JP6919723B2 - 溶融亜鉛めっき処理方法、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents

溶融亜鉛めっき処理方法、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、溶融亜鉛めっき処理方法、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GIともいう)、及び、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、GAともいう)は、次の製造工程により製造される。はじめに、溶融亜鉛めっき処理の対象となる鋼板(母材鋼板)を準備する。母材鋼板は、熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。母材鋼板を熱延鋼板とする場合、たとえば、酸洗された熱延鋼板を準備する。酸洗された熱延鋼板に対して、必要に応じてNiプレめっき処理を実施して、表面にNi層が形成された熱延鋼板を準備してもよい。上述以外の他の処理が施された熱延鋼板を準備してもよい。母材鋼板を冷延鋼板とする場合、たとえば、焼鈍処理された冷延鋼板を準備する。焼鈍処理された冷延鋼板に対して、必要に応じてNiプレめっき処理を実施して、表面にNi層が形成された冷延鋼板を準備してもよい。上述以外の他の処理が施された冷延鋼板を準備してもよい。準備された母材鋼板(上述の熱延鋼板又は冷延鋼板)を溶融亜鉛めっき浴に浸漬して、溶融亜鉛めっき処理を実施し、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合はさらに、溶融亜鉛めっき鋼板を合金化炉内で熱処理することにより、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程中の、溶融亜鉛めっき処理の詳細は次のとおりである。溶融亜鉛めっき処理に用いられる溶融亜鉛めっき設備は、溶融亜鉛めっき浴が収納された溶融亜鉛ポットと、溶融亜鉛めっき浴中に配置されたシンクロールと、ガスワイピング装置とを備える。
溶融亜鉛めっき処理工程では、鋼板(母材鋼板)を溶融亜鉛めっき浴に浸漬させる。そして、溶融亜鉛めっき浴中に配置されたシンクロールにより、鋼板の進行方向を上方に転換させ、鋼板を溶融亜鉛めっき浴から引き上げる。引き上げられて上方に進む鋼板に対して、ガスワイピング装置からワイピングガスを鋼板表面に吹き付けて、余剰の溶融亜鉛を掻き取り、鋼板表面のめっき付着量を調整する。以上の方法により、溶融亜鉛めっき処理工程を実施する。なお、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合にはさらに、めっき付着量が調整された鋼板を合金化炉に装入して合金化処理を実施する。
上述の溶融亜鉛めっき処理では、溶融亜鉛めっき浴中に浸漬された鋼板から、溶融亜鉛めっき浴中にFeが溶出する。鋼板から溶融亜鉛めっき浴中に溶出したFeが、溶融亜鉛めっき浴中に存在するAlやZnと反応すると、ドロスと呼ばれる金属間化合物が生成する。ドロスにはトップドロスとボトムドロスとが存在する。トップドロスは、溶融亜鉛めっき浴よりも比重が軽い金属間化合物であり、溶融亜鉛めっき浴の液面に浮上するドロスである。ボトムドロスは、溶融亜鉛めっき浴よりも比重が重い金属間化合物であり、溶融亜鉛ポットの底に堆積するドロスである。これらのドロスのうち、特に、ボトムドロスは、溶融亜鉛めっき処理中において、溶融亜鉛めっき浴中の鋼板の進行により発生する随伴流により、堆積している溶融亜鉛ポットの底から巻き上げられて、溶融亜鉛めっき浴中に浮遊する。このような浮遊したボトムドロスが溶融亜鉛めっき処理中の鋼板の表面に付着する場合がある。鋼板表面に付着したボトムドロスは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板の表面において、点状の欠陥となる場合がある。このようなボトムドロス起因の表面欠陥を、本明細書では、「ドロス欠陥」という。ドロス欠陥は鋼板の外観性を低下したり、耐食性を低下したりする。そのため、ドロス欠陥の発生を抑制できる方が好ましい。
ドロス欠陥の発生を抑制する技術が、特開平11−350096号公報(特許文献1)、及び特開平11−350097号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献1では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融亜鉛浴温度をT(℃)とし、Cz=−0.015×T+0.76で定義される境界Al濃度をCz(wt%)とした場合、溶融亜鉛浴温度Tを435〜500℃の範囲内にするとともに、浴中Al濃度をCz±0.01wt%の範囲内に保持する。
具体的には、特許文献1には、次のとおり記載されている。ドロスの組成は、浴中のAl濃度に応じて変化する。具体的には、465℃に保持された溶融亜鉛浴において、浴中Al濃度が0.14%以上では、ドロスはFe−Al系(トップドロス)となる。浴中Al濃度が0.14%よりも低い場合、ドロスはFe−Zn系(ボトムドロス)のデルタ1相(δ1相)となる。浴中Al濃度がさらに低くなった場合、ドロスはFe−Zn系(ボトムドロス)のツェータ相(ζ相)となる。そして、ドロスがδ1相からζ相に相変態を起こす場合、及び、ドロスがζ相からδ1相に相変態を起こす場合、相変態により、ドロスが微細化する。そこで、特許文献1では、δ1相及びζ相の相変態の境界を「境界Al濃度Cz」と定義する。そして、浴中Al濃度を境界Al濃度Cz±0.01wt%で制御する。この場合、浴中Al濃度が境界Al濃度Czを超えればドロスがδ1相となり、境界Al濃度Cz未満となればドロスがζ相となる。Al濃度をCz±0.01wt%で制御することにより、浴中においてドロスがδ1相とζ相との相変態を繰り返す。そのため、ドロスを微細化でき、ドロス欠陥の発生が抑制できる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、浴中Al濃度を0.15±0.01wt%の範囲内に保持する。具体的には、特許文献2では、次のとおり記載されている。浴中Al濃度が0.15wt%以上では、ドロスはFe−Al相となり、浴中Al濃度が0.15%以下では、ドロスはδ1相となる。ドロスがFe−Al相とδ1相とで相変態を繰り返せば、ドロスが微細化する。そこで、浴中Al濃度を0.15±0.01wt%の範囲内に保持することにより、ドロスを微細化でき、その結果、ドロス欠陥の発生が抑制できる、と特許文献2では記載されている。
特開平11−350096号公報 特開平11−350097号公報
溶融亜鉛めっき処理において発生し得るドロスには、Fe2Al5(いわゆる、トップドロス)、δ1相、ガンマ1相(Γ1相)、ζ相の4種類が存在することが今までの研究で報告されている。特許文献1では、浴中Al濃度がδ1相とζ相との境界近傍となるように溶融亜鉛めっき処理を操業することで、ドロス欠陥の主要因であるδ1相を微細化することを提案している。また、特許文献2では、浴中Al濃度がFe2Al5相とδ1相との境界近傍となるように操業することで、ドロス欠陥の主要因であるδ1相を微細化することを提案している。
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2で提案されている方法で操業を行った場合であっても、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、又は、溶融亜鉛めっき鋼板の表面には、依然としてドロス欠陥が発生する場合がある。
本開示の目的は、ドロス欠陥の発生を抑制可能な溶融亜鉛めっき処理方法、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び、その溶融亜鉛めっき処理方法を用いた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することである。
本開示による溶融亜鉛めっき処理方法は、溶融亜鉛めっき鋼板又は合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造に用いられる溶融亜鉛めっき処理方法であって、
Alを含有する溶融亜鉛めっき浴中からサンプルを採取するサンプル採取工程と、
採取されたサンプルを用いて、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求めるδ1相ドロス量決定工程と、
求めたδ1相ドロス量に基づいて、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する操業条件調整工程とを備える。
本開示による合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、鋼板に対して、上述の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理工程と、
表面に溶融亜鉛めっき層が形成された鋼板に対して合金化処理を実施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する合金化処理工程とを備える。
本開示による溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、鋼板に対して、上述の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理工程を備える。
本開示による溶融亜鉛めっき処理方法は、ドロス欠陥の発生を抑制できる。また、本開示による合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、ドロス欠陥の発生が抑制された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造できる。本開示による溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、ドロス欠陥の発生が抑制された溶融亜鉛めっき鋼板を製造できる。
