以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
<1.レーダ装置の構成>
図1は、実施形態のレーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば自動車などの車両に搭載される。
以下、レーダ装置1が搭載される車両を「自車両」という。また、自車両の直進進行方向であって、運転席からハンドルに向かう方向を「前方向(前方)」という。また、自車両の直進進行方向であって、ハンドルから運転席に向かう方向を「後方向(後方)」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方を向いている運転手の右側から左側に向かう方向を「左方向」という。また、自車両の直進進行方向及び鉛直線に垂直な方向であって、前方を向いている運転手の左側から右側に向かう方向を「右方向」という。
レーダ装置1は自車両の前端に搭載される。レーダ装置1は、周波数変調した連続波であるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)を用いて、自車両の前方に存在する物標に係る物標データを取得する。
レーダ装置1は、自車両の直進進行方向における物標の距離(以下「縦距離」という)[m]、自車両に対する物標の相対速度[km/h]、自車両の左右方向における物標の距離(以下「横距離」という)[m]などのパラメータを有する物標データを導出する。縦距離は、例えば自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点とし、自車両の前方では正の値、自車両の後方では負の値で表現される。横距離は、例えば自車両のレーダ装置1を搭載している位置を原点とし、自車両の右側では正の値、自車両の左側では負の値で表現される。
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部2と、受信部3と、信号処理装置4と、を主に備える。
送信部2は、信号生成部21と、発信器22と、を備える。信号生成部21は、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発信器22に供給する。発信器22は、信号生成部21で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ23に出力する。
送信アンテナ23は、発信器22からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の前方に出力する。送信アンテナ23が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFMCWとなる。送信アンテナ23から自車両の前方に送信された送信波TWは、人、他車両などの物体で反射されて反射波RWとなる。
受信部3は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ31と、その複数の受信アンテナ31に接続された複数の個別受信部32と、を備える。本実施形態では、受信部3は、例えば4つの受信アンテナ31と4つの個別受信部32とを備える。4つの個別受信部32は、4つの受信アンテナ31にそれぞれ対応する。各受信アンテナ31は物体からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部32は対応する受信アンテナ31で得られた受信信号を処理する。
各個別受信部32は、ミキサ33と、A/D変換器34と、を備える。受信アンテナ31で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ33に送られる。ミキサ33には送信部2の発信器22からの送信信号が入力され、ミキサ33において送信信号と受信信号とがミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を有するビート信号が生成される。ミキサ33で生成されたビート信号は、A/D変換器34でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置4に出力される。
信号処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ41などを含むマイクロコンピュータを備える。信号処理装置4は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ41に記憶する。メモリ41は、例えばRAM(Random Access Memory)などである。信号処理装置4は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部42、フーリエ変換部43、及びデータ処理部44を備える。
