JP6936353B2 - マスターバッチ及び樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、微細化したアセチル化セルロース繊維を含有するマスターバッチ、及びこれを含む樹脂組成物に関するものである。
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース及びセルロースナノファイバーを包含するものであり、約1nm〜数10μm程度の繊維径の微細繊維である。微細繊維状セルロースは、軽量で、且つ、高い強度および高い弾性率を有し、低い線熱膨張係数を有することから、樹脂組成物の補強材料として好適に使用されている。
微細繊維状セルロースは、通常、水に分散している状態で得られるものであり、樹脂等と均等に混合させることが困難であった。そのため、樹脂との親和性・混和性を向上させるために、セルロース原料を化学変性する試みがなされてきた。
例えば、特許文献1では、セルロース原料と尿素とを加熱処理することにより、セルロースのヒドロキシ基の一部をカルバメート基で置換したセルロース原料を得て、これを機械的処理により微細化し、微細繊維状セルロースを得ている。この方法で得られた微細繊維状セルロースは、従来の微細繊維状セルロースと比較して親水性が低く、極性の低い樹脂等との親和性が高いため、樹脂に均一性高く分散し、高い強度を有する複合体を与える。さらに、特許文献1には前記加熱処理したセルロース原料と尿素との混合物を水等で洗浄し、未反応の残留尿素等を除去することが開示されている。
しかし、特許文献1で得られる樹脂複合体は、伸びの向上については十分な効果が得られていない。一般的に、補強(弾性率の向上)と伸びの向上はトレードオフであるため、高い引張弾性率と伸びの向上が両立した樹脂成型体を得ることが可能なマスターバッチ及び樹脂組成物が求められていた。
特開2019−1876号公報
本発明の目的は、高い引張弾性率と伸びの向上が両立した樹脂成型体を得ることが可能なマスターバッチ及び樹脂組成物を提供することである。
本発明は、以下を提供する。
(1) 尿素またはその誘導体由来の化合物、および酸変性ポリプロピレンにより修飾されたアセチル化セルロース繊維と、前記酸変性ポリプロピレンとを含み、下記条件(A)及び(B)を満たすマスターバッチ。
(A)窒素雰囲気下、毎分10℃で昇温したときに、前記マスターバッチの絶乾重量に対して、105℃から300℃への昇温時の重量減少が10〜40%であり、390℃から880℃への昇温時の重量減少が5〜45%である。
(B)前記マスターバッチの赤外線吸収スペクトルにおける、1315cm−1と1316cm−1を両端とする閉区間における最大ピーク強度をa、750cm−1と800cm−1を両端とする開区間における最大ピーク強度をb、としたときに下記式を満たす。
b/a>0.05
(2) さらに、下記条件(C)を満たす(1)に記載のマスターバッチ。
(C)前記マスターバッチに含まれるアセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量1部に対してポリプロピレンを8部加えて180℃で混練後に成形し、得られたダンベル型試験片に対して引張試験を行ったときの、ポリプロピレン単体の引張弾性率値を1としたときの相対引張弾性率値の常用対数をX、アセチル化セルロース繊維とポリプロピレンのみからなる樹脂成形体の引張ひずみの値を1としたときの相対引張ひずみの値をY、としたときに下記式を満たす。
Y>−14.9X+4.7
(3) (1)または(2)に記載のマスターバッチと、熱可塑性樹脂とを含み、前記熱可塑性樹脂の含有量は、前記マスターバッチに含まれるアセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量100重量%に対して107〜983重量%である樹脂組成物。
本発明によれば、高い引張弾性率と伸びの向上が両立した樹脂成型体を得ることが可能なマスターバッチ及び樹脂組成物を提供することができる。
以下、本発明のマスターバッチについて説明する。本発明において「〜」は端値を含む。すなわち「X〜Y」はその両端の値XおよびYを含む。
本発明のマスターバッチは、尿素またはその誘導体由来の化合物、および酸変性ポリプロピレンにより修飾されたアセチル化セルロース繊維と、前記酸変性ポリプロピレンとを含み、下記条件(A)及び(B)を満たす。
(A)窒素雰囲気下、毎分10℃で昇温したときに、前記マスターバッチの絶乾重量に対して、105℃から300℃への昇温時の重量減少が10〜40%であり、390℃から880℃への昇温時の重量減少が5〜45%である。
(B)前記マスターバッチの赤外線吸収スペクトルにおける、1315cm−1と1316cm−1を両端とする閉区間における最大ピーク強度をa、750cm−1と800cm−1を両端とする開区間における最大ピーク強度をb、としたときに下記式を満たす。
b/a>0.05
(アセチル化セルロース繊維)
アセチル化セルロース繊維は、セルロース原料のセルロース表面に存在する水酸基の水素原子がアセチル基(CH−CO−)で置換されているものである。アセチル基で置換されることにより疎水性が高まり、乾燥時の凝集が減少するため作業性が高まり、混練後の樹脂中で分散や解繊しやすくなる。アセチル化セルロース繊維のアセチル基置換度(DS)は、作業性およびセルロース繊維の結晶性維持の観点から、好ましくは0.4〜1.3、より好ましくは0.6〜1.1となるように調整する。
