以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
図1に示される電子線照射装置1は、照射対象物への電子線EBの照射によって当該照射対象物のインキの硬化、滅菌、又は表面改質等を行うために使用される。なお、以下、電子線照射装置1によって電子線EBが照射される側である電子線出射側(窓部材9側)を、「前側」として説明する。
図1〜図3に示されるように、電子線照射装置1は、フィラメントユニット2(電子線発生部)、真空容器(筐体部)3、陰極保持部材4、陰極保持部材5、包囲電極6、高電圧導入絶縁部材7、絶縁支持部材8、及び窓部材(電子線照射窓部)9を備えている。フィラメントユニット2は、電子線EBを発生させる電子線発生部である。また、フィラメントユニット2は、長尺状のユニットとなっている。
真空容器3は、金属等の導電性材料によって形成されている。真空容器3は、略円筒状を呈している。真空容器3は、内部に略円柱状の真空空間Rを形成する。フィラメントユニット2は、真空容器3の内部において、略円柱状の真空空間Rの軸線方向にそって配置されている。真空容器3におけるフィラメントユニット2の前側の位置には、真空空間Rと外部の空間とをつなぐ開口部3aが設けられている。開口部3aは、フィラメントユニット2から発生した電子線EBを通過させる開口部である。窓部材9は、開口部3aに対して、その全体を覆って真空封止するように固定されている。窓部材9について詳細は、後述する。
真空容器3におけるフィラメントユニット2の後ろ側の位置には、真空容器3内の空気を排出するための排気口3bが設けられている。排気口3bに図示しない真空ポンプが接続され、真空ポンプによって真空容器3内の空気が排出される。これにより、真空容器3の内部が真空空間Rとなる。略円筒状を呈する真空容器3の両端の開口部3c及び開口部3d(図2参照)は、高電圧導入絶縁部材7のフランジ部7a及び蓋部3eによってそれぞれ閉じられている。
陰極電位となる一対の陰極保持部材4及び5は、それぞれ真空容器3内に配置される。陰極保持部材4と陰極保持部材5との間には、フィラメントユニット2の一部を構成し、陰極電位である包囲電極6が設けられている。包囲電極6は、断面略C字状を呈する導電性かつ長尺状の部材である。包囲電極6は、断面略C字状の開口が前側(窓部材9側)を向くように配置されている。包囲電極6は、内側部分においてフィラメント10(図3参照)を収容する。例えば、フィラメントユニット2は、真空容器3の蓋部3eが取り外された状態において、陰極保持部材5及び絶縁支持部材8に設けられた挿入孔を介して包囲電極6の内側に差し込まれることによって、包囲電極6に保持される。
高電圧導入絶縁部材7は、真空容器3における開口部3c側の端部に設けられている。高電圧導入絶縁部材7の一方の端部は、開口部3cを介して真空容器3の外部に突出している。高電圧導入絶縁部材7は、外側に張り出すフランジ部7aを有し、真空容器3の開口部3cを封止する。高電圧導入絶縁部材7は、絶縁材料(例えばエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、セラミック等)によって形成されている。陰極保持部材4は、接地電位である真空容器3に対して電気的に絶縁された状態で高電圧導入絶縁部材7の他方の端部を保持する。
また、高電圧導入絶縁部材7は、電子線照射装置1の外部の電源装置から高電圧の供給を受けるための高耐電圧型のコネクタである。高電圧導入絶縁部材7には、図示しない電源装置から高電圧供給用プラグが挿入される。高電圧導入絶縁部材7の内部には、外部から供給された高電圧をフィラメントユニット2に供給するための内部配線が設けられている。この内部配線は、高電圧導入絶縁部材7を構成する絶縁材料によって覆われており、真空容器3との絶縁が確保されている。
絶縁支持部材8は、真空容器3における開口部3d側の端部(蓋部3e側の端部)に設けられている。絶縁支持部材8は、絶縁材料(例えばエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、セラミック等)によって形成されている。陰極保持部材5は、真空容器3に対して電気的に絶縁された状態で絶縁支持部材8を保持する。
図3に示されるように、フィラメントユニット2は、包囲電極6、フィラメント10、及びグリッド電極12を備えている。
フィラメント10は、通電によって加熱されることで電子線EBとなる電子を放出する電子放出部である。フィラメント10は、線状の部材であり、真空容器3の長軸方向(真空空間VRの軸線方向)に沿って延びる所望軸線上において延在している。フィラメント10は、高融点金属材料、例えばタングステンを主成分とした材料等によって形成されている。
グリッド電極12は、フィラメント10の前側に包囲電極6の開口部を覆うように配置されている。グリッド電極12には、複数の孔が形成されている。
フィラメント10は、通電によって加熱された状態で、マイナス数10kV〜マイナス数100kVといった高い負電圧が印加されることにより、電子を放出する。グリッド電極12には、所定の電圧が印加される。例えば、グリッド電極12には、フィラメント10に印加される負電圧よりも100V〜150V程度プラス側の電圧が印加されてもよい。グリッド電極12は、電子を引き出すとともに拡散を抑制するための電界を形成する。これにより、フィラメント10から放出された電子は、グリッド電極12に設けられた孔から電子線EBとして前側に出射される。
次に、窓部材9の詳細について説明する。図4は、窓部材の分解斜視図である。図4に示されるように、窓部材9は、窓箔(窓箔部材)9aと、支持体9bと、窓フランジ9cと、封止材9dと、押さえフランジ9eと、を有している。
窓部材9では、窓フランジ9cが真空容器3の開口部3aを覆うように取り付けられている。窓部材9の内側領域には(つまり、窓部材9を前側から見た場合に窓部材9内に収まるように)、窓箔9a、支持体9b、及び封止材9dが配置されている。窓フランジ9c及び押さえフランジ9eは、例えば無酸素銅(銅を含む材料)からなり、真空空間Rの軸線方向を長手方向とする長方形枠状の外形を有している。
窓フランジ9cの前面において支持体9bが配置される領域の外側には、支持体9bを包囲するように延在する溝が設けられており、溝内には、気密封止部材である封止材9dが配置されている。封止材9dは、例えば樹脂製のOリングを用いることができる。
窓箔9aは、薄膜状に形成された金属膜である。窓箔9aは、開口部3aを通過した電子線EBを透過させる。窓箔9aの材料としては、電子線EBの透過性に優れた材料(例えば、ベリリウム、チタン、アルミニウム等)が用いられる。ここでの窓箔9aは、チタンを主成分として含む箔部材であり、一例として純チタン箔である。窓箔9aは、支持体9bのメッシュ部と接触するように、メッシュ部上に配置されている。窓箔9aは、真空空間Rの軸線方向(所定方向)を長手方向として延在している。窓箔9aの厚さは、2×10−3mm以上且つ1×10−2mm以下である。窓箔9aの厚さは、例えば、3×10−3mmであってもよいし、4×10−3mmであってもよいし、5×10−3mmであってもよい。窓箔9aの厚さは、必ずしも実測値でなくてもよく、窓箔9aの仕様としての公称値であってもよい。
支持体9bは、窓箔9aよりも真空空間R側に配置され、窓箔9aを支持する平板状の部材である。支持体9bは、メッシュ状の部材であり、真空空間Rの軸線方向(所定方向)を長手方向として延在している。支持体9bの材料は、例えば銅、チタン、又はアルミニウムを用いることができる。支持体9bは、開口部3aを覆うメッシュ部を有する。メッシュ部は、例えば複数の貫通孔からなる。貫通孔は、真空容器3の内側から外側に電子線EBを通過させるための孔である。
以上のような構成を有する窓部材9では、窓フランジ9cに対して窓箔9a、支持体9b、及び封止材9dを押圧した状態で、例えば複数のボルトにより窓フランジ9cに気密に固定されている。
