本発明の一実施形態において、前記エンジンの前記目標エンジントルクの大きさは前記エンジンが要求された前記エンジン回転速度の増加分に応じたエンジントルク分と前記エンジン回転速度を増加させる際に要するイナーシャトルク分との合計とし、前記第1電動機の出力トルクの大きさは前記エンジンの反力トルク分とするトルク出力制御が実行中のとき、前記トルク制限制御を実行する。このように、エンジンの目標エンジントルクの大きさを大きくすることで車両の加速性能の向上が図られつつ、遊星歯車装置の性能が長期にわたって維持される。
本発明の一実施形態において、前記トルク制限制御の実行により前記エンジンの目標エンジントルクの大きさが低下させられた場合、前記電動機とは別の電動機により前記低下させられたトルクが補われる。これにより、遊星歯車装置の性能が長期にわたって維持されつつ、遊星歯車装置のピニオンの回転速度が予め設定された零回転判定範囲内であるときに車両に伝達されるトルクの一時的な低下が別の電動機によって補われるため車両の加速性能の低下が抑制される。
図1は、本発明の一実施例である電子制御装置90を搭載したハイブリッド車両10(以下、車両10という)の概略構成を説明する図であるとともに、車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。車両10は、走行用駆動力源としてのエンジン12およびトランスアクスル(T/A)としての動力伝達装置14を備える。動力伝達装置14は、遊星歯車装置22、第1電動機MG1、第2電動機MG2、および差動歯車装置46を含み、非回転部材であるケース16内に互いに平行な4つの回転中心線(C1~C4)を備える。回転中心線C1はエンジン12の回転中心線と一致しており、エンジン12から動力伝達装置14へ動力が入力される入力軸20、遊星歯車装置22、および第1電動機MG1の第1ロータ軸30は、回転中心線C1を中心に回転可能に支持されている。第2電動機MG2の第2ロータ軸32およびリダクション軸50は、回転中心線C2を中心に回転可能に支持されている。カウンタ軸34は、回転中心線C3を中心に回転可能に支持されている。差動歯車装置46は、回転中心線C4を中心に回転可能に支持されている。
遊星歯車装置22は、回転中心線C1を中心に回転可能なサンギヤSおよびリングギヤRと、それらと噛み合うピニオンPを自転および公転可能に支持するキャリアCAと、から主に構成されている。遊星歯車装置22は、第1回転要素に対応するサンギヤS、第2回転要素に対応するキャリアCA、および第3回転要素に対応するリングギヤRの3つの回転要素を有する。サンギヤSは第1電動機MG1の第1ロータ軸30に相対回転不能に連結され、キャリアCAは入力軸20を介してエンジン12に連結され、リングギヤRはカウンタドライブギヤ36が外周部に形成されている複合ギヤの内周部に一体的に形成されている。したがって、リングギヤRの回転は、カウンタドライブギヤ36に伝達される。カウンタドライブギヤ36は、遊星歯車装置22から動力を出力する出力回転部材として機能する。カウンタドライブギヤ36は、本発明における「出力回転部材」に相当する。
第2電動機MG2の第2ロータ軸32は、スプライン嵌合によりリダクション軸50に連結されている。リダクションギヤ40は、リダクション軸50に形成され、カウンタ軸34に形成されているカウンタドリブンギヤ38と噛み合っている。リダクションギヤ40およびカウンタドリブンギヤ38によって構成されるギヤ対を介して、リダクション軸50とカウンタ軸34とが動力伝達可能に接続される。
カウンタ軸34には、カウンタドライブギヤ36およびリダクションギヤ40と噛み合うカウンタドリブンギヤ38と、差動歯車装置46に形成されているデフリングギヤ44と噛み合うデフドライブギヤ42と、が一体的に形成されている。カウンタドリブンギヤ38がカウンタドライブギヤ36およびリダクションギヤ40と噛み合うことで、カウンタ軸34は、エンジン12および第2電動機MG2から動力伝達可能に接続され、エンジン12および第2電動機MG2の動力が伝達される。なお、カウンタドライブギヤ36およびカウンタドリブンギヤ38は斜歯歯車で構成されている。斜歯歯車は平歯車よりも噛み合い率が大きいため、エンジン12からカウンタ軸34への動力伝達は静かでトルク変動は少なくされる。
差動歯車装置46は、デフドライブギヤ42と噛み合うデフリングギヤ44を含んで構成されており、左右一対の駆動輪48に適宜回転速度差を付与する差動機構を備える。カウンタ軸34は、差動歯車装置46等を介して駆動輪48に動力伝達可能に接続されている。
車両10はエンジン12が出力する動力を遊星歯車装置22によって第1電動機MG1とカウンタドライブギヤ36とに分割して伝達する。また、第1電動機MG1で発生した電力を第2電動機MG2に供給し、第2電動機MG2が出力する動力を駆動輪48に付加することができる。
第1電動機MG1および第2電動機MG2は、電気エネルギから機械的な動力を発生する発動機機能を備え、好適には発動機機能と共に機械的な動力から電気エネルギを発生する発電機機能を備えた、例えば同期電動機である。例えば、第1電動機MG1は、運転停止中のエンジン12を回転駆動する発動機機能およびエンジン12の反力を受け持つ為の発電機機能を備える。第2電動機MG2は、走行用駆動力源として動力を出力する走行用電動機として機能する為の発動機機能および駆動輪48側からの逆駆動力から回生により電気エネルギを発生する発電機機能を備える。第1電動機MG1は、本発明における「電動機」に相当する。
