本発明の樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、特定のテープワインディングパイプに樹脂成形体が接続された樹脂成形体付きテープワインディングパイプである。
本発明におけるテープワインディングパイプは、後述する特定の積層構造を有しており、各層は少なくとも繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂組成物層を含んでいる。
本発明の積層構造の各層を形成する繊維強化樹脂組成物層は、繊維が配向している公知の繊維強化樹脂組成物層を制限なく適用することが出来る。強化繊維としては無機物の繊維が挙げられ、より具体的には金属酸化物繊維、ガラス繊維、モスハイジ、炭酸カルシウムウィスカーなどを挙げることが出来る。これらの中では無機酸化物繊維が好ましい、より好ましくはガラス繊維を挙げることが出来る。
他の強化繊維として有力な例としては炭素繊維を挙げることもできる。このような炭素繊維としては後述するような公知の炭素繊維を制限なく用いることが出来る。
これらの強化繊維の中では、特に炭素繊維であることが好ましい。
繊維強化樹脂組成物層を形成する樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば、公知の物を制限なく適用することが出来る。より具体的には、強化繊維シートを形成する公知の熱可塑性樹脂を制限なく用いることが出来る。より具体的には、例えば、アクリル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリカーボネート系重合体、ポリアミド系重合体、スチレン系重合体やオレフィン系重合体を挙げることが出来る。今後の環境問題を考慮すると、熱可塑性樹脂としてはオレフィン系重合体が好ましい例として挙げられる。より具体的にはプロピレン系重合体、エチレン系重合体を好ましい例として挙げることが出来る。最も好ましい例としてはプロピレン系重合体を挙げることが出来る。なお、ポリオレフィンおよびオレフィン系重合体は、α−オレフィンから導かれる構成単位の含有率が50質量%以上である重合体を意味し、好ましくはα−オレフィンから導かれる構成単位の含有率が90質量%以上である重合体を意味する。また、ポリプロピレン、プロピレン系重合体およびプロピレン系樹脂は、プロピレンから導かれる構成単位の含有率が50質量%以上である重合体を意味する。
以下、本願においては、プロピレン系樹脂をマトリックス樹脂、炭素繊維を強化繊維とする炭素繊維強化樹脂組成物層を好ましい例として紹介する。
本発明の(α)〜(ε)層を形成するのは、通常、繊維強化樹脂組成物である。この繊維強化樹脂組成物の好ましい例としては、強化繊維(C)と炭素数2〜20の構造単位を含み、融点もしくはガラス転移温度が50〜300℃の重合体(I)と好ましくは色素(II)とを含むことを特徴とする態様である。より具体的な好ましい例としては、以下のような強化繊維束、マトリックス樹脂(重合体(I)の例)、および好ましくは色素(II)とを含む。
前記の強化繊維束は、炭素数2〜20のオレフィン単位を含むポリオレフィンであり、プロピレンから導かれる構成単位が好ましくは50モル%以上であるプロピレン系樹脂(A)と、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂(B)と、強化繊維(C)とを含むことが好ましい。
強化繊維束中のプロピレン系樹脂(A)は、重量平均分子量が5万を超える成分(A−1)60質量%を超え100質量%以下、及び、重量平均分子量10万以下の成分(A−2)0〜40質量%(但し成分(A−1)と(A−2)の合計が100質量%であり、その分子量は(A−1)>(A−2)である。)を含むことが好ましい。ここで、プロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量は、プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量よりも高い。プロピレン系樹脂(A)中の成分(A−1)の好ましい含有率は、70質量%を超え、100質量%以下である。プロピレン系樹脂(A)の好ましい融点またはガラス転移温度は0〜165℃である。融点を示さない樹脂を用いる場合もある。
強化繊維束中のプロピレン系樹脂(B)の量は、プロピレン系樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部、より好ましくは5〜45質量部、特に好ましくは10〜40質量部である。プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の合計量は、強化繊維束全体100質量%中、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは3〜55質量%、特に好ましくは3〜50質量%である。
強化繊維(C)としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度、高弾性率繊維を使用できる。これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、力学特性の向上、成形品の軽量化の点から、PAN系、ピッチ系又はレーヨン系の炭素繊維が好ましい。さらに、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点からPAN系炭素繊維が特に好ましい。また、導電性を付与した強化繊維、例えば、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を含む強化繊維も使用できる。金属は、強化繊維を被覆するような形態で含まれることが好ましい。
炭素繊維において、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]は、好ましくは0.05〜0.5、より好ましくは0.08〜0.4、特に好ましくは0.1〜0.3である。表面酸素濃度比が0.05以上であると、炭素繊維表面の官能基量を確保でき、樹脂とより強固な接着を得ることができる。表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性、生産性のバランスの点から、0.5以下が一般的に好ましい。
炭素繊維の表面酸素濃度比[O/C]は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めることができる。まず、炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを溶剤で除去し、炭素繊維束を20mmにカットする。これを銅製の試料支持台に拡げて並べ、X線源としてA1Kα1、2を用い、試料チャンバー中を1×108Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。そして、K.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりC1sピーク面積を求める。また、K.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりO1sピーク面積を求める。このO1sピーク面積及びC1sピーク面積の比と装置固有の感度補正値を用いて、原子数比として表面酸素濃度比[O/C]を算出する。X線光電子分光法装置としては、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とする。
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に制御する方法は、特に限定されない。例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理、気相酸化処理などの方法により制御できる。中でも電解酸化処理が好ましい。
強化繊維(C)の平均繊維径は特に限定されないが、得られる成形品の力学特性と表面外観の点から、好ましくは1〜20μm、より好ましくは3〜15μmである。強化繊維束の単糸数は特に制限されないが、通常は100〜350,000本、好ましくは1,000〜250,000本、より好ましくは5,000〜220,000本である。さらに、本発明では後述するプロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)を用いるので、繊維数40,000以上の繊維束(ラージトウ)にも優れた効果を示すことも期待される。
