本発明の強化繊維束は、ブテンから導かれる構成単位が50モル%を超えるブテン系樹脂(A)と重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むオレフィン系樹脂(B)と、強化繊維(C)とを含み、ブテン系樹脂(A)はASTM1238規格に準じ、190℃、2.16kg荷重条件で測定したメルトフローレート(本件では、MFRと記載することがある。)が、0.01〜20g/10分の範囲にある。MFRの好ましい下限値は0.05g/10分、より好ましくは0.07g/10分である。一方、好ましい上限値は15g/10分、より好ましくは12g/10分、特に好ましくは10g/10分である。また、ブテン系樹脂(A)のMFRがオレフィン系樹脂(B)のMFRよりも小さいことが好ましい。MFRは分子量の尺度としても使用される。本願のブテン系樹脂(A)のGPCで測定した分子量としては、重量平均分子量Mwが5万を超え、100万未満であることが好ましい。より好ましい態様としては前記重量平均分子量が15万を超える成分が70質量%を超え、100質量%以下含まれていることが好ましい。より好ましくは73〜100質量%である。分子量が高い成分が多いと、溶融後の冷却過程で硬化速度が遅い等のことから、後述する通り、本願の強化繊維束に用いる樹脂として好適であると考えられる。ブテン系樹脂(A)の重量平均分子量は後述するオレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量よりも大きいことが好ましい。また、ブテン系樹脂(A)100質量部に対してオレフィン系樹脂(B)は好ましくは3〜50重量部、より好ましくは5〜45重量部、更に好ましくは7〜40重量部であり、ブテン系樹脂(A)、オレフィン系樹脂(B)の合計の含有率は強化繊維束全体の中で好ましくは0.3〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%であることを特徴とする。
強化繊維束(C)を構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、炭素繊維が好ましく、より具体的には、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が力学特性の向上、成形品の軽量化効果の観点から好ましく、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する場合、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を含む強化繊維を用いることもできる。この場合、前記の金属は強化繊維を被覆するような形態を含むことが好ましい。
さらに炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましく、より好ましくは0.08〜0.4であり、さらに好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂とより強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスから一般的に0.5以下とすることが好ましい例である。
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とする。
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法をとることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
また、強化繊維(C)の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmの範囲内であることが好ましく、3〜15μmの範囲内であることがより好ましい。強化繊維束の単糸数には、特に制限はなく、通常は100〜350,000本の範囲内のものを使用することができる。本発明の場合、好ましくは40,000本以上の強化繊維を用いることが好ましい。より好ましくは40,000〜250,000本、更に好ましくは50,000〜220,000本の範囲内で使用することが好ましい。
このようなブテン系樹脂(A)が特定の量含まれる強化繊維束は、毛羽立ち形状や、例えばその衝撃等の環境要因による崩壊、剥がれ、折れ等の形状変化、また、それらに起因する微粉などの形状変化を起し難い傾向がある。これは、比較的高い分子量のポリプロピレン樹脂が比較的多く含まれ、その分子鎖の絡み合い等の効果により、先の問題を抑制していると推測される。特にフィラメント数の多い繊維の場合、毛羽立ちが起こり易い傾向があることが本願発明の検討において見出され、ブテン系樹脂(A)を用いる効果は、フィラメント数が多い態様において、より有効に機能する場合が多い傾向にある。
前記のブテン系樹脂(A)は、ブテン由来の構造単位を50モル%を超える割合で有する樹脂である。好ましい態様としては、ブテンの単独重合体を代表例とするブテン由来の構造単位の含有率が90モル%以上のブテン系樹脂を挙げることが出来る。好ましい共重合性単位としては、α−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどから選ばれる少なくとも一種のオレフィンやポリエン由来の構造単位を挙げることが出来る。
前記のα−オレフィンとして具体的には、エチレン、プロピレン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等のブテンを除く炭素数2〜20のα−オレフィンを挙げることが出来る。これらの中でもプロピレン、エチレン、4メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンを好ましい例として挙げることが出来、より好ましくは、エチレン、プロピレン、4メチル−1−ペンテンであり、特に好ましくはプロピレンとエチレンである。
