JP7044535B2 - 杭工法用水硬性組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、既製コンクリート杭の埋め込み工法、場所打ち杭工法及びモルタル柱列工法等に使用される、杭工法用水硬性組成物及び該組成物を用いた硬化組成物並びに杭の埋込み工法に関する。
構造物建設の基礎工事等における代表的な既製コンクリート杭の埋め込み工法では、地盤を支持層まで掘削攪拌ロッドを用いて掘削した後、掘削孔に根固め液を注入し、次に所定の水硬性スラリー(以下、杭周固定液という)を注入しながら掘削攪拌ロッドをゆっくりと引き上げる。そして、その後杭周固定液で満たされた孔中に、既製コンクリートパイルを沈設する。しかしながら、掘削する地盤が砂層、れき層もしくは砂れき層等の透水性の高い地質(透水性地盤)に施工する場合、上述の杭周固定液が地盤に吸い込まれてしまい(以下、逸水という)、施工が困難となるケースがある。また、上述のコンクリート杭の埋め込み工法、場所打ち杭工法及びモルタル柱列工法では、地盤中において地下水の湧出や潮の干満がある場合、孔中に満たした杭周固定液及び場所打ちしたコンクリートのモルタル部分が希釈・流失され、痩せ細ってしまうといった多くのトラブルが発生している。これに対し、吸水膨張性高分子材料(吸水性ポリマー)を配合したり、カルボキシメチルセルロース等のアニオン性水溶性高分子を添加することで逸水防止や上記課題を解決する試みがなされてきたが、吸水性の制御が困難であったり、水溶性高分子の場合、杭周固定液の水硬性が阻害され硬化するまでに地盤に逸水するなどの問題がある。また、逸水防止や崩壊防止策として新聞紙等の紙とアルカリ水溶液を混合し、更にこれを中和させた材料(特許文献1)も提案されているが、製造する際に均一な懸濁液を短時間で製造することは困難であった。また、無機材料の観点から、セメント粉体に低活性シリカ質粉体を混合し、粉末度(ブレーン値)を1万cm/g以上にした逸水防止用のセメント(特許文献2)が提案されているが、粉砕コストの増大や汎用性に乏しく現実的でないといった課題があった。他にも、濃厚なセメントミルク、あるいはベントナイト等の粘土鉱物を併用した濃厚なセメントミルク、大豆や小豆等を混合する技術もあるがどれも十分な逸水防止効果は得られていない。
一方で、セメントスラリー中に特定のアニオン界面活性剤と特定のカチオン界面活性剤を一定比率で添加することで、紐状ミセルと呼ばれる擬似的な高分子が形成され、高い粘弾性を得られることが知られている(特許文献3)。この擬似的な高分子はアルキル鎖部分での疎水結合や、親水部での特異な相互作用など共有結合以外の分子間相互作用によって構築されているため、一定のせん断力を受けると擬似高分子構造が崩壊し粘弾性が低下するといった特徴を有している(高いチキソトロピー性)。そのため、せん断力のかかる輸送中は擬似高分子構造が崩壊して低粘度化し、せん断力が除かれた打設現場では擬似高分子構造が再生され粘弾性が戻るといった、これまでの有機高分子系増粘剤にはない性能(ポンプ圧送性と粘弾性の両立)を示す。
特許文献3のアニオン界面活性剤とカチオン界面活性剤によって形成される紐状ミセルは、水中において、親水基を外側(水相側)、疎水部を内側(油相側)に向けて配列していると考えられている。紐状ミセルの示す粘弾性は疎水部の炭素数に相関があり、界面活性剤のクラフト点以上の温度では、炭素数が多い程、一定温度・添加量において高い粘弾性を示す。粘弾性は擬似高分子である紐状ミセル同士の絡み合いによって発現するが、紐状ミセル同士が絡んだ際、一定の確率でミセル同士にすり抜けが起こる。この時、疎水部の炭素数が多いほど、疎水部の体積が増加し、紐状ミセル同士のすり抜けが困難となる。その結果、すり抜けの確率が減少し、絡み合いが強化され、系全体の粘弾性が向上するものと推察される。
特開平7-41764号公報 特開平6-24819号公報 特開2003-313536号公報
本発明は、既製コンクリート杭の埋め込み工法、場所打ち杭工法、モルタル柱列工法等に使用される杭周固定液において、逸水防止性能に優れた杭工法用水硬性組成物、及び該組成物を用いた硬化組成物並びに杭の埋込み工法を提供する。
本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が0以上25以下である、硫酸エステル又はその塩(以下、(A)成分という)、(B)脂肪酸部分の炭素数が10以上22以下である、脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)、水硬性粉体、及び水を含有する、杭工法用水硬性組成物に関する。
また本発明は、前記杭工法用水硬性組成物を硬化させてなる場所打ちコンクリート杭に関する。
また本発明は、地盤を、掘削攪拌ロッドを用いて支持層まで掘削した後、掘削孔に根固め液を注入し、次いで前記杭工法用水硬性組成物を注入しながら掘削攪拌ロッドを引き上げた後、前記杭工法用水硬性組成物で満たされた孔中に、既製コンクリートパイルを沈設し、地盤と杭を一体化させる杭の埋込み工法に関する。
