以下、実施形態の制振装置および制振システムについて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
(第1の実施形態)
まず、本実施形態の制振システム1の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態の制振システム1の全体構成を示す図である。図1に示すように、制振システム1は、例えば、高層または超高層の建物(建造物)BLに設けられ、地震動の発生時など(以下、単に「振動発生時」と称する)に建物BLの揺れを抑制する。制振システム1は、例えば建物BLの長周期地震動対策として設けられるアクティブ制振システムである。本実施形態の制振システム1は、複数の制振装置11(応力調整部)と、複数のセンサ12と、制御部13とを備えている。なお、制振装置11およびセンサ12は、それぞれ1つだけでもよい。なお、制振システム1は、高層の建物BLに限らず、低層(例えば3階から5階建)の建物BLに適用されてもよい。建物BLにおいて、制振装置11が配置された層の構造は、制振装置11が配置されていない層の構造と所定の範囲内で同一である。図1に示す建物BLは、ラーメン構造を有し、地盤上に構築されている。上記の所定の範囲内で同一とは、制振装置11が配置された層の構造と、制振装置11が配置されていない層の構造とが同じ構造様式を有することをいう。
制振装置11は、例えば建物BLの下層部(低層階)に配置される。制振装置11は、後述する回転型ダンパー23を含み、振動発生時に減衰力を作用させる。複数の制振装置11は、例えば建物BLの複数の層(階)に分かれて配置される。なお、制振装置11の設置個所は、建物BLの下層部に限らず、任意の層(階)でよい。
センサ(振動センサ)12は、建物BLの任意の層に配置され、建物BLの振動に関する情報を検出する。センサ12は、例えば建物BLの振動を加速度として検出する加速度センサであるが、これに限定されない。例えば、センサ12は、設置された地点の振動を検出し、直交する3軸方向の成分に分けて出力する。
センサ(振動センサ)12は、例えば、制振装置11を配置した層より低層側(建物の基礎部、地階を含む。)の層に設置される。制振装置11を配置した層より低層側の層にセンサ12を配置することにより、低層側の揺れの状況を反映した制御がしやすくなる。なお、各層においてセンサ12を配置する位置には制限はなく、適宜選択してよい。以下の説明では、例えば、センサ12を当該層の床、つまり階に配置する場合を例示して説明する。
なお、制振装置11を配置した層より低層側に設置するセンサ12に代えて、建物BLの敷地(以下、建物BLの地盤という。)に設置してもよく、制振装置11を配置した層より低層側の階と建物BLの地盤の双方に設置してもよい。例えば、複数のセンサ12は、建物BLの複数の階に分かれて配置される。複数のセンサ12は、建物BLの上層部(高層階)と、中層部(中層階)と、下層部(制振装置11を配置した層より低層階)又は建物BLの地盤とにそれぞれ設置されてもよい。複数のセンサ12を配置する層の位置は、建物BLの構造により、建物BLの振動の特徴を検出しやすい位置に配置するとよい。
制御部13は、有線または無線を介して複数の制振装置11および複数のセンサ12と通信可能に接続される。制御部13は、センサ12からセンサ12の検出結果を取得する。そして、制御部13は、センサ12の検出結果に基づき、制振装置11に発生させる減衰力の大きさおよびタイミングを計算する。そして、制御部13は、計算により求められた減衰力の大きさおよびタイミングを示す情報に基づき、制振装置11を制御する。例えば、制御部13は、特定の層の柱に作用する力を調整する。その方法は、建物BLの地盤の振動の検出値、又は、建物BLの振動の検出値に基づいて、上記の特定の層の柱に作用する力を調整するものであってもよい。例えば、建物BLの振動の検出値は、後述する制振装置11を配置した層より低層側(低層側の層)の振動の検出値を含む振動の検出値に基づいて、前記層の柱に作用する力を調整するものであってもよい。
制御部13は、例えば、制振システム1のプロセッサがプログラムを実行することで実現されるソフトウェア機能部である。ただし、制御部13は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェア機能部とハードウェアとが協働することで実現されてもよい。
次に、本実施形態の制振装置11について説明する。
図2は、制振装置11が設置される建物BLの一部を示す図である。図2に示すように、建物BLは、例えば、建物BLの1フロアを形成する構造材の一部として、第1梁B1、第2梁B2、第1柱P1、第2柱P2、およびY形ブレースBrを有する。
第1梁B1は、略水平方向に延びており、制振装置11が設置されるフロアの床部Fの一部を形成している。第2梁B2は、第1梁B1と略平行に配置され、略水平方向に延びており、制振装置11が設置されるフロアの天井部Cの一部を形成している。第1柱P1および第2柱P2は、それぞれ略鉛直方向に延びており、第1梁B1と第2梁B2とに亘っている。制振装置11は、例えば、第1梁B1、第2梁B2、第1柱P1、および第2柱P2により囲まれる空間Sに配置される。
Y形ブレースBrは、第1ブレースBr1、第2ブレースBr2、および連結部Br3を有する。第1ブレースBr1の第1端部Br1aは、第2梁B2と第1柱P1との結合部に接続されている。第1ブレースBr1の第2端部Br1bは、第1端部Br1aに対して斜め下方に位置し、空間Sの水平方向の略中央部に位置する。同様に、第2ブレースBr2の第1端部Br2aは、第2梁B2と第2柱P2との結合部に接続されている。第2ブレースBr2の第2端部Br2bは、第1端部Br2aに対して斜め下方に位置し、空間Sの水平方向の略中央部に位置する。連結部(頂部)Br3は、第1ブレースBr1の第2端部Br1bと第2ブレースBr2の第2端部Br2bとを連結している。
