JP6371109B2 - 硫黄の化学状態を調べる方法 - Google Patents

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Description

本発明は、硫黄を含有する高分子材料における硫黄の化学状態を調べる方法に関する。
イオウ架橋ジエン系ゴム等、硫黄を含有する高分子材料の劣化による化学状態の変化を評価するために、一般的にSwell(膨潤試験)等の物性試験や赤外分光法(FT−IR)等の方法が用いられている。
Swell試験は、イオウ架橋高分子材料をトルエン等で膨潤させ、網目鎖密度を求める方法で、全体の変化を見ているため、イオウ架橋部分のみを評価できない。FT−IR法では、C=OやOH等の官能基の検出は可能であるが、S−S結合の感度が低い。
更に特許文献1には、高分子材料に照射したX線の吸収量を測定し、高分子の劣化状態を解析する劣化解析方法として、酸素原子のK殻吸収端の全ピーク面積から、高分子材料に酸素やオゾン等が結合した量を求める手法が提案されている。しかし、この手法でも、イオウ架橋部分のみを評価することは難しい。
特開2012−141278号公報
本発明は、前記課題を解決し、硫黄を含有する高分子材料中の硫黄の化学状態について、精度の高い情報が得られる評価方法を提供することを目的とする。
本発明は、23℃未満に冷却した硫黄含有高分子複合材料に、高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定することにより、硫黄の化学状態を調べる方法に関する。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法では、試料を固定する試料ホルダーとして、硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質からなる試料ホルダーを用いることが好ましい。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法では、試料を固定する試料ホルダーとして、熱伝導性が1W/m・K以上である材質からなる板状体上のX線が照射される領域を、硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質で被覆した試料ホルダーを用いることが好ましい。
前記X線吸収量が蛍光X線を用いて測定されることが好ましい。
前記X線を用いて走査するエネルギー範囲を2300〜4000eV及び/又は100〜280eVとすることで、硫黄K殻吸収端付近及び/又は硫黄L殻吸収端付近の硫黄のX線吸収量を測定することが好ましい。
前記X線は、光子数が10photons/s以上、輝度が1010photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上であることが好ましい。
本発明によれば、冷却した硫黄含有高分子複合材料に、高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定することにより、硫黄の化学状態を調べる方法であるので、当該材料中の硫黄の化学状態について、精度の高い情報を得ることが可能となる。
間接冷却法の一例を示す模式図である。 直接冷却法の一例を示す模式図である。 試料ホルダーを説明する模式図である。 実施例及び比較例で得られた硫黄原子のK殻吸収端付近のX線吸収スペクトルを示したグラフである。
本発明は、硫黄含有高分子材料にX線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定することにより、硫黄の化学状態を調べる方法である。
X線吸収量を測定する方法としては、例えば、XAFS(X−ray Absorption Fine Structure:吸収端近傍X線吸収微細構造)法が挙げられる。
硫黄加硫剤等の硫黄含有化合物を用いたゴム材料をはじめとする硫黄を含有する高分子複合材料の化学状態を調べる方法として、硫黄K吸収端におけるXAFS法は有用である。
XAFS法はX線を照射し、狙った原子におけるX線吸収量を測定する方法であり、化学状態(結合)の違いによって吸収できるX線エネルギーが異なることを利用して詳細な化学状態を調べることができる。しかしながら、硫黄含有高分子材料中には、モノスルフィド結合、ジスルフィド結合、ポリスルフィド結合等の硫黄の結合長さが異なる硫黄架橋が存在し、これらはスペクトルで検出されるピークエネルギーが近い。また、酸化亜鉛を配合した場合には硫化亜鉛も生成され、そのスペクトルも観察される。このように硫黄含有高分子材料中の硫黄の化学状態は複雑であるため、硫黄成分を含まない高分子材料に比べて、得られるXAFSスペクトルはブロードなスペクトルとなる傾向がある。従って、硫黄含有高分子材料の分析には、より高精度な測定が要求される。
