以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態にかかるレーザー走査顕微鏡システムの構成全体を概略的に示している。レーザー走査顕微鏡システム1は、レーザー走査顕微鏡2と、コンピューター3と、画像表示装置4とを備える。コンピューター3は、レーザー走査顕微鏡2及び画像表示装置4に接続され、それらの動作を制御すると共に、それらから入力する信号の処理を行う。画像表示装置4は、コンピューター3から出力される画像データを表示すると共に、ユーザーが電子ペンで描画したり情報を入力し得る機能を備えた表示パネルを有する。
レーザー走査顕微鏡2は、走査光学系5と、照明光学系6と、観察光学系7とを有する。更にレーザー走査顕微鏡2は、観察対象物である試料Sを載置するための試料ステージ8を備える。
走査光学系5は、試料ステージ8上の試料Sの表面をレーザー光で走査する。そのために、走査光学系5は、レーザー光源10と、ガルバノスキャナー11と、fθレンズ12と、第1結合レンズ13と、ダイクロイックミラー14と、対物レンズ15とを、この順に光軸上に配置して構成される。
レーザー光源10は、例えば固体レーザー、半導体レーザー、ガスレーザー等の公知のレーザー発振器からなり、所定波長のレーザー光L1を出射する。レーザー光源10は、レーザー光の出力を高速でオン/オフしてパルス発振するパルスレーザーであっても、オン状態に維持してレーザー光を連続的に出力する連続波レーザーであっても良い。
ガルバノスキャナー11は、互いに直交する2つの回転軸周りにそれぞれ第1,第2ガルバノモーター16,17によって回転する第1,第2ガルバノミラー18,19を有する2軸走査型である。後述するように、ガルバノスキャナー11の動作は、レーザー光源10によるレーザー光の出力と同期させて制御される。
fθレンズ12は、その焦点位置即ち焦点面Pfが、第1結合レンズ13の焦点位置と光軸上で一致するように配置される。ダイクロイックミラー14は、レーザー光源10が発する所定波長のレーザー光は反射するが、それ以外の波長の光は透過することができる。対物レンズ15は、その光軸に沿って即ち図中上下方向に移動可能に、試料ステージ8の直ぐ上方に配置され、必要に応じて所望の倍率のものに交換することができる。試料ステージ8は、対物レンズ15の光軸に平行なZ方向、及び/又はZ方向にそれぞれ直交しかつ互いに直交するX方向及び/又はY方向に移動可能に設けることができる。
照明光学系6は、試料ステージ8上の試料Sを観察するための照明光を照射する。そのために、照明光学系6は、照明光源21と、集光レンズ22と、ハーフミラー23と、他の光学系5、7と共通のダイクロイックミラー14及び対物レンズ15とを、この順に光軸上に配置して構成される。照明光源21は、例えば白色の照明光を出射するハロゲンランプ等の白色光源である。集光レンズ22は、照明光源21からの照明光を集光してハーフミラー23に送り、ハーフミラー23は、入射する照明光の一部(略半分)をダイクロイックミラー14及び対物レンズ15に向けて反射する。
観察光学系7は、試料ステージ8上の試料Sを観察するために、試料Sから反射される光を検出する。そのために、観察光学系7は、他の光学系5、6と共通の対物レンズ15及びダイクロイックミラー14と、照明光学系6と共通のハーフミラー23と、第2結合レンズ24と、撮像カメラ25とを、この順に光軸上に配置して構成される。本実施形態において、第2結合レンズ24は、走査光学系5の第1結合レンズ13と光学的に同じ光学素子であり、従って同じ倍率及び焦点距離を有する。
撮像カメラ25は、CCD(charge coupled device)イメージセンサーやCMOS(complementary metal-oxide semiconductor)イメージセンサー等の撮像素子26を備える。撮像素子26は、その撮像面Piを第2結合レンズ24の焦点位置に、該第2結合レンズの光軸に直交させて配置されている。これにより、撮像カメラ25の撮像面Piは、走査光学系5のfθレンズ12の焦点面Pfの共焦点位置に設定される。撮像カメラ25が撮像した画像は、デジタル信号としてコンピューター3に出力される。
また、レーザー走査顕微鏡2は、ガルバノスキャナー11の駆動を制御するガルバノコントローラー27を備える。更にレーザー走査顕微鏡2は、試料ステージ8をXYZ方向に移動させる移動機構の駆動を制御する試料ステージ移動コントローラー(28,図2)、及び対物レンズ15の位置を光軸方向に調整する調整機構の駆動を制御する対物レンズ位置コントローラー(29,図2)を備える。
画像表示装置4は、例えば液晶ディスプレイ(liquid crystal display:LCD)からなる表示パネル41を備える。表示パネル41上には、例えば電磁誘導式のポインティングデバイスである公知のデジタイザー42が配置されている。前記デジタイザーは、ユーザーが電子ペン43を用いて接触した表示パネル41上の位置即ち座標及びその動きを検出して出力する。
更に表示パネル41上には、必要に応じてタッチパネル44を配置することができる。タッチパネル44は、例えば公知の静電容量式のポインティングデバイスであり、ユーザーが指で又は電子ペン43を用いて接触した表示パネル41上の位置及びその動きを検出して出力する。
図2は、コンピューター3の制御構成を概略的に示している。コンピューター3は、制御部31と、演算処理部32と、記憶部33と、通信部34と、入力部35とを備える。演算処理部32は、撮像カメラ25から出力される画像信号、及び表示パネル41のデジタイザー42並びにタッチパネル44から出力される座標及びその動きに関する位置情報を処理する。記憶部32は、撮像カメラ25からの前記画像信号、表示パネル41からの前記位置情報、及び演算処理部32により処理された画像データを記憶する。通信部33は、撮像カメラ25を含むレーザー走査顕微鏡2、画像表示装置4、及び任意により他の外部装置と双方向で通信する。入力部34は、ユーザーによって操作される外部のキーボード、マウス、テンキー等の入力装置に接続されている。