図2に示すように、本実施形態では、制振装置11は、Y形ブレースBrの連結部Br3と、第2柱P2との間に設置されている。制振装置11は、Y形ブレースBrの連結部Br3と、第2柱P2とに対してそれぞれ固定される。本願でいう「XXに対して固定」とは、「XX」に対して直接に固定される場合に限らず、別の部材を介在させて間接的に固定される場合も含む。言い換えると、「XXに対して固定」とは、「XXに対して相対的に固定」を意味する。Y形ブレースBrは、「第1部材」の一例である。第2柱P2は、「第2部材」の一例である。Y形ブレースBrおよび第2柱P2は、振動発生時に相対変位(相対変形)する部材の組の一例である。なお、制振装置11が設けられる建物BLの構造は、上記例に限定されない。
次に、本実施形態の制振装置11の構成について説明する。
図3は、本実施形態の制振装置11を示す断面図である。図3に示すように、制振装置11は、ケース21、固定部材22、回転型ダンパー23、固定機構24、伝達部25、およびアクチュエータ26を備えている。
ケース21は、第1梁B1によって形成される床部Fの上に設置される。ケース21は、箱状に形成され、回転型ダンパー23の一部、固定機構24の第2固定部52、伝達部25、およびアクチュエータ26を収容している。ケース21は、回転型ダンパー23が通される開口部21aを有する。なお、ケース21は、必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。
固定部材(取付部材、連結部材)22は、ケース21と第2柱P2との間に設けられている。固定部材22は、第2柱P2(例えば、第2柱P2の脚部)に対して固定され、振動発生時に第2柱P2(例えば、第2柱P2の脚部)と一体に変位する。固定部材22には、ケース21、固定機構24の第2固定部52、およびアクチュエータ26が固定される。言い換えると、固定部材22は、ケース21、固定機構24の第2固定部52、およびアクチュエータ26を第2柱P2(例えば、第2柱P2の脚部)に対して固定している。なお、固定部材22は、ケース21、固定機構24の第2固定部52、およびアクチュエータ26を、第2柱P2に代えて、または第2柱P2に加えて、床部Fに固定してもよい。また、固定部材22は、必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。この場合、固定機構24の第2固定部52およびアクチュエータ26は、直接、またはケース21や別の部材を介して第2柱P2および床部Fの少なくとも一方に固定されてもよい。また、本実施形態の制振装置11は、図3に示される配置例に代えて、図3において左右が逆に配置されてもよい。すなわち、回転型ダンパー23の外筒31が固定機構24の第2固定部52によって例えばY形ブレースBrの連結部Br3に固定され、一方で、回転型ダンパー23の軸部材36が固定機構24の第1固定部51によって固定部材22に固定されてもよい。また、この場合、固定機構24の第1固定部51は、固定部材22に固定されることに代えて、直接、または別の部材を介して第2柱P2および床部Fの少なくとも一方に回転型ダンパー23の軸部材36を固定してもよい。
回転型ダンパー23は、Y形ブレースBrの連結部Br3と、固定部材22との間に配置されている。ここで、回転型ダンパー23の「軸方向AD」および「径方向R」を定義する。軸方向ADは、回転型ダンパー23の後述する軸部材36の軸方向(長手方向)である。径方向Rは、軸方向ADとは略直交する方向であり、例えば軸部材36から放射状に離れる方向である。また、以下の説明における「回転」とは、軸方向ADに延びた中心線周りの回転を意味する。
本実施形態では、回転型ダンパー23は、軸方向ADを略水平にして配置されている。回転型ダンパー23は、ケース21に設けられた開口部21aを通じて、ケース21の内部からケース21の外部に突出している。詳しく述べると、回転型ダンパー23の外筒31は、軸方向ADの両端部として、第1端部31aと、第2端部31bとを有する。第1端部31aは、ケース21の外部において、Y形ブレースBrの連結部Br3とケース21の外面との間に位置する。一方で、第2端部31bは、第1端部31aとは反対側に位置し、ケース21の内部に収容されている。
図4は、回転型ダンパー23を示す断面図である。図4に示すように、回転型ダンパー23は、外筒31、回転体(内筒)32、第1軸受33、第2軸受34、粘性体35、軸部材36、変換部37、および接続部38を有する。
外筒31は、円筒状に形成されている。外筒31は、回転型ダンパー23の外形の大部分を形成している。本実施形態では、外筒31は、軸方向ADにおいて比較的大きな長さを有する。
回転体32は、外筒31の内側に収容されている。本実施形態の回転体32は、筒状に形成されており、軸部材36が軸方向ADに進退可能な空間を内部に有する。回転体32の軸方向ADの一端部は、第1軸受33によって回転可能に支持されている。回転体32の軸方向ADの他端部は、例えば接続部38を介して第2軸受34によって回転可能に支持されている。このため、回転体32は、外筒31の内側で外筒31に対して回転可能である。
粘性体35は、外筒31の内周面と回転体32の外周面との間に収容されている。粘性体35は、例えば、オイルのような液体であるが、これに限定されない。粘性体35は、外筒31に対して回転体32が回転する場合に、流動抵抗に基づく減衰力を外筒31と回転体32との間に作用させる。粘性体35は、例えば、外筒31に対する回転体32の回転速度に応じた減衰力を外筒31と回転体32との間に作用させる。すなわち、外筒31と回転体32との間に作用する減衰力は、外筒31に対する回転体32の回転速度が大きい場合に大きくなる。一方で、外筒31と回転体32との間に作用する減衰力は、外筒31に対する回転体32の回転速度が小さい場合に小さくなる。