以下、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が12以上22以下であり、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が0以上25以下である、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩又はポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸塩を(A)成分、脂肪酸部分の炭素数が10以上22以下である、脂肪酸アルカノールアミドを(B)成分という。
本発明によれば、既製コンクリート杭の埋め込み工法、場所打ち杭工法、モルタル柱列工法等に使用される杭周固定液において、逸水防止性能に優れた杭工法用水硬性組成物、及び該組成物を用いた硬化組成物並びに杭の埋込み工法が提供される。
〔杭工法用水硬性組成物〕
本発明者らは、種々検討を行った結果、(A)成分の特定の硫酸エステル又はその塩と(B)成分の特定の脂肪酸アルカノールアミドとの組み合わせが、低濃度で高い粘弾性を示す紐状ミセルを形成することを見いだした。水中での界面活性剤のミセル構造に影響する因子の一つに、その界面活性剤の充てんパラメータがある。本発明の(A)成分と(B)成分は、それぞれの充てんパラメータが相違し、これらを混合した系中では、暫定的に(A)成分と(B)成分の混合物を考えるとその混合物の平均(分子数での平均)充てんパラメータが、紐状ミセルを形成するのに適した値となっているものと推察される。
本発明の(A)成分と(B)成分を、水硬性組成物に添加すると特定の貯蔵弾性率が付与され、この特定の貯蔵弾性率の範囲の組成物は、地下水等による希釈、流出がなく、また、周辺の地盤への浸透もないため、杭周固定液の痩せや細りや逸水が起こらないと考えられる。
<(A)成分>
本発明の杭工法用水硬性組成物は、(A)成分として、炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が0以上25以下である、硫酸エステル又はその塩を含有する。
炭化水素基は、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルケニル基である。
炭化水素基の炭素数は、高い粘弾性を得る観点から、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、更に好ましくは18以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。
炭化水素基は、例えば、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、オレイル基、ステアリル基及びドコシル基から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはミリスチル基、パルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1以上であり、より好ましくはパルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはオレイル基、ステアリル基、より更に好ましくはオレイル基である。
アルキレンオキサイドの平均付加モル数は0以上25以下である。
アルキレンオキサイドは、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが挙げられる。アルキレンオキサイドはエチレンオキサイドが好ましい。(A)成分は、アルキレンオキサイドとしてエチレンオキサイドを含むことが好ましい。
炭化水素基の炭素数が12以上16以下の場合、環境への負荷が低い観点から、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は0であることが好ましい。
炭化水素基の炭素数が12以上16以下の場合、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は、水への溶解性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、そして、紐状ミセル内における活性剤の配列密度を高める観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下、より更に好ましくは6以下である。
炭化水素基の炭素数が17以上22以下の場合、アルキレンオキサイドの平均付加モル数は、水への溶解性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、そして、紐状ミセル内における活性剤の配列密度を高める観点から、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下、より更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下である。
(A)成分の硫酸エステルの塩として、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等から選ばれる無機塩、モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、モルホリニウム塩等から選ばれる有機アンモニウム塩が好適である。
