JP7000218B2 - 粉末油脂含有接着性組成物を含む吸湿防止剤又は固結化防止剤。 - Google Patents
粉末油脂含有接着性組成物を含む吸湿防止剤又は固結化防止剤。 Download PDFInfo
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Description
本願は、2016年9月23日に、日本に出願された特願2016-186089号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
また、食品、飼料、医薬品、化粧品などの分野においては、原料である粉粒体を外気や水分に接着させることをなく、粉粒体の劣化や吸湿を防止し、流動性、徐放性、マスキング性、溶出防止性、耐酸性などを付与するために、粉粒体をコーティング剤で被覆することが広く行われている。従来技術では、例えば、炭素鎖長8~12の脂肪酸を有するトリアシルグリセロールとステアリン酸カルシウムを含むコーティング剤が知られている(特許文献2)。ここで、ステアリン酸カルシウムは広く用いられているコーティング剤であり、食品添加物として認められ、現在の規制では使用制限はないものの、将来にわたって制限なく使用できるかどうかは不透明な部分がある。したがって、ステアリン酸カルシウムに代わる適当なコーティング剤が求められていた。
本発明は、又、上記粉末油脂含有接着性組成物の製造方法であって、上記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備する工程と、上記油脂組成物原料を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂含有接着性組成物を得る工程とを含む、粉末油脂含有接着性組成物の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、さらに、上記XXX型トリグリセリドを含むβ型油脂を含有する接着性組成物であって、上記炭素数xは10~22から選択される整数であり、上記β型油脂の粒子が板状形状を有し、X線回折測定において4.5~4.7Åに回析ピークを有することを特徴とする、β型油脂を含有する接着性組成物を提供することを目的とする。
加えて、本発明は、上記接着性組成物を含む接着剤及びコーティング剤を提供することを目的とする。
〔2〕前記油脂成分がβ型油脂からなる、〔1〕に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
〔3〕前記XXX型トリグリセリドが、前記油脂成分の全質量を100質量%とした場合、50質量%以上含有する、〔1〕又は〔2〕に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
〔4〕前記炭素数xが16~18から選択される整数である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
〔5〕前記粉末油脂含有接着性組成物の板状形状が、1.1以上のアスペクト比を有する、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
〔6〕前記粉末油脂含有接着性組成物のX線回折測定におけるピーク強度比(4.6Åのピーク強度/(4.6Åのピーク強度+4.2Åのピーク強度))が0.2以上である、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
〔7〕前記粉末油脂含有接着性組成物の厚さが、4μm以下であることを特徴とする〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
〔8〕レーザー回折散乱法で測定された前記粉末油脂含有接着性組成物の粒子の平均粒径が20μm以下である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
〔9〕〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤を使用した食品、飼料、医薬品、又は化粧品。
本発明に従って、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂含有接着性組成物であって、前記炭素数xは10~22から選択される整数であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂含有接着性組成物の粒子は板状形状を有し、前記粉末油脂含有接着性組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であることを特徴とする、粉末油脂含有接着性組成物の製造方法であって、以下の工程、(a)グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備する工程、(d)前記油脂組成物原料を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂含有接着性組成物を得る工程、を含む、粉末油脂含有接着性組成物の製造方法を提供することができる。
さらに、本発明により、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含むβ型油脂を含有する接着性組成物であって、前記炭素数xは10~22から選択される整数であり、前記β型油脂の粒子が板状形状を有し、X線回折測定において4.5~4.7Åに回析ピークを有することを特徴とする、β型油脂を含有する接着性組成物を提供することができる。
加えて、本発明により、十分な接着性を有する接着性組成物並びに接着剤、及び十分な被覆性を有するコーティング剤を提供することができる。
本発明は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂含有接着性組成物であって、前記炭素数xは10~22から選択される整数であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂含有接着性組成物の粒子は板状形状を有し、前記粉末油脂含有接着性組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であることを特徴とする、粉末油脂含有接着性組成物に関する。以下、本発明の粉末油脂含有接着性組成物を詳細に説明する。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、油脂成分を含有する。当該油脂成分は、少なくともXXX型トリグリセリドを含み、任意にその他のトリグリセリドを含む。
上記油脂成分はβ型油脂を含む。ここで、β型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ型の結晶のみからなる油脂である。その他の結晶多形の油脂としては、β’型油脂及びα型油脂があり、β’型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ’型の結晶のみからなる油脂である。α型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるα型の結晶のみからなる油脂
である。油脂の結晶には、同一組成でありながら、異なる副格子構造(結晶構造)を持つものがあり、結晶多形と呼ばれている。代表的には、六方晶型、斜方晶垂直型及び三斜晶平行型があり、それぞれα型、β’型及びβ型と呼ばれている。また、各多形の融点はα、β’、βの順に融点が高くなり、各多形の融点は、炭素数xの脂肪酸残基Xの種類により異なるので、以下、表1にそれぞれ、トリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリアラキジン、トリベヘニンである場合の各多形の融点(℃)を示す。なお、表1は、Nissim Garti et al.、”Crystallization and Polymorphism of Fats and Fatty Acids”、Marcel Dekker Inc.、1988、pp.32-33に基づいて
作成した。そして、表1の作成にあたり、融点の温度(℃)は小数点第1位を四捨五入した。また、油脂の組成とその各多形の融点がわかれば、少なくとも当該油脂中にβ型油脂が存在するか否かを検出することができる。
2dsinθ=nλ(n=1,2,3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16~27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行なうことができる。特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°(4.6Å付近、3.9Å付近、3.8Å付近)にβ型の特徴的ピークが、21°(4.2Å)付近にα型の特徴的なピークが出現する。なお、X線回折測定は、例えば、20℃に維持したX線回折装置((株)リガク、試料水平型X線回折装置UItimaIV)を用いて測定される。X線の光源としてはCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。