XAFS法においてより高精度な測定を行うためには、高輝度X線を用いることが考えられる。しかしながら、高輝度X線を長時間照射すると、X線によって試料中の各結合が切断されてしまい、正確な化学状態を調べることができないという問題があった。
また、XAFS法による分析では、吸収端(吸収が立ち上がるエネルギー)から50eV位までのピークが出現する領域であるXANES(X−ray Absorption Near Edge Structure)領域だけではなく、それよりも高エネルギーの緩やかな振動成分が出現する領域であるEXAFS(Extended X−ray Absorption Fine Structure)領域での分析もある。XANES領域は、試料に狙った原子の吸収端近傍のX線を照射した際、内殻準位にいた電子が励起状態に遷移するため、狙った原子がどのような原子と結合しているか(化学状態)がわかる。一方、EXAFS領域は、内殻電子が原子核の束縛を離れ、光電子として飛び出す。その際、光電子は波として表わされるため、近くに他の原子がいる場合には、波が干渉して返ってくる。そのため、中心原子の周囲の原子数、原子種、原子間距離等の情報が得られる。一般にXANES領域では、各結合に対応するピークを分離することで、測定した物質において、どの結合がどの程度かを知ることができる。
硫黄含有高分子材料中の複雑な硫黄の化学状態を調べるためには、XANES領域だけでなく、EXAFS領域の測定も行い、より正確な化学状態を調べることが重要である。しかしながら、硫黄は比較的軽い元素であり、熱振動が大きくデバイ・ワラー因子が大きいため、EXAFS振動を検出することが難しいという問題があった。
本発明者らは、鋭意検討の結果、硫黄含有高分子複合材料に高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定することにより硫黄の化学状態を調べる方法において、硫黄含有高分子複合材料(以下、単に「試料」ともいう。)を冷却することにより、高輝度X線を長時間照射した場合であっても、X線による試料中の各結合が切断されてしまうのを防止して、正確な化学状態を調べることができることを見出した。更に、試料を冷却することにより、熱振動を抑えることができることから、XANES領域が精度良く測定できるだけでなく、EXAFS領域も精度良く検出することができることも見出し、本発明を完成した。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法に供される硫黄含有高分子材料としては、硫黄を含む高分子材料であれば特に限定されず、例えば、従来公知の硫黄含有ゴム組成物を使用でき、例えば、硫黄加硫剤等の硫黄含有化合物、ゴム成分、他の配合材料を含むゴム組成物等が挙げられる。
硫黄含有化合物としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等の硫黄加硫剤等が挙げられる。
ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)等のジエン系ゴム等が挙げられる。また、ゴム成分は、水酸基、アミノ基等の変性基を1つ以上含むものでもよい。
更にゴム成分としては、前記ゴム成分と1種類以上の樹脂とが複合された複合材料も使用できる。上記樹脂としては特に限定されず、例えば、ゴム工業分野で汎用されているものが挙げられ、例えば、C5系脂肪族石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂等の石油樹脂が挙げられる。
硫黄含有高分子材料には、カーボンブラック、シリカ等の充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、オイル、硫黄以外の加硫剤、加硫促進剤等、従来公知のゴム分野の配合物を適宜配合してもよい。このようなゴム材料(ゴム組成物)は、公知の混練方法等を用いて製造できる。このようなゴム材料としては、例えば、タイヤ用ゴム材料(タイヤ用ゴム組成物)等が挙げられる。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法に供される試料は、厚みが100μm以下、表面粗さが50μm以下であることが好ましい。
