JP6989066B1 - サクションブロー成形用繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品 - Google Patents

サクションブロー成形用繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品 Download PDF

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Abstract

サクションブロー成形によって、成形時にバリを発生させずに長尺の湾曲形状やその他の複雑な三次元形状を持つダクト類やパイプ類などの中空成形品の成形を可能にするポリアミド樹脂組成物、及びそれを用いた成形品を提供する。結晶性ポリアミド樹脂(A)、結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点であるか又は融点を有さないポリアミド樹脂(B)、繊維状強化材(C)、及び増粘剤(D)を含有するポリアミド樹脂組成物において、示差走査型熱量計(DSC)で求められるポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(Tc:℃)が下記関係(i)を満足し、ポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスが下記関係(ii)を満足することを特徴とする:(i)TcA−G−4≦TcX≦TcA−G+4TcA:ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度(℃)TcX:ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(℃)G:ポリアミド樹脂組成物中の繊維状強化材(C)の含有率(質量%)(ii)JIS K−7210に準拠して、結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点+10℃の温度において10kgの荷重下で測定したポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスが1.5〜7g/10minである。

Description

本発明は、長尺でかつ湾曲形状の中空成形品などの成形に好適なサクションブロー成形用繊維強化ポリアミド樹脂組成物に関する。
ポリアミド6やポリアミド66等に代表される結晶性ポリアミド樹脂に繊維状強化材を配合して得られる繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、一般的に溶融粘度が低く、押出されたパリソンが自重でドローダウンし易いため、ブロー成形しにくい材料である。このため、種々の添加剤や樹脂などの配合によって増粘させてブロー成形性を向上させる試みがなされている。かかる試みとして、例えばアイオノマー樹脂等を配合する方法(特許文献1)、エポキシ基や無水マレイン酸基等を含有する化合物を配合する方法(特許文献2)が挙げられる。また、増粘に加えて樹脂組成物の固化速度を遅くする方法(特許文献3)も知られており、これらの方法によって、従来の押出ブロー成形などでダクトやホースのような単純な中空状の部材は、ほぼ問題なく製造することが可能になった。
一方、自動車のエンジンルームに配設される中空ダクト類は、エンジンルーム内の限られたスペースに収納するため、湾曲した形状を呈するようになっているが、このような湾曲部分を有する中空ダクト類は、従来の押出ブロー成形では、複雑な三次元形状の成形が困難であったり、バリを除去しなければならないなどの問題があった。
かかる問題に対して、近年、成形時にバリが発生しない、長尺物の成形が可能、複雑な三次元形状の成形も可能、サイクルタイムが短い、などのメリットを持つブロー成形方法として、サクションブロー成形(三次元ブロー成形)法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかし、特許文献4に開示された樹脂組成物を用いてサクションブロー成形によって長尺でかつ湾曲形状の中空成形品を得ようとしたところ、パリソンが金型内で詰まってしまうなどのトラブルが発生し、所望の形状の中空成形品が得られない問題があった。結晶性ポリアミド樹脂を使用する場合、この傾向が著しく、前述のいずれの改善方法でも所望の成形品を得ることが困難であった。
特開昭60−170664号公報 特表2003−525993号公報 特許第4861299号公報 特開2009−132908号公報
本発明は、上記の従来技術の問題を克服したサクションブロー成形に適した繊維強化ポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とするものであり、特にサクションブロー成形によって、成形時にバリを発生させずに長尺の湾曲形状やその他の複雑な三次元形状を持つダクト類やパイプ類などの中空成形品の成形を可能にする繊維強化ポリアミド樹脂組成物、及びそれを用いた成形品を提供することを目的とする。
本発明者等は上記目的を達成するため、結晶性ポリアミド樹脂を含む繊維強化ポリアミド樹脂組成物のサクションブロー成形時のパリソンの金型内での移動や変形、溶融樹脂特性などについて鋭意研究した結果、以下のことを見出した。
すなわち、サクションブロー成形では、中空パリソンを型締めした金型の上部からキャビティへ供給しつつ、金型の下方からキャビティ内の空気を吸引して、中空パリソンをキャビティの湾曲形状に沿って金型下部まで挿入させ、その後、中空パリソンをブローするが、サクションブロー成形時、中空パリソン挿入時に中空パリソンは、中空を保持したまま金型形状に沿って金型に接触することを抑制しながら通すことが求められる。しかし、特に湾曲部ではパリソン表面と金型キャビティ表面とが接触することが避けられず、このためパリソンの固化が速められたり、中空が保持できなかったり、金型内で詰まってしまうなどの現象に至り、十分なブローが困難になることがあることが判明した。特に結晶性ポリアミド樹脂を用いる場合、この傾向が著しく、前記の改善方法でも成形品を得ることが困難であった。そこで、結晶性ポリアミド樹脂を含む繊維強化ポリアミド樹脂組成物のサクションブロー成形性を良好なものとするためには、かかる組成物からなる中空パリソンが金型と接触してもブロー成形性に影響を及ぼし難い固化特性と中空パリソンが湾曲部を通り抜けることが可能な溶融特性とが重要であり、これを最適化する条件を見出すことによって上記目的を達成し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、以下の(1)〜(7)の構成を採用する。
