以下では、本明細書に開示する発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。以下の説明から、当業者にとって、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。従って、以下の説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更することができる。
(燃料電池セルユニット)
図1(A)及び(B)は、本発明の一実施態様における燃料電池セルユニットの全体像を示す部分断面図である。図1(A)において燃料電池セルユニット1100は、燃料電池セル1000と、燃料電池セル1000の上端及び下端にそれぞれ設けられたキャップ1104とを備えている。また、キャップ1104の内部には、キャップ1104と燃料電池セル1000とを気密封止する封止材1105が設けられている。
本発明において、図中、燃料電池セル1000とキャップ1104との間にのみ封止材1105が設けられた態様のみ記載されているが、封止材は、燃料電池セルの端部側面とキャップの内壁面との隙間を全周にわたって接合するように環状に設けられていれば、封止材はキャップをはみ出して形成されていても良い。
燃料電池セル1000は上下方向(軸方向)に延び、構造体内部の燃料極層1101には軸方向に燃料ガスが流通するための内部流路1110が設けられ、水平断面における外郭が円形となる円筒形状の構造体である。なお、内部流路1110は単数に限らず、複数であってもよいが、燃料電池セル1000の膨張収縮を均等に封止材1105が受ける趣旨から、内部流路1110は円筒構造体の中心軸に沿った単数であることが好ましい。
図1(B)は、図1(A)に示す燃料電池セルユニット1100のX−X’の部分で上面視した断面図である。図1(B)に示されるように、燃料電池セル1000は、少なくとも燃料極層1101と、燃料極層1101の外側に設けられた固体電解質層1102と、固体電解質層1102の外側に設けられた空気極層1111とを有する。また空気極層1111の外表面には導電性の高い集電層1103が設けられている。
燃料極層1101は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成することができる。例えば、燃料極層1101は、Ni/YSZとするとよい。
なお、本発明において燃料極層1101は、燃料極触媒層や支持体を含むものとする。例えば燃料極層1101は、導電性支持体とその外表面に形成された燃料極触媒層との積層体であってもよく、絶縁性支持体とその外表面に形成された燃料極触媒層との積層体であってもよい。さらに燃料極の機能の向上や耐久性の向上のために別途設けられた中間層や濃度傾斜層等を含む積層構造体であってもよい。
同様に、固体電解質層1102及び空気極層1111も、これらの機能の向上や耐久性向上のために別途設けられた中間層や濃度傾斜層等を含む積層構造体であってもよい。
固体電解質層1102は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成することができる。
空気極層1111は、固体電解質層1102の外周面に形成されている。空気極層1111は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成することができる。
燃料極層1101は、上述する内部流路1110に燃料ガス流通する(−)極として機能し、空気極は燃料電池セルユニット1100の外部から供給される空気(酸化剤ガス)と接触する(+)極として機能する(図1(A)における矢印を参照)。
集電層1103は、高温下において酸化耐性を有するとともに低抵抗である導電部材を用いた薄膜層である。集電層1103として、例えばピュアな銀からなる層を用いてもよく、Ag−Pd等の他の元素を含有する部材であってもよい。また、集電層1103は、固体電解質層1102と相互拡散する元素を含有していてもよく、燃料極層1101と相互拡散する元素(例えばNi)を含有していてもよい。このように他の膜と相互拡散する元素を含有することで、他の膜との接着強度を向上させることができる。
図1(A)及び図1(B)に示すように、燃料極層1101、固体電解質層1102、空気極層1111を積層して、燃料極層1101中に設けられた内部流路1110に燃料ガスを供給するとともに、空気極層1111に酸化剤ガスを供給することで、当該積層領域が発電素子として機能し、高温下で発電反応が進行する。
なお、燃料電池セル1000の構成として簡単のために、単純化した積層構造を示したが、上記機能層のほかに反応防止層や密着層(剥離防止層)、汚染物質の侵入防止層等の各種機能層を追加的に挿入してもよく、また上述した機能層にこれらの機能を追加してもよい。
図2は、本発明の燃料電池ユニット1100の端部の構造を示した部分断面斜視図である。図2は燃料電池セルユニット1100の下端を示しているが、上端についても同様である。
図2に示すように、キャップ1104は上方に燃料電池セル1000の端部を覆うための開放面を有し、下方に天面を有する有底の筒状形状で、さらに天面には燃料ガスを供給するための燃料ガス流通口1104dが設けられている。燃料ガス流通口1104dの外径は、キャップの外径よりも小さくすることで、供給される燃料ガスの混合性を高めるとともに供給流量の制御に寄与する。また、燃料ガス流通口1104dは、図2においてはキャップ1104の天面中央に配置されており、図示しない燃料ガスマニホールドの天面への設置の際に細径の突出部が挿入部として固定に寄与する。一方、キャップ1104が燃料電池セル1000の上端に設けられる場合には、燃料電池セルユニット1100から排出されるオフガス量を複数の燃料電池セルユニットで均一になるように流量調整することで、燃料ガス流通口1104dから排出されるオフガスをその上部で燃料させる場合には、燃焼の安定性に寄与する。さらに、燃料ガス流通口1104dを突出構造とすることで、オフガスの燃焼領域から燃料電池セル1000を離間させて、燃料電池セル1000への熱的損傷を緩和させる機能も有する。ただし、燃料ガス流通口1104dの位置や本数は図2の記載の方式に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、自由に設計することができる。
キャップ1104は、フェライト系ステンレス又はオーステナイト系ステンレスを用いることができる。この場合、キャップ本体の内周面及び外周面にクロム酸化物(Cr2O3)が形成されるため、クロムの蒸発による空気極層のCr被毒を防止するために、キャップの外層にMnCo2O4をコーティングすることが好ましい。
