<実施形態1>
1.作業装置の全体
図1は、作業装置の平面図である。作業装置Mは、ナットN及びボルトBのメンテナンス作業に使用される装置である。このメンテナンス作業は、例えば、発電所などのプラントの定期点検で行われる作業である。
作業装置Mは、図1に示すように、ナット着脱装置M1と、ナット磨き装置M2と、ボルト研磨装置M3と、を備えて構成されている。作業装置Mは、作業ラインとして捉えることも出来る。
図1の例では、3つの装置M1〜M3は、左側からボルト研磨装置M3、ナット着脱装置M1、ナット磨き装置M2の順に配置されている。尚、図1は、装置M1、M2、M3の配列方向をX方向とし、それに直交する方向をY方向としている。
そして、中央に配置されたナット着脱装置M1の正面が、作業者Pの作業スペースとなっている。作業スペースの左側方には、ボルト研磨装置M3が位置し、作業スペースの右側方には、ワーク支持台M4が位置している。ワーク支持台M4は、作業対象のボルトB及びナットNを置くための台である。
以下、ナット着脱装置M1、ナット磨き装置M2、ボルト研磨装置M3を順に説明する。
2.ナット着脱装置M1の説明
図2はナット着脱装置M1の斜視図である。ナット着脱装置M1は、ボルトBに対するナットNの取り外し作業及び取り付け作業を行う装置である。
ナット着脱装置M1は、作業台10と、回転体20と、駆動部40と、フットスイッチ50とを備える。フットスイッチ50は、第1フットスイッチ50Aと、第2フットスイッチ50Bを有している。
作業台10は、台板11を有しており、その下面に回転体20が取り付けられている。具体的には、作業台10の下面には、4本の支柱31を介して、ベース板30が固定されている。ベース板の上面には、ベアリング33を有する軸受け34を介して、回転シャフト35が取り付けられている。
回転シャフト35の上部には、連結板25を介して、回転体20が固定されている。そのため、回転シャフト35を回転させることで、軸線Lを中心として、回転体20を回転させることが出来る。
図2に示すように、台板11には、回転体20の取り付け位置に対応して、逃がし孔13が開口している。そのため、逃がし孔13を通じて、回転体20の上面部分が、台板11上に露出するようになっている。尚、この実施例では、台板11の正面側(図1において、作業者Pと向かい合う側)に、回転体20を取り付けている。
回転体20は、概ね円柱状をしている。回転体20は、内孔21を有している。内孔21は、回転体20の中心部分にあって、軸線Lに沿って上下方向に形成されている。
内孔21は、第1孔部21Aと第2孔部21Bを有している。第1孔部21Aは、下方に向かって内径が小さくなる円錐台状である。第2孔部21Bは、第1孔部21Aの下部に位置している。第2孔部21Bは、内径が一定のストレート形状である。
回転体20は、回転をナットNに伝達するため、適度な弾性と摩擦がある材料が好ましく、例えば、ポリウレタン樹脂製でもよい。ショアA硬度は、70以下が好ましく50がよい。この実施形態では、回転体20は、ショアA硬度50のポリウレタン樹脂製であり、動的摩擦係数は、0.600から0.677である。
また、ベース板30には、支持部材37を介して、駆動部40が取り付けられている。駆動部40は、回転シャフト35を回転駆動する。
この実施形態では、駆動部40にエアドリルを用いている。駆動部40は、回転部41を有している。回転部41は、ドリルチャックであり、回転シャフト35に連結されている。
駆動部40にエアを供給して回転部41を回転駆動することで、回転シャフト35を介して、回転体20を回転させることが出来る。駆動部40のトルクは、ナット着脱作業時にナットNに対して回転体20が空回りしない、つまり、トルクが、回転体−ナット間の摩擦力を越えない範囲内で、その値を、実験などから定めてもよい。駆動部40は、電気モータでもよい。
また、ベース板30には、シリンダ45が取り付けられている。シリンダ45は、回転体20の回転方向を切り換える方向切換部である。
シリンダ45にエアを供給すると、ロッド46が伸長して、ピン46Aが駆動部40の回転方向切り換えスイッチ43を押す。スイッチ43が押されると、回転部41の回転方向が切り換わることで、回転体20の回転方向が切り換わるようになっている。
この実施形態では、第1フットスイッチ50Aは、ナットの緩め用であり、第1フットスイッチ50Aを足で踏むと、エア源から駆動部40に対してエアが供給される。これにより、駆動部40が、回転体20を第1方向に回転させる。第1方向は、ナットNを緩める方向である。右ねじの場合、回転体20を上方から見た時に、第1方向は、時計方向(右回り)である。
