以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
〜構成〜
図1は、本発明の一実施の形態におけるキャブ可動式作業機械を示す図である。本実施の形態において、作業機械は建設機械の代表例である油圧ショベルである。
図1において、キャブ可動式油圧ショベルは、昇降可能な可動キャブ(以下単にキャブという)50を備えた車体100と、車体100に上下方向に回動可能に連結され、フロントアタッチメント106を装着したフロント作業機103とを備えている。車体100は、下部走行体110と、この下部走行体110上に旋回可能に搭載される上部旋回体111とを有している。
フロント作業機103は、上部旋回体111に上下方向に回動可能に取り付けられるブーム104と、このブーム104の先端に上下/前後方向に回動可能に取り付けられるアーム105とを有し、フロントアタッチメント106は、アーム105の先端に上下/前後方向に回動可能に取り付けられている。ブーム104はブームシリンダ3aによって駆動され、アーム105はアームシリンダ3bによって駆動され、フロントアタッチメント106はアタッチメントシリンダ3cによって駆動される。
上部旋回体111は旋回モータ3e(図3参照)によって駆動され、下部走行体110上を旋回する。下部走行体110は左右一対のクローラ110a,110b(図1では片側のみを示す)を有し、クローラ110a,110bはそれぞれ走行モータ3f,3g(片側のみを示す)によって駆動され、走行を行う。
キャブ50は、上部旋回体111の基礎フレーム(旋回フレーム)111a上の前側位置に、上部旋回体111に対して昇降可能に取り付けられている。上部旋回体111とキャブ50との間には、キャブ50を車体100に対して昇降させる昇降装置60が配置されている。
昇降装置60は、上部旋回体111(車体)の基礎フレーム111a上に立設されたタワー状の支持フレーム61と、キャブ50の下部に一体に取り付けられたL字型の架台62と、タワー状の支持フレーム61の上端部分61aと架台62の後部ステー62aとにピンによって回動可能に連結され、キャブ50を水平に保つ2つのリンクから構成される平行リンク機構63と、平行リンク機構63の下側で支持フレーム61の上端部分と架台62の後部ステー62aとにピンによって回動可能に連結され、キャブ50を上下方向に移動させる昇降シリンダ64とを有している。
タワー状の支持フレーム61と昇降シリンダ64はそれぞれ左右一対で構成され、平行リンク機構63はタワー状の支持フレーム61の左右一対の間で、支持フレーム61の上端部分と架台62の後部ステー62aとに連結されている。
フロントアタッチメント106は、本実施の形態では、開閉式のフォークでコンクリート片等の廃棄物を把持し、トラックの荷台などに搬送して積み込むフォークグラップルである。フロントアタッチメント106は、電磁石の磁力によって鉄のスクラップ等の廃棄物を吸着して移送するリフティングマグネット等、その他の作業具であってもよい。
図2は、キャブ50の昇降動作を示す図である。昇降装置60の昇降シリンダ64を伸縮動作させると、平行リンク機構63は支持フレーム61の連結ピンを支点として回転し、この平行リンク機構63の回転によりキャブ50は昇降する。図2の上側のキャブ50は昇降シリンダ64を最も伸ばし、キャブ50が最上げ位置にある状態を示し、下側のキャブ50は昇降シリンダ64を最も縮め、キャブ50が最下げ位置にある状態を示している。
キャブ50を備えた油圧ショベルは、キャブ50を最下げ位置に下降させた状態では、一般的な油圧ショベルと同様、掘削作業のような地表面での作業を行うことができる。一方、キャブ50を最上げ位置に上昇させた状態では、オペレータの目線を高くすることができ、例えばトランクやコンテナ等の容器が大型の場合でも、広い視界により内部を見ながら作業を行うことができる。
また、キャブ50は、昇降シリンダ64の伸縮動作により平行リンク機構63は支持フレーム61の連結ピンを支点として回転するとき、昇降しながら前後方向にも移動し、最下げ位置と最上げ位置との中間位置では、図2に部分的に示すように、最も前方に出た状態(最進出位置)となる。このため、例えば、キャブ50を最上げ位置から下降させるとき、フロントアタッチメント106の位置によってはフロントアタッチメントがキャブ50に接触(干渉)する可能性がある。本発明は、このようなキャブ昇降時のフロントアタッチメント106とキャブ50の接触を回避する技術を適用するものである。