車両10は、車両10の各部を制御する制御装置としての電子制御装置90を備える。電子制御装置90は、本発明における「制御装置」に相当する。電子制御装置90には、車両10に設けられたエンジン回転速度センサ70、カウンタドライブ回転速度センサ72、車速センサ74、MG1回転速度センサ76、MG2回転速度センサ78、アクセル開度センサ80、およびバッテリセンサ82によってそれぞれ検出された、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne(rpm)、カウンタドライブギヤ36の回転速度であるカウンタドライブ回転速度Ncd(rpm)、車速V(km/h)、第1電動機MG1の回転速度であるMG1回転速度Nmg1(rpm)、第2電動機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmg2(rpm)、アクセルペダルの踏込操作量に対応したアクセル開度θacc(%)、および蓄電装置62のバッテリ温度THbat(℃)やバッテリ充放電電流Ibat(A)やバッテリ電圧Vbat(V)が入力される。電子制御装置90は、例えば所謂マイクロコンピュータ(CPU)を含んで構成されており、予め記憶されたデータやプログラムに従って入力信号の演算処理を行い、その演算結果を制御指令信号として出力する。予め記憶されたデータは、各走行モードが決められているマップ、エンジン12の最適燃費運転点が決められているマップ、エンジン12の要求エンジンパワーPe_reqが決められているマップなどである。そして、ハイブリッド制御信号Shvが、電子制御装置90からエンジン12およびインバータ60に出力され、エンジン12の運転制御やインバータ60を介して第1電動機MG1および第2電動機MG2の運転制御がなされる。なお、電子制御装置90は、例えば前述のバッテリ温度THbat、バッテリ充放電電流Ibat、およびバッテリ電圧Vbatなどに基づいて蓄電装置62の充電状態(充電容量)SOC(%)を逐次算出する。
車両10は、エンジン12を動力源としたエンジン走行モードや第1電動機MG1、第2電動機MG2を蓄電装置62の電力で駆動して走行する電気走行モード(EV走行モード)などの走行形態が可能である。このような各モードの設定や切り替えは、電子制御装置90により実行される。
車両10は、遊星歯車装置22から駆動輪48に伝達されるトルクに、第2電動機MG2が出力するトルクを付加することができる。具体的には、第2電動機MG2の第2ロータ軸32および第2ロータ軸32に連結されたリダクション軸50がカウンタ軸34と平行に配置されている。リダクション軸50にカウンタドリブンギヤ38と噛み合うリダクションギヤ40が一体となって回転するように取り付けられている。つまり、遊星歯車装置22のリングギヤRからカウンタドライブギヤ36およびカウンタドリブンギヤ38を介してカウンタ軸34に伝達されたトルクに対して、第2電動機MG2から出力されたトルクがリダクションギヤ40およびカウンタドリブンギヤ38を介してカウンタ軸34に付加することができる。すなわち、リングギヤRは、第2電動機MG2と共に、デフドライブギヤ42およびデフリングギヤ44を介して、駆動輪48に動力伝達可能に連結されている。
第1電動機MG1は、通電される電流値やその周波数に応じてその回転速度(rpm)が任意に制御される。そのため、第1電動機MG1の回転速度が制御されることでエンジン回転速度Neが任意に制御される。具体的には、運転者のアクセルペダルの踏込操作量によって決まるアクセル開度θacc(%)や車速V(km/h)などに応じて要求駆動力が求められる。その要求駆動力に基づいてエンジン12の要求エンジンパワーPe_reqが求められる。その要求エンジンパワーPe_reqと現在のエンジン回転速度Neとから運転者の要求する要求エンジントルクTe_reqが求められ、エンジン12の燃費が良好になる最適燃費線からエンジン12の最適燃費運転点を定める。その定められたエンジン12の最適燃費運転点となるように第1電動機MG1のMG1回転速度Nmg1が制御される。つまり、エンジン12から遊星歯車装置22に伝達されるトルクに応じて第1電動機MG1の出力トルクTgあるいはMG1回転速度Nmg1が制御され、具体的にはエンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Ne_tagとなるように、第1電動機MG1のMG1回転速度Nmg1は連続的に変化させられるので、エンジン回転速度Neも連続的に変化させられる。
第1電動機MG1は、例えば加速要求等により、エンジン回転速度Neを増大させる場合にはイナーシャトルクTg_inerを出力する。この場合、イナーシャトルクTg_inerは正の値であって、具体的には現在の実際のエンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Ne_tagよりも低い状態(Ne_tag>Ne)で、エンジン回転速度Neが増大される。イナーシャトルクは、第1電動機MG1から出力されても良いが、エンジン12や第2電動機MG2から出力されても良い。すなわちイナーシャトルクは、エンジン12、第1電動機MG1、および第2電動機MG2のいずれかの駆動力源によって受け持たれることになる。
例えば、平坦路において車速Vを一定とする走行(以下、定常走行という)の場合や滑らかな加速要求がなされた場合は、前述したように第1電動機MG1によってエンジン回転速度Neが制御され、イナーシャトルクTg_inerは第1電動機MG1によって出力される。したがって、第1電動機MG1の出力トルクTgは下式(1)のようになる。
Tg=-ρ/(1+ρ)・Te_req+Tg_iner ・・・(1)
なお、上式(1)の「-ρ/(1+ρ)・Te_req」は、前述した反力トルクを表し、遊星歯車装置22における各回転要素のトルクの関係は、ギヤ比ρ(=サンギヤSの歯数Zs/リングギヤRの歯数Zr)に基づいて決まるため、上式(1)を利用して第1電動機MG1の出力トルクTgが求められる。
