JP6793091B2 - 調湿基材用水性インクジェットインクセット及び加飾された調湿基材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明の一実施形態は、調湿基材用水性インクジェットインクセット、加飾された調湿基材の製造方法、及び加飾された調湿基材に関する。
調湿建材は、室内等の対象空間で湿度調整を行う機能を有する内装用の建築材料である。調湿建材は、一般的に多孔質材料から作製され、表面に多数の細孔を備え、この細孔によって対象空間の湿気を吸放出し、調湿機能を発揮する。
調湿建材表示制度の下に、調湿建材判定基準に規定される所定の調湿性及びその他の要件を満たす調湿建材は、一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会に登録でき、登録した調湿建材には、品質保証として所定の調湿建材マークを表示できる。調湿建材判定基準では、調湿性に関する登録要件として、吸放湿量(JIS A 1470−1:2014、調湿建材の吸放湿性試験方法−第1部:湿度応答法−湿度変動による吸放湿試験方法)、並びに平衡含水率(即ち、含水率勾配及び平均平衡含水率)(JIS A 1475:2004、建築材料の平衡含水率測定方法)が所定の水準をクリアすることが規定されている。
また、調湿建材性能評価委員会が平成18年3月に取りまとめた調湿建材の調湿性能評価基準では、上記吸放湿量及び平衡含水率に応じて、調湿建材を下記表1の3つの等級に分類している。ここで、1級は調湿建材として最低限有するべき性能を満たすもの、3級は調湿建材として優れた性能を有するもの、2級は1級と3級の中間の性能を有するものとされている。なお、調湿建材の調湿性能評価基準は、一般財団法人 建材試験センターのホームページ(http://www.jtccm.or.jp/main_services/seino/seino_jigyou_cyositu.html)に掲載されており、吸放湿性については、相対湿度50〜75%の吸湿量が下記表1の数値を上回るものであって、放湿量は、12時間後において12時間の吸湿量のおおむね70%以上であることが規定され、平衡含水率は、吸湿過程の平衡含水率(容積基準質量含水率)の値が下記表1の数値を上回るものであることが規定されている。
Figure 0006793091
調湿建材を内装材として使用する場合、調湿建材の表面を加飾して意匠性を高めることが望まれ、調湿建材の加飾方法が従来から提案されている。
特開2003−146775号公報(特許文献1)には、ケイ酸カルシウムに未膨張バーミキュライトを配合して成る調湿建材の表面に焼付け処理をすることで、意匠性に優れた建材を得る技術が提案されている。
特開2011−26871号公報(特許文献2)には、調湿建材の表面に紫外線硬化型インクを用いてインクジェット記録手段により画像を形成して加飾する技術が提案されている。
調湿建材は、メソ孔といわれるおよそ1〜50nmの大きさの微細な孔が湿気を吸放出することで調湿機能がより発揮される。調湿建材をインクで加飾する場合は、その孔をふさがないように工夫することが重要である。また、調湿建材は、一般的に室内空間で用いられるため、有機溶剤量を少なくできる水性インクを用いて加飾されることが望まれる。
特開2015−127499号公報(特許文献3)では、粒子径が小さい色材及び水分散性樹脂を含む水性インクジェットインクを用いて調湿建材に加飾することで、多孔質基材表面の細孔を塞がないで、調湿性能を損なうことなく、少量の色材で鮮やかな発色を得ることが提案されている。また、特許文献3では、前処理液を組み合わせることで、光沢性及び調湿性能をより改善することが提案されている。
特開2016−210838号公報(特許文献4)では、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を含む水性インクジェットインクを用いて調湿建材に加飾することで、インク中の水が基材内部に浸透しながら、インク中の色材及び水分散性樹脂が基材表面に良好に定着されて、加飾画像の耐水擦過性を向上させることが提案されている。また、特許文献4では、表面処理液を組み合わせることで、発色性及び光沢性をより改善することが提案されている。
また、調湿建材に水性インクによって加飾する場合では、一般的な紙媒体とは異なって表面が多孔質であるため、加飾画像のにじみが特に問題になる。また、多色のインクを用いて加飾する場合は、調湿建材表面で色が混じって画質が低下する問題がある。
多孔質ではないが各種基材に対して、画像のにじみや色混じりを防止する方法が特許文献5〜8に提案されている。
WO2012/132403号(特許文献5)では、2価以上の特定の金属塩と、特定の樹脂及び/または樹脂エマルションとを含む受理溶液を記録媒体に付着させ、この受理溶液付着部上に、顔料表面及び/またはアニオン性樹脂エマルション表面に少なくとも1つのP−OまたはP=O結合を有するリン含有基が結合している水性インクを用いて印刷することで、定着性を向上させ、フェザリングとカラーブリードを抑制することが提案されている。
特開2013−010823号公報(特許文献6)では、ブラックインクと、ブラック以外の色のインクとで、水溶性有機溶媒の構成とともにインク粘度を異ならせたインクセットを用いて紙に印刷することで、ブラックとブラック以外の色の間のカラーブリードの発生を抑制することが提案されている。
特開2011−006672号公報(特許文献7)では、酸価が65〜85であるアニオン性自己乳化型エーテル系ポリウレタン樹脂を含む黒顔料インクと、黒顔料インクの樹脂よりも酸価が10〜40低いアニオン性自己乳化型エーテル系ポリウレタン樹脂を含むカラー顔料インクとを用いて紙に印刷することで、色のにじみを防止することが提案されている。
特表2011−508797号公報(特許文献8)では、カーボンブラック顔料、及びブロックコポリマーである両性ポリマー分散剤を含み、pHが7より大きいブラックインクと、ブラックインクのカーボンブラック顔料を不安定化する反応種を含む第2のインクとを用いることで、ブラックインクを第2のインクと近接させた関係で印刷する際に、ブラックインクの他色へのブリードを防ぐことが提案されている。
特開2003−146775号公報 特開2011−26871号公報 特開2015−127499号公報 特開2016−210838号公報 WO2012/132403号 特開2013−010823号公報 特開2011−006672号公報 特表2011−508797号公報
特許文献3の技術は、焼付け処理のために調湿建材の表面を高温で加熱する必要があり、その結果、建材に内添されている成分が炭化して黒くなることがあるので、色表現と画像表現に乏しく、フルカラー画像を表現することは困難である。
特許文献4の技術では、紫外線硬化型インクが付着した部分は調湿性能が低下するため、画像面積を多孔質基材の表面積の1/3以下にせざるを得ない。さらに、調湿建材内部には未硬化の紫外線硬化型インクが残存する可能性が高く、内装材としての安全性に問題が生じ、人体への悪影響も懸念される。
特許文献5の方法では、記録媒体が特定の受理溶液で処理されることで、複数のカラーインクのカラーブリードを抑制しているが、複数のカラーインクでは顔料以外の成分は同じものを用いている。そのため、複数のカラーインクが重なって印刷される場合では、複数のカラーインクの間で色混じりを十分に防ぐことができない。
特許文献6の方法では、インク粘度が異なるものの、着色剤以外の成分が似ているブラックインクとカラーインクとが重なって印刷されると、紙上で両インクが接触することでなじみやすくなって、カラーブリードを十分に防ぐことができない。また、溶剤構成やインク粘度がインクによって大きく変わる場合では、印字ヘッドを色によって変える必要性が生じることがある。
特許文献7及び8の方法では、ブラックインクの顔料を凝集させる成分をカラーインクに配合しておき、紙面上でブラックインクとカラーインクとが接触することで、ブラックインクの顔料が凝集して、にじみや色混じりが防止される。この方法では、インクジェットノズルのインク吐出部付近で、ブラックインクとカラーインクとが混じってしまうと、インクジェットノズル面でインクが凝集し、吐出不良を引き起こす問題がある。例えば、インクジェットヘッドのクリーニングやノズル面のワイピングの作業で、インク同士が混じることがある。
また、特許文献7のようにインク間で樹脂の酸価を異ならせたり、特許文献8のようにインクのpHを調整したりすることでは、色にじみを十分に防止できず、特に調湿建材では色にじみが問題になる。
特許文献5〜8では、主に紙媒体での色にじみが検討される。
調湿建材に水性インクを用いて加飾画像を形成する場合では、調湿建材にはマクロ孔といわれる50nmを超えるような大きめの孔も多く存在するため、インクのドット形状がマクロ孔に沿って変形したり、インクがマクロ孔に浸透したりして、にじみが発生したり発色性が低下したりすることがある。さらには、カラー印刷では、複数の色が重なる部分では色混じりが発生して、加飾画像の品質が低下することがある。
また、調湿建材では、上記したメソ孔を塞がないように、少量の色材及び樹脂成分で十分な発色性を得ることが望まれる。
そのため、調湿建材への印刷では、にじみ、発色性、色混じりの点で、紙媒体への印刷とは異なる対策がさらに重要となる。
そこで、本発明の一目的としては、水性インクジェットインクを用いて調湿基材に高画質で高発色な加飾画像を形成することである。また、本発明の他の目的としては、このインクセットと表面処理液とを組み合わせることで、調湿基材に耐擦過性及び光沢性に優れる加飾画像を形成することである。