本発明の油脂成分は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは10~22から選択される整数であり、好ましくは12~22から選択される整数、より好ましくは14~20から選択される整数、更に好ましくは16~18から選択される整数である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。
脂肪酸としてより好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸であり、さらに好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸であり、殊更好ましくは、パルミチン酸及びステアリン酸である。
当該XXX型トリグリセリドの含有量は、油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは、99質量%以下、より好ましくは、95質量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類又は2種類以上用いることができ、好ましくは1種類又は2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
本発明の油脂成分は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。本発明の油脂成分中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5~50質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、0~30質量%、好ましくは0~18質量%、より好ましくは0~15質量%、更に好ましくは0~8質量%である。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、上記トリグリセリド等の油脂成分の他、任意に乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン、甘味料、着色料等のその他の成分(添加剤)を含んでいてもよい。これらの任意成分は本発明の粉末油脂含有接着性組成物に対して外添することもできるが、あらかじめXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料中に含めることにより、これらの任意成分を確実かつ容易に含有させることでき、接着させることができる。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、粉末油脂含有接着性組成物の全質量を100質量%とした場合、0~70質量%、好ましくは0~65質量%、より好ましくは0~30質量%である。その他の成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である粉体であることが好ましく、平均粒径が500μm以下の粉体であることがより好ましい。さらに、20μm以下の細かい粒子は人間の感覚では感じとることが困難であるので、平均粒径が例えば20μm以下、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは1~10μmの粉体であれば、口に含んだ際の粉体の粗いざらついた感触がなくなるので好ましい。なお、特に断らない限り、本明細書でいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201及びISO9276-1)によって測定した値である。
但し、本発明の好ましい粉末油脂含有接着性組成物は、実質的に上記油脂成分のみからなることが好ましく、かつ、油脂成分は、実質的にトリグリセリドのみからなることが好ましい。また、「実質的に」とは、粉体油脂含有接着性組成物中に含まれる油脂成分以外の成分または油脂成分中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、粉末油脂含有接着性組成物または油脂成分を100質量%とした場合、例えば、0~15質量%、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%であることを意味する。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を溶融状態とし、特定の冷却温度に保ち、冷却固化することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕等特別の加工手段を採らなくても、接着性を有する粉末状の油脂組成物(粉末油脂含有接着性組成物)を得ることができる。より具体的には、(a)上記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備し、任意に工程(b)として、工程(a)で得られた油脂組成物原料を加熱し、前記油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドを溶解して溶融状態の前記油脂組成物原料を得、さらに(d)前記油脂組成物原料を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状であり接着性を有する粉末油脂組成物を得る。なお、冷却後に得られる固形物に対して、ハンマーミル、カッターミル等、公知の粉砕加工手段を適用して、該粉末油脂含有接着性組成物を生産することもできる。
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
から求められる冷却温度以上の温度で行われる。このような温度範囲で冷却すれば、β型油脂を効率よく生成でき、細かい結晶ができるので、粉末油脂含有接着性組成物を容易に得ることができる。なお、前記「細かい」とは、一次粒子(一番小さい大きさの結晶)が、例えば20μm以下、好ましくは、15μm以下、より好ましくは10μmの場合をいう。また、このような温度範囲で冷却しないと、β型油脂が生成せず、油脂組成物原料よりも体積が増加した空隙を有する固形物ができない場合がある(製造比較例1、3)。さらに、本発明では、このような温度範囲で冷却することによって、静置した状態でβ型油脂を生成させ、粉末油脂含有接着性組成物の粒子を板状形状とさせたものであり、冷却方法は、本発明の粉末油脂含有接着性組成物を特定するために有益なものである。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、接着性を有し、常温(20℃)で粉末状の固体である。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂成分のみからなる場合、0.05~0.6g/cm3、好ましくは0.1~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.1~0.4g/cm3又は0.15~0.4g/cm3であり、さらに好ましくは0.2~0.3g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂含有接着性組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂含有接着性組成物の質量(g)を算出することで求めることができる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
ここで、当該平均粒径(有効径)は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)に基づいて求めることができる。有効径とは、測定対象となる結晶の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザー回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定することができる。ここで、板状形状は、アスペクト比が1.1以上であることが好ましく、より好ましくは、1.2以上のアスペクト比であり、さらに好ましくは1.2~3.0、特に好ましくは、1.3~2.5、殊更好ましくは1.4~2.0のアスペクト比である。なお、ここでいうアスペクト比とは、粒子図形に対して、面積が最小となるように外接する長方形で囲み、その長方形の長辺の長さと短辺の長さの比と定義される。また、粒子が球状形状の場合は、アスペクト比は1.1より小さくなる。従来技術である、極度硬化油等の常温で固体脂含量の高い油脂を溶解し直接噴霧する方法では、粉末油脂含有接着性組成物の粒子が表面張力によって、球状形状となり、アスペクト比は1.1未満となる。そして、前記アスペクト比は、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる直接観察により、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測することによって、計測した個数の平均値として求めることができる。