一方、第2フットスイッチ50Bは、ナットの締め付け用であり、第2フットスイッチ50Bを足で踏むと、エア源から駆動部40とシリンダ45の双方にエアが供給される。これにより、シリンダ45が作動してスイッチ43を押すことから、駆動部40の回転方向が切り換わって、回転体20を第2方向に回転させる。第2方向は、ナットNを締める方向である。右ねじの場合、回転体20を上方から見た時に、第2方向は、反時計方向(左回り)である。
図8は、ナット着脱装置の作業時の斜視図、図9はその断面図である。ボルトBからナットNを緩めて取り外す作業を行う場合、図8に示すように、ボルトBを上下方向に向けつつ、緩めるナットN1を下に向けて、台板11上に露出する回転体20の内孔21に押し当てる。具体的には、図9に示すように、第1孔部21AにナットN1の外周が接触するように、ボルトBを手で持って下向きに押し込む。
その後、ボルトBを押し込んだ状態に維持しつつ、フットスイッチ50を足で操作し、回転体20を回転させる。
回転体20を第1方向(時計方向)に回転させた場合、第1孔部21Aとの摩擦を利用して、回転方向への力がナットN1に伝達される。
これにより、ナットN1が第1方向(時計方向)に回転することから、ナットN1を緩めて、ボルトBから取り外すことが出来る。尚、ナットN1を緩める際、作業者は、内孔21に押し当てた状態に、ボルトBを手で保持しておく必要がある。
また、ナット着脱装置M1は、回転体20を第2方向(反時計方向)に回転させることで、ボルトBに対して、ナットN1を締め付けることも出来る。
図10は、付加部品60の斜視図である。付加部品60は、回転体20と同一素材でもよく、この実施形態では、ポリウレタン樹脂製である。図11に示すように、付加部品60は、概ね円盤状である。付加部品60は、回転体20よりも、上下方向の寸法(大きさH)が小さい。付加部品60は内孔61を有している。内孔61は、回転体20の内孔21に対して、形状が異なっている。
内孔61は、第1孔部61Aと第2孔部61Bを有している。第1孔部61Aは、下方に向かって内径が小さくなる円錐台状である。第2孔部61Bは、第1孔部61Aの下部に位置している。第2孔部61Bは、内径が一定のストレート形状である。
付加部品60の第1孔部61Aは、回転体20の第1孔部21Aに対して、円錐の傾斜角度θが大きくなっており、この点で、形状が相違している。また、第2孔部61Bの孔径も回転体20の第2孔部21Bより大きくなっており、この点でも、形状が相違している。
また、付加部品60は、底部に円環状の突起65を有している。突起65は、回転体20の内孔21に嵌合する形状である。
突起65を内孔21に嵌合させることで、図12に示すように、付加部品60を回転体20の上面に対して重ねた状態で取り付けることが出来る。付加部品60は、回転体20に対して着脱可能である。
図13に示すように、ボルト先端がナットN1から突出している場合、付加部品60を用いることで、ボルト先端が、回転体20の内孔21に干渉することを避けることが出来る。尚、付加部品60は、突起65と内孔21の接触面の摩擦力を利用して、回転体20と一体的に回転する構成となっている。
3.ナット磨き装置M2の説明
図14はナット磨き装置M2の斜視図である。ナット磨き装置M2は、ボルトBから取り外したナットNの研磨作業を行う装置である。尚、Y方向は、ナット磨き装置M2の前後方向であり、X方向は、ナット磨き装置M2の幅方向である。前方は、作業を行う時に、作業者の立ち位置に対して正面となる側である。
ナット磨き装置M2は、図14に示すように、金属製の筐体111を備える。筐体111の上面壁112には、カバー113が設置されている。
カバー113は、左右に分割されており、一方のカバー113Aの上面には、操作パネルPが配置されている。他方のカバー113Bには、取っ手が設けられており、カバー113Bは開閉できるようになっている。
図15は、ナット磨き装置M2の平面図であり、カバー113を取り外した状態を示している。筐体111の上面には、供給位置P1と、待機位置P2と、内周研磨位置P3がある。
供給位置P1は、作業対象のナットNをセットする位置である。セット作業は作業者が行う。この実施形態では、供給位置P1は、上面壁112の前部左側に位置している。
待機位置P2は、供給位置P1の後方に位置する。供給位置P1と待機位置P2はY方向に沿った第1軸線L1上にあり、供給位置P1のナットNは、Y方向に移動して、待機位置P2に送られる。内周研磨位置P3は、待機位置P2の右方に位置する。
待機位置P2と内周研磨位置P3は、X方向に沿った第2軸線L2上にあり、作業対象のナットNは、待機位置P2から内周研磨位置P3に移動する。内周研磨位置P3は、ナットNのねじ部の研磨作業を行う位置である。筐体の上面壁112の内周研磨位置P3には、貫通孔115が設けられている。貫通孔115は、磨き対象となるナットNの内径よりも大径であり、研磨ブラシ151は、貫通孔115を介して出没することが出来る。