本発明の一実施形態は、黒色水性インク及び黒色以外の水性インクを備え、前記黒色水性インクの電荷密度は、前記黒色以外の水性インクの電荷密度よりも80μeq/g以上高い、調湿基材用水性インクジェットインクセットである。
本発明の他の実施形態は、上記調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて調湿基材にインクジェット印刷を行う工程を含む、加飾された調湿基材の製造方法である。
本発明のさらに他の実施形態は、上記調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて形成された加飾画像を備え、JIS A 1470−1(2014)に従って測定される3時間後の吸湿量が15g/mより多い、加飾された調湿基材である。
一実施形態によれば、水性インクジェットインクを用いて調湿基材に高画質で高発色な加飾画像を形成することができる。また、このインクセットと表面処理液とを組み合わせることで、調湿基材に耐擦過性及び光沢性に優れる加飾画像を形成することができる。
以下、本発明の一実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことは言うまでもない。
一実施形態による調湿基材用水性インクジェットインクセットとしては、黒色水性インク及び黒色以外の水性インクを備え、黒色水性インクの電荷密度は、黒色以外の水性インクの電荷密度よりも80μeq/g以上高いことを特徴とする。
以下、調湿基材用水性インクジェットインクセットを単に「インクセット」とも記し、黒色水性インクを単に「ブラックインク」とも記す。黒色以外の水性インクには、一般的なカラーインクに用いられるシアン、マゼンタ、イエローの3色のインクの他、ホワイト、ライトシアン、ライトマゼンタ等の各色のインクを用いることができる。これらの黒色以外の水性インクを以下単に「カラーインク」とも記す。また、電荷密度を「Cd値」とも記す。
一実施形態によれば、調湿基材に高画質で高発色な加飾画像を形成するインクジェットインクセットを提供することができる。このインクセットによれば、調湿基材の調湿性能の低下を防ぐことができる。また、このインクセットと表面処理液とを組み合わせることで、調湿基材に耐擦過性や光沢性に優れる加飾画像を形成することができる。
<調湿基材>
調湿基材は、調湿機能を有する多孔質基材であれば、特に限定されない。好ましくは、調湿基材は、表面及び内部に多数の細孔を備え、この細孔が吸放湿性を発揮するものである。
以下、調湿基材として好ましく用いられる「多孔質基材」について説明する。
多孔質基材の形状は通常、ボード状すなわち板状であるが、これに限定されるものではない。
多孔質基材の細孔の直径については、例えば、1〜200nmあるいは1〜100nm程度のものがあり、より詳細には、直径1〜50nmのメソ孔と直径50nm超(例えば50nm超200nm以下又は50nm超100nm以下程度)のマクロ孔とを有するものがある。メソ孔の直径は、例えば水銀ポロシメーターによる水銀圧入法によって測定することができる。
代表的な多孔質基材としては、ケイ酸カルシウム等の無機材料の硬化体であって、吸放湿機能を有する無機粉体、例えば、ケイ酸質粉体、シリカゲル、珪藻土、活性白土、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライトなどを含有するものが挙げられ、この硬化体を更に焼成されたものも含まれる。多孔質基材の具体例としては、調湿建材等の材料として使用されているものが挙げられ、好ましくは、一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会に登録された調湿建材が挙げられる。すなわち、上記表1に示した調湿性性能評価基準に合致した性能を有する、1級以上の調湿建材を好ましく使用することができる。例えば、上述のとおり、JIS A 1470−1(2014)に規定する3時間後の吸湿量が15g/mより多い多孔質基材である。
さらに具体的には、例えば、特開2003−146775号公報(特許文献1)に記載のような石膏、ケイ酸カルシウム、セメント、スラグ石膏もしくは塩基性炭酸マグネシウムの一種以上から選択される親水性素材を成形して得られる調湿建材、及び該親水性素材に膨張・剥離性鉱物を配合した素材を成形して得られる調湿建材、特開2002−4447号公報(なし)に記載のような主成分が炭酸カルシウムと非晶質シリカである成形体を炭酸硬化反応によって製造した調湿建材などが挙げられる。特に、特開2003−146775号公報(特許文献1)に記載のようなケイ酸カルシウムに未膨張バーミキュライトを配合してなる素材を成形して得られる調湿建材を好ましく使用できる。
調湿基材は、主に室内空間等の湿気を吸放出して調整する機能を有する調湿建材として好ましく用いることができる。
調湿建材としては、各種多孔質材料から作製されたものが知られており、例えば、ケイ酸カルシウムに未膨張バーミキュライトを配合して成る調湿建材として、アイカ工業(株)のモイス(商品名)、大建工業(株)のさらりあーと(商品名)、(株)LIXIL(INAX)のエコカラット(商品名)、名古屋モザイク(株)のエージプラス(商品名)、セキスイボード(株)のガウディア(商品名)、ニッコー(株)のムッシュ(商品名)がある。
<インクセット>
一実施形態によるインクセットは、上記多孔質基材の表面を加飾するために好ましく用いることができる。例えば、調湿建材等に用いられる調湿基材に対し特に好ましく適用することができる。
本明細書において、「加飾」は装飾と同義であって、対象物に印刷画像を形成することを意味しており、「加飾された」とは印刷画像を有することを意味する。この加飾部分は、対象物、すなわち調湿基材の全面であっても一部であってもよい。
一実施形態によるインクセットにより、調湿基材表面に、その調湿性能を損なうことなく、例えば調湿建材であれば加飾前と同一等級を維持して、少量の色材で鮮やかな画像を形成することができる。画像の印刷領域が調湿基材の全面にわたった場合でも、加飾前の調湿建材の等級を維持することができる。また、印刷領域の面積に制限がないため、様々な絵柄や文字等を自由に表現することができる。
インクセットとしては、黒色水性インク(ブラックインク)及び黒色以外の水性インク(カラーインク)を備える。ブラックインク及びカラーインクは、それぞれ1種、または2種以上であってもよい。
好ましくは、インクセットは、ブラックインクと、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、及びイエロー(Y)インクからなる群から選択される1種以上とを備えることができる。
例えば、一般的なカラー印刷用インクジェットインクセットとして、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及びブラック(K)の4色のインクを備えるインクセットを提供することができる。さらに、このインクセットには、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックの4色のインクの中から、同色で色相が異なる水性インクが2種以上備えられてもよい。
一実施形態では、ブラックインクの電荷密度Cd値は、カラーインクの電荷密度Cd値よりも80μeq/g以上高いことが好ましく、100μeq/g以上高いことがより好ましく、さらに150μeq/g以上高いことが一層好ましい。
これによって、ブラックインクとカラーインクとの色混じりやにじみを防止することができ、また、加飾画像の発色性を高めることができる。このようなインクセットでは、ブラックインクとカラーインクの間で電荷密度の差が大きく混合速度が遅くなるため、インク同士が混ざる前にインクが乾燥し、色混じりを抑制することができると考えられる。
複数種のカラーインクを備える場合では、ブラックインクのCd値がそれぞれのカラーインクのCd値よりも80μeq/g以上高くなっていればよい。
なお、ブラックインクを複数種備える場合では、複数のブラックインクのうちいずれか1種のCd値がカラーインクのCd値よりも80μeq/g以上高ければよいが、複数のブラックインクの全てのCd値がカラーインクのCd値よりも80μeq/g以上高いことが好ましい。
例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及びブラック(K)の4色のインクを備えるインクセットの場合では、インクセットの中で、ブラックインクのCd値(以下Cdkとも記す。)が1番高くなり、2番目にCd値が高い水性インクのCd値(以下Cd2とも記す。)が、Cdk−Cd2≧80μeq/gの関係を満たすことが好ましい。
ここで、電荷密度Cd値は、流動電位法にしたがって測定される電荷密度である。また、インクの電荷密度Cd値は、インク中の有効成分当たりの電荷量である(単位:μeq/g)。有効成分量は、インク中に含まれる不揮発分または固形分の総量であり、主にインクから溶剤を除去した量である。顔料分散体、分散剤、水分散性樹脂に溶媒が含まれる場合は、これらの溶媒量も除去して、有効成分量を求める。
具体的には、インクを水で100倍に希釈し、この希釈インクに0.0025Nポリ塩化ジアリルジメチル−アンモニウム(polyDADMAC)溶液を滴定しながら、インクの流動電位が0Vになる反応終点を測定し、この反応終点までに使用したpolyDADMAC溶液量から希釈インクの総電荷量を求めることができる。この希釈インクの総電荷量を希釈インクに含まれる有効成分量で割った値がインクの電荷密度(μeq/g)である。