強化繊維束中のプロピレン系樹脂(A)に含まれる成分(A−1)[以下「プロピレン系樹脂成分(A−1)」とも言う]の重量平均分子量は5万超え、好ましくは7万以上、より好ましくは10万以上である。プロピレン系樹脂成分(A−1)の重量平均分子量の上限値は特に制限されないが、成形時の溶融流動性や成形体の外観の点から、好ましくは70万、より好ましくは50万、特に好ましくは45万、最も好ましくは40万である。
成分(A−1)及び成分(A−2)との合計を100質量%とする場合、プロピレン系樹脂成分(A−1)の量は60質量%を超え100質量%以下であり、好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは73〜100質量%である。
プロピレン系樹脂(A)中に必要に応じて含まれる成分(A−2)[以下「プロピレン系樹脂成分(A−2)」とも言う]の重量平均分子量は10万以下であり、好ましくは5万以下、より好ましくは4万以下である。プロピレン系樹脂成分(A−2)の重量平均分子量の下限値は、強化繊維束の強度や取扱い性(ベタ付きなど)の点から、好ましくは10,000、より好ましくは15,000、特に好ましくは20,000、最も好ましくは25,000である。
成分(A−1)及び成分(A−2)の合計を100質量%とする場合、プロピレン系樹脂成分(A−2)の量は0〜40質量%であり、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜27質量%である。
プロピレン系樹脂成分(A−1)の重量平均分子量と、プロピレン系樹脂成分(A−2)との重量平均分子量との差は、好ましくは20,000〜300,000、より好ましくは30,000〜200,000、更に好ましくは35,000〜200,000である。
プロピレン系樹脂(A)は、重量平均分子量が高いプロピレン系樹脂成分(A−1)が比較的多く含まれるので、強化繊維束に用いるプロピレン系樹脂(A)の量が比較的少なくても、毛羽立ちの問題や、衝撃等の要因による崩壊、剥がれ、折れ等の形状変化の問題や、それらに起因する微粉の発生の問題が生じにくい傾向にある。
プロピレン系樹脂(A)はプロピレン由来の構造単位を有する樹脂であり、通常はプロピレンの重合体である。特に、プロピレン由来の構造単位と共に、α−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどから選ばれる少なくとも一種のオレフィン(プロピレンを除く)やポリエン由来の構造単位が含まれる共重合体が好ましい。
α−オレフィンの具体的としては、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等のプロピレンを除く炭素原子数2〜20のα−オレフィンが挙げられる。中でも1−ブテン、エチレン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンが好ましく、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンがより好ましい。
共役ジエン及び非共役ジエンの具体例としては、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられる。
以上のα−オレフィン、共役ジエン及び非共役ジエンは、2種類以上併用しても良い。
プロピレン系樹脂(A)は、プロピレンと前記のオレフィンやポリエン化合物とのランダム又はブロック共重合体であることが好ましい。本願の目的を損なわない範囲内であれば、プロピレン系樹脂(A)と共に他のオレフィン系重合体を併用することも出来る。他のオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体が好ましい。
プロピレン系樹脂(A)のプロピレン由来の構成単位の割合は、後述するプロピレン系樹脂(D)(一般的に、マトリックス樹脂と言われる)やプロピレン系樹脂(B)との親和性を高める点から、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは、50〜99モル%、特に好ましくは55〜98モル%、最も好ましくは60〜97モル%である。
プロピレン系樹脂(A)における単量体繰り返し単位の同定には、一般に13CNMR法が用いられる。質量分析及び元素分析が用いられることもある。また、NMR法で組成を決定した組成の異なる複数種の共重合体のIR分析を行い、特定波数の吸収や検体の厚さ等の情報から検量線を作成して組成を決定する方法を用いることも出来る。このIR法は工程分析などに好ましく用いられる。
プロピレン系樹脂(A)は、そのショアA硬度が60〜90であるか、又はショアD硬度が45〜65であることが好ましい。ショアA硬度のより好ましい範囲は65〜88であり、特に好ましくは70〜85である。ショアD硬度のより好ましい範囲は48〜63であり、特に好ましくは50〜60である。プロピレン系樹脂(A)のショアA硬度又はショアD硬度がこれらの範囲内であると、強化繊維への追従性が良く、部分的な割れなどが発生し難く、安定した形状の強化繊維束を形成し易い。また後述するプロピレン系樹脂(D)と組み合わせた組成物の強度を高める上で有利な傾向がある。これはプロピレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(D)とが良好な分子鎖の絡み合い構造を取るためと推測される。
プロピレン系樹脂(A)は、カルボン酸基やカルボン酸エステル基等を含む化合物で変性されていても良いし、未変性体であっても良い。プロピレン系樹脂(A)が変性体である場合、その変性量は−C(=O)−O−で表される基換算で、好ましくは2.0ミリモル当量未満、より好ましくは1.0ミリモル当量以下、特に好ましくは0.5ミリモル当量以下である。また、プロピレン系樹脂(A)が変性体である場合、好ましくはプロピレン系樹脂成分(A−2)が変性体である。
一方、用いる用途によってはプロピレン系樹脂(A)は、実質的に未変性体であることが好ましい場合もある。ここで、実質的に未変性とは、望ましくは全く変性されていないことであるが、変性されたとしても前記目的を損なわない範囲である。その変性量は−C(=O)−O−で表される基換算で、好ましくは0.05ミリモル当量未満、より好ましくは0.01ミリモル当量以下、特に好ましくは0.001ミリモル当量以下、最も好ましくは0.0001ミリモル当量以下である。
プロピレン系樹脂(B)は、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を少なくとも含むプロピレン系樹脂である。このカルボン酸塩は、強化繊維(C)との相互作用を高める点で効果的である。
プロピレン系樹脂(B)の原料のうち、プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体で代表される、プロピレンとα−オレフィンの単独又は2種類以上との共重合体が挙げられる。原料のうち、カルボン酸構造を有する単量体としては、例えば、中和されている又は中和されていないカルボン酸基を有する単量体、ケン化されている又はケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体が挙げられる。このようなプロピレン系重合体とカルボン酸構造を有する単量体とをラジカルグラフト重合するのが、プロピレン系樹脂(B)を製造する代表的な方法である。プロピレン系重合体に用いられるオレフィンの具体例は、プロピレン系樹脂(A)に用いられるオレフィンと同様である。
特殊な触媒を用いることにより、プロピレンとカルボン酸エステルを有する単量体とを直接重合してプロピレン系樹脂(B)を得たり、エチレンが多く含まれる重合体であればエチレン及びプロピレンとカルボン酸構造を有する単量体とを高圧ラジカル重合してプロピレン系樹脂(B)を得たりすることが出来る可能性もある。
中和されている又は中和されていないカルボン酸基を有する単量体、及びケン化されている又はケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、そのエステル;オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物が挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸が挙げられる。無水物の具体例としては、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有ビニル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有ビニル類、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、N、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
