JP6997915B2 - 化粧シート、及び化粧シートの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、建築物の外装や内装に用いられる建装材、建具の表面、家電品の表面材等に用いられる化粧シート、及び化粧シートの製造方法に関する。
従来、化粧シートの表層を形成する表面保護層には、耐傷性、耐汚染性や耐衝撃性等の物性を付与することを目的として、熱硬化型樹脂(例えば、2液硬化型樹脂)や、紫外線や電子線等の電離放射線で硬化する電離放射線硬化型樹脂で代表される硬化型樹脂が主成分として用いられる。
また、化粧シートに対し、艶消し外観を付与することを目的として、表面保護層に、シリカ粒子等のマット剤を含有することも行われている。
また、特許文献1には、表面保護層の表面に露出しているマット剤の時間経過に伴う磨耗を防ぐために、表面保護層の中にマット剤とソジウムカルシウムアルミノシリケート粒子とを含有することも提案されている。しかし、表面保護層にマット剤とソジウムカルシウムアルミノシリケート粒子を含有させても、表面保護層の表面にマット剤およびソジウムカルシウムアルミノシリケート粒子が露出している状態になっているために、時間の経過とともに、露出している部分が磨耗してしまい、使用開始時に有した艶消し外観が損なわれてしまうことがあった。
この課題を解消するために、特許文献2では、表面保護層にコロイダルシリカを添加した化粧シートが提案されている。しかし、化粧シートの用途が益々拡大しているとともに、耐傷性、耐摩耗性および耐後加工性の向上が求められている。
特許第5573986号公報 特開2012-187922号公報
本発明は、上記のような点に着目したもので、表面保護層に透明性を確保しつつ、耐傷性、耐摩耗性および耐後加工性に優れた化粧シート、及び化粧シートの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、鋭意研究を行い、表面保護層にナノ化処理を施した分散剤と無機ナノ粒子とを添加することにより、表面保護層でのこれら微粒子の分散性を著しく向上させることに成功し、これによって高い透明性と優れた機械的性質を示すことを見出し、本発明を完成させた。
そして課題を解決するために、本発明の一態様である化粧シートは、基材層の一方の面に1層又は2層以上の中間層を有し、その中間層の上に1層又は2層以上の表面保護層を有する化粧シートであって、上記各層の表面保護層の主成分は、硬化型樹脂であり、上記1層又は2層以上の表面保護層のうちの少なくとも1層は分散剤と無機ナノ粒子とを含有し、上記分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されていることを特徴とする。
また、課題を解決するために、本発明の他の態様である化粧シートは、基材層の一方の面に1層又は2層以上の中間層を有し、その中間層の上に1層又は2層以上の表面保護層を有する化粧シートであって、前記各層の表面保護層の主成分は硬化型樹脂であり、前記1層又は2層以上の表面保護層のうちの少なくとも1層を、前記硬化型樹脂に分散剤と無機ナノ粒子とを添加して形成し、前記分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されていることを特徴とする。
また、課題を解決するために、本発明の一態様である化粧シートの製造方法は、基材層の一方の面に1層又は2層以上の中間層を有し、その中間層の上に1層又は2層以上の表面保護層を有し、上記各層の表面保護層の主成分は硬化型樹脂であり、上記1層又は2層以上の表面保護層のうちの少なくとも1層は、分散剤と無機ナノ粒子とを含有し、上記分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されている化粧シートの製造方法であって、超臨界逆相蒸発法によって、分散剤と無機ナノ粒子を、ベシクルに内包させることを特徴とする。
また、課題を解決するために、本発明の他の態様である化粧シートの製造方法は、基材層の一方の面に1層又は2層以上の中間層を有し、その中間層の上に1層又は2層以上の表面保護層を有し、前記各層の表面保護層の主成分は硬化型樹脂であり、前記1層又は2層以上の表面保護層のうちの少なくとも1層を、前記硬化型樹脂に分散剤と無機ナノ粒子とを添加して形成し、前記分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されている化粧シートの製造方法であって、超臨界逆相蒸発法によって、分散剤と無機ナノ粒子を、ベシクルに内包させることを特徴とする。
本発明の態様によれば、表面保護層に対し、分散剤と無機ナノ粒子とを添加することにより、高い透明性を確保するとともに、更に耐傷性および耐後加工性を向上させることが可能となる。
特に、分散剤および無機ナノ粒子が共に、リン脂質からなる外膜を具備するリポソームに内包するなどしてベシクルの状態になっていることから、分散剤及び無機ナノ粒子の分散性が著しく向上して、より高い透明性を担保可能となる。また無機粒子がナノサイズであるため、経時的な艶消し外観の劣化も抑制することが出来る。
本発明に基づく実施形態に係る化粧シート及び化粧板の構成を示す図である。
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
本実施形態の化粧シート1は、図1に記載のように、原反層を構成する基材層6の一方の面(表面)の上に、絵柄模様層5、透明樹脂層3、及び表面保護層2がこの順に積層している。符号4は接着剤層を示す。本実施形態では、絵柄模様層5及び透明樹脂層3は中間層を構成する。
また、基材層6の他方の面(裏面)に、隠蔽層7、プライマー層8がこの順に形成されている。なお、隠蔽層7は、基材層6と絵柄模様層5との間に形成しても良いし、省略しても構わない。
また、本実施形態の化粧シート1は、表面保護層2と透明樹脂層3との間に、エンボス模様3aが形成されている場合を例示している。エンボス模様3aは、表面保護層2の上面に形成されていても良い。
また上記構成の化粧シート1の層厚は、例えば、印刷作業性やコストなどを考慮して、表面保護層2は3~20μm、透明樹脂層3は20~200μm、接着剤層4は1~20μm、絵柄模様層5は3~20μm、基材層6は20~150μm、隠蔽層7は2~20μm、プライマー層8は0.1~20μmの範囲内とし、化粧シート1の総厚は49~450μmの範囲内とする。
なお、図1においては、本実施形態の化粧シート1を基材Bに貼り付けて化粧板を構成する場合を例示している。
<基材層6>
