添付の図面を参照し、本発明を説明する。重複する説明は、適宜簡略化或いは省略する。各図において、同一の符号は同一の部分又は相当する部分を示す。
実施の形態1.
図1は、エレベーター装置を模式的に示す図である。かご1は、昇降路2を上下に移動する。昇降路2は、例えば建物の内部に形成された上下に延びる空間である。つり合いおもり3は、昇降路2を上下に移動する。かご1及びつり合いおもり3は、主ロープ4によって昇降路2に吊り下げられる。かご1及びつり合いおもり3を吊り下げるためのローピングの方式は、図1に示す例に限定されない。かご1及びつり合いおもり3は、1:1ローピングで昇降路2に吊り下げられても良い。
図1に示す例では、主ロープ4の一方の端部4aは、昇降路2の頂部に設けられた固定体に支持される。主ロープ4は、端部4aから下方に延びる。主ロープ4は、端部4a側から吊り車5、吊り車6、返し車7、駆動綱車8、返し車9及び吊り車10に巻き掛けられる。主ロープ4は、吊り車10に巻き掛けられた部分から上方に延びる。主ロープ4のもう一方の端部4bは、昇降路2の頂部に設けられた固定体に支持される。
吊り車5及び吊り車6は、かご1に備えられる。吊り車5及び吊り車6は、例えば、かご床を支持する部材に回転可能に設けられる。返し車7及び返し車9は、例えば昇降路2の頂部の固定体に回転可能に設けられる。駆動綱車8は、巻上機11に備えられる。巻上機11は、昇降路2のピットに設けられる。吊り車10は、つり合いおもり3に備えられる。吊り車10は、例えば調整おもりを支持する枠に回転可能に設けられる。
主ロープ4が巻き掛けられる滑車の配置は、図1に示す例に限定されない。例えば、駆動綱車8は、昇降路2の頂部に配置されても良い。駆動綱車8は、昇降路2の上方の機械室(図示せず)に配置されても良い。
秤装置12は、かご1の積載荷重を検出する。図1に示す例では、秤装置12は、主ロープ4の端部4aに掛かる荷重に基づいて、かご1の積載荷重を検出する。秤装置12は、検出した荷重に応じた秤信号を出力する。秤装置12から出力された秤信号は、制御装置13に入力される。
巻上機11は、トルクを検出する機能を有する。巻上機11は、検出したトルクに応じたトルク信号を出力する。巻上機11から出力されたトルク信号は、制御装置13に入力される。
制御装置13は、巻上機11を制御する。制御装置13は、駆動綱車8の回転速度に対する指令値を演算する。また、巻上機11では、駆動綱車8の回転速度が計測される。駆動綱車8の回転速度の実測値は、巻上機11から制御装置13に入力される。制御装置13では、駆動綱車8の回転速度に対する指令値と実測値との差分に対応する速度偏差信号が生成される。
調速機15は、かご1の下降速度が基準速度を超えると、非常止め(図示せず)を動作させる。非常止めは、かご1に備えられる。非常止めが動作すると、かご1が強制的に停止される。調速機15は、例えば調速ロープ16、調速綱車17及びエンコーダ18を備える。調速ロープ16は、かご1に連結される。調速ロープ16は、調速綱車17に巻き掛けられる。かご1が移動すると、調速ロープ16が移動する。調速ロープ16が移動すると、調速綱車17が回転する。エンコーダ18は、調速綱車17の回転方向及び回転角度に応じた回転信号を出力する。エンコーダ18から出力された回転信号は、制御装置13に入力される。エンコーダ18は、かご1の位置に応じた信号を出力するセンサの一例である。
図2は、返し車7を示す斜視図である。図3は、返し車7の断面を示す図である。返し車7を支持する部材に外れ止め19が設けられる。図2及び図3に示す例では、返し車7の軸7aに外れ止め19が設けられる。外れ止め19は、返し車7の溝から主ロープ4が外れることを防止する。外れ止め19は、主ロープ4に一定の隙間を空けて対向する。
外れ止め19は、例えば対向部19a及び対向部19bを有する。対向部19aは、主ロープ4のうち返し車7の溝から離れる部分に対向する。対向部19bは、主ロープ4のうち返し車7の溝から離れる他の部分に対向する。返し車7は、主ロープ4が移動する方向を180度変えるために用いられる。このため、対向部19a及び対向部19bは、返し車7の両側に配置される。主ロープ4に異常が発生していなければ、主ロープ4は外れ止め19に接触しない。
図2及び図3は、主ロープ4の表面から破断部4cが突出する例を示す。主ロープ4は、複数のストランドが縒り合されて形成される。ストランドは、複数の素線が縒り合されて形成される。破断部4cは、素線が破断した部分である。破断部4cは、ストランドが破断した部分であっても良い。かご1が移動すると、破断部4cは返し車7を通過する。破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触する。
図2及び図3は、主ロープ4が巻き掛けられた滑車の一例として返し車7を示す。吊り車5等の他の滑車に対して外れ止めが設けられても良い。図1に示されていない他の滑車に対して外れ止めが設けられても良い。
図4から図6は、主ロープ4の破断部4cが移動する様子を説明するための図である。図4は、かご1が最下階の乗場に停止している状態を示す。かご1が最下階の乗場に停止している状態では、主ロープ4のうち端部4aから吊り車5に巻き掛けられた部分の間に破断部4cが存在する。
図6は、かご1が最上階の乗場に停止している状態を示す。かご1が最上階の乗場に停止している状態では、主ロープ4のうち返し車7に巻き掛けられた部分から駆動綱車8に巻き掛けられた部分の間に破断部4cが存在する。即ち、かご1が最下階の乗場から最上階の乗場に移動すると、破断部4cは、吊り車5、吊り車6及び返し車7を通過する。かご1が最下階の乗場から最上階の乗場に移動しても、破断部4cは、駆動綱車8、返し車9及び吊り車10を通過しない。破断部4cは、全ての滑車を通過するとは限らない。破断部4cが通過する滑車の組み合わせは、破断部4cが発生した位置等によって決まる。
図5は、かご1が最下階の乗場から最上階の乗場に移動する途中の状態を示す。図5に示す状態では、主ロープ4のうち吊り車5に巻き掛けられた部分に破断部4cが存在する。破断部4cは、吊り車5を通過する際に、吊り車5用の外れ止めに接触する。
図7は、センサからの出力信号の例を示す図である。以下の説明では、センサから出力される信号のことをセンサ信号とも表記する。図7(a)は、かご1の位置を示す。本実施の形態で示す例では、かご1は上下にしか移動しない。このため、かご1の位置は、かご1が存在する高さと同義である。図7(a)は、かご1が最下階から位置Pに移動した後に最下階に戻った時のかご位置の変化を示す。図7(a)において、最下階のかご位置は0である。図7(a)に示す波形は、エンコーダ18からの回転信号に基づいて取得される。
図7(b)は、センサ信号の一例を示す。図7(b)は、巻上機11のトルクを示す。図7(b)は、かご1が最下階及び位置Pの間を移動した時に巻上機11から出力されたトルク信号の波形を示す。図7(b)において、最大トルクはTq1である。最小トルクは−Tq2である。
図7(c)は、センサ信号の一例を示す。図7(c)は、駆動綱車8の回転速度の速度偏差を示す。図7(c)は、かご1が最下階及び位置Pの間を移動した時に制御装置13で生成された速度偏差信号の波形を示す。
図7(d)は、センサ信号の一例を示す。図7(d)は、かご1の積載荷重を示す。図7(d)は、秤装置12から出力された秤信号の波形を示す。図7(d)は、かご1の積載荷重がw[kg]である例を示す。
図7(b)から図7(d)は、理想的なセンサ信号の波形を示す。しかし、実際のセンサ信号には、様々な要因によって変動が生じる。以下に、センサ信号に生じる変動について説明する。
図8は、センサからの出力信号の例を示す図である。図8(a)は、図7(a)に対応する図である。図8(b)は、図7(b)に対応する図である。図8(c)は、図7(c)に対応する図である。図8(d)は、図7(d)に対応する図である。図8は、主ロープ4に破断部4cが存在する場合に得られる波形の例を示す。
破断部4cは、かご1が位置P1を通過する時にある滑車を通過する。例えば、破断部4cは、かご1が位置P1を通過する時に返し車7を通過する。破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触する。これにより、かご1が位置P1を通過する時に主ロープ4に振動が発生する。主ロープ4の端部4aが変位すると、秤装置12から出力される秤信号が影響を受ける。即ち、主ロープ4に発生した振動が端部4aに到達すると、秤装置12からの秤信号に変動が生じる。
