JP6994379B2 - 歯科用金属腐食抑制用組成物、歯科用金属腐食抑制剤及び歯科用金属腐食防止方法 - Google Patents
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Description
したがって、フッ素による処理を行う際、歯科用金属の腐食を抑制し得る技術が望まれている。
〔1〕(A)成分:ピロリドンカルボン酸又はその塩、を有する歯科用金属腐食抑制用組成物。
〔2〕前記(A)成分の含有量が、3~20質量%である上記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕(A)成分:ピロリドンカルボン酸又はその塩と、(B)成分:アミノ酸又はその塩と、を有する歯科用金属腐食抑制用組成物。
〔4〕前記(B)成分が、酸性アミノ酸又はその塩である上記〔3〕に記載の組成物。
〔5〕前記(A)成分の含有量が、1~20質量%であり、前記(B)成分の含有量が、0.1~10質量%である、上記〔3〕又は〔4〕に記載の組成物。
〔6〕前記(A)成分と前記(B)成分の含有割合((A)成分/(B)成分)が、0.5~50である上記〔3〕~〔5〕のいずれかに記載の組成物。
〔7〕フッ素塗布の前処理用である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の組成物。
〔8〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の組成物を含有する歯科用金属腐食抑制剤。
〔9〕歯へのフッ素塗布を受ける者が装着する歯科用金属に、予め上記〔8〕に記載の歯科用金属腐食抑制剤を接触させる前処理を行う、歯科用金属腐食防止方法。
〔10〕前記前処理が、歯科用金属を装着した状態、あるいは取り外した状態で、予め上記〔8〕に記載の歯科用金属腐食抑制剤を接触させる処理である、上記〔9〕に記載の方法。
〔11〕前記フッ素処理のフッ素濃度が9,000ppm以上である上記〔9〕又は〔10〕に記載の方法。
なお、本明細書中、別途記載がない限り、各成分の含有量は、歯科用金属腐食抑制用組成物又は歯科用金属腐食抑制剤の調製に用いる各成分の配合量である。
本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物の一実施形態は、(A)成分:ピロリドンカルボン酸又はその塩を有する。また、本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物の他の実施形態は、(A)成分:ピロリドンカルボン酸又はその塩と、(B)成分:アミノ酸又はその塩と、を有する。
本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物は、(A)成分を有することで、フッ素による処理の際、歯科用金属の腐食抑制を達成し得る。また、(A)成分と(B)成分とを併用することで、歯科用金属の腐食抑制を向上し得る。
以下、各成分の詳細を記す。
(A)成分は、ピロリドンカルボン酸又はその塩である。ピロリドンカルボン酸の構造式を下記式(1)に示す。
ピロリドンカルボン酸又はその塩は、市販品を用いてもよい。ピロリドンカルボン酸の市販品としては、味の素社製の「AJIDEW A-100(登録商標)」が挙げられる。ピロリドンカルボン酸の塩として、例えば、ピロリドンカルボン酸ナトリウムの市販品としては、味の素社製の「AJIDEW-N-50、PCAソーダ(AI=100%水溶液)」が挙げられる。
(A)成分の含有量の一実施態様としては、組成物全量に対して、3~20質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
(A)成分の含有量の他の実施態様としては、組成物全量に対して、1~20質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
(B)成分は、アミノ酸又はその塩である。アミノ酸としては特に限定されるものではなく、グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸;リジン等の塩基性アミノ酸;セリン等の中性アミノ酸が挙げられる。中でも、(B)成分は、グルタミン酸、アスパラギン酸である酸性アミノ酸又はその塩であることが好ましい。
アミノ酸は、L-体であってもよく、D-体であってもよく、両方の光学異性体を任意の比率で混合したものであってもよい。
(B)成分の含有量の他の実施態様としては、組成物全量に対して、0.1~10質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