電子線照射装置1の動作時には、窓箔9aの中でも電子線透過領域9fが特に高温になる。電子線透過領域9fは、窓箔9aにおける電子線EBの入射領域である。窓箔9aの厚さを薄くすると、窓箔9aの熱が窓フランジ9c及び押さえフランジ9e側に伝わりにくくなるため、窓箔9aにおける電子線透過領域9fが高温になりやすい。ここでの電子線照射装置1は、窓箔9aを冷却する冷却部100を備えている。
図5は、窓部材及び冷却部のYZ平面に沿った分解断面図である。図6は、図5の冷却部の斜視図である。図7は、窓部材及び冷却部のZX平面に沿った分解断面図である。図5〜図7に示されるように、窓部材9の電子線透過側には、冷却部100が設けられている。冷却部100は、窓箔9aに気体(例えば窒素等の不活性ガス)を吹き付けて窓箔9aを冷却する。冷却部100は、内部を気体が流通する管状部材101と、管状部材101が固定された固定枠体110と、を備えている。
固定枠体110は、Y軸方向に延在する一対の長辺部111、及びX軸方向に延在する一対の短辺部112によって、Y軸方向を長手方向とする略長方形枠状の外形をなしている。固定枠体110は、その内側に窓部材9を収納するように覆うことができる。固定枠体110は、窓部材9を覆った状態で、電子線照射装置1に固定される。
管状部材101は、中空な長尺状の円筒形状をなす金属材料からなる部材であり、内部の空間を流路として気体を流通させることが可能となっている。管状部材101は、固定枠体110の長手方向に沿って配置されている。管状部材101の一方側には、給気口103aが設けられた給気用ノズル103が連結されており、管状部材101の他端側は、封止材104によって密閉されている。
管状部材101の側壁101cには、管状部材101の内部と外部とを貫通する断面円形状の小径の貫通孔101dが所定のピッチで複数設けられている。複数の貫通孔101dは、側壁101cに対して長手方向に直線状に配列されている。複数の貫通孔101dは、窓箔9aを臨むように位置している。そのため、給気口103aから供給された気体は、貫通孔101dから噴出されることになる。窓箔9aは、冷却部100から気体が冷却風として吹き付けられることによって冷却される。なお、窓箔9aを冷却する冷却部としては、例えばフランジ9eに気体を吹き付ける構造を設けてもよいし、窓フランジ9cに水冷構造を設けてもよいし、それらを併用してもよい。
上述のような冷却部100を備えていても、例えばフィラメントユニット2の駆動電流が過大となると、窓箔9aの温度が許容温度を超えてしまい、窓箔9aが熱によって破損してしまう可能性がある。そこで、電子線照射装置1は、窓箔9aの温度上昇が適切な範囲となるようにフィラメントユニット2を制御する制御部50を備えている。
制御部50は、プロセッサ、メモリ、及びストレージ等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部50では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれた所定のソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込みを制御することによって、制御部50の機能が実現される。制御部50は、電子回路等によるハードウェアとして構成されてもよい。
制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧が40kV以上且つ150kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定する。フィラメントユニット2の管電圧は、窓部材9の電圧とフィラメント10の電圧との差に相当する電子線EBの加速電圧である。フィラメントユニット2の駆動電圧は、フィラメントユニット2に印加される電圧を意味する。
制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧の範囲として、40kV〜100kV,40kV〜110kV,40kV〜120kV,40kV〜130kV,40kV〜140kV,及び40kV〜150kVの何れかの範囲となるように、フィラメントユニット2の駆動電圧を設定してもよい。制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧の範囲として、50kV〜100kV,50kV〜110kV,50kV〜120kV,50kV〜130kV,50kV〜140kV,及び50kV〜150kVの何れかの範囲となるように、フィラメントユニット2の駆動電圧を設定してもよい。なお、制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧の範囲の下限値が、60kV,70kV,80kV,90kV,100kVの何れかとなるように、フィラメントユニット2の駆動電圧を設定してもよい。
制御部50は、窓箔9aにおける電流面密度が所定の限界電流面密度以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定する。フィラメントユニット2の駆動電流は、フィラメントユニット2の管電流に相当し、フィラメント10から窓部材9までの電子線EBの電流(ビーム電流)に相当する。フィラメントユニット2の管電流は、フィラメント10から窓部材9までの電子線EBの電流を公知の手法によって計測することで取得することができる。
電流面密度は、フィラメントユニット2の管電流を、窓箔9aにおける電子線透過領域9f(電子線EBの入射領域)の面積で除算して得られる値である。電流面密度の単位は、例えば(mA/mm2)である。限界電流面密度とは、冷却部100によって窓箔9aが冷却されていても、窓箔9aの温度が許容温度を超えて窓箔9aが熱によって破損する蓋然性が高い電流面密度を意味する。
電子線透過領域9fの面積は、例えば、以下のようにして予め取得することができる。まず、窓部材9において、窓箔9aに代えて蛍光部材を配置する。蛍光部材は、電子線EBの入射により蛍光を発する部材であり、例えば窓箔9aと同様の外形形状を有する。蛍光部材の厚さは、窓箔9aの厚さと同等であってもよいし、異なってもよい。続いて、蛍光部材が配置された状態で蛍光部材に電子線EBを入射させる。これにより、蛍光部材において電子線EBが入射した領域が発光する。続いて、電子線EBの入射により発光する発光領域の面積を、電子線透過領域9fの面積として取得する。発光領域は、フィラメント10及びグリッド電極12の構成に応じた形状を有する。電子線照射装置1においては、長尺状のフィラメント10及びグリッド電極12の延在範囲に対応して、例えばフィラメント10及びグリッド電極12と対向する矩形状の範囲で発光強度で蛍光部材が発光する。発光領域の面積は、所定の強度以上の発光強度で蛍光部材が発光する領域の面積とすることができる。発光領域の面積は、例えば二値化の手法で取得されてもよい。面積の取得にあたって、発光強度は、ほぼ一様の強度であってもよく、中央部が周辺部よりも強い強度であってもよい。その後、蛍光部材を取り外して窓箔9aを配置する。
なお、窓箔9aを取り外さずに、電子線EBの入射により発光する物体を用いて、電子線透過領域9fの面積を取得してもよい。例えば、アルミナなどの電子線計測用のセラミック、市販の蛍光体の粉末、又は、ガラスを用いることができる。
限界電流面密度を算出するにあたっては、フィラメントユニット2の管電流として、冷却部100によって窓箔9aを冷却している場合に窓箔9aの温度が許容温度を超えて窓箔9aが熱によって破損したときのフィラメントユニット2の管電流を用いることができる。このような限界電流面密度を用いて、制御部50が限界電流面密度以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定することで、冷却部100によって窓箔9aを冷却している場合に窓箔9aの温度が許容温度を超えることが抑制され、窓箔9aが熱によって破損する可能性が低減される。