(1)結晶性ポリアミド樹脂(A)、結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点であるか又は融点を有さないポリアミド樹脂(B)、繊維状強化材(C)、及び増粘剤(D)を含有するポリアミド樹脂組成物において、示差走査型熱量計(DSC)で求められるポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(Tc:℃)が下記関係(i)を満足し、ポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスが下記関係(ii)を満足することを特徴とするサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物:
(i)TcA−G−4≦TcX≦TcA−G+4
TcA:ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度(℃)
TcX:ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(℃)
G:ポリアミド樹脂組成物中の繊維状強化材(C)の含有率(質量%)
(ii)JIS K−7210に準拠して、結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点+10℃の温度において10kgの荷重下で測定したポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスが1.5〜7g/10minである。
(2)結晶性ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド66であることを特徴とする(1)に記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物。
(3)ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド6T/6I、及びポリアミド6T/6からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物。
(4)繊維状強化材(C)が、ガラス繊維であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物。
(5)増粘剤(D)が、多官能エポキシ化合物及び/又はカルボン酸基、その無水物基を有するエチレン系共重合体であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物を用いて得られることを特徴とするサクションブロー成形品。
(7)長尺で湾曲形状の中空成形品であり、かつ外径が25mm未満であることを特徴とする(6)に記載のサクションブロー成形品。
本発明によれば、結晶性ポリアミド樹脂を主体とする繊維強化ポリアミド樹脂組成物において、長尺の湾曲形状などの複雑な三次元形状のダクト類やパイプ類などの中空成形品のサクションブロー成形を可能にすることができる。
図1は、実施例で評価されるサクションブロー成形品の形状を示す。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、結晶性ポリアミド樹脂(A)、結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点であるか又は融点を有さないポリアミド樹脂(B)、繊維状強化材(C)、及び増粘剤(D)を含有するものであり、ポリアミド樹脂組成物がサクションブロー成形に最適な固化特性及び溶融特性を持つように、その降温結晶化温度及びメルトフローインデックスが特定の条件を満足することを特徴とするものである。
本発明における結晶性ポリアミド樹脂(A)、及び結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点のポリアミド樹脂(B)は、分子中に酸アミド結合(―CONH―)を有し、かつ、融点とガラス転移点が存在するものである。例えば、ε−カプロラクタム、6−アミノカプロン酸、ω−エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリジンなどから得られる重合体または共重合体もしくはこれらのブレンド物、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどのジアミンとテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸とを重縮合して得られる融点を有する結晶性重合体または結晶性共重合体もしくはこれらのブレンド物等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