(セルロース原料)
本発明において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした形態の材料であれば何れでもよく、リグノセルロース(NUKP)を含むものであり、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に再沈殿された再生セルロース、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロース、アセチル化変性に影響を及ぼさない程度の各種セルロース誘導体などが例示される。
なお、リグノセルロースは、植物の細胞壁を構成する、複合炭水化物ポリマーであり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロースと、芳香族高分子であるリグニンから構成されている。リグニンの含有量は、原材料となるパルプ等に対して、脱リグニン、又は漂白を行うことにより、調整することができる。
本発明において、セルロース原料としてパルプを用いる場合、未叩解及び叩解のいずれでもよいが、叩解処理を行ったパルプを用いる方が好ましい。これによりパルプの比表面積が増加し尿素反応量が増加することが期待できる。叩解処理の程度としては、濾水度(C.S.F)400mL以下が好ましく、より好ましくは100mL〜200mL程度となる。400mLを超える濾水度では、その効果を発揮することが出来ず、100mL未満では、セルロース繊維へのダメージによる短繊維化のため、強化樹脂にしたときに強度向上効果が阻害される。また本叩解処理を行うことで、後述するアセチル化反応、洗浄処理、乾燥処理を行った際、加重平均繊維長(長さ平均繊維長)の範囲が0.2〜1.5mm、好ましくは0.3〜1.0mmの範囲に入る場合、後述する粉砕工程を省略してもよい。
叩解処理の方法としては、例えば、公知の叩解機を用いてパルプ繊維を機械的(力学的)に処理することが挙げられる。叩解機としては、パルプ繊維を叩解する場合に通常使用される叩解機を使用することができ、例えば、ナイアガラビーター、PFIミル、ディスクリファイナー、コニカルリファイナー、ボールミル、石臼型ミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、家庭用ジューサーミキサー、乳鉢である。中でも、ナイアガラビーターやディスクリファイナー、コニカルリファイナーが好ましく、ディスクリファイナーやコニカルリファイナーがさらに好適である。
(アセチル化反応)
アセチル化反応は、セルロース原料を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中に原料を懸濁し、無水酢酸、アセチルクロリド等のハロゲン化アセチル等を使用して、塩基の存在下で行うと短時間で反応を行うことが可能となる。このアセチル化反応で用いる塩基としては、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が好ましく、炭酸カリウムがより好ましい。また、無水酢酸などのアセチル化試薬を過剰に使用することで無水非プロトン性極性溶媒や塩基を使用しない条件で反応を行うことも可能である。
アセチル化反応は、例えば、室温〜100℃で撹拌しながら行うことが好ましい。反応処理後はアセチル化試薬の除去のため減圧乾燥を行ってもよい。また目標のアセチル基置換度に到達していない場合、アセチル化反応とそれに続く減圧乾燥を任意の回数繰り返し行ってもよい。
アセチル化反応により得られたアセチル化セルロース繊維は、アセチル化処理後に水置換などの洗浄処理を行うことが好ましい。
洗浄処理においては必要に応じて脱水を行ってもよい。脱水法としてはスクリュープレスを用いた加圧脱水法、揮発などによる減圧脱水法などで実施も可能だが、効率の点から遠心脱水法が好ましい。脱水は、溶媒中の固形分が10〜60%程度になるまで行うことが好ましい。
本発明においてアセチル化セルロース繊維は、上記脱水の後、必要に応じて実施される粉砕処理に用いる前に乾燥処理が施されてもよい。乾燥処理は、例えば、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機(減圧乾燥機)を用いて行うことができるが、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、攪拌羽根のついた回分乾燥機など、攪拌しながら乾燥することができる乾燥機が好ましい。乾燥は、アセチル化セルロース繊維の含水率が0.1〜10%、好ましくは1〜5%程度になるまで可能な限り行うことが好ましい。
本発明のマスターバッチに含まれるアセチル化セルロース繊維は、尿素またはその誘導体由来の化合物、および酸変性ポリプロピレンにより修飾されている。
(酸変性ポリプロピレン)
本発明のマスターバッチに含まれる酸変性ポリプロピレンは、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸などの酸無水物を形成することが可能な低分子量のジカルボン酸を、ポリプロピレンのポリオレフィン鎖上に有する高分子樹脂であり、中でもマレイン酸を付加させた無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)を用いることが好ましい。本発明において、酸変性ポリプロピレンは、相溶化樹脂としての機能を有する。相溶化樹脂とは、疎水性の異なるアセチル化セルロース繊維と熱可塑性樹脂との均一混合や密着性を高める働きをするものである。
