以下、図面を参照して車両前部構造10について説明する。図1は、車両前部構造10の概略平面図である。また、図2は、モータコンパートメントクロスメンバ(以下「MCクロスメンバ20」と呼ぶ)周辺の分解斜視図である。なお、図面において、車両前後方向を記号Frで表される軸で示し、車幅方向を記号Rwで表される軸で示し、車両高さ方向を記号Upで表される軸で示す。また、以下の説明における左右は、特に、説明のない限り、車両の乗員からみての左右を意味する。
はじめに、車両前部構造10の全体構成について簡単に説明する。この車両前部構造10は、回転電機MGで生成された動力で走行する電動車両(例えば電気自動車や燃料電池自動車等)に組み込まれる。車両前部には、パワーユニットが設置されるパワーユニット室11(「モータコンパートメント」ともいう)が設けられている。パワーユニットは、車両の走行動力を生成するもので、本例では、後述する回転電機ユニット22がパワーユニットとして機能する。
パワーユニット室11の前端には、車幅方向に延びるバンパリーンフォースメント(以下「バンパRF」と略す)14が設けられている。このバンパRF14は、車両前方に凸になるように平面視で湾曲している。このバンパRF14の車幅方向両端付近には、クラッシュボックス16を介してフロントサイドメンバ12が接続されている。クラッシュボックス16は、車両前後方向に圧縮変形することで車両衝突時の衝突エネルギを吸収する。そのため、クラッシュボックス16は、通常、車両前後方向に圧縮変形しやすい形態、例えば、外周面に複数の凹ビードが形成されたような形態となっている。
クラッシュボックス16の後方には、フロントサイドメンバ12が接続されている。フロントサイドメンバ12は、車両前後方向に延びる骨格部材である。図1に示すように、二つのフロントサイドメンバ12が、車幅方向に十分な間隔を開けて、略平行に配されている。このフロントサイドメンバ12には、その側面に荷重を受けた際に、応力が集中する応力集中部が設定されているが、これについては、後述する。
各フロントサイドメンバ12の車幅方向外側面には、ガセット18が取り付けられている。ガセット18は、車両後方に進むにつれ車幅方向寸法が小さくなる、平面視で略三角形状の部材である。このガセット18の前端は、フロントサイドメンバ12の前端とほぼ同じである。ガセット18は、フロントサイドメンバ12よりも車幅方向外側に張り出しており、フロントサイドメンバ12より車幅方向外側から入力される荷重を受ける。
一対のフロントサイドメンバ12の間には、MCクロスメンバ20が設けられている。MCクロスメンバ20は、ブラケット32を介してフロントサイドメンバ12に連結されている。換言すれば、MCクロスメンバ20は、一対のフロントサイドメンバ12の間に掛け渡されている。ただし、MCクロスメンバ20は、フロントサイドメンバ12と接触しておらず、両者12,20は、車幅方向に離間した状態で正対している。換言すれば、MCクロスメンバ20とフロントサイドメンバ12との間には、若干の間隙が存在する。これは、フロントサイドメンバ12の屈曲を許容するためであるが、これについては、後述する。
図2に示すように、MCクロスメンバ20の上面には、充電器26およびPCU24が載置され、締結される。また、MCクロスメンバ20の下方には、左側モータマウント28L,右側モータマウント28R(以下、左右を区別しない場合は、添字L,Rを省略して「モータマウント28」という)を介して回転電機ユニット22が吊り下げ保持される。回転電機ユニット22は、車両の駆動源となる回転電機MGと変速機(トランスアクスル)TAを備える。図2に示される例では、回転電機ユニット22の配置はいわゆる横置きであり、回転電機ユニット22の長手方向が車幅方向を向くようにしてパワーユニット室11に配置される。回転電機ユニット22の上面および幅方向両端面には締結穴23が複数設けられている。これら締結穴23とモータマウント28の締結穴29とが位置合わせされボルト留めされることで、モータマウント28が回転電機ユニット22に締結される。
モータマウント28は、回転電機ユニット22に締結されるMG側締結部52と、MCクロスメンバ20に締結されるメンバ側締結部54と、を備える。このモータマウント28と、回転電機ユニット22およびMCクロスメンバ20と、の締結については、後に詳説する。
PCU24は回転電機MGとバッテリ(図示せず)とを結ぶ電路に設けられた電力変換器である。PCU24は、例えばDC/DCコンバータやインバータ等の電力変換回路を備える。PCU24の下方に延設された脚部24aには、複数の締結孔25が形成されている。PCU24は、この複数の締結孔25に挿通される締結ボルト(図示せず)を介して、MCクロスメンバ20の上面に締結される。