さらに本発明の粉末油脂含有接着性組成物を例えば食品等の表面に接着剤として付着させたり、それ自体をコーティング剤として使用する場合、例えば20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下の平均粒径(有効径)を有することが適当である。特に平均粒径の下限値はこだわらないが、例えば、0.1μm以上、1μm以上、2μm以上、4μm以上であり得る。当該平均粒径(有効径)の測定方法は上述と同様である。特に20μm以下の平均粒径とすることにより、口に含んだ際の粉体の粗いざらついた感触がなくなるので好ましい。
かかる範囲であると、後述するコーティング剤(被覆剤)としての効果をより発揮することができるからである。
厚さは、芯物質の表面に付着させた被覆物質(本発明の粉末油脂含有接着性組成物や油脂粉砕品等)の顕微鏡写真を撮り、芯物質表面に付着した被覆物質の付着面からの垂直方向の長さを、1サンプルの厚さとして測定した。本発明では、12サンプルについて厚さを測定し、その平均値をそのサンプルの厚さの値とした。実際に測定した粉末油脂含有接着性組成物又は油脂粉砕品の厚さに該当する部分について、図15、及び図16で説明をすると、写真中の直線で示した部分(各3か所)の長さが厚さである。また、図15、及び図16の顕微鏡写真を模式的に示した図17で説明をすると、図17中のAは芯物質、Bは被覆物質で、線分abの長さが、芯物質の表面上に付着した粒子の厚さの値である。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、以下の工程、
(a)XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備する工程、
(b)工程(a)で得られた油脂組成物原料を任意に加熱等し、前記油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドを溶解して溶融状態の前記油脂組成物原料を得る任意の工程、
(d)前記油脂組成物原料を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂含有接着性組成物を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、及び/又は(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる粉末油脂含有接着性組成物は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂組成物を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。以下、上記工程(a)~(e)について説明する。
工程(a)で準備されるXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料は、グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む通常のXXX型トリグリセリド等の油脂の製造方法に基づいて製造され、もしくは容易に市場から入手され得る。ここで、上記炭素数x及び脂肪酸残基Xで特定されるXXX型トリグリセリドは、最終的に得られる目的の油脂成分のものと結晶多形以外の点で同じである。当該原料にはβ型油脂が含まれていてもよく、例えば、β型油脂の含有量が0.1質量%以下、0.05質量%以下、又は0.01質量%以下含んでいてもよい。但し、β型油脂は、当該原料を加熱等により溶融状態にすることにより消失するので、当該原料は溶融状態の原料であってもよい。当該原料が、例えば溶融状態である場合に、β型油脂を実質的に含まないことは、XXX型トリグリセリドに限らず、実質的に全ての油脂成分がβ型油脂ではない場合も意味し、β型油脂の存在は、上述したX線回折測定によりβ型油脂に起因する回折ピーク、示差走査熱量測定法によるβ型油脂の確認等によって確認することができる。「β型油脂を実質的に含まない」場合のβ型油脂の存在量は、X線回折ピークのうち、β型の特徴的ピークとα型の特徴的ピークとの強度比率[β型の特徴的ピークの強度/(α型の特徴的ピークの強度+β型の特徴的ピークの強度)](ピーク強度比)から想定できる。上記油脂組成物原料の当該ピーク強度比は、例えば0.2以下であり、好ましくは、0.15以下であり、より好ましくは、0.10以下である。油脂組成物原料には、上述したとおりのXXX型トリグリセリドを1種類又は2種以上含んでいてもよく、好ましくは1種類又は2種類であり、より好ましくは1種類である。
具体的には、例えば、上記XXX型トリグリセリドは、脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリンを用いた直接合成によって製造することができる。XXX型トリグリセリドを直接合成する方法としては、(i)炭素数Xの脂肪酸とグリセリンとを直接エステル化する方法(直接エステル合成)、(ii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基がアルコキシル基と結合した脂肪酸アルキル(例えば、脂肪酸メチル及び脂肪酸エチル)とグリセリンとを塩基性または酸性触媒条件下にて反応させる方法(脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成)、(iii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基の水酸基がハロゲンに置換された脂肪酸ハロゲン化物(例えば、脂肪酸クロリド及び脂肪酸ブロミド)とグリセリンとを塩基性触媒下にて反応させる方法(酸ハライド合成)が挙げられる。
XXX型トリグリセリドは前述の(i)~(iii)のいずれの方法によっても製造できるが、製造の容易さの観点から、(i)直接エステル合成又は(ii)脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成が好ましく、(i)直接エステル合成がより好ましい。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成における反応温度は、エステル化反応によって生ずる生成水が系外に除去できる温度であればよく、例えば、120℃~300℃が好ましく、150℃~270℃がより好ましく、180℃~250℃がさらに好ましい。反応を180~250℃で行うことで、特に効率的にXXX型トリグリセリドを製造することができる。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成においては、反応後、水洗、アルカリ脱酸及び/又は減圧脱酸、及び吸着処理等の公知の精製処理を行うことで、触媒や原料未反応物を除去することができる。更に、脱色・脱臭処理を施すことで、得られた反応物をさらに精製することができる。
XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料となるその他のトリグリセリドとしては、上記XXX型トリグリセリドの他、本発明の効果を損なわない限り、各種トリグリセリドを含めてもよい。その他のトリグリセリドとしては、例えば、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つが脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリド、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの2つが脂肪酸残基Yに置換したXY2型トリグリセリド等を挙げることができる。
上記その他のトリグリセリドの量は、例えば、XXX型トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、0~100質量%、好ましくは0~70質量%、より好ましくは1~40質量%である。
その他、パーム極度硬化油は、XXX型トリグリセリドの含量が少ないので、トリグリセリドの希釈成分として使用できる。
上記油脂組成物原料としては、上記トリグリセリドの他、任意に部分グリセリド、脂肪酸、抗酸化剤、乳化剤、水などの溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、XXX型トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、0~5質量%、好ましくは0~2質量%、より好ましくは0~1質量%である。
当該混合は、必要に応じて加熱下で混合してもよい。加熱は、後述の工程(b)における加熱温度と同程度であることが好ましく、例えば、50~120℃、好ましくは60~100℃、より好ましくは70~90℃、さらに好ましくは80℃で行われる。
上記(d)工程の前に、上記工程(a)で準備された油脂組成物原料は、準備された時点で溶融状態にある場合、加熱せずにそのまま冷却されるが、準備された時点で溶融状態にない場合は、任意に加熱され、該油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の油脂組成物原料を得る。