基材層6は、紙、樹脂シート、箔などから構成される。紙としては、薄葉紙、チタン紙、樹脂含浸紙、有機もしくは無機系の不織布、合成紙等が例示出来る。樹脂シートの樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、アクリル等の合成樹脂、あるいはこれら合成樹脂の発泡体、エチレン-プロピレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合ゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合ゴム、ポリウレタン等のゴムが例示出来る。箔としては、アルミニウム、鉄、金、銀等の金属箔等が例示出来る。
<絵柄模様層5>
絵柄模様層5は、既知の印刷手法を用いて設けることが出来る。基材層6が巻取りの状態で用意できる場合には、ロールツーロールの印刷装置で絵柄模様層5の形成のための印刷を行うことができる。印刷手法は特に限定するものではないが、生産性や絵柄の品位を考慮すれば、例えばグラビア印刷法を用いることができる。
絵柄模様は、床材や壁材などの使用箇所に応じた意匠性を考慮して任意の絵柄模様を採用すればよく、木質系の絵柄であれば各種木目が好んで用いられることが多く、木目以外にもコルクを絵柄模様とすることもできる。例えば大理石などの石材の床をイメージしたものであれば大理石の石目などの絵柄模様として用いられることもある。また天然材料の絵柄模様以外にそれらをモチーフとした人工的絵柄模様や幾何学模様などの人工的絵柄模様も用いることができる。
印刷インキについては、特に限定するものではないが、印刷方式に対応したインキを適宜選ぶことができる。とくに樹脂製の基材層6に対する密着性や印刷適性また化粧材としての耐候性等を考慮して選択することが好ましい。
印刷インキには、適宜、通常のインキに含まれている顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、バインダーを添加する。顔料としては、縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母等のパール顔料等が挙げられる。なお、バインダーは、水性、溶剤系、エマルジョンタイプのいずれでもよく、硬化方法についても1液タイプ、主剤と硬化剤とからなる2液タイプ、もしくは、紫外線や電子線などによって硬化するタイプなど特に限定するものではない。中でも最も一般的な方法は、2液タイプのもので、ウレタン系の主剤と、イソシアネートからなる硬化剤を用いる方法である。この他にも、各種金属の蒸着やスパッタリングで意匠を施すようにしてもよい。
<接着剤層4>
接着剤層4は、基材層6および絵柄模様層5と透明樹脂層3の接着を強固にする目的で設けられる。この接着が強固であることによって、化粧シート1に対し、曲面や直角面に追随する曲げ加工性を付与することができる。接着剤層4は透明であることが好ましい。
接着剤層4は、接着方法としては任意の材料選定が可能で、熱ラミネート、押出ラミネート、ドライラミネート等による積層方法があり、接着剤はアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、エポキシ系などから適宜選択できる。通常はその凝集力から2液硬化タイプのものとして、特にイソシアネートを用いたポリオールとの反応で得られるウレタン系の材料を用いることが望ましい。なお、接着剤層4は、透明樹脂層3と絵柄模様層5との接着強度が十分に得られる場合には、省略してもよい。
<透明樹脂層3>
透明樹脂層3は、透明な熱可塑性樹脂から構成され、例えば塩化ビニル樹脂、アクリル系樹脂、またポリオレフィン系樹脂などを用いることができる。なかでも環境適合性や加工性、価格の点でポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができる。透明樹脂層3によって、化粧シート1は意匠的に厚みや深みが出る効果を有するほか、化粧シート1の耐候性、耐磨耗性能を向上させることができる。
透明ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどの他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独重合あるいは2種類以上共重合させたものや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体などのように、エチレンまたはαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものが挙げられる。
特に、化粧シート1の表面強度の向上を図る場合には、結晶性ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
このとき、結晶性ポリプロピレン樹脂に対して、ベシクルで内包された造核剤(造核剤ベシクル)を添加されていることが好ましい。単層膜の外膜を具備するベシクルに造核剤が内包されている造核剤ベシクルを添加することにより、透明性、耐擦傷性および耐後加工性においてより優れた透明樹脂層3を得ることができる。造核剤ベシクルは、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法などによって調製することができる。なお、本実施形態において、透明樹脂層3を構成する樹脂中の造核剤は、当該造核剤の一部を露出させた状態で、ベシクルに内包されていてもよい。
造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルーおよびタルク等が挙げられる。特に、ナノ化処理の効果を最大限に得るべく、非溶融型で良好な透明性が期待できるリン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって材料自体の透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルクなども用いることができる。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いるようにしてもよい。
なお、上記造核剤は、透明樹脂層3を形成する結晶性ポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.01~1.0質量部の範囲内で含有されていることが好ましい。造核剤の含有量が上記範囲内であれば、透明樹脂層3の透明性がより高まる。
また、透明樹脂層3に、必要に応じて既存の熱安定化剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤および艶調整剤等の各種添加剤を添加することもできる。