制御部31は、CPU、ROM、RAM等からなり、コンピューター3内の演算処理部32、記憶部33、通信部34及び入力部35の動作を制御すると共に、コンピューター3に接続されたレーザー走査顕微鏡2、画像表示装置4、及び必要に応じて他の外部デバイスを制御する。演算処理部32が行う信号処理等のプログラムは、該演算処理部が有するROM(図示せず)に格納されている。制御部31がレーザー走査顕微鏡2及び画像表示装置4に対して行う試料観察のプロクラムは、制御部31の前記ROM又は記憶部32に格納される。
走査光学系5において、レーザー光源10から発せられたレーザー光L1は、第1及び第2ガルバノミラー18,19に反射されてfθレンズ12に入射し、その焦点面Pfに集光された後、第1結合レンズ13を通過してダイクロイックミラー14に反射され、対物レンズ15を通って試料ステージ21上の試料S表面に集光される。レーザー光L1の集光位置は、ガルバノスキャナー11によって試料S表面をX方向及び/又はY方向に移動し、それにより試料S表面は、レーザー光L1でX方向及び/又はY方向走査される。
より具体的には、ガルバノスキャナー11において、第1及び/又は第2ガルバノモーター16,17を駆動して、第1及び/又は第2ガルバノミラー18,19を回転させることによって、fθレンズ12の焦点面Pf上でレーザー光L1の集光位置が移動する。即ち、fθレンズ12の焦点面Pfを仮想走査面として、ガルバノスキャナー11とfθレンズ12とによりレーザー光L1の走査が行われる。試料S表面の走査は、焦点面Pf(前記仮想走査面)における走査を、第1結合レンズ13及び対物レンズ15の通過により縮小された倍率で行われる。従って、対物レンズ15を交換した場合でも、試料S表面でのレーザー光L1の走査は、前記仮想走査面における対物レンズ交換前と同じ走査が、交換後の対物レンズ15の倍率に縮小又は拡大した形で行われる。
レーザー光L1には、レーザー走査顕微鏡2の用途に応じて様々なレーザー光を用いることができる。例えば生物学・医学の分野で蛍光顕微鏡として使用する場合、生体又は非生体試料がレーザー光に励起されて放出する蛍光を検出する。例えばネオジウム・イルフレーザーのような青色レーザー光の場合、レーザー光が集光した試料表面から緑色の蛍光が放出される。
また、レーザーアブレーション等の分野では、所定の気体を封入した容器内で、照射したレーザー光の高エネルギーにより試料表面付近にプラズマが発生し、そのプラズマ発光を検出することができる。更に、試料S表面からは、照射されたレーザー光L1の一部が反射され又は散乱する。
照明光学系6において、照明光源21から出射された照明光L2は、集光レンズ22を通過してハーフミラー23により対物レンズ15に向けて反射され、ダイクロイックミラー14をそのまま通過して対物レンズ15によって試料Sの表面に照射される。照明光L2の照射は、好ましくは試料S表面全体を、又は少なくともレーザー光L1により走査される試料S表面の観察領域を照明するように行う。試料S表面に照射された照明光L2は、試料S表面から反射され又は散乱する。
試料S表面から反射されたレーザー光L1の反射レーザー光L1r並びに照明光L2の、レーザー光L1の励起による前記蛍光、及び前記プラズマによるプラズマ発光は、レーザー光L1等の入射方向とは逆方向に対物レンズ15を通過する。照明光L2の反射照明光L2r、前記蛍光、及びプラズマ発光は、対物レンズ15の通過後、そのままダイクロイックミラー14を通過する。
対物レンズ15を通過した反射レーザー光L1rは、その強度が或る程度強い場合、僅かな一部(例えば、数%又は1~2%以下)がダイクロイックミラー14を通過する。その場合でも、反射レーザー光L1rの大部分は、ダイクロイックミラー14により第1結合レンズ13に向けて反射される。
ダイクロイックミラー14を通過した前記一部の反射レーザー光L1r、反射照明光L2r、前記蛍光、及び前記プラズマ発光は、それぞれ略半分がハーフミラー23を通過して第2結合レンズ24に入射し、その焦点位置にある撮像素子26の撮像面Piに集光される。撮像面Piに結像した反射レーザー光L1r、前記蛍光及びプラズマ発光は、撮像素子26に検出され、電気信号に変換してコンピューター3に出力される。
撮像面Piに結像した前記蛍光及びプラズマ発光の座標位置は、前記蛍光及びプラズマ発光の試料S表面上の座標位置に対応し、それを対物レンズ15及び第2結合レンズ24によって拡大表示している。特に撮像面Piにおける前記プラズマ発光の座標位置は、ガルバノスキャナー11によって走査される仮想走査面Pf上でのレーザー光L1の座標位置に1対1の倍率で対応している。これは、上述したように撮像面Piが仮想走査面Pfの共焦点位置にあり、しかも走査光学系5の第1結合レンズ13と観察光学系7の第2結合レンズ24が光学的に同一であり、対物レンズ15を共通にしていることによる。
他方、レーザー光L1の強度が強過ぎる場合、ダイクロイックミラー14を通過した前記一部の反射レーザー光L1rの光量が僅かであっても、例えばパルスレーザーでピーク出力が大きい場合等、撮像素子26を破損する虞がある。撮像素子26を破損しない場合でも、撮像面Piに集光する反射レーザー光L1rの照度が強過ぎて、その集光位置を特定できない虞がある。このような場合、前記蛍光及びプラズマ発光等の検出も阻害される虞がある。
その場合、前記所定波長の反射レーザー光L1rの通過を阻止し、観察する前記蛍光及びプラズマ発光等の光を通過させて撮像素子26への入射を可能にする光学素子(図示せず)を、ダイクロイックミラー14と撮像カメラ25との間に配置することが好ましい。このような光学素子として、例えばバンドパスフィルター、カットフィルター等のフィルター、分光器、波長板、ビームスプリッター等を単独で又は適当に組み合わせて用いることができる。