ここで、油脂組成物原料の加熱は、上記油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドの融点以上の温度、特にXXX型トリグリセリドを融解できる温度、例えば、70~200℃、好ましくは、75~150℃、より好ましくは80~100℃であることが適当である。また、加熱は、例えば、0.1~3時間、好ましくは、0.3~2時間、より好ましくは0.5~1時間継続することが適当である。
上記工程(a)又は(b)で準備された溶融状態の油脂組成物原料は、さらに冷却固化されて、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂含有接着性組成物を形成する。
ここで、「溶融状態の油脂組成物原料を冷却固化」するためには、冷却温度の上限値として、溶融状態の油脂組成物原料を、当該油脂組成物原料に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度に保つことが必要である。「油脂組成物原料に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度」とは、例えば、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドの場合、β型油脂の融点は74℃であるので(表1)、当該融点より1~30℃低い温度(即ち44~73℃)、好ましくは当該融点より1~20℃低い温度(即ち54~73℃)、より好ましくは当該融点より1~15℃低い温度(即ち59~73℃)、特に好ましくは、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃または10℃低い温度である。
より好ましくは、β型油脂を得るためには、冷却温度の下限値として、以下の式から求められる冷却温度以上に保つことが適当である。
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
(式中、炭素数xは、油脂組成物原料中に含まれるXXX型トリグリセリドの炭素数x) このような冷却温度以上とするのは、XXX型トリグリセリドを含有するβ型油脂を得るために、当該油脂の結晶化の際、冷却温度をβ型油脂以外のα型油脂やβ’型油脂が結晶化しない温度に設定する必要があるためである。冷却温度は、主にXXX型トリグリセリドの分子の大きさに依存するので、炭素数xと最適な冷却温度の下限値との間には一定の相関関係があることが理解できる。
例えば、油脂組成物原料に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドである場合、冷却温度の下限値は50.8℃以上となる。従って、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドの場合、「溶融状態の油脂組成物原料を冷却固化」する温度は、50.8℃以上72℃以下がより好ましいこととなる。
また、XXX型トリグリセリドが2種以上の混合物である場合は、炭素数xが小さい方の冷却温度に合わせてその下限値を決定することができる。例えば、油脂組成物原料に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が16のパルミチン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドと炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドとの混合物である場合、冷却温度の下限値は小さい方の炭素数16に合わせて37.6℃以上となる。
さらに、工程(d)の前、上記工程(a)又は(b)と(d)との間に、(c)粉末生成を促進するための任意工程として、工程(d)で使用する溶融状態の油脂組成物原料に対し、シーディング法(c1)、テンパリング法(c2)及び/又は(c3)予備冷却法による処理を行ってもよい。これらの任意工程(c1)~(c3)は、いずれか単独で行ってもよいし、複数の工程を組み合わせて行ってもよい。ここで、工程(a)又は(b)と工程(d)との間とは、工程(a)又は(b)中、工程(a)又は(b)の後であって工程(d)の前、工程(d)中を含む意味である。
シーディング法(c1)及びテンパリング法(c2)は、本発明の粉末油脂含有接着性組成物の製造において、溶融状態にある油脂組成物原料をより確実に粉末状とするために、最終温度まで冷却する前に、溶融状態にある油脂組成物原料を処置する粉末生成促進方法である。
ここで、シーディング法(c1)とは、粉末の核(種)となる成分を溶融状態にある油脂組成物原料の冷却時に少量添加して、粉末化を促進する方法である。具体的には、例えば、工程(b)で得られた溶融状態にある油脂組成物原料に、当該油脂組成物原料中のXXX型トリグリセリドと炭素数が同じXXX型トリグリセリドを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む油脂粉末を核(種)となる成分として準備する。
この核となる油脂粉末を、溶融状態にある油脂組成物原料の冷却時、当該油脂組成物原料の温度が、例えば、最終冷却温度±0~+10℃、好ましくは+5~+10℃の温度に到達した時点で、当該溶融状態にある油脂組成物原料100質量部に対して0.1~1質量部、好ましくは0.2~0.8質量部添加することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
また、テンパリング法(c2)とは、溶融状態にある油脂組成物原料の冷却において、最終冷却温度で静置する前に一度、工程(d)の冷却温度よりも低い温度、例えば5~20℃低い温度、好ましくは7~15℃低い温度、より好ましくは10℃程度低い温度に、好ましくは10~120分間、より好ましくは30~90分間程度冷却することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
さらに、予備冷却法(c3)とは、前記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物原料を、工程(d)にて冷却する前に、前記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備した時の温度と前記油脂組成物原料の冷却時の冷却温度との間の温度で一旦冷却する方法、言い換えれば、工程(a)又は(b)の溶融状態の温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度で一旦予備冷却する方法である。(c3)予備冷却法に続いて、工程(d)の油脂組成物原料の冷却時の冷却温度で冷却することが行われる。工程(d)の冷却温度より高い温度とは、例えば、工程(d)の冷却温度よりも2~40℃高い温度、好ましくは3~30℃高い温度、より好ましくは4~30℃高い温度、さらに好ましくは5~10℃程度高い温度であり得る。前記予備冷却する温度を低く設定すればするほど、工程(d)の冷却温度における本冷却時間を短くすることができる。すなわち、予備冷却法とは、シーディング法やテンパリング法と異なり、冷却温度を段階的に下げるだけで油脂組成物の粉末化を促進できる方法であり、工業的に製造する場合に利点が大きい。
上記工程(d)の冷却によって粉末油脂含有接着性組成物を得る工程は、より具体的には、工程(d)の冷却によって得られる固形物を粉砕して粉末油脂含有接着性組成物を得る工程(e)によって行われてもよい。
詳細に説明すると、まず、上記油脂組成物原料を融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物原料よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。空隙を有する固形物となった油脂組成物は、軽い衝撃を加えることで粉砕でき、固形物が容易に崩壊して粉末状となる。
ここで、軽い衝撃を加える手段は特に特定されないが、振る、篩に掛ける等により、軽く振動(衝撃)を与えて粉砕する(ほぐす)方法が、簡便で好ましい。
