以下、本発明の一実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本実施の形態におけるマグネシウム水電池の構成を示す構成図である。このマグネシウム水電池は、一般的なよく知られたマグネシウム空気電池と同様に、正極101と、マグネシウムを含んで構成された負極102と、正極101と負極102とに挾まれて配置された電解質103と、を備えて構成される。一般的なよく知られたマグネシウム空気電池とは異なり、正極101の一方の面が大気に曝される必要はない。なお、電解質103は、電解液または固体電解質のいずれであってもよい。電解液とは、電解質が液体形態である場合をいう。また、固体電解質とは、電解質がゲル形態または固体形態である場合をいう。
本実施の形態におけるマグネシウム水電池は、正極101が、一体とされた複数のナノ構造体が分岐を有することで三次元ネットワーク構造とされた炭素の共連続体から構成されている。共連続体は、多孔体であり、一体構造とされている。ナノ構造体は、ナノシートあるいはナノファイバーである。一体とされた複数のナノ構造体が分岐を有することで三次元ネットワーク構造の共連続体は、ナノ構造体同士の分岐部が変形可能とされており、伸縮性を有した構造となっている。また、本実施の形態におけるナノ構造体は、窒素元素を含有したものとなっている。
窒素元素を含むナノシートは、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化塩化リン三量体、窒化鉄、窒化カルシウム、窒化マグネシウム、窒化バナジウム、窒化亜鉛、窒素含有カーボン、窒素含有鉄酸化物、窒素含有マンガン酸化物、窒素含有亜鉛酸化物、窒素含有モリブデン酸化物、および窒素含有硫化モリブデン化合物の少なくとも1つから構成されたものであればよい。これらの材料の元素は、植物の生育に不可欠な22種類の元素(C,O,H,N,P,K,S,Ca,Mg,Fe,Mn,B,Zn,Cu,Mo,Cl,Si,Na,Se,Co,Al,V)から構成されていればよい。
窒素元素を含むナノシートは導電性を有することが重要である。ナノシートは、厚さが1nmから1μmであり、平面縦横長さが、厚さの100倍以上のシート状物質と定義する。例えば、窒素含有カーボンによるナノシートとしてグラフェンに窒素をドープした、窒素含有グラフェンがある。また、ナノシートは、ロール状、波状であってもよく、ナノシートが湾曲や屈曲していてもよく、どのような形状であってもよい。
窒素元素を含むナノファイバーは、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化塩化リン三量体、窒化鉄、窒化カルシウム、窒化マグネシウム、窒化バナジウム、窒化亜鉛、窒素含有カーボン、窒素含有鉄酸化物、窒素含有バナジウム酸化物、窒素含有シリコン、窒素含有シリコン酸化物、窒素含有アルミ酸化物、窒素含有亜鉛酸化物、窒素含有マンガン酸化物、窒素含有モリブデン酸化物、窒素含有モリブデン化合物、および窒素含有セルロース(炭化した窒素含有セルロース)の少なくとも1つから構成されたものであればよい。これらの材料の元素は、植物の生育に不可欠な22種類の元素(C,O,H,N,P,K,S,Ca,Mg,Fe,Mn,B,Zn,Cu,Mo,Cl,Si,Na,Se,Co,Al,V)から構成されていればよい。
窒素元素を含むナノファイバーも導電性を有することが重要である。ナノファイバーは、直径が1nmから1μmであり、長さが直径の100倍以上の繊維状物質と定義する。また、ナノファイバーは、中空状、コイル状であってもよく、どのような形状であってもよい。なお、窒素含有セルロースについては、後述するように、炭化により導電性を持たせて用いる。
例えば、まず、ナノ構造体が分散したゾルまたはゲルを凍結させて凍結体とし(凍結工程)、この凍結体を真空中で乾燥させる(乾燥工程)ことで、正極101とする共連続体を作製することができる。鉄酸化物、マンガン酸化物、シリコン、セルロースのいずれかによるナノファイバーが分散したゲルであれば、所定のバクテリアに生産させることができる(ゲル生産工程)。
また、所定のバクテリアに、セルロースによるナノファイバーが分散したゲルを生産させ(ゲル生産工程)、このゲルにアンモニア水または硝酸を含ませることで、窒素元素を含有してもよい(窒素導入工程)。
また、このゲルを、アンモニアガスまたは窒素酸化物ガスの雰囲気で加熱して炭化することで、窒素元素を含む共連続体を得る(炭化工程)ようにしてもよい。
正極101を構成する共連続体は、例えば、平均孔径が0.1〜50μmであることが好ましく、0.1〜2μmであることが更に好ましい。ここで、平均孔径は、水銀圧入法により求めた値である。
正極101には、カーボン粉末を用いた場合のようなバインダーなどの追加の材料を用いる必要がなく、コスト的に有利であり環境面でも有利である。
ここで、正極101および負極102における電極反応について説明する。正極反応は、導電性を有する正極101の表面において、電解質である水が接することで、「2H2O+2e−→2OH−+H2・・・(1)」で示す反応が進行する。一方、負極反応は、電解質103に接している負極102において「Mg→Mg2++2e−・・・(2)」の反応が進行し、負極102を構成しているマグネシウムが電子を放出し、電解質103中にマグネシウムイオンとして溶解する。
これらの反応により、放電を行うことが可能である。全反応は、「Mg+2H2O+2e−→Mg(OH)2+H2・・・(3)」となり、水酸化マグネシウムと水素が生成する反応である。理論起電力は約1.4Vである。以上の反応に関わる化合物を、図1の構成要素と共に示している。
このように、マグネシウム水電池は、正極101の表面において式(1)で示す反応が進行するため、正極101の内部に反応サイトを多量に生成する方がよいものと考えられる。
正極である正極101は、カーボン粉末をバインダーで成形するといった公知のプロセスで作製することができるが、上述した通り、マグネシウム水電池では、正極101内部に反応サイトを多量に生成することが重要であり、正極101は、高比表面積であることが望ましい。例えば、本実施の形態においては、正極101を構成する共連続体の比表面積が200m2/g%以上であることが好ましく300m2/g以上であることがより好ましい。
カーボン粉末をバインダーで成形してペレット化することで作製している従来の正極の場合、高比表面積化した際に、カーボン粉末同士の結着強度が低下し、構造が劣化することで、安定して放電することが困難であり、放電容量が低下する。
これに対し、前述したように一体とされた複数のナノ構造体が分岐を有することで三次元ネットワーク構造とされた共連続体により構成した本実施の形態における正極101によれば、上述した従来の問題が解消でき、放電容量を高くできるようになる。
また、窒素元素を含むナノ構造体は、窒素がドープされることで、多くの欠陥が導入され、この欠陥により化学的に活性となった不対電子が式(1)の反応を促進させるため、本実施の形態における正極101は優れた性能を有する。
また、正極101は、触媒を担持していてもよい。触媒は、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンの少なくとも1つの金属、あるいは、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンの少なくとも1つの金属からなる金属酸化物から構成されていればよい。なお、これらの材料の元素は、植物の生育に不可欠な16種類の必須元素に含まれる金属から構成され、触媒能を有していればよい。金属としては、鉄、マンガン、亜鉛が好ましく、これらの1つからなる酸化物または2つ以上からなる複合酸化物が好ましい。また、特に、酸化鉄(Fe2O3)が好適である。酸化鉄は、本実施の形態において特に優れた触媒性能を示すので好ましい。