図8は、図1の電子線照射装置の電流面密度の実測値を示す図である。図8には、電子線照射装置1を用いた実験により取得された限界電流面密度が、窓箔9aの厚さ及びフィラメントユニット2の管電圧ごとに示されている。
図8に示されるように、厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、130kVの管電圧における限界電流面密度は5.26mA/mm2であった。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、90kVの管電圧における限界電流面密度は2.38mA/mm2であった。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、70kVの管電圧における限界電流面密度は1.27mA/mm2であった。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、50kVの管電圧における限界電流面密度は0.51mA/mm2であった。
また、厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、130kVの管電圧における限界電流面密度は3.68mA/mm2であった。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、90kVの管電圧における限界電流面密度は0.98mA/mm2であった。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、70kVの管電圧における限界電流面密度は0.56mA/mm2であった。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、50kVの管電圧における限界電流面密度は0.26mA/mm2であった。
図9は、図1の電子線照射装置の電流面密度のシミュレーション値を示す図である。図9には、電子線照射装置1を模擬するモデルを用いたシミュレーションにより算出された限界電流面密度が、窓箔9aの厚さ及びフィラメントユニット2の管電圧ごとに示されている。
図9に示されるように、厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、130kVの管電圧における限界電流面密度は5.3mA/mm2になると算出される。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、120kVの管電圧における限界電流面密度は4.9mA/mm2になると算出される。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、110kVの管電圧における限界電流面密度は4.0mA/mm2になると算出される。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、100kVの管電圧における限界電流面密度は3.3mA/mm2になると算出される。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、90kVの管電圧における限界電流面密度は2.6mA/mm2になると算出される。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、70kVの管電圧における限界電流面密度は1.4mA/mm2になると算出される。厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、50kVの管電圧における限界電流面密度は0.6mA/mm2になると算出される。
また、厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、130kVの管電圧における限界電流面密度は4.7mA/mm2になると算出される。厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、120kVの管電圧における限界電流面密度は3.8mA/mm2になると算出される。厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、110kVの管電圧における限界電流面密度は3.1mA/mm2になると算出される。厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、100kVの管電圧における限界電流面密度は2.5mA/mm2になると算出される。厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、90kVの管電圧における限界電流面密度は1.9mA/mm2になると算出される。厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、70kVの管電圧における限界電流面密度は1.0mA/mm2になると算出される。厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、50kVの管電圧における限界電流面密度は0.5mA/mm2になると算出される。
また、厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、130kVの管電圧における限界電流面密度は4.0mA/mm2になると算出される。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、120kVの管電圧における限界電流面密度は2.4mA/mm2になると算出される。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、110kVの管電圧における限界電流面密度は2.0mA/mm2になると算出される。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、100kVの管電圧における限界電流面密度は1.6mA/mm2になると算出される。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、90kVの管電圧における限界電流面密度は1.1mA/mm2になると算出される。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、70kVの管電圧における限界電流面密度は0.6mA/mm2になると算出される。厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、50kVの管電圧における限界電流面密度は0.3mA/mm2になると算出される。
図10は、図8及び図9の限界電流面密度と管電圧との関係を示す図である。図10の横軸は、フィラメントユニット2の管電圧(kV)であり、縦軸は、限界電流面密度(mA/mm2)である。図10では、図8の実験値が実線で示されており、図9のシミュレーション値が破線で示されている。図10では、白抜きの三角形のプロットは、厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合の限界電流面密度の実験値に相当する。塗りつぶしの三角形のプロットは、厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。白抜きの正立する正方形のプロットは、厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。白抜きの傾斜した正方形のプロットは、厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合の限界電流面密度の実験値に相当する。塗りつぶしの傾斜した正方形のプロットは、厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。
