特許法第30条第2項適用 平成30年3月5日に、高島信也、田中亮、上野勝典、松山秀昭、江戸雅晴、小島一信、秩父重英、上殿明良、中川清和が、第65回「応用物理学会 春季学術講演会」予稿集、第12-394頁にて、高島信也、田中亮、上野勝典が発明した、チャネル特性を向上させたMgイオン注入GaN MOSFETについて公開した。 平成30年3月19日に、高島信也が、第65回「応用物理学会 春季学術講演会」、早稲田大学 西早稲田キャンパスにて、高島信也、田中亮、上野勝典が発明した、チャネル特性を向上させたMgイオン注入GaN MOSFETについて公開した。
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板の上面と平行な面をXY面とし、半導体基板の深さ方向をZ軸とする。
各実施例においては、第1導電型をn型、第2導電型をp型とした例を示しているが、第1導電型をp型、第2導電型をn型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。本明細書において、p+型(またはn+型)と記載した場合、p型(またはn型)よりもドーピング濃度が高いことを意味する。また、本明細書において、p-型(またはn-型)と記載した場合、p型(またはn型)よりもドーピング濃度が低いことを意味する。
図1は、本発明の一つの実施形態に係る横型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)100の断面図である。窒化ガリウム(GaN)系半導体90のおもて面95および裏面92は、X‐Y平面に平行であってよい。図1は、横型MOSFET100の一部をX‐Z平面で切断した断面である。本例において、X軸方向とY軸方向とは互いに垂直な方向であり、Z軸方向はX‐Y平面に垂直な方向である。X、YおよびZ軸は、いわゆる右手系を成す。
本例の横型MOSFET100は、GaN系半導体装置の一例である。図1に示す構造は、横型MOSFET100の単位構造であってよい。当該単位構造は、Y軸方向に延在し、かつ、X軸方向に繰り返し設けられてよい。複数の単位構造は、X‐Y平面視において略矩形形状を構成するように配置されてよい。複数の単位構造が設けられた領域を活性領域と称する場合もある。
本例において、GaN系半導体90を構成する基板および層の各々は、GaN半導体である。当該基板および当該層の各々は、アルミニウム(Al)元素およびインジウム(In)元素の一以上の元素をさらに含んでもよい。GaN系半導体90を構成する基板および層の各々は、Al元素およびIn元素を微量に含んだ混晶半導体、即ちAlxInyGa1-x-yN(0≦x<1、0≦y<1)であってもよい。本例におけるGaN系半導体90を構成する基板および層の各々は、AlxInyGa1-x-yNにおいてx=y=0としたGaN半導体である。
本例のGaN系半導体90は、GaN基板10と、n型GaN層20とを含む。GaN基板10は、いわゆるc面GaN基板であってよい。GaN基板10のc軸方向は、Z軸方向と平行であってよい。また、GaN基板10は、貫通転位密度が1E+7cm-2未満の低転位自立基板であってよい。なお、Eは10の冪を意味し、例えば1E+7は107を意味する。本例のGaN基板10は、n+型の基板である。本例では、GaN基板10の下面をGaN系半導体90の裏面92と称する。
n型GaN層20は、GaN基板10上にエピタキシャル形成されてよい。n型GaN層20は、第1導電型の窒化ガリウム系半導体層の一例である。本例のn型GaN層20は、n型不純物として2E+16cm-3のSi元素を含む。
p型GaN層30は、n型GaN層20にイオン注入することにより形成される。p型GaN層30は、第2導電型のイオン注入領域の一例である。本例のp型GaN層30は、p型不純物として1E+18cm-3のMgを含む。
n型GaN層20は、n型GaN層23およびp型GaN層30を含む。本例においては、n型GaN層20の全面に第2導電型のイオンがイオン注入される。このため、p型GaN層30がおもて面95に露出している。n型GaN層23は、n型GaN層20のうちp型GaN層30を形成後に残存した領域であってよい。
本例においては、p型GaN層30の上面をGaN系半導体90のおもて面95と称する。p型GaN層30は、n型GaN層20の内部に、おもて面95から予め定められた深さまで設けられてよい。p型GaN層30は、n型GaN層20の底部よりも浅い深さ位置まで設けられてよい。本例のn型GaN層20およびp型GaN層30は、それぞれ4000nmおよび800nmの厚さを有する。即ち、本例のp型GaN層30は、4000nmの厚さを有するn型GaN層20に、p型不純物をイオン注入することにより形成される。p型GaN層30は、このイオン注入によりアクセプタ濃度>ドナー濃度となる領域である。この領域の深さが、おもて面95から800nmの厚さとなる。
GaN半導体に対するp型不純物は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Be(ベリリウム)およびZn(亜鉛)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、p型不純物としてMg元素を用いる。また、GaN半導体に対するn型不純物は、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、およびO(酸素)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、n型不純物としてSi元素を用いる。