また、触媒とする金属酸化物は、水和物としたアモルファス状のものであることも好ましい。例えば、上述した遷移金属酸化物の水和物であればよい。より具体的には、酸化鉄(III)−n水和物であればよい。なお、nは、1molのFe2O3に対するH2Oのモル数である。正極101を構成する共連続体の表面に、酸化鉄の水和物を、ナノサイズの微粒子として高分散で担持させることで、優れた電池性能とすることが可能となる。
例えば、正極101の共連続体上に、酸化鉄水和物(Fe2O3・nH2O)をナノサイズの微粒子として高分散で付着させた(添加した)ものを正極101として使用することで、優れた電池性能を示すことが可能となる。正極101に含まれる触媒の含有量は、正極101の総重量に基づいて、0.1〜70重量%、好ましくは1〜30重量%である。正極101に、遷移金属酸化物を触媒として添加することによって、電池性能は大きく向上する。正極101中に電解質103の電解液が浸透し、上述したような電解液−電極の界面が形成される。この界面サイトにおいて、触媒が高活性であれば、電極表面における水還元(放電)がスムーズに進行し、電池性能は大きく向上することになる。
マグネシウム水電池では、上述した通り、電池の効率を上げるために、電極反応を引き起こす反応部位[上記の電解液/電極の界面部分]がより多く存在することが望ましい。このような観点から、上述の界面部位が触媒の表面にも多量に存在することが重要であり、触媒は比表面積が高い方が好ましい。金属または金属酸化物による触媒の比表面積は、0.1〜1000m2/g、好ましくは1〜500m2/gであればよい。なお、比表面積は、公知のN2吸着によるBET法により求めた比表面積である。
触媒を添加した正極101は、後述するマグネシウム空気電池の正極101の製造方法により製造することができる。
次に、負極102について説明する。負極102は負極活物質から構成する。この負極活物質は、マグネシウム水電池の負極材料として用いることができる材料、つまり、金属マグネシウム、マグネシウム含有物質を含むものであれば特に限定されない。例えば、負極102は、金属マグネシウム、金属マグネシウムのシート、またはマグネシウム粉末などから構成すればよい。
負極102は、公知の方法で形成することができる。例えば、マグネシウム金属を負極102とする場合には、複数枚の金属マグネシウム箔を重ねて所定の形状に成形することで、負極102を作製することもできる。
次に、電解質103について説明する。電解質103は、正極101および負極102間でマグネシウムイオンおよび水酸化物イオンの移動が可能な物質であればよい。例えば、地球上に豊富に存在するカリウムやナトリウムが含まれる金属塩を挙げることができる。なお、この金属塩は、植物の生育に不可欠な22種類の元素(C,O,H,N,P,K,S,Ca,Mg,Fe,Mn,B,Zn,Cu,Mo,Cl,Si,Na,Se,Co,Al,V)や海水、雨水、温泉に含まれる元素から構成されていればよい。電解質103は、例えば、塩化ナトリウムや塩化カリウムまたはその混合物から構成すればよい。カリウムは、肥料成分の中でも多量要素の1つであるため、仮に電解質が土壌に漏れ出たときの影響を与えないのみならず、肥料として機能するため、特に、塩化カリウムが好ましい。
また、電解質103を構成する他の材料として、マグネシウムイオンおよび水酸化物イオンを通すイオン導電性を有する芳香族系アニオン交換ポリマー固体電解質や無機層状化合物系固体電解質を用いてもよい。
なお、マグネシウム水電池は、上記構成に加え、セパレータ、電池ケース、金属箔(例えば銅箔)などの構造部材、また、一般的なマグネシウム空気電池に要求される要素を含むことができる。これらは、公知のものを使用することができる。セパレータとしては、繊維材料であれば特に限定されないが、植物繊維またはバクテリアからつくられるセルロース系セパレータが特に好ましい。
次に、マグネシウム水電池の製造方法について説明する。本実施の形態におけるマグネシウム水電池は、後述する正極製造方法により得られる正極101、負極102、電解質103を、所望のマグネシウム水電池の構造に基づいた他の必要な要素と共に、ケースなどの適切な容器内に適切に配置することで作製することができる。これらのマグネシウム水電池の製造手順は、従来知られている一般的なマグネシウム空気電池の方法を適用することができる。
以下、正極101の作製について説明する。
[製造方法1]
はじめに、製造方法1について図2を用いて説明する。図2は、製造方法1を説明するためのフローチャートである。まず、ステップS101で、ナノシートやナノファイバーなどのナノ構造体が分散したゾルまたはゲルを凍結させて凍結体を得る(凍結工程)。次に、ステップS102で、得られた凍結体を真空中で乾燥させて共連続体を得る(乾燥工程)。
以下、各工程についてより詳細に説明する。ステップS101の凍結工程は、一体とされた複数のナノ構造体が分岐を有することで三次元ネットワーク構造とされた伸縮性を有する共連続体の原料となるナノ構造体を用い、三次元ネットワーク構造を維持または構築する工程である。
ここで、ゲルとは、分散媒が分散質であるナノ構造体の三次元ネットワーク構造により流動性を失い固体状になったものを意味する。具体的には、ずり弾性率が102〜106Paである分散系を意味する。ゲルの分散媒は、水(H2O)などの水系または、カルボン酸、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、プロパノール(C3H7OH)、n−ブタノール、イソブタノール、n−ブチルアミン、ドデカン、不飽和脂肪酸、エチレングリコール、ヘプタン、ヘキサデカン、イソアミルアルコール、オクタノール、イソプロパノール、アセトン、グリセリンなどの有機系であり、これらから2種類以上を混合してもよい。
次に、ゾルとは、分散媒および分散質であるナノ構造体からなるコロイドを意味する。具体的には、ずり弾性率が1Pa以下である分散系を意味する。ゾルの分散媒は、水などの水系、または、カルボン酸、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ブチルアミン、ドデカン、不飽和脂肪酸、エチレングリコール、ヘプタン、ヘキサデカン、イソアミルアルコール、オクタノール、イソプロパノール、アセトン、グリセリンなどの有機系であり、これらから2種類以上を混合してもよい。
凍結工程は、例えば、ナノ構造体が分散したゾルまたはゲルを試験管のような適切な容器に収容し、液体窒素などの冷却材中で試験管の周囲を冷却することで、試験管に収容したゾルまたはゲルを凍結することで実施される。凍結させる手法は、ゲルまたはゾルの分散媒を凝固点以下に冷却ができれば、特に限定されるものではなく、冷凍庫などで冷却してもよい。
ゲルまたはゾルを凍結することで、分散媒が流動性を失い分散質が固定され、三次元ネットワーク構造が構築される。また、凍結工程では、ゲルまたはゾルの濃度を調整することで比表面積を自在に調整でき、ゲルまたはゾルの濃度を薄くするほど、得られる共連続体は高比表面積となる。ただし、濃度が0.01重量%以下となると、分散質が三次元ネットワーク構造を構築することが困難となるため、分散質の濃度は、0.01〜10重量%以下が好適である。
ナノファイバーまたはナノシートなどのナノ構造体で高比表面積な三次元ネットワーク構造を構築することで、圧縮または引張の際に、気孔がクッションの役割を果たし、優れた伸縮性を有する。具体的には、共連続体は、弾性限界での歪みが5%以上であることが望ましく、更に10%以上であることが更に望ましい。
凍結により分散質を固定しない場合、この後の乾燥工程において、分散媒の蒸発に伴い、分散質が凝集するため、十分な高比表面積を得ることができず、三次元ネットワーク構造を有する共連続体の作製は困難となる。
次に、ステップS102の乾燥工程について説明する。乾燥工程では、凍結工程で得た凍結体より、三次元ネットワーク構造を維持または構築した分散質(一体とされている複数の微細構造体)を分散媒から取り出す工程である。
乾燥工程では、凍結工程で得られた凍結体を真空中で乾燥させ、凍結した分散媒を固体状態から昇華させる。例えば、得られた凍結体をフラスコのような適切な容器に収容し、容器内を真空引きすることで実施される。凍結体を真空雰囲気下に配置することで、分散媒の昇華点が低下し、常圧では昇華しない物質においても昇華させることが可能である。
