JP6960590B2 - 複合材料およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、複合材料およびその製造方法に関する。特に、断熱性能に優れ、かつ吸音性能も有する複合材料とその製造方法に関するものである。
断熱材の種類には様々あるが、断熱性能が高い断熱材としては、シリカエアロゲルおよびシリカキセロゲルが挙げられる。様々な分野において、断熱性の高い断熱材の必要性が高くなってきており、適用する部材の形状も多様化している。シリカエアロゲルおよびシリカキセロゲルは、空気(熱伝導率は常温下で約26mW/mK)の平均自由行程68nmよりも小さな細孔を有し、固体の熱伝導や対流による熱伝導が少なく、高い疎水性を有するため、空気よりも優れた断熱効果を有することが知られている。
一方、吸音材の種類にも様々あるが、一般的に普及している吸音材としては、グラスウールやロックウールなどの繊維材や、ウレタンフォームやポリエチレンフォームなどのフォーム材が挙げられる。しかしながら、前記繊維材は耐熱性能に優れるが断熱性能が高くなく、フォーム材は断熱性能に優れるが耐熱性能が高くないという課題がある。そのため、熱交換器や内燃機関などの高温になる装置・部材に関しては、フォーム材は耐熱性の問題から使用温度に限りがあり、繊維材が広く用いられている。
一般的に、高い断熱性能と高い吸音性能を有する部材は知られておらず、用途に応じて、高温になる装置・部材に関しては繊維材による対策、比較的低温の装置・部材に関してはフォーム材による対策を講じることが主流である。
しかしながら、断熱性と吸音性とに優れた断熱吸音材を提供する方法がある。先行技術文献としては、例えば、特許文献1が知られている。
特許文献1において、断熱吸音材は体積弾性率が1.4×10Pa以下の柔軟性構造体と、その外面に配置された断熱層とを備え、前記断熱層はエアロゲル粒子とその結合剤を含んでいる。さらに、前記断熱吸音材は、1層目の柔軟性構造体と2層目の断熱層の界面に接着剤、若しくは前記結合剤を用いて接着することで構成されている。
特開2015−197662号公報
しかしながら、エアロゲル粒子を結合剤により結合して断熱層を得る製造方法では、非常に剛性に優れており、建材など様々な用途に有効利用できる。しかし、エアロゲル粒子間に存在する結合剤が熱パスとなり、高い断熱性能を得ることが難しい。
また、断熱性能と吸音性能を両立させる複合材料を構成する上で、層間の接着を前記結合剤や他の接着剤で実施する場合、高い断熱性能と高い吸音性能を得るには不向きである。
ここで吸音性能について補足する。一般的に、吸音材の性能を表現する上で、音の周波数と吸音率の相関で表現されることが多い。人の可聴領域は20〜20000Hzと言われているが、その高周波側は個人差により可聴範囲は変動する。余談ではあるが、17000Hz程度の音(モスキートリングトーン)は若者のみに聞こえる音域として知られ、そこに集まる不良な若者を撃退する装置として商品化されたものがある。我々の生活上、身近なもので表現すると、一般的なピアノ(88鍵タイプ)で数10〜4200Hz程度と言われている。最低音は可聴領域の下限付近だが、最高音は余裕がある。しかし、年齢と共に高音域が聞き取りにくくなることから、ピアノの出す音が凡そ我々の生活する上での可聴領域と考えられる。以上のことから、本発明において、吸音性能については、5000Hz以下の吸音率で評価することにした。
よって、本発明の課題は、より高温になる装置・部材に適用可能で、かつ高い断熱性能と吸音性能を有する、高性能な断熱吸音材を提供することである。
上記目的を達成するために、繊維とナノサイズ多孔体の2成分から成る積層構造であり、前記積層構造が3層以上を形成し、前記3層の各層はそれぞれ前記ナノサイズ多孔体の含有割合が異なることを特徴とする複合材料を用いる。また、繊維原綿とエアロゲル前駆体をスラリー化する工程と、前記スラリーをシート化させる工程と、前記シートに繊維基材を積層させエアロゲル前駆体を複合化させる工程と、前記複合層に繊維基材を積層させる工程と、を含む複合材料の製造方法を用いる。
本発明によれば、複層構造の断熱吸音材が製造可能で、適用可能なアプリケーション領域を広げることが可能となる。また、高い断熱性能のエアロゲルを高い割合で含有する断熱材を製造することが可能であり、断熱性能の向上を図ることができる。
