JP6897798B2 - 耐熱鋳鋼及び過給機部品 - Google Patents

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Description

本開示は、耐熱鋳鋼及び過給機部品に関する。
タービンハウジングなどの過給機部品等には、耐熱性が要求されることから、耐熱鋳鋼が使用されている。このような耐熱鋳鋼には、N(窒素)を含有する耐熱鋳鋼が用いられている(特許文献1参照)。
米国特許公開公報2016/0130978
ところで、N(窒素)を含有する耐熱鋳鋼では、Nを添加することによりオーステナイト相の安定化を図っている。Nを含有する耐熱鋳鋼は、気体であるNを添加するために加圧鋳造法で鋳造される。加圧鋳造法は、加圧下で溶解や鋳造を行うために、特殊な鋳造設備が必要となる。このため、耐熱鋳鋼を鋳造するための設備費が高価となり、耐熱鋳鋼の製造コストが高くなる可能性がある。
そこで本開示の目的は、耐熱鋳鋼の製造コストをより低減可能な耐熱鋳鋼及び過給機部品を提供することである。
本開示に係る耐熱鋳鋼は、0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、0質量%より大きく2質量%以下のMnと、6質量%以上11質量%以下のNiと、22質量%以上27質量%以下のCrと、0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、を含有し、残部がFeと不可避的不純物とからなる。
本開示に係る耐熱鋳鋼において、Cの含有率は、0.55質量%以上0.8質量%以下であるとよい。
本開示に係る耐熱鋳鋼において、Cの含有率は、0.8質量%より大きく1.0質量%以下であるとよい。
本開示に係る耐熱鋳鋼において、Siの含有率は、1.5質量%以上2.5質量%以下であるとよい。
本開示に係る耐熱鋳鋼において、更に、0質量%より大きく0.2質量%以下のSを含むとよい。
本開示に係る耐熱鋳鋼において、Sの含有率は、0.1質量%以上0.2質量%以下であるとよい。
本開示に係る過給機部品は、上記のいずれか1つに記載の耐熱鋳鋼で形成される。
上記構成によれば、耐熱鋳鋼にN(窒素)を添加していないことから、加圧鋳造法を用いる必要がないので、耐熱鋳鋼の製造コストを低減することができる。
本開示の実施の形態において、過給機の構成を示す模式図である。 本開示の実施の形態において、耐熱鋳鋼に含まれるC量と、フェライト率との関係を示すグラフである。 本開示の実施の形態において、耐熱鋳鋼に含まれるSi量と、フェライト率との関係を示すグラフである。 本開示の実施の形態において、耐熱鋳鋼に含まれるNi量と、フェライト率との関係を示すグラフである。 本開示の実施の形態において、耐熱鋳鋼に含まれるCr量と、フェライト率との関係を示すグラフである。 本開示の実施の形態において、被削性評価試験方法を説明するための図である。 本開示の実施の形態において、各耐熱鋳鋼の被削性評価試験結果を示すグラフである。
以下に本開示の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼は、0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、0質量%より大きく2質量%以下のMnと、6質量%以上11質量%以下のNiと、22質量%以上27質量%以下のCrと、0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、を含有し、残部がFeと不可避的不純物とから構成されている。次に、この耐熱鋳鋼を構成する各合金成分の組成範囲を限定した理由について説明する。
C(炭素)は、オーステナイト形成元素であり、オーステナイト相を安定化させる機能を有している。耐熱鋳鋼の金属組織の主相をオーステナイト相(γ相)とすることにより、金属組織の主相をフェライト相(α相)等とするよりも、高温強度等の機械的特性を向上させることができる。なお、金属組織の主相とは、金属組織中の体積比率が最も大きい相をいう。また、Cは、Crと化合してCr炭化物等の複合炭化物を金属組織中に形成し、高温強度等の機械的特性を向上させる機能を有している。