同様に、主ロープ4のうち駆動綱車8に巻き掛けられた部分が変位すると、駆動綱車8の回転が影響を受ける。このため、主ロープ4に発生した振動が当該部分に到達すると、制御装置13で生成される速度偏差信号に変動が生じる。また、主ロープ4のうち駆動綱車8に巻き掛けられた部分が変位すると、巻上機11から出力されるトルク信号が影響を受ける。このため、主ロープ4に発生した振動が当該部分に到達すると、巻上機11からのトルク信号に変動が生じる。
このように、主ロープ4に破断部4cが存在すると、センサ信号に変動が発生する場合がある。破断部4cに起因するセンサ信号の変動は、同じかご位置で繰り返し発生する。また、破断部4cは、素線が切れることによって突然発生する。このため、破断部4cに起因するセンサ信号の変動は、突発的に発生する。
図9は、エレベーター装置を模式的に示す図である。図9では、制御装置13及び調速機15の記載を省略している。かご1の移動は、昇降路2に設けられたガイドレールに案内される。ガイドレールは、同じ長さの多数のレール部材20を備える。ガイドレールは、多数のレール部材20が上下に繋げられることにより、かご1の移動範囲に亘って配置される。なお、ガイドレールに備えられた全てのレール部材20が同じ長さである必要はない。ガイドレールには、レール部材20の継目が存在する。
ガイドレールに供給された油が枯渇してくると、かご1がレール部材20の継目を通過する際にかご1が僅かに揺れる。上述したように、主ロープ4は、吊り車5及び吊り車6に巻き掛けられる。このため、かご1が揺れると主ロープ4に振動が発生する。ガイドレールに供給された油が枯渇すると、かご1がレール部材20の継目を通過する際にセンサ信号に変動が生じる。レール部材20の継目に段差がある場合は、センサ信号により大きな変動が生じる。
図10は、センサからの出力信号の例を示す図である。図10(a)は、図7(a)に対応する図である。図10(b)は、図7(b)に対応する図である。図10(c)は、図7(c)に対応する図である。図10(d)は、図7(d)に対応する図である。図10は、ガイドレールに供給された油が枯渇してきた時に得られる波形の例を示す。
かご1は、位置P2でレール部材20のある継目を通過する。かご1がこの継目を通過する際に、かご1が僅かに揺れる。これにより、主ロープ4に振動が発生し、秤装置12からの秤信号に変動が生じる。同様に、かご1が位置P2を通過する時に、制御装置13で生成される速度偏差信号に変動が生じる。かご1が位置P2を通過する時に、巻上機11からのトルク信号に変動が生じる。
このように、ガイドレールに供給された油が少なくなってくると、かご1がレール部材20の継目を通過する際にセンサ信号に変動が発生する場合がある。レール部材20の継目に起因するセンサ信号の変動は、同じかご位置で繰り返し発生する。また、ガイドレールの表面の油の量は徐々に少なくなるため、レール部材20の継目に起因するセンサ信号の変動は、時間の経過とともに大きくなる。
図11は、返し車7の断面を拡大した図である。図11(a)は、図3のA−A断面に相当する図である。図11(a)は、返し車7に形成された溝が摩耗した例を示す。図11(a)では、溝が摩耗する前の主ロープ4の中心を符号Oで示す。溝が摩耗した時の主ロープ4の中心を符号O´で示す。図11(a)に示すように、返し車7に形成された溝が摩耗すると、主ロープ4が通過する位置がずれる。主ロープ4が通過する位置のずれは、返し車7の軸7aがずれることによっても発生する。図11(b)は、軸7aに直交する方向で返し車7を切断した時の断面を示す。図11(b)では、摩耗する前の返し車7の形状を符号rで示す。摩耗した後の返し車7の形状を符号r´で示す。溝が摩耗する前の返し車7の断面は円形状である。一方、主ロープ4が巻き掛けられる溝が不均一に摩耗すると、図11(b)に示すように、返し車7の断面は円形状ではなくなる。このため、溝が不均一に摩耗すると、返し車7が回転することによって主ロープ4が通過する位置がずれる。溝が不均一に摩耗した場合、主ロープ4の通過位置は、返し車7の回転角度に依存して変わる。
主ロープ4の通過位置にずれが発生すると、返し車7が回転する度に主ロープ4に振動が発生する。即ち、返し車7に形成された溝が摩耗すると、かご1が移動する際にセンサ信号に変動が生じる。返し車7の軸7aがずれると、かご1が移動する際にセンサ信号に変動が生じる。
図12は、センサからの出力信号の例を示す図である。図12(a)は、図7(a)に対応する図である。図12(b)は、図7(b)に対応する図である。図12(c)は、図7(c)に対応する図である。図12(d)は、図7(d)に対応する図である。図12は、返し車7に形成された溝が摩耗した時に得られる波形の例を示す。
返し車7に形成された溝が摩耗すると、かご1が移動することによって主ロープ4に振動が発生する。これにより、秤装置12からの秤信号に変動が生じる。同様に、かご1が移動すると、制御装置13で生成される速度偏差信号に変動が生じる。かご1が移動すると、巻上機11からのトルク信号に変動が生じる。
このように、滑車に異常が発生すると、かご1が移動することによってセンサ信号に変動が発生する場合がある。このような滑車異常に起因するセンサ信号の変動は、かご位置に因らず発生する。図12は、かご1がある区間を移動する時にセンサ信号に現れる変動のみを示している。なお、特定のかご位置にだけ着目すると、滑車異常に起因するセンサ信号の変動は繰り返し発生することになる。また、溝の摩耗は徐々に進行するため、滑車異常に起因するセンサ信号の変動は、時間の経過とともに大きくなる。
センサ信号に変動が生じる要因は、上記例に限らない。主ロープ4は滑車に巻き掛けられているため、主ロープ4と滑車との間には摩擦がある。また、かご1に備えられた案内部材とガイドレールとの間には摩擦がある。このため、かご1が単に移動するだけでも、このような摩擦に起因する変動がセンサ信号には発生する。なお、特定のかご位置にだけ着目すると、摩擦に起因するセンサ信号の変動は繰り返し発生することになる。また、摩擦に起因するセンサ信号の変動は、DC成分のようであり、時間の経過とともに大きくなる訳ではない。
図13は、実施の形態1における破断検知装置の例を示す図である。制御装置13は、例えば記憶部21、抽出部22、抽出部23、検出部24、かご位置検出部25、判定部26、動作制御部27、及び通報部28を備える。図13は、主ロープ4に存在する破断部4cを検知する機能を制御装置13が備える例を示す。破断部4cを検知するための専用の装置がエレベーター装置に備えられても良い。以下に、図14から図28も参照し、破断検知装置の機能及び動作について詳しく説明する。図14は、実施の形態1における破断検知装置の動作例を示すフローチャートである。
抽出部22は、センサ信号から、特定の周波数帯域の振動成分を抽出する(S101)。本実施の形態に示す例では、秤信号、速度偏差信号、及びトルク信号をセンサ信号として利用できる。他の例として、かご1に設けられた加速度計(図示せず)からの加速度信号をセンサ信号として利用しても良い。以下においては、センサ信号としてトルク信号を用いる例について詳しく述べる。抽出部22は、S101において、トルク信号から特定の周波数帯域の振動成分を抽出する。
例えば、図3に示す破断部4cが外れ止め19に接触すると、巻上機11からのトルク信号に異常な変動が現れる。この異常変動は、破断部4cの長さと主ロープ4の移動速度とに応じた固有の周波数帯域の振動成分を持つ。破断部4cの長さをd[m]、主ロープ4の移動速度をv[m/s]とすると、異常振動の周波数f[Hz]は次式で表される。
図15は、第1抽出部の機能の一例を説明するための図である。本実施の形態に示す例では、第1抽出部は抽出部22である。抽出部22は、例えば、バンドパスフィルタ32を備える。記載を簡略化するため、図面等ではバンドパスフィルタのことをBPFとも表記する。バンドパスフィルタ32に、巻上機11からのトルク信号が入力される。バンドパスフィルタ32は、入力されたトルク信号から、周波数fを含む特定の周波数帯域の振動成分を抽出する。破断部4cの長さdは予め設定される。例えば、長さdとして、0.5ピッチから数ピッチ分のストランドが解けた場合のその解けたストランドの長さが設定される。移動速度vは、かご1の移動速度に応じて決まる。例えば、かご1の定格速度から主ロープ4の移動速度vを算出することができる。
