以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、第1実施形態における横型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)100の断面図である。窒化ガリウム(GaN)系半導体90の表(おもて)面95および裏面92は、X‐Y平面に平行であってよい。図1は、横型MOSFET100の一部をX‐Z平面で切断した断面である。本例において、X軸方向とY軸方向とは互いに垂直な方向であり、Z軸方向はX‐Y平面に垂直な方向である。X、YおよびZ軸は、いわゆる右手系を成す。
本例においては、Z軸方向の正方向を「上」と称し、Z軸方向の負方向を「下」と称する場合がある。ただし、「上」および「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」および「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」および「下」は、基板、層、領域および膜等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎない。
本例の横型MOSFET100は、X‐Y平面の大きさが10mm×10mmのGaN系半導体チップを用いて形成される。横型MOSFET100は、GaN系半導体装置の一例である。図1に示す構造は、横型MOSFET100の単位構造であってよい。当該単位構造は、Y軸方向に延在し、かつ、X軸方向に繰り返し設けられてよい。複数の単位構造は、X‐Y平面視において略矩形形状を構成するよう配置されてよい。複数の単位構造が設けられた領域を活性領域と称する場合もある。活性領域の周囲には、活性領域における電界集中を防ぐ機能を有するエッジ終端構造が設けられてよい。エッジ終端構造は、ガードリング構造、フィールドプレート構造およびJTE(Junction Termination Extension)構造の一以上を含んでよい。
本例において、GaN系半導体90を構成する基板および層の各々はGaN半導体である。ただし、基板および層の各々は、アルミニウム(Al)元素およびインジウム(In)元素の一以上の元素をさらに含んでもよい。つまり、GaN系半導体90を構成する基板および層の各々は、Al元素およびIn元素を微量に含んだ混晶半導体、即ちAlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0≦y<1)であってもよい。ただし、本例において、GaN系半導体90を構成する基板および層の各々は、AlxInyGa1-x-yNにおいてx=y=0としたGaN半導体である。
本例のGaN系半導体90は、GaN基板10と、n型GaN層20と、p型GaN層30とを含む。GaN基板10は、いわゆるc面GaN基板であってよい。GaN基板10のc軸方向は、Z軸方向と平行であってよい。また、GaN基板10は、貫通転位密度が1E+7cm-2未満の低転位自立基板であってよい。なお、Eは10の冪を意味し、例えば1E+7は107を意味する。本例のGaN基板10は、350μmのZ軸方向の長さ(即ち、厚さ)を有するn+型の基板である。本例では、GaN基板10の下面をGaN系半導体90の裏面92と称する。
n型GaN層20は、GaN基板10上にエピタキシャル形成されてよい。本例のn型GaN層20は、1μmの厚さを有し、n型不純物として2E+16cm-3のSi元素を含む。なお、n型GaN層20は、第2導電型の窒化ガリウム系半導体層の一例である。
p型GaN層30は、n型GaN層20上にエピタキシャル形成されてよい。本例のp型GaN層30は、4μmの厚さを有し、p型不純物として1E+17cm-3のMgを含む。なお、p型GaN層30は、第1導電型の窒化ガリウム系半導体層の一例である。本例では、p型GaN層30の上面をGaN系半導体90の表面95と称する。
本例においては、第1導電型をp型とし、第2導電型をn型とする。ただし、他の例においては第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としてもよい。なお、nまたはpは、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。nまたはpの右肩に記載した+または-について、+はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が高く、-はそれが記載されていないものよりもキャリア濃度が低いことを意味する。
GaN半導体に対するp型不純物は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Be(ベリリウム)およびZn(亜鉛)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、p型不純物としてMg元素を用いる。また、GaN半導体に対するn型不純物は、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、およびO(酸素)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、n型不純物としてSi元素を用いる。
p型GaN層30は、X軸方向において互いに離間する一対のn+型GaN領域32を有する。本例において、n+型GaN領域32の上部は表面95に露出する。n+型GaN領域32は、p型GaN層30の底部よりも浅い所定の深さ位置まで設けられてよい。一例において、n+型GaN領域32は、表面95から0.1μmの深さ位置まで設けられる。
本例の横型MOSFET100は、ゲート電極40と、遷移層42と、ゲート絶縁層44と、ソース電極46と、ドレイン電極48とをさらに有する。ゲート電極40、ゲート絶縁層44、遷移層42およびp型GaN層30は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)構造を構成してよい。ゲート絶縁層44は、p型GaN層30上に設けられる。より具体的には、ゲート絶縁層44は、一対のn+型GaN領域32の間に位置するチャネル形成領域34の上部と、チャネル形成領域34に隣接するn+型GaN領域32の一部の上部とに設けられる。なお、ゲート絶縁層44は、絶縁層の一例である。
ゲート絶縁層44を形成する前にp型GaN層30およびn+型GaN領域32の表面95から酸化層を除去するために表面95を希フッ酸でエッチングし、その後、表面95上にゲート絶縁層44を形成した。ゲート絶縁層44は、金属酸化物層であってよい。なお、後述するように、本明細書において金属元素はSi元素を含むものとする。つまり、本明細書においてSiO2層は、金属酸化物層であるとする。
ゲート絶縁層44は、酸化シリコン(SiO2)層および酸化アルミニウム層の少なくともいずれかを含んでよい。ゲート絶縁層44は、酸化アルミニウム層と、少なくとも一部が酸化アルミニウム層上に位置するSiO2層とを含んでもよい。なお、本明細書においては、上述のような非ガリウム金属の酸化物で形成されているゲート絶縁層44を、金属酸化物層と称する場合がある。本例のゲート絶縁層44は、SiO2層または酸化アルミニウム層とSiO2層との積層である。SiO2層は、酸化アルミニウム層よりバンドギャップが広く、耐圧特性に優れる。これに対して、酸化アルミニウム層は熱処理により結晶化しやすく、SiO2層に比べて絶縁性に劣る。製造工程を鑑みても、酸化アルミニウムはSiO2層に比べてウェットエッチングが難しい。それゆえ、本例においてはゲート絶縁層44を酸化アルミニウムの単層とはせず、比較的薄い酸化アルミニウム層の下層と比較的厚いSiO2層の上層との積層とした。
本例においては、ゲート絶縁層44とp型GaN層30との間の境界近傍には、遷移層42が設けられる。遷移層42の厚さは、例えば、1.5nm未満である。遷移層42は、GaNの自然酸化層、および、ゲート絶縁層44とp型GaN層30との異種接合に起因して生じる境界層でもある。なお、本明細書においては、遷移層42を劣化層と称する場合もある。後述するように、本願の発明者は、遷移層42の厚さが大きくなるほどチャネル形成領域34の電界効果移動度が小さくなることを見出した。つまり、遷移層42の厚さを小さくすることにより、電界効果移動度を大きくすることができることを見出した。