Cの含有率は、0.55質量%以上1.0質量%以下とするとよい。Cの含有率が0.55質量%よりも小さい場合には、フェライト相が多くなり、高温強度等の機械的特性が低下するからである。また、Cの含有率が0.55質量%よりも小さい場合には、σ相が析出して脆化するからである。Cの含有率が1.0質量%より大きい場合には、Cr炭化物等が多く析出することにより硬度が高くなり、被削性等の加工性が低下するからである。
Cの含有率は、0.55質量%以上0.8質量%以下としてもよい。Cの含有率を0.55質量%以上0.8質量%以下とすることにより、硬度がより低くなるので、被削性等の加工性をより向上させることができる。Cの含有率は、0.8質量%より大きく1.0質量%以下としてもよい。Cの含有率を0.8質量%より大きく1.0質量%以下とすることにより、高温強度等の機械的特性をより向上させることができる。
Si(珪素)は、固溶強化元素であると共に、耐酸化性を向上させる機能を有している。Siの含有率は、1.5質量%以上3.5質量%以下とするとよい。Siの含有率が1.5質量%より小さい場合には、耐酸化性が低下するからである。Siの含有率が3.5質量%より大きい場合には、フェライト相が多くなり、高温強度等の機械的特性が低下するからである。また、Siの含有率が3.5質量%より大きい場合には、σ相が析出して脆化するからである。
Siの含有率は、1.5質量%以上2.5質量%以下とするとよい。Siの含有率を1.5質量%以上2.5質量%以下とすることにより、耐酸化性を向上させると共に、高温強度等の機械的特性をより向上させることができる。
Mn(マンガン)は、オーステナイト形成元素であり、オーステナイト相を安定化させる機能を有している。Mnの含有率は、0質量%より大きく2質量%以下とするとよい。Mnの含有率が2質量%より大きい場合には、MnS等の形成により、耐酸化性が低下するからである。
Ni(ニッケル)は、オーステナイト形成元素であり、オーステナイト相を安定化させる機能を有している。また、Niは、耐酸化性を向上させる機能を有している。Niの含有率は、6質量%以上11質量%以下とするとよい。Niの含有率が6質量%より小さい場合には、フェライト相が多くなり、高温強度等の機械的特性が低下するからである。また、Niの含有率が6質量%より小さい場合には、耐酸化性が低下するからである。更に、Niの含有率が6質量%より小さい場合には、σ相が析出して脆化するからである。
一方、Niの含有率が11質量%より大きい場合には、Niは高価な元素であることから、耐熱鋳鋼の製造コストが大きくなるからである。より詳細には、この耐熱鋳鋼では、Cの含有率を0.55質量%以上1.0質量%以下とすることにより、通常よりもC量を大きくしてオーステナイト相を安定化しているので、Niの含有率を11質量%より大きくしてオーステナイト相を安定化する必要がない。また、この耐熱鋳鋼では、Siの含有率を1.5質量%以上3.5質量%以下とし、後述するようにCrの含有率を22質量%以上27質量%以下とすることにより、Si量とCr量とを大きくして耐酸化性を向上させている。このように、安価なCの含有率を大きくしてオーステナイト相を安定化し、安価なSiやCrの含有量を大きくして耐酸化性を向上させているので、高価なNiの含有量を小さくして耐熱鋳鋼の製造コストをより低減することができる。
Cr(クロム)は、耐酸化性や耐食性を向上させる機能を有している。Crの含有率は、22質量%以上27質量%以下とするとよい。Crの含有率が22質量%より小さい場合には、耐酸化性や耐食性が低下するからである。Crの含有率が27質量%より大きい場合には、フェライト相が多くなり、高温強度等の機械的特性が低下するからである。また、Crの含有率が27質量%より大きい場合には、σ相が析出して脆化するからである。