本発明の実施の形態1の複合材料の概略断面図 本発明の実施の形態1の複合材料の製造方法の工程図 ゲル率―熱伝導率相関を示す図 周波数―吸音率相関を示す図
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1の複合材料の概略断面図である。図1の概略断面図を用いて全体構造を説明する。図1において、複合材料10は3層構造である。
第1の層1は、繊維とナノサイズ多孔体の2成分から構成され、前記ナノサイズ多孔体の含有割合は重量比率で、70〜95重量%である。
第2の層2は、繊維とナノサイズ多孔体の2成分から構成され、前記ナノサイズ多孔体の含有割合は重量比率で、40〜60重量%である。
第3の層3は、繊維とナノサイズ多孔体の2成分から構成され、前記ナノサイズ多孔体の含有割合は重量比率で、5重量%以下である。第1〜3それぞれの層は、前記ナノサイズ多孔体により結合されている。
上記ナノサイズ多孔体とは、エアロゲルである。エアロゲルとしては、シリカエアロゲル、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲルなどが知られているが、断熱性能、製造コストの面からシリカエアロゲルが好ましい。
エアロゲルは、エアロゲル粒子が連鎖的に3次元ネットワークを構築し、前記エアロゲル粒子間に微細な細孔を有する。上記細孔のサイズは、平均細孔径で10〜68nmであることが好ましく、より好ましくは20〜50nmである。
平均細孔径が10nm未満の場合、固体成分が過多となるため固体の伝熱成分の影響により熱伝導率が大きくなってしまう。
平均細孔径が68nmを超える場合、空気の約78%を占める窒素分子の平均自由行程(68nm)よりも大きな細孔となるため、空気の対流の影響により熱伝導率が大きくなってしまう。
<全体プロセス>
図2は本発明の実施の形態1の複合材料10の製造方法の工程図である。図2に沿って工程を説明する。
(1)繊維解繊
まず、エアロゲル前駆体(ゾル溶液)に分散させる繊維の分散効率を上げるために、物理的に繊維の小片化を行なう必要がある。実施の形態1で用いた繊維は、一般的に極短繊維と呼ばれており、繊維長は0.1〜10mm、好ましくは1〜5mmであり、線径は直径0.2〜6μm、好ましくは1〜3μmのものを用いている。
前記繊維は、紡糸される際にある程度大きな綿状である。上記綿状のサイズは、数十mm以上のものや、運搬時の押圧により圧縮され数百mm以上のものなど様々である。上記大きな綿状のまま、後の(3)スラリー化に用いると、ゾル溶液に繊維を分散させる際に時間を要す。スラリー化を円滑に進めるためには、予め、綿状の繊維を物理的に小片サイズに解き解す必要がある。本発明の実施の形態1では、大きな綿状の繊維集合体を小片サイズに解き解す工程を解繊と呼ぶことにする。解繊後の小片サイズの繊維は平板状にすることが好ましい。上記解繊後の小片サイズの繊維の大きさは、上記平板状の平面方向における長手寸法をA、厚み方向の代表的な厚み寸法をBとした場合に、前記A、Bの比率が、A:B=20:1以下、好ましくはA:B=10:1以下にし、かつ上記Aの寸法を20mm以下、好ましくは10mm以下とする。
予め、解繊しなければ前記ゾル溶液に分散する際に時間を要す。解繊後のサイズが大き過ぎたり、解繊なしでゾル溶液と分散させても、後のスラリー化の工程において、その元の繊維の塊のままゾル溶液を吸い込むだけであり、所望の均一なスラリーが得られない。
また、一般的に短繊維と呼ばれる50〜65mm程度の長さの繊維では予め細かく解繊していても、後のスラリー化の工程において、繊維同士が絡み合い、大きな繊維の塊となってしまい、均一な分散液は得られない。
繊維長について、0.1mm以下になると繊維同士の絡み合いが発生し難くなり、成形体としての強度が確保できなくなる場合がある。10mm以上、特に上記短繊維の領域に近づくと、後のスラリー化工程において、繊維同士の絡み合いや回転翼への巻きつきなどが発生し、生産性が低下する場合がある。
線径について、1μm以下になると繊維自体の調達が難しくなり、経済性および生産性が損なわれる場合がある。3μmを超えると、断熱材としての性能を低下させる場合がある。