図3は、本実施の形態における油圧ショベルに搭載される油圧システムとその制御システムを示す図である。
まず、油圧システムについて説明する。
図3において、本実施の形態における油圧ショベルの油圧システムは、メインポンプとしての油圧ポンプ2と、この油圧ポンプ2からの圧油により駆動される上述したブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、アタッチメントシリンダ3c、旋回モータ3e及び左右の走行モータ3f,3gを含む複数のアクチュエータと、これら油圧アクチュエータ3a〜3gのそれぞれに対応して設けられた操作レバー装置4a〜4gと、油圧ポンプ2と複数の油圧アクチュエータ3a〜3g間に接続され、操作レバー装置4a〜4gの指令パイロット圧によって中立位置から切り換えられ、圧油の流れ方向と流量(油圧アクチュエータ3a〜3gの駆動方向と駆動速度)を制御する複数の流量制御弁5a〜5gと、安全弁としてのメインリリーフ弁6とを有している。
操作レバー装置4a〜4gはリモコン弁(減圧弁)を内蔵した油圧パイロット式であり、パイロットポンプ7の吐出油路7aにパイロット圧供給油路7bを介して接続され、パイロットポンプ7で生成される油圧(一次圧)に基づいて、それぞれオペレータにより操作される操作レバーの操作量と操作方向に応じた指令パイロット圧(二次圧)を生成する。これらの指令パイロット圧はパイロットライン10a〜16bを介して対応する流量制御弁5a〜5gの受圧部20a〜26bに導かれる。パイロットポンプ7の吐出油路7aはパイロットポンプ7の吐出圧を一定に保持するパイロットリリーフ弁8を備えている。
また、本実施形態において、油圧システムは、上述した昇降装置60の昇降シリンダ64と、油圧ポンプ2と複数の昇降シリンダ64間に接続され、昇降スイッチ44(後述)の操作に応じてパイロットライン66a,66bに生成される制御パイロット圧によって中立位置から切り換えられ、圧油の流れ方向と流量(昇降シリンダ64の駆動方向と駆動速度)を制御する昇降制御弁65とを更に備えている。
次に、制御システムについて説明する。
制御システムは、ブーム104、アーム105、フロントアタッチメント106のそれぞれの回動支点に設けられ、フロント作業機103の位置と姿勢に関する状態量として、それぞれの回動角を検出する角度センサ31a,31b,31c(姿勢センサ)と、タワー状の支持フレーム61に平行リンク機構63の回動支点と同軸的に取り付けられ、キャブ50の高さ位置に関する状態量として、平行リンク機構63の回動角を検出するリンク角度センサ41(高さセンサ)と、干渉防止制御解除スイッチ42と、フロント操作モード/キャブ昇降モードのモード切換スイッチ43と、キャブ50の昇降を指示する昇降スイッチ44と、角度センサ31a,31b,31c及びリンク角度センサ41のセンサ信号と、干渉防止制御解除スイッチ42、モード切換スイッチ43及び昇降スイッチ44のそれぞれのスイッチ信号とを入力し、第1及び第2干渉防止制御(後述)の演算処理を行うコントローラ45と、パイロットポンプ7の吐出油路7aとパイロット圧供給油路7bとの間に配置された電磁切換式の油圧ロック弁34と、パイロットライン10a,11a,12aに設けられた電磁比例減圧弁33a,33b,33cと、パイロット圧供給油路7bから分岐したパイロットライン17に設けられた電磁比例制御弁36と、アーム押しのパイロットライン11bの圧力(操作レバー装置4bの出力圧)と電磁比例制御弁36の出力圧との高い方の圧力を選択し、パイロットライン11bに出力するシャトル弁37(高圧選択弁)と、パイロット圧供給油路7bから分岐したパイロットライン66a,66bに設けられた電磁比例制御弁67a,67bと、モニタ46と、警告ブザー47とを備えている。
角度センサ31a,31b,31cの代わりに慣性センサを用いてフロント作業機103の位置と姿勢を検出してもよい。また、リンク角度センサ41の代わりに昇降シリンダ64のストロークを検出するストロークセンサを用いてキャブ50の高さ位置に関する状態量を検出してもよい。
干渉防止制御解除スイッチ42、モード切換スイッチ43、昇降スイッチ44、モニタ46及び警告ブザー47は、キャブ50の運転室内に設置されている。
干渉防止制御解除スイッチ42は、オペレータに押されることで干渉防止制御を解除するスイッチであり、例えば、押されている間ONとなるモーメンタリ式・自動復帰のスイッチである。干渉防止制御解除スイッチ42は、油圧ショベルを輸送姿勢とするときや、ハードが故障或いは破損した場合など、頻度の低い特殊な作業を行う際に使用される。
