以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
<第1の実施の形態>
〜構成〜
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるキャブ可動式作業機械を示す図である。本実施の形態において、作業機械は建設機械の代表例である油圧ショベルである。
図1において、キャブ可動式油圧ショベルは、昇降可能な可動キャブ(以下単にキャブという)50を備えた車体100と、車体100に上下方向に回動可能に連結され、フロントアタッチメント106を装着したフロント作業機103とを備えている。車体100は、下部走行体110と、この下部走行体110上に旋回可能に搭載される上部旋回体111とを有している。
フロント作業機103は、上部旋回体111に上下方向に回動可能に取り付けられるブーム104と、このブーム104の先端に上下/前後方向に回動可能に取り付けられるアーム105とを有し、フロントアタッチメント106は、アーム105の先端に上下/前後方向に回動可能に取り付けられている。ブーム104はブームシリンダ3aによって駆動され、アーム105はアームシリンダ3bによって駆動され、フロントアタッチメント106はアタッチメントシリンダ3cによって駆動される。
上部旋回体111は旋回モータ3e(図3参照)によって駆動され、下部走行体110上を旋回する。下部走行体110は左右一対のクローラ110a,110b(図1では片側のみを示す)を有し、クローラ110a,110bはそれぞれ走行モータ3f,3g(片側のみを示す)によって駆動され、走行を行う。
キャブ50は、上部旋回体111の基礎フレーム(旋回フレーム)111a上の前側位置に、昇降装置60により上部旋回体111に対して昇降可能に取り付けられている。昇降装置60は、上部旋回体111とキャブ50との間に配置されている。
昇降装置60は、上部旋回体111(車体)の基礎フレーム111a上に立設されたタワー状の支持フレーム61と、キャブ50の下部に一体に取り付けられたL字型の架台62と、タワー状の支持フレーム61の上端部分61aと架台62の後部ステー62aとにピンによって回動可能に連結され、キャブ50を水平に保つ2つのリンクから構成される平行リンク機構63と、平行リンク機構63の下側で支持フレーム61の上端部分と架台62の後部ステー62aとにピンによって回動可能に連結され、キャブ50を上下方向に移動させる昇降シリンダ64とを有している。
タワー状の支持フレーム61と昇降シリンダ64はそれぞれ左右一対で構成され、平行リンク機構63はタワー状の支持フレーム61の左右一対の間で、支持フレーム61の上端部分と架台62の後部ステー62aとに連結されている。
フロントアタッチメント106は、本実施の形態では、電磁石の磁力によって鉄のスクラップを吸着し、トラックの荷台などに搬送して積み込むリフティングマグネットである。フロントアタッチメント106は、開閉式の作業具であるフォークグラップルや解体用フォーク等であってもよい。
図2は、キャブ50を上昇させた状態(上側)と下降させた状態(下側)を対比して示す図である。キャブ50を備えた油圧ショベルは、図2の下側に示すようにキャブ50を下降させた状態では、一般的な油圧ショベルと同様、掘削作業のような地表面での作業をを行うことができる。一方、図2の上側に示すように、昇降シリンダ64によりキャブ50を上昇させた状態では、オペレータの目線を高くすることができ、例えばトランクやコンテナ等の容器が大型の場合でも、広い視界により内部を見ながら作業を行うことができる。
図3は、本発明の第1の実施の形態における油圧ショベルに搭載される油圧システムとその制御システムを示す図である。
まず、油圧システムについて説明する。
図3において、本実施の形態における油圧ショベルの油圧システムは、メインポンプとしての油圧ポンプ2と、この油圧ポンプ2からの圧油により駆動される上述したブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、アタッチメントシリンダ3c、旋回モータ3e及び左右の走行モータ3f,3gを含む複数のアクチュエータと、これら油圧アクチュエータ3a〜3gのそれぞれに対応して設けられた操作レバー装置4a〜4gと、油圧ポンプ2と複数の油圧アクチュエータ3a〜3g間に接続され、操作レバー装置4a〜4gの指令パイロット圧によって中立位置から切り換えられ、圧油の流れ方向と流量(油圧アクチュエータ3a〜3gの駆動方向と駆動速度)を制御する複数の流量制御弁5a〜5gと、安全弁としてのメインリリーフ弁6とを有している。