(A)成分としては、具体的には、アルキルサルフェート、アルケニルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、アルケニルフェニルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルケニルフェニルエーテルサルフェートが挙げられ、高い粘弾性を得る観点から、アルケニルサルフェート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテルサルフェートから選ばれる1種以上が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルサルフェート、及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテルサルフェートから選ばれる1種以上がより好ましい。
(A)成分としては、高い粘弾性を得る観点から、下記一般式(a1)で表される化合物が好適である。
1a-O-(R2aO)-SO (a1)
〔式中、R1aは、炭素数12以上22以下の炭化水素基であり、R2aは、炭素数2以上4以下のアルキレン基、好ましくはエチレン基であり、nは平均付加モル数であり0以上25以下の数である。Mは水素原子又は陽イオン、好ましくは無機又は有機の陽イオンである。〕
一般式(a1)中、R1aは、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルケニル基である。
1aの炭素数は、高い粘弾性を得る観点から、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、更に好ましくは18以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。
一般式(a1)中、高い粘弾性を得る観点から、R1aは、例えば、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、オレイル基、リノール基、ステアリル基及びドコシル基から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはミリスチル基、パルミチル基、リノール基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1以上であり、より好ましくはリノール基、パルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはリノール基、オレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上である。
一般式(a1)中、R1aの炭素数が12以上16以下の場合、nは、環境への負荷が低い観点から、0であることが好ましい。
一般式(a1)中、R1aの炭素数が12以上16以下の場合、nは、水への溶解性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、そして、紐状ミセル内における活性剤の配列密度を高める観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下、より更に好ましくは6以下である。
一般式(a1)中、R1aの炭素数が17以上22以下の場合、nは、水への溶解性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、そして、紐状ミセル内における活性剤の配列密度を高める観点から、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下、より更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下である。
一般式(a1)中、Mは水素原子、あるいはナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の無機陽イオン、モノエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、モルホリニウムイオン等の有機陽イオンが挙げられ、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンの無機陽イオンであり、より好ましくはナトリウムイオン、アンモニウムイオンである。
(A)成分の平均充てんパラメータは、高い粘弾性を得る観点から、1/3以上1以下が好ましい。本発明において、平均充てんパラメータは以下の式で表される。
平均充てんパラメータ= v/ (a0×lc)
v: 炭化水素基の体積
a0 : 界面活性剤の水界面の最適頭部面積
lc: 炭化水素鎖の臨界鎖長
(A)成分のデイビス法で導出されるHLBは、高い粘弾性を得る観点から、10以上40以下が好ましい。
<(B)成分>
本発明の杭工法用水硬性組成物は、(B)成分として、脂肪酸部分の炭素数が10以上22以下である、脂肪酸アルカノールアミドを含有する。
脂肪酸部分の炭化水素基は、脂肪酸アルカノールアミドの原料脂肪酸においてカルボキシル基の炭素原子を含む炭化水素基であり、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルケニル基である。