透明樹脂層3の積層方法にも特に規制はないが、熱圧を応用した方法、押出ラミネート法及びドライラミネート法等が一般的である。またエンボス模様を施す場合には、一旦各種方法でラミネートしたシートに、後から熱圧によりエンボスを入れる方法、冷却ロールに凹凸模様を設け、押出ラミネートと同時にエンボスを施す方法がある。エンボス加工方法は特に限定されない。エンボス加工には、公知の枚葉式又は輪転式のエンボス機が用いられる。凹凸形状としては、例えば、木目板導管溝、石板表面凹凸(花崗岩劈開面等)、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等がある。
また、押出しと同時にエンボスを施した透明樹脂層3と原反層6を熱あるいはドライラミネートで貼り合わせる方法等がある。絵柄層5及び接着剤層4を施す位置は、通常通り原反層6側でもよいし、透明樹脂層3側でもよい。
本発明に基づく本実施形態の化粧シートは、オレフィン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる原反層を備える化粧シートであって、当該原反層は紫外線吸収剤を含有している。特に、当該紫外線吸収剤が、外膜(ベシクル)で包含された紫外線吸収剤ベシクルの状態で原反層を構成する樹脂組成物に添加された点に一つの特徴がある。
上述のように、本実施形態の化粧シートの特徴(発明特定事項)の一つは、「透明樹脂層は、ベシクルに内包された造核剤を含有する」ことにある。そして、造核剤をベシクルに内包させた状態で樹脂組成物に添加することで、樹脂材料中、すなわち透明樹脂層中への造核剤の分散性を飛躍的に向上するという効果が奏するが、その特徴を、完成された化粧シートの状態における物の構造や特性にて直接特定することは、状況により困難な場合も想定され、非実際的であるといえる。その理由は次の通りである。ベシクルの状態で添加された造核剤は、高い分散性を有して分散された状態になっていて、作製した化粧シートの状態においても、造核剤は透明樹脂層に高分散されている。しかしながら、透明樹脂層を構成する樹脂組成物に造核剤をベシクルの状態で添加して透明樹脂層を作製した後の、化粧シートの作製工程においては、通常、積層体への圧縮処理や硬化処理などの種々の処理が施されるが、このような処理によって、造核剤を内包するベシクルの外膜が破砕や化学反応して、造核剤が外膜で包含(包皮)されていない可能性も高く、その外膜が破砕や化学反応している状態が化粧シートの処理工程によってばらつくためである。そして、この造核剤が外膜で包含されていないなどの状況は、物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか造核剤とは別に添加された材料なのか判定が困難な場合も想定される。このように、本願発明は、従来に比して造核剤が高分散で配合されている点で相違があるものの、造核剤を内包するベシクルの状態で添加されたためなのかどうかが、化粧シートの状態において、その構造や特性を測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
<表面保護層2>
表面保護層2は単層でも良く、また複数の層を重ねて表面保護層2としても良い。本実施形態の化粧シート1では、図1で示すように、表面保護層2が単層の場合を例示している。
表面保護層2は、表面の保護や艶の調整、清掃性などに関してその優劣を左右する重要な役割をもつ。表面保護層2は、硬化型樹脂を主成分とする。すなわち樹脂成分が実質的に硬化型樹脂から構成されることが好ましい。実質的とは、例えば樹脂全体を100質量部とした場合に80質量部以上を指す。そして、硬化型樹脂の種類に応じて、既知のコーティング装置および熱乾燥装置および紫外線照射装置を用いて塗布および塗膜の硬化を行うことができる。
表面保護層2には、必要に応じて、耐侯剤、可塑剤、安定化剤、充填剤、分散剤、染料、顔料等の着色剤、溶剤等を含んでもよい。
ここで、表面保護層2に、所与の意匠性を付与するために凹凸が形成されていてもよい。通常はエンボス加工によって凹凸模様(エンボス模様)を形成する。
表面保護層2の材料としては、ポリウレタン系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系、ビニル系、ポリエステル系、メラミン系、アミノアルキッド系、尿素系などから適宜選択して用いることができる。材料の形態は、水性、エマルジョン、溶剤系など特に限定されるものではない。硬化法についても一液タイプ、二液タイプ、紫外線硬化法など適宜選択して行うことができる。
特に、表面保護層2の主成分としては、イソシアネートを用いたウレタン系のものが作業性、価格、樹脂自体の凝集力などの観点から好適である。イソシアネートには、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルヘキサンジイソシアネート(HTDI)、メチルシクロヘキサノンジイソシアネート(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などから適宜選択することができるが、耐候性を考慮すると、直鎖状の分子構造を有するヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)が好適である。この他にも、表面硬度の向上を図る場合には、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化する複数種類の樹脂を用いることが好ましい。なお、これらの樹脂は相互に組み合わせて用いることが可能であり、例えば、熱硬化型と光硬化型とのハイブリッド型とすることにより、表面硬度の向上、硬化収縮の抑制および密着性の向上を図ることができる。
表面保護層2には、分散剤と無機ナノ粒子とを含有する。
ここで、表面保護層2が複数の層で構成される場合、その複数の層の少なくとも一層に分散剤と無機ナノ粒子が添加されている。またこの場合、分散剤と無機ナノ粒子は、最表層の表面保護層に添加することが好ましい。
また、分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されている。例えば、分散剤および無機ナノ粒子は、リン脂質からなる外膜を具備するリポソームに内包されてベシクル化の状態になっている。分散剤は、水酸基またはアミノ基を有することが好ましい。また、分散剤は、不飽和二重結合を有することが好ましい。
<無機ナノ粒子について>