共役ジエン、非共役ジエンとしては、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられ、これらの成分は、1種類または2種類以上を選択することができる。
前記ブテン系樹脂(A)は、ブテンと前記のオレフィンやポリエン化合物とのランダムあるいはブロック共重合体であることが好ましい。本願の目的を損なわない範囲内であれば他の熱可塑性重合体を用いることも出来る。例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。これらの重合体は、ブテン系樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは、50質量部以下、更に好ましくは20質量部以下の量で用いられる。
本発明において、後述するプロピレン樹脂やブテン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂から選ばれる樹脂(D)(一般的に、マトリックス樹脂と言われる)との親和性を高めることと、後述するオレフィン系樹脂(B)との親和性を高める両方の観点から、ブテン系樹脂(A)はブテンから導かれる構成単位を好ましくは50モル%を超え、100モル%以下、より好ましくは、55〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%、特に好ましくは70〜100モル%含んでいる。比較的柔らかいブテン系樹脂(A)が好ましい場合は、ブテン由来の構造単位が50〜90モル%が好ましく、70〜90モル%であることがより好ましく、さらに好ましくは75〜85モル%である。
ブテン系樹脂(A)における前記単量体繰り返し単位の同定には、主として、13C−NMR法により決定される。質量分析および元素分析が用いられることもある。また、前記NMR法で組成を決定した組成の異なる複数種の共重合体のIR分析を行い、特定波数の吸収や検体の厚さ等の情報から検量線を作成して組成を決定する方法も採用出来る。このIR法は、工程分析などに好ましく用いられる。
このようなブテン系樹脂(A)は高分子構造的に緩和時間がプロピレン系樹脂などに比して、比較的長いので強化繊維への追従性が良い等の利点があると推測され、結果として、毛羽立ち性に優れている可能性がある。
また、本発明において、ブテン系樹脂(A)のショアA硬度が50〜90であるか、またはショアD硬度が45〜65であることが好ましい。ショアA硬度のより好ましい範囲は、60〜88であり、さらに好ましくは62〜85である。ショアD硬度のより好ましい範囲は48〜63であり。更に好ましくは50〜60である。
ブテン系樹脂(A)が、このような硬度の範囲であると、強化繊維への追従性が良いので、部分的な割れなどが発生し難く、安定した形状の強化繊維束を形成し易い利点がある。また後述するプロピレン樹脂などのマトリックス樹脂(D)と組み合わせた組成物とした場合、その強度を高める上で有利な傾向がある。これはブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)と樹脂(D)とが、良好な相溶構造を取るためではないかと推測される。
ブテン系樹脂(A)はカルボン酸基やカルボン酸エステル基等を含む化合物で変性されていても良いし、未変性体であっても良い。ブテン系樹脂(A)が変性体である場合、その変性量は−C(=O)−O−で表される基換算で2.0ミリモル当量未満であることが好ましい。より好ましくは1.0ミリモル当量以下、さらに好ましくは0.5ミリモル当量以下である。
一方、用いる用途によってはブテン系樹脂(A)は、実質的に未変性体であることが好ましい場合もある。ここで、実質的に未変性とは、望ましくは全く変性されていないことであるが、変性されたとしても前記目的を損なわない範囲である、変性量が−C(=O)−O−で表される基換算で0.05ミリモル当量未満であることが好ましい。より好ましくは0.01ミリモル当量以下、さらに好ましくは0.001ミリモル当量以下、特に好ましくは0.0001ミリモル当量以下である。
本発明において、ブテン系樹脂(A)は変性体であることが、繊維強化組成物として好ましい場合が多い。
本発明のオレフィン系樹脂(B)は、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むオレフィン系樹脂である。これは、強化繊維との相互作用を高めるうえでカルボン酸塩を含むことが効果的であるためである。オレフィン系樹脂(B)としては、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ブテン系樹脂、4−メチル−1−ペンテン系樹脂や、これらのオレフィンを含む共重合体を例示することが出来る。これらの中でも好ましい態様は、プロピレン系樹脂(B1)である。
上記プロピレン系樹脂(B1)の原料としては、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体で代表される、プロピレンとα−オレフィンの単独または2種類以上との共重合体がまず挙げられる。次いで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/またはケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体を挙げることが出来る。このような重合体は、プロピレン系の重合体とカルボン酸構造と有する単量体とをラジカルグラフト重合するのが、プロピレン樹脂(B1)を製造する代表的な方法である。上記プロピレン系の重合体に用いられるオレフィンは、オレフィン系樹脂(B)と同様の考えで選定することができる。