本例の横型MOSFET100において、p型GaN層30の内部には、X軸方向において互いに離間する一対のn+型GaN領域32が設けられる。本例において、n+型GaN領域32の上面は、おもて面95に露出する。n+型GaN領域32は、p型GaN層30の底部よりも浅い所定の深さ位置まで設けられてよい。本例のn+型GaN領域32は、おもて面95から100nmの深さ位置まで設けられる。
X軸方向において、一対のn+型GaN領域32の間には、それぞれのn+型GaN領域32に隣接してチャネル形成領域34が設けられる。チャネル形成領域34は、p型GaN層30において、おもて面95に隣接し、且つ、一対のn+型GaN領域32の間に設けられる領域である。チャネル形成領域34は、横型MOSFET100の動作時において、一方のn+型GaN領域32から他方のn+型GaN領域32にキャリアが移動する場合に、当該キャリアの通路となる領域である。
長さLchは、チャネル形成領域34のX軸方向における長さである。本例において、長さLchは100μmである。
本例の横型MOSFET100において、p型GaN層30の上方には、上面視でp型GaN層30の少なくとも一部と重なってゲート絶縁層44が設けられる。ゲート絶縁層44は、一対のn+型GaN領域32の間に位置するチャネル形成領域34の上部と、チャネル形成領域34に隣接するn+型GaN領域32の少なくとも一部の上部とに設けられる。ゲート絶縁層44は、絶縁層の一例である。ゲート絶縁層44は、一例として酸化シリコン(SiO2)である。
また、p型GaN層30の上方には、p型GaN層30とゲート絶縁層44に挟まれて、ガリウムの酸化物を含む遷移層42が設けられる。遷移層42は、p型GaN層30とゲート絶縁層44とに共に接して設けられる。遷移層42は、上面視において、p型GaN層30の少なくとも一部と重なって設けられる。遷移層42は、p型GaN層30上へのゲート絶縁層44の形成に伴って、p型GaN層30の上面に生成されるガリウムの酸化物であってよい。
本例の横型MOSFET100において、ゲート絶縁層44の上方にはゲート電極40が設けられる。ゲート電極40、ゲート絶縁層44、遷移層42およびp型GaN層30は、MOS(Metal Oxide Semiconductor)構造を構成してよい。
本例の横型MOSFET100において、X軸方向におけるゲート電極40の一方側および他方側には、それぞれソース電極46およびドレイン電極48が設けられる。ソース電極46は、一方のn+型GaN領域32に接して設けられてよい。ドレイン電極48は、他方のn+型GaN領域32に接して設けられてよい。ソース電極46は、ゲート絶縁層44の一方側および遷移層42の一方側において、ゲート絶縁層44および遷移層42に接して設けられてよい。ドレイン電極48は、ゲート絶縁層44の他方側および遷移層42の他方側において、ゲート絶縁層44および遷移層42に接して設けられてよい。
本例の横型MOSFET100において、p型GaN層30と遷移層42との界面は、おもて面95である。本例の横型MOSFET100において、p型GaN層30と遷移層42との界面におけるp型GaN層30のおもて面95の表面粗さRrmsは、0.6nm以下である。表面粗さRrmsは、より好ましくは0.4nm以下である。表面粗さRrmsは、さらに好ましくは0.2nm以下である。
表面粗さRrmsとは、AFM(Atomic Force Microscope)により測定した、被測定表面の凹凸形状分布の二乗平均平方根(root mean square)である。Rrmsは、被測定表面の粗さの指標である。Rrmsが大きいほど表面粗さは大きく、小さいほど表面粗さは小さい。
図2は、図1におけるp型不純物(本例においてはMg(マグネシウム))の注入プロファイルの一例を示す図である。横軸は、おもて面95からの深さである。横軸において、深さ0nmの位置が、おもて面95の深さ方向(Z軸方向)における位置である。縦軸は、注入されたMg(マグネシウム)の濃度である。
図2に示す通り、本例のp型不純物であるMg(マグネシウム)は、n型GaN層20に、おもて面95から500nmの深さまで、Mg(マグネシウム)濃度が1E+18cm-3にて注入されている。Mg(マグネシウム)の濃度は、おもて面95から500nmの深さから、100nm以上の深さにわたって減少していてよい。Mg(マグネシウム)の濃度は、おもて面95から500nmの深さから、200nm以上の深さにわたって減少していてもよい。本例においては、Mg(マグネシウム)の濃度は、おもて面95から500nmの深さから800nmの深さまで、300nmの深さにわたって減少している。
本例の横型MOSFETにおいて、おもて面95から500nmの深さまでのp型不純物(本例においてはMg(マグネシウム))の濃度は、おもて面95から500nm以上の深さにおけるp型不純物濃度よりも高い。本例において、おもて面95から500nmの深さまでのp型不純物濃度は、1E+18cm-3である。本例において、p型不純物濃度が1E+18cm-3からZ軸負方向にゼロまで減少する領域(本例においては、おもて面95から500nmの深さから900nmの深さまでの領域)においては、当該p型不純物以外の不純物(例えば、n型GaN層23の不純物等)の濃度は、ピークを有さない。
図3は、p型GaN層30のおもて面95のAFM像である。図3は、n型GaN層20の上面の全面にMg(マグネシウム)をイオン注入した後、n型GaN層20の上面に窒化アルミニウム(AlN)の保護膜を原子層堆積法(Atomic Layer Deposition。以下「ALD」と略記する。)により形成し、アニールした場合におけるAFM像である。本例においては、当該アニールを1300℃で5分間アニール実施してMg(マグネシウム)を活性化処理し、当該保護膜を除去してAFM像を観測している。
