JP7034841B2 - 多層セパレータ - Google Patents
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Description
したがって、本発明は、出力特性とデンドライト耐性を両立する蓄電デバイス用多層セパレータを提供することを目的とする。
[1]
ポリオレフィン樹脂を含む多孔層Aと無機粒子を含む多孔層Bを備える蓄電デバイス用多層セパレータであって、
前記蓄電デバイス用多層セパレータのフッ化物イオンのパルス磁場勾配NMR測定において前記多孔層Aのイオン拡散係数をD(A)、前記多孔層Bのイオン拡散係数をD(B)とし、かつ前記蓄電デバイス用多層セパレータのフッ化物イオンの交換NMR測定において100msのミキシングタイムでの前記多孔層Aと前記多孔層Bの間のイオン透過率(%)をr(AB)とした場合、r(AB)とD(A)とD(B)が、それぞれ以下の関係式:
r(AB) < 24
D(A) > 1×10-11
D(B) > 1×10-11
を満たす、蓄電デバイス用多層セパレータ。
[2]
前記r(AB)と前記D(B)が、以下の関係式:
r(AB)/D(B) < 2.40×1011
を満たす、[1]に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
[3]
前記多孔層Aの表面の少なくとも一部分が、ポリマーで被覆されている、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
[4]
前記多孔層Aの表面の少なくとも一部分が、前記多孔層Bに含まれるポリマーとは異なるポリマーで被覆されている、[3]に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
[5]
前記多孔層Aと前記多孔層Bの間に、前記多孔層Bに含まれるポリマーとは異なるポリマーを含む層Cを備える、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
[6]
前記r(AB)と前記D(A)と前記D(B)が、それぞれ以下の関係式:
r(AB) > 0
D(A) ≦ 1×10-10
D(B) ≦ 1×10-10
を満たす、[1]~[5]のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
[7]
前記r(AB)と前記D(B)が、以下の関係式:
r(AB)/D(B) > 1×109
を満たす、[1]~[6]のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
[8]
前記蓄電デバイス用多層セパレータのフッ化物イオンの交換NMR測定において、下記式:
S(%/ms)={(ミキシングタイム100msでのイオン透過率r(AB))-(ミキシングタイム20msでのイオン透過率r(AB))}/(100-20)
により算出される値Sをイオン透過指数S(AB)とした場合、S(AB)が、以下の関係式:
S(AB) < 0.16
を満たす、[1]~[7]のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
[9]
前記S(AB)が、以下の関係式:
S(AB) > 0
を満たす、[8]に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
本実施形態に係る多層セパレータは、ポリオレフィン樹脂を含む多孔層Aと無機粒子を含む多孔層Bとを含む。
本実施形態に係る多層セパレータは、そのフッ化物イオンのパルス磁場勾配NMR測定において多孔層Aのイオン拡散係数をD(A)、かつ多孔層Bのイオン拡散係数をD(B)とし、そのフッ化物イオンの交換NMR測定において100msのミキシングタイムでの多孔層Aと多孔層Bの間のイオン透過率(%)をr(AB)とした場合、r(AB)とD(A)とD(B)が、それぞれ以下の関係式:
r(AB) < 24
D(A) > 1×10-11
D(B) > 1×10-11
を満たす。優れた出力特性とデンドライト耐性を両立することができる新規な多層セパレータの構成が、r(AB)とD(A)とD(B)の上記関係式により特定されることが見出された。
出力特性及びデンドライト耐性をさらに向上させるという観点から、r(AB)は、好ましくは22.8以下又は22以下、より好ましくは15以下又は10以下である。r(AB)の下限値は、理論上、0を超えることができる。
なお、多層セパレータの交換NMR測定及びパルス磁場勾配NMR測定については、実施例の項目において詳述する。
S(%/ms)={(ミキシングタイム100msでのイオン透過率r(AB))-(ミキシングタイム20msでのイオン透過率r(AB))}/(100-20)
により算出される値Sをイオン透過指数S(AB)とした場合、S(AB)とD(A)とD(B)が、それぞれ以下の関係式:
S(AB) < 0.16
D(A) > 1×10-11
D(B) > 1×10-11
を満たすことが好ましい。優れた出力特性とデンドライト耐性を両立することができる新規な多層セパレータの構成が、S(AB)とD(A)とD(B)の上記関係式により特定されることが見出された。
出力特性及びデンドライト耐性をさらに向上させるという観点から、S(AB)は、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.13以下又は0.10以下である。S(AB)の下限値は、理論上、0を超えることができる。
本実施形態に係る多層セパレータの構成要素について以下に説明する。
r(AB)/D(B) < 2.40×1011
を満たすことが好ましく、r(AB)/D(B)は2.30×1011以下であることがより好ましい。r(AB)/D(B)の下限値は、r(AB)の下限値とD(B)の上限値に応じて、1×109以上であることができる。