電荷密度の測定装置には、例えば、コロイド粒子電荷量計(AFG ANALYTIC GmbH製「Model CAS」)等を用いることができる。
ブラックインク及びカラーインク電荷密度の調整は、各インクに含まれる成分を適宜選択することで行うことができる。例えば、インクを構成する材料のイオン性基のカウンターイオン量によって、インクの電荷密度を調整することができる。このカウンターイオン量は、粒子質量あたりのイオン量を示す。一般的に粒子質量あたりのカウンターイオン量が多いほど、電荷密度が高くなる傾向にある。インク中の顔料や水分散性樹脂のカウンターイオン量で電荷密度を調整することが好ましい。また、インクの電荷密度は、例えば、インクに分散助剤等のイオン性成分を添加することでも調整することができる。また、いくつかの方法を組み合わせてインクの電荷密度を調整してもよい。
後述する表面処理液の電荷密度の調整も同様に行うことができる。
インクの電荷密度は、添加される樹脂の酸価や、インク全体のpHのみに依存する物性ではないため、インク間で添加される樹脂の酸価やpHが異なるからといって、インクの電荷密度に大きな差が生じるものではない。
一実施形態において、ブラックインク及びカラーインクの印刷順序は特に限定されないが、多孔質基材にカラーインクを塗布してから、ブラックインクを塗布することが好ましい。
多孔質基材にカラーインクが塗布された領域にブラックインクが重ねて塗布される場合に、荷電密度の差から、カラーインクと重なる部分でブラックインクの色混じりやにじみを防止することができる。
なお、印刷順序はこの逆でもよい。多孔質基材にブラックインクが塗布された領域にカラーインクが重ねて塗布される場合でも、ブラックインクと重なる部分でカラーインクの色混じりやにじみを防止することができる。
黒色水性インクとしては、黒色を呈するインクであって、主に黒色顔料及び/又は黒色染料を含むインクを好ましく用いることができる。
一実施形態によるインクセットは、表面処理液をさらに備えることができる。
一実施形態では、黒色水性インク(ブラックインク)の電荷密度Cd値と、表面処理液の電荷密度Cd値との差の絶対値は200μeq/g以下であることが好ましく、130μeq/g以下であることがより好ましい。
このように、ブラックインクの電荷密度Cd値(以下Cdkとも記す。)と、表面処理液の電荷密度Cd値(以下Cdpとも記す。)との差「|Cdk−Cdp|」が小さいことで、多孔質基材に光沢性及び耐擦過性により優れる加飾画像を形成することができる。
|Cdk−Cdp|が小さいと、多孔質基材上に表面処理液が処理された表面処理部分に、ブラックインクが着弾する際にインクが表面処理部分になじみやすくなり、表面処理部分の適切な深さまでインクが浸透してから、乾燥して定着するようになる。そのため、耐擦過性及び光沢性が改善すると考えられる。
これに対し、|Cdk−Cdp|が大きくなると、多孔質基材上に表面処理液が処理された表面処理部分にブラックインクがなじみにくくなり、多孔質基材上でインク滴が比較的大きな塊になってとどまってしまう。このような状態では、ブラックインクが多孔質基材に十分に定着されずに耐擦過性が低下するようになり、また、ブラックインクによる加飾画像の表面が荒くなって光沢性が低下するようになる。
ブラックインクは、カラーインクに比べて、加飾画像が擦れた場合に目立ちやすいため、ブラックインクの電荷密度に表面処理液の電荷密度を近づけることが好ましい。また、ブラックインクの光沢性を高めることで、カラー画像全体の光沢性がより高まるように感じられる。
なお、ブラックインクを複数種備える場合では、複数のブラックインクのうちいずれか1種のCd値と表面処理液のCd値との差の絶対値が200μeq/g以下であればよいが、複数のブラックインクの全てのCd値と表面処理液のCd値との差の絶対値が200μeq/g以下であることが好ましい。
ここで、電荷密度Cd値は、流動電位法にしたがって測定される電荷密度である。また、表面処理液の電荷密度Cd値は、表面処理液中の有効成分量当たりの電荷量である(単位:μeq/g)。有効成分量は、表面処理液中に含まれる不揮発分または固形分の総量であり、主に表面処理液から溶剤を除去した量である。分散剤、水分散性樹脂に溶媒が含まれる場合は、これらの溶媒量も除去して、有効成分量を求める。
具体的には、表面処理液の電荷密度の測定方法としては、表面処理液を水で100倍に希釈し、この希釈液に0.0025Nポリ塩化ジアリルジメチル−アンモニウム(polyDADMAC)溶液を滴定し、測定することができる。詳細については、上記インクで説明した通りである。
<水性インク>
以下、インクセットを構成する水性インクについて説明する。
一実施形態による水性インクは、色材及び水を少なくとも含み、好ましくは界面活性剤及び/または水分散性樹脂をさらに含む。色材以外の成分は、ブラックインク及びカラーインクに共通して用いることができる。
水は、インクの溶媒、すなわちビヒクルとして機能するものであれば特に限定されず、水道水、イオン交換水、脱イオン水等が使用できる。水は揮発性の高い溶媒であり、多孔質基材に吐出された後、容易に蒸発するので、加飾後の多孔質基材の細孔が塞がれるのを防止し、加飾された多孔質基材の調湿性能の低下を防止する作用を奏する。また、水は、無害で安全性が高く、VOCのような問題が無いので、加飾された多孔質基材(加飾物品)を環境にやさしいものとすることができる。
インク中の水の含有量が多ければ多いほど、多孔質基材の調湿性能の低下を防止する効果が高まるので、水は、インク全量の60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。また、水の含有量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
インクの溶媒は、必要に応じて、水以外に、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;
グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;
モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;
トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、β−チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。これらは、単独で使用してもよく、また、単一の相を形成する限り、2種以上混合して使用してもよい。
水溶性有機溶剤の含有量は、粘度調整と保湿効果の観点から、インク全量に対し50質量%以下であることが好ましい。また、溶媒全量に対し60質量%以下であることが好ましい。
色材としては、顔料及び染料の何れも使用することができ、単独で使用しても両者を併用してもよい。加飾画像の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を使用することが好ましい。
色材の含有量は、インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲であることが好ましい。さらには、色材の含有量は0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが一層好ましい。また、色材の含有量は15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、8質量%以下であることが一層好ましい。
顔料は、黒色顔料、カラー顔料等を用いることができる。
具体的に、顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、染付レーキ系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);
コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物及び硫化物、並びに黄土、群青、紺青等の無機顔料;
ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類等を用いることができる。
アゾ系顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。
フタロシアニン系顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。
縮合多環系顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキシサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。
また、顔料として白色顔料を用いてもよい。
白色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムなどの無機顔料が挙げられる。
これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
顔料の平均粒径は50〜500nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより一層好ましい。色顔料の平均粒径が50nm未満の場合は発色が不充分になる場合があり、500nmを超える場合は吐出安定性が不充分となる場合がある。