本発明に用いる、尿素またはその誘導体由来の化合物、および酸変性ポリプロピレンにより修飾されたアセチル化セルロース繊維は、例えば、アセチル化セルロース繊維、酸変性ポリプロピレン、および尿素を同時に添加して混練を行うことにより得ることができる。この操作によるポリオレフィン樹脂中でのアセチル化セルロース繊維による強度が向上する現象のメカニズムは現時点では未解明であるが、以下のように考察することでその一部を説明することが可能となる。すなわち、尿素は温度が135℃を超える状態でアンモニアとイソシアン酸に分解されるが、尿素をアセチル化セルロース繊維と同時に混練することにより、混練によって新たにセルロース繊維内部から現れた未変性水酸基と発生したイソシアン酸とが反応しウレタン結合の生成を促すと考えられ、尿素処理を行わないアセチル化セルロース繊維と比較して疎水性が高まることが推測される。さらに酸無水物を有する酸変性ポリプロピレンと同時に溶融混練することで、アセチル化セルロース繊維の表面に尿素処理によって新たに導入されたアミノ基と酸変性ポリプロピレンが有するカルボン酸の相互作用を促し、より強固にアセチル化セルロース繊維と酸変性ポリプロピレンとの複合体を形成することが可能となっていると考えられる。
以上のようなメカニズムを達成するために必要な尿素の配合量は、アセチル化セルロース繊維に含まれるセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量(以後これを「セルロース量」と呼ぶことがある)100重量%に対して10〜100重量%が好ましく、20〜100重量%がより好ましく、30〜70重量%がさらに好ましい。
本発明に用いる酸変性ポリプロピレンの相溶化樹脂としての特徴を決める要素には、ジカルボン酸の付加量と母材となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量がある。ジカルボン酸の付加量が多いポリオレフィン樹脂はセルロースのような親水性高分子との相溶性を高めるが、付加の過程で樹脂としての分子量が小さくなってしまい成形物の強度が低下する。最適なバランスとしてジカルボン酸の付加量は、20〜100mgKOH/gであり、さらに好ましくは45〜65mgKOH/gである。付加量が少ない場合、樹脂中で尿素由来アミノ基との相互作用をする点が少なくなる。また付加量が多い場合、樹脂中のカルボキシル基同士の水素結合などによる自己凝集や、過大な付加反応による母材となるオレフィン樹脂の分子量の減少により強化樹脂としての強度が未達となる。ポリオレフィン樹脂の分子量としては35,000〜250,000が好ましく、50,000〜100,000がさらに好ましい。分子量がこの範囲から小さい場合は樹脂として強度が低下し、この範囲から大きい場合は溶融時の粘度上昇が大きく、混練時の作業性が低下するとともに成形不良の原因となる。
上記の特徴を有する酸変性ポリプロピレンの添加量は、セルロース量に対し10〜70重量%が好ましく、20〜50重量%がさらに好ましい。添加量が70重量%を超えると尿素由来のイソシアン酸のセルロース繊維への導入阻害や、酸変性ポリプロピレンと尿素の複合体形成が促進されると考えられ、本発明の効果が発揮されない。
また酸変性ポリプロピレンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。
本発明のマスターバッチは、窒素雰囲気下、毎分10℃で昇温したときに、マスターバッチの絶乾重量に対して、105℃から300℃への昇温時の重量減少が10〜40%、好ましくは12〜32%であり、390℃から880℃への昇温時の重量減少が5〜45%、好ましくは10〜35%である。ここで、105℃から300℃への昇温時の重量減少は、尿素とその誘導体の分解に由来するものであり、390℃から880℃への昇温時の重量減少は、酸変性ポリプロピレンの分解に由来するものである。
上記の熱重量減少率は、例えば、TG/DTA装置(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いて測定することができる。
本発明のマスターバッチは、赤外線吸収スペクトルにおける、1315cm−1と1316cm−1を両端とする閉区間における最大ピーク強度をa、750cm−1と800cm−1を両端とする開区間における最大ピーク強度をbとしたときの最大ピーク強度比b/aがセルロース繊維と尿素由来の化合物との複合化度合いの観点から、0.05より大きいものであり、0.1より大きいことがより好ましい。なお、1315cm−1と1316cm−1を両端とする閉区間における最大ピーク強度aは、セルロース骨格に由来するピークである。750cm−1と800cm−1を両端とする開区間における最大ピーク強度bは、トリアジン環の変角振動由来のピークであり、また、尿素添加に由来するピークである。