モード切換スイッチ43は、フロント操作モードとキャブ昇降モードを切り換える例えばシーソー型のスイッチである。
フロント操作モードとは、キャブ50を所定位置に停止させて作業を行うときに使用されるモードであり、フロント作業モードでは干渉防止制御解除スイッチ42がOFFである間、フロントアタッチメント106が干渉防止領域70(図1参照)に侵入したとき、フロントアタッチメント106とキャブ50との接触を回避する干渉防止制御(第1干渉防止制御)が有効となる。また、フロント作業モードでは、昇降スイッチ44を無効とし、昇降スイッチ44を操作してもキャブ50を昇降させることはできない。
キャブ昇降モードとは、キャブ50を昇降させるときに使用されるモードであり、キャブ昇降モードで昇降スイッチ44を操作することで、キャブ50の昇降が可能となる。また、キャブ昇降モードでは、キャブ50の昇降時にフロントアタッチメント106とキャブ50との干渉を回避する干渉防止制御(第2干渉防止制御)が有効となる。
昇降スイッチ44は、フロント作業モードが設定されているときに有効となるスイッチであり、上げ方向の指示スイッチ44aと下げ方向の指示スイッチ44bを備えている。これらの指示スイッチ44a,44bも、押されている間のみONとなり、キャブ50の昇降を指示するモーメンタリ式・自動復帰のスイッチである。
電磁比例減圧弁33a,33b,33cは、コントローラ45からの電気信号に応じて、操作レバー装置4a,4b,4dにより生成された指令パイロット圧を減圧し、その減圧した指令パイロット圧がパイロットライン10a,11a,13bを介して流量制御弁5a,5b,5cの受圧部20a,21a,22aに導かれる。
電磁比例制御弁36は、パイロットポンプ7で生成される油圧(一次圧)に基づいて、コントローラ45からの電気信号に応じた制御パイロット圧(二次圧)を生成し、その制御パイロット圧がシャトル弁37及びパイロットライン11bを介して流量制御弁5bのアーム押しの受圧部21bに導かれる。
パイロットライン11bとシャトル弁37は、電磁比例制御弁36の出力圧をアーム105の流量制御弁5bのアーム押しの受圧部21bに導くパイロット回路を構成する。
電磁比例制御弁67a,67bは、パイロットポンプ7で生成される油圧(一次圧)に基づいて、コントローラ45からの電気信号に応じた制御パイロット圧(二次圧)を生成し、その制御パイロット圧がパイロットライン66a,66bを介して昇降制御弁65の受圧部65a,65bに導かれる。
ここで、第1干渉防止制御に係わる干渉防止領域70について説明する。
干渉防止領域70は、図1に示すように、キャブ50の前側と上側及び下側に設定されている。また、干渉防止領域70は減速領域Aと停止領域Bを有し、キャブ50に対して外側から内側に向かって減速領域A及び停止領域Bの順序で位置している。フロントアタッチメント106が減速領域Aに侵入すると、コントローラ45は電磁比例減圧弁33a,33b,33cを駆動して指令パイロット圧を減圧し、フロント作業機103(ブーム104、アーム105及びフロントアタッチメント106)の動作を減速させる。フロントアタッチメント106が停止領域Bに侵入すると、コントローラ45は電磁比例減圧弁33a,33b,33cを全閉し、フロント作業機103(ブーム104、アーム105及びフロントアタッチメント106)の動作を停止させる。
なお、図示はしないが、停止領域Bの更に内側に禁止領域が設定されており、万一、フロント作業機102が禁止領域に侵入したとき、コントローラ45は油圧ロック弁34を切換え、パイロットポンプ7の吐出油路7aとパイロット圧供給油路7bとの連通を遮断して油圧システムを動作不能とし、油圧ショベルの全動作を停止させる。
コントローラ45と電磁比例減圧弁33a,33b,33cは、フロント作業機103が操作され、フロントアタッチメント106がキャブ50の周囲に設定された干渉防止領域70に侵入したとき、フロント作業機103の動作を制限してフロントアタッチメント106とキャブ50との接触を回避する第1干渉防止制御を行う干渉防止装置を構成する。
また、コントローラ45と電磁比例制御弁36及びシャトル弁37は、昇降スイッチ44のスイッチ信号と、角度センサ31a,31b,31c(姿勢センサ)及びリンク角度センサ41(高さセンサ)の検出値に基づいて、キャブ50の昇降時にフロント作業機103の動作を制御するキャブ昇降制御装置を構成する。
