以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
まず、図1〜7を参照して、本発明の第1実施形態に係るベーンポンプ100について説明する。
ベーンポンプ100は、車両や産業機械に搭載される油圧機器に作動油(作動流体)を供給する油圧供給源として用いられる。本実施形態では、ベーンポンプ100が、車両に搭載される自動変速機、具体的にはベルト式無段変速機構(CVT)に作動油を供給する場合について説明する。
図1に示すように、ベーンポンプ100は、駆動源としての電動モータ1の動力によって駆動する。ベーンポンプ100と電動モータ1は、駆動シャフト4を介して同軸的に連結される。ベーンポンプ100と電動モータ1によって電動ベーンポンプ101が構成される。
電動モータ1は、軸受2a,2bを介してモータハウジング3に回転自在に支持された駆動シャフト4と、周方向に並ぶ複数の永久磁石を有し駆動シャフト4に固定されたモータロータ5と、モータハウジング3の内周に固定されコイルが巻き回されたステータ6と、を備える。モータロータ5とステータ6は、同心円状に配置され、両者の間には僅かな隙間が存在する。
モータハウジング3は、略有底筒状の本体部3aと、本体部3aの開口部を閉塞すると共にベーンポンプ100が連結されるモータカバー3bと、を備える。本体部3aとモータカバー3bは、モータカバー3bに形成された環状のインロー部3cが本体部3aの内周面に嵌合することによって一体に組み付けられる。
軸受2aは本体部3aの底部に固定され、軸受2bはモータカバー3bの中空部3dの内周面に固定される。駆動シャフト4は、2つの軸受2a,2bによって回転自在に支持され、モータカバー3bの中空部3dを挿通して延設される。駆動シャフト4は、電動モータ1に設けられた軸受2a,2bによってのみ支持され、ベーンポンプ100には、駆動シャフト4を支持する軸受は設けられない。
図1及び2に示すように、ベーンポンプ100は、駆動シャフト4に連結されたポンプロータ31と、ポンプロータ31に対して径方向に往復動自在に設けられた複数のベーン32と、ポンプロータ31を収容すると共にポンプロータ31の回転に伴って内周のカム面33aにベーン32の先端部が摺接するカムリング33と、ポンプロータ31及びカムリング33を収容するポンプハウジング40と、を備える。
ポンプロータ31、カムリング33、及び一対の隣り合うベーン32によってポンプ室34が区画される。
ポンプロータ31は環状部材であり、駆動シャフト4の先端部にスプライン結合によって連結される。ポンプロータ31には、外周面に開口するスリット31bが放射状に形成され、スリット31bにはベーン32が摺動自在に挿入される。スリット31bの底部には、ベーン32によって背圧室31aが区画される。
カムリング33は、カム面33aが短径と長径を有する略楕円形状をした環状部材である。カムリング33は、ポンプロータ31の回転に伴ってポンプ室34の容積を拡張する2つの吸込領域50と、ポンプロータ31の回転に伴ってポンプ室34の容積を収縮する2つの吐出領域60と、を有する。つまり、ポンプロータ31が1回転する間に、ベーン32は2往復しポンプ室34は収縮と拡張を2回繰り返す。吸込領域50と吐出領域60は、カム面33aの形状によって規定される。
ポンプロータ31及びカムリング33の一側面にはサイド部材としての第1サイドプレート36が当接して配置され、他側面には第2サイドプレート37が当接して配置される。このように、第1サイドプレート36と第2サイドプレート37は、ポンプロータ31及びカムリング33を両側から挟んだ状態で配置され、ポンプ室34を区画する。
第1サイドプレート36は、ポンプロータ31とポンプハウジング40の底面40bとの間に配置される。第2サイドプレート37は、ポンプロータ31とモータカバー3bとの間に配置される。
ポンプロータ31、カムリング33、第1サイドプレート36、及び第2サイドプレート37は、ポンプハウジング40に凹状に形成されたポンプ収容部40aに収容される。ポンプハウジング40とモータカバー3bはボルトによって締結され、ポンプ収容部40aの開口部は、モータハウジング3のモータカバー3bによって閉塞される。
図3に示すように、第1サイドプレート36は、円板状部材であり、2つの吸込ポート51と2つの吐出ポート61とを有する。吸込ポート51は、第1サイドプレート36の外周に円弧状に切り欠かれて形成される。吸込ポート51は、カムリング33の吸込領域50に対応して形成され、ポンプ室34に作動油を導く。
吐出ポート61は、第1サイドプレート36に円弧状に貫通して形成される。吐出ポート61は、カムリング33の吐出領域60に対応して形成され、ポンプ室34の作動油を吐出する。吐出ポート61の端部には、ポンプロータ31の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなるノッチ62が形成される。ノッチ62は、第1サイドプレート36の表面に、溝状に形成される。ノッチ62が形成されることにより、ポンプロータ31の回転に伴い、ポンプ室34から吐出ポート61へのノッチ62を通じた作動油の流れが促されるため、後述する高圧室42の急激な圧力変動が防止される。
第1サイドプレート36には、高圧室42からポンプロータ31の背圧室31a(図2参照)へ作動油を導く2つの背圧通路55が貫通して形成される。背圧通路55は、カムリング33の吸込領域50に対応して円弧状に形成される。これにより、吸込領域50を通過する背圧室31a(図2参照)には高圧室42から作動油が導かれるので、吸込領域50を通過するベーン32は、背圧室31a内の圧力によりスリット31bから突出し、カムリング33のカム面33aに押圧される。また、第1サイドプレート36には、背圧室31aが連通する円弧溝56が4つ形成される。