r(AB)とS(AB)とD(A)とD(B)とr(AB)/D(B)を上記で説明された数値範囲内に制御することは、一例として、ポリオレフィン樹脂を含む多孔層Aと無機粒子を含む多孔層Bとの間に界面を設けることにより達成されることができる。層AとBの間の界面形成については、多孔層Aの表面の少なくとも一部分が、好ましくは、ポリマーで被覆され、より好ましくは、多孔層Bに含まれるポリマーとは異なるポリマーで被覆される。多孔層Aの表面を覆うポリマーは、多孔層Aに含まれるポリオレフィン樹脂と同一でも異なってもよい。また多孔層Bと接する多孔層Aの表面をあらかじめ熱ロール等に接触させることで多孔層Aの表面開口率を変化させ、多孔層Aの最表面のイオン透過性を制御してもよい。
多孔層A/多孔層B
多孔層B/多孔層A/多孔層B
多孔層A/多孔層B/多孔層A
多孔層A/層C/多孔層B
のいずれかを有することができ、かつ/又はいずれかの積層構造の繰り返しを含んでよい。また、r(AB)とS(AB)とD(A)とD(B)を上記で説明された数値範囲内に制御するという観点では、多孔層A/層C/多孔層Bという層構成が好ましい。層Cは、多孔層A及びBとは異なるものであり、r(AB)とS(AB)とD(A)とD(B)が上記で説明された関係を有する限りにおいて使用され、例えば、ポリマー皮膜、熱可塑性ポリマー含有層などである。
なお、本明細書では、層Cと多孔層A表面の被覆とは、区別して使用されるものであり、「層C」は、層AとBの間の三次元的な領域として定義され、そして「被覆」は、多孔性基材の多孔表面の少なくとも一部分を塞いでいる物として定義される。しかしながら、「層C」と「被覆」の定義は、一方で使用される樹脂が、他方で使用される樹脂と同じであることを排除する意図ではない。
多孔層Aは、ポリオレフィン樹脂を含む層である。多孔層Aの50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めることが好ましい。多孔層Aにおけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下である。
中でも、蓄電デバイス用セパレータのシャットダウン特性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
ポリプロピレンの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等、
共重合体の具体例としては、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレンプロピレンラバー等、が挙げられる。
多孔層Bは、無機粒子を含む層である。多孔層Bの50質量%以上100質量%以下を無機粒子が占めることが好ましい。多孔層Bにおける無機粒子が占める割合は、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、更に好ましくは70質量%以上100質量%以下である。
無機粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。無機粒子は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
ここでいうバインダ樹脂としては、1)共役ジエン系重合体、2)アクリル系重合体、3)ポリビニルアルコール系樹脂、及び4)含フッ素樹脂が挙げられる。
このような化合物としては、例えば、下記式(P1)で表される化合物が挙げられる。
CH2=CRY1-COO-RY2 (P1)
{式中、RY1は、水素原子又はメチル基を示し、かつRY2は、水素原子又は1価の炭化水素基を示す。}
RY2が1価の炭化水素基の場合は、置換基を有してよく、かつ/又は鎖内にヘテロ原子を有してよい。1価の炭化水素基としては、例えば、直鎖又は分岐の鎖状アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が挙げられる。
RY2の1種である鎖状アルキル基として、より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基である炭素原子数が1~3の鎖状アルキル基;n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、及びラウリル基等の、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基が挙げられる。また、RY2の1種であるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。
また、1価の炭化水素基の置換基としては、例えばヒドロキシル基及びフェニル基が挙げられ、鎖内のヘテロ原子としては、例えばハロゲン原子、酸素原子等が挙げられる。
このような(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、フェニル基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。(メタ)アクリル系化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
層Cは、多孔層A及びBとは異なるものであり、r(AB)とD(A)とD(B)が上記で説明された関係を有する限りにおいて使用されることができる。多層セパレータが層Cを有する場合には、層Cは、出力特性の観点から多孔層であることが好ましく、r(AB)<20という関係を満たし、かつ多孔層AとBの剥離を抑制する問う観点から、接着性層であることがより好ましく、接着性の観点から熱可塑性ポリマーを含むことがさらに好ましい。また、層AとBの間の界面形成という観点からは、層Cは、多孔層Bに含まれるポリマーとは異なるポリマーを含むことが好ましい。