Mo(モリブデン)は、固溶強化元素であり、高温強度等の機械的特性を高める機能を有している。Moの含有率は、0質量%より大きく0.6質量%以下とするとよい。Moの含有率が0.6質量%より大きい場合には、フェライト相が多くなり、高温強度等の機械的特性が低下するからである。また、Moの含有率が0.6質量%より大きい場合には、σ相が析出して脆化するからである。また、この耐熱鋳鋼では、Cの含有率を0.55質量%以上1.0質量%以下とすることにより、通常よりもC量を大きくして高温強度等の機械的特性を向上させている。このため、高価なMoを、0.6質量%より多く含有させる必要がないので、耐熱鋳鋼の製造コストを低減することができる。
なお、耐熱鋳鋼の残部は、Feと不可避的不純物とから構成されている。不可避的不純物とは、意図的に添加しなくても混入する可能性がある不純物である。
本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼は、更に、残部のFeの一部にかえて、S(硫黄)を含んでいてもよい。S(硫黄)は、耐熱鋳鋼の被削性を向上させる機能を有している。Sの含有率は、0質量%より大きく0.2質量%以下とするとよい。Sの含有率が0.2質量%より大きくなると、高温曝露時に脆化相が形成され易くなるので高温強度等の機械的強度が低下する可能性があるからである。Sの含有率は、0.1質量%以上0.2質量%以下とするとよい。Sの含有率を0.1質量%以上0.2質量%以下とすることにより、被削性をより向上させることができる。また、Sの含有率を0.16質量%以上0.2質量%以下とすることにより、被削性を更に向上させることが可能となる。
次に、耐熱鋳鋼の製造方法について説明する。耐熱鋳鋼となる原料を高周波誘導炉等で溶解し、鋳造してインゴットを得ることができる。例えば、耐熱鋳鋼となる原料を高周波誘導炉等で溶解し、砂型等に注湯して鋳造することができる。耐熱鋳鋼の原料には、0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、0質量%より大きく2質量%以下のMnと、6質量%以上11質量%以下のNiと、22質量%以上27質量%以下のCrと、0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、を含有し、残部がFeと不可避的不純物とからなる合金原料を用いるとよい。耐熱鋳鋼の原料には、更に、残部のFeの一部にかえて、0質量%より大きく0.2質量%以下のSを含むようにしてもよい。
このように本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼は、一般的な鋳鋼の砂型鋳造法等で鋳造可能であることから、加圧鋳造法で鋳造する必要がない。このため、加圧鋳造法で用いられる特殊な鋳造設備が不要となるので、耐熱鋳鋼の製造コストを低減することができる。また、この耐熱鋳鋼は、耐酸化性に優れていることから、大気雰囲気等の酸化性雰囲気でも鋳造可能である。また、耐熱鋳鋼の鋳造後に、焼鈍等の均質化処理や、時効処理等の熱処理を行ってもよい。
次に、耐熱鋳鋼の金属組織について説明する。耐熱鋳鋼の金属組織は、金属組織の主相がオーステナイト相(γ相)で構成されている。金属組織中のオーステナイト相の体積比率は、90体積%以上であるとよく、95体積%以上であることが好ましい。耐熱鋳鋼の金属組織は、金属組織中のフェライト相(α相)のフェライト率が、磁気誘導法(フェライトスコープ)で室温測定したときに1.1%以下(フェライト率がゼロを含む)であるとよい。磁気誘導法は、磁気的な装置によるフェライト率の測定法であり、フェライト相が磁性を示し、オーステナイト相や炭化物等が非磁性を示すことを利用した測定法である。このように、耐熱鋳鋼は、金属組織の主相がオーステナイト相からなり、フェライト率が1.1%以下(フェライト率がゼロを含む)であるオーステナイト系の耐熱鋳鋼であるとよい。耐熱鋳鋼の金属組織中にはフェライト相が含まれていないか、フェライト相が含まれていても1.1%以下の微量であるので、高温強度等の機械的特性を向上させることができる。また、耐熱鋳鋼の金属組織のフェライト率は、0.5%以下(フェライト率がゼロを含む)であってもよく、0.2%以下(フェライト率がゼロを含む)であってもよい。更に、耐熱鋳鋼の金属組織のフェライト率は、ゼロ(フェライト相を含まない)であってもよい。
