JP6940711B1 - 面状発熱体および水性塗料 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた耐熱性及び耐熱湿性を有するとともに、優れた耐屈曲性を有する面状発熱体を提供できる。【解決手段】面状発熱体は、発熱層と前記発熱層を支持する基材シートと少なくとも備える。前記発熱層は、カーボンナノチューブ成分と、樹脂成分と、カルボキシメチルセルロース成分と、を含む。前記カーボンナノチューブ成分は、平均繊維径が60nm以下の多層カーボンナノチューブを含む。前記樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む。前記樹脂成分および前記カルボキシメチルセルロース成分の総量は、前記カーボンナノチューブ成分100質量部に対して150質量部以上450質量部以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、面状発熱体および面状発熱体の発熱層の形成に用いられる水性塗料に関する。
発熱層を備える面状発熱体では、発熱層に通電することにより発熱層が発熱する。このような面状発熱体は、従来の電熱線を利用したヒーターとは異なり、発熱層の面全体において均一な発熱が可能であるとともに、昇温速度が早く、断線により発熱しなくなるような不具合が起こりにくい。また、面状発熱体は、低消費電力であり、設置スペースを取らないために、様々な用途への応用が期待されている。
特許文献1は、少なくとも微小炭素粒子と結着剤とを含む面状発熱体であって、その表面抵抗率が25Ω/□以下である面状発熱体を提案している。
特許文献2は、絶縁性基材と、発熱層と、絶縁性粘着層とをこの順で有する電池加熱用面状発熱体において、発熱層が、微小炭素粒子と、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物及びアルキレンマレイン酸共重合体塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオン性界面活性剤(A)と、水溶性キシラン、キサンタンガム類、グアーガム類、ジェランガム類及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の多糖類と、を含む電池加熱用面状発熱体を提案している。
特開2017−195182号公報 特開2018−190621号公報
面状発熱体は、発熱層の発熱により高温に晒された状態になる。また、面状発熱体は、比較的高い温度で、かつ高湿度環境下で使用されることがある。この様な使用状態及び使用環境下においては、面状発熱体の発熱層が変質し、発熱層の表面抵抗率が変動してしまうことによって、面状発熱体の本来の発熱性能を維持できなくなるといった問題がある。面状発熱体を長期間使用する上で、発熱層の安定的な性能を確保する観点から、高温状態、または比較的高い温度かつ高湿度環境下での使用に対して発熱層の表面抵抗率の変動が少ない面状発熱体が求められている。また面状発熱体の用途の拡大に伴って、面状発熱体を繰り返し屈曲させる使用が想定され、そのような使用状況においても、発熱層の表面抵抗率の変動が少ない優れた耐屈曲性を有した面状発熱体が求められている。
なお、比較的高い温度かつ高湿度環境(例えば、40℃以上60℃以下および相対湿度60%以上の環境)を、本明細書中、熱湿環境と称することがある。また、熱湿環境における抵抗の上昇が抑制されることを、耐熱湿性が高いまたは耐熱湿性に優れると表現することがある。
本発明の第1側面は、発熱層と前記発熱層を支持する基材シートとを少なくとも備える面状発熱体であって、
前記発熱層は、
カーボンナノチューブ成分と、
樹脂成分と、
カルボキシメチルセルロース成分と、を含み、
前記カーボンナノチューブ成分は、平均繊維径が60nm以下の多層カーボンナノチューブを含み、
前記樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記樹脂成分および前記カルボキシメチルセルロース成分の総量は、前記カーボンナノチューブ成分100質量部に対して150質量部以上450質量部以下である、面状発熱体に関する。
本発明の第2側面は、発熱層と前記発熱層を支持する基材シートとを少なくとも備える面状発熱体の前記発熱層を形成するための水性塗料であって、
カーボンナノチューブ成分と、
樹脂成分と、
カルボキシメチルセルロース成分と、
水と、を含み、
前記カーボンナノチューブ成分は、平均繊維径が60nm以下の多層カーボンナノチューブを含み、
前記樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記樹脂成分および前記カルボキシメチルセルロース成分の総量は、前記カーボンナノチューブ成分100質量部に対して150質量部以上450質量部以下である、水性塗料に関する。
優れた耐熱性および耐熱湿性を有するとともに、優れた耐屈曲性を有する面状発熱体を提供できる。
本発明の一実施形態の面状発熱体の断面模式図である。
本発明の第1側面の面状発熱体は、発熱層と発熱層を支持する基材シートとを少なくとも備える。発熱層は、カーボンナノチューブ成分と、樹脂成分と、カルボキシメチルセルロース成分と、を含む。カーボンナノチューブ成分は、平均繊維径が60nm以下の多層カーボンナノチューブを含む。樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む。樹脂成分およびカルボキシメチルセルロース成分の総量は、カーボンナノチューブ成分100質量部に対して150質量部以上450質量部以下である。
本発明には、発熱層と発熱層を支持する基材シートとを少なくとも備える面状発熱体の発熱層を形成するための水性塗料も包含される。本発明の第2側面の水性塗料は、カーボンナノチューブ成分と、樹脂成分と、カルボキシメチルセルロース成分と、水と、を含む。カーボンナノチューブ成分は、平均繊維径が60nm以下の多層カーボンナノチューブを含む。樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む。樹脂成分およびカルボキシメチルセルロース成分の総量は、カーボンナノチューブ成分100質量部に対して150質量部以上450質量部以下である。
本明細書中、カーボンナノチューブおよびカーボンナノチューブ成分を、それぞれ、CNT(CNT:carbon nanotube)およびCNT成分と称する。カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、およびカルボキシメチルセルロース成分をそれぞれ、CMC(CMC:carboxymethyl cellulose)、CMC塩、およびCMC成分と称することがある。