充電器26はバッテリ(図示せず)に接続され、電力変換用の昇圧回路や直流成分を遮断するためのトランス回路等を備える。また、充電器26の下方に延設された脚部26aには、複数の締結孔27が形成されている。充電器26は、この複数の締結孔27に挿通される締結ボルト(図示せず)を介して、MCクロスメンバ20の上面に締結される。
回転電機ユニット22、PCU24、充電器26、およびバッテリ(図示せず)の間には、電力を授受するための高電圧ケーブル(図示せず)が配策されている。この高電圧ケーブルの一部は、MCクロスメンバ20の中央に設けられた開口部34に通される。
次に、この車両前部構造10を有した車両が前面衝突した場合について簡単に説明する。前面衝突としては、車体前面の幅の全てが衝突体に衝突するフルラップ衝突、車体前面の端部(例えば車体前面の外側25%等)にのみ衝突体が衝突する微小ラップ衝突、および、高速の衝突体が車両の斜め前方から衝突するオブリーク衝突などがある。
フルラップ衝突した際、衝突荷重は、バンパRF14を介して左右一対のクラッシュボックス16に入力される。この衝突荷重を受けてクラッシュボックス16が圧縮変形し、衝突荷重の一部が吸収される。クラッシュボックス16で吸収しきれない荷重は、さらに、左右一対のフロントサイドメンバ12に伝達される。フロントサイドメンバ12は、必要に応じて、屈曲・変形などしながら、荷重を吸収・分散する。この過程で、後方移動したバンパRF14、あるいは、バンパRF14とMCクロスメンバ20との間に介在する他部材が、MCクロスメンバ20の前端まで達し、MCクロスメンバ20にも車両後ろ向きの荷重が印加される場合がある。この後ろ向きの荷重によりMCクロスメンバ20が変形することを防止するために、本例では、開口部34を車両前後方向に横断するモータマウント28が、MCクロスメンバ20に取り付けられているが、これについても、後述する。
一方、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突した場合について図3を参照して説明する。この場合、衝突体は、フロントサイドメンバ12より車幅方向外側において車両に衝突する。そのため、この場合の衝突荷重は、バンパRF14を介して、または、バンパRF14を介することなく、直接、ガセット18に印加される。ガセット18に印加された衝突荷重は、当該ガセット18を介して、フロントサイドメンバ12の外側面に伝達される。そして、この衝突荷重を受けて、フロントサイドメンバ12は、図3に示すように、ガセット18の後端近傍において、内側に屈曲し、車幅方向内側に入り込む。そして、これにより、フロントサイドメンバ12が、MCクロスメンバ20の側面に当接し、衝突荷重が、さらに、MCクロスメンバ20に伝達される。MCクロスメンバ20は、この衝突荷重を受けて、車幅方向に移動し、反対側(図示例では車両右側)のフロントサイドメンバ12に当接する。
つまり、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突の際の衝突荷重は、片側のガセット18、片側のフロントサイドメンバ12、MCクロスメンバ20、反対側のフロントサイドメンバ12へと、順次、伝達される。そして、この伝達の過程で、衝突荷重が、吸収・分散される。また、衝突荷重が、最終的に、反対側のフロントサイドメンバ12に伝達されることで、車体全体は、衝突荷重から逃げる方向に移動しやすくなり、衝突荷重による車両各部の変形や破損を低減できる。
以上の説明から明らかなとおり、フルラップ衝突では、MCクロスメンバ20が変形しないことが求められ、微小ラップ衝突およびオブリーク衝突では、衝突荷重が、フロントサイドメンバ12からMCクロスメンバ20に効率的に伝達されることが求められている。本例では、各部の構成を、こうした要望を満たせるような構成としている。以下、各部の構成について、より詳細に説明する。
はじめに、MCクロスメンバ20の構成について図4〜図6を参照して説明する。図4は、MCクロスメンバ20の平面図であり、図5は、MCクロスメンバ20の分解斜視図である。また、図6は、図4のA−A線での端面図である。
既述したとおり、MCクロスメンバ20は、一対のフロントサイドメンバ12の間に掛け渡される部材であって、PCU24および充電器26が載置され、回転電機ユニット22を吊り下げ保持する部材である。このMCクロスメンバ20は、図4に示す通り、平面視では、車幅方向に長尺な略長方形である。MCクロスメンバ20の中央には、車幅方向に長尺な開口部34が形成されており、MCクロスメンバ20は、全体としては、略ロ字状となっている。この開口部34には、回転電機ユニット22やPCU24、充電器26に接続される高電圧ケーブルの一部が配策される。