無機ナノ粒子としては、ナノ化できる無機粒子であればよく、例えば、α-アルミナ、シリカ、ベーマイト、酸化鉄、ダイヤモンド等の球状粒子が挙げられる。粒子形状は、球、楕円体、多面体、鱗片形等が挙げられ、特に制限はない。無機ナノ粒子の粒子径としては、1次粒子径が1~1000nmとされているものが好ましく、10~50nmのものがさらに好ましい。1次粒子径が1000nmより大きい場合においては、無機ナノ粒子に起因する光の散乱によって透明性の悪化が懸念される。用いる無機ナノ粒子の1次粒子径は1種類である必要はなく、異なる1次粒子径の無機ナノ粒子を混合して用いることが可能である。
無機ナノ粒子の添加量は、例えば表面保護層2の主成分である樹脂組成物100質量部に対して、0.005~20質量部の割合となるように添加する。無機ナノ粒子の添加量が当該範囲内であれば、表面保護層2の透明性、耐傷性、耐摩耗性および耐後加工性がさらに高まる。
また、その場合のベシクルの配合量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.00535~21.4質量部の割合となる。
ここで、無機粒子のナノ化は、ゾルゲル法、逆ミセル法またはホットソープ法などのナノ化方法によって得ることができる。
ゾルゲル法とは、アルコキシド系の前駆体を加熱等によってゾル状態としたのち、加水分解や重縮合などの化学反応を行ってナノ粒子を作る方法である。逆ミセル法とは、有機溶媒中に1あるいは2種類の反応性原料水溶液を界面活性剤とともに注入することによって逆ミセルを作製し、そのミセルの中で、熱分解等の化学反応を行ってナノ粒子を作る方法である。ホットソープ法とは、界面活性剤そのものを溶媒とし、金属水溶液を注入・激しく攪拌することで微小水滴ミセルを形成させ、熱分解あるいは、2種類の反応性原料間の反応を行って、ナノ粒子を合成する方法である。作製したナノ粒子は、周囲を界面活性剤で被覆保護されている。
<分散剤について>
分散剤は、無機ナノ粒子の表面処理に使用される。
分散剤としては、不飽和結合を有する分散剤、水酸基を有する分散剤、またはアミノ基を有する分散剤が好ましい。それぞれの分散剤で処理した無機ナノ粒子を2種類以上混合して、使用することも可能である。
水酸基を有する分散剤としては、例えば12-ヒドロキシステアリン酸やリシノール酸などとリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウムなどが結合したもの、ソルビタン脂肪酸エステル、アルコール変性シリコーンオイル、アルコール変性ワックス、酸化ワックス、カルナバワックスが挙げられる。
アミノ基を有する分散剤としては、例えばポリカルボン酸アルキルアミン、アルキルポリアミン、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、n-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、n-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、n-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、bis(4-aminobenzoato-O)(isooctadecanoato-O)(propan-2-olato)titanium、bis[2-[(2-aminoethyl)amino]ethanolato][2-[(2-aminoethyl)amino]ethanolato-O](propan-2-olato)titanate、アミノ変性シリコーンオイルが挙げられる。
また、不飽和二重結合を有する分散剤としては、脂肪族多価ポリカルボン酸、ポリカルボン酸アルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなどの高分子系の界面活性剤、オレイン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、リノレン酸等の脂肪酸とリチウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウム,バリウム,亜鉛,アルミニウム等が結合した脂肪酸金属塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、hydrogen tetrakis[2,2-bis[(allyloxy)methyl]butan-1-olato-O1]bis(ditridecyl phosphito -O'')titanate(2-)、Titanium,bis(isooctadecanoato-kO)bis(2-propanolato)- (9CI)などのチタネートカップリング剤、ポリオレフィンを熱分解したものやそれをさらに酸化したなどのワックスが挙げられる。
なお、硬化型樹脂と分散剤とには性質上好ましい組み合わせが存在する。水酸基またはアミノ基を有する分散剤を用いる場合には、熱硬化型樹脂、特にイソシアネート化合物を用いることが好ましく、当該イソシアネート化合物と分散剤の水酸基またはアミノ基とが反応して、表面保護層2の表面に無機ナノ粒子を固定化した構造を形成するので、飛躍的に表面保護層2の表面の耐擦傷性を向上させることができる。同様に、不飽和二重結合を有する分散剤を用いる場合には、光硬化型樹脂単体もしくは熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂との混合樹脂を用いることが好ましく、不飽和二重結合と光硬化型樹脂とが反応して表面保護層2の表面に無機ナノ粒子を固定化した構造を形成して表面保護層2の表面の耐擦傷性を飛躍的に向上させることができる。