また、前記光学素子は、前記所定波長の反射レーザー光L1rの通過を100%阻止するものでなくても良い。例えば、撮像素子26を破損せず、撮像面Piでの集光位置を特定可能な程度まで光量を減衰させるように、反射レーザー光L1rの通過を制御するものであれば良い。それによって、撮像面Piで反射レーザー光L1rの集光位置を検出し、それにより試料S表面上のレーザー光L1の集光位置を特定することができる。これは、試料S表面付近にレーザー光L1によるプラズマが発生しない場合や、プラズマが発生してもプラズマ発光を撮像素子26で十分に検出できない場合に有利である。
撮像カメラ25の撮像素子26は、その撮像面Piにおける座標位置がfθレンズ12の焦点面Pfにおける座標位置と1対1で対応するという意味において、fθレンズ12の焦点面Pf上でレーザー光L1が走査する走査可能領域と物理的に同じサイズの撮像面Piを有することが好ましい。しかしながら、一般に撮像カメラ25には、コスト面や小型化等の観点から、撮像面Piのサイズがfθレンズ12の焦点面Pfの走査可能領域よりも小さい撮像素子26が採用される。
その場合、試料ステージ8上に載置された試料Sの表面を、図3(a)に示すように、XY方向の格子状に配列される、それぞれ同じ大きさの複数の区分域Dに分割する。各区分域Dは、少なくとも1つの区分域D全体が対物レンズ15の視野範囲内に収まるように設定するのが好ましい。
図3(a)において、或る区分域Dijをレーザー光L1で走査する際、該区分域Dijを対物レンズ15の正面に、即ちその中心位置Coが対物レンズ15の光軸Obと概ね一致するように、試料ステージ8をXY方向に移動させるのが好ましい。これにより、焦点面Pfでは、図3(b)に示すように、fθレンズ12の光軸Osの通る位置Csが区分域Dijの中心位置Coに対応し、その走査領域Asが、試料S表面の区分域Dijに対応する。撮像面Piでは、図3(c)に示すように、結像される画像Imが区分域Dij全体をカバーすると同時に、その中心位置Ciが区分域Dijの中心位置Csに対応する。従って、撮像面Pi上の画像Imは、焦点面Pfの走査領域Asと等倍に1対1で対応する。
或る実施形態では、1つの区分域Dijについてレーザー光L1の走査が終了すると、試料ステージ8をXY方向に移動させて、次の区分域Di+1,j+1を対物レンズ15の正面に配置して、レーザー光L1を走査し、これを全部の区分域Dが終了するまで繰り返し行う。別の実施形態では、試料S表面の観察したい1つ又は複数の区分域Dのみを選択して、レーザー光L1の走査を行うことができる。
試料S表面の観察対象範囲が面積を持った領域である場合、レーザー光L1は、その集光点を試料S表面上でX方向(又はY方向)に直線状に走査して1本の走査ラインを形成し、次にY方向(又はX方向)にシフトして次の走査ラインへラスタ式に走査することが好ましい。本実施形態によれば、試料S表面の観察対象範囲が、直線、曲線又はそれらの組み合わせからなる開いた線形状に画定される場合、その線形状に沿ってレーザー光L1を走査することができる。
撮像カメラ25は、レーザー光L1の走査によって撮像面Piに結像する各点の画像データをデジタル信号に変換して、リアルタイムで連続的にコンピューター3に出力する。コンピューター3は、撮像カメラ25から入力する前記各点の画像データを記憶部33に保存する。試料S表面の観察領域全体に亘ってレーザー光L1が走査されると、演算処理部32は、記憶部33に保存されている前記各点の画像データを処理して、撮像素子26に結像した試料S表面全体の2次元画像を形成する。制御部31は、形成された前記2次元画像を記憶部33に記憶させると共に、画像表示装置4に出力して表示パネル41に表示させることができる。
前記2次元画像は、撮像素子26が検出した前記蛍光の蛍光画像、前記プラズマ発光のプラズマ発光画像、又は撮像素子26による他の検出光の画像である。試料S表面から様々な光が重畳して撮像素子26により検出される場合、コンピューター3において、演算処理部32の信号処理によって、目的の波長又は波長帯の前記2次元画像を選択して形成することができる。
別の実施形態では、目的の前記2次元画像を形成するために、それに適した波長又は波長帯の光を抽出するように、上述したフィルター等の前記光学素子を観察光学系7のダイクロイックミラー14と撮像カメラ25との間に配置することができる。前記光学素子は、取外可能かつ/又は交換可能に設けることが好ましい。
次に、図1のレーザー走査顕微鏡システム1を用いて走査される試料S表面におけるレーザー光L1の軌跡を観察する過程を説明する。図6は、このレーザー光L1の軌跡観察過程を示すフロー図である。
ユーザーが入力部35に観察過程の開始をコンピューター3に入力すると、制御部31は、レーザー走査顕微鏡2を制御して照明光源21を駆動し、照明光L2を試料S表面全体に照射させ、その反射照明光L2rを撮像カメラ25に検出させ、試料S表面全体の画像データをコンピューター3に出力させる。撮像カメラ25からの前記画像データは、記憶部33に記憶されると共に、演算処理部32に処理されて、試料S表面全体の2次元画像が形成される(ステップSt1)。
演算処理部32は、前記2次元画像の形成と同時に、該2次元画像の撮像面Pi上の座標位置を適当に換算処理して、試料ステージ8上の座標位置を算出し、前記2次元画像と共にかつそれに関連付けして記憶部33に記憶させる。制御部31は、前記試料S表面全体の2次元画像を画像表示装置4に出力して、表示パネル41に表示させる(ステップSt2)。
ユーザーは、表示パネル41に表示される試料S表面の2次元画像を電子ペン43でなぞることにより、レーザー光L1によって走査したい試料S表面の走査予定範囲を入力する(ステップSt3)。デジタイザー42は、電子ペン43がなぞる表示パネル41上の座標位置をリアルタイムで連続的に検出して、コンピューター3に出力する。
例えば、前記走査予定範囲が面積を持った領域の場合、図4(a)に示すように、該領域の外郭を閉じた線形状CPに描くことによって、その内側に囲われた領域全体を走査予定範囲として画定することができる。前記走査予定範囲が実質的に面積を持たない線(直線、曲線、及びそれらの組合せ)の場合、図5(a)に示すように、それを開いた線形状OPで描くことによって走査予定範囲を画定することができる。
