系化合物の凝集状態(分散状態)の変化(実施例では、二値化した図において、経年劣化品中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和と、新品中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和との差分の算出)の測定の可否を評価した。結果を表1に示す。
Figure 0007069874000001
表1から、TEM-EDXによる比較例の方法は、新品、経年劣化品間の硫黄系化合物の凝集状態の差の測定が不可能であるのに対し、XAFSによる実施例の方法は、測定が可能であった。そして、実施例により算出した経年劣化品の面積の総和及び新品試料の面積の総和の差分と、新品タイヤ及び劣化タイヤの耐摩耗性能や耐破壊性能の変化とに相関が見られ、差分が小さいほど、耐摩耗性能、耐破壊性能の変化が少なかった。
従って、本発明の方法により、新品及び経年劣化品中の硫黄系化合物の凝集状態(分散状態)の測定が可能で、その変化(差)に基いて、各試料を用いた製品の耐摩耗性能、耐破壊性能の変化を予測できることが明らかとなった。

Claims (6)

  1. 硫黄及び硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄系材料を含む経年劣化前後の高分子複合材料に高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながら該高分子複合材料の測定領域におけるX線吸収量の測定を行い、前記測定領域における硫黄濃度の2次元マッピング画像から所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積を算出し、算出された面積の変化に基づいて耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法。
  2. 経年劣化後の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和と、経年劣化前の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所の面積の総和との差分に基づいて変化を予測する請求項1記載の耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法。
  3. 前記差分が小さいほど耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化が小さいと判断する請求項2記載の耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法。
  4. 経年劣化後の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所が連続して形成された高硫黄濃度部位の最大面積と、経年劣化前の高分子複合材料の2次元マッピング画像中の所定以上の高硫黄濃度を有する各箇所が連続して形成された高硫黄濃度部位の最大面積との差分に基づいて変化を予測する請求項1記載の耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法。
  5. 前記差分が小さいほど耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化が小さいと判断する請求項4記載の耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法。
  6. 前記高輝度X線を用いて、エネルギー範囲2400~3000eVの硫黄K殼吸収端におけるX線吸収量又はエネルギー範囲130~280eVの硫黄L殼吸収端におけるX線吸収量を測定する請求項1~5のいずれかに記載の耐摩耗性能及び耐破壊性能の変化を予測する方法。
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