ナットNは、研磨位置P3で研磨作業を終えると、研磨位置P3から待機位置P2に戻る。図15に示すように、上面壁112の左側端部には、研磨作業済みのナットNが排出される排出部117が設けられている。待機位置P2に移動したナットは、X方向に移動して、排出部117に排出される。
また、この実施形態では、待機位置P2から内周研磨位置P3への移動経路の途中に、座面研磨位置Paが設けられており、ナットNが座面研磨位置Paを通過する時に、ブラシ195により、ナットNの座面(下面)を研磨するようになっている。
図16はナット磨き装置M2の主要部の斜視図、図17はその正面図である。ナット磨き装置M2は、スライド装置120と、移動装置130と、内周研磨装置150と、を備える。
スライド装置120は、供給位置P1から待機位置P2に、ナットNを送る装置である。
スライド装置120は、図18に示すように、Yレール121と、Yスライダ123と、軸ピン125と、エアシリンダ127を備える。Yレール121は、Y方向に並行に延びる一対のガイドレールからなる。Yスライダ123は、Yレール121にスライド可能に嵌合しており、Yレール121に沿ってY方向にスライドする。
軸ピン125は、円柱型であり、スライダ123の上面に設けられている。軸ピン125は、エア駆動により、スライダ123の上面から出没する。エアシリンダ127は、Yレール121と並んで取り付けられており、スライダ123をY方向に移動させる。
スライド装置120は、筐体111の上面壁112の下面に取り付けられている。上面壁112には、ガイド溝116Aを有するスライド板116が取り付けられている。軸ピン125は、ガイド溝116Aを通じて上面壁112から突出し、供給位置P1と待機位置P2との間を移動することが出来る。
移動装置130は、待機位置P2と内周研磨位置P3との間で、ナットNを往復移動する装置である。
移動装置130は、図19及び図20に示すように、フレーム135と、一対のXレール131と、一対のスライドブロック133と、Xスライダ141と、アーム駆動部143と、一対のアーム145と、エアシリンダ147とを備える。
フレーム135は、4つの支柱136と、それらを橋渡す枠部材137と、を備える。フレーム135は、筐体111の上面壁112に取り付けられている。
一対のXレール131は、X方向に並行に延びており、フレーム135に固定されている。Xスライダ141は、一対のスライドブロック133を介して、一対のXレール131にスライド可能に取り付けられている。エアシリンダ147は、Xスライダ141を、Xレール131に沿って移動させる駆動装置である。
一対のアーム145は、X方向に長い形状である。一対のアーム145は、Xスライダ141に対して、アーム駆動部143を介して、Y方向に移動可能に取り付けられている。アーム駆動部143は、エア駆動により、一対のアーム145をY方向に離間又は接近させる。
一対のアーム145を、Y方向に離間又は接近させることで、一対のアーム145を開閉することが出来る。一対のアーム145の内面には、V字型の保持溝146が形成されており、一対のアーム145を閉じることで、ナットNをチャック(保持)することが出来、一対のアーム145を開くことで、チャックしたナットNを離すことが出来る。
一対のアーム145は、Xスライダ141に取り付けられているから、エアシリンダ147を駆動することで、Xスライダ141と共に、一対のアーム145をX方向にスライドすることが出来、待機位置P2と内周研磨位置P3との間でナットNを往復移動することが出来る。
内周研磨装置150は、内周研磨位置P3にて、ナットNの内周面3に形成されたねじ部を研磨する装置である。
内周研磨装置150は、図21に示すように、研磨ブラシ151と、取付板153と、ブラシモータ155と、偏心回転装置161と、昇降装置181と、を備える。研磨ブラシ151は、取付板153の上面に、取り付けられている。研磨ブラシ151は、ブラシ軸151Aの外周にブラシ毛を植設したものである。ブラシ毛は、例えば、ステンレスワイヤやスチールワイヤなどを用いることが出来る。ブラシモータ155は、取付板153の下面に位置している。図21に示す符号152は、ブラシ軸151Aを固定するための部材である。
ブラシモータ155のモータ軸は、ギヤを介して、研磨ブラシ151のブラシ軸151Aに結合しており、ブラシモータ155の駆動により、研磨ブラシ151を、ブラシ軸151Aの軸線Mを中心に回転させることが出来る(自転)。
偏心回転装置161は、研磨ブラシ151の外周面がナットNの内周面3に接触するように研磨ブラシ151をナットNの中心から偏心させつつ、研磨ブラシ151を、ナットNの内周面3に沿って円運動させる装置である。