特定の考え方のみに限定されるものではないが、遷移層42の厚さが大きくなるほど、p型GaN層30の上部(即ち、表面95近傍の領域)がp型特性を失い、電界に応答しなくなったと考えられる。GaN半導体にとってはSi元素およびO元素がドナー不純物であり、ワイドギャップ半導体であるGaOX半導体にとってもSi元素はドナー不純物である。遷移層42は、n型化したGaN半導体層およびGaOX半導体層を有する層であると考えられる。本明細書においてGaOX半導体とは、例えば、組成式におけるガリウム元素の原子数および酸素元素の原子数の比率が1:1であるGaOと、当該比率が1:2であるGaO2と、当該比率が2:3であるGa2O3との少なくともいずれかを含む半導体である。このように、p型GaN層30の界面近傍にn型化した領域(遷移層42)が存在する場合、この領域はゲート電極40からの電界で電荷量が変化しないため、電界効果が弱められ、電界効果移動度が小さくなったと考えられる。なお、遷移層42は、ゲート絶縁層44の下部からp型GaN層30の上部に渡って形成されると考えられる。つまり、遷移層42は、ゲート絶縁層44およびp型GaN層30の一部を侵食することにより形成されると考えられる。
なお、上述の特許文献1においては、界面準位の形成を抑制する目的が記載されているものの、遷移層42の厚さと電界効果移動度との関係について何ら技術的な思想が開示されていない。一般に、電界効果移動度に影響を及ぼすパラメータとして、(1)p型GaN層30の表面95における物理的な凹凸に起因するラフネス散乱、(2)p型GaN層30における結晶格子の格子振動に起因するフォノン散乱、(3)p型GaN層30中のイオン化不純物およびゲート絶縁層44中の固定電荷に起因するクーロン散乱、ならびに、(4)p型GaN層30とゲート絶縁層44との界面にトラップされた電荷に起因する界面電荷散乱が考えられる。特許文献1においては、界面にトラップされた電荷に起因する界面電荷散乱の影響を低減する技術的思想を提供するに過ぎない。これに対して、本願においては、上述の(1)から(4)のいずれが支配的であるかは必ずしも明らかではないものの、遷移層42の厚さを小さくすることにより、電界効果移動度を大きくするものである。
ゲート電極40は、ゲート絶縁層44上においてゲート絶縁層44に接する。本例のゲート電極40は、ゲート絶縁層44上に位置する。本例のゲート絶縁層44は、一対のn+型GaN領域32間の上方において、対向する一対のn+型GaN領域32の間のX軸方向の長さよりも長い。本例において、ソース電極46およびドレイン電極48の各々は、表面95においてn+型GaN領域32およびp型GaN層30に接する。ゲート電極40、ソース電極46およびドレイン電極48の各々は、厚み200nmのアルミニウム電極であってよい。
ソース電極46およびドレイン電極48間に所定の電位差が形成され、かつ、ゲート電極40に所定の正電位が供給されることにより、一対のn+型GaN領域32間に位置するチャネル形成領域34に電荷反転領域(即ち、チャネル)が形成される。これにより、ソース電極46からドレイン電極48へ電子電流が流れる。ゲート電極40に所定の正電位が供給されることを横型MOSFET100がオンするとも称する。これに対して、ゲート電極40に所定の正電位を供給することを止めると、チャネルが消滅する。これにより、電子電流の流れは止まる、つまり、横型MOSFET100はオフする。
表1は、ゲート絶縁層44の形成条件と電界効果移動度のピーク値との関係を示す実験結果である。なお、遷移層42は、ゲート絶縁層44を形成する過程において不可避的に形成される。本実験では、ゲート絶縁層44の形成条件が異なる4つのサンプル(サンプルNo.1からNo.4)のうち、サンプルNo.1からNo.3について電界効果移動度を測定した。なお、サンプルNo.4については、MOSキャパシタの形成に留めた(即ち、ソース電極46およびドレイン電極48等を形成しなかった)ので、電界効果移動度を測定しなかった。
[サンプルNo.1]
サンプルNo.1のゲート絶縁層44は、酸化アルミニウム層の下層と、SiO2層の上層とを含む積層構造を有する。サンプルNo.1においては、p型GaN層30に接して厚み4nmの酸化アルミニウム層を形成し、次いで、厚み100nmのSiO2層を酸化アルミニウム層に接して形成した。サンプルNo.1においては、SiO2層を形成した後に、ゲート絶縁層44の熱処理は行わなかった。横型MOSFET100を形成した後に、電流‐電圧特性を測定した。具体的には、ゲート電極40へ供給する電圧VGとドレインに流れる電流Idの関係から伝達コンダクタンスを求め、電界効果移動度μFEを算出した。VG‐μFEグラフを作成した。μFEのピーク値は、96cm2/V・sであった。
[サンプルNo.2]
サンプルNo.2のゲート絶縁層44は、SiO2層の単層とした。サンプルNo.2においては、p型GaN層30の表面(つまり、GaN系半導体90の表面95)をO2プラズマにより10分間の処理し、その後、厚み100nmのSiO2層を形成した。p型GaN層30の表面に薄いGaOX層を形成するとGaN/SiO2の界面準位密度が低減することが指摘されているので、O2プラズマにより電界効果移動度が改善するようにも思われる。サンプルNo.2においては、SiO2層を形成した後に、ゲート絶縁層44の熱処理は行わなかった。また、横型MOSFET100を形成した後に、VG‐μFEグラフから得られたμFEのピーク値は、48cm2/V・sであった。
[サンプルNo.3]
サンプルNo.3のゲート絶縁層44は、SiO2層の単層とした。サンプルNo.3においては、p型GaN層30の表面をO2プラズマにより10分間処理し、その後、厚み100nmのSiO2層を形成した。サンプルNo.3においては、SiO2層を形成した後に、ゲート絶縁層44の熱処理を行った。具体的には、窒素(N2)ガス雰囲気において、700℃の温度で30分間、GaN系半導体90およびゲート絶縁層44を熱処理した。横型MOSFET100を形成した後に、VG‐μFEグラフから得られたμFEのピーク値は、36cm2/V・sであった。
[サンプルNo.4]
サンプルNo.4のゲート絶縁層44は、SiO2層の単層とした。サンプルNo.4においては、p型GaN層30の表面に対してO2プラズマ処理を行わず、厚み100nmのSiO2層をp型GaN層30に接して形成した。また、サンプルNo.4においては、SiO2層を形成した後に、ゲート絶縁層44の熱処理は行わなかった。
サンプルNo.1およびNo.2を比較すると、O2プラズマ処理を行うと電界効果移動度が低下する傾向があると言える。O2プラズマ処理は遷移層42の成長を促進する可能性があると考えられる。
また、サンプルNo.2およびNo.3を比較すると、電界効果移動度は、ゲート絶縁層44の熱処理を「行う」サンプルNo.3よりも、ゲート絶縁層44の熱処理を「行わない」サンプルNo.2の方が高い。それゆえ、ゲート絶縁層44の熱処理は電界効果移動度を低下させると言える。つまり、ゲート絶縁層44の熱処理は、遷移層42の成長を促進する可能性がある。
本実験の結果を考慮すると、遷移層42の厚さは、O2プラズマ処理によって大きくなり、ゲート絶縁層44の熱処理により大きくなる可能性がある。それゆえ、遷移層42の厚さを小さくするためには、p型GaN層30の表面のO2プラズマ処理およびゲート絶縁層44の熱処理をしない方が望ましいと言える。
図2A、図2B、図2Cおよび図2Dのそれぞれは、サンプルNo.1からNo.4の深さ位置[nm]‐原子組成[a.u.]をEDXにより測定した結果を示す図である。図2Aから図2DのサンプルNo.1からNo.4は、表1のサンプルNo.1からNo.4に対応する。図2Aから図2Dの各グラフにおいて、横軸は、チャネル形成領域34を通るZ軸に平行な直線において、ゲート絶縁層44からp型GaN層30に至る距離(深さ)[nm]である。なお、ゲート絶縁層44における所定の深さ位置をゼロnmとしている。また、縦軸は、EDX(Energy dispersive X-ray spectrometry)測定において元素/原子のエネルギー強度を反映して得られる、材料の原子組成である。なお、エネルギー強度は、材料中の元素の原子数の大小に対応し得る。ただし、縦軸は、原子間の相対的な原子組成を示すものであり、絶対的な原子組成(atomic %)を示すものではない点に注意されたい。酸化シリコン層についてはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により組成がSiO2であることを確認し、GaN層については電子線回折によりGaN結晶相であることを確認した。
本例のゲート絶縁層44は、金属元素または半導体元素の酸化物または窒化物である。ゲート絶縁層44は、金属元素または半導体元素を含んでよい。本明細書においては、金属元素も半導体元素も金属元素と記載する。つまり、本明細書において金属元素とは、典型金属元素に加えて、14族におけるSi、Ge、スズ(Sn)および鉛(Pb)の各元素と、13族におけるAl、Ga、Inおよびタリウム(Tl)などの各元素とを含むとする。本例においては、金属元素としてSi元素およびAl元素の一方または両方を用いる。なお、ゲート絶縁層44に用いられる金属元素は、他の遷移金属元素であってもよい。