特殊な触媒を用いれば、プロピレンと前記のカルボン酸エステルを有する単量体とを直接重合することや、エチレンが多く含まれる重合体であればオレフィンとカルボン酸構造と有する単量体とを主として高圧ラジカル重合して、プロピレン樹脂(B1)を得ることも可能である。
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、およびケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、たとえば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物が挙げられ、またこれらのエステル、さらにはオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物なども挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸(エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
これらの単量体は単独で用いることもできるし、また2種類以上のものを用いることもできる。また、これらの中でも、酸無水物類が好ましく、さらには無水マレイン酸が好ましい。
上記オレフィン系樹脂(B)は、上記のような種々の方法で得ることができるが、より具体的には、有機溶剤中でプロピレン系樹脂と不飽和ビニル基を有するエチレン系不飽和カルボン酸やオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体とを重合開始剤の存在下で反応させた後に脱溶剤する方法や、プロピレン系樹脂を加熱溶融し得られた溶融物に不飽和ビニル基を有するカルボン酸および重合開始剤を攪拌下で反応させる方法や、プロピレン系樹脂と不飽和ビニル基を有するカルボン酸と重合開始剤とを混合したものを押出機に供給して加熱混練しながら反応させた後、中和、けん化などの方法でカルボン酸塩とする方法を挙げることができる。
ここで重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3、1,4−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等の各種パーオキサイド化合物を挙げることが出来る。また、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を用いても良い。これらは、単独あるいは2種以上を併用することができる。
また有機溶剤としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、イソオクタン、イソデカン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、n−酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3メトキシブチルアセテート等のエステル系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等の有機溶剤を用いることができ、またこれらの2種以上からなる混合物であっても構わない。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素がより好適に用いられる。
上記の様にして得られたオレフィン系樹脂(B)のカルボン酸基の含有率は、後述するNMRやIR測定で決定することが出来るのは公知である。また、例えば別の方法として、酸価で評価することも出来る。本発明のオレフィン系樹脂(B)の酸価の好ましい範囲は10mg−KOH/g〜70mg−KOH/gであり、より好ましくは20mg−KOH/g〜65mg−KOH/gであり、更に好ましくは25mg−KOH/g〜60mg−KOH/gである。
上記のように得られたオレフィン系樹脂(B)を中和またはケン化工程を経て得る方法は、上記オレフィン系樹脂(B)の原料を水分散体にして処理することが容易となるので、実用的に好ましい方法である。
上記オレフィン系樹脂(B)の原料の水分散体の中和またはケン化に用いる塩基性物質としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属および/またはその他金属類、ヒドロキシルアミン、水酸化アンモニウム等の無機アミン、アンモニア、(トリ)メチルアミン、(トリ)エタノールアミン、(トリ)エチルアミン、ジメチルエタノールアミン、モルフォリン等の有機アミン、酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および/またはその他金属類、水酸化物、水素化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属および/またはその他金属類の弱酸塩を挙げることができる。塩基物質により中和またはケン化されたカルボン酸塩の基あるいはカルボン酸エステル基としては、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩またはカルボン酸アンモニウムが好適である。
また、中和度またはけん化度、すなわち、オレフィン系樹脂(B)の原料が有するカルボン酸基の上記金属塩やアンモニウム塩等への転化率は、水分散体の安定性と、繊維との接着性の観点より、通常50〜100%、好ましくは70〜100%、さらに好ましくは85〜100%である。したがって、上記オレフィン系樹脂(B)におけるカルボン酸基は、上記塩基物質によりすべて中和またはケン化されていることが望ましいが、中和またはケン化されずに一部カルボン酸基が残存していてもよい。上記のような酸基の塩成分を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を行う方法や、IR、NMR、質量分析および元素分析等を用いて酸基の塩の構造を同定する方法が挙げられる。