通常、ゴム等の高分子複合材料を測定する場合、カッター等でサンプリングして測定されることが多いが、測定面が荒れ、散乱X線が増加するため、精度の高いデータを得ることが困難となることがある。ミクロトーム、集束イオンビーム等でサンプリングし、試料の表面粗さを好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは20μm以下にすることにより、表面凹凸から生じる散乱X線を抑制することで、精度を上げることができる。同時に、試料の厚みを好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは50μm以下にして薄片を作製することにより、X線の自己吸収を抑制し、精度を向上できる。
なお、本発明において、厚みは、電子顕微鏡で測定できる。表面粗さ(Ra)は、JIS B0601:2001の附属書1(参考)に準拠した十点平均粗さである。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法においては、高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定する際に、試料を冷却する。
冷却時の試料の温度は特に限定されないが、より低温であるほどより高い精度での分析が可能である。具体的には、少なくとも23℃未満、好ましくは0℃以下に冷却するが、冷媒として液体窒素(−196℃)を用い後述する間接冷却法又は直接冷却法を用いた場合には、より好ましくは−120℃以下、更に好ましくは−150℃以下に冷却可能である。このように極低温に冷却することにより、極めて高精度の分析が可能となる。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法において試料を冷却する具体的な方法としては特に限定されないが、例えば、試料を固定するための試料ホルダーを、液体窒素で間接的(間接冷却法)又は直接的(直接冷却法)に冷却して、試料を冷却する方法が挙げられる。
間接冷却法の一例を示す模式図を図1に示した。
図1に示した間接冷却法では、液体窒素等の冷媒2を貯蔵する容器1の下端に設けられた冷却部11に、試料を保持した試料ホルダー3をネジ等の固定手段4を用いて取り付けることにより、冷却部11から試料ホルダー3への熱伝導により試料を冷却する。
上記容器1は、耐久性や耐腐食性に優れることから、ステンレス等からなることが好ましい。上記容器1は、冷却効果を向上させるために、壁面が断熱構造を有することが好ましい。また、上記容器1は、冷媒2を注ぐための注ぎ口12を有しており、該注ぎ口12を冷媒の減りを遅くするために低熱伝導率素材からなる蓋で閉じる。また、注ぎ口12に、直接冷媒を供給するためのタンクを結合してもよい。更に、上記容器1には、試料の温度を確認するための熱電対や、ドレイン電流法で測定するための同線を配置することが好ましい。
上記試料ホルダー3は、硫黄K吸収端(2472eV)又は硫黄L吸収端(230.9eV、163.6eV)から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質からなることが好ましい。試料ホルダーの材質として、硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端に近い領域に吸収端を有する物質を含む材料を用いると、試料ホルダーから放射された蛍光X線により、得られるスペクトルのバックグラウンド値が上昇してしまい、S/B比が悪化して測定精度が低下することがある。硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質を用いることにより、このようなバックグラウンド値の上昇を防止することができる。このような材質としては、具体的には例えば、グラッシーカーボン(炭素K吸収端:284.2eV)やチタン(チタンK吸収端:4966eV、L殻:560.9eV)等が挙げられる。
上記試料ホルダー3は、表面が鏡面研磨加工されたものを用いることが好ましい。試料ホルダー3の表面に凹凸がある場合には、該凹凸からの弾性散乱によって、得られるスペクトルのバックグラウンド値が上昇してしまい、S/B比が悪化して測定精度が低下することがある。従って、上記試料ホルダー3としては、アルミニウムのような柔らかくキズが付きやすい材質を採用しないことが好ましい。
上記間接冷却法は、冷媒のパブリングの影響がないことから、透過法、蛍光法、電子収量法のいずれにも適用可能な優れた冷却方法である。しかしながら、冷却部11から試料ホルダー3への熱伝導により試料を間接的に冷却することから、直接冷却法に比べて冷却効率に劣るという問題がある。
