JP6949330B2 - 防藻方法 - Google Patents
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本発明の一実施形態に係る防藻方法は、植物の培養液栽培における防藻方法である。培養液栽培としては、特に限定されるものではないが、例えば図1に示すように、育成される植物P、植物Pが定植される培地1、培養液W、及び培養液Wを貯留する培養液貯留槽2が用いられる培養液栽培である。本実施形態で用いる培養液貯留槽2は、略立方体形状で、底壁と側壁を有し、培養液Wを貯留する。培養液貯留槽2の上部は、開口している。当該防藻方法では、防藻治具3をさらに用いて、この防藻治具3の少なくとも一部を培養液Wに浸漬する工程を有する。
防藻治具3は、図2に示すように、当該浸漬される部分Sの少なくとも一部に皮膜4を備える(以下、浸漬される部分のことを「浸漬領域」ともいう)。浸漬領域Sの高さ、すなわち、培養液Wの液面から防藻治具3の下端までの深さは、培養液Wの容積、防藻治具3の全高、皮膜3の面積、皮膜3が防藻治具3に形成される箇所等により特に限定されるものではないが、例えば、1cm以上3cm以下とすることができる。皮膜4が形成されるのは、当該浸漬される部分Sの一部若しくは全部、又は浸漬されない部分も含めて防藻治具3の一部又は全部(全面)とすることもできる。
皮膜4は、Niを50質量%以上、Pを0.01質量%以上30質量%以下、及びHを0.00001質量%以上1質量%以下の元素を含有する。
Niは、藻類の発生を抑制することに寄与する元素である。具体的には、皮膜4が培養液Wに接触すると、Niが培養液W中に溶出し、ニッケルイオンが生成されると同時に触媒的に水と反応して活性酸素やOHラジカルなどの抗菌性発現物質が生成される。この活性酸素やOHラジカルなどの抗菌性発現物質によって、藻類の発生を効果的に抑制することができる。Ni単体でも、活性酸素やOHラジカルなどの抗菌性発現物質を生成することができるが、後述のP、Hなどを共存させることにより、防藻性をより効果的に発現させることができる。一方で、ニッケルイオンは、植物Pに対して生理障害をもたらすおそれがある。例えば、培養液W中のニッケルイオンの濃度が1ppmを超えると、植物の育成を妨げることがある。
Pは、Niの抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のPの含有量の下限値としては、0.01質量%であり、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、Pの含有量の上限値としては、30質量%であり、10質量%が好ましく、3.5質量%がより好ましい。Pの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性が不十分となるおそれがある。一方、Pの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜の靭性が劣化となるおそれがある。
Hは、Niの抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のHの含有量の下限値としては、0.00001質量%であり、0.0001質量%が好ましく、0.0005質量%がより好ましい。一方、Hの含有量の上限値としては、1質量%であり、0.1質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましい。Hの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性が不十分となるおそれがある。一方、Hの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜の靭性が著しく劣化となるおそれがある。
Coは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のCoの含有量の下限値としては、0.001質量%であり、0.01質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましい。一方、Coの含有量の上限値としては、5質量%であり、1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。Coの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Coの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜靭性劣化となるおそれがある。
Moは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のMoの含有量の下限値としては、0.01質量%であり、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましい。一方、Moの含有量の上限値としては、20質量%であり、5質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。Moの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Moの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定となるおそれがある。
Snは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のSnの含有量の下限値としては、0.01質量%であり、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましい。一方、Snの含有量の上限値としては、20質量%であり、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。Snの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Snの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜の形成が不安定となるおそれがある。
Cuは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のCuの含有量の下限値としては、0.01質量%であり、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましい。一方、Cuの含有量の上限値としては、20質量%であり、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。Cuの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Cuの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定となるおそれがある。
Agは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のAgの含有量の下限値としては、0.001質量%であり、0.005質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましい。一方、Agの含有量の上限値としては、20質量%であり、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。Agの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Agの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定となるおそれがある。
Ptは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のAgの含有量の下限値としては、0.001質量%であり、0.005質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましい。一方、Ptの含有量の上限値としては、5質量%であり、1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。Ptの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Ptの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定となるおそれがある。