図10に示されるように、限界電流面密度は、全体として、窓箔9aの厚さごとに、フィラメントユニット2の管電圧の増加に対して実験値とシミュレーション値とで互いに同程度の値をとりつつ単調増加する傾向を示している。例えば、厚さが3×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、限界電流面密度の実験値(白抜きの傾斜した正方形のプロット)及びシミュレーション値(塗りつぶしの傾斜した正方形のプロット)は、フィラメントユニット2の管電圧の増加に対して互いに同様の傾向で単調増加する傾向を示している。また、厚さが5×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、限界電流面密度の実験値(白抜きの三角形のプロット)及びシミュレーション値(塗りつぶしの三角形のプロット)もまた、フィラメントユニット2の管電圧の増加に対して互いに同様の傾向で単調増加する傾向を示している。これらのことから、厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合、限界電流面密度のシミュレーション値(白抜きの正立する正方形のプロット)は、厚さが4×10−3mmの窓箔9aを用いる場合の限界電流面密度の実測値(不図示)と同様の傾向を示すものと考えることができる。
図10の限界電流面密度の傾向によれば、窓箔9aの厚さごとに、各曲線の下方の領域に属する電流面密度となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定すれば、当該厚さの窓箔9aについて、窓箔9aの温度が許容温度を超えることが抑制され、窓箔9aが熱によって破損する可能性が低減されるということができる。したがって、制御部50は、一種類の厚さの窓箔9aに対して、フィラメントユニット2の駆動電圧が小さくなるほど電流面密度が小さくなるように、フィラメントユニット2の駆動電流を制御してもよい。なお、この場合、冷却部100によって窓箔9aが冷却されていてもよい。
フィラメントユニット2の管電圧に対する限界電流面密度の単調増加の傾向は、例えば2次関数の一部区間に相当すると考えることができる。そこで、フィラメントユニット2の管電圧を変数とし、窓箔9aの厚さに応じた所定の係数を有する2次関数で近似した限界電流面密度近似値(mA/mm2)に基づいて、フィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧(電子線発生部の駆動電圧)と窓箔9aの厚さとに基づいて2次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した限界電流面密度近似値以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。所定の係数は、図10において窓箔9aの厚さを一通りに定めた場合の複数のプロットに沿うような下に凸の2次関数の軌跡となるように、設定することができる。これにより、一通り定めた窓箔9aの厚さにおいてフィラメントユニット2の駆動電圧が変化しても、2次関数で近似した限界電流面密度近似値を用いてフィラメントユニット2の駆動電流を容易に設定することができる。
具体的な一例として、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。換言すれば、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。
あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.9mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が3.8mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が2.4mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。換言すれば、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.9mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が3.8mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。
あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が3.1mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が2.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。換言すれば、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が3.1mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。
あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が3.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が2.5mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。換言すれば、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が3.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が2.5mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。
あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が2.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.9mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.1mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。換言すれば、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が2.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.9mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。
あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.4mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が0.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。換言すれば、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.4mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が1.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。
あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が0.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が0.5mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、制御部50は、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、フィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が0.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。換言すれば、制御部50は、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が0.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。制御部50は、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、フィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が0.5mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。
図11は、図8及び図9の限界電流面密度と窓箔9aの厚さとの関係を示す図である。図11の横軸は、窓箔9aの厚さ(10−3mm)であり、縦軸は、限界電流面密度(mA/mm2)である。図11では、図8の実験値が実線で示されており、図9のシミュレーション値が破線で示されている。図11では、白抜きの丸のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が130kVである場合の限界電流面密度の実験値に相当する。塗りつぶしの丸のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が130kVである場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。「+印」のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が120kVである場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。「×印」のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が1100kVである場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。「−印」のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が100kVである場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。塗りつぶしの三角形のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が90kVである場合の限界電流面密度の実験値に相当する。白抜きの三角形のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が90kVである場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。塗りつぶしの正立する正方形のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が70kVである場合の限界電流面密度の実験値に相当する。白抜きの正立する正方形のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が70kVである場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。塗りつぶしの傾斜した正方形のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が50kVである場合の限界電流面密度の実験値に相当する。白抜きの傾斜した正方形のプロットは、フィラメントユニット2の管電圧が50kVである場合の限界電流面密度のシミュレーション値に相当する。
図11に示されるように、限界電流面密度は、全体として、フィラメントユニット2の管電圧ごとに、窓箔9aの厚さの増加に対して実験値とシミュレーション値とで互いに同程度の値をとりつつ単調減少する傾向を示している。例えば、フィラメントユニット2の管電圧が130kVである場合、限界電流面密度の実験値(白抜きの丸のプロット)及び限界電流面密度のシミュレーション値(塗りつぶしの丸のプロット)は、窓箔9aの厚さの増加に対して互いに同様の傾向で単調減少する傾向を示している。また、フィラメントユニット2の管電圧が90kVである場合、限界電流面密度の実験値(塗りつぶしの三角形のプロット)及び限界電流面密度のシミュレーション値(白抜きの三角形のプロット)は、窓箔9aの厚さの増加に対して互いに同様の傾向で単調減少する傾向を示している。また、フィラメントユニット2の管電圧が70kVである場合、限界電流面密度の実験値(塗りつぶしの正立する正方形)及び限界電流面密度のシミュレーション値(白抜きの正立する正方形)は、窓箔9aの厚さの増加に対して互いに同様の傾向で単調減少する傾向を示している。また、フィラメントユニット2の管電圧が50kVである場合、限界電流面密度の実験値(塗りつぶしの傾斜した正方形)及び限界電流面密度のシミュレーション値(白抜きの傾斜した正方形のプロット)は、窓箔9aの厚さの増加に対して互いに同様の傾向で単調減少する傾向を示している。
窓箔9aの厚さに対する限界電流面密度の単調減少の傾向は、例えば窓箔9aの厚さの増加に対して負の傾きを有する1次関数の一部区間に相当すると考えることができる。そこで、窓箔9aの厚さを変数とし、フィラメントユニット2の管電圧に応じた大きさの負の傾きを有する1次関数で近似した限界電流面密度近似値(mA/mm2)に基づいて、フィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。この場合、制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧(電子線発生部の駆動電圧)と窓箔9aの厚さとに基づいて1次関数で近似した限界電流面密度近似値を算出し、算出した限界電流面密度近似値以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。傾き及び切片は、図11においてフィラメントユニット2の管電圧を一通りに定めた場合の複数のプロットに沿うような1次関数の軌跡となるように、設定することができる。なお、例えばフィラメントユニット2の管電圧が120kV以下の範囲において、フィラメントユニット2の管電圧が高いほど、負の傾きの大きさが大きくなってもよい。これにより、一通り定めたフィラメントユニット2の駆動電圧において窓箔9aの厚さが変化しても、1次関数で近似した限界電流面密度近似値を用いてフィラメントユニット2の駆動電流を容易に設定することができる。
引き続き、電子線照射装置1の製造方法について説明する。図12は、電子線照射装置の製造方法を示すフローチャートである。図12に示される各ステップは、例えば図1に示される電子線照射装置1を製造する際に、制御部50の制御可能範囲を定める工程の一部として実行される。