図4は、p型GaN層30のおもて面95のAFM像である。図4は、n型GaN層20の上面の全面にMg(マグネシウム)をイオン注入した後、n型GaN層20の上面に窒化アルミニウム(AlN)の保護膜をスパッタリング法(Sputtering。以下「SPT」と略記する。)により形成し、アニールした場合におけるAFM像である。本例においては、図3の場合と同様に、当該アニールを1300℃で5分間アニール実施してMg(マグネシウム)を活性化処理し、当該保護膜を除去してAFM像を観測している。
図3および図4より、ALD法により保護膜を形成した場合のおもて面95は、SPT法により保護膜を形成した場合のおもて面95よりも、表面荒れが抑制されていることが分かる。図3におけるおもて面95の表面粗さRrmsは、0.25nmであった。図4におけるおもて面95の表面粗さRrmsは、0.66nmであった。後述するように、本願の発明者は、おもて面95の表面粗さRrmsを0.6nm以下に抑制するとともに、ゲート絶縁層44の成膜を所定条件下で実施することにより、MOSチャネルの伝達特性および電界効果移動度を改善できることを見出した。
図5は、p型GaN層30、遷移層42およびゲート絶縁層44に含まれる各元素の、p型GaN層30、遷移層42およびゲート絶縁層44にわたるZ軸方向の分布を示す模式図である。本例は、ゲート絶縁層44がSiO2(酸化シリコン)であり、遷移層42がGa(ガリウム)の酸化物である場合における、シリコン(Si)、酸素(O)、ガリウム(Ga)および窒素(N)の各元素の分布である。横軸は、X軸方向における一対のn+型GaN領域32の間において、ゲート絶縁層44からp型GaN層30に至るZ軸方向の距離である。縦軸は、原子組成である。原子組成は、EDX(Energy dispersive X-ray spectrometry)測定において元素/原子のエネルギー強度を反映して得られる値を用いることができる。
ゲート絶縁層44においては、図5に示す通り、遷移層42から+Z軸方向に離れるほどシリコン(Si)および酸素(O)の組成が増加し、ガリウム(Ga)と窒素(N)の組成が減少する。ゲート絶縁層44における各元素の組成は、遷移層42から+Z軸方向に所定距離離れると飽和する。図3においては、シリコン(Si)および酸素(O)の組成を、ゲート絶縁層44においてシリコン(Si)および酸素(O)の組成がそれぞれ飽和する位置における原子組成で規格化して示している。
p型GaN層30においては、遷移層42から-Z軸方向に離れるほどガリウム(Ga)と窒素(N)の組成が増加し、シリコン(Si)および酸素(O)の組成が減少する。p型GaN層30における各元素の組成は、遷移層42から-Z軸方向に所定距離離れると飽和する。図3においては、ガリウム(Ga)と窒素(N)の組成は、p型GaN層30においてガリウム(Ga)と窒素(N)の組成がそれぞれ飽和する位置における原子組成で規格化して示している。
ゲート絶縁層44において、シリコン(Si)の組成が飽和する原子組成の1/2の原子組成となる深さ位置を、位置Xmとする。また、p型GaN層30において、窒素(N)の組成が飽和する原子組成の1/2の原子組成となる深さ位置を、位置Xnとする。遷移層42の厚さWtは、位置Xmと位置Xnとの間のZ軸方向における幅(距離)であってよい。
本例において、厚さWtは1.0nm以下である。厚さWtは、より好ましくは0.5nm以下である。後述するように、本願の発明者は、おもて面95の表面粗さを抑制するとともに、ゲート絶縁層44の成膜を所定条件下で実施し、遷移層42の厚さWtを1.0nm以下とすることにより、MOSチャネルの伝達特性および電界効果移動度を改善できることを見出した。
表1は、MOSチャネルの伝達特性および電界効果移動度の実験に用いた4つのサンプルについて、Mg(マグネシウム)の活性化処理前にn型GaN層20の上面に形成する保護膜の形成条件、および、ゲート絶縁層44の成膜条件をまとめて示している。表1に示す通り、2種類の保護膜形成条件のそれぞれについて、ゲート絶縁層44の2種類の成膜条件をそれぞれ実施し、合計4つのサンプルを作成した。
[サンプルNo.1]
サンプルNo.1は、n型GaN層20の上面に窒化アルミニウム(AlN)の保護膜をSPTにより形成し、1300℃で5分間アニールしてMg(マグネシウム)を活性化処理したサンプルである。サンプルNo.1は、さらに当該保護膜を除去した後、O2(酸素)を導入して放電し、その後にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)をさらに導入して、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により100nm厚のゲート絶縁層44を形成したサンプルである。ゲート絶縁層44の当該成膜条件を、条件1とする。
[サンプルNo.2]
サンプルNo.2は、n型GaN層20の上面に窒化アルミニウム(AlN)の保護膜をALDにより形成し、1300℃で5分間アニールしてMg(マグネシウム)を活性化処理したサンプルである。サンプルNo.2は、さらに当該保護膜を除去した後、上記条件1によりゲート絶縁層44を形成したサンプルである。
[サンプルNo.3]