一方、例えば急加速など比較的大きな加速要求がなされた場合は、イナーシャトルクTg_inerが増大するため、第1電動機MG1でエンジン回転速度Neを制御すると、第1電動機MG1の出力トルクTgが不十分となり要求エンジントルクTe_reqが駆動輪48から出力されず、運転者が意図した加速感が得られないおそれがある。そこで、急加速など加速要求が大きい場合には、要求エンジントルクTe_reqに加えてエンジン回転速度Neを増大させるためのイナーシャトルクTe_inerをもエンジン12によって出力することが考えられる。なお、イナーシャトルクTe_inerは、イナーシャトルクTg_inerを第1電動機MG1の軸トルクからエンジン12の軸トルクに変換したものであって、遊星歯車装置22のギヤ比ρとの関係から下式(2)で変換することができる。
Te_iner={(1+ρ)/ρ}・Tg_iner ・・・(2)
このように、イナーシャトルクTg_inerとイナーシャトルクTe_inerとは、その一方から他方が算出可能である。したがって、以降の説明では、イナーシャトルクがエンジン12から出力される場合には、「イナーシャトルクTe_iner」と、イナーシャトルクが第1電動機MG1から出力される場合には「イナーシャトルクTg_iner」と示すこととする。
エンジン12が出力する最大トルクTe_maxと第1電動機MG1の最大出力トルクTg_maxとの関係は、ギヤ比ρを考慮して表すと下式(3)のように構成されている。
Te_max>|{(1+ρ)/ρ}・Tg_max| ・・・(3)
このように遊星歯車装置22のギヤ比ρを考慮、すなわち前述の軸トルクの変換を考慮した場合、エンジン12の方が第1電動機MG1よりも大きなトルクを出力できるように構成されている。また、上記のエンジン12および第1電動機MG1の各最大トルクは、その各最大トルクの中で許容されるトルクに適宜設定されても良い。つまり、その許容されるトルクの大きさはエンジン12が搭載される車両10に応じて定められ、例えば予め定められた値が用いられる。上記のようなエンジン12の出力トルクを増大させる方法としては、例えば過給機の付加やエンジン12の排気量の増大がある。
エンジン走行においては、エンジン12から出力されたトルクが駆動輪48に伝達されるように、遊星歯車装置22におけるサンギヤS、すなわち第1電動機MG1の出力が反力要素として機能する。すなわち、第1電動機MG1は、加速要求に基づく要求エンジントルクTe_reqに応じたトルクを駆動輪48に作用させるべく、要求エンジントルクTe_reqに対する反力トルクを出力する。
図2は、図1の遊星歯車装置22における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図であって、イナーシャトルクTe_inerがエンジン12から出力された場合の共線図である。図2において、遊星歯車装置22の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、およびY3は、左側から順に第1回転要素に対応するサンギヤSの回転速度を表す軸、第2回転要素に対応するキャリアCAの回転速度を表す軸、および第3回転要素に対応するリングギヤRの回転速度を表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、サンギヤSとキャリアCAとの間が「1」に対応する間隔とされると、キャリアCAとリングギヤRとの間が遊星歯車装置22のギヤ比ρに対応する間隔とされる。
これら各回転要素を示す線上における基線からの距離が各回転要素の回転速度を示し、各回転要素の回転速度を示す点を結んだ線は直線Lとなる。なお、図2における白抜矢印は、各回転要素のトルクの方向を示す。また、図2の共線図はエンジン走行モードでの動作状態を示している。エンジン12は前述したように、要求駆動力に応じた要求エンジントルクTe_reqを出力する。そして、第1電動機MG1は発電機として機能してエンジン12の回転方向とは反対方向(負回転方向)のトルクを出力し、要求エンジントルクTe_reqの反力を支持する反力受けとして機能する。
要求エンジントルクTe_reqに加えてエンジン回転速度Neを上昇させるためのイナーシャトルクTe_inerをもエンジン12が出力する場合、各回転要素のトルクの方向およびトルクの大きさは図2の矢印が示す通りである。すなわち、第1電動機MG1は、要求エンジントルクTe_reqに対応する反力トルクを出力し、それに伴ってエンジン12から駆動輪48に機械的に伝達されるエンジントルクである直達エンジントルクTp_engは、ほぼ減少することなく、リングギヤRから出力される。なお、破線の矢印は、第1電動機MG1がイナーシャトルクTg_inerを出力した場合における直達エンジントルクTp_engを示している。したがって、要求エンジントルクTe_reqに加えてイナーシャトルクTe_inerをエンジン12から出力した場合には、要求エンジントルクTe_reqを駆動輪48に伝達することができるため、加速応答性などの加速性能が低下することを抑制もしくは回避することができる。
図3は、エンジン回転速度Neとエンジン12が出力可能な最大トルクTe_maxとの関係を示す図である。エンジン回転速度Neの増加とともに最大トルクTe_maxも大きくなり、その後次第に小さくなっていく。反力相当トルクT1は、エンジン12の出力に対して反力として働く第1電動機MG1の反力トルクが、第1電動機MG1の軸トルクからエンジン12の軸トルクに変換されたトルクの大きさである。保護トルクT2は、後述する遊星歯車装置22のピニオンPの関連部品であるピニオンシャフト24および円筒コロ26を保護するために、エンジン12に実際に指令するトルクの目標値である目標エンジントルクTe_tagの大きさを制限する際の上限値であり、予め実験的に或いは設計的に設定される。最大トルクT3は、前述したようにエンジン12から要求エンジントルクTe_reqに加えてイナーシャトルクTe_inerを出力する場合のトルクの最大値である。