脂肪酸部分の炭素数は、脂肪酸アルカノールアミドの原料脂肪酸においてカルボキシル基の炭素原子を含む炭素数であり、高い粘弾性を得る観点から、10以上、好ましくは12以上、より好ましくは14以上、更に好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下であり、更に好ましくは18以下、より更に好ましくは18である。
脂肪酸アルカノールアミドとしては、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸メチルモノエタノールアミド、脂肪酸エチルモノエタノールアミド、脂肪酸プロピルモノエタノールアミド、脂肪酸メタノールエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられ、高い粘弾性を得る観点から、脂肪酸ジエタノールアミドが好ましい。
(B)成分は、例えば、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、パーム核脂肪酸ジエタノールアミドのうち脂肪酸部の炭素数が10以上18以下の化合物、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、及びラウリン酸ジエタノールアミド等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。(B)成分は、水への溶解性を維持し、かつ、高い粘弾性を得る観点から、好ましくはオレイン酸ジエタノールアミド、パーム核脂肪酸ジエタノールアミド、及びヤシ脂肪酸ジエタノールアミドから選ばれる1種以上であり、より好ましくはオレイン酸ジエタノールアミド、パーム核脂肪酸ジエタノールアミドから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはオレイン酸ジエタノールアミドである。
(B)成分は、高級脂肪酸とアルカノールアミンを反応させることにより得られるが、脂肪酸アルカノールアミド以外の副産物が同時に生成される。副産物としては、脂肪酸アルカノールアミドと脂肪酸が脱水縮合した脂肪酸アルカノールアミド脂肪酸モノエステル、脂肪酸アルカノールアミド脂肪酸ジエステル、並びにアルカノールアミンと脂肪酸が脱水縮合した脂肪酸アルカノールアミンモノエステル、脂肪酸アルカノールアミンジエステル等が挙げられる。本発明の(B)成分には、本発明の効果を損なわない限り、前記の副産物を微量に含んでも良い。(B)成分中の前記副産物の含有量は、高い粘弾性を得る観点から、(B)成分100質量部中、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
<水硬性粉体>
本発明の杭工法用水硬性組成物に使用される水硬性粉体とは、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントがより好ましい。
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
また、水硬性粉体は、セメント又はセメントとベントナイトとの混合粉末が挙げられる。
<骨材>
本発明の杭工法用水硬性組成物は、骨材を含有することできる。骨材は、細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
<(C)成分>
本発明の杭工法用水硬性組成物には、本発明の効果に影響ない範囲で、水硬性組成物用として一般的に用いられる分散剤(以下、(C)成分という)を用いることができる。
本発明の杭工法用水硬性組成物において、分散剤は、ポリカルボン酸系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体が挙げられ、水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、好ましくはポリカルボン酸系重合体、メラミン系重合体、及びフェノール系重合体から選ばれる分散剤であり、より好ましくはポリカルボン酸系重合体、及びフェノール系重合体から選ばれる分散剤であり、更に好ましくはポリカルボン酸系重合体である。
メラミン系重合体としてはメラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物(例えば花王株式会社製マイテイ150-V2)、フェノール系重合体としては、フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(特開昭49-104919号公報に記載の化合物等)、リグニン系重合体としてはリグニンスルホン酸塩(ボレガード社製ウルトラジンNA、日本製紙ケミカル株式会社製サンエキス、バニレックス、パールレックス等)等を用いることができる。
ポリカルボン酸系重合体としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(例えば特開平8-12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
<その他成分>
本発明の杭工法用水硬性組成物は、本発明の効果に影響ない範囲で、更に前記成分以外のその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤等が挙げられる。
<組成等>