送信制御部42は、送信部2の信号生成部21を制御する。
フーリエ変換部43は、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を行う。これにより、フーリエ変換部43は、複数の受信アンテナ31それぞれの受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部43で得られた周波数スペクトラムは、データ処理部44に入力される。
データ処理部44は、物標データ取得処理を行い、複数の受信アンテナ31それぞれの周波数スペクトラムに基づいて、自車両の前方の物標に係る物標データを取得する。また、データ処理部44は、物標データを車両制御ECU61などに出力する。
図1に示すように、データ処理部44は、主な機能として、物標データ導出部45、物標データ処理部46、及び物標データ出力部47を備える。
物標データ導出部45は、フーリエ変換部43で得られた周波数スペクトラムに基づいて物標に係る物標データを導出する。物標データ導出部45は、ピーク抽出、方位演算、ペアリング、距離算出及び相対速度算出などの各種の処理を行う。
物標データ処理部46は、導出された物標データを対象にしてフィルタリング、グループ化などの各種の処理を行う。物標データ処理部46は、結合処理部46aを備える。結合処理部46aは、複数の物標同士の関係が予め定められた結合条件を満足する場合に、それら複数の物標データを同一の物標に係る物標データとして一つのグループに結合する。結合処理部46aは、新規グループ結合部46b、既存クループ結合部46c、分離部46d、及び仮角度導出部46eを備える。新規グループ結合部46b、既存クループ結合部46c、分離部46d、及び仮角度導出部46eのそれぞれが行う処理の詳細については後述する。
物標データ出力部47は、物標データを車両の挙動を制御する車両制御ECU61などに出力する。これにより、車両制御ECU61などは、物標データを例えばACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-crash Safety System)に用いることができる。
<2.信号処理装置の動作>
次に、信号処理装置4の動作について説明する。図2は、信号処理装置4の動作を示すフローチャートである。信号処理装置4は、図2に示す物標データ取得処理を一定時間(例えば1/20秒)ごとに周期的に繰り返す。
図2に示す処理の開始前に、送信制御部42による信号生成部21の制御が完了する。まず、フーリエ変換部43が、複数の個別受信部32のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換を行う(ステップS101)。そして、4つの受信アンテナ31の全てに関してアップ区間(送信波TWの周波数が上昇する区間)及びダウン区間(送信波TWの周波数が下降する区間)の双方の周波数スペクトラムが、フーリエ変換部43からデータ処理部44に入力される。
次に、物標データ導出部45が、周波数スペクトラムを対象にピーク周波数を抽出する(ステップS102)。物標データ導出部45は、周波数スペクトラムのうち、所定の閾値を超えるパワーを有するピークが表れる周波数を、ピーク周波数として抽出する。
次に、物標データ導出部45は、方位演算処理を行い、抽出したピーク周波数の信号に係る物標の角度を推定する。方位演算処理により推定された角度は角度スペクトラムにおいてピークとして表れることから「ピーク角度」と呼び、ピーク角度の信号のパワーを「角度パワー」と呼ぶ。方位演算処理では、一つのピーク周波数の信号から、複数のピーク角度、及びそれら複数のピーク角度それぞれの信号の角度パワーが導出される。一つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、同一の縦距離(当該ピーク周波数に対応する縦距離)に存在する複数の物標の角度を示す。なお、方位演算処理としては、ESPRIT、MUSIC、PRISMなどの周知の方位演算処理を用いることができる。
物標データ導出部45は、同一の縦距離に存在する複数の物標それぞれのピーク角度と、角度パワーとを導出する(ステップS103)。
これにより、物標データ導出部45は、自車両の前方に存在する複数の物標それぞれに対応する区間データを導出する。物標データ導出部45は、アップ区間及びダウン区間の双方で、ピーク周波数、ピーク角度及び角度パワーのパラメータを有する区間データを導出する。
次に、物標データ導出部45は、ペアリング処理を行い、アップ区間の区間データとダウン区間の区間データとを対応付ける(ステップS104)。物標データ導出部45は、例えばマハラノビス距離を用いた演算を用いて、類似のパラメータ(ピーク周波数、ピーク角度及び信号のパワー)を有する2つの区間データを対応付ける。