偏心回転装置161は、回転板163と、軸部164と、可動板165と、回転駆動部169と、アクチュエータ171と、備える。
軸部164は、回転板163の回転中心O1からオフセットした位置に設けられている。可動板165は、回転板163に対して軸部164を介して角変位可能に取り付けられている。軸部164はベアリングでもよい。
可動板165には、3本の支柱166を介して、研磨ブラシ151を支持する取付板153が固定されている。
図23は、可動板165が回転板163に対してニュートラルポジションにある時の、回転板163と研磨ブラシ151との位置関係を示す図である。ニュートラルポジションでは、回転板163の回転中心O1に対して研磨ブラシ151は一致する。
また、回転板163の回転中心O1と内周研磨位置P3は一致(O1=P3)しているから、ナットNが内周研磨位置P3に移動した時、回転板163の回転中心O1にナットNの中心も一致する関係である。
図24に示すように、軸部164を中心に可動板165を回転し、ニュートラルポジションから角変位させることで、研磨ブラシ151の位置を、回転中心O1から偏心させて、ナットNの内周面3に接触させることが出来る。「R」は研磨ブラシ51の移動軌跡である。
アクチュエータ171は、可動板165を回転板163に対して角変位させる装置である。この実施形態では、アクチュエータ171に、エアシリンダを用いている。アクチュエータ171は、回転板163と可動板165の間のスペースに配置されている。
アクチュエータ171は、回転板163に軸止されており、ロッド173の先端を可動板165に固定している。ロッド173を伸張させることで、可動板165は軸部164を中心に回転し、図23のニュートラルポジション(θ=0)から、図34に示す偏心位置に角変位させることが出来る。θは、ニュートラルポジションからの可動板165の回転角である。
この装置は、ナットNの内周面3に研磨ブラシ151が接触するように、アクチュエータ171が研磨ブラシ151を偏心させるので、内径の異なるナットNのねじ部を、研磨ブラシ151を変更することなく、研磨することが出来る。アクチュエータ171は復帰用バネを内蔵していてもよい。
アクチュエータ171の空気圧を抜くと、復帰用バネのばね力により、可動板165は、ニュートラルポジションに復帰する。図23に示す符号175は当接片、176はストッパであり、当接片175がストッパ176に突き当たることで、可動板165をニュートラルポジションに位置決めすることが出来る。
回転駆動部169は、回転中心O1を中心に回転板163を回転させる装置である。回転駆動部169は、エアモータや電気モータを使用することができる。回転駆動部169は、後述する昇降板185の下面に固定されている。回転駆動部169により、回転板163を回転させることで、研磨ブラシ151を、ナットNの内周面3に沿って、円運動させることが可能である。
昇降装置181は、研磨ブラシ151、取付板153及び偏心回転装置161を含む、装置全体を、上下方向に移動する装置である。
昇降装置181は、図21に示すように、ベース板183と、昇降板185と、ガイドポスト187と、ガイドブシュ188と、昇降駆動部189と、を備えている。ガイドポスト187は、ベース板183の4角に設けられている。
昇降板185は、ベース板183の上方に位置している。昇降板185の上面中央部には、回転板163が回転可能に取り付けられている。また、昇降板185の4角には、ガイドブシュ188が固定されている。
4つのガイドブシュ188は、4本のガイドポスト187をそれぞれ貫通しており、昇降板185は、ガイドブシュ188とガイドポスト187の案内作用により、上下方向に移動する。
昇降駆動部189は、昇降板185をガイドポスト187に沿って、上下方向に移動させる装置である。昇降駆動部189は、エアモータや電気モータを使用することができる。昇降駆動部189は、ベース板83の下面に固定されている。
4本のガイドポスト187の上端部は、筐体111の上面壁112の下面に固定されている。つまり、4本のガイドポスト187が、ベース板183及びその上方に配置された装置を、上面壁112に対して、吊った状態で支えている。
昇降駆動部189を駆動して、昇降板185を上昇させることで、研磨ブラシ151を貫通孔115から上面壁111の上方に突出させることが出来る。また、昇降板185を下降させることで、研磨ブラシ151を上面壁111の下方に後退させることが出来る。
図25は、ナット磨き装置M2のブロック図である。ナット磨き装置M2は、制御部200、スライド装置120、移動装置130、内周研磨装置150、操作パネルP及びセンサ類Sなどを備える。
制御部200は、スライド装置120、移動装置130及び内周研磨装置150を制御して、ナットNの研磨作業を自動的に行う。この実施形態では、センサ類として、供給位置P1においてナットNの有無を検出する第1センサS1と、供給位置P1において障害物を検出する第2センサS2を備えている(図14参照)。
