〔コンバインの基本構成〕
本発明を実施するための形態について、図面に基づき説明する。なお、以下の説明では、図1に示す矢印「F」の方向が機体前方向、矢印「B」の方向が機体後方向である。また、図1の紙面手前方向が機体左方向、図1の紙面奥方向が機体右方向である。
図1に自脱型コンバインが示されている。このコンバインには、機体フレーム1と、走行機体を自走可能に支持する左右一対のクローラ走行装置2,2と、が備えられている。機体フレーム1の前部に刈取部3が昇降可能に設けられ、刈取部3は圃場の植立穀稈を刈り取って機体後方に搬送する。刈取部3の後方には、運転キャビン4が設けられている。
運転キャビン4の下方には、エンジン5が設けられている。左右一対のクローラ走行装置2,2は、エンジン5の動力によって駆動する走行装置である。左右一対のクローラ走行装置2の間にミッションケース6が設けられ、エンジン5の回転動力がミッションケース6に伝達される。ミッションケース6に駆動HST6A(HST:Hydro Static Transmission、静油圧無段変速装置)が備えられている。ミッションケース6に伝達された回転動力は、駆動HST6Aによって変速されて、左右一対の車軸2aを介して左右一対のクローラ走行装置2,2に伝達される。駆動HST6Aに可変斜板6bが設けられ、可変斜板6bの傾斜角度が変化することによって、駆動HST6Aにおける減速比が変化する。
また、駆動HST6Aとクローラ走行装置2,2との間に、左右一対のサイドクラッチ2C,2C(図6および図7参照)が備えられている。サイドクラッチ2Cは、駆動HST6Aから出力された動力をクローラ走行装置2に伝達する伝達状態と、駆動HST6Aから出力された動力をクローラ走行装置2に伝達しない非伝達状態と、に切換可能に構成されている。サイドクラッチ2C,2Cの一方が伝達状態になり、かつ、サイドクラッチ2C,2Cの他方が非伝達状態になると、左右のクローラ走行装置2,2の一方のみが作動して、機体が旋回する。
運転キャビン4の後方に、刈取穀稈を脱穀する脱穀装置7と、穀粒を貯留するグレンタンク8と、が機体左右方向に隣り合う状態で設けられている。脱穀装置7の左側部にフィードチェーン9が設けられ、フィードチェーン9は刈取穀稈を脱穀装置7に搬送する。脱穀装置7は、刈取穀稈を扱胴10によって脱穀処理して、脱穀処理物を選別部11によって選別処理する。選別部11によって選別処理された穀粒がグレンタンク8に搬送される。グレンタンク8に、グレンタンク8内の穀粒を排出するアンローダ12が設けられている。
エンジン5の回転動力は、クローラ走行装置2に対する伝達経路と、刈取部3に対する伝達経路と、扱胴10や選別部11に対する伝達経路と、に分岐される。
図1に示されるように、刈取部3に、複数(例えば六つ)の引起装置13と、バリカン式の刈取装置14と、搬送装置15と、供給搬送装置16と、が備えられている。引起装置13は圃場の植立穀稈を引き起こす。引起装置13に引き起こされた状態で、植立穀稈の根元が刈取装置14によって切断される。刈取装置14によって切断された刈取穀稈は搬送装置15によって後方に搬送される。供給搬送装置16は、搬送装置15からの刈取穀稈をフィードチェーン9に供給搬送する。このような、引起装置13と刈取装置14と搬送装置15と供給搬送装置16との一体的な駆動を、以下「刈取駆動」と称する。
刈取部3の支持構造について説明する。刈取部3に、機体左右向きの刈取入力ケース17と、刈取入力ケース17から前下方に延びる刈取主フレーム18と、が備えられている。刈取入力ケース17は、軸心X1周りで回動可能なように、機体に支持されている。刈取主フレーム18と刈取入力ケース17とは一体連結され、刈取主フレーム18が軸心X1周りで揺動可能なように構成されている。刈取主フレーム18と機体フレーム1とに亘って、油圧シリンダ19が設けられている。油圧シリンダ19のうち刈取主フレーム18側の端部は、刈取主フレーム18に連結解除可能に連結されている。油圧シリンダ19が伸縮することによって、刈取主フレーム18と刈取入力ケース17とが軸心X1周りで一体的に揺動して、刈取部3が昇降する。これにより、刈取部3は刈高さHを変更可能なように構成されている。
このように、刈取部3は、機体左右向きの軸心X1周りに上下揺動可能に支持される。エンジン5の動力によって刈取部3の刈取駆動が行われ、圃場の植立穀稈が刈り取られて脱穀装置7に搬送される。刈取部3の刈取駆動は、左右のクローラ走行装置2,2の駆動と連動する。つまり、左右のクローラ走行装置2,2が走行状態である場合に刈取部3の刈取駆動が行われ、左右のクローラ走行装置2,2が停止すると、刈取部3の刈取駆動も停止する。