以上の単量体は2種類以上を併用しても良い。中でも、酸無水物類が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
プロピレン系樹脂(B)は、先に述べたように種々の方法で得ることができる。より具体的には、例えば、有機溶剤中でプロピレン系重合体と不飽和ビニル基を有するエチレン系不飽和カルボン酸又はオレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体とを重合開始剤の存在下で反応させ、その後脱溶剤する方法;プロピレン系重合体を加熱溶融して得た溶融物に不飽和ビニル基を有するカルボン酸と重合開始剤とを攪拌下で反応させる方法;プロピレン系重合体と不飽和ビニル基を有するカルボン酸と重合開始剤との混合物を押出機に供給して加熱混練しながら反応させ、その後中和やけん化などの方法でカルボン酸塩とする方法;が挙げられる。
重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3,1,4−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等の各種パーオキサイド化合物が挙げられる。また、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物を用いても良い。重合開始剤は2種以上を併用しても良い。
有機溶剤の具体例としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、イソオクタン、イソデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;酢酸エチル、n−酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3メトキシブチルアセテート等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;が挙げられる。2種以上の有機溶剤の混合物を用いても良い。中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素がより好ましい。
プロピレン系樹脂(B)のカルボン酸基の含有率は、後述するNMRやIR測定で決定出来ることは公知である。またカルボン酸基の含有率を酸価で特定することも出来る。プロピレン系樹脂(B)の酸価は、好ましくは10〜100mg−KOH/g、より好ましくは20〜80mg−KOH/g、特に好ましくは25〜70mg−KOH/g、最も好ましくは25〜65mg−KOH/gである。
プロピレン系樹脂(B)を中和又はケン化工程を経て得る方法は、プロピレン系樹脂(B)の原料を水分散体にして処理することが容易となるので、実用的に好ましい方法である。
水分散体の中和又はケン化に用いる塩基性物質の具体例としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属又はその他金属類;ヒドロキシルアミン、水酸化アンモニウム等の無機アミン;アンモニア、(トリ)メチルアミン、(トリ)エタノールアミン、(トリ)エチルアミン、ジメチルエタノールアミン、モルフォリン等の有機アミン;酸化ナトリウム、過酸化ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属又はその他金属類の酸化物、水酸化物、水素化物;炭酸ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属又はその他金属類の弱酸塩;が挙られる。塩基物質により中和又はケン化されたカルボン酸塩又はカルボン酸エステル基としては、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;カルボン酸アンモニウムが好適である。
中和度又はけん化度、すなわちプロピレン系樹脂(B)の原料が有するカルボン酸基の金属塩やアンモニウム塩等のカルボン酸塩への転化率は、水分散体の安定性と繊維との接着性の点から、通常50〜100%、好ましくは70〜100%、より好ましくは85〜100%である。プロピレン系樹脂(B)におけるカルボン酸基は、塩基物質によりすべて中和又はケン化されていることが好ましいが、カルボン酸基の一部が中和又はケン化されずに残存していても良い。
カルボン酸基の塩成分を分析する手法としては、例えば、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を行う方法、IR、NMR、質量分析又は元素分析等を用いて酸基の塩の構造を同定する方法がある。
カルボン酸基の中和塩への転化率を算出する方法としては、例えば、加熱トルエン中にプロピレン系樹脂(B)を溶解し、0.1規定の水酸化カリウム−エタノール標準液で滴定し、プロピレン系樹脂(B)の酸価を下式より求め、元のカルボン酸基の総モル数と比較して算出する方法がある。
酸価=(5.611×A×F)/B(mgKOH/g)
A:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)
F:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター
B:試料採取量(g)
次に、以上の方法で算出した酸価を下式を用いて中和されていないカルボン酸基のモル数に換算する。
中和されていないカルボン酸基のモル数=酸価×1000/56(モル/g)
そして、別途IR、NMR及び元素分析等の方法によりカルボン酸基のカルボニル炭素の定量を行って算出したカルボン酸基の総モル数(モル/g)を用いて、下式よりカルボン酸基の中和塩への転化率を算出する。
転化率%=(1−r)×100(%)
r:中和されていないカルボン酸基のモル数/カルボン酸基の総モル数
また、強化繊維(C)との相互作用を高める観点から、前記プロピレン系樹 強化繊維(C)との相互作用を高める観点から、前記プロピレン系樹脂(B)の重合体鎖に結合したカルボン酸塩の含有量は、プロピレン系樹脂(B)1g当たり、−C(=O)−O−で表される基換算で総量0.05〜5ミリモル当量であることが好ましい。より好ましくは0.1〜4ミリモル当量、特に好ましくは0.3〜3ミリモル当量である。上記のようなカルボン酸塩の含有量を分析する手法としては、ICP発光分析で塩を形成している金属種の検出を定量的に行う方法や、IR、NMR及び元素分析等を用いてカルボン酸塩のカルボニル炭素の定量をおこなう方法が挙げられる。カルボン酸骨格の含有率のより具体的な測定方法は以下の方法を例示できる。試料を100MHz以上の条件で120℃以上の高温溶液条件で、13C NMR法によりカルボン酸骨格の含有率を常法により特定することが出来る。また、カルボニル骨格の含有率の異なる複数の試料を前記13C NMRで測定してカルボン酸骨格の含有率を特定した後、同じ試料のIR測定を行い、カルボニルなどの特徴的な吸収と試料厚みや他の代表的な吸収との比とカルボン酸骨格の含有率との検量線を作成することで、IR測定により、カルボン酸骨格の導入率を特定する方法も知られている。
プロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量は、プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量よりも高い。両者の差は、好ましくは10,000〜380,000、より好ましくは120,000〜380,000、特に更に好ましくは130,000〜380,000である。これにより、プロピレン系樹脂(B)が成形時に移動し易く、強化繊維(C)とプロピレン系樹脂(B)との相互作用が強くなることが期待される。
プロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量は、上記相互作用の点及びプロピレン系樹脂(A)との相溶性、特にプロピレン系樹脂(A−2)との相溶性の点から、好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは2,000〜80,000、特に好ましくは5,000〜50,000、最も好ましくは5,000〜30,000である。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって決定される。
プロピレン系樹脂(B)のメルトフローレート(ASTM1238規格、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは3〜500g/10分、より好ましくは5〜400g/10分、特に好ましくは7〜350g/10分である。