さらにキャップ1104には、アルミニウムを含有するステンレス(SUS)を用いることもできる。ステンレスは一般に鉄(Fe)及び(Cr)を主成分として含有するものであるから、上述のようにキャップ基材自体は空気極のCr被毒を引き起こす要因となるが、これにアルミニウムが含有されたものを用いる(例えば11.5〜14.5%のCrと0.1〜0.3%のAlを含有したフェライト系ステンレス(SUS405))ことで、Cr被毒の問題を回避することができる。
ここで本発明の燃料電池セルユニット1100においては、燃料電池セル1000はキャップ1104と、封止材1105によって接合固定されている。セル1000とキャップ1104との間には、封止材1105による封止性能を損なわない程度に銀などの接合材が存在していても良い。なお図2において、燃料電池セル1000の下端面とキャップ1104の天面との間には隙間が設けられているが、燃料電池セル1000の下端面がキャップ1104の天面に物理的に接触するように当接していてもよい。ただしこの場合であっても、燃料電池セル1000の下端面とキャップ1104の天面とが固定されているものではなく、セル1000とキャップ1104との間には、封止材1105による封止性能を損なわない程度に銀などの接合材が存在していても良い。
本発明において、燃料電池セル1000はキャップ1104の内部において、キャップ1104の天面と接合固定されていないことが好ましい。
これにより、燃料電池セルとキャップとの天面が接合固定されていないため、燃料電池セルとキャップとは封止材を介して、燃料電池セルの端部側面とキャップの内壁面のみが物理的に接合されている。このため、燃料電池セルとキャップとの間に挟持される封止材は、燃料電池セルやキャップの膨張によって燃料電池セルの動径方向に対する圧縮応力が略均一に分散して印加されるため、封止材が吸収できる応力変動の幅が拡大し、その結果耐久性が向上する。
なお、「キャップの天面が接合固定されていない」とは、封止材によってキャップの天面が接合固定されていないことを指し、キャップの天面が燃料電池セルと部分的に接触していることを排除するものではない。一方で、キャップの天面において燃料電池セルと(固定はせずに)接触するようにキャップを取り付けることによって、燃料電池セルユニットの長さを均一に製造することができるとともに、キャップの取り付け作業性を向上させることができる。
封止材1105は、キャップ1104の内部空間に設けられることにより燃料電池セル1000とキャップ1104とを接合固定できていれば良く、キャップ1104の開放面(図2においては上部端面)から外方に封止材1105が配置されていても良い。好ましくは、封止材1105は、キャップ1104の内部空間にのみ設けられるものである。この場合、また封止材1105は、円筒状の燃料電池セル1000の側面と、キャップ1104の内壁面との間にのみ、燃料電池セル1000の側面とキャップ1104の内壁面との隙間を全周にわたって接合するように環状に設けられていることが好ましい。
このような環状の封止材をキャップ内部に配置することで、燃料電池セル1000とキャップ1104との接合部における封止構造を形成し、キャップ1104の内部空間を流動する燃料ガスを接合部である封止材1105の外方に漏出することを防止している。
図3は、燃料電池装置の運転時における、燃料電池セルユニット1100の下端部での燃料ガスの流動について示したものである。水素を含有する燃料ガスは図3中に示す矢印のようにキャップ1104の天面に設けられた燃料ガス流通口1104dより供給され、キャップ1104の内部空間を通過して、燃料電池セル1000の内部流路へ流動する。このとき燃料ガスの一部は燃料電池セル1000の下端面とキャップ1104の天面との間を通って、燃料電池セル1000とキャップ1104との接合部に流動する。しかし、封止材1105によって燃料ガスが接合部から燃料電池セルユニット1100の外方へ漏出するのが防止される。これにより漏出した燃料ガスが燃料電池セルユニット1100の外表面に位置する空気極層と反応することで触媒機能を劣化させることを防止することができる。
ここで封止材1105は、ガラス組成物を硬化させて形成される。この封止材1105には、上述したように燃料ガスが外部に漏出することを防止するための封止機能のほか、燃料電池セル1000とキャップ1104とを接合固定するための固定機能、さらに後述する燃料電池セル1000とキャップ1104の膨張収縮に追従して延伸する応力緩和機能を合わせも持つことが要求される。このため封止材1105は、接合材でもあり、応力緩和材と表現することもできる。さらに封止材1105は、これらの機能を700℃程度の高温下で、あるいは室温と高温との温度変動の繰り返しにおいて維持できる部材であること、燃料電池セル1000の機能を損なう汚染物質の放出が低いこと等の諸条件が求められる。このような要求に対して、封止材1105としてガラス組成物を用いることが一般的である。
封止材1105に用いるガラス組成物としては、結晶化ガラスであることが好ましい。これにより、封止材が700℃程度の高温運転でも揮発することなく形状を維持し、燃料ガスの漏出に対する気密性を確保するとともに、燃料電池セル及びキャップとの接合強度を維持することができる。なお、結晶化ガラスとは、焼成によりガラスの一部あるいは全部が結晶として析出するガラスのことである。本発明において、結晶化ガラスの結晶化度は、50%以上100%以下であることが好ましい。
結晶化度とは、ガラス組成物中の全結晶相の質量の合計/ガラス組成物の質量により定義されるものであり、ガラス組成物中に含まれる結晶相の割合を質量比で表したものである。ガラス組成物中の結晶相の質量はX線回折法におけるリートベルト解析により算出することができる。
本発明において、還元条件において、キャップ1104の線膨張係数(F1)が、封止材1105の線膨張係数(F2)および燃料電池セル1000の線膨張係数(F3)よりも大きいものである。これにより、燃料電池装置の起動停止の工程中に前記キャップから前記封止材および前記燃料電池セルの動径方向に圧縮応力をかけることができ、前記封止材および前記燃料電池セルが破損することによる燃料ガスの漏出を抑制し、燃料電池セルユニットの耐久性を向上させることができる。
「還元条件」とは、ニッケルが酸化されない条件であり、700℃で酸素分圧が10−14以下の雰囲気であることを指す。
本発明において、各部材の線膨張係数は以下の方法にて求めることができる。
各線膨張係数は、熱機械分析装置により、JISR 1618(2002)に準拠した方法を用いて求めることができる。具体的には、上述の還元条件下において、20℃から700℃の間における平均線膨張率を算出することで求めることができる。燃料電池セルの線膨張係数は、燃料電池セルの固体電解質をむき出しし、このむき出した固体電解質の表面を測定面とし、評価する。キャップの線膨張係数は、切り出した試料の表面を測定面とし、評価する。封止材の線膨張係数は、燃料電池セルから封止材を切り出し、この切り出した試料を研磨することで得られた面を測定面とし、評価する。
