以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。以下で説明する形状、材料、及び個数、数値は、説明のための例示であって、中空糸膜クリンプ付与装置及び中空糸膜の仕様に応じて適宜変更することができる。以下ではすべての図面において同等の要素には同一の符号を付して説明する。また、本文中の説明においては、必要に応じてそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、実施形態に係る中空糸膜の製造方法で用いる中空糸膜製造装置10の構成図である。中空糸膜12は、複数本を束ねて中空糸膜束を形成した状態で筒体(図示せず)のケース内に収容する。そして、中空糸膜の両端部を、ケース内壁に固着する封止部材(図示せず)によって固定することにより、中空糸膜モジュール(図示せず)を形成する。中空糸膜モジュールは、例えば、血液透析、血液ろ過等の血液処理のために用いられる。
中空糸膜12は、例えば、膜厚が5〜150μm、内径が100〜500μm、外径が110〜800μm程度の断面円形の細管である。中空糸膜12の膜基材は、例えば、ポリエステル系樹脂とポリスルホン系樹脂を主たる膜基材とした、疎水性高分子製の半透膜から構成される。
中空糸膜を紡糸するための製膜原液は、樹脂濃度が10重量%〜25重量%となるように有機溶媒に溶解させることで、調製することができる。
また、中空糸膜12の原材料は、所定の形状と性能を付与できる材料であれば、特に限定されない。例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、セルロース誘導体などを単独、または組み合わせて使用することができる。
中空糸膜12には、波形の縮れであり、捲縮であるクリンプ13(図6)が形成される、すなわち付与される。中空糸膜12にクリンプ13を形成することで、中空糸膜モジュール内で中空糸膜12が熱収縮したときに当該クリンプ13が展開する(拡がる)。これにより、中空糸膜12の収縮に伴う中空糸膜12の破断、及び封止部材の剥離が防止される。また、複数の中空糸膜12を束ねた状態で隣り合う中空糸膜12の密着を防ぐことができ、これにより、複数の中空糸膜12の外側を流れる流体の偏流を防止できる。
図1に示すように、中空糸膜製造装置10は、二重環式構造の紡糸口金であるノズル14、凝固槽16、水洗槽18、クリンプ付与槽20、及び巻き取り機22を備える。例えば、ノズル14からは、外側に紡糸原液を、内側に芯液を、それぞれ垂直下方に吐出することで中空糸膜12を形成し、その中空糸膜12を凝固槽で凝固させた後、水洗槽18に通過させて芯液を洗浄し、その後、クリンプ付与槽20に通過させる。クリンプ付与槽20には常温の水77が貯留されている。一方、中空糸膜にクリンプを付与する場合には、中空糸膜を物理的に曲げ、部分的に塑性変形させることが必要となる。温水中では、中空糸膜が軟化し、クリンプ付与時の中空糸膜に対する損傷を低減できる。このため、クリンプ付与槽20には好ましくは温水が貯留される。
図2は、実施形態に係る中空糸膜クリンプ付与装置24を示す斜視図である。図3は、図2のA部拡大図である。以下、中空糸膜クリンプ付与装置24は、クリンプ付与装置24と記載する。図2、図3では、クリンプ付与装置24を構成するロッドの軸方向と平行な第1方向をXで示し、水平面上で第1方向Xと直交する第2方向をYで示し、X及びYに対し直交する上下方向である垂直方向をZで示している。
図2、図3に示すように、クリンプ付与装置24は、支持部材26と、第1歯車軸40及び第2歯車軸42と、第1回転体50及び第2回転体60とを備える。支持部材26は、水平面上に固定された長方形状の基板28と、基板28の第1方向X両端部に直立するように固定された2つの支柱30と、各支柱30に固定された下側支持部32及び上側支持部33とを含む。各下側支持部32は、第1歯車軸40の両端部を支持するために用いられる。各上側支持部33は、第2歯車軸42の両端部を支持するために用いられる。