図5に示す通り、MCクロスメンバ20は、一つのアッパー部材36と、二つのロア部材38F,38Rと、を組み合わせて構成される。アッパー部材36は、中央に大きな開口が形成された上面と、当該上面の周縁から下方に垂れ下がる周面と、を備えており、底面は、完全開口されている。前側ロア部材38Fおよび後側ロア部材38Rは、このアッパー部材36の下側に取り付けられる部材で、車両前後方向に、いくつかの段差が形成されている。なお、以下では、前側および後側を区別しない場合は、添字F,Rを省略して、単に「ロア部材38」と呼ぶ。
前側ロア部材38Fおよび後側ロア部材38Rは、図6に示す通り、アッパー部材36との間に閉断面を形成する。すなわち、前側ロア部材38Fは、その最上面および前端面において、アッパー部材36に近接または接触するものの、それ以外の箇所では、アッパー部材36と十分に離間している。同様に、後側ロア部材38Rは、その最上面および後端面において、アッパー部材36に近接または接触するものの、それ以外の箇所では、アッパー部材36と十分に離間している。
このようにMCクロスメンバ20を、アッパー部材36とロア部材38とで構成される中空形状とすることで、一枚の板材で構成する場合に比べて、MCクロスメンバ20の強度を大幅に向上できる。特に、かかる構成とすることで、MCクロスメンバ20の車幅方向の圧縮変形が効果的に防止される。つまり、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突の際、フロントサイドメンバ12から車幅方向の衝突荷重を受けたとしても、MCクロスメンバ20が圧縮変形しにくい。その結果、衝突荷重を反対側のフロントサイドメンバ12により確実に伝達できる。なお、図5では、アッパー部材36およびロア部材38を、ビードや凹部のない単純形状として図示しているが、これら部材36,38に、複数のビードや凹部を設けてもよい。ビードや凹部を適宜、設けることで、MCクロスメンバ20の強度をより向上できる。
MCクロスメンバ20は、別の見方をすると、車幅方向に延びる前側クロス部20Fと、前側クロス部20Fより後方において車幅方向に延びる後側クロス部20Rと、前側クロス部20Fの左右両端と後側クロス部20Rの左右両端とを接続する一対のサイド部20Sと、に大別できる。微小ラップ衝突またはオブリーク衝突の際、サイド部20Sは、衝突荷重の入力部および出力部として機能する。すなわち、衝突荷重は、片側のガセット18、片側のフロントサイドメンバ12を、介して、片側のサイド部20Sに入力される。この片側のサイド部20Sから入力された衝突荷重は、前側クロス部20Fおよび後側クロス部20Rを介して、反対側のサイド部20Sに伝達され、さらに、この反対側のサイド部20Sから反対側のフロントサイドメンバ12に出力される。このように、荷重の入力部および出力部として機能するサイド部20Sは、フロントサイドメンバ12との対向面(サイド部20Sの車幅方向外側面)の面積が、極力、大きいことが望ましい。
そこで、本例では、図5に示すように、MCクロスメンバ20の、車幅方向端部における高さ方向寸法(厚み)Deを、車幅方向中央における車両高さ方向寸法Dcよりも大きくなるようにしている。そして、かかる寸法を実現するために、MCクロスメンバ20の前端面および後端面の下端辺60を、上方に凸のアーチ状としている。これにより、サイド部20Sの車幅方向外側面が大きくなり、屈曲したフロントサイドメンバ12が、より確実にサイド部20Sに接触できる。
本例では、このサイド部20Sの外側面に、張出壁62を二つ設けている。張出壁62は、その前方位置に比べて車幅方向外側に張り出す部位である。この張出壁62は、サイド部20Sに、段差や、車幅方向内側に凹んだ凹部を設けることで形成できる。こうした張出壁62は、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突の際、屈曲したフロントサイドメンバ12を引っ掛けて、当該フロントサイドメンバ12の後方移動を規制する。
すなわち、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突の際には、フロントサイドメンバ12の屈曲だけでなく、当該フロントサイドメンバ12の車両後方への移動も生じる。フロントサイドメンバ12が、後方に自由に移動すると、衝突荷重が、MCクロスメンバ20に伝達されにくくなる。一方、サイド部20Sに、車幅方向外側に張り出した張出壁62を設けておけば、屈曲したフロントサイドメンバ12が、張出壁62に当接し、これにより、フロントサイドメンバ12の当該張出壁62より後方への移動が規制される。そして、結果として、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突時の衝突荷重を、より確実に、MCクロスメンバ20に伝達できる。