ここでカルボン酸基の中和塩への転化率は、(プロピレン系樹脂(B1)の場合)加熱トルエン中にプロピレン系樹脂を溶解し、0.1規定の水酸化カリウム−エタノール標準液で滴定し、プロピレン系樹脂の酸価を下式より求め、元のカルボン酸基の総モル数と比較して算出する方法などが挙げられる。
酸価=(5.611×A×F)/B(mgKOH/g)
A:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)
F:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター
B:試料採取量(g)。
上記で算出した酸価を下式を用いて中和されていないカルボン酸基のモル数に換算する。
中和されていないカルボン酸基のモル数=酸価×1000/56(モル/g)。
カルボン酸基の中和塩への転化率は、別途IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸基のカルボニル炭素の定量をおこなって算出したカルボン酸基の総モル数(モル/g)を用いて下式にて算出する。
転化率%=(1−r)×100(%)
r:中和されていないカルボン酸基のモル数/カルボン酸基の総モル数。
また、強化繊維との相互作用を高める観点から、前記オレフィン系樹脂(B)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の含有量は、オレフィン系樹脂(B)1g当たり、−C(=O)−O−で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量であることが好ましい。より好ましくは0.1〜4ミリモル当量、さらに好ましくは0.3〜3ミリモル当量である。上記のようなカルボン酸塩の含有量を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を定量的に行う方法や、IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸塩のカルボニル炭素の定量をおこなう方法が挙げられる。カルボン酸骨格の含有率のより具体的な測定方法は以下の方法を例示できる。試料を100MHz以上、120℃以上の高温溶液条件で、13C−NMR法によりカルボン酸骨格の含有率を常法により特定することが出来る。また、カルボニル骨格の含有率の異なる複数の試料を前記13C−NMRで測定してカルボン酸骨格の含有率を特定した後、同じ試料のIR測定を行い、カルボニルなどの特徴的な吸収と試料厚みや他の代表的な吸収との比とカルボン酸骨格の含有率との検量線を作成することで、IR測定により、カルボン酸骨格の導入率を特定する方法も知られている。
また、本発明のブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)との重量平均分子量Mwの関係は、ブテン系樹脂(A)の重量平均分子量Mwの方が大きいことが好ましい。この場合、本発明においてブテン系樹脂(A)の重量平均分子量と、オレフィン系樹脂(B)との重量平均分子量との差は、好ましくは10,000〜380,000である。より好ましくは120,000〜380,000更に好ましくは130,000〜380,000である。
オレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwをブテン系樹脂(A)の重量平均分子量Mwよりも小さくすることで、成形時にオレフィン系樹脂(B)が移動し易く、強化繊維とオレフィン系樹脂(B)との相互作用が強くなることが期待される。
オレフィン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwは、上記相互作用の観点および、ブテン系樹脂(A)との相溶性などを考慮すると、1,000〜100,000であることが好ましい。より好ましくは2,000〜80,000、さらに好ましくは5,000〜50,000、特に好ましくは5,000〜30,000である。
なお本発明における重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって決定される。
本発明のブテン系樹脂(A)およびオレフィン系樹脂(B)は、様々な形態で用いることが出来る。例えば、樹脂をそのままもしくは耐熱安定剤を併用して溶融させ、強化繊維(C)と接触させる方法や、ブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)とをエマルションやサスペンション状態で強化繊維(C)と接触させる方法が挙げられる。前記の接触工程の後に、熱処理などを行っても良い。
本発明において、強化繊維(C)と効率的に接触させる観点からは、ブテン系樹脂(A)やオレフィン系樹脂(B)は、エマルション状態で用いることが好ましい。
前記の通り、ブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)との割合は、ブテン系樹脂(A)100重量部に対して、オレフィン系樹脂(B)3〜50質量部である。この範囲内であれば、主としてブテン系樹脂(A)に由来する強度や形状などに関係する特性と、強化繊維(C)との親和性とを高いレベルで両立させることが可能となる。好ましくは、ブテン系樹脂(A)100質量部に対してオレフィン系樹脂(B)が、3〜45質量部、より好ましくはブテン系樹脂(A)100質量部に対してオレフィン系樹脂(B)が、5〜45質量部、さらに好ましくはブテン系樹脂(A)100質量部に対してオレフィン系樹脂(B)7〜40質量部である。オレフィン系樹脂(B)が3質量部より少なくなると、強化繊維との親和性が低下し、接着特性に劣る可能性がある。またオレフィン系樹脂(B)が50質量部よりも多くなると、混合物自体の強度が低下したり、毛羽が増大する場合があり、強固な接着特性を維持出来ない可能性がある。
