以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、以下の説明では、上下方向(鉛直方向)のことをZ軸方向とも記載する。また、水平方向において互いに直交する2方向を、それぞれ、X軸方向及びY軸方向ともいう。また、この際、X軸方向を、水平方向において、後述する溶融金属(溶鋼)の流入部から流出部に向かう方向とする。
また、以下では、連続鋳造される対象となる金属材料が鉄鋼である場合を例に挙げて説明する。ただし、本発明はかかる例に限定されず、本発明に係る技術は、他の金属材料の連続鋳造に対しても好適に適用可能である。
(1.タンディッシュの構成)
(1−1.全体構成)
図1を参照して、本実施形態に係るタンディッシュの概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係るタンディッシュの概略構成を示す断面図である。図1では、本実施形態に係るタンディッシュを、X−Z平面で切断した断面図を示している。
図1を参照すると、本実施形態に係るタンディッシュ10は、外形が水平方向に長い船型の形状を有し、その内部に溶鋼2を貯留することができる。タンディッシュ10の上面の略中央には、溶鋼2を取鍋からタンディッシュ10内に注入する注入ノズル111が挿入される。タンディッシュ10の端部近傍の底面には、溶鋼2を外部に流出させる流出口113が設けられている。図示する構成例では、水平面内において対称な位置に、2つの流出口113が設けられている。図示を省略しているが、流出口113には、下方に延伸する浸漬ノズルの基端が取り付けられる。当該浸漬ノズルの先端は、タンディッシュ10の下方に設置される鋳型内に位置しており、溶鋼2は、タンディッシュ10の流出口113から、当該浸漬ノズルを介して、鋳型内に注入される。
このように、タンディッシュ10内には、注入ノズル111から溶鋼2が流入し、流出口113から溶鋼2が流出する。つまり、タンディッシュ10内には、注入ノズル111から流出口113に向かう、溶鋼2の流れが形成され得る。なお、以下では、タンディッシュ10において、溶鋼2が流入する部位(すなわち、注入ノズル111の設置位置に対応する部位)を、流入部ともいい、溶鋼2が流出する部位(すなわち、流出口113の配設位置に対応する部位)を、流出部ともいう。また、流入部から流出部に向かう溶鋼2の流れについて、流入部側のことを上流側ともいい、流出部側のことを下流側ともいう。
タンディッシュ10内において、流入部から流出部に向かう溶鋼2の流路上には、堰101が設置される。図示する構成例では、2つの流出口113(すなわち、2つの流出部)に対して、流入部から見て対称的な位置に、堰101がそれぞれ設けられている。
堰101は、タンディッシュ10の上面から下方に向かって延伸する上堰103と、タンディッシュ10の下面から上方に向かって延伸する下堰105と、から構成される。図2及び図3に示すように、上堰103及び下堰105は、ともに、板状の耐火物によって形成される。ここで、図2は、図1に示す上堰103をX軸方向における下流側から見た様子を示す図である。また、図3は、図1に示す下堰105をX軸方向における下流側から見た様子を示す図である。
上堰103の下端と、下堰105の上端との間に、スリット107が形成される。すなわち、上堰103の下端面がスリット107の上面に該当し、下堰105の上端面がスリット107の下面に該当する。当該スリット107は、定常操業時のタンディッシュ10内の溶鋼2の湯面よりも下方に形成されており、流入部から流入した溶鋼2は、当該スリット107を通過して流出部に向かうこととなる。スリット107の構成の詳細については後述する。
また、図3に示すように、下堰105の下端(すなわち、タンディッシュ10の底面と接触する端部)の一部領域には、開口部(排出孔109)が形成される。当該排出孔109は、操業停止時(すなわち、タンディッシュ10への溶鋼2の供給が停止されたとき)に、タンディッシュ10内の溶鋼2を外部に排出するためのものである。排出孔109が設けられないと、操業停止時に、上流側の溶鋼2が下堰105によって堰き止められてしまい、外部に排出されないこととなる。この排出されない溶鋼2は、その後廃棄されることとなるため、歩留まりの低下を引き起こす。本実施形態では、排出孔109を設けることにより、このような操業停止時における溶鋼2の残留を抑制し、歩留まりを向上させる効果が得られる。