結晶性ポリアミド樹脂(A)、及び結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点のポリアミド樹脂(B)は、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミドMXD−6、ポリアミド6/ポリアミド66共重合体、ポリアミド6T/ポリアミド66共重合体、ポリアミド6T/ポリアミド6共重合体等が挙げられ、本発明においてはポリアミド6およびポリアミド66、ポリアミド6T/ポリアミド66共重合体またはこれらのブレンドが好ましく、ポリアミド66がより好ましい。ポリアミド樹脂(B)の融点は、[結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点−130℃]〜[結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点−35℃]であることが好ましく、[結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点−70℃]〜[結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点−35℃]であることがより好ましく、[結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点−50℃]〜[結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点−35℃]であることがさらに好ましい。例えば、ポリアミド6T/ポリアミド66共重合体(融点315℃)をポリアミド樹脂(A)とした場合には、ポリアミド樹脂(B)としてポリアミド11(融点185℃)を使用すると、ポリアミド樹脂(B)の融点はポリアミド樹脂(A)の融点のマイナス130℃となり、好ましい組み合わせである。また、ポリアミド6(融点225℃)をポリアミド樹脂(A)とした場合には、ポリアミド樹脂(B)としてポリアミド11(融点185℃)を使用すると、ポリアミド樹脂(B)の融点はポリアミド樹脂(A)の融点のマイナス35℃となり、好ましい組み合わせである。その他にも、ポリアミド66(融点265℃)をポリアミド樹脂(A)とした場合には、ポリアミド樹脂(B)としてポリアミド6(融点225℃)やポリアミド610(融点225℃)を使用すると、ポリアミド樹脂(B)の融点は、どちらもポリアミド樹脂(A)の融点のマイナス40℃となり、好ましい組み合わせである。
結晶性ポリアミド樹脂(A)、及び結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点のポリアミド樹脂(B)の分子量は、特に制限はないが、98%(98質量%)硫酸中、濃度1質量%、25℃で測定した相対粘度が好ましくは1.70〜4.5、より好ましくは、2.0〜4.0、さらに好ましくは2.0〜3.5である。相対粘度が上記範囲より小さい場合は組成物全体の溶融粘度を低下させる可能性がある。一方、上記範囲より大きい場合は溶融重合で得られず、固相重合が必要であり、経済性に劣る。
本発明における融点を有さない(非晶性)ポリアミド樹脂(B)は、分子中に酸アミド結合(―CONH―)を有し、示差走査型熱量計(DSC)で融点が観測されず、ガラス転移点のみ観測されるポリアミド樹脂である。融点を有さないポリアミド樹脂(B)としては、具体的には、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等より重縮合によって得られる重合体および共重合体である。更に具体的には、ポリアミド6T/ポリアミド6I共重合体、ポリアミドTMD−T/ポリアミド6共重合体およびポリアミド6I重合体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
融点を有さないポリアミド樹脂(B)の上記の方法で測定した相対粘度は、好ましくは1.8〜3.8であり、より好ましくは2.0〜3.5である。相対粘度が上記範囲より小さい場合は組成物全体の溶融粘度を低下させる可能性がある。一方、上記範囲より大きい場合は溶融重合で得られず、固相重合が必要であり、経済性に劣る。
ポリアミド樹脂組成物中の結晶性ポリアミド樹脂(A)の配合量は20〜80質量%であることが好ましい。より好ましくは20〜70質量%であり、さらに好ましくは22〜55質量%である。結晶性ポリアミド樹脂(A)の配合量が上記範囲未満では、成形時に固化が非常に遅くなるため形状が保持できないおそれがあり、上記範囲を上廻ると、成形時に固化が早すぎるため賦形が完了しないおそれがある。また、ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂(B)の配合量は10〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは15〜55質量%であり、さらに好ましくは30〜45質量%である。ポリアミド樹脂(B)の配合量が上記範囲未満では、成形時に固化が早すぎるため賦形が完了しないおそれがあり、上記範囲を上廻ると、成形時に固化が非常に遅くなるため形状が保持できないおそれがある。また、ポリアミド樹脂(B)を含むことで、後述する耐LLC性を向上させることができる。特にポリアミド樹脂(B)としてポリアミド610を含む場合、耐LLC性の向上が大きい。
ポリアミド樹脂組成物中の結晶性ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の配合質量比は、100:200〜100:20であることが好ましい。より好ましくは100:180〜100:50であり、さらに好ましくは100:170〜100:60である。結晶性ポリアミド樹脂(A)の配合質量比が上記範囲未満では、成形時に固化が非常に遅くなるため形状が保持できないおそれがあり、上記範囲を上廻ると、成形時に固化が早すぎるため賦形が完了しないおそれがある。
結晶性ポリアミド樹脂(A)がポリアミド66の場合、ポリアミド樹脂(B)は、ポリアミド6、ポリアミド610、および非晶性のポリアミド6T/ポリアミド6I共重合体から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