図2に示されるように、運転キャビン4の内部に、第一操作具としての主変速レバー51と、操作レバー52と、アクセル調整操作具53と、第二操作具としての掻込みペダル54と、刈取変速スイッチ55と、が備えられている。
操作レバー52は、前後揺動によって刈取部3の昇降制御を可能に構成されているとともに、左右揺動によって機体の旋回を可能に構成されている。操作レバー52は刈取部3の昇降操作用と機体の旋回操作用とに用いられているが、操作レバー52は刈取部3の昇降操作用のみに用いられる構成であっても良く、機体の旋回操作用として別のレバーが設けられても良い。
運転者が操作レバー52を下降制御位置Dの側に揺動操作すると刈取部3は下降動作し、運転者が操作レバー52を上昇制御位置Uの側に揺動操作すると刈取部3は上昇動作する。下降制御位置Dと上昇制御位置Uとの間に中立位置Nがあり、操作レバー52は中立位置Nに位置するように付勢されている。中立位置Nを起点として、下降制御位置Dまたは上昇制御位置Uの側へ、運転者が操作レバー52を大きく揺動するほど、刈取部3の昇降速度は速くなる。つまり、運転者が操作レバー52の中立位置Nに対する揺動量を調整することによって、刈取部3の昇降速度の調整が可能となる。
主変速レバー51は、駆動HST6Aを人為操作可能なレバーであって、機体の車速を前進走行させる前進位置Fと、機体を後進走行させる後進位置Rと、に亘って揺動操作可能に構成されている。主変速レバー51の揺動範囲の中間位置は中立位置Nであり、例えば運転者が主変速レバー51を前進位置Fの側に操作すると、可変斜板6bの傾斜角度が変更され、車速が増速する。
アクセル調整操作具53は、例えばレバーやボリュームスイッチであって、運転者がアクセル調整操作具53を手動で調整すると、エンジン5の回転速度が任意の値に調整される。また、アクセル調整操作具53は、エンジン5の回転速度を自動的に調整する構成も可能である。例えば、掻込みペダル54が踏み込まれる状態でアクセル調整操作具53が操作されると、刈取部3の刈取駆動に必要な回転速度に、エンジン5が調整される構成も可能である。
掻込みペダル54は、左右のクローラ走行装置2,2が停止した状態であっても、刈取部3の刈取駆動を可能に構成されている。掻込みペダル54は、運転キャビン4のうち、運転者の足元の近傍に設けられている。掻込みペダル54は機体上方向に付勢され、運転者が足で機体下方向に踏み込むことによって、掻込みペダル54が操作される。つまり、第二操作具としての掻込みペダル54の操作に基づいて、走行装置としての左右のクローラ走行装置2,2が停止しつつ刈取部3が駆動する掻き込み状態が現出される。
〔掻き込み状態について〕
図2に示されるように、本実施形態では、エンジン5の回転動力は、走行用のミッションケース6と、刈取部3用の油圧無段変速装置としての刈取HST20と、に対して夫々独立した回転動力として分配される。このため、刈取駆動制御部31は、コンバインの刈取走行時の車速に関係なく刈取部3の刈取駆動の速さを設定可能な構成となっている。なお、図2に示される破線の矢印は、エンジン5の回転動力の伝達を意味する。
刈取HST20は、エンジン5の回転動力を変速した上で、引起装置13と刈取装置14と搬送装置15と供給搬送装置16との夫々に対して当該回転動力を伝達する。刈取HST20に可変斜板20aが内蔵され、可変斜板20aの傾斜角度が変化することによって、刈取HST20は伝達状態と非伝達状態とに変更可能に構成されている。伝達状態とは、刈取部3に対するエンジン5の動力の伝達を許容する状態を意味し、非伝達状態とは、刈取部3に対するエンジン5の動力の伝達を遮断する状態を意味する。
可変斜板20aの傾斜角度が大きくなると刈取HST20の減速比が小さくなって、刈取HST20の出力回転速度が増速される。また、可変斜板20aの傾斜角度が小さくなると刈取HST20の減速比が大きくなり、刈取HST20の出力回転速度が減速される。可変斜板20aの傾斜角度が零度または略零度になると、可変斜板20aは中立角度となる。この状態で、刈取HST20の状態は非伝達状態となる。
可変斜板20aは電動モータ20Mと連動する構成となっている。詳述はしないが、刈取HST20のトラニオン軸(不図示)等のリンク機構を介して可変斜板20aと電動モータ20Mとが連結され、電動モータ20Mの駆動に伴って可変斜板20aの傾斜角度が変更される。
刈取HST20は本発明のクラッチ機構に相当し、刈取HST20は、第一操作具としての主変速レバー51の操作に基づいて、エンジン5からの動力を刈取部3へ伝達する伝達状態と、エンジン5からの動力を刈取部3へ伝達しない非伝達状態と、に切換えられる。