図1に示すように、第2サイドプレート37は環状部材であり、その中心部には軸方向に貫通し駆動シャフト4が挿通する貫通孔37aが形成される。第2サイドプレート37はベーンポンプ100の必須の構成ではなく、廃止することが可能である。この場合には、第1サイドプレート36とモータカバー3bが、ポンプロータ31及びカムリング33を両側から挟みポンプ室34を区画する。
カムリング33と第1サイドプレート36は、2つの位置決めピン46によって相対回転が規制される。これにより、カムリング33の吸込領域50及び吐出領域60に対する第1サイドプレート36の吸込ポート51及び吐出ポート61の位置決めが行われる。
位置決めピン46は、カムリング33及び第2サイドプレート37を挿通し、一端側が第1サイドプレート36に形成された位置決め穴36dに挿入され、他端側がモータカバー3bに形成された位置決め穴3eに挿入される。このように、カムリング33、第1サイドプレート36、及び第2サイドプレート37は、位置決めピン46によってモータカバー3bに対して位置決めされる。
モータカバー3bの中空部3dの内周面には、駆動シャフト4の外周面が摺接するシール部材45が設けられる。シール部材45によって、ベーンポンプ100から電動モータ1への作動油の漏れが防止される。
ポンプ収容部40aの底面40bには、第1サイドプレート36の吐出ポート61に連通する高圧室42が環状に形成される。高圧室42は、ポンプ収容部40aの底面40bに配置される第1サイドプレート36によって区画される。高圧室42は、ポンプハウジング40の外面に開口して形成される吐出通路41に連通する。
ポンプハウジング40には、第1サイドプレート36の吸込ポート51に連通する吸込通路(図示省略)も形成される。吸込通路は、作動油が貯留されたタンクに連通する。
電動モータ1の駆動により駆動シャフト4が回転すると、駆動シャフト4に連結されたポンプロータ31が回転し、それに伴ってカムリング33内の各ポンプ室34は、吸込ポート51を通じて作動油を吸込み、吐出ポート61を通じて作動油を高圧室42に吐出する。高圧室42の作動油は、吐出通路41を通じてベルト式無段変速機構へ供給される。このように、カムリング33内の各ポンプ室34は、ポンプロータ31の回転に伴う拡縮によって作動油を給排する。
ベーンポンプ100は、吐出通路41を通じてベルト式無段変速機構へ供給される作動油の吐出流量を制御するコントローラ70(図1参照)を備える。ベーンポンプ100の吐出流量は、ポンプの押しのけ容積とポンプ回転数との積によって決まる。ベーンポンプ100は固定容量型ポンプであるため、ポンプの押しのけ容積は一定である。つまり、ポンプの押しのけ容積は予め決まっている。したがって、コントローラ70は、ポンプ回転数、つまり電動モータ1の回転数を制御することによって、ベーンポンプ100の吐出流量を制御する。具体的には、コントローラ70は、ベーンポンプ100の吐出流量がベルト式無段変速機構で必要とされる作動油の必要流量を超えるように電動モータ1の回転数を制御する。ベルト式無段変速機構の必要流量は、各種センサによって検出される信号、主には、アクセル開度や車速、ベルト式無段変速機構内の作動油の油温、ベルト式無段変速機構に供給される作動油の圧力、ベルト式無段変速機構の入力軸及び出力軸回転数、ベルト式無段変速機構の変速比に基づいて演算される。ベルト式無段変速機構の必要流量は、コントローラ70にて演算してもよいし、ベルト式無段変速機構の駆動を制御するCVTコントローラで演算し、その演算結果をコントローラ70で受信するようにしてもよい。
コントローラ70は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースはコントローラ70に接続された機器との情報の入出力に使用される。コントローラ70は、複数のマイクロコンピュータで構成されていてもよい。コントローラ70は、本実施形態では、ポンプハウジング40の外表面に設けられる(図1参照)。なお、コントローラ70は、モータハウジング3の外表面や、モータハウジング3又はポンプハウジング40の内部に設けてもよいし、ベーンポンプ100及び電動モータ1とは別に設けてもよい。
ここで、作動油中に気体(空気)が含まれている場合には、ベーンポンプ100の実際の吐出流量は、ポンプの押しのけ容積とポンプ回転数とから算出される流量よりも低下してしまい、ベルト式無段変速機構の必要流量を下回ってしまう。したがって、作動油中に含まれる気体量が多くなると、気体含有に起因する吐出流量の低下を補うため、ポンプ回転数が上昇してしまう。ポンプ回転数の上昇は、騒音の発生やポンプの故障を招く。この事象について、図4及び5を参照して詳しく説明する。
図4A及び4Bは、駆動シャフト4の回転角度に対するポンプ室34の圧力変化を示す実験データである。図4Aは作動油中の気体割合がA1%である場合を示し、図4Bは作動油中の気体割合がA2%である場合を示す。気体割合A1%は、気体割合A2%よりも低い(A1<A2)。ポンプ回転数は、図4A及び4BともR2rpmであり、油温等のその他の条件も図4A及び4Bで同一である。図5は、駆動シャフト4の回転角度に対するポンプ室34の圧力変化を示す実験データであり、作動油中の気体割合がA2%である場合におけるポンプ回転数が異なる3つの圧力波形を示している。ポンプ回転数R1,R2,R3の大小関係は、R1<R2<R3である。3つの圧力波形は、回転数以外の油温等のその他の条件は同一である。
図4A,4B,5において、圧力が高い区間は、ノッチ62及び吐出ポート61を通じて作動油を吐出する吐出区間θ1である。つまり、吐出区間θ1の圧力は、ポンプ室34の吐出圧力である。図4Aと図4Bの比較からわかるように、作動油中の気体割合が高い図4Bの方が吐出区間θ1の回転角度範囲が小さくなっている。これは、作動油中の気体割合が高いと、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じるためである。このように、作動油中の気体割合が高いと、吐出区間θ1の回転角度範囲が小さくなるため、ポンプ室34から吐出される作動油の流量が少なくなってしまう。そして、作動油中の気体含有に起因する吐出流量の低下を補って必要流量を確保すべくポンプ回転数が上昇してしまう。