本発明の強化繊維束に用いられる各種オレフィン系樹脂の組成、MFR等を前記範囲とすることで、ブテン系樹脂(A)およびオレフィン系樹脂(B)が効果的に強化繊維(C)およびマトリックス樹脂(D)と相互作用を持ったり、ブテン系樹脂(A)およびオレフィン系樹脂(B)との相溶性が比較的高く、接着性を向上させることが期待される。
本発明の強化繊維束には、前記ブテン系樹脂(A)、オレフィン系樹脂(B)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を併用しても構わない。例えば、ブテン系樹脂をエマルジョン形態として強化繊維束に付与する場合は、エマルジョンを安定化させる界面活性剤などを別途加えていても構わない。このような他の成分は、ブテン系樹脂(A)、オレフィン系樹脂(B)の合計に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
上記したブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)とは、合せて強化繊維束全体の0.3〜5質量%含まれる。含まれるブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)とが0.3質量%未満の場合は、強化繊維(C)がむき出しの部分が多数存在することがある。このような場合、得られる製品の強度が低下したり、強化繊維束の取り扱い性が不十分となる場合がある。ここでいう取り扱い性とは例えば、繊維束をボビンに巻き取る際の繊維束の硬さやさばけ易さを挙げることが出来る。また、繊維束をカットしてチョップド繊維束として使用する場合には、チョップド繊維束の集束性のことをいう。一方、付着量が5質量%よりも多くなると、成形品の力学特性が極端に低下したりする場合や、繊維束が極端に硬くなり、ボビンに巻けなくなるなどの不具合を生じる場合がある。ブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)を合わせての付着量は接着性と強化繊維束の取り扱い性とのバランスから、好ましくは0.4〜5質量%であり、さらに好ましくは0.5〜4質量%である。
前記ブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)との混合物を強化繊維束に付着させる方法については、特に制限はないが、均一に単繊維間に付着させやすいという観点から、ブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)との混合物のエマルジョンを強化繊維束に付与したのちに乾燥させる方法が好ましい。強化繊維束にエマルジョンを付与する方法としては、ローラー浸漬法、ローラー転写法、スプレー法などの既存の手法により付与する方法を用いることができる。
本発明の強化繊維束を用いた成形材料(強化繊維束含有樹脂組成物と言うこともある)や成形品を成形する際のマトリックス樹脂(D)については、特に制限されるものではない。具体的には、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)などのアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂、さらにはエチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体、エチレン/一酸化炭素/ジエン共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン/酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルエーテルエラストマー、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリエステルアミドエラストマー、ポリエステルエステルエラストマーなどの各種エラストマー類などが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用しても良い。
これらの中でも公知のプロピレン系樹脂、ブテン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂から選ばれる樹脂(D)が好ましい。これらの中でも特に好ましいのはプロピレン樹脂である。理由は、その軽量性、価格、耐熱性、リサイクル性等の観点からである。即ち、強化繊維束含有プロピレン系樹脂組成物が成形材料や成形品に好ましく用いられる。
前記の樹脂(D)がオレフィン重合体の場合は、未変性のオレフィン系樹脂であっても、変性などの方法でカルボン酸構造やカルボン酸塩構造を含むオレフィン系樹脂であっても良い。前記未変性樹脂とカルボン酸やカルボン酸塩構造を含むオレフィン系樹脂の両方を用いる場合、その好ましい質量比は、99/1〜80/20であり、より好ましくは98/2〜85/15であり、更に好ましくは、97/3〜90/10である。前記のオレフィン系樹脂の組成としては、ブテン系樹脂(A)やオレフィン系樹脂(B)の説明で記載した単量体(オレフィンやカルボン酸エステル化合物など)由来の構造単位を含む一般的なオレフィン系樹脂が好ましい態様である。プロピレン系樹脂の場合、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、変性ポリプロピレンと言われるプロピレン重合体である。
本発明の樹脂(D)の重量平均分子量は、前記ブテン系樹脂(A)、オレフィン系樹脂(B)と下記のような関係にあることが好ましい。