顔料の具体例としては、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185;
ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71;
ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255;
ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;
ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、30、64、80;
ピグメントグリーン7(塩素化フタロシアニングリーン)、36(臭素化フタロシアニングリーン);
ピグメントブラウン23、25、26;
ピグメントブラック7(カーボンブラック)、26、27、28等が挙げられる。
カーボンブラックの市販例としては、モナーク1000、ELFTEX 415(以上、キャボット社製カーボンブラック)、#960、MA8、MA11(以上、三菱化学株式会社製カーボンブラック)等が挙げられる。
カラー顔料の市販例としては、LIONOL BLUE FG−7400G(東洋インキ製造社製 フタロシアニン顔料);
YELLOW PIGMENT E4GN(バイエル社製 ニッケル錯体アゾ顔料);
Cromophtal Pink PT(BASF社製 キナクリドン顔料);
Fastogen Super Magenta RG(DIC社製 キナクリドン顔料);
YELLOW PIGMENT E4GN(ランクセス社製 ニッケル錯体アゾ顔料);
イルガライトブルー8700(BASF社製 フタロシアニン顔料);
E4GN−GT(ランクセス社製 ニッケル錯体アゾ顔料);
Fastogen Blue TGR(DIC株式会社製シアン顔料);
Cinquasia Magenta D4550J(BASF社製マゼンタ顔料);
Inkjet Yellow 4GP(クラリアント社製イエロー顔料)等が挙げられる。
顔料を用いる場合は、顔料の分散安定性のために、顔料分散剤をインクに含ませてもよい。顔料分散剤には、高分子分散剤や界面活性剤等を用いることができる。
高分子分散剤の市販品としては、例えば、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ(TEGOディスパース740W、TEGOディスパース750W、TEGOディスパース755W、TEGOディスパース757W、TEGOディスパース760、TEGOディスパース760W);
日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、21000、27000、41000、41090、43000、44000、46000);
ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、ジョンクリル60、ジョンクリル62、ジョンクリル63、ジョンクリル71、ジョンクリル501);
BYK製のDISPERBYK−102、180、184、185、187、190、191、192、194N193、199;
冨士色素製のFUJI SP A−54;
第一工業製薬(株)製のポリビニルピロリドンK−30、ポリビニルピロリドンK−90等が挙げられる。
界面活性剤の市販品としては、例えば、花王(株)製デモールシリーズ(デモールEP、デモールN、デモールRN、デモールNL、デモールRNL、デモールT−45)などのアニオン性界面活性剤;
花王(株)製エマルゲンシリーズ(エマルゲンA−60、エマルゲンA−90、エマルゲンA−500、エマルゲンB−40、エマルゲンL−40、エマルゲン420)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
顔料分散剤は、その種類によって配合量は異なるが、通常、有効成分の質量比で顔料1に対し、0.005〜0.5で配合することができる。
顔料として自己分散顔料を用いてもよい。自己分散顔料としては、イオン性を有する親水性官能基が導入されたものであることが好ましく、顔料表面をアニオン性またはカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基、リン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基などが好ましい。なかでも、カルボキシ基、ヒドロキシ基、リン酸基等のアニオン性基であることが好ましい。
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理などが挙げられる。
自己分散顔料のうち顔料の市販品としては、例えば、キャボット社製CAB−O−JETシリーズ(CAB−O−JET200、CAB−O−JET300、CAB−O−JET250C、CAB−O−JET260M、CAB−O−JET270C、CAB−O−JET 270Y、CAB−O−JET 450C、CAB−O−JET 465M、CAB−O−JET 470Y等);
オリヱント化学(株)製BONJET BLACK CW−1S、CW−2、CW−3、CW−4、CW−5、CW−6等;
SENSIJET製Smart Magenta 3122BA等が挙げられる。
また、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を使用してもよい。
染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられ、これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものが使用できる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。これらの染料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
水分散性樹脂は、多孔質基材に色材を十分に定着させるために配合され、これにより、少量の色材で高い着色性を得ることができる。
水分散性樹脂としては、透明の塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましい。また、水性インク中で粒子を形成可能な、すなわち水中油(O/W)型樹脂エマルションを形成可能な樹脂を用いることが好ましく、樹脂エマルションとして配合することができる。
代表的には、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル−(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル−エチレン共重合体樹脂、スチレン/(メタ)アクリル共重合体樹脂及びそれらの樹脂エマルション等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂とメタクリル樹脂の双方を示す。
これらの水分散性樹脂又はその樹脂エマルションのうち、インクジェットヘッドからの安定吐出性能の観点、及び調湿建材等の多孔質基材の原料として使用されている珪藻土、バーミキュライト、カオリナイト、石膏、タイルシャモット、消石灰、セラミック多孔質粉などの無機多孔質材料に対する密着性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が−35〜40℃のウレタン樹脂(エマルション)を用いることが好ましい。
かかる水分散性樹脂又はその樹脂エマルションの具体例としては、
第一工業製薬(株)のスーパーフレックス300、460、420、470、460S(カーボネート系ウレタン樹脂エマルション)、150HS(エステル・エーテル系ウレタン樹脂エマルション)、740、840(芳香族イソシアネート系エステル系ウレタン樹脂エマルション);
DSM社のNeoRez R−9660、R−2170(脂肪族ポリエステル系ウレタン樹脂エマルション)、NeoRez R−966、R−967、R−650(脂肪族ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルション)、R−986、R−9603(脂肪族ポリカーボネート);
株式会社ADEKAのアデカボンタイターHUX−370、541、550、1032等が挙げられる(いずれも商品名)。
また、インクの各材料との相溶性が高くインクとしての安定性が良い、また安価でありインクを低コストで設計可能であるという観点から、(メタ)アクリル樹脂又はスチレン/(メタ)アクリル樹脂を用いることも好ましい。
具体的には、日本合成化学工業(株)のモビニール966A、6963、6960(アクリル樹脂エマルション)、6969D、RA−033A4(スチレン/アクリル樹脂エマルション)や;
BASF社のジョンクリル7100、PDX−7370、PDX−7341(スチレン/アクリル樹脂エマルション);
DIC(株)のボンコートEC−905EF、5400EF、CG−8400(アクリル/スチレン系エマルション);
DSM社のNeoCryl BT−62、XK−190、A−1094(スチレンアクリル系水分散性樹脂)などが挙げられる(いずれも商品名)。
水分散性樹脂は、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂等の1種単独の樹脂(又はそのエマルション)から構成されてもよいし、又は、複数種の樹脂(又はそれらのエマルション)を組み合わせて構成されてもよい。