図2に示されるような制御装置30がコンバインに備えられ、制御装置30は、例えばマイクロコンピュータのモジュールとしてコンバインの制御システムに組み込まれている。制御装置30に、刈取駆動制御部31と、刈取昇降制御部34と、走行制御部35と、が備えられている。
制御装置30に各種検出信号が入力される。刈取駆動制御部31に、主変速レバー51の検出信号と、掻込みペダル54の検出信号と、刈取変速スイッチ55の検出信号と、が入力される。刈取駆動制御部31は、これらの検出信号に基づいて、電動モータ20Mに対して制御指令を出力する。そして、刈取駆動制御部31の制御指令に基づいて電動モータ20Mが駆動して、電動モータ20Mの駆動と連動して可変斜板20aの傾斜角度が変更される。
運転者が主変速レバー51を操作することによって、刈取駆動制御部31は電動モータ20Mに対して制御指令を出力し、可変斜板20aの傾斜角度が変化する。主変速レバー51が前進位置Fの側に揺動するほど、可変斜板20aの傾斜角度が大きくなって、刈取HST20の出力回転速度が増速される。また、主変速レバー51が中立位置Nの側に揺動するほど、可変斜板20aの傾斜角度が小さくなって、刈取HST20の出力回転速度が減速される。そして、主変速レバー51が中立位置Nに位置する場合、刈取駆動制御部31は、可変斜板20aの傾斜角度が中立状態になるように、電動モータ20Mに対して制御指令を出力する。
主変速レバー51が前進位置Fの側に揺動するほど、車速が増速するため、刈取HST20の出力回転速度は車速と連動する。また、クローラ走行装置2の停止と連動して、刈取部3の刈取駆動も停止する。
刈取変速スイッチ55は、刈取HST20を人為操作可能な押しボタンスイッチであって、主変速レバー51の握り部に設けられている。刈取HST20は高速モードと標準モードとの二つの変速モードを有し、運転者が刈取変速スイッチ55を押し操作することによって、刈取HST20の変速モードが高速モードと標準モードとに切り換えられる。換言すると、運転者が刈取変速スイッチ55を押し操作する度に、刈取HST20の変速モードが高速モードと標準モードとに切り換えられる。高速モードでは、標準モードの場合よりも可変斜板20aの傾斜角度が大きく設定されて減速比が小さくなり、標準モードの場合よりも刈取HST20の出力回転速度が増速出力される。この構成によって、刈取部3を高速に刈取駆動させることができ、圃場において倒伏した植立穀稈を効率よく刈取ることが可能となる。
刈取昇降制御部34は、操作レバー52の下降制御位置Dまたは上昇制御位置Uの側への揺動操作に基づいて、油圧シリンダ19に対して制御指令を出力して刈取部3を昇降動作させる。主変速レバー51の揺動角度が走行制御部35に制御信号として出力される。
走行制御部35は、主変速レバー51の制御信号に基づいて、駆動HST6Aにおける可変斜板6bの傾斜角度を変更するように、電動モータ6Mに対して制御指令を出力する。
刈取駆動制御部31に、自動切換制御部32と掻き込み制御部33とが備えられている。刈取部3の刈高さHは刈高さセンサ3pによって検出可能なように構成され、刈高さセンサ3pで検出された刈高さHが、自動切換制御部32に出力される。本実施形態では、自動切換部40として、刈高さセンサ3pと自動切換制御部32とが備えられている。
図3のタイミングt1に示されるように、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上に上昇すると、自動切換制御部32で制御指令がONに切換えられ、刈取HST20が非伝達状態に切換えられる。また、図3のタイミングt4に示されるように、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以下に下降すると、自動切換制御部32で制御指令がOFFに切換えられ、刈取HST20が伝達状態に切換えられる。換言すると、刈取部3の刈高さHが設定高さH1未満から設定高さH1以上に変化すると、刈取HST20を非伝達状態に変更操作可能なように、自動切換制御部32は構成されている。刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上になると、自動切換制御部32は、可変斜板20aの傾斜角度が中立角度となるように電動モータ20Mに制御指令を出力する。自動切換制御部32の制御指令に基づいて電動モータ20Mが駆動し、電動モータ20Mの駆動と連動して可変斜板20aの傾斜角度が中立角度となる。これにより、刈取HST20が非伝達状態に切換えられる。そして、刈高さHが設定高さH1以上である間、自動切換制御部32は、刈取HST20の非伝達状態が維持されるように変更操作の出力を継続する。