上述のように、本実施形態の化粧シートの特徴(発明特定事項)の一つは、「1層又は2層以上の表面保護層のうちの少なくとも1層は、分散剤と無機ナノ粒子とを含有し、その分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されている」ことにある。そして、分散剤および無機ナノ粒子をベシクルに内包させた状態で樹脂組成物に添加することで、樹脂材料中、すなわち表面保護層中への無機ナノ粒子の分散性を飛躍的に向上するという効果が奏するが、その特徴を、完成された化粧シートの状態における物の構造や特性にて直接特定することは、状況により困難な場合も想定され、非実際的であるといえる。その理由は次の通りである。ベシクルの状態で添加された分散剤および無機ナノ粒子は、高い分散性を有して分散された状態になっていて、作製した化粧シートの状態においても、無機ナノ粒子は表面保護層に高分散されている。しかしながら、表面保護層を構成する樹脂組成物に分散剤および無機ナノ粒子をベシクルの状態で添加して表面保護層を作製した後の、化粧シートの作製工程においては、通常、積層体への圧縮処理や硬化処理などの種々の処理が施されるが、このような処理によって、分散剤および無機ナノ粒子を内包するベシクルの外膜が破砕や化学反応して、分散剤および無機ナノ粒子が外膜で包含(包皮)されていない可能性も高く、その外膜が破砕や化学反応している状態が化粧シートの処理工程によってばらつくためである。そして、この分散剤および無機ナノ粒子が外膜で包含されていないなどの状況は、物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか分散剤および無機ナノ粒子とは別に添加された材料なのか判定が困難な場合も想定される。このように、本願発明は、従来に比して無機ナノ粒子が高分散で配合されている点で相違があるものの、分散剤および無機ナノ粒子を内包するベシクルの状態で添加されたためなのかどうかが、化粧シートの状態において、その構造や特性を測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
<分散剤および無機ナノ粒子のベシクル化について>
分散剤および無機ナノ粒子のベシクル化は、例えばBangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法によって行われる。そのベシクルの形態は、対象物(分散剤及び無機ナノ粒子)がベシクルで内包されたカプセル状の形態となっている。但し、表面保護層2を構成する樹脂中において、ベシクルを構成する膜が破れて無機ナノ粒子が樹脂と接触している場合もある。より詳しくは、本実施形態において、表面保護層2を構成する樹脂中の分散剤および無機ナノ粒子は、当該分散剤および無機ナノ粒子の少なくとも一方の一部を露出させた状態で、ベシクルに内包されていてもよい。また、表面保護層2を構成する樹脂中の分散剤および無機ナノ粒子は、当該分散剤および無機ナノ粒子の少なくとも一方の一部を露出させた状態で、後述する、リン脂質からなる外膜を具備するリポソームに内包されていてもよい。
以下、このようなベシクル化処理について簡単に説明すると、Bangham法は、フラスコなどの容器にクロロホルムまたはクロロホルム/メタノール混合溶媒を入れ、さらにリン脂質を入れて溶解する。その後、エバポレータを用いて溶媒を除去して脂質からなる薄膜を形成し、分散剤および無機ナノ粒子の分散液を加えた後、ボルテックスミキサーで水和・分散させることよりベシクルを得る方法である。エクストルージョン法は、薄膜のリン脂質溶液を調液し、Bangham法において外部摂動として用いたミキサーに代わってフィルターを通過させることによりベシクルを得る方法である。水和法は、Bangham法とほぼ同じ調製方法であるが、ミキサーを用いずに、穏やかに攪拌して分散させてベシクルを得る方法である。逆相蒸発法は、リン脂質をジエチルエーテルやクロロホルムに溶解し、分散剤および無機ナノ粒子を含んだ溶液を加えてW/Oエマルジョンを作り、当該エマルジョンから減圧下において有機溶媒を除去した後、水を添加することによりベシクルを得る方法である。凍結融解法は、外部摂動として冷却・加熱を用いる方法であり、この冷却・加熱を繰り返すことによってベシクルを得る方法である。
特に、単層膜からなる外膜を具備するベシクルを得るための方法として、超臨界逆相蒸発法が挙げられる。超臨界逆相蒸発法によるベシクル化とは、超臨界状態または臨界点以上の温度条件もしくは圧力条件下の二酸化炭素にベシクルの外膜を構成する物質を均一に溶解させた混合物中に、封入物質としての無機ナノ粒子および分散剤を含む水相を加えて、一層の膜で封入物質としての無機ナノ粒子および分散剤を包含したカプセル状のベシクルを形成する方法である。
ベシクルとは、球殻状に閉じた膜構造を有する小胞で、内部に液相を含むものを指す。リン脂質は水相中で脂質二重膜相からなる安定なベシクル(リポソームとも呼ばれる)を形成する。
なお、超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98℃)および臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度条件もしくは圧力条件下の二酸化炭素とは、臨界温度だけ、あるいは臨界圧力だけが臨界条件を超えた条件下の二酸化炭素を意味するものである。この方法により、直径50~800nmの単層ラメラベシクルを得ることができる。なお、超臨界逆相蒸発法のより詳しい内容については、本発明者等が提案している特表2002/032564号公報、特開2003-119120号公報、特開2005-298407号公報および特開2008-063274号公報(以下、「超臨界逆相蒸発法公報類」と称する)に開示されている。
また、ベシクルを構成するリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質などが挙げられる。
<隠蔽層7>
隠蔽層7は、隠蔽性を保たせることを目的として、例えば、絵柄模様層5と同様に印刷によって形成される。インキに含ませる顔料としては不透明な顔料、酸化チタン、酸化鉄等を使用することが好ましい。また隠蔽性を上げるために金、銀、銅、アルミ等の金属を添加することも可能である。一般的にはフレーク状のアルミを添加することが多い。なお、隠蔽層7は、基材層6が不透明で隠蔽性を有している場合には、省略することができる。
<プライマー層8>
プライマー層8は、基材Bとの密着性を向上させるために形成する。
プライマー層8は、基材Bが木質系基材Bの場合には、例えば、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、ニトロセルロース系樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂は単独ないし混合して接着組成物とし、ロールコート法やグラビア印刷法等の適宜の塗布手段を用いて形成することができる。この場合、プライマー層8を構成する樹脂としては、ウレタン-アクリレート系樹脂が好ましい、すなわち、アクリル系樹脂とウレタン系樹脂との共重合体とイソシアネートとからなる樹脂で形成するのが特に好ましい。
<本実施形態の効果>
(1)化粧シート1は、単層または複数層からなる化粧シート1において、ベシクル化された分散剤と無機ナノ粒子を添加した表面保護層2を少なくとも1層有し、ナノ化処理(ベシクル化処理)において、分散剤および無機ナノ粒子が共に、リポソームに内包されるなどベシクル化されている。なお、分散剤および無機ナノ粒子は、当該分散剤および無機ナノ粒子の少なくとも一方の一部を露出させた状態で、リポソームに内包されるなどベシクル化されていてもよい。