本発明における繊維状強化材(C)は、強度や剛性および耐熱性等の物性を効果的に改良するものであり、具体的にはガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニヤ繊維等の繊維状のもの、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等のウイスカー類、針状ワラストナイト、ミルドフィバー等を挙げることができる。本発明においては、ガラス繊維が好ましい。繊維状強化材(C)は、未処理のままでも使用できるが、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ系化合物等のカップリング剤で予め処理をしてあるものが好ましい。カップリング剤で処理してあるガラス繊維を配合したポリアミド樹脂組成物を使用すると、優れた機械的特性や外観特性の優れた成形品が得られる。また他の繊維状強化材においても、カップリング剤が未処理の場合は後添加して使用することができる。
ポリアミド樹脂組成物中の繊維状強化材(C)の配合量は5〜40質量%であることが好ましい。より好ましくは8〜35質量%である。配合量が上記範囲を越えると、余裕時の伸びが無くなりエアー吹き付け時に穴が開く場合があり、上記範囲未満では強化材の効果が充分発揮できない場合がある。
本発明における増粘剤(D)は、ポリアミド樹脂が有するカルボキシル基やアミノ基と反応してポリアミド樹脂組成物の溶融粘度を高める効果を有するものである。かかる効果を有すれば特に限定されないが、例えば多官能エポキシ化合物及び/又はカルボン酸基、その無水物基を有するエチレン系共重合体が好ましい。
ポリアミド樹脂組成物中の増粘剤(D)の配合量は0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは0.5〜8質量%であり、さらに好ましくは3.5〜6質量%である。配合量が上記範囲未満であると、増粘効果が低く、配合量が上記範囲を越えると、部分的にゲル化等が発生し、成形品外観、成形性に悪影響をおよぼすおそれがある。
本発明のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物は、示差走査型熱量計(DSC)で求められる降温結晶化温度(Tc:℃)が下記関係(i)を満足し、かつメルトフローインデックスが下記関係(ii)を満足することが必要である。
(i)TcA−G−4≦TcX≦TcA−G+4
TcA:ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度(℃)
TcX:ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(℃)
G:ポリアミド樹脂組成物中の繊維状強化材(C)含有率(質量%)
(ii)JIS K−7210に準拠して、結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点+10℃の温度において10kgの荷重下で測定したポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスが1.5〜7g/10min、好ましくは2〜4g/10minである。
(i)の式において、ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度TcXの好ましい範囲をポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度TcAとポリアミド樹脂組成物中の繊維状強化材(C)の含有率Gを用いて規定したのは、以下のような理由のためである。即ち、ポリアミド樹脂単体であれば容易にブロー成形できるが、そこに補強のためにガラス繊維などの繊維状強化材を含有させると、繊維状強化材の含有率の増加に対応して、見かけの固化速度が速くなり、ブロー成形が困難になる。この見かけの固化速度が速くなることによる弊害を抑制するために、繊維状強化材の含有率に応じて樹脂の固化速度を遅くする必要がある。本発明者の検討によれば、ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度TcXを、上記関係(i)に規定されるように(TcA−G)±4℃の範囲内に制御すれば、固化速度を最適にし、良好なブロー成形性と良好なドローダウン性を両立させ得ることが見出されている。
TcXが上記関係(i)に規定される範囲未満であると、ポリアミド樹脂組成物の固化が遅くなり、中空パリソンが保持できなくなる(つまり、ドローダウンが大きくなる)おそれがあり、上記関係(i)に規定される範囲を越えると、ポリアミド樹脂組成物の固化が早くなり、中空パリソンが湾曲部を通過できない(つまり、ブロー成形が困難になる)おそれがある。また、本発明者の検討によれば、ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度TcXだけでなく、ポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスも、ブロー成形性及びドローダウン性に影響を与えることが見出されている。即ち、メルトフローインデックスが上記関係(ii)に規定される範囲未満であると、樹脂が金型内を通過できなくなるため、ブロー成形が困難になるおそれがあり、上記関係(ii)に規定される範囲を越えると、ドローダウンが大きくなるおそれがある。