また、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上から設定高さH1未満に変化すると、自動切換制御部32は、刈取HST20が伝達状態となるように電動モータ20Mに制御指令を出力する。そして、可変斜板20aの傾斜角度が中立角度から変化して、刈取HST20は伝達状態になる。
このように、刈取部3の刈高さHに基づいて自動切換制御部32が刈取HST20を伝達状態または非伝達状態に変更操作する構成によって、運転者が刈取部3を昇降制御するだけで、刈取部3における刈取駆動の入切動作が可能となる。つまり、自動切換部40は、刈取部3が予め定められた設定高さH1以上に上昇されると、クラッチ機構としての刈取HST20を非伝達状態に変更する。これにより、刈取部3が上昇した状態で刈取部3が植立穀稈を刈り取らずに無駄に動作する不都合が回避される。
なお、自動切換制御部32は、例えば運転キャビン4に設けられた操作具の人為操作によって有効または無効に切換可能に構成されている。自動切換制御部32が有効であると、自動切換制御部32は上述したような制御指令を電動モータ20Mに出力し、自動切換制御部32が無効であると、自動切換制御部32は電動モータ20Mに制御指令を出力しない。
本実施形態では、掻き込み部41として、掻き込み制御部33と、掻込みペダル54と、ポテンショメータ54pと、が備えられている。掻込みペダル54は機体上方向に付勢され、運転者が足で掻込みペダル54を機体下方向に踏み込むと、掻込みペダル54が入り操作される。掻込みペダル54の入り操作の度合いは、ポテンショメータ54pによって検出可能なように構成されている。ポテンショメータ54pの検出値が掻き込み制御部33に出力される。掻き込み制御部33は、ポテンショメータ54pの検出度合いに基づいて可変斜板20aの目標傾斜角度を算出するとともに、当該目標傾斜角度に基づいて電動モータ20Mに制御指令を出力する。掻き込み制御部33の制御指令に基づいて電動モータ20Mが駆動し、電動モータ20Mの駆動と連動して可変斜板20aの傾斜角度が目標傾斜角度に変化する。
掻き込み制御部33は、コンバインのクローラ走行装置2,2が停止する場合であっても、ポテンショメータ54pの検出、即ち掻込みペダル54の入り操作に基づいて、電動モータ20Mを介して刈取HST20の斜板を操作可能なように構成されている。このことから、例えば畦際で機体が停止する場合であっても、刈取部3の刈取駆動が可能となり、引起装置13に残された刈取穀稈が脱穀装置7へ搬送される。これにより、圃場の畦際で機体が後進動作したり旋回動作したりする際に、引起装置13等に残された刈取穀稈が圃場に落下する虞が回避される。つまり、掻き込み部41は、第二操作具としての掻込みペダル54の操作に基づいて、走行装置としてのクローラ走行装置2,2が停止しつつ刈取部3が駆動する掻き込み状態を現出する。
掻き込み制御部33は、自動切換制御部32の変更操作に優先して刈取HST20を伝達状態に操作可能な構成となっている。図3のタイミングt2に示されるように、掻込みペダル54が入り操作されると、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上の状態であっても、自動切換制御部32の制御指令に関係なく、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上のまま、刈取HST20が伝達状態に変更される。つまり、掻き込み部41は、自動切換部40によってクラッチ機構としての刈取HST20が非伝達状態にされている状態のときは、刈取HST20を強制的に伝達状態に変更する。このため、機体が停止した状態で、運転者は刈取部3の下降操作を行うことなく掻込みペダル54を踏み込むだけで、引起装置13等に残された刈取穀稈が脱穀装置7へ搬送される。
刈取穀稈の掻き込みを終了する場合、運転者が掻込みペダル54の踏み込み操作を止めるだけで、掻込みペダル54は上側に揺動し、掻込みペダル54は切り操作される。図3のタイミングt3に示されるように、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上の状態、かつ、自動切換制御部32の制御指令が継続される状態で、掻込みペダル54が切り操作されることによって、刈取HST20が非伝達状態に切換えられる。つまり、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上の状態で継続していると、自動切換制御部32の制御指令に基づいて電動モータ20Mが非伝達状態側に駆動し、電動モータ20Mの駆動と連動して可変斜板20aの傾斜角度が中立角度となる。このように、第二操作具としての掻込みペダル54の操作が解除されたときに、刈取部3が設定高さH1以上に上昇されていると、クラッチ機構としての刈取HST20は、自動切換部40によって非伝達状態に切り換えられる。