本発明者が面状発熱体の耐屈曲性を向上させる事を検討した結果、面状発熱体の発熱層に導電性材料として60nm以下の平均繊維径を有する多層CNTを少なくとも用いる事によって、優れた耐屈曲性が得られることを見出した。その理由は定かではないが、比較的平均繊維径の小さな多層CNTを発熱層に用いる事により、面状発熱体を繰り返し屈曲させても、多層CNT間の接触が損なわれ難く、発熱層内の導電パスが維持され、発熱層における抵抗の増加を抑制できる為ではないかと推測できる。一方で、上記のような多層CNTは、水性塗料における分散性が悪い傾向があり、その結果として発熱層中の構成成分の分散状態が不均一になる事などが原因で、発熱層の導電性が悪化したり、耐熱性や耐熱湿性や耐屈曲性が悪化したり安定しなかったりするという問題が発生する傾向があった。
しかし、本発明では、上記の多層CNTを含むCNT成分と、CMC成分と、特定の樹脂成分とを組み合わせるとともに、樹脂成分およびCMC成分の総量をCNT成分100質量部に対して150質量部以上450質量部以下とすることによって、水性塗料および発熱層が上記の多層CNTを含むにも拘わらず、水性塗料中の構成成分の分散状態をより均一することが可能となった結果、塗料のゲル化や、水性塗料の塗膜において塗布ムラまたはピンホールが形成されることを抑制することが可能となった。結果として発熱層において構成成分がより均一に分散されることで、発熱層の高い導電性および優れた耐屈曲性を確保すると同時に、面状発熱体が高温に晒された後の抵抗の変動、および熱湿環境に晒した後の抵抗の変動を抑制でき、優れた耐熱性および耐熱湿性を確保することが出来るようになった。
本発明において、優れた耐熱性および耐熱湿性が得られる理由の詳細は定かではないが、次のような理由によると推測される。水性塗料および発熱層の上記の組成によって、構成成分の分散状態の均一性が高まるため、発熱層全体の熱安定性が高まり、面状発熱体が高温(例えば、100℃の環境下)に晒された場合でも発熱層の劣化が抑制されると考えられる。これにより、面状発熱体が高温に晒された後も、発熱層中に高分散したCNT成分の高い導電性が十分に維持され、抵抗の変動が抑制されることで、高い耐熱性が得られると考えられる。また、疎水性の高い樹脂成分が発熱層全体に高分散されることによって、発熱層全体の疎水性が向上して発熱層への水分の侵入が抑制される。熱湿環境下において、水分の作用に起因する発熱層の劣化が抑制されるため、抵抗の変動が抑制され、高い耐熱湿性が得られると考えられる。
以下に、面状発熱体および水性塗料についてより具体的に説明する。
[面状発熱体]
面状発熱体は、少なくとも発熱層と基材シートとを備えている。発熱層は、基材シートの少なくとも一方の面に設けられている。面状発熱体は、通常、発熱層に通電するための電極層を備えている。また、面状発熱体は、さらに、発熱層の表面を覆う絶縁層を備えていてもよい。
(発熱層および発熱層を形成するための水性塗料)
発熱層は、CNT成分と、樹脂成分と、CMC成分とを含む。このような発熱層は、CNT成分と、樹脂成分と、CMC成分と、水とを含む水性塗料の塗膜を乾燥させることにより形成できる。発熱層および水性塗料は、必要に応じて、さらに添加剤(公知の添加剤など)を含んでもよい。
(CNT成分)
CNTは、炭素原子で形成される六員環がハニカム格子状に広がったグラフェンシートの筒状体であり、筒の径が1μm未満である材料を言う。CNTには、単層の筒状体である単層CNT(SWCNT:single−walled carbon nanotube)、複数層の筒状体である多層CNT(MWCNT:multi−walled carbon nanotube)が含まれる。
CNT成分は、平均繊維径が60nm以下の多層CNTを少なくとも含む。このような多層CNTによって、面状発熱体の高い耐屈曲性が得られる。平均繊維径が60nm以下の多層CNTを第1CNTと称することがある。
第1CNTの平均繊維径は、例えば、1nm以上であり、5nm以上であってもよい。第1CNTの平均繊維径がこのような範囲である場合、発熱層中における第1CNTの分散状態を均一化する効果をさらに高めることができ、発熱層の高い導電性を確保する上で有利である。高い耐屈曲性を確保する観点から、第1CNTの平均繊維径は、60nm以下であればよく、45nm以下または30nm以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
第1CNTの平均繊維径は、例えば、面状発熱体の発熱層の表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で撮影した画像から求められる。第1CNTの平均繊維径は、発熱層の表面のSEM画像において、任意の複数の多層CNTの繊維径(換言すると観察される繊維の幅)を測定し、繊維径が60nm以下の任意の10本の多層CNTの繊維径を平均化することによって求めることができる。繊維径の測定に用いられるSEM画像には、必要に応じて、画像解析処理を行ってもよい。
第1CNTの平均繊維長は、例えば、1μm以上100μm以下であり、5μm以上80μm以下であってもよい。第1CNTの平均繊維長がこのような範囲である場合、発熱層および水性塗料における第1CNTの高い分散性を確保し易く、より高い導電性を確保することができる。
第1CNTの平均アスペクト比は、例えば、100以上10万以下であり、100以上5万以下であってもよい。第1CNTの平均アスペクト比がこのような範囲である場合、発熱層および水性塗料における第1CNTの高い分散性を確保し易く、より高い導電性を確保することができる。
第1CNTのBET法による比表面積(BET比表面積)は、例えば、50m/g以上であり、100m/g以上であってもよく、130m/g以上であってもよい。第1CNTのBET比表面積は、250m/g以下であり、220m/g以下であってもよい。第1CNTのBET比表面積がこのような範囲である場合、水性塗料のゲル化を抑制しながら、水性塗料中の第1CNTを高濃度化することができる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
CNT成分は、本発明の効果を阻害しない範囲で、第1CNT以外のCNT(以下、第2CNTと称する)を含んでもよい。第2CNTとしては、例えば、単層CNTが挙げられる。CNT成分が単層CNTを含む場合、発熱層の導電性を高める上で有利である。ただし、CNT成分に占める第1CNTの比率は多いことが好ましい。CNT成分に占める第1CNTの比率は、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上であってもよい。特に、CNT成分を第1CNTのみで構成することが好ましい。