軸部材36は、外筒31の第1端部31aにおいて、外筒31の内部から外筒31の外部に突出している。軸部材36は、軸方向ADに沿って外筒31の内部から外筒31の外部に突出している。軸部材36は、外筒31および回転体32に対して軸方向ADに進退可能(移動可能)である。軸部材36の外周面には、断面略半円状のボール転動溝(ねじ溝)36aが螺旋状に形成されている。本実施形態の軸部材36は、ボールねじ機構Mのねじ軸として機能する。軸部材36は、回転体32を回転させる外力が入力される軸部材の一例である。
変換部37は、軸部材36の軸方向ADの直線移動を、回転体32の回転移動に変換する変換機構である。言い換えると、本実施形態では、軸部材36と変換部37とによりボールねじ機構Mが実現されている。変換部37は、例えば、ボールナット41と、複数の軸受42とを有する。ボールナット41および複数の軸受42は、外筒31に収容されている。
ボールナット41は、軸部材36が挿通される挿通穴41hを有する。挿通穴41hを規定するボールナット41の内周面には、断面略半円状のボール転動溝(ねじ溝)41aが螺旋状に形成されている。ボールナット41のボール転動溝41aは、軸部材36のボール転動溝36aと向かい合う。ボールナット41のボール転動溝41aと、軸部材36のボール転動溝36aとの間には、複数のボール43が転動可能に配置される。また、ボールナット41は、ボール転動溝36a,41aを転動したボール43を変換部37の内部で循環させる無限循環路41bを有する。
複数の軸受42は、外筒31に対してボールナット41を回転可能に支持する。また、複数の軸受42は、外筒31に対してボールナット41の軸方向ADおよび径方向Rの位置を保持する。これにより、軸部材36が軸方向ADに移動した場合、複数のボール43がボール転動溝36a,41aに沿って転動することでボールナット41が回転し、軸部材36の直線移動がボールナット41の回転移動に変換される。
接続部38は、外筒31の内側において回転体32とボールナット41との間に設けられ、回転体32とボールナット41とを接続している。これにより、ボールナット41が回転する場合、ボールナット41と一体に回転体32が回転する。このため、軸部材36を軸方向ADに移動させる外力が軸部材36に入力された場合、軸部材36が軸方向ADに移動し、外筒31に対して回転体32が回転する。例えば、回転体32は、軸部材36の進退に応じて、第1方向と、第1方向とは反対の第2方向で回転する。
ただし、回転型ダンパー23の構成は、上記例に限定されない。回転型ダンパー23は、外筒31に対する回転体32の回転に減衰特性を有するものであればよい。例えば、回転型ダンパー23は、オイルダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパーなどのいずれでもよい。
次に、図3に戻り、固定機構24、伝達部25、およびアクチュエータ26について説明する。固定機構24は、回転型ダンパー23を建物BLに対して固定する。固定機構24は、第1固定部51と、第2固定部52とを含む。
第1固定部51は、外筒31から突出した軸部材36の端部に取り付けられる。第1固定部51は、軸部材36の前記端部を、Y形ブレースBrの連結部Br3に対して固定する。言い換えると、第1固定部51は、Y形ブレースBrの連結部Br3に対して軸部材36の軸方向ADの位置(相対位置)を固定する。これにより、振動発生時にY形ブレースBrの連結部Br3が軸方向ADに変位する場合、回転型ダンパー23の軸部材36は、Y形ブレースBrの連結部Br3と一体に軸方向ADに変位する。例えば、回転型ダンパー23の軸部材36は、第1固定部51によって、Y形ブレースBrの連結部Br3に対して回転しないように固定されている。
第2固定部52は、回転型ダンパー23の外筒31の第2端部31bと固定部材22との間に設けられている。第2固定部52は、回転型ダンパー23の外筒31を、固定部材22に固定する。言い換えると、第2固定部52は、回転型ダンパー23の外筒31を、固定部材22を介して例えば建物BLの第2柱P2の脚部に固定する。すなわち、第2固定部52は、第2柱P2の脚部に対して外筒31の軸方向ADの位置(相対位置)を固定する。これにより、振動発生時に第2柱P2が軸方向ADに変位する場合、回転型ダンパー23の外筒31は、第2柱P2の脚部と一体に軸方向ADに変位する。ただし、本実施形態の構成は、上記例に限定されない。例えば、第2固定部52は、直接、または固定部材22やケース21などを介して床部Fに固定されてもよい。この場合、回転型ダンパー23の外筒31は、第2柱P2と一体に変位することに代えて、床部Fと一体に変位してもよい。また、別の例として、回転型ダンパー23の外筒31は、第2柱P2や床部Fとは異なる部材と一体に変位してもよい。
本実施形態の第2固定部52は、第2柱P2に対して回転型ダンパー23の外筒31を回転可能に支持する。詳しく述べると、第2固定部52は、支持軸56と、回転支持機構57とを有する。
支持軸56は、回転型ダンパー23の外筒31の第2端部31bに固定され、外筒31と一体に回転可能である。支持軸56は、軸方向ADに沿って、外筒31の第2端部31bから固定部材22に向けて延びている。支持軸56のなかで固定部材22の近くに位置する端部は、支持軸56の直径が大きくなった拡径部56aを有する。
回転支持機構57は、固定部材22に固定されている。回転支持機構57は、軸受57aと、ホルダ57bとを有する。軸受57aは、支持軸56の拡径部56aを回転可能に支持する。すなわち、軸受57aは、固定部材22に対して(すなわち第2柱P2に対して)支持軸56および外筒31を回転可能に支持する。ホルダ57bは、箱状に形成され、拡径部56aおよび軸受57aを収容する。ホルダ57bは、軸方向ADから拡径部56aに面する部分を有し、固定部材22に対する(すなわち第2柱P2に対する)拡径部56aの軸方向ADの位置を保持する。