なお、該固形物を公知の粉砕加工手段により粉砕してもよい。このような粉砕加工手段の一例としては、ハンマーミル、カッターミル等が挙げられる。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、その接着性を生かし、食品、飼料、医薬品、化粧品などを互いに接着させるための接着剤として使用することができる。例えば、ビスケットやクッキーなどの菓子を貼り合わせて、プラモデルのように組み立てて遊ぶ食品や、種々の食品を組み合わせて色彩や立体感覚を表現した食品を製造するために使用することができる。また、食品と着色剤又は香料等を圧縮成型して固形製剤を製造するためにも使用することができる。さらに、食品、飼料、医薬品、化粧品など原料である粉粒体の表面上に適用されるコーティング剤として使用することができる。例えば、食品の表面をコーティングして外気や水分と接触することによる劣化や吸湿を防止し、流動性の改善、徐放性、マスキング性、溶出防止性、耐酸性などを付与するために使用することができる。本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、それ自体が食用であり、従来から食品用接着剤として使用されてきたステアリン酸カルシウムのような食品添加剤と異なって、食品そのものであり、容易に使用できる。また、上記種々の添加剤を本発明の粉末油脂含有接着性組成物中に含ませることによって、接着性のある食品添加剤として利用することができる。本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、原料として油脂成分が含まれていれば、別途既存の接着剤を含める必要がないので、食品としての安全性を担保しつつ使用することができる。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、接着剤として、又は接着剤の一部として利用することができる。例えば、本発明の粉末油脂含有接着性組成物を、2つの物品(食品、飼料、医薬品、化粧品等)を接着する際に使用することができる。特に、本発明の粉末油脂含有接着性組成物の粒子は、板状形状を有しているので、球形形状の粒子に比べ、物品に付着した際に当該粒子が付着する面積が広く、より強い接着力を有する。接着剤としての本発明の粉末油脂含有接着性組成物の平均粒径が細かいほど、接着力が増大する傾向にあり、例えば、粉末油脂含有接着性組成物の粒子の平均粒径が20μm以下、好ましくは、0.1~20μm、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1~10μmであることが、接着力から見て好ましい。例えば、下記実施例記載のステンレスプレートへの付着試験条件1で測定した場合、平均粒径が6.4~10.4μmの本発明の粉末油脂含有接着性組成物の接着力は、5.0nN以上であることが好ましく、10.0nN以上であることがより好ましく、15.0nN以上であることがさらに好ましい。当該接着力の好適な範囲は、例えば、5~50.0nN、好ましくは10.0~40.0nN、より好ましくは15.0~35.0nNである。また、例えば、下記実施例記載のステンレスプレートへの付着試験条件2で測定した場合、平均粒径が7.2~7.9μmの本発明の粉末油脂含有接着性組成物の接着力は、0.1nN以上であることが好ましく、0.3nN以上であることがより好ましく、0.5nN以上であることがさらに好ましい。当該接着力の好適な範囲は、例えば、0.1~10.0nN、好ましくは0.3~5.0nN、より好ましくは0.5~3.0nNである。食品に対する本発明の接着剤の量としては、上述の油脂組成物を含む食品中の粉末油脂含有接着性組成物の含有量と同様である。
本発明の接着剤中の粉末油脂含有接着性組成物の含有量は、例えば、接着剤100質量%に対し、例えば、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってよく、また、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、10質量%以下であってもよく、100質量%であってもよい。本発明の接着剤中の粉末油脂含有接着性組成物の含有量は、例えば、1~99質量%、好ましくは、10~90質量%、より好ましくは、15~85質量%、さらに好ましくは、20~80質量%であってもよい。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、コーティング剤(被覆剤)としても利用することができる。例えば、本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、食品、飼料、医薬品、化粧品等の原料である粉粒体の表面を被覆する際に使用することができる。特に、本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、それ自体が接着性を有するため、別途接着剤を使用することなく、十分な接着力を持って粉粒体の表面に被覆することができる。例えば、上白糖のような吸湿しやすい粉粒体の表面を被覆し、吸湿及び固結化を防止することができる。また、本発明の粉末油脂含有接着性組成物をゼリーのような流動性を有する物品の表面上に適用する場合、当該ゼリーの表面に衝撃や切り込みを入れて当該表面のコーティングを一部除去しても、周辺の粉末油脂含有接着性組成物が集まってきて当該除去した部分を再度被覆すると言った、自己修復能力を有する。さらに、本発明の粉末油脂含有接着性組成物の粒子は、板状形状を有しているので、球形(又は円形状)形状の粒子に比べ、物品に付着した際の被覆面積が大きく、被覆されていない物品表面を最小限にすることができる。
物品の表面への被覆率は、本発明の粉末油脂含有接着性組成物の添加量により調整することができるため、その用途により、適宜被覆率を変えることができる。
例えば、芯物質としてガラスビーズを用いた場合、ガラスビーズに約1質量%(外割り)添加した場合、被覆率が約25~35%のものを製造することができる。
また、本発明の粉末油脂含有接着性組成物の添加量を増やすことで、例えば、物品の表面積に対して、本発明の粉末油脂含有接着性組成物はその約80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上を被覆することができ、また、例えばその約98%以下、好ましくは99%以下、より好ましくは99.5%以下を被覆することができる。
本発明のコーティング剤中の粉末油脂含有接着性組成物の含有量は、例えば、接着剤100質量%に対し、例えば、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であってよく、また、100%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、10質量%以下であってもよく、100質量%であってもよい。本発明のコーティング剤中の粉末油脂含有接着性組成物の含有量は、例えば、1~99質量%、好ましくは、10~90質量%、より好ましくは、15~85質量%、さらに好ましくは、20~80質量%であってもよい。
ここで、理論にとらわれるわけではないが、2粒子間に働く付着力には、ファンデルワールス力、静電気力、液架橋力があり、静電気力、ファンデルワールス力、液架橋力の順に大きくなると言われている。付着力の測定方法としては、単一粒子もしくは、粉体層の付着力を測定する場合に大別できる。単一粒子の測定方法には、スプリングバランス法、振り子法、遠心法、衝撃法、振動法、原子間力顕微鏡による方法等がある(参考文献1:粉体・ナノ粒子の創製と製造・処理技術、基礎物性からプロセス設計の実務・トラブル処理まで、テクノシステム、P137-139;参考文献2:「はじめての粉体技術」工業調査会、P27-29)。中でも遠心法は、原理も単純で、測定条件も幅広く扱いやすい測定方法であり、本発明の評価方法として好ましく利用できる。
具体的な遠心法としては、例えば、ステンレスプレートへの付着試験法が挙げられる。
例えば、付着力測定装置(株式会社ナノシーズ製 NS-C300-HK等)を用いて、標準のステンレスプレート表面上にサンプルとなる粉末を付着させ、特定の遠心力にて遠心分離を行い、縦軸に遠心力、横軸にプレート上の粉末の残存率をプロットし、残存率50質量%時の遠心力を付着力として算出する方法である。具体的な測定条件としては、遠心力を段階的に上げていく、以下の条件1及び条件2を挙げることができる。なお、遠心力の単位として、地球の重力加速度との比で表し「相対遠心加速度」(RCF:Rerative Centrifugal Force)を用いる。通常”G”を付けて表す。
条件1
遠心力1000、2000、4000、8000、12000、16000(G)(各遠心力にて1分間遠心)
条件2
遠心力100、200、400、800、1600、3200、6400(G)(各遠心力にて1分間遠心)
理論によって本発明が限定的に解釈されることを意図していないが、本発明の粉末油脂含有接着性組成物の付着力は、当該組成物の粒径(平均粒径)のほぼ1乗に比例すること言われており、重力は、粒径の3乗に比例すると言われている。そして、粒径が約30μmで釣り合うといわれている(参考文献3:粉体・ナノ粒子の創製と製造・処理技術、基礎物性からプロセス設計の実務・トラブル処理まで、テクノシステム、P137-139;参考文献4:「はじめての粉体技術」工業調査会、P27-29;参考文献5:「不思議な粉の世界」粉を科学する、日本粉体工業技術協会編、日刊工業新聞社、P36-37)。つまり、通常30μm以下の粒径であれば、重力より付着力が強く、自重により落下することはなく、物質に付着しやすい粒子となる。従って、付着力が強い粒径を得るには、粒径をなるべく小さくすればよいが、特に油脂粉末においては、粒径が小さい粒子を産業的に製造するには、非常に困難であるという課題があったことは言うまでもない。本発明は、上述した静電気力や液架橋力が期待できなくても、特定のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分であって、β型油脂を含むものを有し、特定の粒径を有する板状の粉体油脂組成物(粒子)であれば、高い付着力を得ることができることを見出したものである。