発熱層中のCNT成分の含有率および水性塗料の乾燥固形分中のCNT成分の含有率は、例えば、40質量%以下であり、39.2質量%以下であってもよい。CNT成分の含有率がこのような範囲である場合、水性塗料のゲル化を抑えて、より高い分散性を確保できる。よって、高い塗工性が得られるとともに、より高い耐水性および耐熱湿性が得られる。CNT成分の含有率は、例えば、17.0質量%以上である。発熱層におけるより高い導電性を確保する観点から、CNT成分の含有率は、18質量%以上または19質量%以上が好ましい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
(樹脂成分)
樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む。これらの樹脂を第1樹脂と称する。樹脂成分が第1樹脂を含むことで、ゲル化が抑制されるとともに、高い耐熱性、高い耐水性および高い耐熱湿性が得られる。樹脂成分は、第1樹脂以外の樹脂(第2樹脂)を含んでもよい。
第1樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよい。第1樹脂のうち、ポリアミドイミド樹脂およびポリイミド樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよい。第1樹脂は、エマルジョンやディスパージョンを形成可能であってもよく、水分散性の第2樹脂とアロイを形成可能であってもよい。
フッ素樹脂は、フッ素含有モノマー単位を含む。フッ素含有モノマー単位に対応するフッ素含有モノマーとしては、例えば、フッ素化オレフィン(例えば、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン)、とパーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ素含有アクリル系モノマーが挙げられる。フッ素樹脂は、フッ素含有モノマー単位を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。フッ素樹脂は、単独重合体であってもよく、2種類以上のフッ素含有モノマー単位を含む共重合体であってもよく、少なくとも一種のフッ素含有モノマー単位と少なくとも一種の共重合性モノマー単位とを含む共重合体であってもよい。本明細書中、フッ化ビニリデンおよびフッ化ビニリデン単位をそれぞれ、VDF(VDF:vinylidene fluoride)およびVDF単位と称することがある。
共重合性モノマーとしては、オレフィン(エチレン、プロピレンなど)、塩素化オレフィン(塩化ビニル、塩化ビニリデンなど)、シアン化ビニル、アクリル系モノマーなどが挙げられる。アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。なお、本明細書中、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルをまとめて(メタ)アクリル酸エステルと称することがある。アクリル酸およびメタクリル酸をまとめて(メタ)アクリル酸と称することがある。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどが挙げられる。これらのエステルにおいて、アルキル部分の炭素数は、例えば、1〜10であり、1〜8または1〜6であってもよい。共重合体は、共重合性モノマー単位を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
フッ素樹脂のうち、VDF単位を含む少なくとも含むフッ素樹脂が好ましい。VDF単位を少なくとも含むフッ素樹脂を、VDF系フッ素樹脂と称することがある。VDF系フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、VDF単位を含む共重合体などが挙げられる。VDF単位を含む共重合体としては、VDF単位とVDF単位以外のフッ素含有モノマー単位および上記共重合性モノマー単位からなる群より選択される少なくとも一種を含む共重合体などが挙げられる。
発熱層の耐熱性、耐水性、または耐熱湿性を高める観点からは、VDF系フッ素樹脂は、VDF単位とVDF以外のフッ化オレフィン(ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニルなど)の単位とをモノマー単位として含む共重合体であってもよい。このような共重合体を用いる場合、耐熱性、耐水性、または耐熱湿性をさらに高めることもできる。中でも、VDF単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を少なくとも含む共重合体を用いると、優れた耐熱性および耐熱湿性が得られるため有利である。樹脂成分の水分散性を高める観点から、VDF系フッ素樹脂は、アクリル系モノマー単位を含んでもよい。
より高い耐熱性、耐水性、または耐熱湿性を確保し易い観点からは、フッ素樹脂に含まれるフッ素含有モノマー単位の割合は、50モル%以上または65モル%以上であってもよい。フッ素樹脂に含まれるフッ素含有モノマー単位の割合の上限値は、100モル%以下であり、90モル%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
第1樹脂は、高い耐熱性を有することが好ましい。第1樹脂のガラス転移点(Tg)は、100℃以上または200℃以上であってもよい。第1樹脂のTgがこのような範囲である場合、面状発熱体が高温に晒された場合でも、発熱層の劣化が効果的に抑制され、発熱層の表面抵抗率の変動を抑制することができる。
樹脂成分に占める第1樹脂の比率は、例えば、60質量%以上であり、67質量%以上または69質量%以上であってもよい。樹脂成分に占める第1樹脂の比率は、100質量%以下である。
第2樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ−N−ビニルアセトアミド樹脂、ゴム状弾性体(スチレン−ブタジエンゴムなど)が挙げられるが、これらに限定されない。樹脂成分は、第2樹脂を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。第2樹脂によって、樹脂成分の水性塗料中の分散性、発熱層の成膜性または基材に対する密着性を高めることができる。