本発明のマスターバッチは、このマスターバッチに含まれるアセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量1部に対してポリプロピレンを8部加えて180℃で混練後に成形し、得られたダンベル型試験片に対して引張試験を行ったときの、ポリプロピレン単体の引張弾性率値を1としたときの相対引張弾性率値の常用対数をX、アセチル化セルロース繊維とポリプロピレンのみからなる樹脂成型体の引張ひずみ値を1としたときの相対引張ひずみ値をY、としたときに下記式を満たす。
Y>−14.9X+4.7
上記式を満たす場合、一般的にトレードオフである高い弾性率と伸びの向上が両立できていることを意味する。
本発明のマスターバッチを製造する方法は、特に限定されないが、例えば、アセチル化セルロース繊維、酸変性ポリプロピレン、及び尿素を同時に混練機に投入し混錬することにより得ることができる。
(混練前処理−粉砕)
上記混練の前にアセチル化セルロース繊維を粉砕する工程を設けてもよい。粉砕されたアセチル化セルロース繊維を用いることで、混練機に投入する際に、アセチル化セルロース繊維の繊維塊が適度に解れた状態となり、投入口(シュート部)におけるブリッジ(詰まり)やパルプのスクリューへの食い込み不良の発生を抑制することができる。
粉砕されたセルロース繊維は、スクリーンに通して用いることが好ましく、径が1mm以上、5mm以下、好ましくは径が3mm以上、5mm以下のスクリーンを用いることが好ましい。このようにして得たアセチル化セルロース繊維の加重平均繊維長(長さ平均繊維長)が0.20〜1.5mm程度になるのが好ましく、さらに好ましくは0.30〜1.0mmである。
粉砕するアセチル化セルロース繊維は、混練時の乾燥負荷軽減の観点から、乾燥させたものを用いることが好ましい。
(混練)
上記混練においては、加重平均繊維長が好ましくは0.20〜1.50mm、より好ましくは0.30〜1.00mmのアセチル化セルロース繊維、酸変性ポリプロピレン、及び尿素を同時に混練機に投入し、溶融混練を行う。アセチル化セルロース繊維の加重平均繊維長(長さ平均繊維長)は、ファイバーテスター(L&W社製)などを用いて測定することができる。混練機に投入する際には、市販されている各種フィーダーやサイドフィーダーを用いることができる。酸変性ポリプロピレンと尿素はあらかじめ粉末化しておいた場合は、投入前にアセチル化セルロース繊維、酸変性ポリプロピレン、及び尿素を市販の混合機などにより混合して投入することができる。酸変性ポリプロピレン等が粉末化していない場合でも、例えばペレット用のフィーダーとアセチル化セルロース繊維用のフィーダーのように、複数台のフィーダーを準備することで投入することができる。上記混練において、混練機に投入するアセチル化セルロース繊維のセルロース繊維分の配合量は、セルロース繊維分、酸変性ポリプロピレン、及び尿素の合計量に対して、35〜85重量%であることが好ましく、40〜65重量%であることがより好ましい。
(混練機)
上記の混練で用いる混練機としては、酸変性ポリプロピレン、及び尿素を溶融混練可能であることに加え、アセチル化セルロース繊維のナノ化を促す混練力の強いものが好ましく、二軸混練機、四軸混練機等の多軸混練機を使用し、スクリューを構成するパーツにニーディングやローターなどを複数含む構成であることが望ましい。上記と同等の混練力を確保できれば、例えば、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機を使用してもよい。またセルロース繊維に付随する水分や揮発する尿素を除去するため、混練機バレル内の一部あるいは全てを減圧下で混練することが好ましい。
溶融混練の設定温度は使用する酸変性ポリプロピレンの溶融温度に合わせて調整することができる。酸変性ポリプロピレンとして本発明に適した無水マレイン酸変性ポリプロピレンを使用する場合、尿素の分解を促すため135℃以上であることが好ましく、酸無水物形成能を有するジカルボン酸残基を有する酸変性ポリプロピレンが溶融しかつ一部末端が脱水による閉環している160℃以上であることがさらに好ましい。上記の温度設定により尿素からイソシアン酸が生成し、セルロース繊維上の未変性水酸基とウレタン結合を形成する。それによってセルロース繊維上にアミノ基の導入が達成され、酸変性ポリプロピレンとの相互作用を促すことが可能となる。また上記温度により、その酸変性ポリプロピレン中ジカルボン酸残基が閉環し酸無水物となることで、アセチル化セルロース繊維とのエステル化反応が起こり、より強固な樹脂複合物を形成することが可能となる。一方、混練温度が200℃を超えると母材となるポリプロピレン樹脂の劣化が始まり、強度が低下する。
上記混練時に混練機に投入されたアセチル化セルロース繊維、酸変性ポリプロピレン及び尿素は、溶融混練され、この溶融混練時に発生するせん断力により少なくとも一部のアセチル化セルロース繊維が解繊され、アセチル化セルロースナノファイバーを含有するマスターバッチが調製される。
セルロースナノファイバーは、繊維径が1〜1000nm程度、アスペクト比が100以上の微細繊維であることが好ましい。本発明のマスターバッチは上記セルロースナノファイバーが過半を占めていればよく、マスターバッチ中に未解繊の繊維を含んでいてもよい。
(洗浄)
本発明のマスターバッチは、上記混練後に水を用いて洗浄してもよい。水で洗浄することにより、マスターバッチ中の残留尿素や上記混練で微量生成しうる尿素由来の副生成物(ビウレット、シアヌル酸、メラミンなど)をおよそ除去することができ、残留尿素やその副生成物に起因する繊維等の凝集が解消すると考えられる。そのため、洗浄後のマスターバッチを使用して得られた樹脂成型体は、引張強度および伸びに優れる。