本発明の杭工法用水硬性組成物は、散水防止性能の観点から、以下の特性1を有することが好ましい。
<特性1>
20℃の該組成物について、コーンプレート(直径50mm、角度0.0398rad、GAP0.0508mm)の角速度ωが1rad/s以上10rad/s以下の範囲で測定した貯蔵弾性率の最大値G’maxが50Pa以上10,000Pa以下である。
すなわち、このレオロジー特性1は、20℃の組成物について、粘弾性測定装置(例えば、Anton Paar社製のレオメータ(MCR302))でコーンプレート(直径50mm、角度0.0398rad、GAP0.0508mm)を用い、角速度ωが1rad/s以上10rad/s以下の範囲で貯蔵弾性率G’を測定し、そのωの範囲で得られるG’の最大値G’maxが50Pa以上、10,000Pa以下である。貯蔵弾性率G’maxは、好ましくは100Pa以上、より好ましくは400Pa以上、更に好ましくは800Pa以上、そして、好ましくは10,000Pa以下、より好ましくは7,000Pa以下、更に好ましくは4,000Pa以下が作業性の観点から有効である。
本発明の杭工法用水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、沈下抑制の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、より更に好ましくは1質量部以上、そして、流動性の観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
また本発明の杭工法用水硬性組成物は、(A)成分の含有量が、水100質量部に対して、沈下抑制の観点から、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.25質量部以上、より更に好ましくは0.5質量部以上、そして、流動性の観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下である。
また本発明の杭工法用水硬性組成物は、(B)成分の含有量が、水100質量部に対して、沈下抑制の観点から、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.25質量部以上、より更に好ましくは0.5質量部以上、そして、流動性の観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下である。
本発明の杭工法用水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が所定の範囲内であり、かつ(A)成分と(B)成分の各含有量が所定の範囲内であることが好ましい。
ここでの水は、杭工法用水硬性組成物の水相部分の水である。
本発明の杭工法用水硬性組成物において、(A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)は、粘弾性発現の観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは30/70以上、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは70/30以下である。
本発明の杭工法用水硬性組成物は、(C)成分を含有する場合、水硬性粉体はセメントを含むことが好ましく、(C)成分の含有量が、セメント100質量部に対して、流動性の観点から、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上、より更に好ましくは0.1質量部以上、そして、材料分離抑制の観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは2質量部以下、より更に好ましくは1質量部以下である。
本発明の杭工法用水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/P)が、ポンプ圧送性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、そして、強度と材料分離抵抗性の観点から、好ましくは500質量%以下、より好ましくは450質量%以下、更に好ましくは400質量%以下である。
ここで、水/水硬性粉体比(W/P)は、杭工法用水硬性組成物の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/水硬性粉体×100で算出される。水/水硬性粉体比は、水和反応により硬化する物性を有する粉体の量に基づいて算出される。またW/Pは、水硬性粉体がセメントである場合は、W/Cで表記される場合がある。
なお、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量部などにおいても同様である。
本発明の杭工法用水硬性組成物を硬化させてなる硬化組成物は、例えば、現場で杭を製造する場所打ちコンクリート杭、モルタル柱列等に使用できる。
〔杭工法用水硬性組成物の製造方法〕
本発明の杭工法用水硬性組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、水硬性粉体及び水を混合する、杭工法用水硬性組成物の製造方法である。