水性塗料における樹脂成分のより高い分散性が得られる観点から、樹脂成分は、アクリル系樹脂を含んでもよい。特に、樹脂成分がフッ素樹脂を含む場合、樹脂成分はさらにアクリル系樹脂を含むことが好ましい。
アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル系モノマーの単独重合体、二種類以上のアクリル系モノマーの共重合体、アクリル系モノマーと他の共重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。アクリル系モノマーとしては、VDF系フッ素樹脂について例示したアクリル系モノマーが挙げられる。他の共重合性モノマーとしては、例えば、オレフィン、ビニル化合物(スチレン、酢酸ビニル、シアン化ビニルなど)、ジエン化合物などが挙げられる。他の共重合性モノマーは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。アクリル系樹脂を用いると、樹脂成分の水分散性を高めることができ、水性塗料および発熱層において樹脂成分をより均一に分散させることができる。樹脂成分の分散性が高まることで、他の構成成分の分散性も高まり、より均一な分散状態の発熱層が得られる。
第2樹脂(アクリル系樹脂など)の量は、第1樹脂(フッ素樹脂など)100質量部に対して、例えば、5質量部以上であり、10質量部以上であってもよく、25質量部以上であってもよく、30質量部以上であってもよい。第2樹脂の量がこのような範囲である場合、水性塗料および発熱層における樹脂成分および構成成分の分散性をさらに高めることができ、水性塗料のゲル化を抑制する効果もさらに高まる。第2樹脂(アクリル系樹脂など)の量は、第1樹脂(フッ素樹脂など)100質量部に対して、例えば、65質量部以下であり、50質量部以下であってもよく、45質量部以下であってもよい。第2樹脂の量がこのような範囲である場合、より高い耐熱性、耐水性、または耐熱湿性が得られ易い。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
樹脂成分の量は、CNT成分100質量部に対して、例えば、100質量部以上である。この場合、より高い耐水性および耐熱湿性を確保することができる。より高い塗工性を確保する観点からは、樹脂成分の量は、CNT成分100質量部に対して、120質量部以上または125質量部以上であってもよい。水性塗料のゲル化を抑制する効果が高まる観点からは、樹脂成分の量は、CNT成分100質量部に対して、400質量部以下または375質量部以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
発熱層中の樹脂成分の含有率および水性塗料の乾燥固形分中の樹脂成分の含有率は、例えば、40質量%以上である。この場合、より高い耐水性および耐熱湿性を確保することができる。水性塗料の塗工性がさらに高まり、膜質がより均一な発熱層が得られる観点からは、発熱層中の樹脂成分の含有率および水性塗料の乾燥固形分中の樹脂成分の含有率は、43質量%以上または45質量%以上であってもよい。水性塗料のゲル化を抑制する効果が高まり、構成成分がより均一に分散した状態の発熱層が得られ易い観点からは、発熱層中の樹脂成分の含有率および水性塗料の乾燥固形分中の樹脂成分の含有率は、72質量%以下であってもよい。
(CMC成分)
CMC成分としては、例えば、CMC、CMC塩が挙げられる。水性塗料において構成成分のより均一な分散状態が得られ易い観点から、水性塗料中のCMC成分は、少なくともCMC塩を含むことが好ましい。CMC塩は、水性塗料中で分散剤や粘度調整剤として機能する。水性塗料にCMC塩を用いることで、CNT成分および樹脂成分を水性塗料中でより均一に分散させることができる。よって、発熱層の高い導電性を確保しながら、発熱層の高い耐水性および耐熱湿性をより容易に確保することができる。
CMC塩としては、CMCのアルカリ金属塩、CMCのアンモニウム塩などが挙げられる。アルカリ金属塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩などが好ましい。水性塗料に少なくともCMCアンモニウム塩を用いると、発熱層の耐水性をさらに高めることができる。発熱層は、CMC成分としてCMC塩を含んでもよく、CMCを含んでもよく、CMC塩およびCMCを含んでもよい。
水性塗料中のCMC成分に占めるCMC塩の比率は、80質量%以上または90質量%以上であってもよい。CMC成分に占めるCMC塩の比率は、100質量%以下である。CMC成分をCMC塩のみで構成してもよい。発熱層のより高い耐水性を確保する観点から、水性塗料中のCMC成分に占めるCMCアンモニウム塩の比率をこのような範囲としてもよい。
樹脂成分およびCMC成分の総量は、CNT成分100質量部に対して、150質量部以上である。これによって、面状発熱体の高い耐屈曲性を確保しながら、発熱層のより高い耐水性や耐熱湿性が得られる。水性塗料のより高い塗工性が得られる観点から、樹脂成分およびCMC成分の総量は、CNT成分100質量部に対して、170質量部以上であってもよく、175質量部以上であってもよい。樹脂成分およびCMC成分の総量は、CNT成分100質量部に対して、450質量部以下であり、430質量部以下または425質量部以下であってもよい。樹脂成分およびCMC成分の総量がこのような範囲である場合、水性塗料のゲル化が抑制され、発熱層における構成成分の高い分散状態が得られる。
CMC成分の量は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、10質量部以上であり、12質量部以上であってもよく、13質量部以上または13.3質量部以上であってもよい。CMC成分の量がこのような範囲である場合、発熱層および水性塗料における構成成分の分散性をさらに高めることができる。CMC成分の量は、樹脂成分100質量部に対して、例えば、60質量部以下であり、50質量部以下であってもよい。CMC成分の量がこのような範囲である場合、より高い耐水性や耐熱湿性が得られ易いことに加え、水性塗料のより高い塗工性が得られる。耐水性、耐熱湿性、または塗工性をさらに向上する観点からは、CMC成分の量は、樹脂成分100質量部に対して、40質量部以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
CMC成分の量は、CNT成分100質量部に対して、例えば、20質量部以上であり、25質量部以上または30質量部以上であってもよい。CMC成分の量がこのような範囲である場合、水性塗料のゲル化を抑制する効果が高まり、膜質がより均一な発熱層が得られる。CMC成分の量は、例えば、75質量部以下であり、70質量部以下であってもよい。CMC成分の量がこのような範囲である場合、より高い耐水性や耐熱湿性が得られ易いことに加え、高い密着性が得られる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
