図1は、本実施の形態に係るワイパ装置10の構成を示す概略図である。ワイパ装置10は、一例として、車両のウィンドシールドガラス12の下部の左(助手席側)に左ワイパ装置14、車両のウィンドシールドガラス12の下部の右(運転席側)に右ワイパ装置16を各々備えたダイレクトドライブによるタンデム式のワイパ装置である。なお、本実施の形態における左右は、車室内から見ての左右である。本実施の形態に係るワイパ装置10は、左ワイパ装置14のワイパアーム26と、右ワイパ装置16のワイパアーム28とを、各々同一方向に回動させる。従って、左ワイパ装置14の出力軸36と、右ワイパ装置16の出力軸38とを、各々同一方向に回転させている。
左ワイパ装置14及び右ワイパ装置16は、ワイパモータ18、20、減速機構22、24、ワイパアーム26、28及びワイパブレード30、32を各々備えている。ワイパモータ18、20は、ウィンドシールドガラス12の左下方及び右下方の各々に設けられている。
左ワイパ装置14及び右ワイパ装置16は、ワイパモータ18、20の正逆回転が減速機構22、24で各々減速され、減速機構22、24によって減速された正逆回転で出力軸36、38が各々回転する。さらに、出力軸36、38の正逆回転の回転力がワイパアーム26、28に各々作用することによりワイパアーム26、28が格納位置P3から下反転位置P2に移動し、下反転位置P2と上反転位置P1との間を往復動作する。かかるワイパアーム26、28の動作により、ワイパアーム26、28の先端に各々設けられたワイパブレード30、32がウィンドシールドガラス12表面の下反転位置P2から上反転位置P1の間を払拭する。なお、減速機構22、24は、例えばウォームギア等で構成され、ワイパモータ18、20の回転を、ワイパブレード30、32によるウィンドシールドガラス12表面の払拭に適した回転速度に各々減速し、当該回転速度で出力軸36、38を各々回転させる。
本実施の形態に係るワイパモータ18、20は、上述のように、ウォームギアで構成された減速機構22、24を各々有しているので、出力軸36、38の回転速度及び回転角度は、ワイパモータ18、20本体の回転速度及び回転角度と同一ではない。しかしながら、本実施の形態では、ワイパモータ18、20と減速機構22、24は各々一体不可分に構成されているので、以下、出力軸36、38の回転速度及び回転角度を、ワイパモータ18、20の各々の回転速度及び回転角度とみなす。本実施の形態では、例えば、左ワイパ装置14の出力軸36の回転方向を、右ワイパ装置16の出力軸38の回転方向に同期させることにより、出力軸36及び出力軸38を各々同一方向に回転させている。
ワイパモータ18、20には、ワイパモータ18、20の回転を制御するためのワイパ制御回路60、62が各々接続されている。本実施の形態に係るワイパ制御回路60は駆動回路60A及びワイパECU60Bを、ワイパ制御回路62は、駆動回路62A及びワイパECU62Bを、各々含む。
ワイパECU60Bには、ワイパモータ18の出力軸36の回転速度及び回転角度を各々検知する回転角度センサ42が接続されている。ワイパECU62Bには、ワイパモータ20の出力軸38の回転速度及び回転角度を各々検知する回転角度センサ44が接続されている。ワイパECU60B、62Bは、回転角度センサ42、44からの信号に基づいて、ウィンドシールドガラス12上でのワイパブレード30、32の位置を各々算出する。また、ワイパECU60B、62Bは、算出した位置に応じて出力軸36、38の回転速度が変化するように駆動回路60A、62Aを各々制御する。なお、回転角度センサ42、44は、ワイパモータ18、20の減速機構22、24内に各々設けられ、出力軸36、38に連動して回転する励磁コイル又はマグネットの磁界(磁力)を電流に変換して検出する。また、出力軸36、38の回転速度の制御は、後述するメモリ等に記憶された、ワイパブレード30、32の位置に応じて出力軸36、38の回転速度を規定した速度マップ(図示せず)を参照して行う。
駆動回路60A、62Aは、ワイパモータ18、20を各々作動させるための電圧(電流)をPWM(Pulse Width Modulation)制御によって生成してワイパモータ18、20に各々供給する。駆動回路60A、62Aは、スイッチング素子に電界効果トランジスタ(MOSFET)を使用した回路を含み、駆動回路60AはワイパECU60Bの、駆動回路62AはワイパECU62Bの、各々の制御によって、所定のデューティ比の電圧を出力する。