太過ぎる線径の繊維では、この繊維自体が熱パスとなり適さない。本実施の形態1で用いる繊維は、断熱材用途であるため細めの線径が好ましい。また、本実施の形態1では1種類の繊維について記述しているが、これに限定されるものではなく、複数種の繊維を混合させても良い。
繊維の材質については、ガラス繊維を用いているが、これに限定されるものではなく、他に、ポリマー系繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、植物由来繊維、鉱物由来繊維などを用いても良い。
(2)シリカゾル溶液調整
シリカエアロゲルを製造する際の出発原料として、水ガラス(珪酸ソーダ水溶液)を用い、調製は水ガラスの珪酸濃度、またゲル化時に使用する酸の種類と濃度、ゲル化条件(温度、時間、pH)を調整することで制御できる。
この水ガラスの珪酸濃度については、シリカ重量がゾル総重量に対して5〜20重量%になるように調製すればよく、10〜20重量%であると好ましく、15〜20重量%であるとより好ましい。珪酸濃度が、6重量%以下であると、珪酸濃度が薄いため湿潤ゲル骨格の強度が不十分になる場合がある。また、珪酸濃度が20重量%を越えると、ゾル溶液のゲル化時間が急激に早くなり制御できなくなる場合がある。
酸については、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸などを使用することができるが、珪酸の加水分解反応の促進および得られるゲルの骨格強度、後に続く疎水化工程も考慮すると、塩酸を使用することが好ましく、濃度については1N〜12Nが好ましく、より好ましくは6N〜12Nである。塩酸濃度が低過ぎると、所望のpHに調整する際、より大量の希塩酸を添加する必要があるため、珪酸濃度が減少し、シリカネットワークの構築が効果的に進行しない場合がある。
より工業的には、シリカゾル溶液のポットライフの観点から、所望のゲル化反応を起こすためには以下の方法が良い。必要な酸の2倍量を仕込んだシリカゾル溶液Aと、酸を含まないシリカゾル溶液Bを調整する。これらのシリカゾル溶液をそれぞれ別系統で搬送し、塗布先の型や基材の直上で、これらのシリカゾル溶液を混合させ、型や基材に塗布する方法が好ましい。
(3)スラリー化
工程(1)で小片状に解繊した繊維を、工程(2)で調整したシリカゾル溶液と混合、攪拌し、所望のスラリーを得るために行なう。回転翼を有する攪拌槽に、上記小片状に解繊した繊維と上記シリカゾル溶液を投入し、攪拌させ、均一なスラリーを得る。
本実施の形態1における均一なスラリーの定義として、粘度100mPa・s以下で、かつ攪拌直後に繊維が沈降していないこと、かつ目視で繊維が塊状に残っていないこととした。粘度が100mPa・sを超えると、後の(4)注液―成膜工程で、型や基材へのスラリーの充填性が損なわれる場合がある。また、繊維が沈降および塊状に残っている場合は、型や基材へスラリーを注液する際に、繊維とシリカゾル溶液が偏在し、所望の厚み維持が困難になる場合がある。
攪拌槽に投入するシリカゾル溶液の量は、繊維の重量に対し、50倍以上、好ましくは100〜200倍の重量比のシリカゾル溶液を投入する。
シリカゾル溶液が50倍未満の場合、繊維が非常に嵩高いため攪拌が促進せず、均一なスラリーを得ることができない場合がある。そのため、繊維重量に対し、十分に多いシリカゾル溶液が必要となるが、200倍を超える場合はスラリー内の繊維割合が低下するだけでなく、経済性、生産性を損なってしまう場合がある。
攪拌条件は、回転翼の回転数を180〜1800rpmで30分〜3時間攪拌する。回転数が180rpm未満であると、投入する繊維の重量にもよるが、繊維が均一に分散するまでに長時間要することになり、生産性を損なう場合がある。
回転数が1800rpmを超えると、回転開始から間もない時間帯は繊維が小片状であり、繊維とシリカゾル溶液の分散が十分に行なわれていないため、シリカゾル溶液が飛散する場合がある。そのため、回転翼は回転開始から3〜5分間程度は低速回転で回転させ、徐々に高速回転させることが好ましい。
回転翼の形状については、ピッチドパドル、アンカー翼、2〜4枚プロペラ、ピッチドタービン、ディスクタービン、リボン翼など特に限定しないが、軸流と上下循環流を合成流として発生させ、回転翼と攪拌槽壁面によるせん断力を発生させれば良い。