キャブ昇降制御装置は、昇降スイッチ44が操作されたとき、昇降スイッチ44のスイッチ信号と、角度センサ31a,31b,31c(姿勢センサ)及びリンク角度センサ41(高さセンサ)の検出値に基づいて、フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離D(後述)を計算し、この距離Dが所定距離Xo(後述)より大きいときは昇降装置60を駆動し、フロントアタッチメント106とキャブ50間の距Dが所定距離Xo以下であるときは、昇降装置60を駆動する前に、フロントアタッチメント106がキャブ50から離れるようフロント作業機103を動作させて、フロント作業機103とキャブ50との接触を回避する第2干渉防止制御を行う。
以下に、第1干渉防止制御と第2干渉防止制御の詳細を説明する。
〜第1干渉防止制御〜
図4は、コントローラ45の第1干渉防止制御に係わる処理機能を示すフローチャートである。
コントローラ45は、モード切換スイッチ43がフロント操作モードを指示している場合、図4にフローチャートで示す第1干渉防止制御を開始させる。
この第1干渉防止制御において、コントローラ45は、まず、干渉防止制御解除スイッチ42が押されているかどうかを判定し(ステップS100)、干渉防止制御解除スイッチ42が押されたときは、モニタ46に干渉防止制御解除スイッチ42が押されている(干渉防止制御が解除されている)ことを知らせる表示(例えばメッセージ表示)をし、オペレータが、干渉防止制御解除スイッチ42が押されていることを視覚で確認できるようにし、かつ警告ブザー47を作動させて警告音を発生させ、オペレータが聴覚でも確認できるようにする。
干渉防止制御解除スイッチ42が押されていないとき、コントローラ45は、角度センサ31a,31b,31c及びリンク角度センサ41からのセンサ信号を入力する(ステップS105)。次いで、コントローラ45は、リンク角度センサ41により検出した平行リンク機構63の回動角と予めメモリ(例えばROM)に記憶してある平行リンク機構63の寸法等からキャブ50の高さを計算する(ステップS110)。キャブ50の高さとしては、例えば、キャブ50の下面の高さを計算するのが好ましい。
また、コントローラ45は、角度センサ31a,31b,31cにより検出したブーム104、アーム105、フロントアタッチメント106の回動角と、予めメモリ(例えばROM)に記憶してある各フロント部材及びキャブ50の寸法等からフロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dを計算する(ステップS115)。
図5は、フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dを計算する考え方を示す図である。
図5において、フロントアタッチメント106であるフォークグラップルはブラケット106aを備え、ブラケット106aはアーム105の先端にピン106bにて回動可能にピン結合されている。ピン106bはリフティングマグネットの回動支点となる。また、ブラケット106aアタッチメントリンク106cの一端がピン106dにて回動可能にピン結合され、アーム105にアームリンク105aの一端が回動可能にピン結合され、アームシリンダ3cのピストンロッドがアタッチメントリンク106cの他端とアームリンク105aの他端に回動可能にピン結合されている。アーム105に対するフロントアタッチメント106の回動角は角度センサ31cによって検出される。
フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dはフロントアタッチメント106の代表点とキャブ50の基準輪郭線CR間の距離として計算される。基準輪郭線CRは、キャブ50の突起物等を考慮してキャブ50の周囲に設定された、本発明の第1及び第2干渉防止制御で使用されるキャブ50の仮想の輪郭線である。
フロントアタッチメント106の代表点は、フロントアクチュエータ106を包含する仮想円として、例えば、ブラケット106aのピン106b(アーム105の先端部におけるフロントアタッチメント106の回動支点)ともう1つのピン106dを通る仮想円SCを設定し、この仮想円SC上のキャブ50に最も近い点(最近接点)Rとして設定される。この最近接点Rの位置は、フロントアタッチメント106がキャブ50に向かうよう操作されたとき、角度センサの31cの検出値と、上記のように計算されたキャブ50の高さと、予めメモリ(例えばROM)に記憶してあるキャブ50及びブラケット106aを含むフロントアタッチメント106の寸法等から、上記仮想円SC上のキャブ50の基準輪郭線CRに最も近い位置、すなわち、仮想円SCとキャブ50の基準輪郭線CR間の距離Dが最も小さくなる仮想円SC上の位置として計算される。