図1は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板の製造に用いられる溶融亜鉛めっきライン設備の全体構成を示す機能ブロック図である。 図2は、図1中の溶融亜鉛めっき設備の側面図である。 図3は、図2と異なる構成の溶融亜鉛めっき設備の側面図である。 図4は、図2及び図3と異なる構成の溶融亜鉛めっき設備の側面図である。 図5は、図1と異なる構成の溶融亜鉛めっきライン設備の全体構成を示す機能ブロック図である。 図6は、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法の工程を示すフロー図である。 図7は、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法のサンプル採取工程にて採取されたサンプルの観察視野の一部での写真画像の一例を示す図である。
上述のとおり、従来の研究では、溶融亜鉛めっき処理において発生するドロスとして、次の種類が存在すると報告されている。
(1)Fe2Al5
(2)δ1相ドロス
(3)Γ1相ドロス
(4)ζ相ドロス
Fe2Al5はトップドロスと呼ばれる。トップドロスは、溶融亜鉛めっき浴よりも比重が軽い。そのため、トップドロスは、溶融亜鉛めっき浴の液面に浮上しやすい。Fe2Al5の結晶構造は斜方晶であり、その化学組成は、質量%で、45%のAlと、38%のFeと、17%のZnとからなる。トップドロスは軟質であるため、ドロス欠陥の要因となりにくいことが知られている。
δ1相ドロス、Γ1相ドロス、及び、ζ相ドロスは、ボトムドロスと呼ばれる。ボトムドロスは、溶融亜鉛めっき浴よりも比重が重い。そのため、ボトムドロスは、溶融亜鉛めっき浴が貯留されている溶融亜鉛ポットの底に堆積しやすい。
δ1相ドロスの結晶構造は六方晶であり、その化学組成は、質量%で、1%以下のAlと、9%以上のFeと、90%以上のZnとからなる。Γ1相ドロスの結晶構造は面心立方晶であり、その化学組成は、質量%で、20%のFeと、80%程度のZnとからなる。ζ相ドロスの結晶構造は単斜晶であり、その化学組成は、質量%で、1%以下のAlと、6%程度のFeと、94%程度のZnとからなる。
従前の研究では、ドロス欠陥の主たる要因をδ1相ドロスとする報告例が多数存在していた。上述の特許文献1及び2においても、δ1相ドロスをドロス欠陥の要因の一つと考えていると思われる。そこで、本発明者らも当初、δ1相ドロスがドロス欠陥の主たる要因であると考え、調査及び研究を行った。しかしながら、溶融亜鉛めっき処理においてδ1相ドロスの発生を抑制した場合であっても、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板の表面には、依然としてドロス欠陥が発生する場合があった。
そこで、本発明者らは、ドロス欠陥の発生要因はδ1相ドロスではなく、他のドロスではないかと考えた。そこで、本発明者らは、ドロス欠陥が発生している合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いて、ドロス欠陥部分の組成及び結晶構造について、改めて分析を行った。本発明者らはさらに、溶融亜鉛めっき浴中で発生するドロスの種類についても、改めて分析を行った。その結果、本発明者らは、ドロス欠陥について、従来の研究結果とは異なる次の知見を得た。
はじめに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面のドロス欠陥部分の化学組成をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer:電子線マイクロアナライザー)を用いて分析した。さらに、ドロス欠陥部分の結晶構造をTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)を用いて解析した。その結果、ドロス欠陥部分の化学組成は、質量%で、2%のAlと、8%のFeと、90%のZnとからなり、結晶構造は面心立方晶であった。
従来のドロス欠陥の主要因と考えられていたδ1相ドロスの化学組成(質量%で1%以下のAl、9%以上のFe、及び、90%以上のZn)は、上述のドロス欠陥部分の化学組成と類似する。しかしながら、δ1相ドロスの結晶構造は六方晶であり、ドロス欠陥部分に特定された面心立方晶ではない。そのため、本発明者らは、従来ドロス欠陥の主要因と考えられていたδ1相ドロスは、実際には、ドロス欠陥の主要因ではないと考えた。
そこで、本発明者らは、ドロス欠陥の原因となるドロスの特定を行った。上述の(1)〜(4)のドロスのうち、Fe2Al5(トップドロス)については、化学組成がドロス欠陥部分の化学組成と大きく異なる。Γ1相ドロスについては、結晶構造がドロス欠陥部分と同じ面心立方晶であるものの、化学組成(質量%で20%のFe、及び、80%のZn)がドロス欠陥部分の化学組成と大きく異なる。ζ相ドロスについては、化学組成(質量%で1%以下のAl、6%程度のFe、及び、94%程度のZn)がドロス欠陥部分の化学組成と異なり、さらに、結晶構造(単斜晶)もドロス欠陥部分の結晶構造(面心立方晶)と異なる。
以上の検討結果に基づいて、本発明者らは、ドロス欠陥は、上述の(1)〜(4)のドロスに起因したものではないと考えた。そして、本発明者らは、ドロス欠陥は、上記(1)〜(4)以外の他の種類のドロスに起因しているのではないかと考えた。
そこで、本発明者らは、溶融亜鉛めっき浴中のドロスの分析をさらに行った。ドロスの分析には、上述のEPMA及びTEMを用いた。その結果、本発明者らは、溶融亜鉛めっき浴中に生成するドロスとして、ガンマ2相(Γ2相)ドロスが存在することを新たに突き止めた。
Γ2相ドロスの化学組成は、質量%で、2%のAlと、8%のFeと、90%のZnとからなり、上述の解析されたドロス欠陥部分の化学組成と一致する。さらに、Γ2相ドロスの結晶構造は面心立方晶であり、ドロス欠陥部分の結晶構造と一致する。そこで、本発明者らは、Γ2相ドロスがドロス欠陥の主要因ではないかと考えた。なお、Γ2相ドロスの比重は溶融亜鉛めっき浴の比重よりも大きいため、Γ2相ドロスは、溶融亜鉛ポットの底に堆積し得るボトムドロスに該当した。
そこで、本発明者らは、Γ2相ドロスと、他の(1)〜(4)のドロスとに関して、さらに調査を進めた。その結果、次の事項が判明した。
ドロス欠陥は、粒径の大きいドロスが起因しており、粒径の小さいドロスはドロス欠陥を形成しにくいことが知られている。上記(1)〜(4)のドロス、及び、Γ2相ドロスの溶融亜鉛めっき浴中での成長速度は、Γ2相ドロスが最も速く、δ1相ドロスが最も遅い。したがって、δ1相ドロスが生成しても、ドロス欠陥を構成しにくい10μm未満の微細な粒径のまま維持されやすい。これに対して、Γ2相が生成すれば、溶融亜鉛めっき浴中においてδ1相よりも速く成長し、ドロス欠陥の原因となる10μmを超える粒径になりやすい。さらに、δ1相ドロスはΓ2相ドロスよりも軟質であるため、仮に、δ1相ドロスが粗大化してもドロス欠陥になりにくい。
以上の検討結果に基づいて、本発明者らは、溶融亜鉛めっき処理を施される合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板の表面に発生するドロス欠陥の主要因は、δ1相ドロスではなく、Γ2相ドロスであると結論付けた。そして、従来ドロス欠陥の主要因と言われてきたδ1相ドロスは、ドロス欠陥を形成しにくいことが分かった。さらに、本発明者らは、ボトムドロスに分類されるドロスは、Γ2相ドロス、δ1相ドロス、ζ相ドロス、及び、Γ1相ドロスのいずれかであるものの、溶融亜鉛めっき浴において、Γ1相ドロスはほとんど存在していないとの知見を得た。
本発明者らはさらに、次の知見を得た。Γ2相ドロスとδ1相ドロスとは、互いに相変態する。つまり、溶融亜鉛めっき処理の条件によって、Γ2相ドロスがδ1相ドロスに相変態したり、δ1相ドロスがΓ2相ドロスに相変態したりする。そのため、溶融亜鉛めっき浴中のボトムドロスのうち、δ1相ドロスが占める割合が大きければ、相対的に、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量が少ないことを意味する。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、従来ではドロス欠陥の主要因と考えられ、低減させる対象となっていたδ1相ドロスを、従来とは異なり、敢えて増やすように溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整すれば、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量を低減することができ、その結果、ドロス欠陥を抑制できることを見出した。そして、溶融亜鉛めっき処理方法において、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を管理することにより、上述の操業を実施可能であると考えた。
以上の説明のとおり、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法は、従前の技術思想とは逆の発想に基づいて完成したものであって、具体的には、次のとおりである。
[1]の溶融亜鉛めっき処理方法は、
溶融亜鉛めっき鋼板又は合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造に用いられる溶融亜鉛めっき処理方法であって、
Alを含有する溶融亜鉛めっき浴中からサンプルを採取するサンプル採取工程と、
採取されたサンプルを用いて、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求めるδ1相ドロス量決定工程と、
求めたδ1相ドロス量に基づいて、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する操業条件調整工程とを備える。
ここで、「溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する」とは、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を調整可能な、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整することを意味する。また、「溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する」とは、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を変更する行為だけでなく、操業条件を現状のまま維持する行為も含む。