回転中の温度については、恒温水槽などを用いて20〜70℃で温調する。繊維を攪拌する媒体として用いるシリカゾル溶液は水溶液であるため、20℃未満、特に0℃に近い温度では、繊維が均一に分散するまでに長時間要することになり、生産性を損なう場合がある。
70℃を超える温度では、シリカゾル溶液の揮発が促進されるため、所望のシリカゾル溶液の濃度が得られない場合がある。また、攪拌に用いるシリカゾル溶液が攪拌中にゲル化することを防ぐため、工程(2)で示したように、必要な酸の2倍量を仕込んだシリカゾル溶液Aと、酸を含まないシリカゾル溶液Bの段階で、どちらかのシリカゾル溶液のみを攪拌に用いた方が良い。特に、シリカゾル溶液Aを媒体として用いる場合は、含んだ酸が揮発し易いため、高温域での攪拌は所望のゲル化反応が得られない場合がある。
(4)注液―成膜
ここでは、工程(3)で得られたスラリーを型に注液し、所望の第1の層1を形成する。上記シリカゾル溶液Aと上記シリカゾル溶液Bを予め混合させ、型へ注液する。この工程では、完全にゲル化を完了させず次工程へ移行する方が好ましいが、生産性を考慮するとゲル化をある程度促進させるために、型温度を30〜70℃で加熱しても良い。30℃未満ではゲル化が促進され難く、生産性を損なう場合がある。70℃を超えるとシリカゾル溶液中の水分が揮発し、ゲル化反応の途中で揮発水分が分離して、所望のシリカエアロゲルが得られない場合がある。
ゲル化の促進程度としては、シリカゾル溶液の粘度で200mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下が良い。ゲル化が進行し100mPa・sを超えると、後の(5)第2層基材積層工程で積層する繊維基材へ、本工程で注液したシリカゾル溶液が浸透しない場合がある。本工程で注液したシリカゾル溶液が第2の層2の基材へ浸透した方が、ゲル化する際に、ゲルと繊維がより複雑に絡み合い、アンカー効果で第1の層1と第2の層2がより強固に結合するためである。
より高強度なシリカエアロゲルと繊維の複合成形体を得るためには、上型と下型に分かれた型の下型側を、メッシュ状にし、シリカゾル溶液のみを型外へ脱水させることで、繊維の重量割合が高くなり、シリカゾル溶液が脱水する際に、繊維が脱水方向に対し並行に配向し易くなり、型内においてより複雑な繊維の配向となるため、より高強度な成形体を得ることができる。ただし、シリカゾル溶液を過剰に脱水すると、当然ながら、エアロゲルの含有率が低下し、断熱性能の低下に繋がる場合がある。
メッシュサイズについては、10〜150メッシュが良い。10メッシュでは、メッシュの線径にもよるが、一般的に目開き量が1.4〜2.1mmであり、開口サイズが大きくなる。そのため、脱水時にメッシュ内にスラリー中の繊維が入り込み、メッシュの形状のままゲル化する場合があり、所望の形状の成形体を得られない場合がある。また、後の離型工程で離型し辛くなり、生産性を損なう場合がある。また、150メッシュでは、一般的に目開き量が0.1mm程度であり、開口サイズが小さくなるため、脱水し難く、脱水時に圧力を掛ける場合があり、生産性を損なう場合がある。
(5)第2の層の基材積層
本工程は、工程(4)にてゲル化過程にあるシリカゾル溶液に、第2の層2の基材を積層させる工程である。第2の層2の基材は、布状の繊維基材である。第1の層1で注液されたシリカゾル溶液は、第2の層2の基材が積層されるタイミングでは比較的低粘度(好ましくは100mPa・s以下の)状態であり、毛管力により第2の層2の基材の界面へ浸透する。
結果、第1の層1と第2の層2と界面は、シリカゾルで結合される。
第2の層2の基材材質については、シリカゾル溶液と親和性があれば、無機繊維と有機繊維のどちらでも良く、用途に応じた材質を選定可能である。無機繊維としては、シリカ繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維のいずれか一つ以上を含む無機物の繊維を使用できる。有機繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを使用することができる。シリカゾル溶液と親和性がない場合は、基材内へシリカゾル溶液が浸透しにくく、気泡の発生要因となる場合がある。気泡が発生すると、所望の断熱性能が得られない場合がある。
(6)第2の層含浸