抽出部22は、図15に示すように増幅器33を更に備えても良い。増幅器33は、例えば信号uを2乗する。抽出部22において、増幅器33から出力された信号u2の平方根を求めても良い。抽出部22において信号uの絶対値を求め、信号の符号を正にしても良い。以下の説明では、抽出部22から出力される信号を出力信号Yと表記する。抽出部22がバンドパスフィルタ32を備える場合は、抽出部22から出力される信号のことをバンドパスフィルタ32の出力信号Yとも表記する。
図15は、入力されたトルク信号に対してフィルタ処理を行うために、抽出部22がバンドパスフィルタ32を備える例を示す。抽出部22は、特定の周波数帯域の振動成分を抽出するために、非線形フィルタを備えても良い。抽出部22に適応フィルタのアルゴリズムを適用し、特定の周波数帯域の振動成分を抽出しても良い。
抽出部23は、抽出部22によって抽出された振動成分から、判定信号を抽出する(S102)。判定信号は、センサ信号に突発的な変動が発生したことを判定するために必要な信号である。抽出部23は、抽出部22によって抽出された振動成分からトレンド成分を減衰させることにより、判定信号を得る。トレンド成分とは、例えば直近1000回程度のかご1の走行における振動の長期的な変化傾向を示す成分である。トレンド成分には、例えば定常振動成分及び漸増振動成分が含まれる。
図16から図18は、センサ信号に生じた変動の推移を示す図である。図16から図18において、縦軸は、センサ信号に生じた変動の振幅に対応する値を示す。横軸は、エレベーターの起動回数を示す。横軸は、エレベーターが据え付けられてからの経過時間でも良い。横軸は、かご1が位置P1を通過した回数でも良い。
図16は、かご1が位置P1を通過した時に得られた出力信号Yの値を示す。起動回数M1の時点で、主ロープ4に破断部4cは発生していない。図16は、起動回数がM2の時に主ロープ4に破断部4cが発生した例を示す。上述したように、破断部4cは、素線が切れることによって突然発生する。このため、破断部4cに起因するセンサ信号の変動は突発的に発生する。主ロープ4に破断部4cが発生すると、出力信号Yの値が直前の値と比較して突然大きくなる。
図19は、センサ信号に生じた変動の推移を説明するための図である。図19は、主ロープ4に破断部4cが発生した後にかご1が最下階と位置Pとの間を2往復した時の推移を示す。図19に示す例では、かご1は、時刻t1、時刻t2、時刻t5及び時刻t6で位置P1を通過する。図19(b)は、巻上機11のトルクを示す。図19(c)は、出力信号Yの値を示す。主ロープ4に破断部4cが発生すると、かご1が位置P1を通過する度に破断部4cが外れ止め19に接触する。このため、主ロープ4に破断部4cが発生すると、位置P1における出力信号Yの値はその後も継続して大きな値を示す。
図17は、かご1が位置P2を通過した時に得られた出力信号Yの値を示す。上述したように、ガイドレールに塗布された油の量は突然変わる訳ではない。ガイドレールに塗布された油は徐々に少なくなり、油が供給されなければ最終的に枯渇する。このため、レール部材20の継目に起因するセンサ信号の変動は、図17に示すように、時間を掛けて徐々に大きくなる。なお、滑車異常に起因するセンサ信号の変動は、レール部材20の継目に起因するセンサ信号の変動と同様に、図17に示すように時間を掛けて徐々に大きくなる。
図17は、漸増振動成分を有する出力信号Yの例を示す。漸増振動成分は、抽出部22によって抽出された振動成分のうち、時間を掛けてゆっくり成長する振動成分である。例えば、漸増振動成分は、ガイドレールに油が供給された後のセンサ信号の変動に基づき、かご1がレール部材20の継目を1000回通過した時に巻上機トルク信号が1[N/m]変動する程度の早さで変動する振動成分である。抽出部23は、図17に示すような振動成分を減衰させる。
図18は、かご1がある位置を通過した時に得られた出力信号Yの値を示す。摩擦に起因するセンサ信号の変動は、図18に示すように常に同じような値を示す。図18は、定常振動成分を有する出力信号Yの例を示す。定常振動成分は、抽出部22によって抽出された振動成分のうち、DC成分のような定常的に発生する振動成分である。定常振動成分に、漸増振動成分よりも更に変動の遅い振動成分を含めても良い。例えば、巻上機トルク信号が1[N/m]変動するために1000回以上の起動回数(継目通過)を要する振動成分を定常振動成分に含めても良い。抽出部23は、図18に示すような振動成分を減衰させる。
図20は、センサ信号に生じた変動の推移を3次元的に示す図である。図20は、図16に示す信号と図17に示す信号とを組み合わせて表示した図に相当する。
図21は、第2抽出部の機能の一例を説明するための図である。本実施の形態に示す例では、第2抽出部は抽出部23である。抽出部23は、例えばローパスフィルタ34及び減算器35を備える。記載を簡略化するため、図面等ではローパスフィルタのことをLPFとも表記する。ローパスフィルタ34に、バンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。減算器35に、バンドパスフィルタ32の出力信号Yとローパスフィルタ34の出力信号Zとが入力される。減算器35は、バンドパスフィルタ32の出力信号Yとローパスフィルタ34の出力信号Zとの差分信号Y−Zを判定信号として出力する。減算器35の出力信号Y−Zは、検出部24に入力される。
図22は、第1抽出部及び第2抽出部の実装例を説明するための図である。図22(a)は、巻上機11のトルクを示す。図22(a)に示すトルク信号がバンドパスフィルタ32に入力される。図22(b)は、増幅器33の出力信号u2を示す。増幅器33の出力信号u2は、連続的な信号である。抽出部22は、連続的な出力信号u2を離散化する。図22に示す例では、抽出部22は、その離散化した信号をバンドパスフィルタ32の出力信号Yとして出力する。
例えば、かご1が移動する区間が、上下に連続する複数の単位区間に仮想的に分割される。図22は、一定の高さ毎に単位区間が設定された例を示す。例えば、かご位置0m〜0.3mの区間が第1単位区間に設定される。かご位置0.3m〜0.6mの区間が第2単位区間に設定される。第2単位区間は、第1単位区間の直上の区間である。かご位置0.6m〜0.9mの区間が第3単位区間に設定される。第3単位区間は、第2単位区間の直上の区間である。第3単位区間より上方の区間についても、同様に設定される。記載を簡略化するため、図面等では第n単位区間のことを区間nとも表記する。
抽出部22は、単位区間毎に1つの信号を抽出することにより、連続的な出力信号u2を離散化する。例えば、抽出部22は、1つの単位区間において最大の値を有する信号u2をその単位区間の出力信号Yとして抽出する。
抽出部23には、単位区間のそれぞれに対応するローパスフィルタ34が備えられる。例えば、第1単位区間に対応するローパスフィルタ34をフィルタ34−1と表記する。第2単位区間に対応するローパスフィルタ34をフィルタ34−2と表記する。第3単位区間に対応するローパスフィルタ34をフィルタ34−3と表記する。同様に、第n単位区間に対応するローパスフィルタ34をフィルタ34−nと表記する。
フィルタ34−1に、かご1が第1単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ34−1からの出力信号Zは、第1単位区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ34−1からの出力信号Zは、減算器35に入力される。フィルタ34−2に、かご1が第2単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ34−2からの出力信号Zは、第2単位区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ34−2からの出力信号Zは、減算器35に入力される。