上述の構成の溶融亜鉛めっき処理方法によれば、サンプルを用いて得られた、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量に基づいて、δ1相ドロス量を増加するように、溶融亜鉛めっき処理方法の操業条件を調整する。上述のとおり、溶融亜鉛めっき浴中において、δ1相ドロス量とΓ2相ドロス量とは負の相関関係を有する。具体的には、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が多ければ、相対的に、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量が少ないことを意味する。したがって、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求め、求めたδ1相ドロス量に基づいて操業条件を調整してδ1相ドロスを増加することにより、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量を低減できる。その結果、ドロス欠陥の発生を抑制することができる。
上述のδ1相ドロス量はたとえば、ボトムドロスの総量に対するδ1相ドロスの総量の割合である。総量は、総個数であってもよいし、総面積であってもよい。ボトムドロスの総量は、Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロスの総量を意味する。Γ1相ドロスは上述のとおりほとんど存在していないと考えられるため、ボトムドロスの総量(総個数又は総面積)には含めない。
[2]の溶融亜鉛めっき処理方法は、[1]に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
δ1相ドロス量決定工程では、
採取されたサンプルを用いて、ボトムドロスの総個数に対するδ1相ドロスの個数割合を、δ1相ドロス量として求める。
[3]の溶融亜鉛めっき処理方法は、[1]又は[2]に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
操業条件調整工程では、
求めたδ1相ドロス量に基づいて、(A)及び(B)の少なくとも1つを実施して、δ1相ドロス量を増加する。
(A)溶融亜鉛めっき浴の浴温を調整する。
(B)溶融亜鉛めっき浴のAl濃度を調整する。
上記(A)及び(B)はいずれも、Γ2相ドロスをδ1相ドロスに相変態させるのに有効な操業条件である。したがって、求めたδ1相ドロス量に基づいて(A)及び(B)の少なくとも1つを実施してδ1相ドロスを増加することにより、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量を低減することができ、ドロス欠陥を抑制することができる。
[4]の溶融亜鉛めっき処理方法は、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
操業条件調整工程では、
求めたδ1相ドロス量がしきい値未満のとき、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整してδ1相ドロスを増加する。
この場合、操業条件を変更するか否かについて、δ1相ドロス量としきい値とに基づいて容易に判断することができる。たとえば、求めたδ1相ドロス量がしきい値未満のとき、δ1相ドロス量が増加するように操業条件を調整できる。より好ましくは、求めたδ1相ドロス量がしきい値未満のとき、δ1相ドロス量がしきい値以上となるように、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する。
[5]の溶融亜鉛めっき処理方法は、[4]に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
δ1相ドロス量決定工程では、
採取されたサンプルを用いて、ボトムドロスの総個数に対するδ1相ドロスの個数割合を、δ1相ドロス量として求め、
操業条件調整工程では、
求めたδ1相ドロス量が95.00%未満であるとき、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整してδ1相ドロスを増加する。
この場合、δ1相ドロス量を高く維持することにより、相対的にΓ2相ドロスを低減する。その結果、Γ2相ドロスに起因するドロス欠陥の発生をさらに有効に抑制できる。
[6]の溶融亜鉛めっき処理方法は、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
操業条件調整工程では、
溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を、0.100〜0.150質量%の範囲内に調整し、かつ、
溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度をX(質量%)と定義し、溶融亜鉛めっき浴中の浴温をT(℃)と定義したとき、Al濃度及び前記浴温が式(1)を満たすように調整する。
X≦0.002488×T−1.0266 (1)
この場合、δ1相ドロス量が増加し、その結果、相対的にΓ2相ドロス量が減少する。そのため、Γ2相ドロスに起因するドロス欠陥の発生をさらに有効に抑制できる。
[7]の溶融亜鉛めっき処理方法は、
[1]〜[6]のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
溶融亜鉛めっき浴が貯留された溶融亜鉛ポット内には、溶融亜鉛めっき浴中に浸漬された鋼帯と接触して鋼帯の進行方向を上方に転換させるためのシンクロールが配置されており、
サンプル採取工程では、
溶融亜鉛ポット内の溶融亜鉛めっき浴のうち、シンクロールの上端から下端までの深さ範囲から、サンプルを採取する。
この場合、サンプルをシンクロールと同じ深さの領域から採取する。そのため、δ1相ドロス量とドロス欠陥との相関をさらに高めることができる。
[8]の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、
鋼板に対して、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理工程と、
表面に溶融亜鉛めっき層が形成された鋼板に対して合金化処理を実施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する合金化処理工程とを備える。
本実施形態の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上述の本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法を適用する。そのため、ドロス欠陥が抑制された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造できる。
[9]の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、
鋼板に対して[1]〜[7]のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理工程を備える。
本実施形態の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上述の本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法を適用する。そのため、ドロス欠陥が抑制された溶融亜鉛めっき鋼板を製造できる。
以下、本実施形態による溶融亜鉛めっき処理方法、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成については、同一符号を付してその説明を繰り返さない。
[溶融亜鉛めっきライン設備の構成について]
図1は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板の製造に用いられる溶融亜鉛めっきライン設備の全体構成の一例を示す機能ブロック図である。図1を参照して、溶融亜鉛めっきライン設備1は、焼鈍炉20と、溶融亜鉛めっき設備10と、調質圧延機(スキンパスミル)30とを備える。
焼鈍炉20は、図示しない1又は複数の加熱帯と、加熱帯の下流に配置された1又は複数の冷却帯とを含む。焼鈍炉20では、鋼板が焼鈍炉20の加熱帯に供給され、鋼板に対して焼鈍が実施される。焼鈍された鋼板は冷却帯で冷却され、溶融亜鉛めっき設備10に搬送される。溶融亜鉛めっき設備10は、焼鈍炉20の下流に配置されている。溶融亜鉛めっき設備10では、鋼板に対して溶融亜鉛めっき処理が実施され、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、又は、溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。調質圧延機30は、溶融亜鉛めっき設備10の下流に配置される。調質圧延機30では、溶融亜鉛めっき設備10において製造された合金化溶融亜鉛めっき鋼板、又は、溶融亜鉛めっき鋼板に対して、必要に応じて軽圧下して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板の表面を調整する。
[溶融亜鉛めっき設備10について]
図2は、図1中の溶融亜鉛めっき設備10の側面図である。図2を参照して、溶融亜鉛めっき設備10は、溶融亜鉛ポット101と、シンクロール107と、サポートロール113と、ガスワイピング装置109と、合金化炉111とを備える。
溶融亜鉛めっき設備10の上流に配置されている焼鈍炉20は、内部が大気雰囲気から遮断されており、還元性雰囲気に維持されている。焼鈍炉20は、上述のとおり、連続搬送される鋼板Sを加熱帯にて加熱する。これにより、鋼板Sの表面が活性化され、鋼板Sの機械的性質が調整される。
焼鈍炉20の出側に相当する焼鈍炉20の下流端部は、ターンダウンロール201が配置された空間を有する。焼鈍炉20の下流端部は、スナウト202の上流端部に接続されている。スナウト202の下流端部は、溶融亜鉛めっき浴103中に浸漬されている。スナウト202の内部は大気雰囲気から遮断されており、還元性雰囲気に維持されている。
ターンダウンロール201により搬送方向が下向きに変えられた鋼板Sは、スナウト202を通過して、溶融亜鉛ポット101に貯留されている溶融亜鉛めっき浴103へと連続的に浸漬される。溶融亜鉛ポット101の内部には、シンクロール107が配置されている。シンクロール107は、鋼板Sの幅方向と平行な回転軸を有している。シンクロール107の軸方向の幅は、鋼板Sの幅よりも大きい。シンクロール107は、鋼板Sと接触して鋼板Sの進行方向を溶融亜鉛めっき設備10の上方に転換させる。