排出孔109の形状や形成位置は、操業停止時に溶鋼2を効率的に排出し得るように適宜決定されてよい。ただし、排出孔109の形状、及び形成位置を適切に決定することにより、定常操業時には溶鋼2が当該排出孔109を通過せずにスリット107を通過し、操業停止時には溶鋼2が当該排出孔109を通過するように、溶鋼2の流れを制御することが可能となる。この、排出孔109の適切な形状、及び形成位置については、下記(1−4.排出孔について)で詳細に説明する。
(1−2.スリットの構成)
図1に示すスリット107の構成について詳細に説明する。図4は、図1に示すスリット107の拡大図である。本実施形態では、図4に示すように、上堰103の下端面、及び下堰105の上端面は、水平方向から角度αだけ、上流側から下流側に向かって、下方に傾斜するように形成されている。つまり、上堰103と下堰105との間に形成されるスリット107は、水平方向から角度αだけ、上流側から下流側に向かって、下方に傾斜する形状を有している。
かかる構成を有することにより、本実施形態では、タンディッシュ10内での溶鋼2の流れが好適に制御され、介在物の浮上分離が促進される。この、スリット107による介在物の浮上分離促進の効果について、図5を参照して具体的に説明する。図5は、本実施形態における、スリット107による介在物の浮上分離促進の効果について説明するための図である。図5は、図1に対して、タンディッシュ10内での溶鋼2の流れを模擬的に矢印で追加して示したものである。
図5に示すように、注入ノズル111からタンディッシュ10内に注入された溶鋼2は、タンディッシュ10の底面に衝突し、その後上昇しながら、下流に向かう(図中A)。この溶鋼2の流れは、下流に存在する堰101に向かい、当該堰101のスリット107を通過して更に下流に向かう(図中B)。このとき、本実施形態では、スリット107が下方に傾斜しているため、スリット107を通過することにより、溶鋼2には、下方に向かう流れが生じる。
スリット107の形状により下方に向かった溶鋼2の流れは、熱対流により、上昇流に転じる(図中C)。そして、溶鋼2の湯面に衝突し、湯面近傍で、上流側に向かう流れと下流側に向かう流れを生じさせる。上流側に向かう流れは、上堰103の下流側の壁面に衝突し、下降流を形成する(図中D)。つまり、上堰103の下流側の壁面近傍において、渦が形成される。一方、下流側に向かう流れは、タンディッシュの下流側の壁面に衝突し、下降流を形成し、そのまま流出口113から下方に向かう流れとなる(図中E)。
ここで、比較のため、タンディッシュにおける従来の一般的な堰の構成について説明する。図6は、タンディッシュ10における従来の堰の構成、及び当該堰によって生じるタンディッシュ10内の溶鋼2の流れについて説明するための図である。図6では、図5と同様に、タンディッシュ10内での溶鋼2の流れを模擬的に矢印で示している。
図6を参照すると、従来の堰201は、本実施形態と同様に、タンディッシュ10内において、流入部から流出部に向かう溶鋼2の流路に形成され、タンディッシュ10の上面から下方に向かって延伸する上堰203と、タンディッシュ10の底面から上方に向かって延伸する下堰205と、から構成される。また、下堰205には、本実施形態と同様に、その下端に排出孔209が設けられる。ただし、本実施形態とは異なり、上堰203の下端、及び下堰205の上端は、略水平面を有する。つまり、堰201では、上堰203と下堰205との間に形成されるスリット207は、傾斜を有しておらず、略水平方向に延伸する。
かかるスリット207を有することにより、従来の堰201を有するタンディッシュ10内では、以下のような流れが生じる。注入ノズル111からタンディッシュ10内に注入された溶鋼2は、タンディッシュ10の底面に衝突し、その後上昇しながら、下流に向かう(図中A)。この溶鋼2の流れは、下流に存在する堰201に向かい、当該堰201のスリット207を通過して更に下流に向かう(図中B)。このとき、従来の構成では、スリット207が略水平方向に延伸しているため、スリット207を通過した溶鋼2は、そのまま上方向に進み、溶鋼2の湯面に衝突する。そして、溶鋼2は、湯面近傍を下流側に向かって進み、タンディッシュの下流側の壁面に衝突し、下降流を形成し、そのまま流出口113から下方に向かう(図中C)。