遷移層42は、p型GaN層30およびゲート絶縁層44の元素から構成されてよい。本例の遷移層42は、p型GaN層30のGa元素およびN元素、ならびに、ゲート絶縁層44のAl元素、Si元素およびO元素を含む。
図2Aから図2Dの各グラフから明らかなように、p型GaN層30のGa元素およびN元素は上方のゲート絶縁層44に向けて侵入し、ゲート絶縁層44のAl元素、Si元素およびO元素は下方のp型GaN層30に向けて侵入する。本例の遷移層42においては、Ga元素の原子数に対するN元素の原子数の比率がp型GaN層30中のGa元素の原子数に対するN元素の原子数の比率よりも小さい。つまり、遷移層42においては、p型GaN層30と比べて、Ga元素の方がN元素よりも相対的にリッチ(rich)である。
これに加えて、本例の遷移層42においては、ゲート絶縁層44を構成する金属元素の原子組成が原子組成分布において極大を有する(つまり、Al元素のみに注目する)場合、Al元素の原子数に対するO元素の原子数の比率が、遷移層42の外である当該極大位置でのAl元素の原子数に対するO元素の原子数の比率よりも大きい。これに対して、本例の遷移層42においては、ゲート絶縁層44を構成する金属元素の原子組成が原子組成分布において極大を有しない(つまり、Si元素のみに注目する)場合、Si元素の原子数に対するO元素の原子数の比率が、ゲート絶縁層44中のSi元素の原子数に対するO元素の原子数の比率よりも大きい。つまり、遷移層42においては、Al元素の原子組成が原子組成分布において極大となる深さ位置に比べて、O元素の方がAl元素よりも相対的にリッチである、または、ゲート絶縁層44と比べてO元素の方がSi元素よりも相対的にリッチである。
図2Aから図2Dにおいて、ゲート絶縁層44の金属元素およびO元素については、距離(深さ)がゼロ付近における原子組成が1になるように規格化している。また、p型GaN層30のGa元素およびN元素は、距離(深さ)が最大付近(サンプルNo.1からNo.3は深さ12nm付近、サンプルNo.4は深さ8nm付近)における原子組成が1になるように規格化している。また、各原子組成分布をアークタンジェント(arctan)関数によりフィッティングしている。ただし、サンプルNo.1の酸化アルミニウム層は遷移層42近傍において局所的に設けられた層であるので、Al元素の原子組成分布はp型GaN層30に近い一部の領域のみをarctan関数でフィッティングしている。なお、図を見やすくするために、サンプルNo.1のAl元素の原子組成分布の最大値を他の原子組成より小さい2/3で規格化した。これにより、原子組成分布の相対的な大小関係を維持しつつ、Al元素、Si元素およびO元素の原子組成を一のグラフ上に示すことができる。
本例では、相対的にプア(poor)である金属元素(AlまたはSiのうちいずれかの元素)とN元素とを用いて遷移層42の厚さを決定する。ゲート絶縁層44を構成する金属元素の原子組成が原子組成分布において極大を有する場合は、極大を有する金属元素の原子組成が極大の値の1/2となるp型GaN層30側の深さ位置をXMとしてよい。本例においては、Al元素の原子組成が極大を有するので、Al元素の原子組成が極大の値の1/2となるp型GaN層30側の深さ位置をXMとする(サンプルNo.1)。これに対して、ゲート絶縁層44を構成する金属元素の原子組成が原子組成分布において極大を有しない場合は、極大を有しない金属元素の原子組成が遷移層42よりもゲート絶縁層44側に十分に離れた箇所における金属元素の原子組成に対して1/2となる深さ位置をXMとしてよい。本例においては、Al元素を有さず且つ原子組成分布において極大を有さないSi元素のみを有するサンプルにおいて、ゲート絶縁層44側に十分に離れた箇所におけるSi元素の原子組成に対して1/2となる深さ位置をXMとする(サンプルNo.2からNo.4)。また、p型GaN層30を構成するN元素の原子組成が、遷移層42よりもp型GaN層30側に十分に離れた箇所におけるN元素の原子組成に対して1/2となる深さ位置をXNとしてよい。そして、位置XMと位置XNとの間の距離を遷移層42の厚さと定義する。
図2Aから図2Dの説明において、「遷移層42よりもゲート絶縁層44側に十分離れた箇所における金属元素の原子組成」とは、遷移層42よりも十分に上方に位置するゲート絶縁層44の領域におけるSi元素の原子組成を意味し、例えば、遷移層42よりも3nm以上上方、より好ましくは5nm以上上方に位置するゲート絶縁層44の領域におけるSi元素の原子組成を意味する。また、「遷移層42よりもp型GaN層30側に十分離れた箇所における窒素元素の原子組成」とは、遷移層42よりも十分に下方のp型GaN層30の領域のNの原子組成を意味し、例えば、遷移層42よりも3nm以上下方、より好ましくは5nm以上下方に位置におけるp型GaN層30の領域のN元素の原子組成を意味する。
[サンプルNo.1]
サンプルNo.1においては、金属元素であるAl元素の原子組成が、遷移層42よりも上方におけるAl元素の原子組成の最大に対して1/2となる深さ位置をXMとした。上述のように、サンプルNo.1において、Al元素の原子組成分布は、遷移層42によりも上方において極大を有する。サンプルNo.1において、Al元素の原子組成分布は、深さ6nm近傍において極大の値を有する。Al元素の原子組成が当該極大の値の1/2(縦軸において約0.33に相当する)に対応する深さ位置であって、p型GaN層30側の深さ位置は7.25nmであった。また、p型GaN層30を構成するN元素の原子組成が、遷移層42よりも十分下方におけるN元素の原子組成の1/2となる深さ位置をXNとした。XMとXNとの差であるXN-XMは、0.21nmであった。
[サンプルNo.2]
サンプルNo.2においては、金属元素であるSi元素の原子組成が、遷移層42よりも十分上方におけるSi元素の原子組成の1/2となる深さ位置をXMとした。なお、XNは、サンプルNo.1と同様に決定した。XN-XMは、1.28nmであった。
[サンプルNo.3]
サンプルNo.3においては、XMおよびXNをサンプルNo.2と同様に決定した。XN-XMは、1.58nmであった。
[サンプルNo.4]
サンプルNo.4においては、XMおよびXNをサンプルNo.2と同様に決定した。XN-XMは、0.69nmであった。
図2Aから図2Dの結果から明らかなように、酸化アルミニウム層を設けたサンプルNo.1において、遷移層42の厚さが最小となった。特定の考え方に限定されるものではないが、SiO2層からp型GaN層30へのSi原子の侵入を酸化アルミニウム層が低減することにより、チャネル形成領域34のn型化が低減されたと考えられる。それゆえ、サンプルNo.1においては、電界効果移動度が最も高かったと考えられる。
O2プラズマ処理を施したNo.2およびNo.3はGaとOがリッチな遷移層42が厚くなっており、1nmから2nm程度の薄いGaOX層が形成されたことがわかる。ただし、サンプルNo.1に比べて、電界効果移動度は小さかった。
図3は、EDXの測定結果から得られた遷移層42の厚さと電界効果移動度との関係を示すグラフである。横軸は、図2Aから図2DのEDXにより決定した遷移層42の厚さ[nm]である。縦軸は、表1に示した電界効果移動度[cm2/V・s]のピーク値である。図3に示す様に、遷移層42の厚さと電界効果移動度との関係が明らかになった。
図3のグラフにおける近似直線は、「電界効果移動度[cm2/V・s]=-44×(遷移層42の厚さ[nm])+105」となった。遷移層42の厚さを薄くすることで、電界効果移動度が大きくできることがわかる。当該近似直線を利用すると、遷移層42の厚さが約0.46nmのとき電界効果移動度は85cm2/V・sとなり、遷移層42の厚さが約0.34nmのとき電界効果移動度は90cm2/V・sとなり、遷移層42の厚さが約0.12nmのとき電界効果移動度は100cm2/V・sとなる。このように、遷移層42の厚さを、0.5nm以下、好ましくは0.4nm以下または0.3nm以下、さらに好ましくは0.2nm以下とすることにより、比較的高い電界効果移動度を実現することができる。ここで述べたことは遷移層42の存在に起因する影響であり、ラフネス散乱、フォノン散乱、クーロン散乱および界面電荷散乱などの散乱を低減できればさらに電界効果移動度を大きくすることができると考えられる。