〔エンジン始動時における刈取部の昇降規制〕
上述したように、操作レバー52(図2参照)は中立位置Nに位置するように付勢され、中立位置Nを起点として、下降制御位置Dまたは上昇制御位置Uの位置する側へ操作レバー52が揺動されることによって、刈取部3は昇降制御される。しかし、操作レバー52が中立位置Nに位置するように付勢される構成であっても、揺動基端部が錆付く等の要因によって、操作レバー52が揺動された後に中立位置Nに戻りきらない虞がある。この状態でエンジン5が停止して、次回の使用時にエンジン5が始動すると、操作レバー52の位置が中立位置Nから下降制御位置Dまたは上昇制御位置Uの位置する側に位置ずれすることに起因して、刈取部3が不意に昇降または下降する虞がある。このように、運転者が意図せずに刈取部3が動作する不都合を回避するため、エンジン5の始動時に、図4に示されるような昇降規制制御が実行される。
図4に示される制御処理は、刈取駆動制御部31によって行われるが、刈取駆動制御部31以外の別の制御系によって行われる構成であっても良い。まず、エンジン5の始動直後に、操作レバー52の揺動位置Npが中立位置Nの許容範囲内にあるかどうかが判定される(ステップ#01)。ここで、操作レバー52の揺動位置Npは、下降制御位置D(図2参照)と上昇制御位置U(図2参照)とに亘る前後揺動の範囲を意味する。ステップ#01において、符号Ndは、中立位置Nの許容範囲のうち、下降制御位置Dの位置する側の許容限度である。また、符号Nuは、中立位置Nの許容範囲のうち、上昇制御位置Uの位置する側の許容限度である。中立位置Nは符号Ndと符号Nuとの間に位置し、ステップ#01の判定は、揺動位置Npが中立位置Nの許容範囲内にあることが判定されるまで繰り返し継続される。このように、エンジン5の始動時からステップ#01の判定処理が継続されることによって、刈取部3の昇降規制が実行される。この間、運転者が下降制御位置Dまたは上昇制御位置Uの側に操作レバー52を揺動しても、刈取部3の昇降制御は実行されず、刈取部3はエンジン5の始動時の刈高さHで位置保持される。
操作レバー52の揺動位置Npが中立位置Nの許容範囲内にあることが判定されると(ステップ#01:Yes)、刈取部3の昇降規制は解除され、操作レバー52の通常の操作に基づいて刈取部3が昇降制御される。つまり、操作レバー52が下降制御位置Dまたは上昇制御位置Uの側に揺動されたかどうかが判定される(ステップ#02,ステップ#03)。そして、操作レバー52が下降制御位置Dの側に揺動されると(ステップ#02:Yes)、刈取部3が下降制御され(ステップ#04)、操作レバー52が上昇制御位置Uの側に揺動されると(ステップ#03:Yes)、刈取部3が下降制御される(ステップ#05)。
〔エンジン始動時におけるエンジン回転速度の制御〕
エンジン5の回転速度Rsは、運転キャビン4に設けられたアクセル調整操作具53(図2参照)によって調整可能に構成されている。アクセル調整操作具53は例えばレバーやボリュームスイッチによって構成可能であり、運転者がアクセル調整操作具53を調整することによって、エンジン5の回転速度Rsが調整される。アクセル調整操作具53はエンジン停止中も操作可能である。しかし、アクセル調整操作具53が上限値に設定された状態で、エンジン5が停止状態から始動すると、エンジン5の回転速度Rsが一気に上限まで増加するため、エンジン5の始動時に大きな音が発生して運転者に不快感を及ぼす虞がある。このような不都合を回避するため、制御装置30は、エンジン5に対して図5に示されるような回転速度Rsの調整制御を実行する。
図5に、エンジン5の始動時からの時間経過と回転速度Rsとの関係がグラフとして示されている。始動回転速度Riは、エンジン5のアイドリング状態を維持するために必要な最低限度の回転速度Rsである。目標回転速度Rmは、アクセル調整操作具53によって設定される任意の回転速度Rsで、始動回転速度Riよりも高く設定される。
まず、エンジン5の始動時からエンジン5の回転速度Rsが始動回転速度Riに到達するまでの間、即ち始動時間Tiに到達するまでの間、回転速度Rsの調整制御は行われない。そして、エンジン5の回転速度Rsが始動回転速度Riに到達した後、制御装置30は、目標到達時間Tmを用いて、下記の式で単位時間当たりの回転速度変化量Rvを算出する。