具体的には、各下側支持部32及び各上側支持部33は、図示しない第1孔及び第2孔を有する直方体状である。第1孔は、各下側支持部32及び各上側支持部33の長手方向一端部(図2の紙面の表側端部)において、それぞれ第1歯車軸40及び第2歯車軸42を通すためにX方向と平行に形成される。第2孔は、各下側支持部32及び各上側支持部33の長手方向他端部(図2の紙面の裏側端部)において、支柱30を通すために、Z方向と平行に形成される。
各支柱30において、垂直方向Zの所定位置に下側支持部32が固定され、下側支持部の上側に直方体状のスペーサ34を介して上側支持部33が固定される。例えば、各支柱30において、下側支持部32の下側にリング状の第1位置決め部材35が固定される。そして、その第1位置決め部材35の上側に下側支持部32を載せるように、下側支持部32の第2孔の内側に支柱30を貫通させ、下側支持部32を支柱に対し摺動させる。そして、各支柱30において、下側支持部32の上側にスペーサ34を載せるように、スペーサ34に垂直方向Zに形成された孔の内側に支柱30を貫通させ、支柱に対しスペーサ34を摺動させる。
さらに、各支柱30において、スペーサ34の上側に上側支持部33を載せるように、上側支持部33の第2孔の内側に支柱30を貫通させ、上側支持部33を支柱30に対し摺動させる。そして、各支柱30において、支柱30を貫通させるように筒状の第2位置決め部材36を支柱に摺動させながら、上側支持部33の上側に載せて、その状態で、第2位置決め部材36をボルト等の固定手段(図示せず)で固定する。例えば、第2位置決め部材36に半径方向に貫通するねじ孔を形成し、そのねじ孔にねじ込んだボルトの先端を支柱30の外周面に押し付けることで第2位置決め部材36を支柱に固定する。これによって、第1位置決め部材35及び第2位置決め部材36の間において、下側支持部32と上側支持部33とが垂直方向Zの異なる位置に固定される。また、2つの支柱30の上端部は、連結部材(図示せず)により連結して剛性を高くしている。
2つの下側支持部32は、垂直方向Zにおいて同じ位置に固定され、2つの上側支持部33も、垂直方向Zにおいて同じ位置に固定される。第1歯車軸40は、両端部が、2つの下側支持部32において、軸受(図示せず)等を介して回転可能に支持される。このとき、第1歯車軸40の両端部は、下側支持部32の第1孔を貫通する。また、第2歯車軸42は、両端部が、2つの上側支持部33において、軸受(図示せず)等を介して回転可能に支持される。このとき、第2歯車軸42の両端部は、上側支持部33の第1孔を貫通する。これにより、第1歯車軸40は、支持部材26に回転可能に支持される。また、第2歯車軸42は、支持部材26に回転可能に支持され、かつ第1歯車軸40に対し平行に配置される。また、第1歯車軸40と第2歯車軸42とは、第2方向Yにおいて同じ位置に配置される。
第1回転体50は、第1歯車軸40の周囲の軸方向両側に支持された2つの第1歯車51と、2つの第1歯車51に両端部が回転可能に支持された6つの第1ロッド52とを含む。また、第2回転体60は、第2歯車軸42の周囲の軸方向両側に支持された2つの第2歯車61と、2つの第2歯車61に両端部が回転可能に支持された6つの第2ロッド62とを含む。なお、第1ロッド及び第2ロッドは、両端部が歯車に回転可能に支持される構成に限定するものではなく、第1ロッド及び第2ロッドの両端部が歯車に固定されるように支持された構成としてもよい。
以下、図2、図3に加えて、図4から図6を用いて第1回転体50及び第2回転体60を説明する。図4は、図2に示す装置を構成する第1回転体50及び第2回転体60を、組み合わせた状態で取り出して示す斜視図である。図5は、第1回転体50及び第2回転体60を図4のB−B断面で切断して示す斜視図である。図6は、図5の回転軸方向一方側から見た図である。なお、図4から図5では、図2、図3の場合と異なり、第1回転体50の第1歯車51と第2回転体60の第2歯車61との軸方向についての中央位置を一致させている。第1歯車51と第2歯車61とは軸方向における中央位置を一致させても、異ならせてもよい。