図4Aは、サンプルNo.1の断面について高解像度の透過電子顕微鏡で観察したSTEM‐HAADF(Scanning Transmission Electron Microscope-High Angle Annular Dark Field)像を示す図である。図4Bは、サンプルNo.2の断面についてのSTEM‐HAADF像を示す図である。図4Cは、サンプルNo.3の断面についてのSTEM‐HAADF像を示す図である。図4Dは、サンプルNo.4の断面についてのSTEM‐HAADF像を示す図である。
サンプルNo.1からNo.4においては、透過電子顕微鏡法により観察した像としてHAADF像を用いた。本明細書においては、このHAADF像をSTEM‐HAADF像または透過電子顕微鏡像と表現する場合がある。なお、本明細書において、透過電子顕微鏡法とSTEM‐HAADFとは等価な表現である。各断面はa面(即ち、(11-20)面)を示し、各断面の上下方向はc軸方向(即ち、<0001>方向)を示す。STEM‐HAADF像では、相対的に重い原子が明るく表示され、相対的に軽い原子が暗く表示される傾向にある。図4Aから図4Dにおいては、規則的に並んだ白丸のドットがGaである。図4Aから図4Dの下半分のp型GaN層30はGaN結晶相であることがわかる。図4Aから図4Dの上半分のSiO2層は結晶構造が観測されず、アモルファス相であることがわかる。サンプルNo.1における酸化アルミニウム層は微結晶を含むアモルファス相となっている。
図4Aから図4Dにおいては、結晶構造を有するp型GaN層30の表面95に接して設けられ、STEM‐HAADF像におけるp型GaN層30およびゲート絶縁層44の両方と異なるコントラストにより規定される層の厚さを、遷移層42の厚さと定義する。なお、図4Aから図4Dにおいて、明暗のコントラストは、白黒により表示されている。
サンプルNo.1、No.2およびNo.4のように、遷移層42においては乱れているがGa原子の配列が観察できる。この場合、遷移層42とp型GaN層30との境界は規則正しいGa原子の配列の深さ位置としてよく、遷移層42とSiO2層との境界はGa原子の有無から定めてよい。これに対して、サンプルNo.3のように、遷移層42の結晶状態がアモルファスに近い場合、遷移層42とp型GaN層30との境界はGa原子の配列の有無から定めてよいが、本例においては遷移層42とSiO2層との境界はコントラストの違いから定めこととする。いずれにしても、サンプルNo.1からNo.4において、SiO2層と、遷移層42と、p型GaN層30とにはコントラストの差異が観察される。
[サンプルNo.1]
サンプルNo.1の遷移層42の厚さは、約0.33nmであった。なお、サンプルNo.1においては、酸化アルミニウム層が遷移層42に接して形成されている。なお、GaN半導体において、Ga‐Ga間の長さ(即ち、Gaの1分子の長さ)は約0.25nmである。それゆえ、遷移層42の厚さは、GaN半導体におけるGaの約2分子層の厚さと表現することもできる。
[サンプルNo.2]
サンプルNo.2の遷移層42の厚さは、約1.3nmであった。サンプルNo.2の遷移層42の厚さは、GaN半導体におけるGaの約5分子層の厚さと表現することもできる。
[サンプルNo.3]
サンプルNo.3の遷移層42の厚さは、約1.48nmであった。サンプルNo.3の遷移層42の厚さは、GaN半導体におけるGaの約6分子層の厚さと表現することもできる。
[サンプルNo.4]
サンプルNo.4の遷移層42の厚さは、約0.54nmであった。サンプルNo.4の遷移層42の厚さは、GaN半導体におけるGaの約2分子層の厚さと表現することもできる。
サンプルNo.1からNo.4において、遷移層42の厚さと電界効果移動度との関係を表2にまとめる。
図5は、STEM‐HAADF像から得られた遷移層42の厚さと電界効果移動度との関係を示すグラフである。横軸は、図4Aから図4DのSTEM‐HAADFにより測定した遷移層42の厚さ[nm]である。縦軸は、表1に示した電界効果移動度[cm2/V・s]のピーク値である。図5に示す様に、遷移層42の厚さと電界効果移動度との関係が明らかになった。図5に示す測定結果は、図3における遷移層42の厚さおよび電界効果移動度の関係と同様な関係となる。
図5のグラフにおけるフィッティング直線は、「(電界効果移動度[cm2/V・s])=-51×(遷移層42の厚さ[nm])+113」となった。これは、図3の説明において述べた関係式と同様である。当該フィッティング直線を利用すると、遷移層42の厚さが約0.45nmのとき電界効果移動度は90cm2/V・sとなり、遷移層42の厚さが約0.26nmのとき電界効果移動度は100cm2/V・sとなる。このように、遷移層42の厚さを、0.5nm以下、好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下とすることにより、高い電界効果移動度を実現することができる。
図6は、EDXの測定結果から得られた遷移層42の厚さと、STEM‐HAADF像から得られた遷移層42の厚さとの関係を示すグラフである。横軸が、STEM‐HAADF像から得られた遷移層42の厚さ[nm]であり、縦軸が、EDXの測定結果から得られた遷移層42の厚さ[nm]である。図6に示す様に、グラフの傾きはほぼ1である。つまり、EDXの測定結果による定量的評価と、STEM‐HAADF像から得られた評価とはほぼ一致していると言える。透過電子顕微鏡像のコントラスト差異から遷移層を導出できることがわかる。
サンプルNo.1とNo.4との比較からわかるように、ゲート絶縁層44に酸化アルミニウム層を設けるサンプルNo.1の方が、ゲート絶縁層44に酸化アルミニウム層を設けないサンプルNo.4に比べて、遷移層42の厚さを薄くすることができた。サンプルNo.2およびNo.3の測定結果から遷移層42が薄いほど電界効果移動度を高くすることができることがわかるので、ゲート絶縁層44に酸化アルミニウム層を設けることは、電界効果移動度を向上させるうえで一定の効果があると言える。
図7は、横型MOSFET100の製造方法を示すフローチャートである。本例においては、S100からS150の順に(即ち、番号の若い順に)各段階を実行する。本例においては、上述のサンプルNo.1に対応する横型MOSFET100の製造方法を主として説明する。
図8は、横型MOSFET100の製造方法の各工程を示す図である。S100は、c面GaN基板10上にn型GaN層20およびp型GaN層30を順次エピタキシャル形成する段階である。
本例においては、トリメチルガリウム((CH3)3Ga、以降においてTMGと略記する)、アンモニア(NH3)およびモノシラン(SiH4)を含む原料ガスと、窒素(N2)および水素(H2)を含む押圧ガスとをGaN基板10上に流す。このとき、GaN基板10の温度は1100℃とする。なお、モノシランのSi元素は、n型GaN層20におけるn型不純物として機能し得る。これにより、1μmの厚さを有し、2E+16cm-3のSi元素を含むn型GaN層20を形成する。
n型GaN層20を形成した後に、p型GaN層30を形成する。本例においては、TMG、アンモニアおよびビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を含む原料ガスと、窒素(N2)および水素(H2)を含む押圧ガスとをGaN基板10上に流す。このとき、n型GaN基板10の温度は1050℃とする。なお、Cp2MgのMgは、p型GaN層30におけるp型不純物として機能し得る。これにより、4μmの厚さを有し、1E+17cm-3のMgを含むp型GaN層30を形成する。
n型GaN層20およびp型GaN層30を形成した後に、p型GaN層30の不純物を活性化させるべく熱処理を行う。本例においては、酸素含有の窒素(N2)ガス雰囲気において、GaN系半導体90を650℃で30分間熱処理した。これにより、S100を終了した。
S110は、n+型GaN領域32を形成する段階である。本例においては、n+型GaN領域32形成用の開口を有するレジストマスクを形成し、当該レジストマスクを介してp型GaN層30にドーズ量3E+15[cm-2]で表面95から深さ約0.1μmの範囲にSiイオンを注入した。その後、不純物を活性化させるべく、窒素(N2)ガス雰囲気においてGaN系半導体90を1000℃で10分間熱処理した。
本例においては、S110におけるn+型GaN領域32の形成後、S120における酸化アルミニウム層を形成する前にp型GaN層30やn+型GaN領域32の表面95から酸化層を除去するために希フッ酸でエッチングする。S120は、p型GaN層30上に酸化アルミニウム層52を形成する段階である。酸化アルミニウム層52は、Al含有層の一例である。本例のS120においては、蒸着法によりp型GaN層30上に1.5nmの厚さを有するAl金属層を形成し、その後、酸素(O2)含有雰囲気においてAl金属層を酸化する。Al金属層を酸化する段階は、体積比において20%の酸素(O2)ガスと80%の窒素(N2)ガスとを含む雰囲気において500℃で30分間熱処理してよく、これに代えて、Al金属層を大気暴露することにより酸化してもよい。