上記の混練で得られたマスターバッチを、水を用いて洗浄する方法としては攪拌または分散できるものであれば何れでもよく、例えば、スリーワンモータによる撹拌や、アジテータ、ホモミキサー、ホモジナイザー、ミキサー等をはじめとする、既知の攪拌機または分散機が挙げられる。
洗浄に用いる水の温度は、残留尿素およびその副生成物の溶解性向上の観点から、室温〜100℃、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは60〜80℃である。洗浄時間は計10分間〜24時間が好ましく、効率の面も考慮すると0.5時間〜5時間がより好ましく、1時間〜3時間がさらに好ましい。また化学平衡の観点から、水は洗浄時間内に0〜10回、好ましくは1〜5回交換する。洗浄時の混練工程で得られた混練物の熱水中重量%は、同じく化学平衡の観点から0.1〜50重量%が好ましく、0.1〜15重量%がより好ましい。さらに、残存尿素量が1%未満、とくに0.1%未満となるまで洗浄することが好ましい。残存尿素量は、尿素の熱分解開始温度が135℃であることから、例えば140℃で270分間加熱した時の重量減少から判断することができる。
本発明のマスターバッチを製造する際に、希釈混練における相溶化剤中変性基の閉環および開環防止、残存する水によるアセチル化セルロース繊維や希釈用樹脂として用いる熱可塑性樹脂の分解防止、および混練時の乾燥負荷軽減の観点から、上記で洗浄した混練物を乾燥して用いることが好ましい。乾燥処理は、例えば、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機を用いて行うことができるが、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、攪拌羽根のついた回分乾燥機など、攪拌しながら乾燥することができる乾燥機が好ましい。乾燥は、混練物の含水率が0.1〜5%程度になるまで行うことが好ましい。
(樹脂組成物)
本発明のマスターバッチに対して、熱可塑性樹脂を加えて、例えば溶融混練(希釈混練)することにより樹脂組成物を得ることができる。
(熱可塑性樹脂)
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、溶融温度が250℃以下の、以下の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。
すなわち、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリ乳酸、乳酸とエステルとの共重合樹脂、ポリグリコール酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリアセタール、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロースなど)等を使用することができる。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン(以下「PP」とも記す)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどを使用することが可能であり、相溶化樹脂との相互作用の観点から、MAPPを使用する場合はポリプロピレンを用いることが好ましい。
本発明の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、低密度を維持しながら補強効果を得られるという観点から、マスターバッチに含まれるアセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量100重量%に対して、107〜983重量%が好ましく、229〜937重量%が好ましく、さらには341〜920重量%がより好ましい。
(希釈混練)
本発明のマスターバッチに熱可塑性樹脂を加えて希釈混練する方法は特に限定されず、例えば、両成分を室温下で加熱せずに混合してから溶融混練しても、加熱しながら混合して溶融混練しても良い。
熱可塑性樹脂を加えて溶融混練する場合における混練機としては、上記の混練で用いる混練機と同様のものを使用することができる。また、溶融混練温度は、上記の混練で使用する酸変性ポリプロピレン(相溶化樹脂)に合わせて調整することができる。溶融混練時の加熱設定温度は、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度±20℃程度が好ましい。熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合は、溶融混練温度を140〜230℃とすることが好ましく、160〜200℃とすることがより好ましい。混合温度をこの温度範囲に設定することにより、アセチル化セルロース繊維と樹脂を均一に混合することができる。
本発明の樹脂組成物は、更に、例えば、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