操作レバー装置4a〜4gはリモコン弁(減圧弁)を内蔵した油圧パイロット式であり、パイロットポンプ7の吐出油路7aにパイロット圧供給油路7bを介して接続され、パイロットポンプ7で生成される油圧(一次圧)に基づいて、それぞれオペレータにより操作される操作レバーの操作量と操作方向に応じた指令パイロット圧(二次圧)を生成する。これらの指令パイロット圧はパイロットライン10a〜16bを介して対応する流量制御弁5a〜5gの受圧部20a〜26bに導かれる。パイロットポンプ7の吐出油路7aはパイロットポンプ7の吐出圧を一定に保持するパイロットリリーフ弁8を備えている。
また、本実施形態において、油圧システムは、上述した昇降装置60の昇降シリンダ64と、油圧ポンプ2と複数の昇降シリンダ64間に接続され、昇降スイッチ44(後述)の操作に応じてパイロットライン66a,66bに生成される制御パイロット圧によって中立位置から切り換えられ、圧油の流れ方向と流量(昇降シリンダ64の駆動方向と駆動速度)を制御する昇降制御弁65とを更に備えている。
次に、制御システムについて説明する。
制御システムは、ブーム104、アーム105、フロントアタッチメント106のそれぞれの回動支点に設けられ、フロント作業機103の位置と姿勢に関する状態量として、それぞれの回動角を検出する角度センサ31a,31b,31c(姿勢センサ)と、タワー状の支持フレーム61に平行リンク機構63の回動支点と同軸的に取り付けられ、キャブ50の高さに関する状態量として、平行リンク機構63の回動角を検出するリンク角度センサ41(高さセンサ)と、干渉防止制御解除スイッチ42と、干渉防止領域変更スイッチ43と、昇降スイッチ44と、角度センサ31a,31b,31c及びリンク角度センサ41のセンサ信号と、干渉防止制御解除スイッチ42、干渉防止領域変更スイッチ43及び昇降スイッチ44のそれぞれのスイッチ信号とを入力し、干渉防止制御の演算処理を行うコントローラ45と、パイロットポンプ7の吐出油路7aとパイロット圧供給油路7bとの間に配置された電磁切換式の油圧ロック弁34と、パイロットライン10a,11a,12aに設けられ、コントローラ45から出力される電気信号により駆動される電磁比例減圧弁33a,33b,33cと、パイロット圧供給油路7bから分岐したパイロットライン66a,66bに設けられ、コントローラ45から出力される電気信号により駆動される電磁比例制御弁67a,67bと、モニタ46と、警告ブザー47とを備えている。
干渉防止制御解除スイッチ42、干渉防止領域変更スイッチ43、昇降スイッチ44、モニタ46及び警告ブザー47は、キャブ50の運転室内に設置されている。
干渉防止制御解除スイッチ42は、オペレータに押されることで干渉防止制御を解除するスイッチであり、例えば、押されている間ONとなるモーメンタリ式・自動復帰のスイッチである。干渉防止制御解除スイッチ42は、油圧ショベルを輸送姿勢とするときや、ハードが故障或いは破損した場合など、頻度の低い特殊な作業を行う際に使用される。
干渉防止領域変更スイッチ43は、本発明の特徴に係わるスイッチであり、オペレータに押されることで干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側の領域部分における干渉防止制御機能を無効とする干渉防止領域変更処理を行い、この干渉防止領域変更処理を行った、キャブ50の近傍での作業を可能とする干渉防止領域70Aを設定するスイッチである。干渉防止領域変更スイッチ43も、押されている間ONとなるモーメンタリ式・自動復帰のスイッチである。ここで、キャブ50の下面とは、前述したキャブ50の下部に一体に取り付けられたL字型の架台62の下面である。
昇降スイッチ44は、キャブ50の昇降動作を指示するスイッチであり、上げ方向の指示スイッチ44aと下げ方向の指示スイッチ44bを備えている。これらの指示スイッチ44a,44bも、押されている間のみONとなるモーメンタリ式・自動復帰のスイッチである。
図4は、運転室内における干渉防止制御解除スイッチ42、干渉防止領域変更スイッチ43、昇降スイッチ44の配置箇所の一例を示す図である。