なお、他の例において、S120の酸化アルミニウム層52を形成する段階においては、酸化アルミニウムを直接形成してもよい。例えば、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al、以降においてTMAと略記する)と酸素(O2)ガスまたは水(H2O)とを用いて、プラズマCVD法または原子層堆積法(ALD)により、酸化アルミニウムを形成してよい。
S130は、酸化アルミニウム層52上に酸化シリコン(SiO2)層54を形成する段階である。本例のS130においては、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と酸素(O2)ガスとを用いて、プラズマCVD法により、100nmの厚さを有するSiO2層54を形成する。より具体的には、酸素プラズマにより酸素のラジカルを形成した後に、TEOSガスと酸素のラジカルとを反応させることによりSiO2層54を形成する。O2プラズマ処理を行う場合は、TEOSガスを流さず、10分間の酸素プラズマ放電を行った。
なお、他の例においては、TEOSと水(H2O)とを用いて、または、モノシランと酸素(O2)ガスまたは水(H2O)とを用いて、プラズマCVD法により、SiO2層54を形成してもよい。なお、プラズマCVD法に代えて、原子層堆積法(ALD)を用いてもよい。なお、プラズマCVD法および原子層堆積法においては、気体状態の原料を用いてよい。つまり、水(H2O)は水蒸気であってよく、TEOSおよびモノシランもガスであってよい。
このようにして、上述のサンプルNo.1に対応する遷移層42およびゲート絶縁層44を形成する。なお、上述のサンプルNo.2からNo.4に対応する遷移層42およびゲート絶縁層44を形成するためには、S120の工程を省略すればよい。また、上述のサンプルNo.3に対応する遷移層42およびゲート絶縁層44を形成するためには、遷移層42およびゲート絶縁層44を窒素(N2)ガス雰囲気において700℃で30分間熱処理してよい。
S140は、遷移層42およびゲート絶縁層44の積層を部分的に削除する段階である。S140においては、ソース電極46およびドレイン電極48に対応する領域に開口を有するレジストマスクを用いて遷移層42およびゲート絶縁層44をエッチングにより部分的に除去する。
S150は、ゲート電極40、ソース電極46およびドレイン電極48を形成する段階である。本例においては、200nmの厚さを有するAl電極を蒸着する、次いで、適宜エッチングすることにより各電極を形成する。
なお、他の例において、S120を省略してもよい。つまり、遷移層42およびゲート絶縁層44を形成するべく、酸化アルミニウム層52を形成せずに、SiO2層54のみを形成してもよい。
図9は、第2実施形態における縦型MOSFET200の断面図である。本例の縦型MOSFET200は、プレーナーゲート型である。本例の縦型MOSFET200は、表面95上のソース電極46から裏面92に接して設けられたドレイン電極48へ電子電流が流れる。また、本例の縦型MOSFET200は、一対のn+型GaN領域32間において、底部がn型GaN層20に達するn型GaN領域50を有する。n型GaN領域50は、X軸方向においてn+型GaN領域32から離間する。さらに、深さ方向において空乏層が伸張できるように、p型GaN層30に比べてn型GaN層20を厚くする。本例は、主として係る点において第1実施形態と異なる。
図10は、縦型MOSFET200の製造方法を示すフローチャートである。本例においても、S100からS150の順に(即ち、番号の若い順に)各段階が行われる。本例の製造方法は、第1実施形態のS110とは異なるS112を有する。
図11は、縦型MOSFET200の製造方法の各工程を示す図である。第1実施形態と異なるS112およびS150について説明する。S112は、n+型GaN領域32およびn型GaN領域50を形成する段階である。S112においては、n+型GaN領域32を形成用の開口を有する第1のレジストマスクを用いてSiイオンを注入する第1のイオン注入段階と、n型GaN領域50を形成するための開口を有する第2のレジストマスクを用いてSiイオンを注入する第2のイオン注入段階とを有してよい。これに代えて、1つのレジストマスクを用いてSiイオンを注入してもよい。一例において、レジストマスクの厚さを、イオン注入しない領域、n+型GaN領域32を形成する領域およびn型GaN領域50を形成する領域の順に大きくした上で、Siイオン注入をしてもよい。なお、n型GaN領域50を形成する領域にはレジストマスクが設けられなくてもよい。
n+型GaN領域32を形成するためのドーズ量は3E+15[cm-2]であってよく、注入深さは約0.1μmあってよい。n型GaN領域50を形成するためのドーズ量は、3E+13[cm-2]であってよく、注入深さは約0.6μmであってよい。なお、本例においては、p型GaN層30の厚さを0.4μmとした。Siイオンを注入後、不純物を活性化させるべく、窒素(N2)ガス雰囲気においてGaN系半導体90を1000℃で10分間熱処理してよい。
S150においては、表面95に接してソース電極46を形成する。これに対して、裏面92に接してドレイン電極48を形成する。
なお、他の例において、S120を省略してもよい。つまり、遷移層42およびゲート絶縁層44を形成するべく、酸化アルミニウム層52を形成せずに、SiO2層54のみを形成してもよい。
図12は、第3実施形態における縦型MOSFET300の断面図である。本例の縦型MOSFET300は、トレンチゲート型である。本例の縦型MOSFET300は、表面95上のソース電極46から裏面92に接して設けられたドレイン電極48へ電子電流が流れる。また、本例の縦型MOSFET300は、一対のn+型GaN領域32間において、底部がn型GaN層20に達するトレンチ60を有する。トレンチ60の底部および側面に接して酸化アルミニウム層52が設けられ、酸化アルミニウム層52に接しSiO2層54が形成される。これにより、遷移層42およびゲート絶縁層44が、トレンチ60の内壁に形成される。トレンチ60の内部において、ゲート絶縁層44に接してゲート電極40が形成される。さらに、本例においては、深さ方向において空乏層が伸張できるように、p型GaN層30に比べてn型GaN層20を厚くする。本例は、主として係る点において第1実施形態と異なる。
図13は、縦型MOSFET300の製造方法を示すフローチャートである。本例においても、S100からS150の順に(即ち、番号の若い順に)各段階が行われる。本例の製造方法は、第1実施形態のS110とは異なるS114、S132およびS152を有する。
図14は、縦型MOSFET300の製造方法の各工程を示す図である。第1実施形態と異なるS114、S132およびS152について説明する。S114は、トレンチ60を形成する段階である。本例においては、p型GaN層30およびn型GaN層20を部分的にエッチングすることにより、n+型GaN領域32をX軸方向において分断し、かつ、p型GaN層30に達するトレンチ60を形成する。
S132は、ゲート電極40を形成する段階である。本例のゲート電極40は、少なくともトレンチ60の内部を完全に充填する。例えば、Al金属層または多結晶Si層を堆積した後、所定の形状にパターニングする。S152は、ソース電極46およびドレイン電極48を形成する段階である。S152では、表面95に接するソース電極46と裏面92に接するドレイン電極48とを形成する。ソース電極46は、表面95に接してAl金属層を堆積させた後、所定の形状にパターニングしてよい。これに対して、ドレイン電極48は、裏面92に接してAl金属層を堆積させることにより形成できる。
なお、他の例において、S120を省略してもよい。つまり、遷移層42およびゲート絶縁層44を形成するべく、酸化アルミニウム層52を形成せずに、SiO2層54のみを形成してもよい。
以上の説明においては、第1導電型の窒化ガリウム系半導体層をp型GaN層とし、半導体装置としてはnチャネルFETとした。ただし、半導体においては多数キャリアの種類に依らず同様の特性が得られる。第1導電型の窒化ガリウム系半導体層をn型GaN層とし、半導体装置としてpチャネルFETとしたときにおいても、同様の結果となる。