ブテン系樹脂(A)>樹脂(D)>オレフィン系樹脂(B)
樹脂(D)の分子量としては、特にプロピレン系樹脂の場合、具体的には5万〜35万の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10万〜33万であり、更に好ましくは15万〜32万である。またブテン系樹脂(A)と樹脂(D)との分子量の差は、好ましくは1万〜10万であり、より好ましくは2万〜8万である。
本発明の成形材料(強化繊維束含有樹脂組成物)は、前記強化繊維束1〜70質量部であり、好ましくは3〜68質量部であり、より好ましくは5〜65質量部を含んでいる。一方、樹脂(D)は、99〜30質量部、好ましくは97〜32質量部、より好ましくは95〜35質量部を含まれる。但し、上記の割合は、前記強化繊維束と樹脂(D)の合計を100質量部とした時の値である。
樹脂(D)は、主として強化繊維(C)、ブテン系樹脂(A)、オレフィン系樹脂(B)を含む強化繊維束の周りに接着するような態様になっていることが好ましい。本願発明においては、ブテン系樹脂(A)は、恐らくその溶融後の冷却時の硬化速度の遅さや緩和時間の長さに起因すると思われる特性から、前述の通り、本発明の強化繊維束は毛羽立ったりし難く、強度的には有利であると考えられる。また、本発明の強化繊維束は、ブテン系樹脂(A)等を含んでいるので、公知のエポキシ系樹脂を含む強化繊維束に比して粘着性が低い傾向がある。これはブテン系樹脂(A)が比較的極性が少ないことが影響しているのであろう。
特に、40,000本以上の炭素繊維を束にした繊維束(ラージトウ)では、従来の繊維束に比べ毛羽立ち易く品位が劣る傾向があったが、本発明を用いれば、その現象の改善に有利である。
本発明の樹脂(D)として好ましい態様は、未変性プロピレン系樹脂と酸変性プロピレン系樹脂を含む組成物である。このような態様であれば、ブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)の両方と相互作用と持ちやすいので、強化繊維束とマトリックス樹脂との間に高い接着力は発現することが期待できる。
本発明に用いられる前記プロピレン系樹脂は、公知の方法で製造することが出来、その樹脂(重合体)の立体規則性はイソタクチックであってもシンジオタクチックであってもアタクチックであっても良い。立体規則性は、イソタクチックもしくはシンジオタクチックであることが好ましい。
上記のようなプロピレン系樹脂(特に未変性の樹脂)の具体的な製造方法は、例えば、国際公開2004/087775号パンフレット、国際公開2006/057361号パンフレット、国際公開2006/123759号パンフレット、特開2007−308667号公報、国際公開2005/103141号パンフレット、特許4675629号公報、国際公開2014/050817号パンフレット、特開2013−237861号公報等を挙げることが出来る。
また、エマルションの製造方法も公知の方法を使用することが出来、例えば、国際公開2007/125924号パンフレット、国際公開2008/096682号パンフレット、特開2008−144146号公報等を例示することが出来る。
尚、前述の毛羽立ちなどの原因と考えられる繊維束の解れ易さを特定する方法として、特許5584977号公報に記載の方法や特開2015−165055号公報に記載の集束性の評価方法が知られている。本願の実施例では前者で評価する。後者については、具体的には、下記のような方法である。
強化繊維束をステンレス製のハサミを用いて5mm程度の短繊維に裁断する。得られた短繊維を以下の目視判定で評価する。
○:短繊維が裁断前とほぼ同じ状態を保っている。
×:短繊維が大きくばらけたり、割れが生じている。
本発明の強化繊維束を形成する単繊維は、より強い接着性を発揮するために、単繊維表面の60%以上がブテン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)とを含む混合物で被覆されていることが好ましい。被覆されていない部分は接着性を発揮することができず、剥離の起点となり結果として全体の接着性を下げてしまうことがある。より好ましくは70%以上を被覆した状態であり、さらに好ましくは80%以上を被覆した状態である。被覆状態は走査型電子顕微鏡(SEM)または繊維表面の元素分析でカルボン酸塩の金属元素をトレースする手法などを用いることができる。
本発明における強化繊維束の好ましい形状の一つとして、連続繊維であるロービングを所定の長さにカットしたチョップド強化繊維束、粉砕したミルド糸が挙げられ、取扱い性の観点から、チョップド強化繊維束が好ましく用いられる。このチョップド強化繊維束における繊維長さは特に限定されるものでは無いが、集束性を十分に発揮しカットされたあとの形状を十分に維持し、取扱いやすい観点から1〜30mmの範囲が好ましく、2〜15mmの範囲がより好ましい。チョップド強化繊維束の集束性が不足すると、チョップド強化繊維束を搬送する際などの擦過で毛羽立ちが発生し、ファイバーボールとなって取扱い性が悪くなる場合がある。特にコンパウンド用途への使用時には、ファイバーボール発生により押出機へのチョップド糸の供給性が悪くなり、生産性を低下させる可能性がある。集束性の指標としては、チョップド強化繊維束の嵩密度が挙げられる。嵩密度は一定質量のチョップド強化繊維束を容器に充填させてその占有体積を求め、質量を体積で除することで求められる。
本発明の強化繊維束を用いた成形方法については、特に制限はなく、本発明の強化繊維束と上述のマトリックス樹脂(D)を一度溶融混練して成形材料としたコンパウンドペレットを用いた成形方法(1)、強化繊維束を上述のマトリックス樹脂(D)ペレットと混合してなる成形材料を直接成形機に供給し、または強化繊維束と上述のマトリックス樹脂(D)ペレットとを個別に直接成形機に供給し、成形品型に注入、冷却固化させる直接成形法(2)、強化繊維束を上述のマトリックス樹脂(D)で被覆して長繊維ペレットの成形材料を用いた成形方法(3)などがある。