耐熱鋳鋼の金属組織には、Cr炭化物等の炭化物が析出しているとよい。金属組織中にCr炭化物等の炭化物が分散して析出していることにより、高温強度等の機械的特性を向上させることができる。耐熱鋳鋼の金属組織には、σ相が析出していないとよい。耐熱鋳鋼の金属組織にσ相を含まないようにすることで、耐熱鋳鋼の脆化を抑制することができる。また、耐熱鋳鋼の金属組織中には、SiやCrが多く固溶している。これにより、耐熱鋳鋼が大気雰囲気中で熱曝露された場合でも、耐酸化性に優れるSiO等の酸化ケイ素やCr等の酸化クロムからなる保護酸化被膜を形成し、耐熱鋳鋼の耐酸化性を向上させることができる。
次に、本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼の機械的特性等について説明する。この耐熱鋳鋼は、例えば、600℃の高温引張特性において、引張強度が378MPaから446MPa、0.2%耐力が173MPaから214MPa、伸びが9.4%から14.2%となる特性を有している。この耐熱鋳鋼は、例えば、950℃の高温引張特性において、引張強度が106MPaから131MPa、0.2%耐力が55MPaから73MPa、伸びが35.0%から52.3%となる特性を有している。この耐熱鋳鋼は、例えば、室温のビッカース硬さが、Hv199からHv234となる特性を有している。この耐熱鋳鋼の耐酸化性は、例えば、大気雰囲気中において、200℃未満と980℃との間で200回の繰返し酸化試験を行ったときに、酸化試験後重量減少量(単位面積当たりの重量減少量)が約5mg・cm-2から約22mg・cm-2となる特性を有している。このように、本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼は、優れた機械的特性と耐酸化性とを備えている。
本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼は、例えば、自動車等の車両用の過給機部品に適用可能である。より詳細には、この耐熱鋳鋼は、車両用の過給機部品であるタービンハウジングの材料として好適に用いることができる。図1は、過給機10の構成を示す模式図である。過給機10は、タービンハウジング12と、コンプレッサハウジング14と、を備えている。タービンハウジング12は、例えば、酸化性雰囲気において、最高温度が約980℃の排気ガスに熱曝露される。タービンハウジング12をこの耐熱鋳鋼で形成することにより、タービンハウジング12は、高温強度等の機械的特性と、耐酸化性とを備えることができる。また、この耐熱鋳鋼は、被削性等の加工性に優れているので、タービンハウジング12の所定形状に容易に加工することができる。勿論、本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼は、タービンハウジング12等の過給機部品に適用されるだけでなく、他の機械装置等にも適用可能である。
以上、本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼によれば、0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、0質量%より大きく2質量%以下のMnと、6質量%以上11質量%以下のNiと、22質量%以上27質量%以下のCrと、0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、を含有し、残部がFeと不可避的不純物とからなるので、N(窒素)を添加してオーステナイト相を安定化する必要がなく、加圧鋳造法に用いられる特殊設備が不要となる。これにより、耐熱鋳鋼の製造コストを低減することができる。