サンプルNo.3は、n型GaN層20の上面に窒化アルミニウム(AlN)の保護膜をSPTにより形成し、1300℃で5分間アニールしてMg(マグネシウム)を活性化処理したサンプルである。サンプルNo.3は、さらに当該保護膜を除去した後、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)およびO2(酸素)を導入して20秒放置後に、プラズマCVD法により100nm厚のゲート絶縁層44を形成したサンプルである。ゲート絶縁層44の当該成膜条件を、条件2とする。
[サンプルNo.4]
サンプルNo.4は、n型GaN層20の上面に窒化アルミニウム(AlN)の保護膜をALDにより形成し、1300℃で5分間アニールしてMg(マグネシウム)を活性化処理したサンプルである。サンプルNo.4は、さらに当該保護膜を除去した後、上記条件2によりゲート絶縁層44を形成したサンプルである。
図6は、サンプルNo.1、サンプルNo.2およびサンプルNo.3の断面を、高解像度の透過電子顕微鏡で観察したSTEM-HAADF(Scanning Transmission Electron Microscope-High Angle Annular Dark Field)像である。図6においては、p型GaN層30、遷移層42およびゲート絶縁層44にわたるZ軸方向の断面を示している。
図7は、サンプルNo.4の断面を、高解像度の透過電子顕微鏡で観察したSTEM-HAADF像である。図7においては、p型GaN層30、遷移層42およびゲート絶縁層44にわたるZ軸方向の断面を示している。
サンプルNo.1からNo.4においては、透過電子顕微鏡法により観察した像としてHAADF像を用いた。本明細書においては、このHAADF像をSTEM‐HAADF像または透過電子顕微鏡像と表現する場合がある。なお、本明細書において、透過電子顕微鏡法とSTEM‐HAADFとは等価な表現である。各断面はa面(即ち、(11-20)面)を示し、各断面の上下方向はc軸方向(即ち、<0001>方向)を示す。
STEM‐HAADF像では、相対的に重い原子が明るく表示され、相対的に軽い原子が暗く表示される傾向にある。図6および図7においては、規則的に並んだ白丸のドットがGaである。図6および図7より、p型GaN層30は結晶相であることが分かる。図6および図7より、ゲート絶縁層44(本例においてはSiO2層)においては結晶構造が観測されていない。即ち、ゲート絶縁層44はアモルファス相であることが分かる。
遷移層42は、STEM‐HAADF像におけるp型GaN層30およびゲート絶縁層44の両方と共に異なる明暗のコントラストを示す層である。図6および図7において、当該コントラストは白黒により表示されている。
サンプルNo.1~サンプルNo.3、およびサンプルNo.4においては、遷移層42においてp型GaN層30よりも乱れたGa原子の配列が観察できる。遷移層42の厚さWtは、図5の説明において述べた定義にしたがって決定できる。本例においては、遷移層42とp型GaN層30との境界は、規則正しいGa原子の配列の深さ位置として定めてもよい。また、遷移層42とゲート絶縁層44(SiO2層)との境界は、Ga原子の有無から定めてもよい。サンプルNo.1~サンプルNo.3における遷移層42の厚さWtは、1.1nmであった。サンプルNo.4における遷移層42の厚さWtは、0.2nmであった。
表2は、AFMにより測定したサンプルNo.1~サンプルNo.4のおもて面95の表面粗さRrms、および、HAADF像により測定した遷移層42の厚さWtをまとめて示している。
図8は、サンプルNo.1~サンプルNo.4のMOSチャネルの伝達特性の評価結果を示す図である。本例のサンプルNo.1~サンプルNo.4のチャネル長Lchは、100μmである。伝達特性の評価においては、ドレイン電圧Vd=0.5Vの条件で、ゲート電圧Vgを-10Vから30Vまで増加させた後、30Vから-10Vまで減少させた場合におけるドレイン電流Idの変化を測定した。
図8から分かるとおり、サンプルNo.4の伝達特性は、サンプルNo.1~サンプルNo.3の伝達特性と比較して顕著に改善している。サンプルNo.4のドレイン電流Idは、サンプルNo.1~サンプルNo.3のドレイン電流と比較して、同じゲート電圧Vgに対して顕著に高い値を示している。ゲート電圧Vg=20Vの場合を例に取ると、サンプルNo.1~サンプルNo.3のドレイン電流Idは約40~80μA/mmであるのに対し、サンプルNo.4のドレイン電流Idは約300μA/mmである。即ち、サンプルNo.4のドレイン電流Idは、サンプルNo.1~サンプルNo.3のドレイン電流Idの約4~7倍の値を示している。
表2から分かるとおり、サンプルNo.2の保護膜の形成条件は、サンプルNo.4の保護膜の形成条件と等しい。また、サンプルNo.3のゲート絶縁層44の形成条件は、サンプルNo.4のゲート絶縁層44の形成条件と等しい。しかしながら、サンプルNo.4のドレイン電流Idは、サンプルNo.2のドレイン電流IdとサンプルNo.3のドレイン電流Idとの和よりも顕著に高くなっている。
図9は、サンプルNo.1~サンプルNo.4のMOSチャネルの電界効果移動度の評価結果を示す図である。電界効果移動度の評価においては、ドレイン電圧Vd=0.5Vの条件で、ゲート電圧Vgを-10Vから30Vまで増加させた場合における電界効果移動度の変化を測定した。
図9から分かるとおり、サンプルNo.4の電界効果移動度は、サンプルNo.1~サンプルNo.3の電界効果移動度と比較して顕著に改善している。サンプルNo.1~サンプルNo.3の電界効果移動度の極大値は、約35~45cm2/Vsであるのに対し、サンプルNo.4の電界効果移動度の極大値は、約110cm2/Vsである。即ち、サンプルNo.4の電界効果移動度は、サンプルNo.1~サンプルNo.3の電界効果移動度の約2.4倍~約3.1倍の値を示している。