前工程で積層された第2の層2の基材に、工程(2)で調整されたシリカゾル溶液を、新に注液し、前記第2の層2の基材の空隙部にシリカゾル溶液を満遍なく含浸させる工程である。この工程では、完全にゲル化を完了させず次工程へ移行する方が好ましいが、生産性を考慮するとゲル化をある程度促進させるために、型温度を30〜70℃で加熱しても良い。30℃未満ではゲル化が促進され難く、生産性を損なう場合がある。70℃を超えるとシリカゾル溶液中の水分が揮発し、ゲル化反応の途中で揮発水分が分離して、所望のシリカエアロゲルが得られない場合がある。
ゲル化の促進程度としては、シリカゾル溶液の粘度で200mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以下が良い。ゲル化が進行し100mPa・sを超えると、後の(7)第3の層3の基材積層工程で積層する繊維基材へ、本工程で注液したシリカゾル溶液が浸透しない場合がある。本工程で注液したシリカゾル溶液が第3の層3の基材へ浸透した方が、ゲル化する際に、ゲルと繊維がより複雑に絡み合い、アンカー効果で第2の層2と第3の層3がより強固に結合するためである。そのため、注液するシリカゾル溶液の量は、第2層目の基材の理論空隙体積量よりも十分に多い量を注液する。理論空隙体積量は、基材の厚み・重量・比重から算出可能である。
ここで、完成する複合材料10の中間層である第2の層2においては、最終目的用途により、工程(5)、工程(6)を繰り返し行うことも可能で、完成する複合材料10の厚みを増やすことも可能である。
(7)第3の層の基材積層
本工程は、工程(6)にてゲル化過程にあるシリカゾル溶液に、第3の層3の基材を積層させる工程である。第3の層3の基材は、布状の繊維基材である。第2の層2で注液されたシリカゾル溶液は、第3の層3の基材が積層されるタイミングでは比較的低粘度(好ましくは100mPa・s以下の)状態であり、毛管力により第3の層3の基材の界面へ浸透する。
第2の層2と第3の層3との界面は、シリカゾルで結合されている。
第3の層3の基材材質については、シリカゾル溶液と親和性があれば、無機繊維と有機繊維のどちらでも良く、用途に応じた材質を選定可能である。無機繊維としては、シリカ繊維、アルミナ繊維、ガラス繊維のいずれか一つ以上を含む無機物の繊維を使用できる。有機繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを使用することができる。シリカゾル溶液と親和性がない場合は、基材内へシリカゾル溶液が浸透しにくく、基材とシリカゾル溶液の絡み合いが発生せず、所望のアンカー効果が得られない場合がある。
(8)ゲル化
本工程は、工程(4)、(6)で注液したシリカゾル溶液を、次工程へハンドリング可能な状態の粘度までゲル化させる工程である。具体的な粘度としては、400mPa・s以上、好ましくは500mPa・s以上である。500mPa・s未満の粘度状態では、非常に脆く、崩れ易いため、次工程への移行が難しく、生産性を損なう場合がある。生産性を考慮するとゲル化をある程度促進させるために、型温度を30〜70℃で加熱しても良い。30℃未満ではゲル化が促進され難く、生産性を損なう場合がある。70℃を超えるとシリカゾル溶液中の水分が揮発し、ゲル化反応の途中で揮発水分が分離して、所望のシリカエアロゲルが得られない場合がある。
(9)養生
ゲル化した複合材料10を、乾燥時にかかる毛管力に耐えうるだけの強度にするために、シリカ粒子の重縮合、および、二次粒子の成長を促す必要がある。ゲル化後、成形体の水分が揮発しない0〜100℃で、好ましくは60〜90℃、で加熱養生し、シリカ粒子の重縮合と二次粒子の成長を促進させる。養生温度が60℃未満であると珪酸に必要な熱が伝わらず、シリカ粒子の成長が促進されず、養生が十分に進行するまでに時間を要する上に、ゲル強度が低く、乾燥時に大きく収縮する場合があり、所望のシリカエアロゲルが得られない場合がある。また、養生温度が90℃を超え100℃に近づくほど、成形体の水分が揮発してゲルと分離する現象がみられ、これにより得られるゲルの体積が減少して、所望のシリカエアロゲルが得られない場合がある。
また、養生中に成形体の水分が容易に揮発しないよう、養生中の湿度を70%以上にすることが好ましい。