2つの第1歯車51は、第1歯車軸40(図3)において軸方向両側に固定される。また、2つの第2歯車61は、第2歯車軸42(図3)において軸方向両側に固定される。これにより、第1歯車51及び第2歯車61は、支持部材26に対し回転可能に支持される。また、第1歯車51を含む第1回転体50及び第2歯車61を含む第2回転体60も、支持部材26に対し回転可能に支持される。なお、各歯車軸40,42の両端部を支持部材26に固定し、各歯車軸40,42に対し、それぞれ対応する歯車51,61を軸受等により回転可能に支持してもよい。さらに、複数の第1ロッド52は、2つの第1歯車51の各歯51aに対し、第1歯車の各歯51aの歯先51b(図4、図6)より半径方向内側に両端部が貫通した状態で支持される。第1歯車51及び第2歯車61のそれぞれの歯数は6であり、それぞれ6つの歯51a、61aが周方向において等間隔に、放射状に伸びて形成される。
また、2つの第2歯車61は、軸方向において対応する側である一方側、または他方側の第1歯車51と噛合する。図2、図3では、噛合する第1歯車51及び第2歯車61が軸方向において、中央位置が異なってオフセットされた場合を示しているが、軸方向中央位置は図4に示すように互いに一致させてもよい。さらに、複数の第2ロッド62は、2つの第2歯車61の各歯61aに対し、第2歯車の各歯61aの歯先61b(図4、図6)より半径方向内側に両端部が貫通した状態で支持される。このとき、複数の第2ロッド62は、複数の第1ロッド52と平行に配置される。各歯51a及び各歯61aの歯先51b、61bは、各歯車51,61の半径方向において、各歯51a、61aのうち、最も外側に位置する頂部である。
また、クリンプ付与装置は、第1歯車51及び第2歯車61が図6に矢印G1、G2で示すように逆方向に回転しながら、第1ロッド52と第2ロッド62との間に中空糸膜12が通過したときに、中空糸膜12にクリンプを付与する。このとき、中空糸膜12は、第1ロッド52及び第2ロッド62の間に、各ロッド52,62の長手方向に対し直交する方向に通過する。例えば、第1ロッド52及び第2ロッド62の間には、中空糸膜12がX方向(図2)に複数本並び分繊した状態で通過してクリンプが付与される。このとき、第1ロッド52及び第2ロッド62の間で、中空糸膜12はZ方向(図2)には、ほとんど重ならない。例えば、第1ロッド52及び第2ロッド62の間には、複数本以上の中空糸膜12がX方向(図2)に分繊し、かつ、Z方向(図2)に重なる中空糸膜は最低限となるため、中空糸膜の形状精度は維持される。なお、Z方向における第1ロッド52と第2ロッド62との間の隙間は、1本の中空糸膜に限らず、複数本の中空糸膜が通過可能な隙間が形成されてもよい。
実施形態のクリンプ付与方法は、上記のクリンプ付与装置24を用いて、第1ロッド52と第2ロッド62との間に中空糸膜12を通過させることにより、各歯車51,61を回転させながら、中空糸膜12にクリンプを付与する。このとき、クリンプ付与装置24は、中空糸膜12を水中に浸した状態で、第1ロッド52と第2ロッド62との間を通過させることにより、中空糸膜12にクリンプを付与することが好ましい。また、中空糸膜12は、後述するように巻き取り機22で引っ張ることにより、クリンプを付与しながら移動させるので、クリンプ付与装置24自体に各回転体50,60の回転のための動力源を必要としない。