乾燥工程における真空度は、使用する分散媒によって異なるが、分散媒が昇華する真空度であれば特に制限されない。例えば、分散媒に水を使用した場合、圧力を0.06MPa以下とした真空度にする必要があるが、昇華潜熱として熱が奪われるため、乾燥に時間を有する。このため、真空度は1.0×10−6〜1.0×10−2Paが好適である。更に乾燥時にヒーターなどを用いて熱を加えてもよい。
大気中で乾燥させる方法は、分散媒が固体から液体になり、この後、液体から気体になるため、凍結体が液体状態となり分散媒中で再び流動的になり、複数のナノ構造体の三次元ネットワーク構造が崩れる。このため、大気圧雰囲気での乾燥では、伸縮性を有する共連続体の作製は困難である。
[製造方法2]
次に、製造方法2について図3を用いて説明する。図3は、製造方法2を説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS201で、所定のバクテリアに、酸化鉄、酸化マンガン、またはセルロースのいずれかによるナノファイバーが分散したゲルを生産させる(ゲル生産工程)。このようにして得られたゲルを用いて共連続体を作製する。
バクテリアが産生するゲルは、nmオーダーのファイバーを基本構造としており、このゲルを用いて共連続体を作製することで、得られる共連続体は高比表面積を有するものとなる。前述したように、マグネシウム水電池の正極は高比表面積であることが望ましいため、バクテリアが生産したゲルを用いることは、好適である。具体的には、バクテリアが生産するゲルを用いることで比表面積が300m2/g以上を有する正極(共連続体)の合成が可能である。
バクテリア産生ゲルは、ファイバーがコイル状や網目状に絡まった構造を有し、更にバクテリアの増殖に基づいてナノファイバーが分岐した構造を有しているため、作製できる共連続体は、弾性限界での歪みが50%以上という優れた伸縮性を実現する。従って、バクテリア生産ゲルを用いて作製した共連続体は、マグネシウム水電池の正極に好適である。
バクテリア産生ゲルとしては、バクテリアセルロース、酸化鉄、酸化マンガンの中から2種類以上を混合してもよい。
バクテリアは、公知のものが挙げられ、例えば、アセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・シュクロファーメンタ、アセトバクター・キシリナムATCC23768、アセトバクター・キシリナムATCC23769、アセトバクター・パスツリアヌスATCC10245、アセトバクター・キシリナムATCC14851、アセトバクター・キシリナムATCC11142、アセトバクター・キシリナムATCC10821などの酢酸菌、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属、ズーグレア属、エンテロバクター属、クリューベラ属、レプトスリックス属、ガリオネラ属、シデロカプサ属、チオバチルス属、並びにこれらをNTG(ニトロソグアニジン)などを用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株を培養することにより生産されたものであればよい。
上述したバクテリアにより生産させたゲルは、窒素を含有していないため、窒素を含有させる方法として、ステップS202で、窒素元素を含有した溶液を含ませる(窒素導入工程)。窒素元素を含有した溶液は、窒素を含有していれば、特に限定されないが、アンモニア、硝酸などが好適であり、これらを混合した溶液でもよい。
上述したバクテリアにより生産させたゲルは、保水性が高いため、窒素元素を含有した溶液を含ませるには、1時間〜1週間、より好ましくは、1日〜3日間ほど、溶液に含浸させるのがよい。また、含浸中は、振とう器、マグネチックスターラー、ホモジナイザー、ボールミル、ブレンダー、撹拌機等を用いてもよい。
上述したバクテリアにより生産させたゲルを用いて共連続体を得る方法としては、製造方法1と同様に、ステップS203で凍結させて凍結体とし(凍結工程)、ステップS204で凍結体を真空中で乾燥させて共連続体とすればよい(乾燥工程)。ただし、バクテリアにより生産させたセルロースによるナノファイバーが分散したゲルを用いる場合、ステップS205で、更に、窒素元素を導入するため、アンモニアガスまたは、窒素酸化物ガスを含む雰囲気で加熱して炭化する(炭化工程)。
バクテリア産生ゲルに含まれる成分であるバクテリアセルロースは、導電性を有していないため、正極として使用する際は、アンモニアガス、または、窒素酸化物ガス雰囲気下で熱処理して炭素化することで触媒活性を向上させると同時に導電性を付与する炭化工程が重要となる。このようにして炭化した共連続体は、高導電性、耐腐食性、高伸縮性、高比表面積、高触媒活性を有しており、マグネシウム水電池の正極として好適である。
バクテリアセルロースの炭化は、前述した凍結工程および乾燥工程により、バクテリアセルロースからなる三次元ネットワーク構造を有する共連続体を合成した後に、アンモニアガスまたは、窒素酸化物ガス雰囲気中で500℃〜2000℃、より好ましくは、900℃〜1800℃で焼成して炭化すればよい。本実施の形態では、アンモニアガス、または、窒素酸化物ガスを用いているが、バクテリアセルロースを炭化させるガスとしては、セルロースが燃焼しないガスであれば、特に限定させるものではなく、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであればよい。また、水素ガス、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスであってもよく、また、二酸化炭素ガスであってもよい。
[製造方法3]
次に、製造方法3について図4を用いて説明する。図4は、製造方法3を説明するためのフローチャートである。前述したように、正極に触媒を担持させるとよい。ステップS301で、上述した製造方法1または製造方法2で得られた共連続体を、触媒の前駆体となる金属塩の水溶液に含浸さる(含浸工程)。このようにして金属塩を含む伸縮性共連続体を調製したら、次に、ステップS302で、金属塩を含む伸縮性共連続体を加熱処理すればよい(加熱工程)。なお、使用する金属塩の好ましい金属は、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である。特に、鉄が好ましい。
遷移金属酸化物を共連続体に担持するためには、従来知られている方法を用いることができる。例えば、共連続体を、遷移金属塩化物や遷移金属硝酸塩の水溶液に含浸させて蒸発乾固した後、高温高圧化の水(H2O)中で水熱合成する方法がある。また、共連続体に、遷移金属塩化物や遷移金属硝酸塩の水溶液を含浸させ、ここにアルカリ水溶液を滴下する沈殿法がある。また、共連続体に遷移金属アルコキシド溶液に含浸させ、これを加水分解するゾルゲル法などがある。これらの液相法による各方法の条件は公知であり、これらの公知の条件を適用できる。本実施の形態では、液相法が望ましい。
上記の液相法で担持される金属酸化物は、多くの場合、結晶化が進んでいないためアモルファス状態である。アモルファス状態の前駆体を、不活性の雰囲気で、500℃程度の高温で熱処理を行うことで、結晶性の金属酸化物を得ることができる。このような結晶性の金属酸化物は、正極の触媒として用いた場合においても高い性能を示す。
一方、上記のアモルファス状の前駆体を100〜200℃程度の比較的低温で乾燥した場合に得られる前駆体粉末は、アモルファス状態を維持しつつ、水和物の状態となる。金属酸化物の水和物は、形式的に、MexOy・nH2O(ただし、Meは上記金属を意味し、xおよびyはそれぞれ金属酸化物分子中に含まれる金属および酸素の数を表し、nは1モルの金属酸化物に対するH2Oのモル数)と表すことができる。このような低温乾燥により得られた、金属酸化物の水和物を触媒として用いることができる。
