JP6917215B2 - 調湿基材用インクセット、加飾された調湿基材の製造方法、及び加飾された調湿基材 - Google Patents

調湿基材用インクセット、加飾された調湿基材の製造方法、及び加飾された調湿基材 Download PDF

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Description

本発明の実施形態は、調湿基材用インクセット、加飾された調湿基材の製造方法、及び加飾された調湿基材に関する。
調湿建材等の調湿基材は、多孔質材料から作製されているため、表面に多数の細孔を備え、この細孔が吸放湿性を発揮することから、室内などの対象空間の湿度調整を行う機能を有する。調湿建材の中には、上記の湿度調整機能に加えて、消臭性能、揮発性有機化合物(VOC)吸着性能などを備えたものもある。
調湿建材表示制度の下に、調湿建材判定基準に規定される所定の調湿性及びその他の要件を満たす調湿建材は、一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会に登録でき、登録した調湿建材には、品質保証として所定の調湿建材マークを表示できる。調湿建材判定基準では、調湿性に関する登録要件として、吸放湿量、並びに含水率勾配及び平均平衡含水率が所定の水準をクリアすることが規定されている。
調湿建材を内装材として使用する場合、基材の表面を加飾して意匠性を高めることが望まれる。加飾方法としては、表面を立体加工して凹凸等をつける方法、塗装又は印刷により色及び/又は模様をつける方法、ファブリックで覆う方法等があるが、よりユーザーのニーズに対応し表現の幅を広げるためには、オンデマンド印刷による加飾方法が適している。
特許文献1及び2のそれぞれには、調湿基材の細孔の閉塞を抑制し、調湿基材の調湿機能を維持したまま、調湿基材に水性インクジェットインクで加飾印刷する手法が提案されている。
特開2015−127495号公報 特開2015−127499号公報
特許文献1または2の加飾された調湿基材は、細孔の閉塞が抑制されているため、液体を非常に高い速度で吸収する性質をもっている。このため、このような調湿基材を室内の壁等に使用している際、コーヒーや醤油等の液体が付着すると、付着物が基材内部にまですぐに浸透してしまい、汚れとして残留しやすい。そのような汚れが染みついた場合、特に取り外して洗浄することが困難であるような設置方法の場合、ふき取りだけでは汚れの除去が困難である。また、洗剤等を用いて無理に汚れを除去しようとすると、加飾部分が損傷する恐れもある。
撥水性をもつ薬剤を、加飾後に基材に塗布して撥水性をもたせることも可能であるが、撥水剤が被膜化して調湿基材の孔を塞いでしまう場合、本来調湿基材がもつ機能を低下させてしまうため好ましくない。
本発明の一目的は、調湿基材用インクセットであって、調湿基材に対し、その調湿機能を損なうことなく、意匠性を付与するための加飾を施すことが可能であり、かつ、撥水性が高く、加飾された調湿基材に付着した液体汚れも容易に除去できる、加飾された調湿基材を得ることができる、インクセットを提供することである。
本発明の他の目的は、加飾された調湿基材の製造方法であって、調湿基材に対し、その調湿機能を損なうことなく、意匠性を付与するための加飾を施すことが可能であり、かつ、撥水性が高く、加飾された調湿基材に付着した液体汚れも容易に除去できる、加飾された調湿基材を得ることができる、加飾された調湿基材の製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、調湿機能を損なうことなく、調湿基材の表面に意匠性を付与するための加飾が施された、加飾された調湿基材であって、撥水性が高く、付着した液体汚れも容易に除去できる、加飾された調湿基材を提供することである。
本発明の一実施形態により、色材及び水を含む水性インクジェットインクと、前記水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含む前処理液と、を含み、前記前処理液の前記色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選択される少なくとも1つであり、前記水性インクジェットインク及び前記前処理液のうち少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、調湿基材用インクセットが提供される。
本発明の他の実施形態により、調湿基材の表面に前処理液を付着させる前処理工程、及び、前記前処理工程の後に、水性インクジェットインクを用い、前記調湿基材の表面にインクジェット印刷する工程を含み、前記水性インクジェットインクは、色材及び水を含み、前記前処理液は、前記水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含み、前記前処理液の前記色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選択される少なくとも1つであり、前記水性インクジェットインク及び前記前処理液のうち少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、加飾された調湿基材の製造方法が提供される。
本発明の他の実施形態により、調湿基材の表面に、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む加飾部を有する、加飾された調湿基材が提供される。
本発明の一実施形態により、調湿基材用インクセットであって、調湿基材に対し、その調湿機能を損なうことなく、意匠性を付与するための加飾を施すことが可能であり、かつ、撥水性が高く、加飾された調湿基材に付着した液体汚れも容易に除去できる、加飾された調湿基材を得ることができる、インクセットを提供することができる。
本発明の他の実施形態により、加飾された調湿基材の製造方法であって、調湿基材に対し、その調湿機能を損なうことなく、意匠性を付与するための加飾を施すことが可能であり、かつ、撥水性が高く、付着した液体汚れも容易に除去できる、加飾された調湿基材を得ることができる、加飾された調湿基材の製造方法を提供することができる。
本発明の他の実施形態により、調湿機能を損なうことなく、意匠性を付与するための加飾が施された、加飾された調湿基材であって、撥水性が高く、付着した液体汚れも容易に除去できる、加飾された調湿基材を提供することができる。
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。
なお、本明細書において、「水性インクジェットインク」を、単に「水性インク」または「インク」とも記す場合がある。また、「調湿基材用インクセット」を、単に「インクセット」とも記す場合がる。
本明細書において、「加飾」は装飾と同義であって、印刷画像を形成することを意味しており、「加飾された」とは印刷画像を有することを意味する。この加飾部分は、対象物、すなわち調湿基材の全面であっても一部であってもよい。
また、加飾された調湿基材を、「加飾物品」と記す場合もある。
調湿基材は、調湿機能を有する多孔質基材であり、表面及び内部に多数の細孔を備え、この細孔が吸放湿性を発揮するものである。調湿基材の形状は通常、ボード状すなわち板状であるが、これに限定されるものではない。
調湿基材の細孔の直径については、例えば、1〜200nmあるいは1〜100nm程度のものがあり、より詳細には、直径1〜50nmのメソ孔と直径50nm超(例えば50nm超200nm以下又は50nm超100nm以下程度)のマクロ孔とを有するものがある。メソ孔の直径は、例えば水銀ポロシメーターによる水銀圧入法によって測定することができる。
調湿基材のなかで、調湿建材は、室内などの対象空間の湿度調整を行う機能を有する建築材料である。調湿建材の中には、上記の湿度調整機能に加えて、消臭性能、揮発性有機化合物(VOC)吸着性能などを備えたものもある。
調湿建材表示制度の下に、調湿建材判定基準(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会、“「調湿建材登録・表示制度」に関する調湿建材判定基準”平成19年10月1日制定、平成24年4月1日改訂、平成28年1月1日改訂、インターネット(URL:http://www.kensankyo.org/nintei/tyousitu/tyousitu_top.html))に規定される所定の調湿性及びその他の要件を満たす調湿建材は、一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会に登録でき、登録した調湿建材には品質保証として所定の調湿建材マークを表示できる。調湿建材判定基準では、調湿性に関する登録要件として、吸放湿量(JIS A 1470-1:2002、調湿建材の吸放湿性試験方法−第1部:湿度応答法−湿度変動による吸放湿試験方法)並びに含水率勾配及び平均平衡含水率(JIS A 1475:2004、建築材料の平衡含水率測定方法)が所定の水準をクリアすることが規定されている。
また、調湿建材性能評価委員会が平成18年3月に取りまとめた調湿建材の調湿性能評価基準(http://www.jtccm.or.jp/Portals/0/resources/library/new/208/209/doc/249/252/Humidity_conditioning_Evaluation_Criteria.pdf)では、上記吸放湿量及び平衡含水率に応じて、調湿建材を下記表1の3つの等級に分類している。ここで、1級は調湿建材として最低限有するべき性能を満たすものとされ、3級は調湿建材として優れた性能を有するものとされ、2級は1級と3級の中間の性能を有するものとされている。