養生時間は養生する温度や成形体の厚みにもよるが、3分〜24時間が好ましい。養生時間が3分未満であると、ゲル壁の強度向上が不十分な場合がある。養生時間が24時間を超えると、ゲル壁の強度の向上における養生の効果が乏しくなり、逆に生産性を損なう場合がある。
(10)疎水化(塩酸浸漬)
疎水化工程は、親水性のヒドロゲルを疎水化剤と反応させて、疎水性のゲルとする工程である。この疎水化工程は主に2つのステップに分かれている。
まず、第1のステップは、養生後のヒドロゲルの細孔に塩酸を取り込むための工程である。ヒドロゲルの細孔全体に塩酸が取り込まれないと、後の第2ステップにおいて、所望の反応が発生せず、疎水化処理が完了しないため、一部親水性のエアロゲルとなる。エアロゲルの表面から内部まで疎水化が完了しないと、所望の断熱性能が得られない。
用いる塩酸の塩酸濃度は3〜12Nが好ましい。3N未満の塩酸濃度の場合、塩酸濃度が低いため、シロキサンの反応生成物である活性種の濃度が低く、第2ステップ(11)疎水化(シリル化工程)が十分に進行しない場合がある。12Nより高い濃度の塩酸は、工業的に生産されておらず、入手困難である。
また、塩酸の量は、ヒドロゲルが十分に浸漬する量であれば特に制限はないが、ヒドロゲルの重量の2〜100倍が好ましい。塩酸の使用量がヒドロゲルの2倍未満の場合、塩酸濃度が低いため、シロキサンの反応生成物である活性種の濃度が低く、第2ステップ(11)疎水化(シリル化工程)が十分に進行しない場合がある。また、塩酸の使用量が100倍より多い場合、塩酸を過剰量使用するため、生産性を損なう場合がある。
塩酸の浸漬条件としては、液温0〜50℃、浸漬時間30秒〜72時間が好ましい。塩酸が0℃未満、かつ浸漬時間30秒未満の場合、ヒドロゲルの細孔に塩酸が十分浸透しない場合がある。塩酸が50℃より高く、かつ浸漬時間が72時間より長い場合、生産性を損なう場合がある。
(11)疎水化(シリル化処理)
疎水化の第2ステップ(シリル化処理)は、ヒドロゲルの細孔に浸透させた塩酸と疎水化剤の反応により生成した活性種とシリカ表面のシラノールを反応させる工程である。上記塩酸と上記疎水化剤の反応が完了していないと、疎水化処理が完了しないため、一部親水性のエアロゲルとなる。エアロゲルの表面から内部まで疎水化が完了しないと、上記親水性のエアロゲルに水分が吸着する場合がある。エアロゲルの表面から内部に渡り、上記水分が担持されると、上記水分が熱パスとなることで、所望の断熱性能が得られない場合がある。所望の断熱性能が得られない。
本実施の形態1の疎水化剤は、鎖状シロキサン、または環状シロキサンである。上記疎水化剤を少なくとも1種の疎水化剤として用いており、アルコールと上記疎水化剤との混合溶媒中において、疎水化反応を行なう。
上記鎖状シロキサンとしては、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサンなどが用いられる。上記鎖状シロキサンと塩酸とを反応させることで、トリアルキルクロロシランとジアルキルジクロロシランが生成し、同時に水が副生する。
上記環状シロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどが用いられる。上記環状シロキサンと塩酸を反応させることで、ジアルキルジクロロシランとジアルキルジクロロシランが生成し、同時に水が副生する。
疎水化剤である鎖状シロキサン、あるいは環状シロキサンの仕込み量は、ヒドロゲルの細孔容積に対して、100〜800%が好ましく、100〜300%がより好ましい。疎水化剤がヒドロゲルの細孔容積に対して、100%未満の場合、ヒドロゲル表面および内部に存在するシラノール(Si−OH)が未反応のまま残ってしまう場合がある。この場合、乾燥時に溶媒の毛管力によりシラノールが物理的に接触することで、脱水縮合反応が起こり、ゲルの収縮・高密度化につながってしまう場合がある。疎水化剤がヒドロゲルの細孔容積に対して、800%より多い場合、シラノールと反応すべき必要最低限の疎水化剤量よりも過剰になっている場合があり、経済性および、生産性を損なってしまう。
疎水化反応は必要であれば溶媒中で行い、一般に20〜100℃、好ましくは40〜80℃において実施される。反応温度が20℃未満の場合、疎水化剤の拡散が十分でなく、疎水化が十分に行なわれない場合がある。反応温度が100℃を超えると、疎水化剤が揮発しやすく、反応に必要なシリル化剤がヒドロゲルの外部、および内部に供給されない場合がある。同時に、疎水化反応の進行に伴い、排出する酸水溶液が沸騰してしまい、安全性に問題が生じる。反応温度が40〜80℃であれば、疎水化剤は速やかに拡散するため、十分に反応が行なわれ、疎水化反応の進行に伴い、排出する酸水溶液を沸騰させずに安全に作業することができる。