表2から分かるとおり、サンプルNo.2の保護膜の形成条件は、サンプルNo.4の保護膜の形成条件と等しい。また、サンプルNo.3のゲート絶縁層44の形成条件は、サンプルNo.4のゲート絶縁層44の形成条件と等しい。しかしながら、サンプルNo.4の電界効果移動度は、サンプルNo.2の電界効果移動度とサンプルNo.3の電界効果移動度との和よりも顕著に高くなっている。
表1、並びに図8および図9より、MOSチャネルの伝達特性および電界効果移動度は、遷移層42の厚さWtを小さくすることにより、改善できることが分かる。遷移層42の厚さWtが0.2nmのサンプルNo.4は、厚さWtが1.1nmのサンプルNo.1~サンプルNo.3と比較して、MOSチャネルの伝達特性および電界効果移動度が顕著に改善している。このことから、遷移層42の厚さWtを1.0nm以下とすることにより、MOSチャネルの伝達特性および電界効果移動度を改善できる。
サンプルNo.1とサンプルNo.2、または、サンプルNo.3とサンプルNo.4を比較すると、窒化アルミニウム(AlN)保護膜の形成をALDにて実施することにより、おもて面95の表面粗さRrmsを改善できることが分かる。しかしながら、サンプルNo.2とサンプルNo.4を比較すると、おもて面95の表面粗さRrmsが改善されていても、ゲート絶縁層44の成膜条件を条件1で実施すると、遷移層42の厚さWtを改善できないことが分かる。
また、サンプルNo.3とサンプルNo.4を比較すると、おもて面95の表面粗さRrmsが改善されていないと、ゲート絶縁層44の成膜条件を条件2で実施しても、遷移層42の厚さWtを改善できないことが分かる。サンプルNo.3は、保護膜50をSPTにより形成してMg(マグネシウム)を活性化しているので、おもて面95の表面分解が進みやいと考えられる。このため、サンプルNo.3は、n型GaN層20から窒素が抜けていると考えられる。このため、サンプルNo.3のおもて面95は、ガリウムリッチの状態になっていると考えられる。このため、サンプルNo.3のおもて面95には、ゲート絶縁層44の成膜時に酸化ガリウム(GaO)が生成し易いと考えられる。
以上より、本願の発明者は、遷移層42の厚さWtを改善するためには、おもて面95の表面粗さRrmsを改善し、且つ、ゲート絶縁層44の成膜条件を条件2にて実施する必要があることを見出した。サンプルNo.1~サンプルNo.4の評価結果から、おもて面95の表面粗さRrmsが0.6nm以下、且つ、遷移層42の厚さWtが1.0nm以下の場合に、MOSチャネルの伝達特性および電界効果移動度を顕著に改善できる。
表面粗さRrmsは、0.3nm以下であることがさらに好ましい。厚さWtは、0.5nm以下であることがさらに好ましい。
図10は、横型MOSFET100の製造方法を示すフローチャートである。本例においては、S100からS180の順に各段階を実行する。本例においては、上述のサンプルNo.4に対応する横型MOSFET100の製造方法を主として説明する。
図11は、横型MOSFET100の製造方法の各工程を示す図である。図11においては、S100~S130までの4つの段階を示している。S100は、c面GaN基板10上にエピタキシャル形成されたn型GaN層20の全面にp型不純物をイオン注入する段階である。p型不純物は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Be(ベリリウム)およびZn(亜鉛)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、p型不純物としてMg(マグネシウム)を用いる。
S100により、n型GaN層20にp型GaN層30が形成される。p型GaN層30は、イオン注入領域の一例である。なお、図11および後の図12においては、後のアニールにより不純物が活性化される前の各不純物領域の境界を破線にて示している。また、アニールにより不純物が活性化された後の各不純物領域の境界を実線にて示している。
S110は、n型GaN層20のおもて面95上に保護膜50を形成する段階である。S110において、n型GaN層20にMg(マグネシウム)がイオン注入されたGaN基板10をALD装置80の反応チャンバ内に載置する。その後、おもて面95の全面に保護膜50をALDにより形成する。
保護膜50は、窒化物であってよい。保護膜50は、窒化アルミニウム(AlN)または窒化シリコン(Si3N4)であってよい。窒化アルミニウム(AlN)のAl原子とN原子の組成は、完全に1:1でなくてもよい。窒化シリコン(Si3N4)のSi原子とN原子の組成は、完全に3:4でなくてもよい。本例においては、保護膜50として窒化アルミニウム(AlN)を用いる。また、保護膜50は、ALDにより成膜された膜と、ALDとは別の成膜方法により成膜された膜との積層膜であってもよい。
S120は、n型GaN層20に注入されたp型不純物をアニールしてp型GaN層30を活性化する段階である。S120において、おもて面95に保護膜50が形成されたGaN基板10をアニール装置85内に載置する。その後、当該GaN基板10を1300℃で5分間アニールする。当該アニールにより、p型不純物(本例においてはMg(マグネシウム))を活性化する。