図15は、XPS(X‐ray Photoelectron Spectroscopy、即ち、光電子分光)分析実験の概要を説明する図である。X線としてはAlKα線を用いた。X線は透過性がよく、n型GaN層70、遷移層42およびSiO2層54の積層構造のすべてに照射される。一方、X線によって励起される光電子は脱出深さが数nmであるので、XPS分析を可能とするべく、SiO2層54の厚さは1nmとした。その結果、n型GaN層70、SiO2層54、およびこれらの間の界面領域(即ち、遷移層42)から放出される光電子が検出される。SiO2層54および遷移層42に比べてn型GaN層70は十分厚い層となる。理解を容易にするべく、光電子が脱出する領域に破線を付す。また、検出器400が光電子を取り込む方向と、積層構造を有する試料の水平面とが成す角度を45度とした。
n型GaN層70は、主としてGa‐N結合を有する。これに対して、遷移層42は酸化ガリウムを含むので、遷移層42は主としてGa‐O結合を有する。なお、酸化ガリウムは、例えば、Ga2O3であるが、これと異なる組成比であってもよい。Ga原子の2p軌道から放出される光電子はn型GaN層70に由来するGa‐N結合成分と、遷移層42に由来するGa‐O結合成分とを有する。各々検出されるこれらの結合エネルギーは、互いに僅かに異なっている。そこで、本XPS分析においては、Ga原子の2p軌道の結合エネルギー(横軸)に対応する強度(縦軸)を測定した。なお、本明細書においては、Ga原子の2p軌道をGa2pと略記する場合がある。
Ga2pピーク強度は、n型GaN層70のGaと遷移層42のGaから放出された光電子からなる。遷移層42が増えるとともに、Ga2pピーク強度に対応する結合エネルギー位置はGa‐N結合エネルギー位置からGa‐O結合エネルギー位置へ変化する。また、Ga2pピーク強度に含まれるGa‐N結合成分が減少し、Ga‐O結合成分が増加する。Ga‐N結合成分とGa‐O結合成分とを波形分離してGa‐N成分とGa‐O成分との強度の比より遷移層42の厚さが算出できる(詳細については後述する)。
純粋なGa‐N結合の強度ピークエネルギーは、清浄な表面を有するn型GaN層70をXPS分析することにより、予め得ることができる。エピタキシャル成長後のn型GaN層70をXPS分析する前に、高真空中でn型GaN層70の表面をエッチングして清浄な表面を出すことでGa‐N結合の強度ピークに対応するエネルギーを得ることができる。純粋なGa‐O結合の強度ピークに対応するエネルギーも、n型GaN層70を酸化した表面をXPS分析することにより予め得ることができる。また、エピタキシャル成長後のn型GaN層70やn型GaN層70の酸化表面が純粋なGa‐N結合相や純粋なGa‐O結合相にできない場合でも、波形分離することでピークエネルギーやピーク波形を得ることができる。本実験において、Ga‐N結合の強度ピークに対応するエネルギーは1117.4eVであり、Ga‐O結合の強度ピークに対応するエネルギーは1118.2eVであった。後述するように、本実験においては、Ga‐N結合およびGa‐O結合の強度ピークに対応するピークエネルギーと、これらに対応する波形とを利用して、Ga2pに関する実測のピーク波形を分解した。なお、本明細書においては、Ga2pに関する実測のピーク波形を、Ga2pと略記する場合がある。
図16Aは、第1の試料についてXPS分析結果を示す図である。縦軸は強度(counts per second、c/sと略記する)であり、横軸は結合エネルギー(binding energy)[eV]である。最も高い強度ピークを有する曲線は、Ga原子の2p軌道を測定した実測値である。図16A中の「Ga‐N成分」はGa‐N結合の成分であり、ピークエネルギーが1117.4eVである。また、図16A中の「Ga‐O成分」はGa‐O結合の成分であり、ピークエネルギーが1118.2eVである。二番目に高い強度ピークを有する曲線(破線)は、Ga‐O結合の成分とGa‐N結合の成分とを合わせたものである(図16A中のGa‐O+Ga‐N成分)。
本実験においては、Ga2pから放出される光電子のスペクトル(結合エネルギーに対する光電子の強度変化を示すピーク状波形)を「Ga‐N成分」と「Ga‐O成分」とに波形分離した。具体的には、「Ga‐N成分」の波形関数と「Ga‐O成分」の波形関数を用いて、それらの高さのみを変えて実測にフィッティングした。
第1の試料において、実測のGa2pスペクトルはピークの結合エネルギーが1117.7eVであった。それゆえ、このエネルギー1117.7eVとGa‐N結合の結合エネルギー1117.4eVとの差ΔGaは、0.3eVであった。このように、実測のGa2pスペクトルのピークエネルギーが「Ga‐N成分」スペクトルのピークエネルギーよりも高いことは、Ga‐O結合成分を含むことを示している。
後述の実験結果からも明らかであるが、実測のGa2pスペクトルのピークエネルギーが大きくなるほど、遷移層42はより多くのGa‐O結合を有する。Ga‐O結合のエネルギー位置は固定であると見なしてよいので、上述のエネルギー差ΔGaが大きいほど、遷移層42が有するGa‐O結合の量が多くなると言える。遷移層42中の酸化ガリウムの重量または数が、第1の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、エネルギー差ΔGaは0.3eV以下であってよい。
本実験においては、さらに、Ga‐N結合のN原子1s軌道から放出される光電子についてもスペクトルを測定し、当該ピークの結合エネルギーが397.0eVであった。N1s結合エネルギーを利用することで、大気含有不純物の吸着や表面帯電などがXPS分析に与える影響を低減することができる。例えば、試料表面に炭化水素などの不純物が吸着することで、表面の電位が変化する。試料内部のGa原子やN原子から放出される光電子は同じ表面電位の影響を受ける。N1s結合エネルギーを用いることにより、両原子の結合エネルギー差は表面電位の影響がなくすことができる。このように、N1s結合エネルギーは、有効な基準エネルギーとなり得る。なお、本明細書においては、N原子の1s軌道をN1sと略記する場合がある。
上述のエネルギー差ΔGaと同様に、N1sスペクトルのピークとGa2pスペクトルのピークの結合エネルギーの差ΔGa-Nを用いることができる。本実験において、実測のGa2pスペクトルのピーク結合エネルギー1117.7eVとN1sのピーク結合エネルギー397.0eVとの差ΔGa-Nは720.7eVであった。当該エネルギー差ΔGa-Nの大小は、遷移層42がどの程度Ga‐N結合成分とGa‐O結合成分とを含んでいるかを示し得る。エネルギー差ΔGa-Nが大きいほど、遷移層42が有するGa‐O結合の量が多くなると言える。遷移層42中の酸化ガリウムの重量または数が、第1の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、エネルギー差Δは720.7eV以下であってよい。
なお、上述のエネルギー差ΔGaおよびΔGa-Nの代替として、Ga2pスペクトルの波形を「Ga‐N成分」と「Ga‐O成分」とに分離することにより得られるGa‐O成分/Ga‐N成分の強度比を用いてもよい。第1の試料において、Ga‐O/Ga‐Nの強度比は、0.9であった。このことから、第1の試料においては、比較的、Ga-N結合成分が多いことがわかった。また、遷移層42中の酸化ガリウムの重量または数が、第1の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、Ga‐O/Ga‐Nの強度比は0.9以下であってよい。さらに、他の例においては、Ga‐O/Ga‐Nの強度比は、1.0以下であってもよい。
図16Bは、第2の試料についてXPS分析結果を示す図である。縦軸および横軸は、図16Aと同じである。図16Bにおいて、最も高い強度ピークを有する曲線は、界面領域をXPS分析することにより得られるGa原子の2p軌道の実測波形であり、ピークエネルギーが1118.0eVである。図16B中の「Ga‐N成分」はGa‐N結合の成分であり、ピークエネルギーが1117.4eVである。また、図16B中の「Ga‐O成分」はGa‐O結合の成分であり、ピークエネルギーが1118.2eVである。また、この実測波形よりも僅かに下に位置する「Ga‐O+Ga‐N成分」波形(破線)はGa‐O結合の成分とGa‐N結合の成分とを合わせたものである。
第2の試料において、実測のGa2pスペクトルにおけるピーク結合エネルギー1118.0eVと、Ga‐N結合エネルギー1117.4eVとの差ΔGaは、0.6eVであった。なお、遷移層42中の酸化ガリウムの重量または数が、第2の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、エネルギー差ΔGaは0.6eV以下であってよい。