(その他)
発熱層および水性塗料は、本発明の効果を阻害しない範囲で、CNT成分(第1炭素材料)以外の導電性カーボン(第2炭素材料)を含んでもよい。第2炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛粒子、非晶質炭素、CNT以外の炭素繊維などが挙げられる。第2炭素材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
発熱層および水性塗料に含まれる炭素材料全体に占めるCNT成分の比率は、多い方が好ましい。炭素材料全体に占めるCNT成分の比率は、例えば、60質量%以上であり、75質量%以上または90質量%以上であってもよい。CNT成分の比率がこのような範囲である場合、面状発熱体のより高い耐屈曲性が得られるとともに、発熱層の高い導電性を確保し易い。発熱層および水性塗料に含まれる炭素材料全体に占めるCNT成分の比率は、100質量%以下である。特に、発熱層および水性塗料に含まれる炭素材料をCNT成分のみで構成することが好ましい。
発熱層は、例えば、水性塗料を基材シートの表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させることにより形成できる。塗布は、例えば、公知のコーターを用いて行うことができる。塗膜の乾燥は、加熱下で行ってもよい。乾燥は、熱風を塗膜に吹き付けることにより行ってもよい。また必要に応じて乾燥後の塗膜を熱処理してもよい。
水性塗料は、発熱層の材料と分散媒とを分散及び混合することにより調製される。水性塗料の調製には、各種公知の分散機や混合機を用いて行うことができる。分散媒としては、少なくとも水が用いられる。分散媒として、水のみを用いてもよく、水と水溶性の有機液状媒体との混合物を用いてもよい。有機液状媒体は、室温(例えば、20℃以上35℃以下)で液状の有機媒体である。
水性塗料のpHは、例えば、6.8〜9であり、7〜8.8であってもよい。
本発明の水性塗料は比較的高いCNT成分濃度を有しているにも拘らず粘度を低く抑えることができるため、高い塗工性が得られる。水性塗料の20℃における粘度は、例えば、100mPa・s以上2000mPa・s以下であり、150mPa・s以上1000mPa・s以下であってもよい。水性塗料の粘度は、例えば、スピンドルタイプのB型粘度計(東京計器(株)製、BH−8)を用いて、ローターNo.3、50rpmの条件で測定できる。
発熱層および水性塗料に用いられる添加剤としては、例えば、界面活性剤、消泡剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
面状発熱体において、発熱層の厚さは、例えば、1μm以上である。発熱層の表面抵抗率を適度な範囲に保ち易く、高い発熱性を確保する観点からは、発熱層の厚さは、2μm以上であってもよい。発熱層の厚さは、例えば、20μm以下である。面状発熱体の柔軟性とより高い耐屈曲性を確保しやすい観点からは、発熱層の厚さは、15μm以下または10μm以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
なお、本明細書中に、面状発熱体を構成する層(またはその積層体)の厚さは、例えば、面状発熱体の厚さ方向に平行な断面画像において、各層または積層体の複数箇所(例えば、10箇所)における厚さを測定し、平均化することによって求められる。
面状発熱体において、発熱層の表面抵抗率は、例えば、300Ω/□以下であり、200Ω/□以下であってもよい。発熱層の表面抵抗率がこのような範囲である場合、発熱層全体をより均一に発熱させることができるとともに、面状発熱体の温度を適度な範囲に制御し易い。発熱層の表面抵抗率は、例えば、1Ω/□以上である。例えば、抵抗測定器((株)三菱ケミカルアナリテック製、ロレスタGP MCP−T610型)を用い、JIS K 7194:1994に準拠して測定することができる。測定の際の補正係数(RCF)は、RCF=4.235に設定する。表面抵抗率の測定には、縦8cm×横5cmのサイズにカットすることによって作製したサンプルが用いられる。このとき、発熱層における水性塗料の塗工方向に平行な方向のサンプルの長さを8cmとする。
(基材シート)
基材シートの構造および材料は、特に制限されず、発熱層の発熱に対する耐熱性と、面状発熱体の用途に応じた強度および柔軟性などを考慮して決定すればよい。
基材シートは、樹脂製のフィルムまたはシートであってもよく、繊維シート(不織布(紙も含む)、織布、編み物など)であってもよく、これらの積層体であってもよい。中でも、樹脂製のフィルムまたはシートを基材シートとして用いることが好ましい。
基材シートの材料としては、例えば、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリアルキレンアリーレートなど)、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。融点または軟化点が100℃以上(または150℃以上)である高耐熱性の材料を用いてもよい。中でも、PET、PEN、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂などが好ましい。基材シートは、これらの材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
基材シートの厚さは、用途に応じて選択される。基材シートの厚さは、例えば、1μm以上250μm以下である。面状発熱体のより高い柔軟性や耐屈曲性を確保しやすい観点からは、例えば、1μm以上200μm以下であり、10μm以上200μm以下であってもよい。
基材シートの発熱層と接触する表面は、表面処理(コロナ放電処理、プラズマ処理など)されていてもよい。
(電極層)
電極層は、発熱層のできるだけ広い領域に通電できるように、発熱層の対向する一対の端部に、発熱層に直接接触するように設けられる。より具体的には、発熱層を上面から見たときに四角形である場合、四方の周縁部のうち、対向する一対の周縁部のそれぞれに設けられる。電極層の形状は特に制限されないが、通常、帯状である。
電極層としては、特に制限されず、公知の電極層が利用できる。例えば、銀などの導電性粒子を含む導電性ペーストを塗布または印刷することにより電極層を形成できる。
(絶縁層)