要するに、上記関係(i)は、サクションブロー成形に最適なポリアミド樹脂組成物の固化特性の範囲を示したものであり、上記(ii)は、サクションブロー成形に最適なポリアミド樹脂組成物の溶融特性を示したものである。本発明では、この固化特性と溶融特性の両方を特定の範囲に制御することにより、良好なブロー成形性と良好なドローダウン性を両立させることができ、ポリアミド樹脂組成物で形成された中空パリソンがその形状を保持したまま複雑な三次元形状の金型内をスムーズに通過することができる。ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(TcX)を上記関係(i)を満足させるように制御する手段としては、ポリアミド樹脂組成物の配合組成を上記のような配合組成とすることが挙げられる。また、ポリアミド樹脂組成物のメルトインデックスを上記(ii)を満足させるように制御する手段としては、ポリアミド樹脂組成物の配合組成を上記のような配合組成とすること、またはポリアミド樹脂(A)および(B)の粘度の組み合わせで調整することが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、上記の成分(A)〜(D)以外に必要に応じて従来公知の耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、離型剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、オレフィン系やその他衝撃改良剤、顔料、染料等を配合することができる。また本発明の目的を損なわない範囲で他の樹脂や充填剤等を配合することができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する方法としては、上述した成分(A)〜(D)、及び必要に応じて配合される成分を混合および溶融混練することによって製造することができる。溶融混練方法は、当業者に周知のいずれかの方法を採用することができ、例えば、単軸押出機、2軸押出機、加圧ニーダ、バンバリーミキサ等を使用することができる。なかでも2軸押出機を使用することが好ましい。但し、繊維状強化材(C)だけは、他の成分のメインホッパーでの混合後にサイドフィードから投入して溶融混練することが好ましい。
2軸押出機の条件は、ポリアミド樹脂の種類、添加剤種類・量など種々の要因により異なり一義的に決められないが、一般的には、ポリアミド樹脂の融点は170〜320℃範囲であり、その加工温度は融点+25℃前後で温度設定をすればよい。また、反応時間は10分間以内、例えば1分から数分間で充分目的とする溶融粘度に到達すると考えてよい。スクリュー構成は、練りの優れるニーデングディスクを数箇所組み込むことが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述のように構成されているので、サクションブロー成形に適した中空パリソンの固化特性と溶融特性を有することができる。従って、本発明のポリアミド樹脂組成物は、長尺で湾曲形状を有し、外径が25mm未満のような複雑な三次元形状の中空成形品をサクションブロー成形で製造するのに極めて好適である。さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、実施例で示すように、耐LLC性に関して高い性能を示すことができるため、自動車の内燃機関・バッテリー・モーター・蓄電池などの冷却効率を高めて、燃費の削減や航続距離の向上を図るためのLLC溶液を該当部位へ流すための配管の材料として好適である。
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において示した各特性、物性値は、下記の試験方法で測定した。
<ポリアミド樹脂の相対粘度>
JIS K 6810に準拠して、ウベローデ粘度管を用い、20℃において96%硫酸溶液(ポリアミド樹脂濃度1g/dl)で測定した。
<降温結晶化温度(Tc)>
示差走査型熱量計(DSC)を用い、各サンプルは水分率0.03%以下の乾燥状態でDSC装置に封入し、水分による変動を防止し、窒素気流下で20℃/分の昇温速度にて300℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、10℃/分の速度で100℃まで降温させることにより測定した。
<メルトフローインデックス(MI)>
JIS K−7210に準拠して、結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点+10℃の温度において荷重10kgをかけ、10分間で流動した樹脂量(g)を測定した。なお、各サンプルは水分率0.03%以下の乾燥状態で装置に装入し、水分によるMIの変動を防止した。
<ブロー成形性及びドローダウン性>
サクションブロー成形機(ST社製:ASPI MONO 150.3 FULL OPTION)を用いて、中空パリソンから、図1に示す長尺で湾曲形状の外径15mmの中空成形品を得た。なお、成形は、ダイス径:28mm 射出時間:4mm/秒 サクション強度40% 樹脂温度:280℃ 金型温度:40℃で実施し、エアーの吹き付け時間は15秒間とした。なお、評価基準は以下の通りとした。ブロー成形性及びドローダウン性のうち、どちらか一方でも×となると、成形は不可能である。
ドローダウン性:〇=成形品が中空を保持している
×=ドローダウンが大きく、成形品が中空を保持していない
ブロー成形性 :〇=中空パリソンが金型内の湾曲部を問題なく通過できる
×=中空パリソンが金型内の湾曲部を通過できない
<耐LLC性>
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダ温度を280℃、金型温度を90℃に設定した。射出速度50mm/秒、保圧30MPa、射出・保圧時間10秒、冷却時間15秒で成形した引張試験テストピース(ISOダンベル試験片)を130℃及び120℃の不凍液(トヨタ純正Long Life Coolant)に1000時間浸漬し、それぞれの強度をISO527−1,2に準拠する方法で測定した。引張強度の保持率は、熱処理なしの初期の値を100%としたときの1000時間処理した後の保持率(%)で示した。
実施例、比較例において使用した原料は、以下のとおりである。
結晶性ポリアミド樹脂(A)
・ポリアミド66:EPR34W(神馬社製、融点265℃、相対粘度3.4)
ポリアミド樹脂(B)
・ポリアミド610:RILSAN SMVO−F(アルケマ社製、融点225℃、相対粘度2.1)
・ポリアミド6:TP−6603(集盛社製、融点225℃、相対粘度3.6)
・ポリアミド6T/6I共重合ポリアミド:PH−740(東洋紡社製、非晶性ポリアミド樹脂、相対粘度2.1)
繊維状強化材(C)