物標データ導出部45は、さらに、アップ区間及びダウン区間の2つの区間データの対応付けができた場合に、それら2つの区間データに基づくペアデータを導出する。物標データ導出部45は、導出したペアデータのそれぞれに関して、ペアデータの元となったアップ区間及びダウン区間の2つの区間データのパラメータを用いることで、ペアデータのパラメータ(縦距離、相対速度及び横距離)を導出する(ステップS105)。
次に、物標データ導出部45は、導出したペアデータのうちから物標に係る物標データを確定する。物標データ導出部45が導出したペアデータには、ノイズなどの不要なデータが含まれる。このため、物標データ導出部45は、導出したペアデータのうち物標に係るペアデータのみを物標データとして確定する。
物標データ導出部45は、パラメータに基づいて、導出したペアデータのそれぞれを過去に確定した物標データと対応付ける。物標データ導出部45は、類似のパラメータ(縦距離、相対速度及び横距離)を有するペアデータと過去の物標データとを対応付ける。そして、物標データ導出部45は、過去の物標データと対応付けができたペアデータを、物標に係る物標データとして確定する。
また、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータには、新規に表れた物標に係る物標データも含まれる。このため、物標データ導出部45は、過去の物標データとの対応付けができなかったペアデータについては、次回以降の物標データ取得処理において所定回数(例えば3回)以上連続して過去のペアデータと対応付けができた場合に、新規に表れた物標に係る物標データとして確定する。
このような処理により、物標データ導出部45は、自車両の周辺の物標に係る物標データを導出する。物標データ取得処理は一定時間(例えば1/20秒)ごとに周期的に繰り返されることから、物標データ導出部45は、物標に係る物標データを一定時間ごとに導出することになる。
物標データ処理部46は、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横距離)を時間軸方向に平滑化するフィルタリングを行う(ステップS106)。このようなフィルタリングの後の物標データは、瞬時値を表すペアデータに対して「フィルタデータ」とも呼ばれる。
次に、物標データ処理部46が、物標データのパラメータ(縦距離、相対速度及び横距離)に基づいて、同一の物体に係る物標データであると推測できる複数の物標データを1つのグループに結合する(ステップS107)。グループ化処理に関する詳細については後述する。
最後に物標データ出力部47が、このように処理された物標データを車両制御ECU61などに送る。物標データ出力部47は、グループ化された物標データから所定数(例えば10個)の物標データを出力対象として選択する(ステップS108)。物標データ出力部47は、物標データの縦距離と横距離と相対速度とを考慮して、自車両に近い物標に係る物標データを優先的に選択する。
以上の処理で出力対象として選択された物標データはメモリ41に記憶され、次回以降の物標データ取得処理において過去の物標データとして用いられることになる。
なお、図2を用いて説明した物標データ取得処理は、前述のように一定時間(例えば1/20秒)ごとに周期的に繰り返されるが、以下の説明では、今まさに行われている1サイクルの物標データ取得処理のことを「今回の処理」と呼び、当該今回の処理の直前に行われた1サイクルの物標データ取得処理のことを「前回の処理」と呼ぶ。
<3.物標データのグループ化処理>
次に、図2に示す処理フローのステップS107の、物標データのグループ化処理について説明する。図3及び図4は、信号処理装置4による物標データのグループ化処理前及びグループ化処理後の説明図である。なお、図3及び図4の上下方向が自車両に対する進行方向であって物標に対する縦距離に係る方向であり、図3及び図4の左右方向が自車両に対する左右方向であって物標に対する横距離に係る方向である。後述する図7~図12においても同様である。
図3に示すように、レーダ装置1を搭載する自車両の前方に1台の他車両Vが存在する場合に、この1台の他車両Vに対して複数の反射点が存在し、複数の物標データTr1、Tr2、Tr3が検出されることがある。そこで、物標データ処理部46の結合処理部46aは、複数の物標データを同一の物標に係る物標データとして一つのグループに結合するグループ化処理を行う。複数の物標データのグループ化には、例えばレーダ装置1から縦距離が最も近い物標を基準物標とし、この基準物標の位置から所定範囲内に存在し、且つ略同一の相対速度を有する物標がグループ化の対象になるといった予め定められた結合条件を満足するか否かに基づいて行われる。