本発明の粉末油脂含有接着性組成物は、各種食品に含めることができる。粉末油脂含有接着性組成物が添加される食品としては特に制限されないが、ケーキミックス、クリーム、ショートニング、チョコレート、焼き菓子等を挙げることができる。本発明の食品中の粉末油脂含有接着性組成物の含有量は、対象とする食品の種類によって異なるが、例えば、最終的に得られる食品100質量%に対し、例えば、0.1~99質量%、好ましくは、1~90質量%、より好ましくは、5~85質量%、さらに好ましくは、10~80質量%である。
本発明は、また、上記粉末油脂含有接着性組成物を含む食品の製造方法に関する。
具体的には、上述した
(d)溶融状態の前記油脂組成物原料を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂含有接着性組成物を得る工程、又は
(e)固形物を粉砕して粉末油脂含有接着性組成物を得る工程
の後に得られた粉末油脂含有接着性組成物を食品原料に添加する工程、即ち、
(f)得られた粉末油脂含有接着性組成物を食品原料に添加して前記粉末油脂含有接着性組成物を含有する食品を得る工程、
を含めることができる。
上記(f)工程において、添加方法は特に制限されないが、例えば、接着剤又はコーティング剤として使用する場合、前記食品原料に上記得られた粉末油脂含有接着性組成物を添加する(例えば、食品表面に対し塗付又は被覆するだけでなく、食品全体に対し含まれていることも含む)方法が挙げられる。食品原料の中に上記得られた粉末油脂含有接着性組成物を添加して、接着性やコーティング性のある食品を製造することも考えられる。
[分析方法]
・トリグリセリド組成
ガスクロマトグラフィー分析条件
DB1-ht(0.32mm×0.1μm×5m)Agilent Technologies社(123-1131)
注入量 :1.0μL
注入口 :370℃
検出器 :370℃
スプリット比 :50/1 35.1kPa コンスタントプレッシャー
カラムCT :200℃(0min hold)~(15℃/min)~370℃(4min hold)
・ゆるめ嵩密度
実施例等で得られた粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度(g/cm3)は、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めた。
走査型電子顕微鏡S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により直接観察し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 Mac-View)を用いて、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測し、計測した個数の平均値として測定した。
・平均粒径
粒度分布測定装置(日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201,ISO9276-1)に基づいて測定した。
・X線回折測定
X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク社製)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力1.6kW、操作角0.96~30.0°、測定速度2°/分の条件で測定した。この測定により、XXX型トリグリセリドを含む油脂成分におけるα型油脂、β’型油脂、及びβ型油脂の存在を確認した。4.6Å付近のピークのみを有し、4.1~4.2Å付近のピークを有しない場合は、油脂成分のすべてがβ型油脂であると判断した。
なお、上記X線回析測定の結果から、ピーク強度比=[β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å))/(α型の特徴的ピークの強度(2θ=21°(4.2Å))+β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å)))]をβ型油脂の存在量を表す指標として測定した。
・結晶(顕微鏡写真)
3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡VE-8800(株式会社キーエンス製)にて得られた粉末油脂組成物の結晶の撮影を行った。得られた顕微鏡写真を図4(実施例7)及び図5(比較例3)に示す。
(1)実施例1~9で使用する粉末油脂含有接着性組成物A
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をハンマーミル(粉砕機)で粉砕し、粉末状の結晶組成物を得た。様々な平均粒径のものを得るため、この作業を9回繰り返し、その順番に従い、実施例1~9の粉末油脂含有接着性組成物A(ゆるめ嵩密度:0.185~0.24g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径6.4~10.4μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
また、実施例1、2、6、及び7の粉末油脂含有接着性組成物Aについては、厚さを測定した。その結果、実施例1、2、6、及び7の粉末油脂含有接着性組成物Aの厚さは、それぞれ1.64μm、1.64μm、2.00μm、及び2.11μmであった。
なお、厚さは、芯物質の表面に付着させた被覆物質(本発明の粉末油脂含有接着性組成物や油脂粉砕品等)の顕微鏡写真を撮り、芯物質表面に付着した被覆物質の付着面からの垂直方向の長さを、1サンプルの厚さとして測定し、計12サンプルの厚さの平均値をそのサンプルの厚さの値とした。実際に測定した粉末油脂含有接着性組成物又は油脂粉砕品の厚さに該当する部分について、図15で説明をすると、写真中の直線で示した部分(各3か所)の長さが厚さである。
図9は、実施例7の粉砕前の粉末油脂含有接着性組成物A(β型油脂)の顕微鏡写真で、図10は、実施例7の粉末油脂含有接着性組成物A(β型油脂)の顕微鏡写真である。
(2)比較例1で使用する菜種極度硬化油
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、40℃恒温槽にて3時間冷却し、ハンマーミルで粉砕し、粉末状の組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径21.6μm、X線回折測定回析ピーク:4.1Å、ピーク強度比:0.11)を得た(比較例1はβ型油脂を含まない)。
また、比較例1の油脂粉砕品の厚さを測定した。その結果、5.46μmであった。なお、厚さの測定方法は先に説明した通りである。
図11は、比較例1の油脂粉砕品(α型油脂)の顕微鏡写真である。
(3)比較例2で使用するステアリン酸カルシウム
比較例2で使用するステアリン酸カルシウムとして、メルク株式会社製パーテックLUB CST(ゆるめ嵩密度:0.13g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径6.5μm)を準備した。
(4)比較例3で使用するパーム硬化油
パーム油硬化油(横関油脂工業株式会社製)を原料として、スプレークーラーによる噴霧冷却で油脂粉末(ゆるめ嵩密度:0.5g/cm3、アスペクト比1.0、平均粒径162μm)を得た。
付着力測定装置(株式会社ナノシーズ製 NS-C300-HK)を用いて、ステンレスプレート(寸法30mm×20mm)の表面上に上記実施例1~9及び比較例1~2の組成物を付着させ、遠心力により組成物をプレート上から分離させる実験を行った。より詳しくは、条件1又は2に従って段階的に遠心力を上げ、各遠心力にて1分間遠心分離を行い、その後、それぞれプレート上に残存している組成物の状態を画像で記録し、遠心する前の最初の状態と比較して残存率を計算した。縦軸に遠心力、横軸にプレート上の組成物の残存率をプロットし、残存率50%時の遠心力を付着力として算出した。なお、付着力測定の測定条件として以下の2種類を用いた。
条件1
遠心力1000、2000、4000、8000、12000、16000(G)
条件2
遠心力100、200、400、800、1600、3200、6400(G)
ガラスビーズ(アズワン株式会社製、型番BZ-01、寸法0.105~0.125mmφ)に上記実施例1及び比較例2の組成物を付着させ、電子顕微鏡にて観察した。図1はガラスビーズを100質量%とした場合に各組成物を1質量%付着させたものである。
試験の結果、本発明の実施例1の粉末油脂含有接着性組成物Aのコーティング特性が、比較例2のコーティング特性と同程度に優れていることがわかった。すなわち、本発明の粉末油脂含有接着性組成物Aは周知の接着剤であるステアリン酸カルシウムに代替するものであることがわかった。
下記表4の配合表に従って、実施例10、比較例3及び参考例1の粉状物(下記粉粒体を被覆したものを含む)を作成した。表4にある原材料を計量後、100mlビーカーに入れてよく混合し、粉粒体(上白糖、平均粒径100μm:三井製糖株式会社製)を粉末油脂含有接着性組成物A又はパーム硬化油でコーティングして上記粉状物を製造した。室温(20℃)で30分間静置後、各ビーカーの中身をロート(口径:90mm、円錐部分の高さ:70mm、足径:10mm、足長:90mm)へ移し、ロートからすべての粉状物が落下するまでの時間(秒)を測定した。その評価結果を表4に示した。すべての粉状物が落下するまでの時間が短いほど、吸湿が抑制され、固結化が防止されていると理解することができる。