回転速度変化量Rv=(Rm-Ri)/(Tm-Ti)
つまり、エンジン5の回転速度Rsが始動回転速度Riに到達した後、制御装置30は、単位時間当たりにエンジン5の回転速度Rsが回転速度変化量Rvずつ変化するように、エンジン5の回転速度Rsを増速させる。目標到達時間Tmは、制御装置30によって自動的に算出される構成であっても良いし、人為的に設定される構成であっても良い。図5に示されるように、始動回転速度Riに到達した後のエンジン5の回転速度Rsの増加度合いは、始動回転速度Riに到達する前のエンジン5の回転速度Rsの増加度合いよりも緩やかになっている。このため、エンジン5の始動時におけるエンジン5の回転速度Rsが緩やかに上昇し、エンジン5の始動時における静粛性が高められる。
〔別実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に例示された構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
(1)上述した実施形態の他に、コンバインの制御構成の他の一例を図6および図7に基づいて説明する。図6に示される破線の矢印は、エンジン5の回転動力の伝達を意味する。図6に示される実施形態では、エンジン5の回転動力が、駆動HST6Aを有するミッションケース6を介して、クローラ走行装置2に対する回転動力と、刈取部3に対する回転動力と、に分配される。ミッションケース6とクローラ走行装置2との間には変速機構が無く、ミッションケース6と刈取部3との間にも変速機構が無い。このため、刈取部3の刈取駆動速度は、クローラ走行装置2の動作速度、即ち機体の車速と連動する。運転者が主変速レバー51を変速操作することによって、駆動HST6Aの可変斜板6bの傾斜角度が変化する。可変斜板6bの傾斜角度の変化と連動して、機体の車速と刈取部3の刈取駆動速度とが変化する。
ミッションケース6から刈取部3への動力は、クラッチ機構としてのベルト機構25を介して伝達され、ベルト機構25に、伝動ベルト26と、ベルトテンショナー27と、が備えられている。伝動ベルト26に対するベルトテンショナー27の係合または非係合によって、ベルト機構25は伝達状態と非伝達状態とに変更可能に構成されている。伝達状態とは、ベルトテンショナー27が伝動ベルト26に対して係合して伝動ベルト26を緊張状態にすることによって、伝動ベルト26がミッションケース6からの回転動力を刈取部3へ伝達可能な状態を意味する。非伝達状態とは、ベルトテンショナー27が伝動ベルト26の回転領域から離れて伝動ベルト26を弛緩状態にすることによって、伝動ベルト26がミッションケース6からの回転動力を刈取部3へ伝達不能な状態を意味する。
図6に示される実施形態では、運転キャビン4の内部に、第一操作具としての刈取クラッチレバー56が設けられている。刈取クラッチレバー56はベルトテンショナー27を人為操作可能なレバーである。運転者が刈取クラッチレバー56を入り操作することによって、ベルト機構25は伝達状態に切換えられ、運転者が刈取クラッチレバー56を切り操作することによって、ベルト機構25は非伝達状態に切換えられる。つまり、クラッチ機構としてのベルト機構25は、第一操作具としての刈取クラッチレバー56の操作に基づいて、エンジン5からの動力を刈取部3へ伝達する伝達状態と、エンジン5からの動力を刈取部3へ伝達しない非伝達状態と、に切換えられる。
図6に示される実施形態では、自動切換部40として連動ケーブル28が備えられ、連動ケーブル28の両端部は刈取部3とベルトテンショナー27とに連結されている。詳述はしないが、刈取クラッチレバー56が入り操作されると、連動ケーブル28が緊張状態となり、ベルトテンショナー27が伝動ベルト26の回転領域側に保持される。つまり、連動ケーブル28がベルトテンショナー27を引っ張ることによって、ベルト機構25が伝達状態になる。
連動ケーブル28は刈取部3の昇降動作と連係し、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上になると、連動ケーブル28が弛緩状態に切換えられ、連動ケーブル28はベルトテンショナー27の伝達状態を保持できなくなる。このため、ベルトテンショナー27はベルトの回転領域から離れ、ベルト機構25は非伝達状態になる。
図7のタイミングt1に示されるように、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上に上昇すると、連動ケーブル28が弛緩状態に切換えられ、ベルト機構25が非伝達状態に切換えられる。このように、自動切換部40として連動ケーブル28は、刈取部3が予め定められた設定高さH1以上に上昇すると、クラッチ機構としてのベルト機構25を非伝達状態に変更する。また、図7のタイミングt4に示されるように、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以下に下降すると、連動ケーブル28が緊張状態に切換えられ、ベルト機構25が伝達状態に切換えられる。