この構成によれば、表面保護層2に無機粒子を添加することで耐傷性を向上することが出来る。
このとき、分散剤及び無機ナノ粒子を用いることにより、この粒子を添加することによって生じる光の散乱を抑制することが出来る。
更に、分散剤および無機ナノ粒子が共に、リン脂質からなる外膜を具備するリポソームに内包するなどしてベシクル化の状態になっていることから、ナノサイズの分散剤及び無機ナノ粒子からなる微粒子の分散性が著しく向上して、表面保護層2を構成する樹脂中において無機ナノ粒子の二次凝集を抑制して均一に分散させることができる結果、より高い透明性を担保可能となる。
また無機粒子がナノサイズであり又均一に分散しているため、経時的な艶消し外観の劣化も抑制することが出来る。
以上のように、ナノ化処理を施した分散剤と無機ナノ粒子とを、表面保護層2に添加することで、無機ナノ粒子の2次凝集を抑制するとともに、表面保護層2における分散性を著しく向上させることが可能となる。これにより、表面保護層2の透明性を損なうことなく、耐傷性の優れた表面保護層2を得られる。
(2)分散剤が、水酸基またはアミノ基を有するとよい。
この構成によれば、分散剤の水酸基またはアミノ基が、熱硬化型樹脂と強固に結合するため、表面保護層2の無機ナノ粒子が表面保護層2に固定化されることにより、無機ナノ粒子の欠落による耐傷性の低下を改善させることが可能となる。
(3)分散剤が、不飽和二重結合を有すると良い。
この構成によれば、分散剤の不飽和二重結合が、光硬化型樹脂と強固に結合するため、表面保護層2の無機ナノ粒子が表面保護層2に固定化されることにより、無機ナノ粒子の欠落による耐傷性の低下を改善させることが可能となる。
(4)表面保護層2の主成分である樹脂組成物が、硬化型樹脂である。
この構成によれば、表面保護層2を構成する樹脂組成物の架橋によって高い耐擦傷性と、後加工に最適な柔軟性を備えた表面保護層2を備える化粧シート1を提供することができる。
(5)透明樹脂層3にナノ化処理を施した造核剤を添加すると良い。
この構成によれば、ナノ化処理された造核剤を樹脂組成物としての結晶性ポリプロピレン樹脂に対して添加することによって、当該結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における球晶の平均粒径を最適なサイズに調整し、透明樹脂層3における優れた透明性、耐擦傷性および耐後加工性を実現可能となる。
(6)ベシクル化は、超臨界逆相蒸発法によってナノ化処理すると良い。なお、透明樹脂層3に添加した造核剤は、当該造核剤の一部を露出させた状態で、ベシクル化されていてもよい。
この構成によれば、超臨界逆相蒸発法を用いてナノ化処理を行うことによって、表面保護層2に含まれる無機ナノ粒子の分散性、および、透明樹脂層3に含まれる造核剤の分散性が著しく向上することで、透明性を維持したまま、耐傷性能を向上させることができる。
次に、本発明の実施例について説明する。
尚、以下に説明する化粧シート1の層構成は上記説明した実施形態と同様な層構成とする。
<実施例1>
実施例1においては、造核剤リポソームを添加していない透明樹脂層3の表面に対して、反応基をもたない分散剤および無機ナノ粒子が共に、Bangham法によりナノ化処理した、リン脂質からなるカプセルに内包されているリポソームを、表面保護層2を構成する熱硬化性樹脂100質量部に対し0.05質量部添加して表面保護層2を形成し、実施例1の化粧シートとした。
具体的には、ペンタッド分率が97.8%、MFR(メルトフローレート)が15g/10min(230℃)、分子量分布MWD(Mw/Mn)が2.3の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:BASF社製)を500ppmと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チヌビン328:BASF社製)を2000ppmと、ヒンダードアミン系光安定化剤(キマソーブ944:BASF社製)を2000ppmとを添加した樹脂を、溶融押出機を用いて押出し、透明樹脂層3として使用する厚さ100μmの高結晶性ポリプロピレン製の透明樹脂シートを製膜し、続いて、製膜された透明樹脂シートの両面にコロナ処理を施して表面の濡れ張力を40dyn/cm以上とした。
他方、隠蔽性のある70μmのポリエチレンシート(基材層6)の一方の面に対し、2液型ウレタンインキ(V180;東洋インキ製造(株)製)に、そのインキのバインダー樹脂分に対してヒンダードアミン系光安定化剤(キマソーブ944;BASF社製)を0.5質量%添加したインキを用いてグラビア印刷方式にて絵柄印刷を施して絵柄模様層5を設け、また、上記基材層6の他方の面にプライマー層8を設けた。
しかる後、上記基材層6の一方の面側に、接着剤層4としてのドライラミネート用接着剤(タケラックA540;三井化学(株)製;塗布量2g/m)を介して透明樹脂シートをドライラミネート法にて貼り合わせた。そして、透明樹脂シートの表面にエンボス模様3aを施した後、2液硬化型ウレタントップコート(W184;DICグラフィックス社製)100質量部に対して、前述の分散剤と無機ナノ粒子を含むリポソーム0.05質量部を配合してなるインキを塗布厚15g/mにて塗布して表面保護層2を形成して、実施例1の化粧シート1とした。この化粧シート1の総厚は200μmである。
<実施例2>
実施例2においては、造核剤リポソームを添加していない透明樹脂層3の表面に対して、アミノ基をもつ分散剤および無機ナノ粒子が共に、Bangham法によりナノ化処理した、リン脂質からなるカプセルに内包されているリポソームを、表面樹脂層を構成する熱硬化型樹脂100質量部に対し0.05質量部添加して表面保護層2を形成し、実施例2の化粧シート1とした。
その他は、実施例1と同様に製造して、実施例2の化粧シート1を得た。
<実施例3>
実施例3においては、造核剤リポソームを添加していない透明樹脂層3の表面に対して、不飽和二重結合をもつ分散剤および無機ナノ粒子が共に、Bangham法によりナノ化処理した、リン脂質からなるカプセルに内包されているリポソームを、表面樹脂層を構成する硬化型樹脂100質量部に対し0.05質量部添加して表面保護層2を形成し、実施例3の化粧シート1とした。硬化型樹脂として、熱硬化型樹脂および光硬化型樹脂の混合樹脂を採用した。
その他は、実施例1と同様に製造して、実施例3の化粧シート1を得た。
<実施例4>