ワイパECU60BとワイパECU62Bとは、例えば、LIN(Local Interconnect Network)等のプロトコルを用いた通信で連携させることにより、左ワイパ装置14及び右ワイパ装置16の動作を同期させている。また、ワイパ制御回路62のワイパECU62Bには、車両制御回路64を介して、ワイパスイッチ66が接続されている。
ワイパスイッチ66は、車両のバッテリからワイパモータ18、20に供給される電力をオン又はオフするスイッチである。ワイパスイッチ66は、ワイパブレード30、32を、低速で動作させる低速作動モード選択位置、高速で動作させる高速作動モード選択位置、一定周期で間欠的に動作させる間欠作動モード選択位置、停止モード選択位置に切替可能である。また、各モードの選択位置に応じてワイパモータ18、20を回転させるための指令信号を車両制御回路64を介してワイパECU62Bに出力する。また、ワイパECU62Bに入力された指令信号は、前述のLIN等のプロトコルを用いた通信によってワイパECU60Bにも入力される。図1では、便宜上、右ワイパ装置16をマスタワイパ、左ワイパ装置14をスレーブワイパとする。
ワイパスイッチ66から各モードの選択位置に応じて出力された信号がワイパECU60B、62Bに入力されると、ワイパECU60B、62Bがワイパスイッチ66からの出力信号に対応する制御を行う。具体的には、ワイパECU60B、62Bは、ワイパスイッチ66からの指令信号と前述の速度マップとに基づいて出力軸36、38の回転速度を算出する。さらにワイパECU60B、62Bは、算出した回転速度で出力軸36、38が回転するように駆動回路60A、62Aを制御する。
図2は、本実施の形態に係る右ワイパ装置16のワイパ制御回路62の構成の一例の概略を示すブロック図である。また、図2示したワイパモータ20は、一例として、ブラシレスDCモータであるが、ブラシ付きDCモータであってもよい。なお、左ワイパ装置14のワイパ制御回路60の構成は、右ワイパ装置16のワイパ制御回路62と同様なので、その詳細な説明は省略する。
図2に示したワイパ制御回路62は、ワイパモータ20の固定子(ステータ)のコイル40U、40V、40Wの端子に印加する電圧を生成する駆動回路62Aと、駆動回路62Aを構成するスイッチング素子のオン及びオフを制御するワイパECU62Bとを含んでいる。
ワイパモータ20のロータ72は、各々3つのS極及びN極の永久磁石で構成されており、ステータのコイルに生じた回転磁界に追随して回転するように構成されている。ロータ72の磁界は、ホールセンサ70によって検知される。ホールセンサ70は、ロータ72の永久磁石の極性に対応してロータ72とは別に設けられたセンサマグネットの磁界を検知してもよい。ホールセンサ70は、ロータ72又はセンサマグネットの磁界を、ロータ72の位置を示す磁界として検知する。
ホールセンサ70は、ロータ72又はセンサマグネットにより形成された磁界を検出することにより、ロータ72の位置を検出するためのセンサである。ホールセンサ70は、U、V、Wの各相に対応する3つのホール素子を含んでいる。ホールセンサ70は、ロータ72の回転によって生じた磁界の変化を、正弦波に近似した電圧の変化の信号として出力する。
ホールセンサ70が出力した信号は、制御回路であるワイパECU62Bに入力される。ワイパECU62Bは、集積回路であり、スタンバイ回路50によって電源であるバッテリ80から供給される電力が制御されている。
ホールセンサ70からワイパECU62Bに入力されたアナログ波形の信号は、ワイパECU62B内にある、コンパレータ等のアナログ信号をデジタル信号に変換する回路を備えたホールセンサエッジ検出部56に入力される。ホールセンサエッジ検出部56では、入力されたアナログ波形をデジタル波形に変換し、デジタル波形からエッジ部分を検出する。
デジタル波形及びエッジの情報はモータ位置推定部54に入力され、ロータ72の位置が算出される。算出されたロータ72の位置の情報は、通電制御部58に入力される。