以上説明した、図5に示す本実施形態における溶鋼2の流れと、図6に示す従来の構成における溶鋼2の流れと、を比較すると、従来の構成では、上昇流によって溶鋼2の流れが湯面に到達するまでの時間がより短い。従って、結果的に、流入部から流出部までの溶鋼2の流路が短くなるとともに、当該上昇流の速度が速くなる。流入部から流出部までの溶鋼2の流路が短くなれば、それだけ、タンディッシュ内での溶鋼2の滞留時間も短くなるため、介在物の浮上分離が好適に促進されない。また、上昇流の速度が速いことにより、当該上昇流が溶鋼2の湯面に衝突した際に、当該湯面が乱され、当該湯面上の介在物を巻き込んでしまう可能性が高くなる。
一方、本実施形態によれば、堰101のスリット107に下向きの傾斜が設けられることにより、当該スリット107を通過した溶鋼2について下降流が形成され、その後熱対流による上昇流が生じる。従って、上昇流によって溶鋼2の流れが湯面に到達するまでの時間が、従来の構成に比べてより長い。よって、結果的に、流入部から流出部までの溶鋼2の流路が長くなるとともに、当該上昇流の速度が遅くなる。流入部から流出部までの溶鋼2の流路が長くなれば、それだけ、タンディッシュ内での溶鋼2の滞留時間も長くなるため、介在物の浮上分離が好適に促進される。また、上昇流の速度が遅いことにより、当該上昇流が溶鋼2の湯面に衝突した際に、当該湯面が乱される可能性が低くなるため、当該湯面上の介在物を巻き込み難くなる。
また、本実施形態によれば、上記のように、スリット107を通過した溶鋼2について下降流が形成され、その後熱対流による上昇流が生じるため、当該上昇流は、従来の構成に比べて、溶鋼2の湯面に対してより垂直な方向から衝突することとなる。従って、上述したように、本実施形態では、溶鋼2の湯面に衝突した後に上流側に向かう流れが形成され、上堰103の下流側の壁面近傍に渦が形成され得る。かかる渦が形成されることにより、湯面に浮上した介在物が上堰103の下流側の壁面近傍に集積され、溶鋼2に巻き込まれ難くなるとともに、流入部から流出部までの溶鋼2の流路がより長くなるため、介在物の浮上分離も更に促進される。
このように、本実施形態によれば、堰101のスリット107に下向きの傾斜が設けられることにより、タンディッシュ10内での溶鋼2の流れが、そのタンディッシュ10内での溶鋼2の滞留時間がより長くなるように好適に制御されるため、介在物の浮上分離をより促進することが可能となる。
ここで、本実施形態に係る堰101の具体的な形状や設置位置等は、以上説明した介在物の浮上分離の効果が適切に得られるように(換言すれば、タンディッシュ10内において以上説明したような適切な溶鋼2の流れが生じ得るように)、水モデル実験や、実機を用いた実験、数値解析シミュレーション等によって適宜決定されてよい。この際、介在物の浮上分離がより効果的に促進され得るように、上堰103の下流側の壁面近傍に渦が形成され得るように堰101の形状及び設置位置等が決定されることがより好ましい。
例えば、本発明者らによる数値解析シミュレーションの結果、スリット107の水平方向を基準とした下方への傾斜角度αについては、約0°<α≦約60°とすることにより、介在物の浮上分離の効果を好適に得ることができる。
なお、傾斜角度αの上限については、構造的な観点からも、α=60°程度が妥当であると考えられる。具体的には、タンディッシュ10内に下堰105を取り付ける際には、当該下堰105が溶鋼2中で浮上してしまわないように、タンディッシュ10の内壁と、下堰105の上端の両端部(図3における下堰105の上端のY軸方向の両端部)との間に、くさびが打ち込まれることが一般的である。スリット107の傾斜角度αが大きくなるほど、すなわち、下堰105の上端面の傾斜角度αが大きくなるほど、下堰105の上端は薄くなることとなるため、このくさびが打ち込まれる際に、当該下堰105の上端が破損してしまう可能性が高まる。従って、下堰105をタンディッシュ10に取り付ける施工時における当該下堰105の破損を抑制するために、当該下堰105の上端はある程度の厚みを有していることが好ましい。本発明者らによる検討の結果、かかる厚みを確保するための傾斜角度αの上限は、60°程度であると考えられる。