また、フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dは、仮想円SC(の最近接点R)とキャブ50の基準輪郭線CR間の距離、すなわち最近接距離として計算される。
なお、フロントアクチュエータ106の代表点を設定する仮想円は、回動支点(ピン106b)とピン106dを通る仮想円SCに限られず、フロントアクチュエータ106を包含する仮想円であれば、他の仮想円であってもよい。例えば、他の仮想円として、回動支点(ピン106b)を円弧の一部として含み、フロントアタッチメント106の全体を包含する包絡円であってもよい。
ここで、フロントアタッチメント106の最近接点Rの位置は、上部旋回体111の適所、例えばブーム104の基端部の回動支点を原点とするX−Y座標系の座標値として計算することができ。X−Y座標系のX軸は水平方向(上部旋回体111の基礎フレームの主面に平行な方向)の座標軸であり、Y軸は垂直方向(上部旋回体111の基礎フレームの主面に垂直な方向)の座標軸である。なお、この場合は、上記ステップS110において、キャブ50の下面の高さは、X−Y座標系のY軸の座標値として計算される。
次いで、コントローラ45は、干渉防止制御を行う(ステップS140)。
図6は、ステップS140で用いる干渉防止制御の演算テーブルを示す図である。この演算テーブルはコントローラ45のメモリ(例えばROM)に予め記憶されている。
図6において、横軸はステップS115で計算した、フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dであり、縦軸は電磁比例減圧弁33a,33b,33cの前後圧力比Rpである。フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dは、上述したように、フロントアタッチメント106の仮想円SCとキャブ50の基準輪郭線CR間の最近設距離として計算された値である。
図6の演算テーブルにおいて、距離Dと前後圧力比Rpの関係は、距離Dが第1閾値D1以上であるとき前後圧力比Rpは100%であり、距離Dが第1閾値D1より小さくなると圧力比Rpは100%から次第に小さくなり、距離Dが第2閾値D2に達すると0%となるように設定されている。第1閾値D1は非干渉防止領域と干渉防止領域70の減速領域Aとの境界位置に対応し、第2閾値D2は減速領域Aと停止領域Bとの境界位置に対応する。第2閾値D2より小さい側(原点に近い側)には第3閾値D3がある。この第3閾値D3は停止領域Bと図示しない禁止領域との境界位置に対応する。
コントローラ45は、ステップS140において、図6の演算テーブルをメモリから読み込み、ステップS115で計算した距離D(最近接距離)を演算テーブルに参照して、電磁比例減圧弁33a,33b,33cの前後圧力比Rpを計算し、この前後圧力比Rpに相当する制御電流を電気信号として電磁比例減圧弁33a,33b,33cに出力する。
すなわち、距離D>第1閾値D1の場合、コントローラ45は、前後圧力比Rpとして0%を計算し、前後圧力比100%に相当する制御電流を電気信号として電磁比例減圧弁33a,33b,33cに出力する(ステップS145)。この場合、電磁比例減圧弁33a,33b,33cは全開であり、フロント作業機103のフロント部材は操作レバー装置4a,4b,4cで生成された指令パイロット圧に応じた速度で駆動される。
一方、第2閾値D2<距離D≦第1閾値D1の場合、コントローラ45は、前後圧力比Rpとして距離Dに応じた値を計算し、この前後圧力比Rpに相当する制御電流を電気信号として電磁比例減圧弁33a,33b,33cに出力する(ステップS150)。これにより電磁比例減圧弁33a,33b,33cは指令パイロット圧を減圧し、フロント作業機103のフロント部材の動作を減速する。
また、距離D≦第2閾値D2の場合、コントローラ45は、前後圧力比Rpとして0%を計算し、前後圧力比0%に相当する制御電流を電気信号として電磁比例減圧弁33a,33b,33cに出力する(ステップS155)。これにより電磁比例減圧弁33a,33b,33cは全閉して指令パイロット圧をタンク圧まで減圧し、フロント作業機103の動作を停止させる。