(A)成分と(B)成分の含有割合((A)成分/(B)成分)としては、通常、0.5~50であり、1~20が好ましく、3~20がより好ましく、5~20がさらに好ましい。含有割合((A)成分/(B)成分)がこの範囲内にあることで、歯科用金属の腐食抑制効果を十分確認し得る。
本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物は、金属腐食効果、使用性を損なわない範囲で、必要な任意成分を配合し得る。
任意成分としては、湿潤剤、薬用成分、溶剤、界面活性剤、増粘剤、甘味剤、防腐剤、香料等が挙げられる。以下に任意成分の具体例を示すが、本発明の組成物に配合可能な成分はこれらに限定されるものではない。
湿潤剤としては、例えば、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール等の糖アルコール;グリセリン、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジブチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。
歯科用金属腐食抑制用組成物が湿潤剤を有する場合、その含有量は、使用性の観点から、組成物全量に対して、1質量%以上が好ましく、2~20質量%がより好ましい。
薬用成分としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、クロロヘキシジン、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛等の殺菌又は抗菌剤;縮合リン酸塩、エタンヒドロキシジホスフォネート等の歯石予防剤;トラネキサム酸、グリチルリチン2カリウム塩、ε-アミノカプロン酸、オウバクエキス等の抗炎症剤;ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド等のコーティング剤;アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、ビタミンC、塩化リゾチーム、グリチルレチン酸及びその塩類、塩化ナトリウム等の収斂剤;塩化ストロンチウム、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム等の知覚過敏抑制剤が挙げられる。
歯科用金属腐食抑制用組成物が薬用成分を含有する場合、その含有量は、それぞれの薬用成分について薬剤学的に許容できる範囲で適宜設定すればよい。
溶剤としては、例えば、水、エタノールが挙げられる。但し、エタノールは歯科用金属への為害性の観点から無配合が好ましい。
歯科用金属腐食抑制用組成物が水を含有する場合、その含有量は、組成物全量に対して、通常、60質量%以上である。
界面活性剤としては、アシルサルコシン塩、N-アシルグルタミン酸塩、N-メチル-N-アシルタウリンナトリウム、N-メチル-N-アシルアラニンナトリウム等のN-アシルアミノ酸塩;α-オレフィンスルホン酸ナトリウム等のα-オレフィンスルホン酸塩;アルキル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩等のアニオン界面活性剤;ショ糖脂肪酸エステル、アルキロールアミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグルコシド、脂肪酸ポリグリセリド等のノニオン界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインや、N-ヤシ油脂肪酸アシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。
なお、界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース系粘結剤;キサンタンガム、カラギーナン、グアガム、アルギン酸ナトリウム、カチオン化セルロース、モンモリロナイト、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールが挙げられる。
なお、増粘剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジンヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、p-メトキシシンナミックアルデヒド、ソーマチン、パラチノース、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、アラビトール、エリスリトールが挙げられる。
なお、甘味剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、エチレンジアミン四酢酸塩、塩化ベンザルコニウムが挙げられる。
