JP6884640B2 - 熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶および熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法 - Google Patents

熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶および熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法 Download PDF

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本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に関するものである。より詳しくは、成形性、耐食性、汎用材料性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板、熱可塑性ポリエステル樹脂金属板から成る耐レトルト性に優れた缶および熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法に関する。
金属缶の製造工程の簡素化、衛生性および環境保全性の観点から、缶の内外面に施す有機溶剤系の塗装の代わりに樹脂フィルムをブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等の金属板に被覆した後、これを絞り加工等により製缶する技術が検討されている。このような検討の中で、従来から樹脂フィルムが被覆された金属板に関して多数の提案がなされている。
この従来からの提案として、例えば、ポリエステル樹脂フィルムを、熱接着により金属板に被覆する方法などが下記の特許文献1や特許文献2に開示されている。
特公昭60−47103号公報 特開平3−212433号公報
上記特許文献1に開示されている方法で得られたポリエステル樹脂被覆金属板は、その優れた成形性、耐食性および経済性により缶用素材として適用可能な用途が多い。しかしながら、この缶体に内容物を充填した後、殺菌のためにレトルト処理を行う必要がある用途では、ポリエステル樹脂層下の金属が変色ないしは腐食し、著しく商品価値が低下する。
この現象は、ポリエステル樹脂の融点以上の温度に加熱した金属板に該ポリエステル樹脂層を積層した時に、金属板近傍に形成された無定形ポリエステル層(アモルファス状態のポリエステル樹脂層)の存在によりポリエステル樹脂層全体としてバリヤー性が低下し、この層を水蒸気や腐食成分が透過するため発生するものと考えられる。
一方で、上記特許文献2に開示されているポリエステル樹脂被覆金属板は、特許文献1の方法で得られたポリエステル樹脂被覆金属板の欠点である耐レトルト性を向上させるため、ポリエステル樹脂の融点以下の温度で金属板にポリエステル樹脂層を積層し、この積層時に生成する無定形ポリエステル樹脂層の厚みをできるだけ薄くし、無定形ポリエステル樹脂層による耐レトルト性低下を防止することを特徴としている。
しかし、ポリエステル樹脂被覆金属板としての耐レトルト性には優れているものの、無定形ポリエステル樹脂の層をできるだけ薄くするため、次のような問題も発生してしまう。すなわち、ポリエステル樹指の融点以下の温度に加熱した金属板にポリエステル樹指層を積層するので、積層時に金属板と接するポリエステル樹脂の溶融粘度が高く、金属板表面は均一に、かつ、十分濡らされず、また溶融層も極端に薄いため、積層されたポリエステル樹脂層と金属板との密着性が不安定であるという欠点を有している。
本発明が解決しようとする課題は、缶用材料に要求される成形性、加工密着性、耐食性、汎用材料性などに優れ、かつ、成形された缶体に内容物を充填後、レトルト処理を施しても缶内面のフィルム被覆下の金属が変色ないし腐食しない缶用素材を開発することにある。より詳細には、例えば深絞り缶、薄肉化深絞り缶などに例示される、缶体に成形加工前あるいは後に、缶外面に印刷などが施され、印刷インキのキュアーのため加熱が施され、その後に内容物が充填され、レトルト処理される用途にも適用できる熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板及びその製造方法を提供することにある。また、例えば缶蓋、深絞り缶、絞り再絞り缶(DRD缶)などに例示される、缶体に成形加工前あるいは後に印刷などが施されずに、そのまま内容物が充填され、レトルト処理される用途にも適用できる熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板及びその製造方法を提供することにある。
本発明の目的は、成形性、耐食性及び汎用材料性に優れ、缶に成形した場合には耐レトルト性に優れる熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板及びその製造方法を提供することである。
本発明者は、上記の問題を解決するため、種々検討の結果、ポリエステル樹脂フィルムを、該ポリエステル樹脂フィルムとの密着性に優れたクロム水和酸化物皮膜を有する金属板、例えばTFSに熱融着により積層し、レトルト処理前のポリエステル樹脂層をコントロールすることによって、具体的には金属板との界面側のポリエステル樹指層の結晶状態および表面側のポリエステル樹脂層の結晶状態をそれぞれ適正な範囲にコントロールすることによって、優れた成形性、耐食性および汎用材料性を有し、かつ、優れた耐レトルト性を有するポリエステル樹脂被覆金属板が得られることを見出した。
すなわち、本発明によれば、金属素材の少なくとも一方の面に、無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂層を有し、前記熱可塑性ポリエステル樹脂層は、前記金属素材との界面側に、直線偏光のレーザー光を用いたレーザーラマン分光法における1730cm−1近傍のC=O伸縮振動に起因した前記熱可塑性ポリエステル樹脂のラマンシフトピーク(ラマン分光法におけるシフトしたピークの意味合いとする。)の半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域を有し、かつ、前記金属素材とは反対側である表面側に、前記ラマンシフトピークの半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である第2領域を有することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板が提供される。
さらに、本発明によれば、上記熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶が提供される。