サポートロール113は、溶融亜鉛めっき浴103中であって、シンクロール107の上方に配置されている。サポートロール113は、一対のロールを備えている。サポートロール113の一対のロールは、鋼板Sの幅方向と平行な回転軸を有している。サポートロール113は、シンクロール107により進行方向を上方に転換された鋼板Sを挟んで、上方に搬送される鋼板Sを支持する。
ガスワイピング装置109は、シンクロール107及びサポートロール113の上方であって、かつ、溶融亜鉛めっき浴103の液面よりも上方に配置されている。ガスワイピング装置109は、一対のガス噴射装置を備える。一対のガス噴射装置は、互いに対抗するガス噴射ノズルを有する。溶融亜鉛めっき処理時において、鋼板Sはガスワイピング装置109の一対のガス噴射ノズルの間を通過する。このとき、一対のガス噴射ノズルは、鋼板Sの表面と対向する。ガスワイピング装置109は、溶融亜鉛めっき浴103から引き上げられた鋼板Sの両表面に対してガスを吹き付けることにより、鋼板Sの両表面に付着した溶融亜鉛めっきの一部を掻き落とし、鋼板Sの表面の溶融亜鉛めっきの付着量を調整する。
合金化炉111は、ガスワイピング装置109の上方に配置されている。合金化炉111は、ガスワイピング装置109を通過して上方に搬送された鋼板Sを内部に通して、鋼板Sに対して合金化処理を実施する。合金化炉111は、鋼板Sの入側から出側に向かって順に、加熱帯、保熱帯、冷却帯を含む。加熱帯は鋼板Sの温度(板温)が略均一になるように加熱する。保熱帯は、鋼板Sの板温を保持する。このとき、鋼板Sの表面に形成された溶融亜鉛めっき層が合金化されて合金化層になる。冷却帯は、合金化層が形成された鋼板Sを冷却する。以上のとおり、合金化炉111は、加熱帯、保熱帯、冷却帯を用いて、合金化処理を実施する。なお、合金化炉111は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合に、上述の合金化処理を実施する。一方、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、合金化炉111は合金化処理を実施しない。この場合、鋼板Sは、作動していない合金化炉111を通過する。ここで、作動していないとは、たとえば、合金化炉111がオンラインに配置されたまま、電源が停止した状態(起動していない状態)であることを意味する。合金化炉111を通過した鋼板Sは、トップロール115により次工程に搬送される。
溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、図3に示すとおり、合金化炉111がオフラインに移動してもよい。この場合、鋼板Sは、合金化炉111を通過することなく、トップロール115により次工程に搬送される。
なお、溶融亜鉛めっき設備10が溶融亜鉛めっき鋼板専用の設備である場合、溶融亜鉛めっき設備10は、図4に示すとおり、合金化炉111を備えていなくてもよい。
[溶融亜鉛めっきライン設備の他の構成例について]
溶融亜鉛めっきライン設備1は、図1の構成に限定されない。たとえば、溶融亜鉛めっき処理前の鋼板にNiプレめっき処理を実施して、鋼板上にNi層を形成する場合、図5に示すとおり、焼鈍炉20と溶融亜鉛めっき設備10との間に、Niプレめっき設備40が配置されていてもよい。Niプレめっき設備40は、Niめっき浴を貯留するNiめっきセルを備える。Niめっき処理は、電気めっき法により実施される。なお、図1及び図5の溶融亜鉛めっきライン設備1は、焼鈍炉20及び調質圧延機30を備える。しかしながら、溶融亜鉛めっきライン設備1は、焼鈍炉20を備えなくてもよい。また、溶融亜鉛めっきライン設備1は、調質圧延機30を備えなくてもよい。溶融亜鉛めっきライン設備1は、少なくとも、溶融亜鉛めっき設備10を備えていればよい。焼鈍炉20及び調質圧延機30は、必要に応じて配置されればよい。また、溶融亜鉛めっきライン設備1は、溶融亜鉛めっき設備10よりも上流に、鋼板を酸洗するための酸洗設備を備えていてもよいし、焼鈍炉20及び酸洗設備以外の他の設備を備えていてもよい。溶融亜鉛めっきライン設備1はさらに、溶融亜鉛めっき設備10よりも下流に、調質圧延機30以外の他の設備を備えていてもよい。
[ドロス欠陥の発生メカニズムについて]
上述の溶融亜鉛めっきライン設備1を用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程中の溶融亜鉛めっき処理工程において、ドロス欠陥が発生するメカニズムは次のとおりと考えられる。
溶融亜鉛めっき処理工程では、溶融亜鉛めっき浴103に浸漬している鋼板SからFeが溶融亜鉛めっき浴103に溶け出す。溶け出したFeが溶融亜鉛めっき浴103中のAl及び/又はZnと反応して、ドロスが生成する。生成したドロスのうち、トップドロスは溶融亜鉛めっき浴103中の液面に浮上する。一方、生成したドロスのうち、ボトムドロスは溶融亜鉛ポット101の底に沈み、堆積する。合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板の製造を繰り返すと(つまり、鋼板Sが溶融亜鉛めっき浴103を通過する量が増加するにしたがい)、ボトムドロスが溶融亜鉛ポット101の底に堆積する。
溶融亜鉛ポット101の底に堆積したボトムドロスは、シンクロール107の下部付近で生じる鋼板Sの随伴流によって、溶融亜鉛めっき浴103中に巻き上げられ、溶融亜鉛めっき浴103中を浮遊する。溶融亜鉛めっき浴103中を浮遊するボトムドロスがシンクロール107近傍で鋼板Sの表面に付着する。ボトムドロスが鋼板Sの表面に付着した箇所が、ドロス欠陥となる場合がある。
ドロス欠陥が生じれば、めっき表面にめっきの不均一部分が生じて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板の外観の品質が低下する。さらに、鋼板表面のドロス欠陥部分に局部電池が形成されやすくなり、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性が低下する。
上述のとおり、ドロス欠陥の主要因は、従来の研究で数多く報告されているδ1相ドロスではなく、Γ2相ドロスである。したがって、溶融亜鉛めっき浴103中のΓ2相ドロス量が多くなれば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板にドロス欠陥が発生する可能性が高くなる。
さらに、δ1相ドロスとΓ2相ドロスとは互いに相変態する。つまり、δ1相ドロスはΓ2相ドロスに相変態し、Γ2相ドロスはδ1相ドロスに相変態する。そのため、溶融亜鉛めっき浴中において、δ1相ドロス量とΓ2相ドロス量とは負の相関関係を有し、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が多ければ、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量が相対的に少ないことを意味する。したがって、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求め、求めたδ1相ドロス量に基づいて操業条件を調整してδ1相ドロス量を増加することにより、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量を低減できる。その結果、ドロス欠陥の発生を抑制することができる。
そこで、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法では、溶融亜鉛めっき浴103中のドロスのうちδ1相ドロス量を求める。そして、溶融亜鉛めっき浴103中のδ1相ドロス量に基づいて、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整して、δ1相ドロス量を増加する。これにより、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を高めて、その結果、相対的にΓ2相ドロス量を低く抑えることができる。その結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板にドロス欠陥が発生するのを抑制できる。
本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の製造方法にも適用でき、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)の製造方法にも適用できる。以下、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法を詳述する。
[本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法について]
[利用する溶融亜鉛めっき設備ついて]
本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法では、溶融亜鉛めっきライン設備を用いる。溶融亜鉛めっきライン設備はたとえば、図1や図5に示す構成を有する。ただし、本実施形態の溶融亜鉛めっきの処理方法に用いられる溶融亜鉛めっきライン設備は、上述のとおり、図1や図5に示す設備であってもよいし、図1や図5に示す設備にさらに他の構成が追加されたものであってもよい。また、図1や図5と異なる構成の周知の溶融亜鉛めっきライン設備を用いてもよい。
[溶融亜鉛めっき処理に用いられる鋼板について]
本実施形態の溶融亜鉛めっき処理に用いられる鋼板(母材鋼板)の鋼種及びサイズ(板厚、板幅等)は、特に限定されない。鋼板は、製造する合金化溶融亜鉛めっき鋼板、又は、溶融亜鉛めっき鋼板に求められる各機械的性質(たとえば、引張強度、加工性等)に応じて、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は溶融亜鉛めっき鋼板に適用される公知の鋼板を利用すればよい。自動車外板に用いられる鋼板を溶融亜鉛めっき処理に用いられる鋼板(母材鋼板)として利用してもよい。
本実施形態の溶融亜鉛めっき処理に用いられる鋼板(母材鋼板)は、熱延鋼板であってもよいし、冷延鋼板であってもよい。母材鋼板として、たとえば、次の鋼板が用いられる。
(a)酸洗処理された熱延鋼板
(b)酸洗処理された後、Niプレめっき処理が施されて、表面にNi層が形成された熱延鋼板
(c)焼鈍処理された冷延鋼板
(d)焼鈍処理された後、Niプレめっき処理が施されて、表面にNi層が形成された冷延鋼板
上記(a)〜(d)は、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理に用いられる鋼板の例示である。本実施形態の溶融亜鉛めっき処理に用いられる鋼板は、上記(a)〜(d)に限定されない。上記(a)〜(d)以外の処理が施された熱延鋼板又は冷延鋼板を、溶融亜鉛めっき処理に用いられる鋼板としてもよい。