実施例4においては、造核剤リポソームを添加した透明樹脂層3の表面に対して、アミノ基をもつ分散剤および無機ナノ粒子が共に、Bangham法によりナノ化処理した、リン脂質からなるカプセルに内包されているリポソームを、表面樹脂層を構成する熱硬化型樹脂100質量部に対し0.05質量部に添加して表面保護層2を形成し、実施例4の化粧シート1とした。
具体的には、下記の透明樹脂層3を形成する樹脂組成物を、押出機を用いて溶融押し出して、厚さ100μmの透明な高結晶性ポリプロピレンシートとしての透明樹脂シートを製膜する。続いて、透明樹脂シートの両面にコロナ処理を施し、透明樹脂シート表面の濡れ張力を40dyn/cm以上とした。その他は、実施例2と同様にして実施例4の化粧シート1を得た。
ここで、造核剤のベシクル化は次のように実施した。
「造核剤リポソームの調製」
また実施例において透明樹脂層3に添加される造核剤のベシクル化について説明する。造核剤のベシクル化は、超臨界逆相蒸発法により、まず、メタノール100質量部、造核剤としてのリン酸エステル金属塩系造核剤(アデカスタブNA-11、ADEKA社製)82質量部、ベシクルの外膜を構成する物質としてのホスファチジルコリン5質量部を60℃に保たれた高圧ステンレス容器に入れて密閉し、圧力が20MPaとなるように二酸化炭素を注入して超臨界状態とした後、激しく攪拌混合しながらイオン交換水を100質量部注入する。容器内の温度および圧力を超臨界状態に保持した状態で15分間攪拌後、二酸化炭素を排出して大気圧に戻すことによってリン脂質からなる単層膜の外膜を具備するベシクルに造核剤を内包した、ベシクル化した造核剤(造核剤リポソーム)を得た。
<造核剤リポソームを添加した透明樹脂層3の調製および製膜方法>
以下に、上記の造核剤リポソームを添加した透明樹脂層3を形成する樹脂組成物の詳しい調製方法と透明樹脂シートの製膜方法を説明する。
透明樹脂層3を形成する樹脂組成物は、ペンタッド分率が97.8%、MFR(メルトフローレート)が15g/10min(230℃)、分子量分布MWD(Mw/Mn)が2.3の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:BASF社製)500PPMと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チヌビン328:BASF社製)2000PPMと、ヒンダードアミン系光安定化剤(キマソーブ944:BASF社製)2000PPMと、上記造核剤リポソーム1000PPMとを添加したものを用いる。そして、当該樹脂組成物を溶融押出機を用いて溶融・押出し、透明樹脂層3として使用する厚さ100μmの透明樹脂シートとして製膜した。
<実施例5>
実施例5においては、造核剤リポソームを添加した透明樹脂層3の表面に対して、アミノ基をもつ分散剤および無機ナノ粒子が共に、超臨界逆相蒸発法によりナノ化処理した、リン脂質からなるカプセルに内包されているリポソームを、表面樹脂層を構成する熱硬化型樹脂100質量部に対し0.05質量部添加して表面保護層2を形成し、実施例5の化粧シート1とした。その他は、実施例4と同様にして実施例5の化粧シート1を得た。
ここで、無機ナノ粒子及び分散剤のベシクル化は次のように実施した。
すなわち、無機ナノ粒子と分散剤が共に内包されたベシクルの調製は、60℃に保たれた高圧ステンレス容器に対して、ヘキサン100質量部と無機ナノ粒子70質量部と分散剤0.07質量部とリン脂質としてのホスファチジルコリン5質量部とを入れて密閉し、容器内の圧力が20MPaになるように二酸化炭素を注入して超臨界状態とし、更に激しく攪拌混合しながら酢酸エチルを100質量部注入し、温度と圧力を保ちながら15分間攪拌混合後、二酸化炭素を排出して大気圧に戻す超臨界逆相蒸発法によって行ない、リン脂質の外膜を具備する無機ナノ粒子及び分散剤を内包するベシクルを得た。
ここで、フィラーとして0.01質量部添加する場合、ベシクルを0.0107質量部添加する。
<比較例1>
ベシクル化を施していない、反応基をもたない分散剤と無機ナノ粒子を使用した以外は、実施例1と同様にして比較例1の化粧シートを作製した。
<比較例2>
リン脂質からなるカプセル(ベシクル)に内包された無機ナノ粒子と、ベシクル化されていない反応基をもたない分散剤を使用した以外は、実施例1と同様にして比較例2の化粧シートを作製した。
<比較例3>
リン脂質からなるカプセル(ベシクル)に内包された無機粒子として、4.5umのシリカ粒子(OK412:エボニック社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3の化粧シートを作製した。
<比較例4>
反応基をもたない分散剤および無機ナノ粒子が共に、リン脂質からなるカプセル(ベシクル)に内包されているリポソームを0.002質量部添加した以外は、実施例1と同様にして比較例4の化粧シートを作製した。
<比較例5>
反応基をもたない分散剤および無機ナノ粒子が共に、リン脂質からなるカプセル(ベシクル)に内包されているリポソームを50質量部添加した以外は、実施例1と同様にして比較例5の化粧シートを作製した。
実施例1~5および上記比較例1~5で得られた各化粧シート1を、ウレタン系の接着剤を用いて木質系基材Bに貼り合わせた後、目視にて表面の透明性、ホフマンスクラッチ試験およびスチールウールラビング試験にて表面硬度、V溝曲げ加工試験にてV溝曲げ加工適性を判定し、それぞれ評価を行った。得られた評価結果を表1に示す。
各評価試験の試験方法を簡単に説明する。
<ホフマンスクラッチ試験>
ホフマンスクラッチ試験は、ホフマンスクラッチハードネステスター(BYK-Gardner社製)を用いて、1200gの荷重にて、木質系基材Bに貼り合せた各化粧シート1の表面を一定の速度で引っ掻き、化粧シート1の表面の傷つきの有無を目視にて判定した。
<スチールウールラビング試験>
スチールウールラビング試験は、木質系基材Bに貼り合せた各化粧シート1の表面に対し、スチールウールを当接させた状態で治具を用いて固定し、当該治具に500gの荷重をかけたまま一定の速度で、距離50mm、50往復の条件にて擦らせて、化粧シート1の表面の傷つきの有無を目視にて判定した。スチールウールは、ボンスター#0(日本スチールウール(株)製)を丸めて使用した。
<V溝曲げ加工試験>
V溝曲げ加工適性試験においては、基材としての中質繊維板(MDF)の一方の面に対して、上記の方法により得られた各化粧シートをウレタン系の接着剤を用いて貼り付け、基材の他方の面に対して、反対側の化粧シートにキズが付かないようにV型の溝を基材と化粧シートとを貼り合わせている境界まで入れる。次に、化粧シートの面が山折りとなるように基材Bを当該V型の溝に沿って90度まで曲げ、化粧シートの表面の折れ曲がった部分に白化や亀裂などが生じていないかを光学顕微鏡を用いて観察し、耐後加工性の優劣の評価を行う。