本発明によれば、高い引張弾性率と伸びの向上が両立した樹脂成型体を得ることができるマスターバッチ及び樹脂組成物を提供することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(アセチル基置換度(DS)の測定方法)
(逆滴定方法によるDSの測定)
アセチル化セルロース繊維の試料を乾燥し、0.5g(A)を正確に秤量した。そこにエタノール75mL、0.5NのNaOH 50mL(0.025mol)(B)を加え、3〜4時間撹拌した。これを濾過、水洗、乾燥し、濾紙上の試料のFT−IR測定を行い、エステル結合のカルボニルに基づく吸収ピークが消失していること、つまりエステル結合が加水分解されていることを確認した。
濾液を下記の逆滴定に用いた。
濾液には加水分解の結果生じた酢酸ナトリウム塩及び過剰に加えられたNaOHが存在する。このNaOHの中和滴定を1NのHClを用いて行った(指示薬にはフェノールフタレインを使用)。
・0.025mol(B)−(中和に使用したHClのモル数)
=セルロースなどの水酸基にエステル結合していたアセチル基のモル数(C)
・(セルロース繰り返しユニット分子量162
×セルロース繰り返しユニットのモル数(未知(D))
+(アセチル基の分子量43×(C))
=秤量した試料0.5g(A)
上記式より、セルロースの繰り返しユニットのモル数(D)を算出した。
DSは、下記式により算出した。
・DS=(C)/(D)
(熱重量減少率の測定)
実施例および比較例で得られたマスターバッチ10mgについて、熱重量減少率を測定した。温度条件は、105℃で10分間保持した後、900℃まで毎分10℃の割合で昇温した。測定は窒素雰囲気下で行った。105℃から300℃への昇温時の重量減少並びに390℃から880℃への昇温時の重量減少を表1に示す。105℃から300℃への昇温時の重量減少は尿素または尿素由来の化合物、390℃から880℃への昇温時の重量減少は相溶化樹脂として用いた酸変性ポリプロピレンの量にそれぞれ由来する。
(赤外線吸収スペクトルの測定)
実施例および比較例で得られたマスターバッチについて、絶乾状態で赤外線吸収スペクトル(IRスペクトル)を測定した。IRスペクトルにおける1315cm−1と1316cm−1を両端とする閉区間における最大ピーク強度をa、750cm−1と800cm−1を両端とする開区間における最大ピーク強度をbとしたときの最大ピーク強度比b/aを表1に示す。最大ピーク強度aは、セルロース骨格に由来するピークである。最大ピーク強度bは、トリアジン環の変角振動由来のピークであり、また、尿素添加に由来するピークである。b/a>0.05を満たす場合に、本マスターバッチが尿素と共に混練されて得られたものであり、セルロース繊維と尿素由来の化合物が複合化された樹脂複合体であることを示す。
(引張弾性率、及び引張ひずみの測定)
実施例および比較例で得られた樹脂組成物をペレタイザーに投入し、ペレット状の樹脂成形体を得た。ペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度200℃、金型温度は40℃の条件で、ダンベル型試験片(タイプA12、JIS K 7139)を成形した。得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG−Xplus」)を用いて、試験速度1mm/分、初期標線間距離は30mmで、引張弾性率及び引張ひずみ(破断までのひずみ、伸び)を測定した。測定値のうち希釈用樹脂であるPPの引張弾性率を1としたときの各サンプルの測定値の比率を相対引張弾性率とし、その結果を表1に示す。またアセチル化セルロース繊維とPPのみからなる樹脂成型体の引張ひずみ値を1としたときの各サンプルの測定値の比率を相対引張ひずみとし、その結果を表1に示す。相対引張弾性率の常用対数をX、相対引張ひずみの値をYとしたときに、下記式を満たす場合は、高い引張弾性率と伸びの向上が両立していることを示す。
Y>−14.9X+4.7
なお、アセチル化セルロース繊維とPPのみからなる樹脂成型体は、下記の方法で得た。含水針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)20kg(固形分10kg)を、撹拌機(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、80℃で減圧脱水した。次いで、無水酢酸4.0kgを加え、80℃で2時間反応させた。反応後、水で洗浄しアセチル化セルロース繊維(アセチル化修飾NUKP)を得た。このアセチルセルロース繊維をさらに粉砕機((株)ホーライ製「UGO3−280XKFT」回転刃形式:オープンストレートカッタ)にて粉砕し、径が1mmのスクリーンを通しアセチル化セルロース繊維を準備した。含水率は、2.7重量%であった。アセチル化セルロース繊維のアセチル基置換度(DS)は0.7であった。アセチル化セルロース繊維の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.95mmであった。得られたアセチル化セルロース繊維(絶対乾燥物として465.8g、このうちリグニンを含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース量:360g)とポリプロピレン樹脂(108g)を、ポリエチレン製の袋に入れ、振り交ぜて混合した。得られた混合物573.8gを前述の二軸混練機に付属するフィーダー((株)テクノベル製)を用いて混練機に投入し、180℃で混練し、マスターバッチを製造した。得られたマスターバッチに熱可塑性樹脂としてのPPを、アセチル化セルロース繊維に由来するセルロース繊維分の量100重量部に対して841部加えて、前記二軸混練機にて180℃で混練して樹脂組成物を得た。