実施例10、比較例3及び参考例1の粉状物について、表4の配合に従って再び、各原料を計量後、ビーカーに入れて混合し、製造した。室温20℃で1日、4日、7日静置後(保存試験後)、各々のビーカーを手で持ち、左右に6回軽く振った時の状態を下記の評価方法に従って目視により観察した。その保存試験の結果を表6に示す。
5:固まらず、サラサラしている。
4:粉状物全体100質量%に対し、10~30質量%が固まっている。
3:粉状物全体100質量%に対し、30~60質量%固まっている。
2:粉状物全体100質量%に対し、60~90質量%固まっている。
1:ほとんど固まっている。
(製造実施例1):x=16
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、50℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比:2.0、平均粒径:119μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.90)を得た。
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:69.9質量%、ハードパームステアリン、日清オイリオグループ株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、50℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径99μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)15gを、80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、30℃恒温槽にて0.01時間冷却した後、60℃恒温槽にて2時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径87μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)15gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて品温が60℃になるまで冷却した後、トリパルミチン油脂粉末を原料油脂に対して、0.1質量%添加し、60℃恒温槽にて2時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径92μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:99.6質量%、トリステアリン、シグマアルドリッチ製)3gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径30μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.93)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:96.0質量%、トリステアリン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径31μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径54μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:66.7質量%、大豆極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径60μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.91)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:84.1質量%、日清ひまわり油(S)(ハイオレイックヒマワリ油)、日清オイリオグループ株式会社製)を定法により完全水素添加処理を行い水素添加物(XXX型:83.9質量%)を得た。得られたハイオレイックヒマワリ油極度硬化油25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径48μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:66.7質量%、大豆極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)18.75gと、別の1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:11.1質量%、パーム極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)6.25gを混合し、原料油脂とした(XXX型:53.6質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径63μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.78)を得た。なお、パーム極度硬化油は、XXX型トリグリセリドの含量が極めて少ないので、希釈成分として使用した(以下、同様)。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:96.0質量%、トリステアリン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、70℃恒温槽にて品温が70℃になるまで冷却した後、トリステアリン油脂粉末を原料油脂に対して、0.1質量%添加し、70℃恒温槽にて12時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径36μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)15gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、50℃恒温槽にて0.1時間冷却した後、65℃恒温槽にて6時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径50μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.90)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)15gを、80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、40℃恒温槽にて0.01時間冷却した後、65℃恒温槽にて2時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径52μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、原料油脂を70℃になるまで70℃の恒温槽で保持し、65℃恒温槽にて8時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径60μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
1位~3位にアラキジン酸残基(炭素数20)を有するトリグリセリド(XXX型:99.5質量%、トリアラキジン、東京化成工業株式会社製)10gを90℃にて0.5時間維持して完全に融解し、72℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径42μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.92)を得た。
1位~3位にベヘン酸残基(炭素数22)を有するトリグリセリド(XXX型:97.4質量%、トリベヘニン、東京化成工業株式会社製)10gを90℃にて0.5時間維持して完全に融解し、79℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径52μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.93)を得た。
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)12.5gと、1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:96.0質量%、トリステアリン、東京化成工業株式会社)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:93.8%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて16時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させた後、ほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径74μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.90)を得た。