また、Ga2pスペクトルのピーク結合エネルギー1118.0eVと、N1sスペクトルのピーク結合エネルギー397.0eVとの差ΔGa-Nは、721.0eVであった。なお、遷移層42中の酸化ガリウムの重量または数が、第2の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、エネルギー差ΔGa-Nは721.0eV以下であってよい。
さらに、実測のGa2pスペクトルを「Ga‐N成分」と「Ga‐O成分」とに波形分離することにより得られたGa‐N結合成分とGa‐O結合成分について、それぞれの強度の比(即ち、Ga‐O/Ga‐Nの強度比)は、1.9であった。遷移層42中の酸化ガリウムの重量または数が、第2の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、Ga‐O/Ga‐Nの強度比は1.9以下であってよい。さらに、他の例においては、Ga‐O/Ga‐Nの強度比は、2.0以下であってもよい。
図16Cは、第3の試料についてXPS分析結果を示す図である。縦軸および横軸は、図16Aおよび図16Bと同じである。図16Cにおいて、最も高い強度ピークを有する曲線は、界面領域をXPS分析することにより得られるGa2pの実測ピークであり、ピークエネルギーが1118.1eVである。三番目に高い「Ga‐O成分」ピークはGa‐O結合の成分であり、ピークエネルギーが1118.2eVである。四番目に高い「Ga‐N成分」はGa‐N結合の成分であり、ピークエネルギーが1117.4eVである。また、二番目に高い「Ga‐O+Ga‐N成分」ピーク(破線)はGa‐O結合の成分とGa‐N結合の成分とを合わせたものである。
第3の試料において、Ga2pスペクトルのピーク結合エネルギー1118.1eVと、Ga‐N結合エネルギー1117.4eVとの差ΔGaは、0.7eVであった。なお、遷移層42中の酸化ガリウムの重量または数が、第3の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、エネルギー差ΔGaは0.7eV以下であってよい。
また、Ga2pスペクトルのピーク結合エネルギー1118.1eVと、N1sスペクトルのピーク結合エネルギー397.0eVとの差ΔGa-Nは、721.1eVであった。なお、遷移層42中の酸化ガリウムの量または数が、第3の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、エネルギー差ΔGa-Nは721.1eV以下であってよい。
さらに、Ga‐N結合成分の強度に対する、Ga‐O結合成分の強度の比(即ち、Ga‐O/Ga‐Nの強度比)は、3.3であった。遷移層42中の酸化ガリウムの量または数が、第3の試料の遷移層42中の酸化ガリウム以下である場合、Ga‐O/Ga‐Nの強度比は3.3以下であってよく、3.0以下であってもよい。
図17は、Ga2pスペクトルのピーク結合エネルギーと、Ga‐N結合成分の結合エネルギーとの差ΔGaと、電界効果移動度との関係を示す図である。横軸は、XPS分析におけるGa2pスペクトルのピーク結合エネルギーと、Ga‐N結合成分の結合エネルギーとの差ΔGa[eV]である。縦軸は、上述のMOS構造の最大電界効果移動度[cm2/V・s]である。横軸をXとし、縦軸をYとした場合に、第1の試料は(X,Y)=(0.3,96)に対応する。また、第2の試料は(X,Y)=(0.6,48)に対応し、第3の試料は(X,Y)=(0.7,36)に対応する。
エネルギー差ΔGadが0.6eV以下、エネルギー差ΔGa-Nが721.0eV以下、または、Ga‐O/Ga‐Nの強度比が1.9以下である場合に、MOS構造の最大電界効果移動度は、48cm2/V・s以上であってよい。つまり、遷移層42中の酸化ガリウムが第2の試料に比べて少ない場合に、横型MOSFET100ならびに縦型MOSFET200および300は、48cm2/V・s以上の最大電界効果移動度を有してよい。また、エネルギー差ΔGaが0.3eV以下、エネルギー差ΔGa-Nが720.7eV以下、または、Ga‐O/Ga‐Nの強度比が0.9以下である場合に、MOS構造の最大電界効果移動度は、96cm2/V・s以上であってよい。同様に、遷移層42中の酸化ガリウムが第1の試料に比べて少ない場合に、横型MOSFET100ならびに縦型MOSFET200および300は、96cm2/V・s以上の最大電界効果移動度を有してよい。
XPS分析実験に用いた第1から第3の試料について、下記表3に示す。第1の試料においては、SiO2層54を形成する前にO2プラズマ処理をせずに、かつ、SiO2層54を形成した後に熱処理を施さなかった。これに対して、第2の試料においては、SiO2層54を形成する前にn型GaN層70の表面をO2プラズマ処理したが、SiO2層54を熱処理しなかった。第3の試料においては、SiO2層54を形成する前にn型GaN層70の表面をO2プラズマ処理し、かつ、SiO2層54を形成した後にSiO2層54を窒素(N2)ガス雰囲気において、700℃の温度で熱処理した。
また、第1から第3の試料における(A)から(E)の項目を表3に合わせて示す。
(A)Ga2pスペクトルの実測ピーク結合エネルギー。
(B)Ga2pスペクトルの実測ピーク結合エネルギーと、Ga‐N成分の結合エネルギーとの差ΔGa。
(C)Ga2pスペクトルの実測ピーク結合エネルギーと、N1sスペクトルのピーク結合エネルギーとの差ΔGa-N。
(D)Ga2pスペクトルのGa‐O/Ga‐Nの強度比。
(E)MOSFETの最大電界効果移動度。
図18は、Ga2pスペクトルにおけるGa‐O成分/Ga‐N成分の強度比と電界効果移動度との関係を示す図である。横軸は、Ga‐O成分/Ga‐N成分の強度比であり、縦軸は、MOSFETの最大電界効果移動度である。横軸をXとし、縦軸をYとした場合に、第1の試料は(X,Y)=(0.9,96)に対応する。また、第2の試料は(X,Y)=(1.9,48)に対応し、第3の試料は(X,Y)=(3.3,36)に対応する。図18は酸化ガリウムが減少することに応じて、電界効果移動度が上昇し、おおよその傾向は図17に一致している。
図19は、XPS分析におけるGa2pスペクトルのピーク結合エネルギーとGa‐O成分/Ga‐N成分の強度比との関係を示す図である。横軸は、XPS分析における実測のピーク結合エネルギー[eV]である。縦軸は、Ga‐O成分/Ga‐N成分の強度比である。図19においては、上述の第1から第3の試料に加えて、さらに複数の試料についてのXPS分析結果を示したものである。図19の結果から、実測値の強度ピークのエネルギーが増加するにつれて、遷移層42中の酸化ガリウムが増加する傾向が理解できる。
図20は、STEM‐HAADF像から得られた遷移層42の厚さと、XPS分析から得られた遷移層42の厚さとの関係を示す図である。横軸は、STEM‐HAADF像から得られた遷移層42の厚さ[nm]である。縦軸は、XPS分析から得られた遷移層42の厚さ[nm]であり、その導出方法は以下に示す。図20に示すように直線的な関係が得られたことから、STEM‐HAADF像を利用した遷移層42の厚さと、XPS分析から得られた遷移層42の厚さとに、一対一の対応関係があると言える。なお、近似直線を外挿する場合に、横軸がゼロにおいて縦軸がゼロとならず、約0.3nmとなる。この厚さは約1原子層であり、GaN表面にO原子が吸着した状態をSTEM像では評価できないものと考えられる。
XPS分析から得られた遷移層42の厚さdは、Ga‐O結合成分とGa‐N結合成分の強度比IOX/IGaNより以下の式(1)を用いて算出した。なお、式(1)において、「×」は積を意味する。
d=λOX×cosθ
×ln[(λGaNNGaN)/(λOXNOX)×(IOX/IGaN)+1]・・・(1)
ここで、θは光電子取出し角、NGaNおよびNOXはそれぞれGaN層およびGa酸化層中のGa原子密度である。λGaNおよびλOXはそれぞれGaN層およびGa酸化層中のGa2p電子の脱出深さであり、[非特許文献1]に記載の半経験式より算出した。化合物に対しては電子の脱出深さλ(nm)は、Eを光電子のエネルギー(eV)、aを単原子層の厚さ(nm)として以下の式(2)で表される。
λ(nm)=538aE-2+0.72(a3/2E1/2)・・(2)
[非特許文献1]:大西孝治・堀池靖浩・吉原一紘、固体表面分析I、第1刷、講談社、1995年4月20日、第28頁。