アモルファス状の金属酸化物(水和物)は、焼結がほとんど進んでいないため、大きな表面積を有し、粒子径も30nm程度と非常に小さい値を示す。これは、触媒として好適であり、これを用いることで、優れた電池性能を得ることができる。
上述の通り、結晶性の金属酸化物は高い活性を示すが、上記のような高温での熱処理で結晶化させた金属酸化物は、表面積が著しく低下することがあり、粒子の凝集により粒子径も100nm程度となることがある。なお、この粒子径(平均粒径)は、走査型電子顕微鏡(SEM)などで拡大観察し、10μm四方(10μm×10μm)あたりの粒子の直径を計測して、平均値を求めた値である。
また、特に高温で熱処理を行った金属酸化物による触媒は、粒子が凝集するため、共連続体の表面に高分散で触媒を添加させることが困難なことがある。十分な触媒効果を得るためには、正極(共連続体)中に金属酸化物を大量に添加しなければならない場合があり、高温の熱処理による触媒作製は、コスト的に不利となることがある。
この問題を解消するためには、以下の製造方法4、製造方法5、製造方法6を用いればよい。
[製造方法4]
次に、製造方法4について図5を用いて説明する。図5は、製造方法4を説明するためのフローチャートである。
製造方法4では、製造方法1、製造方法2で説明したことにより作製した共連続体に、触媒を担持させる。製造方法4では、前述した共連続体の製造に加え、触媒を担持させる以下の触媒担持工程を加える。
まず、ステップS401の第1触媒担持工程で、共連続体を界面活性剤の水溶液に浸漬し、共連続体の表面に界面活性剤を付着させる。
次に、ステップS402の第2触媒担持工程で、金属塩の水溶液を用いて界面活性剤が付着した共連続体の表面に界面活性剤により金属塩を付着させる。
次に、ステップS403の第3触媒担持工程で、金属塩が付着した共連続体に対する熱処理により、金属塩を構成する金属または金属の酸化物からなる触媒を共連続体に担持させる。
なお、上記金属は、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンの少なくとも1つの金属、あるいは、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンの少なくとも1つの金属からなる金属酸化物である。特に、鉄または酸化鉄(Fe2O3)が好ましい。
製造方法4の第1触媒担持工程で用いる界面活性剤は、正極連続体上に金属または遷移金属酸化物を高分散で担持するためのものである。界面活性剤のように、分子内にカーボン表面に吸着する疎水基と遷移金属イオンが吸着する親水基を有していれば、共連続体に遷移金属酸化物前駆体である金属イオンを高い分散度で吸着させることができる。
上述した界面活性剤としては、分子内にカーボン表面に吸着する疎水基と鉄イオンが吸着する親水基を有していれば特に限定されないが、非イオン系の界面活性剤が好ましい。例えば、エステル型の界面活性剤として、ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどがある。また、エーテル型の界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどがある。
また、エステルエーテル型の界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコールなどがある。また、アルカノールアミド型の界面活性剤として、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、コカミドDEAなどがある。また、高級アルコールの界面活性剤として、セタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどがある。また、ポロキサマー型の界面活性剤として、ポロキサマージメタクリレートなどを挙げることができる。
製造方法4の第1触媒担持工程における界面活性剤の水溶液の濃度は、0.1〜20g/Lであることが好ましい。また、浸漬時間、浸漬温度などの浸漬条件は、例えば、室温〜50℃の溶液に、1〜48時間浸漬することが含まれる。
製造方法4の第2触媒担持工程では、第1触媒担持工程における界面活性剤を含有する水溶液に、触媒として機能する金属塩を更に溶解するか、または金属塩の水溶液を加えることを含む。あるいは、上述の界面活性剤を含有する水溶液とは別に、触媒として機能する金属塩を溶解させた水溶液を調製し、これに、界面活性剤を含浸した(付着させた)共連続体を浸漬してもよい。
また、金属塩が溶解した水溶液を、界面活性剤を付着させた共連続体に含浸させてもよい。必要に応じて、得られた金属塩を含む(付着した)共連続体にアルカリ性水溶液を滴下してもよい。これらのことによって、金属または金属酸化物前駆体を共連続体に付着させることができる。
製造方法4の第2触媒担持工程における金属塩の添加量は、0.1〜100mmol/Lとなる量であることが好ましい。また、浸漬時間、浸漬温度などの浸漬条件は、例えば、室温〜50℃の溶液に、1〜48時間浸漬することが含まれる。
より具体的には、金属として鉄を例にとって説明すれば、例えば、鉄金属塩(例えば、塩化鉄などのハロゲン化鉄やその水和物)を、界面活性剤を含有し、共連続体に含浸している水溶液に加える。次いで、得られた鉄金属塩を含む共連続体にアルカリ性水溶液を滴下することで、金属または金属酸化物前駆体としての水酸化鉄を、共連続体に担持させることができる。
上述した酸化鉄による触媒の担持量は、金属塩水溶液中の金属塩(例えば塩化鉄)の濃度により調整できる。
また、上述のアルカリ性水溶液に使用するアルカリは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、アンモニウム水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液などを挙げることができる。これらのアルカリ性水溶液の濃度は、0.1〜10mol/Lであることが好ましい。
製造方法4における第3触媒担持工程では、共連続体の表面に付着させた金属または金属酸化物の前駆体(金属塩)を、熱処理により、金属自体または金属酸化物に転化する。
具体的には、前駆体が付着した共連続体を、室温(25℃程度)〜150℃、より好ましくは50℃〜100℃で1〜24時間乾燥させ、次いで100〜600℃、好ましくは110〜300℃で熱処理すればよい。
製造方法4における第3触媒担持工程では、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性雰囲気や還元性雰囲気で熱処理することで、金属自体を触媒として表面に付着させた共連続体による正極を製造することができる。また、酸素を含むガス中(酸化性雰囲気)で熱処理することで、金属酸化物を触媒として表面に付着させた共連続体による正極を製造することができる。
また、上述の還元条件下での熱処理を行い、一度、金属自体を触媒として付着させた共連続体を作製し、次いで、これを酸化性雰囲気で熱処理することで、金属酸化物を触媒として付着させた共連続体による正極を製造することもできる。
別法として、金属または金属酸化物の前駆体(金属塩)が付着した共連続体を、室温〜150℃、より好ましくは50℃〜100℃で乾燥させ、共連続体上に金属自体を触媒として付着させ、金属/共連続体の複合体を作製してもよい。
製造方法4では、金属または金属酸化物による触媒の付着量(含有量)は、共連続体および触媒の総重量に基づいて、0.1〜70重量%、好ましくは1〜30重量%である。
製造方法4によれば、共連続体の表面に、金属または金属酸化物による触媒を高分散させた正極を製造することができ、電池特性の優れたマグネシウム水電池が構成できるようになる。
[製造方法5]
次に、製造方法5について説明する。製造方法5では、製造方法1、製造方法2で説明したことにより作製した共連続体に、前述した製造方法4とは異なる方法で触媒を担持させる。製造方法5では、前述した共連続体の製造に加え、触媒を担持させる以下の触媒担持工程を加える。