このように距離Dとして、フロントアタッチメント106の仮想円SC(の最近接点R)とキャブ50の基準輪郭線CR間の最近設距離を計算して第1干渉防止制御を行うことにより、キャブ50がいかなる高さ位置にあるときでも(キャブ50が最上げ位置及び最下げ位置あるときでも、キャブ50が最上げ位置及び最下げ位置よりも前方に出る中間位置にあるときでも)、フロントアタッチメント106が干渉防止領域70(図1参照)に侵入したとき、その最近接距離Dに基づいてフロントアタッチメント106とキャブ50との接触を回避することが可能となる。また、フロントアタッチメント106がキャブ50の基準輪郭線CRに対していかなる位置関係にあるときでも(フロントアタッチメント106が基準輪郭線CRの前側にあるときだけでなく、基準輪郭線CRの上側或いは下側にあるときでも)、フロントアタッチメント106が干渉防止領域70(図1参照)に侵入したとき、その最近接距離Dに基づいてフロントアタッチメント106とキャブ50との接触を回避する干渉防止制御を行うことが可能となる。
〜第2干渉防止制御〜
図7は、コントローラ45の第2干渉防止制御に係わる処理機能を示すフローチャートである。
コントローラ45は、モード切換スイッチ43がキャブ昇降モードを指示している場合、図7にフローチャートで示す第2干渉防止制御を開始させる。このとき、コントローラ45は、モニタ46にキャブ昇降モードにあることを知らせる表示(例えばメッセージ表示)をし、オペレータが、キャブ昇降モードにあることを視覚で確認できるようにし、かつ警告ブザー47を作動させて警告音を発生させ、オペレータが聴覚でも確認できるようにする。また、コントローラ45は、キャブ昇降モードが指示された場合、干渉防止制御解除スイッチ42が押されたときのモニタ46の表示と警告ブザー47の警告音から区別できるように、そのときとは異なる態様で表示をし、警告音を発生させる。
次いで、コントローラ45は、昇降スイッチ44が上げ方向或いは下げ方向のいずれかに操作されてONであかどうかを判定し(ステップS205)、昇降スイッチ44がOFFであるときは何もせず、処理を繰り返す。一方、昇降スイッチ44がONであるときは、モニタ46に昇降スイッチ44が押されていることを知らせる表示(例えばメッセージ表示)をし、オペレータが、昇降スイッチ44が押されていることを視覚で確認できるようにし、かつ警告ブザー47を作動させて警告音を発生させ、オペレータが聴覚でも確認できるようにする。またこのときも、コントローラ45は、干渉防止制御解除スイッチ42が押されたとき及びキャブ昇降モードが指示されたときのモニタ46の表示と警告ブザー47の警告音から区別できるように、そのときとは異なる態様で表示をし、警告音を発生させる。
昇降スイッチ44がONであるとき、コントローラ45は、まず、図4に示す第1干渉防止制御のステップS105,S110,S115と同様の処理を行う。
すなわち、ステップS210において、角度センサ31a,31b,31c及びリンク角度センサ41からのセンサ信号を入力し、ステップS215において、コントローラ45は、リンク角度センサ41により検出した平行リンク機構63の回動角と予めメモリ(例えばROM)に記憶してある平行リンク機構63の寸法等からキャブ50の高さを計算する。キャブ50の高さとしては、例えば、キャブ50の下面の高さを計算するのが好ましい。
また、コントローラ45は、ステップS220において、角度センサ31a,31b,31cにより検出したブーム104、アーム105、フロントアタッチメント106の回動角と、予めメモリ(例えばROM)に記憶してある各フロント部材及びキャブ50の寸法等からフロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dを計算する。距離Dとしては、フロントアタッチメント106の仮想円SC(の最近接点R)とキャブ50の基準輪郭線CR間の最近接距離を計算する。
次いで、コントローラ45は、ステップS220計算した距離D(最近接距離)が予め設定した所定距離Xoよりも大きいかどうか(D>Xoであるかどうか)を判定する(ステップS225)。この判定は、キャブ50の昇降時にキャブ50がフロント作業機103に干渉(接触)するおそれがあるかどうかを判断するために行うものであり、所定距離Xoは、キャブ50の基準輪郭線CRから干渉防止領域70の減速領域A内のいずれかの位置までの距離として設定される。本実施の形態では、所定距離Xoは、例えば、図5に示すように、キャブ50の基準輪郭線CRから減速領域Aの非干渉防止領域との境界までの距離、すなわち前述した閾値D1に等しい距離として設定されている。