図5中の3つの圧力波形の比較からわかるように、ポンプ回転数が大きい方が吐出区間θ1の回転角度範囲が小さくなっている。これは、回転数が大きいとポンプ室34がノッチ62を通過する時間が短くなり、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じるためである。このように、図4A,4B,5からわかるように、作動油中の気体割合が高いと、吐出区間θ1の回転角度範囲が小さくなり、気体含有に起因する吐出流量の低下を補うためポンプ回転数が上昇してさらに吐出区間θ1の回転角度範囲が小さくなる。つまり、作動油中の気体割合が高い程、ポンプ回転数が大きくなり、その結果として吐出区間θ1の回転角度範囲が小さくなる傾向を示す。
ノッチ62を通じた作動油の吐出に遅れが生じず吐出圧力の上昇に遅れが生じない場合には、吐出区間θ1の回転角度範囲は、ノッチ62及び吐出ポート61が形成された設計上の回転角度範囲、つまりノッチ62の先端部62aから吐出ポート61の回転方向後端部61bまでの回転角度範囲θ1d(図3参照)と一致する。吐出区間θ1の回転角度範囲は、作動油中の気体割合が高い程小さくなり、作動油中の気体割合があるレベルに達すると、吐出ポート61が形成された設計上の回転角度範囲、つまり吐出ポート61の回転方向前端部61aから回転方向後端部61bまでの回転角度範囲θ0d(図3参照)と一致してしまう。つまり、ノッチ62を通じた作動油の吐出が行われなくなってしまう。このような状態では、作動油中の気体含有に起因する吐出流量の低下を補うためポンプ回転数が過度に上昇している可能性があり、騒音の発生やポンプの故障を招くおそれがある。また、ポンプ回転数が過度に上昇していなくとも、ノッチ62を通じた作動油の吐出が行われない場合には、ポンプ室34から高圧室42へ吐出ポート61を通じて一気に作動油が流れ込むことになるため、騒音の発生やポンプの故障を招くおそれがある。
本実施形態では、このような事態の発生を防ぐために、ポンプ室34の圧力に基づいて吐出区間θ1の回転角度範囲を演算し、その回転角度範囲に基づいてポンプ回転数を制御する。以下に、詳細に説明する。
図6に示すように、ポンプロータ31には、ポンプ室34の圧力を検出する圧力検出器としての圧力センサ71が設けられる。ポンプロータ31には、内外周面に開口して径方向に貫通する貫通孔31cが形成される。圧力センサ71は、貫通孔31cに装着されて固定される。圧力センサ71は、複数のポンプ室34のうちベーン32aと32bによって区画されたポンプ室34aの圧力を検出する(図6では、ベーン32a,32b以外のベーン32の図示を省略する)。圧力センサ71は、その端面がポンプ室34aに露出するように設けられるため、ポンプ室34aの圧力を精度良く検出することができる。
圧力センサ71によって検出された圧力信号は、ポンプハウジング40に設けられたスリップリング72(図1参照)を介してコントローラ70へ出力される。圧力センサ71とスリップリング72は、配線73を介して電気的に接続される。配線73は、ポンプロータ31の貫通孔31c(図6参照)、第1サイドプレート36に形成された貫通孔(図示せず)、及びポンプハウジング40に形成された貫通孔(図示せず)を挿通する。スリップリング72は、第1サイドプレート36に設けるようにしてもよい。
圧力センサ71は、ベーンポンプ100の部材のうち回転部材であるポンプロータ31に設けられる。したがって、圧力センサ71によって検出される圧力は、ポンプロータ31の回転に伴うポンプ室34aの圧力の時間変化を示すものとなる。圧力センサ71は、ポンプロータ31の回転中、所定周期でポンプ室34aの圧力を検出し、その検出結果をコントローラ70へ出力する。
図7に、圧力センサ71によって検出されたポンプ室34aの圧力の時間変化を示す。図7の縦軸は、ポンプ室34aの圧力であり、横軸は時間である。図7において、圧力が高い区間は、ノッチ62及び吐出ポート61を通じて作動油を吐出する吐出区間θ1であり、圧力が低い区間は、吸込ポート51を通じて作動油を吸込む吸込区間θ2である。
本実施形態では、コントローラ70が、圧力センサ71の検出結果に基づいて、吐出区間θ1の回転角度範囲を演算する場合について説明する。本実施形態では、ポンプロータ31の1回転の間に、ポンプ室34aはノッチ62及び吐出ポート61を通じた作動油の吐出を2回行う。つまり、360度の回転の間に吐出区間θ1が2つ存在する。したがって、図7において、隣り合う吐出区間θ1間の回転角度範囲は180度である。ここで、上述したように、ノッチ62を通じて作動油を吐出し始める吐出区間θ1の開始角度θ1s(図3参照)は、作動油中の気体割合やポンプ回転数によって吐出区間θ1毎に異なる。しかし、ポンプ室34aが吐出ポート61の回転方向後端部61bを通過して吸込ポート51に連通するタイミングである吐出区間θ1の終了角度θ1f(図3参照)は、作動油中の気体割合やポンプ回転数に関係なく各吐出区間θ1で略同じとなる。したがって、隣り合う吐出区間θ1の終了角度θ1f間の回転角度範囲は設計値の180度となる。
図7において、圧力センサ71によって検出されたポンプ室34aの圧力から吐出区間θ1の開始角度θ1sに対応する時刻Tsと、終了角度θ1fに対応する時刻Tfと、を求める。具体的には、吸込区間θ2の平均圧力Psと吐出区間θ1の平均圧力Pdとの圧力差ΔPの所定割合の圧力を基準圧力Pbとし、基準圧力Pb時点の時刻をTs,Tfとする。基準圧力Pbは、圧力差ΔPの10〜50%とする。これは、基準圧力Pbを圧力差ΔPの10%未満とすると、吸込区間θ2内の誤差圧力を抽出する可能性があり、また、基準圧力Pbを圧力差ΔPの50%以上とすると、圧力が大きくなり過ぎ、吐出区間θ1が実際よりも短くなるおそれがあるためである。なお、吐出区間θ1の開始角度θ1sに対応する時刻Tsとして、圧力のピーク時点の時刻(図7の時刻Ts´)としてもよい。ただ、この場合、吐出区間θ1が実際よりも短くなるおそれがある。