本発明において、還元条件において、キャップ1104の線膨張係数(F1)と封止材の線膨張係数(F2)は下記の関係式を満たすことが好ましい。
(F2−3)×10-6/K≦F1×10-6/K≦(F2+3)×10-6/K
これにより、燃料電池装置の起動停止の繰り返しによって生じる熱応力がキャップと封止材の間にかかりにくく、燃料電池セルユニットの耐久性を向上させることができる。
本発明において、還元条件において、キャップ1104の線膨張係数(F1)と燃料電池セルの線膨張係数(F3)が下記の関係式を満たすことが好ましい。
(F3−3)×10-6/K≦F1×10-6/K≦(F3+3)×10-6/K
これにより、燃料電池装置の起動停止の繰り返しによって生じる熱応力がキャップと燃料電池セルの間にかかりにくく、燃料電池セルユニットの耐久性を向上させることができる。
本発明において、還元条件において、燃料電池セル1000の線膨張係数(F3)は、9×10-6/K≦F3≦13×10-6/Kであることが好ましく、さらに好ましくは9×10-6/K≦F3×10-6/K≦12×10-6/Kである。これにより、燃料電池セルに必要な発電機能を損なうことなく、燃料電池装置の起動停止に対する耐久性を向上させることが可能となる。
本発明において、還元条件において、封止材1105の線膨張係数(F2)は、9.5×10-6/K≦F2×10-6/K≦13×10-6/Kであることが好ましく、さらに好ましくは10×10-6/K≦F2×10-6/K≦12.5×10-6/Kである。これにより、燃料電池装置の起動停止の繰り返しによって生じる熱応力が燃料電池セルおよびキャップからかかりにくく、良好なガスシール性を維持することが可能となる。
本発明において、還元条件において、キャップ1104の線膨張係数(F1)は、10.5×10-6/K≦F1×10-6/K≦13×10-6/Kであることが好ましく、さらに好ましくは11×10-6/K≦F1×10-6/K≦13×10-6/Kである。これにより、燃料電池装置の起動停止の繰り返しによって生じる熱応力により燃料電池セルおよび封止材を破損させることなく、キャップから封止材および前記燃料電池セルの動径方向に圧縮応力をかけることができ、起動停止に対する耐久性を向上させることが可能となる。
次に図4を用いて、本発明における燃料電池セルユニット1100の封止構造について説明する。図4(A)は燃料電池セルユニットの下端部を示す部分断面図であり、図4(B)は図4(A)のY−Y’を上面視した部分断面図(B)である。なお、図4においては、燃料電池セル1000が有する内部流路は省略している。図4(A)に示すように、封止材1105は、燃料電池セル1000の下端部側面とキャップ1104の内壁面との間に設けられ、燃料電池セル1000とキャップ1104とを接合固定している。
図4(B)に示すように、この接合部を上面視すると、燃料電池セル1100の外周面に環状に封止材1105が配置され、封止材1105の外周面にキャップ1104が配置されている。
本発明において、封止材1105の燃料電池セル1000の動径方向における厚みは、10μm以上1mm以下であることが好ましい。なお、「燃料電池セルの動径方向における厚み」とは、燃料電池セル1000とキャップ1104との間に形成される封止材1105の最短距離を指す。(図4(A)のd1)
封止材は、薄すぎると燃料電池セルとキャップとの膨張収縮に対する追従性を発揮することが困難となる一方で、厚すぎると封止材の接合焼成時の収縮が大きくなるため、部分的な封止材の偏り(焼成ヒケ)が生じてしまうため、円環状に均等な封止構造を形成することが難しくなる。本態様によれば、封止材の追従性を確保しつつ、円環状に均質となる最適な封止構造を形成することができる。
本発明において、燃料電池セル1000の軸方向における、封止材1105の燃料電池セル1000の側面に接合固定される長さ及びキャップ1104の内壁面に接合固定される長さは、それぞれ100μm以上であることが好ましい。なお、「燃料電池セルの軸方向における、封止材の燃料電池セルの側面に接合固定される長さ」は、燃料電池セル1000の側面に接合固定される封止材1105の長さを指し、図4(A)において「d2」を指す。また、「燃料電池セルの軸方向における、封止材のキャップの内壁面に接合固定される長さ」は、キャップ1104のない壁面に接合固定される封止材1105の長さを指し、図4(A)において「d3」を指す。
これにより、燃料電池装置の起動停止工程における燃料電池セルの膨張収縮に対して封止材にクラックを発生させない、良好な耐久性をもつ燃料電池セルスタックを提供することができる。
本発明において、燃料電池セル1000の軸方向における、封止材1105の燃料電池セル1000の側面に接合固定される長さ(d2)と燃料電池セルの軸方向における、封止材1105のキャップ1104の内壁面に接合固定される長さ(d3)は、d2>d3であることが好ましい。これにより、燃料ガス流通口1104dに近い燃料電池セル1000と封止材1105界面の気密性をより高めることが可能となる。
燃料電池セル1000は、室温から燃料電池装置の運転可能な高温(例えば700℃)まで起動工程において昇温し、また停止工程において運転温度から室温まで降温する。また、運転温度は必ずしも一定に保持されるものではなく、例えば燃料電池装置の外部の負荷抵抗(需要電力)によって発電出力を追従させる負荷追従運転を行う場合等において、燃料電池装置においける発電室内の温度は変動する。このような燃料電池セル1000の周辺や燃料電池セル1000が生じるジュール熱による温度変動によって、燃料電池セル1000は膨張収縮する。とくに、燃料電池セル1000の燃料極層(支持体)にNi(ニッケル)含有の酸化物を用いた場合、燃料電池装置の停止降温時に外部から流入した空気によってNiが酸化膨張することが知られている。この場合10μm程度の酸化膨張が確認されている。
このような燃料電池セル1000の酸化膨張は、封止材1105に引張り応力を与え、封止材の破損を招いてしまう。
図5は従来のオーバーラップシール構造によって、燃料電池セル5000とキャップ5104とを接合固定した燃料電池セルユニットの下端部を示す図である。図5に示すように、封止材5105は、燃料電池セル5000の側面と接触するように、キャップ5104の内壁面との間に空間を形成するように設けられる。さらに、キャップ5104の上端部を超えて延在し、さらにキャップ5104の外表面を部分的に被覆して設けられている。このオーバーラップシール構造は、キャップ5104の開放端を完全に被覆する構造であるため密着強度が高いと考えられた。しかし、キャップ5104の端部において封止材5105にかかる応力が最大となる。このため、当該箇所が封止材5105のクラック(亀裂)の起点となり、燃料電池装置の昇降温の繰り返しによりクラックを進行させてしまうことが判明した。