ステップS225において、D>Xoである場合、すなわち、キャブ50の昇降時にフロント作業機103がキャブ50に干渉するおそれのない場合は、コントローラ45は、キャブ昇降の制御信号(電気信号)を電磁比例制御弁67a又は67bに送り、キャブ50の昇降動作を行う(ステップS230)。
一方、D≦Xoである場合、すなわち、キャブ50の昇降時にフロント作業機103がキャブ50に干渉するおそれがある場合は、コントローラ45は、ブーム104の角度センサ31a及びアーム105の角度センサ31bのセンサ信号に基づいてアーム105の先端位置を演算し(ステップS235)、このアーム105の先端位置が基準高さHo以上かどうかを判定する(ステップS240)。この判定は、後述するステップS250のアーム105押し動作でアーム105が垂直姿勢になるとき、フロントアタッチメント106が地面に接触する可能性があるかどうかを判定するものである。
以下に、アーム105の先端位置が基準高さHoより低い場合と、基準高さHo以上である場合とに分けて説明する。
<アーム先端位置が基準高さHoより低い場合>
図8は、アーム105を最引きの姿勢から最押しの姿勢まで回動させた場合のアーム先端の軌跡と、アーム先端の基準高さHoを示す図である。Laはアーム105の最引きの姿勢におけるアーム先端位置、Lbはアーム105の垂直姿勢におけるアーム先端位置、Lcはアーム105の最押しの姿勢におけるアーム先端位置、Eはアーム先端位置La〜Lb間のアーム105の回動範囲、Fはアーム先端位置Lb〜位置Lc間のアーム105の回動範囲である。
アーム105を最引きの姿勢から押し動作を行った場合、アーム105はブーム104とアーム105とを連結するピン105bを中心として円弧を描いて回動し、円弧の最下点(ピン105bの真下)である垂直の姿勢になるまでの間の回動範囲Eにおいて、アーム105は地面と水平方向の動きと共に、地面に近づく鉛直方向の動きをする。そのため、アーム105の先端が地面に近すぎる位置にあるときは、後述するステップS250のアーム105押し動作でアーム105が垂直姿勢になるとき、フロントアタッチメント106が地面に接触する可能性がある。
ステップS240では、フロントアタッチメント106が地面に接触することを回避するため、アーム105の先端位置が基準高さHo以上かどうかを判定する。このとき、コントローラ45は、アーム105の先端位置の基準高さHoを以下のように算出する。
コントローラ45は、アーム105の角度センサ31bのセンサ信号に基づいてアーム105が現在の位置から垂直姿勢まで回動したときの先端位置の高さ偏差ΔHを演算し、この高さ偏差ΔHに、フロントアタッチメント106を包含する仮想円SRの直径Raを加算し、その値を基準高さHoとする。すなわち、Ho=ΔH+Raを演算する。
なお、基準高さHoは、仮想円SRの直径Raに余裕代を設けて計算してもよい。また、このとき、現場の足回りの状況が現場毎に違うことも考慮し、余裕代を変更可能として基準高さHoの設定値は変えられるようにしてもよい。
ステップS240でアーム先端位置が基準高さHoより低いと判定した場合、コントローラ45はオペレータに警告のため、警告ブザー47を作動させて警告音を発生させる(ステップS245)。このとき、コントローラ45は、干渉防止制御解除スイッチ42が押されたとき、キャブ昇降モードが指示されたとき、昇降スイッチ44がONになったときのそれぞれの警告音から区別できるように、それらのときとは異なる警告音を発生させる。
これにより、フロントアタッチメント106が地面などに接触するリスクがあるため、ステップS250のアーム押し制御ができないこと、及びオペレータによるマニュアル操作が必要であることを通知することができる。
<アーム先端位置が基準高さHo以上である場合>
ステップS240でアーム105の先端位置が基準高さHo以上であると判定した場合、コントローラ45は、シャトル弁37を介してアーム押しのパイロットライン11bに接続された電磁比例制御弁36に制御信号を出力し、アーム105の押し動作を行う(ステップS250)。