水分散性樹脂は、インク中で粒子状である。この水分散性樹脂粒子の粒子径は、インクジェット印刷に適した大きさであれば良く、一般的には平均粒径で300nm以下であることが好ましい。また、インクジェット印刷に適したこの程度の大きさであれば、多孔質基材の細孔を完全に塞ぐことがなく、調湿性能を維持することができるので好ましい。この調湿性能の維持のため、平均粒径のより好ましい値は250nm以下であり、さらに好ましい値は200nm以下であり、一層好ましい値は150nm以下であり、最も好ましい値は90nm以下である。さらに、色材として顔料を用いる場合は、顔料粒子同士の結着性をより高める観点からは、水分散性樹脂粒子の粒径は、顔料の平均粒径(一般的には80〜200nm程度)よりも小さいことが好ましい。
水分散性樹脂粒子の平均粒径の下限値は、特に限定はされないが、インクの保存安定性の観点からは、5nm以上程度であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
本明細書において、特に断らない限り、平均粒径は、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の粒径値(メジアン径)である。動的光散乱式粒子径分布測定装置としては、ナノ粒子解析装置nano Partica SZ−100(株式会社堀場製作所)等を使用することができる。インク中又は後述する表面処理液中において、水分散性樹脂粒子や無機粒子は、独立した微粒子の状態で存在する場合と、独立した微粒子が集合した凝集体の状態で存在する場合とが考えられるが、動的光散乱法で測定されるメジアン径を「平均粒径」と位置づけることとする。
なお、上記樹脂粒子の平均粒径は、インクを調製する前の原料エマルション状態で測定することが、色材(顔料粒子)の影響を排除できることから好ましく、その測定値を本実施形態の平均粒径とすることができる。
インク中における水分散性樹脂の量(有効成分量)は、色材と水分散性樹脂の比率(色材:水分散性樹脂)で1:0.5〜1:7(質量比)が好ましく、1:0.75〜1:5.0がより好ましい。水分散性樹脂の含有量をこの範囲にすることで、多孔質基材の表面に印刷された画像の耐水擦過性と高画質性を十分に確保することができる。色材1に対する水分散性樹脂の比率が0.5より小さいと、顔料の定着性が悪くなる可能性があり、7より大きいと、粘度が高くなり、インクを吐出するヘッドからインクを吐出できなくなる可能性がある。
界面活性剤を配合することにより、インクジェット方式でインクを安定に吐出させることがより容易となり、かつ、インクの浸透を適切に制御しやすくすることができるために好ましい。その添加量は(顔料分散剤として界面活性剤が使用される場合はその合計量として)、界面活性剤の種類によっても異なるが、インクの表面張力、及び、布帛等の基材への浸透速度の観点から、インク中に0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アニオン性界面活性剤(アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等)、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等)、フッ素系界面活性剤等が挙げられ。これらは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なかでも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を好ましく用いることができる。これらの界面活性剤は、多孔質基材に対する良好な濡れ性をインクに与えるので、多孔質基材に高品質な画像を形成することができる。また、これらの界面活性剤は、上記した水分散性樹脂の樹脂粒子径が小さい場合であっても、こうした樹脂粒子の凝集を効果的に抑制することができる。
アセチレングリコール系界面活性剤は、アセチレングリコール基を有する非イオン系界面活性剤である。市販品として、アセチレングリコールであるサーフィノール104E、104H、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造のサーフィノール420、440、465、485等(エアープロダクツアンドケミカルズ社)、アセチレングリコールのオルフィンE−1004、E−1010、E−1020、PD−002W、PD−004、EXP−4001、EXP−4200、EXP−4123、EXP−4300等(日信化学工業株式会社)、アセチレングリコールのアセチレノールE00、E00P、アセチレングリコールのエチレンオキサイドを付加した構造のアセチレノールE40、E100等(川研ファインケミカル株式会社)が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤の具体的な例としては、BYK−302、BYK−307、 BYK−325、BYK−331、BYK−333、BYK−342、BYK−345/346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−378(いずれもビックケミー・ジャパン株式会社)、L−7001、L−7002、L−7604、FZ−2105、8032 ADDITIVE(いずれも東レ・ダウコーニング株式会社)、KF−6011 KF−6011P KF−6013 KF−6004 KF−6043(いずれも信越化学工業株式会社)、ディスパロンAQ−7120、ディスパロンAQ−7130、ディスパロンAQ−7180(いずれも楠本化成株式会社)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSAG001、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG003、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG008(いずれも日信化学工業株式会社)等を挙げることができる。
インク中の界面活性剤の量は、0.1質量%以上程度であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが一層好ましい、一方、界面活性剤量は、5質量%以下程度であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが一層好ましい。
インクには、顔料や水分散性樹脂の分散安定性をより高めるために、2種以上の顔料分散剤を併用してもよく、また、顔料分散剤とともに分散助剤を含ませてもよい。
インクセットを構成する各インクでは、一般的に、色材を除く成分に構造や特性が似ている成分を用いるため、各インクの電荷密度の差が小さいことが多い。そこで、ブラックインクとカラーインクとの間で、顔料分散剤、分散助剤等の添加成分を変えたり、その添加量を変えたりすることで、ブラックインクとカラーインクとの電荷密度の差を調節することができる。
分散助剤には、単独の使用では顔料分散性が十分でなくても顔料分散剤と併用することで顔料分散作用を発揮する成分、または、自己分散顔料を使用したインクに加えて顔料の分散安定性を向上させる機能がある成分を用いることができる。
インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記の成分以外に、例えば、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
ブラックインク及びカラーインクの電荷密度Cd値は、特に限定されないが、ブラックインクとカラーインクとの電荷密度の差「Cdk−Cd2」が80μeq/g以上を満たす範囲で適宜制御することができる。
例えば、ブラックインクの電荷密度Cd値は、500μeq/g以下であってよく、好ましくは400μeq/g以下であり、より好ましくは300μeq/g以下である。また、ブラックインクの電荷密度Cd値は、90μeq/g以上であってよく、100μeq/g以上であってもよい。
カラーインクの電荷密度Cd値は、400μeq/g以下であってよく、好ましくは200μeq/g以下であり、より好ましくは150μeq/g以下である。また、カラーインクの電荷密度Cd値は、10μeq/g以上であってよく、20μeq/g以上であってもよい。
インクの粘度は、インクジェット印刷の吐出性の観点から、1〜30mPa・sであることが好ましく、2〜15mPa・sであることがより好ましい。インクセットを構成する各インクは、同じ構造のインクジェットノズルを用いて印刷するために、同じようなインク粘度を有することが好ましい。そのため、インクセットを構成する各インクの粘度は、それぞれ2〜15mPa・sであることが一層好ましい。
インクの表面張力は、25℃において30〜50mN/mであることが好ましい。インクの浸透を制御するためには、例えば、インクの表面張力を制御して、基材への浸透速度を調節する方法がある。インクの表面張力が30mN/m〜50mN/mであるとき、良好なインクの浸透速度によってインク膜を形成しやすく、かつ、良好なインクジェットノズルからの吐出性も得やすい。
インクの製造方法は、特に限定されず、公知の方法により適宜製造することができる。例えば、ビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め水と色材の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