隣り合う吐出区間θ1の時刻Tf間の時間をT1、吐出区間θ1の時刻TsとTf間の時間をT2とすると、時間T1に対応する回転角度範囲は上述のように180度であるため、吐出区間θ1の回転角度範囲X(時間T2に対応する回転角度範囲)は、以下の(1)式によって演算される。
X=180×T2/T1・・・(1)
このように、駆動シャフト4の回転角度が不明な場合であっても、圧力センサ71の検出結果に基づいて吐出区間θ1の回転角度範囲を得ることができる。コントローラ70は、演算した吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて、電動モータ1の回転数を制御してポンプ回転数を制御する。具体的には、コントローラ70は、演算した吐出区間θ1の回転角度範囲と吐出ポート61の回転角度範囲θ0d(図3参照)との比較に基づいて、電動モータ1の回転数を制御する。吐出ポート61の回転角度範囲θ0dは、ベーンポンプ100の仕様によって決まるものであり、コントローラ70のROMに予め記憶されている。このように、コントローラ70は、演算した吐出区間θ1の回転角度範囲と予め定められた吐出ポート61の回転角度範囲θ0dとの比較に基づいて、電動モータ1の回転数を制御する。
具体的に説明すると、吐出区間θ1の回転角度範囲が回転角度範囲θ0d未満である場合には、ノッチ62を通じた作動油の吐出が行われていないことを意味する。このような状況は、作動油中の気体割合が高くなっており、ポンプ回転数も過度に上昇している過酷な運転状態になっていることが予想されるため、このまま運転を継続した場合には、騒音の発生やポンプの故障を招くおそれがある。そこで、コントローラ70は、この場合には、電動モータ1の回転数を制限する。電動モータ1の回転数を制限するは、電動モータ1の回転数がこれ以上上昇しないように現状維持に制御するか、又は電動モータ1の回転数を強制的に下げる制御である。電動モータ1の回転数を強制的に下げる場合には、電動モータ1の回転数を所定回転数だけ下げてもよいし、吐出区間θ1の回転角度範囲が回転角度範囲θ0d以上になるまで電動モータ1の回転数を下げてもよい。
作動油中の気体割合は、ベルト式無段変速機構の運転状態に応じて変化する。また、ポンプ回転数が大きくなると作動油が撹拌されて気体割合が高くなる。このように、作動油中の気体割合は、常時変化する。したがって、作動油中の気体割合が高くなり、吐出区間θ1の回転角度範囲が回転角度範囲θ0d未満となった場合に、電動モータ1の回転数を制限することにより、作動油中の気体割合を低くすることができる。
コントローラ70は、演算した吐出区間θ1の回転角度範囲が回転角度範囲θ0d以上と判定した場合には、ノッチ62を通じて作動油が吐出されている正常な吐出状態であるため、電動モータ1の回転数を制限することなく通常制御を行う。
上記(1)式による吐出区間θ1の回転角度範囲の演算は、1つの吐出区間θ1の回転角度範囲のみの演算では誤差が大きいおそれがある。そこで、吐出区間θ1の回転角度範囲として、複数の吐出区間θ1の回転角度範囲の平均値を用いてもよい。
以上の第1実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
ベーンポンプ100では、圧力センサ71の検出結果に基づいて吐出区間θ1の回転角度範囲を演算し、その吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて電動モータ1の回転数が制御される。吐出区間θ1の回転角度範囲は、ノッチ62及び吐出ポート61に連通している際のポンプ室34の圧力に基づいて演算される。ノッチ62は作動油の流れを絞るものであるため、ノッチ62に連通している際のポンプ室34の圧力は、作動油中の気体の影響を受け易く、作動油中に含まれる気体量に応じて変化する。したがって、ノッチ62及び吐出ポート61に連通している際のポンプ室34の圧力に基づいて吐出区間θ1の回転角度範囲を演算し、その吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて電動モータ1の回転数を制御することによって、作動油中に含まれる気体量を考慮したベーンポンプ100の回転数制御が可能となる。これにより、作動油の気体含有に起因するポンプ回転数の過度な上昇が防止され、騒音の発生やポンプの故障を防止することができる。よって、作動油中に気体が含まれる環境下でも、ベーンポンプ100の安定した運転が可能となる。
また、ベーンポンプ100は、演算された吐出区間θ1の回転角度範囲と予め定められた吐出ポート61の回転角度範囲θ0dとの比較に基づいて電動モータ1の回転数を制御するものであって、ポンプ回転数を制御するために作動油中の気体量やポンプ吐出流量を検出する必要がない。このように、ベーンポンプ100やベーンポンプ100から作動油が供給されるベルト式無段変速機構等の油圧機器に、作動油中の気体量を計測するセンサやポンプ吐出流量を検出する流量センサを設ける必要がない。また、吐出区間θ1の回転角度範囲は、ポンプロータ31に設けられた圧力センサ71の検出結果に基づいて演算されるため、ベーンポンプ100の外部に圧力センサを設ける必要もない。以上のように、本実施形態では、ベーンポンプ100の回転数を制御するにあたり、ベーンポンプ100の外部、つまりベルト式無段変速機構等の油圧機器から信号を受信する必要がなく、ベーンポンプ100のみで制御が完結する。よって、ベーンポンプ100を含めたシステム全体のポンプ回転数制御を単純なものとすることができる。
以下に、本第1実施形態の変形例について説明する。
(1)上記実施形態では、ベーンポンプ100の駆動源が電動モータ1であった。しかし、ベーンポンプ100の駆動源は、ベーンポンプ100の回転数を制御可能なものであれば、他の駆動源であってもよい。