さらに、本発明によれば、上記熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法が提供される。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板においては、金属素材の少なくとも一方の面に、無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂層を有し、前記熱可塑性ポリエステル樹脂層は、前記金属素材との界面側に、直線偏光のレーザー光を用いたレーザーラマン分光法における1730cm−1近傍のC=O伸縮振動に起因した熱可塑性ポリエステル樹脂のラマンシフトピークの半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域を有し、かつ、前記熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に、前記ラマンシフトピークの半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である第2領域を有することが重要な特徴である。
レトルト処理時の熱可塑性ポリエステル樹脂層と金属板との間における界面の変色ないし腐食は熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態が低いことによるバリヤー性が劣ることが原因で生じるものであり、その発生を抑制するためには、熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態を高くする必要がある。その一方で、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の成形性を維持ないし向上させるためには、熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態が低く、伸びが大きい状態が望ましい。このように耐レトルト性と成形性は、互いに相反する特性である。
本発明においては、熱可塑性ポリエステル樹脂層の伸びが大きく成形性には優れているが耐レトルト性に劣る領域が存在していても、この領域と耐レトレト性に優れた領域とが熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板における熱可塑性ポリエステル樹脂層に共存する構造とすることにより、レトルト処理の際に変色や腐食の発生が有効に抑制されることを見出し、この相反する特性の両方を高いレベルで、兼ね備えることが可能となったものである。
本発明によれば、優れた成形性、耐食性及び汎用材料性を有する共に、缶に成形した場合には耐レトルト性にも優れている。
図1は、実施例および比較例の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の樹脂層断面におけるラマンシフトピーク半値幅の厚み方向分布を示す図である。 図2は、その他の実施例およびその他の比較例の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の樹脂層断面におけるラマンシフトピーク半値幅の厚み方向分布を示す図である。 図3は、さらにその他の実施例及び比較例の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の樹脂層断面におけるラマンシフトピーク半値幅の厚み方向分布を示す図である。
成形性および耐レトルト性は熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態に強く依存するため、上記2つの領域(第1領域および第2領域)における熱可塑性ポリエステル樹脂層の厚み方向の結晶状態、すなわち結晶状態プロファイル(厚み方向における結晶状態の分析結果)で、成形性および耐レトルト性を整理することができる。
本実施形態では、熱可塑性ポリエステル樹脂のうちポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリマーでは、カルボニル基(C=O)の伸縮振動に由来する1730cm−1近傍のラマンバンドの半値幅が結晶状態の指標となること、サンプリングの必要が無く、試料をそのままの形で測定できること、試料にレーザー光を約1μmに絞って照射できるため、局所的な測定が可能なことより、レーザーラマン分光法による結晶状態プロファイルを採用した。
なお、上記した半値幅が小さくなると熱可塑性ポリエステル樹脂の密度が大きくなり、結晶化度が高くなる。逆に半値幅が大きくなると熱可塑性ポリエステル樹脂の密度が小さくなり、結晶化度が低くなる関係がある。
図1は、後述する実施例と比較例の数例の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板について、ラマンシフトピーク半値幅の厚み方向分布を示す図である。この図を用いて本実施形態の概要を説明する。図の横軸は熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面からの距離(厚み)を、縦軸は熱可塑性ポリエステル樹脂層の断面のレーザーラマン分光法における1730cm−1近傍のC=O伸縮振動に起因した熱可塑性ポリエステル樹脂のラマンシフトピークの半値幅であり、上述した結晶状態プロファイルを示すものである。
後述する実施例及び比較例の評価結果と照らし合わせると、次のことが言える。
(1)比較例11は、無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを加熱環境下でラミネートした後、後加熱処理をしない熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板である。その結晶状態プロファイルは、レーザーラマン分光法における1730cm−1近傍のC=O伸縮振動に起因した熱可塑性ポリエステル樹脂のラマンシフトピークの半値幅が、熱可塑性ポリエステル樹脂層の厚さ方向の位置によらず24cm−1を上回ってほぼ一定であり、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である領域(上記の第2領域)が存在していない。
そしてこの(1)で示される熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶は、成形性は良好であるが、耐レトルト性が劣っており、耐レトルト性の不良は、これら結晶状態の高い領域(第2領域)が存在しないからと解される。
比較例11とは樹脂組成または層構成が異なるものの、比較例1、比較例7、比較例9、比較例10は、無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを加熱環境下でラミネートした後、後加熱処理をしない熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板である点で比較例11と同じであり、レーザーラマン分光の結晶状態プロファイルが比較例11と共通し、成形性は良好だが耐レトルト性が劣る点も一致している。