本発明の杭工法用水硬性組成物の製造方法には、本発明の杭工法用水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
本発明の杭工法用水硬性組成物の製造方法は、予め、水と水硬性粉体とを含むスラリーを調製し、(A)成分と(B)成分を該スラリーに添加し、混合して杭工法用水硬性組成物を製造することが好ましい。
また本発明の杭工法用水硬性組成物の製造方法は、(C)成分を添加する場合、水と(A)成分と(B)成分と(C)成分とを混合したものを、水硬性粉体に添加し、混合して杭工法用水硬性組成物を製造することが好ましい。
本発明の杭工法用水硬性組成物の製造方法において、各成分の混合は、既存の装置を全て使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、パン型ミキサー、二軸強制ミキサー、オムニミキサー、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー、及びナウターミキサーなどが挙げられる。
本発明の杭工法用水硬性組成物を用いる工法の例として、地盤を、掘削攪拌ロッドを用いて支持層まで掘削した後、掘削孔に根固め液を注入し、次いで本発明の杭工法用水硬性組成物を注入しながら掘削攪拌ロッドを引き上げた後、杭工法用水硬性組成物で満たされた孔中に、既製コンクリートパイルを沈設し、地盤と杭を一体化させる杭の埋込み工法が挙げられる。また前記根固め液も、本発明の杭工法用水硬性組成物を用いることができる。
表2に示した(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び比較成分は、以下のものを用いた。
(A)成分
(A-1):ポリオキシエチレンアルケニル硫酸エステル塩(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルケニル基(オレイル基)、R2a:エチレン基、n:9、M:アンモニウムイオン)
(A-2):ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩(一般式(a1)中、R1a:炭素数12のアルキル基、R2a:エチレン基、n:2、M:アンモニウムイオン)
(A-3):ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩(一般式(a1)中、R1a:炭素数22のアルキル基、R2a:エチレン基、n:9、M:アンモニウムイオン)
(A-4):ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩(一般式(a1)中、R1a:炭素数18のアルキル基、R2a:エチレン基、n:11、M:アンモニウムイオン)
(A)成分は、ポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテルを硫酸化することにより製造した。(A)成分は、例えば「スルファミン酸による高級アルコールの硫酸化について」(油脂化学協会誌 第一巻 第2号(1952) p73-76)に記載の方法で製造することができる。
(B)成分
(B-1):脂肪酸ジエタノールアミド:脂肪酸部分が炭素数18のアルケニル基(オレイル基)である化合物
(B-2):脂肪酸ジエタノールアミド:脂肪酸部分が炭素数12のアルキル基である化合物
(B-3):脂肪酸ジエタノールアミド:脂肪酸部分が炭素数14~16のアルキル基である化合物
(B)成分は、高級脂肪酸とジエタノールアミンを反応させることにより製造した。(B)成分は、例えば特開2003-183232号公報に記載の方法で製造することができる。
(C)成分
(C-1):ポリカルボン酸系重合体(マイテイ3000H01-C、花王(株)製)
比較添加剤
・MC:メチルセルロース(アスカクリーン、信越化学工業(株)製)
(1)杭工法用水硬性組成物の調製
表1に記載の配合条件1~3については、ホバート型ミキサー((株)関西機器製作所製、KC-8)に、セメントと表2に記載の(C)成分を含む水を加えて2分間撹拌(撹拌速度:公転62rpm、自転141rpm)を行い、表2に記載の(A)成分、(B)成分、比較成分を加えてさらに1分間撹拌することで杭工法用水硬性組成物を調製した。
表1に記載の配合条件4については、以下のように調製した。ホバート型ミキサー((株)関西機器製作所製、KC-8)に、ベントナイト、表2に記載の(C)成分を含む水を加えて2分間撹拌(撹拌速度:公転62rpm、自転141rpm)を行うことでベントナイトスラリーを得た。そこへセメントを加えて1分間撹拌の後,表2に記載の(A)成分,(B)成分を加えてさらに1分間撹拌することで杭工法用水硬性組成物を調製した。
水の添加量は、表1に記載の各杭工法用水硬性組成物の配合の水量となるように調製した。なお水の配合量には、(C)成分の添加量が含まれる。
Figure 0007044535000001
表1中、杭工法用水硬性組成物の調製で用いた、各材料は以下の通りである。また表1中、Pはセメント(C)とベントナイトの合計量である。
水:水道水(配合量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び比較成分を含む)