Auは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のAuの含有量の下限値としては、0.001質量%であり、0.005質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましい。一方、Auの含有量の上限値としては、5質量%であり、1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。Auの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Auの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定となるおそれがある。
Sは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のSの含有量の下限値としては、0.001質量%であり、0.002質量%が好ましく、0.005質量%がより好ましい。一方、Sの含有量の上限値としては、0.1質量%であり、0.05質量%が好ましく、0.025質量%がより好ましい。Sの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Sの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定なるおそれがある。
Clは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のClの含有量の下限値としては、0.001質量%であり、0.002質量%が好ましく、0.005質量%がより好ましい。一方、Clの含有量の上限値としては、0.1質量%であり、0.05質量%が好ましく、0.025質量%がより好ましい。Clの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Clの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定となるおそれがある。
Oは、上記Ni系皮膜の抗菌活性向上に寄与する元素である。皮膜4のOの含有量の下限値としては、0.01質量%であり、0.05質量%が好ましく、0.1質量%がより好ましい。一方、Oの含有量の上限値としては、5質量%であり、2質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。Oの含有量が上記下限値に満たない場合、抗菌活性に寄与しないおそれがある。一方、Oの含有量が上記上限値を超える場合、皮膜性状が不安定でかつ抗菌活性値が返って低下するとなるおそれがある。
皮膜4の表面に、多孔質構造の表面層が形成されることが好ましい。表面層を形成することで、皮膜4の耐変色性、耐蝕性、耐キズ付き性、耐久性等を向上させることができる。また、表面層が多孔質構造であることで、皮膜4まで貫通する多数の微細孔を備え、この微細孔を介して皮膜4からの抗菌性発現物質の生成を発揮させる。そこで、本発明では、当該微細孔から溶出されるNiの溶出量を微細孔の形成率(多孔質構造の表面層の被覆率)の指標とした。その下限としては、表面層がない状態(皮膜4のみ)の場合の溶出量の比率として、0.01%が好ましく、0.1%がより好ましく、1%がさらに好ましい。表面層からのNi溶出量が上記下限値に満たない場合、防藻効果が発揮できないおそれがある。
培養液に防藻治具の少なくとも一部を浸漬する工程では、一つの防藻治具を設置することも可能である。培養液貯留槽2の側壁の全面に防藻治具を設置することが必要なわけではない。例えば、藻類が発生しやすい箇所が特定できている、或いは藻類が発生すると衛生管理上の問題が大きい場所が特定できている等の場合であれば、そのような箇所にのみ設置することでも衛生管理面からは、好適な効果が得ることができる。
当該防藻方法は、皮膜4を備える防藻治具を配置することで、容易に防藻効果を得ることができる。防藻治具が備える皮膜4は、Ni、P及びHを所定量含み、このNiから培養液W中に抗菌性発現物質が発現するため、安全で優れた防藻効果を発揮することができる。また、複数個の防藻治具を配置する場合、培養液貯留槽2の大きさ、培養液Wの容量等に影響されず、配置する防藻治具の個数を調整することにより、好適な抗菌性発現物質の発現量とすることができる。よって、衛生的に優れた植物Pの生産を、容易に向上することができる。
本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではない。
培養液貯留槽のサイズ(内側寸法):620mm(縦)、610mm(横)、75mm(深さ)
培養液:ハイポニカ液体肥料500倍希釈(協和株式会社製)、50L
栽培パネル:発泡スチロール、615mm(縦)、605mm(横)、30mm(厚さ)
定植状況:縦45mm、横50mmの間隔で59株
栽培期間:2017年8月29日から2017年9月21日まで
栽培条件:温室内、室温5〜35℃、湿度20〜100%、水温13〜25℃、日射量0〜4.0MJ/m2・h
[A]母材:ステンレス鋼製、板厚:0.5mm
[B]母材:樹脂(ナイロン)、板厚:2mm
P:2質量%、H:0.005質量%、Co:0.02質量%、S:0.005質量%、Cl:0.002質量%、O:0.05質量%、残部Ni
実施例1では、植物の生育状況が比較例1と同等でありながらも、藻類の発生を3分の1にまで抑制できた。実施例2では、藻類の発生を効果的に抑制すると共に、植物の生育状況も良好であった。実施例3では、藻類の発生については、他の実施例と比較すると、抑制効果が少ないが、植物の生育状況は比較的良好であった。これは、防藻治具からのニッケル溶出量が低く抑えられ、植物の生育への影響が小さかったためと考えられる。実施例4では、藻類の発生を効果的に抑制することはできたが、植物の生育状況は、比較例1を下回った。これは、防藻治具からのニッケル溶出量が高くなり、植物の生育に若干影響したためと考えられる。
2 培養液貯留槽
3、5、6、7、8 防藻治具
4 皮膜
P 植物
S 浸漬領域
W 培養液
Claims (6)
- 培養液貯留槽での植物栽培における防藻方法であって、
上記培養液に1又は複数の防藻治具のそれぞれ少なくとも一部を浸漬する工程を有し、
上記防藻治具が、上記培養液に浸漬されている部分の少なくとも一部に皮膜を備え、
上記皮膜が、
Ni:50質量%以上、
P:0.01質量%以上30質量%以下、
H:0.00001質量%以上1質量%以下、
Co:0.001質量%以上5質量%以下、
S:0.001質量%以上0.1質量%以下、
Cl:0.001質量%以上0.1質量%以下、及び
O:0.01質量%以上5質量%以下
の元素を含有し、
上記防藻治具の厚みが0.3mm以上3mm以下であり、
上記防藻治具が、上記培養液貯留槽の開口部分の少なくとも一部を覆う遮光部分を有し、
上記防藻治具を上記培養液貯留槽の開口の周長に対して40%以上の範囲に侵付けし、
上記防藻治具を上記培養液貯留槽の開口の周長の10%以下の間隔で断続的に配置することを特徴とする防藻方法。 - 上記浸漬工程で、上記培養液貯留槽の側壁に沿って設置する請求項1に記載の防藻方法。
- 上記皮膜が、Mo、Sn、Cu、Ag、Pt、Auよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を、以下の比率でさらに含む請求項1又は請求項2に記載の防藻方法。
Mo:0.01質量%以上20質量%以下、
Sn:0.01質量%以上20質量%以下、
Cu:0.01質量%以上20質量%以下、
Ag:0.001質量%以上20質量%以下、
Pt:0.001質量%以上5質量%以下、
Au:0.001質量%以上5質量%以下 - 上記皮膜の表面上に表面層が形成されており、
上記表面層が多孔質構造を有し、
上記表面層から溶出するNi量が、上記皮膜が培養液に直接浸漬された際の皮膜からのNi溶出量に対して、0.01%以上である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の防藻方法。 - 上記表面層が、Cr、Cr合金、酸化物、炭化物、窒化物から選択される少なくとも1種を50質量%以上含む請求項4に記載の防藻方法。
- 上記防藻治具が、母材を樹脂、ステンレス、鉄合金、又はアルミニウム合金とし、少なくとも一部を板状に形成される請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の防藻方法。
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