運転室内の運転席の左側前部に、例えば前述したアーム用及び旋回用の操作レバー装置4b,4eの操作レバーとして使用される左コントロールレバー(操作レバー)LCを備えた左コントロールボックス71が配置され、その後側と右側部にコンソールボックス72が配置されている。コンソールボックス72の上面パネル73には各種スイッチ設けられており、上面パネル73の後部オペレータ寄りの位置に干渉防止制御解除スイッチ42と昇降スイッチ44(上げ方向の指示スイッチ44aと下げ方向の指示スイッチ44b)が配置されている。また、左コントロールレバーLCのグリップ頂部に3つのスイッチが設けられており、そのうちの1つに干渉防止領域変更スイッチ43が割り当てられている。
電磁比例減圧弁33a,33b,33cは、コントローラ45からの電気信号に応じて、操作レバー装置4a,4b,4dにより生成された指令パイロット圧を減圧し、その減圧した指令パイロット圧がパイロットライン10a,11a,13bを介して流量制御弁5a,5b,5cの受圧部20a,21a,22aに導かれる。
電磁比例制御弁67a,67bは、パイロットポンプ7で生成される油圧(一次圧)に基づいて、コントローラ45からの電気信号に応じた制御パイロット圧(二次圧)を生成し、その制御パイロット圧がパイロットライン66a,66bを介して昇降制御弁65の受圧部65a,65bに導かれる。
する。
以上の制御システムは、フロントアタッチメント106がキャブ50に近づき、キャブ50の周囲に設定される干渉防止領域70に侵入したときに、フロント作業機103の動作を停止させてフロント作業機103とキャブ50との接触を回避する干渉防止制御を行う干渉防止装置を構成する。
また、コントローラ45は以下の機能を有している。
まず、第一に、コントローラ45は、角度センサ31a,31b,31c(姿勢センサ)とリンク角度センサ41(高さセンサ)の検出値に基づいて、フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離(後述する距離D)を計算し、この距離に基づいて干渉防止制御を行う。
第二に、コントローラ45は、干渉防止領域変更スイッチ43が操作されたとき(押されたとき)、干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側の領域部分における干渉防止制御機能を無効とする干渉防止領域変更処理を行い、この干渉防止領域70変更処理を行った干渉防止領域70Aに基づいて干渉防止制御を行う。
干渉防止領域変更スイッチ43が押されていない通常作業時の干渉防止領域70は、図1に示すようにキャブ50の前側と上側及び下側に設定される。また、干渉防止領域70は減速領域Aと停止領域Bを有し、キャブ50に対して外側から内側に向かって減速領域A及び停止領域Bの順序で位置している。フロントアタッチメント106が減速領域Aに侵入すると、コントローラ45は電磁比例減圧弁33a,33b,33cを駆動して指令パイロット圧を減圧し、フロント作業機103(ブーム104、アーム105及びフロントアタッチメント106)の動作を減速させる。フロントアタッチメント106が停止領域Bに侵入すると、コントローラ45は電磁比例減圧弁33a,33b,33cを全閉し、フロント作業機103(ブーム104、アーム105及びフロントアタッチメント106)の動作を停止させる。
なお、図示はしないが、停止領域Bの更に内側に禁止領域が設定されており、万一、フロント作業機102が禁止領域に侵入したとき、コントローラ45は油圧ロック弁34を切換え、パイロットポンプ7の吐出油路7aとパイロット圧供給油路7bとの連通を遮断して油圧システムを動作不能とし、油圧ショベルの全動作を停止させる。
図5は、コントローラ45の第二の機能により干渉防止領域変更処理を行い、干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側の領域部分における干渉防止制御機能を無効とした干渉防止領域70Aを示す図であり、図2と同様、キャブ50を上昇させた状態(上側)と下降させた状態(下側)を対比して示している。