フィルタ34−3に、かご1が第3単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ34−3からの出力信号Zは、第3単位区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ34−3からの出力信号Zは、減算器35に入力される。同様に、フィルタ34−nに、かご1が第n単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ34−nからの出力信号Zは、第n単位区間におけるトレンド成分に相当する。フィルタ34−nからの出力信号Zは、減算器35に入力される。
減算器35は、かご1が第1単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yとフィルタ34−1からの出力信号Zとの差分信号を、第1単位区間における判定信号として出力する。減算器35は、かご1が第2単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yとフィルタ34−2からの出力信号Zとの差分信号を、第2単位区間における判定信号として出力する。減算器35は、かご1が第3単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yとフィルタ34−3からの出力信号Zとの差分信号を、第3単位区間における判定信号として出力する。同様に、減算器35は、かご1が第n単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yとフィルタ34−nからの出力信号Zとの差分信号を、第n単位区間における判定信号として出力する。
図21及び図22は、バンドパスフィルタ32の出力信号Yに対してローパスフィルタ処理を行うことにより、出力信号Yのトレンド成分を得る例を示す。このような機能を実現するためには、ローパスフィルタ34の時定数をある程度大きな値に設定する必要がある。
例えば、ガイドレールに油が補充されない場合に、レール部材20の継目に起因するセンサ信号の変動の値がある通常値から異常値に達するまでに要するかご1の走行回数をTF1とする。上記通常値は、例えば、エレベーターの据付直後に、ガイドレールに油が十分塗布されている状態でかご1を移動させることによって得られたセンサ信号の変動の値である。異常値は、異常な値として予め設定されたセンサ信号の変動の値である。また、ガイドレールに油が供給されることによってセンサ信号の変動の値が上記異常値から上記通常値に戻るまでに要するかご1の走行回数をTF2とする。
走行回数TF2は、走行回数TF1より少ない。ローパスフィルタ34の時定数は、走行回数TF2に基づいて設定されることが好ましい。一例として、かご1がレール部材20のある継目を1000±200回通過することによってローパスフィルタ34の出力が一定入力値に追従するように時定数が設定される。
他の例として、かご1の走行回数に応じてローパスフィルタ34の時定数を切り替えても良い。例えば、ガイドレールに油が供給されてからかご1の走行回数が基準回数に達するまでは、ローパスフィルタ34の時定数が、走行回数TF2に基づく第1設定値に設定される。給油後のかご1の走行回数が基準回数に達すると、ローパスフィルタ34の時定数が、第1設定値から第2設定値に切り替えられる。第2設定値は第1設定値より大きな値である。第2設定値は、例えば走行回数TF1に基づいて設定される。これにより、油の状態に応じたトレンド成分を得ることができる。
図23から図25は、減算器35に入力される信号の例を示す図である。図23から図25において、黒丸は、バンドパスフィルタ32の出力信号Yを示す。白四角は、ローパスフィルタ34の出力信号Zを示す。図23は、図16に示す出力信号Yが減算器35に入力された例を示す。上述したように、主ロープ4に破断部4cが発生すると、出力信号Yは急激に大きくなる。一方、ローパスフィルタ34の出力信号Zは、出力信号Yの急激な変化には追従しない。このため、出力信号Yと出力信号Zとの差は、主ロープ4に破断部4cが発生することによって突然大きくなる。破断部4cが発生した後は、出力信号Yと出力信号Zとの差は徐々に小さくなっていく。
図24は、図17に示す出力信号Yが減算器35に入力された例を示す。上述したように、ガイドレールの表面の油が減ってくると、出力信号Yの値は徐々に大きくなる。図17に示すようなゆっくりとした変化が出力信号Yに現れた場合、出力信号Zは出力信号Yの変化に追従する。このため、図24に示す例では、出力信号Yと出力信号Zとは同じような値になる。
図25は、図18に示す出力信号Yが減算器35に入力された例を示す。図18に示すようなゆっくりとした変化が出力信号Yに現れた場合、出力信号Zは出力信号Yの変化に追従する。このため、図25に示す例においても、出力信号Yと出力信号Zとは同じような値になる。
なお、誤検知を防止するため、ローパスフィルタ34の初期値として、0ではない値が設定されることが望ましい。ローパスフィルタ34の出力信号Zの初期値として0が出力された場合、例えば、かご1がレール部材20の継目を通過することによって出力信号Yの初期値として大きな値が出力されると、判定信号Y−Zの値が突然大きくなって誤検知が発生する。この時の判定信号Y−Zは、出力信号Yの初期値と出力信号Zの初期値との差分である。出力信号Zの初期値として0ではない値が設定されていれば、出力信号Yの初期値として大きな値が出力されても、判定信号Y−Zの値が突然大きくなることはない。このため、誤検知を防止できる。ローパスフィルタ34の初期値として、例えば、後述する第1閾値の値に1以上の係数を掛けた値が設定されることが望ましい。
図21及び図22は、抽出部23がローパスフィルタ34を備える例を示す。抽出部23は、ローパスフィルタ34を備えずに判定信号を抽出しても良い。例えば、抽出部23は、バンドパスフィルタ32の出力信号Yの移動平均値に基づいて振動のトレンド成分を演算しても良い。抽出部23は、例えば直近の20回分の出力信号Yから移動平均値を演算する。他の例として、抽出部23は、ニューラルネットワークといった機械学習アルゴリズムを利用して、振動のトレンド成分を演算しても良い。即ち、抽出部23は学習機能を備えても良い。上記は一例である。抽出部23は、例えば直近の任意の回数分の出力信号Yから移動平均値を演算しても良い。上記任意の回数は、例えば10回〜100回に含まれる回数である。
図26は、第2抽出部の機能を実現する他の例を示す図である。抽出部23は、例えばハイパスフィルタ36を備える。記載を簡略化するため、図面等ではハイパスフィルタのことをHPFとも表記する。図21に示すローパスフィルタ34を1次遅れ系の伝達関数で設計した場合、減算器35の出力信号Y−Zは次式で表される。
式2において、sはラプラス演算子である。τは時定数である。式2における伝達関数は、1次のハイパスフィルタの伝達関数である。即ち、抽出部23は、図26に示す例でも図21に示す例と同様の機能を実現できる。図26に示す例では、ハイパスフィルタ36に、バンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。ハイパスフィルタ36は、減算器35の出力信号Y−Zに相当する信号を判定信号として出力する。
図27は、第1抽出部及び第2抽出部の他の実装例を説明するための図である。図27は、抽出部23がハイパスフィルタ36を備える例を示す。図27(a)は、巻上機11のトルクを示す。図27(a)に示すトルク信号がバンドパスフィルタ32に入力される。図27(b)は、増幅器33の出力信号u2を示す。抽出部22は、連続的な出力信号u2を離散化する。図22に示す例と同様に、抽出部22は、その離散化した信号をバンドパスフィルタ32の出力信号Yとして出力する。
図27に示す例においても、かご1が移動する区間が、上下に連続する複数の単位区間に仮想的に分割される。抽出部22は、例えば、1つの単位区間において最大の値を有する信号u2をその単位区間の出力信号Yとして抽出する。
抽出部23には、単位区間のそれぞれに対応するハイパスフィルタ36が備えられる。例えば、第1単位区間に対応するハイパスフィルタ36をフィルタ36−1と表記する。第2単位区間に対応するハイパスフィルタ36をフィルタ36−2と表記する。第3単位区間に対応するハイパスフィルタ36をフィルタ36−3と表記する。同様に、第n単位区間に対応するハイパスフィルタ36をフィルタ36−nと表記する。