使用する溶媒は、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの直鎖脂肪族炭化水素類が好ましい。
ヒドロゲルは固体で親水性であるのに対し、疎水化剤は液体で疎水性であるため、両者は容易に混ざり合わない上に、固液不均一系反応であることから、反応活性種を効率よくヒドロゲルと反応させるために、両親媒性の溶媒であるアルコール類、もしくはケトン類を用いるのが好ましく、アルコール類がより好ましい。
シリル化処理の浸漬時間としては、3分〜72時間が好ましい。反応の終点を確認するには、疎水化反応の進行に伴いヒドロゲルから排出される酸水溶液の量が、一定量で止まることで判断できる。浸漬時間3分未満の場合、反応に必要なシリル化剤がヒドロゲルの外部、および内部に供給されない場合があり、反応不十分となる場合がある。浸漬時間が72時間より長い場合、生産性を損なう場合がある。
(12)乾燥
乾燥工程は、前工程で得られた疎水化ゲル中の液体溶媒を揮発させる工程である。乾燥手法は公知の乾燥方法であれば、超臨界乾燥法、および非超臨界乾燥法(常圧乾燥法、凍結乾燥法)のどちらでも良く、特に制限はない。非超臨界乾燥法として常圧乾燥を用いることが、量産性、安全性、経済性の観点から好ましい。ゲルが耐え得る乾燥温度であれば、乾燥時間に制限はないが、急激な加熱では、ヒドロゲル中の溶媒が突沸して、シリカエアロゲル中に大きな亀裂が生じる場合がある。シリカエアロゲルに亀裂が生じると、亀裂の大きさによるが、空気の対流による伝熱を生じさせ、断熱性を損なわせたり、粉状となり取扱性が著しく損なわれたりする場合がある。
乾燥工程は、例えば常圧以下においては、乾燥温度0〜400℃で0.5〜5時間乾燥することが好ましい。乾燥温度が0℃以下だと、著しく乾燥時間が長くなり、生産性を損なう場合がある。また、乾燥温度が400℃を超えると、疎水化条件にもよるが、疎水性エアロゲルのジアルキルジシロキサン結合、あるいは架橋型ジシロキサン結合が熱分解により遊離し、得られるゲルは疎水性を消失したヒドロゲルになってしまう場合がある。なお、疎水性エアロゲルをポリマー系の繊維、不織布などの基材に複合化させて製造する場合は、基材の融点以下である200℃以下で乾燥させることが好ましい。
<実施の形態1の効果>
本実施の形態1の効果について、図を交えながら説明する。図3は、ゲル率と熱伝導率の相関を示している。このグラフは、繊維重量とエアロゲル重量を切り分けて比較できるように、単層の繊維基材にエアロゲルを複合化させた評価サンプルの熱伝導率と、繊維基材のみ(ゲル率0重量%)の熱伝導率の結果である。
図4は、周波数と吸音率の相関を示している。このグラフは、本発明品の吸音率と、繊維基材単体の吸音率と、繊維基材とエアロゲルの複合材の吸音率を示している。
<第1の層1>
本実施の形態1における第1の層1は、シリカゾル溶液と繊維をスラリー化し、シート状に形成することで、シリカエアロゲルと繊維の複合断熱材の製造が可能であり、複合断熱材のシリカエアロゲルの重量比率を70〜95重量%、好ましくは85〜95重量%とすることが可能である。熱伝導率18mW/mK以下の高い断熱性能を得ることができる。図3において、シリカエアロゲルの重量比率が72重量%で、17.7mW/mKを示している。
ここで、本発明の複合材料10が、なぜ高いシリカエアロゲルの重量比率で製造可能かを説明する。従来の不織布などの繊維基材とシリカエアロゲルを複合化させる製造方法においては、用いる繊維基材は、その繊維同士が複雑に絡み合い、繊維が密集した状態になっている。ここにシリカエアロゲルを複合化させようとしても、上記繊維基材の空隙と繊維基材の表面にシリカエアロゲルを導入するのみに留まる。上記繊維基材の表面にシリカエアロゲルを大量に積層させようとしても、上記(12)乾燥工程の非超臨界乾燥法では、シリカエアロゲルに亀裂が生じ、粉状、鱗片状に脱落する場合がある。本発明の複合断熱材は、溶媒に極短繊維を分散させて、注液、ゲル化させており、シート形状を保つために、最低限必要な繊維の絡み合いで形成されている。