ここで、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突の際、フロントサイドメンバ12は、ガセット18の後端、あるいは、後端より僅かに後方において屈曲しやすい。張出壁62は、車両前後方向位置が、この屈曲が生じやすい箇所(ガセット18の後端、あるいは、後端より僅かに後方)と同じ、あるいは、屈曲が生じやすい箇所よりやや後方に設けられることが望ましい。かかる位置に張出壁62を設けることで、屈曲したフロントサイドメンバ12をより確実に引っ掛けることができる。
ただし、フロントサイドメンバ12の屈曲位置は、入力される衝突荷重の向きや大きさによって、適宜、異なる。例えば、微小ラップ衝突時とオブリーク衝突時では、フロントサイドメンバ12の屈曲位置が若干変化する。そこで、フロントサイドメンバ12の屈曲位置が変化してもよいように、一つのサイド部20Sに、張出壁62は、2以上設けられていることが望ましい。
ところで、微小ラップ衝突およびオブリーク衝突の際には、フロントサイドメンバ12が、車幅方向内側に屈曲することが望ましい。しかし、フロントサイドメンバ12とMCクロスメンバ20が、車幅方向に隙間無く接触していると、フロントサイドメンバ12の屈曲が、MCクロスメンバ20により阻害される。そこで、本例では、フロントサイドメンバ12の屈曲が予想される箇所と同じ車両前後方向位置において、MCクロスメンバ20とフロントサイドメンバ12とを、車幅方向に離間させている。これにより、フロントサイドメンバ12が屈曲変形するためのスペースを確保でき、フロントサイドメンバ12をより確実に屈曲させることができる。なお、屈曲が予想される箇所とは、後に詳説するが、MCクロスメンバ20の応力集中部であり、ガセット18の後端、あるいは、補強ビード40の途切れ箇所42(図7参照)である。
次に、フロントサイドメンバ12およびガセット18について図7を参照して説明する。図7は、フロントサイドメンバ12の前端周辺の斜視図である。フロントサイドメンバ12は、車両前後方向に延びる骨格部材であり、中空の角パイプ状部材である。このフロントサイドメンバ12には、応力が集中しやすく、屈曲しやすい応力集中部がいくつか、設定されている。応力集中部の一つは、ガセット18の後端付近である。ガセット18の後端付近は、当該ガセット18を介して入力された荷重が集中しやすい。そして、フロントサイドメンバ12は、このガセット18の後端付近において、車幅方向内側に屈曲しやすい。また、フロントサイドメンバ12の車幅方向の外側面12oには、補強ビード40が設けられているが、この補強ビード40の途切れ箇所42も、応力集中部として機能する。すなわち、補強ビード40は、フロントサイドメンバ12の強度向上のために設けられるもので、車両前後方向に長尺な直線状ビードである。ただし、補強ビード40は、車両前後方向に連続しておらず、途中で、途切れている。この補強ビード40が形成されている箇所では、フロントサイドメンバ12は、屈曲しにくい。一方、補強ビード40の途切れ箇所42は、強度が局所的に低下しており、応力が集中しやすい。したがって、この補強ビード40の途切れ箇所42は、応力が集中しやすく、フロントサイドメンバ12が屈曲しやすい応力集中部となる。
本例では、この補強ビード40の途切れ箇所42を、ガセット18の後端より後方に設けている。そのため、応力の入力形態によっては、フロントサイドメンバ12は、当該補強ビード40の途切れ箇所42(ガセット18の後端より後方)において、屈曲することがある。この場合でも、フロントサイドメンバ12が、確実に屈曲できるように、補強ビード40の途切れ箇所42と同じ車両前後方向位置において、フロントサイドメンバ12とMCクロスメンバ20とを車幅方向に離間させている。また、上述した張出壁62の少なくとも一つは、この補強ビード40の途切れ箇所42と同じ、または、補強ビード40の途切れ箇所42より後方となる車両前後方向位置に設けられている。ガセット18は、図7において、二点鎖線で示すように、フロントサイドメンバ12の外側面12oに取り付けられている。このガセット18の構成は、適宜、従来技術を利用できるため、ここでの詳説は省略する。
フロントサイドメンバ12とMCクロスメンバ20は、ブラケット32を介して互いに連結される。図8は、ブラケット32の分解斜視図である。また、図9は、ブラケット32の取り付けの様子を示す斜視図である。ブラケット32は、二つのブラケット片44,46を有している。この二つのブラケット片44,46は、上下に重ねられて、ブラケット32を構成する。このブラケット32は、図1、図3に示す通り、フロントサイドメンバ12の屈曲が予想される応力集中部(ガセット18の後端、または、補強ビード40の途切れ箇所42)よりも車両後方に取り付けられる。また、このブラケット32は、フロントサイドメンバ12とMCクロスメンバ20とを、車幅方向に離間させた状態で、両者12,20を連結する。