デジタイザー42から入力する閉じた線形状CP又は開いた線形状OPの表示パネル41上の座標位置は、演算処理部32によって試料ステージ8上の座標位置に換算処理され、それらは互いに関連付けして記憶部33に記憶される。制御部31は、表示パネル41上に閉じた線形状CPが描かれると、前記走査予定範囲が線形状CPで囲われた領域全体であると判定し、開いた線形状OPが描かれると、該線形状OPを前記走査予定範囲と判定する。
制御部31は、ステップSt3でユーザーが入力した前記走査予定範囲について、レーザー光の走査パターンを決定することができる。例えば、図4(a)に示すように、走査予定範囲SE1が閉じた線形状CPで囲われた領域の場合、制御部31は、X方向の走査ラインLsをY方向に1本ずつずらしながらラスタ式に走査することにより、走査予定範囲SE1全体をカバーするように走査パターンを決定することができる。また、図5(a)に示すように、走査予定範囲SE2が開いた線形状OPで描かれる場合、該線形状OP上を全長に亘って移動する走査パターンを決定することができる。
制御部31は、ユーザーによる前記走査予定範囲の入力が終了すると、それをトリガーとして自動的に、又はユーザーによる入力部35への入力に基づいて、資料S表面のレーザー光走査を実行する(ステップSt4)。制御部31は、レーザー光源10を駆動してレーザー光を発振させると同時に、ガルバノコントローラー27を制御して、前記レーザー光の発振と同期してガルバノスキャナー11を駆動する。これにより、試料ステージ8上の試料Sの表面は、ユーザーによる前記走査予定範囲の入力に基づいて決定された前記走査パターに従って、レーザー光L1により走査される。
レーザー光L1の照射によって試料Sの表面又はその付近に発生する前記プラズマ発光は、観察光学系7を介して撮像素子26によって検出され、その画像データは、デジタル信号に変換してコンピューター3に出力される(ステップSt5)。制御部31は、撮像素子26が検出した前記プラズマ発光の画像データを記憶部33に逐次記憶させ、レーザー光L1の走査が終了すると、記憶部33に記憶させた全部の前記画像データを演算処理部32に処理させて、前記プラズマ発光の2次元画像を形成する(ステップSt6)。
形成した前記プラズマ発光の2次元画像は、記憶部33に保存される。演算処理部32は、前記プラズマ発光の2次元画像の撮像面Pi上の座標位置を換算処理して、試料ステージ8上の座標位置を算出し、該2次元画像に関連付けして記憶部33に保存する。前記プラズマ発光の2次元画像は、画像表示装置4に出力されて、表示パネル41に表示される。更に制御部31は、表示パネル41上で、ステップSt3で入力した前記走査予定範囲を前記プラズマ発光の2次元画像に、試料ステージ8上の座標に整合させて、重ね合わせて表示させる(ステップSt7)。
図4(b)は、閉じた線形状CPで囲われた走査予定範囲SE1をレーザー光L1で走査した場合に、撮像素子26により検出されたプラズマ発光の検出領域SF1を例示している。同図に破線で示す線形状CPは走査予定範囲SE1の外郭であるから、検出領域SF1を線形状CPと比較することによって、ユーザーは、レーザー光の走査結果を評価することができる。
レーザー光走査結果の評価は、制御部31により行うことができる。この場合、演算処理部32によって検出領域SF1の外郭の座標位置を全長に亘って算出する。算出した検出領域SF1外郭の座標位置を線形状CPの座標位置と比較し、その差が所定の許容範囲内にあれば、レーザー光L1の走査は正確に行われたと評価する。
同様に、図5(b)は、開いた線形状OPで描いた走査予定範囲SE21をレーザー光L1で走査した場合に、撮像素子26により検出されたプラズマ発光の検出領域SF2を示している。演算処理部32は、検出領域SF2中心線の座標位置を全長に亘って算出する。算出した検出領域SF2中心線の座標位置を線形状OPの座標位置と比較し、その差が所定の許容範囲内にあれば、レーザー光L1の走査は正確に行われたと評価する。
前記所定の許容範囲は、例えば試料S表面におけるレーザー光L1の集光径に基づいて設定することができる。算出する検出領域SF1外郭及び検出領域SF2中心線の座標位置は、試料ステージ8上のXY座標系が好ましい。別の実施形態では、表示パネル41上又は撮像面Pi上の座標系であっても良い。
別の実施形態では、観察光学系7の第2結合レンズ24に、走査光学系5の第1結合レンズ13と異なる倍率のものを使用することができる。この場合も、撮像カメラ25の撮像素子26は、撮像面Piが第2結合レンズ24の焦点位置に配置されるように設定される。即ち、撮像カメラ25の撮像面Piが、走査光学系5のfθレンズ12の焦点面Pfの共焦点位置に配置される点において、図1の実施形態と構成上相違せず、撮像面Piにおける画像の座標位置は、仮想走査面Pf上におけるレーザー光L1の座標位置に、前記異なる倍率で1対1で対応する。
また、上述したレーザー光の2次元的な走査は、図1の2軸走査型のガルバノスキャナー11に限定されない。別の実施形態では、1対のガルバノミラーとガルバノモーターからなる1軸走査型のガルバノスキャナーを使用し、それによる走査方向と直交する直線方向に試料ステージ8を移動させることによって、上記実施形態と同様にXY方向に2次元的な走査を行うことができる。
本発明のレーザー走査顕微鏡2は、レーザー光を照射された試料が発生するラマン散乱光を検出するレーザーラマン顕微鏡にも適用することができる。図7は、本発明をレーザーラマン顕微鏡に適用した変形例によるレーザー走査顕微鏡システムの構成全体を概略的に示している。本変形例のレーザー走査顕微鏡システム51にかかる以下の説明及び図7において、図1のレーザー走査顕微鏡システム1と同じ又は類似の構成要素には、同様の参照符号を付して表すこととする。