(2)上記実施形態では、吐出区間θ1の回転角度範囲は、圧力センサ71の検出結果に基づき上記(1)式を用いて演算するものであった。これに代えて、電動モータ1に、駆動シャフト4の回転角度を検出するレゾルバやエンコーダ等の回転角度検出器を設け、この回転角度検出器及び圧力センサ71の検出結果から吐出区間θ1の回転角度範囲を演算するようにしてもよい。
(3)上記実施形態では、演算された吐出区間θ1の回転角度範囲が予め定められた吐出ポート61の回転角度範囲θ0d未満の場合に、電動モータ1の回転数を制限するものであった。これに代えて、演算された吐出区間θ1の回転角度範囲が所定角度又は所定割合減少した場合に、電動モータ1の回転数を制限するようにしてもよい。このように、本実施形態は、演算された吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて電動モータ1の回転数を制御するものであればよい。
<第2実施形態>
次に、図4A,4B,5,8〜10を参照して、本発明の第2実施形態に係るベーンポンプ200について説明する。以下では、上記第1実施形態に係るベーンポンプ100と異なる点について説明し、ベーンポンプ100と同一の構成には、図面中に同一の符号を付して説明を省略する。
上記第1実施形態に係るベーンポンプ100は、演算された吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて電動モータ1の回転数を制御するものであった。これに対して、ベーンポンプ200は、吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際の閉じ込み圧力Pmaxに基づいて電動モータ1の回転数を制御する。以下に詳しく説明する。
ポンプ室34が吸込区間θ2から吐出区間θ1へ移行する際には、ポンプ室34の作動油は一瞬閉じ込められた状態となり、ポンプ室34が吐出区間θ1のノッチ62に連通した際に吐出圧力が一気に上昇する。したがって、図4A,4B,5からわかるように、吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際には、吐出圧力が最大となるピーク圧力(図4A,4B,5のPmax)が発生する。このピーク圧力が閉じ込み圧力Pmaxである。
図4Aと図4Bの比較からわかるように、作動油中の気体割合が高い図4Bの方が閉じ込み圧力Pmaxが高くなっている。これは、作動油中の気体割合が高いと、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じ、その分吐出圧力の立ち上がりが大きくなるためである。
また、図5中の3つの圧力波形の比較からわかるように、ポンプ回転数が大きい方が閉じ込み圧力Pmaxが高くなっている。これは、ポンプ回転数が大きいとポンプ室34がノッチ62を通過する時間が短くなり、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じ、その分吐出圧力の立ち上がりが大きくなるためである。
このように、図4A,4B,5からわかるように、作動油中の気体割合が高い程、また、ポンプ回転数が大きい程、吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際の閉じ込み圧力Pmaxは大きくなる傾向を示す。このように、吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際の閉じ込み圧力Pmaxは、作動油中の気体割合及びポンプ回転数と相関関係がある。特に、ノッチ62は作動油の流れを絞るものであるため、ポンプ室34がノッチ62に連通した際の閉じ込み圧力Pmaxは、作動油中の気体割合及びポンプ回転数の影響をより受け易い。
図9に、ポンプロータ31に設けられた圧力センサ71によって検出されたポンプ室34aの圧力の時間変化を示す。
コントローラ70は、圧力センサ71の検出結果に基づいて、吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際のポンプ室34aの閉じ込み圧力Pmaxと吐出圧力との差圧ΔPを演算する。具体的には、図9に示すように、閉じ込み圧力Pmaxと吐出圧力の平均圧力Paveとの差圧ΔPを演算する。ポンプ室34aの吐出圧力は、ポンプ室34aが吐出ポート61に連通するまでは安定しない。したがって、平均圧力Paveは、ポンプ室34aが吐出ポート61に連通している際の吐出圧力の平均値や、吐出区間θ1のうち吐出圧力が安定しない初期の所定時間を除いた区間の吐出圧力の平均値とするのが好ましい。
また、差圧ΔPは、閉じ込み圧力Pmaxと吸込圧力との差であってもよい。このように、差圧ΔPは、閉じ込み圧力Pmaxに基づく差圧ΔP、つまり閉じ込み圧力Pmaxの変化量であればよく、閉じ込み圧力Pmaxと比較する圧力は限定されない。
差圧ΔPの演算は、1つの吐出区間θ1の閉じ込み圧力Pmaxのみでは誤差が大きいおそれがある。そこで、差圧ΔPとして、複数の吐出区間θ1の閉じ込み圧力Pmaxについて差圧ΔPを演算し、その平均値を用いるようにしてもよい。
ベーンポンプ200は、ポンプ回転数を検出する回転数取得手段としての回転数センサ82(図8参照)をさらに備える。回転数センサ82は、駆動シャフト4の回転数を検出することによってポンプ回転数を取得する。回転数センサ82の検出結果は、コントローラ70へ出力される。
コントローラ70には、図10に示すマップが予め記憶されている。図10のマップ中の各線は、作動油中の気体割合毎の、ポンプ回転数と差圧ΔPとの関係を示す理想線であり、予め実験により求められるものである。図10のマップは、作動油中の気体割合が高い程、また、ポンプ回転数が大きい程、差圧ΔPが大きくなる特性を有する。これは、上述したように、作動油中の気体割合が高いと、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じ、その分閉じ込み圧力Pmaxが大きくなるためである。また、ポンプ回転数が大きいと、ポンプ室34がノッチ62を通過する時間が短くなり、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じ、その分閉じ込み圧力Pmaxが大きくなるためである。特に、ノッチ62は作動油の流れを絞るものであるため、ポンプ室34がノッチ62に連通した際の閉じ込み圧力Pmaxは、作動油中の気体割合及びポンプ回転数の影響をより受け易く、図10に示すような特性となる。