第一ブラケット片44は、MCクロスメンバ20の上面と、フロントサイドメンバ12の車幅方向の内側面12iと、を連結する。そのため、第一ブラケット片44は、MCクロスメンバ20の上面に沿うべく略水平方向に延びる面と、フロントサイドメンバ12の内側面12iに沿うべく略鉛直方向に延びる面とを有した略L字状となっている。第一ブラケット片44の水平面には、三つの第一締結孔64a〜64cが前後方向に並んで形成されている。この第一締結孔64a〜64cは、第一締結ボルト66a〜66cが挿通される孔であり、MCクロスメンバ20に形成された締結孔21a〜21cに対応する位置に設けられている。また、第一ブラケット片44の鉛直面には、二つの第二締結孔70a(図8、図9では、一つしか見えず)が前後方向に並んで形成されている。第二締結孔70aは、第二締結ボルト(図示せず)が挿通される孔であり、フロントサイドメンバ12の内側面に形成された締結孔13a,13bに対応する位置に設けられている。
第二ブラケット片46は、MCクロスメンバ20の上面と、フロントサイドメンバ12の上面12tと、を連結する。そのため、第二ブラケット片46は、MCクロスメンバ20の上面およびフロントサイドメンバ12の上面12tに沿うべく略水平方向に延びる面を有している。また、第二ブラケット片46は、他部材(例えばサスペンションタワー等)にも締結できるように、外側に大きく延びる延長部46aも有している。
第二ブラケット片46のうち、車幅方向内側の端部近傍には、一つの挿通孔72と、二つの第一締結孔74a,74cと、が設けられている。二つの第一締結孔74a,74cは、挿通孔72の前後方向両側に配されている。この第一締結孔74a,74cおよび挿通孔72の位置は、第一ブラケット片44の第一締結孔64a〜64cの位置とほぼ同じである。ただし、挿通孔72は、第一締結ボルト66a〜66cの頭部よりも大径となっている。
第二ブラケット片46の車幅方向外側の端部近傍には、二つの第三締結孔76a,76bが前後方向に並んで形成されている。この第三締結孔76a,76bは、フロントサイドメンバ12の上面12tに形成された締結孔15a,15bに対応する位置に設けられている。
MCクロスメンバ20とフロントサイドメンバ12を連結する際には、まず、第一ブラケット片44を、フロントサイドメンバ12の内側面12iに螺合締結する。続いて、第一ブラケット片44の上に、第二ブラケット片46を載置し、当該第二ブラケット片46を、フロントサイドメンバ12の上面12tに螺合締結する。その後、回転電機ユニット22、PCU24、充電器26が組みつけられたMCクロスメンバ20をリフトアップして、ブラケット32の下側にMCクロスメンバ20の上面を配置する。その状態になれば、そして、第一締結ボルト66a〜66cおよびナット68a〜68cを用いて、第一、第二ブラケット片44,46を、MCクロスメンバ20に螺合締結する。
ここで、MCクロスメンバ20に形成された三つの締結孔21a〜21cのうち、前側および後側の締結孔21a,21cは、アッパー部材36およびロア部材38の双方に形成されている。そして、この締結孔21a,21cに挿通される第一締結ボルト66a,66cは、MCクロスメンバ20の閉断面を貫通する。これについて、図10を参照して説明する。図10は、第一締結ボルト66aを通る切断線における概略端面図である。
図10に示す通り、MCクロスメンバ20の内部(閉断面内)には、厚み方向に延びるカラー50が設けられている。このカラー50は、アッパー部材36およびロア部材38に形成された締結孔21aと同軸上に配されており、その高さは、閉断面の高さとほぼ同じか、僅かに小さい。MCクロスメンバ20と第一、第二ブラケット片44,46とを締結する際には、第一締結ボルト66aを、ロア部材38の締結孔21a、カラー50、アッパー部材36の締結孔21a、第一ブラケット片44の第一締結孔64a、第二ブラケット片46の第一締結孔74aに挿通させる。そして、第二ブラケット片46の上面から突出する雄ネジに、ナット68aを螺合して、締め付ける。すなわち、ロア部材38、カラー50、アッパー部材36、第一ブラケット片44、第二ブラケット片46を、第一締結ボルト66aとナット68aで、このように第一締結ボルト66a,66cを、MCクロスメンバ20の閉断面を貫通させることで、第一締結ボルト66a,66cの取付剛性を向上できる。また、この場合、MCクロスメンバ20のねじり剛性が向上するため、トランスアクスルや高電圧部品の振動を受けてMCクロスメンバ20が振動しても、MCクロスメンバ20の撓みや変形を効果的に防止できる。