以上のような構成により、第2固定部52は、第2柱P2(例えば、第2柱P2の脚部)に対して外筒31の軸方向ADの位置を固定するとともに、第2柱P2に対して外筒31を回転可能に支持する。言い換えると、外筒31は、第2固定部52によって、建物BL、ケース21、およびアクチュエータ26に対して回転可能に支持されている。
また、上述したように、本実施形態の制振装置11は、図3に示される配置例に代えて、図3において左右が逆に配置されてもよい。この場合、回転型ダンパー23の外筒31は、第2固定部52によってY形ブレースBrの連結部Br3に対して固定されてもよい。これにより、振動発生時にY形ブレースBrの連結部Br3が軸方向ADに変位する場合、回転型ダンパー23の外筒31は、Y形ブレースBrの連結部Br3と一体に軸方向ADに変位する。例えば、第2固定部52は、Y形ブレースBrの連結部Br3に対して外筒31を回転可能に支持する。アクチュエータ26やケース21は、Y形ブレースBrに固定され、Y形ブレースBrによって支持されてもよい。一方で、回転型ダンパー23の軸部材36は、第1固定部51によって、直接、または固定部材22や別の部材を介して第2柱P2に固定されてもよい。すなわち、第1固定部51は、第2柱P2の脚部に対して軸部材36の軸方向ADの位置(相対位置)を固定してもよい。これにより、振動発生時に第2柱P2が軸方向ADに変位する場合、回転型ダンパー23の軸部材36は、第2柱P2の脚部と一体に軸方向ADに変位する。ただし、本実施形態の構成は、上記例に限定されない。例えば、第1固定部51は、直接、または固定部材22や別部材などを介して床部Fに固定されてもよい。この場合、回転型ダンパー23の軸部材36は、第2柱P2と一体に変位することに代えて、床部Fと一体に変位してもよい。また、別の例として、回転型ダンパー23の軸部材36は、第2柱P2や床部Fとは異なる部材と一体に変位してもよい。
次に、伝達部25について説明する。
伝達部25は、アクチュエータ26と回転型ダンパー23の外筒31との間に設けられ、アクチュエータ26からの動力を回転型ダンパー23の外筒31に伝える。伝達部25は、例えば、外筒31の外周面に設けられたギアである。伝達部25は、例えば、外筒31の外周面に沿う環状に形成され、外筒31の外周面の全周に亘って設けられている。なお、伝達部25は、アクチュエータ26からの動力を回転型ダンパー23の外筒31に伝えることができる部材であれば、構成や取付位置などは限定されない。伝達部25は、外筒31とは別体に形成されて外筒31に取り付けられていてもよく、外筒31と一体に成形されていてもよい。また、伝達部25は、ギアに限定されず、高摩擦部材(例えばゴム部材)などでもよい。
アクチュエータ26は、回転型ダンパー23の外部に設けられている。アクチュエータ26は、例えば電動アクチュエータであり、モータ(駆動源)61、減速機62、およびギア63を有する。減速機62は、モータ61に接続されており、モータ61から動力が伝達される。ギア63は、減速機62に接続されており、減速機62から動力が伝達される。ギア63は、回転型ダンパー23の外筒31に設けられた伝達部25に係合している。モータ61は、減速機62を介してギア63を回転させることで、伝達部25に動力(回転トルク)を作用させる。なお、減速機62は、必須の構成要素ではなく、省略されてもよい。この場合、モータ61が直接にギア63に接続されてもよい。
アクチュエータ26は、伝達部25に動力を作用させることで、伝達部25を介して回転型ダンパー23の外筒31に動力(回転トルク)を直接に作用させる。これにより、アクチュエータ26は、建物BLに対して回転型ダンパー23の外筒31を回転させる。なお、「回転型ダンパーの外筒に動力を直接に作用させる」とは、回転型ダンパー23の軸部材36を介さずに、回転型ダンパー23の外筒31に動力を作用させる(軸部材36を介さずに外筒31を回転させる)ことを意味する。言い換えると、「回転型ダンパーの外筒に動力を直接に作用させる」とは、外筒31に対する軸部材36の位置や移動速度(回転体32の回転速度)とは関係なく、外筒31を外部から強制的に回転させることを意味する。
アクチュエータ26は、建物BLに対して外筒31を回転させることで、回転型ダンパー23の回転体32に対して外筒31を回転させる。これにより、アクチュエータ26は、外筒31と回転体32との間の相対回転速度を変化させ、外筒31と回転体32との間に作用する減衰力の大きさや発生タイミングを変化させることで、制振装置11の減衰特性を変化させる。
例えば、アクチュエータ26は、軸部材36に入力された外力(例えば、Y形ブレースBrと第2柱P2の脚部(または床部F)との間の相対変位により軸部材36に作用する力)によって軸部材36が移動し、外筒31に対して回転体32が第1方向に回転する場合に、回転体32に対して外筒31を前記第1方向とは反対の第2方向に回転させる動力を出力することができる。アクチュエータ26は、第1方向に回転する回転体32に対してその反対方向に外筒31を回転させることで、制振装置11の減衰力を高めることができる。
また、アクチュエータ26は、軸部材36に入力された外力によって軸部材36が移動し、外筒31に対して回転体32が第1方向に回転する場合に、回転体32に対して外筒31を前記第1方向と同じ方向に回転させる動力を出力することができる。アクチュエータ26は、第1方向に回転する回転体32に対して同じ方向に外筒31を回転させることで、制振装置11の減衰力を小さくするまたはゼロにすることができる。
以上説明したような制振装置11によれば、アクチュエータ26によって回転型ダンパー23の外筒31を回転させることで、制振装置11の減衰特性を動的に変化させ、建物BLの振動をより効果的に減衰させることができる。例えば、制振装置11は、建物BLの振動に応じてアクチュエータ26の出力(モータ61の回転速度など)を変化させることで、回転型ダンパー23の外筒31の回転状態を変化させ、建物BLの振動をより効果的に抑制することができる。