また、本発明の強化繊維束を用いた別の成形方法としては、例えば、開繊された繊維束を引き揃えた後、溶融したマトリックス樹脂(D)と接触させることにより、一方向性炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形体(一方向性材)を得る方法を挙げることも出来る。この一方向性材はそのまま使用することもできるし、複数積層して一体化することにより積層体を作成してそれを使用することもできる。
本発明の強化繊維束は、種々の用途に展開できる。特にインストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、プラズマディスプレーなどの電気・電子部品、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品に好適である。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(1)樹脂の強化繊維束への付着量測定
樹脂の付着した強化繊維束を約5g取り、120℃で3時間乾燥し、その質量W1(g)を測定した。次いで強化繊維束を窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、室温まで冷却しその質量W2(g)を測定した。W1(g)およびW2(g)を用いて付着量は次式にて算出した。
付着量=[(W1−W2)/W2]×100(質量%)
(2)樹脂の重量平均分子量測定
(重合体の分子量)
ブテン系重合体を含むオレフィン系重合体の分子量の測定例としては、以下の条件でのGPC法で求める方法を挙げることが出来る。本願実施例ではこの方法を用いる。
液体クロマトグラフ:Polymer Laboratories社製 PL―GPC220型高温ゲル浸透クロマトグラフ(示差屈折率計装置内蔵)
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel GMHHR−H(S)−HT×2本および同GMHHR−H(S)×1本を直列接続した。
移動相媒体:1,2,4-トリクロロベンゼン(安定剤0.025%含有)
流速:1.0ml/分
測定温度:150℃
検量線の作成方法:標準ポリスチレンサンプルを使用した。
サンプル濃度:0.15%(w/v)
サンプル溶液量:500μl
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製単分散ポリスチレン
分子量較正方法:標準較正法(ポリスチレン換算)
(3)オレフィン系樹脂の構造解析
オレフィン系樹脂について、有機化合物元素分析、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析、IR(赤外吸収)スペクトル分析、1H−NMR測定および13C−NMR測定を実施し、プロピレン系樹脂の含有元素量、官能基構造の同定、各帰属プロトン、カーボンのピーク強度より単量体構造の含有割合について評価を実施した。
有機化合物元素分析は、有機元素分析装置2400II(PerkinElmer社製)を用いて実施した。ICP発光分析はICPS−7510(島津製作所社製)を用いて実施した。IRスペクトル分析はIR−Prestige−21(島津製作所製)を用いて実施した。1H−NMR測定および13C−NMR測定はJEOL JNM−GX400スペクトロメーター(日本電子製)を用いて実施した。
(4)オレフィン系樹脂(B)のカルボン酸塩含有量の測定
オレフィン系樹脂(B)(プロピレン系樹脂)に対して、以下の操作をおこなうことでカルボン酸塩含有量および中和されていないカルボン酸含有量を測定した。
オレフィン系樹脂0.5gをトルエン200ml中で加熱還流し、溶解させた。この溶液を0.1規定の水酸化カリウム−エタノール標準溶液で滴定し、下式より酸価を算出した。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
酸価=(5.611×A×F)/B(mgKOH/g)
A:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)
F:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター(1.02)
B:試料採取量(0.50g)
上記で算出した酸価を下式を用いて中和されていないカルボン酸基のモル数に換算した。
中和されていないカルボン酸基のモル数=酸価×1000/56(モル/g)
カルボン酸基の中和塩への転化率を、別途IR、NMRおよび元素分析等を用いてカルボン酸基のカルボニル炭素の定量をおこなって算出したカルボン酸基の総モル数(モル/g)を用いて下式にて算出した。
転化率%=(1−r)×100(%)
r:中和されていないカルボン酸基のモル数/カルボン酸基の総モル数。
(5)擦過毛羽数測定
特許5584977号の実施例に記載の方法と同様にして決定した。
擦過毛羽数が0〜10個/mを合格とし、それを超えると不合格とした。
(6)界面剪断強度(IFSS)の評価
本発明の強化繊維束とマトリックス樹脂との界面剪断せん断強度(フラグメンテーション法)の評価は以下の方法で測定した。マトリックス樹脂(D)からなる100μm厚の樹脂フィルム(20cm×20cm角)を2枚作製した。そして一方の樹脂フィルム上に、強化繊維束から取り出した20cm長の単繊維1本を直線状に配置し、他方の樹脂フィルムを単繊維を挟むように重ねて配置した。これを200℃で3分間、4MPaの圧力で加圧プレスし、単繊維が樹脂に埋め込まれたサンプルを作製した。このサンプルをさらに切出して、単繊維が中央に埋没した厚さ0.2mm、幅5mm、長さ30mmの試験片を得た。さらに同じ方法で合計5個の試験片を作製した。