自動切換部40は例えば運転キャビン4に設けられた操作具の人為操作によって有効または無効に切換可能に構成されている。そのための構成として、例えば、連動ケーブル28は、当該操作具の人為操作によって常にベルトテンショナー27を引っ張る状態にすることも可能である。この状態で、自動切換部40は無効に切換えられる。この構成によって、刈取部3の刈高さHに関係なく、ベルト機構25の伝達状態が保持される。
ベルトテンショナー27は、運転キャビン4に設けられた掻込みペダル54によっても操作可能なように構成されている。運転キャビン4のうち、運転者の足元の近傍に掻込みペダル54が設けられている。また、ベルトテンショナー27に、連動ケーブル28と独立した電動モータ27M等が設けられている。
図6に示される実施形態では、制御装置30に、刈取駆動制御部31と、刈取昇降制御部34と、走行制御部35と、が備えられている。刈取駆動制御部31に掻き込み制御部33が設けられ、掻込みペダル54の検出信号が掻き込み制御部33に入力される。刈取昇降制御部34および走行制御部35の構成は、図2に基づいて上述した実施形態と同様である。
図6に示される実施形態では、掻き込み部41として、掻き込み制御部33と、掻込みペダル54と、が備えられている。掻込みペダル54は機体上方向に付勢され、運転者が足で掻込みペダル54を機体下方向に踏み込むことによって入り操作が行われ、入り操作の信号が掻き込み制御部33に出力される。また、掻込みペダル54が踏み込まれると、サイドクラッチ2C,2Cの両方が非伝達状態に切換えられて、エンジン5の回転動力がクローラ走行装置2に伝達しなくなる。掻き込み制御部33は入り操作の信号に基づいて電動モータ27Mに制御指令を出力する。そして、ベルトテンショナー27に設けられた電動モータ27M等が、掻込みペダル54の入り操作に基づいて駆動する。
刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上の状態で、連動ケーブル28が弛緩状態になってベルトテンショナー27の伝達状態を保持できない場合であっても、電動モータ27M等の駆動と連動して、ベルトテンショナー27が伝達状態側に操作される。つまり、掻込みペダル54が人為操作によって入り操作されると、電動モータ27Mがベルトテンショナー27に作用して、ベルトテンショナー27が伝達状態に切換えられる。
圃場の畦際等において機体が停止すると、駆動HST6Aでエンジン5の回転動力がクローラ走行装置2に伝達されなくなるため、刈取部3も連動して停止する。この状態で、引起装置13等に残された刈取穀稈を運転者が脱穀装置7へ掻き込む場合、運転者は掻込みペダル54を踏み込んで、サイドクラッチ2C,2Cの両方を非伝達状態に切換える。そして、主変速レバー51を前進位置Fの側に揺動操作して、駆動HST6Aの可変斜板6bを傾斜させて駆動HST6Aを伝達状態に切換える。このとき、サイドクラッチ2C,2Cが非伝達状態であるため、エンジン5の回転動力がクローラ走行装置2に伝達されない。また、掻込みペダル54の踏み込みによって、ベルト機構25が伝達状態に切換えられる。このことから、エンジン5の回転動力が駆動HST6Aから刈取部3に伝達され、引起装置13等に残された刈取穀稈が、搬送装置15や供給搬送装置16によって脱穀装置7へ挟持搬送される。つまり、掻き込み部41は、第二操作具としての掻込みペダル54の操作に基づいて、走行装置としてのクローラ走行装置2が停止しつつ刈取部3が駆動する掻き込み状態を現出する。
図7のタイミングt2に示されるように、掻込みペダル54が入り操作されると、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上の状態、かつ、連動ケーブル28が弛緩状態であっても、ベルトテンショナー27が伝達状態に切換えられ、かつ、サイドクラッチ2C,2Cの両方が非伝達状態に切換えられる。つまり、掻き込み部41は、自動切換部40としての連動ケーブル28によってクラッチ機構としてのベルト機構25が非伝達状態にされている状態のときは、ベルト機構25を強制的に伝達状態に変更する。このため、機体が停止した状態で、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上であっても、運転者は刈取部3の下降操作を行うことなく掻込みペダル54を踏み込むだけで、引起装置13等に残された刈取穀稈が脱穀装置7へ掻き込まれる。