<表面処理液>
インクセットは、表面処理液をさらに備えることができる。
この表面処理液は、高画質な加飾部を得るために、インクセットによる加飾が行われる前の調湿基材の表面に前処理剤として適用することが好ましい。ここで、「適用」とは、塗布等の任意の手段により、対象物に表面処理液を付着させる意味である。
表面処理液には、水と、無機粒子及び/または水分散性樹脂とを含むものを用いることができ、好ましくは水と、無機粒子及び水分散性樹脂とを含むものである。
調湿基材に予め、表面処理液を付着させておくことにより、インクによる加飾部の光沢性、耐擦過性、発色性を高めることができる。特に、吸放湿量及び/又は平均含水率が低い多孔質基材、例えば、調湿性が低くJIS A 1470−1(2014)及び/又はJIS A 1475(2004)に規定される等級の低い調湿建材の場合、少ないインク量でも高い発色性を得ることは可能であるが、単位時間当たりのインク吐出量を多くするとインク溢れが発生し、画像の滲みやインク溜りが生じやすくなる恐れがある。このインク溜りは、画像品位を低下させることに加えて、多孔質基材の細孔の一部を塞ぎ、調湿性能を低下させる原因ともなりうる。このような場合には、印刷前に多孔質基材の表面に表面処理液を適用(前処理)して、乾燥させておくことが好ましい。
表面処理液において、水は、表面処理液の溶媒として機能するものである。また、表面処理液の溶媒として、水に加えて水溶性有機溶剤を用いてもよい。水及び水性有機溶剤の詳細については、上記したインクで説明した通りである。
無機粒子は、平均粒子径(動的光散乱法により測定されるメジアン径)が300nm以下の無機粒子を好ましく用いることができる。無機粒子の平均粒子径が300nmを超えると、無機粒子が多孔質基材の表面に乗った状態となり、加飾画像の耐擦過性が低下し、また、表面処理部の透明性が低下するため表面処理部と非表面処理部の外観の違いが目立つようになり、好ましくない。
表面処理液中の無機粒子の量(有効成分量)は、0.8質量%以上であることが好ましく、1.3質量%以上であることがより好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
無機粒子は、多孔質基材の大きな孔の一部を塞いで、その表面粗さRaを小さくするとともに、インク中の成分が多孔質基材の孔に入り込むことを抑制することができるので、表面処理を行わない場合に比べて、多孔質基材の表面が平滑となって、該表面に形成される画像のドットの均一性が良くなり、インクや表面処理液に含まれる樹脂のもつ光沢性を良好に発現させることができるものと考えられる。一方で、多孔質基材の大きな孔の一部を塞ぐだけであるので、調湿性を低下させることはない。なお、単に多孔質基材の表面を研磨して表面粗さRa(算術平均粗さ)を小さくしても、表面処理により得られる効果に相当する効果を得ることはできない。
無機粒子としては、シリカ微粒子、バーミキュライト、炭酸カルシウム、アルミナなどが挙げられ、中でも、シリカ微粒が好ましい。また、タルク、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、カオリン、マイカ、酸性白土、活性白土、ベントナイト等の体質顔料を用いることも好ましい。これらの微粒子は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することもできる。
表面処理液において、水分散性樹脂は、上記無機粒子を多孔質基材に十分に定着させるために含有される。多孔質基材との密着性等が確保できれば特に限定されないが、具体的には、上記インクについて述べた各種水分散性樹脂を使用することができる。複数の水分散性樹脂を組み合わせて使用することもできる。
表面処理液中における水分散性樹脂の配合量は、上記無機粒子と水分散性樹脂の比率(上記無機粒子:水分散性樹脂)で15:1〜50:1(質量比)が好ましい。水分散性樹脂の量をこの範囲にすることで、多孔質基材に無機粒子を十分に定着させることができる。
表面処理液中において、水分散性樹脂は粒子状で存在し、該粒子の平均粒径は、加飾しようとする多孔質基材のメソ孔の直径よりも大きいことが好ましく、具体的には、40nmよりも大きいことが好ましく、45nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることがさらに好ましく、150nm以上であることが一層好ましい。また、その平均粒径の上限値は、特に限定されないが、インクジェット印刷に適した大きさとして300nm以下程度であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましい。
表面処理液に含まれる水分散性樹脂の量は、上記インク中における水分散性樹脂の量に比べて少なくてよい。
表面処理液には、分散助剤が含まれてもよい。分散助剤によって、表面処理液中で無機粒子や水分散性樹脂の分散安定性をより高めることができる。また、分散助剤によって、表面処理液の電荷密度Cd値を調節して、ブラックインクと表面処理液との電荷密度の差「|Cdk−Cdp|」を200μeq/g以下に制御することができる。
分散助剤は、インクと共通したものを用いることができ、詳細については上記したインクで説明した通りである。なお、インクセットにおいて、インクと分散助剤に含まれる分散助剤は同一でも異なってもよい。
分散助剤は、表面処理液全量に対し0.1〜10質量%で配合することができ、0.5〜5質量%であってもよい。
表面処理液の電荷密度Cd値は、特に限定されないが、ブラックインクと表面処理液との電荷密度の差「|Cdk−Cdp|」が200μeq/g以下を満たす範囲で適宜制御することができる。
例えば、表面処理液の電荷密度Cd値は、500μeq/g以下であってよく、好ましくは300μeq/g以下であり、より好ましくは200μeq/g以下である。また、表面処理液の電荷密度Cd値は、10μeq/g以上であってよく、20μeq/g以上であってもよい。
表面処理液には、表面処理液の性状に悪影響を与えない限り、上記成分以外に、例えば、保湿剤、消泡剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤等の他の成分を添加できる。
表面処理液は、水、水分散性樹脂、及び無機粒子を、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め水と上記無機粒子の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
<加飾された調湿基材の製造方法>
一実施形態による加飾された調湿基材の製造方法は、上記した調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて調湿基材にインクジェット印刷する工程を含むことを特徴とする。これによって、調湿基材の表面に加飾画像を有する加飾物品を得ることができる。
また、インクセットを用いてインクジェット印刷する前に、上記表面処理液を調湿基材に付着させる工程を含んでもよい。
表面処理液の多孔質基材表面への付着は、刷毛、ローラー、バーコーター、エアナイフコーター、スプレーを使用して多孔質基材表面に一様に塗布することによって行ってもよいし、又は、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。すなわち、表面処理液は、多孔質基材表面の全面に塗布されてもよいし、必要な箇所にのみ、例えば上記インクセットを用いたインクジェット印刷が行われる箇所にのみ塗布されてもよい。
表面処理液の塗工量(付着量)は、多孔質基材の吸放湿量及び平均含水率によって異なるが、加飾画像の一定の発色及び光沢を達するためには、多孔質基材の吸放湿量及び平均含水率が低いほど塗工量(固形分)を多くすることが好ましい。また、表面粗さRaが15μm程度の多孔質基材の場合、表面処理後のRaを好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下とするに十分な量の表面処理液を塗工すると、印刷された画像の発色性及び光沢性が向上するので好ましい。
表面処理液の好ましい塗工量は、上記のように多孔質基材の調湿性能により異なるため一律に規定することはできないが、塗布面積あたりの固形分量として、例えば1級の調湿建材の場合は15g/m〜30g/m程度、2級の調湿建材の場合は5g/m〜15g/m程度、3級の調湿建材の場合は、3g/m〜10g/m程度とすることができる。
表面処理液を塗工した後の多孔質基材は、水分を乾燥させてからインクセットによる印刷に供することが好ましい。この乾燥は、多孔質基材を100〜200℃に加熱して行ってもよい。
インクセットを用いて多孔質基材に加飾画像を形成するインクジェット印刷は、一般的なインクジェットヘッドを用いて行うことができ、印刷方式や使用する装置等に特に制限はない。インクジェット印刷方式は、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式等であってよい。
インクセットによって加飾画像を形成した後の多孔質基材は、水分を乾燥させるとともに、色材及び樹脂分を多孔質基材に速やかに定着させるために、多孔質基材を100〜200℃に加熱してもよい。
このようにして、色材及び樹脂分から主に構成される加飾画像を有する加飾物品、例えば加飾建材を得ることができる。