[溶融亜鉛めっき浴について]
溶融亜鉛めっき浴の主成分はZnである。溶融亜鉛めっき浴はさらに、Znの他に、Alを含有する。つまり、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法に利用する溶融亜鉛めっき浴は、特定濃度のAlを含有し、残部がZn及び不純物からなるめっき液である。溶融亜鉛めっき浴が特定濃度のAlを含有していれば、浴中におけるFeとZnとの過剰な反応を抑えることができ、溶融亜鉛めっき浴に浸漬している鋼板とZnとの不均一な合金反応の進行を抑制できる。
溶融亜鉛めっき浴中の好ましいAl濃度(より詳細には、Free−Al濃度)は、質量%で、0.100〜0.150%である。ここで、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度とは、溶融亜鉛めっき液に溶解されているAl濃度(質量%)を意味し、いわゆる、Free−Al濃度を意味する。溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度が質量%で0.100〜0.150%の範囲内であれば、ドロス欠陥とは異なる他の模様欠陥が発生するのを抑制でき、さらに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程中の合金化処理において、未合金が発生するのを抑制できる。
このように、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき浴は、Znを主成分とし、さらにAlを含有するめっき浴である。上記溶融亜鉛めっき浴中にはさらに、浴中の機器や鋼板より溶出するFeが0.020〜0.100質量%含有される場合がある。つまり、溶融亜鉛めっき浴中に溶解しているFe濃度(質量%)はたとえば、0.020〜0.100質量%である。ただし、溶融亜鉛めっき浴中に溶解しているFe濃度は上記数値範囲に限定されない。
[溶融亜鉛めっき処理方法]
本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法は、Alを含有する溶融亜鉛めっき浴を用いる。図6は、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法の工程を示すフロー図である。図6を参照して、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法は、サンプル採取工程(S1)と、δ1相ドロス量決定工程(S2)と、操業条件調整工程(S3)とを備える。以下、各工程について詳述する。
[サンプル採取工程(S1)]
サンプル採取工程(S1)では、溶融亜鉛めっき浴中からめっき液の一部をサンプルとして採取する。サンプル採取工程(S1)では、経時的にサンプルを採取する。「経時的にサンプルを採取する」とは、特定時間が経過するごとにサンプルを採取することを意味する。特定時間(サンプルを採取した後、次のサンプルを採取するまでの期間)は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。たとえば、1時間ごとにサンプルを採取してもよい。また、サンプルを採取した後1時間経過後に次のサンプルを採取し、さらに30分経過後に次のサンプルを採取してもよい。特定時間は特に限定されない。
溶融亜鉛めっき浴中からのサンプル採取量は特に限定されない。次工程のδ1相ドロス量決定工程(S2)において、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求めることができる量であれば、サンプル採取量は特に制限されない。サンプル採取量はたとえば、100〜400gである。採取されたサンプルを熱伝導率が高い常温の金属に接触させて、サンプルを常温まで急冷して固化してもよい。熱伝導率が高い常温の金属はたとえば、銅である。
溶融亜鉛めっき浴中のサンプル採取位置は特に限定されない。たとえば、図2〜図4を参照して、溶融亜鉛めっき浴103を深さ方向DにD1〜D3に三等分した場合、溶融亜鉛めっき浴103中の最上部の領域D1でサンプルを採取してもよいし、中部の領域D2でサンプルを採取してもよいし、最下部の領域D3でサンプルを採取してもよい。各領域D1〜D3で採取されたサンプル中のδ1相ドロス量はそれぞれ異なる。しかしながら、採取位置に応じて、求めたδ1相ドロス量が多いか否かを判断することがある程度可能である。したがって、サンプルの採取位置は特に限定されない。図2〜図4に示すとおり、溶融亜鉛めっき浴103のうち、鋼板Sの板幅方向と平行な方向を幅方向Wと定義し、溶融亜鉛めっき浴103の深さ方向を深さ方向Dと定義し、幅方向W及び深さ方向Dと垂直な方向を長さ方向Lと定義する。この場合、好ましくは、幅方向Wにおける特定の幅範囲、深さ方向Dにおける特定の深さ範囲、及び、長さ方向Lにおける特定の長さ範囲で区画される特定領域内から経時的にサンプルを採取する。要するに、溶融亜鉛めっき浴103内の同じ位置(特定領域内)から、経時的にサンプルを採取する。
好ましくは、できるだけシンクロール107近傍の領域からサンプルを採取する。具体的には、図2〜図4に示すとおり、溶融亜鉛めっき浴103のうち、深さ方向Dにおいて、シンクロール107の上端から下端までの特定の深さ範囲D107内から、サンプルを採取する。つまり、特定の深さ範囲をシンクロール107の上端から下端までの範囲D107とする。Γ2相ドロスは、シンクロール107近傍で鋼板Sの表面に付着する可能性が高い。そのため、シンクロール107近傍でのδ1相ドロス量が、ドロス欠陥を抑制する指標としては最も有効である。したがって、好ましくは、深さ範囲D107からサンプルを採取する。この場合、最も鋼板Sの表面に付着しやすい範囲から採取したサンプルに基いてδ1相ドロス量を求めるため、δ1相ドロス相とドロス欠陥との相関をさらに高めることができる。幅方向W及び長さ方向Lについても、できるだけシンクロール近傍の領域からサンプルを採取することが好ましい。なお、上述のとおり、サンプルは、溶融亜鉛めっき浴103内の同じ領域内から経時的に採取する。
[δ1相ドロス量決定工程(S2)]
δ1相ドロス量決定工程(S2)では、採取されたサンプルを用いて、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求める。サンプルを用いたδ1相ドロス量の求め方は特に限定されず、種々の方法が考えられる。
たとえば、サンプル採取工程(S1)で採取されたサンプルから、δ1相ドロス観察用試験片を作製する。δ1相ドロス観察用試験片の一例としては、15mm×15mmの観察視野を確保できる表面(被検面)を有し、0.5mmの厚さを有する直方体(小板形状)とする。所定倍率の光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、上記観察視野(15mm×15mm)で全視野観察を行い、全視野中のドロスを特定する。視野中のコントラストにより、ドロスを特定することができ、さらに、コントラストにより、トップドロスとボトムドロスとを区別することができる。
図7は、サンプル採取工程(S1)にて採取されたサンプルの観察視野の一部での写真画像の一例である。図7を参照して、写真画像には、溶融亜鉛めっきの母相200と、トップドロス100Tと、ボトムドロス100Bとが観察される。トップドロス100Tは、母相200及びボトムドロス100Bよりも明度が低い(暗い)。一方、ボトムドロス100Bは、母相200よりも明度が低く(暗く)、トップドロス100Tよりも明度が高い(明るい)。以上のとおり、トップドロスとボトムドロスとは、コントラストに基づいて区別可能である。
上記観察視野(15mm×15mm)中で特定されたドロスのうち、各ボトムドロスに対して、EPMAを用いた組成分析を実施し、δ1相ドロスを特定する。各ボトムドロスに対してさらに、TEMを用いた結晶構造解析を実施して、上記観察視野中のδ1相ドロスを特定してもよい。なお、コントラストによるトップドロス及びボトムドロスの区別をすることなく、各ドロスに対してEPMAを用いて組成分析及び/又はTEMを用いた結晶構造解析を実施して、視野中の各ドロスの種類(トップドロス、Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)を特定してもよい。
特定されたδ1相ドロスに基づいて、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求める。溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量は、種々の指標で決定できる。たとえば、上記観察により求めたボトムドロスの総個数に対する、δ1相ドロスの個数割合(%)を、δ1相ドロス量としてもよい。この場合、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量(%)は次式(α)で示される。
δ1相ドロス量=δ1相ドロスの個数/ボトムドロスの総個数×100 (α)
ここで、ボトムドロスの総個数とは、観察視野中における、Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロスの合計の個数を意味する。ここで、Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロスの個数は、次の方法により求める。上述の視野(15mm×15mm)において、特定された各ボトムドロス(Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)の円相当径を求める。上述の視野中の各ボトムドロスの面積を円に換算した場合の直径を、円相当径(μm)と定義する。上述の視野の写真画像を用いて、周知の画像処理により、特定された各ボトムドロスの円相当径(μm)を求める。そして、視野(総面積225mm2)中において、特定されたボトムドロス(Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)のうち、円相当径が1μm以上のΓ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロスの総個数を、ボトムドロスの総個数(個/225mm2)と定義する。また、視野中において、円相当径が1μm以上のδ1相ドロスの個数を、δ1相ドロスの個数(個/225mm2)と定義する。得られたδ1相ドロスの個数(個/225mm2)とボトムドロスの総個数(個/225mm2)とを用いて、式(α)によりδ1相ドロス量(%)を求める。なお、各ドロスの円相当径の上限は特に限定されない。各ドロスの円相当径の上限はたとえば、1000μmである。