図4は、図1の遊星歯車装置22を矢印Aで示される方向、すなわちA側から見た概略構成図である。前述したように、遊星歯車装置22は、回転中心線C1を中心に回転可能なサンギヤSおよびリングギヤRと、それらと噛み合うピニオンPを自転および公転可能に支持するキャリアCAと、を備える。本実施例ではピニオンPは4個あり、各ピニオンPはそれぞれの回転中心線Cpを中心に自転可能となっている。なお、この図において、サンギヤS、リングギヤR、およびキャリアCAの正回転の方向を時計回りの方向とする。エンジン12のエンジン回転速度Neが増大すると、キャリアCAは正回転の方向の回転数を増大させる。
図5は、図1の遊星歯車装置22のピニオンPおよびピニオンPの関連部品であるピニオンシャフト24および円筒コロ26を矢印Aで示される方向、すなわちA側から見た概略構成図である。また、図6は、図4の切断線VIで切断した遊星歯車装置22の断面図である。ピニオンシャフト24は回転中心線Cpを中心にして配置された円柱形状の部材である。ピニオンシャフト24の両端は、キャリアCAに設けられた嵌合穴に圧入やかしめ等によって嵌め着けられている。ピニオンPは円筒形の部材であり、ピニオンPの内部をピニオンシャフト24が挿通している。ピニオンPの内周面とピニオンシャフト24の外周面との間には、複数の円筒コロ26が介在している。なお、図5において、ピニオンPの正回転の方向を反時計回りの方向とする。また、図6において、リングギヤRとピニオンPとの間の隙間には省略されているが、リングギヤRおよびピニオンPが互いに噛み合う歯が設けられており、サンギヤSとピニオンPとの間の隙間には省略されているが、サンギヤSおよびピニオンPが互いに噛み合う歯が設けられている。
図7は、図6の遊星歯車装置22が作動しているときの状態を説明する図である。前述したように、カウンタドライブギヤ36およびカウンタドリブンギヤ38は斜歯歯車で構成されている。そのため、遊星歯車装置22が作動しており遊星歯車装置22からカウンタ軸34へトルクが伝達されると、カウンタドライブギヤ36は、カウンタドライブギヤ36とカウンタドリブンギヤ38とが噛み合った歯面からスラスト方向の力を受ける。この力により、リングギヤRには図7に示す白抜矢印で示される方向の偶力が加えられ、ピニオンP、円筒コロ26にはリングギヤRから偶力に基づく力が加えられる。これにより、図7において破線で楕円状に囲った箇所では、円筒コロ26からピニオンシャフト24への押圧力が他の箇所よりも高くなる。すなわち、円筒コロ26からピニオンシャフト24への押圧力の分布に偏りが生じる。
図8は、図5のピニオンPの関連部品であるピニオンシャフト24および円筒コロ26を矢印Bで示される方向、すなわちB側から見た図であって、ピニオンPの回転方向が負回転の場合の状態を説明する図である。図9は、図5のピニオンPの関連部品であるピニオンシャフト24および円筒コロ26を矢印Bで示される方向、すなわちB側から見た図であって、ピニオンPの回転方向が正回転の場合の状態を説明する図である。前述したように、円筒コロ26からピニオンシャフト24への押圧力の分布に偏りが生じているため、円筒コロ26の一方端部26a側での押圧力が他方端部26b側での押圧力よりも高い。したがって、図8に示すように、ピニオンPが負回転である場合には、円筒コロ26の一方端部26a側に比べて、円筒コロ26の他方端部26b側はピニオンPの回転方向(図8において白抜矢印で示される負回転の進行方向)に移動した状態となっている。ここで、ピニオンPの回転方向が負回転から正回転へ反転した場合、図9に示すように、円筒コロ26の一方端部26a側に比べて、円筒コロ26の他方端部26b側はピニオンPの回転方向(図9において白抜矢印で示される正回転の進行方向)に滑ることとなる。このとき、円筒コロ26が高速で激しく滑ると、ピニオンシャフト24および円筒コロ26に摩耗などのダメージが加わるおそれがある。
図10は、図1の電子制御装置90の制御機能の要部を例示する機能ブロック線図である。電子制御装置90は、要求パワー算出部90a、要求トルク算出部90b、イナーシャトルク算出部90c、イナーシャトルク判定部90d、第1目標トルク設定部90e、目標トルク判定部90f、回転速度判定部90g、第2目標トルク設定部90h、およびハイブリッド制御部90iを備えている。
要求パワー算出部90aは、例えばアクセル開度θaccや車速Vに基づいて運転者が車両10に対して要求するエンジンパワーである要求エンジンパワーPe_reqを予め用意されたマップ等を参照することにより算出する。要求パワー算出部90aは、要求エンジンパワーPe_reqを算出後、要求エンジントルクTe_reqの算出を指令する指令信号を要求トルク算出部90bに出力する。
要求エンジントルクTe_reqは、例えば運転者が要求するエンジントルクである。要求トルク算出部90bは、要求パワー算出部90aから指令信号が入力されると、前述の要求エンジンパワーPe_reqと現在のエンジン回転速度Neとから要求エンジントルクTe_reqを算出する。要求トルク算出部90bは、要求エンジントルクTe_reqを算出後、イナーシャトルクTg_inerの算出を指令する指令信号をイナーシャトルク算出部90cに出力する。