図6は、従来のオーバーラップシール構造を採用した燃料電池セルユニットにおける、昇降温を繰り返す耐久性試験後の写真である。ガラス組成物を硬化させてなる封止材をキャップにオーバーラップさせた領域(図6中に示す矢印の範囲)に縦方向にクラックが発生していることが分かる。
このような従来構造に対して、本発明にかかる実施形態においては、図4に示すように封止材1105が燃料電池セル1000の側面とキャップ1104の内壁面との間に環状に設けられ、封止材1105によってこれらを接合固定している。本発明にかかる燃料電池セルユニット1100には、円筒形状の燃料電池セル1000を用いている。燃料電池セル1000の水平断面形状は円形であるから、燃料電池セル1000が酸化膨張する際にはほぼ均等に、燃料電池セル1000の中心軸から動径方向(図4(B)におけるrの方向)に膨張する。同様にキャップ1104も円環形状であるから、熱膨張及び熱収縮は動径方向に均等に生じる。このため、封止材1105が円環状に配置された全周において均等分散して圧縮応力を受けことができる。一方、燃料電池セル1000の収縮時においては、封止材1105が燃料電池セル1000とキャップ1104との間に挟まれ圧縮応力が常時印加された構造であるため、封止材1105がこの圧縮応力を開放するように動径方向に移動することで燃料電池セル1000の収縮に追従することができる。
このように、燃料電池セル1000とキャップ1104との接合固定を燃料電池セル1000の側面とキャップ1104の内壁面との間で独立して形成することによって、部材の膨張収縮に動径方向にのみ追従可能な構造とし、耐久性の高い封止構造を実現することができる。
(クラック確認試験)
ここで、本実施形態にかかる封止構造を用いた燃料電池セルユニットのクラック耐性を、従来のオーバーラップシール構造と比較した試験結果を示す。
まず、図7を用いてクラック確認試験の実施方法を説明する。クラック確認試験は、本実施形態にかかる封止構造を用いた円筒型の燃料電池セルユニット(試料A及び試料B)と、従来のオーバーラップシール構造を用いた円筒型の燃料電池セルユニット(比較試料A、比較試料B)とをそれぞれ燃料電池装置の運転条件を模して酸化膨張させ、封止材にクラックが発生するまでのセル膨張量を確認したものである。ここで試料A及び試料Bはガラス組成物中の気泡の含有量のみが相違するものであり、試料Bはその作製過程において気泡の含有量を低減した試料である。また比較試料A及び比較試料Bは、封止材であるガラス組成物中の気泡の含有量のみが相違するもので、比較試料Bはその作製過程において気泡の含有量を低減した試料である。
酸化膨張は具体的に、作製したそれぞれの燃料電池セルユニットの燃料極側に水素30cc/minを、空気極側に空気を300cc/minを流しながら電気炉内で500℃まで昇温した後、500℃を保持しながら燃料極側に空気400cc/minを流通させて、意図的に燃料極層を酸化膨張させた。
燃料電池セルの酸化膨張量は、図7(A)に示すようにガラス組成物を硬化させてなる封止材の上部に固体電解質層を円周状に露出させ、当該部分の外径を、赤外線センサ1200を用いた外径寸法測定器(キーエンス社製「LS−9030」により測定した。
また、封止材のクラックの発生の確認は、アコースティックエミッション法(AE法)を用いて行った。アコースティックエミッション法は、材料の変形または破壊の際に放出する音波(弾性波、AE波)を検出するもので、AEセンサ(圧電素子センサ)により電気信号として検出するものである。本試験では、燃料電池セルユニットの下端側に設けられるステンレス(SUS)製のキャップにAEセンサ1201(エヌエフ回路設計ブロック社製「AE900S−WB」)を取り付け、キャップを導波管として、アンプ(エヌエフ回路設計ブロック社製「AE−912」及びディスクリミテータ(エヌエフ回路設計ブロック社製「AE−9922」)を介してガラス組成物のクラックに起因する信号(周波数100kHz〜200kHz)を検出することで判定した。
以上のようにして実施した封止材のクラック確認試験の結果について、図8を用いて説明する。図8は、上述の方法により燃料電池セルユニットを酸化膨張させた際の、クラック発生確認時の燃料電池セルの膨張量を縦軸に示したものである。図8に示すように、従来のオーバーラップシール構造を示す比較試料A及び比較試料Bは、いずれも膨張量が低い数値において封止材のクラックが発生していることが分かる。これに対し、本実施形態にかかる封止構造をとる試料A及び試料Bは、いずれもクラック発生までの膨張量が大きい。換言すると、燃料電池セル及びキャップの膨張に対して追従性が高く、封止材にクラックが生じるまでの許容幅が大きいといえる。
このため、例えばクラック発生の耐久基準として、封止材の許容膨張量を10μmと定めた場合、これに満たない従来構造に比べて本実施構造にかかる封止構造は十分な耐久性を確保することができる。
図11は、本発明の一実施形態における燃料電池セルユニットの全体像を示す部分断面図である。図11において燃料電池セルユニット1100は、燃料電池セルと、燃料電池セルの上端及び下端にそれぞれ設けられたキャップ1104とを備えている。
燃料電池セルは上下方向(軸方向)に延びる筒状構造体であり、本実施例においては水平断面における外郭が円形となる円筒形状である。この筒状構造体内部の燃料極層1101には軸方向に燃料ガスが流通するための内部流路1110が設けられている。
燃料電池セルは、少なくとも燃料極層1101と、燃料極層の外側に設けられた固体電解質層1102と、固体電解質層の外側に設けられた空気極層1111とを有する。また空気極層1111の外表面には導電性の高い集電層1112が設けられ、さらに燃料極層1101及び固体電解質層1102の外表面には導電性の高い集電層1103が形成されている。
ここで、本実施形態において空気極層1111及びその外表面の集電層1112は、燃料電池セルの軸方における中央部から端部方向にわたって延在する一方で、燃料電池セルの両端部においては燃料電池セルの端部から所定の距離を置いて終端している。この空気極層1111及びその上層の集電層1112が形成されていない燃料電池セルの両端部において、燃料極層1101及び固体電解質層1102の外表面に集電層1103が設けられている。