第2センサS2は、いわゆる安全センサであり、供給位置P1に人手が残っている場合には、装置の作動を停止するために設けられている。
以下、ナットNの研磨作業の手順を、図26〜図34を参照して説明する。尚、作業開始前の状態において、スライド装置120のYスライダ123は供給位置P1にあり、軸ピン125はガイド溝116Aから突出している。移動装置130のXスライダ141は、内周研磨位置P3にあり、また、研磨ブラシ151は上面壁112の下方に位置する。
作業者が、操作パネルPの運転準備スイッチを押すことで、ナット磨き装置M2は運転準備状態となる。その後、作業者が供給位置P1にナットNをセットすると、第1センサS1が供給位置P1にてナットNを検出する。また、第2センサS2が人手を検出する。そして、第2センサS2が検出状態から非検出状態、つまり、供給位置P1に人手などの障害物が無いことを検出し、安全性が確認されると、制御部200は、スライド装置120を制御して、作業対象のナットNを、供給位置P1から待機位置P2に移動する(図26、27参照)。このように、2つのセンサS1、S2の検出結果をトリガにすることで、作業者が供給位置P1にナットNをセットするだけで、研磨作業を開始することが出来る。そのため、作業に無駄な動きがなく、作業効率がよい。
作業対象のナットNが待機位置P2に移動すると、制御部200は、軸ピン125を下降してナット外に後退させる。また、軸ピン125の下降と並行して、制御部200は、移動装置130を制御して、Xスライダ141を内周研磨位置P3から待機位置P2に向けて移動し、待機位置P2にある作業対象のナットNを、一対のアーム145でチャックする(図28参照)。
アーム145が作業対象のナットNをチャックすると、制御部200は、移動装置130を制御して、作業対象のナットNを待機位置P2から内周研磨位置P3に向けて移動する。待機位置P2から内周研磨位置P3に向かう途中、座面研磨位置Paを通過する時に、ブラシ195により、ナットNの座面が研磨される。
尚、作業対象のナットNが、待機位置P2から内周研磨位置P3に移動する時間を使って、Yスライダ123は、待機位置P2から供給位置P1に戻される。
図29に示すように、作業対象のナットNが内周研磨位置P3に移動すると、制御部200は、偏心回転装置161と昇降装置181を制御して、作業対象のナットNのねじ部の研磨作業を行う。つまり、昇降装置181を駆動して、研磨ブラシ151をナットNの高さまで上昇させる。その後、ブラシモータ155を駆動して研磨ブラシ151を回転(図30の矢印Q2)させると共に、偏心回転装置161を駆動して、回転する研磨ブラシ151の外周面をナットNの内周面3に接触させつつ、研磨ブラシ151を内周面3に沿って円運動(図30の矢印Q1は研磨ブラシの移動軌跡を示す)させることで、ナットNの内周面3に設けられたねじ部を研磨する(図30参照)。尚、研磨作業中、ナットNは、一対のアーム145により、内周研磨位置P3に保持されている。
ねじ部の研磨作業が終了に近くなると、制御部200は、昇降装置181を制御して、ねじ部の研磨作業を継続しながら、研磨ブラシ151を降下させる。そして、ねじ部の研磨作業が終了し、研磨ブラシ151が、ナットNの下方に後退し、下端位置に到達すると、センサがそれを検出する。すると、制御部200は、移動装置130を制御して、作業済みのナットNを、内周研磨位置P3から待機位置P2に移動する(図31参照)。
作業済みナットが待機位置P2まで移動すると、制御部200は、移動装置130を制御して、アーム145によるナットNのチャックを解除すると共に、Xスライダ141を待機位置P2から内周研磨位置P3の方向に後退させる(図32参照)。
そして、図33に示すように、一対のアーム145を突き合せるように閉じた状態にした後、待機位置P2にある作業済みのナットNを、アーム145の先端でX方向に押し出す。これにより、図34に示すように、作業済みのナットNを、上面壁111の排出部117に排出することが出来る。その後、Xスライダ141は、内周研磨位置P3に戻る。
また、この装置は、ナットNを自動的に排出することに加えて、研磨作業中に、供給位置P1にスライド装置120の軸ピン125が戻ってくるため、研磨作業中でも、次に作業を行うナットNを、供給位置P1にセットすることが出来る。そのため、研磨作業の終了後、そのナットNを排出し、Xスライダ141が内面研磨位置P3に戻った時点で、次のナットNの研磨作業を自動的にスタートさせることができ、制御部200はそのような制御を実行する。