図12に示されるように、電子線照射装置1の製造方法は、例えば、所定の厚さの窓箔9aを用意するステップS01(第4ステップ)と、フィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定するステップS02(第1ステップ)と、窓箔9aにおける電子線EBの入射領域(電子線透過領域9f)の面積を特定するステップS03(第2ステップ)と、窓箔9aにおける電流面密度が所定の限界電流面密度以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定するステップS04(第3ステップ)と、を備える。
ステップS01では、例えば、厚さが2×10−3mm以上且つ1×10−2mm以下である窓箔9aを用意する。ステップS01では、作業者は、窓箔9aの形状へと切り出された厚さ4×10−3mm以上5×10−3mm以下である窓箔9aを用意してもよい。ここでのステップS01では、作業者は、例えば、厚さ3×10−3mm、4×10−3mm、又は5×10−3mmのチタン箔を用意する。
ステップS02では、作業者は、制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定する。フィラメントユニット2の駆動電圧の範囲とは、電子線照射装置1を使用する際にフィラメントユニット2に印加可能な電圧の範囲を意味する。作業者は、電子線照射装置1の用途に応じて要求される電子線EBの強度を実現できるように、フィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定する。
ステップS03では、より詳しくは、図13に示される面積特定処理が行われてもよい。図13は、図12の面積特定処理を示すフローチャートである。図13に示されるように、面積特定処理は、一例として、窓箔9aに代えて蛍光部材を配置するステップS11と、蛍光部材において電子線EBの入射により発光する発光領域の面積を入射領域の面積として取得するステップS12と、発光領域の面積の取得後に蛍光部材を取り外して窓箔9aを配置するステップS13と、を含む。
ステップS11では、作業者は、窓部材9において、窓箔9aに代えて蛍光部材を配置する。ステップS12では、作業者は、蛍光部材が配置された状態で蛍光部材に電子線EBを入射させる。これにより、蛍光部材において電子線EBが入射した領域が発光する。作業者は、電子線EBの入射により発光する発光領域の面積を、入射領域の面積(電子線透過領域9fの面積)として取得する。所定の限界電流面密度は、ステップS12で面積を取得した後、蛍光部材を取り外して窓箔9aを配置して、フィラメントユニット2の駆動電流を徐々に増加させていき、熱で窓箔9aが破損したときの電流面密度として求めることができる。なお、作業者は、上記ステップS11を省略して、窓箔9aを取り外さずに、電子線EBの入射により発光する物体を用いて、入射領域の面積を取得してもよい。
ステップS13では、作業者は、蛍光部材を取り外して窓箔9aを配置する。なお、上記ステップS11を省略した場合には、蛍光部材を取り外して窓箔9aを配置することに代えて、電子線EBの入射により発光する物体を除去する。その後、作業者は、真空容器3内が真空となるように真空容器3から排気する。
図12に戻り、ステップS04では、作業者は、窓箔9aにおける電流面密度が所定の限界電流面密度以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定する。フィラメントユニット2の駆動電流の範囲とは、ステップS02において設定された範囲に属するフィラメントユニット2の駆動電圧の条件で、フィラメントユニット2に印加可能な駆動電流の範囲を意味する。作業者は、例えば、ステップS02において設定された範囲に属するようにフィラメントユニット2の駆動電圧を所定の管電圧に選択し、当該管電圧及び窓箔9aの厚さに応じた限界電流面密度を例えば図8又は図9から算出し、窓箔9aにおける電流面密度が当該限界電流面密度以下となるように、フィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定する。
一例として、ステップS04では、一種類の厚さの窓箔9aに対して、ステップS02において設定された駆動電圧の範囲の上限値が小さくなるほど、駆動電流の範囲の上限値を小さく設定してもよい。
具体的には、ステップS01において厚さが3×10−3mmである窓箔9aを用意する場合、ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が4.9mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が3.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が2.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が1.4mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が0.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。
あるいは、ステップS01において厚さが4×10−3mmである窓箔9aを用意する場合、ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が3.8mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が3.1mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が2.5mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が1.9mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が1.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が0.5mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。
あるいは、ステップS01において厚さが5×10−3mmである窓箔9aを用意する場合、ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、第3ステップで窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が120kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が2.4mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が110kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が2.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が100kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が1.6mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が90kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、第3ステップで窓箔9aにおける電流面密度が1.1mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が70kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、第3ステップで窓箔9aにおける電流面密度が0.6mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が50kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、第3ステップで窓箔9aにおける電流面密度が0.3mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。