また、ワイパECU62Bの指令値算出部52には、ワイパスイッチ66からワイパモータ20(ロータ72)の回転速度を指示するための信号が入力される。指令値算出部52は、ワイパスイッチ66から入力された信号からワイパモータ20の回転速度に係る指令を抽出して、通電制御部58に入力する。
通電制御部58は、モータ位置推定部54で算出されたロータ72の磁極の位置に応じて変化する電圧の位相を算出すると共に、算出した位相及びワイパスイッチ66により指示されたロータ72の回転速度に基づいて駆動デューティ値を決定する。また、通電制御部58は、駆動デューティ値に応じたパルス信号であるPWM信号を生成して駆動回路62Aに出力するPWM制御を行う。当該PWM制御により、駆動回路62Aは、ロータ72の磁極の位置に基づいたタイミングで変化する電圧を生成し、ステータ40のコイル40U、40V、40Wに印加する。当該電圧が印加されたコイル40U、40V、40Wには、ロータ72を回転させる回転磁界が生じる。
駆動回路62Aは、三相(U相、V相、W相)インバータにより構成されている。図2に示すように、駆動回路62Aは、各々が上段スイッチング素子としての3つのNチャンネル電界効果トランジスタ(MOSFET)74U、74V、74W(以下、「FET74U、74V、74W」と言う)、各々が下段スイッチング素子としての3つのNチャンネル電界効果トランジスタ76U、76V、76W(以下、「FET76U、76V、76W」と言う)とを備えている。なお、FET74U、74V、74W及びFET76U、76V、76Wは、各々、個々を区別する必要がない場合は「FET74」、「FET76」と総称し、個々を区別する必要がある場合は、「U」、「V」、「W」の符号を付して称する。
FET74、FET76のうち、FET74Uのソース及びFET76Uのドレインは、コイル40Uの端子に接続されており、FET74Vのソース及びFET76Vのドレインは、コイル40Vの端子に接続されており、FET74Wのソース及びFET76Wのドレインは、コイル40Wの端子に接続されている。
FET74及びFET76のゲートは通電制御部58に接続されており、PWM信号が入力される。FET74及びFET76は、ゲートにHレベルのPWM信号が入力するとオン状態になり、ドレインからソースに電流が流れる。また、ゲートにLレベルのPWM信号が入力されるとオフ状態になり、ドレインからソースへ電流が流れない状態になる。
また、本実施の形態のワイパ制御回路62には、バッテリ80、ノイズ防止コイル82、及び平滑コンデンサ84A、84B等が構成されている。バッテリ80、ノイズ防止コイル82、及び平滑コンデンサ84A、84Bは略直流電源を構成している。
また、本実施の形態のワイパ制御回路62の基板上には、抵抗R1を介して一端に制御電圧Vccが印加されると共に他端が接地され、基板の温度を抵抗値として検知するチップサーミスタRTが実装されている。本実施の形態に用いられるチップサーミスタRTは温度の上昇に対して抵抗が減少するNTC (Negative Temperature Coefficient)サーミスタであり、温度が上昇するにつれてチップサーミスタRTの抵抗値は減少する。なお、反転回路を併用することで、温度が上昇するにつれて抵抗値が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタを使用してもよい。
チップサーミスタRT及び抵抗R1は、一種の分圧回路を構成しており、抵抗R1と接続されているチップサーミスタRTの一端からは、チップサーミスタRTの抵抗値に基づいて変化する電圧が出力される。チップサーミスタRTの一端から出力された電圧は通電制御部58において過熱判定値と比較され、チップサーミスタRTの一端から出力された電圧が過熱判定値以下の場合には、ワイパ制御回路62が過熱状態であると判定する。前述のように、本実施の形態に係るチップサーミスタRTは、温度の上昇に対して抵抗が減少するタイプなので、抵抗R1とチップサーミスタRTとで構成された分圧回路の出力端でもあるチップサーミスタRTの一端から出力される電圧は、温度の上昇に応じて低下する。通電制御部58は、チップサーミスタRTの一端から出力された電圧が過熱判定値以下の場合に回路が過熱していると判定する。過熱判定値は基板に実装される素子及びチップサーミスタRTの位置等によって変化するが、一例として145℃においてチップサーミスタRTと抵抗R1との分圧回路が出力する電圧である。