(2)比較例12は、比較例11と同じ熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に後加熱処理を施したものである。この例の結晶状態プロファイルは、ラマンシフトピークの半値幅が熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に約20cm−1と、比較例11よりは結晶状態の高い領域を有しているものの、半値幅14cm−1以上であり18cm−1以下の領域(上記した第2領域)には達していない。
そしてこの(2)で示される熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶では、耐レトルト性が未だ劣っており、後加熱処理により表層近傍の結晶状態が高くなったことは認められるものの、耐レトルト性に寄与するのには不十分だと解される。
(3)比較例13は、延伸した熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを加熱環境下でラミネートした後、後加熱処理をしない熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板である。この例の結晶状態プロファイルは、ラマンシフトピークの半値幅が熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に約16cm−1の結晶状態の高い領域(半値幅14cm−1以上であり18cm−1以下の第2領域)を有しているものの、金属素材との界面側において、ラマンシフトピークの半値幅が18cm−1前後の結晶状態がかなり残留している領域が存在し、金属素材との界面側に半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域は存在していない。
そしてこの(3)で示される熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶では、耐レトルト性は良好であるが、成形性が劣っており、金属素材との界面側にこの程度の結晶状態を有する樹脂被覆では成形性に劣る結果となる。
(4)比較例14は、比較例13と同じ熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に後加熱処理を施したものである。この例の結晶状態プロファイルは、ラマンシフトピークの半値幅は熱可塑性ポリエステル樹脂層内において、13cm−1から15cm−1で推移し、比較例13に対して全体的に半値幅が小さくなっており、金属素材との界面側に半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域は存在していない。
そしてこの(4)で示される熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶では、耐レトルト性は向上するものの、成形性についてはさらに悪くなってしまう。
なお、延伸した熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを適用した場合に成形性を向上させるためには、金属素材との界面側に半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域が形成されるように結晶状態を引き下げる必要がある。これを後加熱処理で実現するには、金属素材との界面近傍の熱可塑性ポリエステル樹脂層が融解するレベルまで後加熱温度を高めることが考えられるが、その場合には熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側も融解してしまい、耐レトルト性が低下するものと推測される。
(5)実施例2は、無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを加熱環境下でラミネートした後に後加熱処理を施した熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板である。この例での結晶状態プロファイルは、金属素材との界面側に半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域が存在し、かつ、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下の第2領域が存在している。
そしてこの(5)で示される熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶は、成形性は良好な状態が維持されつつ、耐レトルト性の向上は顕著であり、本実施例でのプロファイルを持つことによって、成形性と耐レトルト性の両立が図られることがわかる。
一方で、比較例12も無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを加熱環境下でラミネートした後に後加熱処理を施した熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板であるが、両者はフィルムの構成が相違し、その結果としてレーザーラマンの結晶状態プロファイルが相違する。
なお、実施例2以外に、実施例2と同様の結晶状態プロファイルを有し、成形性と耐レトルト性の両面で優れる熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の例としては、実施例7、実施例8、及び実施例11などがあり、これらを勘案すると、(a)熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面を成す樹脂には共重合比率が低く結晶性の高い樹脂を採用するのが好ましいこと、(b)熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを多層構成とし、金属素材に接する側の層(下層)の樹脂には表面を成す側の層(表層)の樹脂より融点の低い樹脂を選択するのが好ましいこと、あるいは(c)多層構成とする場合は下層より表層が厚い方が好ましいこと、などが読み取れる。
以上からは、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板のうち熱可塑性ポリエステル樹脂表面付近と金属板との界面付近の一定の範囲における結晶状態が、それぞれ耐レトルト性と成形性の指標となっている。そして、この点について詳細に検討した結果、この指標と熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の熱可塑性ポリエステル樹脂の熱挙動との間に密接な関係があることがわかった。つまり樹脂成分と製造条件を管理することによって、厚み方向のラマンシフトピークの半値幅を特定の範囲に制御することで、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成る缶が優れた耐レトルト性と成形性の両立を達成できることがわかった。本発明はこの新たな知見に基づくものである。