ここで、第一締結孔64a〜64cと第一ブラケット片44の車幅方向の内側端辺との間の間隙部、および、第一締結孔74a,74cと第二ブラケット片46の車幅方向の内側端辺との間の間隙部は、第一、第二ブラケット片44,46が、車幅方向外側に引っ張られた際に第一締結ボルト66a〜66cから荷重を受ける耐負荷部65a〜65c,75a,75c(図8参照)となる。本例では、この複数の耐負荷部65a〜65c,75a,75cのうち、最も前方に位置する耐負荷部65a,75aの強度を、他の耐負荷部65b,65c,75cの強度よりも高くしている。具体的には、図8から明らかなとおり、第一ブラケット片44に設けられた三つの第一締結孔64a〜64cのうち、中央および後側の第一締結孔64a,64cは、車幅方向内側の周縁が途中で途切れた略C字状となっている。同様に、第二ブラケット片46に設けられた二つの第一締結孔74a,74cのうち、後側の第一締結孔74cも、車幅方向内側の周縁が途中で途切れた略C字状となっている。そのため、中央および後側の耐負荷部65b,65c,75cの強度が、前側の耐負荷部65a,75aに比べて、大幅に低下している。そして、かかる構成とすることで、フロントサイドメンバ12が、屈曲した場合に、第一、第二ブラケット片44,46の回転移動が許容される。
すなわち、上述したとおり、また、図3に示す通り、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突の際、フロントサイドメンバ12は、ブラケット32よりも前方位置において、車幅方向内側に屈曲する。ブラケット32が、このフロントサイドメンバ12の屈曲に追従するためには、図3に示すとおり、その後端が車幅方向外側に変位するように鉛直軸周りに回転する必要がある。このとき、ブラケット32の中央の第一締結孔64bの周辺、および、後側の第一締結孔64c,74cの周辺が、MCクロスメンバ20に強固に連結されていると、ブラケット32が回転できない。そこで、本例では、中央の第一締結孔64bの周縁、および、後側の第一締結孔64c,74cの周縁を、車幅方向内側で途切れる略C字状としている。これにより、ブラケット32に、車幅方向外側に引っ張る力がかかると、中央および後側の耐負荷部65b,65c,75cが容易に破壊され、中央および後側の第一締結孔64b,64c,74cから第一締結ボルト66b,66cが抜ける。そして、これにより、ブラケット32が、前側の第一締結孔64b,74aを中心として、容易に回転できる。
なお、本例では、耐負荷部65a〜65c,75a,75cの強度差を設けるために、一部の第一締結孔64b,64c,74cの周縁を略C字状にしている。しかし、最も前側の耐負荷部65a,75aが、他の耐負荷部65b,65c,75cよりも強度が高くなるのであれば、他の形態でもよい。例えば、中央および後側の耐負荷部65b,65c,75cに、車幅方向に延びる切れ目や溝などを設けてもよい。また、中央および後側の耐負荷部65b,65c,75cの幅を、前側の耐負荷部65a,75aに比べて、小さくしてもよい。
次に、回転電機ユニット22およびモータマウント28について説明する。図11は、回転電機ユニット22およびモータマウント28の斜視図である。上述したとおり、回転電機ユニット22は、車両の駆動源である回転電機MGと、変速機TAを備える。回転電機ユニット22の幅方向両端および上面には、モータマウント28と締結されるための締結穴23が形成されている。この回転電機ユニット22は、右側モータマウント28Rおよび左側モータマウント28Lを介して、MCクロスメンバ20に連結される。
モータマウント28は、回転電機ユニット22に締結されるMG側締結部52と、MCクロスメンバ20に締結されるメンバ側締結部54と、に大別される。MG側締結部52には、回転電機ユニット22と締結されるための締結孔53が形成されている。
メンバ側締結部54は、MCクロスメンバ20の開口部34を車両前後方向に横断して、当該MCクロスメンバ20の底面に締結される。メンバ側締結部54は、MCクロスメンバ20の底面に締結されるベース部80と、当該ベース部80の中央から上方に突出する突出部82と、この突出部82の中央からさらに上方に突出する円弧部84と、に大別できる。
ベース部80の車両前後方向寸法は、MCクロスメンバ20の前側クロス部20Fの後端から後側クロス部20Rの前端までの距離よりも大きくなっており、当該ベース部80は、前側クロス部20Fの底面および後側クロス部20Rの底面に、締結される。ベース部80の上面からは、この締結に用いられるスタッドボルト86が突出している。突出部82の車両前後方向寸法は、前側クロス部20Fの後端から後側クロス部20Rの後端までの距離よりも小さく、かつ、開口部34の前後方向寸法よりも大きい。なお、左側モータマウント28Lは、この突出部82に形成された締結孔83を介して、開口部34の周縁に締結される。円弧部は、MG側締結部52の挿通を許容する空間を形成する。