Figure 0006917215
代表的な調湿基材としては、ケイ酸カルシウム等の無機材料の硬化体であって、吸放湿機能を有する無機粉体、例えば、ケイ酸質粉体、シリカゲル、珪藻土、活性白土、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライトなどを含有するものが挙げられ、該硬化体を更に焼成されたものも含まれる。調湿基材の具体例としては、調湿建材等の材料として使用されているものが挙げられ、好ましくは、一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会に登録された調湿建材が挙げられる。すなわち、上記表1に示した調湿性性能評価基準に合致した性能を有する、1級以上の調湿建材を好ましく使用することができる。例えば、調湿基材は、上述のとおり、JIS A 1470−1(2002)に規定する3時間後の吸湿量が15g/mより多いことが好ましい。
調湿基材は、天然鉱物を含有することが好ましい。
天然鉱物を含有する調湿基材の具体例としては、バーミキュライトを含有する調湿基材(市販品の例としては、例えば、ケイ酸カルシウムに未膨張バーミキュライトを配合してなるモイス(アイカテック建材(株))、ダイライトを含有する調湿基材(市販品の例としては、例えば、さらりあーと(大建工業(株))、カオリンを含有する調湿基材(市販品の例として、例えば、ガウディア(セキスイボード(株))、珪藻土を含有する調湿基材、(市販品の例として、例えば、やさしい壁(宇部興産建材(株))等が挙げられる。
<調湿基材用インクセット>
本発明の一実施形態である調湿基材用インクセットは、色材及び水を含む水性インクジェットインクと、水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含む前処理液と、を含み、前処理液及び水性インクジェットインクの少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
調湿基材用インクセットは、例えば、前処理液を2種以上含んでもよく、及び/又は、水性インクジェットインクを2種以上含んでもよい。
調湿基材に水性インクでインクジェット印刷により加飾する際に、水性インクの色材を定着させる色材定着成分を含む前処理液で基材を前処理した後に、水性インクで加飾することで、インクの色材が基材の表に密集し、高発色な加飾物品を得ることが可能となる。さらに、そのような加飾方法に用いる水性インク及び前処理液の少なくとも一方が、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含むことにより、加飾工程のみで加飾物品の表面に撥水性を付与することができる。その結果、加飾物品の表面にコーヒーや醤油等の液体が付着した際に、多孔質の調湿基材内部まで液体が染み込み、除去できない汚れとして残留する前に、布などの簡便な拭き取りで基材表面の汚れを除去することが可能となる。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤は、撥水作用を有するアルキルアルコキシシラン化合物であり、ポリオルガノシロキサン型撥水剤は撥水作用を有するポリオルガノシロキサン化合物である。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤は、いずれも、水に分散させてエマルションとして、前処理液及び/または水性インクジェットインクに配合することができる。アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤は、いずれも、水性媒体中に存在している際には水性液体と良好な混和性を示すが、これを含む前処理液及び/又は水性インクジェットインクを基材に付着させ、乾燥することで、シラン又はシロキサン部分が基材表面に結合し、有機基が基材表面に並ぶ。そのため、基材表面が疎水化し、大きな液滴に対しては撥水効果を示すが、水蒸気のような微小の液滴は多孔質である調湿基材の細孔に出入りすることができる。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤は、乳化により水に分散安定化されたエマルションとして用いることで、水性インクまたは/および前処理液に配合して、加飾時に基材表面に付与することが可能となる。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、前処理液及び水性インクジェットインクのうちの少なくとも1方に含まれることが好ましく、前処理液及び水性インクジェットインクの両方に含まれることがより好ましい。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤として用いるアルキルアルコキシシラン化合物の種類は撥水作用を有するものであれば特に制限されないが、珪素に直結した少なくとも一個のアルキル基の炭素数が6〜20であるアルキルアルコキシシラン化合物が好ましい。珪素に直結した少なくとも一個のアルキル基の炭素数が6以上の場合、加水分解性及び揮発性があまり高くない傾向がある。そのため、塗布直後に一部が基材表面に反応しそれ以上の浸透を遅らせたり、その間に未反応のシラン成分が蒸発することを防ぎやすい。一方、珪素に直結した少なくとも一個のアルキル基の炭素数が20以下であるとき、基材に浸透しやすいため、好ましい。
アルキルアルコキシシラン化合物のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基(炭素数1)、エトキシ基(炭素数2)、プロポキシ基(炭素数3)でもよいが、エトキシ基(炭素数2)が好ましい。アルコキシ基の炭素数が2以上の場合、アルカリ性条件下での安定性が比較的良好である。そのため、基材内部に浸透する前の表面での結合あるいは架橋を抑制することができるため、好ましい。
アルキルアルコキシシラン化合物として、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン及びトリアルキルモノアルコキシシランのいずれを用いてもよいが、なかでもモノアルキルトリアルコキシシランが好ましい。モノアルキルトリアルコキシシランは、基材表面のシラノール等との反応性に、より優れる傾向がある。モノアルキルトリアルコキシシランと、ジアルキルジアルコキシシラン及び/又はトリアルキルモノアルコキシシランを併用することも可能である。
アルキルアルコキシシラン化合物の具体例として、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、トリデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ノナデシルトリエトキシシラン、エイコシルトリエトキシシラン、オクタデシルメチルジエトキシシラン、及びこれらの混合物が挙げられる。
ポリオルガノシロキサン型撥水剤として用いるポリオルガノシロキサン化合物は、撥水作用を有するものであれば特に制限されない。ポリオルガノシロキサン化合物は、典型的には平均組成式(1)で表わされるものである。
(1) R (ORSi(OH)(4−a−b−c)/2
式(1)中、Rはアルキル基(好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基)、Rはアルキル基(好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基)、a、b、cは各々0.5<a≦2.0、0≦b<2.0、0≦c<2.0の任意の値であり、a+b+cは3以下である。
式(1)中のRの例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert− ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基(例えば、n−ヘキシル基)、ヘプチル基(例えば、n−ヘプチル基)、オクチル基(例えば、n−オクチル基及び2,2,4−トリメチルペンチル基)、ノニル基(例えば、n−ノニル基)、デシル基(例えば、n−デシル基)及びドデシル基(例えば、n−ドデシル基)などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基及びメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基であり、Rは、分子中に複数含まれる場合、分子中で同一または異なっていてもよい。
式(1) 中のRの例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基(例えばn−ヘキシル基)であり、Rは、分子中に複数含まれる場合、分子中で同一または異なっていてもよい。これらのなかでも好ましいRは、炭素数1又は2のアルキル基である。
式(1)においての平均組成としては、各々0.5<a≦2.0、0≦b<2.0、0≦c<2.0の値であって、好ましくは、0.8<a ≦2.0、0≦b<1.7、0≦c<0.5で、1.0<a+b+c<3.0である。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤またはポリオルガノシロキサン型撥水剤を分散させてエマルションとする際に、乳化剤成分として各種の公知の乳化剤を使用することができる。