本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼によれば、高温強度等の機械的特性が向上すると共に、耐酸化性を向上させることができる。また、本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼によれば、安価なCの含有率を大きくしてオーステナイト相を安定化し、安価なSiやCrの含有量を大きくして耐酸化性を向上させている。これにより、高価なNiの含有量を小さくすることができるので、耐熱鋳鋼の製造コストをより低減することが可能となる。
また、本開示の実施形態に係る耐熱鋳鋼は、0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、0質量%より大きく2質量%以下のMnと、6質量%以上11質量%以下のNiと、22質量%以上27質量%以下のCrと、0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、0質量%より大きく0.2質量%以下のSと、を含有し、残部がFeと不可避的不純物とからなるので、上記の効果を奏すると共に、耐熱鋳鋼の被削性を更に向上させることができる。
[第1実施例]
耐熱鋳鋼を鋳造して、機械的特性(引張特性、硬さ)、フェライト率及び耐酸化性を評価した。表1に、鋳造した耐熱鋳鋼の合金組成を示す。
Figure 0006897798
まず、各耐熱鋳鋼の合金組成について説明する。実施例1から8の耐熱鋳鋼の合金組成は、0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、0質量%より大きく2質量%以下のMnと、6質量%以上11質量%以下のNiと、22質量%以上27質量%以下のCrと、0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、を含有し、残部がFeと不可避的不純物とからなるように構成した。
比較例1の耐熱鋳鋼では、Si量を0.95質量%とし、Si量を小さくしたときの影響を評価した。また、比較例1の耐熱鋳鋼では、Mn量を3.21質量%とし、Mn量を大きくしたときの影響を評価した。比較例2の耐熱鋳鋼では、Cr量を21.92質量%とし、Cr量を小さくしたときの影響を評価した。比較例3の耐熱鋳鋼では、C量を1.13質量%とし、C量を大きくしたときの影響を評価した。比較例4の耐熱鋳鋼では、C量を0.3質量%とし、C量を小さくしたときの影響を評価した。比較例5の耐熱鋳鋼では、Si量を4.11質量%とし、Si量を大きくしたときの影響を評価した。比較例6の耐熱鋳鋼では、Ni量を3.70質量%とし、Ni量を小さくしたときの影響を評価した。比較例7の耐熱鋳鋼では、Cr量を31.30質量%とし、Cr量を大きくしたときの影響を評価した。各耐熱鋳鋼は、合金原料を高周波誘導炉で溶解し、大気雰囲気中で砂型に注湯して鋳造した。
(フェライト率の評価)
各耐熱鋳鋼について、フェライト率を測定した。各耐熱鋳鋼のフェライト率は、磁気誘導法(フェライトスコープ)により室温で測定した。表1には、各耐熱鋳鋼のフェライト率を示している。
図2は、耐熱鋳鋼に含まれるC量と、フェライト率との関係を示すグラフである。図2のグラフでは、各耐熱鋳鋼に含まれるC量を横軸に取り、フェライト率を縦軸に取り、各C量のときのフェライト率を白丸で示している。なお、図2では、実施例1から8及び比較例4の耐熱鋳鋼におけるC量とフェライト率との関係を示している。比較例4の耐熱鋳鋼(C量が0.3質量%)では、実施例1から8の耐熱鋳鋼よりも、フェライト率が大きくなった。この結果からC量が0.55質量%より小さくなるとフェライト相が多くなるのに対して、C量が0.55質量以上の場合には、フェライト率が1.1%以下(フェライト率がゼロを含む)となり、フェライト相を少なくしてオーステナイト相を多くできることがわかった。
図3は、耐熱鋳鋼に含まれるSi量と、フェライト率との関係を示すグラフである。図3のグラフでは、各耐熱鋳鋼に含まれるSi量を横軸に取り、フェライト率を縦軸に取り、各Si量のときのフェライト率を白丸で示している。なお、図3では、実施例1から8及び比較例5の耐熱鋳鋼におけるSi量とフェライト率との関係を示している。比較例5の耐熱鋳鋼(Si量が4.11質量%)では、実施例1から8の耐熱鋳鋼よりも、フェライト率が大きくなった。この結果からSi量が3.5質量%より大きくなるとフェライト相が多くなるのに対して、Si量が3.5質量以下の場合には、フェライト率が1.1%以下(フェライト率がゼロを含む)となり、フェライト相を少なくしてオーステナイト相を多くできることがわかった。