図1に示した干渉防止領域70は、上記のように、キャブ50の前側と上側及び下側に設定されるが、干渉防止領域変更スイッチ43が押されると、その間、干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側の領域部分における干渉防止制御機能は無効となり、図1に示す通常作業時の干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側領域部分が切除された干渉防止領域70Aに変更される。これによりオペレータはキャブ50の近傍での作業(以下適宜、キャブ近傍での作業という)を容易に行うことができる。
なお、干渉防止領域変更スイッチ43が押されたとき、干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側の領域部分全ての干渉防止制御機能を無効にするのではなく、キャブ50の下面から、フロントアタッチメント106が慣性で下面に当たらない程度の所定距離だけ干渉防止制御を行う領域(例えば停止領域B)を残してもよい。これによりキャブ近傍での作業を行うとき、フロントアタッチメント106がキャブ50の下面に当たることを確実に防止し、安全に作業を行うことができる。
〜制御〜
図6は、コントローラ45の処理機能を示すフローチャートである。
コントローラ45は、まず、干渉防止制御解除スイッチ42が押されているかどうかを判定し(ステップS100)、干渉防止制御解除スイッチ42が押されたときは、モニタ46に干渉防止制御解除スイッチ42が押されている(干渉防止制御が解除されている)ことを知らせる表示(例えばメッセージ表示)をし、オペレータが、干渉防止制御解除スイッチ42が押されていることを視覚で確認できるようにし、かつ警告ブザー47を作動させて警告音を発生させ、オペレータが聴覚でも確認できるようにする。
干渉防止制御解除スイッチ42が押されていないとき、コントローラ45は、角度センサ31a,31b,31c及びリンク角度センサ41からのセンサ信号を入力する(ステップS105)。次いで、コントローラ45は、リンク角度センサ41により検出した平行リンク機構63の回動角と予めメモリ(例えばROM)に記憶してある平行リンク機構63及びキャブ50の寸法等からキャブ50の高さを計算する(ステップS110)。キャブ50の高さとしては、例えば、キャブ50の下面の高さを計算するのが好ましい。
また、コントローラ45は、角度センサ31a,31b,31cにより検出したブーム104、アーム105b、フロントアタッチメント106の回動角と、予めメモリ(例えばROM)に記憶してある各フロント部材の寸法等からフロントアタッチメント106の位置、より詳しくはフロントアタッチメント106の代表点の位置を計算する(ステップS115)。
図7は、フロント作業機103のフロントアタッチメント106の部分をキャブ50とともに拡大し、代表点の一例を示す図である。
図7において、フロントアタッチメント106であるリフティングマグネットはブラケット106aを備え、ブラケット106aはアーム105の先端にピン106bにて回動可能にピン結合されている。ピン106bはリフティングマグネットの回動支点となる。また、ブラケット106aにアタッチメントリンク106cの一端がピン106dにて回動可能にピン結合され、アーム105にアームリンク105aの一端が回動可能にピン結合され、アームシリンダ3cのピストンロッドがアタッチメントリンク106cの他端とアームリンク105aの他端に回動可能にピン結合されている。アーム105に対するフロントアタッチメント106の回動角は角度センサ31cによって検出される。
フロントアタッチメント106の代表点は、例えば、アーム105の先端部におけるフロントアタッチメント106の回動支点(ピン106b)を円弧の一部として含み、フロントアタッチメント106の全体を包含する包絡円SCのキャブ50に最も近い点(最近接点)Rに設定することが好ましい。この最近接点Rの位置は、フロントアタッチメント106がキャブ50に向かうよう操作されたとき、角度センサの31cの検出値と、上記のように計算されたキャブ50の高さと、予めメモリ(例えばROM)に記憶してあるキャブ50及びブラケット106aを含むフロントアタッチメント106の寸法等から、上記フロントアタッチメント106の包絡円SC上のキャブ50に最も近い位置、すなわち、フロントアタッチメント106の包絡円SCとキャブ50間の距離Dが最も小さくなる包絡円SC上の位置として計算することができる。