乳化剤の具体例は、アニオン乳化剤としては、炭素原子数8〜18の鎖長を有するアルキルスルフェート、疎水性基中に8〜18個の炭素原子数を有し、かつ1〜40個のエチレンオキシド(EO)又はプロピレンオキシド(PO)単位を有するアルキル及びアルカリールエーテルスルフェート、8〜18個の炭素原子数を有するアルキルスルホネート、アルキルアリールスルホネート、一価アルコール又はアルキルフェノールとのスルホコハク酸のエステル及び半エステルを挙げることができる。
非イオン乳化剤としてはポリビニルアルコール、3〜40個のエチレンオキシド(EO)単位及び8〜20 個の炭素原子数を有するアルキルとからなるアルキルポリグリコールエーテル、エチレンオキシド/ プロピレンオキシド(EO/PO) ブロック共重合体、アルキルアミンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシドとの付加生成物などを挙げることができる。
カチオン乳化剤としては炭素原子数8〜24個を有する第一級、第二級及び第三級脂肪アミンの塩、第四級アルキル及びアルキルベンゾールアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリニウム塩及びアルキルオキサゾリニウム塩、長鎖の置換アミノ酸、ベタインなどを挙げることができる。
好ましい乳化剤は、非イオン乳化剤、特にアルキルポリグリコールエーテル、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドとのアルキルアミンの付加生成物、及びポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールは、酢酸ビニル単位を5〜20% 含有し、500〜3000の重合度を有するものが好ましい。
水にアルキルアルコキシシラン型撥水剤またはポリオルガノシロキサン型撥水剤を分散させたエマルションにおいて、乳化剤の量は、エマルションに対して通常0.1〜10質量%であってよく、好ましくは0.1〜5質量%である。
水にアルキルアルコキシシラン型撥水剤またはポリオルガノシロキサン型撥水剤を分散させたエマルション型撥水剤の市販品の例としては、旭ワッカーシリコーン株式会社のBS1042、BC2103、BS16、スズカファイン株式会社のシールトンW、トーヨーケム株式会社のタイトシランZ、タイトシラン30撥水型、タイトシランスーパーZ等が挙げられる。
前処理液は、調湿基材の表面に付着させて印刷画像の発色性及び定着性を高めるために用いられるものであり、水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含むことが好ましい。
ここで、「色材定着成分」は、インク中の色材を、調湿基材表面に定着させる作用を有する成分である。
上記前処理液で予め前処理することで、基材に付着した色材定着成分が基材内部へのインクの浸透を抑制することができるので、インクジェットインクのような低粘度のインクであっても、調湿基材表面に高発色の画像を形成することができる。
本明細書において、「前処理」とは、塗布等の任意の手段により、前処理液を調湿基材に付着させる意味であり、前処理液の付着箇所は、調湿基材の表面のみではなく、孔の内部(内面)を含んでいてもよい。
印刷前にこの前処理液を予め用いることにより、高発色の画像を付与することができる。
前処理液の色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。これらは、それぞれを単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いることも好ましい。
インクは一般に、表面電荷がアニオン性の成分を含み、顔料等の色材も一般的にアニオン性である。したがって、カチオン性の成分を含む前処理液を用いて、予め基材表面にカチオン性の成分を付着させておくことにより、インクとの間にアニオン−カチオン反応が生じ、色材などのインク成分の基材への浸透を十分に抑制し、色材を基材表面に留めることができる。
カチオン性の成分は、好ましくは、水分散性樹脂、例えば水分散性樹脂粒子である。
カチオン性の水分散性樹脂は、樹脂粒子の表面がプラスに帯電した、正電荷を帯びた樹脂粒子であり、水に溶解することなく粒子状に分散して、水中油(O/W)型のエマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するカチオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にカチオン性の分散剤を付着させる等の表面処理されたものでもよい。カチオン性の官能基は、代表的には第1級、第2級又は第3級アミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等であり、カチオン性の分散剤は、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カチオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等である。
樹脂粒子の表面電荷量は、粒子電荷計で評価することができる。試料を中和するのに必要なアニオン量またはカチオン量を測定することで、表面電荷量を算出することができる。具体的には、表面電荷量が+300μeq/g以上であることが好ましい。粒子電荷計としては、日本ルフト株式会社製コロイド粒子電荷量計Model CAS等を用いることができる。
水分散性樹脂としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましい。また、前処理液の製造に際しては、水中油型の樹脂エマルションとして配合することができる。
代表的には、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、及びそれらの樹脂エマルション等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂とメタクリル樹脂の双方を示す。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いても良い。後述するが、これらの樹脂が複合された樹脂エマルションでも良い。
上記のとおり、これらの樹脂にカチオン性の官能基を導入するか、又は、カチオン性分散剤等で表面処理して、プラスの表面電荷を与えることができる。
樹脂粒子の粒径は、特に限定されず、複数種の異なる粒径の粒子を任意に組み合わせて用いることができる。
一実施形態において、多孔質である調湿基材の表面に留まりやすく、加熱乾燥等により基材表面に定着しやすいとの観点から、動的光散乱法により測定されるメジアン径(平均粒径)が1μm以上のサイズを持つ粒子を含むことが好ましい。また、樹脂粒子の平均粒径は、10μm以下であることが好ましい。
さらに好ましい一実施形態においては、水分散性樹脂は、動的光散乱法により測定されるメジアン径(平均粒径)が1μm以上10μm以下の大粒子と、動的光散乱法により測定されるメジアン径(平均粒径)が1μm未満の小粒子とを含む。
すなわち、一実施形態において前処理液は、水、及びカチオン性の水分散性樹脂を含み、該カチオン性の水分散性樹脂は、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm以上10μm以下の大粒子と、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満の小粒子とを含んでもよい。
樹脂粒子の平均粒径は、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の粒径値(メジアン径)である。動的光散乱式粒子径分布測定装置としては、ナノ粒子解析装置nano Partica SZ−100(株式会社堀場製作所)等を用い、水分散性樹脂の濃度が0.5質量%となるように水で希釈し、25℃で測定することができる。
前処理液中又は後述するインク中において、樹脂粒子は、独立した微粒子の状態で存在する場合と、独立した微粒子が集合した凝集体の状態で存在する場合とが考えられるが、動的光散乱法で測定されるメジアン径を「平均粒径」と位置づけることとする。
なお、上記樹脂粒子の平均粒径は、前処理液又はインクを調製する前の原料エマルション状態で測定することが、インクの場合であれば色材(顔料粒子)の影響を排除できることから好ましく、その測定値を本実施形態の平均粒径とすることができる。
大粒子の平均粒径は、1μm以上、2μm以上であることがこの順に好ましく、10μm以下、7μm以下、5μm以下であることがこの順に好ましい。
小粒子の平均粒径は、1μm未満、500nm以下、250nm以下であることがこの順に好ましい。平均粒径の下限値は、特に限定はされないが、前処理液の保存安定性の観点からは、5nm以上程度であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
さらに、大粒子と小粒子は、両者を混合して平均粒径を測定した場合に、その粒度分布において二つのピークが存在する、すなわち各々が異なるピーク値を有するものであることが好ましい。
また、大粒子と小粒子は、平均粒径値の相違に加え、その他の相違点を有していてもよい。例えば、大粒子は、最低造膜温度(MFT)が70℃以上であることが好ましく、一方、小粒子は、MFTが70℃未満以下であることが好ましい。このMFTとは、エマルションがフィルム化(成膜)するために必要な温度であり、JIS K6828−2に従って測定することができる。ここで、70℃においても成膜しない水分散性樹脂は、MFTが70℃以上の水分散性樹脂に含まれるものとする。