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:69.9質量%、ハードパームステアリン、日清オイリオグループ株式会社製)12.5gと、1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:75.3%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて16時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させた後、ほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径77μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、25℃恒温槽にて4時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.1Å、ピーク強度比:0.10)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
1位~3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:69.9質量%、ハードパームステアリン、日清オイリオグループ株式会社製)12.5gと、1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:11.1質量%、パーム極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:39.6質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、40℃恒温槽にて12時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.2Å、ピーク強度比:0.12)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、40℃恒温槽にて3時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.1Å、ピーク強度比:0.11)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:66.7質量%、大豆極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gと、別の1位~3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:11.1質量%、パーム極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:39.7質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.2Å、ピーク強度比:0.12)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
上記製造実施例及び製造比較例の結果を表7にまとめる。
上白糖(合同会社西友販売)19.4gに、上記実施例7の粉末油脂含有接着性組成物A0.6g(内割3質量%)を添加し、ビーカー内で3分間よく混合した後、得られた混合物をシャーレに10g入れ、温度20度、湿度70%の雰囲気中に72時間、蓋をしない状態で保存した。保存した後、シャーレの粉体を、10メッシュのふるいに載せて、ふるい振とう機(アズワン株式会社製)で、10秒間振動ふるいを行い、次の式から上白糖の固結率を算出した。結果を表8に示す。
上白糖の固結率(質量%)=ふるいの上に残った粉体の質量/ふるいにかけた粉体の質量×100
また、比較として、上白糖のみの粉体、上白糖19.4gに上記比較例1の油脂粉砕品、又はステアリン酸カルシウム(メルク株式会社製、パーテックLUB CST(ゆるめ嵩密度:0.13g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径6.5μm))それぞれを0.6g(内割3質量%)添加して得られた粉体についても、同様に10gを保存して上白糖の固結率を算出した。結果を表8に示す。
食塩(伯方塩業株式会社製)19.4gに、上記実施例7の粉末油脂含有接着性組成物A0.6g(内割3質量%)を添加し、ビーカー内で3分間よく混合した後、得られた混合物をシャーレに10g入れ、温度20度、湿度70%の雰囲気中に120時間、蓋をしない状態で保存した。保存した後、シャーレの粉体を、10メッシュのふるいに載せて、ふるい振とう機(アズワン株式会社製)で、60秒間振動ふるいを行い、次の式から上白糖の固結率を算出した。結果を表9に示す。
食塩の固結率(質量%)=ふるいの上に残った粉体の質量/ふるいにかけた粉体の質量×100
また、比較として、食塩のみの粉体についても、同じようにして食塩の固結率を算出した。結果を表9に示す。
上記実施例1、2、6、又は7の粉末油脂含有接着性組成物A、上記比較例1の油脂粉砕品、及びステアリン酸カルシウム(メルク株式会社製、パーテックLUB CST(ゆるめ嵩密度:0.13g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径6.5μm))の各評価サンプルについて、ガラスビーズ(BZ-01、平均粒径105μm、アズワン株式会社)と混合したときの評価サンプルによるガラスビーズ表面の被覆率を調べた。
具体的には、サンプル瓶にガラスビーズ10gを入れ、そこへ各評価サンプルを1質量%(外割り)添加した後、サンプル瓶中で3分間よく混合した。サンプルが付着したガラスビーズについて、その表面の様子について電子顕微鏡写真を撮った。その画像から、ガラスビーズ(芯物質)の表面に評価サンプルが被覆している割合(評価サンプルによるガラスビーズの被覆率)について、ソフトウェアImage Jを用いて解析した。
被覆率解析結果を表10に示す。
また、図12は、ガラスビーズに、本発明の実施例7の粉末油脂含有接着性組成物A(β型油脂)を1質量%(外割り)添加、混合することにより、粉末油脂含有接着性組成物Aをガラスビーズ表面上に付着させたものの顕微鏡写真で、図13は、ガラスビーズに、本発明の比較例1油脂粉砕品(α型油脂)を1質量%(外割り)添加、混合することにより、油脂粉砕品をガラスビーズ表面上に付着させたものの顕微鏡写真で、図14は、ガラスビーズに、比較例2のステアリン酸カルシウムを1質量%(外割り)添加、混合することにより、ステアリン酸カルシウムをガラスビーズ表面上に付着させたものの顕微鏡写真である。
Claims (7)
- グリセリンの1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂含有接着性組成物を含む吸湿防止剤又は固結防止剤であって、前記炭素数xは18であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂含有接着性組成物の粒子は板状形状を有し、前記粉末油脂含有接着性組成物のゆるめ嵩密度が0.05~0.6g/cm3であり、該XXX型トリグリセリドの含量が、該油脂成分の全質量を100質量%とした場合、70質量%以上95質量%以下であることを特徴とする、粉末油脂含有接着性組成物を含む吸湿防止剤又は固結化防止剤。
- 前記油脂成分がβ型油脂からなる、請求項1に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
- 前記粉末油脂含有接着性組成物の板状形状が、1.1以上のアスペクト比を有する、請求項1又は2に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
- 前記粉末油脂含有接着性組成物のX線回折測定におけるピーク強度比(4.6Åのピーク強度/(4.6Åのピーク強度+4.2Åのピーク強度))が0.2以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
- 前記粉末油脂含有接着性組成物の厚さが、4μm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
- レーザー回折散乱法で測定された前記粉末油脂含有接着性組成物の粒子の平均粒径が20μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤。
- 請求項1~6のいずれか1項に記載の吸湿防止剤又は固結化防止剤を使用した食品、飼料、医薬品、又は化粧品。
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