S120において、アニール温度は1200℃以上1500℃以下、好ましくは1250℃以上1400℃以下であってよい。アニール時間は、30秒以上15分以下であってよい。また、アニール温度が最高温度に到達する前に、当該最高温度よりも低い温度で、アニール温度を一定に保持する時間を設けてもよい。また、段階S120は、アニール温度が最高温度に到達するまでの昇温速度が異なる、複数の段階を有してもよい。本例では、アニール温度は1250℃以上1350℃以下とし、且つ、アニール時間を3分以上7分以下とすることで、おもて面95の表面粗さRrmsを0.6nm以下にできる。
S130は、おもて面95上に形成された保護膜50を除去する段階である。本例においては、保護膜50をp型GaN層30に対して選択的にエッチングして除去する。保護膜50を除去することにより、おもて面95にp型GaN層30が露出する。
図12は、横型MOSFET100の製造方法の各工程を示す図である。図12においては、図11の各工程に続くS140~S180までの5つの段階を示している。S140は、おもて面95にレジストマスク60を形成し、p型GaN層30におもて面95からn型不純物を注入する段階である。n型不純物は、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、およびO(酸素)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、n型不純物としてSi(シリコン)を用いる。
S140においては、後のS150においてn+型GaN領域32となる領域に開口を有するレジストマスク60を、おもて面95に配置する。その後、レジストマスク60を介して、p型GaN層30にドーズ量6E+15[cm-2]で、おもて面95から深さ約100nmの範囲にSi(シリコン)イオンを注入し、n+型GaN領域32を形成する。Si(シリコン)イオンのドーズ量は、5E+15[cm-2]以上7E+15[cm-2]以下であってよい。その後、レジストマスク60を除去する。
S150は、p型GaN層30に注入されたn+型GaN領域32をアニールして活性化させる段階である。S150において、n+型GaN領域32が形成されたGaN基板10をアニール装置85内に載置する。その後、当該GaN基板10を1100℃で5分間アニールする。当該アニールにより、n型不純物(本例においてはSi(シリコン))を活性化する。
S150において、アニール温度は1050℃以上1150℃以下であってよい。アニール時間は、3分以上7分以下であってよい。
なお、本例では、p型GaN層30の形成とn+型GaN領域32の形成とを別々の工程で行ったが、別の実施の方法においては、S100でのp型不純物の注入の後にS140でのn型不純物の注入を行い、その後にS110とS120とによる活性化処理を同時に行ってもよい。
S160は、p型GaN層30のおもて面95に遷移層42およびゲート絶縁層44を形成する段階である。S160において、n+型GaN領域32が形成されたGaN基板10を成膜装置87のチャンバ内に載置する。その後、おもて面95の全面にゲート絶縁層44を形成する。
S160においては、成膜装置87のチャンバ内にSiまたはAlを含む原料ガスと酸素を含むプラズマあるいは水を導入して、プラズマCVD法または原子層堆積法(ALD)によりゲート絶縁層44を形成してよい。本例においては、成膜装置87のチャンバ内にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)および酸素ガスを導入して20秒間放置した後、プラズマCVD法によりSiO2を成膜しゲート絶縁層44を形成する。このゲート絶縁層44の形成に伴って、p型GaN層30の上面にGa(ガリウム)の酸化物である遷移層42が形成される。
本例においては、成膜装置87のチャンバ内にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)および酸素ガスを共に導入した状態で20秒間放置した後、プラズマCVD法によりゲート絶縁層44を形成しているので、遷移層42の厚さWt(図5参照)を1.0nm以下にできる。成膜装置87のチャンバ内にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)および酸素ガスを共に導入した状態で放置する時間は、15秒以上25秒以下であってよい。
S170は、遷移層42およびゲート絶縁層44の積層を部分的に削除する段階である。S170においては、ソース電極46、ドレイン電極48およびボディ電極52に対応する領域に開口を有するレジストマスクを用いて、遷移層42およびゲート絶縁層44をエッチングにより部分的に除去する。
S180は、ゲート電極40、ソース電極46、ドレイン電極48およびボディ電極52を形成する段階である。本例においては、200nmの厚さを有するAl電極を蒸着する、次いで、適宜エッチングすることにより各電極を形成する。なお、ボディ電極52は形成しなくてもよい。S180により、サンプルNo.4が完成する。
図13は、本発明の他の実施形態に係る縦型MOSFET200の断面図である。本例のGaN系半導体90は、GaN基板10と、n型GaN層20とを含む。GaN基板10のc軸方向は、Z軸方向と平行であってよい。また、GaN基板10は、貫通転位密度が1E+7cm-2未満の低転位自立基板であってよい。本例のGaN基板10は、n+型の基板である。
n型GaN層20は、n型GaN領域22、p型GaN領域36、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28を含む。本例においては、おもて面95の少なくとも一部に、n型GaN層20に不純物が注入された領域が露出している。本例において、不純物が注入された領域とは、おもて面から所定の深さまで形成されたp型GaN領域36、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28である。