また、例えば、本発明者らによる数値解析シミュレーションの結果、流入部から流出部までの溶鋼2の流路における堰101の設置位置については、流入部から堰101の設置位置までの距離(注入ノズル111の中心から堰101の中心までの距離)をx、流入部から流出部までの距離(注入ノズル111の中心から流出口113の中心までの距離)をLとした場合に、約0.3≦x/L≦約0.55とすることにより、介在物の浮上分離の効果を好適に得ることができる(x、Lについては図1を参照)。
また、例えば、本発明者らによる数値解析シミュレーションの結果、堰101の厚みdについては、好ましくはスリット107の上下方向の幅tの約0.5倍以上、かつ当該幅tの約0.75倍以下とすること(すなわち、約0.5t≦d≦約0.75tとすること)により、介在物の浮上分離の効果を好適に得ることができる(d、tについては図4を参照)。
なお、スリット107の幅tについては、スリット107が所望の開口面積を有するように、適宜決定されてよい。例えば、スリット107の開口面積が小さ過ぎれば、介在物の付着等により当該スリット107が閉塞する危険性が高まる。また、スリット107の開口面積が大き過ぎれば、スリット107がスリットとして機能しなくなり、溶鋼2に下向きの流れを生じさせることができなくなってしまう。従って、スリット107の開口面積は、当該スリット107の閉塞を回避し得るように、かつ、溶鋼2に下向きの流れを生じさせ得るように、適宜決定されてよい。
スリット107の開口面積は、堰101の幅方向における長さ(図2及び図3における上堰103及び下堰105のY軸方向の長さ)、及びスリット107の幅tで規定され得るが、堰101の幅方向における長さは、タンディッシュ10のY軸方向の長さによって決定されてしまう。従って、実質的には、スリット107の開口面積は、スリット107の幅tで調整され得ることとなる。よって、本実施形態では、上記のように、スリット107の幅tは、スリット107が所望の開口面積を有するように適宜決定され得るとしている。
一例として、一般的な操業時における鋳造条件を仮定すると、本発明者らによる数値解析シミュレーションの結果、スリット107の閉塞を好適に回避し、かつ、溶鋼2に下向きの流れを生じさせ得る適切なスリット107の開口面積S1は、約0.10m2≦S1≦約0.35m2程度である。従って、例えば、かかる開口面積S1を実現し得るように、スリット107の幅tが決定され得る。
(1−3.排出孔について)
上述したように、本実施形態に係る堰101には、その下堰105に排出孔109が設けられる。かかる排出孔109が設けられることにより、操業停止時における溶鋼2の排出が促進される効果が得られるが、その反面、注入ノズル111からタンディッシュ10内に注入された溶鋼2の一部が、スリット107を通らずに、当該排出孔109を通過して流出口113に向かうことが懸念される。排出孔109を通過する溶鋼2の流れにおいては、当該溶鋼2内の介在物が十分に浮上分離されず、当該介在物がそのまま流出口113に向かって流れる恐れがある。
そこで、本実施形態では、本願出願人による先行出願である上記特許文献1に記載の技術を、排出孔109の構成に適用してもよい。具体的には、本実施形態では、下記数式(1)〜(3)を全て満たすように、排出孔109が構成されてもよい。ここで、Hはタンディッシュ10の底面から排出孔109の下端までの距離であり、hは排出孔109の高さ(すなわち、上下方向の長さ)であり、S0は最大の溶鋼流路断面積であり、S1は上記のようにスリット107の開口面積であり、S2は排出孔109の開口面積である。なお、最大の溶鋼流路断面積とは、通常操業時における最大流量時の溶鋼流路断面積であり、溶鋼流路断面積とは、堰101の設置位置における、タンディッシュ10の底面及び側壁、並びに溶鋼2の湯面によって囲まれる領域の面積である。
上記特許文献1にも記載されているように、上記数式(1)〜(3)を全て満たすように排出孔109を構成した場合には、通常操業時において、堰101の上流側において生じる撹拌流(上述した、注入ノズル111から注入された溶鋼2がタンディッシュ10の底面に衝突して生じる上昇流に対応する)により、排出孔109の上流側の溶鋼2の圧力が下流側の溶鋼2の圧力よりも低下するため、上流側の溶鋼2が排出孔109を通過して下流側に流れ難くなる効果を得ることができる。従って、上述したような、排出孔109を通過する流れが生じることによって介在物の浮上分離の効果が弱まる現象の発生が抑制され得る。なお、操業停止時には、堰101の上流側において撹拌流が生じないため、排出孔109の上流側及び下流側における溶鋼2の圧力差が解消し、上流側の溶鋼2が排出孔109を通過して下流側に流れることとなる。従って、溶鋼2が残存してしまう事態も好適に抑制され得る。