<第2の層2>
本実施の形態1における第2の層2は、シリカゾル溶液を繊維基材に含浸することで、繊維基材の空隙部分に満遍なくエアロゲルを複合化した複合断熱材の製造が可能であり、複合断熱材のシリカエアロゲルの重量比率を40〜60重量%とすることが可能であり、熱伝導率24mW/mK以下の高い断熱性能を得ることができる。図3において、シリカエアロゲルの重量比率が56重量%で、19.8mW/mKを示している。
<第3の層3>
本実施の形態1における第3の層3は、繊維基材の片方の面に、隣接するシリカゾル溶液を含有する層から、毛管力により、シリカゾル溶液を浸透させ、ゲル化し、このエアロゲルを介して結合されることで、シリカエアロゲルの重量比率が5重量%以下の複合材料10を得ることができる。図3において、本実施の形態1で用いた繊維基材の熱伝導率は37mW/mKである。
<複合材料10>
本実施の形態1における吸音率の評価結果は、図4に示すとおりである。複合材料10(3層)を、繊維基材単体と本発明品を比較すると、低周波数側は複合材料10の方がより高い吸音性能を示している。また、繊維とエアロゲルの複合体だけでは、吸音率0.2程度を示しており、エアロゲルは吸音性能に乏しいことが伺える。
つまり、本結果より、熱源側には断熱性能の高いエアロゲルリッチな層を、音源側には吸音性能の高い繊維リッチな層を配置することで、高い断熱性能と吸音性能を両立できる複合材料10となる。なお、第2の層2は、必須の要素でない。あれば接続上、好ましい。
本実施の形態1における、繊維とエアロゲルの含有比率の異なる3層は、隣接する互いの層がエアロゲルで結合された複合材料である。なお、当然ながら、組合せ違いの方法で2層構造の断熱性能と吸音性能を兼ね備えた複合材料も製造可能である。
(全体を通して)
なお、第2の層2は、第1の層1と第3の層3と連続して積層されているのが好ましい。連続でなくともよい。それぞれの界面は、エアロゲルで結合させているのが好ましいが、結合されなくともよい。
第3の層3では、第2の層2側の面に、ナノサイズ多孔体が偏在していることが好ましい。
本発明の複合材料は、繊維とエアロゲルの重量比率を変えた複合層が形成可能で、断熱性能と吸音性能を向上させることができ、その結果、各種熱交換機器、住宅、自動車などの、各種断熱・吸音の用途に適用でき、産業上有用である。
1 第1の層
2 第2の層
3 第3の層
10 複合材料

Claims (6)

  1. 繊維とエアロゲルの2成分から成る積層構造であり、
    前記積層構造が3層を形成し、
    前記積層構造の各層はそれぞれ前記エアロゲルの含有割合が異なり、
    前記積層構造は、第1の層、第2の層、第3の層がこの順番で積層された3層であり、
    前記エアロゲルの各層での含有割合は、
    前記第1の層は70重量%以上95重量%以下、
    前記第2の層は40重量%以上60重量%以下、
    前記第3の層は5重量%以下である複合材料。
  2. 前記第2の層は、前記第1の層と前記第3の層と連続して積層されている請求項1に記載の複合材料。
  3. 前記第3の層は、前記第2の層側の面に、前記エアロゲルが偏在している請求項1または2に記載の複合材料。
  4. 各層間の界面は、前記エアロゲルにより結合されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合材料。
  5. 前記複合材料は、その表面およびその内部が疎水性である請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合材料。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合材料を製造する製造方法であり、
    繊維原綿とエアロゲル前駆体をスラリーとする工程と、
    前記スラリーを前記第1の層とする工程と、
    前記第1の層に第1繊維基材を積層させ、エアロゲル前駆体で前記第2の層とする工程と、
    前記第2の層に第2繊維基材を積層させ、エアロゲル前駆体で前記第3の層とする工程と、
    を含む複合材料の製造方法。
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