第1触媒担持工程では、共連続体を金属塩の水溶液に浸漬して共連続体の表面に金属塩を付着させる。
次に、第2触媒担持工程では、金属塩が付着した共連続体に対する熱処理により、金属塩を構成する金属からなる触媒を共連続体に担持させる。
次に、第3触媒担持工程では、触媒が担持された共連続体を高温高圧の水に作用させることで触媒を金属酸化物の水和物とする。
なお、上記金属は、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンの少なくとも1つの金属、あるいは、カルシウム、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンの少なくとも1つの金属からなる金属酸化物である。特に、鉄または酸化鉄(Fe2O3)が好ましい。
製造方法5における第1触媒担持工程では、最終的に触媒とする金属または金属酸化物の前駆体となる金属塩の水溶液を、共連続体の表面に付着(担持)させる。例えば、上記金属塩を溶解した水溶液を別途調製し、この水溶液を共連続体に含浸させればよい。含浸の条件などは、前述したように従来と同じである。
製造方法5における第2触媒担持工程は、製造方法2の第3触媒担持工程と同様であり、不活性雰囲気または還元性雰囲気による加熱処理を実施すればよい。また、製造方法2の第3触媒担持工程の別法として説明した、前駆体が付着した共連続体を低温(室温〜150℃、より好ましくは50℃〜100℃)で加熱処理(乾燥)することで、共連続体に金属を付着させてもよい。
金属自体を触媒として用いた正極101は、高活性を示すが、触媒が金属であるため、腐食に弱く、長期安定性に欠ける場合がある。これに対し、金属を以下に詳述する製造方法5の第3触媒担持工程により、加熱処理して金属酸化物の水和物とすることで、長期安定性を実現することができる。
製造方法5の第3触媒担持工程では、金属酸化物の水和物が、共連続体に付着した状態とする。具体的には、製造方法5の第2触媒担持工程で得られた、金属が付着した共連続体を、高温高圧の水に浸漬させ、付着している金属を、金属酸化物の水和物からなる触媒に転化する。
例えば、金属が付着した共連続体を、100℃〜250℃、より好ましくは、150℃〜200℃の水に浸漬させ、付着している金属を酸化させて金属酸化物の水和物とすればよい。
大気圧下(0.1MPa)での水の沸点は100℃であるため、大気圧下では通常100℃以上の水に浸漬させることはできないが、所定の密閉容器を用い、この密閉容器内の圧力を、例えば、10〜50MPa、好ましくは25MPa程度まで上昇させることで、密閉容器内では、水の沸点が上昇し、100℃〜250℃の液体状の水を実現することができる。このようにして得た高温の水に、金属が付着した共連続体を浸漬すれば、金属を金属酸化物の水和物とすることができる。
[製造方法6]
次に、製造方法6について説明する。製造方法6では、製造方法1、製造方法2で説明したことにより作製した共連続体に、前述した製造方法4、5とは異なる方法で触媒を担持させる。製造方法6では、前述した共連続体の製造に加え、触媒を担持させる以下の触媒担持工程を加える。
第1触媒担持工程では、共連続体を金属塩の水溶液に浸漬して共連続体の表面に金属塩を付着させる。
次に、第2触媒担持工程では、金属塩が付着した共連続体を高温高圧の水に作用させることで、金属塩を構成する金属による金属酸化物の水和物からなる触媒を共連続体に担持させる。
なお、上記金属は、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデンの少なくとも1つの金属であればよい。
製造方法6における第1触媒担持工程は、製造方法5における第1触媒担持工程と同様であり、ここでは説明を省略する。
製造方法6における第2触媒担持工程は、共連続体の表面に付着させた前駆体(金属塩)を、比較的低温の熱処理により、金属酸化物の水和物に転化する。
具体的には、前駆体が付着した共連続体を、高温高圧の水に作用させた後に、100〜200℃程度の比較的低温で乾燥する。これにより、前駆体は、前駆体のアモルファス状態を維持しつつ、粒子中には水分子が存在する水和物となる。このような低温乾燥により得られた、金属酸化物の水和物を触媒として用いる。
製造方法6により作製される正極では、金属酸化物の水和物が、共連続体上にナノサイズの微粒子の状態で、高分散で担持されうる。従って、このような共連続体を正極とした場合、優れた電池性能を示すことが可能となる。
上記の各製造方法で得られた共連続体は、公知の手順で所定の形状に成形して正極とすることができる。例えば、触媒未担持および触媒担持共連続体を板状体またはシートに加工し、得られた共連続体を打ち抜き刃、レーザーカッターなどなどにより所望の直径(例えば23mm)の円形に切り抜いて正極とすればよい。
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。はじめに、実際に用いた電池の構成について図6、図7を用いて説明する。図6は、コインセル型のマグネシウム水電池のより詳細な構成例を示す断面図である。また、図7は、コインセル型のマグネシウム水電池の構成例を示す平面図である。
前述した実施の形態における正極101、負極102、電解質103を使用する電池は、コイン形、円筒形、ラミネート形など従来の形状で作製することができる。これらの電池の製造方法は、従来と同様の方法を用いることができる。
図6、図7に示すように、コインセル型の電池は、正極101および負極102と、これらの間の電解質103とを備える。この場合の電解質103は、電解液を含浸したシート状のセパレータである。また、正極101の側には正極ケース201が配置され、負極102の側には、負極ケース202が配置される。正極ケース201は開口201aを備え、正極101で発生したガスを大気中に開放することが可能とされている。
また、正極ケース201と負極ケース202とは、嵌合され、嵌合している部分には、ガスケット203が配置されている。正極101と負極102とで電解質103を挾んで電池セルとし、この電池セルを正極ケース201と負極ケース202との間に配置し、正極ケース201と負極ケース202とを嵌合させて一体とする。
また、図8に示すように、正極101以外の電池セル内部を密閉する筐体300を用い、筐体300内に電池セルを収容してもよい。筐体300は、負極102の側に配置される第1筐体311と、正極101の側に配置される第2筐体312とから構成されている。第2筐体312には、開口321aが形成され、正極101で発生したガスを大気中に開放することが可能とされている。また、第1筐体311と負極102との間には、負極集電体301が設けられ、第2筐体312と正極101との間には、正極集電体302が設けられ、各々から端子が筐体300の外部に取り出されている。なお、負極102として金属を用いる場合は、負極集電体301を用いず負極102から直接端子を外部に取り出してもよい。
上述した構成のマグネシウム水電池において、電解質103を、コーヒーフィルタやキッチンペーパー、濾紙のような吸水性を有する絶縁体のシートから構成するとよく、例えば、植物繊維からつくられるセルロース系セパレータのような、自然分解される材料のシートを電解質103に用いることが特に好ましい。
また、筐体300を、電池セルを内部に維持することが可能で、自然分解される材料から構成するとよい。筐体300は、天然物系、微生物系、化学合成系のいずれの材料でもよく、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、変性澱粉などから構成することができる。特に、植物由来のポリ乳酸などの化学合成系が好ましい。また、筐体300の形状は、生分解性プラスチックを加工することで得られる形状であれば限定されない。筐体300に適用可能な材料の例としては、市販の生分解性プラスチックフィルムの他、牛乳パックなどに用いられるポリエチレンなどの樹脂の被膜が形成されている用紙、また寒天フィルムなども使用できる。