好ましいメルトフローレートの範囲は、ASTM1238規格、190℃、2.16kg荷重での測定値が上記と同様の数値範囲である場合もある。
プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)は、様々な形態で強化繊維(C)と接触させることが出来る。例えば、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)をそのまま、又は耐熱安定剤を併用して溶融させ、強化繊維(C)と接触させても良いし、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)をエマルションやサスペンション状態で強化繊維(C)と接触させても良い。接触工程の後に、熱処理を行っても良い。強化繊維(C)と効率的に接触させる点からは、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)は、エマルション状態で強化繊維(C)と接触させることが好ましい。
先に述べたとおり、プロピレン系樹脂(B)の量は、プロピレン系樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部、より好ましくは5〜45質量部、特に好ましくは5〜40質量部、最も好ましくは7〜40質量部である。この範囲内であれば、プロピレン系樹脂(A)に由来する強度や形状などに関係する特性と、強化繊維(C)との親和性とを高いレベルで両立させることが可能となる。プロピレン系樹脂(B)が3質量部より少なくなると、強化繊維(C)との親和性が低下し、接着特性に劣る可能性がある。またプロピレン系樹脂(B)が50質量部よりも多いと、混合物自体の強度が低下したり、毛羽が増大したりする場合があり、強固な接着特性を維持出来ない可能性がある。
プロピレン系樹脂(A)及び(B)の分子量や含有率を先に説明した範囲内にすることで、プロピレン系樹脂(A)及び(B)が効果的に強化繊維(C)及びマトリックス樹脂と相互作用を奏し、相溶性が比較的高くなり、接着性を向上させることが期待される。
強化繊維束には、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を併用しても構わない。例えば、プロピレン系樹脂をエマルション形態として強化繊維束に付与する場合は、エマルションを安定化させる界面活性剤などを加えていても構わない。そのような他の成分は、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の合計100質量%に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の含有率は、強化繊維束全体100質量%中、0.3〜5質量%であることもまた好ましい。本発明においては、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)の含有率が比較的少なくても、本発明の効果を得ることができる。ただし、この含有率が0.3質量%未満であると、強化繊維(C)がむき出しの部分が多数存在することがあり、これにより得られる製品の強度が低下したり、強化繊維束の取り扱い性が不十分となったりする場合がある。ここでいう取り扱い性とは、例えば、繊維束をボビンに巻き取る際の繊維束の硬さやさばけ易さである。また例えば、繊維束をカットしたチョップド繊維束の集束性のことをいう。一方、この含有率が5質量%を超えると、成形品の力学特性が極端に低下したり、繊維束が極端に硬くなりボビンに巻けなくなったりするなどの不具合を生じる場合がある。この含有率の下限値は、接着性と強化繊維束の取り扱い性とのバランスの点から、好ましくは0.4質量%である。一方、上限値は、好ましくは4質量%、より好ましくは3質量%である。
プロピレン系樹脂(A)及び(B)を強化繊維束に付着させる方法は、特に制限はない。均一に単繊維間に付着させやすい点から、プロピレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)との混合物のエマルションを強化繊維束に付与し、乾燥させる方法が好ましい。強化繊維束にエマルションを付与する方法としては、ローラー浸漬法、ローラー転写法、スプレー法などの公知の方法を用いることが出来る。
強化繊維束を用いた成形用樹脂組成物や成形品を成形する際のマトリックス樹脂については、後述するプロピレン系樹脂(D)であることが好ましい。また、その他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、アクリル樹脂[例えばポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)]、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオレフィン[例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン]、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂を用いても良い。また例えば、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体、エチレン/一酸化炭素/ジエン共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン/酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体を用いても良い。これらの1種または2種以上を併用しても良い。これらの中でも、特に極性の低いポリオレフィン系の樹脂が好ましく、コスト及び成形品の軽量性の観点からはエチレン系の重合体やプロピレン系の重合体がより好ましく、後述するプロピレン系樹脂(D)が特に好ましい。即ち、強化繊維束含有プロピレン系樹脂組成物が、成形材料や成形品に好ましく用いられる。また、マトリックス樹脂は、オレフィン系重合体、好ましくはプロピレン系重合体であると、高湿環境下におけるテープワインディングパイプの物性の低下を抑制できる傾向にあるため好ましい。高温高湿環境下における物性の低下が抑制されると、後述するクロスカービームなどの自動車部品として好ましく用いることができる。マトリックス樹脂がオレフィン系重合体、好ましくはプロピレン系重合体であると高湿環境下における物性の低下が抑制される理由は明らかではないが、強化繊維(C)とマトリックス樹脂との間に水分が入り込むことを抑制できるためであると推測される。
プロピレン系樹脂(D)は、未変性のプロピレン系樹脂であっても良いし、変性などの方法でカルボン酸構造やカルボン酸塩構造を含むプロピレン系樹脂であっても良い。未変性樹脂とカルボン酸やカルボン酸塩構造を含むプロピレン系樹脂の両方を用いる場合、その質量比(未変性体/変性体比)は、通常80/20〜99/1であり、好ましくは89/11〜99/1、より好ましくは89/11〜93/7、特に好ましくは、90/10〜95/5である。プロピレン系樹脂(D)の組成としては、プロピレン系樹脂(A)やプロピレン系樹脂(B)の説明で記載した単量体(オレフィンやカルボン酸エステル化合物など)由来の構造単位を含む一般的なプロピレン樹脂が好ましい。例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、変性ポリプロピレン等のプロピレン系重合体である。
プロピレン系樹脂(D)として好ましい態様は、未変性プロピレン系樹脂と酸変性プロピレン系樹脂を含む組成物である。このような態様であれば、レーザー融着法を用いても強化繊維(C)と樹脂との間の構造が変化し難い傾向がある。これは、強化繊維(C)近傍で変性プロピレン系樹脂成分(A−2)が破壊されたとしても、プロピレン系樹脂(D)の変性樹脂成分が補完する為ではないかと推測される。
マトリックス樹脂としてのプロピレン系樹脂(D)の重量平均分子量Mw(D)は、強化繊維束中のプロピレン系樹脂(A)の重量平均分子量Mw(A)及びプロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量Mw(B)と、以下の関係を満たすことが好ましい。
Mw(A)>Mw(D)>Mw(B)
プロピレン系樹脂(D)の具体的な重量平均分子量は、好ましくは5万〜35万、より好ましくは10万〜33万、特に好ましくは15万〜32万である。プロピレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(D)との分子量の差は、好ましくは1万〜40万、より好ましくは2万〜20万、特に好ましくは2万〜10万である。