図4は、耐熱鋳鋼に含まれるNi量と、フェライト率との関係を示すグラフである。図4のグラフでは、各耐熱鋳鋼に含まれるNi量を横軸に取り、フェライト率を縦軸に取り、各Ni量のときのフェライト率を白丸で示している。なお、図4では、実施例1から8及び比較例6の耐熱鋳鋼におけるNi量とフェライト率との関係を示している。比較例6の耐熱鋳鋼(Ni量が3.70質量%)では、実施例1から8の耐熱鋳鋼よりも、フェライト率が大きくなった。この結果からNi量が6質量%より小さくなるとフェライト相が多くなるのに対して、Ni量が6質量以上の場合には、フェライト率が1.1%以下(フェライト率がゼロを含む)となり、フェライト相を少なくしてオーステナイト相を多くできることがわかった。
図5は、耐熱鋳鋼に含まれるCr量と、フェライト率との関係を示すグラフである。図5のグラフでは、各耐熱鋳鋼に含まれるCr量を横軸に取り、フェライト率を縦軸に取り、各Cr量のときのフェライト率を白丸で示している。なお、図5では、実施例1から8及び比較例7の耐熱鋳鋼におけるCr量とフェライト率との関係を示している。比較例7の耐熱鋳鋼(Cr量が31.30質量%)では、実施例1から8の耐熱鋳鋼よりも、フェライト率が大きくなった。この結果からCr量が27質量%より大きくなるとフェライト相が多くなるのに対して、Cr量が27質量以下の場合には、フェライト率が1.1%以下(フェライト率がゼロを含む)となり、フェライト相を少なくしてオーステナイト相を多くできることがわかった。
(耐酸化性の評価)
各耐熱鋳鋼について、耐酸化性を評価した。耐酸化性については、JIS Z2282の「金属材料の高温繰返し酸化試験方法」と、JIS Z2290の「金属材料の高温腐食試験方法通則」とに基づいて評価した。より詳細には、まず、加熱温度980℃±5℃、絶対湿度10%の大気環境下での45分間の加熱と、200℃未満での30分間の冷却と、を1サイクルとして、200サイクルの繰返し酸化試験を行った。繰返し酸化試験後に酸化被膜を除去し(デスケーリング)、酸化試験前後の重量減少量を求め、酸化試験後重量減少量(単位面積当たりの重量減少量)を算出した。表1には、各耐熱鋳鋼の酸化試験後重量減少量を示している。
実施例1から8の耐熱鋳鋼では、酸化試験後重量減少量が、約5mg・cm-2から約19mg・cm-2であった。これに対して、比較例1の耐熱鋳鋼(Si量が0.95質量%、Mn量が3.21質量%)では、酸化試験後重量減少量が約304mg・cm-2であり、実施例1から8の耐熱鋳鋼よりも耐酸化性が低下した。この結果から、Si量が1.5質量%より小さくなると耐酸化性が低下するのに対して、Si量が1.5質量%以上では耐酸化性が向上することがわかった。また、Mn量が2質量%より大きくなると耐酸化性が低下するのに対して、Mn量が2質量%以下では耐酸化性が向上することがわかった。
また、比較例2の耐熱鋳鋼(Cr量が21.92質量%)では、酸化試験後重量減少量が約94mg・cm-2であり、実施例1から8の耐熱鋳鋼よりも耐酸化性が低下した。この結果から、Cr量が22質量%より小さくなると耐酸化性が低下するのに対して、Cr量が22質量%以上では耐酸化性が向上することがわかった。
(硬さの評価)
各耐熱鋳鋼について、硬さの測定を行った。硬さ測定は、室温でビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さの測定は、JIS Z2244「ビッカース硬さ試験―試験方法」及びJIS Z7725「ビッカース硬さ試験―試験機の検証及び校正」に準拠して行った。圧子は、ダイヤモンド圧子(正四角錐、対面角が136°±0.5°)とした。試験荷重は、10kgf(98N)とした。静止後押付時間は、10秒とした。表1には、各耐熱鋳鋼の硬さを示している。実施例1から8の耐熱鋳鋼の硬さは、Hv199からHv234であった。これに対して比較例3の耐熱鋳鋼(C量が1.13質量%)の硬さは、Hv240であった。この結果から、C量が1.0質量%より大きくなると硬さが大きくなり過ぎて、被削性等の加工性が低下するのに対して、C量が1.0質量%以下の場合には、被削性等の加工性が向上することがわかった。