インクセットを用いて多孔質基材にインクジェット印刷する場合では、高品位の加飾画像を得るために、(i)インク滴を小さくする、(ii)印刷速度を遅くする、(iii)片方向印刷をする、(iv)多孔質基材を温めながら印刷する、(v)印刷解像度を低くする、又は、(vi)これらの方法を組み合わせて印刷するなどの印刷条件を用いることが有効である。特に、吸放湿量及び/又は平均含水率が低い多孔質基材、例えば、調湿性が低く、上記調湿建材の調湿性能評価基準に規定される等級の低い調湿建材(例えば、上記1級の調湿建材)の場合、表面処理をしないと画像の滲みやインク溜りが生じやすいが、上記方法を採用することにより、表面処理をしなくても画像の滲みやインク溜りを避けることができる。
上記(iv)多孔質基材を温めながら印刷する印刷条件は、多孔質基材の性能に関わらず、少ないインク量で高発色の画像を得ることが必要な場合、凹凸が多い多孔質基材やインクの吸水性能が異なる複数の多孔質基材にまたがった絵柄を均一に印刷する場合の印刷条件としても有効である。多孔質基材を温めながら印刷することで、インク中の水以外の成分である顔料等の存在位置を多孔質基材の表面近くに形成させることが可能となるため、多孔質基材の調湿性能や形状への影響が小さくなり、安定した画像を得ることが可能となる。
多孔質基材を温める方法は任意であり、加熱温度は、インクジェット印刷に用いるノズルが乾燥し吐出が不安定にならない温度であれば特に限定されず、例えば50〜100℃の範囲で加熱できる。
加飾画像を形成するための装置は、特に限定されないが、例えば、多孔質基材を載置するための載置部と、多孔質基材の表面にインクを吐出してインクジェット印刷するように配置されたインクジェットヘッドとを少なくとも備え、さらに好ましくは、多孔質基材の表面に表面処理液を塗布するための表面処理液塗布部、及び/又は、多孔質基材を加熱するための加熱部を任意に備える加飾装置を用いることができる。
より詳細には、加飾装置は、加飾しようとする画像の電子データ(各画素に対応する画素値を備えるもの)を提供するための入力部(例えば、スキャナ)、多孔質基材の表面に水性インクを吐出して画像を記録するインクジェットヘッド部、多孔質基材を載置した状態でインクジェットヘッド部の下面に形成された吐出ノズルと対向する位置に多孔質基材を搬送する搬送部、及び、多孔質基材がインクジェットヘッド部に至る前に、多孔質基材の表面に表面処理液を吐出して表面処理液を多孔質基材上に塗布する表面処理液塗布部を備えることができる。さらに、印刷中又は印刷前後の任意の段階で、多孔質基材上の加飾領域を加熱する加熱部(セラミックヒーター等の各種ヒーター)を設け、吐出された表面処理液及び/又はインクの乾燥を促進できるようにすることが好ましい。
インクセットによる加飾前、または表面処理をする場合は表面処理液の塗工前の多孔質基材、すなわち未処理の多孔質基材は、その表面を研磨する等して平坦化されていることが好ましい。これによって、印刷された加飾画像の発色性及び光沢性をより改善することができる。
具体的には、未処理の多孔質基材は、表面粗さRaを10μm以下程度にしておくことが好ましく、より好ましくは8μm以下である。表面粗さRaは、KEYENCE社の「Laseer Scaning Microscope VK−8700」等で測定が可能である。測定の際には、多孔質基材の大きな凹凸、欠落部などの特異的な部分は除外してよい。
上記特開2002−4447号公報に記載のような炭酸硬化反応によって製造される調湿建材の場合、通常、素材混合→プレス成形→炭酸ガス硬化(発熱)→乾燥の工程で製造され、加飾工程は、炭酸ガス硬化体に対して行われ、具体的には、炭酸ガス硬化体→加飾印刷→加熱→自然冷却(完成)の工程で行われる。一実施形態において加飾は、かかる調湿建材に対し、炭酸ガス硬化体に対して行うこともできるが、別の実施形態においては、プレス成形された後の炭酸ガス硬化前の成形品に対しても加飾を行うことができる。後者の場合、素材混合→プレス成形→加飾印刷→炭酸ガス硬化(発熱)→乾燥(完成)という工程で加飾建材を製造することができるので、炭酸ガス硬化工程及び乾燥工程の熱を利用してインクの水及びその他の揮発性成分を揮発させることができ、エネルギー消費を低く抑えられるとともに、工程が短縮され、加飾前の在庫ストックが不要になるなどの利点が生じる。
<加飾された調湿基材>
加飾された調湿基材(加飾物品)は、上記調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて形成された加飾画像を有し、JIS A 1470−1(2014)に従って測定される3時間後の吸湿量が15g/mより多い調湿機能を有するものである。
加飾物品は、例えば、好ましくは調湿建材であるが、建材以外にも、例えばコースター、足ふきマット等であってもよい。
インクジェット印刷により形成される加飾画像は、先に専用の上記表面処理液により表面処理された、つまり表面処理液が付着した多孔質基材の表面に形成されたものであることが好ましい。
加飾画像の記録面積は、特に限定されず、任意の絵柄又は文字、あるいは絵柄と文字との組合せ等を、自由に選択することができる。
本発明の一連の実施形態を以下に記載するが、本発明はこれに限定されない。
[1]黒色水性インク及び黒色以外の水性インクを備え、前記黒色水性インクの電荷密度は、前記黒色以外の水性インクの電荷密度よりも80μeq/g以上高い、調湿基材用水性インクジェットインクセット。
[2]前記黒色水性インク及び前記黒色以外の水性インクのうち少なくとも1種は、色材、水分散性樹脂及び水を含み、前記水分散性樹脂は、水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂、及び水分散性スチレン/(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセット。
[3]表面処理液をさらに備え、前記黒色水性インクの電荷密度と、前記表面処理液の電荷密度との差の絶対値は200μeq/g以下である、[1]または[2]に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセット。
[4]前記表面処理液は、無機粒子、水分散性樹脂及び水を含む、[3]に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセット。
[5][1]から[4]のいずれかに記載の調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて調湿基材にインクジェット印刷を行う工程を含む、加飾された調湿基材の製造方法。
[6][3]または[4]に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて調湿基材にインクジェット印刷を行う工程を含み、前記表面処理液を前記調湿基材に付着させた後に、前記水性インクジェットインクセットを用いて前記調湿基材にインクジェット印刷を行う、加飾された調湿基材の製造方法。
[7][1]から[4]のいずれかに記載の調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて形成された加飾画像を備え、JIS A 1470−1(2014)に従って測定される3時間後の吸湿量が15g/mより多い、加飾された調湿基材。
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<水性インクの製造>
表2に黒(K)インク、表3にシアン(C)インクの処方、表4にマゼンタ(M)及びイエロー(Y)インクの処方を示す。
各表に示す各成分を各表に示す割合でプレミックスし、その後、ホモジナイザーにより1分間分散し、得られた分散液を孔径3μmのメンブレンフィルターに通過させて、インク1〜17を得た。
各表の原材料の詳細は下記の通りである。
(顔料分散体/顔料)
BONJET BLACK CW−6:オリヱント化学工業株式会社製、自己分散カーボンブラック分散体。
BONJET BLACK CW−2:オリヱント化学工業株式会社製、自己分散カーボンブラック分散体。
CAB−O−JET 450C:キャボット社製シアン自己分散顔料分散体。
CAB−O−JET 465M:キャボット社製マゼンタ自己分散顔料分散体。
Smart Magenta 3122BA::SENSIJET製マゼンタ顔料分散体。
CAB−O−JET 470Y:キャボット社製イエロー自己分散顔料分散体。
Fastogen Blue TGR:DIC株式会社製シアン顔料。
Cinquasia Magenta D4550J:BASF社製マゼンタ顔料。
Inkjet Yellow 4GP:クラリアント社製イエロー顔料。
(分散剤)
TEGO Dispers 760W:Evonic社製スチレンマレイン酸系分散剤。
TEGO Dispers 757W:Evonic社製高分子分散剤。
DISPERBYK−102:BYK社製分散剤。
FUJI SP A−54:冨士色素株式会社製アクリル系分散剤。
(水分散性樹脂)
スーパーフレックス460S:第一工業製薬株式会社製、自己乳化型水系ウレタン樹脂(平均粒径56nm)。
スーパーフレックス300:第一工業製薬株式会社製、ウレタン系水分散性樹脂(平均粒子径40nm)。
アデカボンタイターHUX−370:株式会社ADEKA製、自己乳化型水系ウレタン樹脂(平均粒径10nm)。
モビニール966A:日本合成化学工業株式会社製、アニオン性水系アクリル樹脂エマルション(平均粒径170nm)。