また、他の指標を溶融亜鉛めっき溶液中のδ1相ドロス量としてもよい。たとえば、上述の観察視野中において、各ボトムドロス(各Γ2相ドロス、各δ1相ドロス、及び、各ζ相ドロス)の面積と、各δ1相ドロスの面積とを求める。そして、ボトムドロスの総面積に対するδ1相ドロスの総面積の比率を、δ1相ドロス量としてもよい。また、観察視野面積に対する、δ1相ドロスの総面積の比率を、δ1相ドロス量としてもよい。また、上述の視野中におけるδ1相ドロスの総面積(μm2)を、δ1相ドロス量としてもよい。また、上述のサンプルの被検面に対してX線回折測定を実施して、各ボトムドロス(Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)のピーク強度を測定する。そして、各ボトムドロスのピーク強度の総和(つまり、Γ2相ドロスのピーク強度、δ1相ドロスのピーク強度、及び、ζ相ドロスのピーク強度の総和)に対する、δ1相ドロスのピーク強度の比をδ1相ドロス量としてもよい。なお、X線回折測定ではΓ2相ドロスとΓ1相ドロスは明確に区別することが容易ではない。しかしながら、上述のとおり、Γ1相ドロスはほとんど存在していないと考えられる。したがって、回折角2θ=43〜44°で得られるピーク強度は全てΓ2相ドロスのピーク強度と見なす。なお、X線回折測定時のターゲットはたとえば、Co乾球を利用する。上述以外の他の方法により、δ1相ドロス量を求めてもよい。δ1相ドロス量はたとえば、溶融亜鉛めっき浴中のボトムドロス総量に対するδ1相ドロスの総量の割合で定義される。ここでいう総量は、総個数であってもよいし、総面積であってもよいし、総体積であってもよい。総個数は単位面積当たり、又は、単位体積当たりの総個数であってもよい。
以上の方法により、サンプル採取工程(S1)で採取されたサンプルを用いて、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求める。なお、δ1相ドロス量決定工程(S2)は、サンプル採取工程(S1)においてサンプルを採取するごとに実施することが好ましい。経時的にサンプルを採取し、サンプルを採取するごとにδ1相ドロス量を決定することにより、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量の経時的な変化も把握することができる。したがって、経時的に採取されたサンプルに基づいて、経時的にδ1相ドロス量を決定してもよい。
[操業条件調整工程(S3)]
δ1相ドロス量決定工程(S2)において溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を決定した後、操業条件調整工程(S3)を実施する。
操業条件調整工程(S3)では、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量に基づいて、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する。具体的には、求めたδ1相ドロス量が少ない場合には、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を増加するように、操業条件を調整(変更)する。求めたδ1相ドロス量が適量であれば、操業条件を現状のまま維持してもよい。操業条件の調整方法は、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が調整できれば、特に制限されない。具体的には、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が増加できるように調整できれば、操業条件の調整方法は特に制限されない。
好ましくは、操業条件の調整方法として、次の(A)又は(B)の少なくとも1つを実施する。
(A)溶融亜鉛めっき浴の浴温を調整する。
(B)溶融亜鉛めっき浴のAl濃度を調整する。
上記(A)について、溶融亜鉛めっき浴の温度を高くすれば、Γ2相ドロスはδ1相ドロスに相変態する可能性が高くなる。したがって、溶融亜鉛めっき浴の温度を高めれば、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロスが減少し、代わりに、δ1相ドロスが増加する。上述のとおり、δ1相ドロスの成長速度は遅い。そのため、δ1相ドロスは微細である。さらに、δ1相ドロスは軟質である。そのため、δ1相ドロスはドロス欠陥を形成しにくい。したがって、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が過剰に少ない場合、溶融亜鉛めっき浴の浴温を高めてもよい。この場合、Γ2相ドロスが微細なδ1相ドロスに相変態する。その結果、微細なδ1相ドロスは増加し、Γ2相ドロスは減少する。そのため、ドロス欠陥の発生が抑制される。なお、浴温を高めることはエネルギー原単位を高める。そのため、δ1相ドロス量が十分に多い場合、浴温を過剰に高める必要はない。以上のとおり、溶融亜鉛めっき浴の浴温を調整することにより、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を調整できる。具体的には、溶融亜鉛めっき浴の浴温を高めることにより、δ1相ドロス量を増加させることができ、その結果、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロス量を低減できる。
上記(B)について、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を低くすれば、低い浴温であってもΓ2相ドロスがδ1相ドロスに相変態する可能性が高くなる。したがって、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が過剰に少ない場合、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を調整することにより、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を調整できる。具体的には、溶融亜鉛めっき浴のAl含有量を低減することにより、δ1相ドロス量を増加させることができ、その結果、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロスを低減できる。
上述の(A)及び(B)の操業条件のうち、求めたδ1相ドロス量に基づいて、いずれか1つの操業条件のみを調整してもよいし、(A)及び(B)の操業条件を調整してもよい。たとえば、δ1相ドロス量が過剰に少ない場合、溶融亜鉛めっき浴の浴温を高め、かつ、溶融亜鉛めっき浴のAl濃度を低くしてもよい。δ1相ドロス量が適切な場合、(A)及び(B)の操業条件を現状のまま維持してもよい。
δ1相ドロス量決定工程(S2)により求めたδ1相ドロス量が適切か否かの判断指標として、しきい値を設けてもよい。この場合、求めたδ1相ドロス量がしきい値未満であるか否かにより、操業条件を調整してもよい。具体的には、求めたδ1相ドロス量がしきい値未満であるか否かにより、操業条件を変更したり、変更せずに維持したりしてもよい。たとえば、求めたδ1相ドロス量がしきい値未満である場合、δ1相ドロス量が過剰に少ないと判断して、操業条件を変更し、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が現時点よりも増加するように、操業条件を調整する。好ましくは、求めたδ1相ドロス量がしきい値未満である場合、δ1相ドロス量がしきい値以上となるように、操業条件を変更する。一方、求めたδ1相ドロス量がしきい値以上である場合、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が十分に多いと判断して、操業条件を現状のまま維持する。
たとえば、式(α)で定義される、観察視野(15mm×15mm)中のボトムドロスの総個数(個/225mm2)に対するδ1相ドロスの個数(個/225mm2)割合を、δ1相ドロス量(%)とする場合、δ1相ドロス量のしきい値をたとえば、95.00%とする。この場合、δ1相ドロス量決定工程(S2)で求めたδ1相ドロス量が95.00%未満であるとき、δ1相ドロス量が過剰に少ないと判断して、操業条件を変更し、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量が現時点よりも増加するように、操業条件を調整する。好ましくは、δ1相ドロス量決定工程(S2)で求めたδ1相ドロス量がしきい値未満である場合、δ1相ドロス量がしきい値以上となるように、操業条件を変更する。たとえば、δ1相ドロス量決定工程(S2)で求めたδ1相ドロス量がしきい値未満である場合、上記(A)及び(B)の少なくとも1つの操業条件を変更する。たとえば、溶融亜鉛めっき浴の浴温を高め、δ1相ドロス量を95.00%以上とする。また、たとえば、溶融亜鉛めっき浴のAl濃度を低くして、δ1相ドロス量を95.00%以上とする。なお、式(α)で定義されるδ1相ドロス量は、大きければ大きいほどよい。
操業条件調整工程(S3)では、δ1相ドロス量決定工程(S2)により求めたδ1相ドロス量に基いて、好ましくは、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を、質量%で、0.100〜0.150%の範囲内に調整し、かつ、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度をX(質量%)と定義し、溶融亜鉛めっき浴中の浴温をT(℃)と定義したとき、Al濃度及び浴温が式(1)を満たすように調整する。
X≦0.002488×T−1.0266 (1)
式(1)は、溶融亜鉛めっき浴中において、Γ2相ドロスがδ1相ドロスに相変態する境界(相変態線)に対応する。溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度Xが式(1)の右辺よりも高ければ、溶融亜鉛めっき浴の化学組成が、δ1相ドロスよりもΓ2相ドロスの方が安定して存在できる状態となっている。この場合、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度が0.100〜0.150%であることを前提として、δ1相ドロスがΓ2相ドロスに相変態しやすい。したがって、溶融亜鉛めっき浴において、Γ2相ドロスが生成しやすい状態となる。