なお、代表点は包絡円SCではなく、他の仮想円上に設定してもよい。他の仮想円としては、例えば、ブラケット106aの回動支点であるピン106bともう1つのピン106dを通る仮想円が挙げられる。
また、フロントアタッチメント106の最近接点Rの位置は、上部旋回体111の適所、例えばブーム104の基端部の回動支点を原点とするX−Y座標系の座標値として計算することができ。X−Y座標系のX軸は水平方向(上部旋回体111の基礎フレームの主面に平行な方向)の座標軸であり、Y軸は垂直方向(上部旋回体111の基礎フレームの主面に垂直な方向)の座標軸である。なお、この場合は、上記ステップS110において、キャブ50の下面の高さは、X−Y座標系のY軸の座標値として計算される。
次いで、コントローラ45は、干渉防止領域変更スイッチ43が押されているかどうかを判定し(ステップS120)、干渉防止領域変更スイッチ43が押されていないときは通常作業での干渉防止領域70を設定する(ステップS125)。
一方、コントローラ45は、干渉防止領域変更スイッチ43が押されたとき、モニタ46に干渉防止領域変更スイッチ43が押されている(干渉防止領域70が干渉防止領域70Aに変更されている)ことを知らせる表示(例えばメッセージ表示)をし、オペレータが、干渉防止領域変更スイッチ43が押されていることを視覚で確認できるようにし、かつ警告ブザー47を作動させて干渉防止領域変更スイッチ43が押されている(干渉防止領域70が干渉防止領域70Aに変更されている)ことを知らせる警告音を発生させ、オペレータが聴覚でも確認できるようにする(ステップS130)。また、コントローラ45は、干渉防止領域変更スイッチ43が押されたとき、干渉防止制御解除スイッチ42が押されたときのモニタ46の表示と警告ブザー47の警告音から区別できるように、そのときとは異なる態様で表示をし、警告音を発生させる。
更に、コントローラ45は、干渉防止領域変更スイッチ43が押されたとき、その操作の履歴をメモリに保存し、干渉防止領域変更スイッチ43が押されたことを後で確認できるようにする(ステップS135)。
次いで、コントローラ45は、キャブ近傍作業での干渉防止領域70Aを設定する(ステップS140)。
ステップS125の通常作業での干渉防止領域70の設定及びステップS140のキャブ近傍作業での干渉防止領域70Aの設定は例えば以下のように行う。
図8は、コントローラ45のメモリ(例えばROM)に予め記憶されている干渉防止制御の演算テーブルを示す図である。
図8において、横軸はフロントアタッチメント106とキャブ50間の前述した距離Dであり、縦軸は電磁比例減圧弁33a,33b,33cの前後圧力比Rpである。フロントアタッチメント106とキャブ50間の距離Dは、上述したように、フロントアタッチメント106の包絡円SCの最近接点Rとキャブ50間の距離(最近設距離)である。
図8の演算テーブルにおいて、距離Dと前後圧力比Rpの関係は、距離Dが第1閾値D1以上であるとき前後圧力比Rpは100%であり、距離Dが第1閾値D1より小さくなると圧力比Rpは100%から次第に小さくなり、距離Dが第2閾値D2に達すると0%となるように設定されている。第1閾値D1は非干渉防止領域と干渉防止領域70又は70Aの減速領域Aとの境界位置に対応し、第2閾値D2は減速領域Aと停止領域Bとの境界位置に対応する。第2閾値D2より小さい側(原点に近い側)には第3閾値D3がある。この第3閾値D3は停止領域Bと図示しない禁止領域との境界位置に対応する。
コントローラ45は、ステップS125において、図8の演算テーブルをメモリから読み込んで演算に使用できるようにすることで、図1及び図2に示すような通常作業での干渉防止領域70を設定する。
また、コントローラ45は、ステップS140において、図9に示すフローチャートの処理を実行することでキャブ近傍作業での干渉防止領域70Aを設定する。
図9において、コントローラ45は、ステップS110で計算したキャブ50の下面の高さとステップS115で計算したフロントアタッチメント106の最近接点Rの位置とを比較し、フロントアタッチメント106の最近接点がキャブ50の下面よりも低いかどうかを判定する(ステップS140a)。この判定は、フロントアタッチメント106の最近接点RのY座標値Yaとキャブ50の下面の高さのY座標値Ybとを比較し、「Yaの絶対値」>「Ybの絶対値」かどうかを判定することで行う。