コントローラ70は、閉じ込み圧力Pmaxと吐出圧力の平均圧力Paveとの差圧ΔPと、その閉じ込み圧力Pmax発生時に回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数と、を対応付けて記憶し、その差圧ΔPと図10のマップの理想線との比較に基づいて、電動モータ1の回転数を制限する。
具体的に説明すると、コントローラ70は、まず、電動モータ1の回転数を制限する基準の気体割合を予め決める。ここでは、図10のマップ中の気体割合A4%の理想線を基準線とする。図10中の気体割合A3,A4,A5の大小関係は、A3<A4<A5である。
次に、コントローラ70は、回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数に対応付けられた差圧ΔPと気体割合A4%の理想線の差圧ΔPとを比較する。回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数に対応付けられた差圧ΔP(図10中差圧P1)が気体割合A4%の理想線の差圧ΔPよりも大きいと判定した場合には、作動油中の気体割合が高くなっており、ポンプ回転数も過度に上昇している過酷な運転状態になっていることが予想されるため、このまま運転を継続した場合には、騒音の発生やポンプの故障を招くおそれがある。そこで、コントローラ70は、この場合には電動モータ1の回転数を制限する。一方、回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数に対応付けられた差圧ΔP(図10中圧力P2)が気体割合A4%の理想線の差圧ΔP以下と判定した場合には、正常な吐出状態であるため、電動モータ1の回転数を制限することなく通常制御を行う。
なお、図10のマップ中の理想線は、作動油の温度や粘性によって変化する。そのため、作動油の温度や粘性毎に複数のマップを用意するようにしてもよい。
また、図10のマップ中の理想線から基準線を決める際、ポンプ回転数に応じて基準線を変更してもよい。例えば、低ポンプ回転数では、気体割合A5%の理想線を基準線とし、高ポンプ回転数では、気体割合A4%の理想線を基準線とするようにしてもよい(A4<A5)。
ここで、図10のマップを用いれば、閉じ込み圧力Pmaxと吐出圧力の平均圧力Paveとの差圧ΔPと、その閉じ込み圧力Pmax発生時に回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数とから、作動油中の気体割合を推定することができる。さらに、図10のマップからわかるように、差圧ΔPは、ポンプ回転数が所定回転に達すると急激に大きくなるため、騒音の発生やポンプの故障を招き、ベーンポンプ100の安定した運転が困難となるおそれがある。そこで、作動油中の気体割合毎に、ポンプ回転数の最大限界回転数(NA3max,NA4max,NA5max)を設定し、ポンプ回転数が最大限界回転数を超えないように電動モータ1の回転数を制御するようにしてもよい。
例えば、図9から閉じ込み圧力Pmaxと吐出圧力の平均圧力Paveとの差圧ΔPがP3と演算され、その閉じ込み圧力Pmax発生時に回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数がN1であった場合には、図10のマップを参照することによって、作動油中の気体割合は現状A4%であると推定できる。そして、図10のマップから、気体割合A4%に対応する最大限界回転数NA4maxを設定し、ポンプ回転数が最大限界回転数NA4maxを超えないように電動モータ1の回転数を制御する。
以上の第2実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際の閉じ込み圧力Pmaxに基づいて電動モータ1の回転数を制御することによって、上記第1実施形態と同様に、作動油中に含まれる気体量を考慮したベーンポンプ200の回転数制御が可能となる。これにより、作動油の気体含有に起因するポンプ回転数の過度な上昇が防止され、騒音の発生やポンプの故障を防止することができる。よって、作動油中に気体が含まれる環境下でも、ベーンポンプ200の安定した運転が可能となる。
以下に、本第2実施形態の変形例について説明する。
上記実施形態では、ポンプ回転数は、回転数センサ82を用いて取得する場合について説明した。これに代わり、ポンプ回転数は、圧力センサ71の検出結果に基づいて取得することも可能である。図9を参照して説明すると、第1実施形態で説明したように、隣り合う吐出区間θ1の終了角度θ1f間の回転角度範囲は設計値の180度である。また、隣り合う吐出区間θ1の終了角度θ1fに対応する時刻Tf間の時間はT1である。よって、回転角度範囲の設計値180度と時間T1とからポンプ回転数を演算することができる。このように、圧力センサ71の検出結果に基づいてポンプ回転数を取得することができるため、回転数センサ82が不要となる。よって、コストを低減することができる。
<第3実施形態>
次に、図11〜13を参照して、本発明の第3実施形態に係るベーンポンプ300について説明する。以下では、上記第1実施形態に係るベーンポンプ100と異なる点について説明し、ベーンポンプ100と同一の構成には、図面中に同一の符号を付して説明を省略する。
上記第1実施形態に係るベーンポンプ100では、圧力センサ71は回転部材であるポンプロータ31に設けられる。これに対して、ベーンポンプ300では、ポンプ室34の圧力を検出する圧力検出器としての圧力センサ81は、ベーンポンプ300の部材のうち非回転部材である第1サイドプレート36に設けられる。このように、圧力センサ81は非回転部材に設けられるため、第1及び第2実施形態では必要であったスリップリングは不要となる。