イナーシャトルク算出部90cは、要求トルク算出部90bから指令信号が入力されると、イナーシャトルクTg_inerを算出する。イナーシャトルクTg_inerは、加速要求に基づいてエンジン回転速度Neを増大させる際に要するトルクであって、具体的にはエンジン12および第1電動機MG1の回転速度を変化させるためのトルクである。イナーシャトルクTg_inerの算出は、フィードバック制御におけるフィードバックトルクTg_fbと、フィードフォワード制御におけるフィードフォワードトルクTg_ffと、により算出できる。フィードバックトルクTg_fbは、現在のルーチンにおける実際のエンジン回転速度Neと現在のルーチンにおける目標エンジン回転速度Ne_tagとの偏差により算出できる。フィードフォワードトルクTg_ffは、現在のルーチンの目標エンジン回転速度Ne_tagと1ルーチン後の目標エンジン回転速度Ne_tag+1との偏差により算出できる。したがって、イナーシャトルクTg_inerは、下式(4)で表される。
Tg_iner=Tg_fb+Tg_ff ・・・(4)
なお、上式(4)のフィードフォワードトルクTg_ffは、1ルーチンの間に増大させるべきエンジン回転速度Neの増加量dNeに、エンジン12および第1電動機MG1のイナーシャモーメントIeを掛け合わせ、さらにエンジン12の軸トルクを第1電動機MG1の軸トルクに変換するための変換係数Kを掛けて下式(5)のように算出される。なお、下式(5)において、第2電動機MG2の回転軸における回転変動に与える影響は比較的少ないため考慮していない。
Tg_ff=Ie・K・dNe/dt ・・・(5)
イナーシャトルク算出部90cは、イナーシャトルクTg_inerを算出後、イナーシャトルクTg_inerの判定を指令する指令信号をイナーシャトルク判定部90dに出力する。
イナーシャトルク判定部90dは、イナーシャトルク算出部90cから指令信号が入力されると、イナーシャトルクTg_inerが予め定められた判定値Tjudより大きいか否かを判定する。この判定は、言い換えれば急加速など比較的加速要求が大きいか否かの判定である。したがって、判定値Tjudは、急加速など比較的加速要求が大きい場合として、後述するようにエンジン12から要求エンジントルクTe_reqに加えてイナーシャトルクTe_inerを加算した合計トルクを出力させてエンジン回転速度Neの変化率を増大させるために、予め実験的に或いは設計的に設定される。なお、判定値Tjudの設定は、急加速など比較的加速要求が大きい場合に限られず、加速要求の大きさに拘らず少なくとも加速要求がありエンジン回転速度Neを上昇させるものとされることが可能である。したがって、判定値Tjudは加速要求の大きさや各種車両などに応じて適宜に設定され、判定値Tjudの値は少なくとも零以上の値に設定される。イナーシャトルク判定部90dは、上記判定結果を第1目標トルク設定部90eに出力する。
第1目標トルク設定部90eは、イナーシャトルク判定部90dから判定結果が入力されると、判定結果に応じてエンジン12に実際に指令するトルクの目標値である目標エンジントルクTe_tagを設定する。イナーシャトルク判定部90dから入力された判定結果が、イナーシャトルクTg_inerが判定値Tjudよりも大きい場合を表すときには、第1目標トルク設定部90eは、要求エンジントルクTe_reqに加えてイナーシャトルクTe_inerを加算した合計トルクを目標エンジントルクTe_tagとする。したがって、目標エンジントルクTe_tagは下式(6)のようになる。
Te_tag=Te_req+Te_iner ・・・(6)
このとき、第1電動機MG1はエンジン回転速度Neの制御を一時的に中止し、要求エンジントルクTe_reqに対する反力トルクのみを出力する。なお、上式(6)によって算出される目標エンジントルクTe_tagは、要求エンジントルクTe_reqとイナーシャトルクTe_inerとに応じて算出され、すなわち変数であるため、目標エンジントルクTe_tagは、前述の最適燃費運転点を外れてエンジン12で出力可能な最大トルクTe_maxもしくはこれに近い値に設定される場合がある。
一方、イナーシャトルク判定部90dから入力された判定結果が、イナーシャトルクTg_inerが判定値Tjud以下の場合を表すときには、第1目標トルク設定部90eは、要求エンジントルクTe_reqを目標エンジントルクTe_tagとする。したがって、実際にエンジン12に指令する目標エンジントルクTe_tagは下式(7)のようになる。
Te_tag=Te_req ・・・(7)
このとき、イナーシャトルクTg_inerは第1電動機MG1によって出力される。つまり、第1電動機MG1は、要求エンジントルクTe_reqに対する反力トルクおよびイナーシャトルクTg_inerを出力する。
なお、いずれの場合においても、第1目標トルク設定部90eは、最大トルクT3を超過しないように目標エンジントルクTe_tagを設定する。すなわち、前述の上式(6)または上式(7)によって算出された目標エンジントルクTe_tagが最大トルクT3を超過する場合には、目標エンジントルクTe_tagは最大トルクT3に設定される。第1目標トルク設定部90eは、目標エンジントルクTe_tagを設定後、目標エンジントルクTe_tagが反力相当トルクT1よりも大きいか否かの判定を指令する指令信号を目標トルク判定部90fに出力する。
目標トルク判定部90fは、第1目標トルク設定部90eから指令信号が入力されると、目標エンジントルクTe_tagが反力相当トルクT1よりも大きいか否かを判定する。