上記熱可塑性ポリマーのうち、ジエン系ポリマー、アクリル系ポリマー又はフッ素系ポリマーは、電極活物質との結着性、強度及び柔軟性に優れるので好ましい。
本実施形態に係る多層セパレータは、例えば、以下の工程:
(a)ポリオレフィン樹脂及び可塑剤を含む組成物Aの溶融混錬及び押し出し、その後の延伸及び可塑剤抽出によって、多孔層Aとしてのポリオレフィン樹脂膜を形成する工程;
(b)多孔層Aの少なくとも一部分にポリマー皮膜を形成するか、又は多孔層A上に層Cを形成するか、又は個別に用意した多孔層B上に層Cを形成する工程;並びに
(c)多孔層Aと多孔層Bを積層する工程;
を含む方法により製造されることができる。
工程bのポリマー組成物若しくは層C形成用組成物、又は工程cの組成物Bの調製方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法などが挙げられる。
無機粒子を含む多孔層Bの最終的な厚さは、耐熱性又は絶縁性の観点から、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは1.2μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上、1.8μm以上、又は2.0μm以上であり、イオン透過性及び出力特性を向上させる観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下又は7μm以下である。
本発明の別の実施形態に係る蓄電デバイスは、正極と、上記で説明された多層セパレータと、負極と、所望により電解液とを備える。
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウムイオン二次電池がより好ましい。
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求める。ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
ダイヤルゲージ(尾崎製作所製PEACOCK No.25(商標))で試料の膜厚を測定した。MD10mm×TD10mmのサンプルを多孔膜から切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の厚さを測定した。得られた測定値の平均値を膜厚(μm)又は層厚として算出した。
なお、本実施例及び比較例において得られる各単層の厚みとしては各製造工程で得られる単層の状態で測定した。積層状態の場合、前記測定した単層の値を差し引いて算出した。共押出により単層の状態が得られないものに関しては、断面SEMから各層の厚みを算出した。
JIS P-8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製G-B2(商標))を用いて測定した。
ハンディー圧縮試験器「KES-G5」(カトーテック社製)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。固定された微多孔膜の中央部に対して、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件下で、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(gf)を測定した。
<磁場勾配NMR法によるフッ化物イオンの拡散係数Dの測定>
1.試料調製
セパレータを直径4mmφにくり抜き、厚み方向に積層して5mmの高さになるようにNMR管へ導入した。NMR管としてはシゲミ製ミクロ試料管を用いた。NMR管に、電解液として1Mのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)のエチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)の混合物(体積比1:2)溶液を加え、電解液にセパレータを一晩浸漬し、セパレータに含浸された電解液以外の余剰電解液を取り除き、得られた試料を測定に供した。
装置:JNM-ECA400(日本電子(株)製)
観測核:19F
測定周波数:372.5 MHz
ロック溶媒:なし
測定温度:30℃
パルスシーケンス:bpp_led_dosy_pfg
Δ:20 ms
δ:0.3 ms~0.6 ms
Ln(E/E0)=D×γ2×g2×δ2×(Δ-δ/3)
Δおよびδを固定してgを0からLn(E/E0)≦-3となる範囲で10点以上変化させ、Ln(E/E0)をY軸、γ2×g2×δ2×(Δ-δ/3)をX軸としてプロットした直線の傾きから拡散係数Dを算出した。
ポリオレフィン樹脂を含む多孔層Aと無機粒子を含む多孔層Bに含浸されたフッ化物イオンピークがNMRスペクトルの-90ppm~-70ppmに観測され、高磁場側に観測されるピークを多孔層A、低磁場側に観測されるピークを多孔層Bとした。この多孔層Aおよび多孔層Bのピーク高さから、多孔層Aと多孔層Bにそれぞれ含まれるフッ化物イオンの拡散係数Dを求めた。
1.試料調製
セパレータを直径4mmφにくり抜き、厚み方向に積層して5mmの高さになるようにNMR管へ導入した。但し、無機粒子を含む多孔層Bは多孔層Aとは重ねず、必ず多孔層B同志が重なるように積層する。NMR管としてはシゲミ製ミクロ試料管を用いた。NMR管に、電解液として1MのLiTFSIのECとMECの混合物(体積比1:2)溶液を加え、電解液にセパレータを一晩浸漬し、セパレータに含浸された電解液以外の余剰電解液を取り除き、得られた試料を測定に供した。
装置:JNM-ECS400(日本電子(株)製)
観測核:19F
測定周波数:376.2 MHz
ロック溶媒:なし
測定温度:30℃
パルスシーケンス:noesy_phase
直接観測軸ポイント数:1024
間接観測軸ポイント数:256
ミキシングタイム(mixing time):20 ms、100 ms