面状発熱体は、発熱層(および必要に応じて電極層)の表面を覆う絶縁層を備えていてもよい。絶縁層は、発熱層(および電極層)を保護及び絶縁する機能を有する。面状発熱体が絶縁層を有する場合、絶縁層を有さない場合と比べて、耐熱性が低下し易く、耐熱湿性の低下が顕著になる傾向がある。これは発熱層上に絶縁層用塗料を塗布した際に、発熱層の塗膜が侵されるために発生する現象であると考えられ、本発明者らが検討した結果、発熱層の耐水性が良好であれば当該現象を抑制可能である事が見いだされた。本発明の面状発熱体では、上記のような発熱層を有するため、絶縁層を備える場合に熱湿環境に長時間晒されても、抵抗の変動を低減できる。
絶縁層を構成する材料としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂の硬化物などが挙げられる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などが挙げられる。
絶縁層の厚さは、例えば、1μm以上100μm以下であり、5μm以上50μm以下であってもよい。
(その他)
面状発熱体の電極層を除く部分の厚さは、例えば、3μm以上300μm以下であってもよく、20μm以上220μm以下であってもよい。
高い柔軟性が得られることでより高い耐屈曲性を確保し易い観点からは、面状発熱体の剛軟度は、例えば、50mN以下であり、20mN以下または10mN以下である事が好ましい。面状発熱体の剛軟度は、例えば、0.001mN以上である。面状発熱体の剛軟度は、JIS L−1096:2010の8.22「曲げ反発性」A法剛軟度(ガーレー法)に規定されている方法によって測定される。剛軟度はサンプルの縦方向および横方向の双方について測定される。
本発明の面状発熱体は、高い耐屈曲性を有しており、繰り返し折り曲げたときの発熱層における表面抵抗率の変動が小さい。例えば、面状発熱体の折り曲げ前の発熱層の表面抵抗率を100%とするとき、面状発熱体を折り曲げて、折り曲げ部に2.6kgf(≒25.5N)の荷重を10回付加した後の発熱層の表面抵抗率の初期からの変化率は、例えば±15%以内であり、±10%以内である事が好ましい。表面抵抗率の変化率は、より詳しくは次のような手順で求められる。測定には、表面抵抗率の測定と同様のサンプルが用いられる。サンプルの初期の表面抵抗率を測定した後、耐屈曲性の試験を行う。耐屈曲性の試験は、次の手順で行われる。まず、サンプルを、平らな台の上に配置し、発熱層を内側にして、8cmの長さの中央で半分に折り曲げる。この状態で、折り曲げた部分をなぞるように、2.6kgf(≒25.5N)の荷重でローラーを1回往復させた後、サンプルを開いて、折り目を手で抑えて延ばし、再び閉じて、折り曲げた部分をなぞるように上記と同じ荷重でローラーを1回往復させる。このような、サンプルを開いて、閉じ、ローラーで折り曲げ部分を往復する作業を合計9回繰り返す(ローラーでの往復は、合計10回になる)。そして、サンプルを開いて、サンプル全体を平らにした状態で、発熱層における表面抵抗率を測定する。当該測定値から初期の表面抵抗率を差し引いた変化量の、初期の表面抵抗率に対する比率(%)を求める。この比率が、表面抵抗率の変化率(%)である。サンプルの表面抵抗率は、既述の手順で求められる。なお、表面抵抗率の測定は、折れ曲げ部分を跨ぐ様に測定端子を試料に当てた状態で行われる。
本発明の面状発熱体は、加熱が求められる様々な用途(例えば、建築資材、農業資材、車両用資材、貯蔵または展示用の資材、電子機器または電気機器などの構成部材、衣類、寝具)に利用できる。本発明の面状発熱体は、柔軟であるとともに、高い耐水性、高い耐熱湿性、または耐屈曲性を備えるため、水分が多い環境下または折り曲げが想定される用途、例えば、融雪用途(融雪シートなど)、ウェアラブル用途(ウェアラブル端末、ウェアラブルヒーターなど)などに特に適している。
図1は、本発明の一実施形態の面状発熱体を模式的に示す縦断面図である。図1では、面状発熱体の厚さ方向(または面状発熱体の構成部材の積層方向)に平行な断面が示されている。面状発熱体1は、基材シート3と、基材シート3の一方の表面を覆う発熱層2と、発熱層2の端部に発熱層2上に設けられた電極層5と、発熱層2および電極層5を覆う絶縁層4とを備える。発熱層2は、上面から見たときに、四角形の形状を有している。電極層5は、発熱層2の四角形の形状の縦方向(または横方向)の両端部近傍において発熱層2の一部を覆うようにそれぞれ設けられている。
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
《実施例1〜13および比較例1〜14》
(1)発熱層用の水性塗料の調製
表1に示す導電性材料、樹脂成分およびCMC成分、ならびに液状媒体(イオン交換水、2−プロパノール)を、表2〜表5に示す質量で分散及び混合することにより、水性塗料を調製した。
(2)発熱層の形成
(1)で得られた水性塗料を、基材シートとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ100μm)またはポリイミド(PI)フィルム(厚さ75μm)の片方の表面に、乾燥後の発熱層の厚さが表2に示す値または2.0μmとなるように塗布し、120℃で熱風乾燥させ、必要に応じて熱処理を行うことにより、発熱層を形成した。水性塗料の塗布は、実施例2および比較例1〜3ではスリットコーターを用いて行い、残りの例では、バーコーターにより行った。実施例2および比較例1〜3では、熱風乾燥は8分行い、残りの例では熱風乾燥は5分行った。実施例4および5では、熱風乾燥後に300℃で1時間熱処理を行った。このようにして、面状発熱体を形成した。なお、発熱層の厚さは、(株)ミツトヨ製のデジタルマイクロメーターを用いて測定した。
Figure 0006940711
[評価1]
実施例および比較例で得られた水性塗料または面状発熱体を用いて、下記の評価を行った。剛軟度および耐屈曲性の評価については、実施例1〜5および比較例1〜3について行った。耐熱性および耐熱湿性1の評価については、実施例1、3及び実施例6〜13、比較例5,6、および比較例10〜12について行った。耐熱湿性2の評価については実施例1および比較例5について行った。比較例13および14では、構成成分を混合したところゲル化して塗布できるような水性塗料を調製することができなかった。
(a)剛軟度
既述の手順で面状発熱体の剛軟度(mN)を測定した。剛軟度は、測定用のサンプルの縦方向および横方向のそれぞれについて測定した。
(b)初期の導電性(表面抵抗率)