つまり、ボルトに対して仮組されたナット2個のうち、作業者が1つ目を取り外して、供給位置P1にセットする。その後、1つ目のナットNの研磨作業がナット磨き装置M2で行われている間に、作業者は2つ目のナットNを取り外す作業を行う。そして、スライド装置120の軸ピン125が供給位置P1に戻ってくると、作業者は、取り外した2つ目のナットNを供給位置P1にセットする。その後、1つ目のナットNの研磨作業が終了して排出が行われると、Xスライダ141が内面研磨位置P3に戻った時点で、次のナットNの研磨作業を自動的にスタートさせることが出来る。
このように、1つ目のナットNの研磨作業中に、2つ目のナットNを供給位置P1にセットすることが可能である。加えて、1つ目のナットNの研磨作業が完了して排出されると、2つ目のナットNの研磨作業が自動的に開始される。2つ目のナットNの研磨作業を開始する時に、スイッチを押す操作が不要であることから、作業者が他の作業を途中で止める必要がなく、作業効率がよい。この装置は、ナットの研磨作業を行うにあたり、作業者は、「ナットNを供給位置P1にセットする作業」と「排出されたナットNを排出部117から取り出す作業」の2作業を行うだけでよく、作業に無駄がない。
4.ボルト研磨装置M3の説明
図35はボルト研磨装置M3の斜視図である。ボルト研磨装置M3は、図35に示すように、ベース盤220と、ボルト支持板230と、一対のブラシユニット250R、250Lと、一対の調整機構270R、270Lと、一対のモータ290R、290Lを備える。図35は、装置の理解を容易にするため、便宜上ブラシユニット250Lだけを見せた図としてある。
ボルト支持板230は、ベース盤220の中央に設けられている。具体的には、Y方向を向いた状態で、左右のキャリッジ235間に縦向きに固定されている。ボルト支持板230の上端部(上端面)には、V字型のガイド溝230Aが形成されている。
また、ボルト支持板230の前方には、前側シュート241が配置され、後方には後側シュート245を配置されている。前側シュート241の上面241A、ボルト支持板230のガイド溝231及び後側シュート245の上面245Aは、連続しており、ボルトBの移動経路を形成する。
一対のブラシユニット250R、250Lは、ボルト支持板230のX方向両側に設けられている。
一対のブラシユニット250R、250Lは、一対のワイヤブラシ255R、255Lと、一対の回転軸253R、253Lと、一対のケース251R、251Lを備える。
一対のワイヤブラシ255R、255Lは、ボルト支持板230の両側に配置されている。
ケース251Lは、内方と下方の2方向に開口する箱型をしている。ケース251LをY方向に貫通して回転軸253Lが取り付けられていて、ワイヤブラシ255Lが、外周の一部を、ベース盤220の中央側に突出させた状態で、ケース251Lの内部に収容されている。
そして、上記のブラシユニット250R、250Lは、調整機構270R、270Lを介してベース盤220上に取り付けられていて、ベース盤220に対して各ブラシユニット250R、250Lの位置をX方向に調整することが出来る。285は調整用のハンドルである。
また、調整機構270R、270Lにより、ブラシユニット250R、250Lの取付角度、すなわち回転軸253の取り付け角度θについても、調整することが出来る構成となっている(図36参照)。2つのワイヤブラシ255R、255Lの回転軸253R、253Lに角度差を付けることで、両ワイヤブラシ255R、255L間に挟まれたボルトBに対して、Y方向後方への推進力を与えることが可能となる
また、ブラシユニット250R、250Lのケース251の上面壁には、支持台292を介してモータ290R、290Lが取り付けられている。モータ290R、290Lのモータ軸の先端と、回転軸253R、253Lの先端には、それぞれプーリ294が固定されており、それら2つのプーリ間にベルト295が架け渡されている。
そのため、運転スイッチをオンして、モータ290R、290Lを駆動させると、回転軸253R、253Lにその動力が伝達され、各ワイヤブラシ255R、255Lが回転する。尚、左右のワイヤブラシ255R、255Lの回転速度に速度差を付けることで、両ワイヤブラシ255R、255L間を送られるボルトBを回転させることができる。
ボルトBを磨く場合、作業対象のボルトBを前側シュート241の上面に載せて、ボルト前端がワイヤブラシ255の位置に達するまでボルトBを手動で送る(図35)。
ボルト前端がワイヤブラシ255の位置に達すると、それ以降、ボルトBは、左右のワイヤブラシ255R、255Lから推進力を受ける。
そのため、ボルトBは、ワイヤブラシ255R、255Lによりねじ部を磨かれながら、Y方向後方に自動的に送られてゆく(図37)。そして、作業済みボルトBは、ボルト支持板230から後側シュート245に移り排出される(図38)。