より好ましくは、大粒子のMFTは100℃以上であり、小粒子のMFTは50℃以下であり、特に、小粒子は室温で成膜することが好ましいため、40℃以下であることが一層好ましい。
また、大粒子のMFTと小粒子のMFTの差は、30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
大粒子と小粒子の樹脂の分子構造は、同一であってもよいが、互いに異なるものを用いてもよい。
大粒子として、例えば、カルボキシ基、スルホ基等に代表されるアニオン性の官能基を有するポリマーと、アミノ基又はアミド基等に代表されるカチオン性の官能基を有するポリマーとが複合して得られるポリマーコンプレックスであって、コア部がアニオン性ポリマー、シェル部がカチオン性ポリマーである、コアシェル構造の複合有機粒子を用いることも好ましい。
複合有機粒子のアニオン性ポリマーとしては、例えば繰り返し単位として(メタ)アクリル酸を含むポリマー、より具体的にはスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が挙げられる。スチレン、(メタ)アクリル酸以外の、これらと共重合可能なビニル化合物を含んでいてもよい。
複合有機粒子のカチオン性ポリマー(塩基性ポリマー)としては、例えば、含窒素モノマーを含むポリマーであり、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルイミダゾール等の窒素複素環化合物を繰り返し単位として含むホモポリマー又はコポリマーが挙げられる。コポリマーを形成するコモノマーとしては、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリルアミド等の一般的なビニル化合物を、1種または2種以上選択して使用できる。
この場合のアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの使用割合は、粒子表面の電荷をカチオン性とするために、質量比で、アニオン性ポリマー1に対し、カチオン性ポリマーが3〜10であることが好ましい。
このような複合有機粒子の市販品として、「PP−15」、「PP−17」(共に明成化学工業株式会社)を好ましく用いることができる。
カチオン性水分散性樹脂の市販品の例としては、例えば、カチオン性アクリル樹脂エマルションであるポリゾールAE−803、ポリゾールAM−3400(いずれも昭和電工株式会社製)も挙げられる。
前処理液中における水分散性樹脂の量(例えば、大粒子と小粒子を用いる場合には両者の合計固形分量)は、処理した際の基材表面におけるインク定着性の観点から2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが一層好ましい。一方、前処理液の粘度が高すぎる場合、均一な処理が困難になるため、樹脂量は50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
また大粒子と小粒子とを用いる場合の両者の比率は、質量比で大粒子1に対し小粒子が0.1〜1.5程度であることが好ましい。
前処理液は、色材定着成分として、無機粒子を含むことができる。無機粒子は、インクの受容層となり、色材を定着させることができる。その際、調湿基材が本来有する空隙を無機粒子が埋めることになるが、無機粒子で形成される受容層自体も多孔質層となるため、調湿基材の性能を良好に維持することができる。
無機粒子は、基材に対する定着性の観点から、動的光散乱法により測定されるメジアン径が1μm未満であることが好ましく、前処理液は、平均粒径が1μm未満の無機粒子を含むことが好ましい。前処理液は、さらに粒径の大きな無機粒子を一部に含んでいてもよい。
無機粒子の種類は、特に限定されないが、シリカ、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等を好ましく使用することができ、これらの複数種を組み合わせて使用してもよい。
好ましい一実施形態において、無機粒子は、表面がプラスに帯電した、正電荷を帯びたカチオン性の無機粒子である。無機粒子の表面電荷は、上述の樹脂粒子の表面電荷と同様に測定することができる。
前処理液中における無機粒子の含有量は、処理した際の基材表面におけるインク定着性の観点から1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが一層好ましい。一方、前処理液の粘度が高すぎる場合、均一な処理が困難になるため、無機粒子量は40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
前処理液は、色材定着成分として、多価金属塩を含むことができる。インク中の色材は、多価金属塩の存在により、その分散状態が破壊されて、凝集状態に成りやすい傾向がある。そのため、多価金属塩が多孔質基材に付着していることにより、多価金属塩と接触した色材が凝集して、多孔質基材の表面に留まり易くなると考える。
多価金属塩としては、例えば、Mg、Ca、Al、Zn、Ba等の2価以上の金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、脂肪酸塩、乳酸塩等が挙げられ、これらの2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
前処理液中における多価金属塩の含有量は、処理した際の基材表面におけるインク定着性の観点から0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上であることが、この順に一層好ましい。一方、前処理液の安定性や画像の均一性の観点から、多価金属塩量は30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下であることが、この順に一層好ましい。
色材定着成分として、複数種を用いる場合、水溶性樹脂粒子、無機粒子、及び多価金属塩の個々の含有量は、上述した好ましい量よりも少ない量としてもよい。
水は、前処理液の溶媒、すなわちビヒクルとして機能するものであり、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が使用できる。
水は、前処理液全量の60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。
水の配合量の上限値は、特に限定はされないが、例えば、水の含有量は99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。
前処理液の溶媒は、ほとんどが水で構成されることが好ましいが、必要に応じて、水以外に、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、β−チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
これらの水溶性有機溶剤は、単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。
水溶性有機溶剤の含有量は、粘度調整と保湿効果の観点から、前処理液中に30質量%以下(あるいは、溶媒中に50質量%以下)であることが好ましい。
前処理液は、その表面張力を低下させて基材表面に均一に塗布できるようにするために、また、例えば、粒径の小さい水分散性樹脂粒子(小粒子)又は無機粒子の凝集を抑制して液の保存安定性を高めるために、界面活性剤をさらに含むことが好ましい。
界面活性剤は、親水性部分がイオン性(カチオン性・アニオン性・双性)のものと非イオン性(ノニオン性)のものに大別されるが、前処理液の泡立ちの観点から、起泡しにくい非イオン系の界面活性剤を用いることが好ましい。また、低分子系・高分子系(一般には分子量が約2000以上のものを指す。)のどちらでも良いが、高分子系界面活性剤を用いることが好ましい。
HLB値については、5〜20程度の界面活性剤であることが好ましい。
非イオン系の界面活性剤としては、たとえば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型のもの、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型のもの、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型のもの等が挙げられる。
界面活性剤の好ましい例として、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤も挙げられる。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品として、アセチレングリコールであるサーフィノール104E、104H、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造のサーフィノール420、440、465、485等(エアープロダクツアンドケミカルズ社)、アセチレングリコールのオルフィンE−1004、E−1010、E−1020、PD−002W、PD−004、EXP.4001、EXP−4200、EXP−4123、EXP−4300等(日信化学工業株式会社)、アセチレングリコールのアセチレノールE00、E00P、アセチレングリコールのエチレンオキサイドを付加した構造のアセチレノールE40、E100等(川研ファインケミカル株式会社)が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤は、非常に高い表面張力低下能と接触角低下能を持つため、調湿基材が親水性でなくても基材表面に前処理液を速やかに拡散させることができる。その結果、調湿基材の表面に前処理液の機能発現成分が均一に定着することができるため、印刷した際にインクが処理部分に均一に定着し、高発色で高品位の印刷画像を得ることができる。