図12は、左側モータマウント28Lのメンバ側締結部54をMCクロスメンバ20に締結した様子を示す概略断面図である。ここで、図12から明らかなとおり、ベース部80は、MCクロスメンバ20の開口部34を前後方向に跨いでMCクロスメンバ20に締結される。このような構造を備えることで、モータマウント28がMCクロスメンバ20の補強部材として機能する。すなわち、フルラップ衝突時には、MCクロスメンバ20の前端に、後ろ向きの衝突荷重がかかることがある。この衝突荷重を受けて、前側クロス部20Fが、開口部34を潰す方向に変形しようとする。前側クロス部20Fが、車両後方に変形するためには、当該前側クロス部20Fおよび後側クロス部20Rに連結されたメンバ側締結部54が車両前後方向に圧縮変形する必要があるが、メンバ側締結部54は、その形状からして、車両前後方向の圧縮は、生じにくい。そのため、本例によれば、フルラップ衝突時におけるMCクロスメンバ20の変形が効果的に抑制される。加えて、開口部34を横断するようにメンバ側締結部54をMCクロスメンバ20に締結すれば、当該MCクロスメンバ20のねじれ剛性が向上する。これにより、通常運転におけるMCクロスメンバ20の振動やこれに伴うノイズの発生が抑制される。
また、図12から明らかなとおり、前後に離間して配置された前側クロス部20Fと後側クロス部20Rとの間に、メンバ側締結部54の突出部82が配されている。そのため、フルラップ衝突時に、前側クロス部20Fが、後方に変形しようとすると、当該前側クロス部20Fが突出部82に当接する。この当接により、前側クロス部20Fの更なる後方移動が規制され、前側クロス部20Fの変形が阻害される。すなわち、前側クロス部20Fおよび後側クロス部20Rの間に、メンバ側締結部54の突出部82を配することで、MCクロスメンバ20の変形(特に開口部34が潰れるような変形)がより効果的に防止される。
さらに、図12から明らかなとおり、ベース部80と、前側および後側クロス部20F,20Rと、を締結するスタッドボルト86は、ブラケット32に締結された第一締結ボルト66a,66cと同様に、前側および後側クロス部20F,20Rの閉断面を貫通する。すなわち、前側および後側クロス部20F,20Rの閉断面内には、カラー90が配置されており、スタッドボルト86およびナット88は、ベース部80(モータマウント28)、ロア部材38、カラー90およびアッパー部材36を共締めする。これにより、スタッドボルト86の取り付け剛性を向上できる。また、MCクロスメンバ20のねじれ剛性が向上するため、MCクロスメンバ20の撓みや変形を効果的に防止できる。
なお、回転電機ユニット22、充電器26、PCU24といった高電圧部品は、いずれも、その前端が、MCクロスメンバ20の前端より後方になるように、取り付けられている。そのため、フルラップ衝突時の衝突荷重は、回転電機ユニット22、充電器26、PCU24よりも先に、MCクロスメンバ20に加わるようになっている。また、上述の説明では、メンバ側締結部54が車両前後方向と平行な方向に延びているが、メンバ側締結部54は、前側クロス部20Fおよび後側クロス部20Rの間に掛け渡されるのであれば、車両前後方向に対して傾斜した方向に延びてもよい。
次に、前面衝突時における各部の挙動について説明する。はじめに、車両のほぼ全幅が衝突体に衝突するフルラップ衝突時の挙動について説明する。フルラップ衝突した場合、バンパRF14のほぼ全面に衝突荷重が入力される。この衝突荷重の一部は、クラッシュボックス16が圧縮変形することで吸収される。クラッシュボックス16で吸収しきれない衝突荷重は、さらに、フロントサイドメンバ12の前端に伝達される。フロントサイドメンバ12は、この衝突荷重に耐えようとするが、衝突荷重が、フロントサイドメンバ12で受けきれないほど大きい場合には、当該衝突荷重から逃げるように、フロントサイドメンバ12が変形(屈曲・湾曲)する。この過程で、バンパRF14は、車両後方に移動し、衝突荷重の一部が、バンパRF14から直接、あるいは、バンパRF14とMCクロスメンバ20の間に介在する他部材を介して、MCクロスメンバ20にも入力されることがある。
MCクロスメンバ20に、車両後ろ向きの衝突荷重が印加されると、MCクロスメンバ20の前側クロス部20Fが、開口部34を潰す方向に変形しようとする。しかしながら、モータマウント28のメンバ側締結部54が、開口部34を横断するように、前側クロス部20Fと後側クロス部20Rとに連結されている。このメンバ側締結部54は、MCクロスメンバ20の前後方向の変形を規制する補強部材として機能する。メンバ側締結部54が、前側クロス部20Fおよび後側クロス部20Rに連結されることで、この二つのクロス部20F,20Rの相対変位が規制され、MCクロスメンバ20の変形が抑制される。