次に、本実施形態の制振システム1の作用について説明する。
本実施形態の制振システム1では、センサ12は、振動発生時に、建物BLの振動に関する情報を検出する。制御部13は、センサ12により検出された検出結果(振動データ)に基づき、制振装置11のアクチュエータ26を制御し、回転型ダンパー23の外筒31を回転させる。
詳しく述べると、例えば、制御部13は、センサ12の検出結果と、建物BLの設計情報とに基づき、振動によって建物BLに作用する負担度を導出する。「負担度」は、例えば、建物BLの構造材(例えば、第1梁B1、第2梁B2、第1柱P1、および第2柱P2)の最大許容応力(限界応力)に対して実際に建物BLの構造材に生じる応力の大きさ(例えば、最大層間変形時の応力の大きさ)である。「建物の設計情報」は、建物BLの重量や剛性(構造材の太さや結合関係)などである。
また、制御部13は、回転型ダンパー23の設計情報(出力特性)と建物BLの設計情報とに基づき、アクチュエータ26によって回転型ダンパー23の外筒31を回転させることによって建物BLに追加で加わる負担(応力)の大きさを導出する。そして、制御部13は、振動により建物BLに作用する負担度、アクチュエータ26によって外筒31を回転させることにより建物BLに追加で加わる負担度、および制振装置11の動作効率などを総合的に考慮して、アクチュエータ26によって回転させる外筒31の回転量、回転速度、および回転のタイミングなどを導出する。そして、制御部13は、導出された外筒31の回転量、回転速度、および回転のタイミングなどの情報に基づき、アクチュエータ26の動作を制御して外筒31を回転させる。
これにより、制振システム1は、振動発生時に、Y形ブレースBrの連結部Br3と第2柱P2の脚部(または床部F)との間の相対変位に基づき回転型ダンパー23の軸部材36が移動することで回転体32が回転することに加え、アクチュエータ26によって外筒31を追加で回転させることで、回転型ダンパー23の外筒31と回転体32との間に作用する減衰力の大きさや発生タイミングを調整することができる。さらに、これにより、制振システム1は、アクティブ方式の制振作用を奏し、パッシブ制振よりも効果的な制振を行うことが可能となる。
以下、制振システム1におけるいくつかの制御例について説明する。
<パッシブ方式の制振制御>
最初に、図5を参照して、回転型ダンパー23をパッシブ方式の制振制御に適用した事例について説明する。図5は、回転型ダンパー23をパッシブ方式の制振制御に適用した事例について説明するための図である。図5(a)に、回転型ダンパー23の相対回転速度の時刻歴を示す。また、図5(b)に、図5(a)に示された回転型ダンパー23の相対回転速度の時刻歴に対応して発生する回転型ダンパー23の減衰力を示す。ここで、「相対回転速度」とは、外筒31に対する回転体32の回転速度を意味する。
また、図5において、波形a,bは、建物BLの構造材(例えばY形ブレースBrと第2柱P2の脚部)の相対変位による軸部材36の移動に基づく回転型ダンパー23の相対回転速度を示す。
図5(a)に示すように、アクチュエータ26を駆動しなければ、アクチュエータ26による外筒31の回転量がゼロになる。その場合には、回転型ダンパー23をパッシブ方式の制振制御に適用できる。図中の波形aは、相対的に小さな振動が入力された場合の回転型ダンパー23の相対回転速度の時刻歴を示す。一方で、図中の波形bは、相対的に大きな振動が入力された場合の回転型ダンパー23の相対回転速度の時刻歴を示す。波形a,bとして示すように、回転型ダンパー23がパッシブ方式の回転型ダンパーとして機能する場合、回転型ダンパー23の相対回転速度は、例えば、建物BLの構造材の相対変位による軸部材36の移動に応じたサインカーブ状の波形に沿って変化する。
図5(b)に示すように、回転型ダンパー23は、建物BLの構造材の相対変位速度(回転型ダンパー23の軸部材36に移動速度)が大きくなればなるほど、大きな減衰力を発生させる。
これに対し、アクチュエータ26を駆動して外筒31を回転させることで、回転型ダンパー23の減衰力を調整することができる。このように、回転型ダンパー23を用いれば、アクティブ方式の制振制御に適用できる。
<アクティブ方式の制振制御>
次に、回転型ダンパー23をアクティブ方式の制振制御に適用した事例について説明する。
ここで、回転型ダンパー23をアクティブ方式の制振制御に適用した実施形態の理解を進めるために、簡素化した制振制御の事例を図6から図8に示して、制振制御の原理について説明する。
(アクティブ方式の制振制御の原理)
図6は、回転型ダンパー23をアクティブ方式の制振制御に適用した事例(比較例)について説明するための図である。図6に示す事例は、制振制御の方式を簡素化したものであり、実施形態の比較例に相当する。図6(a)に、比較例としての回転型ダンパー23の相対回転速度の時刻歴を示す。また、図6(b)に、図6(a)に示された比較例としての回転型ダンパー23の相対回転速度の時刻歴に対応して発生する回転型ダンパー23の減衰力を示す。
図6(a)に示す事例は、アクチュエータ26は、回転型ダンパー23の外筒31を、軸部材36の移動に基づく回転体32の回転方向とは反対向きに回転させたものである。例えば、アクチュエータ26は、アクティブに制御しなければ波形aとなる回転型ダンパー23の相対回転速度を、波形ACT-aとなるように外筒31を回転させる。波形ACT-aは、建物BLの構造材の相対変位による軸部材36の移動による回転体32の回転と、アクチュエータ26により外筒31を直接に回転させることによる外筒31の回転とを合わせた回転型ダンパー23の相対回転速度を示す。
図6(b)に示すように、制振装置11は、アクティブに制御しなければ破線aとなる回転型ダンパー23の減衰力を、実線ACT-aとなるように大きくすることができる。この比較例のように回転型ダンパー23の減衰力をパッシブ方式で利用する場合より大きくすれば、建物BLの揺れを早期に収めるように作用することになる。