具体的に言えば、例えば図3に示すように縦距離が最も近い物標データTr1を基準物標とし、物標データTr2、Tr3が、物標データTr1の位置から所定範囲内に存在し、且つ物標データTr1と同程度の速度を有する場合、それらが一つのグループに結合され、図4に示す物標データTgが導出される。なお、上述の略同一の相対速度とは、例えば、物標データTr1の相対速度との差が±1[km/h]以内の場合である。
物標データTgは、1台の他車両Vに対して検出された複数の物標データTr1、Tr2、Tr3がグループとして結合された後の単一の物標データである。物標データTgの横距離Dxは、複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれの横距離Dxの平均値から導出される。物標データTgの縦距離Dyは、複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれの縦距離Dyのうちの最小縦距離、すなわち自車両から最も近い物標データTr1の縦距離Dyから導出される。
なお、図3及び図4に示すように、レーダ装置1は、物標の検出方向正面の横方向中央に対して右方向、左方向それぞれの所定角度θdの範囲が、物標データの検出可能範囲Rdとして設定される。物標データの検出可能範囲とは、レーダ装置1が物標からの反射波を検出することができる範囲である。検出可能範囲Rdにおける物標からの反射波のレベルは所定値未満であり、検出可能範囲Rdにおける物標データの信頼性は、次に説明する検出保証範囲Rtよりも低い。
また、レーダ装置1は、物標の検出方向正面の横方向中央に対して右方向、左方向それぞれの所定角度θtの範囲が、物標データの検出保証範囲Rtとして設定される。物標データの検出保証範囲とは、レーダ装置1が検出した物標データの信頼性が一定以上保証される範囲である。
物標からの反射波のパワーは、レーダ装置の物標検出方向正面の横方向中央に対して、角度が大きくなるにつれて小さくなる。その結果、ビート信号のFFT処理後に導出される角度パワーの大きさが検出保証範囲の物標に関する角度パワーの大きさよりも小さくなり、正確な角度が導出され難くなる。そのため、予め実施した実験等による結果から、物標からの反射波のレベルが所定値以上であり、物標データの信頼性が一定以上保証される範囲を検出保証範囲として予め設定される。
なお、例えば物標データの検出可能範囲Rdを表す所定角度θdは50[deg]であり、例えば物標データの検出保証範囲Rtを表す所定角度θtは23.5[deg]である。そのため、検出可能範囲Rdは例えば100[deg]であり、検出保証範囲Rtは例えば47.0[deg]である。
レーダ装置1は、検出可能範囲Rdにおいて物標データの検出が可能であるが、より信頼性が高い検出保証範囲Rtにおける物標データを車両制御ECU61などに出力する。
続いて、物標データのグループ化処理のより詳細な流れについて、図5を用いて説明する。図5は、信号処理装置4による物標データのグループ化処理を示すフローチャートである。
なお、物標データのグループ化処理は、前回の処理で結合対象となった物標データが今回の処理で連続性がとれている(対応付けができている)場合に、今回の処理の複数の物標データの相対速度等から結合条件を満足するか否かを判定する。
物標データのグループ化処理では、まず、結合処理部46aの分離部46dが、前回の処理において複数の物標データが既に結合された既存グループに対して分離処理を行う(ステップS201)。分離部46dは、分離処理において、既存グループを構成する複数の物標同士の関係が結合条件を満足しなくなった場合に、結合条件を満足しなくなった物標データを異なる物体に係る物標データとして既存グループから分離する。なお、前回の処理において結合された既存グループがない場合、分離処理は行われない。
上述の分離処理について、具体的に言えば、例えば前回の処理において、グループとして結合した一つの物標データが、実際には並走する2台の他車両に係る複数の物標データが結合されていた場合、分離処理により今回の処理におけるこれらの物標データは結合の対象としない。このとき、2台の他車両の速度が変わることなどによって、複数の物標データが、相対速度が略同一の結合条件を満足しなくなることが判別される。なお、結合条件を満足するとき、分離処理は行われない。
次に、結合処理部46aの既存グループ結合部46cは、グループに属さない物標データのうち、前回の処理において複数の物標データが既に結合された既存グループに対する結合条件を満足する物標データについて、既存グループへの結合処理を行う(ステップS202)。すなわち、既存グループ結合部46cは、今回の処理で新たに導出された物標(新規物標)が、既存グループの結合条件を満足する場合に、既存グループに結合する。