プロピレン系樹脂(D)は、強化繊維(C)、プロピレン系樹脂(A)及びプロピレン系樹脂(B)を含む強化繊維束の周りに接着するような態様になっていることが好ましい。
プロピレン系樹脂(D)は、公知の方法で製造できる。その樹脂(重合体)の立体規則性はイソタクチックであっても、シンジオタクチックであっても、アタクチックであっても良い。立体規則性は、イソタクチックもしくはシンジオタクチックであることが好ましい。
繊維強化樹脂組成物中の強化繊維束の量は25〜80質量部、好ましくは30〜75質量部、より好ましくは35〜70質量部である。オレフィン系重合体としてプロピレン系樹脂(D)を用いる場合、プロピレン系樹脂(D)の量は75〜20質量部、好ましくは70〜25質量部、より好ましくは65〜30質量部である。但し、これらは強化繊維束とプロピレン系樹脂(D)の合計を100質量部とした時の量である。
以上の各樹脂(特に未変性の樹脂)の具体的な製造方法は、例えば、国際公開第2004/087775号パンフレット、国際公開第2006/057361号パンフレット、国際公開第2006/123759号パンフレット、特開2007−308667号公報、国際公開第2005/103141号パンフレット、特許4675629号公報、国際公開第2014/050817号パンフレット、特開2013−237861号公報に記載されている。
繊維強化樹脂組成物中の強化繊維(C)と重合体(I)の質量比率は、通常80/20〜20/80、好ましくは75/25〜30/70、より好ましくは70/30〜35/65、特に好ましくは65/35〜40/60、最も好ましくは60/40〜40/60である。強化繊維(C)の量が多過ぎると、テープワインディング成形体にテープ剥離が起こり易くなることがある。一方、重合体(I)の量が多過ぎるとテープワインディングパイプの強度が低下することがある。
重合体(I)は、好ましくはプロピレン系重合体である。重合体(I)の融点またはガラス転移温度は50〜300℃である。下限値は、好ましくは70℃、より好ましくは80℃である。一方、上限値は、好ましくは280℃、より好ましくは270℃、特に好ましくは260℃である。また、融点がこれら温度範囲内であることが好ましく、融点は250℃以下であることがより好ましく、240℃以下であることが特に好ましい。
重合体(I)には、カルボン酸基が含まれていることが好ましい。強化繊維(C)とオレフィン系重合体(I)の合計を100質量%として、樹脂中のカルボン酸基を含む構造単位の含有率は、0.010〜0.045質量%、好ましくは0.012〜0.040質量%、特に好ましくは0.015〜0.035質量%である。カルボン酸基を含む構造単位の含有率が低過ぎると、テープワインディング成形体にテープ剥離が起こり易くなることがある。カルボン酸基を含む構造単位としては、例えば、プロピレン系樹脂(A)、プロピレン系樹脂(B)、プロピレン系樹脂(D)に含まれるカルボン酸基由来の構造単位やカルボン酸塩由来の構造単位が挙げられる。
重合体(I)のカルボン酸基は、その含有率を酸価で把握することも可能である。その酸価は、好ましくは0.1〜0.55mg−KOH/g、より好ましくは0.12〜0.45mg−KOH/g、特に好ましくは0.13〜0.40mg−KOH/gである。
重合体(I)のメルトフローレート(ASTM1238規格、230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは1〜500g/10分、より好ましくは3〜300g/10分、特に好ましくは5〜100g/10分である。
重合体(I)の重量平均分子量は、好ましくは5万〜40万、より好ましくは10万〜37万であり、特に好ましくは15万〜35万である。
エマルションの製造方法も公知の方法を使用することが出来、例えば、国際公開第2007/125924号パンフレット、国際公開第2008/096682号パンフレット、特開2008−144146号公報に記載されている。
前述の毛羽立ちなどの原因による繊維束の解れ易さを特定する方法として、例えば、特許5584977号公報に記載の方法や特開2015−165055号公報に記載の集束性の評価方法が知られている。本明細書の実施例では前者で評価する。後者については、具体的には、以下のような方法である。
強化繊維束をステンレス製のハサミを用いて5mm程度の短繊維に裁断する。得られた短繊維を以下の目視判定で評価する。
○:短繊維が裁断前とほぼ同じ状態を保っている。
×:短繊維が大きくばらけたり、割れが生じている。
強化繊維束を形成する単繊維は、より強い接着性を発揮するために、単繊維表面の60%以上がプロピレン系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)とを含む混合物で被覆されていることが好ましい。被覆されていない部分は接着性を発揮することができず、剥離の起点となり、全体の接着性を下げてしまうことがある。70%以上を被覆した状態がより好ましく、80%以上を被覆した状態が特に好ましい。被覆状態は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は繊維表面の元素分析でカルボン酸塩の金属元素をトレースする方法により評価できる。
本発明に用いられる繊維強化樹脂組成物は、好ましくは波長が300〜3000nmの光を吸収する色素(II)を含んでいても良い。色素(II)としては、公知の色素を制限無く使用できる。例えば、カーボン系の色素が好ましく、カーボンブラックがより好ましい。
繊維強化樹脂組成物中の色素(II)の量は、好ましくは0.01〜5質量%である。下限値は、好ましくは0.1質量%、より好ましくは0.2質量%である。上限値は、好ましくは3質量%、より好ましくは2質量%である。
強化繊維束を用いた成形方法としては、例えば、開繊された強化繊維束を引き揃えた後、溶融したマトリックス樹脂と接触させることにより、繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂成形体(一方向性材)を得る方法が挙げられる。一方向性材はそのまま使用することもできるし、複数積層して一体化することにより積層体にすることもできる。また、適宜切断してテープ形状にすることも出来る。一方向性材は、特開昭63−247012号公報などに記載されているような切込みが入っていても良い。
本発明におけるテープワインディングパイプは、パイプの内面より(α)〜(γ)の3層と、パイプの外面より内面と対称の(δ)〜(ζ)の3層を層最小の構成として持ち、その間に複数の任意の角度の層を持っていてもよい積層構造を有する。(α)〜(ζ)層は、繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂組成物層である。パイプの中心軸を基準軸としたとき、(α)〜(ζ)層の基準軸に対する配向軸の角度は、下記の関係を満たす。
(α)層:60°〜85°
(β)層:−85〜−60°
(γ)層:0°〜40°
(δ)層:−40°〜0°
(ε)層:60°〜85°
(ζ)層:−85°〜−60°
(β)層の角度は、(α)層の角度と絶対値が同じで、正負が逆の角度であることが好ましい。(δ)層の角度は、(γ)層の角度と絶対値が同じで、正負が逆の角度であることが好ましい。(ζ)層の角度は、(ε)層の角度と絶対値が同じで、正負が逆の角度であることが好ましい。
ここで(α)層と(β)層、(ε)層と(ζ)層は、トラバース巻きで部分的に交差していてもよい。また、6層で構成されるパイプの場合は、(γ)層と(δ)層は、トラバース巻きで部分的に交差していてもよい。トラバース巻きとは、回転するマンドレルにテープを巻きつけるヘッドが、一定速度で左から右に動き、その後、右から左に動く動作を繰り返して、マンドレル表面をすべて埋めるように巻きつけてゆく巻き方である。トラバース巻きを行う場合、例えば、+80°の層と−80°の層が一定の規則性を持って交互に表面に出てくる。
好ましい各層の角度の範囲は以下の通りである。
(α)層:70°〜80°
(β)層:−80°〜−70°
(γ)層:10°〜20°
(δ)層:−20°〜−10°
(ε)層:70°〜80°
(ζ)層:−80°〜−70°
本発明においては、パイプの内面より(α)〜(γ)の3層と、パイプの外面より内面と対称の(δ)〜(ζ)の3層を層最小の構成として持ち、その間に複数の任意の角度の層を持っていてもよい。(α)/(β)/(γ)と(δ)/(ε)/(ζ)を層最小の構成とし、12層構成の場合は、例えば(α)〜(γ)と(δ)〜(ζ)の間に、(φ)/(η)/(κ)/(λ)/(μ)/(π)の層が挿入される。具体的には、(α)/(β)/(γ)/(φ)/(η)/(κ)/(λ)/(μ)/(π)/(δ)/(ε)/(ζ)の12層構成になる。層の総数が奇数である15層構成の場合は、例えば(α)〜(γ)と(δ)〜(ζ)の間に、(φ)/(η)/(κ)/(λ)/(μ)/(π)/(ρ)/(Ψ)/(θ)の層が挿入される。具体的には、(α)/(β)/(γ)/(φ)/(η)/(κ)/(λ)/(μ)/(π)/(ρ)/(Ψ)/(θ)/(δ)/(ε)/(ζ)の15層構成になる。15層中の7〜9層目の(λ)/(μ)/(π)はトラバース巻きをすることができないので、単独の層としてワインディングを行う。6層、12層、15層の場合を例示したが、所望のパイプの肉厚に合わせて、6層以上の層数であれば何層でも任意の層を設けることができる。