シリコーン系界面活性剤のなかでも、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤が好ましい。市販品では「シルフェイスSAGシリーズ」(日信化学工業株式会社)を好ましく使用できる。
界面活性剤は、上記の界面活性剤等を、いずれか単独で用いてもよいし、互いに相溶性が良好な複数の界面活性剤を併用してもよい。
界面活性剤を使用する場合の前処理液中の含有量は、0.1質量%以上程度であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが一層好ましい、一方、界面活性剤量は、5質量%以下程度であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが一層好ましい。
前処理液には、前処理液の機能を阻害しない限り、上記の成分以外に、例えば、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
色材定着成分が無機粒子又は多価金属塩の場合、前処理液の基剤への定着性を高めるために、バインダー樹脂が含まれていることが好ましい。
バインダー樹脂は、特に限定されないが、水分散性樹脂として先に例示したエチレン−塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、シリコーン樹脂、及びそれらの樹脂エマルション等を好ましく用いることができる。これらの樹脂は単独で含まれても良いし、複数が含まれても良い。また、これらの樹脂を架橋させる架橋成分が含まれても良い。架橋成分としては、例えばブロックイソシアネート、オキサゾリン基含有化合物、(ポリ)カルボジイミド、アジリジン等が挙げられるがその限りではない。なお、前処理液が、色材定着成分としてカチオン性水分散性樹脂を含む場合は、このカチオン性水分散性樹脂がバインダー樹脂としての機能も併せ持つことができる。
前処理液が、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む場合の、前処理液中のアルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、前処理液中のこれらの含有量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
なお、調湿基材用インクセットに前処理液が2種以上含まれるとき、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、例えば、これら2種以上の前処理液のうちの1種にのみ含まれていてもよく、例えば、これら2種以上のうちのいずれか2種以上またはすべての前処理液に含まれていてもよい。
前処理液は、色材定着成分等の成分を、例えばホモジナイザーや超音波分散機等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。前処理液がアルキルアルコキシシラン型撥水剤又はポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む場合は、あらかじめ水に分散させたエマルションとして、他の成分とともに分散機に加えることができる。
水性インクジェットインクは、前処理後の調湿基材表面を加飾するためのインクであって、色材及び水を含むことが好ましい。
水性インクジェットインクは、色材及び水に加えて、水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂を含むことが好ましい。
水は、インクの溶媒、すなわちビヒクルとして機能するものであれば特に限定されず、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が使用できる。
水は、インク全量の30質量%以上であることが好ましく、インク全量の60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。また、水の含有量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
インクの溶媒は、その大部分が水で構成されることが好ましいが、必要に応じて、水以外に、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、上記前処理液に使用できるものと同様の溶剤を、1種又は2種以上選択して使用できる。
水溶性有機溶剤のインク中の含有量は、2種以上が用いられる場合はその合計含有量として、5〜50質量%であることが好ましく、10〜35質量%であることがより好ましい。
色材としては、顔料及び染料の何れも使用することができ、単独で使用しても両者を併用してもよい。加飾画像の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を使用することが好ましい。
色材の含有量は、インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲であることが好ましい。さらには、色材の含有量は0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが一層好ましく、また、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、8質量%以下であることが一層好ましい。
染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられ、これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものが使用できる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料及び染付レーキ顔料等の有機顔料並びに無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。無機顔料としては、代表的にはカーボンブラック及び酸化チタン等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
インクには、インク中における顔料の分散を良好にするために、インクに必要に応じて顔料分散剤を添加することができる。使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶媒中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、高分子分散剤や顔料分散能をもった界面活性剤に代表される公知の顔料分散剤を使用することが好ましい。高分子分散剤の具体例としては、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパース(商品名)シリーズ、ジョンソンポリマー社製のジョンクリル(商品名)シリーズ、BYK社のDISPERBYKシリーズ、BYKシリーズなどが挙げられる。界面活性剤の具体例としては、花王(株)製デモール(商品名)シリーズのような、アニオン性の脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等、非イオン性のポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。
顔料分散剤の含有量は、上記顔料を十分に上記溶媒中に分散可能な量であれば足り、例えば顔料1に対し質量比で0.01〜2の範囲内で、適宜設定できる。
顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散顔料を使用してもよい。市販品の例としては、たとえば、キャボット社製CAB−O−JETシリーズ(CAB−O−JET200、300、250C、260M、270Y)、オリヱント化学工業(株)製BONJETシリーズ(BONJET BLACK CW−1、CW−2、CW−4)等が挙げられる。顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を使用してもよい。
インクには、水分散性樹脂又は水溶性樹脂の少なくとも一方が含まれることが好ましい。これにより、多孔質基材に色材を十分に定着させ、少量の色材で高い着色性を得ることができる。水分散性樹脂と水溶性樹脂を併用してもよい。
水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸中和物、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらは、単独で、又は複数種を組み合わせて使用できる。