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した混練機と運転条件)
(株)テクノベル製「MFU15TW−45HG−NH」二軸混練機
スクリュー径:15mm、L/D:45、処理速度:300g/時
スクリュー回転数は、200rpmで運転した。
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した材料)
(a)アセチル化セルロース繊維
(b)酸変性ポリプロピレン(相溶化樹脂)
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP):(東洋紡(株)製 トーヨータ
ックPMA−H1000P:ジカルボン酸の付加量 57mgKOH/g)
(c)尿素:(和光純薬工業製)
(d)熱可塑性樹脂
・ ポリプロピレン(PP):(日本ポリプロ(株)製PP MA04A)
(実施例1)
(アセチル化セルロース繊維1の調製)
CSFが180mLになるまで叩解処理を行った含水針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)20kg(固形分10kg)を、撹拌機(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、80℃で減圧脱水した。次いで、無水酢酸4.0kgを加え、80℃で2時間反応させた。反応後、水で洗浄しアセチル化セルロース繊維1(アセチル化修飾NUKP)を得た。次いでアセチル化セルロース繊維1を乾燥機に投入し、60〜70℃で減圧乾燥した。得られたアセチル化セルロース繊維1の含水率を、赤外水分計で測定した。含水率は、2.5重量%であった。アセチル化セルロース繊維1のアセチル基置換度(DS)は1.0であった。アセチル化セルロース繊維1の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.85mmであった。
(マスターバッチの製造)
上記の叩解処理を行ったアセチル化セルロース繊維1(絶対乾燥物として483.7g、このうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース量:360g)、粉末状の相溶化樹脂(MAPP:108g)、及び粉末状の尿素(180g:セルロース量に対し50%の配合量)を、ポリエチレン製の袋に入れ、振り交ぜて混合した。得られた混合物771.7gを前述の二軸混練機に付属するフィーダー((株)テクノベル製)を用いて混練機に投入し、180℃で混練し、マスターバッチを製造した。
(洗浄)
上記で得られたマスターバッチ600gを、80℃の熱水7.5Lで2時間洗浄した。洗浄中に熱水交換は1回行った。撹拌はプライミクス オートミクサー40型を用いて行った。温度はウォーターバスによって維持した。洗浄後のマスターバッチは乾燥機に投入し、105℃で一晩(もしくは恒量となるまで)乾燥した。
(樹脂組成物の製造)
洗浄および乾燥後に得られたマスターバッチに熱可塑性樹脂としてのPPを、アセチル化セルロース繊維に由来するセルロース繊維分の量1部に対して8部加えて、前記二軸混練機にて180℃で混練して樹脂組成物を得た。
(実施例2)
(アセチル化セルロース繊維2の調製)
CSFが150mLになるまで叩解処理を行った含水針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)20kg(固形分10kg)を、撹拌機(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、80℃で減圧脱水した。次いで、無水酢酸4.0kgを加え、80℃で2時間反応させた。反応後、水で洗浄しアセチル化セルロース繊維2(アセチル化修飾NUKP)を得た。次いでアセチル化セルロース繊維2を乾燥機に投入し、60〜70℃で減圧乾燥した。得られたアセチル化セルロース繊維2の含水率を、赤外水分計で測定した。含水率は、2.3重量%であった。アセチル化セルロース繊維2のアセチル基置換度(DS)は0.7であった。アセチル化セルロース繊維2の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.664mmであった。
(マスターバッチの製造)
アセチル化セルロース繊維1に代えて上記のアセチル化セルロース繊維2を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチの製造を行った。
(樹脂組成物の製造)
上記で得られたマスターバッチを、洗浄およびその後の乾燥をせずに用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
(実施例3)
実施例2と同様にしてマスターバッチの製造を行った。得られたマスターバッチは、80℃の熱水を用いた2時間の洗浄に代えて、室温の水を用いた80分間の洗浄を行ったこと以外は実施例1と同様にして洗浄およびその後の乾燥を行った。このようにして得られたマスターバッチを用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