集電層1103は銀を主成分とする導電部材でなる薄膜層である。膜厚は導電経路の抵抗成分を考慮した燃料電池セルユニット1100の電流取出効率のもと適宜設計すればよいが、上述したように銀部材中で水蒸気が生じると多孔化して膨張し、燃料ガスの漏出経路を形成してしまうため、その影響を極力低減するためには薄い方が好ましい。集電層1103は少なくともキャップ1104と燃料電池セルを固定するガラス1105の厚みよりも薄い方が好ましく、具体的には1μm以上100μm以下であることが好ましい。さらに、導電性及びガス透過性の観点から、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
集電層1103は、前述したとおり、ピュアな銀からなる層でもよいが、他の元素を含有する部材であってもよく、例えばAg−Pd膜であってもよい。また、集電層1103は、固体電解質層1102と相互拡散する元素を含有していてもよく、燃料極層1101と相互拡散する元素(例えばNi)を含有していてもよい。このように他の膜と相互拡散する元素を含有することで、他の膜との接着強度を向上させることができる。
さらに集電層1103は単層からなる層でもよいが、それぞれが他の組成からなる積層構造でもよく、長軸方向において部分的に積層構造であってもよい。例えば、固体電解質層1102上に位置する集電層1103は銀を主成分とする単層であって、燃料極層1101との接続箇所(燃料極層接続領域1108)においては、燃料極層1101と相互拡散する元素を含有した銀を主成分とする他の層との積層構造であってもよく、当該箇所においては、燃料極層1101と相互拡散する元素を含有した銀を主成分とする他の層の単層構造であってもよい。
図11に示すように、集電層1112と集電層1103とは燃料電池セルの軸方向において所定距離L0だけ離隔されているため、電気的に絶縁分離されている。なお、図11においては燃料電池セルの上端部及び下端部ともに離隔される所定距離をL0としているが、集電部材の取り付け構造や導電経路の抵抗値調整等の設計上、上端部と下端部とのそれぞれで所定距離を異なるように設定してもよい。
本実施形態にかかる燃料電池セルユニット1100において、空気極層1111の外表面に接続する集電層1112、及び燃料極層1101の外表面に接続する集電層1103は、それぞれ隣り合う燃料電池セルユニット1100と電気的に接続する集電構造を形成するためにそれぞれの集電部材と電気的に接続される。具体的には、空気極層1111の外表面に接続する集電層1112は、隣り合う一の燃料電池セルユニットの燃料極層の外表面に接続する集電層と集電部材を介して電気的に接続され、燃料極層1101の外表面に接続する集電層1103は、隣り合う他の燃料電池セルユニットの空気極層の外表面に接続する集電層と電気的に接続される。このような接続により複数の燃料電池セルユニット1100の電気的な直列接続を実現することができる。
このように、本実施形態にかかる燃料電池セルユニット1100では、空気極層1111が設けられた領域が、発電反応が行われ電力を生成する発電素子部として機能し、その両端部は内部に位置する燃料極層1101の電気的接続端子を最表面に設置するための燃料極層側の電流取出し部として機能する。このような構造とすることで、燃料極層1101と空気極層1111との電気接続端子を燃料電池セルの側面最表面に配置することができ、キャップ1104を介すことない燃料電池セルユニット1100の側面における電流取出し構造を実現することができる。
燃料電池セルユニット1100において、水素を含有する燃料ガスは、燃料電池セルユニット1100の下端に設けられたキャップ1104の流通口を介して内部流路1110に供給される。水素を含有する燃料ガスは内部流路1110を介して燃料極層1101に供給され、燃料電池セルユニット1100の外部から空気極層1111に供給された酸化剤ガスとの発電反応に消費される一方で、発電反応に用いられずに残存した燃料ガス及び発電反応によって生成された水蒸気やCO(一酸化炭素)等のオフガスは、内部流路1110を上昇し、燃料電池セルユニット1100の上端に設けられたキャップ1104の流通口を介して燃料電池セルユニット1100の上端より外部に排出される。
特に図11に示すキャップ1104では、開放面と対向する端部側において外径が小さく、言い換えるとキャップ径が絞られるような絞り部(キャップ短径部)を有する形状に設計されている。このような形状とすることで、燃料電池セルユニット1100の下端部に設置するキャップ1104としては、燃料電池セルユニット1100を固定するための燃料ガスマニホールド(図示せず)との固定性、取り付け性を確保するとともに内部流路1110に供給される燃料ガスの供給流量の均等化を図ることができ、燃料電池セルユニット1100の上端部に設置するキャップ1104としては、オフガスの排出流量の均等化を図ることで複数の燃料電池セルユニット1100が配列されるその上部のオフガスを燃焼させる燃焼部における燃焼の安定化を図ることができる。
次に図12及び図13を用いて、本実施形態における燃料電池セルユニット1100の詳細な端部構造について説明する。
図12は、本実施形態における燃料電池セルユニット1100の端部の構造を示す部分断面図である。なお、図12は燃料電池セルユニット1100の下端部を示す図であるが、上端部の構造についても同様である。
燃料極層1101、固体電解質層1102、空気極層1111の積層体からなる燃料電池セルは、その下端部においてキャップ1104に被覆されている。燃料電池セルの下端部においては空気極層1111は設けられておらず、固体電解質層1102が露出している。また固体電解質層1102は燃料電池セルの端部から所定の距離の領域において設けられておらず、このため燃料極層1101が露出している。これら露出した燃料極層1101及び固体電解質層1102の外表面に集電層1103が被覆して設けられている。
ここで固体電解質層1102は電子をほとんど流さないセラミックの緻密体であるため、燃料極層1101は、固体電解質層1102が設けられずに露出した燃料電池セルの端部において直接集電層1103と接触する燃料極層接続領域1108において、集電層1103と電気的に接続する。集電層1103はこのように燃料極層接続領域1108において燃料極層1101と燃料電池セル近傍において電気的接続するとともに、燃料電池セルの軸方向中央側に向かって、キャップ1104の開放面1104eよりも外方に延在する。
また、燃料電池セルとキャップ1104とは、ガラス1105によって固定される。具体的には、ガラスはキャップ側壁1104cの内壁面と集電層1103の外表面とに接触するように配置されることで、両者を固定している。本明細書においては、当該固定領域を固定部1107とよぶ。なお、図12において固定部1107はキャップ側壁1104cの内壁面にのみ配置されているが、ガラス1105はキャップ1104の開放面1104eを超えて外部に延在してもよく、さらにキャップ1104の上部へまわるように配置してもよい。また、ガラスが配置される固定部1107は、燃料極層接続領域1108と燃料電池セルの軸方向において重ならないように設けられているが、重なるように配置することで燃料電池セルの軸方向におけるスペースを省略することができ、燃料電池セルユニット1100の短尺化に寄与することができる。