また、実施例1から4及び8の耐熱鋳鋼の硬さは、Hv199からHv215であった。実施例5から7の耐熱鋳鋼の硬さは、Hv218からHv234であった。この結果から、Cの含有率が0.55質量%以上0.8質量%以下の場合には、硬さが小さくなり、被削性等の加工性がより向上することがわかった。一方、Cの含有率が0.8質量%より大きく1.0質量%以下の場合には、硬さが大きくなり、機械的特性が向上することがわかった。
(引張特性の評価)
各耐熱鋳鋼について、JIS G0567の「高温引張試験方法」に基づいて高温引張特性を評価した。試験温度を600℃及び950℃とし、引張強度、0.2%耐力、伸びを測定した。表1には、各耐熱鋳鋼の引張特性(引張強度、0.2%耐力、伸び)の結果を示している。
実施例1、2、4から7の耐熱鋳鋼の引張強度は、600℃のとき378MPaから446MPaであり、950℃のとき106MPaから131MPaであった。0.2%耐力は、600℃のとき173MPaから214MPaであり、950℃のとき55MPaから73MPaであった。伸びは、600℃のとき9.4%から14.2%であり、950℃のとき37.6%から52.3%であった。このように、各耐熱鋳鋼は、優れた高温引張特性を有していることがわかった。
[第2実施例]
次に、Sを含有する耐熱鋳鋼を鋳造して、機械的特性(引張特性、硬さ)、フェライト率、耐酸化性及び被削性を評価した。表2に、鋳造した耐熱鋳鋼の合金組成を示す。
Figure 0006897798
まず、各耐熱鋳鋼の合金組成について説明する。実施例9から10の耐熱鋳鋼の合金組成は、0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、0質量%より大きく2質量%以下のMnと、6質量%以上11質量%以下のNiと、22質量%以上27質量%以下のCrと、0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、0質量%より大きく0.2質量%以下のSと、を含有し、残部がFeと不可避的不純物とからなるように構成した。比較例8の耐熱鋳鋼では、Sを含有しないで構成し、Sの添加の影響を評価した。各耐熱鋳鋼は、合金原料を高周波誘導炉で溶解し、大気雰囲気中で砂型に注湯して鋳造した。
(フェライト率の評価)
各耐熱鋳鋼について、フェライト率を測定した。各耐熱鋳鋼のフェライト率は、第1実施例と同様の方法で測定した。表2には、各耐熱鋳鋼のフェライト率を示している。各耐熱鋳鋼のフェライト率は、実施例9が0.00%、実施例10が0.12%、比較例8が0.00%であった。実施例9,10の耐熱鋳鋼のフェライト率は、実施例1から8の耐熱鋳鋼のフェライト率と同程度であった。このことから、0質量%より大きく0.2質量%以下のSを更に添加しても、フェライト相の形成が抑制されていることがわかった。
(耐酸化性の評価)
各耐熱鋳鋼について、耐酸化性を評価した。各耐熱鋳鋼の耐酸化性は、第1実施例と同様の方法で評価した。表2には、各耐熱鋳鋼の酸化試験後重量減少量を示している。各耐熱鋳鋼の酸化試験後重量減少量は、実施例9が22mg・cm-2、実施例10が21mg・cm-2、比較例8が21mg・cm-2であった。実施例9,10の耐熱鋳鋼の耐酸化性は、実施例1から8の耐熱鋳鋼の耐酸化性と同程度であった。
(硬さの評価)
各耐熱鋳鋼について、硬さの測定を行った。各耐熱鋳鋼の硬さ測定は、第1実施例と同様の方法により室温でビッカース硬さを測定した。表2には、各耐熱鋳鋼の硬さを示している。各耐熱鋳鋼の硬さは、実施例9がHv229であり、実施例10がHv228であり、比較例8の硬さがHv247であった。実施例9,10の耐熱鋳鋼の硬さは、実施例1から8の耐熱鋳鋼の硬さと同程度であった。