レーザー走査顕微鏡システム51は、レーザー走査顕微鏡2に代えて、レーザーラマン顕微鏡52を備える点において、図1のレーザー走査顕微鏡システム1と異なる。レーザーラマン顕微鏡52は、走査光学系5、照明光学系6′及び観察光学系7′に加えて、ラマン検出光学系53を有する点において、図1のレーザー走査顕微鏡2と異なる。
本変形例において、走査光学系5は、図1と全く同じ構成を有する。照明光学系6′は、集光レンズ22とハーフミラー23との間で第2のハーフミラー54を追加して、照明光源21からの光路を直角に屈曲している点を除いて、図1の照明光学系6と実質的に同一である。観察光学系7′は、対物レンズ15からの光路をハーフミラー23により直角に屈曲し、第2のハーフミラー54を通過した後に第2結合レンズ24から撮像カメラ25に入射するように構成される点を除いて、図1の観察光学系7と実質的に同一である。即ち、撮像カメラ25の撮像素子26の撮像面Piは、図1の実施例と同様に、走査光学系5のfθレンズ12の焦点面Pfの共焦点位置に設定されている。
ラマン検出光学系53は、照明光学系6′及び観察光学系7′と共通の対物レンズ15、ダイクロイックミラー14、及びハーフミラー23と、フィルター56と、反射ミラー57と、集光レンズ58と、空間フィルター59と、分光器60と、検出器61とを、この順に光軸上に配置して構成される。検出器61は、コンピューター3に接続されている。反射ミラー57は省略可能であり、その場合、対物レンズ15から分光器60までの光路は、一直線状に設けられる。
フィルター56は、例えばレーザー光を除去するためのエッジフィルターである。レーザー光源10から走査光学系5を介して照射されたレーザー光L1によってステージ8上の試料Sの表面においてラマン散乱された光は、対物レンズ15を通過し、ダイクロイックミラー14及びハーフミラー23を経て、フィルター56で反射レーザー光L1rを除去した後、反射ミラー57に反射されて集光レンズ58に入射する。
空間フィルター59は、分光器60の入口側に配置されるピンホール又はスリットからなり、ステージ8上の試料S表面(観察面)即ち対物レンズ15の焦点面の共焦点位置に配設されている。従って、試料S表面からのラマン散乱光は、焦点面以外からの光を除去しつつ、前記ピンホール又はスリットを通過して分光器60の入口に入射する。
分光器60は、回折格子やプリズム等の分光素子を備えた従来公知の分光器であり、入射したラマン散乱光をその波長毎に分光して、検出器61に出射する。検出器61は、例えば受光素子をマトリクス状に配列した2次元CCD、冷却CCDの2次元アレイ光検出器である。走査光学系5によりレーザー光L1を2次元的に走査しつつ、分光器60により分光された光の強度を検出することによって、2次元のラマン分光イメージを得ることができる。
他方、照明光学系6′において、照明光源21から出射された照明光L2は、集光レンズ22を通過して第2ハーフミラー54及びハーフミラー23により対物レンズ15に向けて反射され、ダイクロイックミラー14をそのまま通過して対物レンズ15によって試料Sの表面に照射される。試料S表面から反射された反射照明光L2rは、対物レンズ15を通過し、ハーフミラー23で反射され、第2ハーフミラー54及び第2結像レンズ24を通過して撮像カメラ25の撮像素子26により検出される。
撮像カメラ25に検出された試料S表面全体の画像データは、図1の実施例と同様に、コンピューター3に出力されかつ処理されて、試料S表面全体の2次元画像が形成される。本変形例においても、コンピューター3は、前記試料S表面全体の2次元画像を表示パネル4に表示させ、その画面上でユーザーに電子ペン43でレーザー光L1の走査予定範囲を入力させることができる。
上述したように試料S表面をレーザー光L1で走査したとき、該レーザー光によるプラズマが試料S表面付近に発生する場合、そのプラズマ発光は、図1の実施例と同様に、観察光学系7′によって撮像カメラ25の撮像素子26により検出することができる。試料S表面から反射された反射レーザー光L1rの一部がダイクロイックミラー14を通過する場合も、その光量が撮像面Piでの集光位置を特定可能な程度に低い又は適当なフィルター等の光学素子によって減衰されていれば、同様に撮像素子26により検出することができる。
撮像面Pi上で検出される前記プラズマ発光又は前記一部の反射レーザー光L1rの座標位置は、ガルバノスキャナー11によって走査される仮想走査面Pf上でのレーザー光L1の座標位置に1対1の倍率で対応している。これは、上述したように撮像面Piが仮想走査面Pfの共焦点位置にあり、しかも走査光学系5の第1結合レンズ13と観察光学系7′の第2結合レンズ24が光学的に同一であり、対物レンズ15を共通にしていることによる。
撮像素子26により検出された前記プラズマ発光又は前記一部の反射レーザー光L1rの画像データは、レーザー光L1の走査中、連続してデジタル信号に変換してコンピューター3に出力されて処理され、前記プラズマ発光又は前記一部の反射レーザー光L1rの2次元画像が形成される。この2次元画像を表示パネル41に表示させ、かつそれに先に入力したレーザー光L1の前記走査予定範囲を、試料ステージ8上の座標に整合させて重ね合わせて表示させることによって、図1の実施例と同様に、ユーザーは、レーザー光の走査結果を評価することができる。
更に、本変形例では、検出器61の測定結果は、レーザー光L1の走査中、連続してデジタル信号に変換してコンピューター3に出力され、記憶部33に記憶されると共に、演算処理部32に処理されて、2次元のラマン分光イメージが形成される。形成された2次元のラマン分光イメージは、コンピューター3によって表示パネル4又は他のプリンター等の出力機器に出力される。また、前記2次元のラマン分光イメージは、前記試料S表面全体の2次元画像及び/又は前記レーザー光L1の走査予定範囲若しくは前記プラズマ発光又は前記一部の反射レーザー光L1rの2次元画像と、座標位置を整合させて重ね合わせて表示させることができる。