防腐剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
香料としては、例えば、ペパーミント、スペアミント等の精油、レモン、ストロベリー等のフルーツ系のエッセンス;l-メントール、カルボン、オイゲノール、アネトール、リナロール、リモネン、オシメン、シネオール、n-デシルアルコール、シトロネロール、ワニリン、α-テルピネロール、サチリル酸メチル、チモール、ローズマリー油、セージ油、シソ油、レモン油、オレンジ油が挙げられる。
pHとしては、歯科用金属への為害性の観点から、5~9が好ましい。pHは、必要に応じてpH調整剤を使用して調整し得る。pH調整剤としては、リン酸又はその塩、クエン酸又はその塩、リンゴ酸又はその塩、グルコン酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、グルタミン酸又はその塩、乳酸、塩酸、酢酸、硝酸、水酸化カリウム等が挙げられる。
歯科用金属腐食抑制用組成物がpH調整剤を含有する場合、その含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜定めることができる。
本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物は、フッ素処理する前に歯科用金属に接触させ、その後、歯へのフッ素塗布を行う前処理用であることが好ましい。接触の方法は、刷毛等の塗布用具を用いた塗布、スプレーによる塗布、或いは滴下による塗布等、いずれの方法であってもよい。また、組成物に浸した布や脱脂綿を接触させて塗布してもよい。さらに、本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物は、歯科用金属を装着した状態、あるいは取り外した状態で歯科用金属と接触させることができる。
なお、本明細書にいう「歯科用金属」とは、義歯、インプラント、歯の金属充填物、矯正具の金属部等の総称をいう。
本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物で前処理を行った後、歯牙にフッ素を適用し、う蝕予防や歯質の強化処理を行うことができる。フッ素処理濃度としては特に制限はないが、フッ素濃度として、好ましくは9000~50000ppmのフッ素処理用組成物を用いて、歯牙の処置を行うことができる。
なお、フッ素処理用組成物としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用し得る。
本発明の歯科用金属腐食抑制剤は、上記の組成物を含有する。そのため、フッ素による処理を行う際、歯科用金属の腐食を抑制し得る。
歯科用金属腐食抑制剤の剤形及び形状は特に制限されない。例えば、液体(溶液、乳液、懸濁液、シロップ等)、半固体(ジェル、クリーム、ペースト等)、固体(錠剤、粒子状剤、カプセル剤、フィルム剤、混練物、溶融固体、ロウ状固体、弾性固体、ソフトカプセル剤等)が挙げられる。好ましくは、液体、半固体である。
固体の剤形の歯科用金属腐食抑制剤としては、例えば、トローチ、グミ、ガム、が挙げられる。半固体の剤形の歯科用金属腐食抑制剤としては、例えば、ジェル状が挙げられる。液体の剤形の歯科用金属腐食抑制剤としては、例えば、洗口剤、液体歯磨剤、口中清涼剤(スプレー等)、浸漬剤が挙げられる。これらのうち、液体、ジェル、軟膏であることが好ましい。
本発明の歯科用金属腐食防止方法は、歯科用金属に、上記に記載の歯科用金属腐食抑制剤を接触させる前処理方法である。
本発明の方法によれば、歯科用金属の腐食を防止し得るため、口腔内の衛生状況を改善し得る。
表面粗さ(μm)を測定済みの歯科用金属モデル(チタン合金試験片20mm×30mm×5mm)を、歯科用金属腐食抑制用組成物又は比較サンプルの各薬液50mLに20秒間浸漬処置した。その後、歯科用金属モデルを45,000ppm又は10,000ppmのフッ素溶液(pH5.5)にて、37℃で6時間浸漬した。浸漬後、金属モデルの表面粗さ(μm)を測定し、下記式から腐食抑制率を算出した。算出した腐食抑制率の数値を用いて、下記判定基準により、歯科用金属の腐食発生・進行の抑制効果を評価した。
腐食抑制率(%)
=(薬液浸漬前の表面粗さ-薬液浸漬後の表面粗さ)/薬液浸漬前の表面粗さ×100
A:70%以上
B:50%以上70%未満
C:30%以上50%未満
D:30%未満
キーエンス社製の形状解析レーザ顕微鏡「VK-X100」を用いて、金属モデルの任意の3ラインに対する線粗さ(Ra)を算出し、その平均値を表面粗さとした。