例えば、クリンプ付与装置24では、第1回転体50及び第2回転体60を回転させるための電動モータ等の動力源が設けられていない。これによって、クリンプ付与装置24のうち、少なくとも中空糸膜12を通過させる部分を水中に浸して、水中に位置する第1回転体50と第2回転体60との間に中空糸膜を通過させることができる。このため、複数の中空糸膜12を第1ロッド52と第2ロッド62との間に通過させる際に、複数の中空糸膜12を適度に分繊させることができる。したがって、複数の中空糸膜12が固まり、第1ロッド52及び第2ロッド62の隙間以上の大きさの束になった状態で、クリンプ付与装置24に供給されることで、中空糸膜がロッドで押し潰され、真円度が悪化することを防止できる。これにより、中空糸膜の形状精度の向上を図れる。また、クリンプ付与装置24に動力源が設けられないので、クリンプ付与装置24を水中に浸して用いる場合に、動力源の周囲を密封して防水を図るための複雑な構造を設ける必要がない。
また、クリンプ付与装置24では、各回転体50,60の歯車51,61の歯先51b、61bより半径方向内側において、対応するロッドの端部が回転可能に支持される等で支持される。これにより、第1歯車51及び第2歯車61が噛合した状態で、第1ロッド52及び第2ロッド62の間に中空糸膜12が通過する隙間を形成できる。これにより、中空糸膜12がロッド52,62間で強く挟まれることを防止でき、真円度の低下及び潰れの発生を防止できる。
さらに、クリンプ付与装置24は、第1ロッドと第2ロッドとの間に中空糸膜12が通過するときに、第1歯車51及び第2歯車61の回転角度に関係なく、中空糸膜が接触する第1ロッド52と第2ロッド62との合計の数が3以下となるように構成される。具体的には、クリンプ付与装置の使用時には、図6に示すように、第1ロッド52と第2ロッド62とに中空糸膜12を巻きかけながら第1ロッドと第2ロッドとの間に中空糸膜12を通過させる。そして、図6の右側に配置した巻き取り機22(図1)によって中空糸膜を巻き取ることにより、中空糸膜を巻き取り機22側(図6の矢印α側)に移動させる。この際、中空糸膜12によって第1歯車51及び第2歯車61がそれぞれ矢印α側に引っ張られることで、それぞれ矢印G1、G2方向に回転する。このとき、中空糸膜12がロッドの巻きかけにより波形に変形することで中空糸膜12にクリンプが付与される。図6に示す状態で、中空糸膜12は1つの第1ロッド52と2つの第2ロッド62とに接触して変形する。そして、第1歯車51及び第2歯車61の回転角度に関係なく、中空糸膜12は、第1ロッド52及び第2ロッド62に対し、合計3つ以下のロッド52,62に接触する。
図7から図13を用いて、歯車の噛み込み量を変えた場合におけるロッド52,62と中空糸膜12とが接触する数(接触数)を説明する。2つの回転体である第1歯車51及び第2歯車61を図7から図9、図12、図13に示す状態でZ軸に対し線対称となるように配置し、一方の歯車を固定し、他方の歯車を半ピッチ分回転した状態で「噛み込み量」は規定する。このとき、一方の歯車に支持したロッドのうち、他方の歯車に最も接近した1つのロッドの先端と、他方の歯車に支持したロッドのうち、一方の歯車に最も接近した2つのロッドの先端とが一直線上にある状態を基準状態とし、その噛み込み量を0とする。例えば、第2歯車61を固定し、第1歯車51を半ピッチ分回転させる。そして、第2歯車61の最下端のロッド62の先端である下端と、第1歯車51の最上端の2つのロッド52の先端である上端とが一直線上にある状態を基準状態とする。そして、基準状態から2つの歯車51,61の中心間距離がZ方向に短くなるときの短縮量を「噛み込み量」と規定する。図7は、クリンプ付与装置において、噛み込み量が0.5mmで第1歯車51及び第2歯車61を回転させるときの初期位置である0度状態(a)と、2.5度回転させた状態(b)と、5.0度回転させた状態(c)とを示している。図8は、図7(a)のC部拡大図である。図7から図13では、中空糸膜12の外径が0.3mmである場合を説明する。図7、図9では、噛み込み量を規定する後述の上側基準線95及び下側基準線96と、中空糸膜12の上端及び下端とがそれぞれ一致するように見える。一方、実際には、拡大された図8、図10、図11に示すように、上側基準線95及び下側基準線96と中空糸膜12の上端及び下端とは、すべてZ方向にずれている。