水分散性樹脂の場合は、粒子表面がマイナスに帯電し、負電荷を帯びたアニオン性の樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、水に溶解することなく粒子状に分散して水中油(O/W)型エマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するアニオン性の官能基が粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にアニオン性の分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。アニオン性の官能基は、代表的にはカルボキシ基、スルホ基等であり、アニオン性の分散剤は、陰イオン界面活性剤等である。表面がアニオン性であると、上記前処理液中のカチオン性水分散性樹脂との化学的な相互作用が得られ、その結果、色材の定着を一層強固なものとして画像の耐久性をより高めることができる。
樹脂粒子の表面電荷は、ゼータ電位を測定することで評価できる。具体的には、ゼータ電位の絶対値が30mV以上であることが好ましい。
樹脂の種類としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましい。また、インクの製造に際し、樹脂エマルションとして配合することができる。
代表的には、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、及びそれらの樹脂エマルション等が挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて使用できる。ここで、「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂とメタクリル樹脂の双方を示す。
上記のとおり、これらの樹脂にアニオン性の官能基を導入するか、又は、アニオン性分散剤等で表面処理して、マイナスの表面電荷を与えることができる。
これらの水分散性樹脂(又はそのエマルション)のうち、インクジェットヘッドからの安定吐出性能の観点、及び金属製等の吸音材に対する密着性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が−35〜40℃のウレタン樹脂(エマルション)を用いることが好ましい。かかる樹脂エマルションの具体例としては、第一工業製薬(株)のスーパーフレックス460、420、470、460S(カーボネート系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、150HS(エステル・エーテル系ウレタン樹脂エマルション・商品名)、740、840(芳香族イソシアネート系エステル系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、DSM社のNeoRez R−9660、R−2170(脂肪族ポリエステル系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、NeoRez R−966、R−967、R−650(脂肪族ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルション・いずれも商品名)、R−986、R−9603(脂肪族ポリカーボネート・いずれも商品名)などが挙げられる。
ウレタン樹脂エマルションとしては、三洋化成(株)のパーマリンUA−150(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂エマルション、商品名)等も挙げられる。
また、インク中での安定性の観点から、(メタ)アクリル樹脂又は(メタ)アクリル樹脂共重合体を用いることも好ましい。具体的には、日本合成化学工業(株)のモビニール966A、6963、6960(アクリル樹脂エマルション・いずれも商品名)、6969D、RA−033A4(スチレン/アクリル樹脂エマルション・いずれも商品名)や、BASF社のジョンクリル7100、PDX−7370、PDX−7341(スチレン/アクリル樹脂エマルション・いずれも商品名)、DIC(株)のボンコートEC−905EF、5400EF、CG−8400(アクリル/スチレン系エマルション)などが挙げられる。
水分散性樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の1種単独の樹脂(又はそのエマルション)から構成されてもよいし、又は、複数種の樹脂(又はそれらのエマルション)を組み合わせて構成されてもよい。
エマルションを形成する水分散性樹脂粒子は、インクジェット印刷に適した粒子径であれば良く、一般的には平均粒径(動的光散乱法により体積基準で測定したメジアン径)で300nm以下であることが好ましい。また、インクジェット印刷に適したこの程度の大きさであれば、調湿基材の細孔を完全に塞ぐことがなく、調湿性能を維持することができるので好ましい。この調湿性能の維持のため、平均粒径のより好ましい値は250nm以下であり、さらに好ましい値は200nm以下であり、一層好ましい値は150nm以下である。平均粒径の下限値は、特に限定はされないが、インクの保存安定性の観点からは、5nm以上程度であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
インク中における水分散性樹脂及び/又は水溶性樹脂の量(固形分量)は、色材と樹脂の比率(色材:樹脂)で1:0.5〜1:7(質量比)が好ましい。樹脂の含有量をこの範囲にすることで、多孔質基材の表面に印刷された画像の耐水擦過性と高画質性を十分に確保することができる。色材1に対する樹脂の比率が0.5より小さいと、顔料の定着性が悪くなる可能性があり、7より大きいと、粘度が高くなり、インクを吐出するヘッドからインクを吐出できなくなる可能性がある。
また、インク中にはインクの表面張力を低下させ、インクジェットヘッドに導入した際の吐出安定性を確保し、また印刷対象基材にインクを速やかに浸透させるために、表面張力低下剤を添加することができる。表面張力低下剤としては、さらに水分散性樹脂粒子の凝集を抑制する効果も有している界面活性剤、例えば、前処理液に配合されると同様の界面活性剤を用いることもできる。顔料分散機能と表面張力低下機能の双方を備える界面活性剤を使用してもよい。
インク中の表面張力低下剤の量は、0.1質量%以上程度であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが一層好ましい。一方、表面張力低下剤量は、5質量%以下程度であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが一層好ましい。
インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記の成分以外に、例えば、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
インクが、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む場合、インク中のアルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。インク中のこれらの含有量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
なお、調湿基材用インクセットにインクが2種以上含まれるとき、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、例えば、これら2種以上のインクのうちの1種にのみ含まれていてもよく、例えば、これら2種以上のうちのいずれか2種以上またはすべてのインクに含まれていてもよい。
インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、ビーズミル等の公知の分散機に、色材、色材を分散させる分散剤、並びに、水および水溶性溶剤等の分散媒等の成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより色材の分散体が調製できる。このようにして製造した色材の分散体もしくは市販の分散体に残りの成分を添加して混合液にし、ろ過機を通すことにより、水性インクを調製することができる。
なお、インクがアルキルアルコキシシラン型撥水剤又はポリオルガノシロキサン型撥水剤を含む場合は、あらかじめ水に分散させたエマルションとして、他の成分とともに分散機体に加えることができる。
<加飾された調湿基材の製造方法>
本発明の一実施形態の、加飾された調湿基材の製造方法は、調湿基材の表面に前処理液を付着させる前処理工程、及び、前処理工程の後に、水性インクジェットインクを用い、調湿基材の表面にインクジェット印刷する工程を含み、水性インクジェットインク及び前記前処理液のうち少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
調湿基材、前処理液、水性インクジェットインク、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤については、上述の調湿基材用インクセットにおいて説明した通りである。