また、FET76U、76V、76Wの各々のソースとバッテリ80との間には電流検知部68が設けられている。電流検知部68は、抵抗値が0.2mΩ〜数Ω程度のシャント抵抗と、シャント抵抗の両端の電位差を増幅してシャント抵抗の電流に比例する電圧値を信号として出力するアンプとを含み、アンプが出力した信号は、通電制御部58に入力される。通電制御部58では、電流検知部68が出力した信号と過電流判定値とを比較し、電流検知部68が出力した信号が過電流判定値以上の場合にモータ電流が過電流であると判定する。なお、図2には図示していないが、ワイパ制御回路60、62の基板上には、バッテリ80の電圧を検出する電圧センサ等が実装されている。
以下、本実施の形態に係るワイパ装置10の作用及び効果について説明する。図3は、本実施の形態のワイパ装置10のワイパモータ18、20における出力軸36、38のトルクに対する出力軸36、38の回転数(回転速度)及びモータ電流の変化を示した説明図である。図3の直線92Rは、出力軸36、38の回転数が高速な場合に行われる高回転制御での出力軸36、38のトルクと出力軸36、38の回転数との関係を示し、図3の直線92Iは、高回転制御での出力軸36、38のトルクとモータ電流との関係を示している。図3に示したように、出力軸36、38のトルクを増大させると、回転数は低下する一方、モータ電流は大きくなる。
図3において、高回転制御で出力軸36、38をトルクN1で回転させると、回転数はR1、モータ電流はI1を示す。出力軸36、38をトルクN1よりも大きなトルクで回転させると、回転数はR1よりもさらに低くなり、モータ電流はl1よりも大きくなる。従って、高回転制御で出力軸36、38を大きくすると、回転数が低下するにもかかわらず、モータ電流が増大して、ワイパモータ18、20が過負荷になる。
本実施の形態では、例えば、出力軸36、38のトルクがN1以上になる場合は、モータ電流を抑制しながら出力軸36、38のトルクを増大させる低回転制御を行う。
図3の直線94Rは、出力軸36、38の回転数を低くすると共にトルクを大きくする低回転制御での出力軸36、38のトルクと出力軸36、38の回転数との関係を示し、直線94Iは、低回転制御での出力軸36、38のトルクとモータ電流との関係を示している。低回転制御時の回転数は、直線94Rが示すように、高回転制御時の回転数に比して低下するものの、低回転制御時のモータ電流は、直線94Iが示すように、高回転制御時のモータ電流よりも低下する。その結果、低回転制御で出力軸36、38をトルクN1で回転させた場合のモータ電流は、高回転制御で出力軸36、38をトルクN1で回転させた場合のモータ電流であるI1よりも低いI2を示す。また、低回転制御では、出力軸36、38のトルクがN1以上になる場合でも、モータ電流の増大は、高回転制御のモータ電流ほど急激ではないので、ワイパモータ18、20が過負荷になりにくい。さらに、低回転制御では、出力軸36、38のトルクを増大させても、出力軸36、38の回転数の低下は、高回転制御ほど急激ではないので、出力軸36、38を大トルクで回転させる場合は、高回転制御よりも低回転制御の方が実用的である。
図4(A)は出力軸36、38の回転数が中庸の場合に行われる中回転制御におけるコイル40U、40V、40Wへの通電パターンの一例を示したタイムチャートである。図4(A)において矩形で示された通電102U、102V、102W及び通電104U、104V、104Wは、コイル40U、40V、40Wへ通電されるタイミングを示している。図4において、通電102U、102V、102W及び通電104U、104V、104Wは、便宜上、矩形で示されているが、実際の通電では、PWMによりパルス状に変調された電圧がコイル40U、40V、40Wに印加される。なお、図4の単位時間(例えば、時間t0から時間t1の間)は、ロータ72が電気角で60°回転する時間である。また、図4(A)における通電のタイミングは、ホールセンサ70によって検出したロータ72の磁極の位置に対応したタイミングである。