NeoCryl BT−62:DSM社製、スチレンアクリル系水分散性樹脂(平均粒子径100nm未満)。
タケラックXW−75−W932(酸価80):三井化学株式会社製、ウレタン樹脂エマルション。
タケラックW5661(酸価48):三井化学株式会社製、ウレタン樹脂エマルション。
(溶剤)水:イオン交換水。
(水溶性溶剤)ジエチレングリコール:和光純薬工業株式会社製。
(活性剤)サーフィノール465:日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤。
なお、樹脂の平均粒径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置「ナノ粒子解析装置nano Prtica SZ−100」(株式会社堀場製作所製)を用いて、各樹脂分散液を粒子濃度0.5質量%となるように精製水で希釈して、分散媒屈折率:1.333、試料屈折率:1.600、演算条件:多分散・ナローの設定で、温度25℃で測定した体積基準のメジアン径である。
各表において、「有効成分」の欄に各成分の不揮発分または固形分の割合を示し、表中に各成分の有効成分量をカッコ内に示す。
Figure 0006793091
Figure 0006793091
Figure 0006793091
<表面処理液の製造>
表5に表面処理液の処方を示す。
表に示す各成分を表に示す割合でプレミックスした後、超音波分散機により1分間分散し、表面処理液1及び2を得た。
表中の原材料の詳細は下記のとおりである。
アエロジルOX−50:日本アエロジル株式会社製、親水性ヒュームドシリカ(1次粒子径40nm)。
スミエリート1010:住化ケムテックス株式会社製、エチレン−塩化ビニル共重合樹脂エマルション(平均粒径200nm)。
FUJI SP A−54:冨士色素株式会社製アクリル系分散剤。
Figure 0006793091
<評価>
上記K,C,M,Yの各色のインク、及び表面処理液の電荷密度を以下の手順で測定した。電荷密度を表2〜表5に併せて示す。
上記K,C,M,Yの各色のインク、及び表面処理液を組み合わせたインクセットを用いて、以下の評価を行った。インクセットの組み合わせ及び評価結果を表6及び表7に示す。
(電荷密度の測定)
各インク及び表面処理液の流動電位法による電荷密度(Cd)を測定した。電荷密度の測定にはコロイド粒子電荷量計(AFG ANALYTIC GmbH製「Model CAS」を使用した。測定するインク及び表面処理液をそれぞれイオン交換水で100倍に希釈した液を試料とし、0.0025Nポリ塩化ジアリルジメチル−アンモニウム(polyDADMAC)溶液(和光純薬工業株式会社製)にて滴定を行い、流動電位が0Vになる反応終点を測定し、反応終点までのpolyDADMACの使用量からインクの総電荷量を求めた。希釈インク中の有効成分量当たりのインクの総電荷量から電荷密度(μeq/g)を求めた。
Kインクの電荷密度をCdkと表し、Cインク、Mインク、及びYインクの電荷密度のうち最大の電荷密度をCd2と表し、表面処理液の電荷密度をCdpと表す。表6及び表7に、「Cdk−Cd2」、及び「Cdk−Cdp」の計算値を示す。
(印刷物の作製)
印刷基材として、メソ孔とマクロ孔を備え、調湿性能評価基準の吸放湿量が3級で平衡含水率が3級の市販の調湿建材(厚さ6mm、表面粗さRa15μm、表面の60°光沢度2.5;アイカ工業株式会社製「モイス」)を用意した。調湿建材の表面を表面粗さがRa8μmになるまで研磨した。
印刷には、マスターマインド社製テキスタイルプリンタ「MMP8130」を用いた。
表6及び表7に示すインクセットの組み合わせで、K,C,M,Yの各色のインクをプリンタに導入し、調湿建材に、C,M,Yの縞模様を形成し、この縞模様上にKの細字及びベタ画像を形成して印刷物を得た。
C,M,Yの縞模様は、それぞれ幅2mm長さ、120mmのCの帯、Mの帯、およびYの帯が隙間なくこの順で繰り返して配された縞模様である。この縞模様の上に、C,M,Yの各色に重なるように、フォント6のKの細字、及びサイズ10mm×10mmのKのベタ画像を印刷した。
印刷後、得られた画像に、160℃で60秒間の熱定着処理を行った。
実施例3及び6、比較例2以外では、印刷の前に表面処理をした。
表面処理をする場合には、表面処理液1又は2を、市販のエアスプレーにより基材全面に、ウェット塗布量で78g/m(固形分量で約6.2g/m)塗布し、110℃のシートヒーター上で2時間加熱した後、上記方法で印刷を行うようにした。
得られた印刷物について、下記評価を行った。
(色混じり・にじみ)
色混じり・にじみは、印刷物のKの細字のエッジのにじみを顕微鏡で観察し、下記の評価基準により評価した。
AA:文字ににじみがない。
A:文字にわずかににじみがあるがほとんどわからない。
B:文字にややにじみがあるが目立たない。
C:文字ににじみがあり、目立つ。
D:文字ににじみが多い。
(光沢度)
得られた印刷物のKのベタ画像部分表面と、印刷前の調湿建材(素材)との60°光沢度をKonicaMinolta製「Multi−Glose268」で測定し、印刷前後の光沢度を以下の基準で評価した。
A:素材よりも高い。
B:素材と同程度。
C:素材より劣る。
(発色性(K))
得られた印刷物のKのベタ画像部分表面のOD値を測定し、以下の基準で発色性(K)を評価した。OD値の測定には、X−Rite製「X−Rite eXact」を用いた。
A:OD値が1.07超。
B:OD値が1.02〜1.07。
C:OD値が1.02未満。
(耐擦過性)
得られた印刷物のKのベタ画像部分表面を乾いたスポンジで擦り、以下の基準で耐擦過性を評価した。
AA:スポンジで擦って50回以上でも画像が剥がれない。
A:スポンジで擦って30回以上50回未満で画像が剥がれる。
B:スポンジで擦って10回以上30回未満で画像が剥がれる。
C:スポンジで擦って10回未満で画像が剥がれる。
Figure 0006793091
Figure 0006793091
各表に示す通り、各実施例の加飾調湿建材では、各評価結果が良好であった。
実施例2及び9では、Cdk−Cd2の差が大きく、色混じり・にじみがより改善された。
実施例1、2及び9では、Cdk−Cdpの差が小さく、発色性、耐擦過性がより改善された。特に実施例1では耐擦過性の結果が良好であった。
実施例3〜6、10を通して、表面処理液を用いることで、光沢度及び耐擦過性が改善されることがわかる。実施例10では、黒インクの電荷密度Cdkが表面処理液の電荷密度Cdpよりも小さい値であるが、Cdk−Cdpの絶対値が小さく、発色性及び耐擦過性がより改善された。
また、各実施例で得られた加飾調湿建材について、JIS A 1470−1(2014)の吸放湿量、及びJIS A 1475(2004)の平衡含水率を測定したところ、全ての実施例において、全ての項目の等級が維持されていた。
各比較例では、Cdk−Cd2の差が68μeq/g以下であり、色混じり・にじみ、発色性が低下した。
比較例2では、さらに表面処理液を用いておらず、各評価が悪かった。
比較例3では、さらにCdk−Cdpの差が200μeq/g超過であり、耐擦過性がさらに低下した。
比較例5では、ブラックインクに用いた水分散性樹脂と、2番目にCd値が高いシアンインクに用いた水分散性樹脂との間で酸価の差が大きいが、Cdk−Cd2の差は22μeq/gと小さく、色混じり・にじみ、発色性が改善されなかった。

Claims (7)

  1. 黒色水性インク及び黒色以外の水性インクを備え、前記黒色水性インクの電荷密度は、前記黒色以外の水性インクの電荷密度よりも80μeq/g以上高い、調湿基材用水性インクジェットインクセット。
  2. 前記黒色水性インク及び前記黒色以外の水性インクのうち少なくとも1種は、色材、水分散性樹脂及び水を含み、
    前記水分散性樹脂は、
    水分散性ウレタン樹脂、水分散性(メタ)アクリル樹脂、及び水分散性スチレン/(メタ)アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセット。
  3. 表面処理液をさらに備え、前記黒色水性インクの電荷密度と、前記表面処理液の電荷密度との差の絶対値は200μeq/g以下である、請求項1または2に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセット。
  4. 前記表面処理液は、無機粒子、水分散性樹脂及び水を含む、請求項3に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセット。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて調湿基材にインクジェット印刷を行う工程を含む、加飾された調湿基材の製造方法。
  6. 請求項3または4に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて調湿基材にインクジェット印刷を行う工程を含み、前記表面処理液を前記調湿基材に付着させた後に、前記水性インクジェットインクセットを用いて前記調湿基材にインクジェット印刷を行う、加飾された調湿基材の製造方法。
  7. 請求項1から4のいずれか1項に記載の調湿基材用水性インクジェットインクセットを用いて形成された加飾画像を備え、JIS A 1470−1(2014)に従って測定される3時間後の吸湿量が15g/mより多い、加飾された調湿基材。
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