n型GaN領域22は、縦型MOSFET200のドリフト層として機能する。p型GaN領域36において、遷移層42の直下であってn型GaN領域22とn+型GaN領域32との間における部分は、チャネル形成領域34として機能する。n+型GaN領域32は、ソース領域として機能する。n+型GaN領域32は、電子の通過経路を提供する機能を有する。p+型GaN領域28は、ソース電極46との接触抵抗を低減する機能、および、オフ時の正孔引き抜き経路を提供する機能を有する。
本例の縦型MOSFETにおいては、X軸方向またはY軸方向におけるn型GaN領域22とp型GaN領域36のいずれの境界領域においても、当該p型不純物以外の不純物(例えば、n型GaN層22の不純物等)の濃度は、ピークを有さない。
遷移層42は、少なくともp型GaN領域36およびn型GaN領域22の上部に接して設けられる。遷移層42上にはゲート絶縁層44が設けられる。ゲート電極40は、ゲート絶縁層44上に設けられる。ソース電極46は、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28に電気的に接続して設けられる。また、ドレイン電極48は、GaN基板10の裏面92に接して設けられる。
ドレイン電極48が所定の高電位とされ、且つ、ソース電極46が接地された場合に、ゲート電極40に閾値電圧以上の電位が与えられると、チャネル形成領域34に電荷反転層が形成される。当該電荷反転層が形成されると、ドレイン電極48からソース電極46へ電流が流れる。また、ゲート電極40に閾値電圧よりも低い電位が与えられると、チャネル形成領域34における電荷反転層が消滅する。当該電荷反転層が消滅すると、ドレイン電極48からソース電極46への電流が遮断される。
本例の縦型MOSFET200においては、ドレイン電極48からソース電極46へ流れる電流はZ軸方向に流れる。図1の横型MOSFET100においては、ドレイン電極48からソース電極46へ流れる電流はX軸方向に流れる。
図14は、縦型MOSFET200の製造方法の各工程を示す図である。S200は、c面GaN基板10上にエピタキシャル形成されたn型GaN層20にn型不純物およびp型不純物をイオン注入する段階である。
n型不純物は、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、およびO(酸素)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、n型不純物としてSi(シリコン)を用いる。p型不純物は、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Be(ベリリウム)およびZn(亜鉛)の一種類以上の元素であってよい。本例においては、p型不純物としてMg(マグネシウム)を用いる。
S200においては、n型GaN層20にn型不純物およびp型不純物をイオン注入してp型GaN領域36、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28を形成する。S200においては、p型GaN領域36をおもて面95から所定の深さまで形成した後、p+型GaN領域28をおもて面95から所定の深さまで形成する。本実施例では、p型GaN領域36よりも、おもて面95から浅い位置まで形成した構造を図示しているが、別の例では、p型GaN領域36よりも深い位置までp+GaN領域28を形成してもよい。その後、n+型GaN領域32をp型GaN領域36よりも、おもて面95から浅い位置まで形成する。なお、図14においては、後のアニールにより不純物が活性化される前の各不純物領域の境界を破線にて示している。また、アニールにより不純物が活性化された後の各不純物領域の境界を実線にて示している。
n型GaN領域22は、n型GaN層20のうちp型GaN領域36、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28を形成後に残存した領域であってよい。p型GaN領域36およびp+型GaN領域28は、イオン注入領域の一例である。
S210は、n型GaN層20のおもて面95上に保護膜50を形成する段階である。S210において、n型GaN層20にMg(マグネシウム)がイオン注入されたGaN基板10をALD装置80の反応チャンバ内に載置する。その後、おもて面95の全面に保護膜50をALDにより形成する。
保護膜50は、窒化物であってよい。保護膜50は、窒化アルミニウム(AlN)または窒化シリコン(Si3N4)であってよい。窒化アルミニウム(AlN)のAl原子とN原子の組成は、完全に1:1でなくてもよい。窒化シリコン(Si3N4)のSi原子とN原子の組成は、完全に3:4でなくてもよい。本例においては、保護膜50として窒化アルミニウム(AlN)を用いる。また、保護膜50は、ALDにより成膜された膜と、ALDとは別の成膜方法により成膜された膜との積層膜であってもよい。
S220は、n型GaN層20に注入されたn型不純物およびp型不純物をアニールして、p型GaN領域36、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28を活性化する段階である。S220において、おもて面95に保護膜50が形成されたGaN基板10をアニール装置85内に載置する。その後、当該GaN基板10を1300℃で5分間アニールする。当該アニールにより、n型不純物(本例においてはSi(シリコン))およびp型不純物(本例においてはMg(マグネシウム))を活性化する。