更に、本発明のレーザー走査顕微鏡2は、レーザーアブレーションによる試料の質量分析を行うレーザーアブレーションシステムに適用することができる。図8は、かかるレーザーアブレーションシステム101の好適な実施形態の構成全体を概略的に示している。本実施形態のレーザーアブレーションシステム101にかかる以下の説明及び添付図面において、図1のレーザー走査顕微鏡システム1と同じ又は類似の構成要素には、同様の参照符号を付して表すこととする。
レーザーアブレーションシステム101は、図8に示すように、レーザー走査顕微鏡102と、コンピューター3と、画像表示装置4と、質量分析部103とを備える。コンピューター3は、レーザー走査顕微鏡102及び画像表示装置4に接続され、それらの動作を制御すると共に、それらから入力する信号の処理を行う。
レーザー走査顕微鏡102は、走査光学系5と、照明光学系6と、観察光学系107とを有する。更にレーザー走査顕微鏡2は、レーザーアブレーションの対象となる試料を載置するための試料ステージ108を備える。走査光学系5及び照明光学系6は、図1のレーザー走査顕微鏡システム1のそれらと同一であるので、説明は省略する。
観察光学系107は、図9に示すように、撮像カメラ25を前記光軸方向に移動させる撮像カメラフォーカス機構110を更に備える点で、図1の観察光学系7と異なる。撮像カメラフォーカス機構110は、第2結合レンズ24に関して光軸方向に撮像カメラ25を移動させて位置決めし、試料Sから第2結合レンズ24を通して入射する光が撮像素子26に結像する位置を調整することができる。撮像カメラフォーカス機構110は、例えば撮像カメラ25を光軸方向に案内するガイドレールと、撮像カメラ25を移動させるステップモーターとで構成することができる。レーザー走査顕微鏡102は、撮像カメラフォーカス機構110の駆動を制御するフォーカスコントローラー111を更に備える。フォーカスコントローラー111は、コンピューター3に該コンピューターにより制御可能に接続されている。
観察光学系107は、別の実施形態では、撮像カメラフォーカス機構110に代えて、第2結合レンズ移動機構112を備えることができる。前記第2結合レンズ移動機構は、撮像素子26に関して光軸方向に第2結合レンズ24を移動させて位置決めすることによって、試料Sから第2結合レンズ24を通して入射する光が撮像素子26に結像する位置を調整することができる。第2結合レンズ移動機構112は、コンピューター3に接続された第2結合レンズ一コントローラー113によって駆動制御される。第2結合レンズ移動機構112も、例えば、第2結合レンズ24を光軸方向に案内するガイドレールとステップモーターとで構成することができる。
試料ステージ108は、図1の試料ステージ8と同様に、XYZ方向にそれぞれ移動可能である。図10に示すように、試料ステージ108は、X方向(同図中、左右方向)に移動可能なX軸ステージ108xと、Y方向(同図中、前後方向)に移動可能なY軸ステージ108yと、Z方向(同図中、上下方向)に移動可能なZ軸ステージ108zとを備える。前記XYZ軸ステージは、それぞれ図示しないステップモーターによりガイドレールに沿って、高精度(例えば、10μm単位)に移動させることができる。前記XYZ軸ステージの駆動は、図1と同様に、コンピューター3に接続された試料ステージ移動コントローラー28によって制御される。
質量分析部103は、図8に示すように、レーザーアブレーションによる質量分析の対象となる試料Sを収容する試料セル115と、ガス供給源116と、質量分析器117とから構成される。試料セル115は、図10に示すように、光を透過させる透明な板材で上面が封止された内部空間Cを有し、その中には、試料Sを載置するための試料テーブル118が設けられている。内部空間Cは、キャリアガスを供給するガス供給源114とガス導入管119を通して、前記キャリアガスが送給される質量分析器117とガス導出管120を通して、それぞれ連通している。
図8のレーザーアブレーションシステム101を用いた試料のレーザーアブレーションによる質量分析は、基準試料を用いた予備測定と、目的の試料に対する本測定との2段階で行われる。前記予備測定では、レーザーアブレーションによる質量分析が正確かつ確実に行われるように、レーザー走査顕微鏡102の設定を行う。前記本測定では、そのように設定されたレーザー走査顕微鏡102を用いて、目的の試料にレーザーアブレーションによる質量分析を行う。
図11は、前記予備測定の一連のステップを詳細に説明するフロー図である。先ず、基準試料SSを試料セル115内の試料テーブル118上に載置する。レーザー走査顕微鏡102の照明光学系6の照明光源21をオンして、照明光を前記試料テーブル上の前記基準試料の表面に照射する(ステップSt11)。
基準試料SS表面からの反射照明光は、撮像カメラ25の撮像素子26で受けて結像させ、コンピューター3を介して画像表示装置4に出力して表示パネル41に表示させる。同時に、撮像カメラ25から入力する前記基準試料表面の画像データは、コンピューター3の記憶部33に保存される。
ここで、対物レンズ15と前記基準試料表面間の、撮像カメラ25の撮像素子26が鮮明な画像を撮像するのに好適な作動距離を、表示パネル41に表示される前記基準試料表面の画像を基づいて決定する(ステップSt12)。
これは、コンピューター3により試料ステージ移動コントローラー28を制御して試料ステージ108のZ軸ステージ108zを、かつ/又は対物レンズ位置コントローラー29を制御して対物レンズ15を前記光軸方向に移動させて、表示パネル41に表示される前記基準試料表面の画像が鮮明になるように、対物レンズ15と前記基準試料表面との焦点位置合わせをすることによって行う。この焦点位置合わせは、ユーザーがコンピューター3を操作することにより、又はコンピューター3の制御部31が自動で行うことができる。このようにして決定された対物レンズ15の作動距離を基準作動距離WD0とする。このとき、撮像カメラ25即ち撮像素子26の前記光軸方向の位置は、第2結合レンズ24の焦点位置に合わせた基準撮像位置FP0に固定されている。