図7(a)に示すように、第1歯車51及び第2歯車61の回転初期位置では、第2歯車61の歯61aが垂直方向Zに沿って下向きに配置され、第1歯車51は第2歯車61の下側の1つの歯61aを2つの歯51aで挟むように配置される。このとき、第2歯車61は、第1歯車51に対し位相が30度異なっている。この状態で、図8に示すように、第1歯車51の上端の2つの歯51aに支持した2つの第1ロッド52の上端を結んでY方向に沿って伸びる接線を上側基準線95とする。図8では第1歯車51の中心軸O1と第2歯車61の中心軸O2と2つの中心軸O1、O2を通る垂直線70とを示している。また、第2歯車61の下端の歯61aに支持した第2ロッド62の下端に接してY方向に沿って伸びる接線を下側基準線96とする。このとき、上側基準線95と下側基準線96との間領域のZ方向の中心に重なるY方向の直線に、中空糸膜12のZ方向の中心が重なるように中空糸膜12を配置すると仮定する。図8ではこのように仮想的に配置した中空糸膜12を二点鎖線で示している。この場合に、中空糸膜12は、2つの第1ロッド52と1つの第2ロッド62とに接触・交差する。この状態では、実際には、中空糸膜12が、2つの第1ロッド52と1つの第2ロッド62とに巻きかけられ、中空糸膜12は3つのロッド52,62と接触することがわかる。以下、同様に上記仮定のもとに中空糸膜が通ると仮定した場合に中空糸膜と接触・交差するロッドの数を、中空糸膜と接触するロッドの数(接触数)と定義する。図7(a)では接触数は3である。図7から図13では、中空糸膜12を仮想的にY方向に沿って伸びる直線状に示している。
図7から図11は、回転初期位置において、第1歯車51の第1ロッド52と第2歯車61の第2ロッド62とが垂直方向Zに重なる量である噛み込み量が0.5mmである場合を示している。図7(a)から(c)で示すように、第1歯車51及び第2歯車61を2.5度(b)、5.0度(c)とそれぞれ逆方向に回転させた場合でも、(a)と同様に、中空糸膜12と3つのロッド52,62が接触し、接触数は3である。
図9は、クリンプ付与装置において、噛み込み量が0.5mmで第1歯車51及び第2歯車61を7.5度回転させた状態(d)と、17.5度回転させた状態(e)と、20.0度回転させた状態(f)とを示している。図10は、図9(d)のD部拡大図である。図11は、図9(f)のE部拡大図である。図9(d)、(e)、図10に示すように、第1歯車51及び第2歯車61を回転初期位置から7.5度(d)、17.5度(e)とそれぞれ逆方向に回転させた場合には、1つの第1ロッド52と1つの第2ロッド62とに中空糸膜12が接触する。このとき、接触数は2である。
一方、図9(f)、図11に示すように、第1歯車51及び第2歯車61を回転初期位置から20.0度回転させた場合には、1つの第1ロッド52のみに中空糸膜12が接触し、接触数は1である。また、第1歯車51及び第2歯車61の回転角度が30.0度となっても接触数は1のままである。このように噛み込み量が0.5mmでは接触数が3から1の間で変化する。なお、図示は省略するが、噛み込み量が0、1.0mm、1.5mmのいずれかである場合も、噛み込み量が0.5mmの場合と同様に、接触数が3から1の間で変化する。
図12は、クリンプ付与装置において、噛み込み量が2.0mmで第1歯車51及び第2歯車61を回転させるときの初期位置である0度状態(a)と、2.5度回転させた状態(b)と、5.0度回転させた状態(c)とを示している。図13は、クリンプ付与装置において、噛み込み量が2.0mmで第1歯車51及び第2歯車61を回転させるときの10.0度回転させた状態(d)と、12.5度回転させた状態(e)と、15.0度回転させた状態(f)とを示している。