具体的に言えば、例えば前回の処理において、3つの物標データが結合されて既存グループが形成され、グループに属さない新規物標データが当該既存グループの結合条件を満足する場合に、この物標データが第4の物標データとして当該既存グループに結合される。
次に、結合処理部46aの新規グループ結合部46bは、グループに属さない複数の物標データのうち、結合条件を満足する物標データについて、一つの新規グループとしての結合処理を行う(ステップS203)。すなわち、新規グループ結合部46bは、今回の処理で新たに導出された物標、ステップS201で分離された物標、及びステップS202でグループに結合されなかった物標のようにいずれのグループにも属さないのうち、新規に結合条件を満足する複数の物標データを新規グループとして結合する。なお、ある一つの物標データがいずれのグループにも属さない場合は、その一つの物標データのみを新規グループとする結合処理が行われる。
次に、結合処理部46aが、グループ間結合処理を行う(ステップS204)。結合処理部46aは、グループ間結合処理において、物標データのグループ同士の関係が予め定められた結合条件を満足する場合に、それらグループ同士を同一の物標に係る物標データとして一つのグループに結合する。グループ間結合処理の結合条件は、ステップS201、S202、S203で用いたグループ自体の結合処理の結合条件よりも厳しい条件が用いられる。すなわち、通常のグループ自体の結合よりも、結合条件に相当する範囲が狭い。例えば、距離に関して言えば、グループ自体の結合処理で並走を判別する距離よりもさらに短い距離で並走を判別する。
以上のとおり、物標データのグループ化処理について説明したが、ステップS201(分離処理)、ステップS202(既存グループ結合処理)、ステップS203(新規グループ結合処理)では、一つのグループとして結合された物標データの位置が検出保証範囲外になることを防止するために、仮角度導出部46eが、グループを構成する複数の物標データそれぞれに係る仮角度を導出する。そして、結合処理部46aは、物標データのグループ化処理に対して、仮角度による判別を適用する。
以下、仮角度導出部46eを用いた、仮角度による判別を適用した物標データのグループ化処理について詳細に説明する。
<4.第1実施形態>
<仮角度による判別を適用した物標データの分離処理>
仮角度による判別を適用した物標データの分離処理について、図6を用いて説明する。図6は、信号処理装置4による物標データの分離処理を示すフローチャートである。なおここでは、グループ化処理のうちの物標データの分離処理に関して、図3及び図4の説明図を用いて説明する。
分離処理では、まず、分離部46dが、既存グループを構成する各物標データTr1、Tr2、Tr3(図3参照)の分離判定を行う(ステップS301)。例えば、相対速度が略同一という結合条件を満足しなくなった物標データは、今回の処理において、異なる物体に係る物標データとして既存グループから分離する判定がなされる。一方、結合条件を満足する物標データTr1、Tr2、Tr3は、今回の処理においても、既存グループを構成する物標データとして判定される。
次に、既存グループの結合条件を満足する物標データが存在する場合は、既存グループを構成する物標データとして判定された複数の物標データTr1、Tr2、Tr3に関して、仮角度導出部46eが、複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれに係る仮角度を導出する(ステップS302)。仮角度とは、結合前は検出保証範囲Rt内において検出された物標データが、グループとして結合されることで検出保証範囲Rt外になるか否かを判断するための条件である。
なお、基準物標である物標データTr1から見て結合条件の所定範囲内に存在する物標データについて仮角度を導出し、検出保証範囲Rt外になるか否かを判断するため、基準物標である物標データTr1については仮角度を導出しない。
仮角度導出部46eは、グループとしての結合条件を満足する複数の物標データTr2、Tr3それぞれの横距離Dxと、結合条件を満足する複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれの縦距離Dyのうちの最小縦距離、すなわち基準物標である物標データTr1の縦距離Dyと、に基づき複数の物標データTr2、Tr3それぞれに係る仮角度を導出する。物標データの仮角度は下記式(1)によって導出される。なお、式(1)により物標データTr2の仮角度が導出される場合は、物標データTr2の横距離が横距離Dxに代入される。また、式(1)により物標データTr3の仮角度が導出される場合は、物標データTr3の横距離が横距離Dxに代入される。
式(1) 仮角度[deg]=(ATAN(Dx/Dy))×180/π