次いで、コントローラ45は、フロントアタッチメント106の最近接点Rがキャブ50の下面よりも低くないと判定した場合、すなわち、「Yaの絶対値」≦「Ybの絶対値」であると判定した場合は、図8の演算テーブルをメモリから読み込んで演算に使用できるようにする(ステップS140b)。一方、フロントアタッチメント106の最近接点Rがキャブ50の下面よりも低いと判定した場合、すなわち、「Yaの絶対値」>「Ybの絶対値」であると判定した場合は、何もせず次のステップ(ステップS145)に進む。
このようにフロントアタッチメント106の最近接点Rがキャブ50の下面以上の高さにある(「Yaの絶対値」≦「Ybの絶対値」)場合のみ、図8の演算テーブルをメモリから読み込んで演算に使用できるようにすることにより、干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側の領域部分における干渉防止制御機能を無効とする干渉防止領域変更処理を行い、この干渉防止領域70変更処理を行った干渉防止領域70Aに基づいて干渉防止制御を行うことができる。
次いで、コントローラ45は、ステップS125及びステップS140bで図8の演算テーブルを読み込んだ場合は、フロントアタッチメント106の最近接点Rが干渉防止領域70又は70A外か、減速領域内か、停止領域内かを判定する(ステップS145)。この判定は、フロントアタッチメント106の最近接点Rとキャブ50間の距離Dを計算し、距離Dが第1閾値D1よりも大きい(D>D1)かどうか、距離Dが第1閾値D1以下で第2閾値D2より大きい(D2<D≦D1)かどうか、距離Dが第2閾値D2以下である(D≦D2)かどうかを判定することで行うことができる。距離Dは、ステップS110で計算したキャブ50の高さと、ステップS115で計算したフロントアタッチメント106の最近接点Rの位置と、予めメモリ(例えばROM)に記憶してあるキャブ50の寸法等から計算することができる。
そして、コントローラ45は、フロントアタッチメント106の最近接点Rが干渉防止領域70又は70A外であると判定した場合は何もせず、スタートに戻って制御サイクルを繰り返す。
また、コントローラ45は、ステップS140aで、フロントアタッチメント106の最近接点Rがキャブ50の下面よりも低いと判定した場合も、同様に何もせず、スタートに戻って制御サイクルを繰り返す。
一方、コントローラ45は、フロントアタッチメント106の最近接点Rが減速領域A内にあると判定した場合は、上記のように演算した距離Dを図8の演算テーブルに参照させて前後圧力比Rpを計算し、この前後圧力比Rpに相当する制御電流を電気信号として電磁比例減圧弁33a,33b,33cに出力する(ステップS150)。これにより電磁比例減圧弁33a,33b,33cは指令パイロット圧を減圧し、フロント作業機103のフロント部材の動作速度を徐々に低下させることで、フロント作業機103の動作を徐々に減速する。
また、コントローラ45は、フロントアタッチメント106の最近接点Rが停止領域B内にあると判定した場合は、前後圧力比として0%を計算し、前後圧力比0%に相当する制御電流を電気信号として電磁比例減圧弁33a,33b,33cに出力する(ステップS155)。これにより電磁比例減圧弁33a,33b,33cは全閉して指令パイロット圧をタンク圧まで減圧し、フロント作業機103の動作を停止させる。
また、本実施の形態では、距離Dとして、フロントアタッチメント106の包絡円SCの最近接点Rとキャブ50間の距離(最近設距離)を計算することにより、キャブ50に対してフロントアタッチメント106がいかなる位置関係にあるときでも(フロントアタッチメント106がキャブ50の前側にあるときだけでなく、キャブ50の上側或にあるときでも、或いはキャブ50の上側或にあるときでも(干渉防止領域70の場合)、フロントアタッチメント106が干渉防止領域70(図1参照)に侵入したとき、フロントアタッチメント106とキャブ50との接触を回避する干渉防止制御が可能となる。
〜効果〜
以上のように構成した本実施の形態によれば、以下の効果が得られる。