図12、図13に示すように、噛み込み量が2.0mmの場合には、第1歯車51及び第2歯車61の回転初期位置(0度)の状態(a)と、2.5度から12.5度の間で回転させた状態(b)(c)(d)(e)とで、接触数は3である。一方、第1歯車51及び第2歯車61を回転初期位置から15.0度回転させた状態(f)では、接触数は2となる。また、第1歯車51及び第2歯車61の回転角度が30.0度となっても接触数は2のままであり、接触数が1の場合はない。このように噛み込み量に応じて接触数は変化するが、実施形態のクリンプ付与装置では、第1歯車51及び第2歯車61の回転角度に関係なく、接触数は3以下であるように構成される。
これにより、接触数が4以上の場合と異なり、中空糸膜12にクリンプを付与する場合に過度に大きい力がロッドから中空糸膜12に加わることを防止できる。具体的には、中空糸膜12の移動方向において、中央の3つのロッド52,62の外側の別のロッドで中空糸膜12は拘束されない。これによって、中空糸膜12にクリンプを付与する場合に中空糸膜12に過度に大きい外力が加わらない。このため、中空糸膜12の真円度を向上でき、かつ、延伸を抑制できるので、中空糸膜12の形状精度を向上できる。また、真円度が向上するので、真円度の許容下限を所定値としたときに、真円度が所定値未満となる潰れの発生を防止できる。
これについて、比較例を用いて説明する。図14は、クリンプ付与装置の第1比較例の要部を示す図である。
第1比較例では、2つの平行な回転軸に2つの同じ歯数の歯車71,72を固定し、電動モータ等の動力源(図示せず)で逆方向に同じ速度で2つの歯車71,72を回転させる。そして、2つの歯車71,72の間に中空糸膜12を図14の矢印β方向に通過させることにより、中空糸膜12にクリンプを付与する。この場合には、歯車71,72の歯が中空糸膜12を変形させる。そして、中空糸膜12に接触する歯車71,72の歯の数が5となっている。この場合には、図14にA1〜A5で示す5つの歯に中空糸膜12が接触して中空糸膜12が変形する。このとき、歯車71,72と中空糸膜12との矢印β方向における接触範囲で、中空糸膜12の中央位置に接触する歯A2と、その隣で中空糸膜12に接触する2つの歯A4,A5だけでなく、その外側の2つの歯A1,A3によっても中空糸膜12を変形させる。これにより、中空糸膜12が隣接する4つ以上の複数の歯で同時に変形させられることになり、中空糸膜12が過度に変形する可能性がある。このため、第1比較例では、中空糸膜12の真円度が悪化し、かつ、延伸が大きくなり、形状精度が低下した。
図15は、クリンプ付与装置の第2比較例の要部を示す図である。第2比較例では、環状チェーン74を有する第1回転体73と環状チェーン76を有する第2回転体75とが動力源(図示せず)によって回転する。また、第1回転体73の外周面に複数の第1ロッド73aが固定され、第2回転体75の外周面に複数の第2ロッド75aが固定される。そして、2つの回転体73,75の間で、各ロッド73a、75aが略平面上に位置し、かつ、第1ロッド73aと第2ロッド75aとで交互に配置される。そして、第1回転体73及び第2回転体75の間で、第1ロッド73a及び第2ロッド75aに交互に巻きかけるように中空糸膜12を通過させる。
次の表1は、実施形態のクリンプ付与装置24を用いてクリンプを付与した中空糸膜12である実施例と、第1比較例及び第2比較例を用いてクリンプを付与した中空糸膜12である比較例1及び比較例2とを比較した試験結果を示している。試験では、実施例、比較例1及び比較例2で同じ材料及び同じ膜厚の中空糸膜12を用いた。