一方、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度Xが式(1)の右辺以下であれば、つまり、Al濃度X及び浴温Tが式(1)を満たせば、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度が0.100〜0.150%であることを前提として、溶融亜鉛めっき浴の化学組成が、Γ2相ドロスよりもδ1相ドロスの方が安定して存在できる状態となっている。そのため、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロスがδ1相ドロスに相変態しやすい。したがって、溶融亜鉛めっき浴において、Γ2相ドロスが減少しやすい状態となる。
したがって、上述の溶融亜鉛めっき処理において、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を、質量%で、0.100〜0.150%の範囲内に調整し、かつ、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度X(質量%)と溶融亜鉛めっき浴中の浴温T(℃)とが(1)を満たすように調整すれば、溶融亜鉛めっき浴中において、δ1相ドロスの生成を促進し、δ1相ドロス量と負の相関関係を有するΓ2相ドロス量を低減することができる。
操業条件調整工程(S3)において、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を、質量%で、0.100〜0.150%の範囲内に調整し、Al濃度及び浴温が式(1)を満たすように調整すれば、式(α)で定義されるδ1相ドロス量がしきい値95.00%以上になりやすくなる。
[溶融亜鉛めっき浴のより好ましい浴温について]
なお、上述の溶融亜鉛めっき処理方法における溶融亜鉛めっき浴の温度(浴温)は、好ましくは、440〜500℃である。溶融亜鉛めっき浴中のドロスは、溶融亜鉛めっき浴の温度及び溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度に応じて、主として、トップドロス(Fe2Al5)、Γ2相ドロス、δ1相ドロスに相変態する。Γ2相ドロスは浴温が低い領域で生成しやすい。δ1相ドロスは、Γ2相ドロスの生成領域よりも浴温が高い領域で生成しやすい。
また、溶融亜鉛めっき浴の浴温が500℃以下であれば、Znが蒸発してヒュームとなるのを抑制できる。ヒュームが発生する場合、鋼板にヒュームが付着して表面疵(ヒューム疵)となりやすい。溶融亜鉛めっき浴の好ましい下限は460℃であり、さらに好ましくは465℃であり、さらに好ましくは469℃である。溶融亜鉛めっき浴の好ましい上限は490℃であり、さらに好ましくは480℃であり、さらに好ましくは475℃である。なお、トップドロスは、Γ2相ドロスの生成領域及びδ1相ドロスの生成領域よりもAl濃度が高い領域で生成しやすい。
以上のとおり、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法では、溶融亜鉛めっき浴からサンプルを採取して(サンプル採取工程(S1))、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量を求める(δ1相ドロス量決定工程(S2))。そして、溶融亜鉛めっき浴中のδ1相ドロス量に基づいて、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する(操業条件調整工程(S3))。Γ2相ドロス量と負の相関関係を有するδ1相ドロス量を管理することにより、ドロス欠陥の発生を抑制するように、操業条件を調整することができる。
[合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法]
上述の本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の製造方法に適用可能である。
本実施形態による合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、溶融亜鉛めっき処理工程と、合金化処理工程とを備える。溶融亜鉛めっき処理工程では、鋼板に対して、上述の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する。一方、合金化処理工程では、溶融亜鉛めっき処理工程により表面に溶融亜鉛めっき層が形成された鋼板に対して、図2に示す合金化炉111を用いて合金化処理を実施する。合金化処理方法は、周知の方法を適用すれば足りる。
以上の製造工程により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造できる。本実施形態の合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、上述の本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法を採用する。つまり、δ1相ドロス量に基づいて、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整してδ1相ドロス量を増加する。そのため、溶融亜鉛めっき浴中のΓ2相ドロスが相対的に低減し、その結果、製造された合金化溶融亜鉛めっき鋼板にドロス欠陥が発生するのを抑制できる。
なお、本実施形態の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、溶融亜鉛めっき処理工程、及び、合金化処理工程以外の他の製造工程を含んでもよい。たとえば、本実施形態の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、合金化処理工程後において、図1に示す調質圧延機30を用いて調質圧延を実施する調質圧延工程を含んでもよい。この場合、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面の外観品質をさらに高めることができる。また、調質圧延工程以外の他の製造工程を含んでもよい。
[溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法]
上述の本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法はまた、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)の製造方法にも適用可能である。
本実施形態による溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、溶融亜鉛めっき処理工程を備える。溶融亜鉛めっき処理工程では、鋼板に対して、上述の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する。本実施形態の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、上述の本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法を採用する。つまり、Γ2相ドロス量に基づいて、溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整してΓ2相ドロスを低減する。そのため、製造された溶融亜鉛めっき鋼板にドロス欠陥が発生するのを抑制できる。
なお、本実施形態の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、溶融亜鉛めっき処理工程以外の他の製造工程を含んでもよい。たとえば、本実施形態の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、溶融亜鉛めっき処理工程後に、図1に示す調質圧延機30を用いて調質圧延を実施する調質圧延工程を含んでもよい。この場合、溶融亜鉛めっき鋼板の表面の外観品質をさらに高めることができる。また、調質圧延工程以外の他の製造工程を含んでもよい。
以下、実施例により本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法の一態様の効果をさらに具体的に説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の溶融亜鉛めっき処理方法は、この一条件例に限定されない。
上述の操業条件調整工程において、Al濃度X及び浴温Tの調整とδ1相ドロス量との関係について調査を行った。
図2と同じ構成を有する溶融亜鉛めっき設備を利用して、溶融亜鉛めっき処理方法を実施した。具体的には、溶融亜鉛めっき浴のAl濃度X(質量%)及び浴温T(℃)を、表1に記載のとおりに調整した。鋼板としては、自動車外板用鋼板を用いた。
各試験番号において、図2の溶融亜鉛めっき浴103のうち、深さ方向Dにおいて、シンクロール107の上端から下端までの特定の深さ範囲D107内からサンプルを採取した。より具体的には、図2の溶融亜鉛めっき浴103において、深さD方向における特定の深さ範囲D107、幅方向Wにおける特定の幅範囲、及び、長さ方向Lにおける特定の長さ範囲で区画される特定領域(以下、サンプル採取領域という)内からサンプルを採取した。いずれの試験番号においても、上述の同じサンプル採取領域内からサンプルを400g程度採取した。採取したサンプルを常温まで冷却した。冷却後のサンプルを用いて、各試験番号の溶融亜鉛めっき浴の化学組成をICP発光分光分析計を用いて測定した。その結果、溶融亜鉛めっき浴中のFe濃度はいずれの試験番号においても、0.02〜0.05質量%の範囲内であった。
Figure 0006919723
各試験番号において、溶融亜鉛めっき浴の浴温が表1に示した値で一定となるようにし、かつ、溶融亜鉛めっき浴のAl濃度が表1に示す濃度となるように、経時的に適宜Alを添加して調整した。なお、溶融亜鉛めっき処理中の鋼板の搬送速度は、いずれの試験番号においても一定とした。
なお、表1には、式(1)の右辺の値についても記載した。ただし、Al濃度Xが0.100%未満、又は、0.150%超である場合、上述のとおり、模様欠陥(試験番号27)、又は、未合金(試験番号28)が確認されたため、式(1)の右辺の値を不問とし、表1中の「式(1)右辺」欄において「−」と記載した。