1.キャブ下側のスクラップ等の作業対象物をトラックの荷台に積み込むときなど、キャブ近傍における作業を行うとき、オペレータは干渉防止領域変更スイッチ43を押して干渉防止領域70を干渉防止領域70Aに変更することにより、油圧ショベルを後退させることなく、フロントアタッチメント106をキャブ50の下方へと移動させて、キャブ下側の作業を行えるようになり、作業効率を向上させることができる。
2.キャブ近傍における作業を行うとき、オペレータによって、油圧ショベルを輸送姿勢とするときや、ハードが故障或いは破損した場合などに使用される干渉防止制御解除スイッチ42を片手の指で押して、意図的に干渉防止制御機能を解除し、他方の手で操作レバーを操作してフロント作業機103をキャブ下方に移動し、作業を行うことがある。しかし、この場合は、片手での操作になるだけでなく、干渉防止制御の機能も無くなってしまうので、作業効率が低下するばかりでなく、操作ミスを起こす可能性がある。これに対し、本実施の形態では、干渉防止領域変更スイッチ43を押して干渉防止領域70Aに変更しておくことにより、オペレータは両手で操作レバーを操作することができ、操作性が向上し作業効率を向上させることができる。
3.干渉防止領域変更スイッチ43が操作されたとき、モニタ46に干渉防止領域変更スイッチ43が操作されたことを知らせる表示(例えばメッセージ表示)をし、かつ警告ブザー47を作動させて干渉防止領域変更スイッチ43が操作されたことを知らせる警告音を発生させる。これによりオペレータは干渉防止領域70が干渉防止領域70Aに変更されていることを視覚と聴覚で確認することができる。
4.更に、干渉防止領域変更スイッチ43が操作されたとき、干渉防止制御解除スイッチ42が操作されたときのモニタ46の表示と警告ブザー47による警告音から区別して、そのときとは異なる態様で表示をし、警告音を発生させるので、干渉防止制御解除スイッチが42の操作による表示及び警告音と混同することなく、干渉防止領域変更スイッチ43を操作している状態にあることを正確に把握することができる。
5.干渉防止領域変更スイッチ43が操作されたとき、その操作の履歴をメモリに保存する。これにより、万一、干渉防止制御の誤動作でフロントアタッチメント106がキャブ50の下面に当たったとき、或いは干渉防止領域変更スイッチ43を操作して近傍作業での干渉防止領域70Aを設定した場合に、フロントアタッチメント106がキャブ50の下面に当たったとき、オペレータ或いは保守員は、操作履歴を見ることで、いずれが原因であるかを確認することができる。
<第2の実施の形態>
図10は本発明の第2の実施の形態におけるキャブ可動式油圧ショベルのコントローラ45の処理機能を示すフローチャートである。
第1の実施の形態においては、キャブ50の高さがどの位置にあっても、干渉防止領域70を干渉防止領域70Aに変更できるようにしている。この場合、キャブ50の下面が地面に近い位置にあり、地面とキャブ50の下面との間が狭い場合は、フロントアタッチメント106でをキャブ近傍に操作したときにフロントアタッチメント106がキャブ50の下面に接触する可能性がある。
本実施の形態では、そのような事態を回避するため、キャブ50の高さが予め定めた閾値以上である場合のみ、干渉防止領域70Aへの変更を可能としたものである。
すなわち、図10において、ステップS115でフロントアタッチメント106の位置を計算した後、ステップS110でリンク角度センサ41の検出値に基づいて計算したキャブ50の高さが予め定めた閾値以上であるかどうかを判定し(ステップS200)、キャブ50の高さが予め定めた閾値以上であるときは、干渉防止領域変更スイッチ43が押されているかどうかを判定するステップS120に進み、キャブ50の高さが予め定めた閾値よりも低いときは、ステップS120をスキップして、キャブ近傍作業での干渉防止領域70Aを設定するステップS125に進む。閾値は、予めキャブ50の下側の作業スペースが確保できる高さの値として予め設定しておく。
これによりコントローラ45は、キャブ50の高さが閾値以上である場合のみ、干渉防止領域変更スイッチ43が押されたときに、干渉防止領域70のキャブ50の下面よりも下側の領域部分における干渉防止制御機能を無効とする干渉防止領域変更処理を行うようになる。このためキャブ50の高さが閾値よりも低いときは通常の干渉防止領域70による干渉防止制御が行われ、フロントアタッチメント106でをキャブ近傍に操作したときにフロントアタッチメント106がキャブ50の下面に接触する可能性を低減し、安全に作業を行うことができる。