表1に示した試験結果において、中空糸膜12は、芯液を洗浄で除去し、乾燥させたものを用いた。図16に示すように、中空糸膜12の波長は、波状になっている部分の山の頂点から次の山の頂点までの間隔L1である。中空糸膜12の振幅は、山の頂点から谷の底点までの長さL2である。また、真円度は、中空糸膜12の断面における中空糸膜の内径についての短径/長径である。例えばこの断面が真円であれば真円度は1である。また、潰れ発生率は、中空糸膜12の試験した総本数に対して中空部に潰れが発生した本数の割合である。真円度が0.6以下の場合、潰れと判定した。表1において波長、振幅に値が入っていることは、中空糸膜にクリンプが付与されていることを意味している。
さらに、中空糸膜にクリンプが付与された場合に、糸重量の変化率は、クリンプ付与前の中空糸膜の所定長さ当たりの重量W0と、クリンプ付与後の中空糸膜の所定長さ当たりの重量W1とから、以下の式で算出する。
(糸重量の変化率)=(W1-W0)/W0
また、中空糸膜にクリンプが付与された場合において、糸長の変化率は、クリンプ付与前の中空糸膜の長さL0と、クリンプ付与後の中空糸膜の長さL1とから、以下の式で算出する。
(糸長の変化率)=(L1−L0)/L0
なお、上記では真円度が0.6以下を潰れの発生としたが、中空糸膜の使用状態に応じて真円度の許容下限を変更する場合もある。
表1に示した試験結果から、実施例では、クリンプが付与され、かつ、真円度を高く維持できた。また、実施例では、糸重量の変化率が比較例2に対して増加していることで、延伸を抑制しながら、クリンプが付与されていることを確認できた。
一方、比較例1では、クリンプが付与されているが、糸重量の変化率は比較例2に対して微減である。これにより、中空糸膜12が大きく延伸されており、形状精度が悪化していることが考えられる。
また、比較例2では、真円度を高く維持できたが、クリンプの付与が不十分であったため、波長、振幅を確認できる状態ではなかった。上記の試験結果により、実施形態による効果を確認できた。
なお、クリンプ付与装置の構成は、図2、図3に示した構成に限定するものではなく、第1回転体及び第2回転体が回転可能であり、第1歯車及び第2歯車が噛合する構成であれば、種々の構成を採用できる。
図17は、実施形態の別例のクリンプ付与装置24aの概略構成を示す斜視図である。図17に示すクリンプ付与装置24aは、支持部材80と、第1回転体50及び第2回転体60とを備える。第1回転体50及び第2回転体60の構成は、図2、図3に示した構成と同様である。図17では、第1回転体50及び第2回転体60を円柱状の部材で模式化して示している。図17では、各回転体50,60におけるロッド52,62(図2、図3参照)の軸方向と平行な方向をXで示し、水平面上でX方向と直交する方向をYで示し、X及びYに対し直交する上下方向である垂直方向をZで示している。
支持部材80は、平板状の基板81と、基板81のX方向の一端に固定された壁部82とを含む。基板81は、水平面上に固定される。基板81の上面にはX方向に離れた2つの平行な第1壁部84が立設して固定される。2つの第1壁部84には第1歯車軸40の両端部が支持され、第1歯車軸40の軸方向中間部の周囲には第1回転体50が支持される。そして、第1回転体50は、支持部材80に対し回転可能に支持される。第1回転体50は、X方向の両側に離れた2つの第1歯車51(図2、図3参照)と、第1歯車51の各歯に両端部が支持された複数の第1ロッド52(図2、図3参照)とを含む。
壁部82は、直交するように配置した第1板部82a及び第2板部82bの一端同士を固定することにより構成されている。第1板部82aは、厚み方向両側面がX方向に対し直交する。第2板部82bは、厚み方向両側面がX方向と平行である。そして、第2板部82bの厚み方向一方側には、上端にハンドル85が固定されたハンドル軸86が回転可能に支持される。ハンドル軸86は、上下方向に沿って配置される。ハンドル軸86の中間部外周面にはねじ部(図示せず)が形成され、そのねじ部と、ボールナット部材87の雌ねじとが複数のボール(図示せず)を介して係合する。ボールナット部材87には、腕部材88の中間部が固定される。腕部材88は、中間部に設けられてX方向に伸びた長尺なX方向要素89と、X方向要素89の両端に連結されY方向一方側に伸びる2つの平行なY方向要素90とを含む。2つのY方向要素90の先端には2つの平行な第2壁部91が形成される。各Y方向要素90には、Z方向に支柱92が貫通しており、その支柱92の下端は基板81に固定されている。各Y方向要素90は、支柱92に対しZ方向に移動可能である。これにより、ボールナット部材87は、Z方向にのみ移動するように案内されており、ボールナット部材87の回転は阻止される。