また、キャップ開放面1104eおよびガラス1105に対して燃料電池セルの中央部へ軸方向に延在した集電層1103は、燃料電池セルユニット1100の側面表面に電流取出領域1109を形成する。当該箇所に集電部材を物理的電気的に取り付けることによって、燃料極層1101からの電流取出し構造を形成することができる。すなわち、図13に示すように、発電反応によって生じた電子(e−)は、燃料極層接続領域1108を介して集電層1103に移動し、電流取出領域1109を介して燃料電池セルユニット1100の外部へ移動する。
一方、キャップ開放面1104eに挿入された燃料電池セルがガラス1105により接合固定されることで、キャップの内部空間1106が区画される。燃料電池セルユニット1100の下端部においては、キャップ流通口1104dより供給された燃料ガスは内部流路1110に向かうが、同時にキャップ側壁1104cと燃料電池セルとの間の内部空間1106にも流れる。この内部空間1106を介して燃料ガスが燃料電池セルユニット1100の外部に漏出した場合、燃料電池セルユニット1100の外部下方から吹き上げる酸化剤ガスによって燃料ガスが上昇し、燃料ガス中の水素が集電層1112を透過して空気極層1111を還元劣化させてしまう。このため、ガラス1105によって燃料電池セルユニット1100の外部と内部空間1106とをガラス1105で完全に遮断することが重要である。
しかし、ガラス等の緻密体でキャップと燃料電池セルとの間を気密封止したとしても、燃料電池セルの外部の酸素は微量であるがこの緻密体を透過してキャップで区画される内部空間1106に侵入してしまうおそれがある。従来は燃料極層からの集電として、金属製のキャップを介した集電経路を構成した。この燃料極層とキャップとを接続するために、銀ロウや銀ペースト等の銀部材をキャップの内部空間に埋め込んでいたが、多量の銀部材中で透過した酸素と水素とが反応することで生じる水蒸気が銀部材を多孔化し、銀部材の膨張により燃料ガスの漏出経路を形成してしまっていた。
しかし、本実施形態にかかる燃料電池セルユニット1100においては、従来の銀部材に代わりあらたに用いる導電接続のための銀部材は、薄膜として形成可能な集電層1103であるため、外部から酸素が透過した場合であってもその透過量は少なく、また生成された水蒸気により多孔化が進んだ場合であっても薄膜のため膨張量はわずかであるから、燃料ガスが燃料電池セルユニット1100の外部に漏出することを抑制することが可能である。
このように、本実施例にかかる燃料電池セルユニット1100は、従来のキャップを集電経路とする集電構造に代えて、銀を主成分とした集電膜を用いることで、銀を用いた集電構造を維持するとともに、銀を用いることによる弊害であって燃料ガス漏出経路の生成リスクを抑制して、燃料ガスの気密封止性もあわせて高めることを可能としたものである。さらに高価な銀の使用量を低く抑えることができるため、商品コスト面においても低く抑えることができ有利である。
つぎに、図14〜図17を参照して、本発明の実施形態による燃料電池セルユニットを備えた固体酸化物形燃料電池装置を説明する。
図14は、本発明の実施形態による燃料電池セルユニットを内蔵した固体酸化物形燃料電池装置(SOFC)を示す全体構成図である。図14に示すように、固体酸化物形燃料電池装置1(SOFC)は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材7を介して金属製のモジュールケース8が内蔵されている。この密閉空間であるモジュールケース8の下方部分である発電室10には、燃料ガスと酸化剤ガス(以下では適宜「発電用空気」又は「空気」と呼ぶ。)とにより発電反応を行う燃料電池セルスタック14が配置されている。本実施形態においては、燃料電池セルスタック14は、複数の燃料電池セル16の全てが直列接続されている。
燃料電池モジュール2のモジュールケース8の発電室10の上方には、燃焼部としての燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと残余の空気とが燃焼し、排気ガス(言い換えると燃焼ガス)を生成するようになっている。さらに、モジュールケース8は断熱材7により覆われており、燃料電池モジュール2内部の熱が、外気へ発散するのを抑制している。また、この燃焼室18の上方には、燃料ガスを改質する改質器120が配置され、残余ガスの燃焼熱によって改質器120を改質反応が可能な温度となるように加熱している。
さらに、ハウジング6内においてモジュールケース8の上方には、蒸発器140が断熱材7内に設けられている。蒸発器140は、供給された水と排気ガスとの間で熱交換を行うことによって、水を蒸発させて水蒸気を生成し、この水蒸気と原燃料ガスとの混合ガス(以下では「燃料ガス」と呼ぶこともある。)をモジュールケース8内の改質器120に供給する。
つぎに、補機ユニット4は、燃料電池モジュール2からの排気中に含まれる水分を結露させた水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料を遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)と、電源喪失時において、燃料流量調整ユニット38から流出する燃料ガスを遮断するバルブ39を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器120に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
なお、本実施形態では、装置の起動時に改質器120内において、部分酸化改質反応(POX)のみが生じるPOX工程から、部分酸化改質反応(POX)と水蒸気改質反応(SR)が混在したオートサーマル改質反応(ATR)が生じるATR工程を経て、水蒸気改質反応のみが生じるSR工程が行われるように構成してもよいし、POX工程を省略してATR工程からSR工程に移行されるように構成してもよいし、POX工程及びATR工程を省略してSR工程のみが行われるように構成してもよい。なお、SR工程のみが行われる構成では、改質用空気流量調整ユニット44は不要である。
つぎに、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
つぎに、図15〜図17を参照して、本実施形態による燃料電池セルスタックを内蔵した燃料電池モジュールの構造について説明する。図15は、固体酸化物形燃料電池装置の燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図16は、図15のIII−III線に沿った断面図であり、図17は、モジュールケース及び空気通路カバーの分解斜視図である。