上記間接冷却法においてより高い冷却効率を達成するためには、上記試料ホルダー3として、ステンレス等の熱伝導性が1W/m・K以上である材質を用いることが好ましい。この場合、熱伝導性が1W/m・K以上である材質からなる板状体上のX線が照射される領域を、上記硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質で被覆し、該被覆上に試料を配置することにより、高い冷却効率とバックグラウンド値の上昇防止とを両立することができる。例えば、図3(a)に示した試料ホルダー31は、熱伝導性が1W/m・K以上である材質からなる板状体311上を、硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質からなる板状体312で被覆している。
また、より高い冷却効率を達成するためには、上記試料ホルダー3の形状も重要である。透過法による測定を行う場合には、試料をセットする位置に穴の開いた形状の試料ホルダー(例えば、図3(b)に示した試料ホルダー32は、板状体321の所定の位置に穴部322が設けられている。)を用いる必要があるが、該穴は冷却効率を低下させる原因となる。従って、蛍光法や電子収量法による測定を行う場合には、穴の開いていない形状の試料ホルダー(例えば、図3(c))を用いることが好ましい。
更に、より高い冷却効率を達成するためには、上記試料ホルダー3と冷却部11との接合方法も重要である。接合時には、試料ホルダー3と冷却部11との間にインジウム等の熱伝導率が特に高く、柔軟で試料ホルダー3や冷却部11に対する密着性に優れる材質からなる薄片5を挟んだ状態でネジ止めすることが好ましい。
直接冷却法の一例を示す模式図を図2に示した。
図2(a)は装置を正面から見た図であり、図2(a)は装置を横から見た図である。
図2に示した間接冷却法では、液体窒素等の冷媒2を貯蔵する容器1’の下端に、試料を保持した試料ホルダー3’を、試料が容器1’と直接接触するように取り付けることにより、試料を冷却する。具体的には例えば、試料ホルダー3’の四隅に試料ホルダー3’と容器1’とが接触するようにタップを立てたうえで、ネジ等の固定手段4を用いて、試料ホルダー3’の四隅を容器1’に固定することにより、試料を冷媒2により直接冷却することができる。このように試料が直接冷媒により冷却されることにより、高い冷却効率を実現することができる。
上記容器1’は、上記間接冷却法において用いる容器1と同様のものを用いることができる。
また、上記試料ホルダー3’は、上記間接冷却法において用いる試料ホルダー3と同様に、硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端に近い領域に吸収端を有する物質を含む材料からなるのを用いることが好ましい。
高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定する具体的な方法としては、以下のような透過法、蛍光法、電子収量法等が汎用されている。
(透過法)
試料を透過してきたX線強度を検出する方法である。透過光強度測定には、フォトダイオードアレイ検出器等が用いられる。
(蛍光法)
試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線を検出する方法である。検出器は、Lytle検出器、半導体検出器等がある。前記透過法の場合、試料中の含有量が少ない元素のX線吸収測定を行うと、シグナルが小さい上に含有量の多い元素のX線吸収によりバックグラウンドが高くなるためS/B比の悪いスペクトルとなる。それに対し蛍光法(特にエネルギー分散型検出器等を用いた場合)では、目的とする元素からの蛍光X線のみを測定することが可能であるため、含有量が多い元素の影響が少ない。そのため、含有量が少ない元素のX線吸収スペクトル測定を行う場合に有効的である。また、蛍光X線は透過力が強い(物質との相互作用が小さい)ため、試料内部で発生した蛍光X線を検出することが可能となる。そのため、本手法は透過法に次いでバルク情報を得る方法として最適である。
(電子収量法)
試料にX線を照射した際に流れる電流を検出する方法である。そのため試料が導電物質である必要がある。また、表面敏感(試料表面の数nm程度の情報)であるという特徴もある。試料にX線を照射すると元素から電子が脱出するが、電子は物質との相互作用が強いため、物質中での平均自由行程が短い。
このように、透過法は、XAFSの基本的な測定方法で、入射光強度と試料を透過したX線強度を検出してX線吸収量を測定する方法であるため、試料のバルク情報が得られ、対象化合物が一定以上の濃度(例えば、数wt%以上)でなれば測定が困難という特徴がある。電子収量法は、表面敏感な方法であり、試料表面の数十nm程度の情報が得られる。一方、蛍光法は、電子収量法に比べて表面からある程度深い部分からの情報が得られるという特徴と、対象化合物濃度が低くても測定できるという特徴がある。本発明では、蛍光法が好適に用いられる。