100msのmixing timeで交換NMR測定を行い、多孔層Aから多孔層Bに移動するフッ化物イオンの透過率r(AB)を以下のように求めた。
図1は、ポリオレフィン樹脂を含む多孔層Aと無機粒子を含む多孔層Bを備える蓄電デバイス用多層セパレータにおけるイオン拡散挙動を説明するための模式図である。図1には、多孔層Aに含浸されたフッ化物イオンの拡散挙動1、多孔層Bに含浸されたフッ化物イオンの拡散挙動2、多孔層Aから多孔層Bに移動したフッ化物イオンの拡散挙動3、及び多孔層Bから多孔層Aに移動したフッ化物イオンの拡散挙動4が示される。
100msのmixing timeでの交換NMRスペクトルの一例である図2(a)を参照して、直接観測軸の-90ppm~-70ppmに観測されるピークのうち、高磁場側を多孔層Aに含浸されたフッ化物イオンピーク、低磁場側を多孔層Bに含浸されたフッ化物イオンピークとし、この多孔層Aのピーク最大値でスライスデータ(図3)を取得した。
スライスデータ(図3)の多孔層Aのピーク位置は、対角ピーク(多孔層Aに含浸されたフッ化物イオンを表し、図1の概略図に示されるイオン拡散挙動1と対応する)であり、多孔層Bのピーク位置は交差ピーク(多孔層Aから多孔層Bに移動したフッ化物イオンを表し、図1の概略図に示されるイオン拡散挙動3と対応する)である。
下記式:
交差ピーク面積/(対角ピーク面積+交差ピーク面積)×100
から求めた値(%)をイオン透過率r(AB)とした。
なお、ピークが近接している場合は、ピークとピークの間の極値から直接観測軸に引いた垂線により、対角ピークと交差ピークを分離してそれぞれの面積を求めた。
mixing timeについて20ms(例えば図2(b)の場合)と100ms(例えば図2(a)の場合)での交換NMR測定を行い、mixing timeが20msと100msのデータそれぞれについてイオン透過率r(AB)を算出した。mixing timeが20msと100msにおけるイオン透過率r(AB)の変化率S(%/ms)を下記式:
S=(100msでのイオン透過率r(AB))-(20msでのイオン透過率r(AB))/(100-20)
により算出して、イオン透過指数S(AB)とした。
a.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm3、容量密度175mAh/g)を90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm3、数平均粒子径48nm)を3.8質量%、並びにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(密度1.75g/cm3)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥する工程を行った後、ロールプレス機を用いて圧延した。この時の正極活物質塗布量は109g/m2であった。
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm3、数平均粒子径12.7μm)を87.6質量%及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を9.7質量%、並びにバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥する工程を行った後、ロールプレス機を用いて圧延した。この時の負極活物質塗布量は52g/m2であった。
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒(キシダ化学(株)製Lithium Battery Grade)に、LiPF6を1mol/Lとなるように溶解した。添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を2wt%、プロパンスルトン(PS)を0.5wt%添加し、非水電解質電解液を得た。
セパレータを直径24mmの円形に打抜き、項目a.で作製した正極を面積2.00cm2の円形に打ち抜き、項目b.で作製した負極を面積2.05cm2の円形に打ち抜いた。
正極と負極の活物質面が対向するように、鉛直方向の下から負極、セパレータ、正極の順に重ね、アルミ製の蓋付ステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内に前記した非水電解液を注入して密閉して、容量3mAhの簡易電池を組み立てた。
項目d.で得た電池を、25℃の環境下、0.3Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で充電して、0.3Cの定電流で3.0Vまで放電した。定電流での充電と定電圧での充電時間の合計を8時間とした。なお、1Cとは電池が1時間で放電される電流値である。
次に、簡易電池を0.3Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で充電して、0.3Cの定電流で3.0Vまで放電した。定電流での充電と定電圧での充電時間の合計を5時間とし、0.3Cの定電流で放電した時の容量を0.3C放電容量(mAh)とした。
次に、簡易電池を0.3Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で充電して、10Cの定電流で3.0Vまで放電した。定電流での充電と定電圧での充電時間の合計を5時間とし、10Cの定電流で放電した時の容量を10C放電容量(mAh)とした。
下記式より0.3C放電容量に対する10C放電容量の割合を算出し、この値を出力特性とした。
出力特性(%)=(10C放電容量/0.3C放電容量)×100
得られた出力特性は、下記基準で評価した。
A:出力特性が、60%超
B:出力特性が、50%超60%以下