このように、本実施形態に係る堰101の構成に対して、上記特許文献1に記載の技術を更に適用することにより、スリット107を通過せずに排出孔109を通過して流出口113に向かう流れの発生を確実に抑制することが可能となるため、介在物の浮上分離の効果をより好適に得ることが可能となる。
(2.連続鋳造機の構成)
図7を参照して、以上説明した本実施形態に係るタンディッシュ10が適用され得る連続鋳造機の構成、及び当該連続鋳造機を用いた連続鋳造方法について説明する。図7は、本実施形態に係るタンディッシュ10が適用され得る連続鋳造機の一構成例を概略的に示す側断面図である。
図7に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型5を用いて溶鋼2を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機1は、鋳型5と、取鍋4と、タンディッシュ10と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、を備える。
取鍋4は、溶鋼2を外部からタンディッシュ10まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ10の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2がタンディッシュ10に供給される。タンディッシュ10は、鋳型5の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。本実施形態では、かかるタンディッシュ10として、以上説明した堰101を備えるタンディッシュ10が用いられる。浸漬ノズル6は、タンディッシュ10の下端から鋳型5に向けて下方に延び、その先端は鋳型5内の溶鋼2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ10にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型5内に連続供給する。
鋳型5は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板で一対の短辺鋳型板を両側から挟むように組み立てられる。長辺鋳型板及び短辺鋳型板(以下、鋳型板と総称することがある)は、例えば冷却水が流動する水路が設けられた水冷銅板である。鋳型5は、かかる鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型5下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型5の下端から引き抜かれる。
二次冷却装置7は、鋳型5の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型5下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず)とを有する。
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレイクアウトやバルジングを防止できる。
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図7に示すように、鋳型5の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機1と呼称される。なお、本発明は、図7に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
サポートロール11は、鋳型5の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型5から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型5から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレイクアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。図7に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型5から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型5から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は図7に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