面状発熱体を、縦8cm×横5cmのサイズにカットすることによってサンプルを作製した。このとき、水性塗料の塗工方向に平行な方向のサンプルの長さを8cmとした。抵抗測定器((株)三菱ケミカルアナリテック製、ロレスタGP MCP−T610型)を用い、JIS K 7194:1994に準拠して、発熱層の初期の表面抵抗率(R、単位:Ω/□)を測定した。補正係数RCFは、4.235に設定した。測定環境の温度と湿度は23±1℃、50%RHであった。
(c)耐屈曲性
上記(b)で初期の表面抵抗率を測定したサンプルを用いて、既述の手順で耐屈曲性の試験を行った。耐屈曲性の試験において、ローラーを1回往復させた後、5回往復させた後、10回往復させた後のそれぞれにおいて、サンプルを開き、上記(b)と同様の手順で、発熱層における表面抵抗率(Ω/□)を測定した。なお、耐屈曲性の評価では、折り曲げ部分の影響を測定出来るように、折れ曲げ部分を跨ぐ様に測定端子を試料に当てた状態で表面抵抗率を測定した。各表面抵抗率の値から初期の表面抵抗率Rを差し引いた値を、初期の表面抵抗率Rで除することによって、変化率を求めた。変化率は、初期の表面抵抗率を100%としたときの比率(%)で示す。
(d)粘度
水性塗料の調製直後から1分の時点で、水性塗料の20℃における粘度を、スピンドルタイプのB型粘度計(東京計器(株)製、BH−8)を用いて、ローターNo.3、50rpmの条件で測定した。
(e)pH
水性塗料のpHを、室温(20〜35℃)で、pHメータ((株)堀場製作所製、コンパクトpHメータ「B−71X」)を用いて測定した。
(f)塗工性
水性塗料を基材シートに塗布した際の外観等について下記の基準で目視評価した。
A:水性塗料のハジキおよび塗布ムラが見られない。
B:水性塗料のハジキおよび/または塗布ムラが一部に僅かに見られる
C:水性塗料のハジキおよび/または塗布ムラが部分的に見られる。
D:水性塗料のハジキおよび/または塗布ムラが全面にはっきりと見られる。
(g)密着性1(碁盤目試験)
面状発熱体の発熱層を、2mm間隔で100マスの碁盤目状にカットし、カットした部分に市販の粘着テープを圧着させて、発熱層の表面に対して45°の角度となる方向に粘着テープの一端部を引っ張って、粘着テープを一気に剥がした。このときの発熱層の剥離が見られたマスの個数を求めた。試験は、2つの面状発熱体のサンプルを用いて行い、剥離が見られたマスの個数の平均値を求め、この平均値に基づいて、下記の基準で評価し、密着性の指標とした。
A:100マスの全てで剥離が見られない。
B:1〜9マスで剥離が見られる。
C:10マス以上で剥離が見られる。
(h)密着性2(粘着テープ剥離試験)
面状発熱体の発熱層の表面に市販の粘着テープを圧着させて、発熱層の表面に対して45°の角度となる方向に粘着テープの一端部を引っ張って、粘着テープを一気に剥がした。試験は、3つの面状発熱体のサンプルを用いて行い、3つのサンプル中で剥離が見られたサンプルの個数に基づいて、下記の基準で評価し、密着性の指標とした。
A:3つのサンプル全てで発熱層の剥離が見られない。
B:1つまたは2つのサンプルで発熱層の剥離が見られる。
C:3つのサンプル全てで発熱層の剥離が見られる。
(i)耐水性1(拭き取り試験)
面状発熱体の発熱層に、イオン交換水約5mLを滴下し、10秒後にウエスで拭き取った。試験は、3つの面状発熱体のサンプルを用いて行い、3つのサンプル中で剥離が見られたサンプルの個数に基づいて、下記の基準で評価し、耐水性の指標とした。
A:発熱層が基材から剥離しない。ウエスへの色落ちも見られない。
B:発熱層は基材から剥離しないが、ウエスに僅かに色落ちする。
C:発熱層は基材から剥離しないが、ウエスに顕著に色落ちする。
D:発熱層が基材から剥離する。
(j)耐水性2(湿式摩擦試験(湿潤状態での耐摩耗性の評価))
学振型摩耗試験機に試験布(イオン交換水で湿らせた綿布)を固定し、荷重500gf(≒4.9N)で5回往復しながら発熱層を摩擦した。試験は、3つの面状発熱体のサンプルを用いて行い、3つのサンプルにおける試験後の塗膜の剥離の有無、試験布の色落ちの有無を下記の基準で総合的に評価し、耐水性の指標とした。
A:発熱層の剥離および試験布の色落ちが見られない。
B:発熱層の剥離は見られないが、試験布に僅かに色落ちする。
C:発熱層の剥離は見られないが、試験布に顕著に色落ちする。
D:発熱層の剥離および試験布の色落ちの両方が見られる。
(k)耐熱性
上記(b)の導電性の評価と同様のサンプルを作製した。サンプルを、熱風乾燥器内に載置し、100℃で1000時間保持した。この間、所定時間ごとにサンプルを取り出し、23±1℃、50%RHの環境下で2時間放置した。次いで、上記(b)と同様にして発熱層の表面抵抗率(R、単位:Ω/□)を測定し、(h)で測定した初期の表面抵抗率Rからの変化率(=(R−R)/R×100(%))を算出した。1000時間後の変化率に基づいて、下記の基準で耐熱性を評価した。
A:変化率が±10%以内。
B:変化率が±10%より大きく±15%以内。
C:変化率が±15%より大きい。
(l)耐熱湿性1
上記(b)の導電性の評価と同様のサンプルを作製した。サンプルを、50℃、相対湿度90%の環境下に載置し、1000時間保持した。この間、所定時間ごとにサンプルを取り出し、23±1℃、50%RHの環境下で2時間放置した。次いで、上記(k)と同様にして発熱層の表面抵抗率(R、単位:Ω/□)を求め、(k)で測定した初期の表面抵抗率Rからの変化率(=(R−R)/R×100(%))を算出した。また、1000時間後の変化率に基づいて、下記の基準で耐熱湿性を評価した。
A:変化率が±10%以内。
B:変化率が±10%より大きく±15%以内。
C:変化率が±15%より大きい。
(m)耐熱湿性2
面状発熱体を縦約70mm×横60mmのサイズにカットした。このとき、水性塗料の塗工方向に平行な方向の長さを60mmとした。カットした面状発熱体の縦方向(長手方向)の両方の端部付近に、それぞれ、横方向(短手方向)に平行な幅5mmの帯状の電極層を設けた。各電極層は、2つの電極層間の発熱層の長さが40mm(=電極層間距離)となるようにした。電極層は、発熱層の表面の所定の位置に、スクリーン印刷により導電性ペーストを印刷し、120℃で30分熱風乾燥することにより形成した。このようにして測定用のサンプルk1を作製した。
さらにサンプルk1の横方向(短手方向)の一端部の幅10mmの領域において発熱層および各電極層の一端部が露出するように、残りの領域(約70mm×50mmのサイズの領域)の表面全体を覆う絶縁層を形成した。絶縁層は、光硬化性の絶縁オーバーコート剤を用いて、スクリーン印刷により塗膜を形成し、紫外線を照射して硬化させることにより形成した。絶縁層の厚さは30μmであった。このようにして、絶縁層を有する測定用のサンプルk2を作製した。