刈取穀稈の掻き込みを終了する場合、運転者は、主変速レバー51を中立位置Nに操作して、掻込みペダル54の踏み込み操作を止める。運転者が掻込みペダル54の踏み込み操作を止めるだけで、掻込みペダル54は上側に揺動し、掻込みペダル54は切り操作される。掻込みペダル54が切り操作されるため、刈取駆動制御部31は切り操作の信号に基づいて電動モータ27Mに制御指令を出力する。刈取駆動制御部31の制御指令に基づいて電動モータ27Mが駆動して、電動モータ27Mがベルトテンショナー27に作用しなくなる。図7のタイミングt3に示されるように、刈取部3の刈高さHが設定高さH1以上の状態で連動ケーブル28が弛緩状態であると、掻込みペダル54が切り操作されることによって、ベルトテンショナー27が伝達状態に保持されなくなる。そして、ベルト機構25が非伝達状態に切換えられる。また、掻込みペダル54が切り操作に伴って、サイドクラッチ2C,2Cの両方が伝達状態に切換えられる。このように、第二操作具としての掻込みペダル54の操作が解除されたときに、刈取部3が設定高さH1以上に上昇されていると、クラッチ機構としてのベルト機構25は、自動切換部40によって非伝達状態に切り換えられる。
なお、ベルトテンショナー27に、連動ケーブル28と独立した電動モータ27Mが設けられ、掻込みペダル54が入り操作されると掻き込み制御部33から電動モータ27Mへ制御指令が出力される構成となっているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、掻込みペダル54とベルトテンショナー27とに亘って連接された連動機構が設けられ、掻込みペダル54が踏み込まれると当該連動機構を介してベルトテンショナー27が伝達状態に変更される構成であっても良い。
(2)上述した実施形態において、第二操作具としての掻込みペダル54が例示されているが、第二操作具は掻込みペダル54に限定されない。例えば、第二操作具は、操作レバー52や刈取クラッチレバー56に設けられた手動操作のスイッチであっても良いし、運転キャビン4の内部におけるフロントパネルやサイドパネルに設けられたスイッチであっても良い。
(3)上述した実施形態において、クラッチ機構として刈取HST20とベルト機構25とが示されたが、クラッチ機構は刈取HST20とベルト機構25とに限定されない。例えばクラッチ機構として、噛み合いクラッチや多板クラッチや遠心クラッチ等が用いられても良い。
(4)上述した実施形態では、走行装置としてクローラ走行装置2が示されているが、走行装置として車輪が用いられる構成であっても良い。
(5)上述した実施形態において、運転者が、第二操作具としての掻込みペダル54の踏み込み操作を止めることによって、第二操作具の操作が解除される構成となっているが、第二操作具の操作の解除は、人為操作によるものに限定されない。例えば、運転者が第二操作具の人為操作を止めた後も、タイマで一定時間に亘って第二操作具の操作状態が継続し、一定時間の経過後に第二操作具の操作が解除される構成であっても良い。
(6)上述した実施形態における刈取変速スイッチ55は、刈取HST20の変速モードを高速モードと標準モードとに切り換える構成だけでなく、刈取HST20を非伝達状態に切換える構成を備えていても良い。例えば、運転者が刈取変速スイッチ55を押し操作することによって、刈取駆動制御部31が電動モータ20Mに対して制御指令を出力し、可変斜板20aは中立角度となって、刈取HST20が非伝達状態に切換えられる構成であっても良い。この場合、刈取変速スイッチ55が第一操作具として構成されても良い。
(7)上述した実施形態において、第一操作具としての主変速レバー51が操作されると、刈取HST20の出力回転速度が車速と連動して変化する構成となっているが、上述した実施形態に限定されない。例えば、刈取HST20の出力回転速度は車速と連動しない構成であっても良い。具体的に、運転キャビン4の内部に、主変速レバー51とは別に、刈取HST20の出力回転速度のみを変化させる刈取変速レバーが、第一操作具として設けられる構成であっても良い。刈取変速レバーは刈取HST20を人為操作可能なレバーであって、運転者が刈取変速レバーを操作することによって、可変斜板20aの傾斜角度が変化する構成であっても良い。この場合、刈取HST20は、第一操作具としての刈取変速レバーの操作に基づいて、エンジン5からの動力を刈取部3へ伝達する伝達状態と、エンジン5からの動力を刈取部3へ伝達しない非伝達状態と、に切換えられる。