(実施例4)
実施例2と同様にしてマスターバッチの製造を行った。得られたマスターバッチは、80℃の熱水で2時間洗浄を行い、熱水を交換後に、これをさらに2回繰り返したこと以外は実施例1と同様に洗浄し、その後、乾燥した。このようにして得られたマスターバッチを用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。
(比較例1)
(アセチル化セルロース繊維3の調製)
CSFが110mLになるまで叩解処理を行った含水針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)20kg(固形分10kg)を、撹拌機(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、80℃で減圧脱水した。次いで、無水酢酸4.0kgを加え、80℃で2時間反応させた。反応後、水で洗浄しアセチル化セルロース繊維3(アセチル化修飾NUKP)を得た。次いでアセチル化セルロース繊維3を乾燥機に投入し、60〜70℃で減圧乾燥した。得られたアセチル化セルロース繊維3の含水率を、赤外水分計で測定した。含水率は、2.0重量%であった。アセチル化セルロース繊維3のアセチル基置換度(DS)は0.6であった。アセチル化セルロース繊維3の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.54mmであった。
アセチル化セルロース繊維1に代えて上記のアセチル化セルロース繊維3を用いたこと、および、尿素を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチの製造を行った。また洗浄およびその後の乾燥を行わず、得られたマスターバッチをそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様に樹脂組成物の製造を行った。
(比較例2)
叩解処理無しのNUKPを用いたこと以外は、実施例2と同様にアセチル化反応、洗浄、および減圧乾燥を行い、アセチル化セルロース繊維を得た。このアセチルセルロース繊維をさらに粉砕機((株)ホーライ製「UGO3−280XKFT」回転刃形式:オープンストレートカッタ)にて粉砕し、径が1mmのスクリーンを通しアセチル化セルロース繊維4を準備した。含水率は、2.7重量%であった。アセチル化セルロース繊維4のアセチル基置換度(DS)は0.7であった。アセチル化セルロース繊維4の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.95mmであった。アセチル化セルロース繊維3に代えてアセチル化セルロース繊維4を用いたこと以外は、比較例1と同様にマスターバッチの製造、および樹脂組成物の製造を行った。
Figure 0006936353
表1に示すように、本発明の尿素またはその誘導体由来の化合物、および酸変性ポリプロピレンにより修飾されたアセチル化セルロース繊維と、前記酸変性ポリプロピレンとを含み、特定温度への昇温時の重量減少および特定領域の吸光度比が特定の範囲を満たすマスターバッチを用いると、高い引張強度と伸びの向上が両立した優れた成型体を得ることができた。

Claims (3)

  1. 尿素またはその誘導体由来の化合物、および酸変性ポリプロピレンにより修飾されたアセチル化セルロース繊維と、前記酸変性ポリプロピレンとを含み、下記条件(A)及び(B)を満たすマスターバッチ。
    (A)窒素雰囲気下、毎分10℃で昇温したときに、前記マスターバッチの絶乾重量に対して、
    105℃から300℃への昇温時の重量減少が10〜40%であり、
    390℃から880℃への昇温時の重量減少が5〜45%である。
    (B)前記マスターバッチの赤外線吸収スペクトルにおける、1315cm−1と1316cm−1を両端とする閉区間における最大ピーク強度をa、750cm−1と800cm−1を両端とする開区間における最大ピーク強度をb、としたときに下記式を満たす。
    b/a>0.05
  2. さらに、下記条件(C)を満たす請求項1に記載のマスターバッチ。
    (C)前記マスターバッチに含まれるアセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量1部に対してポリプロピレンを8部加えて180℃で混練後に成形し、得られたダンベル型試験片に対して引張試験を行ったときの、ポリプロピレン単体の引張弾性率値を1としたときの相対引張弾性率値の常用対数をX、アセチル化セルロース繊維とポリプロピレンのみからなる樹脂成形体の引張ひずみの値を1としたときの相対引張ひずみの値をY、としたときに下記式を満たす。
    Y>−14.9X+4.7
  3. 請求項1または2に記載のマスターバッチと、熱可塑性樹脂とを含み、
    前記熱可塑性樹脂の含有量は、前記マスターバッチに含まれるアセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量100重量%に対して107〜983重量%である樹脂組成物。
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