フィルタ36−1に、かご1が第1単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ36−1は、出力信号Yからトレンド成分を減衰させた信号を出力する。フィルタ36−1からの出力信号Y−Zは、第1単位区間における判定信号である。フィルタ36−2に、かご1が第2単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ36−2は、出力信号Yからトレンド成分を減衰させた信号を出力する。フィルタ36−2からの出力信号Y−Zは、第2単位区間における判定信号である。
フィルタ36−3に、かご1が第3単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ36−3は、出力信号Yからトレンド成分を減衰させた信号を出力する。フィルタ36−3からの出力信号Y−Zは、第3単位区間における判定信号である。同様に、フィルタ36−nに、かご1が第n単位区間を移動している時のバンドパスフィルタ32の出力信号Yが入力される。フィルタ36−nは、出力信号Yからトレンド成分を減衰させた信号を出力する。フィルタ36−nからの出力信号Y−Zは、第n単位区間における判定信号である。
検出部24は、抽出部23によって抽出された判定信号に基づいて、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する(S103)。検出部24は、センサ信号に発生した突発的な変動を異常な変動として検出する。例えば、検出部24は、抽出部23によって抽出された判定信号の値が第1閾値を超えるか否かを判定する。検出部24は、抽出部23によって抽出された判定信号の値が第1閾値を超える場合に、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。第1閾値は、記憶部21に予め記憶される。
制御装置13は、かご1を実際に移動させる特定の運転を行うことにより、第1閾値を設定しても良い。例えば、エレベーターの据付が完了すると、第1閾値を設定するための設定運転が行われる。設定運転では、かご1が最下階から最上階に移動する。かご1は最上階から最下階に移動しても良い。かご1が最下階と最上階との間を移動した時に抽出部22から出力された信号Yが記憶部21に記憶される。そして、記憶部21に記憶された出力信号Yの最大値に係数を掛けた値が第1閾値として設定される。この係数は、1以上の値である。係数は2でも良い。係数は、通常運転時に生じるかご1の振動の大きさに応じて調整されても良い。
制御装置13は、かご1を実際に移動させる特定の運転を行うことにより、一旦設定された第1閾値を更新しても良い。例えば、エレベーターの使用頻度が少ない夜間等に、第1閾値を更新するための更新運転が行われる。更新運転の内容は、上記設定運転の内容と同じでも良い。制御装置13は、例えば定期的に更新運転を実施し、第1閾値を更新する。例えば、更新運転は1ヶ月毎に行われる。これにより、エレベーターの状態に合わせて第1閾値を適切に再設定できる。
制御装置13は、かご1の速度を変えて複数回の設定運転を行っても良い。例えば、制御装置13は、かご1を第1速度で移動させて第1設定運転を行う。制御装置13は、第1設定運転を行うことによって低速用の第1閾値を設定する。制御装置13は、かご1を第2速度で移動させて第2設定運転を行う。第2速度は、第1速度より速い速度である。制御装置13は、第2設定運転を行うことによって高速用の第1閾値を設定する。かご1の最高速度を変えることができるエレベーター装置において、検出部24は、かご1の最高速度に応じた適切な第1閾値を選択する。例えば、検出部24は、高速モード運転が行われている場合は判定信号の値と高速用の第1閾値とを比較する。検出部24は、低速モード運転が行われている場合は判定信号の値と低速用の第1閾値とを比較する。同様に、制御装置13は、かご1の速度を変えて複数回の更新運転を行っても良い。
記憶部21に、第1閾値の下限値が予め記憶されても良い。例えば、設定運転が行われることによって算出された第1閾値が下限値に達していない場合は、第1閾値として上記下限値が設定される。更新運転が行われることによって算出された第1閾値が下限値に達していない場合は、第1閾値として上記下限値が設定される。これにより、第1閾値として極端に小さい値が設定されることを防止できる。
かご位置検出部25は、かご1の位置を検出する。かご位置検出部25は、例えば、エンコーダ18から出力された回転信号に基づいて、かご位置を検出する。かご位置検出部25は、他の方法によってかご位置を検出しても良い。例えば、巻上機11はエンコーダを備える。巻上機11に備えられたエンコーダもかご1の位置に応じた信号を出力するセンサの一例である。かご位置検出部25は、巻上機11からのエンコーダ信号に基づいてかご位置を検出しても良い。かご1の位置を検出する機能は、調速機15に備えられても良い。かご位置を検出する機能は、巻上機11に備えられても良い。かかる場合、制御装置13に、かご1の位置を示す信号が入力される。
センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置が記憶部21に記憶される。例えば、かご1が移動する区間が複数の単位区間に分割されている場合は、検出部24が異常な変動を検出すると、その変動が発生した単位区間を特定するための情報が記憶部21に記憶される。
判定部26は、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定する(S104)。判定部26は、異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置に基づいて上記判定を行う。判定部26には、例えば再現性判定機能26−1と破断判定機能26−2とが備えられる。再現性判定機能26−1は、異常な変動が発生したかご位置に再現性があるか否かを判定する(S104−1)。破断判定機能26−2は、再現性判定機能26−1の判定結果に基づいて、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定する(S104−2)。
図28は、再現性判定機能26−1の例を説明するための図である。図28(a)は、かご1が位置0から位置Pの区間を移動した時に得られた最新の判定信号を示す。図28(a)に示す例では、位置P1及び位置P3において、判定信号の値が第1閾値TH1を超えている。図28(b)は、かご1が同じ区間を前回移動した時に得られた判定信号を示す。即ち、図28(a)に示す判定信号は、図28(b)に示す判定信号が取得された直後に、かご1が再び同じ区間を移動した時に取得された信号である。図28(b)に示す例では、位置P1、位置P3及び位置P4において、判定信号の値が第1閾値TH1を超えている。
再現性判定機能26−1は、例えば、同じ位置をかご1が複数回通過した際に判定信号の値が2回連続して第1閾値を超えている場合に、再現性ありと判定する。例えば、位置P1及び位置P3では、判定信号の値が2回連続して第1閾値TH1を超えている。このため、再現性判定機能26−1は、位置P1及び位置P3において再現性ありと判定する。一方、位置P4では、判定信号の最新の値が第1閾値TH1を超えていない。かかる場合、再現性判定機能26−1は、位置P4において再現性ありとは判定しない。図28(b)に示す位置P4での値は、再現性のない事象に起因して発生したと判定される。例えば、図28(b)に示す位置P4での値は、乗客がかご1内で飛び跳ねたことによって発生したと判定される。
なお、かご1が移動する区間が複数の単位区間に分割されている場合は、例えば以下のような判定が行われる。再現性判定機能26−1は、同じ単位区間をかご1が複数回通過した際に判定信号の値が2回連続して第1閾値を超えていれば、再現性ありと判定する。例えば、第5単位区間をかご1が通過する際に得られた判定信号の値が2回連続して第1閾値TH1を超えると、再現性判定機能26−1は、第5単位区間において再現性ありと判定する。
再現性判定機能26−1は、判定信号の値が3回以上連続して第1閾値を超えている場合に、再現性ありと判定しても良い。再現性ありと判定するための上記回数は、任意に設定される。