次に、分離部46dが、物標データTr2、Tr3それぞれに係る仮角度が予め定められた所定値を超えているか否か、すなわち検出保証範囲Rt外であるか否かを判別する(ステップS303)。例えば、物標データの検出保証範囲Rtを表す所定角度θtは、物標の検出方向正面の横方向中央に対して右方向、左方向それぞれにおいて23.5[deg]である。
物標データの仮角度が検出保証範囲Rt外である場合、すなわち仮角度が所定値を超えている場合(ステップS303のYes)、分離部46dは、仮角度が所定値を超えている物標データを既存グループから分離する(ステップS304)。すなわち、結合処理部46aは、仮角度が所定値を超える物標データの既存グループへの結合を禁止する。これにより、結合対象となる物標の位置によって結合後の物標が検出保証範囲Rt外になることを防止することができる。すなわち、検出保証範囲Rt内に存在する物標データを適正に検出することが可能になる。したがって、レーダ装置1は、物標データを検出保証範囲Rt内に存在するものとして車両制御ECU61に出力することが可能になる。
また、仮角度は、結合条件を満足する物標データの横距離及び縦距離に基づき導出されるので、仮角度が検出保証範囲Rt内であるか否かを容易に判別することができる。さらに、グループに結合された物標データが複数である場合、複数の物標データそれぞれに係る仮角度は、結合条件を満足する複数の物標データそれぞれの横距離と、結合条件を満足する複数の物標データそれぞれの縦距離のうちの最小縦距離と、に基づき導出される。これにより、最小縦距離の基準物標から見て、結合条件を満足する複数の物標データそれぞれの仮角度が検出保証範囲Rt内であるか否かを容易に判別することができる。
そして、分離部46dは、仮角度が所定値を超えている物標データに対して、他の物標データとの結合を禁止する結合禁止情報を付加する。例えば、分離部46dは、仮角度が所定値を超えている物標データに対して結合禁止フラグをONにする(ステップS305)。
これにより、結合禁止フラグがONの物標データは、図5に示した物標データのグループ化処理において、分離処理の後に続く既存グループ結合処理(ステップS202)、新規グループ結合処理(ステップS203)で、グループ化の対象とならない。すなわち、一の物標データと他の物標データとが結合の対象とはならない。したがって、不要なグループ化処理が生じることを抑制することができる。また、仮角度が所定値を超えている物標データの、グループへの結合を禁止することで、今回の処理において、再度グループに結合されてしまうことを防止することができる。
そして、分離部46dは、ステップS305の処理を終えると、図6に示すフロー動作を終了する。
なお、結合処理部46aは、結合禁止情報が付加された物標データを出力しない。これにより、必要な物標データをメモリ41に記憶することが可能である。
ここで、例えばステップS301の分離判定が終了した段階で、既存グループを構成する物標データTr1、Tr2が図7に示す位置関係である場合について考える。図7は実施例1の、物標データの分離処理における結合前の物標データの説明図である。なお、レーダ装置1から縦距離が最も近い物標データTr1は基準物標である。
図7に示すように、分離判定後の、1台の他車両Vに対して検出された、既存グループを構成する複数の物標データTr1、Tr2が存在する。例えば、物標データTr1は、横距離Dx1が4[m]であり、縦距離Dy1が8[m]である。また例えば、物標データTr2は、横距離Dx2が4[m]であり、縦距離Dy2が15[m]である。
この状態において、仮に、物標データの分離処理で、仮角度による判別を適用しない場合、図8に示すグループに結合後の物標データTgの横距離Dxgは、複数の物標データTr1、Tr2それぞれの横距離Dx1、Dx2の平均値から導出される。すなわち、結合後の物標データTgの横距離Dxgは、4[m]である。また、結合後の物標データTgの縦距離Dygは、自車両から最も近い物標データTr1の縦距離Dy1から導出される。すなわち、結合後の物標データTgの縦距離Dygは、8[m]である。
結合後の物標データTgの横距離Dxg=4[m]と、縦距離Dyg=8[m]から結合後の物標データTgの角度を導出すると、26.6[deg]となる。すなわち、図8に示すように、グループに結合後の物標データTgの位置は、物標データの検出保証範囲Rt(θt=23.5[deg])を超えた位置になってしまう。
そこで、本実施形態では、結合処理部46aが、物標データの分離処理において、物標データの結合に関して仮角度による判別を適用する。仮角度導出部46eは、図7に示す状態において、結合前の物標データTr2に対して、上記式(1)を用いて仮角度を導出する。基準物標である物標データTr1については仮角度を導出しない。