図12に示すように、圧力センサ81は、第1サイドプレート36におけるポンプロータ31が摺接する表面36aに埋め込まれ、ポンプロータ31の回転を阻害しないように、その端面が第1サイドプレート36の表面36aから突出しないように設けられる。
圧力センサ81は、ノッチ62の近傍、具体的には、ノッチ62の径方向外側に設けられる。なお、圧力センサ81は、ノッチ62の径方向内側に設けてもよい。
圧力センサ81は、非回転部材である第1サイドプレート36に設けられるため、圧力センサ81によって検出される圧力は、複数のポンプ室34のうちのある一つのポンプ室34の圧力の連続した時間変化ではなく、各ポンプ室34が圧力センサ81を通過する際の圧力となる。具体的には、圧力センサ81は、ノッチ62の近傍に設けられるため、各ポンプ室34がノッチ62に連通している際の圧力が検出される。
ベーンポンプ300は、ポンプ回転数を取得する回転数取得手段としての回転数センサ82(図11参照)をさらに備える。回転数センサ82は、駆動シャフト4の回転数を検出することによってポンプ回転数を取得する。
圧力センサ81及び回転数センサ82の検出結果は、コントローラ70へ出力される。コントローラ70には、図13に示すマップが予め記憶されている。
図13のマップ中の各直線は、作動油中の気体割合毎の、ポンプ回転数とポンプ室34の圧力との関係を示す理想線であり、予め実験により求められるものである。気体割合A3,A4,A5の大小関係は、図10と同様に、A3<A4<A5である。図13のマップは、圧力センサ81が図12に示す位置に設けられた場合の実験データである。図13のマップは、作動油中の気体割合が高い程、また、ポンプ回転数が大きい程、圧力が小さくなる特性を有する。これは、第1実施形態で説明したように、作動油中の気体割合が高いと、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じるためである。また、ポンプ回転数が大きいと、ポンプ室34がノッチ62を通過する時間が短くなり、ノッチ62を通じた作動油の吐出が遅れ、吐出圧力の上昇に遅れが生じるためである。また、ノッチ62は作動油の流れを絞るものであるため、ノッチ62に連通している際のポンプ室34の圧力は、作動油中の気体割合及びポンプ回転数の影響をより受け易く、図13に示すような特性となる。
コントローラ70は、圧力センサ81によって検出された圧力と、圧力検出時に回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数と、を対応付けて記憶し、その圧力と図13のマップの理想線との比較に基づいて、電動モータ1の回転数を制御する。
具体的に説明すると、コントローラ70は、まず、電動モータ1の回転数を制限する基準の気体割合を予め決める。ここでは、図13のマップ中の気体割合A4%の理想線を基準線とする。
次に、コントローラ70は、回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数に対応付けられた圧力センサ81によって検出された圧力と気体割合10%の理想線の圧力とを比較する。回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数に対応付けられた圧力センサ81によって検出された圧力(図13中圧力P1)が気体割合A4%の理想線の圧力未満であると判定した場合には、作動油中の気体割合が高くなっており、ポンプ回転数も過度に上昇している過酷な運転状態になっていることが予想されるため、このまま運転を継続した場合には、騒音の発生やポンプの故障を招くおそれがある。そこで、コントローラ70は、この場合には電動モータ1の回転数を制限する。一方、回転数センサ82によって検出されたポンプ回転数に対応付けられた圧力センサ81によって検出された圧力(図13中圧力P2)が気体割合A4%の理想線の圧力以上と判定した場合には、正常な吐出状態であるため、電動モータ1の回転数を制限することなく通常制御を行う。
なお、図13のマップ中の理想線は、作動油の温度や粘性によって変化する。そのため、作動油の温度や粘性毎に複数のマップを用意するようにしてもよい。
また、図13のマップ中の理想線から基準線を決める際、ポンプ回転数に応じて基準線を変更してもよい。例えば、低ポンプ回転数では、気体割合A5%の理想線を基準線とし、高ポンプ回転数では、気体割合A4%の理想線を基準線とするようにしてもよい。
また、図13のマップの理想線の圧力と比較する圧力センサ81によって検出される圧力は、所定時間内の最大圧力や平均圧力でもよいし、ポンプロータ31が所定回転する間の最大圧力や平均圧力でもよく、適宜決められる。
また、圧力センサ81は、第1サイドプレート36ではなく、非回転部材であるカムリング33に設けてもよい。その場合には、圧力センサ81は、カムリングの内周面であってノッチ62の径方向外側に設けられる。
以上の第3実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
各ポンプ室34がノッチ62に連通している際の圧力を検出し、その圧力に基づいて電動モータ1の回転数を制御することによって、上記第1及び第2実施形態と同様に、作動油中に含まれる気体量を考慮したベーンポンプ300の回転数制御が可能となる。これにより、作動油の気体含有に起因するポンプ回転数の過度な上昇が防止され、騒音の発生やポンプの故障を防止することができる。よって、作動油中に気体が含まれる環境下でも、ベーンポンプ300の安定した運転が可能となる。
また、圧力センサ81がベーンポンプ300の非回転部材に設けられるため、スリップリングが不要となり、ベーンポンプ300の構造を単純なものとすることができる。