本実施形態では、特定の樹脂成分と特定のラミネート条件の下では、後加熱処理をするにも拘わらず、成形性の低下を招くことなく、耐レトルト性を向上させることが可能となる。すなわち、ラミネート工程の意義は、金属板との成形性を確保するために、特定の樹脂成分を有する熱可塑性ポリエステル樹脂層を溶融させ、後に急冷することで熱可塑性ポリエステル樹脂の金属板に対する密着性を得るのと、次の後加熱により特定の結晶化の準備状態にすることである。後加熱の工程の意義は、金属板界面の熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶化を抑制しつつ、金属板とは反対側の表面近傍における熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶化を促進して、耐レトルト性と成形性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂層の構造とすることである。
本実施形態においては、(a)熱可塑性ポリエステル樹脂層のうち金属板との界面側に、直線偏光のレーザー光を用いたレーザーラマン分光法における1730cm−1近傍のC=O伸縮振動に起因した熱可塑性ポリエステル樹脂のラマンシフトピークの半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である領域(第1領域)と、(b)熱可塑性ポリエステル樹脂層のうち上記界面側とは反対の表面側に、前記ラマンシフトピークの半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である領域(第2領域)とが、同一の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に共に存在していることが必要である。このように、どちらかの領域のみが存在している場合には成形性と耐レトルト性を両立させることができず、上記したようにラマンシフトピークの半値幅が所定範囲である領域(第1領域及び第2領域)が存在する必要がある。
ここで「ラマンシフトピークの半値幅が所定範囲である領域が存在する」とは、レーザーラマン分光の測定を樹脂被覆層の厚さ方向へ複数点(少なくとも4点、好ましくは8点以上)所定の間隔で行った場合に、ラマンシフトピークの半値幅が所定範囲である測定点が少なくとも1点あることを指す。
なお、上記した金属板との界面側のラマンシフトピークの半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域は、所定の厚さ範囲(厚さ方向)にわたって存在するのが好ましい。前記所定の厚さ範囲の半値幅の領域は、例えば少なくとも金属板との界面から5μmまでの範囲で存在が確認できることが好ましい。また第1領域は、熱可塑性ポリエステル樹脂層の厚さにもよるが、1μm〜7μmの厚さ範囲にわたって存在するのが好ましい。この点について熱可塑性ポリエステル樹脂層の全体厚さに対する比率で表すと、この第1領域は5〜40%の厚さ範囲にわたって存在するのが好ましい。
一方で、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に、ラマンシフトピークの半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である第2領域は、界面側のラマンシフトピークの半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域よりも熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に存在すればよいが、好適には、少なくとも熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面から5μmまでの範囲で存在が確認できるのが好ましい。
また、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側のラマンシフトピークの半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である第2領域も、所定の厚さ範囲(厚さ方向)にわたって存在するのが好ましく、樹脂被覆層の厚さにもよるが、1μm〜13μmの厚さ範囲で存在するのが好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂層の全体厚さに対する比率で表すと、この第2領域は、5〜80%、より好適には10〜75%の厚さ範囲にわたって存在するのが好ましい。後で示す実施例によれば、熱可塑性ポリエステル樹脂層の厚さが8μmおよび12μmの例では1〜5μm、熱可塑性ポリエステル樹脂層の厚さが17μmの例では4〜13μmの厚さ範囲でこの第2領域が存在するのが好ましい。
(熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に用いる金属素材)
本実施形態の金属素材としては、容器用材料として広く使用されているコイル状又はシート状の鋼板、銅箔、鉄箔およびアルミニウム板、アルミニウム箔又などの金属板を用いることができるが、特に酸化物皮膜を形成する表面処理を施したものが好適である。
特に下層が金属クロム、上層がクロム水和酸化物の2層構造をもつ表面処理鋼板、いわゆるティンフリースチール(以下、TFSと呼ぶ)等がフィルムとの接着性に特に優れているので、本実施形態において用いられる金属素材として適している。
なお、耐食性の点から、TFSの金属クロムの量としては、クロム換算で、70〜200mg/mの範囲が好ましい。また、接着性の点から、TFSのクロム水和酸化物の量としては、クロム換算で、10〜30mg/mの範囲が好ましい。
その他、鋼板表面に錫めっき層が施され、その表面にクロム水和酸化物の皮膜を有するブリキも好適である。
さらに表面処理としては、Zr、Ti、Alなどの金属酸化物、リン酸などの有機酸化物などから成る酸化物皮膜を形成する、いわゆるクロムフリーの処理を施したものでもよい。
(熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に用いる熱可塑性ポリエステル樹脂)
本実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートそのもの、およびポリエステル中にエチレンテレフタレート以外の共重合成分を導入したポリエステルである。酸成分としてのテレフタル酸は、機械的強度、耐熱性、耐食性などから必要であり、更にテレフタル酸以外の酸成分を共重合させることにより、ポリエステル樹脂の結晶性をコントロールすることができる。