5.ボルト及びナットのメンテナンス作業の説明
図1、39〜43はメンテナンス作業の説明図である。図1に示すように、未作業のボルトB及びナットNは螺合した状態でワーク支持台M4に置かれている。尚、メンテナンス対象のボルトBは、全ねじの寸切りボルトであり、この例では、ボルト両端に2つのナットN1、ナットN2が組み付けられている。
メンテナンス作業の手順(a)〜(j)は以下の通りである。
(a)作業者は、ワーク支持台M4から、未作業のボルトBを手に取る。
(b)ナット着脱装置M1を使用して、ボルトBから、1つ目のナットN1を取り外す作業を行う。具体的には、図8、図9に示すように、1つ目のナットN1を回転体20の内孔21に押し当てた状態から、フットスイッチ50を操作して、回転体20を第1方向(時計方向)に、回転させる。これにより、1つ目のナットN1を緩めて、ボルトBから取り外すことが出来る(図39)。
(c)ナット磨き装置M2を使用して、ボルトBから取り外した1つ目のナットN1の研磨作業を行う。具体的には、ナット磨き装置M2の運転準備スイッチを予めオンにしておく。そして、作業者は、取り外した1つの目のナットN1を、ナット磨き装置M2の供給位置P1にセットする(図40)。
すると、第1センサS1がナットNを検出する。また、第2センサS2が人手を検出する。そして、第2センサS2が検出状態から非検出状態、つまり、供給位置P1に人手などの障害物が無いことを検出し、安全性が確認されると、ナット磨き装置M2にて、1つ目のナットN1の研磨作業が自動的に開始される。
(d)ナット着脱装置M1を使用して、ボルトBから、2つ目のナットN2を取り外す作業を行う。この作業は、(c)の作業と並行して行うことが出来る。また、作業内容としては、(b)の作業と同一である。
(e)ナット磨き装置M2を使用して、ボルトBから取り外した2つのナットN2の研磨作業を行う。具体的には、作業者は、ボルトBから取り外した2つ目のナットN2を、ナット磨き装置M2の供給位置P1にセットする(図41)。2つ目のナットN2の研磨作業は、1つ目のナットN1の研磨作業が終了すると、ナット磨き装置M2にて自動的に行われる。
(f)ボルト研磨装置M3を使用して、ボルトBの研磨作業を行う。この作業は、(e)の作業と並行して行うことができる。具体的には、作業者は、ボルト研磨装置M3の運転スイッチを押す。運転スイッチが押されてオンすることで、モータ290R、290Lが駆動し、ワイヤブラシ255R、255Lが回転する。その後、調整機構270R、270Lを用いて、作業対象となるボルトBの外径に合わせて、ブラシ間の間隔を調整する。
あとは、作業対象のボルトBを前側シュート241の上面に載せて、ボルト前端がワイヤブラシ255の位置に達するまでボルトBを手動で送る(図41)。ボルト前端がワイヤブラシ255の位置に達すると、それ以降、ボルトBは、左右のワイヤブラシ255R、255Lから推進力を受ける。
そのため、ボルトBは、ワイヤブラシ255R、255Lによりねじ部を磨かれながら、Y方向後方に自動的に送られてゆく。そして、作業済みボルトBは、ボルト支持板230から後側シュート245に移り排出される(図42)。
ボルトBが後側シュート245に排出されると、作業者は、停止スイッチを押して、ボルト研磨装置M3を停止させた後、排出された作業済みのボルトBをワーク支持台M4の上に移動させる。
(g)そして作業者は、1つ目のナットN1の仮組み作業を行う。つまり、研磨作業を終えた1つ目のナットN1を、作業済みのボルトBに対して、1〜2山程度、軽く螺合させる。ここで、(f)の作業中(ボルト研磨装置M3によるボルト研磨作業中)に、(c)の作業(ナット研磨装置M2による1つ目のナットN1の研磨作業)が終了していると、待ち時間が発生せず、作業効率がよい。
(h)ナット着脱装置M1を使用して、1つ目のナットN1を、締め込む作業を行う。具体的には、ボルトBの先端に螺合する1つ目のナットN1を回転体20の内孔21に押し当てた状態から、フットスイッチ50を操作して、回転体20を第2方向(反時計方向)に回転させる。これにより、1つ目のナットN1を締め込んで、ボルトBに固定することが出来る(図43)。
(i)そして作業者は、2つ目のナットN2の仮組み作業を行う。つまり、研磨作業を終えた2つ目のナットN2を、作業済みのボルトBに対して、1〜2山程度、軽く螺合させる。ここで、(h)の作業中(1つ目のナットN1の締め込み作業中)に、(e)の作業(ナット研磨装置M2による2つ目のナットN2の研磨作業)が終了していると、待ち時間が発生せず、作業効率がよい。
(j)ナット着脱装置M1を使用して、2つ目のナットN2を、締め込む作業を行う。具体的には、ボルトBの先端に螺合する2つ目のナットN2を回転体20の内孔21に押し当てた状態から、フットスイッチ50を操作して、回転体20を第2方向(反時計方向)に回転させる。これにより、2つ目のナットN2を締め込んで、ボルトBに固定することが出来る(図43)。