C:出力特性が、40%超50%以下
D:出力特性が、23%超40%以下
E:出力特性が、23%以下
a.非水電解液の調製
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比1:2で混合した混合溶媒(キシダ化学(株)製Lithium Battery Grade)に、LiPF6を1mol/Lとなるように溶解して、非水電解質電解液を得た。
セパレータを直径24mmの円形に打抜き、金属リチウム箔(厚さ0.5mm、本城金属製)を面積2.00cm2の円形と面積2.05cm2の円形に打ち抜いた。正極と負極の活物質面が対向するように、鉛直方向の下から金属リチウム箔(2.05cm2)、セパレータ、金属リチウム箔(2.05cm2)の順に重ね、アルミ製の蓋付ステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋とは絶縁されており、容器は下側リチウム箔と、蓋は上側リチウム箔と接している。この容器内に、デンドライト短絡試験の項目a.で得られた非水電解液を注入し、容器を密閉して評価セルを組み立てた。
上記のようにして組み立てた、正負極に金属Liを用いた評価セルに2mA/cm2、5mA/cm2、10mA/cm2、17mA/cm2、25mA/cm2の順に、10分間電流を流し、10分間の休止を繰り返すことによってLiの溶解析出に伴うデンドライトを発生させ、電圧をモニターし、短絡が生じる電流値を確認した。なお、短絡の判断としては、電圧変動がΔ0.025Vとなる不連続な点が10点以上確認できた場合、または電圧が完全に0Vとなった場合を短絡と判断した。下記基準に従って試験結果を評価した。
S:短絡せず
A:25mA/cm2で短絡
B:17mA/cm2で短絡
C:10mA/cm2で短絡
D:5mA/cm2で短絡
E:2mA/cm2で短絡
樹脂バインダー(b-1)を含むラテックスを80℃のオーブン中に9時間静置した後、更に80℃で12時間真空乾燥を行い、樹脂バインダー(b-1)の乾燥物を得た。得られた樹脂バインダー(b-1)の乾燥物約0.5gの質量を秤量し、浸漬前質量(WA)とした。この樹脂バインダー(b-1)乾燥物を、25℃のエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=2:3(体積比)の混合溶媒10gと共に50mLのバイアル瓶に入れ、24時間浸漬した後、サンプルを取り出し、タオルぺーパーで拭き取った直後に質量を測定し、浸漬後質量(WB)とした。
樹脂バインダー(b-1)の電解液膨潤度は、以下の式より算出した。
膨潤度(%)=WB/WA×100
なお、上記の式において、樹脂バインダー(b-1)サンプルが上記混合溶媒に膨潤も溶解もしない場合、膨潤度は100%となる。
製造例A-1
粘度平均分子量(Mv)が70万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを47.5質量部と、Mvが30万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを47.5質量部と、Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレン5質量部と、をタンブラーブレンダーでドライブレンドした。得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーでドライブレンドすることにより、混合物を得た。
塗料A
無機粒子として95.0質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、非溶解イオン性バインダとして4.6質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下、構成モノマー:ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸)を添加することによって塗料Aを作製した。
無機粒子として85.0質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、非溶解イオン性バインダとして14.6質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下、構成モノマー:ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸)を添加することによって塗料Bを作製した。
無機粒子として80.0質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、非溶解イオン性バインダとして4.6質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下、構成モノマー:ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸)と、イオン性流動調整剤として15.0重量部のカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル製1220)を添加することによって塗料Cを作製した。
無機粒子として78.0質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)と、表面張力調整剤として0.6質量部(固形分換算)の脂肪族ポリエーテル水溶液(サンノプコ社製 E-D057、固形分濃度40%、静的表面張力35mN/m(0.1質量%水溶液、25℃))とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、非溶解イオン性バインダとして4.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下、構成モノマー:ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸)と、有機粒子として17.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度23%、平均粒径450nm、ガラス転移温度55℃、構成モノマー:シクロヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート)を添加することによって塗料Fを作製した。