上述した材料で構成した第1筐体311と第2筐体312とを、周縁部で接着することで、正極101以外の電池セル内部を密閉することが可能である。接着方法としては、熱シールや接着剤を使用する例が挙げられ、特に限定はされない。生分解性樹脂で構成される接着剤を使用することが好ましい。なお、正極101、負極102、電解質103、第1筐体311、第2筐体312、負極集電体301、正極集電体302は、電池として作動するためのこれらの配置が損なわれない限り、形状は限定されない。例えば、平面視で、四角形または円形のシート形状、あるいは、ロールした形状で使用することができる。
上述した自然分解される材料から構成した筐体300によるマグネシウム水電池は、例えば、土壌の水分センサーなどの使い捨てデバイスで使用した際に、時間がたつにつれて自然分解され、電池を回収する必要がない。また、自然由来の材料や肥料成分で構成されているため、環境に対する負荷が極めて低い。土壌以外にも、森の中や海中などの自然界で使用しても回収する必要がなく、また、通常の生活環境下で使用した場合には燃えるごみとして処分することができる。
[実施例1]
はじめに、実施例1について説明する。実施例1は、一体とされた複数の窒素含有ナノシートが分岐を有することで三次元ネットワーク構造とされた共連続体を正極として使用する例である。正極を、以下のようにして合成した。以下の説明では、代表として、窒素含有グラフェンをナノシートとして使用する製造方法を示すが、窒素含有グラフェンを他の材料によるナノシートに変えることで、三次元ネットワーク構造を有する共連続体を調整することができる。なお、以下に示す気孔率は、共連続体を水銀圧入法により求めた細孔径分布から、細孔を円筒形とモデル化して算出した。
まず、市販の窒素含有グラフェン粉末(Sigma−Aldrich製)を試験管に入れ、これに水を加え、超音波洗浄機(日本エマソン株式会社製)で1時間撹拌させることで、0.4重量%の窒素含有グラフェンゾルを作製した。この試験管を液体窒素中に30分間浸すことで窒素含有グラフェンゾルを完全に凍結させた。窒素含有グラフェンゾルを完全に凍結させた後、凍結させた窒素含有グラフェンゾルをナスフラスコに取り出し、これを凍結乾燥機(東京理科器械株式会社製)により10Pa以下の真空中で乾燥させることで、窒素含有グラフェンナノシートを含む三次元ネットワーク構造を有する伸縮性共連続体を得た。
得られた、共連続体をX線回折(XRD)測定、エネルギー分散型X線(EDX)分析、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、気孔率測定、引張試験、BET比表面積測定を行い、評価した。本実施の形態で作製した共連続体はXRD測定よりカーボン(C,PDFカードNo.01−075−0444)単相であることを確認した。また、EDX分析から、0.39keVに窒素特有の特性X線のピークを観察し、得られた共連続体は窒素元素が含まれていることを確認した。なお、PDFカードNoは、国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data,ICDD)が収集したデータベースであるPDF(Powder Diffraction File)のカード番号であり、以下同様である。
また、SEM観察および水銀圧入法により、得られた共連続体は、ナノシート(窒素含有グラフェン片)が連続に連なった、平均孔径が1μmの共連続体であることを確認した。また、水銀圧入法により共連続体のBET比表面積測定を測定したところ、510m2/gであった。また、水銀圧入法により共連続体の気孔率を測定したところ、90%以上であった。更に、引張試験の結果から、得られた共連続体は、引張応力により歪が20%加えられても、弾性領域を超えず、応力印加前の形状に復元することを確認した。
このような窒素含有グラフェンによる共連続体を、打ち抜き刃、レーザーカッターなどにより直径14mmの円形に切り抜き、正極を得た。
負極は、市販の金属マグネシウム板(厚さ200μm、ニラコ製)を、打ち抜き刃、レーザーカッターなどにより直径14mmの円形に切り抜くことで調整した。
電解液は、塩化カリウム(KCl、関東化学製)を1mol/Lの濃度で純水に溶解した溶液を用いた。セパレータは、電池用のセルロース系セパレータ(日本高度紙工業製)を用いた。
上述した正極、負極、電解質となる電解液およびセパレータを用い、図6、図7を用いて説明したコインセル型のマグネシウム水電池を作製した。まず、スポット溶接により銅箔(ニラコ製)の周縁部を内側に固定した正極ケースに、上記の正極を設置した。また、金属マグネシウム板より構成した負極は、スポット溶接により周縁部を銅箔(ニラコ製)に固定し、更に、この銅箔を負極ケースにスポット溶接して固定した。次に、正極ケースに設置した正極の上に、セパレータを載置し、載置したセパレータに電解液を注入した。次に、負極を固定した負極ケースを正極ケースに被せ、コインセルかしめ機で正極ケースおよび負極ケースの周縁部をかしめることにより、ポリプロピレン製ガスケットを含むコインセル型のマグネシウム水電池を作製した。
作製したコインセル型のマグネシウム水電池の電池性能を測定した。まず、放電試験を実施した。マグネシウム水電池の放電試験は、市販の充放電測定システム(北斗電工社製、SD8充放電システム)を用い、正極の有効面積当たりの電流密度で0.1mA/cm2を通電し、開回路電圧から電池電圧が、0Vに低下するまで測定を行った電池の放電試験は、25℃の恒温槽内(雰囲気は通常の生活環境下)で測定を行った。放電容量は、負極の重量当たりの値(mAh/g)で表した。実施例1における初回の放電曲線を図9に示す。
図9に示すように、共連続体を正極に用いたときの平均放電電圧は0.77Vであり、放電容量は430mAh/gであることが分かる。なお、平均放電電圧は、電池の放電容量(実施例1では430mAh/g)の1/2の放電容量(実施例1では215mAh/g)の時の電池電圧とする。
以下の表1に、グラフェン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化塩化リン三量体、窒化鉄、窒化カルシウム、窒化マグネシウム、窒化バナジウム、窒化亜鉛、窒素含有グラフェン、窒素含有鉄酸化物、窒素含有マンガン酸化物、窒素含有亜鉛酸化物、窒素含有モリブデン酸化物、窒素含有硫化モリブデン化合物のいずれかによるナノシートから共連続体を構成して正極としたマグネシウム水電池の平均放電電圧を示す。
いずれも、平均放電電圧は、0.7V以上を示し、後述する粉末カーボンを用いた正極について評価した比較例1に比べて高い値であった。窒素含有炭素以外の材料によるナノシートの例の場合も、窒素含有グラフェン同様、高比表面積であり、優れた触媒活性を有しているため、水還元が効率的に行われ、放電電圧が改善されたものと考えられる。
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2は、一体とされた複数の窒素含有ナノファイバーが分岐を有することで三次元ネットワーク構造とされた共連続体を正極として使用する例である。正極を、以下のようにして合成した。以下の説明では、代表として、窒素含有カーボンナノファイバーを使用する製造方法を示すが、窒素含有カーボンナノファイバーを他の材料によるナノファイバーに変えることで、三次元ネットワーク構造を有する共連続体を調整することができる。
共連続体の評価法、マグネシウム水電池の作製、および放電試験の方法は、実施例1と同様にして行った。共連続体は、実施例1に示したプロセスと同様に作製し、原料には窒素含有カーボンナノファイバー粉末(Sigma−Aldrich製)を使用した。
得られた、共連続体は,XRD測定、EDX分析、SEM観察、気孔率測定、引張試験、BET比表面積測定を行い、評価した。本実施の形態で作製した共連続体はXRD測定よりカーボン(C,PDFカードNo.00−058−1638)単相であることを確認し、EDX分析からは、窒素元素を含有していることを確認した。また、SEM観察および水銀圧入法により、ナノファイバーが連続に連なった平均孔径が1μmの共連続体であることを確認した。また、水銀圧入法により共連続体のBET比表面積測定を測定したところ、610m2/gあった。また、水銀圧入法により共連続体の気孔率を測定したところ、92%以上であった。更に、引張試験の結果から、実施例2の共連続体は、引張応力により歪が40%加えられても、弾性領域を超えず、応力印加前の形状に復元することを確認した。