そこで、蛍光法について、より具体的に以下説明する。
蛍光法とは、試料にX線を照射した際に発生する蛍光X線をモニタリングする方法であり、X線吸収量と蛍光X線の強度に比例関係があることを用いて、蛍光X線の強度からX線吸収量を間接的に求める方法となる。蛍光法を行う場合、電離箱を用いた方法とSDD(シリコンドリフト検出器)やSSD(シリコンストリップ検出器)等の半導体検出器を用いることが多い。電離箱では比較的簡便に測定ができるが、エネルギー分別が困難なことと、試料からの散乱X線や対象元素以外の蛍光X線が入ってしまうためバックグランドを上げてしまうことがあり、試料と検出器間にソーラースリットやフィルターを設置する必要がある。SDDやSSDを用いた場合、好感度でかつ、エネルギー分別が可能であるため、目的元素からの蛍光X線のみを取り出すことができ、S/B比よく測定することが可能となる。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法において用いるX線は、光子数が10photons/s以上であることが好ましい。これにより高精度の測定が可能となる。上記X線の光子数は、10photons/s以上であることがより好ましい。上記X線の光子数の上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法において用いるX線は、輝度が1010photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上であることが好ましい。
XAFS法は、X線エネルギーで走査するため光源には連続X線発生装置が必要であり、詳細な化学状態を解析するには高いS/N比及びS/B比のX線吸収スペクトルを測定する必要がある。シンクロトロンから放射されるX線は、1010photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上の輝度を有し、且つ連続X線源であるため、XAFS測定には最適である。尚、bwはシンクロトロンから放射されるX線のband widthを示す。上記X線の輝度は、1011photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上であることがより好ましい。上記X線の輝度の上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
本発明の硫黄の化学状態を調べる方法において、X線を用いて走査するエネルギー範囲としては、(1)2300〜4000eV、(2)100〜280eVの範囲が好適である。上記範囲を走査することで、それぞれ、硫黄K殻吸収端付近、硫黄L殻吸収端付近の硫黄のX線吸収量を測定でき、材料中の硫黄の化学状態の情報が得られる。(1)の範囲の場合、より好ましくは2350〜3500eVであり、(2)の範囲の場合、より好ましくは150〜260eVである。
以上のとおり、本発明の硫黄の化学状態を調べる方法を採用することにより、高分子複合材料中の硫黄の化学状態に関する情報を精度良く得ることが可能となる。
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
(実施例1)
(1)試料の調製
以下の配合内容に従い、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を充填率が58%になるように神戸製鋼所社製の1.7Lバンバリーミキサーに充填し、80rpmで140℃に到達するまで混練した(工程1)。工程1で得られた混練物に、硫黄及び加硫促進剤を以下の配合にて添加し、160℃で20分間加硫することでゴム材料を得た(工程2)。
配合は、天然ゴム50質量部、ブタジエンゴム50質量部、カーボンブラック60質量部、オイル5質量部、老化防止剤2質量部、ワックス2.5質量部、酸化亜鉛3質量部、ステアリン酸2質量部、粉末硫黄1.2質量部、及び加硫促進剤1質量部とした。なお、使用材料は以下のとおりである。
天然ゴム:TSR20
ブタジエンゴム:宇部興産(株)製BR150B
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN351
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
ステアリン酸:日油(株)製の椿