表1に示される基材、塗料、塗工方法、層構成、セパレータ製法などに従って、セパレータを作製し、上記物性又はセル特性の測定又は評価を行った。測定・評価結果も表1に示す。
多孔層基材(多孔膜A-1)を繰出機より繰り出し、連続的に表面へコロナ放電処理を施し、アクリルラテックス(固形分25%、平均粒径400nm、ガラス転移温度50℃、膨潤度300%、構成モノマー:シクロヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、アクリルアミド、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)塗料を、グラビアリバースコーターを用いて塗工し、続いて、60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し巻き取った。巻き取った捲回体を繰り出し、塗布面上に塗料1(実施例1では塗料A、実施例2では塗料B)を、グラビアリバースコーターを用いて塗工し、続いて、60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し巻き取った。多層膜A-1が多孔層A、塗料1による塗工層が多孔層Bとする。
多孔層基材を繰出機より繰り出し、連続的に表面をコロナ放電処理を施し、塗料を、グラビアリバースコーターを用いて塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取った。両面塗工の場合は、多孔層基材の裏面も同様に塗工し、多層セパレータを作製した。
なお、比較例4については、多孔膜A-1の片面に塗料Bを塗工し、さらに塗料Bの塗工面にアクリルラテックス(固形分25%、平均粒径400nm、ガラス転移温度50℃、膨潤度300%、構成モノマー:シクロヘキシルメタクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、アクリルアミド、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)塗料を塗工した。
2 多孔層Bに含浸されたフッ化物イオンの拡散挙動
3 多孔層Aから多孔層Bに移動したフッ化物イオンの拡散挙動
4 多孔層Bから多孔層Aに移動したフッ化物イオンの拡散挙動
Claims (9)
- ポリオレフィン樹脂を含む多孔層Aと無機粒子を含む多孔層Bを備える蓄電デバイス用多層セパレータであって、
前記蓄電デバイス用多層セパレータのフッ化物イオンのパルス磁場勾配NMR測定において前記多孔層Aのイオン拡散係数をD(A)、前記多孔層Bのイオン拡散係数をD(B)とし、かつ前記蓄電デバイス用多層セパレータのフッ化物イオンの交換NMR測定において100msのミキシングタイムでの前記多孔層Aと前記多孔層Bの間のイオン透過率(%)をr(AB)とした場合、r(AB)とD(A)とD(B)が、それぞれ以下の関係式:
r(AB) < 24
D(A) > 1×10-11
D(B) > 1×10-11
を満たす、蓄電デバイス用多層セパレータ。 - 前記r(AB)と前記D(B)が、以下の関係式:
r(AB)/D(B) < 2.40×1011
を満たす、請求項1に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。 - 前記多孔層Aの表面の少なくとも一部分が、ポリマーで被覆されている、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
- 前記多孔層Aの表面の少なくとも一部分が、前記多孔層Bに含まれるポリマーとは異なるポリマーで被覆されている、請求項3に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
- 前記多孔層Aと前記多孔層Bの間に、前記多孔層Bに含まれるポリマーとは異なるポリマーを含む層Cを備える、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
- 前記r(AB)と前記D(A)と前記D(B)が、それぞれ以下の関係式:
r(AB) > 0
D(A) ≦ 1×10-10
D(B) ≦ 1×10-10
を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。 - 前記r(AB)と前記D(B)が、以下の関係式:
r(AB)/D(B) > 1×109
を満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。 - 前記蓄電デバイス用多層セパレータのフッ化物イオンの交換NMR測定において、下記式:
S(%/ms)={(ミキシングタイム100msでのイオン透過率r(AB))-(ミキシングタイム20msでのイオン透過率r(AB))}/(100-20)
により算出される値Sをイオン透過指数S(AB)とした場合、S(AB)が、以下の関係式:
S(AB) < 0.16
を満たす、請求項1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。 - 前記S(AB)が、以下の関係式:
S(AB) > 0
を満たす、請求項8に記載の蓄電デバイス用多層セパレータ。
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