破断判定機能26−2は、異常な変動が発生したかご位置に再現性があると再現性判定機能26−1によって判定されると、主ロープ4に破断部4cが発生していると判定する。破断部4cが発生していることが破断判定機能26−2によって判定されると、動作制御部27は、かご1を最寄り階に停止させる(S105)。また、通報部28は、エレベーターの管理会社に通報する(S106)。
本実施の形態に示す破断検知装置では、主ロープ4に振動が発生した際に出力信号が変動するセンサを利用して、破断部4cの存在を検知する。センサ信号として、例えば秤信号、速度偏差信号及びトルク信号を利用できる。このため、破断部4cの有無を判定するために専用のセンサを備える必要はない。また、少なくとも1つのセンサがあれば、破断部4cの存在を検知できる。破断部4cの有無を判定するために多数のセンサを備える必要はない。このため、破断検知装置の構成を簡素化できる。
本実施の形態に示す破断検知装置では、抽出部22によって抽出された振動成分からトレンド成分を減衰させることにより、判定信号が抽出される。このため、レール部材20の継目に起因する変動がセンサ信号に含まれていても、検知精度は悪化しない。滑車異常に起因する変動がセンサ信号に含まれていても、検知精度は悪化しない。本実施の形態に示す破断検知装置であれば、破断部4cの存在を精度良く検知できる。
本実施の形態では、かご1が移動を開始してから停止するまでの間、破断検知装置が常に同じ動作を行う例について説明した。これは一例である。例えば、エレベーター装置では、かご1が移動を開始する際に、かご1の質量とつり合いおもり3の質量との差に起因する速度制御の過渡応答が生じる。このため、かご1が移動を開始した直後は、巻上機11からのトルク信号等に変動が生じ易い。このような変動によって検知精度が悪化することを防止するため、かご1が移動を開始した直後は、抽出部22の機能を停止しても良い。或いは、かご1が移動を開始した直後は、バンドパスフィルタ32の出力信号Yを強制的に0にしても良い。
検知精度の悪化を防止する他の例として、かご1が移動を開始した直後は、検出部24は、判定信号の値が第2閾値を超える場合にセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出しても良い。第2閾値は、第1閾値より大きな値である。なお、かご1が移動を開始した直後とは、例えば、かご1が移動を開始してからかご1の速度が速度V1になるまでの間である。速度V1は、記憶部21に予め記憶される。かご1が移動を開始した直後とは、かご1が移動を開始してからかご1の加速度が一定になるまでの間であっても良い。
エレベーター装置では、巻上機11のトルクにリップルが発生する。このトルクリップルによって検知精度が悪化することを防止するため、かご1が移動を開始した直後及びかご1が停止する直前は、抽出部22の機能を停止しても良い。或いは、かご1が移動を開始した直後及びかご1が停止する直前は、バンドパスフィルタ32の出力信号Yを強制的に0にしても良い。
検知精度の悪化を防止する他の例として、かご1が移動を開始した直後及びかご1が停止する直前は、検出部24は、判定信号の値が第3閾値を超える場合にセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出しても良い。第3閾値は、第1閾値より大きな値である。なお、かご1が移動を開始した直後及びかご1が停止する直前とは、例えば、かご1の速度が速度V2より遅い間である。速度V2は、記憶部21に予め記憶される。速度V2は、例えば、巻上機11のトルクリップルの周波数の帯域が、破断部4cが外れ止めに接触することによって発生する固有の周波数帯域から外れる速度に設定される。
本実施の形態では、かご1が移動する区間を複数の単位区間に分割する例を示した。以下に、好適な分割例について説明する。
図22に示す例では、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、例えば、その変動が発生した単位区間の番号が記憶部21に記憶される。かご1の移動区間がn個の単位区間に分割された場合は、記憶部21に、異常変動が発生したことを記憶するためのn個分の記憶領域が必要になる。このため、分割する単位区間の数が多くなると、破断部4cの発生位置を精度良く特定することができるが、記憶部21の容量を大きくしなければならない。一方、分割する単位区間の数が少なければ、記憶部21の容量を大きくする必要はないが、破断部4cの発生位置を精度良く特定することができなくなってしまう。
図29は、返し車7の断面を示す図である。図29に示す例では、主ロープ4の破断部4cは、外れ止め19の対向部19bに接触した後に対向部19aに接触する。破断部4cが対向部19bに接触した時にセンサ信号に発生する変動とその破断部4cが対向部19aに接触した時にセンサ信号に発生する変動とを別の異常変動として検出できなくても良い。主ロープ4のうち対向部19bに対向する部分から対向部19aに対向する部分までの長さをL1とすると、単位区間の高さはロープ長L1より大きくても問題はない。ロープ長L1は、例えば主ロープ4が巻き掛けられた滑車のうち一番小さい滑車を基準に決定される。ロープ長L1は、主ロープ4が巻き掛けられた滑車のうち最も使用されている大きさの滑車を基準に決定されても良い。
図30は、ガイドレールに案内されるかご1を示す図である。上述したように、ガイドレールは複数のレール部材20を備える。かご1がレール部材20のある継目を通過する際にセンサ信号に発生する変動とその継目の1つ上にある継目を通過する際にセンサ信号に発生する変動とは、別の異常変動として検出されることが好ましい。レール部材20の長さをL2とすると、単位区間の高さはレール部材20の長さL2より小さいことが好ましい。長さL2は、例えばレール部材20のうち一番短いレール部材20を基準に決定される。長さL2は、レール部材20のうち最も使用されている長さのレール部材20を基準に決定されても良い。
単位区間の高さをHとすると、単位区間のそれぞれの高さHは、以下の条件を満たすことが最適である。
[ロープ長L1]≦[高さH]≦[レール部材20の長さL2]
本実施の形態では、かご1の移動方向を考慮せずに破断部4cの存在を検知する例について説明した。これは一例である。かご1が上方に移動する場合とかご1が下方に移動する場合とを分けて破断部4cの存在を検知しても良い。
かかる場合、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置とかご1の移動方向とが記憶部21に記憶される。再現性判定機能26−1は、かご1の移動方向も考慮し、異常な変動が発生したかご位置に再現性があるか否かを判定する。
かご1の移動方向を考慮する場合は、例えば、かご1を最下階から最上階に移動させる上り用の設定運転が行われ、上り用の第1閾値が設定される。かご1を最上階から最下階に移動させる下り用の設定運転が行われ、下り用の第1閾値が設定される。また、かご1を最下階から最上階に移動させる上り用の更新運転が行われ、上り用の第1閾値が更新される。かご1を最上階から最下階に移動させる下り用の設定運転が行われ、下り用の第1閾値が更新される。再現性判定機能26−1は、例えば、かご1が同じ位置を同じ方向に通過した際に判定信号の値が2回連続して第1閾値を超えている場合に、再現性ありと判定する。
本実施の形態では、かご1が同じ位置を通過した際に判定信号の値が複数回連続して第1閾値を超えている場合に、再現性ありと判定される例について説明した。これは一例である。判定部26は、かご1が同じ位置を通過した際に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出された頻度に基づいて、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定しても良い。
例えば、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置が記憶部21に記憶される。かご1が移動する区間が複数の単位区間に分割されている場合は、変動が発生した単位区間の番号が記憶部21に記憶される。例えば、記憶部21に、単位区間のそれぞれに対応する記憶領域が形成される。かご1がある単位区間を移動した時に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、その単位区間に対応する記憶領域に1が記憶される。かご1がある単位区間を移動した時に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されなければ、その単位区間に対応する記憶領域に0が記憶される。