目標エンジントルクTe_tagが反力相当トルクT1以下である場合には、保護トルクT2よりも余裕を持って小さいため、ピニオンシャフト24および円筒コロ26に摩耗などのダメージが加わる可能性はほとんど無いため、目標トルク判定部90fは、目標エンジントルクTe_tagを変更しない。目標トルク判定部90fは、変更しなかった目標エンジントルクTe_tagに基づいてハイブリッド制御を行うように指令する指令信号をハイブリッド制御部90iに出力する。
一方、目標エンジントルクTe_tagが反力相当トルクT1よりも大きい場合には、ピニオンシャフト24および円筒コロ26に摩耗などのダメージが加わる可能性があるため、目標トルク判定部90fは、ピニオン回転速度Npが予め設定された零回転判定範囲内であるか否かの判定を指令する指令信号を回転速度判定部90gに出力する。
回転速度判定部90gは、目標トルク判定部90fから指令信号が入力されると、キャリアCAの回転速度に対応したエンジン回転速度NeおよびリングギヤRの回転速度に対応したカウンタドライブ回転速度Ncdに基づいてピニオンPの回転速度であるピニオン回転速度Npを算出すると共に、そのピニオン回転速度Npが零乃至零近傍であるか否かを判定するために予め設定された下限値α(<0)および上限値β(>0)で規定された零回転判定範囲内にピニオン回転速度Npがあるか否かを判定する。なお、下限値αおよび上限値βは、前述の保護トルクT2と同様に、遊星歯車装置22のピニオンPの関連部品である円筒コロ26が激しく高速で滑ることがないように予め実験的に或いは設計的に設定される。
ピニオン回転速度Npが予め設定された零回転判定範囲外であると判定された場合には、回転速度判定部90gは、第1目標トルク設定部90eで設定された目標エンジントルクTe_tagに基づいてハイブリッド制御を行うように指令する指令信号をハイブリッド制御部90iに出力する。
ピニオン回転速度Npが予め設定された零回転判定範囲内であると判定された場合には、回転速度判定部90gは、目標エンジントルクTe_tagが上限値を超過しないように目標エンジントルクTe_tagの再設定を指令する指令信号を第2目標トルク設定部90hに出力する。
第2目標トルク設定部90hは、回転速度判定部90gから判定結果が入力されると、目標エンジントルクTe_tagを再設定する。第2目標トルク設定部90hは、目標エンジントルクTe_tagが保護トルクT2を超過する場合、保護トルクT2を目標エンジントルクTe_tagとして再設定する。第2目標トルク設定部90hは、目標エンジントルクTe_tagが保護トルクT2以下の場合、第1目標トルク設定部90eで設定された目標エンジントルクTe_tagを変更せず、そのまま目標エンジントルクTe_tagとして再設定する。
第2目標トルク設定部90hは、再設定した目標エンジントルクTe_tagに基づいてハイブリッド制御を行うように指令する指令信号をハイブリッド制御部90iに出力する。
ハイブリッド制御部90iは、目標トルク判定部90f、回転速度判定部90g、および第2目標トルク設定部90hのいずれかから指令信号が入力されると、目標エンジントルクTe_tagに基づいてエンジン12および第1電動機MG1から目標のトルクが出力されるようにハイブリッド制御信号Shvをエンジン12およびインバータ60を介して第1電動機MG1に出力する。なお、第2目標トルク設定部90hにおいて目標エンジントルクTe_tagが下げられ保護トルクT2に再設定された場合には、例えばエンジン12の点火遅角制御や燃料噴射量制御などによってエンジン12が出力するトルクが下げられる。
図11は、図1の電子制御装置90の制御作動の要部、すなわちエンジン12の目標エンジントルクTe_tagが制御されることによってピニオン回転速度Npが制御される制御作動を説明するフローチャートの一例である。
図11のフローチャートは、例えばエンジン走行中に加速要求があった場合に、所定の時間(例えば、数ms)毎にスタートを繰り返して実行される。
要求パワー算出部90aに対応するステップS10において、要求エンジンパワーPe_reqが算出される。そしてステップS20が実行される。
要求トルク算出部90bに対応するステップS20において、要求エンジントルクTe_reqが算出される。そしてステップS30が実行される。
イナーシャトルク算出部90cに対応するステップS30において、イナーシャトルクTg_inerが算出される。そしてステップS40が実行される。
イナーシャトルク判定部90dに対応するステップS40において、イナーシャトルクTg_inerが予め定められた判定値Tjudより大きいか否かが判定される。ステップS40の判定が肯定される場合は、ステップS50が実行される。ステップS40の判定が否定される場合は、ステップS60が実行される。
第1目標トルク設定部90eに対応するステップS50において、目標エンジントルクTe_tagは要求エンジントルクTe_reqに加えてイナーシャトルクTe_inerを加算した合計トルクとされる。そしてステップS70が実行される。
第1目標トルク設定部90eに対応するステップS60において、目標エンジントルクTe_tagは要求エンジントルクTe_reqとされる。そしてステップS70が実行される。
目標トルク判定部90fに対応するステップS70において、目標エンジントルクTe_tagが反力相当トルクT1よりも大きいか否かが判定される。ステップS70の判定が肯定される場合は、ステップS80が実行される。ステップS70の判定が否定される場合は、リターンとなる。
回転速度判定部90gに対応するステップS80において、ピニオン回転速度Npが、図12に示すように零回転を挟んだ上下に予め設定された下限値αおよび上限値βで規定された零回転判定範囲内であるか否かが判定される。ステップS80の判定が肯定される場合は、ステップS90が実行される。ステップS80の判定が否定される場合は、リターンとなる。