これら5個の試験片に対して、通常の引張試験治具を用いて試験長14mm、歪速度0.3mm/minの条件で引張試験を行い、繊維の破断が起こらなくなった時の平均破断繊維長(l)を透過型光学顕微鏡を用いて測定した。フラグメンテーション法による界面せん断強度(τ)(MPa)は下式より求めた。
τ=(σf・d)/2Lc、 Lc=(4/3)・L
ここで、Lcは臨界繊維長、Lは最終的な繊維の破断長さ(μm)の平均値、σfは繊維の引張り強さ(MPa)、dは繊維の直径(μm)である。(参考文献:大沢ら、繊維学会誌Vol.33,No.1(1977))
σfは繊維の引張強度分布がワイブル分布に従うとして次の方法で求めた。即ち、単繊維を用い、試料長が5mm、25mm、50mmで得られた平均引張強度から最小2乗法により、試料長と平均引張強度との関係式を求め、試料長Lcの時の平均引張強度を算出した。
(7)粘着性
後述する実施例に記載のローラー含浸法にて得られた炭素繊維束をSUS304の試験片上に置き、120℃で乾燥させた。乾燥後、180°ピール法により下記の基準で粘着性を評価した。
○:繊維束がSUS304から簡単に剥がれる。
×:繊維束がSUS304と接着しており、剥がれ難い。
(8)開繊性
後述する実施例に記載のローラー含侵法にて得られた炭素繊維束を100℃以上に加熱した金属棒上を滑らせ、開繊状態を下記基準にて開繊性を評価した。
○:均一に繊維が広がる。
×:集束した繊維部分が残る。
以下、実施例にて使用した材料について参考例として示す。
<強化繊維(C)>
炭素繊維束(三菱レイヨン社製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR50S12L、フィラメント数12000本、ストランド強度5000MPa、ストランド弾性率242GPa)をアセトン中に浸漬し、10分間超音波を作用させた後、炭素繊維束を引き上げさらに3回アセトンで洗浄し、室温で8時間乾燥することにより付着しているサイジング剤を除去して用いた。
(製造例1−エマルションの製造方法)
ブテン系樹脂(A)として、公知のマグネシウム化合物担持型チタン触媒を用いてショアD硬度が65、ASTM1238規格に従い、190℃、2.16kg荷重の条件で測定したメルトフローレイト(MFR)が0.5g/10分であるブテン単独重合体を100質量部、プロピレン系樹脂(B1)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(重量平均分子量Mw=20,000、酸価:45mg−KOH/g)10質量部、界面活性剤として、オレイン酸カリウム3質量部を混合した。この混合物を2軸スクリュー押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM−30,L/D=40)のホッパーより3000g/時間の速度で供給し、同押出機のベント部に設けた供給口より、20%の水酸化カリウム水溶液を90g/時間の割合で連続的に供給し、加熱温度210℃で連続的に押出した。押出した樹脂混合物を、同押出機口に設置したジャケット付きスタティックミキサーで110℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入してエマルションを得た。得られたエマルションは固形分濃度:45%であった。
尚、前記無水マレイン酸変性プロピレン系樹脂は、プロピレン系重合体96質量部、無水マレイン酸4質量部、および重合開始剤としてパーヘキシ25B(日本油脂(株)製)0.4質量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って得られた。
<実施例1>
製造例1で製造したエマルションを、ローラー含浸法を用いて、前記三菱レーヨン性強化繊維に付着させた。次いで、オンラインで130℃、2分乾燥して低沸点成分を除去し、本発明の強化繊維束を得た。エマルションの付着量は0.90%であった。
粘着性の結果は○(簡単に剥がれる)であった。炭素繊維束の毛羽立ち性は合格であった。界面せん断強度(IFSS)はマトリックス樹脂(D)として、市販の未変性プロピレン樹脂(プライムポリマー社製、商品名プライムポリプロ(登録商標)J106MG)及び無水マレイン酸を0.5質量%グラフトした変性ポリプロピレン(ASTM D1238に準じて230℃で測定したメルトフローレートが9.1g/10分)の混合物(質量比95/5、Mw30万)を用いて測定した。IFSSは、19.9MPaであった。開繊性は○(均一に繊維が広がる)であった。
次いで、この強化繊維束57部と、マトリックス樹脂(D)として、市販の未変性プロピレン樹脂(プライムポリマー社製、商品名プライムポリプロJ106MG)及び無水マレイン酸を0.5質量%グラフトした変性ポリプロピレン(ASTM D1238に準じて230℃で測定したメルトフローレートが9.1g/10分)の混合物(質量比95/5、Mw30万)43部を用いて、本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形体を作製した(繊維体積分率Vf0.4)。
<比較例1>
市販のエポキシ系化合物を含む強化炭素繊維束を用いた以外は実施例1と同様にして本発明の強化繊維束を得た。炭素繊維束は毛羽立ちがやや目立つ状態であった。IFSSは11MPaであった。粘着性は×(剥がれ難い)であった。開繊性は○(均一に繊維が広がる)であった。
上記の実施例、比較例からわかる通り、本発明の強化繊維束は、少ない毛羽立ちと高い界面せん断強度とが両立した優れた性能を有することが分かる。また、強化繊維束そのものの粘着性は低い為、取扱い性に優れている。このため、その強化繊維束を含む樹脂組成物も優れた強度や外観を有することが期待される。