この窒素含有カーボンナノファイバーによる共連続体を正極に用いて実施例1と同様のコインセル型のマグネシウム水電池を作製した。作製した実施例2におけるマグネシウム水電池の放電容量を表5に示す。実施例2では、放電容量は、初回で440mAh/gを示し、実施例1の窒素含有グラフェンによる共連続体を用いた場合よりも大きい値であった。このような特性の向上は、より伸縮性の高い共連続体を用いることにより、放電時においてスムーズに反応が行われたことによると考えられる。
表2には、カーボンナノファイバー、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化塩化リン三量体、窒化鉄、窒化カルシウム、窒化マグネシウム、窒化バナジウム、窒化亜鉛、窒素含有カーボンナノファイバー、窒素含有鉄酸化物、窒素含有バナジウム酸化物、窒素含有シリコン、窒素含有シリコン酸化物、窒素含有アルミ酸化物、窒素含有マンガン酸化物、窒素含有亜鉛酸化物、窒素含有モリブデン酸化物、窒素含有硫化モリブデン化合物のいずれかによる窒素含有ナノファイバーから共連続体を構成して正極としたマグネシウム水電池の平均放電電圧を示す。
いずれも、平均放電電圧は、0.7V以上を示し、実施例1のようなナノシートを含む共連続体よりも全体的に高い値であった。これらのナノファイバーの例の場合も、カーボンナノファイバー同様、伸縮性及び触媒活性を有する正極が効率的に水還元を行ったため、放電電圧が改善されたものと考えられる。
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。実施例3では、窒素含有カーボンナノファイバーによる共連続体に、酸化物または金属を触媒として担持させて構成した正極について説明する。以下では、代表として、触媒としてFe2O3を共連続体に担持させる場合について説明するが、Feを任意の金属に変えることで、任意の酸化物を触媒として共連続体に担持させることができる。また、中和の工程を行わないことで、任意の金属を触媒として共連続体に担持させることができる。
共連続体の評価法、マグネシウム水電池の作製、充放電試験方法は、実施例1,2と同様にして行った。共連続体は、実施例2と同様に作製した。次に、市販の塩化鉄(III)6水和物(FeCl3・6H2O;関東化学製)を蒸留水に溶解し、作製した共連続体を含浸させ、塩化鉄を担持させた。次いで、塩化鉄を担持する共連続体(共連続体が担持する塩化鉄)に、徐々にアンモニア水(28%)をpH7.0になるまで滴下し、中和することで水酸化鉄を析出させた。析出物は、塩素が残留しないように、蒸留水による洗浄を5回繰り返した。
得られた水酸化鉄担持共連続体を、アルゴン雰囲気中500℃で6時間熱処理し、酸化鉄(Fe2O3)を担持した共連続体を作製した。作製した酸化鉄担持共連続体を、XRD測定、TEM観察を行い、評価した。XRD測定より、酸化鉄(Fe2O3,PDFファイルNo.00−039−1346)のピークを観察することができた。共連続体に担持された触媒は、酸化鉄単相であることを確認した。また、TEMにより酸化鉄は、共連続体の表面に平均粒径100nmの粒子状で析出しているのが観察された。
この酸化鉄を担持した共連続体を正極に用いて実施例1,2と同様のコインセル型のマグネシウム水電池を作製した。作製した実施例3におけるマグネシウム水電池の平均放電電圧は、0.93Vであった。また、以下の表3に、他の触媒を用いた場合の結果も合わせて示す。
実施例3では、平均放電電圧は、0.93Vとなり、実施例2の、触媒として酸化鉄を担持していない共連続体を用いた場合よりも高い値であった。本実施例のマグネシウム水電池の正極は安定に作動することを確認した。
[実施例4]
次に、実施例4について説明する。実施例4は、バクテリアに産生させたナノファイバーが分散したゲルによる共連続体に、更に、酸化鉄を触媒として担持させた場合について説明する。以下では、代表として、鉄バクテリアが産生した酸化鉄によるナノファイバーから共連続体を作製した場合について示すが、鉄バクテリアを任意のバクテリアに変えることで、酸化マンガンによるナノファイバーによる共連続体を調整することができる。
共連続体の評価法、マグネシウム水電池の作製法、および放電試験方法法は、実施例1,2と同様にして行った。
まず、鉄バクテリアであるレプトスリックス・オクラセア(Leptothrix ochracea)を、鉄小片(純度99.9%以上、高純度化学研究所製)と共に試験管中のJOP液体培地に投入し、振とう器で20℃、14日間培養した。JOP液体培地は、滅菌地下水1L中、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.076g、リン酸二水素カリウム2水和物0.02g、HEPES[4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid:緩衝液用物質]2.383g、硫酸鉄0.01mmol/L、pHを水酸化ナトリウム水溶液で7.0に調整した培地である。また、レプトスリックス・オクラセアは、ATCC(American Type Culture Collection)から購入した。
培養した後、鉄小片を取り除き、得られたゲルを純水中で振とう器を用いて24時間洗浄を行った。この洗浄においては、純水は3度交換した。洗浄したゲルを原料とし、実施例1および実施例3に示したプロセスと同様に共連続体を作製した。本手法では、窒素を含有していないため、更に、アンモニアガス中900℃で5時間熱処理を施すことで、共連続体に窒素を含有させた。その後、実施例1および実施例3に示したプロセスと同様にマグネシウム水電池を作製した。
得られた、共連続体は、XRD測定、EDX分析、SEM観察、気孔率測定、引張試験、BET比表面積測定を行い、評価した。本実施の形態で作製した共連続体はXRD測定よりアモルファス状のFe3O4およびγ−Fe2O3(Fe3O4,PDFカードNo.01−075−1372,γ−Fe2O3,PDFカードNo.00−039−1346)であることを確認し、EDX分析より、窒素を含有していることを確認した。
また、SEM観察により、直径1μmで中空状のナノファイバー(ナノチューブ)が連続に連なった、共連続体であることを確認した。また、水銀圧入法により共BET比表面積測定を測定したところ、800m2/gであった。また、水銀圧入法により共連続体の気孔率を測定したところ、95%以上であった。更に、引張試験の結果から、引張応力により歪が60%加えられても、弾性領域を超えず、応力印加前の形状に復元することを確認した。
実施例4における鉄バクテリア産生の酸化鉄ナノファイバーによる共連続体を正極に用いたマグネシウム水電池の平均放電電圧は、1.02Vであった。また、以下の表4に、他の共連続体を用いた場合の結果も合わせて示す。
実施例4では、平均放電電圧は、1.02Vを示し、実施例3のような酸化鉄を担持した窒素含有カーボンナノファイバーによる共連続体を用いた場合よりも高い値となった。この結果は、より触媒活性の高い共連続体を用いることにより、放電時においてスムーズに反応が行われたことによると考えられる。
また、表4に示すように、バクテリア産生酸化鉄による共連続体を用い、酸化鉄を触媒とした正極によるマグネシウム水電池の平均放電電圧は、1.08Vを示し、実施例3よりも高い値であった。バクテリア産生酸化マンガンは、マンガン細菌であるレプトスリックス・ディスコフォラ(Leptothrix discophora)により、マンガン小片(純度99.9%以上、高純度化学研究所製)を用いて前述同様に培養して生産した。レプトスリックス・ディスコフォラは、ATCCから購入した。このバクテリア産生ナノファイバーの場合も、鉄バクテリア産生酸化鉄同様、バクテリアにより産生された優れた伸縮性及び触媒活性を有する正極が効率的に水還元を行ったため、放電電圧が改善されたものと考えられる。