図7は、図6に示した事例(比較例)における層せん断力について説明するための図である。図7に、比較例の場合の層間変位δと層せん断力Taの関係を示す。特定の層について、その層の層間変位δが大きくなると、それにつれてその層の柱の復元力bが大きくなる。この復元力bは、柱による層せん断力として建物BLのその層の柱に作用する。
回転型ダンパー23を設けた層の層せん断力Taは、「柱の復元力bによる層せん断力」と「回転型ダンパー23による層せん断力ACT-a」の和になり、図7に示すような右肩上がりの長軸を持つ楕円上の軌跡に沿って変化する。
この比較例の制振制御(アクティブ方式)では、回転型ダンパー23の減衰力(ACT-a)を、パッシブ方式時の減衰力aに比べて大きくして、回転型ダンパー23のエネルギー吸収能力を上げることで建物BLの揺れを小さくするように回転型ダンパー23を作用させている。
そのため、この回転型ダンパー23の減衰力(ACT-a)が大きくなることにより、その分、建物BLのその層の柱に作用するせん断力は小さくなる。
図8は、図6に示した事例(比較例)における層せん断力の分布について説明するための図である。比較例の場合、制振装置11を設けた層の柱の負担は小さくなるものの、回転型ダンパー23を設けた層より上の層に作用するせん断力はパッシブ方式と同程度となるため、建物BL全体に相応の振動(揺れ)が生じる。
(実施形態に係るアクティブ方式の制振制御の概要)
次に、図9と図10を参照して、実施形態の一例について説明する。図9は、実施形態における層せん断力について説明するための図である。図9に、実施形態における層間変位δと層せん断力Taの関係を示す。柱の復元力bによる層せん断力は、前述の図7と同様であり、層間変位δが生じるとその層の柱に作用する。
この実施形態におけるアクティブ方式の制振制御では、制御部13は、回転型ダンパー23の減衰量ACT-bを調整することで、例えば地震時の層の変形により生じる層の柱の復元力bに対し、当該柱の復元力を打ち消すような応力(ACT-b)がその層の柱に作用するように制御する。例えば、この場合、回転型ダンパー23の減衰量ACT-bは、層の変形により生じる柱の復元力bを打ち消して、その層の柱に作用する水平方向成分の力が無くなる(「0」になる)ように決定されるとよい。
このように、制御部13が回転型ダンパー23の減衰量ACT-bを調整することにより、回転型ダンパー23を設けた層では、その層の「柱の復元力bによる層せん断力」と「回転型ダンパー23による層せん断力(ACT-b)」とが打ち消されて、その層せん断力Tbが所定の範囲内の値に収まるようになる。図9に、実施形態に係る層せん断力Tbを示す。実施形態に係る層せん断力Tbは、例えば、層間変位δの軸に長軸が沿った楕円状の軌跡になる。
このように、実施形態の制御方法によれば、地震動による揺れが生じても、柱に作用する層せん断力Tbの大きさを軽減させることができる。
図10は、実施形態における層せん断力の分布について説明するための図である。図10に示すように、実施形態の場合には、制振装置11として回転型ダンパー23を設けた層の層せん断力は、ほとんど発生しない。これにより、回転型ダンパー23を設けた層より上の層にはせん断力がほとんど作用しない状態が形成され、建物BL全体の振動が小さなものになる。
(実施形態に係るアクティブ方式の制振制御の詳細)
次に、図11を参照し、上記の実施形態に係るアクティブ方式の制振制御の特性の定め方について説明する。図11は、実施形態に係るアクティブ方式の制振制御の詳細を説明するための図である。図11において建物BLの第1層にY型ブレースBrと制振装置11とを設けた場合を例示して、それらを立面図で示す。
建物BLの第1層は、建物BLが揺れていない理想状態の平時にあれば図11(a)に示すように長方形ABCDの断面を成す。例えば、Y型ブレースBrの左右方向の中心を通るように座標系を設ける。図11(a)におけるY型ブレースBrからY型ブレースBrを柱に固定するB点までの水平距離をL1で示す。Y型ブレースBrから制振装置11までの水平距離をL2で示す。水平距離L1は、制振装置11がY型ブレースBrに干渉しないように決定されている。
一方、地震動により長方形ABCDの断面が、図11(b)に示すように平行四辺形ABcdに歪むものとする。図11(b)のように歪んだ結果、Y型ブレースBrから制振装置11までの水平距離がL3まで短縮する。このような水平距離になるまでに、制振装置11は、所望の応力を発生して、当該層の柱に作用させる。
前述の図1に示すように建物BLには、複数のセンサ12が設けられている。
センサ12は、加速度(XA)を検出する。制御部13はそれを積分することで、各層の速度(XV)、変位(XD)を算出できる。なお、XA,XVは、加速度、速度をベクトルとして表記したものである。
加速度XAを、地盤の加速度と各層の加速度とを纏めて式(1)に示す。なお、加速度XAは、例えば、直交する3軸方向の成分を含むものであってもよく、特定の方向成分(X軸)のものであってもよい。
XA =( XA0 XA1 XA2 … XAN )T ・・・(1)
なお、式(1)において、XA0が地盤の加速度、XA1からXANがセンサ12により検出された加速度、Nがセンサ12の個数、添え字の「T」が転置行列を示す。
線形予測処理により回転型ダンパー23の軸速度の目標値(SSX1)を導出する。例えば、第1層X軸方向の軸速度SSX1を、加速度ベクトルに基づいた線形予測処理により、式(2)を用いて算出する。
SSX1(k+1)=[w0・XAk+w1・XA(k-1)+w2・XA(k-2)+…+wM・XA(k-M)] ・・・(2)
なお、式(2)において、kは、直近の検出値を示し、Mは、kを基準に遡り線形予測処理の対象にする段数(個数)であり、w0、w1、w2、…、wMは、線形予測処理の係数である。