なお、遷移層42が存在しないか、または、遷移層42の厚みが前述した範囲内であっても、p型GaN層30の界面94(図21参照)に凹凸が存在すると、p型GaN層30の界面94における電界効果移動度にバラツキが生じる場合がある。本明細書では、遷移層42が存在しない場合、p型GaN層30にゲート絶縁層44を積層した領域のp型GaN層の境界を界面94とする。また、遷移層42が存在する場合は、ゲート絶縁層44と遷移層42の境界を界面94とする。以下は、遷移層42が存在しない場合について述べる。
p型GaN層30の界面94における凹凸と、電界効果移動度との関係を、サンプルNo.5およびNo.6を用いて説明する。サンプルNo.5は、ゲート絶縁層44を形成した後に熱処理を行ったサンプルであり、サンプルNo.6は、ゲート絶縁層44を形成した後に熱処理を行っていないサンプルである。他の製造条件は、サンプルNo.5およびNo.6で同一である。
図21は、サンプルNo.5の断面について高解像度の透過電子顕微鏡で観察したSTEM-HAADF像を示す図である。サンプルNo.5において、p型GaN層30と、ゲート絶縁層44との境界には、明確な遷移層42は観察されない。ただし、界面94においてp型GaN層を構成する元素の原子が規則的に配列している結晶面は、Z軸方向に凹凸を有している。
図22は、図21における領域Aを拡大した模式図である。図22においては、図21における粒状のGa原子を丸印のGa原子99で模式的に示している。本例の結晶面96は、Z軸方向に凹凸を有している。結晶面96とは、Ga原子99が格子状に一定の周期で配列している面を指す。
本明細書では、p型GaN層30が所定の測定領域内(例えばX軸方向等の所定の方向における長さが30nmの領域)において原子が連なっている面を最上端層91とし、そこからの凸部の高さを、Z軸方向における長さ、または、Z軸方向における原子層の層数で表す場合がある。最上端層91は、一例として、上述した測定領域内において、Ga原子99の抜けが無いGa層のうち、最も上側にあるGa層である。また、凹凸または凸部の高さとは、所定の測定領域内において、Z軸方向の正側の最も端に存在する結晶面96と、Z軸方向の負側の最も端に存在する結晶面96とのZ軸方向における距離を指す。図22の例においては、凸部の高さは3原子層である。
また、p型GaN層30が所定の測定領域内において原子が連なっている面(最上端層91)からz軸方向に正側の領域において、p型GaN層30の界面94と平行な方向にGa原子99が3個以上連続して配列された領域をテラス部97とする。結晶面96の凹凸の高さは、所定の測定領域内において、Z軸方向の正側の最も端に存在するテラス部97と、Z軸方向の負側の最も端に存在する谷部98とのZ軸方向における距離を用いてもよい。谷部98は、p型GaN層30の界面94と平行な方向において、Ga原子99に挟まれた領域であって、且つ、Ga原子99が3個以上連続して抜けている領域である。つまり谷部98においては、Ga原子99が規則的に配列していない。
なお、サンプルNo.5のSTEM-HAADF像は、下記の条件で取得した。試料を薄膜化して、観察方向に対して垂直な方向における試料の厚みを20nmとした。透過電子顕微鏡における電子の加速電圧を200kVとして、観察範囲の拡大倍率を500万倍として、少なくとも30nm以上の幅を有する領域を観察した。取得したSTEM-HAADF像を、コントラストに基づいて2値化して、それぞれの位置におけるGa原子99の有無を判別した。STEM-HAADF像においては、Ga原子99が存在する位置は白く、Ga原子99が存在しない位置は黒くなっている。p型GaN層30の界面94において、最大のコントラストに対して、50%以上のコントラストを有する位置には、Ga原子99が存在すると判別した。本明細書において、結晶面96の凹凸の高さは、上記の条件で取得したSTEM-HAADF像に基づいて、判別してよい。上記の条件は、10%以内の誤差を有していてもよい。
図23は、サンプルNo.6の断面について高解像度の透過電子顕微鏡で観察したSTEM-HAADF像を示す図である。サンプルNo.6においても、p型GaN層30と、ゲート絶縁層44との境界には、明確な遷移層42は観察されない。また、界面94においてp型GaN層を構成する元素の原子が規則的に配列している結晶面は、Z軸方向の凹凸をほとんど有していない。
図24は、図22における領域Bを拡大した模式図である。図24に示すように、サンプルNo.6の結晶面96における凹凸は、1原子層である。サンプルNo.6は、サンプルNo.5よりも、p型GaN層30の表面における電界効果移動度が高かった。これは、サンプルNo.6においては、結晶面96における凹凸による電子の散乱が少ないためと考えられる。
図25は、p型GaN層30の表面における凹凸の高さと、p型GaN層30の表面における電界効果移動度との関係を示すグラフである。本例においては、サンプルNo.5、N0.6の他に、凹凸の高さを変化させた他のサンプルについても測定した。各サンプルにおいては、遷移層42は観察されなかった。
図25における横軸は、凹凸高さを原子層の層数で示している。また、凹凸高さは、p型GaN層30と平行な方向の観察範囲(本例では30nmの範囲)における最大の高さを示している。凹凸高さは、観察範囲における平均値を用いてもよいし、RMS値を用いてもよいし、他の方法で処理した値を用いてもよい。なお本例では、テラス部97と谷部98を用いて凹凸高さを判別した。
図25に示すように、凹凸が大きくなるほど、電界効果移動度μが低下している。上述したように、凹凸が大きくなると、結晶面96において電子が散乱されて移動度が低下すると考えられる。
図26は、図25に示したグラフと、図5に示したグラフとを重ねたグラフである。なお図5におけるサンプルと、図25におけるサンプルは、別のサンプルである。図26に示すように、凹凸の高さが電界効果移動度に与える影響と、遷移層42の厚みが電界効果移動度に与える影響は、同様の傾向となった。
p型GaN層30の界面と平行な測定方向における長さが30nmの測定領域において、p型GaN層30の界面と垂直な深さ方向の凹凸高さが、6原子層以下であってよい。これにより、凹凸による電界効果移動度の劣化を、厚みが1.5nm以下の遷移層42による電界効果移動度の劣化と同程度にすることができる。凹凸高さは、1.5nm以下であってもよい。また、上述したように、長さが30nmの測定領域において、テラス部97の上端から谷部98の下端までの高さが6原子層以下、または、1.5nm以下であってもよい。
凹凸高さは、遷移層42の厚みよりも小さくてよい。これにより、凹凸による電界効果移動度の劣化を、遷移層42による電界効果移動度の劣化よりも小さくできる。また、凹凸高さは、3原子層以下(0.75nm以下)であってよく、2原子層以下(0.5nm以下)であってよく、1原子層以下(0.25nm)以下であってもよい。
なお、サンプルNo.6の製造条件は以下の通りである。ゲート絶縁層44は、二酸化シリコンの単層とした。具体的には、リモートプラズマCVD装置を用いてTEOSと酸素ガスを流した状態で放電し、p型GaN層30の表面に厚み100nmのゲート絶縁層44を形成した。p型GaN層30の表面にGaOx層が形成されると、電界効果移動度が小さくなる傾向があるので、プラズマを安定化させるO2プラズマ処理は行わずにゲート絶縁層44を形成した。ゲート絶縁層44を形成した後に、ゲート絶縁層44の熱処理は行っていない。
サンプルNo.5の製造条件は、サンプルNo.6と同様であるが、ゲート絶縁層44を形成した後に、窒素雰囲気で700度、30分の熱処理を行った。
図27は、凹凸を測定する測定領域49の一例を示す図である。本例では、図1に示した横型MOSFET100におけるp型GaN層30の表面近傍を測定領域49とした。測定領域49は、p型GaN層30の表面を含み、且つ、p型GaN層30の表面と平行な方向において30nmの幅を有する領域である。本例の測定領域49は、横型MOSFET100のオン時に電子が流れる方向に、30nmの幅を有している。本例の測定領域49は、ゲート電極40の下方において、ソース電極46およびドレイン電極48を結ぶ方向(X軸方向)に30nmの幅を有している。横型MOSFET100は、測定領域49の30nmの範囲において、凹凸高さが6原子層以下、または、1.5nm以下である。測定領域49は、ソース電極46およびドレイン電極48の間の中央に配置されていてよい。
図15から図27の説明においては、第2導電型の窒化ガリウム系半導体層であるn型GaN層を用いた。ただし、半導体においては多数キャリアの種類に依らず同様の特性が得られる。それゆえ、第2導電型の窒化ガリウム系半導体層をp型GaN層としても、同様の結果となる。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。