以上の各ステップにより、電子線照射装置1が使用可能な状態に製造される。
以上説明したように、電子線照射装置1は、制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧及び駆動電流が、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下に抑えられるように設定される。その結果、例えばこのような電流面密度の制限なく駆動電圧及び駆動電流を設定する場合と比べて窓箔9aの温度上昇が適切な範囲内に抑制されるため、窓箔9aの長寿命化を図ることができる。また、窓箔9aの冷却も効率化される。
電流面密度は、フィラメントユニット2の管電流を、窓箔9aにおける電子線EBの入射領域の面積で除算して得られる値である。これにより、窓箔9aにおける電子線透過領域9fの面積値を用いた電流面密度を用いるため、電子線透過領域9fにおける一方向の距離の値を用いた電流密度を用いる場合と比べて、電子線透過領域9fの全体的について効果的に窓箔9aの長寿命化を図ることができる。
制御部50は、一種類の厚さの窓箔9aに対して、駆動電圧が小さくなるほど電流面密度が小さくなるように、駆動電流を制御する。例えば、窓箔9aの厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、窓箔9aの厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である場合、制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。あるいは、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、制御部50は、フィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるようにフィラメントユニット2の駆動電流を設定してもよい。駆動電圧が小さくなると電子線EBが窓部材9を透過しづらくなるため、電流面密度が増大し易くなるが、電流面密度が小さくなるように駆動電流を制御することで、窓箔9aの過熱を抑制することができる。
上記電子線照射装置の製造方法は、制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧及び駆動電流が、窓箔9aにおける電流面密度が限界電流面密度以下に抑えられるように設定される。その結果、例えばこのような電流面密度の制限なく駆動電圧及び駆動電流を設定する場合と比べて窓箔9aの温度上昇が適切な範囲内に抑制されるため、窓箔9aの冷却が効率化される。よって、窓箔9aの長寿命化を図ることができる。
上記電子線照射装置の製造方法において、ステップS03は、窓箔9aに代えて蛍光部材を配置するステップS11と、蛍光部材において電子線EBの入射により発光する発光領域の面積を電子線透過領域9fの面積として取得するステップS12と、発光領域の面積の取得後に蛍光部材を取り外して窓箔9aを配置するステップS13と、を含む。これにより、窓箔9aにおける電子線透過領域9fの面積値を用いた電流面密度を用いるため、電子線透過領域9fにおける一方向の距離の値を用いた電流密度を用いる場合と比べて、電子線透過領域9fの全体的について効果的に窓箔9aの長寿命化を図ることができる。また、蛍光部材の発光領域を利用して電子線透過領域9fを容易に特定することができる。
上記電子線照射装置の製造方法は、厚さが2×10−3mm以上且つ10×10−3mm以下である窓箔9aを用意するステップS01を備えている。ステップS04では、一種類の厚さの窓箔9aに対して、ステップS02において設定された駆動電圧の範囲の上限値が小さくなるほど、駆動電流の範囲の上限値を小さく設定する。例えば、ステップS01において厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である窓箔9aを用意する場合、ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS01において厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である窓箔9aを用意する場合、ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS01において厚さが5×10−3mmである窓箔9aを用意する場合、ステップS02でフィラメントユニット2の管電圧が130kV以下となるように制御部50によるフィラメントユニット2の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04で窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。これにより、駆動電圧が小さくなると電子線EBが窓部材9を透過しづらくなるため、電流面密度が増大し易くなる。よって、駆動電流の範囲の上限値を小さく設定することで、電流面密度の増大を抑制し、窓箔9aの温度上昇が適切な範囲内に抑制することができる。
[第2実施形態]
図14は、第2実施形態に係る電子線照射装置1Aの側断面図である。電子線照射装置1に代えて、図14に示されるような電子線照射装置1Aにおいても、上記第1実施形態で例示された窓部材9及び冷却部100を適用しつつ、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下に抑えられるように、制御部50Aによるフィラメントユニット2の駆動電圧及び駆動電流を設定することが可能である。
図14に示されるように、電子線照射装置1Aは、電子線通過領域20を形成するチャンバ(筐体部)30と、電子線通過領域20の後端20aを塞ぐようにチャンバ30に気密に取り付けられた電子銃(電子線発生部)40と、電子線通過領域20の前端20bを塞ぐようにチャンバ30に気密に取り付けられた窓部材9と、を備えている。電子銃40が発生した電子線EBは、電子線通過領域20をZ軸方向前側に進行し、窓部材9を透過して外部に出射する。なお、電子線照射装置1Aによって電子線EBが照射される側を前側、その反対側を後側とする。
チャンバ30は、電子銃40が取り付けられた金属製の円柱部31を有している。円柱部31には、アライメントコイル21及び集束コイル22が設けられている。電子銃40から出射した電子線EBは、アライメントコイル21によって、電子線EBの中心線が電子線通過領域20の中心線CLに一致するように調整された後、集束コイル22によって、窓部材9に集束される。なお、円柱部31には、真空ポンプが接続される排気管23が設けられており、これにより、チャンバ30内(すなわち、電子線通過領域20)が真空引きされる。
チャンバ30は、偏向管(筐体部)32を有している。偏向管32は、例えば四角柱状の外形を有している。電子線通過領域20のうち偏向管32によって形成される部分である電子線通過領域24の断面は、Y軸方向を長手方向とする長方形状となっている。偏向管32の外側には、偏向管32の内側を通過する電子線EBを偏向する偏向コイル25が取り付けられている。集束コイル22によって集束されて電子線通過領域24を通過する電子線EBは、偏向コイル25によってY軸方向に偏向される。
更に、チャンバ30は、偏向管32の前端面に固定された走査管(筐体部)33を有している。走査管33は、前側に向かって末広がりの四角柱状の外形を有している。電子線通過領域20のうち走査管33によって形成される部分である電子線通過領域26の断面は、Y軸方向を長手方向とする長方形状となっている。なお、走査管33の前端部には、フランジ34が設けられている。