時間t0から時間t1までは、FET74WとFET76Vとがオンになり、コイル40Wからコイル40Vへ通電される。時間t1から時間t2では、FET74UとFET76Vとがオンになり、コイル40Uからコイル40Vへ通電される。時間t2から時間t3では、FET74UとFET76Wとがオンになり、コイル40Uからコイル40Wへ通電される。時間t3から時間t4では、FET74VとFET76Wとがオンになり、コイル40Vからコイル40Wへ通電される。時間t4から時間t5では、FET74VとFET76Uとがオンになり、コイル40Vからコイル40Uへ通電される。時間t5から時間t6では、FET74WとFET76Uとがオンになり、コイル40Wからコイル40Uへ通電される。時間t6から時間t7では、FET74WとFET76Vとがオンになり、コイル40Wからコイル40Vへ通電される。時間t7から時間t8では、FET74UとFET76Vとがオンになり、コイル40Uからコイル40Vへ通電される。
図4(B)は、高回転制御におけるコイル40U、40V、40Wへの通電パターンの一例を示したタイムチャートである。図4(B)では、図4(A)の通電102U、102V、102W、104U、104V、104Wに対して通電のタイミングを各々tα早めた(進角させた)タイミングで通電106U、106V、106W、108U、108V、108Wを行っている。tαは、ワイパモータの仕様等によって異なるので、設計時のシミュレーション、又は実機を用いた実験を通じて具体的に決定する。また、tαは固定ではなく、出力軸36、38の回転数が大きくなるに従ってtαを大きくするようにしてもよい。
通電106U、106V、106W、108U、108V、108Wは、便宜上、矩形で示されているが、実際の通電では、PWMによりパルス状に変調された電圧がコイル40U、40V、40Wに印加される。出力軸36、38を高速で回転させるには、コイル40U、40V、40Wに印加する電圧の実効電圧値を高めることを要するので、通電106U、106V、106W、108U、108V、108Wのデューティ比は、図4(A)の通電102U、102V、102W、104U、104V、104Wのデューティ比よりも大きくなる。
図4(C)は、低回転制御におけるコイル40U、40V、40Wへの通電パターンの一例を示したタイムチャートである。図4(C)では、図4(A)の通電102U、102V、102W、104U、104V、104Wに対して通電のタイミングを各々tβ遅らせた(遅角させた)タイミングで通電110U、110V、110W、112U、112V、112Wを行っている。tβは、ワイパモータの仕様等によって異なるので、設計時のシミュレーション、又は実機を用いた実験を通じて具体的に決定する。また、tβは固定ではなく、出力軸36、38の回転数が小さくなるに従ってtβを大きくするようにしてもよい。
通電110U、110V、110W、112U、112V、112Wは、便宜上、矩形で示されているが、実際の通電では、PWMによりパルス状に変調された電圧がコイル40U、40V、40Wに印加される。出力軸36、38を低速で回転させるには、コイル40U、40V、40Wに印加する電圧の実効電圧値を低下させることを要するので、通電110U、110V、110W、112U、112V、112Wのデューティ比は、図4(A)の通電102U、102V、102W、104U、104V、104Wのデューティ比よりも小さくなる。
一般にブラシレスDCモータでは、高速回転に対応させるには、U、V、Wの各相に印加する電圧のデューティ比を大きくして実効電圧を高めると共に、各相への通電タイミングをホールセンサ70によって検出したロータ72の磁極の位置に対応したタイミングよりも電気角で進角させることが効果的である。また、低速回転に対応させると共に出力軸のトルクを向上させ、かつモータ電流を抑制するには、U、V、Wの各相に印加する電圧のデューティ比を小さくして実効電圧を低下させると共に、U、V、Wの各相への通電タイミングを、ホールセンサ70によって検出したロータ72の磁極の位置に対応したタイミングよりも電気角で遅角させることが効果的である。本実施の形態では、ワイパモータ18、20の出力軸36、38を高速回転させる場合には図4(B)に示したように通電タイミングを進角する。また、本実施の形態では、ワイパモータ18、20の出力軸36、38を低速回転させると共に出力軸のトルクを担保しつつモータ電流を抑制する場合には図4(C)に示したように通電タイミングを遅角させる。