以上により、1組目のボルトB及びナットN1、N2について、メンテナンス作業が完了する。あとは、同様の作業((a)〜(j)の作業)を繰り返すことで、各組のボルトナットについて、メンテナンス作業を行うことが出来る。尚、作業を終えたボルトナットは、別の場所に移動させてもいいし、ワーク支持台M4に戻してもよい。
6.効果
作業装置Mは、ボルトB及びナットNのメンテナンス作業を、半自動化することが出来る。そのため、こうした作業の多く又は全てを、手作業で行う場合に比べて、メンテナンス作業の作業時間を短縮することが出来、作業効率がよい。
作業装置Mは、図1の左側から、ボルト研磨装置M3、ナット着脱装置M1、ナット磨き装置M2の順に配置されている。つまり、ナット着脱装置M1を中央に配置し、その両側にボルト研磨装置M3とナット磨き装置M2を配置している。このような配置とすることで、メンテナンス作業を行う際に、作業者Pの移動距離が短くなるので、作業効率がよい。
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施形態1では、作業装置Mを、ナット着脱装置M1、ナット磨き装置M2、ボルト研磨装置M3の3つの装置から構成した。そして、図1のX方向に、左側から、ボルト研磨装置M3、ナット着脱装置M1、ナット磨き装置M2の順に各装置を配置した。これ以外にも、例えば、図1の右側から、ボルト研磨装置M3、ナット着脱装置M1、ナット磨き装置M2の順に各装置を配置してもよい。また、作業装置Mは、ナット着脱装置M1、ナット磨き装置M2、ボルト研磨装置M3の3つの装置から構成されていれば、必ずしも、一方向に配置する必要はなく、それ以外の順番でもよい。
(2)実施形態1では、ナット着脱装置M1の回転体20をポリウレタン樹脂製とした。回転体20は、回転をナットに伝えるため、内孔21の内面部分(ナットと接触する部分)が適度な摩擦力と弾力性を有する摩擦面となっていればよく、回転体20は、ポリウレタン製以外でもよい。例えば、シリコン樹脂など、他の合成樹脂でもよい。また、回転体20を金属製として、内孔21の表面部分をコーティングしてもよい。コーティングは、適度な摩擦力と弾力性を有する材料がよい。
(3)実施形態1では、内孔21を円錐台状としたが、内孔21は、円錐形状(非貫通孔)でもよい。
(4)実施形態1では、ナット磨き装置M2による1つ目のナットN1の研磨作業(cの作業)と並行して、ナット着脱装置M1にてボルトBから2つ目のナットN2を取り外す作業(dの作業)を行った。2つの作業は、必ずしも並行して行う必要はない。ナット磨き装置M2による1つ目のナットN1の研磨作業が終了してから、ナット着脱装置M1にてボルトBから2つ目のナットN2を取り外す作業を行ってもよい。また、ナット着脱装置M1にてボルトBから2つ目のナットN2を取り外す作業を行ってから、ナット磨き装置M2による1つ目のナットN1の研磨作業を行ってもよい。
(5)実施形態1では、ボルト研磨装置M3によるボルトの研磨作業(fの作業)と並行して、ナット磨き装置M2にて、ボルトBから取り外した2つ目のナットN2の研磨作業(eの作業)を行った。2つの作業は必ずしも並行して行う必要はない。ボルト研磨装置M3によるボルトBの研磨作業が終了してから、ナット磨き装置M2にて、ボルトから取り外した2つ目のナットの研磨作業を行ってもよい。また、ナット磨き装置M2にて、ボルトから取り外した2つ目のナットの研磨作業を行ってから、ボルト研磨装置M3によるボルトBの研磨作業を行ってもよい。
(6)図44は、付加部品の他の実施形態を示す断面図である。付加部品360は、内孔361を有する。内孔361は、回転体20の内孔21と形状が相違している。具体的には、内孔361は、非貫通で円錐形状である。回転体20の内孔21は、貫通孔であり、付加部品360の内孔361は、非貫通である点で、回転体20の内孔21と形状が相違している。また、内孔361は、回転体20の内孔21に比べて、傾斜角度θが異なっており、この点でも、回転体20の内孔21と形状が相違している。図44の例では、内孔361の方が内孔21よりも傾斜角度θが大きい。付加部品360は、小径のボルト、ナットをメンテナンスする際に用いるとよい。
また、実施形態1は、付加部品60を回転体20と同一素材としたが、付加部品60、付加部品360は、必ずしも、回転体20と同一素材(材料)とする必要はなく、回転体20の回転力を、内孔との摩擦を利用してナットNに伝えることができれば、異なる素材でもよい。また、回転体20に対して付加部品60、360を回り止めする方法も、摩擦を利用するものに限らず、凹凸の嵌合を利用して、回り止めするものであってもよい。