粉末硫黄(5%オイル含有):鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%含む可溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
得られたゴム材料を、クライオミクロトームを用いて切断し、厚み80μmの試料を調製した。なお、得られた試料について、JIS B0601:2001の附属書1(参考)に準拠して十点平均粗さ(Ra)を測定したところ約50μmであった。
(2)XAFS法による分析
得られた試料について、硫黄K殻吸収端近傍におけるXAFS法による測定を実施してXAFSスペクトルを得た。
ここで試料は、図1に示した間接冷却法により冷却した。冷媒として液体窒素を用い、試料ホルダーとして、ステンレスからなる、図3(b)に示した試料ホルダー32の形状のものを用いた。その結果、試料温度は−120℃にまで冷却された。
得られたXAFSスペクトルを図4に示した。
なお、XAFS法による測定の測定条件を以下のようであった。
(使用装置)
XAFS:SPring−8 BL27SUのBブランチのXAFS測定装置
(測定条件)
輝度:1×1016photons/s/mrad/mm/0.1%bw
光子数:5×1010photons/s
分光器:結晶分光器
検出器:SDD(シリコンドリフト検出器)
測定法:蛍光法
エネルギー範囲:2360〜3500eV
(実施例2)
XAFS法による分析において、試料ホルダー3として、図3(a)に示した試料ホルダー31のようなステンレスからなる板状体上の所定の位置がクラッシーカーボン板により被覆された試料ホルダー(穴なし)を用いた以外は、実施例1と同様にした。その結果、試料温度は−150℃にまで冷却された。
得られたXAFSスペクトルを図4に示した。
(比較例1)
XAFS法による分析において、液体窒素による冷却を行わなかった以外は、実施例1と同様にした。試料温度は室温(23℃)であった。
得られたXAFSスペクトルを図4に示した。
図4より、試料を冷却した実施例1、2では、冷却しなかった比較例1に比べて、硫黄の化学状態を示す2471eV、2478eV、2480eVのピーク、特に2471eVのピークが大きいことが分かる。これは、試料を冷却することでX線照射による損傷を防ぐことができたためであると考えられる。この傾向は、より冷却された実施例2においてより顕著である。
図4より、本発明の硫黄の化学状態を調べる方法を用いることで、硫黄含有高分子複合材料の化学状態を精度良く検出することができることが分かる。
1、1’ 容器
11 冷却部
12 注ぎ口
2 冷媒
3、3’、31、32、33 試料ホルダー
311 熱伝導性が1W/m・K以上である材質からなる板状体
312 硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質からなる板状体
321 板状体
322 穴部
4 固定手段
5 薄片

Claims (6)

  1. 黄含有高分子複合材料に、高輝度X線を照射し、X線のエネルギーを変えながらX線吸収量を測定することにより、硫黄の化学状態を調べる方法であって、
    前記硫黄含有高分子複合材料を23℃未満に冷却してX線による該硫黄含有高分子複合材料中の結合が切断されるのを防止しながら、硫黄の化学状態を調べる方法
  2. 試料を固定する試料ホルダーとして、硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質からなる試料ホルダーを用いる請求項1記載の硫黄の化学状態を調べる方法。
  3. 試料を固定する試料ホルダーとして、熱伝導性が1W/m・K以上である材質からなる板状体上のX線が照射される領域を、硫黄K吸収端又は硫黄L吸収端から800eV以上離れた領域に吸収端を有する材質で被覆した試料ホルダーを用いる請求項1記載の硫黄の化学状態を調べる方法。
  4. X線吸収量が蛍光X線を用いて測定される請求項1、2又は3記載の硫黄の化学状態を調べる方法。
  5. X線を用いて走査するエネルギー範囲を2300〜4000eV及び/又は100〜280eVとすることで、硫黄K殻吸収端付近及び/又は硫黄L殻吸収端付近の硫黄のX線吸収量を測定する請求項1〜4のいずれかに記載の硫黄の化学状態を調べる方法。
  6. X線は、光子数が10photons/s以上、輝度が1010photons/s/mrad/mm/0.1%bw以上である請求項1〜5のいずれかに記載の硫黄の化学状態を調べる方法。
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