セグメントロール13(ガイドロールともいう)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、図7では左下側の面)とL面(Loose面、図7では右上側の面)のいずれに設けられるかによって、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
以上、図7を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機1の全体構成について説明した。なお、本実施形態では、タンディッシュ10として、堰101を備えるタンディッシュ10が用いられればよく、連続鋳造機1における当該タンディッシュ10以外の構成は、一般的な従来の連続鋳造機と同様であってよい。従って、連続鋳造機1の構成は図示したものに限定されず、連続鋳造機1としては、あらゆる構成のものが用いられてよい。
本発明の効果について確認するために数値解析シミュレーションを行った結果について説明する。まず、以上説明した本実施形態に係る堰101が設けられたタンディッシュ10を模した計算モデルを作成し、図1に示すようにタンディッシュ10の上面の略中央に設置した注入ノズル111から溶鋼2を注入した際における、タンディッシュ10内での溶鋼2の定常流れを、ナビエストークス方程式系を数値計算により解くことにより求めた。
次に、注入ノズル111から介在物が流入するとした際の、求めた定常流れ内での当該介在物の運動を、球形粒子群としてオイラー的に追跡し、流出口113から流出する介在物の流出率を計算した。介在物の粒子径としては、1.0〜200μmの範囲に含まれる、33種類の粒子径を考慮した。
そして、粒子径が200μmの介在物の流出率(200μm介在物流出率)を用いて、流出口113から流出する(すなわち、鋳型に注入される)溶鋼2の清浄度を評価した。ここで、200μm介在物流出率を溶鋼2の清浄度の指標として用いた理由は、粒子径が200μm以上の介在物が鋳片内に存在する場合には、その後の圧延工程において当該介在物が疵に直結する可能性が高いことが、これまでの操業上、経験的に判明しているからである。なお、本実施例では、200μm介在物流出率が1%以下の場合に、溶鋼2の清浄度が十分に高いと判断している。
本実施例では、堰101の条件を様々に変更し、各条件において上記の溶鋼2の清浄度の評価を行い、その結果を比較した。具体的には、堰101の条件としては、スリット107の傾斜角度α、流入部から流出部までの溶鋼2の流路における堰101の設置位置(具体的には、流入部から堰101の設置位置までの距離xと流入部から流出部までの距離Lとの比率x/L)、及び堰101の厚みdを変更した。ここで、各条件において、タンディッシュ10における流量は一定であり、当該タンディッシュ10の溶鋼量45tonに対し、流量を10ton/minとした。なお、実際の操業における一般的な流量は6〜10ton/minである。また、各条件において、スリット107の上下方向の幅tも一定であり、t=290mmとした。
以下、結果について順に説明する。まず、スリット107の傾斜角度αを変更した結果について説明する。なお、スリット107の傾斜角度αを変更した各計算においては、x/L、及び堰101の厚みdの値は一定に固定しており、それぞれ、x/L=0.45、d=155mmとした。
スリット107の傾斜角度αを変更した結果を図8に示す。図8は、数値解析シミュレーションの結果求められた、スリット107の傾斜角度αと、200μm介在物流出率との関係を示すグラフ図である。図8では、横軸にスリット107の傾斜角度α(°)を取り、縦軸に200μm介在物流出率(%)を取り、両者の関係をプロットしている。