本実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板においては、熱可塑性ポリエステル樹脂が、共重合成分としてイソフタル酸を1〜15モル%の量で含有していることが特に好ましい。本実施形態では、熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態を狭い範囲に限定しているので、ポリエステル樹脂の結晶性を厳密に調整しなければならず、そのため、上記範囲のイソフタル酸を用いるのが好ましい。イソフタル酸量が多いとポリエステル樹脂の結晶性が低いため、熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態が低くなりやすく、その結果、レトルト処理の後に基材である金属板の変色や腐食が発生しやすくなる。一方で、上記範囲よりもイソフタル酸量が少ないとポリエステル樹脂の結晶性が高いため、熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態が高くなりやすく、熱可塑性ポリエステル樹脂層に柔軟性が付与されず、缶成形過程の絞り工程等の厳しい成形において樹脂の一部が断裂して金属面の露出が発生しやすくなる。
また、本実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂は、溶媒としてフェノール/テトラク口口エタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度(IV)が0.5〜1.0dL/gの範囲にあることが好ましく、特に0.6〜0.9dL/gの範囲にあることが好ましい。
この固有粘度が上記範囲よりも大きいと、熱可塑性ポリエステル樹脂層と金属板との密着性が悪くなる。また、この固有粘度が上記範囲よりも小さいと、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の成形性を確保できなくなる。
本実施形態においては、上記の特性や組成を満足する限り、他の共重合成分を少量含有していてもよい。
例えば、テレフタル酸及びイソフタル酸以外の二塩基酸としては、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸:コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸:シク口ヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。
また、エチレングリコール以外のグリコール成分としてはブチレングリコール、ジエチレングリコール、プ口ピレングリコール等の脂肪族グリコール、シク口ヘキシメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA等の芳香族グリコールが挙げられる。これらの二塩基酸、グリコール成分は2種以上を併用しても良い。
また、本実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂には、それ自体公知の樹指用添加剤、例えばシリカなどのアンチブロッキング剤、二酸化チタンなどの無機フィラ一、ワックスやシリコーン化合物などの滑剤等を公知の処方に従って添加することができる。
本実施形態においては、無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂からなるフィルムを用いることが望ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを金属板に積層する作業において樹脂が切れたり、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを積層した金属板に絞り加工及び/又は絞りしごき加工のような厳しい成形加工を施しても樹脂が削れたり疵付いたりすることがなく、またクラックが生じたり割れたり、さらに剥離することがないようにするため、樹指の固有粘度を高めて樹脂を強化させる必要があるからである。
本実施形態においては、熱可塑性樹脂フィルムの厚さは単層フィルムの場合は8〜60μmであることが好ましく、12〜40μmであることがより好ましい。厚さが8μm未満の場合は金属板に熱可塑性樹脂フィルムを積層する作業が著しく困難になり、また絞り加工等を施した後の樹脂層に欠陥を生じやすく、缶に成形して内容物を充填した際に、腐食成分に対するバリヤー性も十分ではない。一方で、厚さを増加させるとバリヤー性は十分となるが、60μmを超える厚さにすることは経済的に不利である。
また、熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、多層フィルムの場合には成形性やバリヤー性あるいは内容物のフレーバーに与える影響などの観点から各層の厚さの比率は変動するが、トータル厚みが8〜60μmとなるように、各層の厚さを調整してもよい。
熱可塑性樹脂フィルムを多層構成とする場合、金属板に接する層(下層)の熱可塑性ポリエステル樹脂の融点を、表面側の層(上記下層よりも上側の層であり、例えば表層など)の熱可塑性ポリエステル樹脂の融点より低くすると、表面側の層の結晶状態を維持するとともに、金属板との密着性を良好にすることができるので好ましい。
(熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に用いる製造方法)
本実施形態においては、
(A)金属素材(金属板)を加熱して無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを当該金属素材に加熱圧着し、
(B)加熱圧着した後でこの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを急冷して熱可塑性ポリエステル樹脂層を金属素材上に形成し、次いで、
(C)上記の急冷をした後に、180〜220℃の温度で熱可塑性ポリエステル樹脂層を後加熱処理する。
以下、各(A)〜(C)の工程における詳細な内容を説明する。
工程(A)における金属素材の加熱方法は、ブリキ等の製造に一般的に用いられている抵抗加熱、高周波誘導加熱などの他に加熱されたロールによる方法など金属板表面と直接接触する方法も用いることができる。このうち、高周波誘導加熱、赤外線放射加熱、レーザービームによる加熱など非接触で、かつ、短時間でその温度まで昇温できる加熱方法を用いることが、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを被覆する前の金属板の清浄度を確保する上で好ましい。加熱する時の雰囲気も特に規制する必要はないが、不活性ガス雰囲気にすることは、金属板の酸化を抑制するのでより好ましい。
工程(A)及び(B)における熱可塑性樹脂フィルムの加圧積層と冷却には、シリコンゴムあるいはフッ素ゴム製などの一対のロール(「ラミネートロール」と称する)が用いられる。このロールによる熱可塑性樹脂フィルムの加圧積層及び冷却時の平均加圧力は、100〜400N/cmの範囲が、より好ましくは150〜250N/cmの範囲であることが好ましい。100N/cm未満であると、金属板と積層される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムとの接触が不十分で、優れた密着性は得られないからである。