アーム105の押し動作を行う理由として、キャブ50とフロント作業機103との位置関係によらず、アーム105の押し動作の場合は、フロントアタッチメント106がキャブ50から遠ざかる動きとなるためである。
次いで、コントローラ45は、アーム105の角度センサ31bの検出値が予め設定した基準角度θoに等しいかどうかを判定し(ステップS255)、アーム105の角度センサ31bの検出値が基準角度θoに等しくなるまでアーム105の押し動作を継続して行う。基準角度θoは、キャブ50の昇降時に、アーム105の押し動作によりフロントアタッチメント106がキャブ50に干渉しない位置までフロントアタッチメント106がキャブ50から離れる角度とする。この基準角度θoも変更できるようにすることが好ましい。
また、ステップS255において、アーム105の角度センサ31bの検出値が基準角度θoに等しくなるまでの間、昇降スイッチ44がONであるかどうかを判定し(ステップS260)、昇降スイッチ44がOFFになるとスタートに戻り、上記のステップを繰り返す。
ステップS255において、アーム105の角度センサ31bの検出値が基準角度θoに等しくなると、ステップS230に進み、コントローラ45は、キャブ昇降の制御信号(電気信号)を電磁比例制御弁67a又は67bに送り、キャブ50の昇降動作を行う。
〜効果〜
このように構成した本実施の形態によれば、以下の効果が得られる。
1.キャブ昇降制御装置(コントローラ45、電磁比例制御弁36及びシャトル弁37)を設け、昇降スイッチ44が操作されたとき、フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離が所定距離Xo以下であるときは、昇降装置60を駆動する前に、フロントアタッチメント106がキャブ50から離れるようフロント作業機103を動作させて、フロント作業機103とキャブ50との接触を回避する第2干渉防止制御を行うようにしたため、キャブ昇降時に、一連の動作でフロント作業機103の干渉防止領域への侵入回避とキャブ50の昇降を行うことができ、これにより干渉防止領域70内でフロント作業機103とキャブ50が停止することなくキャブ50の昇降動作を行うことができ、作業効率を向上することができる。
2.第2干渉防止制御において、コントローラ45は、アーム105の押し動作でアーム105が垂直姿勢になるとき、フロントアタッチメント106が地面に接触する可能性があるかどうかを判定し、フロントアタッチメント106が地面に接触する可能性があるとき、警告を発生する構成としたため、第2干渉防止制御によるアーム押し動作に際して、フロントアタッチメント106が地面に接触するリスクを回避することができる。
3.干渉防止装置(コントローラ45及び電磁比例減圧弁33a,33b,33c)は、距離Dとして、フロントアタッチメント106の仮想円SC(の最近接点R)とキャブ50の基準輪郭線CR間の最近設距離を計算して第1干渉防止制御を行う。これによりキャブ50がいかなる高さ位置にあるときでも(キャブ50が最上げ位置及び最下げ位置あるときでも、キャブ50が最上げ位置及び最下げ位置よりも前方に出る中間位置にあるときでも)、フロントアタッチメント106が干渉防止領域70(図1参照)に侵入したとき、その最近接距離Dに基づいてフロントアタッチメント106とキャブ50との接触を回避する干渉防止制御を行うことが可能となる。また、フロントアタッチメント106がキャブ50の基準輪郭線CRに対していかなる位置関係にあるときでも(フロントアタッチメント106が基準輪郭線CRの前側にあるときだけでなく、基準輪郭線CRの上側或いは下側にあるときでも)、フロントアタッチメント106が干渉防止領域70(図1参照)に侵入したとき、その最近接距離Dに基づいてフロントアタッチメント106とキャブ50との接触を回避する干渉防止制御を行うことが可能となる。
4.キャブ昇降制御装置(コントローラ45、電磁比例制御弁36及びシャトル弁37)においても、距離Dとして、フロントアタッチメント106の仮想円SC(の最近接点R)とキャブ50の基準輪郭線CR間の最近設距離を計算して第2干渉防止制御を行うため、フロントアタッチメント106がキャブ50の基準輪郭線CRに対していかなる位置関係にあるときでも(フロントアタッチメント106が基準輪郭線CRの前側にあるときだけでなく、基準輪郭線CRの上側或いは下側にあるときでも)、キャブ昇降時に、一連の動作でフロント作業機103の干渉防止領域への侵入回避とキャブ50の昇降を行うことができる。