以上説明した積層構造を有していれば、射出成形時の応力によるパイプの割れが抑制されると推測される。
本発明におけるテープワインディングパイプは、その表面がブラスト処理されていることが好ましい。これにより、後述の樹脂成形体との接続強度がより向上する傾向にある。
本発明の樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、上述のテープワインディングパイプに樹脂成形体が接続されている。
樹脂成形体を構成する樹脂成分としては、熱可塑性樹脂であれば特に制限されず、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、アクリル樹脂[例えばポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)]、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリオレフィン[例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン]、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂を用いても良い。また例えば、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/ジエン共重合体、エチレン/一酸化炭素/ジエン共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン/酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体を用いても良い。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。中でも、高湿環境下における樹脂成形体の物性の低下を抑制する観点から、オレフィン系重合体が好ましく、プロピレン系重合体がより好ましい。高温高湿環境下における物性の低下が抑制されると、後述するクロスカービームなどの自動車部品として好ましく用いることができる。
樹脂成形体における樹脂成分の含有量は、樹脂成形体の全質量に対して、30質量%〜90質量%が好ましく、40質量%〜80質量%がより好ましい。
樹脂成形体を構成する樹脂成分としては、前述のマトリックス樹脂と同種の樹脂成分を主成分として含むことが好ましい。同種の樹脂成分を含むことで、接続強度に優れ、意図せぬ離脱が生じにくい傾向にある。ここで、主成分とは、樹脂成形体中に含まれる全樹脂成分のうち、最も含有量(質量)が多い樹脂成分を意味する。具体的には、マトリックス樹脂がオレフィン系重合体であり樹脂成形体中の樹脂成分がオレフィン系重合体である態様が好ましく、マトリックス樹脂がプロピレン系重合体であり樹脂成形体中の樹脂成分がプロピレン系重合体である態様がより好ましい。
樹脂成形体は、適度な硬さを付与する観点から、強化繊維(E)を含むことが好ましい。強化繊維(E)としては、前述の強化繊維(C)と同様の各種繊維が例示できる。樹脂成形体中に含まれる強化繊維(E)としては、炭素繊維および無機酸化物繊維からなる群より選ばれる繊維を含むことが好ましい。
樹脂成形体における強化繊維(E)の含有量は、樹脂成形体の全質量に対して、10質量%〜70質量%が好ましく、20質量%〜60質量%がより好ましい。上記範囲であると、樹脂成形体に適度な硬さを付与できる傾向にあり、例えば後述するクロスカービームなどの自動車部品や、手すりなどの建築資材に好ましく用いることができる。
樹脂成形体は、テープワインディングパイプの少なくとも一部に接続されていればよい。また、テープワインディングパイプに接続されている樹脂成形体の数は特に制限されず、1以上であればよい。樹脂成形体とテープワインディングパイプとの接続方法は、例えば、テープワインディングパイプに樹脂成形体を射出成形する方法が挙げられるが、特に制限されず、例えば接着剤によって接続していてもよい。
1つの樹脂成形体とテープワインディングパイプとが接続された部分の面積の大きさは、樹脂成形体の質量に応じて不意な離脱が生じない程度の大きさを選択すればよい。
接続された樹脂成形体の断面積の最大値に対する、その樹脂成形体とテープワインディングパイプとが接続された部分の面積の割合(接続された部分の面積/断面の最大値)は、1.05〜30.0が好ましく、1.30〜10.0がより好ましい。上記の範囲であると樹脂成形体の意図せぬ離脱が生じにくく、かつ、複数の樹脂成形体を付与できる傾向にある。ここで、樹脂成形体の断面積とは、テープワインディングパイプから10mm離間した位置で樹脂成形体を切断した際の断面積である。
樹脂成形体とテープワインディングパイプとが接続された部分のパイプの周方向の長さは、パイプの周方向の全長に対して25%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。上記範囲であると、樹脂成形体の意図せぬ離脱が生じにくくなる傾向にある。
本発明の樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、自動車部品、自転車用部品、電気・電子部品、家庭・事務電気製品部品、建築資材に好適に用いることができる。中でも、自動車部品であるクロスカービームとして好ましく用いることができる。これは、本発明の樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、パイプの幅方向から加わる力に対しては比較的強く、パイプの長さ方向から加わる力に対しては比較的弱いため、クロスカービームに用いることで自動車の側面からの衝撃を吸収できる傾向にあるためである。また、建築資材である手すり、ドアバーハンドルとして好ましく用いることができる。これは、本発明では樹脂成形体が付与されているため、ネジ等を用いて部品をさらに付与せずに手すりやドアバーハンドルとして用いることができるためである。
本発明の自動車部品は、少なくとも前述の樹脂成形体付きテープワインディングパイプを含む。本発明の自動車部品は、各種ブラケットなどの他の構成要素が付加されていてもよい。本発明の自動車部品は、好ましくはクロスカービームである。
本発明の建築資材は、少なくとも前述の樹脂成形体付きテープワインディングパイプを含む。本発明の建築資材は、他の構成要素が付加されていてもよい。本発明の建築資材は、好ましくは手すり及びドアバーハンドルからなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明における樹脂成形体付きテープワインディングパイプの製造方法は、繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂組成物層を含むテープの表面をレーザー溶融させながらマンドレルに接触させつつ融着して、前述のテープワインディングパイプを形成するパイプ形成工程と、射出成形法にて前記テープワインディングパイプの少なくとも一部に樹脂成形体を形成する射出成形工程と、を含む。
パイプ形成工程は、繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂組成物層を含むテープの表面をレーザー光を照射して溶融させながらマンドレルに接触させつつ融着して、前述のテープワインディングパイプを形成する工程である。
パイプ形成工程に用いる繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂組成物層を含むテープは、従来公知のものを用いても良い。また、例えば、前述の強化繊維束を開繊して引き揃えた後、溶融した前述のマトリックス樹脂と接触させることにより、繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂成形体(一方向性材)を得て、次いで適切な幅に切断してテープ形状にして形成したものを用いてもよい。