第2目標トルク設定部90hに対応するステップS90において、目標エンジントルクTe_tagが保護トルクT2を超過する場合、目標エンジントルクTe_tagが保護トルクT2に再設定される。そしてリターンとなる。
そして前述したように、図11のフローチャートで設定された目標エンジントルクTe_tagに基づいて、ハイブリッド制御部90iは、エンジン12および第1電動機MG1から目標のトルクが出力されるようにハイブリッド制御信号Shvをエンジン12およびインバータ60を介して第1電動機MG1に出力する。
図12は、図11のフローチャートの制御作動が実行されたときのタイムチャートを説明する図であって、特にピニオン回転速度Npが予め設定された零回転判定範囲内となるときに、イナーシャトルクTg_inerが判定値Tjudより大きく、目標エンジントルクTe_tagが保護トルクT2よりも大きい場合のタイムチャートである。具体的には、図12に記載した実線は、目標エンジン回転速度Ne_tag、目標エンジントルクTe_tag、第1電動機MG1の出力トルクTg、駆動力F、ピニオン回転速度Np、およびアクセル開度θaccの変化の一例を示している。なお、図12に記載した破線については後述する。
先ず、車両10は、図2の共線図において説明したようにエンジン走行しており、時刻t0では定常走行している。したがって、時刻t0でアクセル開度θaccは一定であり、目標エンジン回転速度Ne_tag、目標エンジントルクTe_tag、第1電動機MG1の出力トルクTg、駆動力F、およびピニオン回転速度Npの各パラメータも一定の出力となる。
ついで、時刻t1で、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度θaccが急激に大きくされる、すなわち急加速など比較的大きな加速要求がされる。
時刻t1から時刻t2に渡って各パラメータは以下のようになる。前述したようにステップS40の判定が肯定され、目標エンジントルクTe_tagは要求エンジントルクTe_reqに加えてイナーシャトルクTe_inerを加算した合計トルクとされて急勾配で増大される。それに伴い目標エンジン回転速度Ne_tagも急勾配で増大される。駆動輪48から出力される駆動力Fも急勾配で増大して出力される。また、ピニオン回転速度Npは負回転の回転速度が急勾配の変化率で減少させられる。そして時刻t2でピニオン回転速度Npは零回転判定範囲の下限値αとなるが、このとき目標エンジントルクTe_tagは保護トルクT2を超過している。
ついで、時刻t2から時刻t3に渡って各パラメータは以下のようになる。前述したようにステップS80の判定が肯定され、目標エンジントルクTe_tagは保護トルクT2に制限される。目標エンジントルクTe_tagが制限されたため、目標エンジン回転速度Ne_tagは、時刻t1から時刻t2の間ほどの変化率ではないが増大される。駆動輪48から出力される駆動力Fは、時刻t2における目標エンジントルクTe_tagの減少により時刻t2で一時的に減少するが、目標エンジン回転速度Ne_tagの増大に伴って次第に増大する。また、目標エンジントルクTe_tagが制限されたため、ピニオン回転速度Npは、時刻t1から時刻t2の間よりも変化率が小さくなって零回転判定範囲の下限値αから上限値βへ向かって変化する。そして時刻t3でピニオン回転速度Npは零回転判定範囲の上限値βとなる。
ついで、時刻t3から時刻t4に渡って各パラメータは以下のようになる。前述したようにステップS80の判定が否定され、目標エンジントルクTe_tagの保護トルクT2への制限が解除され、目標エンジントルクTe_tagは急勾配で増大される。それに伴い目標エンジン回転速度Ne_tagも増大される。駆動輪48から出力される駆動力Fも急勾配で増大して出力される。また、ピニオン回転速度Npは正回転の回転速度が急勾配の変化率で増大させられる。そして時刻t4で目標エンジントルクTe_tagは最大トルクT3となる。
ついで、時刻t4から時刻t5に渡って各パラメータは以下のようになる。目標エンジントルクTe_tagは最大トルクT3へ制限される。また、目標エンジン回転速度Ne_tagは増大するものの、その変化率は減少して目標エンジン回転速度Ne_tagが一定の回転速度まで増大したと判断され、その後目標エンジントルクTe_tagは減少に転じる。目標エンジン回転速度Ne_tagの変化率が減少することによりイナーシャトルクTe_inerも減少し、イナーシャトルクTe_inerが減少することに伴って目標エンジントルクTe_tagもイナーシャトルクTe_inerの分だけ減少して出力される。目標エンジントルクTe_tagが減少することに伴って駆動力Fの出力も少しだけ減少する。また、ピニオン回転速度Npは正回転の回転速度が飽和値γに向かって増大するものの変化率は減少させられる。
ついで、時刻t5で目標エンジン回転速度Ne_tagはほぼ一定となり、目標エンジントルクTe_tagが時刻t0における定常走行とほぼ同様の出力に減少する。また、ピニオン回転速度Npは正回転の回転速度が飽和値γとなる。したがって、時刻t5で加速要求が終了したと判断できる。なお、第1電動機MG1の出力トルクTgは、要求エンジントルクTe_reqに対する反力トルクを出力し続けるため、このタイムチャートでは常にほぼ一定である。