サンプルk1およびk2のそれぞれについて、電極層間に、20Vの電圧を印加し、電極間に流れる電流値を測定した。この電流値と電圧20Vとから電極層間の抵抗(初期の電極間抵抗R、単位:Ω)を算出した。
次いで、サンプルk1およびk2のそれぞれを、50℃、相対湿度90%の環境下に載置し、1000時間保持した。1000時間保持した後、上記と同様にして電極層間の抵抗(電極間抵抗R、単位:Ω)を求め、初期の電極間抵抗Rからの変化率(=(R−R)/R×100(%))を算出した。
実施例および比較例の評価結果を表2〜5に示す。表中、E1〜E13は実施例1〜13であり、C1〜C14は比較例1〜14である。
Figure 0006940711
Figure 0006940711
Figure 0006940711
Figure 0006940711
表2に示されるように、実施例では、折り曲げて荷重の付加を繰り返した後も、表面抵抗率の変化率が低く抑えられており、高い耐屈曲性が示されている。それに対し、比較例では、表面抵抗率が大きく変化しており、耐屈曲性に劣る。
表3〜表5に示されるように、実施例では、初期の高い導電性を確保しながら、高い耐熱性および耐熱湿性が得られる。それに対し、C5、C6、C10、C11では、耐熱湿性1が顕著に低下している。また、実施例の水性塗料は優れた塗工性を有するとともに、発熱層は高い密着性を備えている。耐熱湿性2の試験では、絶縁層がないサンプルk1に比べて絶縁層を有するサンプルk2では、熱湿環境に晒された後の抵抗変化が大きくなる傾向がある。特に、C5では、絶縁層を有する場合の抵抗変化率は47%と著しく増加する。それに対し、E1では、絶縁層を有する場合でも、抵抗変化率を小さく抑えることができる。
また、表4に示されるように、実施例では、樹脂成分の量を調節することで、耐水性をさらに向上させることができる。表5に示されるように、CMC成分の量を調節することで、耐水性または密着性をさらに向上させることができる。
1:面状発熱体
2:発熱層
3:基材シート
4:絶縁層
5:電極層

Claims (13)

  1. 発熱層と前記発熱層を支持する基材シートとを少なくとも備える面状発熱体であって、
    前記発熱層は、
    カーボンナノチューブ成分と、
    樹脂成分と、
    カルボキシメチルセルロース成分と、を含み、
    前記カーボンナノチューブ成分は、平均繊維径が60nm以下の多層カーボンナノチューブを含み、
    前記樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
    前記樹脂成分および前記カルボキシメチルセルロース成分の総量は、前記カーボンナノチューブ成分100質量部に対して150質量部以上425質量部以下であり、
    前記発熱層中の前記カーボンナノチューブ成分の含有率は、40質量%以下であり、
    前記発熱層中の前記樹脂成分の含有率は、40質量%以上であり、
    前記カルボキシメチルセルロース成分の量は、前記樹脂成分100質量部に対して12質量部以上60質量部以下である、面状発熱体。
  2. 前記樹脂成分の量は、前記カーボンナノチューブ成分100質量部に対して、100質量部以上400質量部以下である、請求項1に記載の面状発熱体。
  3. 前記フッ素樹脂は、フッ化ビニリデン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を少なくとも含む共重合体を含む、請求項1または2に記載の面状発熱体。
  4. 前記樹脂成分は、前記フッ素樹脂およびアクリル系樹脂を含み、
    前記アクリル系樹脂の量は、前記フッ素樹脂100質量部に対して、30質量部以上50質量部以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  5. 前記カルボキシメチルセルロース成分の量は、前記カーボンナノチューブ成分100質量部に対して、30質量部以上70質量部以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  6. 前記多層カーボンナノチューブのBET比表面積は、50m/g以上250m/g以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  7. 前記多層カーボンナノチューブの平均繊維長は、1μm以上100μm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  8. 前記発熱層の厚さは、1μm以上20μm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  9. 前記発熱層の表面抵抗率は、300Ω/□以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  10. さらに、前記発熱層の表面を覆う絶縁層を備えている、請求項1〜のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  11. 20mN以下の剛軟度を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の面状発熱体。
  12. 発熱層と前記発熱層を支持する基材シートとを少なくとも備える面状発熱体の前記発熱層を形成するための水性塗料であって、
    カーボンナノチューブ成分と、
    樹脂成分と、
    カルボキシメチルセルロース成分と、
    水と、を含み、
    前記カーボンナノチューブ成分は、平均繊維径が60nm以下の多層カーボンナノチューブを含み、
    前記樹脂成分は、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
    前記樹脂成分および前記カルボキシメチルセルロース成分の総量は、前記カーボンナノチューブ成分100質量部に対して150質量部以上425質量部以下であり、
    前記水性塗料の乾燥固形分中の前記カーボンナノチューブ成分の含有率は、40質量%以下であり、
    前記水性塗料の乾燥固形分中の前記樹脂成分の含有率は、40質量%以上であり、
    前記カルボキシメチルセルロース成分の量は、前記樹脂成分100質量部に対して12質量部以上60質量部以下である、水性塗料。
  13. 前記カルボキシメチルセルロース成分は、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩を含む、請求項12に記載の水性塗料。
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