各試験番号において、表1に示す操業条件での溶融亜鉛めっき浴中からサンプルを採取した。具体的には、上述のサンプル採取領域から400g程度のサンプルを採取した。採取したサンプルから、δ1相ドロス観察用試験片を作製した。δ1相ドロス観察用試験片の被検面は15mm×15mmとし、厚さを0.5mmとした。100倍のSEMを用いて、上記被検面の視野(15mm×15mm)で全視野観察を行い、コントラストに基づいて、ドロス(トップドロス、ボトムドロス)を特定した。さらに、EPMAを用いた組成分析を実施して、各ドロスを、トップドロス、ボトムドロス(Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)に分類した。さらに、特定されたボトムドロス(Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)の円相当径を求めた。上述の15mm×15mmの視野において、円相当径が1μm以上のδ1相ドロスの個数(個数/225mm2)を求めた。さらに、円相当径が1μm以上のボトムドロス(Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)の(個数/225mm2)を求めた。δ1相ドロスの個数(個数/225mm2)のボトムドロスの総個数(個数/225mm2)に対する割合を、式(α)を用いて求め、δ1相ドロス量とした。得られたδ1相ドロス量を表1に示す。なお、本実施例では、いずれの試験番号においても、Γ1相ドロスは観測されなかった。
なお、試験番号16〜19において、ボトムドロス(Γ2相ドロス、δ1相ドロス、及び、ζ相ドロス)の総個数(個/225mm2)は、次のとおりであった。
試験番号16:495個/225mm2
試験番号17:990個/225mm2
試験番号18:990個/225mm2
試験番号19:2993個/225mm2
各試験番号の操業条件で溶融亜鉛めっき処理を実施した後、各試験番号で同じ条件で合金化処理を実施して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。製造された合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面を目視で観察して、ドロス欠陥の有無を調査し、ドロス欠陥の評価を行った。ドロス欠陥評価の基準は、次のとおりとした。
A:ドロス欠陥が存在しなかった(ドロス欠陥の個数が0個/m2
B:ドロス欠陥の個数が0個超0.1個/m2以下
C:ドロス欠陥の個数が0.1個/m2超1個/m2以下
D:ドロス欠陥の個数が1個/m2
[評価結果]
表1を参照して、δ1相ドロス量が95.00%以上に制御された試験番号2、5、6、9、10、13〜15、18〜20、及び、23〜28では、ドロス欠陥評価がA又はBとなり、ドロス欠陥をより有効に抑制することができた。一方、δ1相ドロス量が95.00%未満の試験番号1、3、4、7、8、11、12、16、17、21、及び、22では、ドロス欠陥評価がC又はDであった。さらに、試験番号1〜28を参照して、δ1相ドロス量が多いほど、ドロス欠陥評価は良好になった。つまり、δ1相ドロス量とドロス欠陥個数とは、負の相関関係を示した。
以上の結果より、δ1相ドロス量に基づいて操業条件を調整することにより、ドロス欠陥を抑制することができることが分かった。そして、好ましくは、δ1相ドロス量のしきい値を95.00%とし、δ1相ドロス量が95.00%以上となるように溶融亜鉛めっき処理での操業条件を調整することにより、ドロス欠陥を顕著に抑制できることが分かった。
なお、試験番号16〜19のボトムドロスの総個数と、ドロス欠陥評価とを参照すると、ボトムドロスの総個数はドロス欠陥個数とは相関しておらず、δ1相ドロス量とドロス欠陥個数との方がより高い相関(負の相関)を示した。したがって、操業条件を調整するための指標として、ボトムドロス総個数ではなく、δ1相ドロス量を採用する方が適切であることが明らかとなった。
なお、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度が0.090質量%である試験番号27では、ドロス欠陥評価は「A」であったが、浴中に存在するFeとAlとの反応により、鋼板に対し、ドロス欠陥とは異なる模様欠陥が発生してしまった。一方、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度が0.160質量%である試験番号28では、ドロス欠陥評価は「A」であったが、後段の合金化炉において未合金が発生してしまった。したがって、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度は、0.100〜0.150質量%の範囲内であることがより好ましいことが、明らかとなった。
また、溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度が0.100〜0.150質量%である場合において(試験番号1〜26)、Al濃度及び溶融亜鉛めっき浴の浴温が式(1)を満たす場合(試験番号2、5、6、9、10、14、15、19、20、及び、23)、δ1相ドロス量が95.00%以上となり、ドロス欠陥評価をA又はBにすることが可能であった。したがって、操業条件の調整において、式(1)を満たすように調整することが、ドロス欠陥を抑制するのに有効であることが分かった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
10 溶融亜鉛めっき設備
101 溶融亜鉛ポット
103 溶融亜鉛めっき浴
105 スナウト
107 シンクロール
109 ガスワイピング装置
111 合金化炉

Claims (9)

  1. 溶融亜鉛めっき鋼板又は合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造に用いられる溶融亜鉛めっき処理方法であって、
    Alを含有する溶融亜鉛めっき浴中からサンプルを採取するサンプル採取工程と、
    採取された前記サンプルを用いて、前記溶融亜鉛めっき浴中のδ相ドロス量を求めるδ相ドロス量決定工程と、
    求めた前記δ相ドロス量に基づいて、前記δ 相ドロス量を増加してΓ 相ドロス量を低減するように溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整する操業条件調整工程とを備える、
    溶融亜鉛めっき処理方法。
  2. 請求項1に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
    δ相ドロス量決定工程では、
    採取された前記サンプルを用いて、ボトムドロスの総個数に対するδ相ドロスの個数割合を、前記δ相ドロス量として求める、
    溶融亜鉛めっき処理方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
    前記操業条件調整工程では、
    求めた前記δ相ドロス量に基づいて、(A)及び(B)の少なくとも1つを実施して、前記δ相ドロス量を増加する、
    溶融亜鉛めっき処理方法。
    (A)前記溶融亜鉛めっき浴の浴温を調整する。
    (B)前記溶融亜鉛めっき浴のAl濃度を調整する。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
    前記操業条件調整工程では、
    求めた前記δ相ドロス量がしきい値未満のとき、前記溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整して前記δ相ドロスを増加することによりΓ 相ドロス量を低減する
    溶融亜鉛めっき処理方法。
  5. 請求項4に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
    前記δ相ドロス量決定工程では、
    採取された前記サンプルを用いて、ボトムドロスの総個数に対するδ相ドロスの個数割合を、前記δ相ドロス量として求め、
    前記操業条件調整工程では、
    求めた前記δ相ドロス量が95.00%未満であるとき、前記溶融亜鉛めっき処理の操業条件を調整して前記δ相ドロスを増加する、
    溶融亜鉛めっき処理方法。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
    前記操業条件調整工程では、
    前記溶融亜鉛めっき浴中のAl濃度を、0.100〜0.150質量%の範囲内に調整し、かつ、
    前記溶融亜鉛めっき浴中の前記Al濃度をX(質量%)と定義し、前記溶融亜鉛めっき浴中の浴温をT(℃)と定義したとき、前記Al濃度及び前記浴温が式(1)を満たすように調整する、
    溶融亜鉛めっき処理方法。
    X≦0.002488×T−1.0266 (1)
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法であって、
    前記溶融亜鉛めっき浴が貯留された溶融亜鉛ポット内には、前記溶融亜鉛めっき浴中に浸漬された鋼帯と接触して前記鋼帯の進行方向を上方に転換させるためのシンクロールが配置されており、
    前記サンプル採取工程では、
    前記溶融亜鉛ポット内の前記溶融亜鉛めっき浴のうち、前記シンクロールの上端から下端までの深さ範囲から、前記サンプルを採取する、
    溶融亜鉛めっき処理方法。
  8. 鋼板に対して、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、前記鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理工程と、
    前記表面に溶融亜鉛めっき層が形成された前記鋼板に対して合金化処理を実施して、前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する合金化処理工程とを備える、
    合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  9. 鋼板に対して、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき処理方法を実施して、前記鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成する溶融亜鉛めっき処理工程を備える、
    溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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