図15及び図16に示すように、燃料電池モジュール2は、断熱材7で覆われたモジュールケース8の内部に設けられた燃料電池セルスタック14及び改質器120を有すると共に、モジュールケース8の外部で且つ断熱材7内に設けられた蒸発器140を有する。
まず、モジュールケース8は、図17に示すように、略矩形の天板8a,底板8c,これらの長手方向(図15の左右方向)に延びる辺同士を連結する対向する一対の側板8bからなる筒状体と、この筒状体の長手方向の両端部の2つの対向する開口部を塞ぎ、天板8a及び底板8cの幅方向(図16の左右方向)に延びる辺同士を連結する閉鎖側板8d,8eからなる。
モジュールケース8は、空気通路カバー160によって天板8a及び側板8bが覆われている。空気通路カバー160は、天板160aと、対向する一対の側板160bとを有する。天板160aの略中央部分には、排気管171を貫通させるための開口部167が設けられている。天板160aと天板8aとの間、及び、側板160bと側板8bとの間は、所定の距離だけ離間した状態となっている。これにより、モジュールケース8の外側と断熱材7との間、具体的にはモジュールケース8の天板8a及び側板8bと、空気通路カバー160の天板160a及び側板160bとの間には、酸化剤ガス供給通路としての空気通路161a,161bが形成されている(図16参照)。
モジュールケース8の側板8bの下部には、複数の貫通孔である吹出口8fが設けられている(図17参照)。発電用空気は、空気通路カバー160の天板160aのうち、モジュールケース8の閉鎖側板8e側の略中央部に設けられた発電用空気導入管74から流路方向調整部164を介して空気通路161a内に供給される(図15、図17参照)。そして、発電用空気は、空気通路161a,161bを通って、吹出口8fから燃料電池セルスタック14に向けて発電室10内に噴射される(図16、図17参照)。
また、空気通路161a,161bの内部には、熱交換促進部材としてのプレートフィン162,163が設けられている(図16参照)。プレートフィン162は、モジュールケース8の天板8aと空気通路カバー160の天板160aの間で長手方向及び幅方向に延びるように水平方向に設けられ、プレートフィン163は、モジュールケース8の側板8bと空気通路カバー160の側板160bとの間であって、且つ、燃料電池セル16よりも上方の位置に長手方向及び鉛直方向に延びるように設けられている。
空気通路161a,161bを流れる発電用空気は、特にプレートフィン162,163を通過する際に、これらプレートフィン162,163の内側のモジュールケース8内(具体的には天板8a,側板8bに沿って設けられた排気通路)を通過する排気ガスとの間で熱交換を行い、加熱されることとなる。このようなことから、空気通路161a,161bにおいてプレートフィン162,163が設けられた部分は、熱交換器(熱交換部)として機能する。なお、プレートフィン162が設けられた部分が主たる熱交換器部分を構成し、プレートフィン163が設けられた部分が従たる熱交換器部分を構成する。
つぎに、蒸発器140は、モジュールケース8の天板8a上で水平方向に延びるように固定されている。また、蒸発器140とモジュールケース8との間には、これらの隙間を埋めるように断熱材7の一部分7aが配置されている(図15及び図16参照)。
具体的には、蒸発器140は、長手方向(図15の左右方向)の一側端側に、水及び原燃料ガス(改質用空気を含めてもよい)を供給する燃料供給配管63と、排気ガスを排出するための排気ガス排出管82(図16参照)とが連結され、長手方向の他側端側に、排気管171の上端部が連結されている。排気管171は、空気通路カバー160の天板160aに形成された開口部167を貫通して下方へ延び、モジュールケース8の天板8a上に形成された排気口111に連結されている。排気口111は、モジュールケース8内の燃焼室18で生成された排気ガスをモジュールケース8の外へ排出する開口部であり、モジュールケース8の上面視略矩形の天板8aのほぼ中央部に形成されている。
また、蒸発器140は、図15及び図16に示すように、上面視で略矩形の蒸発器ケース141を有している。この蒸発器ケース141は、2つの高さの低い有底矩形筒状の上側ケース142と下側ケース143とを、これらの間に中間板144を挟んだ状態で接合して形成されている。
したがって、蒸発器ケース141は、上下方向に二層構造となっており、下層部分には、排気管171から供給された排気ガスが通過する排気通路部140Aが形成され、上層部分には、燃料供給配管63から供給された水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発部140Bと、蒸発部140Bで生成された水蒸気と燃料供給配管63から供給された原燃料ガスとを混合させる混合部140Cが設けられている。
図15及び図16に示すように、蒸発部140B及び混合部140Cは、複数の連通孔(スリット)145aが形成された仕切り板145により蒸発器140を仕切った空間にて形成されている。また、蒸発部140B内には、アルミナボール(図示せず)が充填されている。また、排気通路部140Aは、同様に複数の連通孔を有する2つの仕切り板146,147により排気ガスの上流側から下流側にかけて3つの空間に仕切られている。そして、2番目の空間に燃焼触媒(図示せず)が充填されている。すなわち、本実施形態において蒸発器140は、上下方向の二層構造のうちの下層構造に燃焼触媒器を含んでいる。
このような蒸発器140では、蒸発部140B内の水と排気通路部140Aを通過する排気ガスとの間で熱交換が行われ、排気ガスの熱により蒸発部140B内の水が蒸発して、水蒸気が生成されることとなる。また、混合部140C内の混合ガスと排気通路部140Aを通過する排気ガスとの間で熱交換が行われ、排気ガスの熱により混合ガスが昇温されることとなる。
さらに、図15に示すように、混合部140Cには、改質器120に混合ガスを供給するための混合ガス供給管112が接続されている。この混合ガス供給管112は、排気管171の内部を通過するように配置されており、一端が中間板144に形成された開口144aに連結され、他端が改質器120の天面に形成された混合ガス供給口120aに連結されている。混合ガス供給管112は、排気通路部140A内,排気管171内を通過してモジュールケース8内まで鉛直下方に延び、そこで略90°屈曲されて天板8aに沿って水平方向に延びた後、下方へ略90°屈曲されて改質器120に連結されている。