図8を参照すると、傾斜角度αが約0°以下の場合には200μm介在物流出率は1%よりも大きいが、傾斜角度αが約0°よりも大きい場合に、200μm介在物流出率が概ね1%以下となっていることが分かる。これは、スリット107を、水平方向から僅かに下向きに傾斜させるだけでも、介在物の浮上分離の効果が発揮され得ることを示している。ただし、傾斜角度αが約0°よりも大きい場合において、200μm介在物流出率は単調に減少するのではなく、α=35°付近で極小値を取っており、傾斜角度αが約60°よりも大きくなると、1%よりも大きくなることが予想される。これは、傾斜角度αが約60°よりも大きい場合には、スリット107を通過して生じる流れが下を向き過ぎることにより、その後の熱対流による上昇流の形成が好適に行われず、介在物の浮上分離が効果的に行われなくなるからであると考えられる。
以上の結果から、スリット107の傾斜角度αについては、約0°<α≦約60°とすることにより、介在物の浮上分離の効果を好適に得ることが可能となると考えられる。
次に、流入部から堰101の設置位置までの距離xと流入部から流出部までの距離Lとの比率x/Lを変更した結果について説明する。なお、x/Lを変更した各計算においては、スリット107の傾斜角度α、及び堰101の厚みdの値は一定に固定しており、それぞれ、α=33°、d=155mmとした。
x/Lを変更した結果を図9に示す。図9は、数値解析シミュレーションの結果求められた、流入部から堰101の設置位置までの距離xと流入部から流出部までの距離Lとの比率x/Lと、200μm介在物流出率との関係を示すグラフ図である。図9では、横軸にx/Lを取り、縦軸に200μm介在物流出率(%)を取り、両者の関係をプロットしている。
図9を参照すると、約0.3≦x/L≦約0.55の場合において、200μm介在物流出率が1%以下となっていることが分かる。これは、x/L<約0.3の場合(すなわち、堰101が流入部に近過ぎる場合)、及びx/L>約0.55の場合(すなわち、堰101が流入部から遠過ぎる場合)には、注入ノズル111から注入された溶鋼2がタンディッシュ10の底面に衝突した後にスリット107に向かった際に、当該スリット107を好適に通過することができず、結果的に、スリット107通過後に図5に示すような理想的な流れが形成されないからであると考えられる。
以上の結果から、x/Lについては、約0.3≦x/L≦約0.55とすることにより、介在物の浮上分離の効果を好適に得ることが可能となると考えられる。
次に、堰101の厚みdを変更した結果について説明する。なお、堰101の厚みdを変更した各計算においては、x/L、及びスリット107の傾斜角度αの値は一定に固定しており、それぞれ、x/L=0.45、α=33°とした。
堰101の厚みdを変更した結果を図10に示す。図10は、数値解析シミュレーションの結果求められた、堰101の厚みdと、200μm介在物流出率との関係を示すグラフ図である。図10では、横軸に堰101の厚みdを取り、縦軸に200μm介在物流出率(%)を取り、両者の関係をプロットしている。
図10を参照すると、d=105mmの場合(すなわち、堰101の厚みdとスリット107の幅tとの比率d/t=約0.36の場合)、及びd=250mmの場合(すなわち、d/t=約0.86の場合)には、200μm介在物流出率が1%よりも大きい。これは、d=105mmの場合には、スリット107の幅tに対して、堰の厚みd、すなわちスリット107の流路としての長さが短いため、当該スリット107を通過した溶鋼2について、効果的に下向きの流れが形成されないからであると考えられる。また、d=250mmの場合には、スリット107の幅tに対して、堰の厚みd、すなわちスリット107の流路としての長さが長いため、当該スリット107を通過した溶鋼2について、下向きの流れが発達し過ぎ、介在物が深く沈み込んでしまうため、当該介在物の浮上が阻害されてしまうからであると考えられる。
一方、d=160mmの場合(すなわち、d/t=約0.55の場合)、及びd=210mmの場合(すなわち、d/t=約0.72の場合)には、200μm介在物流出率が1%以下となっている。図10に示すプロット点間を滑らかな曲線で補間すると、約0.5≦d/t≦約0.75(すなわち、約0.5t≦d≦約0.75t)の範囲において、200μm介在物流出率が1%以下になることが分かる。これは、約0.5t≦d≦約0.75tを満たす場合には、スリット107の幅tに対して、堰の厚みd、すなわちスリット107の流路としての長さが適切であるため、当該スリット107を通過した溶鋼2について、介在物の浮上分離を促進し得るような、好適な下向きの流れが形成され得るからであると考えられる。