精製水に、(A)成分:ピロリドンカルボン酸ナトリウムを溶解させた後、別途、プロピレングリコール、グリセリンを分散させた液を加え、スターラーにて攪拌した。その後、クエン酸、クエン酸ナトリウムを加えて攪拌し、歯科用金属腐食抑制用組成物の薬液を調製した。
調製した歯科用金属腐食抑制用組成物について、上記手順に従って、腐食抑制効果及びその評価を行った。評価結果を表1及び2に併せて記す。
配合処方を表1及び表2に記載の処方に変更したこと以外は、実施例1と同様にして歯科用金属腐食抑制用組成物又は比較サンプルの薬液を調製した。なお、(B)成分は、(A)成分と同時に精製水に溶解した。
調製した薬液を用いて、腐食抑制効果及びその効果を併せて表1及び表2に記す。
(A)成分:ピロリドンカルボン酸ナトリウム(「AJIDEW-N-50」、(味の素社製))
(B)成分:グルタミン酸(「L-グルタミン酸ナトリウム」、和光純薬工業社製)
アスパラギン酸(「L-アスパラギン酸ナトリウム」、ナカライテスク社製)
リジン(「L-リジン」、和光純薬工業社製)
セリン(「L-セリン」、和光純薬工業社製)
その他の成分は化粧品原料基準規格品を用いた。
また、(B)成分の含有量を変更した場合、(B)成分が0.1%と少なくても配合効果は得られるが、(B)成分が増加すると金属腐食抑制率が高くなる傾向が認められた。特に1%以上で顕著な効果が得られた(実施例2と9、16~18参照)。
以上のことから、本発明の歯科用金属腐食抑制用組成物は、フッ素による処理を行う際、歯科用金属の腐食を抑制し得ることがわかり、すでに齲蝕等の歯科治療を施している方を対象とするフッ素処置を行うのにきわめて有用である。
[使用性の良さ]
歯科用金属モデル(チタン合金試験片20mm×30mm×5mm)を薬液50mLに20秒間浸漬させた後、口に含んだ際の苦味や異味のなさについて、判定士5名が下記の評点基準で判定した。5名の評点基準の平均値を求め、下記評価基準に従って評価した。
4点:非常に良い
3点:良い
2点:あまり良くない
1点:非常に良くない
非常に良い:3.5点以上
良い:3.0点以上3.5点未満
あまり良くない:2.0以上3.0点未満
非常に良くない:2.0点未満
成分 %
ピロリドンカルボン酸ナトリウム 5
L-グルタミン酸ナトリウム 1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.5
塩化セチルピリジニウム 0.05
プロピレングリコール 5
グリセリン 5
キシリット 4
サッカリンナトリウム 0.01
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.3
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
パラオキシ安息香酸プロピル 0.05
メントール 0.1
香料 0.2
精製水 バランス
合計 100
Claims (8)
- (A)成分:ピロリドンカルボン酸又はその塩を有し、
前記(A)成分の含有量が、3~20質量%である、
歯へのフッ素塗布の際の歯科用金属の前処理用組成物であって、
前記歯科用金属がチタンを含有する、
組成物。 - (A)成分:ピロリドンカルボン酸又はその塩と、
(B)成分:アミノ酸又はその塩とを有し、
前記(A)成分の含有量が、1~20質量%であり、
前記(B)成分の含有量が、0.1~10質量%であり、
歯へのフッ素塗布の際の歯科用金属の前処理用組成物であって、
前記歯科用金属がチタンを含有する、組成物。 - 前記(B)成分が、酸性アミノ酸又はその塩である請求項2に記載の組成物。
- 前記(A)成分と前記(B)成分の含有割合((A)成分/(B)成分)が、0.5~50である請求項2又は3に記載の組成物。
- 請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物を含有する歯科用金属腐食抑制剤。
- 歯へのフッ素塗布を受ける者が装着する歯科用金属に、予め請求項5に記載の歯科用金属腐食抑制剤を接触させる前処理を行う、歯科用金属腐食防止方法。
- 前記前処理が、歯科用金属を装着した状態、あるいは取り外した状態で、予め請求項5に記載の歯科用金属腐食抑制剤を接触させる処理である、請求項6に記載の方法。
- 前記フッ素塗布におけるフッ素濃度が9,000ppm以上である請求項6又は7に記載の方法。
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日口腔インプラント誌,2021年09月,第30巻第3号,p.156-163 |
日口腔インプラント誌,2021年09月,第30巻第3号,p.164-173 |
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