なお、上記の線形予測処理の係数は、第1層X軸方向の層せん断力Tbの絶対値が「0」(又は最小)になるように最適化される。
第1層X軸方向の層せん断力Tbの成分には、下記が含まれる。
・地震動により生じる第1層X軸方向の柱の復元力:GMFX1
・回転型ダンパー23の減衰力による第1層X軸方向の応力:DFX1
柱の復元力(GMFX1)は、建物BLと柱の構造に依存する。回転型ダンパー23の減衰力(DFX1)は、回転型ダンパー23の軸速度に依存する。
第1層X軸方向の層せん断力Tbは、式(3)で示すことができる。
|GMFX1+DFX1| ・・・(3)
第1層X軸方向の層せん断力Tbの最小値Qは、式(4)で示すことができる。
Q=min(|GMFX1+DFX1|) ・・・(4)
回転型ダンパー23の特性に依存する関数f(・)を用いることで、応力DFX1は、次式(5)で表すことができる。
DFX1(k+1)=f(SSX1(k+1)) ・・・(5)
つまり、DFX1(k+1)は、式(5)に示すように、検出された加速度に基づいて算出された軸速度SSX1(k+1)から算出される。
なお、柱の復元力(GMFX1)は、柱の剛性と層間変形から算定される。
上記の実施形態によれば、複数の層を成す建物BLの制振システム1の制振装置11は、地震動によるエネルギーの伝搬を低減させる層に配置され、当該層の柱に作用する力を調整する。制御部13は、層の変形により生じる柱の復元力に対し、当該柱の復元力を打ち消すような応力が層の柱に作用するように制振装置11を制御することにより、地震動による建物を振動させるエネルギーの当該建物への伝搬を低減させることができる。
また、制御部13は、建物BLの地盤の振動の検出値、又は、建物BLの振動の検出値に基づいて制振装置11を制御して、制振装置11を配置した層に作用する力を調整する。これにより、制御部13は、建物BLの地盤の振動の検出値、又は、建物BLの振動の検出値に基づいて制振装置11を制御することにより、制振装置11を配置した層に作用する力を調整することを可能にする。
また、制御部13は、建物BLの地盤の振動の検出値、又は、制振装置11を配置した層より低層側(低層側の層)の振動の検出値に基づいて、前記層の柱に作用する力を調整する。これにより、制御部13は、建物BLの地盤の振動の検出値、又は、制振装置11を配置した層より低層側の建物BLの振動の検出値に基づいて制振装置11を制御することにより、制振装置11を配置した層に作用する力を調整することを可能にする。
また、制御部13は、制振装置11を配置した層より高層側の振動の検出値を含む振動の検出値に基づいて、前記層の柱に作用する力を調整する。これにより、制御部13は、制振装置11を配置した層より高層側の建物BLの振動の検出値に基づいて制振装置11を制御することにより、制振装置11を配置した層に作用する力を調整することを可能にする。
また、制御部13は、地震動等による振動の検出値に基づいて、層の柱に作用する力を動的に調整してもよい。なお、振動の検出値は、特定の方向の成分であってもよい。センサ12が配置されている場所で、その場所の振動が大きくなる方向を利用してもよく、水平成分、又は、上下方向成分をその代表値にしてもよい。
また、制御部13は、センサ12による振動の検出値に基づいたフィードバック制御により、建物BLに作用する力を調整することで、制振制御の安定性を確保しつつ、耐振性能を確保することができる。なお、センサ12による振動の検出値に、地盤の振動に関する検出値が含まれていれば、建物BLに到来する地震動の特徴をフィードバック制御に反映することができる。
また、制振装置11が配置された層の構造は、制振装置11が配置されていない層の構造と所定の範囲内で同一であってもよい。これにより、非免震構造の建物BLに対する耐振性能を簡易な方法で高めることができる。
なお、上記の説明のように、各回転型ダンパー23の軸速度の目標値は、個別に算出してもよく、上記の説明における回転型ダンパー23の個数が複数(P個)である場合には、各回転型ダンパー23の軸速度の目標値を纏めて算出してもよい。例えば、各層(p層)の回転型ダンパー23の軸速度の目標値(SSXp)を式(6)のように定義してもよい。
SSX =( SSX1 SSX2 … SSXP )T ・・・(6)
同様に、線形予測処理により回転型ダンパー23の軸速度の目標値(SSX)を導出する。例えば、各層X軸方向の軸速度SSXを、加速度ベクトルに基づいた線形予測処理により、式(7)を用いて算出する。
SSX(k+1)= W・[XAk XA(k-1) XA(k-2) … XA(k-M)]T ・・・(7)
上記の式(7)において、Wは、線形予測処理の重み係数を要素に含む行列である。
(第1の実施形態の変形例)
実施形態の変形例について説明する。上記の実施形態の制振システムにおいて、推定される地震動の大きさに基づいて、上記の式(2)などで利用する線形予測処理の係数などが決定される。ただし、想定を超える大きさの地震動が到来すると演算過程で値が飽和することが有り得る。これを避けるため、式(2)に代えて式(8)を利用してもよい。
SSX1(k+1)=[w0・XAk
γ0+w1・XA(k-1)
γ1+w2・XA(k-2)
γ2+…+wM・XA(k-M)
γM]
・・・(8)
式(8)におけるk、M、w0、w1、w2、…、wMのそれぞれは、式(2)と同じであり、γ1からγMは、べき指数である。べき指数の値は、0から1までの値をとる。式(8)は、検出値である加速度を所定のべき指数を用いたべき演算のための式である。制御部13は、各層のべき演算の結果に線形予測係数を乗じて、その和を算出する。
上記の変形例によれば、実施形態と同様の効果を奏することの他、過大な地震動が到来した際の制御の安定性を確保することができる。さらに、過大な地震動が到来した際に、建物BLの柱などの構造材に作用する応力を最大許容応力範囲内に抑制しつつ、建物BLの揺れを効率的に収めることができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、制振装置11を建物BLに設ける位置が、第1の実施形態とは異なる。以下、相違点を中心に説明する。