一方で、この平均加圧力は、積層される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが塑性変形を起こさない程度であれば十分で、400N/cmを超えることは必要ではない。一般に、金属板にロールを用いてフィルムを積層する場合、ロールの円周方向の一部は加圧により変形し、一定の長さの範囲で金属板と接触している。この接触している長さをニップ長さと呼んでいるが、すでに記した平均加圧力は、このロールに加えられる全加圧力をこのニップ長さ×金属板の幅(接触面積)で除した値である。
そして、ロールによる加圧積層時の冷却時間は、このニップ長さと熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの積層速度で決定される。加圧積層時の冷却時間は、10〜45ミリ秒の範囲、より好ましくは15〜25ミリ秒の範囲が望ましい。この時間が10ミリ秒以下ではこのロールによる冷却が不十分で、積層された熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの優れた密着性は確保されない。加圧積層時の冷却時間が45ミリ秒以上でも特に熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの密着性の観点からは支障ないが、本実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の高速連続生産性の観点より好ましくない。
ラミネートロールの表面温度は、例えば30℃〜熱可塑性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)プラス20℃の範囲、より好ましくは50℃〜上記ガラス転移温度Tgの範囲にする必要がある。熱可塑性ポリエステル樹脂のTgプラス20℃を超えると、ラミネート時にシワが発生し、好ましくない。また、30℃未満では、大掛りな冷却装置が必要となり、好ましくない。
なお、熱可塑性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
ラミネートにおける加熱温度は、熱可塑性ポリエステル樹脂層と金属板との密着性を得るのと次の後加熱により特定の結晶化の準備状態にするため行うものであり、本実施形態の重要な点の1つである。
この加熱温度は、上記(本発明のポリエステル樹脂被覆金属板に用いる製造方法)で述べた熱可塑性ポリエステル樹脂の融点〜融点プラス50℃の範囲とすることが望ましい。金属板の温度を熱可塑性ポリエステル樹脂の融点を基準として、融点以上の温度範囲とすることで、樹脂が軟化乃至溶融し、金属板との界面における濡れが良好となって、優れた密着性を得ることができる。50℃以下としたのは、50℃を超えると、後加熱による結晶化の効果が発生しないためである。
工程(B)において、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを金属素材(金属板)に被覆した後、本実施形態の熱可塑性ポリエステル樹脂層の結晶状態をコントロールするため、ガラス転移点以下の温度に急冷(クエンチ)する。クエンチは、ラミネート後に例えば1.0〜5.0秒以内、より好ましくは1.0〜2.5秒以内に熱可塑性ポリエステル樹脂のガラス転移点温度Tg以下にすることが望ましい。
また冷却方法に関しては、水冷、液体窒素による冷却、その他の方法で行っても良いが、好ましくは樹脂のガラス転移点以下の水浴中で行うことが好ましい。急冷せずに長時間、樹脂のガラス転移点を超える温度に保たれた場合は、金属板界面に生成したアモルファス状のポリエステル層が球晶・粗大化し、加工密着性、加工耐食性が大きく低下する。
工程(C)において、後加熱による熱処理を適切に制御する上では、ラミネート直後(後加熱前)の熱可塑性ポリエステル樹脂層が、厚さ方向の全体にわたって非晶状態、即ち、ラマンシフトピークの半値幅が厚さ方向の全体にわたって20cm−1以上であり、好適には24cm−1以上であり28cm−1以下であることが好ましい。
この後加熱処理は、ラミネートで達成した熱可塑性ポリエステル樹脂層の密着性を維持しつつ、特定の結晶化の準備状態にするため行うものであり、本実施形態の重要な点の1つである。
この後加熱処理の温度及び時間は、本実施形態で規定するラマンシフトピークの半値幅範囲を達成できる限りにおいて、任意に選択可能であるが、熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶化温度〜融点の温度範囲の中、特に180〜220℃の温度で、5秒間以内で実施することが望ましい。
なお、後加熱における熱処理に関し、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが多層フィルムの場合、当該多層の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをラミネートする際には、上記「樹脂の融点」は金属板と接触する側の層の樹脂の融点である。
この熱処理温度が熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶化温度以上であっても180℃未満では、結晶化が十分に進行せずに、上記したラマンシフトピークの半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である所定の領域(第2領域)が形成されないからである。
一方、この熱処理温度が熱可塑性ポリエステル樹脂の融点以下であっても220℃を超える温度となると、金属板との界面にまで結晶化が及ぶため、本実施形態で規定する金属板との界面側に20cm−1以上であり24cm−1以下の所定の領域(第1領域)が形成されないからである。
なお、この後加熱における熱処理温度をポリエステル樹脂層の結晶化温度〜融点以下の温度範囲とした場合、熱処理時間の増加とともに半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である第2領域は増加するが、金属板との界面側の半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域が減少する。したがって、後加熱による熱処理時間は、金属板との界面側に半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域と、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に半値幅14cm−1以上であり18cm−1以下である第2領域が共に形成されるように設定する必要がある。
また、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側に半値幅が14cm−1未満の領域が形成されると、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の成形性が低下する恐れがある。
本発明を以下の各例で説明する。これらの例は説明のためのものであり、いかなる意味においても以下の例に限定されるものではない。
(評価方法)