以上のように、上記第1実施形態は、ノッチ62及び吐出ポート61に連通している際のポンプ室34の圧力に基づいて吐出区間θ1の回転角度範囲を演算し、その吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて電動モータ1の回転数を制御するものである。また、上記第2実施形態は、ポンプ室34がノッチ62に連通した際の閉じ込み圧力Pmaxに基づいて電動モータ1の回転数を制御するものである。また、上記第3実施形態は、各ポンプ室34がノッチ62に連通している際の圧力を検出し、その圧力に基づいて電動モータ1の回転数を制御するものである。このように、本発明は、ポンプ室34が少なくともノッチ62に連通している際のポンプ室34の圧力に基づいて、電動モータ1の回転数を制御するものである。
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
ベーンポンプ100,200,300は、駆動シャフト4を駆動する駆動源1と、駆動シャフト4に連結されたロータ31と、ロータ31に対して径方向に往復動自在に設けられた複数のベーン32と、ロータ31を収容すると共にロータ31の回転に伴って内周面にベーン32の先端部が摺接するカムリング33と、ロータ31、カムリング33、及び一対の隣り合うベーン32によって区画されるポンプ室34と、ロータ31及びカムリング33の一側面に当接して配置されるサイド部材36と、サイド部材36に形成され、ポンプ室34の作動流体を吐出する吐出ポート61と、サイド部材36に形成され、ロータ31の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなり吐出ポート61の端部に連通するノッチ62と、ポンプ室34の圧力を検出する圧力検出器71と、ポンプ室34が少なくともノッチ62に連通している際の圧力検出器71の検出結果に基づいて、駆動源1の回転数を制御するコントローラ70と、を備える。
この構成では、ノッチ62に連通している際のポンプ室34の圧力は、作動流体中に含まれる気体量に応じて変化するため、ノッチ62に連通している際のポンプ室34の圧力に基づいて駆動源1の回転数を制御することによって、作動流体中に含まれる気体量を考慮したベーンポンプ100,200,300の回転数制御が可能となる。よって、作動流体中に気体が含まれる環境下でもベーンポンプ100,200,300の安定した運転が可能となる。
また、圧力検出器71は、ロータ31に設けられ、コントローラ70は、圧力検出器71の検出結果に基づいて、ノッチ62及び吐出ポート61を通じて作動流体を吐出する吐出区間θ1の回転角度範囲を演算し、吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて駆動源1の回転数を制御する。
この構成では、ノッチ62及び吐出ポート61に連通している際のポンプ室34の圧力に基づいて吐出区間θ1の回転角度範囲を演算し、その吐出区間θ1の回転角度範囲に基づいて駆動源1の回転数を制御するため、作動流体中に含まれる気体量を考慮したベーンポンプ100の回転数制御が可能となる。
また、コントローラ70は、吐出区間θ1の回転角度範囲と予め定められた吐出ポート61の回転角度範囲θ0dとの比較に基づいて、駆動源1の回転数を制御する。
また、コントローラ70は、吐出区間θ1の回転角度範囲が予め定められた吐出ポート61の回転角度範囲θ0d未満である場合には、駆動源1の回転数を制限する。
これらの構成では、駆動源1の回転数を制御にあたり、ベーンポンプ100の外部から信号を受信する必要がなく、ベーンポンプ100のみで制御が完結する。よって、ベーンポンプ100を含めたシステム全体のポンプ回転数制御を単純なものとすることができる。
また、ポンプ回転数を取得する回転数取得手段82をさらに備え、圧力検出器71は、ロータ31に設けられ、コントローラ70は、圧力検出器71の検出結果に基づいて演算される、吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際のポンプ室34の閉じ込み圧力Pmaxに基づく差圧ΔPと、回転数取得手段82によって取得される、閉じ込み圧力発生時のポンプ回転数と、を対応付けて記憶し、差圧ΔPとポンプ回転数に応じて変化する予め定められた差圧ΔPとの比較に基づいて、駆動源1の回転数を制御する。
この構成では、吸込区間θ2から吐出区間θ1に移行した際のポンプ室34の閉じ込み圧力Pmaxに基づく差圧ΔPに基づいて駆動源1の回転数を制御するため、作動流体中に含まれる気体量を考慮したベーンポンプ200の回転数制御が可能となる。
また、ポンプ回転数を取得する回転数取得手段82をさらに備え、圧力検出器71は、ポンプ室34がノッチ62に連通している際の圧力を検出可能なように非回転部材36に設けられ、コントローラ70は、圧力検出器71によって検出された圧力と、圧力検出時に回転数取得手段82によって取得されたポンプ回転数と、を対応付けて記憶し、圧力検出器71によって検出された圧力とポンプ回転数に応じて変化する予め定められた圧力との比較に基づいて、駆動源1の回転数を制御する。
この構成では、ポンプ室34がノッチ62に連通している際の圧力に基づいて駆動源1の回転数を制御するため、作動流体中に含まれる気体量を考慮したベーンポンプ300の回転数制御が可能となる。
また、駆動源は、電動モータ1であり、ロータ31と電動モータ1は、駆動シャフト4を介して同軸的に連結される。
この構成では、ベーンポンプ100,200,300の駆動源が電動モータ1であるため、ベーンポンプ100,200,300の回転数を精度良く制御することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、上記実施形態では、自動変速機がベルト式無段変速機構を備える変速機である場合について説明したが、自動変速機は作動油の圧力を利用して作動するものであればどのような形式のものであってもよく、トロイダル式無段変速機構や遊星歯車機構を備えたものであってもよい。