S220において、アニール温度は1200℃以上1500℃以下、好ましくは1250℃以上1400℃以下であってよい。アニール時間は、30秒以上15分以下であってよい。また、アニール温度が最高温度に到達する前に、当該最高温度よりも低い温度で、アニール温度を一定に保持する時間を設けてもよい。また、段階S220は、アニール温度が最高温度に到達するまでの昇温速度が異なる、複数の段階を有してもよい。本例では、アニール温度は1250℃以上1350℃以下とし、且つ、アニール時間を3分以上7分以下とすることで、おもて面95の表面粗さRrmsを0.6nm以下にできる。
S230は、おもて面95上に形成された保護膜50を除去する段階である。本例においては、保護膜50をn型GaN層20に対して選択的にエッチングして除去する。保護膜50を除去することにより、おもて面95にn型GaN領域22、p型GaN領域36、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28が露出する。
S240は、おもて面95に遷移層42およびゲート絶縁層44を形成する段階である。S240において、n型GaN領域22、p型GaN領域36、n+型GaN領域32およびp+型GaN領域28が形成されたGaN基板10を成膜装置87のチャンバ内に載置する。その後、おもて面95の全面にゲート絶縁層44を形成する。
S240においては、成膜装置87のチャンバ内にSiまたはAlを含む原料ガスと酸素を含むプラズマあるいは水を導入して、プラズマCVD法または原子層堆積法(ALD)によりゲート絶縁層44を形成してよい。本例においては、成膜装置87のチャンバ内にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)および酸素ガスを導入して20秒間放置した後、プラズマCVD法によりSiO2を成膜しゲート絶縁層44を形成する。このゲート絶縁層44の形成に伴って、おもて面95にGa(ガリウム)の酸化物である遷移層42が形成される。
本例においては、成膜装置87のチャンバ内にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)および酸素ガスを共に導入した状態で20秒間放置した後、プラズマCVD法によりゲート絶縁層44を形成しているので、遷移層42の厚さWt(図5参照)を1.0nm以下にできる。成膜装置87のチャンバ内にオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)および酸素ガスを共に導入した状態で放置する時間は、15秒以上25秒以下であってよい。
S250は、ゲート電極40、ソース電極46およびドレイン電極48を形成する段階である。本例においては、ゲート電極40は多結晶シリコンで形成されてよい。ソース電極46の形成においては、ソース電極46に対応する領域に開口を有するレジストマスクを用いて、遷移層42およびゲート絶縁層44をエッチングにより部分的に除去する。その後、おもて面95と直接接する下層のTi(チタン)層と上層のAl層とを有する積層体を形成してよい。ドレイン電極48は、GaN基板10の裏面92と直接接する上層のTi層と下層のAl層とを有する積層体であってよい。これにより、縦型MOSFET200が完成する。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
[項目1]
第1導電型の窒化ガリウム系半導体層と、
前記窒化ガリウム系半導体層の内部に、前記窒化ガリウム系半導体層の上面から予め定められた深さまで設けられた第2導電型のイオン注入領域と、
上面視において、前記イオン注入領域の少なくとも一部と重なって設けられ、前記イオン注入領域の上方に設けられた絶縁層と、
上面視において、前記イオン注入領域の少なくとも一部と重なって設けられ、前記窒化ガリウム系半導体層の深さ方向に前記イオン注入領域と前記絶縁層とに挟まれて設けられ、前記イオン注入領域と前記絶縁層とに共に接し、ガリウムの酸化物を含む遷移層と、
を備え、
前記イオン注入領域と前記遷移層との界面における前記イオン注入領域の表面粗さが0.6nm以下であり、
前記遷移層の厚さが1.0nm以下である、
窒化ガリウム系半導体装置。
[項目2]
前記表面粗さが0.3nm以下である、項目1に記載の窒化ガリウム系半導体装置。
[項目3]
前記遷移層の厚さが0.5nm以下である、項目1または2に記載の窒化ガリウム系半導体装置。
[項目4]
第1導電型の窒化ガリウム系半導体層における予め定められた領域に、第2導電型の不純物をイオン注入してイオン注入領域を形成する段階と、
少なくとも前記予め定められた領域上に、原子層堆積法(ALD)により保護膜を形成する段階と、
前記窒化ガリウム系半導体層と前記保護膜とをアニールし、前記イオン注入領域を活性化する段階と、
前記保護膜を除去する段階と、
前記保護膜を除去した前記イオン注入領域上に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)またはモノシランおよび酸素ガスまたは水を導入して、プラズマCVD法または原子層堆積法(ALD)により絶縁層を形成する段階と、
を備える、窒化ガリウム系半導体装置の製造方法。
[項目5]
前記アニールを1300℃で5分間実施する、項目4に記載の窒化ガリウム系半導体装置の製造方法。