物標データTr2に係る仮角度は、結合前の物標データTr2の横距離Dx2=4[m]と、物標データTr1、Tr2それぞれの縦距離Dyのうちの最小縦距離である物標データTr1の縦距離Dy1=8[m]と、に基づき、26.6[deg]である。
したがって、図9に示すように、分離部46dは、仮角度が所定値である物標データの検出保証範囲Rt(θt=23.5[deg])を超えている物標データTr2を既存グループ(物標データTg)から分離する。ここで、分離するとは、前回処理では結合対象であった一の物標データと他の物標データとが、今回処理では結合の対象ならないことを意味する。なお、前回処理で検出された一の物標データと他の物標データが、今回処理でも時間的な連続性を有して検出されているものとする。すなわち、結合処理部46aは、物標データTr2のグループへの結合を禁止するものであり、物標データTr1とTr2とを結合対象としない。これにより、物標データTr1が検出保証範囲Rt外となる場合でも、結合前は検出保証範囲Rt内において検出された物標データTr2が、グループとして結合されることで検出保証範囲Rt外になることを防止することができる。このようにして、レーダ装置1は、検出保証範囲Rt内に存在する物標データTr2を適正に検出することが可能となり、物標データの信頼性の低下を防止できる。
なお、レーダ装置1に対して、1台の車両(例えば、自車両の先行車)の複数の反射点から反射波が取得される場合がある。この実施の形態においては、物標データTr1とTr2が複数の反射点からの反射波に関する物標データとなる。このような場合に、複数の物標データが結合されてグループ化される場合もあれば、1つの物標データのみでグループ化される場合もある。すなわち、複数ではなく、1つの物標データだけであってもグループが形成されることがある。
またここで、例えばステップS301の分離判定が終了した段階で、既存グループを構成する物標データTr1、Tr2が図10に示す位置関係である場合について考える。図10は実施例2の、物標データの分離処理における結合前の物標データの説明図である。なお、レーダ装置1から縦距離が最も近い物標データTr1は基準物標である。
図10に示すように、分離判定後の、1台の他車両Vに対して検出された、既存グループを構成する複数の物標データTr1、Tr2が存在する。例えば、物標データTr1は、横距離Dx1が4[m]であり、縦距離Dy1が10[m]である。また例えば、物標データTr2は、横距離Dx2が6[m]であり、縦距離Dy2が15[m]である。この場合、2つの物標データTr1、Tr2はともに、物標データの検出保証範囲Rt(θt=23.5[deg])内である。
この状態において、仮に、物標データの分離処理で、仮角度による判別を適用しない場合、図11に示すグループに結合後の物標データTgの横距離Dxgは、複数の物標データTr1、Tr2それぞれの横距離Dx1、Dx2の平均値から導出される。すなわち、結合後の物標データTgの横距離Dxgは、5[m]である。また、結合後の物標データTgの縦距離Dygは、自車両から最も近い物標データTr1の縦距離Dy1から導出される。すなわち、結合後の物標データTgの縦距離Dygは、10[m]である。
結合後の物標データTgの横距離Dxg=5[m]と、縦距離Dyg=10[m]から結合後の物標データTgの角度を導出すると、26.6[deg]となる。すなわち、図11に示すように、グループに結合後の物標データTgの位置は、物標データの検出保証範囲Rt(θt=23.5[deg])を超えた位置になってしまう。
そこで、本実施形態では、結合処理部46aが、物標データの分離処理において、物標データの結合に関して仮角度による判別を適用する。仮角度導出部46eは、図10に示す状態において、結合前の物標データTr2に対して、上記式(1)を用いて仮角度を導出する。基準物標である物標データTr1については仮角度を導出しない。
物標データTr2に係る仮角度は、結合前の物標データTr2の横距離Dx2=6[m]と、物標データTr1、Tr2それぞれの縦距離Dyのうちの最小縦距離である物標データTr1の縦距離Dy1=10[m]と、に基づき、31.0[deg]である。
したがって、図12に示すように、分離部46dは、仮角度が所定値である物標データの検出保証範囲Rt(θt=23.5[deg])を超えている物標データTr2を既存グループ(物標データTg)から分離する。ここで、分離するとは、前回処理では結合対象であった一の物標データと他の物標データとが、今回処理では結合の対象ならないことを意味する。なお、前回処理で検出された一の物標データと他の物標データが、今回処理でも時間的な連続性を有して検出されているものとする。すなわち、結合処理部46aは、物標データTr2のグループへの結合を禁止するものであり、物標データTr1とTr2とを結合対象としない。これにより、結合前は検出保証範囲Rt内において検出された物標データTr1が、グループとして結合されることで検出保証範囲Rt外になることを防止することができる。このようにして、レーダ装置1は、検出保証範囲Rt内に存在する物標データTr1を適正に検出することが可能となり、物標データの信頼性の低下を防止できる。