窓部材9は、電子線通過領域20の前端20bの開口部20cを覆って封止するように、走査管33に固定されている。走査管33と窓部材9とは、フランジ34と窓フランジ9cとが封止材9dを介して接触した状態で、例えば複数のボルトにより気密に固定されている。
電子線照射装置1Aは、窓箔9aの温度が適切となるように電子銃40を制御する制御部50Aを備えている。制御部50Aの詳細な説明については、上記第1実施形態におけるフィラメントユニット2が電子銃40に置き換わる以外、上記第1実施形態で開示される制御部50の説明と同様であるため、重複する説明を省略する。
第2実施形態の窓部材9及び冷却部100の詳細な構成は、フランジ34への取り付けに伴う形状及び寸法等の構成変更を除いて、上記第1実施形態の窓部材9の構成の要部と同様であるため、重複する説明を省略する。
なお、電子線照射装置1Aの製造方法については、図12及び図13に示される各ステップが、例えば図14に示される電子線照射装置1Aに対して、開口部20cに配置される窓部材9を準備する状況において、電子線照射装置1Aの製造の作業者により実行される。電子線照射装置1Aの製造方法の詳細については、ステップS04においてフィラメントユニット2が電子銃40に置き換わる以外、図12及び図13に示される各ステップと同様であるため、重複する説明を省略する。
以上説明した電子線照射装置1Aにおいても、電子線照射装置1と同様、電子線照射装置1Aは、制御部50Aによる電子銃40の駆動電圧及び駆動電流が、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下に抑えられるように設定される。その結果、例えばこのような電流面密度の制限なく駆動電圧及び駆動電流を設定する場合と比べて窓箔9aの過熱が抑制されるため、窓箔9aの冷却が効率化される。よって、窓箔9aの長寿命化を図ることができる。
電流面密度は、電子銃40の管電流を、窓箔9aにおける電子線EBの入射領域の面積で除算して得られる値である。これにより、窓箔9aにおける電子線透過領域9fの面積値を用いた電流面密度を用いるため、電子線透過領域9fにおける一方向の距離の値を用いた電流密度を用いる場合と比べて、電子線透過領域9fの全体的について効果的に窓箔9aの長寿命化を図ることができる。
制御部50Aは、一種類の厚さの窓箔9aに対して、駆動電圧が小さくなるほど電流面密度が小さくなるように、駆動電流を制御する。例えば、窓箔9aの厚さが3×10−3mmである場合、制御部50Aは、電子銃40の管電圧が130kV以下となるように電子銃40の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように電子銃40の駆動電流を設定してもよい。あるいは、窓箔9aの厚さが4×10−3mmである場合、制御部50Aは、電子銃40の管電圧が130kV以下となるように電子銃40の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるように電子銃40の駆動電流を設定してもよい。あるいは、窓箔9aの厚さが5×10−3mmである場合、制御部50Aは、電子銃40の管電圧が130kV以下となるように電子銃40の駆動電圧を設定し、窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように電子銃40の駆動電流を設定してもよい。これにより、駆動電圧が小さくなると電子線EBが窓部材9を透過しづらくなるため、電流面密度が増大し易くなる。よって、電流面密度が小さくなるように駆動電流を制御することで、窓箔9aの過熱を抑制することができる。
上記電子線照射装置1Aの製造方法は、制御部50Aによる電子銃40の駆動電圧及び駆動電流が、窓箔9aにおける電流面密度が限界電流面密度以下に抑えられるように設定される。その結果、例えばこのような電流面密度の制限なく駆動電圧及び駆動電流を設定する場合と比べて窓箔9aの温度上昇が適切な範囲内に抑制されるため、窓箔9aの長寿命化を図ることができる。また、窓箔9aの冷却も効率化される。
上記電子線照射装置1Aの製造方法において、ステップS03は、窓箔9aに代えて蛍光部材を配置するステップS11と、蛍光部材において電子線EBの入射により発光する発光領域の面積を電子線透過領域9fの面積として取得するステップS12と、発光領域の面積の取得後に蛍光部材を取り外して窓箔9aを配置するステップS13と、を含む。これにより、窓箔9aにおける電子線透過領域9fの面積値を用いた電流面密度を用いるため、電子線透過領域9fにおける一方向の距離の値を用いた電流密度を用いる場合と比べて、電子線透過領域9fの全体的について効果的に窓箔9aの長寿命化を図ることができる。また、蛍光部材の発光領域を利用して電子線透過領域9fを容易に特定することができる。
上記電子線照射装置1Aの製造方法は、厚さが2×10−3mm以上且つ1×10−2mm以下である窓箔9aを用意するステップS01を備えている。ステップS04では、一種類の厚さの窓箔9aに対して、ステップS02において設定された駆動電圧の範囲の上限値が小さくなるほど、駆動電流の範囲の上限値を小さく設定する。例えば、ステップS01において厚さが3×10−3mm以上5×10−3mm以下である窓箔9aを用意する場合、ステップS02では、電子銃40の管電圧が130kV以下となるように制御部50Aによる電子銃40の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04では、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS01において厚さが4×10−3mm以上5×10−3mm以下である窓箔9aを用意する場合、ステップS02では、電子銃40の管電圧が130kV以下となるように制御部50Aによる電子銃40の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04では、窓箔9aにおける電流面密度が4.7mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。ステップS01において厚さが5×10−3mmである窓箔9aを用意する場合、ステップS02では、電子銃40の管電圧が130kV以下となるように制御部50Aによる電子銃40の駆動電圧の範囲を設定し、ステップS04では、窓箔9aにおける電流面密度が4.0mA/mm2以下となるように駆動電流の範囲を設定してもよい。これにより、駆動電圧が小さくなると電子線EBが窓部材9を透過しづらくなるため、電流面密度が増大し易くなる。よって、駆動電流の範囲の上限値を小さく設定することで、電流面密度の増大を抑制し、窓箔9aの温度上昇を適切な範囲内に抑制することができる。
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではない。
上記第1及び第2実施形態において、電流面密度は、フィラメントユニット2又は電子銃40の管電流を、窓箔9aにおける電子線EBの入射領域の面積で除算して得られる値であったが、これに限定されない。例えば、電流面密度は、フィラメントユニット2又は電子銃40の駆動電流を、窓箔9aにおける電子線EBの入射領域の面積で除算して得られる値であってもよい。
上記第1及び第2実施形態において、制御部50及び制御部50Aは、一種類の厚さの窓箔9aに対して、駆動電圧が小さくなるほど電流面密度が小さくなるように、駆動電流を制御したが、これに限定されない。例えば、一種類の厚さの窓箔9aに対して、駆動電圧によらず、窓箔9aにおける電流面密度が5.3mA/mm2以下の一定の所定値となるように駆動電流を制御してもよい。
以上に記載された実施形態及び種々の変形例の少なくとも一部が任意に組み合わせられてもよい。