また、2つの第2壁部91には第2歯車軸42の両端部が支持され、第2歯車軸42の軸方向中間部の周囲には第2回転体60が支持される。そして、第2回転体60は、支持部材80に対し回転可能に支持される。第2回転体60は、X方向両側に離れた2つの第2歯車61(図2、図3参照)と、第2歯車61の各歯に両端部が支持された複数の第2ロッド62(図2、図3参照)とを含む。
これにより、作業者がハンドル85を回転することにより、ハンドル軸86の回転に伴ってボールナット部材87及び腕部材88がZ方向に移動する。これにより、ハンドル85の回転運動を上下運動に変換することで第1回転体50の第1ロッド52と第2回転体60の第2ロッド62との間隔を調節できる。また、ハンドル85には、ハンドル85の回転角度を示すダイヤルインジケータ(図示せず)を取り付けており、第2回転体60の上下方向(Z方向)における停止位置は、ダイヤルインジケータの値で決定する。なお、図17の構成では、第1回転体50と第2回転体60との軸方向中央位置を異ならせており、第1回転体50の両側の支持部と第2回転体60の両側の支持部との軸方向における位置を異ならせやすい。これにより、上下方向に第1回転体50及び第2回転体60が近づく場合に第2回転体60と支持部との間の空間に第1回転体50の支持部を挿入しやすい。このため、小型の構成で、第1回転体50の第1ロッド52と第2回転体60の第2ロッド62とを近づける構成を実現しやすい。その他の構成及び作用は、図2から図13で示した構成と同様である。
図17では、ハンドルを用いた機械的な運動変換機構で第1回転体50及び第2回転体60の間隔を調節している。ハンドルを用いた機械的な運動変換機構により間隔を調節する構造として、図17に示した構成以外の構造を用いてもよい。また、第1回転体50及び第2回転体60の間隔を調節する構造はこのような構成に限定するものではなく、ロボシリンダまたはサーボモータ等を含む電気的な運動変換機構を備えて、回転体50,60の間隔を調節する構成を用いてもよい。ロボシリンダは、電動リニアアクチュエータを含み、移動部材を往復移動させる構造である。または、スペーサを利用した物理的な位置合わせを行う構成によって回転体50,60の間隔を調節してもよい。
また、実施形態によれば、特許文献1に記載された構成の場合と異なり、中空糸膜12にクリンプを付与する場合において、クリンプ付与装置24の前後で中空糸膜12の移動方向を変える必要がない。これにより、クリンプ付与装置24の前後の工程用に配置される水洗槽18(図1)、巻き取り機22(図1)等の配置位置が複雑になることを防止できる。
また、上記では、第1ロッド及び第2ロッドの数が、それぞれ6の場合を説明したが、それぞれのロッドの数を2以上で6未満の数、または7以上の任意の数とすることもできる。第1ロッド及び第2ロッドのそれぞれの数を6以下とすることにより、中空糸膜12が接触する第1ロッドと第2ロッドとの合計の数が3以下となる構成を実現しやすい。
また、上記では、クリンプ付与装置を水中に浸して用いる場合を説明したが、複数の中空糸膜を十分に分繊できるのであれば、クリンプ付与装置を水中に浸さずに用いることもできる。
なお、複数の中空糸膜を含む中空糸膜モジュールは、ダイアライザー及び透析器以外、例えば精密ろ過、気体分離、窒素付加、酸素付加等のために用いられてもよい。