図12は、本実施形態の制振システム1の全体構成を示す図である。図12に示す制振システム1は、複数の制振装置11(応力調整部)と、複数のセンサ12と、制御部13とを備えている。
制振装置11は、例えば建物BLの中層部(中層階)に配置される。複数の制振装置11は、例えば建物BLの複数の階に分かれて配置される。なお、制振装置11の設置個所は、建物BLの中層部に限らず、任意の層に更に設けてもよい。
センサ(振動センサ)12は、建物BLの任意の層に配置され、建物BLの振動に関する情報を検出する。
例えば、センサ(振動センサ)12は、少なくとも、制振装置11を配置した何れかの層(中層階)と、制振装置11を配置した層より低層側の層(建物の基礎部、地階を含む。)とに設置される。
なお、複数のセンサ12は、建物BLの上層部(高層階)と、中層部(中層階)と、下層部(制振装置11を配置した層より低層側の階)又は建物BLの地盤とにそれぞれ設置されてもよい。複数のセンサ12を配置する層の位置は、建物BLの構造により、建物BLの振動の特徴を検出しやすい位置に配置するとよい。
上記のように、建物BLの下層部に制振装置11を配置せずに、中層部に配置した場合でも、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
本実施形態によれば、制振装置11を中層部に配置して、制振装置11を配置した層より低層側又は高層側の層、例えば低層階又は高層階を含む階の揺れの状況を反映した制御を実施することにより、建物BLの振動を抑制することができる。
以上の実施形態に示した構成によれば、減衰力の大きさを容易に制御可能な制振装置11および制振システム1を提供することができる。すなわち、本実施形態では、制振装置11は、回転型ダンパー23と、回転型ダンパー23の軸部材36を介さずに回転型ダンパー23の回転体32に対して外筒31を回転させるアクチュエータ26とを備える。このような構成によれば、アクチュエータ26によって外筒31を回転させることで、外筒31と回転体32との間の相対回転速度を増減することができる。これにより、回転型ダンパー23の減衰力の大きさを容易に増減することが可能になる。
なお、上記の制振システム1は、アクチュエータ26を利用してアクティブ方式の制振制御を実施することを基本とする。ただし、何らかの要因により制御系が不安定な状態になったとしても、アクチュエータ26の駆動を停止することにより、パッシブ方式の制振制御に切り替えることができる。このような切り替えを実施すれば、不安定な状態の制御系を、安定性の高いパッシブ方式の制振制御に切り替えることができる。その切替後の制振システム1は、アクティブ方式の制振制御ほどの制振性能を得ることができないが、パッシブ方式の制振制御としての制振性能を得ることができる。
以上、本実施形態の制振装置11および制振システム1について説明した。ただし、実施形態の構成は、上記例に限定されない。例えば、制振装置11が介設される建物BLの複数の構造材は、Y形ブレースBrと柱P2、または第1梁B1とY形ブレースBrなどに限定されない。本実施形態において、制振装置11が介設される建物BLの第1部材および第2部材は、片ブレースや、X形ブレース、V形ブレースなどの他の形態のブレースでもよく、各種の形式のブレースが混在していてもよい。また、制振装置11が介設される建物BLの第1部材および第2部材は、第1梁B1、第2梁、第1柱P1、および第2柱P2のような建物BLの構造材でもよく、その他の部材でもよい。
本実施形態の制振システム1を建物BLに導入することにより、建物BLの振動をアクティブ方式の制振制御で容易に抑制することができ、パッシブ方式の制振制御に比べて個数が少ない又は容量が小さい回転型ダンパーで効率的な制振を行うことができる。また、本制振システム1は、新設の建物BLだけでなく、既存建物BLにも導入が容易である。また、既存の回転型ダンパーをアクティブ制振用として使用することができる。
なお、上記の実施形態では、回転型ダンパーを適用した事例を説明した。これに代えて、シリンダー型のダンパーでも、ストローク量の制限を設ける等の措置を講じることで回転型ダンパーと同様に制御可能である。必要とされる特性及び建物BLの特徴などにより、ダンパーの種類を適宜選択してもよい。
また、制振システム1の制御部13による制御は、適宜フィードバックや学習による最適化を図るものであってもよい。また、建物BLの揺れは、地震動に限らず、風による振動なども含まれる。
また、上記の実施形態の建物BLは、非免震構造の一例であるが、免震層を有する免震構造であってもよい。その場合、上記の特性を有する制振装置11を、免震構造の建物BLの免震層に適用してもよい。また、上記の特性を有する制振装置11を、免震構造の建物BLの免震層以外の層に適用してもよい。
また、上記の実施形態では、建物BL又は建物の敷地に設置したセンサ12の検出値に基づいた事例について説明したが、センサを配置する位置はこれに制限されず、センサ12の検出値と同様の振動を検出できれば建物BLの敷地外に配置してもよい。例えば、建物BLの敷地の近傍であってもよく、建物BLから所定の距離を隔てた遠隔であってもよい。また、外部の地震観測網のセンサをこれに代えてもよい。外部の地震観測網は、制振システム1とは独立して構成されたものであってよい。この場合、発生した地震の震央から建物BLまでの間に、或いは、震央から建物BLを結ぶ線分から所定の範囲内に観測点が位置しており、その観測点のセンサが検出した結果を、上記の処理に適用してもよい。なお、建物BL外のセンサの位置と建物BLの位置に応じて、建物BLに配置されたセンサ12の検出値と建物BL外のセンサの検出値との時間差を、その時間差の影響を低減するように補正するとよい。