[実施例5]
次に、実施例5について説明する。実施例5は、バクテリアに産生させたセルロースが分散したゲルによる共連続体に、更に、酸化鉄を触媒として担持させた場合について、共連続体の評価法、マグネシウム水電池の作製法、および充放電試験方法は、実施例1,2と同様にして行った。
まず、酢酸菌であるアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)産生のバクテリアセルロースゲルとして、ナタデココ(フジッコ製)を用い、このナタデココをアンモニア水(10重量%、和光純薬工業製)に含浸させ、48時間振とう器(タイテック株式会社製)で撹拌させた。
その後、実施例1および実施例3に示したプロセスと同様にマグネシウム水電池を作製した。なお、実施例5では、真空中で乾燥させた後、アンモニアガス雰囲気下で1200℃、2時間の焼成により、共連続体を炭化させ、これにより正極を作製した。
得られた、共連続体(炭化した共連続体)は、XRD測定、EDX分析、SEM観察、気孔率測定、引張試験、BET比表面積測定を行い、評価した。この共連続体は、XRD測定よりカーボン(C,PDFカードNo.01−071−4630)単相であることを確認し、EDX分析より窒素元素を含有していることを確認した。また、SEM観察により、直径20nmのナノファイバーが連続に連なった、共連続体であることを確認した。また、水銀圧入法により共連続体のBET比表面積測定を測定したところ、830m2/gであった。また、水銀圧入法により共連続体の気孔率を測定したところ、99%以上であった。更に、引張試験の結果から、引張応力により歪が80%加えられても、弾性領域を超えず、応力印加前の形状に復元することを確認し、炭化した後も優れた伸縮性を有する。
実施例5におけるマグネシウム水電池の、平均放電電圧を後述する表5に示す。表5には、実施例1,2,3,4の結果も示している。実施例5では、平均放電電圧は、1.21Vを示し、実施例4のような酸化鉄を担持した鉄バクテリア産生酸化鉄を含む共連続体を用いた場合よりも高い値であった。
上記のような特性の向上は、より伸縮性の高い共連続体を用い、更に窒素導入工程を実施することで、放電時において正極が効率的に水還元を行ったことと、Cが優れた導電性を有するために、スムーズに反応が行われたと考えられる。
上述したように、本実施の形態により、高気孔率で、伸縮性を有する共連続体が得られ、また、触媒活性を有するこの共連続体を正極に用いたマグネシウム水電池によれば、放電時の効率的な水還元が実現される。上記のような特性の向上は、本実施の形態による各種の改善が理由と考えられる。
[実施例6]
次に、実施例6について説明する。実施例6は、バクテリアに産生させたセルロースが分散したゲルによる共連続体に、更に、酸化鉄を触媒として担持させた場合について、図8を用いて説明した筐体ごと自然分解されるマグネシウム水電池を作製した。酸化鉄を触媒として担持させた共連続体の合成方法、共連続体の評価法、および充放電試験方法は、実施例5と同様にして行った。
以下、実施例6におけるマグネシウム水電池の作製方法について説明する。負極は、市販の金属マグネシウム板(厚さ200μm、ニラコ製)を、はさみを用いて20mm×20mmの正方形に切り抜くことで作製した。
電解液は、塩化カリウム(KCl、関東化学製)を1mol/Lの濃度で純水に溶解した溶液を用いた。セパレータは、電池用のセルロース系セパレータ(日本高度紙工業製)を25mm×25mmの正方形にカットして用いた。
金属マグネシウム板からなる負極は、この周縁部をスポット溶接により負極集電体である銅箔(ニラコ製)に固定し、更に、この銅箔を平面視で25mm×25mmにカットし、この端を、端子となる3×20mmにカットした銅箔(ニラコ製)の短辺にスポット溶接した。
また、正極用の集電体としての25mm×25mmにカットした銅箔(ニラコ製)に正極を圧着し、この銅箔の端に、端子となる3×20mmにカットした銅箔(ニラコ製)の短辺にスポット溶接した。
筐体の材料として、植物系フィルムシート エコロージュ(三菱樹脂製)を用いた。このシートを平面視30m×30mmにカットした2枚のカットシートを作製し、一方を第1筐体とし、他方を第2筐体とした。また、正極側に用いる第2筐体には、中央部にガス開放孔として2mm×2mmの開口を形成した。
負極側の第1筐体の上に、負極を固定した負極集電体およびセパレータを配置し、更にセパレータには電解液を注入した。この上に、正極を圧着した正極集電体、および第2筐体を被せ、第1筐体および第2の内側の周縁部(幅約5mm)を生分解性樹脂(ミヨシ油脂製)で接着して密閉した。このようにして、マグネシウム水電池を作製した。
実施例6におけるマグネシウム水電池の、平均放電電圧を表5に示す。表5に示すように実施例6では、平均放電電圧は、1.20Vを示し、実施例5とほぼ同様の放電電圧であった。
実施例6におけるマグネシウム水電池を放電後に土壌中に設置したところ、約半月で筐体の分解が目視で確認でき、約1カ月後には完全に消失した。土壌中の微生物によって代謝され分解されたことが示された。
[実施例7]
次に、実施例7について説明する。実施例7は、実施例6と同様の手順で作製したマグネシウム水電池について、土壌を模擬した環境下で放電試験を行った。
実施例7におけるマグネシウム水電池の、平均放電電圧を表5に示す。表5に示すように実施例7では、平均放電電圧は、1.18Vを示し、実施例6よりも低下したが、土壌環境下においても問題なく作動することが示された。また、実施例7におけるマグネシウム水電池を放電後に土壌中に放置したところ、放電試験開始時から約1カ月後には完全に消失した。
[比較例1]
次に、比較例1について説明する。比較例1は、一般的なマグネシウム水電池の正極用の電極として公知であるカーボン(ケッチェンブラックEC600JD)、および酸化マンガンを用いたマグネシウム水電池セルを作製して評価した。比較例1では、実施例1と同様のコインセル型のマグネシウム水電池を作製した。
酸化マンガン粉末(関東化学製)、ケッチェンブラック粉末(ライオン製)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末(ダイキン製)を50:30:20の重量比で、らいかい機を用いて十分に粉砕および混合し、ロール成形して、シート状電極(厚さ:0.5mm)を作製した。このシート状電極を直径14mmの円形に切り抜き正極を得た。電池の放電試験の条件は、実施例1と同様である。
比較例1に係るマグネシウム水電池の平均放電電圧を実施例1〜7の結果とともに表5に示す。表5に示すように、比較例1の平均放電電圧は、0.45Vであり、実施例1よりも小さな値を示した。また、測定後に比較例1の正極を観察したところ、正極の一部が崩れて電解液中に分散しており、正極の電極構造が破壊されている様子が見られた。
以上の結果より、本実施の形態におけるマグネシウム水電池は、公知の材料による正極を用いたマグネシウム水電池よりも、電圧および容量に関して優れていることが確認された。
以上に説明したように、本実施の形態におけるマグネシウム水電池は、土壌の肥料に用いられる元素や雨水や海水中に含まれる金属以外の金属元素が含まれず、また、自然分解されるため、極めて環境負荷が低い。このような電池は、日常環境の使い捨て電池を始め、土壌中で用いるセンサーなどの様々な駆動源として有効利用することができる。また、本実施の形態発明によれば、マグネシウム水電池の放電電圧を高くすることができる。
なお、特許請求の範囲で請求する発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、製造方法1〜6の各工程を任意に組み合わせ、または、いずれかの工程を経ないことも考えられる。例えば、製造方法2では窒素導入工程と炭化工程の両方の工程を経る場合を説明したが、そのうち一方の工程のみを経るようにしてもよい。