再現性判定機能26−1は、例えば記憶領域に記憶された値の移動平均値を上記頻度として演算する。例えば、再現性判定機能26−1は、かご1が同じ位置を4回通過した時の移動平均値を演算する。破断判定機能26−2は、再現性判定機能26−1によって演算された頻度に基づいて、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定する。例えば、破断判定機能26−2は、再現性判定機能26−1によって演算された移動平均値が第1判定閾値を超える場合に、主ロープ4に破断部4cが存在することを判定する。第1判定閾値は、記憶部21に予め記憶される。
図31は、実施の形態1における破断検知装置の他の例を示す図である。図31に示す例では、制御装置13は、演算部29を更に備える点で図13に示す例と相違する。
図31に示す例では、記憶部21に、破断部4cが存在するか否かを判定するための判定点数が記憶される。演算部29は、検出部24によって検出された結果に応じて判定点数を演算する。例えば、センサ信号に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、その変動が発生した時のかご位置が判定点数に紐付けて記憶部21に記憶される。判定部26は、記憶部21に記憶されている判定点数に基づいて、主ロープ4に破断部4cが存在するか否かを判定する。なお、かご1が移動する区間が複数の単位区間に分割されている場合は、単位区間のそれぞれに対応する判定点数が記憶部21に記憶される。
図32及び図33は、破断部4cの例を示す図である。図32は、破断部4cが先端に近づくに従って返し車7から離れる例を示す。破断部4cが図32に示すように主ロープ4の表面から突出する場合、破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触する。図33は、破断部4cが返し車7の表面に沿うように配置される例を示す。破断部4cが図33に示すように主ロープ4の表面から突出する場合、破断部4cは、返し車7を通過する際に外れ止め19に接触しない。このため、破断部4cが返し車7を通過しても主ロープ4に振動は発生しない。
破断部4cは、外れ止め19に接触することにより向きが変わることがある。破断部4cの向きが図32に示す向きから図33に示す向きに変わると、破断部4cが返し車7を通過しても主ロープ4に振動が発生しなくなる。一方、破断部4cは、返し車7を通過する際に溝の表面に押されて向きが変わることがある。破断部4cは、素線或いはストランドが更に解けることによって向きが変わることがある。破断部4cの向きが図33に示す向きから図32に示す向きに変わると、破断部4cが返し車7を通過する際に主ロープ4に振動が発生するようになる。
図34は、演算部29及び判定部26の機能の一例を説明するための図である。図34(a)は、かご1の位置を示す。図34(b)は、巻上機11のトルクを示す。図34(c)は、判定信号を示す。図34(d)は、判定点数の推移の例を示す。
図34に示す例では、かご1は最下階と位置Pとの間を2往復する。かご1は、時刻t1、時刻t2、時刻t5及び時刻t6で位置P1を通過する。図34は、主ロープ4に破断部4cが存在する例を示す。破断部4cは、時刻t1、時刻t2、時刻t5及び時刻t6で返し車7を通過する。上述したように、主ロープ4に破断部4cが存在しても、破断部4cが常に外れ止め19に接触するとは限らない。図34に示す例では、時刻t1、時刻t5及び時刻t6で破断部4cが外れ止め19に接触する。破断部4cは、時刻t2で外れ止め19に接触しない。
例えば、時刻t1で破断部4cが外れ止め19に接触すると、判定信号の値が第1閾値を超える。これにより、検出部24は、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。例えば、位置P1が第8単位区間に含まれる場合を考える。時刻t1において、第8単位区間の判定点数は初期値に設定されている。初期値は例えば0である。演算部29は、かご1が第8単位区間を通過した際に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されると、第8単位区間の判定点数に一定値を加算する。図34(d)は、加点する一定値が5である例を示す。
判定部26は、記憶部21に記憶された判定点数が第2判定閾値を超えたか否かを判定する。第2判定閾値は記憶部21に予め記憶される。図34(d)は、第2判定閾値が10である例を示す。時刻t1において、第8単位区間の判定点数は第2判定閾値を超えていない。判定部26は、判定点数が第2判定閾値を超えていなければ、主ロープ4に破断部4cが存在しないと判定する。
かご1は、時刻t2で位置P1を再び通過する。時刻t2では、破断部4cは外れ止め19に接触しない。判定点数が0ではない位置を通過した際に異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されなければ、演算部29は、その位置の判定点数を減点する。時刻t2において、第8単位区間の判定点数は0ではない。演算部29は、時刻t2において、第8単位区間の判定点数から一定値を減点する。図34(d)は、減点する一定値が1である例を示す。
かご1は、時刻t5で位置P1を再び通過する。検出部24は、時刻t5でセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。このため、演算部29は、記憶部21に記憶された第8単位区間の判定点数に5を加算する。時刻t5において、第8単位区間の判定点数は第2判定閾値を超えていない。このため、判定部26は、主ロープ4に破断部4cが存在しないと判定する。
その後、かご1は時刻t6で位置P1を再び通過する。検出部24は、時刻t6でセンサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。このため、演算部29は、記憶部21に記憶された第8単位区間の判定点数に更に5を加算する。記憶部21に記憶された第8単位区間の判定点数は、時刻t6で14になる。時刻t6において、第8単位区間の判定点数は第2判定閾値を超える。これにより、判定部26は、時刻t6において主ロープ4に破断部4cが存在することを判定する。
図34に示す例であれば、破断部4cが外れ止め19に接触しない時間帯が発生しても、破断部4cの存在を検出することができるようになる。
かご1が移動する区間を複数の単位区間に分割しない場合は、記憶部21に記憶されたかご位置をかご1が再度通過した際に検出部24によって異常な変動が検出されると、その位置の判定点数に一定値が加算される。当該位置をかご1が再度通過した際に検出部24によって異常な変動が検出されなければ、その位置の判定点数から一定値が減算される。かかる場合は、記憶部21に記憶されたかご位置から基準距離以内の位置であれば、同じかご位置とみなしても良い。上記基準距離は、例えばロープ長L1に設定される。
第2判定閾値は、判定点数に加算する値の2倍以上の値であることが好ましい。第2判定閾値が判定点数に加算する値の2倍以上の値であれば、再現性のない事象に起因する誤検知を抑制できる。また、破断部4cが外れ止め19に連続して接触しない可能性も考慮し、判定点数から減算する値は、加算する値の2分の1以下の値であることが好ましい。
第2判定閾値は、判定信号の大きさに応じて可変であっても良い。例えば、第2判定閾値として第1の値と第2の値とが予め設定される。第2の値は、第1の値より大きな値である。判定信号の大きさが基準値以下の場合は、第2判定閾値として第2の値が使用される。即ち、判定信号の大きさが基準値を超えるような変動がセンサ信号に発生した場合は、破断部4cの存在を早期に検出できる。一例として、下記条件1を満たす場合は第2判定閾値が15に設定される。下記条件2を満たす場合は第2判定閾値が10に設定される。
条件1:[第1閾値]≦[判定信号]≦2×[第1閾値]
条件2:2×[第1閾値]<[判定信号]
実施の形態2.