次に、レーザー走査顕微鏡102の走査光学系5のレーザー光源10をオンして、レーザー光を試料セル115内の試料テーブル118上の基準試料SS表面に多数回パルス照射する(ステップSt13)。レーザー光の前記多数回パルス照射は、コンピューター3により試料ステージ108のX軸ステージ108x及び/又はY軸ステージ108yを駆動することによって、前記基準試料表面のレーザー光照射位置をX軸方向及び/又はY軸方向に所定の間隔でずらしつつ、コンピューター3により試料ステージ108のZ軸ステージ108zを駆動することによって、作動距離を所定の作動距離範囲内で変化させながら実行する。これにより、前記基準試料表面には、一定のレーザー光が、それぞれ異なる多数のXYZ座標位置に対して照射される。
作動距離WDは、試料ステージ108のZ軸ステージ108zを駆動する分解能に応じて、僅かな一定間隔(例えば、10μm単位)で変化させる。作動距離を変化させる前記所定の作動距離範囲は、例えば基準作動距離WD0を中心として+/-方向に所定の距離を設定することができる。
前記所定の作動距離範囲についてレーザー光の前記多数回パルス照射が完了した後、再び照明光学系6の照明光源21をオンして、照明光を試料テーブル118上の前記基準試料表面に照射する。そして、基準試料SS表面からの反射照明光を撮像カメラ25の撮像素子26に結像させ、コンピューター3に出力する(ステップSt14)。コンピューター3は、撮像カメラ25から入力した画像データを画像表示装置4に出力して表示パネル41に表示させると共に、記憶部33に保存することができる。
撮像カメラ25により撮像された画像には、上述したレーザー光の多数回パルス照射により前記基準試料表面に形成された多数のレーザー照射痕が含まれている。このレーザー照射痕は、前記基準試料表面が部分的に溶融蒸散されることにより生じる所謂クレーターである。レーザーアブレーションによる質量分析には、クレーターが「きれい」に、即ち外形線が明瞭な小円形で、略一定の浅い深さに形成されることが好ましい。
本実施形態によれば、基準試料SS表面に生じた多数の前記レーザー照射痕の中から「きれい」な、即ち外形線が明瞭な小円形で略一定の浅い深さとなっている良好なクレーターを選択し、該クレーターを生じさせたレーザー照射時の前記基準試料表面のZ座標位置即ち作動距離WDを検出する(ステップSt15)。この良好なクレーターを生じさせる作動距離を測定作動距離WD1とする。
図12は、説明のために、上記ステップSt14で得られた基準試料SS表面の画像からレーザー照射痕の画像を抽出し、作動距離WDを横軸として横一列に並べて例示したものである。同図において、横軸WDの中央付近の作動距離範囲RD1内に存在するレーザー照射痕LM1(同図の実施例では、5つ)は、いずれも外形線が比較的明瞭な小円形に表れている。これらのレーザー照射位置では、基準試料SS表面が略一定の比較的浅い深さで一様に溶融蒸散され、良好なクレーターが形成されたと考えられる。
これに対し、作動距離範囲RD1以外の、即ちそれよりも作動距離が大きいか小さい作動距離範囲RD2のレーザー照射痕LM2は、外形線が比較的薄く不明瞭で、不規則な形状をなしている。このようなクレーターは、基準試料SS表面が一様に溶融蒸散されず、深さも一定でないので、レーザーアブレーションによる質量分析には好ましくない。
図12において、レーザーアブレーションによる質量分析に好ましい測定作動距離WD1は、作動距離範囲RD1内に存在するレーザー照射痕LM1の中から選択する。使用するレーザー光の焦点深度によって、作動距離範囲RD1内のレーザー照射痕LM1の数が異なる。レーザー光の焦点深度が深いほど、レーザー照射痕LM1の数は多くなり、浅いほど少なくなる。例えば図12の実施例では、作動距離範囲RD1の中央に位置するレーザー照射痕LM11を選択し、その作動距離WD11を測定作動距離WD1とすることができる。
しかしながら、このように決定した測定作動距離WD1に試料ステージ108を設定してレーザー光を照射しても、実際に基準試料SS表面のレーザー照射痕を撮像カメラ25で撮影すると、その画像は比較的不鮮明な場合が多い。その理由は、レーザー照射痕が比較的浅いのに対し、その深さよりも試料ステージ108のZ軸方向の分解能が大きく、撮像素子26に結像される画像の焦点位置を微調整できないためである、と考えられる。
本実施形態によれば、試料ステージ108を測定作動距離WD1に設定した状態で、照明光源21をオンして照明光を基準試料SS表面に照射し、測定作動距離WD1の決定に用いたレーザー照射痕LM1(図12におけるレーザー照射痕LM11)を撮像素子26に結像させて、画像表示装置4の表示パネル41に表示させる(ステップSt16)。
この状態で、表示パネル41上でレーザー照射痕LM1の画像を見ながら、撮像カメラ25(撮像素子26)の撮像面Piを基準撮像位置FP0から前記光軸方向に移動させて、前記画像が鮮明に写し出されるように焦点位置合わせを行う(ステップSt17)。このときの撮像カメラ25即ち撮像面Piの光軸方向位置を測定撮像位置FP1とする。このようにして、レーザーアブレーションによる質量分析に適したレーザー照射が可能な測定作動距離WD1とそれに対応した測定撮像位置FP1とが決定される。
撮像カメラ25に結像される画像は、基準試料SS表面及びレーザー照射痕が対物レンズ15を介して拡大して表示される。そのため、上述した撮像面Piの前記光軸方向の移動には、対物レンズ15の倍率に対応して高い分解能が得られる。従って、試料ステージ108で行うよりも精細な焦点位置合わせ及び微調整が可能である。
上述した撮像カメラフォーカス機構110による撮像カメラ25(撮像素子26)の焦点位置合わせは、ユーザーが表示パネル41上の画像を見ながら、コンピューター3及びフォーカスコントローラー111を介して行う。また、ユーザーが表示パネル41上の画像を見ながら、撮像カメラフォーカス機構110を手動で操作して行うことができる。