表1の評価結果における記号の説明は下記の通りである。
◎:非常に良好な透明性、耐擦傷性または耐後加工性を有する
○:良好な透明性、耐擦傷性または耐後加工性を有する
×:透明性、耐擦傷性または耐後加工性に劣る
Figure 0006997915000001
実施例1~5の化粧シート1においては、表1に示すように、透明性が良好であると共に、ホフマンスクラッチ試験、スチールウール試験およびV溝曲げ加工試験においても良好な結果が得られた。これに対して、比較例1~5の化粧シート1においては、透明性、耐擦傷性および後加工性に劣っていた。
これは、実施例1~5の化粧シート1については、無機ナノ粒子及び分散剤が共に内包されたベシクルを表面保護層2に添加することで、無機ナノ粒子を均一に分散させることができるので、良好な透明性と、化粧シート1に要求される後加工適性とを維持しながら、無機ナノ粒子に起因して表面硬度が向上したためであると考えられる。
また、比較例1の化粧シート1については、表面保護層2に対してベシクル化を施していない、反応基を持たない分散剤及び無機ナノ粒子を用いたために、無機ナノ粒子の分散性が十分に得られず、化粧シートに必要とされる透明性および耐擦傷性を得ることができなかったと考えられる。比較例2の化粧シート1については、表面保護層2に対してベシクル化を施していない分散剤を用いたために、無機ナノ粒子の分散性が十分に得られず、化粧シートに必要とされる透明性および耐擦傷性を得ることができなかったと考えられる。比較例3の化粧シート1については、無機粒子の粒子径が大きすぎるために、表面保護層2の表面に凹凸が形成されて透明性が損なわれるとともに、熱硬化型樹脂と無機微粒子とが十分に結合せずに耐擦傷性および耐後加工性に劣る結果になったと考えられる。比較例4の化粧シート1については、リン脂質からなるカプセルに分散剤と無機ナノ粒子を内包するベシクルの添加量が極めて少量であったために、耐擦傷性に劣る結果になったと考えられる。比較例5の化粧シート1については、リン脂質からなるカプセルに分散剤と無機ナノ粒子を内包するベシクルの添加量が極めて多量であったために、透明性に劣る結果となり、耐擦傷性は摩擦時に無機ナノ粒子が脱落してアブレシブ摩耗が生じたために劣る結果になったと考えられる。
以上の評価結果から、実施例1~5に示す本発明の化粧シート1は、化粧シート1に要求される透明性を備え、極めて耐擦傷性と耐後加工性とに優れた化粧シート1であることが明らかとなった。
1化粧シート
2表面保護層
3透明樹脂層
4接着剤層
5絵柄模様層
6基材層
7隠蔽層
8プライマー層
B基材

Claims (11)

  1. 基材層の一方の面に1層又は2層以上の中間層を有し、その中間層の上に1層又は2層以上の表面保護層を有する化粧シートであって、
    前記1層又は2層以上の表面保護層は、硬化型樹脂を、前記1層又は2層以上の表面保護層を構成する樹脂全体を100質量部とした場合に80質量部以上含み、
    前記1層又は2層以上の表面保護層のうちの少なくとも1層は、分散剤と無機ナノ粒子とを含有し、
    前記分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されており、
    前記ベシクルの配合量は、前記1層又は2層以上の表面保護層を構成する樹脂全体の質量100質量部に対して、0.00535~21.4質量部の範囲内であることを特徴とする化粧シート。
  2. 基材層の一方の面に1層又は2層以上の中間層を有し、その中間層の上に1層又は2層以上の表面保護層を有する化粧シートであって、
    前記1層又は2層以上の表面保護層は、硬化型樹脂を、前記1層又は2層以上の表面保護層を構成する樹脂全体を100質量部とした場合に80質量部以上含み、
    前記1層又は2層以上の表面保護層のうちの少なくとも1層を、前記硬化型樹脂に分散剤と無機ナノ粒子とを添加して形成し、
    前記分散剤および無機ナノ粒子が共にベシクルに内包されており、
    前記ベシクルの配合量は、前記1層又は2層以上の表面保護層を構成する樹脂全体の質量100質量部に対して、0.00535~21.4質量部の範囲内であることを特徴とする化粧シート。
  3. 前記分散剤および無機ナノ粒子は、リン脂質からなる外膜を具備するリポソームに内包される形でベシクル化されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した化粧シート。
  4. 前記分散剤および無機ナノ粒子を共に、リン脂質からなる外膜を具備するリポソームに内包される形でベシクル化することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した化粧シート。
  5. 前記分散剤が、水酸基またはアミノ基を有することを特徴とする請求項1~請求項4のいずか1項に記載した化粧シート。
  6. 前記分散剤が、不飽和二重結合を有することを特徴とする請求項1~請求項4のいずか1項に記載した化粧シート。
  7. 前記中間層を構成する層として、結晶性ポリプロピレン樹脂を含む透明樹脂層を有し、
    前記透明樹脂層は、ベシクルに内包された造核剤を含有することを特徴とする請求項1~請求項6のいずか1項に記載した化粧シート。
  8. 前記中間層を構成する層として、結晶性ポリプロピレン樹脂を含む透明樹脂層を有し、
    前記透明樹脂層を、前記結晶性ポリプロピレン樹脂にベシクルに内包された造核剤を添加して形成することを特徴とする請求項1~請求項7のいずか1項に記載した化粧シート。
  9. 前記造核剤は、前記透明樹脂層を形成する結晶性ポリプロピレン樹脂100質量部に対して0.01~1.0質量部の範囲内で含有されていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載した化粧シート。
  10. 前記無機ナノ粒子が10~50nmの範囲内の粒子径とされたことを特徴とする請求項1~請求項9のいずか1項に記載した化粧シート。
  11. 請求項1~請求項10のいずれか1項に記載した化粧シートの製造方法であって、
    超臨界逆相蒸発法によって、前記分散剤と前記無機ナノ粒子を、ベシクルに内包させることを特徴とする化粧シートの製造方法。
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