図35は、第2抽出部の減算器35に入力される信号の例を示す図である。図35において、破線は増幅器33の出力信号u2を示す。即ち、破線は、離散化される前の出力信号Yを示す。また、白丸は、離散化された出力信号Yを示す。実線は、ローパスフィルタ34の出力信号Zを示す。図35において、横軸はかご位置である。図35は、かご1が第n−1単位区間、第n単位区間、及び第n+1単位区間を通過した時に得られた信号を示す。
図35(a)は、第n単位区間において第1閾値を超える出力信号Y(n)が存在する例を示す。出力信号Y(n)がレール部材20の継目に起因して発生している場合、第n単位区間の出力信号Z(n)は出力信号Y(n)に追従する。出力信号Z(n)の値は、出力信号Y(n)の値と同じようになる。このため、第n単位区間の判定信号である出力信号Y(n)−Z(n)は、第1閾値より小さな値になる。図35(a)に示す例では、第n−1単位区間、第n単位区間、及び第n+1単位区間のそれぞれにおいて、検出部24は、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出しない。
図35(b)は、図35(a)に示す信号が取得された直後に、かご1が第n−1単位区間、第n単位区間、及び第n+1単位区間を再び通過した時の信号を示す。図35(b)に示す例では、第n−1単位区間において第1閾値を超える出力信号Y(n−1)が存在する。図35(b)に示す出力信号Y(n−1)は、図35(a)に示す出力信号Y(n)が第n−1単位区間にずれたものである。このような事象は、例えば主ロープ4が伸びることによって発生する。
図35(b)に示す例では、第n−1単位区間の出力信号Z(n−1)は出力信号Y(n−1)の急激な変化に追従しない。このため、第n−1単位区間の判定信号である出力信号Y(n−1)−Z(n−1)が第1閾値より大きければ、破断部4cが存在すると破断判定機能26−2によって判定される可能性がある。なお、第n単位区間では、出力信号Y(n)が急激に小さくなる。出力信号Z(n)は、出力信号Y(n)の急激な変化に追従しない。このため、第n単位区間の判定信号である出力信号Y(n)−Z(n)は負の値になる。
本実施の形態では、このような誤検知を防止するための機能について説明する。本実施の形態における破断検知装置の例は、図13に示す例と同様である。本実施の形態で開示しない機能については、実施の形態1で開示した何れの機能を採用しても良い。例えば、制御装置13は、演算部29を更に備えても良い。
図36は、第2抽出部の機能の一例を説明するための図である。図36(a)は、図35(a)に相当する図である。図36(b)は、図35(b)に相当する図である。本実施の形態に示す例では、抽出部23は、ローパスフィルタ34の出力信号Zについて隣接する単位区間の値も考慮した上で、判定信号として信号Y−Zを出力する。例えば、抽出部23は、以下のように判定信号を出力する。
第n−1単位区間:Y(n−1)−max(Z(n−2),Z(n−1),Z(n))
第n単位区間 :Y(n)−max(Z(n−1),Z(n),Z(n+1))
第n+1単位区間:Y(n+1)−max(Z(n),Z(n+1),Z(n+2))
以下に、第n単位区間の判定信号を演算する例について説明する。第n単位区間は、第n+1単位区間の直下で且つ第n−1単位区間の直上の区間である。抽出部23は、当該単位区間の出力信号Z(n)と1つ下の単位区間の出力信号Z(n−1)と1つ上の単位区間の出力信号Z(n+1)との中から、最大の値を示すものを特定する。図36(a)に示す例では、上記3つの信号の中で出力信号Z(n)が一番大きな値を示す。抽出部23は、当該単位区間の出力信号Y(n)と一番大きな値を示す信号として特定した出力信号Z(n)との差分信号を判定信号として出力する。
抽出部23は、第n−1単位区間及び第n+1単位区間についても、同様に判定信号を演算する。図36(a)に示す例では、判定信号は以下のように演算される。
第n−1単位区間:Y(n−1)−Z(n)<0
第n単位区間 :Y(n)−Z(n)≒0
第n+1単位区間:Y(n+1)−Z(n)<0
図36(a)に示す例では、出力信号Z(n−2)の値は、出力信号Z(n)の値より小さいものとする。出力信号Z(n+2)の値は、出力信号Z(n)の値より小さいものとする。
図36(b)は、図36(a)に示す信号が取得された直後に、かご1が第n−1単位区間、第n単位区間、及び第n+1単位区間を再び通過した時の信号を示す。図36(b)に示す出力信号Y(n−1)は、図36(a)に示す出力信号Y(n)が第n−1単位区間にずれたものである。
図36(b)に示す例では、判定信号は以下のように演算される。
第n−1単位区間:Y(n−1)−Z(n)≒0
第n単位区間 :Y(n)−Z(n)<0
第n+1単位区間:Y(n+1)−Z(n)<0
本実施の形態に示す例であれば、レール部材20の継目に起因するセンサ信号の変動を破断部4cに起因するセンサ信号の変動と誤って検知してしまうことを防止できる。
実施の形態3.
図37は、実施の形態3における破断検知装置の例を示す図である。図37に示す例では、制御装置13は、検出部30及び判定部31を更に備える点で図13に示す例と相違する。本実施の形態で開示しない機能については、実施の形態1或いは2で開示した何れの機能を採用しても良い。例えば、制御装置13は、演算部29を更に備えても良い。
検出部30は、抽出部22によって抽出された振動成分に基づいて、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。例えば、検出部30は、抽出部22によって抽出された振動成分の値が第4閾値を超えたか否かを判定する。検出部30は、抽出部22によって抽出された振動成分の値が第4閾値を超える場合に、センサ信号に異常な変動が発生したことを検出する。第4閾値は、記憶部21に予め記憶される。
判定部31は、検出部24が検出した結果と検出部30が検出した結果とに基づいて、エレベーターに発生した特定の異常を判定する。判定部31は、破断部4cが存在すること以外の異常を判定する。このため、判定部31は、異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されず、且つ異常な変動が発生したことが検出部30によって検出されると、特定の異常が発生したことを判定する。
例えば、判定部31は、異常な変動が発生したことが検出部30によって検出された回数N1を特定する。判定部31は、例えば、かご1が最下階から最上階に移動した時の回数N1を特定する。判定部31は、異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されず、且つ異常な変動が発生したことが検出部30によって判定されると、上記特定した回数N1が基準回数より多ければ、滑車異常が発生したと判定する。判定部31は、異常な変動が発生したことが検出部24によって検出されず、且つ異常な変動が発生したことが検出部30によって判定されると、上記特定した回数N1が基準回数より少なければ、レール部材20の継目異常が発生したと判定する。
特定の異常が発生したことが判定部31によって判定されると、動作制御部27は、かご1を最寄り階に停止させる。また、通報部28は、エレベーターの管理会社に通報する。本実施の形態に示す例であれば、レール部材20の継目異常及び滑車異常を検知できる。
実施の形態1から3では、主ロープ4に発生した破断部4cを検知する例について説明した。破断検知装置は、エレベーターで使用されている他のロープに発生した破断部を検知しても良い。
実施の形態1から3において、符号21〜31に示す各部は、制御装置13が有する機能を示す。図38は、制御装置13が備えるハードウェア要素の例を示す図である。制御装置13は、ハードウェア資源として、例えばプロセッサ37とメモリ38とを含む処理回路39を備える。記憶部21が有する機能はメモリ38によって実現される。制御装置13は、メモリ38に記憶されたプログラムをプロセッサ37によって実行することにより、符号22〜31に示す各部の機能を実現する。
プロセッサ37は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ或いはDSPともいわれる。メモリ38として、半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク或いはDVDを採用しても良い。採用可能な半導体メモリには、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM及びEEPROM等が含まれる。
図39は、制御装置13が備えるハードウェア要素の他の例を示す図である。図39に示す例では、制御装置13は、例えばプロセッサ37、メモリ38、及び専用ハードウェア40を含む処理回路39を備える。図39は、制御装置13が有する機能の一部を専用ハードウェア40によって実現する例を示す。制御装置13が有する機能の全部を専用ハードウェア40によって実現しても良い。専用ハードウェア40として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。