上述の通り、調湿基材に水性インクでインクジェット印刷により加飾する際に、水性インク中の色材を定着させる定着成分を含む前処理液で基材を前処理した後に、水性インクで加飾することで、インクの色材が基材の表に密集し、高発色な加飾物品を得ることが可能となる。さらに、そのような加飾方法に用いる水性インク及び前処理液の少なくとも一方が、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含むことにより、加飾工程のみで加飾物品の表面に撥水性を付与することができる。その結果、加飾物品の表面にコーヒーや醤油等の液体が付着した際に、多孔質の調湿基材内部まで液体が染み込み、除去できない汚れとして残留する前に、布などの簡便な拭き取りで基材表面の汚れを除去することが可能となる。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、前処理液及び水性インクジェットインクのうちの少なくとも1方に含まれることが好ましく、前処理液及び水性インクジェットインクの両方に含まれることがより好ましい。
なお、例えば、インクを2種以上用いるとき、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、例えば、これら2種以上のインクのうちの1種にのみ含まれていてもよく、例えば、これら2種以上のうちのいずれか2種以上またはすべてのインクに含まれていてもよい。前処理液についても同様である。
前処理液の調湿基材表面への塗布は、刷毛、ローラー、バーコーター、エアナイフコーター、スプレーを使用して多孔質基材表面に一様に塗布することによって行ってもよいし、又は、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。すなわち、前処理液は、多孔質基材表面の全面に塗布されてもよいし、必要な箇所にのみ、例えば上記インクを用いたインクジェット印刷が行われる箇所にのみ塗布されてもよい。
前処理液の塗布量(付着量)は、調湿基材の吸放湿量及び平均含水率によって異なるが、加飾画像の一定の発色及び光沢を達するためには、調湿基材の吸放湿量及び平均含水率が低いほど塗工量(固形分)を多くすることが好ましい。また、表面粗さRaが15μm程度の多孔質基材の場合、前処理後のRaを好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下とするに十分な量の前処理液を塗布すると、印刷された画像の発色性及び光沢性が向上するので好ましい。
調湿基材への水性インクを用いたインクジェット印刷は、一般的な記録ヘッドを用いて行うことができ、印刷方式や使用する装置等に特に制限はない。印刷(加飾)後は、乾燥させることにより、調湿基材の表面に、インクジェット印刷されたインクから水及びその他の揮発性成分が揮発して、水分散性樹脂と色材から主として構成される画像を備えてなる、調湿機能を有する加飾物品、例えば加飾建材が得られる。
画像の記録面積は、特に限定されず、任意の絵柄又は文字、あるいは絵柄と文字との組合せ等を、自由に選択することができる。
加飾された調湿基材の製造方法は、これらの工程以外の工程を含んでもよい。
なお、前処理前に、調湿基材表面を研磨するなどして表面を平滑化しておくと、印刷された画像の発色性及び光沢性が一層向上するので好ましい。具体的には、表面粗さRaを10μm以下程度にしておくことが好ましく、より好ましくは8μm以下である。表面粗さRaは、KEYENCE社のLaseer Scaning Microscope VK−8700などで測定が可能である。測定の際には、多孔質基材の大きな凹凸、欠落部などの特異的な部分は除外してよい。
また、高品位の加飾画像を得るために、(i)インク滴を小さくする、(ii)印刷速度を遅くする、(iii)片方向印刷をする、(iv)調湿基材を温めながら印刷する、(v)印刷解像度を低くする、又は、(vi)これらの方法を組み合わせて印刷するなどの印刷条件を用いることが有効である。
調湿基材を温めながら印刷する上記印刷条件は、多孔質基材の性能に関わらず、少ないインク量で高発色の画像を得ることが必要な場合、凹凸が多い調湿基材やインクの吸水性能が異なる複数の調湿基材にまたがった絵柄を均一に印刷する場合の印刷条件としても有効である。調湿基材を温めながら印刷することで、インク中の水以外の成分である顔料等の存在位置を調湿基材の表面近くに形成させることが可能となるため、多孔質基材の調湿性能や形状への影響が小さくなり、安定した画像を得ることが可能となる。
印刷終了後に調湿基材を加熱してもよく、インク中の水やその他の揮発性成分を完全に揮発させ、インク中の色材を水分散性樹脂によって調湿基材に定着させることができる。また、本発明における撥水剤は乾燥して初めて撥水性を発現するものであるため、印刷終了後に加熱することで、撥水性の発現を促進することができる。
調湿基材を温める場合(例えば、調湿基材を温めながら印刷する場合、及び印刷終了後に調湿基材を加熱する場合、など)、調湿基材を温める方法は任意であり、加熱温度も特に限定されないが、例えば、50〜100℃の範囲で加熱してもよい。
以上の加飾を行うための装置は、特に限定されないが、例えば、調湿基材を載置するための載置部と、調湿基材の表面にインクを吐出してインクジェット印刷するように配置されたインクジェット記録ヘッドとを少なくとも備え、さらに好ましくは、調湿基材の表面に前処理液を塗布するための前処理液塗布部、及び/又は、調湿基材を加熱するための加熱部を任意に備えた加飾装置を用いることができる。
より詳細には、加飾装置は、加飾しようとする画像の電子データ(各画素に対応する画素値を備えるもの)を提供するための入力部(例えば、スキャナ)、調湿基材の表面に水性インクを吐出して画像を記録する記録ヘッド部、調湿基材を載置した状態で記録ヘッド部の下面に形成された吐出ノズルと対向する位置に調湿基材を搬送する搬送部、及び、調湿基材が記録ヘッド部に至る前に、調湿基材の表面に前処理液を吐出して前処理液を調湿基材上に塗布する前処理液塗布部を備えることができる。さらに、印刷中又は印刷前後の任意の段階で、調湿基材上の加飾領域を加熱する加熱部(セラミックヒーター等の各種ヒーター)を設け、吐出された前処理液及び/又はインクの乾燥を促進できるようにすることが好ましい。
本実施形態の加飾された調湿基材の製造方法において、基材に塗布された前処理液の不揮発分量とインクの不揮発分量の合計が2.0g/m以上300g/m未満であることが好ましい。合計が2.0g/m以上である場合、より良好な撥水性が付与されやすく、合計が300g/m以下である場合、基材表面の不揮発分量がそれほど多くないことから、基材が本来もつ機能を低下させにくい。
本実施形態の加飾された調湿基材の製造方法において、水性インクジェットインクの基材への転移量は、より良好な発色性の観点から、不揮発分量で0.5g/m以上であることが好ましい。
<加飾された調湿基材>
本発明の一実施形態である加飾された調湿基材(加飾物品)は、調湿基材の表面に、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む加飾部を含む。
調湿基材、及び、アルキルアルコキシシラン型撥水剤、及びポリオルガノシロキサン型撥水剤については、上記の、調湿基材用インクセットで説明した通りである。
加飾された調湿基材は、JIS A 1470−1(2002)に従って測定される3時間後の吸湿量が15g/mより多い調湿機能を有することが好ましい。
アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、例えば、加飾部の、印刷画像に含まれていてもよく、印刷の前に前処理液による前処理が行われている場合には、前処理液による前処理層及び/又は前処理層の上の印刷画像に含まれていてもよい。印刷画像は、例えば、上述の調湿基材用インクセットの項で説明した水性インクジェットインクを用いて形成することができる。また、前処理層も、同様に、例えば、上述の調湿基材用インクセットの項で説明した前処理液を用いて形成することができる。
加飾物品は、例えば、好ましくは調湿建材であるが、建材以外にも、例えばコースター、足ふきマット等であってもよい。
インクジェット印刷により形成される画像は、先に専用の上記前処理液により表面処理された、つまり前処理液が付着した調湿基材の表面に形成されたものであることが好ましい。
画像の記録面積は、特に限定されず、任意の絵柄又は文字、あるいは絵柄と文字との組
合せ等を、自由に選択することができる。
本実施形態の加飾された調湿基材を製造する方法はとくに限定されない。例えば、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含むインクを用いてもよく、前処理液を用いる場合には、インク及び/又は前処理液がアルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
本実施形態の加飾された調湿基材は、また、上記の調湿基材用インクセットを用いて製造してもよい。また、上記の加飾された調湿基材の製造方法で製造することもできる。
本発明の実施形態は、下記を含むが、下記の実施形態は本発明を限定するものではない。
<1> 色材及び水を含む水性インクジェットインクと、
前記水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含む前処理液と、を含み、
前記前処理液の前記色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記水性インクジェットインク及び前記前処理液のうち少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、
調湿基材用インクセット。