つぎに、改質器120は、燃焼室18の上方でモジュールケース8の長手方向に沿って水平方向に延びるように配置され、天板8aに対して固定されている。改質器120は、上面視で外形略矩形であるが、中央部に貫通孔120bが形成された環状構造体であり、上側ケース121と下側ケース122とが接合された筐体を有している。この貫通孔120bは、天板8aに形成された排気口111と上面視で重なるように位置し、好ましくは、貫通孔120bの中央位置に排気口111が形成される。
改質器120の長手方向の一端側(モジュールケース8の閉鎖側板8e側)では、上側ケース121に設けられた混合ガス供給口120aに混合ガス供給管112が連結されており、他端側(閉鎖側板8d側)では、燃料ガス供給管64が下側ケース122に、脱硫器36まで延びる水添脱硫器用水素取出管65が上側ケース121にそれぞれ連結されている。したがって、改質器120は、混合ガス供給管112から混合ガス(つまり水蒸気が混合された原燃料ガス(改質用空気を含めてもよい))を受け取り、内部で混合ガスを改質し、燃料ガス供給管64及び水添脱硫器用水素取出管65から改質後のガス(即ち、燃料ガス)を排出するように構成されている。
改質器120は、その内部空間が2つの仕切り板123a,123bによって3つの空間に仕切られることにより、改質器120内に、混合ガス供給管112からの混合ガスを受入れる混合ガス受入部120Aと、混合ガスを改質するための改質触媒(図示せず)が充填された改質部120Bと、改質部120Bを通過したガスを排出するガス排出部120Cと、が形成されている(図15参照)。改質部120Bは、仕切り板123a,123bに挟まれた空間であり、この空間に改質触媒が保持されている。混合ガス及び改質後の燃料ガスは、仕切り板123a,123bに設けられた複数の連通孔(スリット)を通って移動可能となっている。また、改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
混合ガス受入部120Aには、蒸発器140から混合ガス供給管112を介して供給された混合ガスが混合ガス供給口120aを通して噴出される。この混合ガスは、混合ガス受入部120A内で拡張されて噴出速度が低下し、仕切り板123aを通過して改質部120Bに供給される。改質部120Bでは、低速で移動する混合ガスが改質触媒により燃料ガスに改質され、この燃料ガスが仕切り板123bを通過してガス排出部120Cに供給される。ガス排出部120Cでは、燃料ガスが燃料ガス供給管64、及び、水添脱硫器用水素取出管65へ排出される。
燃料ガス供給通路としての燃料ガス供給管64は、モジュールケース8内を閉鎖側板8dに沿って下方へ延び、底板8c付近で略90°屈曲されて水平方向に延びて、燃料電池セルスタック14の下方に形成されたマニホールド66内へ入り、更にマニホールド66内で逆側の閉鎖側板8e付近まで水平方向に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、燃料ガスがマニホールド66内に供給される。このマニホールド66の上方には、燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セル16内に供給される。また、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。また、改質器120は、モジュールケース8の側板8bと所定の水平方向距離を隔てて配置されている。
次に本発明の燃料電池セルユニットの製造方法について、具体例を示す。
まず燃料電池セル1000を準備した後、燃料極層1101に接続する集電層1103としてAgPdペーストを塗布し700℃から900℃で仮焼成する。その後、当該AgPd層の上部(固定部1107)にMgO−CaO−SiO2系のガラス組成物をディスペンサにより塗布して600℃から700℃で仮焼成する。このような封止材の仮形成を、燃料電池セル1000の両端部において行う。次に、端部をフレア加工したキャップ1104と燃料電池セル1000とがそれぞれ燃料電池セル1000の両端で当接するように治具を用いて位置調整を行いながら配置する。そして上記ガラス組成物が溶融する700℃から900℃で本焼成しながら、上端に位置するキャップ1104を加圧することによって、燃料電池セル1000の上下両端にキャップ1104を同時に取り付ける。これにより、本発明の燃料電池セルユニットを製造することができる。
上述の方法により作製された燃料電池セルユニットについて、図9及び図10を用いて説明する。
図9(A)は燃料電池セルユニット1100の全体像を示すもので、図中の点線で囲んだ部分を図9(B)に示す。
燃料電池セル1000とキャップ1104とを接合固定する封止材1105は、全体がキャップ1104の内部に位置するように設けられている。図9(B)に示すキャップ1104では、キャップ1104の開放端側端部は燃料電池セルユニット1100の外方に広がるように端部に向かって傾斜する傾斜部1104h(フレア部ともいう)を有するものとした。キャップ1104の端部に傾斜部1104hを設けることで、燃料電池セル1000とキャップ1104との接合部の形成の際に、封止材1105をキャップ1104の外部に流動しないように配置することができる。
図9(B)に示すように、封止材1105は、キャップ1104の内部であって、燃料電池セル1000の側面とキャップ1104の内壁面との間に設けられている。ここで接合部の形成の際に、上述のようにガラス組成物を硬化させてなる封止材1105を溶融状態にして燃料電池セル1000をキャップ1104の内部に挿入して取り付けたため、封止材1105は燃料電池セル1000の下方への挿入に伴って引きずられることで、燃料電池セル1100にのみ接合された部分1105bが形成される。一方、キャップ1104の開放面端部近傍では、封止材1105は燃料電池セル1000の側面とキャップ1104の内壁面との双方を接合する部分1105aが形成される。図10は、実際に上述の方法により作製した燃料電池セルユニット1100の封止材1105による接合構造を観察した光学顕微鏡写真である。燃料電池セル1000の挿入に伴い引きずられて生じた部分1105bと、燃料電池セル1100の側面及び燃キャップ1104の内壁面との双方に接合する部分1105aが観察される。前者の部分1105bによって封止材1105と燃料電池セル1000との接合強度を高めるが、燃料ガスの漏出防止のための気密機能、および燃料電池セル1000やキャップ1104の膨張収縮に追従することでクラックの発生を抑制する耐久性向上機能は、後者の部分1105aが主体的に担う。このため、部分1105aの厚みや軸方向における長さ等の形状、物性を適宜制御するとよい。また、封止材1105の形状は、ガラス組成物の粘性や焼成温度、または燃料電池セル1000の挿入速度などを調整することで、目的の強度や耐久性を実現する設計が可能である。