セメント:普通ポルトランドセメント、太平洋セメント製と住友大阪セメント製を質量比50/50で混合した物、比重3.16
ベントナイト:クニゲルV2、クニミネ工業(株)製
(2)評価
(2-1)流動性評価
得られた杭工法用水硬性組成物を円筒状コーン(φ80mm×80mm)に充填し、垂直に引き上げた後,3分後の広がり(もっとも長い直径の長さとそれと垂直方向の長さの平均値)をペーストフローとして測定した。測定は、混練終了直後(0分後)に測定した。またペーストフローの平均長さが200mmに達する時間(以下、ペーストフロータイムという)を計測し流動性の指標とした。結果を表2に示す。なお比較例6については、ペーストフローの平均長さが200mmに達しなかったため、ペーストフロータイムを測定しなかった。
(2-2)貯蔵弾性率(G’及びG’max
調製した各杭工法用水硬性組成物の貯蔵弾性率G’を測定した。貯蔵弾性率G’は、粘弾性測定装置(Anton Paar社製のレオメータ(MCR302))で、コーンプレート(直径:50mm、角度:0.0398rad、GAP:0.0508mm)を用い、ひずみ1.0%、測定範囲0.0628~62.8rad/s、20℃の条件で測定した。その結果から角速度ωが1~10rad/sにおけるG’maxを下記の基準で評価した。
(G’maxの評価)
◎;G’maxが800~4,000Pa
○:G’maxが400~7,000Pa(ただし、◎の範囲のものを除く)
△:G’maxが50~10,000Pa(ただし、◎及び○の範囲のものを除く)
×:G’maxが50Pa未満又は10,000Paを超える
(2-3)逸水防止試験方法
13Lバケツに砂(表面水1%)をスコップで2杯入れ、手で軽く押し固め、内径28.5mm外径34.0mm長さ300mmの塩化ビニル管を1cm埋める。さらに、スコップで砂を2杯、塩化ビニル管の内部に入らないようにバケツに投入し、手で軽く押し固める。この操作を繰返し、砂上面から塩化ビニル管が10cm出るようにする。塩化ビニル管の開口から調製した杭工法用水硬性組成物172.4mL(砂中塩化ビニル管の体積)を入れ、塩化ビニル管を砂の壁面が崩壊しないようにゆっくりと引き抜く。その後、杭工法用水硬性組成物の沈降が完全に停止した時点で沈下深さ(cm)を測定し、下記の基準で評価した。(沈下深さの評価)
◎:沈下深さが6cm未満
○:沈下深さが6cm以上8cm未満
△:沈下深さが8cm以上16cm未満
×:沈下深さが16cm以上
また、杭工法用水硬性組成物が沈降すると共に追加投入し、沈降が停止した時点までに投入した最終投入量を必要投入量(mL)として測定し、下記の基準で評価した。
(必要投入量の評価)
◎:必要投入量が50mL未満
○:必要投入量が50mL以上150mL未満
△:必要投入量が150mL以上250mL未満
×:必要投入量が250mL以上
Figure 0007044535000002
表2中、比較例5,6の比較添加剤の種類と水100質量部に対する比較添加剤の添加量は、便宜上、(A)成分の種類と、(A)と(B)の含有量の合計の欄にそれぞれ記載した。また表2中、各成分の添加量は有効分量である。

Claims (6)

  1. (A)炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が0以上25以下である、硫酸エステル又はその塩(以下、(A)成分という)、(B)脂肪酸部分の炭素数が10以上22以下である、脂肪酸アルカノールアミド(以下、(B)成分という)、水硬性粉体、及び水を含有する杭工法用水硬性組成物であって、
    (A)成分と(B)成分の含有量の合計が、水100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下であり、
    (A)成分と(B)成分の質量比(A)/(B)が、30/70以上70/30以下であり、
    水/水硬性粉体比(W/P)が、40質量%以上450質量%以下であり、
    以下の特性1を満足する、
    杭工法用水硬性組成物。
    <特性1>
    20℃の該組成物について、コーンプレート(直径50mm、角度0.0398rad、GAP0.0508mm)の角速度ωが1rad/s以上10rad/s以下の範囲で測定した貯蔵弾性率の最大値G’ max が50Pa以上10,000Pa以下である。
  2. 更に、分散剤(以下、(C)成分という)を含有する、請求項1に記載の杭工法用水硬性組成物。
  3. (C)成分の含有量が、セメント100質量部に対して、0.05質量部以上2質量部以下である、請求項2に記載の杭工法用水硬性組成物。
  4. 請求項1~の何れか1項に記載の杭工法用水硬性組成物を硬化させてなる場所打ちコンクリート杭。
  5. 地盤を、掘削攪拌ロッドを用いて支持層まで掘削した後、掘削孔に根固め液を注入し、次いで請求項1~の何れか1項に記載の杭工法用水硬性組成物を注入しながら掘削攪拌ロッドを引き上げた後、前記杭工法用水硬性組成物で満たされた孔中に、既製コンクリートパイルを沈設し、地盤と杭を一体化させる杭の埋込み工法。
  6. 前記根固め液が、請求項1~の何れか1項に記載の杭工法用水硬性組成物である、請求項に記載の杭の埋込み工法。
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