また、万一、前側クロス部20Fとメンバ側締結部54とを連結するスタッドボルト86や締結ボルト92が破損する等して、前側クロス部20Fとメンバ側締結部54との連結が解除されたとしても、前側クロス部20Fと後側クロス部20Rとの間には、メンバ側締結部54の突出部82が介在する。そのため、前側クロス部20Fが後方に移動しようとしても、前側クロス部20Fが突出部82に当接して、更なる後方移動が規制される。結果として、MCクロスメンバ20の変形が抑制される。
そして、MCクロスメンバ20の変形が抑制されることで、開口部34に通された高電圧ケーブルの挟み込みが効果的に防止される。また、MCクロスメンバ20に搭載された回転電機ユニット22やPCU24、充電器26といった高電圧部品も、より適切に保護される。
次に、微小ラップ衝突またはオブリーク衝突時の挙動について説明する。この場合、衝突荷重は、フロントサイドメンバ12よりも外側に突出したガセット18に印加される。ガセット18に印加された衝突荷重は、当該ガセット18を介して、フロントサイドメンバ12の側面に伝達される。このとき、衝突荷重に起因する応力は、ガセット18の後端、あるいは、補強ビード40の途切れ箇所42に集中しやすい。その結果、フロントサイドメンバ12は、ガセット18の後端あるいは補強ビード40の途切れ箇所42付近で、車幅方向内側に屈曲する。このとき、この応力集中部(ガセット18の後端および補強ビード40の途切れ箇所42)と同じ車両前後方向位置において、MCクロスメンバ20とフロントサイドメンバ12は、車幅方向に離間した状態で正対している。換言すれば、MCクロスメンバ20との間に、フロントサイドメンバ12が、車幅方向内側に屈曲するためのスペースが十分に確保されている。そのため、本例によれば、フロントサイドメンバ12が車幅方向内側に確実に屈曲できる。
また、フロントサイドメンバ12が、屈曲すると、図3に示すように、フロントサイドメンバ12とブラケット32の締結位置も変化する。この締結位置の変化に伴い、真ん中および後側の第一締結孔64b,64c,74cの周縁が破断し、締結ボルトから離間する。これにより、ブラケット32が、フロントサイドメンバ12の締結位置の変位に追従するように、最も前側の第一締結孔64a,74aを中心として回転できる。そして、これにより、フロントサイドメンバ12がより確実に屈曲できる。
フロントサイドメンバが、車幅方向内側に屈曲することで、MCクロスメンバ20の側面が、フロントサイドメンバ12の屈曲部で車幅方向内側に押圧される。なお、このとき、フロントサイドメンバ12は、車幅方向内側だけでなく、車両後方にも移動しようとする。しかし、フロントサイドメンバ12の屈曲部が、MCクロスメンバ20の側面に設けられた張出壁62に引っかかることで、フロントサイドメンバ12の後方移動が効果的に規制される。そして、これにより、衝突荷重が、フロントサイドメンバ12からMCクロスメンバ20に、より確実に伝達される。
MCクロスメンバ20の片側のサイド部20Sに入力された衝突荷重は、前側クロス部20Fおよび後側クロス部20Rを介して、反対側のサイド部20Sへと伝達される。反対側のサイド部20Sは、反対側のフロントサイドメンバ12に当接し、押圧する。そして、これにより、衝突荷重が、反対側のフロントサイドメンバ12へと伝達される。反対側のフロントサイドメンバ12は、衝突荷重の一部を吸収するとともに、当該衝突荷重を避けるように車幅方向へ変位する。すなわち、車体全体が、衝突荷重から逃げるように車幅方向に変位する。そして、結果として、乗員や高電圧部品を効果的に保護できる。
以上の説明から明らかなとおり、本明細書で開示の車両前部構造10によれば、ガセット18の後端、あるいは、応力集中部と同じ車両前後方向位置において、MCクロスメンバ20とフロントサイドメンバ12が、車幅方向に離間した状態で正対している。その結果、微小ラップ衝突あるいはオブリーク衝突の際にフロントサイドメンバ12が、車幅方向内側に屈曲できる。そして、これにより、衝突荷重を、MCクロスメンバ20を介して、反対側のフロントサイドメンバ12に伝達できる。なお、ここまで説明した構成は、一例であり、ガセット18の後端、あるいは、応力集中部と同じ車両前後方向位置において、MCクロスメンバ20とフロントサイドメンバ12が、車幅方向に離間するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。たとえば、上述の例では、MCクロスメンバ20は、その中央に開口部34を有した略ロ字であるが、MCクロスメンバ20は、開口部34を有さない形状であってもよい。したがって、MCクロスメンバ20は、平面視で略矩形のブロック状でもよい。また、MCクロスメンバ20は、サイド部20Sに替えて、前側クロス部20Fと後側クロス部20Rの間に、略X状に掛け渡される二つの渡り部を有した形状であってもよい。