なお、図4(C)に示した場合で、tβを大きくすると、ワイパモータ18、20の出力軸36、38のトルクがさらに向上する場合があるが、モータ電流は増大する傾向がある。かかる状態でtβをさらに大きくすると、ワイパモータ18、20は出力軸36、38の回転を維持できず脱調するおそれがある。
図5(A)は、出力軸36、38の回転数を低速から高速へ変化させる場合の、進角(tα、tβ)及びコイル40U、40V、40Wへ印加する電圧のデューティ比の各々の時系列での変化の一例を示したタイムチャートであり、図5(B)は、出力軸36、38の回転数を高速から低速へ変化させる場合の、進角(tβ、tα)及びコイル40U、40V、40Wへ印加する電圧のデューティ比の各々の時系列での変化の一例を示したタイムチャートである。
図5(A)は、例えば、ワイパスイッチ66が低速作動モード選択位置から高速作動モード選択位置に切り替えられた場合である。高速作動モードでの目標回転速度と現在の出力軸36、38の回転速度との差が大きい場合に、進角及びデューティ比を急激に大きくして、出力軸36、38の回転を急加速すると、出力軸36、38の回転が乱れる場合があるので、本実施の形態では、図5(A)の折れ線114に示したように、進角及びデューティ比を段階的に高めることにより、出力軸36、38の回転を段階的に加速する。なお、高速作動モードでの目標回転速度と現在の出力軸36、38の回転速度との差が大きい場合は、1段階で進角及びデューティ比を大きくして対応できる回転速度差以上に当該差が大きい場合である。また、1段階での進角及びデューティ比の変化量は、ワイパモータ18、20の出力軸36、38の回転が乱調しない範囲で、ワイパモータ18、20及びワイパ装置10の仕様等に基づいて、計算または実機の試験を通じて決定する。
図5(B)は、例えば、ワイパスイッチ66が高速作動モード選択位置から低速作動モード選択位置に切り替えられた場合である。現在の出力軸36、38の回転速度と低速作動モードでの目標回転速度との差が大きい場合に、進角及びデューティ比を急激に小さくして、出力軸36、38の回転を急減速すると、出力軸36、38の回転が乱れる場合があるので、本実施の形態では、図5(B)の折れ線116に示したように、進角及びデューティ比を段階的に低下させることにより、出力軸36、38の回転を段階的に減速する。なお、現在の出力軸36、38の回転速度と低速作動モードでの目標回転速度との差が大きい場合は、1段階で進角及びデューティ比を小さくして対応できる回転速度差以上に当該差が大きい場合である。また、1段階での進角及びデューティ比の変化量は、ワイパモータ18、20の出力軸36、38の回転が乱調しない範囲で、ワイパモータ18、20及びワイパ装置10の仕様等に基づいて、計算または実機の試験を通じて決定する。
本実施の形態では、変更前後の回転数の差が大きいほど、進角及びデューティ比を多段階で変化させる。例えば、低回転制御による回転から高回転制御による回転に切り替える場合には、進角の極小値に相当するtβ(遅角)から進角の極大値に相当するtαまで変化させることを要し、かつデューティ比の変化量も大きいので、進角及びデューティ比を多段階で大きくする。同様に、高回転制御による回転から低回転制御による回転に切り替える場合も、進角及びデューティ比を多段階で小さくする。
図6は、本実施の形態に係るワイパ装置10において、ワイパモータ18、20が過負荷になった場合の、進角(tα、tβ)及びコイル40U、40V、40Wへ印加する電圧のデューティ比の各々の時系列での変化の一例を示したタイムチャートである。ワイパモータ18、20が過負荷になったまま現状の通電を継続すると、ワイパモータ18、20及び駆動回路60A、62Aを損傷するおそれがある。本実施の形態では、図6の折れ線118が示すように、通電タイミングの進角及びコイル40U、40V、40Wへ印加する電圧のデューティ比を、例えば、低回転制御に対応した進角及びデューティ比まで急激に低下させて、出力軸36、38の回転を急減速する。出力軸36、38の回転を急減速すると出力軸36、38の回転が一時的に乱れる場合があるが、本実施の形態では、ワイパモータ18、20及び駆動回路60A、62Aの損傷を防止するため、出力軸36、38の回転を減速することを優先する。