図13(a)及び図14(a)は、実際の基準試料SSの表面に形成されたレーザー照射痕を示す拡大写真である。図13(b)及び図14(b)は、図13(a)及び図14(a)に形成されたレーザー照射痕LM1、LM2の断面を模式的に示している。
図13(a)は、試料ステージ108を測定作動距離WD1に設定しかつ撮像カメラ25を測定撮像位置FP1に移動させた状態で撮像されている。同図(a)のレーザー照射痕LM1は、外形線が明瞭な小円形に表れると共に、その内側が一様に黒化している。このことから、基準試料SS表面は、同図(b)に示すように、レーザー照射によって略一定の非常浅い深さで一様に溶融蒸散されたと解することができる。
これに対し、図14(a)は、試料ステージ108を基準作動距離WD0に固定しかつ撮像カメラ25を測定撮像位置FP1に移動させた状態で撮像されている。同図(a)のレーザー照射痕LM2は、外形線が薄く不鮮明で不規則な形状であると共に、内側の黒化状態には大きなばらつきがある。このことから、基準試料SS表面は、同図(b)に示すように、レーザー照射部分にレーザー光が一様に集光されず、その結果一様に溶融蒸散されなかったと解することができる。
本実施形態の変形例では、撮像カメラ25にオートフォーカス機構を備えることができる。この場合、ステップSt17の焦点位置合わせは、オートフォーカス機構を作動させることによって、自動で行うことができる。また、オートフォーカス機構は、オートフォーカスを機能させるオン状態と機能させないオフ状態とで動作を切換可能に設けることができ、例えば基準作動距離WD0を設定するステップSt12、St13では、オフ状態にすることができる。前記オートフォーカス機構には、例えば撮像素子26に入射する光の強度変化を検出したり、画像のコントラストを基づいて合焦位置を求める手法など、従来から公知の様々なオートフォーカス技術を用いることができる。
本実施形態の別の変形例において、観察光学系107が撮像カメラフォーカス機構110に代わる第2結合レンズ移動機構112を備える場合には、ステップSt17で、撮像カメラ25を前記光軸方向に移動させる代わりに、第2結合レンズ24を前記光軸方向に移動させることによって、同様に撮像カメラ25(撮像素子26)の焦点位置合わせを行うことができる。第2結合レンズ移動機構112の焦点位置合わせも、ユーザーが表示パネル41上の画像を見ながら、コンピューター3及び第2結合レンズ位置コントローラー113を介して、又は第2結合レンズ移動機構112を手動で操作して行うことができる。また、第2結合レンズ24の駆動機構にオートフォーカス機能を持たせることができる。
また、レーザー走査顕微鏡102は、図1のレーザー走査顕微鏡1と同様に、撮像素子26が、基準撮像位置FP0において走査光学系5のfθレンズ12の共焦点位置に配置されている。従って、かかる配置によるレーザー走査顕微鏡1の特徴は、レーザー走査顕微鏡102において、上述したように撮像カメラフォーカス機構110又は第2結合レンズ移動機構112を設けても、損なわれたり失われることはない。
上述したように、前記予備測定により測定作動距離WD1とそれに対応する測定撮像位置FP1とが決定されると、これらを用いて、目的の試料に対する本測定を行う。本測定では、測定開始前に、対物レンズ15の作動距離を測定作動距離WD1に、撮像カメラ25(及び撮像素子26)の光軸方向位置を測定撮像位置FP1にそれぞれ位置決めして、レーザー走査顕微鏡102を設定する。
この状態で、対象の試料Sを試料セル115内の試料テーブル118上に載置し、レーザー走査顕微鏡102の照明光学系6から照明光を試料S表面に照射し、その反射照明光を撮像カメラ25に結像させ、得られた画像データをコンピューター3に出力して、記憶部33に記憶させると共に、画像表示装置4の表示パネル41に表示させる。次に、レーザー走査顕微鏡102の走査光学系5からレーザー光を試料S表面に照射すると同時に、ガス供給源116からキャリアガスを試料セル115内に供給する。前記レーザー光の照射により試料S表面から蒸散した微粒子を、前記キャリアガスの流れによって質量分析器117に搬送し、その元素の定量分析を行う。
上述したように、レーザー走査顕微鏡102が事前に測定作動距離WD1及び測定撮像位置FP1に設定されていることによって、試料S表面には、前記レーザー光の照射によって「きれい」なクレーターからなるレーザー照射痕が生じる。従って、定量分析の良好な精度を確保することができる。しかも、撮像カメラ25に結像される画像には、試料S表面のレーザー照射痕が明瞭に表れるので、前記レーザー光照射の精度(位置、照射状態等)を明確に確認することができる。
本実施形態の、撮像カメラ25の焦点位置合わせが可能な観察光学系107は、図1及び図7のレーザー走査顕微鏡システム1,51にも、同様に適用することができる。具体的には、図1及び図7のレーザー走査顕微鏡システム1,51において、観察光学系7、7´の撮像カメラ25に撮像カメラフォーカス機構110、及びその駆動を制御するフォーカスコントローラー111を追加することができる。これにより、レーザー光の照射で試料S表面より僅か上方で発生するプラズマ発光や、試料S表面の僅かな凹凸によりレーザー光の照射位置から高さ方向に僅かにずれて発生する蛍光を、撮像カメラ25(撮像素子26)の撮像面Piにより明瞭に結像させることができる。
レーザー走査顕微鏡システム1,51においても、撮像カメラ25に撮像カメラフォーカス機構110を設ける代わりに、第2結合レンズ24に第2結合レンズ移動機構112と第2結合レンズ位置コントローラー113を追加することができる。また、第2結合レンズ24の駆動機構にオートフォーカス機能を持たせることができる。
以上、本発明をその好適な実施形態に関連して詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、その技術的範囲において、様々な変更又は変形を加えて実施することができる。