・ガラス繊維:T−275H(日本電気硝子社製、11μm径)
増粘剤(D)
・多官能エポキシ化合物:ARUFON UG−4040(東亜合成社製、アクリル−グリシジル共重合体)
・カルボン酸基、その無水物基を有するエチレン系共重合体:タフマーMH−7020(三井化学社製:マレイン酸変性エチレン−ブチレン共重合体)
その他の添加剤
・離型剤:モンタン酸エステルワックスのWE40(クラリアントジャパン社製)
・黒色顔料:EPC8E313(住化カラー社製)
・耐熱安定剤:臭化第二銅(ナカライテスク社製:純度99.8%)
・酸化防止剤:イルガノックス245(BASF社製:フェノール系酸化防止剤)
実施例、比較例のポリアミド樹脂組成物は、表1に記載の配合に従って各配合成分を用意し、それらを35φ二軸押出機(東芝機械社製)を用いて混合し、溶融混練した。なお、シリンダ温度は、285℃に設定し、スクリュー回転数は150rpmに設定した。繊維状強化材(C)(ガラス繊維)以外の原料は、あらかじめ混合したうえでメインホッパーから投入し、ガラス繊維は、ベント口からサイドフィードで投入した。得られたポリアミド樹脂組成物のペレットは、上記のサクションブロー成形機でそれぞれの評価試料を成形し、評価に供された。
Figure 0006989066
表1からわかるように、本発明の要件を満たす実施例1〜10はいずれも、ブロー成形性及びドローダウン性の両方に優れ、耐LLC性にも優れる。これに対して、ポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックス(MI)が本発明の関係(ii)で規定される範囲を超える比較例1,4,5,8は、ドローダウン性に劣る。特に、増粘剤(D)を配合していない比較例4は、メルトフローインデックス(MI)が著しく高くなることがわかる。ポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックス(MI)が本発明の関係(ii)で規定される範囲未満である比較例2は、ブロー成形性に劣る。結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点であるか又は融点を有さないポリアミド樹脂(B)を配合していない比較例3は、耐LLC性に劣る。ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(TcX)が本発明の関係(i)で規定される範囲を超える比較例6は、ブロー成形性に劣る。ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(TcX)が本発明の関係(i)で規定される範囲未満である比較例7は、ドローダウン性に劣る。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、サクションブロー成形時に中空パリソンが金型内を通過するのに最適な特性を持つように作られているので、長尺で湾曲形状の外径が小さい中空成形品を容易に成形することができる。

Claims (5)

  1. 結晶性ポリアミド樹脂(A)、結晶性ポリアミド樹脂(A)より低融点であるか又は融点を有さないポリアミド樹脂(B)、繊維状強化材(C)、及び増粘剤(D)を含有するポリアミド樹脂組成物において、結晶性ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド66であること、繊維状強化材(C)が、ガラス繊維であること、ポリアミド樹脂組成物中の結晶性ポリアミド樹脂(A)の配合量が20〜80質量%であり、かつポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂(B)の配合量が10〜60質量%であること、及び示差走査型熱量計(DSC)で求められるポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(Tc:℃)が下記関係(i)を満足し、ポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスが下記関係(ii)を満足することを特徴とするサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物:
    (i)TcA−G−4≦TcX≦TcA−G+4
    TcA:ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度(℃)
    TcX:ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度(℃)
    G:ポリアミド樹脂組成物中の繊維状強化材(C)の含有率(質量%)
    (ii)JIS K−7210に準拠して、結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点+10℃の温度において10kgの荷重下で測定したポリアミド樹脂組成物のメルトフローインデックスが1.5〜7g/10minである。
  2. ポリアミド樹脂(B)が、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド6T/6I、及びポリアミド6T/6からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物。
  3. 増粘剤(D)が、多官能エポキシ化合物及び/又はカルボン酸基、その無水物基を有するエチレン系共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物。
  4. 請求項1〜のいずれかに記載のサクションブロー成形用ポリアミド樹脂組成物を用いて得られることを特徴とするサクションブロー成形品。
  5. 長尺で湾曲形状の中空成形品であり、かつ外径が25mm未満であることを特徴とする請求項に記載のサクションブロー成形品。
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