本実施の形態では、ワイパモータ18、20のいずれかのモータ電流が上限値以上の場合、及びワイパ制御回路60、62のいずれかの基板の温度が所定値(一例として145°)以上になった場合、のいずれかに該当するのであれば、ワイパモータ18、20が過負荷になったと判定し、図6に示したように進角及びデューティ比を変化させる。
図7は、本実施の形態に係るワイパ装置10の進角量可変制御処理の一例を示したフローチャートである。ステップ700では、ワイパスイッチ66の低速作動モード又は高速作動モード等の払拭モードの情報を取得する。
ステップ702では、電流検知部68によってモータ電流の電流値を、チップサーミスタRTによって基板の温度を、回転角度センサ42、44によってワイパモータ18、20の出力軸36、38の回転角度を、各々取得する。そして、ステップ704では、ステップ702で取得した出力軸36、38の回転角度に基づいて出力軸36、38の回転数(回転速度)を算出する。
ステップ706では、払拭モード、モータ電流の電流値、基板の温度及び出力軸36、38の回転速度により進角量を決定する。例えば、払拭モードが高速作動モードの場合は、ロータ72の磁極の位置に対応したタイミングに対する進角量を大きくし、低速作動モードの場合は進角量を小さくする、又は進角させずにロータ72の磁極の位置に対応したタイミングで通電する。低速作動モードでは、ロータ72の磁極の位置に対応したタイミングを電気角で遅角させる低回転制御を行ってもよい。ワイパモータ18、20のモータ電流が低く、かつワイパ制御回路60、62の基板の温度が低い場合は、進角を大きくするが、モータ電流が大きい場合又は温度が高い場合には、払拭モードが高速作動モードであっても進角量は小さくする。そして、ワイパモータ18、20のいずれかのモータ電流が上限値以上の場合、又はワイパ制御回路60、62のいずれかの基板の温度が所定値(一例として145°)以上になった場合には、払拭モードが高速作動モードであっても、通電タイミングを遅角させる低回転制御を行う。また、ステップ706では、ステップ704で算出した出力軸36、38の回転速度と、ステップ700で取得した払拭モードでの回転速度との速度差に基づいて、進角量を変化させる段階数を決定する。速度差が大きい場合は、図5に示したように進角量を多段階で変化させるからである。ただし、モータ電流が上限値以上の場合、又は基板の温度が所定値以上になった場合には、図6に示したように、進角を急激に低下させる。
ステップ708では、ステップ706で決定した進角量で通電タイミングを進角させる。本実施の形態では、通電タイミングの進角と共に、コイル40U、40V、40Wに印加する電圧のデューティ比も変更される。ステップ708で進角を実施した後は、処理をリターンする。
以上説明したように、本実施の形態では、ワイパモータ18、20のコイルに通電するタイミングを、出力軸36、38の回転速度が高速の場合と、出力軸36、38の回転速度が低速の場合とで変更している。例えば、出力軸36、38の回転速度が高速の場合では、ワイパモータ18、20のコイルに通電するタイミングを早めることにより、高速回転に適した通電を行う。また、ワイパブレード30、32の払拭動作をゆっくり行う場合には、高速回転時の通電タイミングよりも遅いタイミングでコイルに通電することにより、低速回転に適した通電を行うと共に出力軸36、38のトルクを向上させることが可能になる。低速回転に適した通電を行う場合は、図3に示したように、モータ電流は高速回転の場合よりも抑制されるので、ワイパモータ18、20が過負荷になることを防止できる。
なお、本実施の形態では、左ワイパ装置14のワイパモータ18と右ワイパ装置16のワイパモータ20とを備えたダイレクトドライブによるタンデム式のワイパ装置を例にしたが、1つのワイパモータの動力をリンク機構を介して左右のワイパに伝達するタイプのワイパ装置に、上述の低回転制御及び高回転制御を適用することも可能である。