(引張特性の評価)
各耐熱鋳鋼について、高温引張特性を評価した。各耐熱鋳鋼の引張特性の評価は、第1実施例と同様の方法で評価した。表2には、各耐熱鋳鋼の引張特性(引張強度、0.2%耐力、伸び)の結果を示している。各耐熱鋳鋼の600℃での引張強度は、実施例9が401MPa、実施例10が404MPa、比較例8が424MPaであった。各耐熱鋳鋼の600℃での0.2%耐力は、実施例9が195MPa、実施例10が195MPa、比較例8が202MPaであった。各耐熱鋳鋼の600℃での伸びは、実施例9が10.0%、実施例10が10.0%、比較例8が9.0%であった。各耐熱鋳鋼の950℃での引張強度は、実施例9が118MPa、実施例10が119MPa、比較例8が122MPaであった。各耐熱鋳鋼の950℃での0.2%耐力は、実施例9が65MPa、実施例10が67MPa、比較例8が67MPaであった。各耐熱鋳鋼の950℃での伸びは、実施例9が38.0%、実施例10が35.0%、比較例8が38.0%であった。実施例9,10の耐熱鋳鋼の引張特性は、実施例1から8の耐熱鋳鋼の引張特性と同程度であった。
(被削性の評価)
各耐熱鋳鋼について、被削性を評価した。まず、被削性評価試験方法について説明する。図6は、被削性評価試験方法を説明するための図である。被削性評価試験方法は、旋盤加工試験により実施した。試験体は、各耐熱鋳鋼で円柱状に形成した。炭化物でコーティングした刃先を有する工具を用い、試験体の側面を切削した。所定の回転速度で旋盤を回転させて、一定時間ごとに工具の写真撮影を行い、工具の摩耗深さを測定した。旋削加工周速(切削速度)は、50m/secとした。そして、一定の加工時間に対する境界摩耗量(工具摩耗量)で評価した。
次に、各耐熱鋳鋼の被削性評価試験結果について説明する。図7は、各耐熱鋳鋼の被削性評価試験結果を示すグラフである。図7のグラフでは、横軸に加工時間(T)を取り、縦軸に境界摩耗量(VN)を取り、実施例9の耐熱鋳鋼を白丸、実施例10の耐熱鋳鋼を白四角形、比較例8の耐熱鋳鋼を×で示している。実施例9,10の耐熱鋳鋼では、加工時間に対して境界摩耗量が小さくなった。これに対して比較例8の耐熱鋳鋼では、加工時間に対して境界摩耗量が大きくなった。この結果から、耐熱鋳鋼にSを添加することにより、被削性を向上できることがわかった。また、実施例10の耐熱鋳鋼は、実施例9の耐熱鋳鋼よりも境界摩耗量が小さくなることから、Sをより多く含有させることにより、被削性を更に向上できることがわかった。
本開示によれば、加圧鋳造法を用いる必要がないので、耐熱鋳鋼の製造コストを低減することができることから、車両用の過給機部品等に有用である。

Claims (7)

  1. 0.55質量%以上1.0質量%以下のCと、
    1.5質量%以上3.5質量%以下のSiと、
    0質量%より大きく2質量%以下のMnと、
    6質量%以上11質量%以下のNiと、
    22.87質量%以上27質量%以下のCrと、
    0質量%より大きく0.6質量%以下のMoと、を含有し、
    残部がFeと不可避的不純物とからなる、耐熱鋳鋼。
  2. 請求項1に記載の耐熱鋳鋼であって、
    Cの含有率は、0.55質量%以上0.8質量%以下である、耐熱鋳鋼。
  3. 請求項1に記載の耐熱鋳鋼であって、
    Cの含有率は、0.8質量%より大きく1.0質量%以下である、耐熱鋳鋼。
  4. 請求項1から3のいずれか1つに記載の耐熱鋳鋼であって、
    Siの含有率は、1.5質量%以上2.5質量%以下である、耐熱鋳鋼。
  5. 請求項1から4のいずれか1つに記載の耐熱鋳鋼であって、
    更に、0質量%より大きく0.2質量%以下のSを含む、耐熱鋳鋼。
  6. 請求項5に記載の耐熱鋳鋼であって、
    Sの含有率は、0.1質量%以上0.2質量%以下である、耐熱鋳鋼。
  7. 請求項1から6のいずれか1つに記載の耐熱鋳鋼で形成される、過給機部品。
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