<5.第2実施形態>
<仮角度による判別を適用した物標データの結合処理>
仮角度による判別を適用した物標データの結合処理について、図13を用いて説明する。図13は、信号処理装置4による物標データの結合処理を示すフローチャートである。なおここでは、グループ化処理のうちの物標データの結合処理に関して、図3及び図4の説明図を用いて説明する。
そして、先に図5を用いて説明した既存グループ結合処理(ステップS202)、及び新規グループ結合処理(ステップS203)の基本的な構成は同じであるので、ここでは単に「結合処理」と呼んで説明する。
結合処理では、まず、既存グループ結合部46c及び新規グループ結合部46bのいずれかのグループ結合部が、各物標データTr1、Tr2、Tr3(図3参照)の結合判定を行う(ステップS401)。結合判定には、例えばレーダ装置1から縦距離が最も近い物標を基準物標とし、この基準物標の位置から所定範囲内に存在し、且つ略同一の相対速度を有する物標がグループ化の対象になるといった結合条件が用いられる。
グループ結合部は、複数の物標データが、グループとしての結合条件を満足するか否かを判定する。グループとしての結合条件を満足する複数の物標データがグループ化の対象となる。なお、前述のように、ある一つの物標データがいずれのグループにも属さない場合は、その一つの物標データのみを新規グループとする結合処理が行われる。
次に、グループを構成する物標データとして判定された複数の物標データTr1、Tr2、Tr3に関して、仮角度導出部46eが、複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれに係る仮角度を導出する(ステップS402)。仮角度導出部46eは、グループとしての結合条件を満足する複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれの横距離Dxと、複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれの縦距離Dyのうちの最小縦距離と、に基づき複数の物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれに係る仮角度を導出する。
次に、物標データTr1、Tr2、Tr3それぞれに係る仮角度が予め定められた所定値を超えているか否か、すなわち検出保証範囲Rt外であるか否かが判別される(ステップS403)。
物標データの仮角度が検出保証範囲Rt外である場合、すなわち仮角度が所定値を超えている場合(ステップS403のYes)、既存グループ結合部46c或いは新規グループ結合部46bは、仮角度が所定値を超えている物標データのグループへの結合を禁止する(ステップS404)。これにより、結合前は検出保証範囲Rt内において検出された物標データが、グループとして結合されることで検出保証範囲Rt外になることを防止することができる。すなわち、レーダ装置1は、検出保証範囲Rt内に存在する物標データを適正に検出することが可能になる。
そして、ステップS404の処理が終わると、図13に示すフロー動作が終了される。
<6.その他>
本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。また、上記の複数の実施形態及び実施例は可能な範囲で組み合わせて実施しても良い。
例えば、上記実施形態では、レーダ装置1はFMCW方式のレーダ装置であったが、他の方式のレーダ装置を用いても良い。例えば、FCM(Fast-Chirp Modulation)方式のレーダ装置を用いても良い。
また、上記実施形態では、仮角度の導出において、結合条件を満足する複数の物標データそれぞれの横距離と、結合条件を満足する複数の物標データそれぞれの縦距離のうちの最小縦距離と、に基づき複数の物標データそれぞれに係る仮角度を導出することとしたが、縦距離については、複数の物標データで構成するグループの縦距離を用いても良い。この場合のグループの縦距離は、前回の処理における縦距離と相対速度に基づいて予測した今回の処理におけるグループの縦距離を用いることができる。
また、上記実施形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されていると説明したが、これらの機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路によって実現されても良い。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されても良い。