<2> 前記アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、水に分散させたエマルションの形態で配合されたものである、<1>に記載の調湿基材用インクセット。
<3> 調湿基材の表面に前処理液を付着させる前処理工程、及び、
前記前処理工程の後に、水性インクジェットインクを用い、前記調湿基材の表面にインクジェット印刷する工程を含み、
前記水性インクジェットインクは、色材及び水を含み、
前記前処理液は、前記水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含み、
前記前処理液の前記色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記水性インクジェットインク及び前記前処理液のうち少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、
加飾された調湿基材の製造方法。
<4> 前記加飾された調湿基材のJIS A 1470−1(2002)に規定する3時間後の吸湿量が15g/mより多い、<3>に記載の加飾された調湿基材の製造方法。
<5> 調湿基材の表面に、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む加飾部を有する、加飾された調湿基材。
<6> JIS A 1470−1(2002)に規定する3時間後の吸湿量が15g/mより多い、<5>に記載の加飾された調湿基材。
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例
のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」である。表中の各成分の配合量も「質量%」で示す。
<水性インクジェットインクの製造>
表2及び3に記載の各材料を表2及び3に示す割合でプレミックスし、その後、ホモジナイザーで1分間分散し、その後孔径3μmのメンブレンフィルターで濾過し、水性インクセット1〜4とした。
表2及び3記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
・BONJET BLACK CW−4(商品名):オリヱント化学工業株式会社製、水系自己分散カーボンブラック分散体、顔料13.0%
・CAB−O−JET 250C(商品名):キャボット社製、水系自己分散顔料シアン分散体、顔料10.0%
・CAB−O−JET 260M(商品名):キャボット社製、水系自己分散顔料マゼンタ分散体、顔料10.0%
・CAB−O−JET 270Y(商品名):キャボット社製、水系自己分散顔料イエロー分散体、顔料10.0%
・スーパーフレックス470(商品名):第一工業製薬(株)製、水系ウレタン樹脂エマルション、水分散性ウレタン樹脂38.0%
・パーマリンUA−150(商品名):三洋化成工業(株)製、水系ウレタン樹脂エマルション、水分散性ウレタン樹脂30.0%
・サーフィノール465(商品名):日信化学工業(株)製、アセチレングリコール系界面活性剤
・グリセリン:和光純薬工業(株)製、沸点290℃
・1,3−プロパンジオール:和光純薬工業(株)製、沸点214℃
・タイトシランZ(商品名):トーヨーケム(株)製、水にアルキルアルコキシシラン型撥水剤を分散させたエマルション型撥水剤、アルコキシシラン型撥水剤30.0%
・BC2103(商品名):旭化成ワッカーシリコーン(株)製、水にポリオルガノシロキサン型撥水剤を分散させたエマルション型撥水剤、ポリオルガノシロキサン型撥水剤50.0%
Figure 0006917215
Figure 0006917215
<前処理液の製造>
表4に記載の各材料を表4に示す割合でプレミックスし、その後、ホモジナイザーで1分間分散して、前処理液1〜5を得た。
表4記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
・PP−17(商品名):明成化学工業株式会社製、カチオン性水分散性複合樹脂、カチオン性水分散性樹脂25.5%
・CaCl:塩化カルシウム50%水溶液
・スノーテックスAK−L(商品名):日産化学工業株式会社製、カチオン性コロイダルシリカ20.0%
・ポリゾールAE−803(商品名):昭和電工株式会社製、カチオン性アクリル樹脂エマルション、カチオン性水分散性アクリル樹脂46.5%
・ポリゾールAM−3400(商品名):昭和電工株式会社製、カチオン性アクリル樹脂エマルション、カチオン性水分散性アクリル樹脂45.0%
・オルフィンE1010(商品名):日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤
・シルフェイスSAG503A(商品名):日信化学工業株式会社製、シリコーン系界面活性剤
・タイトシランZ(商品名):トーヨーケム(株)製、水にアルキルアルコキシシラン型撥水剤を分散させたエマルション型撥水剤、アルコキシシラン型撥水剤30.0%
・BC2103(商品名):旭化成ワッカーシリコーン(株)製、水にポリオルガノシロキサン型撥水剤を分散させたエマルション型撥水剤、ポリオルガノシロキサン型撥水剤50.0%
Figure 0006917215
<前処理>
調湿基材として、モイス(アイカテック建材株式会社製、調湿建材)を用いた。
10cm×20cmにカットした調湿基材に対して、まず、表5に示す前処理液をスプレーガンにて、ウェット塗布量で、50g/mの塗布量になるように塗布し、処理物品とした。
<加飾(印刷)>
未処理の調湿基材、及び、室温環境で保管した各処理物品に対して、インクセット1〜4のうち表5に示すものを市販の水性顔料インクジェットプリンタの各色に対応したインクヘッドに導入し、カラー画像および文字・細線の画像を、未処理の基材および処理物品に印刷した。印刷終了後、100℃のオーブンで10分間加熱乾燥したものを、加飾物品とした。
このようにして、表5に示す、実施例1〜6および比較例1〜4の加飾物品を得た。なお、表5に示すように、比較例1及び3では、前処理液を塗布する処理を行わず、未処理物品に加飾が行われた。
比較例3については、印刷及びその後の加熱終了後、基材表面に撥水被膜を形成するフッ素系コーティング樹脂エスエフコートSFE−DP02H(AGCセイミケミカル(株))を、スプレーガンにて、ウェット塗布量で、50g/mの量を塗布し、100℃のオーブンで10分間加熱乾燥した。
<発色>
得られた加飾物品の、加飾して1日後の画像のOD値を測定した。OD値は光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用い測定した。判定基準を表5に、結果を表6に示す。
<撥水性(拭き取り性)評価>
得られた加飾物品の画像部分に、コーヒーの液滴を2mlスポイトで1滴垂らした後、液滴が基材内部に浸透し基材表面から無くなるまでの時間を計測した。また、コーヒーの液滴を画像部分に1滴垂らした後、布で拭き取った際の状態を目視で観察した。判定基準を表5に、結果を表6に示す。
<調湿性能評価>
得られた加飾物品についてJIS A 1470−1の吸放湿量及びJIS A 1475の平衡含水率を測定した。判定基準を表5に、結果を表6に示す。
Figure 0006917215
Figure 0006917215
表6より、実施例1〜6は、いずれの評価においても良好な結果が得られたことがわかる。これに対して、比較例1〜3は、すべての評価を同時に良好な結果とすることができなかった。

Claims (4)

  1. 色材及び水を含む水性インクジェットインクと、
    前記水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含む前処理液と、を含み、
    前記前処理液の前記色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選択される少なくとも1つであり、
    前記水性インクジェットインク及び前記前処理液のうち少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、
    調湿基材用インクセット。
  2. 前記アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つは、水に分散させたエマルションの形態で配合されたものである、請求項1に記載の調湿基材用インクセット。
  3. 調湿基材の表面に前処理液を付着させる前処理工程、及び、
    前記前処理工程の後に、水性インクジェットインクを用い、前記調湿基材の表面にインクジェット印刷する工程を含み、
    前記水性インクジェットインクは、色材及び水を含み、
    前記前処理液は、前記水性インクジェットインク中の色材を定着させる色材定着成分及び水を含み、
    前記前処理液の前記色材定着成分は、カチオン性の水分散性樹脂、無機粒子、及び多価金属塩からなる群から選択される少なくとも1つであり、
    前記水性インクジェットインク及び前記前処理液のうち少なくとも一方は、アルキルアルコキシシラン型撥水剤及びポリオルガノシロキサン型撥水剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、
    加飾された調湿基材の製造方法。
  4. 前記加飾された調湿基材のJIS A 1470−1(2002)に規定する3時間後の吸湿量が15g/mより多い、請求項3に記載の加飾された調湿基材の製造方法。
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