以上の結果から、堰101の厚みdについては、好ましくは約0.5t≦d≦約0.75tとすることにより、介在物の浮上分離の効果を好適に得ることが可能となると考えられる。
(3.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、堰101のスリット107の傾斜角度αについて、上堰103の下端面の傾斜角度と、下堰105の上端面の傾斜角度が同一の値αであったが、本発明はかかる例に限定されない。本発明では、スリット107が全体として下向きの傾斜を有していればよく、例えば、上堰103の下端面の傾斜角度と、下堰105の上端面の傾斜角度は、互いに異なる値であってもよい。あるいは、下堰105の上端は水平面を有し、上堰103の下端面のみに傾斜が設けられてもよい。
また、例えば、上記実施形態では、堰101が上堰103及び下堰105から構成され、かつ、スリット107が当該上堰103及び当該下堰105の間に、堰101の幅方向(Y軸方向)の全体に渡って形成されていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、スリットは、堰の幅方向の一部領域に形成されてもよい。この場合、堰は、一枚の板状の部材によって構成され、その一部領域にスリットとして機能する開口部が設けられ得ることとなる。
このような堰及びスリットの他の構成例を、図11及び図12に示す。図11は、本発明に係る堰及びスリットの他の構成例を示す図である。図12は、本発明に係る堰及びスリットの更に他の構成例を示す図である。図11及び図12では、いずれも、図2及び図3と同様に、堰及びスリットをX軸方向における下流側から見た様子を示している。
図11を参照すると、他の構成例に係る堰101aは、一枚の板状の部材によって構成される。そして、その幅方向の中心を含み、両端まで達しない所定の長さの領域に、スリット107aとして機能する横長の開口部が形成されている。つまり、図11に示す構成例では、スリット107aは堰101aの幅方向の両端近傍には形成されず、当該両端部においては堰101aの板面が存在している。また、堰101aの下端には、上述した下堰105と同様に、排出孔109が設けられる。
また、図12を参照すると、更に他の構成例に係る堰101bは、一枚の板状の部材によって構成される。そして、その幅方向の両端を含み、中心まで達しない所定の長さの2箇所の領域に、スリット107bとして機能する横長の開口部が形成されている。つまり、図12に示す構成例では、スリット107bは堰101aの幅方向の中心近傍には形成されず、2つに分離された形状を有しており、当該中心近傍においては堰101aの板面が存在している。また、堰101bの下端には、上述した下堰105と同様に、排出孔109が設けられる。
図11及び図12に示すようなスリット107a、107bであっても、上記実施形態と同様に、その形状を適切に決定することにより、溶鋼2中の介在物の浮上分離を促進するという優れた効果を得ることが可能である。
また、本発明では、タンディッシュ10は、以上説明した形状のスリット107を有する堰101を備えればよく、タンディッシュ10の構成は、図1に示したものに限定されない。タンディッシュ10は、一般的に連続鋳造に用いられている、各種の公知のタンディッシュと同様の構成を有してもよい。なお、タンディッシュの構成によっては、流入部に対する流出部の位置が対称的でない場合もあり得る。このような構成を有するタンディッシュに対して本発明を適用する場合には、堰101は、好適に、流入部から、当該流入部からの距離が最も近い流出部までの流路上に設けられる。流入部から、当該流入部からの距離が最も近い流出部までの流路を通過する溶鋼2については、そのタンディッシュ内での滞留時間が短く、介在物の浮上分離が活発に行われ難いと考えられるため、かかる流路に対して堰101を設けることが、タンディッシュ内の溶鋼2の清浄度の向上に、最も効果的であると考えられるからである。なお、この場合において上記x/Lを決定する場合には、この流入部から流出部までの距離Lとしては、当然、堰101が設けられる流路に対応する距離、すなわち、流入部から、当該流入部からの距離が最も近い流出部までの距離が用いられる。