後述する実施例、比較例の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板に対して、以下の評価を行った。各例の製造条件と合わせて評価結果を表1に示す。
なお、図2は同一のフィルムについて、後加熱処理の温度の影響を見たものである。また、図3は、図2と同一のフィルムについて、後加熱処理の時間の影響を見たものである。
各例における評価は、次の通りに行った。
(ラマン分光分析)
日本分光製NRS−5100型 レーザーラマン分光光度計により、以下の測定条件で樹脂被覆層に対して表面から等間隔に12点深さ(厚さ)方向測定を行い、1730cm−1近傍のC=O伸縮振動に起因したカルボニルピーク半値幅プロファイルを算出した。
半値幅プロファイルを読み取り、基材である金属板との界面側に半値幅が20cm−1以上の領域が存在すれば「金属板との界面側 20≦半値幅」の欄に「○」、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側(上記界面とは反対側)に半値幅が18cm−1以下の領域があれば「樹脂層の表面側 半値幅≦18」の欄に「○」を記し、これらの領域が存在しない場合には、それぞれの欄に「×」を記した。
また上記の領域が存在するものについて,半値幅≦18cm−1の領域の厚み範囲、および20cm−1≦半値幅の領域の厚み範囲を、μm単位で併記した。さらに、金属板との界面側の領域の半値幅が24cm−1以下の要件を満たせば「金属板との界面側 半値幅≦24」の欄に「○」、熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面側の領域の半値幅が14cm−1以上の要件を満たせば「樹脂層の表面側 14≦半値幅」の欄に「○」を記し、これらの要件を満たさない場合には、それぞれの欄に「×」を記した。
測定条件:
励起波長 532nm
対物レンズ ×100
グレーティング 1800L/mm
(容器性能評価)
得られた熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板からDRD缶を成形した。内容物として3%酢酸を充填し、125℃45分のレトルト処理を行った。処理後、缶を解体して内部を観察した。
金属板が黒く変色したものは表1の「内容物」の欄に「×」、成形時に円周方向に形成されるショックラインに沿った筋状の変色がみられるものは「成形性」の欄に「×」を記し、これらの変色が軽度の場合は「△」、見られなかった場合は「○」を、それぞれの欄に記した。
[比較例1]
共重合成分としてイソフタル酸を2mol%含むポリエチレンテレフタレート(IA2)を表層、共重合成分としてイソフタル酸を15mol%含むポリエチレンテレフタレート(IA15)を下層として、共押出成形により、表層12μm、下層5μm、合計17μmの2層からなる無延伸の多層ポリエステル樹脂フィルムを製膜した。
このフィルムを、板厚0.18mmのTFSをラミネート温度225℃に加熱して、下層をTFS側にして以下のラミネート条件により積層し、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
<ラミネート条件>
クエンチまでの時間:1.33sec
ラミネートロール温度:68℃
圧着時間:22.5msec
ラミネートロール圧力:250N/cm
[比較例2]
比較例1と同様にして無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをTFSに積層した後、後加熱処理として125℃まで加熱し、後加熱温度に到達した後で直ちに空冷(後加熱温度の保持時間は約1秒)して、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例3]
後加熱温度を160℃とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例1]
後加熱温度を180℃とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例2]
後加熱温度を200℃とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例3]
後加熱温度を220℃とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例4]
後加熱温度を240℃とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例5]
後加熱温度を160℃とし、後加熱時間を10分とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例6]
後加熱温度を180℃と、後加熱時間を10分とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例4]
後加熱温度を200℃とし、後加熱時間を10分とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例5]
後加熱温度を220℃とし、後加熱時間を5秒とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例6]
後加熱温度を220℃とし、後加熱時間を30秒とした他は、比較例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例7]
表層をホモポリエチレンテレフタレート(Homo−PET)とした他は、実施例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例8]
表層を共重合成分としてイソフタル酸を5mol%含むポリエチレンテレフタレート(IA5)とした他は、実施例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例9]
表層の厚さを6μm、下層の厚さを2μmとし、多層フィルムの合計厚さを8μmとした他は、実施例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例7]
被覆するフィルムとして、IA2単層の無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを厚さ8μmで製膜し、ラミネート温度を245℃とした。その他は、比較例1と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例8]
比較例7と同様にして無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをTFSに積層した後、後加熱処理として200℃まで加熱し、後加熱温度に到達した後で直ちに空冷(後加熱温度の保持時間は約1秒)して、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例9]
熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの厚さを12μmとした他は、比較例7と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例10]
熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの厚さを12μmとした他は、比較例8と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例10]
熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの厚さを17μmとした他は、比較例7と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例11]
熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの厚さを17μmとした他は、比較例8と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例11]
被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムとして、表層をIA5の厚さ5μm、下層をIA15の厚さ12μm、合計17μmの2層からなる無延伸の多層ポリエステル樹脂フィルムを製膜した他は、比較例1と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例12]
比較例11と同様にして無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをTFSに積層した後、後加熱処理として200℃まで加熱し、後加熱温度に到達した後で直ちに空冷(後加熱温度の保持時間は約1秒)して、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例13]
被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムとして、共重合成分としてイソフタル酸11mol%含むポリエチレンテレフタレート(IA11)単層から成る延伸ポリエステル樹脂フィルムを用いた他は、比較例1と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[比較例14]
比較例13と同様にして延伸ポリエステル樹脂フィルムをTFSに積層した後、後加熱処理として200℃まで加熱し、後加熱温度に到達した後で直ちに空冷(後加熱温度の保持時間は約1秒)して、熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
[実施例12]
基材(金属素材としての金属板)として、TFSの代わりに錫めっき量2.8g/m2のブリキ(#311)を用いた以外は、実施例2と同様にして熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。
Figure 0006884640
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板及びその製造方法は、幅広い製缶分野で広く適用が可能である。

Claims (9)

  1. 金属素材の少なくとも一方の面に、無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂層を有し、
    前記熱可塑性ポリエステル樹脂層は、
    前記金属素材との界面側であって当該界面から5μmの範囲内に、直線偏光のレーザー光を用いたレーザーラマン分光法における1730cm−1近傍のC=O伸縮振動に起因した前記熱可塑性ポリエステル樹脂のラマンシフトピークの半値幅が20cm−1以上であり24cm−1以下である第1領域を有し、かつ、
    前記金属素材とは反対側である表面側であって当該表面から5μmの範囲内に、前記ラマンシフトピークの半値幅が14cm−1以上であり18cm−1以下である第2領域を有することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板。
  2. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂層は単層または多層であって、前記熱可塑性ポリエステル樹脂層の表面を成す層が、共重合成分としてイソフタル酸が5mol%以下のポリエチレンテレフタレートから成る請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板。
  3. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂層は多層であって、前記金属素材に接する下層の融点が前記樹脂層の表面を成す上層の融点より低い、請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板。
  4. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂層の厚みが8μm以上60μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板。
  5. 前記金属素材が酸化物皮膜を有する金属板である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板から成ることを特徴とする缶。
  7. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法であって、
    (1)前記金属素材を加熱して無延伸の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを当該金属素材に加熱圧着し、
    (2)前記加熱圧着した後で前記熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを急冷して熱可塑性ポリエステル樹脂層を前記金属素材上に形成し、
    (3)前記急冷をした後に、180〜220℃の温度で前記熱可塑性ポリエステル樹脂層を後加熱処理することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法。
  8. 前記(2)の工程で形成された熱可塑性ポリエステル樹脂層が、厚さ方向全体にわたって非晶状態であることを特徴とする請求項7記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法。
  9. 前記(3)の工程において、前記後加熱処理の温度に到達後ただちに前記熱可塑性ポリエステル樹脂層を冷却することを特徴とする請求項7又は8に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法。
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