図13は、図12のタイムチャートにおけるピニオン回転速度NpとエンジントルクTeとの関係を示す図である。図11のフローチャートの制御作動が実行されたとき、図12のタイムチャートのように目標エンジントルクTe_tagが制御されるが、そのときピニオン回転速度Npに対して実際のエンジントルクTeは図13に示すように変化する。ピニオン回転速度Npが零回転判定範囲の下限値α以下のときには、ピニオン回転速度Npの負回転の回転速度の減少に伴ってエンジントルクTeは増大する。ピニオン回転速度Npが下限値αよりも大きく上限値βよりも小さいとき、すなわち零回転判定範囲内のときには、エンジントルクTeは、その上限値である保護トルクT2を超過しないように制限が掛けられる。したがって、ピニオン回転速度Npが下限値αのときに、エンジントルクTeが保護トルクT2を超過している場合には、エンジントルクTeは保護トルクT2に下げられる。ピニオン回転速度Npが零回転判定範囲の上限値β以上のときには、ピニオン回転速度Npの正回転の回転速度の増加に伴ってエンジントルクTeは増大するが、その上限値は最大トルクT3となっている。そして、ピニオン回転速度Npの正回転の回転速度の飽和値γではエンジントルクTeは次第に減少する。
本実施例の電子制御装置90によれば、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neを増加させる場合において、遊星歯車装置22のピニオン回転速度Npが予め設定された零回転判定範囲内であるとき、エンジン12の目標エンジントルクTe_tagの大きさが保護トルクT2に制限される。これにより、遊星歯車装置22のピニオンPの回転方向が回転速度零を跨いで変化するとき、目標エンジントルクTe_tagが制限されることでピニオンPのピニオン回転速度Npの変化率が低減され、ピニオンPの関連部品であるピニオンシャフト24に対して円筒コロ26が高速で激しく滑ることが抑制されて遊星歯車装置22の性能が長期にわたって維持される。これらは、動力伝達装置14などのハード構成が変更される必要はないため、低コストで実現される。
本実施例の電子制御装置90によれば、エンジン12の目標エンジントルクTe_tagの大きさはエンジン12が要求された要求エンジントルクTe_reqの増加分に応じたエンジントルク分とエンジン回転速度Neを増加させる際に要するイナーシャトルク分Te_inerとの合計とし、第1電動機MG1の出力トルクTgの大きさはエンジン12の反力トルク分とする制御が実行中のときであって、遊星歯車装置22のピニオン回転速度Npが予め設定された零回転判定範囲内であるとき、エンジン12の目標エンジントルクTe_tagの大きさが保護トルクT2に制限される。このように、エンジン12の目標エンジントルクTe_tagがイナーシャトルク分Te_inerを含めて大きくされることで車両10の加速性能の向上が図られつつ、遊星歯車装置22の性能が長期にわたって維持される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
前述の実施例では、カウンタドライブギヤ36およびカウンタドリブンギヤ38は斜歯歯車で構成されていたが、これに限らない。例えば、カウンタドライブギヤ36およびカウンタドリブンギヤ38が平歯車で構成されていたとしても、ギヤ形状の製造上のばらつきや遊星歯車装置22の構成部材の組み立てのばらつきなどから、リングギヤRに偶力が加えられる場合があるため、本発明が適用されうる。
前述の実施例では、遊星歯車装置22のピニオンPの回転方向が回転速度零を跨いで変化するとき、目標エンジントルクTe_tagが制限されて駆動力Fは一時的に減少させられた。本発明の適用にあたって、図12の破線で示すように、エンジン12の目標エンジントルクTe_tagの大きさが保護トルクT2に制限されて低下させられた場合、その低下させられたトルク(図12の破線と実線との差分のトルク)が、第1電動機MG1とは別の電動機、例えば第2電動機MG2により補われても良い。或いは、前述の実施例の動力伝達装置14によって前輪の駆動輪48に動力が伝達される場合、後輪に駆動力を伝達するための後輪用モータ(Rrモータ)を備えた車両において、後輪用モータが前述の別の電動機とされても良い。これにより、遊星歯車装置22の性能が長期にわたって維持されつつ、遊星歯車装置22のピニオン回転速度Npが予め設定された零回転判定範囲内であるときに車両10に伝達されるトルクの一時的な低下が別の電動機によって補われるため車両10の加速性能の低下が抑制される。
前述の実施例では、ステップS30乃至ステップS60において、イナーシャトルクTg_inerが判定値Tjud以上の場合には、目標エンジントルクTe_tagは要求エンジントルクTe_reqにイナーシャトルクTe_inerを加算した合計トルクとされ、イナーシャトルクTg_inerが判定値Tjud未満の場合には、目標エンジントルクTe_tagは要求エンジントルクTe_reqとされていたが、これに限らない。例えば、イナーシャトルクTg_inerの大きさに拘らず、常に目標エンジントルクTe_tagは要求エンジントルクTe_reqにイナーシャトルクTe_inerを加算した合計トルクとされても良い。或いは、イナーシャトルクTg_inerを考慮せず、常に目標エンジントルクTe_tagは要求エンジントルクTe_reqとされても良い。いずれの場合も、遊星歯車装置22のピニオンPの回転方向が回転速度零を跨いで変化するとき、目標エンジントルクTe_tagが制限されることでピニオンPの関連部品であるピニオンシャフト24に対して円筒コロ26が高速で激しく滑ることが抑制されて遊星歯車装置22の性能が長期にわたって維持される。
前述の実施例では、ステップS70において、目標エンジントルクTe_tagが反力相当トルクT1以下の場合には、目標エンジントルクTe_tagの大きさが保護トルクT2に制限されないフローとされていたが、これに限らない。例えば、ステップS70が省略されても良い。この場合も、遊星歯車装置22の性能が長期にわたって維持される。
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。