パイプ形成工程では、公知のレーザー融着方法を併用したテープワインディング法でテープ表面を溶融させながらマンドレルに接触させつつ、融着させる。テープワインディング成形方法の例としては、例えば、光硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする方法が、特開2005-206847号公報(例えば図8)等に開示されている。例えば、AFPT社(ドイツ)のホームページ(http://www.afpt.de/welcome/)に2016年9月8日現在開示されているような、ロボットアームに光源としてレーザー照射部が取り付けられている装置において、前記の熱可塑性樹脂を用い、成形する方法を一例として挙げることが出来る。その他には、17th-Europian conference on Composite Materials, 1~8(2016)で発表された”Development of a hybrid tail rotor drive shaft by the use ofthermoplastic Automated fiber placement” や、”Selectivereinforcement of steel with CF/PA6 composites in a laser tape placement process: effect of surface preparation and laser angle on interfacial bond strength”に開示された装置や方法を例示することが出来る。
但し、レーザーによる融着を行う場合、光源やマンドレルを適宜移動させて効率よく溶融、融着させることが好ましい。このような方法を取る場合、その移動速度は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物テープの走査速度として、10〜100m/分、好ましくは30〜90m/分であることが好ましい。
レーザーの波長は300〜3000μmであることが好ましい。この波長は、前記強化繊維(C)や色素(II)の吸収波長領域を含むことが好ましい。また、レーザーの出力は50W〜5kWであることが好ましい。この出力が強すぎると樹脂の劣化や変形を引き起こすことがある。一方で弱すぎると樹脂の溶融が起こらない場合がある。
射出成形工程は、パイプ形成工程で形成したテープワインディングパイプの少なくとも一部に樹脂成形体を射出成形法にて付与する工程である。射出成形法は、テープワインディングパイプの少なくとも一部に樹脂成形体を付与できれば特に制限されず、公知の射出成形法を用いることができる。中でも、射出成形法としては、インサート成形法が好ましい。
インサート成形法では、例えば、テープワインディングパイプを金型内に設置し、溶融した前述の樹脂成分を金型内に射出し、樹脂成分を固化することでテープワインディングパイプに樹脂成形体を付与する。樹脂成分は、前述の強化繊維(E)を含んでいても良い。なお、テープワインディングパイプを金型内に設置するとは、テープワインディングパイプの少なくとも一部を金型内に設置することを意味する。
射出成形温度は、180℃〜300℃が好ましく、210℃〜260℃がより好ましい。射出成形温度が180℃以上であると樹脂成形体とテープワインディングパイプとの融着が十分となり、樹脂成形体の意図せぬ離脱が生じにくい傾向にある。また、射出成形温度が300℃以下であると、射出成形時のテープワインディングパイプの割れが生じにくい傾向にある。
射出圧力は、パイプの割れを防止する観点から、35MPa以下で行う。射出圧力は、10MPa〜25MPaが好ましく、15MPa〜20MPaがより好ましい。射出圧力が10MPa以上であると、樹脂成形体とテープワインディングパイプとの融着が十分となり、金型から成形品を取り出したのちの意図せぬ離脱が生じにくい傾向にある。
金型温度は、特に制限されず、樹脂成分の種類に応じて適宜設定すればよい。金型は、30℃〜300℃にあらかじめ加温しておいてもよい。
射出成形工程においては、樹脂成分を金型内に射出した後に保圧することが好ましい。保圧の条件は、特に制限されず、樹脂成分の種類に応じて適宜設定すればよい。樹脂成形体を所望形状に成形する観点、および、パイプの割れを抑制する観点から、保圧の圧力としては0.5MPa〜50MPaが好ましく、1MPa〜30MPaがより好ましい。保圧の時間は、例えば0.5秒〜60秒とすることができる。
射出成形工程は、前述のテープワインディングパイプの内側に保護棒を配置した状態で行われ、保護棒は、樹脂成形体が形成された後に取り除かれることが好ましい。これにより、射出成形時の圧力によるパイプの割れをより抑えられる傾向にある。
保護棒としては、テープワインディングパイプの内側に配置できるものであれば特に制限されず、従来公知の棒を用いることができる。保護棒の形状は、テープワインディングパイプの割れをより抑制する観点から、テープワインディングパイプの内側の形状に近いことが好ましい。保護棒の形状としては、例えば、円柱状、円筒状、多角柱状、中空の多角柱状が挙げられる。テープワインディングパイプの内側に配置するためには、保護棒の外径は、テープワインディングパイプの内径よりも小さいことが求められる。射出成形時の圧力によるパイプの割れをより抑える観点から、保護棒の外径はテープワインディングパイプの内径に近いことが好ましい。
保護棒の材質は、特に制限されない。保護棒の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂や金属が挙げられる。
保護棒の弾性率は、射出成型の圧力によるパイプの割れをより抑制する観点から、10MPa以上が好ましい。
射出成形工程は、上述の保護棒を用いないことも好ましい。射出成形工程において上述の保護棒を用いない場合は、保護棒の配置および取り除くという作業が省略でき、製造効率が向上する。本発明においては、テープワインディングパイプが特定の積層構造を有するため、保護棒を用いなくても割れが生じにくい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(1)プロピレン系樹脂の強化繊維束中の付着量測定
プロピレン系樹脂の付着した強化繊維束を約5g取り、120℃で3時間乾燥し、その重量W1(g)を測定した。次いで強化繊維束を窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、室温まで冷却しその重量W2(g)を測定した。W1(g)及びW2(g)を用いて付着量は次式にて算出した。
付着量=[(W1−W2)/W2]×100(質量%)
(2)プロピレン系樹脂の重量平均分子量測定
分子量は、以下の条件でのGPC法で求めた。
液体クロマトグラフ:Polymer Laboratories社製 PL−GPC220型高温ゲル浸透クロマトグラフ(示差屈折率計装置内蔵)
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel GMHHR−H(S)−HT×2本及び同GMHHR−H(S)×1本を直列接続した。
移動相媒体:1,2,4−トリクロロベンゼン(安定剤0.025%含有)
流速:1.0ml/分
測定温度:150℃
検量線の作成方法:標準ポリスチレンサンプルを使用した。
サンプル濃度:0.15%(w/v)
サンプル溶液量:500μl
検量線作成用標準サンプル:東ソー株式会社製単分散ポリスチレン
分子量較正方法:標準較正法(ポリスチレン換算)
(3)プロピレン系樹脂の構造解析
第1及び第2の各プロピレン系樹脂について、有機化合物元素分析、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析、IR(赤外吸収)スペクトル分析、1H−NMR測定及び13C−NMR測定を実施し、プロピレン系樹脂の含有元素量、官能基構造の同定、各帰属プロトン、カーボンのピーク強度より単量体構造の含有割合について評価を実施した。
有機化合物元素分析は、有機元素分析装置2400II(PerkinElmer社製)を用いて実施した。ICP発光分析はICPS−7510(株式会社島津製作所製)を用いて実施した。IRスペクトル分析はIR−Prestige−21(株式会社島津製作所製)を用いて実施した。1H−NMR測定及び13C−NMR測定はJEOLJNM−GX400スペクトロメーター(日本電子株式会社製)を用いて実施した。
(4)プロピレン系樹脂のカルボン酸塩含有量の測定
第1及び第2の各プロピレン系樹脂に対して、以下の操作を行うことでカルボン酸塩含有量及び中和されていないカルボン酸含有量を測定した。
プロピレン系樹脂0.5gをトルエン200ml中で加熱還流し、溶解させた。この溶液を0.1規定の水酸化カリウム−エタノール標準溶液で滴定し、下式より酸価を算出した。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
酸価=(5.611×A×F)/B (mgKOH/g)
A:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)
F:0.1規定水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター(1.02)
B:試料採取量(0.50g)
上記で算出した酸価を下式を用いて中和されていないカルボン酸基のモル数に換算した。
中和されていないカルボン酸基のモル数=酸価×1000/56(モル/g)
カルボン酸基の中和塩への転化率を、別途IR、NMR及び元素分析等を用いてカルボン酸基のカルボニル炭素の定量をおこなって算出したカルボン酸基の総モル数(モル/g)を用いて下式にて算出した。
転化率%=(1−r)×100(%)
r:中和されていないカルボン酸基のモル数/カルボン酸基の総モル数
(5)擦過毛羽数測定
特許5584977号の実施例に記載の方法と同様にして決定した。
擦過毛羽数が0〜5個/mを合格とし、それを超えると不合格とした。
(6)融点の測定方法
本発明における重合体の融点(Tm)は、セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC220C装置で示差走査熱量計(DSC)により測定した。試料7〜12mgをアルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/分で200℃まで加熱した。その試料を、全ての結晶を完全融解させるために200℃で5分間保持し、次いで10℃/分で−50℃まで冷却した。−50℃で5分間置いた後、その試料を10℃/分で200℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱試験におけるピーク温度を融点(Tm−II)として採用した。
<強化繊維(C)>
炭素繊維束(三菱レイヨン株式会社製、商品名パイロフィルTR50S12L、フィラメント数12000本、ストランド強度5000MPa、ストランド弾性率242GPa)をアセトン中に浸漬し、10分間超音波を作用させた後、炭素繊維束を引き上げさらに3回アセトンで洗浄し、室温で8時間乾燥することにより付着しているサイジング剤を除去して用いた。
(製造例1−エマルションの製造)
プロピレン系樹脂(A)として、GPCで測定した重量平均分子量が12万、融点を持たないプロピレン・ブテン・エチレン共重合体(プロピレンから導かれる構成単位の含有率は50質量%以上)を100質量部、プロピレン系樹脂(B)の原料として、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体(重量平均分子量Mw=27,000、酸価:45mg−KOH/g、無水マレイン酸含有率:4質量%、融点:140℃)10質量部、界面活性剤として、オレイン酸カリウム3質量部を混合した。この混合物を2軸スクリュー押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM−30,L/D=40)のホッパーより3000g/時間の速度で供給し、同押出機のベント部に設けた供給口より、20%の水酸化カリウム水溶液を90g/時間の割合で連続的に供給し、加熱温度210℃で連続的に押出した。押出した樹脂混合物を、同押出機口に設置したジャケット付きスタティックミキサーで110℃まで冷却し、さらに80℃の温水中に投入してエマルションを得た。得られたエマルションは固形分濃度:45%であった。
なお、前記の無水マレイン酸変性プロピレン系樹脂は、プロピレン・ブテン共重合体(プロピレンから導かれる構成単位の含有率は50質量%以上)96質量部、無水マレイン酸4質量部、及び重合開始剤としてパーヘキサ(登録商標)25B(日油株式会社製)0.4質量部を混合し、加熱温度160℃、2時間で変性を行って得られた。
(強化繊維束の製造)
製造例1で製造したエマルションを、ローラー含浸法を用いて、前記の三菱レイヨン株式会社製強化繊維に付着させた。次いで、オンラインで130℃、2分乾燥して低沸点成分を除去し、強化繊維束を得た。エマルションの付着量は0.87%であった。強化繊維束の毛羽立ち性は合格であった。
<実施例1>
上記で製造した強化繊維束57部と、プロピレン系樹脂(D)として、市販の未変性プロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製、商品名プライムポリプロJ106MG、融点160℃、プロピレンから導かれる構成単位の含有率は50質量%以上)及び無水マレイン酸を0.5質量%グラフトした変性ポリプロピレン(ASTM D1238に準じて190℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが9.1g/10分、融点155℃)とカーボンブラックを含有するマスターバッチ(DIC株式会社製、PEONY(登録商標)BLACK BMB−16117、カーボンブラック含有量40%)43部とを含む樹脂組成物を調製し、常法により繊維が一方向に配向した平均厚み150μmの繊維強化樹脂シート(以下、一方向性シートとも言う)を作製した。尚、前記J106MGと変性ポリプロピレンとの重量比は85/15(重量平均分子量は32万に相当)であり、カーボンブラックの含有量が樹脂組成物全体の1質量%となるように調整した。(樹脂の融点は160℃、樹脂組成物全体に対する無水マレイン酸含有率:0.034質量%、繊維体積分率Vf0.4)。
出力3kW、波長960〜1070nmのダイオードレーザーをクローズドループ制御するAFPT社製“STWH INB”型巻取りヘッドを装着したロボットを使用して、上記一方向性シートをスリッターにて幅12mmのテープに切断加工したものを内径φ35mmのマンドレルに巻きつけ、パイプを成形した。表1に記載の角度にて層の総数が10層になるようにトラバース巻きでワインディング成形し、テープワインディングパイプを得た。パイプの外径は38mm、パイプの長さは700mmであった。
ホットランナーを有する以下に示すサイズの金型を用意し、上記で作成したワインディングパイプをオーブンで100℃に加熱後、金型に設置した。樹脂成分としてガラス繊維を20質量%含むプロピレン系重合体(株式会社プライムポリマー製、商品名5071P)を用いて、下記の条件で射出成形して、樹脂成形体付きテープワインディングパイプを製造した。
射出成形機:住友重機械工業 SE280HD
金型:500×300mm 肉厚2〜3mm、4点ゲート、ホットランナーシステム
成形温度:250℃
金型温度:40℃
射出圧力 17.3MPa、保圧力 8MPa、保圧時間15秒
<実施例2>
射出圧力を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体付きテープワインディングパイプを製造した。
<実施例3>
射出成形時に、テープワインディングパイプの内部に保護棒を設置した以外は実施例2と同様にして、樹脂成形体付きテープワインディングパイプを製造した。
<比較例1>
テープワインディングパイプにおける層の配向角を表1に示すとおりに変更したこと、および、射出成形時に、テープワインディングパイプの内部に保護棒を設置した以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体付きテープワインディングパイプを製造した。
<比較例2>
射出圧力を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂成形体付きテープワインディングパイプを製造した。
<評価(パイプの状態)>
実施例および比較例で得られた樹脂成形体付きテープワインディングパイプのパイプの状態を目視で観察し、下記の評価基準に従って評価した。
―評価基準―
A:パイプに異状が認められなかった。
B:パイプにへこみが認められた。
C:パイプに割れが認められた。
実施例1〜実施例3の樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、パイプに割れが認められなかった。このため、実施例1〜実施例3の樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、実用に供することができることが分かる。また、得られた樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、軸方向の圧縮強度が比較的低く、側面衝撃吸収性に優れていた。なお、実施例2の樹脂成形体付きテープワインディングパイプにはへこみが認められたが、へこみは修復が容易であり実用に供することができる。
一方、比較例1および比較例2の樹脂成形体付きテープワインディングパイプは、割れが発生しており、実用供することができないものであった。